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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 B60C
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60C
管理番号 1335925
審判番号 不服2016-13426  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-02-23 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-09-07 
確定日 2018-01-23 
事件の表示 特願2014-224476号「空気入りタイヤ」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 3月12日出願公開、特開2015- 44582号、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年3月1日に出願した特願2013-40596号の一部を平成26年11月4日に新たな特許出願としたものであって、平成27年10月26日付けで拒絶理由が通知され、平成28年1月12日に意見書が提出され、同年5月31日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、同年9月7日に拒絶査定不服審判が請求され、平成29年9月26日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年11月29日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
この出願の請求項1?4に係る発明は、以下の引用文献1及び2に記載された発明に基いて、あるいは引用文献3及び2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2009-196548号公報
2.特開2012-071665号公報
3.特開2007-038906号公報

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。
この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合するものではなく特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。

第4 本願発明
本願の請求項1?4に係る発明(以下「本願発明1?4」という。)は、平成29年11月29日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
1対のビードコア間でトロイド状に延びるカーカス、このカーカスの径方向外側に、タイヤ周方向に対して斜めに延びるコードをゴム被覆してなる傾斜ベルト層と、該傾斜ベルト層のタイヤ径方向外側に配置され、且つ、タイヤ周方向に沿って延びるコードをゴム被覆してなる周方向ベルト層と、該周方向ベルト層のタイヤ径方向外側に配置され、且つ、タイヤ周方向に対して斜めに、かつ層間で互いに交差する向きに延びるコードをゴム被覆してなる交錯ベルト層と、をこの順に配置してなるベルトおよびトレッドを具え、
前記周方向ベルト層は、タイヤの断面幅の70%以上の幅を有し、且つセンター部における層数が、ショルダー部における層数より少なく、且つ、タイヤ赤道面をまたいで延在する前記センター部の一方側のショルダー部は、前記センター部のタイヤ径方向外側に折り返されて延び、前記センター部の他方側のショルダー部は、前記センター部のタイヤ径方向内側に折り返されて延び、
前記傾斜ベルト層は、センター部の少なくとも一部に配置され、且つタイヤ赤道面を中心として、前記周方向ベルト層の幅の30%以上60%以下の幅を有すること、を特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記傾斜ベルト層のコードは、タイヤ周方向に対して40°以上90°以下で傾斜していることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記交錯ベルト層のコードは、タイヤ周方向に対して40°以上90°以下で傾斜していることを特徴とする請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記交錯ベルト層の幅は、タイヤの断面幅の50%以上であり、
前記交錯ベルト層のうち少なくとも1層の幅は、タイヤの断面幅の80%以上である、ことを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。」

第5 当審の判断
1 当審拒絶理由について
当審は、補正前の請求項1について、「1対のビードコア間でトロイド状に延びるカーカスと、このカーカスの径方向外側に、タイヤ周方向に対して斜めに延びるコードをゴム被覆してなる傾斜ベルト層と、タイヤ周方向に沿って延びるコードをゴム被覆してなる周方向ベルト層と、タイヤ周方向に対して斜めに、かつ層間で互いに交差する向きに延びるコードをゴム被覆してなる交錯ベルト層と、をこの順に配置してなるベルトおよびトレッドを具え」及び「前記周方向ベルト層は、タイヤの断面幅の70%以上の幅を有し、且つセンター部における層数が、ショルダー部における層数より少なく」と記載されているが、かかる記載からは、「センター部における層数が、ショルダー部における層数より少なく」構成された「周方向ベルト層」と、「傾斜ベルト層」との配置態様として、「この順に配置してなる」という構成を明確に特定することができず、発明が不明確である旨の拒絶の理由を通知した。
これに対し、請求人は、平成29年11月29日付けの手続補正により、特許請求の範囲の請求項1を上記「第4」のとおり補正した。
そして、この補正により、上記拒絶の理由は解消した。

2 原査定について
2-1 引用文献の記載事項等
(1)引用文献1に記載された事項及び発明
引用文献1には、以下の記載がある(なお、下線は当審で付した。以下同様。)
(1a)「【0001】
本発明は、ベルトとして、コードやフィラメント等の補強素子がタイヤ赤道に沿う向きに延びる周方向ベルト層を有する空気入りタイヤ、特に、重荷重用空気入りタイヤに関するものである。」
(1b)「【0017】
以下に、本発明の空気入りタイヤの実施形態を、図面を参照して詳しく説明する。
図1は本発明に従うタイヤの幅方向断面である。一対のビード部(図示せず)間にトロイダル状に跨るカーカス1のクラウン部の径方向外側には、タイヤ赤道CLに対して傾斜した向きに延びるコードの多数本をゴムで被覆した、少なくとも1層、図示例では1層のベルト補強層10と、タイヤ赤道CLに沿って延びるコードの多数本をゴムで被覆した、少なくとも1層、図示例で2層の周方向ベルト層2aおよび2bと、タイヤ赤道CLに対して傾斜した向きに延びるコードの多数本をゴムで被覆した、少なくとも2層を層間でコード相互が交差する向きに配置した、図示例で2層の傾斜ベルト層3aおよび3bと、を順に積層したベルト4を有し、さらに該ベルト4の径方向外側にトレッド5を配置している。
(1c)引用文献1には、以下の図1(a)が示されている。

上記摘示(1a)?(1c)によれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明A」という。)が記載されているといえる。
「一対のビード部間にトロイダル状に跨るカーカス1のクラウン部の径方向外側には、
タイヤ赤道CLに対して傾斜した向きに延びるコードの多数本をゴムで被覆した1層のベルト補強層10と、
タイヤ赤道CLに沿って延びるコードの多数本をゴムで被覆した2層の周方向ベルト層2a、2bと、
タイヤ赤道CLに対して傾斜した向きに延びるコードの多数本をゴムで被覆した、少なくとも2層を層間でコード相互が交差する向きに配置した2層の傾斜ベルト層3a、3bと、
を順に積層したベルト4を有し、
さらに該ベルト4の径方向外側にトレッド5を配置している、
空気入りタイヤ。」

(2)引用文献2に記載された事項
引用文献2には、以下の記載がある。
(2a)「【0001】
この発明は、空気入りタイヤに関し、特に、タイヤ形状を保持するための周方向ベルトを採用した、トラック・バスに用いるのに適した重荷重用の空気入りラジアルタイヤに関する。」
(2b)「【0009】
このため、タイヤ内部のベルト構造を、周方向ベルトと低角度化した低角度ベルトのみから構成した場合、タイヤが走行路上の突起物等を乗り越えるときに生じる、突起入力部位においてタイヤ半径方向内側に押し込まれた凹みの傾斜度合いは、タイヤ周方向に比較してタイヤ幅方向の方が急激であるので、タイヤ幅方向張力がタイヤ周方向張力より大となるにも拘わらず、タイヤ幅方向張力はカーカスが大部分を負担することになる。よって、タイヤ幅方向変形による力をカーカスプライのみで負担することになるため、場合によっては、カーカスプライの破断を引き起こす虞があった。
この発明の目的は、タイヤ重量の増加を抑制しつつタイヤ耐久性を向上させることができるベルト構造を有する空気入りタイヤを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、この発明に係る空気入りタイヤは、カーカスのタイヤ径方向外側に、少なくとも一層の周方向ベルト層を有し、前記周方向ベルト層のタイヤ径方向外側に、少なくとも一層は前記周方向ベルト層より広いベルト幅を持つ複数層の交錯ベルト層を有する空気入りタイヤにおいて、前記カーカスのタイヤ径方向外側で前記周方向ベルト層のタイヤ径方向内側に、タイヤ幅方向端部域に配置された、少なくとも一層の端部周方向ベルト層、及びタイヤ幅方向中央域に配置された、少なくとも一層の傾斜ベルト層を有することを特徴としている。」
(2c)「【0017】
端部周方向ベルト層15は、カーカス11のタイヤ径方向外側のタイヤ幅方向端部域、即ち、周方向ベルト層17のタイヤ幅方向外側端からタイヤ幅方向内側に40mm以内(20mm?40mm)の領域を占めるように配置されている。
傾斜ベルト層16は、カーカス11のタイヤ径方向外側のタイヤ幅方向中央域、即ち、端部周方向ベルト層15のタイヤ幅方向内側に、端部周方向ベルト層15と同一層となるように並べて配置されていることが好ましい。
ここで、傾斜ベルト層にタイヤ径方向外側で隣接する周方向ベルト層のコード中心から、傾斜ベルト層と端部周方向ベルト層のコード中心までの距離が1.5mmから3.0mmまでの範囲にあるものを同一層とする。
(2d)引用文献2には、以下の図1が示されている。

(3)引用文献3に記載された事項及び発明
引用文献3には、以下の記載がある。
(3a)「【請求項1】
平行配列状態でゴム被覆してなるコードがタイヤ赤道面に対し実質上直交して延びる少なくとも1枚のカーカスプライからなるトロイド状のラジアルカーカスのクラウン部と、トレッドとの間に、コードをゴム被覆してなる複数層のベルト層からなるベルトを配設してなる空気入りタイヤにおいて、
前記ベルトは、
コードが平行配列状態でタイヤ赤道面に対し傾斜して延びる少なくとも2層の傾斜ベルト層を、それらのコードがタイヤ赤道面を挟んで互いに交差するように積層して形成してなる交差ベルトと、
該交差ベルトとカーカスのクラウン部の間に位置し、コードが同一ベルト層内で波形をなしてタイヤ赤道面に沿って平行配列されてなる少なくとも1層の周方向ベルト層と、
該周方向ベルト層とカーカスのクラウン部の間に位置し、コードが平行配列状態でタイヤ赤道面に対して傾斜して延びる1層の歪抑制層と、
からなり、かつ、
前記歪抑制層は、タイヤ赤道面に対するコード角度が40?70°の範囲であり、幅が、前記周方向ベルト層のうち、最も内周側に位置する最内周方向ベルト層の幅の20?80%の範囲であることを特徴とする空気入りラジアルタイヤ。」
(3b)「【0037】
1 空気入りラジアルタイヤ
2 タイヤ赤道面
3 カーカスプライ
4 ラジアルカーカス
5 ラジアルカーカスのクラウン部
6 トレッド
7、8 傾斜ベルト層
9 周方向ベルト層
10 歪抑制層
11 ベルト
12 交差ベルト」
(3c)引用文献3には、以下の図1が示されている。

上記摘示(3a)?(3c)によれば、引用文献3には、次の発明(以下「引用発明B」という。)が記載されているといえる。
「平行配列状態でゴム被覆してなるコードがタイヤ赤道面に対し実質上直交して延びる少なくとも1枚のカーカスプライ3からなるトロイド状のラジアルカーカスのクラウン部と、トレッド6との間に、コードをゴム被覆してなる複数層のベルト層からなるベルト11を配設してなる空気入りタイヤにおいて、
前記ベルト11は、
コードが平行配列状態でタイヤ赤道面に対し傾斜して延びる少なくとも2層の傾斜ベルト層7、8を、それらのコードがタイヤ赤道面を挟んで互いに交差するように積層して形成してなる交差ベルト12と、
該交差ベルト12とカーカスのクラウン部の間に位置し、コードが同一ベルト層内で波形をなしてタイヤ赤道面に沿って平行配列されてなる少なくとも1層の周方向ベルト層9と、
該周方向ベルト層9とカーカスのクラウン部の間に位置し、コードが平行配列状態でタイヤ赤道面に対して傾斜して延びる1層の歪抑制層10と、
からなり、かつ、
前記歪抑制層10は、タイヤ赤道面に対するコード角度が40?70°の範囲であり、幅が、前記周方向ベルト層9のうち、最も内周側に位置する最内周方向ベルト層の幅の20?80%の範囲である、
空気入りラジアルタイヤ。」

2-2 対比・判断
(1)引用発明Aを主引用発明とした場合
(1-1)対比
本願発明1と引用発明Aとを対比する。
ア 引用発明Aの「一対のビード部間にトロイダル状に跨るカーカス1」は、本願発明1の「1対のビードコア間でトロイド状に延びるカーカス」に相当する。
イ 引用発明Aの「タイヤ赤道CLに対して傾斜した向きに延びるコードの多数本をゴムで被覆した1層のベルト補強層10」は、本願発明1の「タイヤ周方向に対して斜めに延びるコードをゴム被覆してなる傾斜ベルト層」に相当する。
ウ 引用発明Aの「タイヤ赤道CLに沿って延びるコードの多数本をゴムで被覆した2層の周方向ベルト層2a、2b」は、本願発明1の「タイヤ周方向に沿って延びるコードをゴム被覆してなる周方向ベルト層」に相当する。
エ 引用発明Aの「タイヤ赤道CLに対して傾斜した向きに延びるコードの多数本をゴムで被覆した、少なくとも2層を層間でコード相互が交差する向きに配置した2層の傾斜ベルト層3a、3b」は、本願発明1の「タイヤ周方向に対して斜めに、かつ層間で互いに交差する向きに延びるコードをゴム被覆してなる交錯ベルト層」に相当する。
オ 引用発明Aの「ベルト4」及び「トレッド5」は、本願発明1の「ベルト」及び「トレッド」に、それぞれ相当する。
カ 引用発明Aは、上記「カーカス1」の「クラウン部の径方向外側には」、上記「ベルト補強層10」と、上記「周方向ベルト層2a、2b」と、上記「傾斜ベルト層3a、3b」とを「順に積層したベルト4を有し、さらに該ベルト4の径方向外側にトレッド5を配置している」ことから、かかる配設構成は、上記ア?オをも踏まえると、本願発明1の「1対のビードコア間でトロイド状に延びるカーカス、このカーカスの径方向外側に、タイヤ周方向に対して斜めに延びるコードをゴム被覆してなる傾斜ベルト層と、該傾斜ベルト層のタイヤ径方向外側に配置され、且つ、タイヤ周方向に沿って延びるコードをゴム被覆してなる周方向ベルト層と、該周方向ベルト層のタイヤ径方向外側に配置され、且つ、タイヤ周方向に対して斜めに、かつ層間で互いに交差する向きに延びるコードをゴム被覆してなる交錯ベルト層と、をこの順に配置してなるベルトおよびトレッドを具え」という構成に相当するものといえる。
キ 引用発明Aの「空気入りタイヤ」は、本願発明1の「空気入りタイヤ」に相当する。

以上によれば、本願発明1と引用発明Aとは、
「1対のビードコア間でトロイド状に延びるカーカス、このカーカスの径方向外側に、タイヤ周方向に対して斜めに延びるコードをゴム被覆してなる傾斜ベルト層と、該傾斜ベルト層のタイヤ径方向外側に配置され、且つ、タイヤ周方向に沿って延びるコードをゴム被覆してなる周方向ベルト層と、該周方向ベルト層のタイヤ径方向外側に配置され、且つ、タイヤ周方向に対して斜めに、かつ層間で互いに交差する向きに延びるコードをゴム被覆してなる交錯ベルト層と、をこの順に配置してなるベルトおよびトレッドを具える、空気入りタイヤ。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
「周方向ベルト層」の構成について、本願発明1は、「前記周方向ベルト層は、タイヤの断面幅の70%以上の幅を有し、且つセンター部における層数が、ショルダー部における層数より少なく、且つ、タイヤ赤道面をまたいで延在する前記センター部の一方側のショルダー部は、前記センター部のタイヤ径方向外側に折り返されて延び、前記センター部の他方側のショルダー部は、前記センター部のタイヤ径方向内側に折り返されて延び」るのに対し、引用発明Aは、そのように特定されていない点。
<相違点2>
「傾斜ベルト層」の構成について、本願発明1は、「前記傾斜ベルト層は、センター部の少なくとも一部に配置され、且つタイヤ赤道面を中心として、前記周方向ベルト層の幅の30%以上60%以下の幅を有する」のに対し、引用発明Aは、そのように特定されていない点。

(1-2)判断
上記相違点1ついて検討する。
引用文献2には、「空気入りタイヤ」に関し(摘示(2a))、「タイヤ重量の増加を抑制しつつタイヤ耐久性を向上させることができるベルト構造を有する空気入りタイヤを提供すること」を技術課題とし(摘示(2b)段落【0009】)、かかる課題を解決するために、「カーカスのタイヤ径方向外側に、少なくとも一層の周方向ベルト層を有し、前記周方向ベルト層のタイヤ径方向外側に、少なくとも一層は前記周方向ベルト層より広いベルト幅を持つ複数層の交錯ベルト層を有する空気入りタイヤ」において、「前記カーカスのタイヤ径方向外側で前記周方向ベルト層のタイヤ径方向内側に、タイヤ幅方向端部域に配置された、少なくとも一層の端部周方向ベルト層、及びタイヤ幅方向中央域に配置された、少なくとも一層の傾斜ベルト層を有する」ものとして構成することが記載されている(摘示(2b)段落【0010】)。
そして、上記「端部周方向ベルト層」は、上記技術課題を解決するために「周方向ベルト層のタイヤ径方向内側」に配設されるものであるところ(摘示(2b)段落【0010】)、その具体的な配設態様は、「端部周方向ベルト層15は、カーカス11のタイヤ径方向外側のタイヤ幅方向端部域、即ち、周方向ベルト層17のタイヤ幅方向外側端からタイヤ幅方向内側に40mm以内(20mm?40mm)の領域を占めるように配置されている。傾斜ベルト層16は、カーカス11のタイヤ径方向外側のタイヤ幅方向中央域、即ち、端部周方向ベルト層15のタイヤ幅方向内側に、端部周方向ベルト層15と同一層となるように並べて配置されていることが好ましい。」(摘示(2c))ものとされているから、上記「端部周方向ベルト層」を「周方向ベルト層のタイヤ径方向外側」に配設する態様は想定され得るものでなく、ましてや、周方向ベルト層に対して、その一方側に端部周方向ベルト層をタイヤ径方向外側に折り返されて延び、その他方側に端部周方向ベルト層をタイヤ径方向内側に折り返されて延びるような構成は記載も示唆もない。
したがって、引用発明Aに引用文献2に記載された技術事項を適用しても、上記相違点1に係る本願発明1の構成に至るものではない。
以上のとおりであるから、上記相違点1に係る本願発明1の構成は容易想到とはいえないものであるから、その余の相違点を検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明A及び引用文献2に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本願発明2?4は、本願発明1の発明特定事項を全て含み、さらに減縮したものであるから、本願発明1と同様に当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)引用発明Bを主引用発明とした場合
(2-1)対比
本願発明1と引用発明Bとを対比する。
ア 引用発明Bの「平行配列状態でゴム被覆してなるコードがタイヤ赤道面に対し実質上直交して延びる少なくとも1枚のカーカスプライ3からなるトロイド状のラジアルカーカス」は、1対のビードコア間でトロイド状に延びることが技術的に明らかであるから、本願発明1の「1対のビードコア間でトロイド状に延びるカーカス」に相当する。
イ 引用発明Bの「コードが平行配列状態でタイヤ赤道面に対して傾斜して延びる1層の歪抑制層10」は、「コードをゴム被覆して」いることから、本願発明1の「タイヤ周方向に対して斜めに延びるコードをゴム被覆してなる傾斜ベルト層」に相当する。
ウ 引用発明Bの「コードが同一ベルト層内で波形をなしてタイヤ赤道面に沿って平行配列されてなる少なくとも1層の周方向ベルト層9」は、「コードをゴム被覆して」いることから、本願発明1の「タイヤ周方向に沿って延びるコードをゴム被覆してなる周方向ベルト層」に相当する。
エ 引用発明Bの「コードが平行配列状態でタイヤ赤道面に対し傾斜して延びる少なくとも2層の傾斜ベルト層7、8を、それらのコードがタイヤ赤道面を挟んで互いに交差するように積層して形成してなる交差ベルト12」は、「コードをゴム被覆して」いることから、本願発明1の「タイヤ周方向に対して斜めに、かつ層間で互いに交差する向きに延びるコードをゴム被覆してなる交錯ベルト層」に相当する。
オ 引用発明Bの「ベルト11」及び「トレッド6」は、本願発明1の「ベルト」及び「トレッド」に、それぞれ相当する。
カ 引用発明Bは、「平行配列状態でゴム被覆してなるコードがタイヤ赤道面に対し実質上直交して延びる少なくとも1枚のカーカスプライ3からなるトロイド状のラジアルカーカスのクラウン部と、トレッド6との間に、コードをゴム被覆してなる複数層のベルト層からなるベルト11を配設」するものであるところ、かかる「複数層のベルト層からなるベルト11」は、「歪抑制層10」が「該周方向ベルト層9とカーカスのクラウン部の間に位置」し、「周方向ベルト層9」が「該交差ベルト12とカーカスのクラウン部の間に位置」するものであるから、かかる配設構成は、上記ア?オをも踏まえると、本願発明1の「1対のビードコア間でトロイド状に延びるカーカス、このカーカスの径方向外側に、タイヤ周方向に対して斜めに延びるコードをゴム被覆してなる傾斜ベルト層と、該傾斜ベルト層のタイヤ径方向外側に配置され、且つ、タイヤ周方向に沿って延びるコードをゴム被覆してなる周方向ベルト層と、該周方向ベルト層のタイヤ径方向外側に配置され、且つ、タイヤ周方向に対して斜めに、かつ層間で互いに交差する向きに延びるコードをゴム被覆してなる交錯ベルト層と、をこの順に配置してなるベルトおよびトレッドを具え」という構成に相当するものといえる。
キ 引用発明Bの「空気入りラジアルタイヤ」は、本願発明1の「空気入りタイヤ」に相当する。

以上によれば、本願発明1と引用発明Bとは、
「1対のビードコア間でトロイド状に延びるカーカス、このカーカスの径方向外側に、タイヤ周方向に対して斜めに延びるコードをゴム被覆してなる傾斜ベルト層と、該傾斜ベルト層のタイヤ径方向外側に配置され、且つ、タイヤ周方向に沿って延びるコードをゴム被覆してなる周方向ベルト層と、該周方向ベルト層のタイヤ径方向外側に配置され、且つ、タイヤ周方向に対して斜めに、かつ層間で互いに交差する向きに延びるコードをゴム被覆してなる交錯ベルト層と、をこの順に配置してなるベルトおよびトレッドを具える、空気入りタイヤ。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点I>
「周方向ベルト層」の構成について、本願発明1は、「前記周方向ベルト層は、タイヤの断面幅の70%以上の幅を有し、且つセンター部における層数が、ショルダー部における層数より少なく、且つ、タイヤ赤道面をまたいで延在する前記センター部の一方側のショルダー部は、前記センター部のタイヤ径方向外側に折り返されて延び、前記センター部の他方側のショルダー部は、前記センター部のタイヤ径方向内側に折り返されて延び」るのに対し、引用発明Bは、そのように特定されていない点。
<相違点II>
「傾斜ベルト層」の構成について、本願発明1は、「前記傾斜ベルト層は、センター部の少なくとも一部に配置され、且つタイヤ赤道面を中心として、前記周方向ベルト層の幅の30%以上60%以下の幅を有する」のに対し、引用発明Bは、「前記歪抑制層10は、タイヤ赤道面に対するコード角度が40?70°の範囲であり、幅が、前記周方向ベルト層9のうち、最も内周側に位置する最内周方向ベルト層の幅の20?80%の範囲である」点。

(2-2)判断
上記相違点Iについて検討する。
上記相違点Iは、上記「(1)(1-1)」で述べた相違点1と実質的に同様であり、上記相違点1に係る本願発明1の構成が引用文献2に記載された技術事項を含めて検討しても容易想到でないことは、上記「(1)(1-2)」で述べたとおりである。
したがって、引用発明Bに引用文献2に記載された技術事項を適用しても、上記相違点Iに係る本願発明1の構成に至るものではない。
以上のとおりであるから、上記相違点Iに係る本願発明1の構成は容易想到とはいえないものであるから、その余の相違点を検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明B及び引用文献2に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本願発明2?4は、本願発明1の発明特定事項を全て含み、さらに減縮したものであるから、本願発明1と同様に当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由及び当審の拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-01-05 
出願番号 特願2014-224476(P2014-224476)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B60C)
P 1 8・ 537- WY (B60C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 倉田 和博  
特許庁審判長 和田 雄二
特許庁審判官 平田 信勝
氏原 康宏
発明の名称 空気入りタイヤ  
代理人 杉村 憲司  
代理人 山口 雄輔  

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