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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) E02B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) E02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) E02B
管理番号 1335965
審判番号 不服2015-4889  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-02-23 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-13 
確定日 2018-01-23 
事件の表示 特願2010- 65438「河川の上流部及び中流部における護岸の方法。」拒絶査定不服審判事件〔平成23年10月 6日出願公開、特開2011-196129〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年3月23日の出願であって、平成25年7月29日付けで通知された拒絶の理由に対し、平成25年9月17日に意見書及び手続補正書が提出され、さらに平成26年3月24日付けで通知された拒絶の理由(最後)に対し、平成26年5月19日に意見書が提出されたところ、平成26年12月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成27年3月13日に拒絶査定不服審判が請求され、その後、当審において通知した平成28年3月17日付けで拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)に対し、平成28年5月23日に意見書が提出されたものである。


第2 当審拒絶理由
当審拒絶理由の理由1ないし理由3の概要は以下のとおりである。

〔理由1〕
1.本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

請求項1に記載される「付近にある中で大きめの石や岩がその場にとどまる事のできる程度で、なおかつ小さい石や岩が最初に止まることもない間隔」は、どの程度の間隔であるのか不明であるから、請求項1に係る発明の範囲が明確ではない。

〔理由2または理由3〕
2.本件出願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
3.本件出願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

本願発明は、引用文献1に記載された発明であるか、もしくは、当業者が、引用発明1及び引用文献2ないし3に記載された公知または周知の技術に基いて容易に発明をすることができたものである。また本願発明は、当業者が引用発明2及び引用文献1又は4に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものである。


第3 当審の判断
1 理由1(36条6項2号)について
(1)特許請求の範囲の記載
平成25年9月17日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1には、次のとおり記載されている。
「岸辺から川の中央に向かって、或いは斜め上流又は斜め下流方向に向かって、
付近にある中で大きめの石や岩がその場にとどまる事の出来る程度で、なおかつ小さな石や岩が最初に止まることもない間隔をあけて、
単独又は複数の杭を埋設して、上流から移動して来る大きな石や岩を又は元々あった大きな石や岩を堰止め、その場にとどめることにより、
あるいは、単独又は複数の杭を埋設すると共に、大きな石や岩をまたは大きな石や岩に擬した人工の構造物を設置して、その場にとどめることにより、
新たな岸辺を形成し、それらを護岸の構成部分として機能させることを特徴とする護岸の方法。」

(2)判断
請求項1に記載される「付近にある中で大きめの石や岩がその場にとどまる事のできる程度で、なおかつ小さい石や岩が最初に止まることもない間隔」について、その明確性を検討する。
ア (杭を埋設する場所)付近にある石や岩の大きさは、それぞれ計測することによって容易に判断できるが、付近にある石や岩のうち、大きめとしている石や岩は、どの程度まで大きいものを規定しているのか不明である。
したがって、大きめの石や岩は、他の大きめではないとする石や岩とは、その大きさにおいて線引きが出来ず、その意味するところが明確でない。

イ また、その石や岩がとどまるかどうかは、その石や岩の大きさと杭の間隔のみで決まるものではない。確かに、石や岩の大きさが、杭の間隔よりも大きければ、その石や岩は、杭に阻まれて流下されずにそこにとどまるが、石や岩の大きさが、杭の間隔よりも小さい場合においても、その石や岩の大きさと水量や流速の関係によっては、1本の杭に引っかかるだけでその場にとどまることもあり得るから、「その場にとどまる事が出来る程度」は明確でない。

ウ よって、「大きめの石や岩がその場にとどまる事ができる程度」の「間隔」は明確でない。

エ 上記アないしウと同様の理由により、「小さい石や岩」がどの程度の大きさを示しているか不明であり、「最初に止まることもない間隔」も、諸条件により止まるかどうか不明であるから、「小さい石や岩が最初に止まることのない間隔」も明確ではない。

オ 該「付近にある中で大きめの石や岩がその場にとどまる事の出来る程度で、なおかつ小さい石や岩が最初に止まることもない間隔」について、発明の詳細な説明には、本願発明と同様の「・・・杭は、付近にある中で大きめの石や岩がその場にとどまる事のできる程度の間隔をあけて、・・・」(段落【0013】)と記載されている程度であるから、発明の詳細な説明を参照しても、請求項1に記載される該間隔が明確とはならない。
なお、出願当初の特許請求の範囲には、「・・・複数の杭を適度な間隔をおいて埋設して、・・・」と記載されているように、そもそも、該間隔には、石や岩との大きさの関係において明確な定義は存在せず、その意味は不明である。

カ 以上のとおりであるから、上記「第2」に、当審拒絶理由の理由1の概要として示したとおり、請求項1に記載される「付近にある中で大きめの石や岩がその場にとどまる事のできる程度で、なおかつ小さい石や岩が最初に止まることもない間隔」は、どの程度の間隔であるのか不明であるから、発明の範囲が明確ではない。

(3)請求人の主張
以下、平成28年5月23日付け意見書(以下「意見書」という。)における、理由1に対する請求人の主張について検討する。

ア 意見書(8の2)について
請求人は、「付近にある中で大きめの石や岩」の大きさが不明確であるとの判断に対して、意見書の(5の1),(5の2),(7の3)及び(7の4)の説明で解決されると主張するが、当該(5の1),(5の2),(7の3)及び(7の4)の記載は、請求人が知り得た自然現象と称するものを説明したものであって、石や岩の大きさを規定する説明ではない。したがって、付近にある石や岩のうち、どの程度の大きさのものを「大きめ」と規定するのか、依然不明である。

イ 意見書(8の3)について
請求人は、「[理由1]2頁19?22行目の記述では、『付近にある中で大きめの石や岩』の石や岩の大きさと『上流から移動して来る大きな石や岩』の大きさを比べています。でも、それらの大きさを厳密に比較してその大きさの違いの程度を知る必要はありません。・・・現実にその付近に存在している石や岩の大きさから、将来、その付近に存在することになるであろう石や岩の大きさを推測しているのです。ですから、それらの石や岩は似通った大きさではあるものの、厳密に同じ大きさである必要はないのです。・・・本願発明は、大きめの石や岩の大きさを厳密に選別することを要求して、それを目的とする施設ではありません。本願発明は、その大きさや形状が画一的である工業製品ではなく、様々な形状で似通った大きさの自然の石や岩を、杭によって堰き止めようとしているのに過ぎません。」と主張する。当該主張によれば、「付近にある中で大きめの石や岩」は、「大きめ」ではない「石や岩」との区別が不要であるかのようにみられ、「付近にある大きめの石や岩」の定義を説明したものではない。
なお、(5の2)や(7の3)の説明も、請求人が知り得た自然現象と称するものを説明したに過ぎず、上記定義を説明するものではない。

ウ 意見書(8の4)について
(ア)請求人は、当審拒絶理由の「?水流や流速の程度により、一本の杭に引っかかるだけでその場に留まることもあり得るから?」との指摘に対して、
「・・・石や岩が一本の杭に引っかかって留まることは、十分に可能性がある事です。仮に一本の杭によって大きめな石や岩がとどまったとしても、何の問題もありません。それは、次の増水の機会があれば、流れ下って行くか、杭と杭の間に収まるか、そのまま一本の杭にとどまり続けるかのいずれかになるでしょう。その何れであっても何の問題もありません。
岸辺に杭を設置する目的は、杭によって大きめな石や岩を堰き止め岸辺の流れを穏やかにして、大きめな石や岩と共に様々な大きさの石や岩によって自然の岸辺を取り戻すことにあります。一本の杭によって石や岩がとどまれば、それはその周囲の流れを穏やかにすることになります。・・・」と主張するが、当該主張では、杭の間隔を規定しても、特に、石や岩の大きさが杭の間隔よりも小さい場合において、実際にどの程度の大きさの石や岩がその杭によって留まることができるのか、逆に杭の間を抜けて下流方向に流れていくのかどうか分からないことを、請求人も認めているところであり、「その場にとどまる事が出来る程度」がどの程度であるのかを説明するものではない。

(イ)また、当審拒絶理由の「『その場にとどまる事が出来る程度』は明確ではない。また『その場にとどまる事が出来る程度』の『間隔』も同様に明確でない。」との指摘に対して、
「この記述の前には次のような記述があります。同(23?26行目)『まず、その石や岩がとどまるかどうかは、その石や岩の大きさと杭の間隔のみによって決まるものではなく、例えば、杭の間隔が、石や岩の間隔よりも大きい場合であっても、水量や流速の程度により、一本の杭にひっかかるだけでその場に留まることもあり得るから?』
この記述の最初の文では、『?その石や岩がとどまるかどうかは、その石や岩の大きさと杭の間隔のみによって決まるものではなく?』としています。ですから、この記述の時点で、『?杭の間隔?』が石や岩がとどまるかどうかを決定づける要素の一つであることを認めています。
次に『?例えば、杭の間隔が、石や岩の間隔よりも大きい場合であっても?』と記述し、さらに『?一本の杭にひっかかるだけでその場に留まることもあり得るから?』と続けています。
この二つの文の記述は、最初の文に記述した杭の間隔に関しての事柄が当てはまらない例外事項を想定して記述しています。
二つの内、最初の文は、杭の間隔が石や岩の大きさよりも大きい場合には、石や岩がとどまることが無い事を前提にした記述です。つまり、石や岩の(大きさとして想定される)間隔よりも杭の間隔が小さい場合には、石や岩がとどまる事を前提にした記述です。(上述のカッコ内は本出願人が追加した補足説明です。)二番目の文も、複数の杭があれば、その間隔によって石や岩が容易にひっかかる事を前提にした記述だと言えます。
つまり、(同2頁26?27行目)で記述している『その場にとどまる事が出来る程度』も、その『間隔』もその内容を充分に理解しているから、その前段の(同23?26行目)の記述が可能になったのです。」と主張する。
ここで、請求人がいうところの例外事項や前提が記述されているからといって、「その場にとどまる事が出来る程度」や、その「間隔」の内容を、当審が充分に理解していると主張する理由は不明であるが、石や岩がとどまるかどうかを決定づける要素として、石や岩の大きさと杭の間隔があり、石や岩の大きさが杭の間隔よりも大きい場合は、その石や岩は杭により下流に流されないことは明らかであるとしても、逆に、石や岩の大きさが杭の間隔よりも小さい場合については、流速や流量等の条件によって、石や岩がその場にとどまったり、下流に流されたりする、つまり、上記の例外事項となるわけであるから、該例外事項が存在すること自体が、石や岩がとどまるかどうかの条件が不明であることを示すものである。
そして、上記(ア)で検討したとおり、石や岩の大きさが杭の間隔より小さい場合に、石や岩が、杭の間をすり抜けて下流方向に流れたり、あるいは、一本の杭に引っかかることによって、その場にとどまることもあるから、「その場にとどまる事が出来る程度」が不明確であることに変わりはない。

エ 意見書(8の5)について
請求人は、当審拒絶理由の「さらに『小さい石や岩が最初に止まることもない間隔』も同様に明確でない。」との判断に対して、意見書の(7の5)で説明している旨、及び明細書の説明及び図によって補われている旨、主張するが、(7の5)では、自然現象と称するものの説明したに過ぎず、また、上記「(2)オ」で述べたとおり、明細書及び図面でも、特に当該事項についての説明は見当たらない。
また、上記ウで検討したとおり、石や岩が留まるかどうかについて、その石の大きさと杭の間隔との関係のみで決まるものではないことから、逆に「小さい石や岩が最初に止まることのない間隔」も不明確と言わざるを得ない。

オ 意見書(8の6)について
請求人は、「特許第3297906号」を挙げて、本願請求項1に記載された「石や岩の大きさ」も明確である旨、主張するが、本願請求項1に記載された発明と特許第3297906号発明とは別発明であって、その特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載が異なるものであるから、発明の明確性の判断において、両者を同様のものとする理由にはならず、本願請求項1に記載された「石や岩の大きさ」が明確である理由とはならない。

カ 意見書(8の7)について
請求人は、上記(8の6)の主張に関し、当審拒絶理由において一言の言及もないことを主張するが、そもそも、拒絶理由通知等においては、少なくとも、その拒絶理由が出願人・請求人に理解できる程度に記載されていればよいものであって、既になされた請求人の全ての主張に対して逐一言及することが求められるものではない。
また、上記オで述べたとおり、「特許第3297906号」と本願請求項1に記載された発明とは別発明であって、発明の明確性の解釈も、それぞれの発明毎に違うものであるから、上記(8の6)の主張に対する説明を、拒絶理由等に記載すべきものではない。

2 理由2(29条1項3号)または理由3(同条2項)について
(1)請求項1に係る発明
上記理由1で判断したとおり、「付近にある中で大きめの石や岩がその場にとどまる事のできる程度で、なおかつ小さい石や岩が最初に止まることもない間隔」は、その構成が不明確であるが、一応、「ある程度の大きさの石や岩がその場にとどまる事ができる程度の間隔」を意味するものとして、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)を次のとおり認定し、新規性及び進歩性を検討する。
「岸辺から川の中央に向かって、或いは斜め上流又は斜め下流方向に向かって、
ある程度の大きさの石や岩がその場にとどまる事の出来る程度の間隔をあけて、
単独又は複数の杭を埋設して、上流から移動して来る大きな石や岩を又は元々あった大きな石や岩を堰止め、その場にとどめることにより、
あるいは、単独又は複数の杭を埋設すると共に、大きな石や岩をまたは大きな石や岩に擬した人工の構造物を設置して、その場にとどめることにより、
新たな岸辺を形成し、それらを護岸の構成部分として機能させることを特徴とする護岸の方法。」

(2)判断
ア 引用文献の記載事項
(ア)当審拒絶理由で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平11-256548号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載がある(下線は審決で付した。以下同様。)。
a 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、河川・海岸の浅瀬の洗堀を防ぎ、動物・植物の生息環境を保全できる床止め工法・河川水制工法及びそれに使用する根固めブロックに関する。
【0002】
【従来の技術】従来、河川・海岸の洗堀防止・護岸の為には、コンクリートブロックで堤体を構築し、河床・海面には根固めコンクリートブロックを敷くものである。又川の堰も落差の大きい現場打ちのコンクリートで堰体を構築するものであった。この従来の床止め工法・根固め構造では、堤体と河床面海底面とは高さが連続していず、堤体の下端はある程度深い河床面・海底面となっていた。そのため、堤体から連続した洲・砂浜・ワンドのある水際は形成されず、これらの水際に植生する植物・及び水際の生物の生息の環境が失なわれていた。又、根固めブロック及び堤体ブロックはコンクリートブロックを間隙少なく並べて河床・海床・堤体を構築するものであり、そこには小動物が生棲するに適した空隙・空間が少なく、水の流れの淀み・変化もなく、又植物の自生も少なく、生物の多様性ある生存を許容できる空間となっていなかった。又、河川の現場打ち成形のコンクリート堰は、落差が大きく魚の上流への移動が難しく、又魚が落下するとき落差が大きく魚を傷めやすい。特に稚魚にとって従来のコンクリート堰は大きな移動の障害となっていた。」

b 「【0007】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。図1は、実施例に使用する根固めブロックの平面図である。図2は、実施例に使用する根固めブロックの側面図である。図3は、実施例に使用する根固めブロックの正面図である。図4は、実施例の根固めブロックの配列状態例を示す平面図である。図5は、淵の保全の根固め工法の実施例を示す説明図である。図6は、杭出しの根固め工法の実施例工法を示す説明図である。図7は、図6の実施例の河川の水衝部への配置を示す説明図である。図8は、図7の施工の実施例の水際の変遷を示す説明図である。図9は、根固めブロックを段差を設けて段階的に敷設して堰を形成した実施例を示す説明図である。図10は、図9の実施例の斜視図である。図11は、石を水面以上に積載した水制の実施例工法を示す説明図である。図12は、実施例の杭を用いた床止め工法の例を示す平面図である。図13は、図12のX-X断面図である。図14は、図12の実施例の根固めブロックの敷設状態を示す平面図である。図15は、図12のY-Y断面図である。図中、1は本発明の実施例の鉄筋を入れたコンクリート製の根固めブロックである。1aは根固めブロック1の250mm直径の杭孔、1bは根固めのブロック1の側面中央の断面半円状陥凹部、1cは陥凹部1b内に取付けたU字状連結金具で、その取付高さは左右・前後で少し変えていて、しかも側面から少し突き出すようになっている。1dは根固めブロック1の隅部に形成された断面1/4円状の陥凹部、1eはシャックル、2は松杭、3は石、4は河床、5は河川の水衝部、6は計画河床高さ、7は河川、・・・(略)・・・図5,6に示す実施例は、河川7の水衝部5の3個所に図1?3に示す根固めブロック1を2列敷設し、この上に複数の石3を積載した例である。この実施例は根固めブロック1群とその上の石3が水流による河床4の洗堀を防ぐ。又石3の間に空隙があり、又石3及び松杭2によって、瀬と淵が生じることで魚の遡上及び魚巣効果を得ることができる。又、本例及び他の実施例も同様であるが、隣接する根固めブロック1の側面の陥凹部1bは対向し、略円形状の穴の空間を形成し、その空間内に各ブロックの連結金具1cが突き当らないように上下差で重なり、シャックル1eで互に連結されていて、根固めブロック1の多少の移動及び傾きがあっても許容して連結状態を保持できるように緩連結されている。これによって、水流・地盤変動・波の力等によって河床・海床・根固めブロックが変化・変位して、この上の根固めブロック1が多少移動したり、傾きが変ってもこれを許容しながら根固めブロック1の連結状態を保持する。又、この緩連結によって根固めブロック1の大きな移動・傾きは阻止され、ブロックの配列状態の大きな崩れを防止し、長年数の床止めの機能を保持する。次に松杭2はボルト(図示せず)を貫通して雌ねじ孔1cに螺合して根固めブロック1に固定され、松杭2によって根固めブロック1を河床4に固定して移動しないようにするとともに、上の石3が移動しないようにしている。又、石3はその自重により水の流速への抵抗となる。水の流速に対する対応は、根固めブロック1の自重と石3の自重と松杭2の抵抗とこれらの連結によってなされる。根固めブロック1の自重のみでは対応できない。又石3の自重と松杭2の抵抗によって根固めブロック1の自重を低く抑えることができ、根固めブロック1の据付施工を容易にする。本ブロックの特徴は、自重を軽くして施工性を向上させたことと、杭及び間詰め石の自重にて流速へ対応させたものであるが、流速が大なる箇所では杭の配置替えによる大粒径石の設置や、ブロック自体の重量増加により対応させることができる。又、図6に示すように松杭2の杭頭を水面上になるようにすれば、鳥・昆虫の止り木となる。図7に示す河川7の岸に近い浅い瀬に設置された実施例で、根固めブロック1を多数敷設し、その杭孔1aに松杭2を打ち込んで河床4に固定し、松杭2を計画河床高さ6より高い水面上まで突出するようにした例である。図7の例では、松杭2は水流に渦を生起して水の流れを弱め、この上に土砂が堆積させ易くし、堤と繋がった洲を形成し、蛇行した凹凸のある自然な水際の自然を回復させることができる。図8(a)はこの図7の実施例の施工直後の状態であり、これが数年後には図8(b)の如く土砂が実施例の根固めブロック1に多く堆積し、砂洲の出入りが発生してくる。更にこれに植物が自生し、又一部の砂洲が中洲となっていき、地形が複雑になり、又植物・動物も多種となって、多様性のある自然な水際・ビオトープが出現する。松杭4はカモ・サギ・シギ等の鳥の止り木となる。魚としては、アユ・コイ・フナ・メダカ等が生息し易くなる。
・・(略)・・・
図12,13,14,15に示す実施例は、河川の床止め工法の例で、傾斜した河床に根固めブロック1をH字状に配列し、河中央の根固めブロック1の石3を低く積み、堤側の根固めブロック1の石3を高く積み、河の水量が小さくなっても河中央に水を集めて所定の水深を確保するようにして、魚の移動水路を確保する。又堤側の根固めブロック1上の水流は遅く、河中央は水流が速くなり瀬Sを創出し、稚魚・小動物・昆虫と成魚・大形魚との住み分けを可能としている。河中央の根固めブロック1の下流には洗掘によって淵が形成され、水流の落下による酸素の溶け込みを増大させ、又水深の深い領域を作り出す。」

c 【図7】,【図8】,【図12】及び【図13】は以下のとおり。
【図7】

【図8】

【図12】

【図13】


d 【図7】をみると、根固めブロック1は、岸から河川7の中央に向かっていることが明らかである。
また、【図8】、【図12】、【図13】をみると、堤体には石による護岸が施されていることが明らかである。

e 上記aないしdからみて、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。
「河川7の水衝部5に根固めブロック1を敷設し、この上に複数の石3を積載して、根固めブロック1群とその上の石3が水流による河床4の洗掘を防ぐものであって、
河川7の岸に近い浅瀬に、根固めブロック1を河川7の中央に向かって多数敷設し、根固めブロック1の杭孔1aに松杭2を打ち込んで河床4に固定して移動しないようにするとともに、上の石3が移動しないようにしており、
石3はその自重により水の流速への抵抗となり、流速が大なる箇所では杭の配置替えによる大粒径石の設置により対応させることができ、
松杭2は水流に渦を生起して水の流れを弱め、この上に土砂が堆積させ易くし、護岸が施された堤と繋がった洲を形成する、河川水制工法」

(イ)当審拒絶理由で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である「川のなんでも小辞典、土木学会関西支部編、株式会社講談社、1998年2月20日発行、212-219頁」(以下「引用文献2」という。)には、以下の記載がある。
a 「4-4 水制は水際の魔術師
「出し」と「牛」
「水制」とは川の流速を低下させたり、流れの方向を変えたりするために、河岸から流れの中心部に向かって突き出して設置される構造物のことです。これは、川舟を運行するための航路幅や水深の維持、あるいは流水の作用によって河岸や堤防が削りくずされるのを防ぐために古くから使われてきました。」(212頁)

b 「また同書には、図4-4-1に示す水制の設置に当たっての留意点もくわしく書かれており、現在でも十分に役立つものです。これらは、杭や石、土を河岸から突き出して設置するため、それぞれ「杭出し」「石出し」「土出し」と呼ばれ、総称して「出し」と呼ばれています。」(213頁)

c 「石出し
拾い付き石出し等あいだあいだに杭を打ちこめば、なお強し」(213頁 図4-4-1)

d 図4-4-1は以下のとおり。


e 上記aないしdからみて、引用文献2には次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。
「川の流速を低下させたり、流れの方向を変えたりするために、河岸から流れの中心部に向かって突き出して設置される構造物であって、流水の作用によって河岸や堤防が削り崩されるのを防ぐものであり、なお強くするためにあいだあいだに杭を打ちこんだ拾い付き石出し。」

(ウ)当審拒絶理由で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2001-172935号公報(以下「引用文献3」という。)には、以下の記載がある。
a 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 河床(30)又は法面若しくはその双方に複数の立杭(1、11)を深く打ち込み、前記立杭間に横材(2、12、22)を渡して枠(3、13、23)を形成し、前記枠上に石材(5)を載せ、前記枠内に同じく石材(6)を詰めることを特徴とする杭打ち護岸工法。
【請求項2】 前記枠(3)の横材(2)を前記立杭(1)に紐状部材(4)で緩く括り止めしたことを特徴とする、請求項1に記載の杭打ち護岸工法。」

b 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、河川の浸食作用に強い自然環境型の護岸工法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来の護岸工法として、木枠に石材、土砂等を入れてこれを多数連ねる工法(木工沈床工)、この木枠の代わりに蛇篭、ふとん篭等を用いる工法、コンクリート、ブロック等を用いる工法がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来の木工沈床工等の工法は、河川の浸食作用により河床に洗掘等が生ずると、木枠等が崩れたり傾いたりして護岸が崩壊するという問題がある。また、コンクリート、ブロック等による工法は、自然生態系を破壊するという問題がある。
【0004】本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、河川の浸食作用に強く、自然生態系も破壊しない護岸工法を提供することを課題とする。」

c 「【0007】
【発明の実施の形態】以下、本発明に係る杭打ち護岸工法の第1実施例を、図1ないし図4を参照して詳細に説明する。図2に示すように、丸太から成る複数の立杭1を、上方から見て方形の四隅を形成するように間隔を空けて、河床30に深く打ち込む。丸太(横材)2を2本の立杭1の間に渡し、4本の丸太2で方形の枠3を形成する。止め紐4を用いて各丸太2を立杭1に緩く括り止めする。止め紐4は緩く括っているだけであるから、立杭1に対して丸太2は上下に動くことができる。この立杭1と丸太2には、間伐材等を皮つきのまま用いることもできる。伐採木から枝落しした程度のものであってもよい。必要により、予め燻煙処理及び真空加圧処理を行って防腐措置を施す。止め紐4は、必要により、立杭1に括り止めされる丸太2の本数に応じてその本数を増加させることもでき、例えば、括り止めされる丸太2の本数と同数にしてもよい。止め紐4の素材は、例えば、アラミド繊維が耐久性があり最適であるが、その他の紐類、針金、鎖等も使用できる。また、丸太2の枠3の数は、地形、河川の状態等に応じて適当に決定される。
【0008】図1及び図3に示すように、丸太2の枠3の上に、この枠3をほぼ覆うように自然石5を載せて、枠3を着床させる。枠3の中心部に同じく自然石6を詰める。なお、ここで使用する石材としては、景観の観点から自然石5、6が最適であるが、割石等であってもよい。このように形成された護岸は、図3に示すように、施工直後は、河床30もほとんど削られておらず、丸太2の枠3を自然石5が押さえ、枠3は河床30に着床し、この枠3が自然石6の流出を防止する。図4に示すように、河川の浸食作用により河床30に洗掘31が生じると、止め紐4は丸太2を立杭1に緩く括っているだけであるから、丸太2の枠3は自然石5の重みにより沈下する。枠3の中心部に洗掘31が生じると自然石6も沈下するが、この沈下した自然石6は、丸太2の枠3でその流出が抑えられる。必要により、自然石6を追加投入すれば、元の護岸が回復する。
【0009】本発明の杭打ち護岸工法によれば、河床30の浸食作用で河床30に洗掘31等が生じても、丸太2の枠3が沈下するから、この枠3が枠3内に詰めた自然石6の流出を防止する。従って、河川の浸食作用に対して強い護岸を形成できる。工法も比較的簡単で廉価であり、間伐材丸太の有効利用も図れる。丸太と石材によるので、自然生態系が保たれ、自然石5、6の置き方等を工夫すれば景観にも優れたものとなる。
【0010】なお、上述した護岸工法では、枠3を方形としたが、これに限定されるものではなく、三角形、菱形、平行二列等であってもよい。水深が深い場合には、枠を形成する丸太を複数本重ねて止め紐を用いて立杭に括り止め、石材を数段積み重ねると効果的である。この護岸工法は、上述した河床に限定されず、法面あるいは河床から法面にかけて実施することもできる。立杭の頭部は、図3に示すように、水面から突出する場合だけではなく水没する場合もあり、法面については、立杭の根元まで露出する場合もある。立杭及び横材の材質は、必ずしも丸太等の木材に限定されるものではなく、コンクリート製、H鋼、プラスチック製等であってもよい。材質の組合せも自由である。」

(エ)当審拒絶理由で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である「河川工学、高橋裕、財団法人東京大学出版会、1997年9月2日発行、210-219頁」(以下「引用文献4」という。)には、以下の記載がある。

「「根固め水制」は,護岸の根固め工の前面,もしくは根固め工と一体となって設置され,護岸基礎およびその前面の河床洗掘を防ぎ,出水の流れの方向を護岸から離すように誘導する。
護岸は水制と一体となって堤防を保護し、洪水流を堤防から遠ざけようとする。換言すれば、堤防と護岸水制が一体となって、洪水流に立ち向かうのである。」(214頁15?19行)

イ 引用発明1を主引用発明として検討する。
(ア)対比
まず、本願発明と引用発明1を対比する。
a 引用発明1の「岸」、「河川7」、「石3」、「松杭2」は、それぞれ本願発明の「岸辺」、「川」、「石や岩」、「杭」に相当する。
引用発明1の「河川7の水衝部5」である「岸に近い浅瀬に、根固めブロック1を河川7の中央に向かって多数敷設し、根固めブロック1の杭孔1aに松杭2を打ち込」むことは、本願発明の「岸辺から川の中央に向かって」「複数の杭を埋設」することに相当する。
引用発明1において、「根固めブロック1の杭孔1aに松杭2を打ち込んで河床4に固定して移動しないようにするとともに、上の石3が移動しないようにしている」ことから、引用発明1の松杭2の間隔は、本願発明の「ある程度の大きさの石や岩がその場にとどまる事が出来る程度の間隔」といえる。
引用発明1の「松杭2を打ち込んで」「上の石3が移動しないようにして」いることは、本願発明の「大きな石や岩を」「設置して、その場に留めること」に相当する。
引用発明1の「護岸が施された堤と繋がった洲を形成する、河川水制工法」は、本願発明の「新たな岸を形成して、それらを護岸の構成部分として機能させる」「護岸の方法」に相当する。

b したがって、本願発明と引用発明1とは、
「岸辺から川の中央に向かって、
ある程度の大きさの石や岩がその場にとどまる事の出来る程度の間隔をあけて、
複数の杭を埋設すると共に、大きな石や岩を設置して、その場にとどめることにより、
新たな岸辺を形成し、それらを護岸の構成部分として機能させる護岸の方法。」で一致しており、相違点は存在しない。

c なお、本願発明と引用発明1との一致点は、上記bのとおりであって、相違点は存在しないが、引用発明1の根固めブロック1に着目すると、本願発明は、杭を川にどのように埋設するか特定がないのに対し、引用発明1は、根固めブロック1を敷設し、根固めブロックの杭孔1aに松杭2を打ちこんで川床4に固定する点で相違する。

(イ)判断
上記「(ア)c」の相違点について、予備的に検討すると、水制工として、杭を河底に直接固定することは、引用文献2または引用文献3に記載されているように、本願出願前に公知または周知の技術であるから、引用発明1において、必要に応じて根固めブロック1を省いた上で、松杭2を川床4に固定することは、当業者が容易に想到し得たことである。

(ウ)小活
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明であるか、または、当業者が引用発明1及び引用文献2ないし3に記載された公知または周知の技術に基いて容易に発明することができたものである。

ウ 引用発明2を主引用発明として検討する。
(ア)対比
本願発明と引用発明2を対比する。
a 引用発明2の「河岸」、「川」、「石」、「杭」は、それぞれ本願発明の「岸辺」、「川」、「石や岩」、「杭」に相当する。
引用発明2の「河岸から流れの中心部に向かって突き出して設置される」ことは、本願発明の「岸辺から川の中央に向かって」いることに相当する。
引用発明2において、「拾い付き石出し」を、「なお強くするために」「あいだあいだに杭をうちこん」でいることから、杭によって石をその場にとどめる機能があることが明らかである。よって、引用発明2の「拾い付き石出し」に「なお強くするためにあいだあいだに杭を打ちこ」んだことは、本願発明の「ある程度の大きさの石や岩がその場にとどまることが出来る程度の間隔をあけて、」「複数の杭を埋設すると共に、大きな石や岩を設置して、その場にとどめること」に相当する。
引用発明2の「構造物を」「河岸から流れの中心部に向かって突き出して設置」することと、本願発明の「新たな岸辺を形成し、それらを護岸の構成部分として機能させる護岸の方法。」とは、「新たな岸辺を形成し、それらを岸辺の構成部分として機能させる方法。」で共通する。

b したがって、本願発明と引用発明2は、
「岸辺から川の中央に向かって、
ある程度の大きさの石や岩がその場にとどまる事の出来る程度の間隔をあけて、
複数の杭を埋設すると共に、大きな石や岩を設置して、その場にとどめることにより、
新たな岸辺を形成し、それらを岸辺の構成部分として機能させる方法。」で一致し、以下の点で相違している。
(相違点)新たな岸辺が、本願発明は、「護岸の構成部分として機能させる」のに対し、引用発明2は、護岸の構成部分として機能するかものかどうか不明な点。

(イ)判断
上記相違点について検討する。
引用発明2は、流水の作用によって堤防が削りくずされるのを防ぐものであるから、河岸には堤防が設けられているものである。そして、堤防には護岸工事を施すことが一般的である。
そして引用文献4には、「護岸と水制が一体となって堤防を保護」することが記載され、また引用文献1にも、「護岸が施された堤と繋がった洲を形成する」発明が記載されていることから、引用発明2の拾い付き石出しを、護岸と一体となって堤防を保護するものに替えることは、当業者が容易になし得たことである。
したがって、本願発明は、当業者が引用発明2及び引用文献1または4に記載された事項に基いて、容易に発明をすることができたものである。

(3)請求人の主張について
以下、意見書における、理由2または3に対する請求人の主張について検討する。
ア 意見書(9の1)について
(ア)請求人は、請求項1に記載された「付近にある中で大きめの石や岩がその場にとどまる事のできる程度で、なおかつ小さい石や岩が最初に止まる事もない間隔」が不明確であることを理由として、当該間隔を「ある程度の大きさの石や岩がその場にとどまる事のできる間隔」を意味するものとして、新規性及び進歩性を検討したことに対し、請求項の明確な記述に対し、特許審査のやり方を勝手に変えて、出鱈目な言い換えをしている旨、主張している。
しかしながら、請求項1の記載が不明確であることは、上記理由1で述べたとおりであって、不明確な発明特定事項を合議体で補足認定して、便宜的に新規性進歩性を判断することは、特許の審査の進め方として、何ら問題がないというべきである。

(イ)また、「岸辺から川の中央に向かって、」と「複数の杭を埋設すると共に、大きな石や岩を設置して」を意味する記述は、引用発明1に存在するにしても、石や岩と杭との間隔を明確に表現した記述は全くなく、当審拒絶理由が記述する「ある程度の大きさの石や岩がその場にとどまる事の出来る程度の間隔をあけて、」に該当する記述は全く存在しないこと、及び、当審拒絶理由において、引用発明1において根固めブロックの杭孔に杭を設置することが必須であるのに対して、本願発明では根固めブロックを必要としないことが、全く考慮されていないこと、を主張する。
しかしながら、上記(1)で引用発明1を認定したとおり、石や岩と杭の間隔自体は明確に特定しておらず、そして、上記「(2)イ(イ)a」で本願発明と引用発明1とを、「引用発明1において、『根固めブロック1の杭孔1aに松杭2を打ち込んで河床4に固定して移動しないようにするとともに、上の石3が移動しないようにしている』ことから、引用発明1の松杭2の間隔は、本願発明の『ある程度の大きさの石や岩がその場にとどまる事が出来る程度の間隔』といえる。引用発明1の『松杭2を打ち込んで』『上の石3が移動しないようにして』いることは、本願発明の『大きな石や岩を』『設置して、その場に留めること』に相当する。」と対比したとおり、本願発明の発明特定事項と実質的に同一の意味を有する構成を一致点としたものであるから、当該引用発明1の認定、並びに本願発明と引用発明1との対比に誤りはない。

(ウ)請求人は、当審拒絶理由の記述によれば、「付近にある中で大きめの石や岩がその場にとどまる事の出来る程度で、なおかつ小さい石や岩が最初に止まる事もない間隔」が不明である事を理由として、その不明箇所の記述を「ある程度の大きさの石や岩がその場にとどまる事のできる程度の間隔」に置き換えた上で「引用発明1」と比較しているが、これは、仮定を設定して検討した結果に過ぎないものを、仮定の及ばない範疇にまで拡大して結論としたもので、論理的な誤りである旨、主張する。
しかしながら、上記(ア)で述べたとおり、請求項の記載が不明瞭な場合、合議体で発明を補足認定して、便宜的に新規性進歩性を判断することは、特許の審査の進め方として何ら問題はない。

イ 意見書(9の2)について
当審拒絶理由の「本願発明は、根固めブロックの存在を排除しておらず、また石や岩の大きさが不明であるので、上記主張は請求項1に記載された発明特定事項に基づいた主張とは認められず、採用することができない。」との判断に対して、請求人は、「本願発明は、その請求項、明細書、その図面何れにおいても『根固めブロック』或いはそれに類似した構造物の必要を説明しておらず、また、その言葉自体の記載もない。本願発明が必要としている構造物は『杭』だけであるのに対し、『引用発明1』は、『根固めブロック』が必須の要件であって、『根固めブロック』の杭孔に打ちこむ『杭』も同時に必要である。」と主張する。
しかしながら、本願発明は、その請求項において、「根固めブロック」或いはそれに類似した構造物を備えていない事を限定する記載がないことから、「根固めブロック」を備えることを含んでおり、したがって、引用文献1では「根固めブロック」が必須の要件であることが記載されているとしても、その対比において誤りはない。

ウ 意見書(9の3)について
請求人は、「引用発明1において、必要に応じて根固めブロック1を省いた上で、松杭2を川床4に固定することは、?容易に想到し得た事である。」との判断に対して異論はないものの、「?付近にある中で大きめの石や岩がその場にととまる事のできる程度で、なおかつ小さい石や岩が最初に止まる事もない間隔から」や「?単独又は複数の杭を埋設して、上流から移動して来る大きな石や岩を又は元々あった大きな石や岩を堰止め、その場にとどめることにより?」について判断していないこと、及び「また、その他の相違点が存在したとしても、当業者が容易に想到し得たことである。」との判断が乱暴であること、など縷々主張する。
しかしながら、本願発明において、「?付近にある中で大きめの石や岩がその場にととまる事のできる程度で、なおかつ小さい石や岩が最初に止まる事もない間隔から」は、上記理由1のとおり、不明確な記載であることから、上記(1)のとおり発明を認定したものであり、当該記載を基にした新規性進歩性の判断は行っていないことに何ら誤りはない。
また、「?単独又は複数の杭を埋設して、上流から移動して来る大きな石や岩を又は元々あった大きな石や岩を堰止め、その場にとどめることにより?」については、本願発明が、「単独又は複数の杭を埋設して、上流から移動して来る大きな石や岩を又は元々あった大きな石や岩を堰止め、その場にとどめることにより、」と「単独又は複数の杭を埋設すると共に、大きな石や岩をまたは大きな石や岩に擬した人工の構造物を設置して、その場にとどめることにより、」とを「あるいは」でつないでいることから、両構成はそれらの選択的事項であって、少なくとも、後者の構成については、上記「(2)イ(ア)a及びb」で検討したとおり、引用発明1と相違していないことから、前者の構成について判断しないことに誤りはない。
なお、当審拒絶理由において、「また、その他の相違点が存在したとしても、当業者が容易に想到し得たことである。」と記載したが、上記「(2)イ」のとおり、本審決においては、その他の相違点は存在しないから、その判断は要しない。

エ 意見書(10の1)について
請求人は、引用発明2は、あいだを開けて打ちこんだ杭によって、石をその場にとどめていることについて異論はないものの、本願発明は、「?付近にある中で大きめの石や岩がその場にととまる事のできる程度で、なおかつ小さい石や岩が最初に止まる事もない間隔を開けて、?」とあるように、「杭」のあいだの開け方に条件を付けている、と主張する。
しかしながら、本願発明において、上記の「杭」の間の開け方の限定事項は、上記理由1のとおり不明確であって、上記(1)のとおり認定したものであるから、当該認定事項により対比したことに誤りはない。

オ 意見書(10の2)について
請求人は、本願発明と引用発明2とは、あいだに開けて設置した杭によって石をその場にとどめることは、共通しているとしても、その杭の設置の仕方が異なっているので、「?大きな石や岩を?その場にとどめることにより、新たな岸辺を形成し、それらの(既にある)岸辺の構成部分として機能させる方法。」で一致することは間違いであり、「ある程度の大きさの石や岩がその場にとどまる事の出来る程度の間隔を開けて、」は、本願発明にない構成要素である、と主張する。
しかしながら、杭の設置に仕方については、上記エのとおりであるから、当審拒絶理由の一致点において誤りはない。

カ 意見書(10の3)について
請求人は、当審拒絶理由における「引用発明2は、流水の作用によって堤防が削りくずされることを防ぐものであるから、河岸には堤防が設けられているものである。そして、堤防には護岸工事を施すことが一般的である。」について異論はないものの、それに続く「引用文献4には、『護岸と水制が一体となって堤防を保護』することが記載され、引用発明2の石出しを、護岸と一体となって堤防を保護するものに替える事は、当業者が容易になし得たことである。」の記述が間違いであることの理由として、引用文献4の記述は、護岸水制における一般的な知識やその基本的な構造、およびそれらを設置する際の心得あるいは注意点を記述したものであり、それらに該当する具体的な工事方法について全く触れられておらず、また、上述引用文に続く文章においても、その具体的工事方法や工事方法での具体的原則が記述されていることもなく、つまり、引用文献4の記載には、それらから具体的工事方法を想起させる記述は全くない、と主張する。
しかしながら、引用文献4には、請求人が主張するように、一般的な知識等を示唆するものであるとしても、あくまで護岸と水制が一体となって堤防を保護するという課題が書かれていることは明らかであって、また、本願発明は、杭と石や岩を用いていることにおいて引用発明2と同様のものであり、特殊な工法等を用いるものではないから、当業者が引用文献4の記載に接すれば、護岸を保護するように替えることに困難性はないというべきである。
したがって、引用文献4に記載された事項を用いて容易性を否定したことに誤りはない。

キ 意見書(10の4)について
請求人は、当審拒絶理由の「?引用文献4には、?ことが記載され、また引用文献1にも?記載されていることから、引用文献2の石出しを、護岸と一体となって堤防を保護する物に替えることは、当業者が容易になし得たことである。」に対し、「審査対象の特許を比較する際に、独立した二つ以上の引用発明を同時に組み合わせて比較してはならない、という特許法の条項に違反している可能性があるのではないかと考えられます。」と主張する。
特許法に上記のような条項があるかどうかは別にして、上記当審拒絶理由の記載は、引用発明2に対し、引用文献4の記載事項を適用するか、または引用文献1の記載事項を適用することを意味しているから、請求人が主張するような同時に組合せるものではない。

ク 意見書(11の1)について
(ア)請求人は、当審拒絶理由の「(4)まとめ」の記載が誤りである、と主張するが、上記(3)で検討したとおりであるから、当該記載に誤りはない。

(イ)また、「?本願発明は、引用文献1に記載された発明であるか、もしくは、?引用発明1?に記載された公知または周知の技術に基づいて容易に発明をすることができたもの?」の記載は、「?もしくは?」の前段の記述と後段の記述とでは、どちらが正しいのかを明確に判断出来ていないことをものがたっており、誤った主張である、とも主張する。
しかしながら、上記記載は、まず、新規性の拒絶理由の判断し、請求人の主張に対応して、さらに容易想到性の拒絶理由も予備的に判断したものである。
そもそも、拒絶理由は1つに絞らなければいけない理由はなく、可能な限り全ての拒絶理由を通知すべきものであるから、当該記載に誤りはない。

ケ 意見書(11の2)?(11の3)について
以上、述べてきたとおりであるから、当審拒絶理由には、請求人が主張するような違法性や不正はなく、請求人の主張は採用することはできない。


第4 むすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、また、本願発明は、引用文献1に記載された発明であるか、もしくは、当業者が、引用発明1及び引用文献2ないし3に記載された公知または周知の技術に基いて、または、引用発明2及び引用文献1又は4に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当するか、同条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-09-08 
結審通知日 2016-09-13 
審決日 2016-09-30 
出願番号 特願2010-65438(P2010-65438)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (E02B)
P 1 8・ 537- WZ (E02B)
P 1 8・ 113- WZ (E02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西田 秀彦▲高▼橋 祐介  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 住田 秀弘
小野 忠悦
発明の名称 河川の上流部及び中流部における護岸の方法。  

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