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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01B |
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管理番号 | 1335903 |
審判番号 | 不服2017-8080 |
総通号数 | 218 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-02-23 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-06-06 |
確定日 | 2018-01-26 |
事件の表示 | 特願2012-271929「干渉色のモデル適合による膜厚測定方法およびその装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 7月25日出願公開、特開2013-145229、請求項の数(12)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成24年12月13日(優先権主張平成23年12月16日)の出願であって、平成28年9月8日付けで拒絶理由通知がされ、同年10月25日付けで手続補正がされ、平成29年3月8日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年6月6日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。 第2 原査定の概要 原査定の概要は、次のとおりである。 本願請求項1-12に係る発明は、以下の引用文献1-4に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.特開2006-084334号公報 2.北川克一,“ワンショット干渉計測-過去・現在・未来-”,精密工学会画像応用技術専門委員会研究会報告,2011年11月11日,Vol.26,No.4,p.7-16 3.Katsuichi Kitagawa,"Multi-wavelength single-shot interferometry without carrier fringe introduction",10th International Conference on Quality Control by Artificial Vision (QCAV2011),2011年 6月30日 4.北川克一,“広域モデル適合による多波長ワンショット干渉測定”,2010年度精密工学会秋季大会学術講演会講演論文集,2011年 3月10日,p.777-778 第3 本願発明 本願請求項1-12に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明12」という。)は、平成29年6月6日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-12に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 m個からなる複数の波長の単色光を含む照明光を測定対象である透明膜に照射し、前記透明膜の表面の反射光と裏面の反射光との干渉により生成される干渉画像を1回取得し、前記干渉画像から1点以上の選択点をn点選択し、前記n点の選択点の内のi点に対応する波長番号jの干渉輝度信号に、前記波長番号jの波長λ(j)を既知とし、前記波長番号jの平均輝度a(j)、干渉変調度b(j)、および前記点iの膜厚t(i)のすべて、あるいは、1部を未知パラメータとし、残りを既知パラメータとして、前記点iに対応する波長番号jの輝度g(i,j)が g(i,j)=a(j)[1+b(j)×cos{4πt(i)/λ(j)}] で表される干渉縞モデルを適合することにより、前記未知パラメータを求めることを特徴とする膜厚測定方法。」 本願発明2-9は、本願発明1の発明特定事項を全て含み、さらに減縮した発明である。 本願発明10-12は、それぞれ、本願発明1-3に対応する膜厚測定装置の発明である。 第4 引用文献、引用発明等 1 引用文献1について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図とともに次の事項が記載されている(下線は、当審による。)。 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 単色光源からの単色光を分岐手段を介して透明膜で覆われた測定対象面と参照面とに照射しながら、前記測定対象面と参照面との距離を変動させることにより、測定対象面と参照面の両方から反射して同一光路を戻る反射光による干渉縞の変化を生じさせ、このときの干渉縞の強度値に基づいて測定対象面の特定箇所の透明膜の表面高さ、透明膜の裏面高さ、および透明膜の膜厚の少なくともいずれか一つを求める前記測定対象面の表面形状および/または膜厚測定方法において、 装置のパラメータおよび測定対象物である試料のパラメータを反映させた前記測定対象の干渉縞の物理モデルに基づいて、透明膜の膜厚および表面高さを求める計算アルゴリズムを予め求める第1の過程と、 測定対象物を利用して、分岐手段を介して分岐された前記特定波長帯域の単色光が照射された前記測定対象面と参照面との距離を変動させる第2の過程と、 前記測定対象面と参照面との距離を変動させる過程で、測定対象面の画像を所定間隔で連続して取得する第3の過程と、 所定間隔で連続して取得した前記複数枚の画像の各画素における干渉縞の強度値を求める第4の過程と、 前記各画素における複数個の強度値を利用して干渉縞波形の直流成分、正弦成分の振幅、および余弦成分の振幅を求める第5の過程と、 前記第5の過程で求めた干渉縞波形の直流成分、正弦成分の振幅、および余弦成分の振幅と、第1の過程で求めた干渉縞の物理モデルから得られる計算アルゴリズムを利用して測定対象面の特定箇所の透明膜の表面高さ、透明膜の裏面高さ、および透明膜の膜厚の少なくともいずれか一つを求める第6の過程と、 を備えたことを特徴とする表面形状および/または膜厚測定方法。 【請求項2】 請求項1に記載の表面形状および/または膜厚測定方法において、 前記測定対象物のパラメータは、透明膜の反射係数、当該透明膜の透過係数、および測定対象面の反射係数であり、 装置のパラメータは、分岐手段における単色光の反射係数と透過係数、および参照面の反射係数である ことを特徴とする表面形状および/または膜厚測定方法。 【請求項3】 請求項1または請求項2に記載の表面形状および/または膜厚測定方法において、 前記第2の過程で取得する画像の間隔は、照射する単色光の波長の1/8または半波長の1/N(Nは正の整数)である ことを特徴とする表面形状および/または膜厚測定方法。 【請求項4】 請求項1ないし請求項3のずれかに記載の表面形状および/または膜厚測定方法において、 波長の異なる2種類以上の単色光を用いて、それぞれの単色光について第1の過程から第6の過程の処理を行い、さらに以下の過程を含む、 前記単色光ごとに求めた透明膜の膜厚および表面高さの解候補値群から互いに一致する解を絞り込む第7の過程と を備えたことを特徴とする表面形状および/または膜厚測定方法。」 したがって、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「単色光源からの単色光を分岐手段を介して透明膜で覆われた測定対象面と参照面とに照射しながら、前記測定対象面と参照面との距離を変動させることにより、測定対象面と参照面の両方から反射して同一光路を戻る反射光による干渉縞の変化を生じさせ、このときの干渉縞の強度値に基づいて測定対象面の特定箇所の透明膜の膜厚を求める膜厚測定方法において、 装置のパラメータおよび測定対象物である試料のパラメータを反映させた前記測定対象の干渉縞の物理モデルに基づいて、透明膜の膜厚を求める計算アルゴリズムを予め求める第1の過程と、 測定対象物を利用して、分岐手段を介して分岐された前記特定波長帯域の単色光が照射された前記測定対象面と参照面との距離を変動させる第2の過程と、 前記測定対象面と参照面との距離を変動させる過程で、測定対象面の画像を所定間隔で連続して取得する第3の過程と、 所定間隔で連続して取得した前記複数枚の画像の各画素における干渉縞の強度値を求める第4の過程と、 前記各画素における複数個の強度値を利用して干渉縞波形の直流成分、正弦成分の振幅、および余弦成分の振幅を求める第5の過程と、 前記第5の過程で求めた干渉縞波形の直流成分、正弦成分の振幅、および余弦成分の振幅と、第1の過程で求めた干渉縞の物理モデルから得られる計算アルゴリズムを利用して測定対象面の特定箇所の透明膜の膜厚を求める第6の過程と、 を備えた膜厚測定方法。」 2 引用文献2-4について 原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2-4には、引用文献2の 4.2 (1)計測アルゴリズム(第1ステップ)、引用文献3の2.1 GMF Algorithm 、引用文献4の2.1 計測アルゴリズム(第1ステップ)にみられるように、 「m個からなる複数の波長の単色光を含む照明光を測定対象の表面に照射し、前記表面の反射光と参照面の反射光との干渉により生成される干渉画像を1回取得し、前記干渉画像から1点以上の選択点をn点選択し、前記n点の選択点の内のi点に対応する波長番号jの干渉輝度信号に、前記波長番号jの波長λ(j)を既知とし、前記波長番号jの平均輝度a(j)、干渉変調度b(j)、および前記点iの表面高さz(i)のすべて、あるいは、1部を未知パラメータとし、残りを既知パラメータとして、前記点iに対応する波長番号jの輝度g(i,j)が g(i,j)=a(j)[1+b(j)×cos{4πz(i)/λ(j)}] で表される干渉縞モデルを適合することにより、前記未知パラメータを求める表面高さ測定方法。」が記載されていると認められる。 第5 対比・判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明を対比すると、次のことがいえる。 ア 引用発明は、「単色光源からの単色光を分岐手段を介して透明膜で覆われた測定対象面…に照射し…透明膜の膜厚を求める膜厚測定方法」であるから、「単色光を測定対象である透明膜に照射して、透明膜の膜厚を求める膜厚測定方法」の発明ということができ、本願発明1と「単色光を含む照明光を測定対象である透明膜に照射」する「膜厚測定方法」である点で一致する。 イ 引用発明の「測定対象面と参照面との距離を変動させる過程で、測定対象面の画像を所定間隔で連続して取得する第3の過程」は、干渉画像を取得する過程といえ、本願発明1と引用発明は、「干渉画像を取得」する点で一致する。 ウ 引用発明は、「測定対象の干渉縞の物理モデルに基づいて、透明膜の膜厚を求める計算アルゴリズムを予め求める第1の過程と、複数枚の画像の各画素における干渉縞の強度値を求める第4の過程と、前記各画素における複数個の強度値を利用して干渉縞波形の直流成分、正弦成分の振幅、および余弦成分の振幅を求める第5の過程と、前記第5の過程で求めた干渉縞波形の直流成分、正弦成分の振幅、および余弦成分の振幅と、第1の過程で求めた干渉縞の物理モデルから得られる計算アルゴリズムを利用して測定対象面の特定箇所の透明膜の膜厚を求める第6の過程」を備えるものであるから、「透明膜の膜厚を未知パラメータとし、干渉縞の物理モデルに基づいて、未知パラメータである透明膜の膜厚を求める」ものといえる。 そうすると、本願発明1と引用発明とは、「膜厚を未知パラメータとし、干渉縞モデルを適合することにより、前記未知パラメータを求める」点で一致するといえる。 したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。 (一致点) 「単色光を含む照明光を測定対象である透明膜に照射し、 干渉画像を取得し、 膜厚を未知パラメータとし、干渉縞モデルを適合することにより、前記未知パラメータを求めることを特徴とする膜厚測定方法。」 (相違点) (相違点1)本願発明1は、「m個からなる複数の波長の単色光を含む照明光を測定対象である透明膜に照射」するものであり、また、「干渉画像を1回取得」するものであるから、複数の波長の単色光を同時に照射するものと認められるところ、引用発明は、このような「複数の波長の単色光を含む照明光」を照射するものでない点。 なお、引用文献1の【請求項4】には、「波長の異なる2種類以上の単色光を用い」るとの記載があるが、「それぞれの単色光について第1の過程から第6の過程の処理を行い」と記載され、また、【請求項3】に「前記第2の過程で取得する画像の間隔は、照射する単色光の波長の1/8または半波長の1/N(Nは正の整数)である」と記載されていることからすると、「波長の異なる2種類以上の単色光」は、順に用いられるものと認められ、引用発明は、「波長の異なる2種類以上の単色光」を本願発明1のように同時に照射するものとは認められない。 (相違点2)本願発明1は、「干渉画像」が「透明膜の表面の反射光と裏面の反射光との干渉により生成される」ものであるのに対し、引用発明の「干渉縞」は、「測定対象面と参照面の両方から反射して同一光路を戻る反射光による」ものである点。 (相違点3)本願発明1は、「干渉画像を1回取得」するものであるのに対し、引用発明は、「測定対象面と参照面との距離を変動させる過程で、測定対象面の画像を所定間隔で連続して取得する」ものである点。 (相違点4)透明膜の膜厚を求めることについて、本願発明1は、 「干渉画像から1点以上の選択点をn点選択し、前記n点の選択点の内のi点に対応する波長番号jの干渉輝度信号に、前記波長番号jの波長λ(j)を既知とし、前記波長番号jの平均輝度a(j)、干渉変調度b(j)、および前記点iの膜厚t(i)のすべて、あるいは、1部を未知パラメータとし、残りを既知パラメータとして、前記点iに対応する波長番号jの輝度g(i,j)が g(i,j)=a(j)[1+b(j)×cos{4πt(i)/λ(j)}] で表される干渉縞モデルを適合することにより、前記未知パラメータを求める」ものであるのに対し、引用発明は、このようなものでない点。 (2)相違点についての判断 事例に鑑み、上記相違点2について検討すると、引用発明は、「測定対象面と参照面との距離を変動させることにより、測定対象面と参照面の両方から反射して同一光路を戻る反射光による干渉縞の変化を生じさせ」るもの、すなわち、干渉縞の原因となる2つの面の距離を変動させるものである。 一方、本願発明1の「干渉画像」は、「透明膜の表面の反射光と裏面の反射光との干渉により生成される」から、本願発明1は、干渉縞の原因となる2つの面の距離が変動しないものである。 してみると、干渉縞の原因となる2つの面の距離が変動することを前提とする引用発明において、干渉縞の原因となる2つの面を、本願発明1のごとくそれらの距離が変動しない透明膜の表面と裏面とすることは、当業者であっても容易に想到し得たとはいえない。 なお、引用文献2-4には、上記相違点1、3及び4に係る本願発明1の発明特定事項に類する事項が記載されているが、その「干渉画像」は、「(測定対象の)表面の反射光」と「参照面の反射光」との干渉により生成されるものであり、引用文献2-4は、測定対象の表面高さを測定することを記載するのみであって、透明膜の膜厚の測定を記載ないし示唆するものでないから、「干渉画像」を「透明膜の表面の反射光」と「(透明膜の)裏面の反射光」との干渉により生成するという上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項を示唆するものとはいえない。 したがって、上記相違点1、3及び4について判断するまでもなく、本願発明1は、引用文献1-4に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。 2 本願発明2-9について 本願発明2-9は、本願発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 3 本願発明10-12について 本願発明10-12は、それぞれ、本願発明1-3に対応する物の発明であり、本願発明1の「透明膜の表面の反射光と裏面の反射光との干渉により生成される干渉画像」に対応する発明特定事項を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 第6 原査定について 審判請求時の補正により、本願発明1-12は、「透明膜の表面の反射光と裏面の反射光との干渉により生成される干渉画像」という事項を有するものとなっており、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1-4に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。 第7 むすび 以上のとおり、本願発明1-12は、当業者が引用文献1-4に基づいて容易に発明できたものではない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2018-01-16 |
出願番号 | 特願2012-271929(P2012-271929) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(G01B)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 中村 説志 |
特許庁審判長 |
清水 稔 |
特許庁審判官 |
中塚 直樹 ▲うし▼田 真悟 |
発明の名称 | 干渉色のモデル適合による膜厚測定方法およびその装置 |