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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K |
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管理番号 | 1336039 |
審判番号 | 不服2016-1676 |
総通号数 | 218 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-02-23 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-02-04 |
確定日 | 2018-01-04 |
事件の表示 | 特願2013-533265「癌の治療/転移の阻害」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 4月19日国際公開、WO2012/049440、平成25年10月28日国内公表、特表2013-539778〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成22年10月13日を国際出願日とする出願であって、平成26年10月14日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、平成27年4月20日に意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされたところ、平成27年9月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成28年2月4日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。 その後、当審において、平成29年1月6日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、平成29年7月7日に意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされた。 2.平成29年7月7日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成29年7月7日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] (1)本件補正の内容 本件補正により、特許請求の範囲は、 補正前の 「 【請求項1】 電位依存性ナトリウムチャネル電流の一過性部分を排除することなく、該電流の持続性部分を少なくとも減少させる用量の薬物を含む、VGSC発現癌に罹患している患者における (a)転移挙動を減少させる方法において、または、 (b)転移挙動を防止する方法において使用するための、組成物。 【請求項2】 細胞を死滅させない、転移挙動を減少または防止する方法において使用するための、請求項1に記載の組成物。 【請求項3】 増殖に実質的に影響を与えない、転移挙動を減少または防止する方法において使用するための、請求項1または2に記載の組成物。 【請求項4】 転移挙動の減少または防止が、 (i) 接着性の増加すなわち、組成物が、腫瘍の細胞の接着性を増加させること、 (ii) 運動性の減少すなわち、組成物が、腫瘍から剥離した細胞の運動性を減少させること、 (iii) 浸潤性の減少すなわち、組成物が、腫瘍から剥離し基底膜を介して周辺組織中へ移動するという細胞の能力を減少させること、および (iv) 移動性の減少すなわち、組成物が、腫瘍から剥離し周辺組織から患者の循環系に向かって移動するという細胞の能力を減少させること、 の少なくとも1つである、転移挙動を減少または防止する方法において使用するための、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。 【請求項5】 腫瘍から剥離した細胞が患者の循環系に移動する前に患者に投与するための、転移挙動を減少または防止する方法において使用するための、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。 【請求項6】 腫瘍から剥離した細胞が基底膜を介して周辺組織中へ移動し、周辺組織から患者の循環系に向かって移動する前に患者に投与するための、転移挙動を減少または防止する方法において使用するための、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。 【請求項7】 腫瘍から剥離した細胞が基底膜を介して周辺組織中へ移動する前に患者に投与するための、転移挙動を減少または防止する方法において使用するための、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。 【請求項8】 細胞が腫瘍から剥離する前に患者に投与するための、転移挙動を減少または防止する方法において使用するための、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。 【請求項9】 癌がVGSCを発現する前に患者に投与するための、転移挙動を減少または防止する方法において使用するための、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。 【請求項10】 腫瘍が低酸素条件を示す患者に投与するための、転移挙動を減少または防止する方法において使用するための、請求項1から9のいずれか一項に記載の組成物。 【請求項11】 癌が乳癌である、転移挙動を減少または防止する方法において使用するための、請求項1から10のいずれか一項に記載の組成物。 【請求項12】 癌が前立腺癌である、転移挙動を減少または防止する方法において使用するための、請求項1から10のいずれか一項に記載の組成物。 【請求項13】 薬物がラノラジンである、転移挙動を減少または防止する方法において使用するための、請求項1から12のいずれか一項に記載の組成物。 【請求項14】 薬物がリルゾールである、転移挙動を減少または防止する方法において使用するための、請求項1から12のいずれか一項に記載の組成物。 【請求項15】 1μmol?10μmolの範囲に対応する投薬量レベルの、転移挙動を減少または防止する方法において使用するための、請求項13または14に記載の組成物。 【請求項16】 ラノラジンを含む、VGSC発現乳癌またはVGSC発現前立腺癌における転移挙動を減少または防止する方法において使用するための、組成物。」 から、 補正後の 「【請求項1】 ラノラジンを含む、VGSC発現乳癌またはVGSC発現前立腺癌における転移挙動を減少または防止する方法において使用するための、組成物。 【請求項2】 リルゾールを含む、VGSC発現乳癌またはVGSC発現前立腺癌における転移挙動を減少または防止する方法において使用するための、組成物。」 へ補正された。 そこで、本件補正前後の特許請求の範囲を対比すると、本件補正は、本件補正前の請求項1?15を削除し、本件補正前の請求項16を請求項1に繰り上げ、さらに、新たな請求項2を追加するものである。 (2)本件補正の適否 (2-1)本件補正の目的について 本件補正のうち、本件補正前の請求項1?15を削除し、本件補正前の請求項16を請求項1に繰り上げる補正は、特許法第17条の2第5項第1号に規定される請求項の削除を目的とするものである。 一方、本件補正のうち、新たな請求項2を追加する補正は、特許法第17条の2第5項第1ないし4号のいずれに掲げる事項も目的とするものではない。 なお念のため、上記新たな請求項2を追加する補正が、本件補正前のいずれかの請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、本件補正前の当該請求項に記載された発明と上記新たな請求項2に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに該当し、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とするものといえるか否か検討するに、まず、本件補正前の請求項1には、発明を特定するために必要な事項として、「電位依存性ナトリウムチャネル電流の一過性部分を排除することなく、該電流の持続性部分を少なくとも減少させる用量」の薬物が記載されており、また、本件補正前の請求項2?15のいずれにも、同請求項1を引用することにより、該「用量」の薬物が間接的に記載されているところ、上記新たな請求項2には、薬物の用量について特定する事項は何ら記載されていない。そうすると、上記新たな請求項2に記載される発明は、本件補正前の請求項1?15のいずれかに記載した発明を特定するために必要な事項を限定した発明とはいえない。また、本件補正前の請求項16には、薬物として、もっぱらラノラジンが記載されているところ、上記新たな請求項2には、薬物として、もっぱら、ラノラジンとは別異の化合物であるリルゾールが記載されている。そうすると、上記新たな請求項2に記載される発明は、本件補正前の請求項16に記載した発明を特定するために必要な事項を限定した発明とはいえない。してみれば、上記新たな請求項2を追加する補正は、本件補正前のいずれかの請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものに該当せず、本件補正前のいずれかの請求項に記載された発明と上記新たな請求項2に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるか否かを検討するまでもなく、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とするものとはいえない。 (2-2)平成29年7月7日に提出された意見書における請求人の主張について 請求人は、上記意見書において、 「2.補正の内容 補正前の請求項1?15を削除して補正前の請求項16を新請求項1とし、「VGSC発現乳癌またはVGSC発現前立腺癌における転移挙動を減少または防止する」活性成分として、「ラノラジン」と同様に「電位依存性ナトリウムチャネル阻害剤」の一種であって、出願当初明細書にその薬効活性が十分にサポートされている「リルゾール」を含む「組成物」に関する発明を記載する新請求項2を導入いたしました。 以上より、このたびの手続補正は、本願の願書に最初に添付した明細書等に記載された事項の範囲内、又はそれらの記載から当業者に自明な事項の範囲内で行われているものであり、何ら新たな技術的事項を導入するものではありません。」 と主張する。 しかしながら、この主張は、本件補正の目的の適法性を何ら明らかにするものではないから、かかる主張によっては、(2-1)で説示した判断は左右されない。 (2-3)むすび よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 3.本願発明 本件補正は、先に説示したとおり却下されたので、本願に係る発明は、平成27年4月20日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?16に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「 【請求項1】 電位依存性ナトリウムチャネル電流の一過性部分を排除することなく、該電流の持続性部分を少なくとも減少させる用量の薬物を含む、VGSC発現癌に罹患している患者における (a)転移挙動を減少させる方法において、または、 (b)転移挙動を防止する方法において使用するための、組成物。 【請求項2】 細胞を死滅させない、転移挙動を減少または防止する方法において使用するための、請求項1に記載の組成物。 【請求項3】 増殖に実質的に影響を与えない、転移挙動を減少または防止する方法において使用するための、請求項1または2に記載の組成物。 【請求項4】 転移挙動の減少または防止が、 (i) 接着性の増加すなわち、組成物が、腫瘍の細胞の接着性を増加させること、 (ii) 運動性の減少すなわち、組成物が、腫瘍から剥離した細胞の運動性を減少させること、 (iii) 浸潤性の減少すなわち、組成物が、腫瘍から剥離し基底膜を介して周辺組織中へ移動するという細胞の能力を減少させること、および (iv) 移動性の減少すなわち、組成物が、腫瘍から剥離し周辺組織から患者の循環系に向かって移動するという細胞の能力を減少させること、 の少なくとも1つである、転移挙動を減少または防止する方法において使用するための、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。 【請求項5】 腫瘍から剥離した細胞が患者の循環系に移動する前に患者に投与するための、転移挙動を減少または防止する方法において使用するための、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。 【請求項6】 腫瘍から剥離した細胞が基底膜を介して周辺組織中へ移動し、周辺組織から患者の循環系に向かって移動する前に患者に投与するための、転移挙動を減少または防止する方法において使用するための、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。 【請求項7】 腫瘍から剥離した細胞が基底膜を介して周辺組織中へ移動する前に患者に投与するための、転移挙動を減少または防止する方法において使用するための、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。 【請求項8】 細胞が腫瘍から剥離する前に患者に投与するための、転移挙動を減少または防止する方法において使用するための、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。 【請求項9】 癌がVGSCを発現する前に患者に投与するための、転移挙動を減少または防止する方法において使用するための、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。 【請求項10】 腫瘍が低酸素条件を示す患者に投与するための、転移挙動を減少または防止する方法において使用するための、請求項1から9のいずれか一項に記載の組成物。 【請求項11】 癌が乳癌である、転移挙動を減少または防止する方法において使用するための、請求項1から10のいずれか一項に記載の組成物。 【請求項12】 癌が前立腺癌である、転移挙動を減少または防止する方法において使用するための、請求項1から10のいずれか一項に記載の組成物。 【請求項13】 薬物がラノラジンである、転移挙動を減少または防止する方法において使用するための、請求項1から12のいずれか一項に記載の組成物。 【請求項14】 薬物がリルゾールである、転移挙動を減少または防止する方法において使用するための、請求項1から12のいずれか一項に記載の組成物。 【請求項15】 1μmol?10μmolの範囲に対応する投薬量レベルの、転移挙動を減少または防止する方法において使用するための、請求項13または14に記載の組成物。 【請求項16】 ラノラジンを含む、VGSC発現乳癌またはVGSC発現前立腺癌における転移挙動を減少または防止する方法において使用するための、組成物。」 4.当審において通知された拒絶理由 一方、当審において通知された拒絶理由は、以下のものである。 「 <<<< 最 後 >>>> 1.この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 2.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 1.2.について 請求項1?15 (1)請求項1?15に記載される発明(以下、「本願発明」という。)は、請求項1の 「・・・の薬物を含む、VGSC発現癌に罹患している患者における (a)転移挙動を減少させる方法において、または、 (b)転移挙動を防止する方法において使用するための、組成物。」 なる記載から明らかなとおり、VGSC発現癌に罹患している患者に使用することを目的とする組成物の発明である。 ここで、請求項1に記載の「電位依存性ナトリウムチャネル電流の一過性部分を排除することなく、該電流の持続性部分を少なくとも減少させる用量の薬物」における「電位依存性ナトリウムチャネル電流の一過性部分を排除することなく、該電流の持続性部分を少なくとも減少させる用量」について、ラノラジンやリルゾールに関しては、本願明細書の発明の詳細な説明の【0035】?【0038】に、 「図3(b)は、それぞれVGSC電流の一過性部分および持続性部分に対する漸増用量のラノラジンの効果を示すスケッチである。理解できるように、横軸はラノラジンの投薬量レベルを示し、縦軸は正規化したVGSC電流を示す。実線の曲線305は、漸増する投薬量に対してプロットした電流の一過性部分の大きさを示し、破線の曲線306は、漸増するラノラジン投薬量に対する電流の持続性部分の大きさを示し、投薬量レベルは横軸上に示す。 図3(b)からさらに理解できるように、範囲1?10μMの投薬量レベル(ヒトにとって治療的に許容可能である)で、電流の持続性部分は、一過性部分よりも顕著に減少している。2つの減少間の差異は、両矢印307によって図3(b)中に示される。 漸増用量のリルゾールによる類似の効果が、図3(c)から理解できる。図中、実線の曲線308は、漸増用量のリルゾールに対してプロットした電流の一過性部分の大きさを示し、破線の曲線310は、電流の持続性部分の大きさを示す。ヒトにとって治療的に許容可能な用量のリルゾールは、1μMから10μMの範囲を含む。図3(c)で理解できるように、また両矢印311によって示されるように、電流の持続性部分の大きさの減少は、一過性部分の大きさの減少よりもかなり大きい。 図3(a)と同様に、図3(b)および3(c)の曲線は、特定の実験結果に基づいたものではなく、電流を説明するためのスケッチである。」 なる記載がある。 しかしながら、該記載の末尾の「図3(b)および3(c)の曲線は、特定の実験結果に基づいたものではなく、電流を説明するためのスケッチである。」なる記載から明らかなように、図3(b)および3(c)の曲線は、特定の実験結果に基づいたものではないから、これらの曲線に基づく、ラノラジンの「範囲1?10μMの投薬量レベル(ヒトにとって治療的に許容可能である)」やリルゾールの「1μMから10μMの範囲を含む。」なる用量は、実験による裏付けを伴ったものとはいえない。 してみると、上記図3(b)および3(c)の曲線に基づく上記【0035】?【0038】の記載は、上記「電位依存性ナトリウムチャネル電流の一過性部分を排除することなく、該電流の持続性部分を少なくとも減少させる用量」がいかなる用量なのか明らかにするものとはいえない。 また、仮に、図3(b)および3(c)の曲線が特定の実験結果に基づいたものだったとして検討するに、該実験は、何らかの細胞を人体外で1?10μMの濃度のラノラジンやリルゾールに暴露して、そのVGSC電流を測定したインビトロの実験と解されるから、この1?10μMなる濃度は、何らかの細胞を人体外でラノラジンやリルゾールに暴露した際に、VGSC電流の持続性部分が一過性部分よりも顕著に減少したときの暴露濃度である。 これに対し、本願発明は、先に説示したとおり、VGSC発現癌に罹患している患者に使用することを目的とする組成物の発明であるから、上記「電位依存性ナトリウムチャネル電流の一過性部分を排除することなく、該電流の持続性部分を少なくとも減少させる用量」とは、当然に、上記患者に投与する際の用量であると解され、インビトロの実験における上記1?10μMなる暴露濃度とは異なるものである。 にもかかわらず、本願明細書の発明の詳細な説明には、該暴露濃度からいかにして上記患者に投与する際のラノラジンやリルゾールの用量が導出できるのかについて、何らの記載も見出せない。また、上記【0035】?【0038】以外に、上記「電位依存性ナトリウムチャネル電流の一過性部分を排除することなく、該電流の持続性部分を少なくとも減少させる用量」に関する記載は見出せないから、ラノラジンやリルゾール以外の上記「薬物」については、その用量について、何らの記載も見出せない。 また、上記「薬物」の上記「電位依存性ナトリウムチャネル電流の一過性部分を排除することなく、該電流の持続性部分を少なくとも減少させる用量」がいかなるものであるのか、が、本願出願時の技術常識に属することともいえない。 そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明によっては、上記「薬物」の上記「電位依存性ナトリウムチャネル電流の一過性部分を排除することなく、該電流の持続性部分を少なくとも減少させる用量」は不明であるとするほかはないから、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度の記載となっているとはいえないし、また、本願発明が本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるともいえない。 (2)本願発明が解決しようとする課題は、本願明細書の請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載からみて、VGSC発現癌に罹患している患者に、電位依存性ナトリウムチャネル電流の一過性部分を排除することなく、該電流の持続性部分を少なくとも減少させる用量の薬物を投与することにより、該患者における転移挙動を減少、防止することであると認められる。そして、該課題について、本願明細書の発明の詳細な説明には、実施例1?22が記載されている。 しかしながら、これらの実施例は、いずれも、特定の癌細胞を人体外で種々の濃度のラノラジンやリルゾールに暴露して、その接着性、浸潤性、運動性などを測定したインビトロの実験であるから、該実験で有効とされた濃度は、上記細胞を人体外でラノラジンやリルゾールに暴露した際に、上記癌細胞の接着性などの細胞挙動が変化したときの暴露濃度である。 これに対し、本願発明は、先に説示したとおり、VGSC発現癌に罹患している患者に使用することを目的とする組成物の発明であるから、上記「電位依存性ナトリウムチャネル電流の一過性部分を排除することなく、該電流の持続性部分を少なくとも減少させる用量」とは、当然に、上記患者に投与する際の用量であると解され、インビトロの実験における上記種々の暴露濃度とは異なるものである。 そして、本願明細書の発明の詳細な説明には、該暴露濃度が、上記患者に投与する際のラノラジンやリルゾールのいかなる用量に該当するのかについて、何らの記載も見出せない。そうすると、上記実施例は、上記「電位依存性ナトリウムチャネル電流の一過性部分を排除することなく、該電流の持続性部分を少なくとも減少させる用量」のラノラジンやリルゾールを用いたものか否か不明であると解するほかはない。また、ラノラジンやリルゾール以外の上記「薬物」については、その用量及び上記患者の転移挙動を減少、防止することについて、何ら裏付けとなる実施例の記載も見出せない。 また、上記「薬物」の上記「電位依存性ナトリウムチャネル電流の一過性部分を排除することなく、該電流の持続性部分を少なくとも減少させる用量」をVGSC発現癌に罹患している患者に使用することにより該患者における転移挙動を減少、防止することができることが、本願出願時の技術常識に属することともいえない。 そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明によっては、本願発明が上記課題を解決できると当業者が認識することはできないから、本願発明は本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえないし、また、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度の記載となっているともいえない。 (請求項1?15を削除する補正をすれば、上記拒絶理由はすべて解消します。なお、請求項1の「用量の」なる記載を削除する補正は、特許法第17条の2第5項各号に掲げるいずれの事項も目的とするものではなく、認められませんので、ご注意ください。) 最後の拒絶理由通知とする理由 1.最初の拒絶理由通知に対する応答時の補正によって通知することが必要になった拒絶の理由のみを通知する拒絶理由通知である。」 5.判断 当審において、平成29年1月6日付けで上記拒絶理由が通知され、これに対し、平成29年7月7日に意見書が提出されるとともに、同日付けで本件補正がなされたが、本件補正は2.(2)で説示したように、却下された。また、該意見書における意見は、2.(2-2)で引用したとおりのものであって、もっぱら本件補正後の請求項1?2に基づくものであり、本件補正前の請求項1?16については、何らの応答もない。 そして、4.の拒絶理由は妥当なものと認められるので、本願は、この拒絶理由によって拒絶すべきものである。 6.むすび 以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-07-26 |
結審通知日 | 2017-07-31 |
審決日 | 2017-08-21 |
出願番号 | 特願2013-533265(P2013-533265) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(A61K)
P 1 8・ 57- WZ (A61K) P 1 8・ 536- WZ (A61K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 田村 直寛 |
特許庁審判長 |
村上 騎見高 |
特許庁審判官 |
松澤 優子 内藤 伸一 |
発明の名称 | 癌の治療/転移の阻害 |
代理人 | 実広 信哉 |
代理人 | 村山 靖彦 |