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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1336068
審判番号 不服2016-17550  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-02-23 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-24 
確定日 2018-01-04 
事件の表示 特願2012-133817「太陽電池モジュールの製造方法及び導電性接着剤組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成25年12月26日出願公開、特開2013-258313〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年6月13日に出願された特願2012-133817号であって、平成28年1月4日付けで拒絶理由が通知され、同年3月14日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされ、同年8月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年11月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。
その後、当審において、平成29年7月13日付けで審尋がなされ、同年9月19日に回答書が提出された。

第2 平成28年11月24日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成28年11月24日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成28年3月14日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載の、

「(A)半導体基板の電極上に(a)金属を含有する導電性粒子、(b)熱硬化性樹脂及び(c)フラックス活性剤を含有する、導電性接着剤組成物を印刷法により線幅0.8mm以下で塗布する工程と、
(B)塗布した導電性接着剤組成物の上に、前記半導体基板の電極と相対向するように配線部材を配置し、配線部材付半導体基板を得る工程と、
(C)(B)工程で得られた配線部材付半導体基板を加熱する工程と、
(D)(C)工程で得られた配線部材付半導体基板の両面に封止部材を積層し、さらに前記半導体基板の受光面に保護ガラスを、前記半導体基板の裏面に保護フィルムを積層して加熱する工程を備える太陽電池モジュールの製造方法であって、
前記導電性接着剤組成物は、25℃における粘度が20?250Pa・sであり、(a)導電性粒子の含有量が前記導電性接着剤組成物の全量に対して70?95質量%であり、(a)導電性粒子の平均粒子径が2?85μmであり、(a)導電性粒子に含まれる金属の融点が(C)工程における加熱温度以下である、太陽電池モジュールの製造方法。」が

「(A)半導体基板の電極上に(a)金属を含有する導電性粒子、(b)熱硬化性樹脂及び(c)フラックス活性剤を含有する、導電性接着剤組成物を印刷法により線幅0.8mm以下で塗布する工程と、
(B)塗布した導電性接着剤組成物の上に、前記半導体基板の電極と相対向するように配線部材を配置し、配線部材付半導体基板を得る工程と、
(C)(B)工程で得られた配線部材付半導体基板を加熱する工程と、
(D)(C)工程で得られた配線部材付半導体基板の両面に封止部材を積層し、さらに前記半導体基板の受光面に保護ガラスを、前記半導体基板の裏面に保護フィルムを積層して加熱する工程を備える太陽電池モジュールの製造方法であって、
前記導電性接着剤組成物は、25℃における粘度が25?200Pa・sであり、(a)導電性粒子の含有量が前記導電性接着剤組成物の全量に対して75?95質量%であり、(a)導電性粒子の平均粒子径が2?85μmであり、(a)導電性粒子に含まれる金属の融点が(C)工程における加熱温度以下である、太陽電池モジュールの製造方法。」と補正された。(下線は補正箇所を示す。)

そして、この補正は、導電性接着剤組成物の25℃における粘度について、補正前の「20?250Pa・s」から「25?200Pa・s」へ数値範囲を限定する補正事項、及び、導電性接着剤組成物の全量に対する導電性粒子の含有量について、補正前の「70?95質量%」から「75?95質量%」へ数値範囲を限定する補正事項からなり、特許請求の範囲のいわゆる限定的減縮を目的とする補正であるといえる。
すなわち、本件補正における請求項1に係る発明の補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とするものである。

2 独立特許要件違反についての検討
そこで、次に、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反しないか)について検討する。

(1)引用例
ア 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2011/46176号(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。(なお、下記「イ 引用例1に記載された発明の認定」において直接引用した記載に下線を付した。)

a「[0001]本発明は、導電性接着剤、太陽電池及びその製造方法、並びに太陽電池モジュールに関する。」

b「[0007]そこで、本発明は、上記従来技術が有する課題に鑑み、Sn-Ag-Cuはんだよりも低温での接続が可能でありながら、太陽電池の電極に配線部材を接着するために用いられたときに太陽電池の特性が高温高湿試験後にも十分に維持される導電性接着剤を提供することを主な目的とする。更に、本発明は、高温高湿試験後にも十分な特性を維持可能な太陽電池及び太陽電池モジュールを提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0008]本発明は、金属を含む導電性粒子と、熱硬化性樹脂と、フラックス活性剤と、を含有する導電性接着剤に関する。導電性粒子の融点が220℃以下である。本発明に係る導電性接着剤は、太陽電池セルに接続された電極と配線部材を電極に電気的に接続するとともに接着するために用いられる。
[0009]上記本発明に係る導電性接着剤によれば、Sn-Ag-Cuはんだよりも低温での接続が可能でありながら、太陽電池の電極に配線部材を接着するために用いられたときに太陽電池の特性が高温高湿試験後にも十分に維持される。」

c「[0030]導電性接着剤は、220℃以下の融点を有する導電性粒子とともに、220℃よりも高い融点を有する導電性粒子を含有してもよい。このような導電性粒子は、例えば、Pt、Au、Ag、Cu、Ni、Pd、Al又はこれらの組み合わせを含む合金から構成される。より具体的には、Au粒子、Ag粒子、Cu粒子、及びAgめっきCu粒子が挙げられる。
[0031]導電性粒子の平均粒子径は、特に制限はないが、0.1?100μmであると好ましい。この平均粒子径が0.1μm未満であると、接着剤組成物の粘度が高くなり作業性が低下する傾向にある。また、導電性粒子の平均粒子径が100μmを超えると、印刷性が低下するとともに、接続信頼性向上の効果が小さくなる傾向にある。接着剤組成物の印刷性及び作業性を更に良好にする観点から、この平均粒子径は1.0?70μmであるとより好ましい。さらに、接着剤組成物の保存安定性並びに硬化物の実装信頼性を向上させる観点から、導電性粒子の平均粒子径は5.0?50μmであると特に好ましい。
[0032]導電性粒子の含有量は、その導電性粒子に含まれる金属の質量が導電性接着剤全体の質量に対して5?95質量%となるような量であることが好ましい。導電性粒子の量が5質量%未満の場合は、導電性接着剤の硬化物の導電性が低下する傾向にある。一方、導電性粒子の量が95質量%を超えると、導電性接着剤の粘度が高くなり作業性が低下する傾向にある。また、導電性接着剤中の導電性粒子以外の成分の量が相対的に少なくなるため、硬化物の実装信頼性が低下する傾向にある。導電性粒子の量は、作業性又は導電性を向上させる観点から、10?90質量%であることがより好ましい。」

d「[0068]導電性接着剤は、印刷性、ディスペンス性等の作業性に加え、低温(-20?5℃)での保管時の安定性を考慮すると、回転粘度計により測定温度25℃、回転速度0.5rpmの条件で測定される粘度が100?500Pa・sであることが好ましく、150?300Pa・sであることがより好ましい。この粘度が100Pa・s未満の場合、印刷後やディスペンス後に形状の保持が困難になる傾向がある。一方、25℃、0.5rpmにおける粘度が500Pa・sよりも高い場合、印刷性が損なわれる可能性が高い。」

e「[0078]図1は、太陽電池モジュールの一実施形態の要部を示す模式図であり、複数の太陽電池セルが相互に配線接続された構造の概略を示している。図1の(a)は受光面側から、図1の(b)は裏面側から、図1の(c)は側面側から見た太陽電池モジュールを示す。
[0079]太陽電池モジュール100は、複数の太陽電池セル6と、それぞれの太陽電池セル6の受光面側に設けられたグリッド電極7及びバス電極(表面電極)3aと、太陽電池セル6の裏面側に設けられた裏面電極8及びバス電極(表面電極)3bと、受光面側の表面電極3aと対向配置された第一の配線部材4a及び裏面側の表面電極3bと対向配置された第二の配線部材4bと、受光面側の表面電極3aと第一の配線部材4aとの間及び裏面側の表面電極3bと第二の配線部材4bとの間に介在する導電性接着剤10とを備える。第一の配線部材4aと第二の配線部材4bとが互いに接続されることにより複数の太陽電池セル6が直列に電気的に接続されている。
[0080]第一の配線部材4aは、受光面側の表面電極3aと第一の配線部材4aとの間に当該導電性接着剤を介在させた状態で当該導電性接着剤を導電性粒子が溶融する温度(例えば、導電性粒子を構成する金属の融点以上の温度)に加熱する工程を含む方法により、受光面側の表面電極3aに電気的に接続されるとともに接着されている。同様に、第二の配線部材4bは、裏面側の表面電極3bと第二の配線部材4bとの間に当該導電性接着剤を介在させた状態で当該導電性接着剤を導電性粒子が溶融する温度に加熱する工程を含む方法により、裏面側の表面電極3bに電気的に接続されるとともに接着されている。」

f「[0082]図2は、太陽電池の製造方法の一実施形態を示す模式図である。図2に示す実施形態に係る方法においては、太陽電池セル6の受光面に接続されたグリッド電極7及びバス電極(表面電極)3aと、太陽電池セル6の裏面に接続された裏面電極8とが設けられる(図2の(a))。
[0083]次いで、表面電極3aに液状の導電性接着剤10が塗布され、塗布された導電性接着剤10を間に挟んで、第一の配線部材4aが表面電極3aと対向配置される(図2の(b))。導電性接着剤は、ディスペンス法、スクリーン印刷法、スタンピング法等の方法により塗布することができる。続いて、裏面電極8に液状の導電性接着剤10が塗布され、塗布された導電性接着剤10を間に挟んで、第二の配線部材4bが裏面電極8と対向配置される(図2の(c))。
[0084]その後、第一の配線部材4aの太陽電池セル6とは反対側に封止樹脂15aが配置され、第二の配線部材4bの太陽電池セル6とは反対側に封止樹脂15bが配置される(図2の(d))。封止樹脂15a、15bは、一般に使用される、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂であるEVA又はポリビニルブチラールであり得る。
[0085]更に、受光面側の封止樹脂15a上にガラス基板16が配置され、裏面側の封止樹脂15b上にバックシートと呼ばれる保護フィルム17が配置される。この状態で全体を必要により加圧しながら導電性接着剤10中の導電性粒子が溶融する温度に加熱することにより、第一の配線部材4aを表面電極3aに、第二の配線部材4bを裏面電極8にそれぞれ電気的に接続するとともに接着しながら、同時に、太陽電池セルが封止樹脂15a、15bにより封止される。このときの加熱の条件は、例えば、150?170℃で1分?30分間である。
[0086]このように、配線部材の接着と、太陽電池セルの封止を一括で行うことにより、これまでの方法と比較して工程の著しい短縮及び生産性の向上による低コスト化を図ることができる。
[0087]太陽電池の製造方法は上記実施形態に限られるものではなく、適宜変形が可能である。例えば、配線部材と電極との接続を太陽電池セルの封止と一括して行うのに代えて、各配線部材の接続を逐次的に又は同時に行った後、太陽電池セルを封止してもよい。」

g「[図1]


h「[図2]


イ 引用例1に記載された発明の認定
上記「ア」のfにおける「配線部材と電極との接続を太陽電池セルの封止と一括して行うのに代えて、各配線部材の接続を逐次的に又は同時に行った後、太陽電池セルを封止してもよい。」([0087])の記載から、[0085]における、配線部材の接着及び太陽電池セルの封止の工程の順序として、「導電性接着剤10中の導電性粒子が溶融する温度に加熱することにより、第一の配線部材4aを表面電極3aに、第二の配線部材4bを裏面電極8にそれぞれ接着」した後に「(加熱することにより)太陽電池セルが封止樹脂15a、15bにより封止される」ものについても記載されているといえる。
よって、上記記載から、引用例1には、
「太陽電池の製造方法に関し、
太陽電池セル6の受光面に接続されたグリッド電極7及びバス電極(表面電極)3aと、太陽電池セル6の裏面に接続された裏面電極8とが設けられ、
次いで、表面電極3aに液状の導電性接着剤10が塗布され、塗布された導電性接着剤10を間に挟んで、第一の配線部材4aが表面電極3aと対向配置され、続いて、裏面電極8に液状の導電性接着剤10が塗布され、塗布された導電性接着剤10を間に挟んで、第二の配線部材4bが裏面電極8と対向配置され、
上記の塗布については、導電性接着剤は、ディスペンス法、スクリーン印刷法、スタンピング法等の方法により塗布することができ、
次いで、導電性接着剤10中の導電性粒子が溶融する温度に加熱することにより、第一の配線部材4aを表面電極3aに、第二の配線部材4bを裏面電極8にそれぞれ接着し、
その後、第一の配線部材4aの太陽電池セル6とは反対側に封止樹脂15aが配置され、第二の配線部材4bの太陽電池セル6とは反対側に封止樹脂15bが配置され、
更に、受光面側の封止樹脂15a上にガラス基板16が配置され、裏面側の封止樹脂15b上にバックシートと呼ばれる保護フィルム17が配置され、加熱することにより太陽電池セルが封止される太陽電池の製造方法であって、
上記の導電性接着剤は、金属を含む導電性粒子と、熱硬化性樹脂と、フラックス活性剤と、を含有し、
導電性粒子の平均粒子径は5.0?50μmであり、
導電性粒子の含有量は、10?90質量%であり、
導電性接着剤は、回転粘度計により測定温度25℃、回転速度0.5rpmの条件で測定される粘度が、150?300Pa・sであり、
導電性接着剤を加熱する温度は、導電性粒子を構成する金属の融点以上の温度である太陽電池の製造方法。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

(2)本願補正発明と引用発明との対比
ア 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「金属を含む導電性粒子と、熱硬化性樹脂と、フラックス活性剤と、を含有」する「導電性接着剤」が、本願補正発明の「(a)金属を含有する導電性粒子、(b)熱硬化性樹脂及び(c)フラックス活性剤を含有する、導電性接着剤組成物」に相当する。
よって、引用発明の「太陽電池セル6の受光面に接続されたグリッド電極7及びバス電極(表面電極)3aと、太陽電池セル6の裏面に接続された裏面電極8とが設けられ」、「次いで、表面電極3aに液状の導電性接着剤10が塗布され」、「続いて、裏面電極8に液状の導電性接着剤10が塗布され」、「上記の塗布については、導電性接着剤は、ディスペンス法、スクリーン印刷法、スタンピング法等の方法により塗布することができ」、また、「上記の導電性接着剤は、金属を含む導電性粒子と、熱硬化性樹脂と、フラックス活性剤と、を含有する」こと(工程)と、本願補正発明の「(A)半導体基板の電極上に(a)金属を含有する導電性粒子、(b)熱硬化性樹脂及び(c)フラックス活性剤を含有する、導電性接着剤組成物を印刷法により線幅0.8mm以下で塗布する工程」とは、「(A)半導体基板の電極上に(a)金属を含有する導電性粒子、(b)熱硬化性樹脂及び(c)フラックス活性剤を含有する、導電性接着剤組成物を印刷法により塗布する工程」である点で一致する。
(イ)引用発明の「塗布された導電性接着剤10を間に挟んで、第一の配線部材4aが表面電極3aと対向配置され」、「続いて」、「塗布された導電性接着剤10を間に挟んで、第二の配線部材4bが裏面電極8と対向配置され」ること(工程)が、本願補正発明の「(B)塗布した導電性接着剤組成物の上に、前記半導体基板の電極と相対向するように配線部材を配置し、配線部材付半導体基板を得る工程」に相当する。
(ウ)引用発明の「導電性接着剤10中の導電性粒子が溶融する温度に加熱することにより、第一の配線部材4aを表面電極3aに、第二の配線部材4bを裏面電極8にそれぞれ接着」すること(工程)が、本願補正発明の「(C)(B)工程で得られた配線部材付半導体基板を加熱する工程」に相当する。
(エ)引用発明の「第一の配線部材4aの太陽電池セル6とは反対側に封止樹脂15aが配置され、第二の配線部材4bの太陽電池セル6とは反対側に封止樹脂15bが配置され、更に、受光面側の封止樹脂15a上にガラス基板16が配置され、裏面側の封止樹脂15b上にバックシートと呼ばれる保護フィルム17が配置され、加熱することにより太陽電池セルが封止される」こと(工程)が、本願補正発明の「(D)(C)工程で得られた配線部材付半導体基板の両面に封止部材を積層し、さらに前記半導体基板の受光面に保護ガラスを、前記半導体基板の裏面に保護フィルムを積層して加熱する工程」に相当する。
(オ)引用発明の「太陽電池の製造方法」が、本願補正発明の「太陽電池モジュールの製造方法」に相当する。
(カ)引用発明の「導電性接着剤は、回転粘度計により測定温度25℃、回転速度0.5rpmの条件で測定される粘度が、150?300Pa・s」であることが、本願補正発明の「前記導電性接着剤組成物は、25℃における粘度が25?200Pa・s」であることに相当する。(両者の数値範囲は「150?200Pa・s」の範囲で重なりを有し、また、いずれの数値範囲においても上限値及び下限値に格別の意義を有するものとは認められないことから、相当関係にあるものと認定した。)
(キ)引用発明の「導電性粒子の含有量は、10?90質量%」であることが、本願補正発明の「(a)導電性粒子の含有量が前記導電性接着剤組成物の全量に対して75?95質量%」であることに相当する。(両者の数値範囲は「75?90質量%」の範囲で重なりを有し、また、いずれの数値範囲においても上限値及び下限値に格別の意義を有するものとは認められないことから、相当関係にあるものと認定した。)
(ク)引用発明の「導電性粒子の平均粒子径は5.0?50μm」であることが、本願補正発明の「(a)導電性粒子の平均粒子径が2?85μm」であることに相当する。
(ケ)引用発明の「導電性接着剤を加熱する温度は、導電性粒子を構成する金属の融点以上の温度である」ことが、本願補正発明の「(a)導電性粒子に含まれる金属の融点が(C)工程における加熱温度以下である」ことに相当する。

イ 一致点
よって、本願補正発明と引用発明は、
「(A)半導体基板の電極上に(a)金属を含有する導電性粒子、(b)熱硬化性樹脂及び(c)フラックス活性剤を含有する、導電性接着剤組成物を印刷法により塗布する工程と、
(B)塗布した導電性接着剤組成物の上に、前記半導体基板の電極と相対向するように配線部材を配置し、配線部材付半導体基板を得る工程と、
(C)(B)工程で得られた配線部材付半導体基板を加熱する工程と、
(D)(C)工程で得られた配線部材付半導体基板の両面に封止部材を積層し、さらに前記半導体基板の受光面に保護ガラスを、前記半導体基板の裏面に保護フィルムを積層して加熱する工程を備える太陽電池モジュールの製造方法であって、
前記導電性接着剤組成物は、25℃における粘度が25?200Pa・sであり、(a)導電性粒子の含有量が前記導電性接着剤組成物の全量に対して75?95質量%であり、(a)導電性粒子の平均粒子径が2?85μmであり、(a)導電性粒子に含まれる金属の融点が(C)工程における加熱温度以下である、太陽電池モジュールの製造方法。」
の発明である点で一致し、次の点で相違する。

ウ 相違点
導電性接着剤組成物を印刷法により塗布する工程において、本願補正発明においては「線幅0.8mm以下で塗布」するのに対し、引用発明においては、塗布する線幅についての特定がない点。


(3)当審の判断
ア 上記相違点について検討する。
本願補正発明において、上記相違点に係る「線幅0.8mm以下で塗布」することによる「接着剤(導電性接着剤組成物)のはみ出しを防止する」ことができるという、請求人が主張する作用効果は、導電性接着剤組成物の塗布する線幅とともに、配線部材の幅を特定して初めて生じる作用効果であるといえるところ、本願補正発明においては「配線部材の幅」についての特定がないから、上記の請求人が主張する作用効果は、請求項の記載に基づくものではない。
そして、太陽電池の配線部材の幅としては、原査定において引用され、本願の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2012/43491号にも「幅0.5?2.5mmの表面電極」と記載されている([0077]段落参照。)ように、上記数値範囲程度の種々の幅のものが使用され得るところ、導電性接着剤組成物の塗布する線幅については、配線部材の幅などに応じて適宜設定し得るものであり、「線幅0.8mm以下で塗布」すると特定することは単なる設計的事項にすぎない。

イ 本願補正発明の奏する作用効果
本願補正発明によってもたらされる、上記の「接着剤(導電性接着剤組成物)のはみ出しを防止する」こと以外の作用効果は、引用発明から当業者が予測し得る程度のものにすぎない。

ウ 請求人の主張について
請求人は、審判請求書及び平成29年9月19日付けで提出された回答書において、引用例1の記載では、導電性接着剤を開口寸法1.2mm×125mmのメタルマスクを用いて電極上に印刷しているから、導電性接着剤の線幅は1.2mm以上となり、その結果、導電性接着剤のはみ出しが微小ながら発生するものであるのに対して、本願補正発明においては「線幅0.8mm以下で塗布」するものであるからはみ出しがない旨を主張する。
しかしながら、上記「ア」において述べたように、接着剤がはみ出すかはみ出さないかについては、接着剤の線幅のみによって決まるものではなく、当然ながら、接着剤の線幅と接着剤が塗られる電極の幅との相対的な大小関係によるものであるから、電極の幅が特定されていない本願補正発明の方が、引用例1のものよりも接着剤がはみ出さないということはできない。
すなわち、上記「ア」にも述べたとおり、上記の請求人の主張は、請求項の記載に基づかない主張であるから、採用することはできない。

エ まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 むすび
したがって、本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるということができないから、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成28年11月24日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成28年3月14日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記「第2 平成28年11月24日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「1 本件補正について」の記載参照。)

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例の記載事項及び引用発明については、上記「第2 平成28年11月24日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「2 独立特許要件違反についての検討」の「(1)引用例」に記載したとおりである。

3 対比・判断
上記「第2 平成28年11月24日付けの手続補正についての補正の却下の決定について」の「1 本件補正について」に記載したように、本願発明に対して、導電性接着剤組成物の25℃における粘度について、補正前の「20?250Pa・s」から「25?200Pa・s」へ数値範囲を限定し、また、導電性接着剤組成物の全量に対する導電性粒子の含有量について、補正前の「70?95質量%」から「75?95質量%」へ数値範囲を限定したものが本願補正発明である。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、本願発明をさらに限定しものに相当する本願補正発明が、上記「第2 平成28年11月24日付けの手続補正についての補正の却下の決定について」の「2 独立特許要件違反についての検討」の「(2)本願補正発明と引用発明との対比」及び「(3)当審の判断」において記載したとおり、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-10-24 
結審通知日 2017-10-31 
審決日 2017-11-20 
出願番号 特願2012-133817(P2012-133817)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 濱田 聖司  
特許庁審判長 小松 徹三
特許庁審判官 森林 克郎
松川 直樹
発明の名称 太陽電池モジュールの製造方法及び導電性接着剤組成物  
代理人 平野 裕之  
代理人 清水 義憲  
代理人 酒巻 順一郎  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 阿部 寛  
代理人 吉住 和之  

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