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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
管理番号 1336162
異議申立番号 異議2017-700252  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-02-23 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-03-10 
確定日 2017-12-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5992765号発明「コーヒー香味料、その製造法及びその利用」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5992765号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?5〕、6について訂正することを認める。 特許第5992765号の請求項1?6に係る特許を維持する。  
理由 1.手続の経緯
特許第5992765号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成24年8月20日に特許出願され、平成28年8月26日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人により特許異議の申立てがされ、平成29年5月16日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年7月14日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人から平成29年8月23日付けで意見書が提出されたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のア、イのとおりである。
ア 請求項1に「コーヒー豆を乾留し、」とあるのを「コーヒー豆を、空気が流入しない条件下で乾留し、」に訂正する。
イ 請求項6に「コーヒー豆を乾留し、」とあるのを「コーヒー豆を、空気が流入しない条件下で乾留し、」に訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記アの訂正事項は、乾留に係る条件を限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件特許明細書には「工程(a)は、コーヒー豆を乾留し、コーヒーの香味成分を含むガスを発生させる工程である。・・・この乾留は、一般には空気が流入しない条件下で行うことが好ましく、・・・」(【0016】)と記載されていることから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
同様に、上記イの訂正事項も、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?5〕、6について訂正を認める。

3.特許異議の申立てについて
(1)本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明6」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
下記の工程(a)?(c)
(a)コーヒー豆を、空気が流入しない条件下で乾留し、ガスを発生させる工程、
(b)工程(a)で発生したガスの温度を下げ、その一部を液化させ、除去する工程、
(c)工程(b)で液化しなかった画分を温度の低い溶媒で回収する工程、
を含む方法によって製造されるコーヒー香味料。
【請求項2】
工程(b)におけるガスの温度が、40?100℃である請求項1記載のコーヒー香味料。
【請求項3】
工程(c)における溶媒の温度が、-20?30℃である請求項1または請求項2記載のコーヒー香味料。
【請求項4】
請求項1?3のいずれか1項に記載のコーヒー香味料を添加したことを特徴とする香料組成物。
【請求項5】
請求項1?3のいずれか1項に記載のコーヒー香味料または請求項4に記載の香料組成物を添加したことを特徴とする飲食品。
【請求項6】
下記の工程(a)?(c)
(a)コーヒー豆を、空気が流入しない条件下で乾留し、ガスを発生させる工程、
(b)工程(a)で発生したガスの温度を下げ、その一部を液化させ、除去する工程、
(c)工程(b)で液化しなかった画分を温度の低い溶媒で回収する工程、
を含むコーヒー香味料の製造方法。」

(2)取消理由の概要
訂正前の請求項1?6に係る特許に対して平成29年5月16日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は次のとおりである。なお、当該取消理由は、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由を全て含んでいる。

ア 本件発明1?6は、引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
イ 本件発明1?6は、引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用例>
引用例1:米国特許第2156212号明細書(甲第1号証)
引用例2:特開2000-333635号公報(甲第2号証)

(3)引用例の記載
引用例1には、以下の事項が記載されている(当審訳を示す。)。
「本発明は、コーヒーの焙煎中に放出される有用な芳香成分を回収する改善された方法および改善されたコーヒー製品に関する。」(1頁左欄1-4行)
「一般的な焙煎作業では、例えば、グリーン・コーヒー豆(コーヒー生豆)が電気ロースターに導入され、加熱される。豆は、局所加熱を避けるために撹拌される。数分後、蒸気が豆から流出し始める。」(1頁右欄21-26行)
「その後放散される蒸気は凝縮器に通され、そこで50?69℃以下に冷却され、大部分の水は凝縮される。相当量の芳香性物質が水と凝縮されるが、この物質は望ましくなく、不快である。」(2頁左欄52-58行)
「グリーン・コーヒー豆(コーヒー生豆)がロースター1に導入され、加熱が開始される。放出された蒸気を処理装置を通じて前方へ運ぶため、空気流がロースターの導入口2から導入される。」(2頁左欄75行-同右欄4行)
「しかし、臨界点に到達し、豆がパチパチ音をたててはじけ、望ましいコーヒー価値を高い比率で有する蒸気が大量に放出されたときには、蒸気および空気は、パイプ5を介して50?60℃に維持された間接凝縮器6に送られ、そこで水の大部分および望ましくない成分の大部分が凝縮され、受け器7内に除去される。」(2頁右欄8-15行)
「次いで、蒸気は吸収器11を上方に通って、蒸気と空気から芳香コーヒーの成分を効果的に吸収する冷たい濃縮コーヒー抽出物の微細スプレーに接触する。」(2頁右欄23-28行)
「もちろん、窒素のようなガスを用いれば、オゾンは生成せず、その除去の問題は生じない。」(2頁右欄40-41行)
「冷たいコーヒー濃縮物中に適切に精製され選択されたローストガスまたは蒸気を注入することによって製造された製品は、風味のあるアイスクリーム、炭酸コーヒー飲料などのコーヒー抽出物が望まれる用途に非常に有用である。」(3頁左欄3-9行)

以上によれば、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「適切に精製され選択されたローストガスまたは蒸気を冷たいコーヒー濃縮物に注入することによって製造される製品であって、
コーヒー生豆が電気ロースターに導入されて加熱され、蒸気が豆から流出し始め、
蒸気および空気は、パイプ5を介して50?60℃に維持された間接凝縮器6に送られ、そこで水の大部分および望ましくない成分の大部分が凝縮され、受け器7内に除去され、
その後、蒸気は吸収器11を上方に通って、芳香コーヒー成分を効果的に吸収する冷たい濃縮コーヒー抽出物の微細スプレーに接触する
ことにより製造される製品。」

(4)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)対比
引用発明の「製品」は、本件発明1の「コーヒー香味料」に相当する。
引用発明の「コーヒー生豆が電気ロースターに導入されて加熱され、蒸気が豆から流出し始め」る工程と、本件発明1の「(a)コーヒー豆を、空気が流入しない条件下で乾留し、ガスを発生させる工程」とは、「(a)コーヒー豆を加熱し、ガスを発生させる工程」の点で共通する。
引用発明の「蒸気および空気は、パイプ5を介して50?60℃に維持された間接凝縮器6に送られ、そこで水の大部分および望ましくない成分の大部分が凝縮され、受け器7内に除去され」る工程は、本件発明1の「(b)工程(a)で発生したガスの温度を下げ、その一部を液化させ、除去する工程」に相当する。
引用発明の「その後、蒸気は吸収器11を上方に通って、芳香コーヒー成分を効果的に吸収する冷たい濃縮コーヒー抽出物の微細スプレーに接触する」工程は、芳香コーヒー成分を濃縮コーヒー抽出物で回収する工程といえるから、本件発明1の「(c)工程(b)で液化しなかった画分を温度の低い溶媒で回収する工程」に相当する。
よって、本件発明1と引用発明との一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
下記の工程(a)?(c)
(a)コーヒー豆を加熱し、ガスを発生させる工程、
(b)工程(a)で発生したガスの温度を下げ、その一部を液化させ、除去する工程、
(c)工程(b)で液化しなかった画分を温度の低い溶媒で回収する工程、
を含む方法によって製造されるコーヒー香味料。

[相違点1]
工程(a)の加熱について、本件発明1は、「空気が流入しない条件下で乾留」するものであるのに対し、引用発明は、「電気ロースターに導入されて加熱」するものである点。

(イ)判断
一般に「乾留」とは、「空気を遮断して固体有機物を加熱分解し、揮発分を冷却・回収する操作」(株式会社岩波書店 広辞苑第六版)を意味するところ、訂正により本件発明1について「空気が流入しない条件下で」乾留することが特定されたから、本件発明1における「乾留」は、上記一般的な意味のものと解される。
これに対し、引用例1には、ロースター内に空気あるいは窒素のようなガスを導入しながら加熱することが記載されているから、引用発明の加熱は、上記「乾留」に該当するものとはいえず、相違点1は実質的な相違点というべきである。
また、引用例2には、コーヒー豆を空気を遮断して乾留することが記載されている(【0015】、【0023】)ものの、引用例1には、上記のとおり、空気あるいは窒素のようなガスを導入しながら加熱することが記載される一方、これらのガスを導入せずに加熱することを示唆する記載はない。
そして、引用例2のように空気を遮断して乾留する場合と、引用例1のように空気あるいは窒素のようなガスを導入しながら加熱する場合とで、コーヒー豆から発生するガスが同じであるとはいえないから、引用発明1の加熱に、引用例2に示される乾留を適用する動機付けは認められない。
よって、引用例2に記載された技術事項を考慮しても、引用発明において相違点1に係る本件発明1の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
したがって、本件発明1は、引用発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、引用発明及び引用例2に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないともいえない。

イ 本件発明2?6について
本件発明2?5は、本件発明1を更に減縮したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、引用発明であるとはいえず、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
また、引用例1には、引用発明の製造方法に係る発明が記載されていると認められるところ、本件発明6と上記引用発明の製造方法に係る発明との相違点は、上記相違点1と同じであるから、本件発明6は、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、引用例1に記載された発明であるとはいえず、引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
したがって、本件発明2?6は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないともいえない。

4.むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由によっては、請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程(a)?(c)
(a)コーヒー豆を、空気が流入しない条件下で乾留し、ガスを発生させる工程、
(b)工程(a)で発生したガスの温度を下げ、その一部を液化させ、除去する工程、
(c)工程(b)で液化しなかった画分を温度の低い溶媒で回収する工程、
を含む方法によって製造されるコーヒー香味料。
【請求項2】
工程(b)におけるガスの温度が、40?100℃である請求項1記載のコーヒー香味料。
【請求項3】
工程(c)における溶媒の温度が、-20?30℃である請求項1または請求項2記載のコーヒー香味料。
【請求項4】
請求項1?3のいずれか1項に記載のコーヒー香味料を添加したことを特徴とする香料組成物。
【請求項5】
請求項1?3のいずれか1項に記載のコーヒー香味料または請求項4に記載の香料組成物を添加したことを特徴とする飲食品。
【請求項6】
下記の工程(a)?(c)
(a)コーヒー豆を、空気が流入しない条件下で乾留し、ガスを発生させる工程、
(b)工程(a)で発生したガスの温度を下げ、その一部を液化させ、除去する工程、
(c)工程(b)で液化しなかった画分を温度の低い溶媒で回収する工程、
を含むコーヒー香味料の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-11-28 
出願番号 特願2012-181460(P2012-181460)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A23L)
P 1 651・ 113- YAA (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 福間 信子  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 山崎 勝司
紀本 孝
登録日 2016-08-26 
登録番号 特許第5992765号(P5992765)
権利者 高田香料株式会社
発明の名称 コーヒー香味料、その製造法及びその利用  
代理人 特許業務法人小野国際特許事務所  
代理人 特許業務法人 小野国際特許事務所  

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