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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02D
管理番号 1336101
審判番号 不服2017-627  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-02-23 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-01-17 
確定日 2018-01-05 
事件の表示 特願2013-150756「ノッキング検出装置及び点火時期制御システム」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 6月19日出願公開、特開2014-111928〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成25年7月19日(優先権主張 平成24年10月31日)の出願であって、平成28年9月26日付けで拒絶理由が通知され、平成28年11月4日に意見書が提出されたが、平成28年11月18日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成29年1月17日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出されたものである。

第2 平成29年1月17日の手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成29年1月17日の手続補正を却下する。

[理由]

[1]補正の内容

平成29年1月17日の手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、願書に最初に添付した特許請求の範囲に記載された)下記の(a)に示す請求項1ないし7を下記の(b)に示す請求項1ないし6と補正するものである。

(a)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし7

「【請求項1】
内燃機関の振動を検出するノッキングセンサと、
前記ノッキングセンサの出力信号に基づいて前記内燃機関のノッキングの状態を示すノッキング信号を求める演算部を収容しつつ、前記ノッキングセンサと離間する筐体と、
前記ノッキングセンサと前記演算部との間で、前記ノッキングセンサから出力される出力信号の伝達を可能に接続する第1ケーブルと、
前記演算部から少なくとも前記ノッキング信号を出力可能にする第2ケーブルと、
が備えられたノッキング検出装置であって、
前記第1ケーブルにおける一端は前記ノッキングセンサに接続され、他端は前記筐体に接続され、
前記第2ケーブルにおける一端は前記筐体に接続されていることを特徴とするノッキング検出装置。
【請求項2】
前記第1ケーブルは、耐熱性を有する第1被覆の内部に、前記出力信号の伝達が可能な第1リード線を備え、
前記第2ケーブルは、耐熱性を有する第2被覆の内部に、前記ノッキング信号が出力可能な第2リード線を備え、
前記第1ケーブルの前記第1被覆は、前記第2ケーブルの前記第2被覆と比較して耐熱温度が高いことを特徴とする請求項1記載のノッキング検出装置。
【請求項3】
前記第2ケーブルは、耐熱性を有する第2被覆の内部に、前記ノッキング信号が出力可能な第2リード線を備え、
前記第2ケーブルにおける他端側において、前記第2ケーブルを構成する複数の前記第2リード線のそれぞれの端部には、金属製の接続端子が備えられていることを特徴とする請求項1または2記載のノッキング検出装置。
【請求項4】
前記第2ケーブルにおける他端には、コネクタが設けられていることを特徴とする請求項1または2記載のノッキング検出装置。
【請求項5】
前記第2ケーブルは、耐熱性を有する第2被覆の内部に、前記ノッキング信号が出力可能な第2リード線を備え、
前記第2ケーブルにおける他端側において、前記第2ケーブルを構成する複数の前記第2リード線が剥き出しであることを特徴とする請求項1または2記載のノッキング検出装置

【請求項6】
前記演算部は、前記ノッキング信号および外部の電子制御装置から得られる点火時期に関する信号に基づいて前記内燃機関の点火時期を調整した調整点火信号を求めるとともに、前記第2ケーブルを介して前記ノッキング信号の代わりに前記調整点火信号を前記演算部から出力することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のノッキング検出装置。
【請求項7】
内燃機関のノッキングを検出する請求項6記載のノッキング検出装置と、前記内燃機関の点火時期に関する信号を出力する外部の電子制御装置とが設けられた点火時期制御システムであって、
前記第2ケーブルにおける他端は、前記外部の電子制御装置に接続され、
前記演算部は、前記ノッキング信号および前記外部の電子制御装置から得られる前記点火時期に関する信号に基づいて前記内燃機関の点火時期を調整した調整点火信号を求めるとともに、前記第2ケーブルを介して前記ノッキング信号の代わりに前記調整点火信号を前記演算部から出力することを特徴とする点火時期制御システム。」

(b)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし6

「【請求項1】
内燃機関の振動を検出するノッキングセンサと、
前記ノッキングセンサの出力信号に基づいて前記内燃機関のノッキングの状態を示すノッキング信号を求める演算部を収容しつつ、前記ノッキングセンサと離間する筐体と、
前記ノッキングセンサと前記演算部との間で、前記ノッキングセンサから出力される出力信号の伝達を可能に接続する第1ケーブルと、
前記演算部から少なくとも前記ノッキング信号を出力可能にする第2ケーブルと、が供えられたノッキング検出装置であって、
前記第1ケーブルにおける一端は前記ノッキングセンサに接続され、他端は前記筐体に接続され、
前記第2ケーブルにおける一端は前記筐体に接続され、
前記第1ケーブルは前記第2ケーブルよりも前記内燃機関に近く、
前記第1ケーブルは、耐熱性を有する第1被覆の内部に、前記出力信号の伝達が可能な第1リード線を備え、
前記第2ケーブルは、耐熱性を有する第2被覆の内部に、前記ノッキング信号が出力可能な第2リード線を備え、
前記第1ケーブルの前記第1被覆は、前記第2ケーブルの前記第2被覆と比較して耐熱温度が高いことを特徴とするノッキング検出装置。
【請求項2】
前記第2ケーブルは、耐熱性を有する第2被覆の内部に、前記ノッキング信号が出力可能な第2リード線を備え、
前記第2ケーブルにおける他端側において、前記第2ケーブルを構成する複数の前記第2リード線のそれぞれの端部には、金属製の接続端子が備えられていることを特徴とする請求項1に記載のノッキング検出装置。
【請求項3】
前記第2ケーブルにおける他端には、コネクタが設けられていることを特徴とする請求項1に記載のノッキング検出装置。
【請求項4】
前記第2ケーブルは、耐熱性を有する第2被覆の内部に、前記ノッキング信号が出力可能な第2リード線を備え、
前記第2ケーブルにおける他端側において、前記第2ケーブルを構成する複数の前記第2リード線が剥き出しであることを特徴とする請求項1に記載のノッキング検出装置。
【請求項5】
前記演算部は、前記ノッキング信号および外部の電子制御装置から得られる点火時期に関する信号に基づいて前記内燃機関の点火時期を調整した調整点火信号を求めるとともに、前記第2ケーブルを介して前記ノッキング信号の代わりに前記調整点火信号を前記演算部から出力することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のノッキング検出装置。
【請求項6】
内燃機関のノッキングを検出する請求項5記載のノッキング検出装置と、前記内燃機関の点火時期に関する信号を出力する外部の電子制御装置とが設けられた点火時期制御システムであって、
前記第2ケーブルにおける他端は、前記外部の電子制御装置に接続され、
前記演算部は、前記ノッキング信号および前記外部の電子制御装置から得られる前記点火時期に関する信号に基づいて前記内燃機関の点火時期を調整した調整点火信号を求めるとともに、前記第2ケーブルを介して前記ノッキング信号の代わりに前記調整点火信号を前記演算部から出力することを特徴とする点火時期制御システム。」
(なお、下線は補正箇所を示すために請求人が付したものである。)

[2]本件補正の目的

本件補正は、本件補正前の請求項1を削除し、本件補正前の請求項1を引用する請求項2を、新たな請求項1とするとともに、請求項1における発明特定事項である「第1ケーブル」及び「第2ケーブル」について、「前記第1ケーブルは前記第2ケーブルよりも前記内燃機関に近く」であることを限定するものである。
そして、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項5に関しては、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項2をさらに引用する請求項6における発明特定事項である「第1ケーブル」及び「第2ケーブル」について、「前記第1ケーブルは前記第2ケーブルよりも前記内燃機関に近く」であることを限定するものであり、かつ、本件補正前の請求項1を引用する請求項2をさらに引用する請求項6に記載された発明と本件補正後の請求項1を引用する請求項5に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
そして、本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項2をさらに引用する請求項6に係る発明の発明特定事項を限定したものを含んでいるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1を引用する請求項5に記載される発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下に検討する。

[3]独立特許要件の判断

1.刊行物

(1)刊行物1

ア 刊行物1の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開昭63-9678号公報(以下、「刊行物1」という。)には、「内燃機関制御装置の故障伝達装置」に関して、図面とともに、次の事項が記載されている。

a)「第2図は本発明に係る装置の全体構成を示す。同図において、符号10は前記基本制御手段たる基本制御ユニットを示す。該ユニット10は、基本点火時期演算装置20、出力回路22、故障信号監視回路24、故障モード判別回路26、記憶手段28、表示装置30及び燃料噴射制御装置32から構成され、その構成の大部分をマイクロ・コンピュータで構成する。
基本点火時期演算装置20には、内燃機関34の回転部近傍に配されたクランク角センサ36及びスロットル弁近傍の空気導入路に配された負圧センサ38が接続されて基準クランク角信号、機関回転数信号及び負圧信号を入力し、公知の手法で基本点火時期を演算して信号線40を介して出力回路22に送出する。」(第2ページ右下欄第14行ないし第3ページ左上欄第8行)(下線は、理解の一助のために当審が付したものである。以下同様。)

b)「燃料噴射制御装置32は基本点火時期演算装置と同期して動作し、クランク角センサ36及び負圧センサ38の出力を入力して燃料噴射制御値を演算し、噴射弁及び其の駆動回路よりなる燃料噴射装置50に出力する。又、燃料噴射制御装置は、前記カウンタ26aの出力値に応じて後述の如く燃料噴射を停止する。
基本制御ユニット10の次段には、前記した信号伝送手段16が設けられ、基本制御ユニット10を前記したノッキング制御手段たるノッキング制御ユニット12に接続する。尚、本明細書において「信号伝送手段」は、導電体で構成される接続コネクタ、ケーブル、印刷基板の導体及び回路素子を意味するものとして使用する。
ノッキング制御ユニット12は、入力回路52、ノッキング演算装置54、出力回路56、異常検出回路58、バックアップ回路60及び前記した故障信号出力手段たる故障信号出力回路18で構成される。
入力回路52は、前記信号伝送手段16に信号線62を介して接続されており、プルアップ抵抗52a及び抵抗52b,52c,52d,52e,52f、トランジスタ52g,52h及びダイオード52iからなる入力スイッチ回路から構成され、その出力は信号線64を介してノッキング演算装置54に接続される。
ノッキング演算装置54は、前記基本制御ユニット10を主として構成するマイクロ・コンピュータとは別体のマイクロ・コンピュータで構成され、入力回路52及び信号伝送手段16を介して基本制御ユニット10が送出する基本点火時期信号を入力すると共に、内燃機関34の気筒近傍に配されたノックセンサ66を通じてノッキングを検出する。ノッキング検出時には基本点火時期信号を適宜遅角補正すると共にノッキングが検出されない際は該基本点火時期信号をそのまま出力回路56を介して次段に送出する。又、ノッキング演算装置54は、装置の故障を監視する異常判断回路及び記憶手段(共に図示せず)を其の内部に備える。
出力回路56は、抵抗56a,56b,トランジスタ56c及びツェナ・ダイオード56dより構成される。トランジスタ56cのベース端子は、抵抗56a及び切り換えスイッチ68を介してノッキング演算装置の出力端子に接続されると共に、其のコレクタ端子は信号線70を介してユニット外に出力される。」(第3ページ左下欄第4行ないし第4ページ左上欄第10行)

c)「基本点火時期演算装置20は基本点火時期を演算してパルス信号(第3図a)を出力回路22に送出する。該信号は出力回路でレベルが反転させられ(同図b)、信号伝送手段16を通じてノッキング制御ユニット12に送られて其の入力回路52を介してノッキング演算装置54に入力される。ノッキング演算装置54はノッキング発生の有無に応じて基本点火時期信号を補正して乃至は補正せずに通電信号として出力し、該出力信号は出力回路56及び信号伝送手段82を介して点火装置14に送出されて混合気を点火する(同図c)。装置が正常な場合は、かかる動作が繰り返される。」(第4ページ右上欄第18行ないし左下欄第10行)

イ 上記ア及び図面(特に第2図)の記載より分かること

a)第2図の記載から、ノッキング制御ユニット12は、ノックセンサ66と離間していることが分かる。

b)第2図の記載から、第1の信号伝送手段は、ノックセンサ66とノッキング演算装置54との間で、ノックセンサ66から出力される出力信号の伝達を可能に接続すること、及び、第1の信号伝送手段における一端は、ノックセンサ66に接続され、他端はノッキング制御ユニット12に接続されることが分かる。

c)第2図の記載から、第2の信号伝送手段82における一端はノッキング制御ユニット12に接続されることが分かる。

d)ノックセンサ66は気筒近傍に設けられるものであるから、その機能あるいは技術常識からみて、第1の信号伝送手段は第2の信号伝送手段82よりも内燃機関34に近いことは明らかである。

ウ 刊行物1に記載された発明

したがって、上記ア及びイを総合すると、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物1に記載された発明」という。)が記載されていると認められる。

<刊行物1に記載された発明>

「内燃機関34の振動を検出するノックセンサ66と、
前記ノックセンサ66の出力信号に基づいて前記内燃機関34のノッキングの発生の有無を求めるノッキング演算装置54を収容しつつ、前記ノックセンサ66と離間するノッキング制御ユニット12と、
前記ノックセンサ66と前記ノッキング演算装置54との間で、前記ノックセンサ66から出力される出力信号の伝達を可能に接続する第1の信号伝送手段と、
前記ノッキング演算装置54から通電信号を送出する第2の信号伝送手段82と、が供えられた内燃機関制御装置であって、
前記第1の信号伝送手段における一端は前記ノックセンサ66に接続され、他端は前記ノッキング制御ユニット12に接続され、
前記第2の信号伝送手段82における一端は前記ノッキング制御ユニット12に接続され、
前記第1の信号伝送手段は前記第2の信号伝送手段82よりも前記内燃機関34に近く、
前記ノッキング演算装置54は、前記ノッキングの発生の有無および外部の基本制御ユニット10から得られる基本点火時期信号に基づいて前記内燃機関34の点火時期を補正した前記通電信号を求めるとともに、前記第2の信号伝送手段82を介して前記通電信号を前記ノッキング演算装置54から出力する内燃機関制御装置。」

(2)刊行物2

ア 刊行物2の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2002-228624号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動車等の内燃機関における排気ガス中の特定ガス成分濃度を測定するガスセンサの取付構造に関し、更に詳しくは、内燃機関の制御を司る主制御装置とは別に、ガスセンサの検出部の制御を司るセンサ制御装置を備えた高機能ガスセンサの取付構造に関する。」(段落【0001】)

b)「【0010】また、上記ガスセンサ1の検出部2とセンサ制御装置10の制御回路基板12とは、主にセンサ制御用の複数の被覆リード体25aによって電気的に接続されている。これらの被覆リード体25aの途中には、互いに着脱自在とされる一対のセンサ側コネクタ16が介在されている。また、センサ制御装置10の制御回路基板12と主制御装置20の制御回路基板22とは、主にセンサ情報信号用の複数の被覆リード体25bによって電気的に接続されている。これらの被覆リード体25bの途中には、互いに着脱自在とされる一対の主制御装置側コネクタ18が介在されている。さらに、ガスセンサ1のヒータ3と主制御装置20の制御回路基板22とは上記2組のコネクタ16,18を介して正負一対のヒータ制御用の被覆リード体25cによって電気的に接続されている。図2,3に示すように、このヒータ制御用の被覆リード体25cは、センサ制御装置10の制御回路基板12には接続されることなく、センサ制御装置10の基板ケース11内をスルーしている。
【0011】上記各被覆リード体25a?25cは、図4に示すように、複数のリード線28を絶縁被覆部26(例えば、耐熱性に優れたテフロン(登録商標)系材料)で被覆して構成され、その内部に隙間空間27が形成されている。また、ヒータ制御用の正負一対の被覆リード体25cは隣接して配置され、センサ制御装置10に対する電磁的影響を抑えるようになっている。尚、上記ヒータ制御用の正負一対の被覆リード体25cは、図5に示すように、互いに撚って設けてもよく、このように構成すれば、センサ制御装置10に対する電磁的影響をさらに抑えることができる。」(段落【0010】及び【0011】)

イ 刊行物2記載技術

したがって、上記アを総合すると、刊行物2には次の技術(以下、「刊行物2記載技術」という。)が記載されていると認められる。

<刊行物2記載技術>

「内燃機関における排気ガス中の特定ガス成分濃度を測定するガスセンサの取付構造において、ガスセンサ1の検出部2とセンサ制御装置10の制御回路基板12とを接続するセンサ制御用の被覆リード体25aは、耐熱性に優れたテフロン系材料の絶縁被覆部26で被覆されている技術。」

(2)刊行物3

ア 刊行物3の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2006-232955号公報(以下、「刊行物3」という。)には、次の事項が記載されている。

a)「【0001】
本発明は、電子機器用の電線・ケーブル、特に車両用の電線・ケーブルにおける被覆材料として有用な耐薬品性難燃樹脂組成物、及びこれを用いたデータ通信用のインターフェースケーブルや電源コードなどの電線・ケーブルに関するものである。」(段落【0001】)

b)「【0003】
さらに、これらの電子機器にあっては、最近車内に持ち込まれ、車内で使用したり、車両側の充電器により充電したりすることが増えてきている。このため、優れた難燃性も要求とされる。また、この場合、車両エンジンルーム内ほどの厳しい、耐熱性や耐薬品性、耐油、、耐ガソリン性などは必要とされないが、これらの耐薬品性、耐油、耐ガソリン性について、適度の耐性が求められる。さらにまた、耐熱性にあっても、少なくとも80℃程度の耐性は要求される。勿論、燃焼時有害なガス(ハロゲンガスなど)を発生させないことも要求される。」(段落【0003】)

イ 刊行物3記載事項

したがって、上記アを総合すると、刊行物3には次の事項(以下、「刊行物3記載事項」という。)が記載されていると認められる。

<刊行物3記載事項>

「車両用の電線・ケーブルにおいて、車両エンジンルーム内では厳しい耐熱性が必要とされること。」

2.対比・判断

刊行物1に記載された発明における「ノックセンサ66」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願補正発明における「ノッキングセンサ」に相当し、以下同様に、「ノッキング演算装置54」は「演算部」に、「第1の信号伝送手段」は「第1ケーブル」に、「第2の信号伝送手段」は「第2ケーブル」に、「通電信号」は「調整点火信号」あるいは「ノッキング信号の代わりに調整点火信号」に、「内燃機関制御装置」は「ノッキング検出装置」に、「基本制御ユニット10」は「電子制御装置」に、「基本点火時期信号」は「点火時期に関する信号」に、「補正した」は「調整した」にそれぞれ相当する。
そして、刊行物1に記載された発明における「ノッキングの発生の有無」は、ノッキングの発生状態を示す一種の信号と解すことができるから、本願補正発明における「ノッキングの状態を示すノッキング信号」あるいは「ノッキング信号」に相当するといえる。
また、本願補正発明における「演算部から少なくともノッキング信号を出力可能にする第2ケーブル」は、本願補正発明における他の発明特定事項である「第2ケーブルを介してノッキング信号の代わりに調整点火信号を演算部から出力すること」と併せみれば、「演算部から少なくとも調整点火信号を出力可能にする第2ケーブル」と読み替えることができるので、刊行物1に記載された発明における「ノッキング演算装置54から通電信号を送出する」は、本願補正発明における「演算部から少なくとも調整点火信号を出力可能にする」に相当するといえる。
さらに、刊行物1に記載された発明における「ノッキング制御ユニット12」は、ノッキング演算装置54を収容するものであるから、本願補正発明における「筐体」とは、「収容体」という限りにおいて一致する。

してみると、本願補正発明と刊行物1に記載された発明とは、
「内燃機関の振動を検出するノッキングセンサと、
前記ノッキングセンサの出力信号に基づいて前記内燃機関のノッキングの状態を示すノッキング信号を求める演算部を収容しつつ、前記ノッキングセンサと離間する収容体と、
前記ノッキングセンサと前記演算部との間で、前記ノッキングセンサから出力される出力信号の伝達を可能に接続する第1ケーブルと、
前記演算部から調整点火信号を出力可能にする第2ケーブルと、が供えられたノッキング検出装置であって、
前記第1ケーブルにおける一端は前記ノッキングセンサに接続され、他端は前記収容体に接続され、
前記第2ケーブルにおける一端は前記収容体に接続され、
前記第1ケーブルは前記第2ケーブルよりも前記内燃機関に近く、
前記演算部は、前記ノッキング信号および外部の電子制御装置から得られる点火時期に関する信号に基づいて前記内燃機関の点火時期を調整した調整点火信号を求めるとともに、前記第2ケーブルを介して前記ノッキング信号の代わりに前記調整点火信号を前記演算部から出力する内燃機関制御装置。」
の点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>
「収容体」に関して、本願補正発明においては「筐体」であるのに対して、刊行物1に記載された発明においては、「ノッキング制御ユニット12」であるものの、「筐体」として構成されているか不明である点(以下、「相違点1」という。)。

<相違点2>
本願補正発明においては、「前記第1ケーブルは、耐熱性を有する第1被覆の内部に、前記出力信号の伝達が可能な第1リード線を備え、前記第2ケーブルは、耐熱性を有する第2被覆の内部に、前記ノッキング信号が出力可能な第2リード線を備え、前記第1ケーブルの前記第1被覆は、前記第2ケーブルの前記第2被覆と比較して耐熱温度が高い」のに対し、
刊行物1に記載された発明においては、第1の信号伝送手段及び第2の信号伝送手段がかかる構成を備えているか不明である点(以下、「相違点2」という。)。

上記各相違点について検討する。

<相違点1>について
電気部品や電気回路を筐体に収めることは広く行われている慣用手段であるところ、刊行物1に記載された発明における「ノッキング制御ユニット12」を筐体として構成することも、当業者が適宜なし得ることである。

<相違点2>について
刊行物2記載技術は、内燃機関における排ガスの成分を測定するガスセンサ1とセンサ制御装置10とを接続する配線を耐熱性に優れた絶縁被覆部26で被覆するものである。
また、刊行物3には、車両エンジンルーム内に設けられた電線・ケーブルに厳しい耐熱性が必要とされる旨の記載があり、刊行物1に記載された発明においても、第1及び第2の信号伝達手段に耐熱性を要求されることは、当業者が当然考慮する事項であって、その際、刊行物1に記載された発明と同様にエンジン近傍に設けられるガスセンサ1とセンサ制御装置10とを接続する刊行物2記載技術の配線のように、耐熱性の被覆部で被覆することは、当業者が適宜なし得ることである。
さらに、刊行物1に記載された発明は、第1の信号伝送手段は第2の信号伝送手段82よりも内燃機関に近くに設けられており、内燃機関に近いほど信号伝送手段が設けられる部位の温度は高くなり、より高い耐熱性が要求されることは技術常識であり、シリンダーブロック表面に近い第1の信号伝送手段の被覆を第2の信号伝送手段の被覆と比較して耐熱温度が高いものとすることは、当業者が容易になし得たことである。
なお、エンジンルーム内の耐熱温度は一般に概ね100℃ないし125℃である(例えば、国際公開第2012/046341号の段落【0037】及び実用新案登録第3088500号の段落【0022】を参照)一方、実願昭63-1800号(実開平1-105825号)のマイクロフィルム(特に第6ページ第4行ないし第15行を参照)には、シリンダブロック表面に取り付けられるノッキングセンサとこれに接続されるケーブルの被覆の耐熱温度を150℃程度にすることが記載されるとともに、特開平10-317947号公報(特に段落【0003】を参照)には、機関運転中のシリンダーブロックの表面温度が300℃以上になることが記載されており、エンジンブロック内でもシリンダブロック近傍で特に高い耐熱性を要することは、周知でもある。

そして、本願補正発明は、全体としてみても、刊行物1に記載された発明、刊行物2記載技術、刊行物3記載事項及び技術常識から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

したがって、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明、刊行物2記載技術、刊行物3記載事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび

以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、[補正却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について

1.本願発明

平成29年1月17日の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし7に係る発明は、出願当初の明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち、請求項1を引用する請求項2をさらに引用する請求項6に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2[理由][1](a)に示した請求項1、請求項2及び請求項6に記載されたとおりのものである。

2.刊行物

原査定の拒絶の理由に引用された、刊行物1、2及び3には、上記第2[理由][3]1.(1)、(2)及び(3)のとおりのものが記載されている。

3.対比・判断

本願発明は、上記第2[理由][2]で検討した本願補正発明の発明特定事項のうち、「前記第1ケーブルは前記第2ケーブルよりも前記内燃機関に近く」という発明特定事項を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含む本願補正発明が、上記第2[理由][3]に記載したとおり、刊行物1に記載された発明、刊行物2記載技術、刊行物3記載事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、刊行物1に記載された発明、刊行物2記載技術、刊行物3記載事項及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

そして、本願発明は、全体としてみても、刊行物1に記載された発明、刊行物2記載技術、刊行物3記載事項及び技術常識から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

4.まとめ
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明、刊行物2記載技術、刊行物3記載事項及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
上記第3のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-11-02 
結審通知日 2017-11-08 
審決日 2017-11-22 
出願番号 特願2013-150756(P2013-150756)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02D)
P 1 8・ 575- Z (F02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山村 秀政  
特許庁審判長 松下 聡
特許庁審判官 金澤 俊郎
佐々木 芳枝
発明の名称 ノッキング検出装置及び点火時期制御システム  
代理人 青木 昇  

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