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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H01B 審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 H01B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H01B 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 H01B 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 H01B 審判 全部申し立て 2項進歩性 H01B |
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管理番号 | 1336146 |
異議申立番号 | 異議2017-700408 |
総通号数 | 218 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-02-23 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-04-24 |
確定日 | 2017-11-27 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6015542号発明「光電気複合ケーブル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6015542号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 特許第6015542号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6015542号の請求項1-6に係る特許についての出願は、平成25年4月25日に特許出願され、平成28年10月7日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人杉本トシ子により特許異議の申立てがされ、平成29年7月5日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年9月5日に意見書の提出及び訂正の請求がされたので、申立人に対して同年9月7日付けで本件訂正請求があった旨の通知がされたところ、指定期間内に申立人から意見書が提出されなかったものである。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は以下の(1)、(2)のとおりである。 (1) 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1において、 訂正前の「前記内筒体の外部に前記内筒体の周囲を覆うように配置された複数本の電線」と記載されているのを、 訂正後の「前記内筒体の外部に前記内筒体の周囲を覆うように前記内筒体の外周に沿って径方向に互いに重ならないように配置され、それぞれが中心導体を絶縁体で被覆して構成された複数本の電線」と訂正し、 訂正前の「前記複数本の電線は、電線対を複数備え」と記載されているのを、 訂正後の「前記複数本の電線は、前記電線同士が対をなす電線対を複数含み」と訂正し、 訂正前の「少なくとも1つの前記電線対を構成する前記電線が、他の前記電線よりも外径が大きく、かつ、前記内筒体を挟んで対向する位置に配置されている」と記載されているのを、 訂正後の「複数の前記電線対のうち少なくとも1つの前記電線対は、当該少なくとも1つの前記電線対を構成する前記電線が、他の前記電線よりも外径が大きく、前記少なくとも1つの前記電線対を構成する前記電線は、前記内筒体を挟んで対向する位置に配置されており」、「前記少なくとも1つの前記電線対を構成する前記電線の外形をD_(2)とし、前記他の前記電線の外形をD_(1)としたとき、0.8×D_(2)≦D_(1)<D_(2)の関係を満たす」 に訂正する。 (2) 訂正事項2 発明の詳細な説明の段落【0008】において、 「本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、光ファイバと、前記光ファイバを収容する樹脂からなる内筒体と、前記内筒体の外部に前記内筒体の周囲を覆うように配置された複数本の電線と、前記複数本の電線を一括して被覆する筒状の外筒体と、を備え、前記複数本の電線は、電線対を複数備え、少なくとも1つの前記電線対を構成する前記電線が、他の前記電線よりも外径が大きく、かつ、前記内筒体を挟んで対向する位置に配置されている光電気複合ケーブルである。」 と記載されているのを、 「本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、光ファイバと、前記光ファイバを収容する樹脂からなる内筒体と、前記内筒体の外部に前記内筒体の周囲を覆うように前記内筒体の外周に沿って径方向に互いに重ならないように配置され、それぞれが中心導体を絶縁体で被覆して構成された複数本の電線と、前記複数本の電線を一括して被覆する筒状の外筒体と、を備え、前記複数本の電線は、前記電線同士が対をなす電線対を複数含み、複数の前記電線対のうち少なくとも1つの前記電線対は、当該少なくとも1つの前記電線対を構成する前記電線が、他の前記電線よりも外径が大きく、前記少なくとも1つの前記電線対を構成する前記電線は、前記内筒体を挟んで対向する位置に配置されており、前記少なくとも1つの前記電線対を構成する前記電線の外形をD_(2)とし、前記他の前記電線の外形をD_(1)としたとき、0.8×D_(2)≦D_(1)<D_(2)の関係を満たす、ことを特徴とする光電気複合ケーブルである。」 に訂正する。 2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 上記訂正事項1に関連する記載として、明細書の発明の詳細な説明には、 「複数本の電線」について、 段落【0022】に、 「……本実施の形態では、断面円形状の10本の電線4が、チューブ3の外周に沿って配置されている。複数本の電線4は、径方向に重ならないように配置される。……」と記載され、 段落【0026】に、 「……信号線7は、撚り線導体からなる中心導体7aを絶縁体7bで被覆して構成されている。電源線8、すなわち給電線9とグランド線10は、撚り線導体からなる中心導体8aを絶縁体8bで被覆して構成されている。……」と記載され、 「電線対」について、 段落【0026】に、 「複数本の電線4は、信号伝送用の電線対を構成する信号線7と、電源供給用の電線対を構成する電源線8と、からなる。……」と記載され、 「電線対を構成する電線」について、 段落【0024】に、 「さて、本実施の形態に係る光電気複合ケーブル1では、複数本の電線4は、信号伝送用または電源供給用の電線対を複数備え、少なくとも1つの電線対を構成する電線4が、他の電線4よりも外径が大きく、かつ、チューブ3を挟んで対向する位置に配置されている。」と記載され、 段落【0026】に、 「複数本の電線4は、信号伝送用の電線対を構成する信号線7と、電源供給用の電線対を構成する電源線8と、からなる。……」と記載され、 段落【0033】に、 「また、最も細い電線4(ここでは信号線7)の外径をD_(1)、最も太い電線4(ここでは電源線8)の外径をD_(2)としたとき、下式(1) 0.8×D_(2)≦D_(1)<D_(2) ・・・(1) を満たすことが望ましい。……」と記載されていることから、 「複数本の電線」が、「前記内筒体の外部に前記内筒体の周囲を覆うように前記内筒体の外周に沿って径方向に互いに重ならないように配置され、それぞれが中心導体を絶縁体で被覆して構成された複数本の電線」であり、 「電線対」が、「前記複数本の電線は、前記電線同士が対をなす電線対を複数含み」、 「電線対を構成する電線」が、「複数の前記電線対のうち少なくとも1つの前記電線対は、当該少なくとも1つの前記電線対を構成する前記電線が、他の前記電線よりも外径が大きく、前記少なくとも1つの前記電線対を構成する前記電線は、前記内筒体を挟んで対向する位置に配置されており」、「前記少なくとも1つの前記電線対を構成する前記電線の外形をD_(2)とし、前記他の前記電線の外形をD_(1)としたとき、0.8×D_(2)≦D_(1)<D_(2)の関係を満たす」発明は、明細書に記載されているものと認められる。 上記訂正事項1の訂正は、明細書に記載された事項の範囲内において、「複数本の電線」の配置と構成を限定し、「電線対」の構成を限定するとともに、「電線対を構成する電線」の外径を限定したものといえるから、特許特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 また、上記訂正事項2の訂正は、上記訂正事項1に係る訂正に伴い、明細書の記載を特許請求の範囲の記載と整合させるための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 そして、これら訂正は一群の請求項に対して請求されたものである。 3 小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正を認める。 第3 特許異議の申立てについて 1 本件発明 本件訂正請求により訂正された訂正請求項1-6に係る発明(以下「本件発明1」-「本件発明6」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1-6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 光ファイバと、 前記光ファイバを収容する樹脂からなる内筒体と、 前記内筒体の外部に前記内筒体の周囲を覆うように前記内筒体の外周に沿って径方向に互いに重ならないように配置され、それぞれが中心導体を絶縁体で被覆して構成された複数本の電線と、 前記複数本の電線を一括して被覆する筒状の外筒体と、を備え、 前記複数本の電線は、前記電線同士が対をなす電線対を複数含み、 複数の前記電線対のうち少なくとも1つの前記電線対は、当該少なくとも1つの前記電線対を構成する前記電線が、他の前記電線よりも外径が大きく、 前記少なくとも1つの前記電線対を構成する前記電線は、前記内筒体を挟んで対向する位置に配置されており、 前記少なくとも1つの前記電線対を構成する前記電線の外形をD_(2)とし、前記他の前記電線の外形をD_(1)としたとき、0.8×D_(2)≦D_(1)<D_(2)の関係を満たす、 ことを特徴とする光電気複合ケーブル。 【請求項2】 前記複数本の電線は、信号伝送用の前記電線対を構成する信号線と、電源供給用の前記電線対を構成する電源線と、からなり、 前記電源線は、前記信号線よりも外径が大きく、かつ、前記内筒体を挟んで対向する位置に配置されている 請求項1記載の光電気複合ケーブル。 【請求項3】 前記電源線は、給電線とグランド線とからなり、 前記給電線と前記グランド線とが、前記内筒体を挟んで対向する位置に配置されている 請求項2記載の光電気複合ケーブル。 【請求項4】 前記給電線を複数備えると共に、前記グランド線を複数備えた 請求項3記載の光電気複合ケーブル。 【請求項5】 前記複数本の給電線は、隣接して配置され、 前記複数本のグランド線は、隣接して配置される 請求項4記載の光電気複合ケーブル。 【請求項6】 前記複数本の電線は、前記内筒体の外周面に沿って螺旋状に巻き付けられて前記内筒体と前記外筒体との間に介在し、 前記外筒体の外周側から外力を受けることによって前記内筒体が受ける荷重は、隣接する前記電線同士の接触と前記内筒体に対する前記電線のすべりによって緩和される 請求項1?5いずれかに記載の光電気複合ケーブル。」 2 取消理由の概要 訂正前の請求項1-6に係る特許に対して平成29年7月5日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 (1) 請求項1-6に係る特許は、その記載が同法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。 (2) 請求項1-6に係る特許は、その記載が同法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。 (3) 請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1に係る特許は、取り消されるべきものである。 (4) 請求項1-6に係る発明は、甲第1-5号証に記載された発明及び技術事項に基づき容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1-6に係る特許は、取り消されるべきものである。 3 各甲号証の記載 (1) 甲第1号証 甲第1号証(特開2012-9153号公報)には、図面とともに、次の記載がある。(下線は、特に着目した箇所を示す。) ア 段落【0005】 「【0005】 ところで、光電気複合ケーブルを構成する光ファイバは、過剰な曲げや捻じれによって伝送損失が増加するおそれがある。また、光電気複合ケーブルでは、曲げられた際に、外周に配置された電線から光ファイバが側圧を受けることがあり、この場合も伝送損失が増加するおそれがある。 このため、上記特許文献2のケーブルのように、単に区画シートを設けて光ファイバと電線との収容スペースを区分しただけでは、電線から光ファイバへの側圧を十分に抑えて伝送損失の増加を低減させることは困難であった。上記特許文献1のケーブルのように、シースを設けて光ファイバと電線との収容スペースを区分しても、ケーブルを小径(直径30mm程度)に曲げた場合に電線から光ファイバへの側圧を十分に抑えて伝送損失の増加を低減させることは困難であった。」 イ 段落【0013】-【0018】 「【0013】 以下、本発明に係る光電気複合ケーブルの実施形態の例を、図面を参照して説明する。 図1に示すように、光電気複合ケーブル11は、最外層である外被20の内側に、光ファイバ心線(光ファイバ)12と複数本の電線15とを有する。光ファイバ心線12は、複数本あり、光電気複合ケーブル11の断面中央に配置された保護チューブ(チューブ)13内に収容されている。 【0014】 外被20の内側であって保護チューブ13の外側は、収容部14とされており、この収容部14には、複数本の電線15が配置されている。電線15としては、例えば、大径の絶縁ケーブル15a、小径の絶縁ケーブル15b、一対の絶縁ケーブル15cとドレイン線15dとを有するツイストペアケーブル、あるいは、互いに撚り合わされた複数本の同軸ケーブル15eなどがある。例えば、絶縁ケーブルとしては、錫メッキが施された軟銅線または銅合金線からなる素線を7本撚り合わせた導体を外被によって覆ったものであり、外被の材料としては、耐熱性、耐薬品性、非粘着性、自己潤滑性などに優れたテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)樹脂を用いるのが好ましい。収容部14における各電線15の隙間には、レーヨンやナイロンなどの繊維からなる介在を収容しても良い。また、収容部14には電線以外の抗張力線(アラミド繊維などのテンションメンバ。鋼線は含まない。)を収容してもよい。また、収容部14の周囲には、押さえ巻き18、シールド層19及び外被20が順に設けられている。 ・・・(中略)・・・ 【0018】 保護チューブ13の内部には、複数本(本実施形態では8本)の光ファイバ心線12が、極力隙間なく保護チューブ13の内周面に接するように収容されている。これらの光ファイバ心線12は、保護チューブ13内において撚ることなく軸方向へ真直ぐに収容するのが好ましい。細かなピッチで光ファイバ心線を撚ると局所的に光ファイバ心線が曲がって伝送損失が増加するおそれがある。 また、この保護チューブ13内の中央部分の隙間には、テンションメンバ25が配置されている。これにより、光ファイバ心線12は、保護チューブ13内において、テンションメンバ25と保護チューブ13とによって挟まれた状態に収容される。」 ウ 段落【0022】 「【0022】 この保護チューブ13としては、外力から光ファイバ心線12を保護するために、ある程度硬く、しかも、電線15等からの側圧を吸収する緩衝材としての機能を有することが望ましい。そのため、保護チューブ13としては、そのショアD硬度が65以上とされ、また、保護チューブ13の厚さは0.05mm以上であることが好ましい。保護チューブ13があまり厚いとケーブル外径が大きくなるので、実用的には0.8mm程度までの厚さがよい。 このような性質の保護チューブ13の材料としては、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)樹脂を用いるのが好ましい。なお、この保護チューブ13の材料としては、ポリ塩化ビニル(PVC)を用いることもできる。」 エ 段落【0027】 「【0027】 このように構成された光電気複合ケーブル11によれば、光ファイバ心線12が保護チューブ13内に収容され、また、保護チューブ13内において内周面に接するように保護チューブ13とテンションメンバ25で保持されているので、光ファイバ心線12への電線15等からの過剰な側圧の付与及び過剰な曲げや捻じれの発生を防止することができる。また、テンションメンバ25によって引張強度が向上され、光ファイバ心線12への過剰な張力の付与も防止することができる。 このように、光ファイバ心線12に外力が付与されることを極力抑え、良好な伝送特性を維持することができる。」 オ 図1 甲第1号証の図1を参照すると、3本の前記ツイストペアケーブルは、他の電線15a、15b、15eよりも、外径が大きく、かつ、互いに光電気複合ケーブル11の中央を中心に約120度の位置関係にあることが記載されているといえる。 また、図1を参照すると、3組(6本)の大径の絶縁ケーブル15a、3本の小径の絶縁ケーブル15bも、それぞれ、互いに光電気複合ケーブル11の中央を中心に約120度の位置関係にあることが記載されているといえる。 上記各記載事項を関連図面に照らし、下線部に着目すれば、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 「最外層である外被20の内側に、光ファイバ心線12と複数本の電線15とを有し、 光ファイバ心線12は、複数本あり、断面中央に配置された保護チューブ13内に収容され、 この保護チューブ13内の中央部分の隙間には、テンションメンバ25が配置され、これにより、光ファイバ心線12は、保護チューブ13内において、テンションメンバ25と保護チューブ13とによって挟まれた状態に収容され 、 外被20の内側であって保護チューブ13の外側は、収容部14とされており、この収容部14には、複数本の電線15が配置され、 保護チューブ13の材料としては、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)樹脂を用いるのが好ましく、ポリ塩化ビニル(PVC)を用いることもでき、 電線15としては、例えば、大径の絶縁ケーブル15a、小径の絶縁ケーブル15b、一対の絶縁ケーブル15cとドレイン線15dとを有するツイストペアケーブル、あるいは、互いに撚り合わされた複数本の同軸ケーブル15eなどがあり、 絶縁ケーブルは、錫メッキが施された軟銅線または銅合金線からなる素線を7本撚り合わせた導体を外被によって覆ったものであり、 3本の前記ツイストペアケーブルは、他の電線15a、15b、15eよりも、外径が大きく、かつ、互いに光電気複合ケーブル11の中央を中心に約120度の位置関係にあり、 3組(6本)の大径の絶縁ケーブル15a、3本の小径の絶縁ケーブル15bも、それぞれ、互いに光電気複合ケーブル11の中央を中心に約120度の位置関係にある、 光電気複合ケーブル11。」 (2) 甲第2号証-甲第4号証 甲第2号証(特開2013-73100号公報)には、次の記載がある。 ア 段落【0025】 「【0025】 複合ケーブル2は、1本の光ファイバ3と、7本の差動信号線4と、2本の電源線6とを備えている。光ファイバ3は、光信号を伝送するためのものである。以下の説明では、光ファイバ素線、光ファイバ心線及び光ファイバコード等も単に「光ファイバ」と呼ぶことがある。差動信号線4は、2本の信号線5を1組とするメタルケーブルから構成されている。このため、複合ケーブル2は14本の信号線5を備えていることになる。これらの差動信号線4は、主に制御信号を伝送しており、映像信号を伝送する場合と比べて低周波数の信号を伝送する。2本の電源線6は、信号線5と比べて太いメタルケーブルから構成されており、一方の電源線6の電位は12Vであり、他方の電源線6の電位はGNDである。」 イ 図3 甲第2号証の図3を参照すると、2本の電源線6は、対向する位置に配置されているといえる。 甲第3号証(特開2012-59430号公報)には、次の記載がある。 ウ 段落【0012】-【0014】 「【0012】 以下、本発明に係る光電気複合ケーブルの実施形態の例を、図面を参照して説明する。 図1に示すように、光電気複合ケーブル11は、最外層である外被20の内側に、光ファイバ心線(光ファイバ)12と複数本の電線15とを有する。光ファイバ心線12は複数本設けられ、光電気複合ケーブル11の断面中央に配置された保護チューブ(チューブ)13内に収容されている。 【0013】 外被20の内側であって保護チューブ13の外側は、収容部14とされており、この収容部14には複数本の電線15が配置されている。 電線15としては、電力供給用の電力線として用いられる4本一組の電線15a、及び、例えば、差動伝送用の信号線として用いられる2本一組の電線15bがある。なお、差動伝送用の信号線の場合、電線15bは2本一組となるが、信号線としては、2本一組であれば、差動伝送用に限らず他の用途の信号線として用いられる場合もある。 【0014】 電力線からなる4本の電線15aは、並列にまとめられて2つの電力供給用の電線ユニット31として形成されている。また、信号線からなる2本の電線15bも、並列にまとめられて2つの通信用の電線ユニット32として形成されている。これらの4つの電線ユニット31,32が、保護チューブ13の周囲に縦添えされて収容されている。なお、電線ユニット31,32は、保護チューブ13の周囲における1/2から3/4程度の範囲に設けられるのが好ましい。」 エ 段落【0019】 「【0019】 各電線ユニット31,32は、厚さが略同一とされている。例えば、これらの電線ユニット31,32の厚さは、何れも0.7mm程度である。したがって、絶縁ケーブルから電線ユニット31,32を形成するには、それぞれ同一外径の電線15a,15bを用いるのが好ましい。電力供給用の電線ユニット31では、供給する電力量に応じて導体の断面積を増減させる必要がある。したがって、電力供給用の電線ユニット31では、通信用の電線ユニット32と厚さを統一させるため、信号線である電線15bと同一外径の電線15aの本数を増減させることにより、供給する電力量に対応させるとよい。」 オ 段落【0039】-【0040】 「【0039】 次に、上記実施形態の変形例に係る光電気複合ケーブルについて説明する。 図2に示す光電気複合ケーブル11Aでは、電力供給用の電線ユニット31が、通信用の電線ユニット32の電線15bよりも大径の2本の電力線からなる電線15aを備えている。この電線ユニット31は、断面視楕円形状に形成されており、信号線用の電線ユニット32よりも厚さが大きい。 【0040】 このような電線ユニット31を備えた光電気複合ケーブル11Aでは、保護チューブ13の外周面に、収容凹部33が長手方向に沿って形成されており、この収容凹部33に電線ユニット31の一部が収容されている。これにより、光電気複合ケーブル11Aの中心に対する電線ユニット31,32の周方向の位置が揃えられている。 なお、収容凹部33は、電線ユニット31の外形にあった形状とするのが好ましいが、電線ユニット31が収容可能であれば、電線ユニット31の外径と異なる形状であっても良い。」 甲第4号証(特開2012-9156号公報)には、次の記載がある。 カ 段落【0012】-【0013】 「【0012】 以下、本発明に係る光電気複合ケーブルの実施形態の例を、図面を参照して説明する。 図1に示すように、光電気複合ケーブル11は、最外層である外被20の内側に、光ファイバ心線(光ファイバ)12と複数本の電線15とを有する。光ファイバ心線12は、複数本設けられ、光電気複合ケーブル11の断面中央に配置された保護チューブ(チューブ)13内に収容されている。 【0013】 外被20の内側であって保護チューブ13の外側は、収容部14とされており、この収容部14には、例えば、複数本の電線15及び複数本の介在16が配置されている。電線15は、例えば、ツイストペアケーブル、同軸ケーブルあるいは絶縁ケーブルなどがあり、例えば、AWG(American Wire Gauge)の規格によるAWG20?46程度のケーブルである。また、本例では、4本の電線15のうち2本が信号線であり、2本が電力線である。また、収容部14の周囲には、押さえ巻き18、シールド層19及び外被20が順に設けられている。収容部14の厚さ(保護チューブ13の外周と押さえ巻き18の内周との距離)は、電線15及び介在16の外径と同等、またはそれより僅かに大きいことが好ましい。」 キ 段落【0019】 「【0019】 信号線としての電線15は、例えば、錫メッキが施された軟銅線または銅合金線からなる外径0.1mmの素線を7本撚り合わせた外径0.30mmの導体を有している。そして、この導体を厚さ0.14mmの絶縁性を有する外被によって覆うことにより、外径が0.58mmの電線15とされている。また、電力線としての電線15は、例えば、錫メッキが施された軟銅線または銅合金線からなる外径0.127mmの素線を7本撚り合わせた外径0.38mmの導体を有している。そして、この導体を厚さ0.1mmの絶縁性を有する外被によって覆うことにより、外径が0.58mmの電線15とされている。信号線と電力線が二本ずつ振り分けられている。電線15の外被の材料としては、信号線及び電力線の何れの場合も、耐熱性、耐薬品性、非粘着性、自己潤滑性などに優れたテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)樹脂を用いるのが好ましい。 ク まとめ 甲第2号証-甲第4号証の各記載から、光電気複合ケーブルにおいて、信号電線用の電線対を構成する「信号線」と、電源供給用の電線対を構成する「電源線」とから電線を構成することは、周知技術であると認められる。 (3) 甲第5号証 甲第5号証(特開2011-243318号公報)には、次の記載がある。 ア 段落【0014】 「【0014】 この光電気複合ケーブル11では、収容部14に収容された電線15及び抗張力線16が、保護チューブ13の周囲において、保護チューブ13を締め付けない程度に螺旋状に緩く撚られている。これにより、これらの電線15及び抗張力線16は、収容部14において、保護チューブ13の周方向に移動可能とされている。」 イ 段落【0018】 「【0018】 信号線からなる電線15は、例えば、錫メッキが施された軟銅線または銅合金線からなる外径0.1mmの素線を7本撚り合わせた外径0.30mmの導体を有している。そして、この導体を厚さ0.14mmの絶縁性を有する外被によって覆うことにより、外径が0.58mmの電線15とされている。また、電力線からなる電線15は、例えば、錫メッキが施された軟銅線または銅合金線からなる外径0.127mmの素線を7本撚り合わせた外径0.38mmの導体を有している。そして、この導体を厚さ0.1mmの絶縁性を有する外被によって覆うことにより、外径が0.58mmの電線15とされている。電線15の外被の材料としては、信号線及び電力線の何れの場合も、耐熱性、耐薬品性、非粘着性、自己潤滑性などに優れたポリテトラフルオロエチレン(PFA)樹脂を用いるのが好ましい。」 ウ 段落【0021】 「【0021】 このように構成された光電気複合ケーブル11が曲げられると、図2に示すように、光電気複合ケーブル11はその曲げ箇所において外被20が横断面で見て楕円形に変形し、断面外形が矢印A方向に潰れて扁平になる。すると、保護チューブ13の周囲に移動可能に配置された電線15は、外被20の変形に伴って矢印A方向に押されて、保護チューブ13の外周面を滑るように保護チューブ13の周方向及び楕円形の長径方向に移動する。また、電線15の移動に伴って抗張力線16も収容部14内を移動する。これらの電線15及び抗張力線16の移動により、電線15及び抗張力線16が保護チューブ13を押し潰すことが防がれる。よって、保護チューブ13内に収容された光ファイバ心線12に側圧が作用することを防ぎ、光ファイバ心線12の伝送損失の増加を防ぐことができる。このように、光電気複合ケーブル11は、小さい曲げ半径で曲げられたとしても、光ファイバ心線12に側圧がかかることを極力抑えて、良好な伝送特性を維持することができる。」 甲第5号証の上記記載から、光電気複合ケーブルが曲げられた際に、光ファイバへの側圧を防止するために、電源線を螺旋状に撚ることは、公知技術であると認められる。 4 判断 (1) 取消理由通知に記載した取消理由について ア 特許法第29条第1項第3号、同法第29条第2項について <本件発明1について> 本件発明1と甲1発明とを対比すると、次のことがいえる。 (ア) 甲1発明の「光ファイバ心線12」、光ファイバ心線12を収容し、ETFE樹脂等からなる「保護チューブ13」、「複数本の電線15」(大径の絶縁ケーブル15a、小径の絶縁ケーブル15b、一対の絶縁ケーブル15cとドレイン線15dとを有するツイストペアケーブル、あるいは、互いに撚り合わされた複数本の同軸ケーブル15e)、「最外層である外被20」は、それぞれ、本件発明1の「光ファイバ」、「前記光ファイバを収容する樹脂からなる内筒体」、「複数本の電線」、「前記複数本の電線を一括して被覆する筒状の外筒体」に相当する。 (イ) 甲1発明の「複数本の電線15」が、「外被20の内側であって保護チューブ13の外側は、収容部14とされており、この収容部14には、複数本の電線15が配置され」、「電線15としては、例えば、大径の絶縁ケーブル15a、小径の絶縁ケーブル15b、一対の絶縁ケーブル15cとドレイン線15dとを有するツイストペアケーブル、あるいは、互いに撚り合わされた複数本の同軸ケーブル15eなどがあり、絶縁ケーブルは、錫メッキが施された軟銅線または銅合金線からなる素線を7本撚り合わせた導体を外被によって覆ったものであ」ることは、本件発明1の「前記内筒体の外部に前記内筒体の周囲を覆うように前記内筒体の外周に沿って径方向に互いに重ならないように配置され、それぞれが中心導体を絶縁体で被覆して構成された複数本の電線」と、「前記内筒体の外部に前記内筒体の周囲を覆うように配置され、それぞれが中心導体を絶縁体で被覆して構成された複数本の電線」である点で共通するといえる。 (ウ) 甲1発明の「3本のツイストペアケーブル」は、本件発明1の「電線同士が対をなす電線対」すなわち「2本」の電線からなるグループと、「電線同士がグループをなす電線グループ」である点で共通するといえる。 甲1発明の「複数本の電線15」が、「互いに光電気複合ケーブル11の中央を中心に約120度の位置関係にあ」る「3本の前記ツイストペアケーブル」、及び、「それぞれ、互いに光電気複合ケーブル11の中央を中心に約120度の位置関係にある」、「3組(6本)の大径の絶縁ケーブル15a、3本の小径の絶縁ケーブル15b」を含むことは、本件発明1の「複数本の電線」は、「電線同士が対をなす電線対を複数含む」ことと、「複数本の電線」は、「電線同士がグループをなす電線グループを複数含む」点で共通するといえる。 (エ) 甲1発明の「3本の前記ツイストペアケーブルは、他の電線15a、15b、15eよりも、外径が大きく、かつ、互いに光電気複合ケーブル11の中央を中心に約120度の位置関係にあ」ることは、本件発明1の「複数の前記電線対のうち少なくとも1つの前記電線対は、当該少なくとも1つの前記電線対を構成する前記電線が、他の前記電線よりも外径が大きく、前記少なくとも1つの前記電線対を構成する前記電線は、前記内筒体を挟んで対向する位置に配置されて」いることと、「複数の前記電線グループのうち少なくとも1つの前記電線グループは、当該少なくとも1つの前記電線グループを構成する前記電線が、他の前記電線よりも外径が大きく、前記少なくとも1つの前記電線グループを構成する前記電線は、前記内筒体を挟んで対向する位置に配置されて」いる点で共通するといえる。 (オ) 甲1発明の「光電気複合ケーブル11」は、本件発明1の「光電気複合ケーブル」に相当する。 (カ) したがって、本件発明1と甲1発明との間には、次の一致点・相違点があるといえる。 [一致点] 「光ファイバと、 前記光ファイバを収容する樹脂からなる内筒体と、 前記内筒体の外部に前記内筒体の周囲を覆うように配置され、それぞれが中心導体を絶縁体で被覆して構成された複数本の電線と、 前記複数本の電線を一括して被覆する筒状の外筒体と、を備え、 前記複数本の電線は、前記電線同士がグループをなす電線グループを複数含み、 複数の前記電線グループのうち少なくとも1つの前記電線グループは、当該少なくとも1つの前記電線グループを構成する前記電線が、他の前記電線よりも外径が大きく、 前記少なくとも1つの前記電線グループを構成する前記電線は、前記内筒体を挟んで対向する位置に配置されている、 光電気複合ケーブル。」 [相違点1] 「複数本の電線」の配置と構成に関して、本件発明1では、「前記内筒体の外部に前記内筒体の周囲を覆うように前記内筒体の外周に沿って径方向に互いに重ならないように配置され、それぞれが中心導体を絶縁体で被覆して構成され」るのに対して、甲1発明では、「複数本の電線15」が、「内筒体の周囲を覆うように」配置されるものであるが、保護チューブ13(内筒体)の「外周に沿って径方向に重ならないように」配置されたものではない点。 [相違点2] 本件発明1では、「前記複数本の電線は、前記電線同士が対をなす電線対を複数含」むのに対して、甲1発明では、「複数本の電線」は、「3本の前記ツイストペアケーブル」、及び、「3組(6本)の大径の絶縁ケーブル15a、3本の小径の絶縁ケーブル15b」を含むものであって、電線同士が対をなす「電線対」を複数含むものではない点。 [相違点3] 「電線対を構成する電線」の外径に関して、本件発明1では、「前記少なくとも1つの前記電線対を構成する前記電線の外形をD_(2)とし、前記他の前記電線の外形をD_(1)としたとき、0.8×D_(2)≦D_(1)<D_(2)の関係を満たす」のに対して、甲1発明では、「3本の前記ツイストペアケーブルは、他の電線15a、15b、15eよりも、外径が大き」いものであるが、「3本の前記ツイストペアケーブル」の外径と、他の「3組(6本)の大径の絶縁ケーブル15a、3本の小径の絶縁ケーブル15b」などの外径との関係は規定されていない点。 (キ) 上記[相違点3]について検討する。 本件発明1は、明細書の段落【0005】-【0006】に、「ところで、長距離伝送用のケーブルとして光電気複合ケーブルを用いる場合や、大電力を供給すべく電源線に大電流を流すことが要求される場合には、電源線での伝送損失を抑えるために電源線の導体断面積を大きくする必要が生じる。このような場合、小電流で導体断面積を大きくする必要のない信号線の外径よりも電源線の外径が大きくなり、信号線と電源線とで外径が異なってしまう。このように電線の径が異なると、光電気複合ケーブル全体の断面形状に偏りが生じてしまうおそれがある。上述のようなチューブを用いた光電気複合ケーブルでは、断面形状が偏ると、外力が作用した際にチューブに負荷がかかりやすくなり、曲げなどの外力が加わった際にチューブが変形して光ファイバに側圧が作用し、マイクロベンディング(側圧が加わることによりコアの中心軸が僅かに曲がること)による光損失が大きくなったり光ファイバが断線したりしてしまうおそれがあり、十分な信頼性が確保できないという問題が生じる。…」と記載され、段落【0033】-【0035】に「……0.8×D_(2)≦D_(1)<D_(2)……を満たすことが望ましい。このように電線4の外径を設定することで、外径の大きな特定の電線4が常にチューブ3を押圧したり、外径の小さな電線4とチューブ3の外周面、または外筒体5の内周面との間に大きな隙間が空いてしまうことを抑制することができる。……上述の式(1)の関係を満たし、かつ、隣接する電線4が接触するように電線4を近接して配置することで、チューブ3が受ける荷重を、確実に、隣接する電線4同士の接触によって緩和し、チューブ3の変形を抑制することが可能になる。」と記載されるように、光電気複合ケーブルにおいて、電線の径が互いに異なる場合に生じる、内筒体(チューブ)内の光ファイバの光損失や断線を防ぐために、外径D_(2)の大きい電線に対して、他の電線の外径D_(1)を、0.8×D_(2)≦D_(1)<D_(2)とすること、すなわち、外径D_(2)に対する他の電線の外径D_(1)の比率を、80%以上100%未満の範囲とする([相違点3])、という事項を具備するものである。 一方、甲1発明は、電線の径が互いに異なるものではあるが、光電気複合ケーブルにおいて、電線の径が互いに異なる場合に生じる、内筒体(チューブ)内の光ファイバの光損失や断線を防ぐために、複数本の電線の外径の比率を所定の範囲内とする構成は、特定されておらず、示唆されていない。 甲第1号証の段落【0005】に「また、光電気複合ケーブルでは、曲げられた際に、外周に配置された電線から光ファイバが側圧を受けることがあり、この場合も伝送損失が増加するおそれがある」と記載され、段落【0027】に「また、保護チューブ13内において内周面に接するように保護チューブ13とテンションメンバ25で保持されているので、光ファイバ心線12への電線15等からの過剰な側圧の付与及び過剰な曲げや捻じれの発生を防止することができる。」と記載されるように、甲1発明は、光電気複合ケーブルにおける、電線から光ファイバへの側圧に対処するために、光ファイバ心線を、保護チューブ13とテンションメンバ25によって保持するという構成を採用したものである。 甲第2号証には、上記3(2)ア記載のとおり、複合ケーブルにおいて、「2本の電源線6は、信号線5と比べて太いメタルケーブルから構成され」ること、すなわち、「電源線6」の「メタルケーブル」すなわち「心線」の外径が、信号線の外径より太いことは記載があるが、そのような複数本の電線の外径の比率を所定の範囲内とする構成は、特定されておらず、示唆されていない。 甲第3号証には、上記3(2)ウ、エ記載のとおり(図1参照。)、「光電気複合ケーブルの実施形態」として、電力線15aと信号線15bについて「同一外径の電線15a,15bを用いるのが好ましい」旨は記載があるが、そのような複数本の電線の外径の比率を所定の範囲内とする構成は記載されていない。 また、甲第3号証には、上記3(2)オ記載のとおり(図2参照)、「上記実施形態の変形例」として、「保護チューブ13」の外周面に「収容凹部33」を形成することで、電線15bよりも大径の電線15aを収容することも記載されているが、複数本の電線の外径が互いに異なる場合に、外径の比率を所定の範囲内とすることは記載されておらず、示唆されてもいない。 甲第4号証には、上記3(2)キ記載のとおり、信号線の外径と、電力線の外径を、ともに0.58mmとして、互いに等しくすることは記載されているが、そのような複数本の電線の外径の比率を所定の範囲内とすることで互いに異ならせる構成は、特定されておらず、示唆されていない。 甲第4号証と同様に、甲第5号証にも、上記3(3)イ記載のとおり、信号線の外径と、電力線の外径を、ともに0.58mmとして、互いに等しくすることは記載されているが、そのような複数本の電線の外径の比率を所定の範囲内とすることで互いに異ならせる構成は、特定されておらず、示唆されていない。 以上から、甲第1-5号証のいずれにも、光電気複合ケーブルにおいて、電線の径が互いに異なる場合に生じる、内筒体(チューブ)内の光ファイバの光損失や断線を防ぐために、複数本の電線の外径の比率を所定の範囲内とするという、上記[相違点3]に係る構成は記載されておらず、示唆されてもいない。 よって、本件発明1は、甲1発明ではなく、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものではない。 そして、本件発明1は、当該構成によって、光電気複合ケーブルにおいて、電線の径が互いに異なることによって生じる、内筒体(チューブ)内の光ファイバの光損失や断線を防ぐという顕著な効果を奏するものであり、上記[相違点1]、[相違点2]について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲第2-5号証に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 <本件発明2-6について> 本件発明2-6は、本件発明1をさらに限定した発明であるから、本件発明1と同様の理由により、甲1発明及び甲第2-5号証に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。当業者が容易になし得るものではない。 イ 特許法第36条第6項第2号について (ア) 取消理由通知中の理由1(1)について 請求項1の「前記複数本の電線は、電線対を複数備え」との記載について、訂正により「前記複数本の電線は、前記電線同士が対をなす電線対を複数含み」と訂正されたため、「電線」が「電線対」を複数備える旨の記載が、「電線」同士が対をなして「電線対」が構成されているという技術的意味であることが明確になった。 (イ) 取消理由通知中の理由1(2)-(4)について 請求項1の「少なくとも1つの前記電線対を構成する前記電線が、他の前記電線よりも外径が大きく、かつ、前記内筒体を挟んで対向する位置に配置されている」との記載について、訂正により「複数の前記電線対のうち少なくとも1つの前記電線対は、当該少なくとも1つの前記電線対を構成する前記電線が、他の前記電線よりも外径が大きく、前記少なくとも1つの前記電線対を構成する前記電線は、前記内筒体を挟んで対向する位置に配置されており……(以下省略)」と訂正されたため、 「電線」が「電線対」を複数備える旨の記載が、「電線」同士が対をなして「電線対」が構成されているという技術的意味であることが明確になり(理由1(2)に対応。)、 「少なくとも1つの」が(「電線」ではなく)「電線対」に係ることが明確になり(理由1(3)に対応。)、 「対抗する位置に配置されている」ものが、「前記電線対を構成する前記電線」同士であることが明確になった(理由1(4)に対応。)。 (ウ) 取消理由通知中の理由1(5)について 請求項1を引用して記載した請求項2-6の記載についても、請求項1が訂正されたことによって、請求項1と同様の理由により、明確になった。 ウ 特許法第36条第6項第1号について 取消理由通知中の理由2について、請求項1の「前記複数本の電線は、電線対を複数備え」との記載について、訂正により「前記複数本の電線は、前記電線同士が対をなす電線対を複数含み」と訂正されたことによって、「電線対」とは、「電線」同士が対をなして構成されるものであることが明確になったので、請求項1の「電線対」は、発明の詳細な説明に記載されたものである。 (2) 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について ア 特許法第29条第2項について 特許異議申立人杉本トシ子は、特許異議申立書(「(6)本件特許発明を取り消すべき理由3(特許法第29条第2項)(甲第3号証を主引例とした場合)」、28ページ17行-37ページ5行)において、訂正前の特許請求の範囲の請求項1-6に係る発明は、甲第3号証に記載された発明、及び、甲第2、4、5号証に記載の技術事項に基づき容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない旨主張している。 しかし、上記(1)ア(キ)記載のとおり、甲第3号証、及び、甲第2、4、5号証のいずれにも、光電気複合ケーブルにおいて、電線の径が互いに異なる場合に生じる、内筒体(チューブ)内の光ファイバの光損失や断線を防ぐために、複数本の電線の外径の比率を所定の範囲内とするという、上記[相違点3]に係る構成は記載されておらず、示唆されてもいないから、本件発明1-6は、甲第3号証に記載された発明、及び、甲第2、4、5号証に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易になし得るものではなく、かかる主張は理由がない。 イ 特許法第36条第6項第1号について 特許異議申立人杉本トシ子は、特許異議申立書(「(7)本件特許発明を取り消すべき理由5(当審注:「理由4」の誤記と認める。)(特許法第36条第6項第1号)」、37ページ6行-38ページ末行)において、訂正前の特許請求の範囲の請求項1-6に係る発明では、「複数本の電線が径方向に重ならないように配置される」点が特定されていないことから、「光電気複合ケーブルの断面形状の偏りを抑え、外力が作用した際に光ファイバに作用する側圧を軽減する」課題を解決できない構成が包含されているために、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない旨を主張している。 しかし、特許請求の範囲の請求項1において、訂正前に「前記内筒体の外部に前記内筒体の周囲を覆うように配置された複数本の電線」と記載されていたものが、訂正後に「前記内筒体の外部に前記内筒体の周囲を覆うように前記内筒体の外周に沿って径方向に互いに重ならないように配置され、それぞれが中心導体を絶縁体で被覆して構成された複数本の電線」と訂正されることで、訂正後の請求項1-6において、「複数本の電線が径方向に重ならないように配置される」点が特定されたから、かかる主張は理由がない。 ウ 特許法第36条第4項第1号について 特許異議申立人杉本トシ子は、特許異議申立書(「(8)本件特許発明を取り消すべき理由6(当審注:「理由5」の誤記と認める。)(特許法第36条第4項第1号)」、39ページ1行-末行)において、訂正前の特許請求の範囲の請求項1-6に係る発明には、「複数本の電線が径方向に重なるように配置された光電気複合ケーブル」が含まれていることから、本件特許の明細書及び図面には、「複数本の電線が径方向に重なるように配置された光電気複合ケーブル」については、記載がないため、どのようにこれを実施するか当業者が理解できないから、本件出願は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない旨主張している。 しかし、特許請求の範囲の請求項1において、訂正前に「前記内筒体の外部に前記内筒体の周囲を覆うように配置された複数本の電線」と記載されていたものが、訂正後に「前記内筒体の外部に前記内筒体の周囲を覆うように前記内筒体の外周に沿って径方向に互いに重ならないように配置され、それぞれが中心導体を絶縁体で被覆して構成された複数本の電線」と訂正されることで、訂正後の請求項1-6には、「複数本の電線が径方向に重なるように配置された光電気複合ケーブル」は含まれないことが特定されたから、かかる主張は理由がない。 第4 むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1-6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1-6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 光電気複合ケーブル 【技術分野】 【0001】 本発明は、光ファイバと複数の電線とを有する光電気複合ケーブルに関するものである。 【背景技術】 【0002】 コンピュータなどの電子装置間の信号伝送等に用いるケーブルとして、光ファイバと複数の電線とを一括してシースで被覆した光電気複合ケーブルが知られている。 【0003】 特許文献1では、チューブ内に光ファイバを配置し、チューブの外周に沿うように複数本の電線を配置した光電気複合ケーブルが提案されている。チューブの外周に配置する電線としては、電源供給用の電源線と、信号伝送用の信号線が用いられる。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0004】 【特許文献1】特開2012-9156号公報 【特許文献2】特開2012-59495号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 ところで、長距離伝送用のケーブルとして光電気複合ケーブルを用いる場合や、大電力を供給すべく電源線に大電流を流すことが要求される場合には、電源線での伝送損失を抑えるために電源線の導体断面積を大きくする必要が生じる。このような場合、小電流で導体断面積を大きくする必要のない信号線の外径よりも電源線の外径が大きくなり、信号線と電源線とで外径が異なってしまう。このように電線の径が異なると、光電気複合ケーブル全体の断面形状に偏りが生じてしまうおそれがある。 【0006】 上述のようなチューブを用いた光電気複合ケーブルでは、断面形状が偏ると、外力が作用した際にチューブに負荷がかかりやすくなり、曲げなどの外力が加わった際にチューブが変形して光ファイバに側圧が作用し、マイクロベンディング(側圧が加わることによりコアの中心軸が僅かに曲がること)による光損失が大きくなったり光ファイバが断線したりしてしまうおそれがあり、十分な信頼性が確保できないという問題が生じる。また、光電気複合ケーブルの断面形状が偏ると、所望のレイアウトに配線しにくくなるという問題も生じる。 【0007】 本発明は上記事情に鑑み為されたものであり、信頼性が高く配線の容易な光電気複合ケーブルを提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、光ファイバと、前記光ファイバを収容する樹脂からなる内筒体と、前記内筒体の外部に前記内筒体の周囲を覆うように前記内筒体の外周に沿って径方向に互いに重ならないように配置され、それぞれが中心導体を絶縁体で被覆して構成された複数本の電線と、前記複数本の電線を一括して被覆する筒状の外筒体と、を備え、前記複数本の電線は、前記電線同士が対をなす電線対を複数含み、複数の前記電線対のうち少なくとも1つの前記電線対は、当該少なくとも1つの前記電線対を構成する前記電線が、他の前記電線よりも外径が大きく、前記少なくとも1つの前記電線対を構成する前記電線は、前記内筒体を挟んで対向する位置に配置されており、前記少なくとも1つの前記電線対を構成する前記電線の外径をD_(2)とし、前記他の前記電線の外径をD_(1)としたとき、0.8×D_(2)≦D_(1)<D_(2)の関係を満たす、ことを特徴とする光電気複合ケーブルである。 【0009】 前記複数本の電線は、信号伝送用の前記電線対を構成する信号線と、電源供給用の前記電線対を構成する電源線と、からなり、前記電源線は、前記信号線よりも外径が大きく、かつ、前記内筒体を挟んで対向する位置に配置されていてもよい。 【0010】 前記電源線は、給電線とグランド線とからなり、前記給電線と前記グランド線とが、前記内筒体を挟んで対向する位置に配置されていてもよい。 【0011】 前記給電線を複数備えると共に、前記グランド線を複数備えてもよい。 【0012】 前記複数本の電源線は、隣接して配置され、前記複数本のグランド線は、隣接して配置されてもよい。 【0013】 前記複数本の電線は、前記内筒体の外周面に沿って螺旋状に巻き付けられて前記内筒体と前記外筒体との間に介在し、前記外筒体の外周側から外力を受けることによって前記内筒体が受ける荷重は、隣接する前記電線同士の接触と前記内筒体に対する前記電線のすべりによって緩和されてもよい。 【発明の効果】 【0014】 本発明によれば、信頼性が高く配線の容易な光電気複合ケーブルを提供できる。 【図面の簡単な説明】 【0015】 【図1】本発明の一実施の形態に係る光電気複合ケーブルの横断面図である。 【図2】図1の光電気複合ケーブルの構造を示す斜視図である。 【図3】図1の光電気複合ケーブルに外力が付与されたときの横断面図である。 【図4】図1の光電気複合ケーブルに曲げが付与されたときの外筒体を省略した側面図である。 【図5】本発明において、屈曲試験を説明する図である。 【図6】本発明において、ケーブル側圧試験を説明する図である。 【発明を実施するための形態】 【0016】 以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。 【0017】 図1は、本実施の形態に係る光電気複合ケーブルの横断面図であり、図2は、その構造を示す斜視図である。 【0018】 図1および図2に示すように、光電気複合ケーブル1は、光ファイバ2と、光ファイバ2を収容する樹脂からなる内筒体としてのチューブ3と、チューブ3の外部にチューブ3の周囲を覆うように配置された複数本の電線4と、複数本の電線4を一括して被覆する筒状の外筒体5と、を備えている。 【0019】 ここでは、光ファイバ2を4本備える場合を記載しているが、光ファイバ2の本数はこれに限定されるものではなく、1本以上であればよい。光ファイバ2は、シングルモード光ファイバであってもよいし、マルチモード光ファイバであってもよい。 【0020】 光ファイバ2の周囲でかつチューブ3の内部には、アラミドやケブラー(登録商標)などからなる繊維束6が収容されている。繊維束6は、光電気複合ケーブル1の引張強度を高めるための補強部材であり、チューブ3の内部における空間の割合が35%以上となるように収容されることが望ましい。なお、繊維束6は必須ではなく、チューブ3や外筒体5により十分な引張強度が確保できる場合等には省略可能である。 【0021】 チューブ3は、フッ化エチレンプロピレン(FEP)、パーフルオロアルコキシ(PFA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、またはエチレン酢酸ビニル(EVA)からなる。チューブ3の弾性率は、0.3GPa以上4.0GPa以下であることが望ましい。これは、チューブ3の弾性率が0.3GPa未満であると光ファイバ2を十分に保護できず、4.0GPaを超えると屈曲性が低下するためである。 【0022】 複数本の電線4は、チューブ3と外筒体5間の環状の空間に収容されている。本実施の形態では、断面円形状の10本の電線4が、チューブ3の外周に沿って配置されている。複数本の電線4は、径方向に重ならないように配置される。詳細は後述するが、外力が加わった際にチューブ3に直接外力を伝えてしまわないように、電線4はできるだけ近接して配置されることが望ましい。 【0023】 外筒体5は、電線4を結束するための樹脂からなるテープ5aと、テープ5aの外周に形成された筒状の樹脂からなるシース5bと、からなる。テープ5aは、電線4の外面に接触して螺旋状に巻き回されている。テープ5aとしては、例えば、紙テープやポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製のテープなどを用いることができる。シース5bとしては、例えば、ポリエチレン(PE)やポリ塩化ビニル(PVC)などからなるものを用いることができる。なお、テープ5aとシース5bとの間に、多数の導体を編み合わせた編組や、樹脂からなるテープに導電性の金属膜を形成した導電性テープなどからなるシールド層を備えてもよい。 【0024】 さて、本実施の形態に係る光電気複合ケーブル1では、複数本の電線4は、信号伝送用または電源供給用の電線対を複数備え、少なくとも1つの電線対を構成する電線4が、他の電線4よりも外径が大きく、かつ、チューブ3を挟んで対向する位置に配置されている。 【0025】 つまり、光電気複合ケーブル1では、径の大きい電線4の対が、チューブ3を挟んで対向する位置に配置されている。このように構成することで、径の大きい電線4が分離して配置されることとなり、断面形状の偏りを抑制することが可能になる。 【0026】 複数本の電線4は、信号伝送用の電線対を構成する信号線7と、電源供給用の電線対を構成する電源線8と、からなる。また、電源線8は、給電線9とグランド線10とからなる。信号線7は、撚り線導体からなる中心導体7aを絶縁体7bで被覆して構成されている。電源線8、すなわち給電線9とグランド線10は、撚り線導体からなる中心導体8aを絶縁体8bで被覆して構成されている。なお、一部の電線4は、通電しないダミー線であってもよく、対で使用されない電線4が含まれていてもよい。 【0027】 本実施の形態では、電源線8が、信号線7よりも外径が大きく形成されており、この径の大きな電源線8が、チューブ3を挟んで対向する位置に配置されている。 【0028】 また、本実施の形態では、給電線9とグランド線10とが、チューブ3を挟んで対向する位置に配置されている。このように構成することで、給電線9とグランド線10を隣接して配置した場合と比較して、ケーブル端末における配線の取り回しが容易となり、基板等への実装を容易とすることが可能になる。 【0029】 ところで、長距離伝送用あるいは大電流を用いる場合等には、電源線8での伝送損失を抑えるために電源線8の中心導体8a断面積を大きくする必要がある。このような場合、電源線8の外径が大きくなりすぎ、断面形状の偏りが大きくなってしまうことが考えられる。 【0030】 そこで、本実施の形態では、給電線9を複数備えると共に、グランド線10を複数備え、これら複数の給電線9、複数のグランド線10を1つの電源ラインとして使用することで、大きな導体断面積を確保して電源ラインでの伝送損失を抑制するように構成した。給電線9やグランド線10を複数本で構成することで、電源ラインでの伝送損失を抑制しつつも、給電線9やグランド線10の径を信号線7に近づけて、光電気複合ケーブル1の断面形状を円形状に近づけることが可能となり、断面形状の偏りを抑制可能になると共に、光電気複合ケーブル1の細径化を図ることが可能になる。 【0031】 ここでは、給電線9とグランド線10をそれぞれ2本ずつ備える場合を示しているが、給電線9とグランド線10の本数はこれに限定されるものではない。端末での配線を容易とするため、複数本の給電線9は互いに隣接して配置され、複数本のグランド線10は互いに隣接して配置されることが望ましい。 【0032】 なお、給電線9とグランド線10の本数を増やすと、給電線9とグランド線10の外径をより小さくすることが可能となり、例えば信号線7としてシールド(外部導体)を備えたものを用いるような場合には、電源線8と信号線7の外径の大小が逆転する場合も考えられる。このような場合には、外径が大きい信号線7の対を、チューブ3を挟んで対向する位置に配置すればよい。 【0033】 また、最も細い電線4(ここでは信号線7)の外径をD_(1)、最も太い電線4(ここでは電源線8)の外径をD_(2)としたとき、下式(1) 0.8×D_(2)≦D_(1)<D_(2) ・・・(1) を満たすことが望ましい。このように電線4の外径を設定することで、外径の大きな特定の電線4が常にチューブ3を押圧したり、外径の小さな電線4とチューブ3の外周面、または外筒体5の内周面との間に大きな隙間が空いてしまうことを抑制することができる。 【0034】 図3に示すように、光電気複合ケーブル1では、外力が加わったとき、外力が加わった位置の外筒体5が変形し、一部の電線4が内方へ向かう押圧力を受ける。この押圧力を受けた電線4は、チューブ3に接触し、チューブ3からの反力を受けて楕円状に変形して隣接する電線4に接触する。電線4が密接して配置されている場合には、押圧力を受けた電線4が隣接する電線4に直接押しつけられる場合もある。この電線4同士の接触により、外筒体5からの押圧力の一部が吸収され、チューブ3が受ける荷重が緩和される。その結果、外力によるチューブ3の変形を抑制することが可能になる。 【0035】 このように、光電気複合ケーブル1では、内筒体であるチューブ3が受ける荷重を、隣接する電線4同士の接触によって緩和している。上述の式(1)の関係を満たし、かつ、隣接する電線4が接触するように電線4を近接して配置することで、チューブ3が受ける荷重を、確実に、隣接する電線4同士の接触によって緩和し、チューブ3の変形を抑制することが可能になる。 【0036】 なお、この効果を得るためには、電線4の本数は3本以上20本以下であることが望ましい。電線4の本数が1本または2本であると、電線4同士の接触によってチューブ3が受ける荷重を緩和することができず、20本を超えると、電線4同士の接触面における面圧が低くなり、電線4同士の接触により押圧力を吸収する効果が乏しくなるためである。 【0037】 また、電線4の外径の平均値をD_(A)、チューブ3の外径をD_(in)、外筒体5の内径をD_(out)としたとき、下式(2) (D_(out)-D_(in))/2×0.8≦D_(A)<(D_(out)-D_(in))/2 ・・・(2) を満たすことが望ましい。つまり、チューブ3と外筒体5間の距離の80%以上であるとよい。これにより、電線4同士の接触によってチューブ3が受ける荷重を緩和する効果をより確実に得ることができる。なお、チューブ3の外径D_(in)および外筒体5の内径D_(out)は、チューブ3や外筒体5が変形することなく断面形状が円形状となっている場合の寸法である。 【0038】 また、光電気複合ケーブル1では、複数の電線4は、チューブ3の外周面に沿って螺旋状に巻き付けられてチューブ3と外筒体5との間に介在している。つまり、複数の電線4の中心軸は、光電気複合ケーブル1の中心軸と平行な方向(ケーブル長手方向)に対して傾斜している。複数の電線4の螺旋巻きのピッチ(任意の電線4がチューブ3の周囲を1周する間のケーブル長手方向に沿った距離)は、例えば5mm以上150mm以下であることが望ましい。 【0039】 複数の電線4が螺旋状に配置されていることにより、電線4がチューブ3と平行に配置されている場合と比較して、光電気複合ケーブル1の屈曲性を高めると共に、光電気複合ケーブル1が曲げられたときに光ファイバ2が側圧を受けることを抑制することが可能になる。 【0040】 つまり、複数の電線4がチューブ3と平行に配置されている場合には、曲げられた部分の外側にあたる電線4に張力が発生して屈曲しづらくなると共に、その張力によってチューブ3が押圧される。また、曲げられた部分の内側にあたる電線4には、この電線4を軸方向に圧縮する圧縮力が作用して光電気複合ケーブル1の屈曲を妨げると共に、この圧縮力によって電線4に外方に膨らむ撓みが生じ、チューブ3が押圧される。このように、チューブ3は、曲げられた部分における内側および外側から押圧されることとなり、屈曲半径が小さい場合には、光ファイバ2に側圧が作用する。 【0041】 一方、本実施の形態では、図4に示すように、複数の電線4が螺旋状に配置されているので、光電気複合ケーブル1が曲げられた部分の外側または内側の全体(螺旋巻きのピッチよりも長い範囲)にわたって、特定の電線4が配置されることがない。つまり、光電気複合ケーブル1では、それぞれの電線4がチューブ3よりも外側または内側に存在する範囲は、螺旋巻きのピッチの半分以下の範囲に限られる。そのため、チューブ3よりも外側の部分における張力と内側の部分における圧縮力が相殺され、電線4がチューブ3を押圧する力が弱くなると共に、光電気複合ケーブル1の屈曲性が高まる。なお、図4では外筒体5を省略して示している。 【0042】 また、光電気複合ケーブル1では、外力が作用して曲げが加えられた際に、チューブ3に対して電線4がケーブル長手方向にすべる。このチューブ3と電線4間のすべりにより、曲げが加わった際にチューブ3が電線4から受ける力を抑制し、チューブ3の変形を抑制して、光ファイバ2への側圧を低減することが可能になる。つまり、光電気複合ケーブル1では、外筒体5の外周側から外力を受けることによってチューブ3が受ける荷重が、チューブ3に対する電線4のすべりによって緩和されている。 【0043】 絶縁体7b、8bとしては、チューブ3に対してすべりのよい材料を用いることが望ましく、フッ化エチレンプロピレン(FEP)、パーフルオロアルコキシ(PFA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、またはポリエチレン(PE)からなるものを用いるとよい。これらの材料を用いることで、光電気複合ケーブル1の屈曲時に電線4が効率よく動けるようになり、曲げが加わった際に光ファイバ2に作用する側圧を低減することが可能になる。また、チューブ3と電線4間のすべりを十分に確保することで、製造時のチューブ3のねじれや変形を防ぐことも可能になる。なお、絶縁体7b、8bとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、またはポリフェニレンサルファイド(PPS)等からなるものを用いることも可能である。 【0044】 また、チューブ3の厚さtは、下式(3) t≧D_(in)×0.2 ・・・(3) を満たすことが望ましい。つまり、チューブ3の厚さtは、外径D_(in)の5分の1以上であるとよい。このようにチューブ3を形成することにより、チューブ3の強度が確保されて外力による変形が抑制され、光ファイバ2に作用する側圧を低減することができる。 【0045】 さらに、光ファイバ2の外径をd、チューブ3の内径をDとすると、下式(4) d×4<D ・・・(4) を満たすことが望ましい。これは、チューブ3の内部で4本の光ファイバ2が直線状に並んだ場合でもチューブ3との間に隙間を確保し、チューブ3が窪むように変形したような場合であっても、その押圧力が直接光ファイバ2に側圧として作用することを防ぐためである。 【0046】 また、チューブ3の内部の光ファイバ2および繊維束6が存在しない空間の割合(空間割合という)は、チューブ3の内部空間全体の35%以上であることが望ましい。より詳細には、チューブ3の内部空間における4本の光ファイバ2の体積の割合(占積率)は、2%以上25%以下であるとよい。また、チューブ3の内部空間における繊維束6の体積の割合(占積率)は、2%以上50%以下であるとよい。この場合、空間割合は96%以下(繊維束6を収容しない場合は98%以下)となる。 【0047】 このように空間割合を設定することで、外力によってチューブ3が変形した場合でも、この変形によって光ファイバ2が側圧を受けることが抑制される。つまり、外力によってチューブ3が押し潰されるように変形した場合、この変形は光ファイバ2および繊維束6が存在しない空間が狭くなることによって吸収され、チューブ3に作用する押圧力が直接的に光ファイバ2に側圧として作用することが抑制される。 【0048】 図1の光電気複合ケーブル1を試作し、図5に示すような屈曲試験装置51を用い、屈曲半径Rを37mmとして光電気複合ケーブル1を左右に90度ずつ曲げることを繰り返す屈曲試験を行った。目標100サイクルとして屈曲試験を行ったところ、目標を大きく上回る500サイクルの屈曲を加えた場合であっても、光ファイバ2の断線等の異常は発生せず、屈曲に対する耐性が高く十分な信頼性が得られていることを確認できた。 【0049】 また、図6に示すように、試験台61に載置された光電気複合ケーブル1に、側圧試験治具62により鉛直方向上方から下方に荷重を加え、光ファイバ2への入力光量に対する出力光量の差異を調べるケーブル側圧試験を行った。ここでは、側圧試験治具62と光電気複合ケーブル1の接触面積を100mm^(2)(50mm×2mm)、側圧試験治具62により付与する荷重を1000N(10N/mm^(2))とした。これは、体重100kgの人が26cmサイズの靴の最狭部分で光電気複合ケーブル1を踏んだ場合を想定している。 【0050】 ケーブル側圧試験の結果、入力光量に対する出力光量の差異は0.1dB以下(測定器の誤差範囲内)であり、入出力間で光量変化がほぼ無いことが確認された。つまり、光電気複合ケーブル1では、体重100kg程度の人に踏まれた場合であっても、光ファイバ2のマイクロベンディングによる光損失がほとんど無いことが確認された。 【0051】 本実施の形態の作用を説明する。 【0052】 本実施の形態に係る光電気複合ケーブル1では、少なくとも1つの電線対を構成する電線4が、他の電線4よりも外径が大きく、かつ、内筒体であるチューブ3を挟んで対向する位置に配置されている。 【0053】 このように構成することで、外径の大きい電線4を分離して配置し、断面形状の偏りを抑制することが可能になる。その結果、チューブ3に負荷がかかることを抑制し、曲げなどの外力が加わった際に光ファイバ2のマイクロベンディングによる光損失が増大してしまうことや、光ファイバ2が断線してしまうことを抑制し、信頼性を向上させることが可能になる。また、断面形状の偏りを抑制することで、所望のレイアウトに配線し易くなる。 【0054】 また、光電気複合ケーブル1では、複数本の電線4は、内筒体であるチューブ3の外周面に沿って螺旋状に巻き付けられてチューブ3と外筒体5との間に介在している。 【0055】 このように構成することで、屈曲性の低下を抑制しながら光ファイバ2のマイクロベンディングによる光損失を低減することが可能になる。 【0056】 本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得ることは勿論である。 【0057】 例えば、上記実施の形態では、2本の給電線9と2本のグランド線10を対向配置する場合を説明したが、これに限らず、例えば1本の給電線と1本のグランド線10を隣接配置し、これら2本の電源線8を対向配置する、といった配置なども可能である。 【符号の説明】 【0058】 1 光電気複合ケーブル 2 光ファイバ 3 チューブ(内筒体) 4 電線 5 外筒体 6 繊維束 7 信号線 8 電源線 9 給電線 10 グランド線 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 光ファイバと、 前記光ファイバを収容する樹脂からなる内筒体と、 前記内筒体の外部に前記内筒体の周囲を覆うように前記内筒体の外周に沿って径方向に互いに重ならないように配置され、それぞれが中心導体を絶縁体で被覆して構成された複数本の電線と、 前記複数本の電線を一括して被覆する筒状の外筒体と、を備え、 前記複数本の電線は、前記電線同士が対をなす電線対を複数含み、 複数の前記電線対のうち少なくとも1つの前記電線対は、当該少なくとも1つの前記電線対を構成する前記電線が、他の前記電線よりも外径が大きく、 前記少なくとも1つの前記電線対を構成する前記電線は、前記内筒体を挟んで対向する位置に配置されており、 前記少なくとも1つの前記電線対を構成する前記電線の外径をD_(2)とし、前記他の前記電線の外径をD_(1)としたとき、0.8×D_(2)≦D_(1)<D_(2)の関係を満たす、 ことを特徴とする光電気複合ケーブル。 【請求項2】 前記複数本の電線は、信号伝送用の前記電線対を構成する信号線と、電源供給用の前記電線対を構成する電源線と、からなり、 前記電源線は、前記信号線よりも外径が大きく、かつ、前記内筒体を挟んで対向する位置に配置されている 請求項1記載の光電気複合ケーブル。 【請求項3】 前記電源線は、給電線とグランド線とからなり、 前記給電線と前記グランド線とが、前記内筒体を挟んで対向する位置に配置されている 請求項2記載の光電気複合ケーブル。 【請求項4】 前記給電線を複数備えると共に、前記グランド線を複数備えた 請求項3記載の光電気複合ケーブル。 【請求項5】 前記複数本の給電線は、隣接して配置され、 前記複数本のグランド線は、隣接して配置される 請求項4記載の光電気複合ケーブル。 【請求項6】 前記複数本の電線は、前記内筒体の外周面に沿って螺旋状に巻き付けられて前記内筒体と前記外筒体との間に介在し、 前記外筒体の外周側から外力を受けることによって前記内筒体が受ける荷重は、隣接する前記電線同士の接触と前記内筒体に対する前記電線のすべりによって緩和される 請求項1?5いずれかに記載の光電気複合ケーブル。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-11-16 |
出願番号 | 特願2013-92405(P2013-92405) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YAA
(H01B)
P 1 651・ 121- YAA (H01B) P 1 651・ 537- YAA (H01B) P 1 651・ 853- YAA (H01B) P 1 651・ 536- YAA (H01B) P 1 651・ 851- YAA (H01B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 和田 財太 |
特許庁審判長 |
和田 志郎 |
特許庁審判官 |
山田 正文 稲葉 和生 |
登録日 | 2016-10-07 |
登録番号 | 特許第6015542号(P6015542) |
権利者 | 日立金属株式会社 |
発明の名称 | 光電気複合ケーブル |
代理人 | 特許業務法人平田国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人平田国際特許事務所 |