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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 A61K 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A61K 審判 全部申し立て 2項進歩性 A61K 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 A61K |
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管理番号 | 1336170 |
異議申立番号 | 異議2017-700420 |
総通号数 | 218 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-02-23 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-04-26 |
確定日 | 2017-12-08 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6016465号発明「ビタミンA類を含有する水性組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6016465号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?5〕〔6〕〔7〕〔8〕について訂正することを認める。 特許第6016465号の請求項1?2、4?5、6、7、8に係る特許を維持する。 特許第6016465号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
理由 1.手続の経緯 特許第6016465号の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成24年6月12日に特許出願され、平成28年10月7日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、平成29年4月26日付けで特許異議申立人 荒井 健之 により特許異議の申立てがされ、平成29年6月30日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年8月31日付けで意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人 荒井 健之 から平成29年10月20日付けで意見書が提出されたものである。 2.訂正の適否についての判断 (1)訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は以下の1-ア?1-カ、2-ア?2-イ、3-ア?3-イ、4-ア?4-イのとおりである。 1-ア 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1における「ビタミンA類」を「パルミチン酸レチノール」に訂正する。 1-イ 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1における「(B)ロウ類、炭化水素類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種の油分」を「(B)ロウ類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種の油分」に訂正する。 1-ウ 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項1における「水性組成物(但し、洗口剤を除く。)」を「眼科用又は鼻腔用組成物である、水性組成物(但し、洗口剤を除く。)」に訂正する。 1-エ 訂正事項4 特許請求の範囲の請求項3を削除する。 1-オ 訂正事項5 特許請求の範囲の請求項4における「請求項1?3のいずれか一項に記載の水性組成物」を「請求項1又は2に記載の水性組成物」に訂正する。 1-カ 訂正事項6 特許請求の範囲の請求項5における「請求項1?4のいずれか一項に記載の水性組成物」を「請求項1?2及び4のいずれか一項に記載の水性組成物」に訂正する。 2-ア 訂正事項7 特許請求の範囲の請求項6における「ビタミンA類」を「パルミチン酸レチノール」に訂正する。 2-イ 訂正事項8 特許請求の範囲の請求項6における「(B)ロウ類、炭化水素類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種の油分」を「(B)ロウ類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種の油分」に訂正する。 3-ア 訂正事項9 特許請求の範囲の請求項7における「ビタミンA類」を「パルミチン酸レチノール」に訂正する。 3-イ 訂正事項10 特許請求の範囲の請求項7における「(B)ロウ類、炭化水素類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種の油分」を「(B)ロウ類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種の油分」に訂正する。 4-ア 訂正事項11 特許請求の範囲の請求項8における「脂溶性ビタミン」を「(A)5000?50000単位/100mLのパルミチン酸レチノール」に訂正する。 4-イ 訂正事項12 特許請求の範囲の請求項8における「(B)ロウ類、炭化水素類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種の油分」を「(B)ロウ類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種の油分」に訂正する。 (2)一群の請求項、訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び新規事項の有無 ア 一群の請求項について 訂正事項1-ア?訂正事項1-カに係る訂正は、いずれも、訂正前の請求項1?5について訂正するものであるところ、請求項2は請求項1を、請求項3?5は請求項1及びその前に記載されたいずれかの請求項を、それぞれ引用している関係にあるから、訂正前の請求項1?5は、訂正前において一群の請求項に該当するものである。したがって、訂正事項1-ア?訂正事項1-カに係る訂正は、一群の請求項ごとにされたものである。 訂正事項2-ア?訂正事項2-イは訂正前の請求項6について訂正するものであり、訂正事項3-ア?訂正事項3-イは訂正前の請求項7について訂正するものであり、訂正事項4-ア?訂正事項4-イは訂正前の請求項8について訂正するものであるから、訂正事項2-ア?訂正事項2-イ、訂正事項3-ア?訂正事項3-イ、訂正事項4-ア?訂正事項4-イは、それぞれ、一群の請求項ごとにされたものである。 イ 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び新規事項の有無 訂正事項1-ア、訂正事項2-ア及び訂正事項3-アに関連する記載として、明細書の発明の詳細な説明に「「ビタミンA類」としては、レチノール、レチナール、レチノイン酸、及びこれらの薬理学的に許容される塩又は誘導体が挙げられる。より具体的には、レチノール、レチナール、レチノイン酸、パルミチン酸レチノール(レチノールパルミチン酸エステル)、酢酸レチノール(レチノール酢酸エステル)などが挙げられるが、これらに限定されない。これらの中でも、パルミチン酸レチノール、酢酸レチノールが好ましい。」(段落【0025】)と記載されていることから、「ビタミンA類」として「パルミチン酸レチノール」を用いる発明は明細書に記載されているものと認められる。 訂正事項1-ア、訂正事項2-ア、訂正事項3-アは、明細書に記載された事項の範囲内において、訂正前の請求項1、請求項6、請求項7における「ビタミンA類」を限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 訂正事項1-イ、訂正事項2-イ、訂正事項3-イ及び訂正事項4-イは、訂正前の請求項1、請求項6、請求項7、請求項8における成分(B)の選択肢から「炭化水素類」を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 訂正事項1-ウに関連する記載として、明細書の発明の詳細な説明に「また、本発明の水性組成物は、医薬品や医薬部外品等の製剤として使用でき、例えば、眼科用組成物、鼻腔用組成物、経口用組成物、点耳用組成物、皮下投与用組成物、皮膚外用組成物等の様々な用途で使用することができる。」(段落【0057】)と記載されていることから、「水性組成物」が「眼科用又は鼻腔用組成物」である発明は明細書に記載されているものと認められる。 訂正事項1-ウは、明細書に記載された事項の範囲内において、訂正前の請求項1における「水性組成物(但し、洗口剤を除く。)」を限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 訂正事項1-エは、訂正前の請求項3を削除するものであり、訂正事項1-オ、訂正事項1-カは、それに伴い、請求項5又は請求項6が引用する請求項から請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 訂正事項4-アに関連する記載として、明細書の発明の詳細な説明に「脂溶性ビタミンとしては、例えば、ビタミンA類及びビタミンE類が挙げられる。ビタミンA類とは、ビタミンA(即ち、レチノール)及びその誘導体(例えば、レチノールの各種異性体及びエステル類等)を指す。具体的には、ビタミンA類として、レチノール、パルミチン酸レチノール、酢酸レチノール、酪酸レチノール、プロピオン酸レチノール、オクチル酸レチノール、ラウリル酸レチノール、オレイン酸レチノール、リノレン酸レチノール、レチナール、レチノイン酸、レチノイン酸メチル、レチノイン酸エチル、レチノイン酸レチノール、ビタミンA脂肪酸エステル、δ-トコフェリルレチノエート、α-トコフェリルレチノエート及びβ-トコフェリルレチノエートなどが挙げられるが、これらに限定されない。」(段落【0069】)及び「脂溶性ビタミンの配合量は、例えば、ビタミンA類を用いる場合には、水性組成物100mLあたり、好ましくは5000?50000単位であり、より好ましくは10000?50000単位であり、更に好ましくは25000?50000単位である。」(段落【0071】)と記載されていることから、「脂溶性ビタミン」として「(A)5000?50000単位/100mLのパルミチン酸レチノール」を用いる発明は明細書に記載されているものと認められる。 訂正事項4-アは、明細書に記載された事項の範囲内において、訂正前の請求項8における「脂溶性ビタミン」を限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)小括 したがって、上記訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?5〕〔6〕〔7〕〔8〕について訂正を認める。 3.特許異議の申立てについて (1)本件発明 本件訂正請求による訂正後の請求項1?8に係る発明(以下、請求項順に「本件発明1」、「本件発明2」、……、「本件発明8」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 (A)5000?50000単位/100mLのパルミチン酸レチノールと、 (B)ロウ類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種の油分と、 (C)脂溶性抗酸化剤と、 (D)非イオン界面活性剤と、 を含有し、かつ 水を75質量%以上含有し、眼科用又は鼻腔用組成物である、水性組成物(但し、洗口剤を除く。)。 【請求項2】 (E)キレート剤を含有する、請求項1に記載の水性組成物。 【請求項3】(削除) 【請求項4】 緩衝剤を含有する、請求項1又は2に記載の水性組成物。 【請求項5】 pHが5?9である、請求項1?2及び4のいずれか一項に記載の水性組成物。 【請求項6】 (A)5000?50000単位/100mLのパルミチン酸レチノール、(B)ロウ類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種の油分、(C)脂溶性抗酸化剤、及び(D)非イオン界面活性剤を含む、蒸発抑制剤。 【請求項7】 (A)5000?50000単位/100mLのパルミチン酸レチノール、(B)ロウ類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種の油分、(C)脂溶性抗酸化剤、及び(D)非イオン界面活性剤を含有する水性組成物からなる 潤い保持剤。 【請求項8】 (B)ロウ類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種の油分と(D)非イオン界面活性剤とを含む水性組成物に、(A)5000?50000単位/100mLのパルミチン酸レチノールを配合する、前記水性組成物の澄明化方法。」 (2)取消理由の概要 訂正前の請求項1?8に係る特許に対して平成29年6月30日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 ア 本件特許の請求項1?2、4?5に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物1:特開2006-306729号公報に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 イ 本件特許の請求項1?2、4?5に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物3:特開2009-155326号公報に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 ウ 本件特許の請求項1?2、4?5に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物1:特開2006-306729号公報に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 エ 本件特許の請求項1?5に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物2:特開2008- 94839号公報に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 オ 本件特許の請求項1?2、4?5に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物3:特開2009-155326号公報に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 カ 本件特許の請求項8に係る発明は、明細書の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 キ 本件特許の請求項1?8に係る発明は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 (3)刊行物の記載 ア 刊行物1:特開2006-306729号公報(特許異議申立人 荒井 健之 により提出された甲第1号証)の記載 刊行物1には、以下の記載がある。 1-ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 (a)イソステアリン酸を全油分中1.0?80.0質量%含む油分を0.01?1.0質量%と、 (b)ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸、ポリオキシアルキレンステロールエーテルリン酸、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル酢酸から選ばれる1種又は2種以上のアニオン性界面活性剤を0.05?5.0質量%とを含み、 全油分に対するアニオン性界面活性剤の配合量が70質量%以上であることを特徴とする透明化粧水。 【請求項2】 前記(b)アニオン性界面活性剤として、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸を含有することを特徴とする請求項1記載の透明化粧水。 【請求項3】 油分中に、油溶性薬剤及び/又は香料を含有することを特徴とする請求項1に記載の透明化粧水。 【請求項4】 さらに、ノニオン性界面活性剤を含有することを特徴とする請求項1に記載の透明化粧水。 【請求項5】 さらに、塩基性物質を含有することを特徴とする請求項1に記載の透明化粧水。 【請求項6】 L値が98?100であることを特徴とする請求項1に記載の透明化粧水。」 1-イ 「【背景技術】 【0002】 近年、油分を微粒子化した外観上透明である化粧料が、肌に優しい感じを与え、また、嗜好にあった使用感触と肌改善効果を幅広く実現できることから好まれるようになってきており、スキンケア製品のみならず、ボディケア製品にも幅広く用いられるようになってきている。 しかしながら、例えば、油分や油溶性薬剤を超微粒子化することによって、皮膚へのより高い浸透性と肌改善効果が期待される化粧料において、経時安定性に優れ、簡便に製造でき、透明性が極めて高い透明化粧料は技術的に困難であった。」 1-ウ 「【課題を解決するための手段】 【0006】 すなわち本発明は、(a)イソステアリン酸を全油分中1.0?80.0質量%含む油分を0.01?1.0質量%と、 (b)ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸、ポリオキシアルキレンステロールエーテルリン酸、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル酢酸から選ばれる1種又は2種以上のアニオン性界面活性剤を0.05?5.0質量%とを含み、 全油分に対するアニオン性界面活性剤の配合量が70質量%以上であることを特徴とする透明化粧水である。」 1-エ 「【0009】 以下に、本発明の最良の実施の形態について説明する。 (a)油分 本発明の透明化粧水に用いる油分としては、油分全量に対して、イソステアリン酸が1.0?80.0質量%含有される。さらに好ましくは、5.0?70.0質量%である。1.0質量%未満では希望する透明性が得られないか、得られても輸送による振動や使用時の振とうにより透明性の変化が大きくて安定性に欠け、80.0質量%を越えると良好な半透明性または透明性を得ることが難しい。」 1-オ 「【0011】 本発明の透明な化粧水に用いるその他の油分は化粧料に配合できるものであれば特に制限されず、天然物由来のものでも合成のものでもよく、液体でも固体でもよい。例えば、アボガド油、ツバキ油、タートル油、マカデミアナッツ油、トウモロコシ油、ミンク油、オリーブ油、ナタネ油、卵黄油、ゴマ油、パーシック油、小麦胚芽油、サザンカ油、ヒマシ油、アマニ油、サフラワー油、綿実油、エノ油、大豆油、落花生油、茶実油、カヤ油、コメヌカ油、シナギリ油、日本キリ油、ホホバ油、胚芽油、トリイソオクタン酸グリセリン、トリイソパルミチン酸グリセリン、イソパルミチン酸オクチル、イソステアリン酸イソプロピル、イソステアリン酸イソステアリル、イソステアリン酸イソセチル、イソステアリン酸ヘキシル、イソステアリン酸ミリスチル、オクタン酸イソセチル、イソオクタン酸セチル、オクタン酸イソステアリル、イソノナン酸イソデシル、ジメチルオクタン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸オレイル、エルカ酸イソステアリル、ステアリン酸イソセチル、ステアリン酸オクチル、パルミチン酸イソステアリル、パルミチン酸イソセチル、パルミチン酸オクチル、ミリスチン酸イソステアリル、ミリスチン酸イソセチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸デシル、パルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、セバシン酸ジオクチル、12-ステアロイルオキシステアリン酸オクチルドデシル、ステアロイルグルタミン酸ジオクチルドデシル、アジピン酸ジオクチル、リンゴ酸ジイソステアリル、メトキシケイ皮酸オクチル、乳酸オクチルドデシル、乳酸イソステアリル、パラジメチルアミノ安息香酸オクチル、流動パラフィン、スクワラン、イソパラフィン、α-オレフィンオリゴマー、ポリブテン、揮発性環状シリコーン、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルシリコーン、オレイルアルコール、2-オクチルドデカノール等の液体油脂;カカオ脂、ヤシ油、馬脂、硬化ヤシ油、パーム油、牛脂、羊脂、硬化牛脂、パーム核油、豚脂、牛骨脂、モクロウ核油、硬化油、牛脚脂、モクロウ、硬化ヒマシ油、ミツロウ、キャンデリラロウ、綿ロウ、カルナウバロウ、ベイベリーロウ、イボタロウ、鯨ロウ、モンタンロウ、ヌカロウ、ラノリン、カポックロウ、酢酸ラノリン、液状ラノリン、サトウキビロウ、ラノリン脂肪酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、還元ラノリン、ジョジョバロウ、硬質ラノリン、セラックロウ、コレステロール、フィトステロール、マイクロクリスタリンワックス、ベヘニルアルコール、ステアリルアルコール、セチルアルコール、バチルアルコール、ベヘニン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸等の固体油脂及びロウが挙げられる。これらは一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。」(下線は、当審による。) 1-カ 「【0012】 これらの油分のうち、従来透明化が困難であった流動パラフィン、スクワラン、α-オレフィンオリゴマー、イソパラフィン、ポリブテンなどの炭化水素油やジメチルポリシロキサンを単独または組み合わせて、あるいは、他の油分と組み合わせることにより安定性が良好で使用感触に優れた透明な化粧料を得ることができる。」 1-キ 「【0042】 実施例8 次の表3に記載した処方で透明化粧水を調製し、上記した方法で評価した。その結果を併せて表3に示す。 【0043】 【表3】 」 記載1-キによれば、刊行物1には以下の発明(以下「引用発明1」ともいう。)が記載されていると認められる。 (引用発明1) 「イオン交換水81.17(=80.97+0.2)質量%、エタノール10.0質量%、グリセリン2.0質量%、トレハロース3.0質量%、L-アスコルビン酸2-グリコシド2.0質量%、メタリン酸ナトリウム0.05質量%、クエン酸0.02質量%、クエン酸ナトリウム0.08質量%、メチルパラベン0.1質量%、及び苛性カリ0.39質量%、並びに、1,3-ブチレングリコール0.5質量%、ジPOE(8)(C12-15)アルキルエーテルリン酸0.3質量%、POE(60)硬化ヒマシ油0.1質量%、POE(9)メチルポリシロキサン共重合体0.05質量%、N-メチルタウリンナトリウム0.01質量%、α-オレフィンオリゴマー0.1質量%、イソステアリン酸0.1質量%、パルミチン酸レチノール0.01質量%、酢酸トコフェロール0.01質量%、及び香料0.01質量%を含有する、透明化粧水」 イ 刊行物2:特開2008- 94839号公報(特許異議申立人 荒井 健之 により提出された甲第2号証)の記載 刊行物2には、以下の記載がある。 2-ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 (a)ビタミンA類、(b)眼科用剤中0.005?0.15w/v%の配合量の、37.8℃における粘度が90mm^(2)/s未満の流動パラフィン、及び、(c)非イオン界面活性剤、を配合したことを特徴とする眼科用剤。 【請求項2】 ビタミンA類がパルミチン酸レチノールである請求項1記載の眼科用剤。 【請求項3】 非イオン界面活性剤がポリオキシエチレン硬化ヒマシ油である請求項1記載の眼科用剤。」 2-イ 「【0002】 ……。なお、特許文献7にはビタミンA類と流動パラフィンを配合した処方が開示されているが、流動パラフィンの配合量は1?4%が良いとされている。しかし、この配合量では乳化型とすることが必須であり、外観が白濁した液剤となってしまう。また、乳化型とすれば安定性は良いものの、外観が澄明な可溶化型とすると安定性が悪い旨が記載されている。」 2-ウ 「【0004】 本発明の目的は、ビタミンA類を安定に配合し、かつ、外観が澄明な眼科用剤を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0005】 本発明者らは、かかる課題を解決するために鋭意研究した結果、ビタミンA類と共に特定の流動パラフィンを特定の割合で配合することにより、ビタミンA類が安定化し、かつ外観が澄明となることを見出し、本発明を完成した。 【0006】 すなわち本発明は (1)(a)ビタミンA類、(b)眼科用剤中0.005?0.15w/v%の配合量の、37.8℃における粘度が90mm2/s未満の流動パラフィン、及び、(c)非イオン界面活性剤、を配合したことを特徴とする眼科用剤、 (2)ビタミンA類がパルミチン酸レチノールである(1)記載の眼科用剤、 (3)非イオン界面活性剤がポリオキシエチレン硬化ヒマシ油である(1)記載の眼科用剤、 である。」 2-エ 「【0009】 ビタミンA類の配合量は眼科用剤中0.005?0.05w/v%が好ましい。ビタミンA類の配合量が少ないと薬効が不十分であり、配合量が多いと澄明な外観の維持が困難になるからである。」 2-オ 「【実施例5】 【0023】 精製水(85mL)にポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60を0.5g、パルミチン酸レチノール0.037g、酢酸d-αトコフェロール0.05g、メチル硫酸ネオスチグミン0.005g、アミノエチルスルホン酸1.0g、アスパラギン酸カリウム1.0g、硫酸亜鉛0.25g、l-メントール0.015g、dl-カンフル0.010g、ゲラニオール0.005g、クロロブタノール0.08g、ジブチルヒドロキシトルエン0.005g,エデト酸二ナトリウム0.06g、流動パラフィン(ハイコールM-202)0.06g、ホウ酸0.5g、ホウシャ0.035g、クエン酸0.010g、クエン酸ナトリウム0.100g及び塩化ベンザルコニウム0.010gを溶解させ、全量を100mLとした。その後ろ過滅菌を行い、無菌の点眼剤とした。外観は澄明であった。」 2-カ 「【0028】 【表1】 」 記載2-オによれば、刊行物2には以下の発明(以下「引用発明2」ともいう。)が記載されていると認められる。 (引用発明2) 「精製水85mLにポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60を0.5g、パルミチン酸レチノール0.037g、酢酸d-αトコフェロール0.05g、メチル硫酸ネオスチグミン0.005g、アミノエチルスルホン酸1.0g、アスパラギン酸カリウム1.0g、硫酸亜鉛0.25g、l-メントール0.015g、dl-カンフル0.010g、ゲラニオール0.005g、クロロブタノール0.08g、ジブチルヒドロキシトルエン0.005g,エデト酸二ナトリウム0.06g、流動パラフィン(ハイコールM-202)0.06g、ホウ酸0.5g、ホウシャ0.035g、クエン酸0.010g、クエン酸ナトリウム0.100g及び塩化ベンザルコニウム0.010gを溶解させ、全量を100mLとした点眼剤」 ウ 刊行物3:特開2009-155326号公報(特許異議申立人 荒井 健之 により提出された甲第3号証)の記載 刊行物3には、以下の記載がある。 3-ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 油溶性薬剤含有ワックス微細分散組成物を含む皮膚外用剤であって、前記油溶性薬剤含有ワックス微細分散組成物が、固体?半固体のワックスと、非イオン界面活性剤と、水系分散媒と、油溶性薬剤を含有し、非イオン界面活性剤/ワックスの質量比が1.0以上であり、ワックスが油溶性薬剤を内包して固体?半固体状で水系分散媒中に微細分散してなるものである、上記皮膚外用剤。 【請求項2】 油溶性薬剤が、ビタミンAおよびその誘導体、ビタミンB2誘導体、ビタミンB6誘導体、ビタミンDおよびその誘導体、ビタミンEおよびその誘導体、必須脂肪酸、ユビキノンおよびその誘導体、ビタミンK類、レゾルシン誘導体、グリチルレチン酸およびその誘導体、油溶性のビタミンC誘導体、ステロイド化合物、ニコチン酸ベンジル、トリクロロカルバニリド、トリクロロヒドロキシジフェニルエーテル、グリチルレチン酸ステアリル、γ-オリザノール、並びにジブチルヒドロキシトルエンの中から選ばれる1種また2種以上である、請求項1記載の皮膚外用剤。 【請求項3】 油溶性薬剤含有ワックス微細分散組成物中における全非イオン界面活性剤の加重平均したHLBが10?15である、請求項1または2記載の皮膚外用剤。 【請求項4】 非イオン界面活性剤として、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレングリセリルエーテル脂肪酸エステル類、並びにポリオキシエチレンヒマシ油またはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油およびその誘導体の中から選ばれる1種または2種以上を含む、請求項1?3のいずれか1項に記載の皮膚外用剤物。 【請求項5】 非イオン界面活性剤として、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類および/またはポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類と、ポリオキシエチレングリセリルエーテル脂肪酸エステル類とを含む、請求項1?4のいずれか1項に記載の皮膚外用剤。 【請求項6】 ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類が下記式(I)および/または下記式(II)で表される化合物の中から選ばれる1種または2種以上である、請求項5または6記載の皮膚外用剤。 〔式(I)、(II)中、Rは炭素原子数12?24のアルキル基またはアルケニル基を表し、mは5?30の数を表し、nは0?5の数を表す。〕 【請求項7】 油溶性薬剤含有ワックス微細分散組成物が、常温で固体?半固体のワックスと、非イオン界面活性剤と、水系分散媒と、油溶性薬剤を含有し、非イオン界面活性剤/ワックスの質量比が1.0以上である系を、ワックスの融点以上、可溶化温度範囲に加温して可溶化状態を経た後、常温に冷却して得られたものである、請求項1?6のいずれか1項に記載の皮膚外用剤。」 3-イ 「【0022】 〈ワックス〉 本発明で用いられるワックスは、常温で固体?半固体の性状をなし、具体例として、ミツロウ、キャンデリラロウ、綿ロウ、カルナウバロウ、ベイベリーロウ、イボタロウ、鯨ロウ、モンタンロウ、ヌカロウ、ラノリン、カポックロウ、モウロウ、酢酸ラノリン、液状ラノリン、サトウキビロウ、ラノリン脂肪酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、還元ラノリン、ジョショバロウ、硬質ラノリン、セラックロウ、ビーズワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、POEラノリンアルコールエーテル、POEラノリンアルコールアセテート、POEコレステロールエーテル、ラノリン脂肪酸ポリエチレングリコール、脂肪酸グリセリド、硬化ヒマシ油、ワセリン、POE水素添加ラノリンアルコールエーテル等が挙げられる。ただしこれら例示に限定されるものでない。 【0023】 なお、これらのワックスは混合して用いることが可能であり、他の固形状あるいは液状油分などを混合しても常温において固体?半固体状である範囲で使用可能である。」 3-ウ 「【0071】 [実施例10?11: 油溶性薬剤(レチノール)の残存率] 下記表7に示す組成の試料を調製し、50℃、2か月間保存した後の、油溶性薬剤(レチノール)の残存率を下記方法により測定した。結果を表7に示す。 【0072】 (レチノール残存率測定法) 実施例10、11の各試料0.5gずつ精密に量り、それぞれキシレン5mLを加え、水浴上で加熱した後、分散し、ジブチルヒドロキシトルエンのアセトン溶液(0.5%)30mLを加え、さらに約80℃に加熱した後、常温まで放冷し、グリチルリチン酸ステアリル内標準溶液(=グリチルリチン酸ステアリル約2gを精密に量り、アセトンを加えて溶かし、正確に3000mLとした溶液)5mLをそれぞれ正確に量って加えて混合した。この混合液2μLずつを採って試験溶液とし、内標準物質のピーク面積に対するレチノールのピーク面積比と求め、あらかじめ作成した検量線から質量比を求め、下記数2に示す式を用いてレチノールの量(IU/g)を求めた。 【0073】 [数2] レチノールの量(IU/g)=(検量線から求めた質量比×内標準溶液5mL中のグリチルリチン酸ステアリルの量(mg)×定量用レチノールの国際単位(IU/g))/(本品の採取量(g)×1000) 【0074】 <試験条件> 検出器:紫外吸光光度計(測定波長:0?10分:280nm、10分以降254nm) カラム:内径3.0mm,長さ50mmのステンレス管にシリコーン樹脂で被覆処理した後オクタデシル基を化学結合させた3μmのシリカゲルを充填した。 カラム温度:40℃付近の一定温度 移動相A:水 移動相B:メタノール 移動相の送液:移動相AおよびBの混合比を次のように変えて濃度勾配制御した。 注入後0?5分間: 移動相A 15→0、移動相B 85→100 注入後5分間経過以降: 移動相A 0、移動相B 100 なお流量は、注入後0?5分間は毎分0.4mL付近の一定量、5分間経過後は毎分0.6mL付近の一定量とした。 【0075】 <検量線の作成> 定量用レチノール約0.1gを精密に量り、ジブチルヒドロキシトルエンのアセトン溶液(1→200)を加えて溶かし、正確に200mLとした。この液0.1mL、0.25mL、0.5mLおよび1mLを各々正確に採り、それぞれにグリチルリチン酸ステアリル内標準溶液5mLずつを正確に加え、ジブチルヒドロキシトルエンのアセトン溶液(1→200)を加えて40mLとし、検量線用標準溶液とした。検量線用標準溶液5μLを採り、上記試験条件で試験を行い、得られたクロマトグラムのピーク面積比(レチノール/内標準物質)を横軸に、質量比(レチノール/内標準物質)を縦軸にとり検量線を作成した。 【0076】 【表7】 【0077】 表7の結果から明らかなように、非イオン性界面活性剤として、POE(20)ベヘニルーテルとPOE(20)グリセリルエーテルイソステアリン酸エステルとを併用した場合、50℃で2か月間保存した後でも、油溶性薬剤(レチノール)の配合量が0.01質量%、0.1質量%のいずれの場合も良好な残存率を示した。」 記載3-ウによれば、刊行物3には以下の発明(以下「引用発明3」ともいう。)が記載されていると認められる。 (引用発明3) 「ジプロピレングリコール5質量%、1,3-ブチレングリコール7質量%、POE(20)ベヘニルエーテル1.8質量%、POE(20)グリセリルエーテルイソステアリン酸エステル1質量%、カルナバワックス1.5質量%、レチノール0.01質量%、クエン酸0.01質量%、クエン酸ナトリウム0.09質量%、EDTA・3Na・2H_(2)O0.02質量%、トコフェロール0.05質量%、ジブチルヒドロキシトルエン0.05質量%、フェノキシエタノール0.5質量%、イオン交換水残部 の組成を有する皮膚外用剤」 4.判断 (1)取消理由通知に記載した取消理由について ア 前記3.(2)アについて 刊行物1の記載1-オから「α-オレフィンオリゴマー」及び「イソステアリン酸」は「油分」といえること、「透明化粧水」が「水性組成物」であることは明らかであることから、本件発明1?2、4?5と引用発明1とを対比すると、引用発明1は、「水性組成物」が「透明化粧水」であり、「油分」が「α-オレフィンオリゴマー」及び「イソステアリン酸」である一方、本件発明1?2、4?5は、「水性組成物」が「眼科用又は鼻腔用組成物」であり、「油分」が「ロウ類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種」である点で相違する。 したがって、本件発明1?2、4?5は、引用発明1ではない。 イ 前記3.(2)イについて 本件発明1?2、4?5と引用発明3を対比すると、引用発明3は、「水性組成物」が「皮膚外用剤」である一方、本件発明1?2、4?5は、「水性組成物」が「眼科用又は鼻腔用組成物」の発明である点で相違する。また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しても、本件発明1?2、4?5が実質的に「皮膚外用剤」になり得るとも認められない。 したがって、本件発明1?2、4?5は、引用発明3ではない。 ウ 前記3.(2)ウについて 本件発明1?2、4?5と引用発明1を対比すると、上記アに示したとおり、引用発明1は、「水性組成物」が「透明化粧水」であり、「油分」が「α-オレフィンオリゴマー」及び「イソステアリン酸」である一方、本件発明1?2、4?5は、「水性組成物」が「眼科用又は鼻腔用組成物」であり、「油分」が「ロウ類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種」である点で相違する。 「眼科用又は鼻腔用組成物」は「透明化粧水」とは、技術的な共通性を有しない異なる技術分野に属するものであるから、引用発明1の「透明化粧水」を「眼科用又は鼻腔用組成物」に転用することは、当業者が容易に想到し得ないことと認められる。 また、刊行物1の記載1-ア?記載1-エ及び記載1-カから、引用発明1は、従来透明化が困難であった流動パラフィン、スクワラン、α-オレフィンオリゴマー、イソパラフィン、ポリブテンなどの炭化水素油やジメチルポリシロキサンを、イソステアリン酸と所定量配合することによって、透明化するというものであるので、引用発明1における「α-オレフィンオリゴマー」及び「イソステアリン酸」を「ロウ類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種」に置換することは、当業者が容易に想到し得ないことと認められる。 また、本件発明1?2、4?5のパルミチン酸レチノール残存率が高いという効果は、刊行物1の記載からは当業者が予想し得ないものである。 よって、本件発明1?2、4?5は、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ 前記3.(2)エについて 本件発明1?2、4?5と引用発明2を対比すると、まず、引用発明2における「パルミチン酸レチノール」の含有量0.037g/100mLは、ビタミンA効力単位に換算すると62900単位/100mlであって、本件発明1?2、4?5における「5000?50000単位/100mLのビタミンA類」と相違する。 さらに、引用発明2は「(B)ロウ類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種の油分」を含有しないのに対し、本件発明1?2、4?5は「(B)ロウ類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種の油分」を含有する点でも、相違する。 そして、引用発明2は、前記記載2-イに示された背景技術の下、前記記載2-ウに記されるように「ビタミンA類を安定に配合し、かつ、外観が澄明な眼科用剤を提供すること」を課題として、前記記載2-エに記されるように「ビタミンA類と共に特定の流動パラフィンを特定の割合で配合することにより、ビタミンA類が安定化し、かつ外観が澄明となることを見出し」て完成された発明である。 前記記載2-カから、流動パラフィンの粘度又は配合量の変化によって組成物が白濁することがあると当業者は理解でき、「(B)ロウ類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種の油分」を更に加えた場合には白濁する可能性があることも当業者は理解するから、「ビタミンA類を安定に配合し、かつ、外観が澄明な眼科用剤を提供すること」という課題をすでに達成できている引用発明2に対し、白濁する可能性を冒して、あえて「(B)ロウ類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種の油分」を更に加えることは、当業者が容易に想到し得ないことと認められる。 また、本件発明1?2、4?5の、パルミチン酸レチノールの安定性並びに澄明性及び蒸散抑制効果に優れるという効果は、「(B)ロウ類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種の油分」を更に加えた場合には白濁する可能性があることを示唆する刊行物2の記載からは、当業者が予想し得ないものである。 よって、本件発明1?2、4?5は、引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 オ 前記3.(2)オについて 本件発明1?2、4?5と引用発明3を対比すると、上記(イ)に示したとおり、引用発明3は「皮膚外用剤」の発明である一方、本件発明1?2、4?5は「眼科用又は鼻腔用組成物」の発明である点で相違する。 「眼科用又は鼻腔用組成物」は「皮膚外用剤」とは、技術的な共通性を有しない異なる技術分野に属するものであるから、引用発明1の「皮膚外用剤」を「眼科用又は鼻腔用組成物」に転用することは、当業者が容易に想到し得ないことと認められる。 また、本件発明1?2、4?5の「眼科用又は鼻腔用組成物」としての効果は、「皮膚外用剤」についての刊行物3の記載からは当業者が予想し得ないものである。 よって、本件発明1?2、4?5は、引用発明3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 カ 前記3.(2)カについて 本件発明8は「(B)ロウ類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種の油分と(D)非イオン界面活性剤とを含む水性組成物に、(A)5000?50000単位/100mLのパルミチン酸レチノールを配合する、前記水性組成物の澄明化方法。」であるから、実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が、「(B)ロウ類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種の油分と(D)非イオン界面活性剤とを含む水性組成物」に「(A)5000?50000単位/100mLのパルミチン酸レチノール」を配合することにより、当該水性組成物を「澄明化」することができることを理解する程度のものでなければならないと解される。 そして、本件明細書の発明の詳細な説明には、 「(B)成分である精製ラノリン及び(D)成分であるポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60を配合した比較例2の処方に比べて、更にパルミチン酸レチノールを配合した参考例1の処方は、600nmの光透過率が高く、澄明性が向上していることが分かる。すなわち、脂溶性ビタミンであるパルミチン酸レチノールの配合により(B)成分及び(D)成分により生じた白濁を澄明化することができる。」(段落【0083】)とされる試験例3についての記載(段落【0081】?段落【0083】)があり、「(B)ロウ類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種の油分と(D)非イオン界面活性剤とを含む水性組成物」における(B)成分として「精製ラノリン」を用いた水性組成物に「50000単位/100mLのパルミチン酸レチノール」を配合することにより、当該水性組成物を「澄明化」することができることが示されている。 また、本件明細書の発明の詳細な説明には、各成分の混合順序は異なるものの、「(B)ロウ類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種の油分」、「(D)非イオン界面活性剤」及び(B)成分として「精製ラノリン」並びに「5000単位?50000単位/100mLのパルミチン酸レチノール」を含有する水性組成物の澄明性が優れていることも、試験例5についての記載(段落【0087】?【0089)に示されている。 また、本件発明8において、(B)成分の選択肢に挙げられる「ロウ類」、「エステル油」、「植物油」はいずれも、脂肪酸とアルコールのエステルであるか、当該エステルを含むものである。 ここで、本件明細書の発明の詳細な説明には、 「本発明において水性組成物中のビタミンA類の安定性が向上する理由は必ずしも明らかではないが、本発明者らは、以下のように推察している。すなわち、(A)成分及び(B)成分を含む水性組成物に(D)成分を配合すると、(A)成分と(B)成分との結合体が(D)成分により形成されたミセルのパリセード層内に取り込まれた複合体を形成する。このとき、複合体中では(A)成分がミセルの内側に、(B)成分がミセルの外側に位置するようにパリセード層内で配向する。すると、水性組成物中の溶存酸素等のビタミンA類を変性させる物質は、(A)成分と反応し難くなる。その結果、水性組成物中のビタミンA類の安定性がより一層向上すると考えられる。ただし、上記はあくまで推察であり、水性組成物中のビタミンA類の安定性のメカニズムを限定するものではない。」(段落【0050】)との記載があって、水性組成物中において、(A)成分と(B)成分との結合体が(D)成分により形成されたミセルのパリセード層内に取り込まれた複合体を形成するとの推察が記載されている。 上記の本件明細書の発明の詳細な説明における、試験例3についての記載及び試験例5についての記載とともに、推察ではあるものの、水性組成物中において(A)成分と(B)成分との結合体が(D)成分により形成されたミセルのパリセード層内に取り込まれた複合体を形成するとの記載に接した当業者は、精製ラノリンと構造上の類似点を有する「(B)ロウ類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種の油分」と「(D)非イオン界面活性剤」とを含む水性組成物に「(A)5000?50000単位/100mLのパルミチン酸レチノール」を配合することにより、当該水性組成物を「澄明化」することができると理解する。 よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明8の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。 キ 前記3.(2)キについて 特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるとされる。 本件発明1?2、4?8の課題は、請求項1?2、4?8の記載及び明細書の発明の詳細な説明(特に、段落0007?段落0009)の記載から、「ビタミンA類であるパルミチン酸レチノールの安定性に優れ、かつ、澄明性及び蒸散抑制効果に優れた水性組成物」を提供すること、「ビタミンA類であるパルミチン酸レチノールの安定化剤」を提供すること、及び「水性組成物中のビタミンA類であるパルミチン酸レチノールの安定化方法」を提供すること、であると認められる。 そして、本件明細書の発明の詳細な説明には、 「パルミチン酸レチノール」、「(B)ロウ類、エステル油及び植物油から選択される少なくとも1種の油分」として「精製ラノリン」、「(C)脂溶性抗酸化剤」として「酢酸-d-α-トコフェロール」又は「ジブチルヒドロキシトルエン」、「(D)非イオン界面活性剤」として「ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60」、「(E)キレート剤」として「エデト酸ナトリウム」、「緩衝剤」として「ホウ酸」及び「ホウ砂」を、それぞれ用いた、「ビタミンA類の安定性評価」のための試験例1(段落【0075】?段落【0077】)及び試験例2(段落【0078】?段落【0080】)、「澄明性評価」のための試験例3(段落【0081】?段落【0083】)及び試験例4(段落【0084】?段落【0086】)、並びに「澄明性評価及び蒸散抑制評価」のための試験例5(段落【0087】?段落【0089】)が記載されている。 ここで、本件明細書の発明の詳細な説明には、 「本発明において水性組成物中のビタミンA類の安定性が向上する理由は必ずしも明らかではないが、本発明者らは、以下のように推察している。すなわち、(A)成分及び(B)成分を含む水性組成物に(D)成分を配合すると、(A)成分と(B)成分との結合体が(D)成分により形成されたミセルのパリセード層内に取り込まれた複合体を形成する。このとき、複合体中では(A)成分がミセルの内側に、(B)成分がミセルの外側に位置するようにパリセード層内で配向する。すると、水性組成物中の溶存酸素等のビタミンA類を変性させる物質は、(A)成分と反応し難くなる。その結果、水性組成物中のビタミンA類の安定性がより一層向上すると考えられる。ただし、上記はあくまで推察であり、水性組成物中のビタミンA類の安定性のメカニズムを限定するものではない。」(段落【0050】)との記載があって、水性組成物中において、(A)成分と(B)成分との結合体が(D)成分により形成されたミセルのパリセード層内に取り込まれた複合体を形成するとの推察が記載されている。 上記の本件明細書の発明の詳細な説明における、試験例1?試験例5についての記載とともに、推察ではあるものの、水性組成物中において(A)成分と(B)成分との結合体が(D)成分により形成されたミセルのパリセード層内に取り込まれた複合体を形成するとの記載に接した当業者は、本件発明1?2、4?8が、当該発明の課題を解決できる範囲のものであると認識できる。 よって、本件発明1?2、4?8は、発明の詳細な説明に記載したものである。 (2)特許異議申立人の意見について ア 特許異議申立人は、訂正により新たに生じた本件発明1?8と引用発明1との相違点について、 相違点A;引用発明1は「透明化粧水」であるのに対し、本件発明1?5が「眼科用又は鼻腔用組成物である水性組成物」である点、 相違点B;引用発明1に配合されている油分が「α-オレフィンオリゴマー」及び「イソステアリン酸」であるのに対し、本件発明1?8における「油分」が「ロウ類、エステル油及び植物油から選択される少なくとも1種の油分」である点、 であるとする。 その上で、概略、以下(ア)及び(イ)のように述べて、本件発明1?8は、引用発明1と同一あるいは引用発明1から当業者が容易に想到し得た発明であると主張する。 (ア)相違点Bについて 刊行物1の段落0011に透明な化粧料に配合可能な油分として、「ラノリン等の固体油脂及びロウ」、「イソステアリン酸ミリスチル等」及び「大豆油等」が例示されているので、例えば引用発明1におけるα-オレフィンオリゴマーをロウ類、エステル油又は植物油に置換した透明化粧料は刊行物1に記載されているに等しく、相違点Bは新たな相違点になり得ない。 (イ)相違点Aについて 処方が同一の組成物が知られていた場合に、その組成物に進歩性が肯定されるためには、当該組成物の未知の属性を発見し、この属性により、当該組成物が新たな用途への使用に適することが示されなければならないが、本件明細書全体を検討しても、「透明(澄明)であること」及び「蒸散率が低いこと」以外の性質は実施例による裏付けを伴って記載されていない。一方、刊行物1に記載された化粧料は既に「透明」であり、レチノール等のビタミンAを皮膚化粧料に配合すればレチノールの皮膚改善効果によって水分の蒸散が抑制されることは周知技術である。したがって、本件発明1?5は新たな用途を提供するものではなく刊行物1に記載された透明化粧料と用途によって区別できない。ましてや、本件発明6?8は水性組成物の性質を恰も用途のように記載しているのみで、「眼科用又は鼻腔用」という限定も付されていない。 しかし、上記(1)アに示したとおり、引用発明1は、「水性組成物」が「透明化粧水」であり、「油分」が「α-オレフィンオリゴマー」及び「イソステアリン酸」である一方、本件発明1?2、4?5は、「水性組成物」が「眼科用又は鼻腔用組成物」であり、「油分」が「ロウ類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種」である点で相違する。 また、上記(1)ウに示したとおり、引用発明1は、従来透明化が困難であった流動パラフィン、スクワラン、α-オレフィンオリゴマー、イソパラフィン、ポリブテンなどの炭化水素油やジメチルポリシロキサンを、イソステアリン酸と所定量配合することによって、透明化するというものであるので、引用発明1における「α-オレフィンオリゴマー」及び「イソステアリン酸」を「ロウ類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種」に置換することは、当業者が容易に想到し得ないことと認められる。 また、本件発明1?2、4?5のパルミチン酸レチノール残存率が高いという効果は、刊行物1の記載からは当業者が予想し得ないものである。 よって、本件発明1?2、4?5は、引用発明1ではなく、引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 なお、請求項3は訂正により削除されているので、訂正後の請求項3に係る発明に対する特許異議申立人の主張は、対象となる請求項が存在しない。 また、本件発明6?8の新規性及び進歩性についての特許異議申立人の意見については、後出「(3)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について」において述べる。 イ 特許異議申立人は、訂正により新たに生じた本件発明1?8と引用発明3との相違点について、 相違点A;引用発明3は「皮膚外用剤」であるのに対し、本件発明1?5が「眼科用又は鼻腔用組成物である水性組成物」である点、 相違点B:引用発明3には「レチノール」が含まれるのに対し、本件発明1?5には「パルミチン酸レチノール」が含まれる点、 であるとする。 その上で、概略、以下(ア)及び(イ)のように述べて、本件発明1?8は、引用発明3と同一あるいは引用発明3から当業者が容易に想到し得た発明であると主張する。 (ア)相違点Aについて 上記ア(イ)に説示したとおりの内容がそのまま適用できる。 (イ)相違点Cについて 刊行物3には「ビタミンA(=レチノール)およびその誘導体(例えば、レチノールアセテート、レチノールパルミテート等)」と記載されている(段落【0043】)。したがって、引用発明3における「レチノール」を「レチノールパルミテート(パルミチン酸レチノール)」に置換した皮膚外用剤も記載されているに等しい。 しかし、上記(1)イに示したとおり、引用発明3は「皮膚外用剤」の発明である一方、本件発明1?2、4?5は「眼科用又は鼻腔用組成物」の発明である点で相違する。また、本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しても、本件発明1?2、4?5が実質的に「皮膚外用剤」になり得るとも認められない。 また、上記(1)オに示したとおり、「眼科用又は鼻腔用組成物」は「皮膚外用剤」とは、技術的な共通性を有しない異なる技術分野に属するものであるから、引用発明3の「皮膚外用剤」を「眼科用又は鼻腔用組成物」に転用することは、当業者が容易に想到し得ないことと認められる。 また、本件発明1?2、4?5の「眼科用又は鼻腔用組成物」としての効果は、「皮膚外用剤」についての刊行物3の記載からは当業者が予想し得ないものである。 よって、本件発明1?2、4?5は、引用発明3ではなく、引用発明3に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 なお、請求項3は訂正により削除されているので、訂正後の請求項3に係る発明に対する特許異議申立人の主張は、対象となる請求項が存在しない。 また、本件発明6?8の新規性及び進歩性についての特許異議申立人の意見については、後出「(3)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について」において述べる。 ウ 特許異議申立人は、訂正により新たに生じた本件発明1?8と引用発明2との相違点は、 相違点D:本件訂正発明における油分が「ロウ類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種」であるのに対し、引用発明2に配合されている油分は「流動パラフィン(ハイコールM-202)」(炭化水素油に相当)である点、 のみであるとする。 その上で、概略、以下(ア)のように述べて、本件発明1?8は、引用発明2に対して進歩性を有しないと主張する。 (ア)相違点Dについて 刊行物2には、流動パラフィン以外の油分を使用することを否定する記載は存在せず、粘度が98.0?125.0mm^(2)/sのもの(ハイコールM-502)を用いた場合は白濁が起ることが記載されているのみである(比較例3)。 一方、本件発明における油分は、「ロウ類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種」と特定されているのみで、その粘度は何ら限定されていない。そして本件明細書において澄明な組成物が得られているのは油分として「精製ラノリン」を用いた例のみである。従って、精製ラノリン以外のロウ類、エステル油及び植物油であって、粘度を限定されていない油分の何れを用いても同等の効果を奏するとは推定できないので、本件発明の全範囲に渡って発明の効果を奏することにより、引用発明2に対して進歩性を有するとは認められない。 刊行物2の記載は、澄明な点眼剤を得るためには所定値未満の粘度を有する流動パラフィンを使用することが好ましいことを教示するものであるから、そのような粘度条件を満たす他の油分を採用することは当業者が容易に想到できることであり、多種多様な油分の中からエステル油や植物油等を採用することは単なる設計事項である。 しかし、本件発明1?2、4?5と引用発明2を対比すると、上記(1)エに示したとおり、両者の相違点は相違点Dのみであるとする特許異議申立人の主張とは異なり、引用発明2における「パルミチン酸レチノール」の含有量0.037g/100mLは、ビタミンA効力単位に換算すると62900単位/100mlであって、本件発明1?2、4?5における「5000?50000単位/100mLのパルミチン酸レチノール」と含有量が異なる点も、相違点である。 確かに、特許異議申立人の主張するように、刊行物2には流動パラフィン以外の油分を使用することを否定する明確な記載はないものの、引用発明2は、前記記載2-イに示された背景技術の下、前記記載2-ウに記されるように「ビタミンA類を安定に配合し、かつ、外観が澄明な眼科用剤を提供すること」を課題として、前記記載2-エに記されるように「ビタミンA類と共に特定の流動パラフィンを特定の割合で配合することにより、ビタミンA類が安定化し、かつ外観が澄明となることを見出し」て完成された発明である。 前記記載2-カから、流動パラフィンの粘度又は配合量の変化によって組成物が白濁することがあると当業者は理解でき、「(B)ロウ類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種の油分」を更に加えた場合には白濁する可能性があることも当業者は理解するから、たとえ刊行物2の記載に接した当業者が、澄明な点眼剤を得るためには所定値未満の粘度を有する流動パラフィンを使用することが好ましいことを理解したとしても、「ビタミンA類を安定に配合し、かつ、外観が澄明な眼科用剤を提供すること」という課題をすでに達成できている引用発明2に対し、白濁する可能性を冒して、あえて「流動パラフィン」と同様の特性を発揮することが技術常識から明らかであるとは認められない「(B)ロウ類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種の油分」を更に加えるとともに、パルミチン酸レチノールの含有量も変更して「5000?50000単位/100mLのパルミチン酸レチノール」とすることは、単なる設計事項であるとはいえず、当業者が容易に想到し得ないことと認められる。 また、本件発明1?2、4?5の、パルミチン酸レチノールの安定性並びに澄明性及び蒸散抑制効果に優れるという効果は、「(B)ロウ類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種の油分」を更に加えた場合には白濁する可能性があることを示唆する刊行物2の記載からは、当業者が予想し得ないものである。 よって、本件発明1?2、4?5は、引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 なお、請求項3は訂正により削除されているので、訂正後の請求項3に係る発明に対する特許異議申立人の主張は、対象となる請求項が存在しない。 また、本件発明6?8についての特許異議申立人の意見については、後出「(3)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について」において述べる。 エ 特許異議申立人は、実施可能要件及びサポート要件について、概略、以下(ア)、(イ)のように述べて、本件発明1?8は、実施可能要件及びサポート要件を満たさないものであると主張する。 (ア)本件明細書の段落【0050】に記載されている作用機序はあくまで推察であり、裏づける化学的根拠は何ら示されていない。ミセル形成には、油分の極性、界面活性剤の種類、濃度、温度といった複数の要因が関係していることは技術常識であり、同じ油分(例えばパルミチン酸レチノール)であっても、組み合わせて配合される別の油分の極性や量、使用する界面活性剤の種類及び量、さらには温度等の条件によっては可溶化する場合と可溶化しない場合があることは当業者が容易に理解できる。パルミチン酸レチノールの量のみを特定し、他の配合成分の配合量を特定していない本件発明1が発明の効果を奏しない態様を包含していることは明らかである。 (イ)「(B)ロウ類、エステル油及び植物油から選択される少なくとも1種の油分」が精製ラノリンと構造上の共通点を有しているという主張に根拠はなく、例えば「植物油」は飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸を主成分とする混合物であってエステルではないことは技術常識である。 刊行物2の実施例、比較例との対比から(表1)、流動パラフィンの粘度又は配合量がわずかに変化しただけでも、組成物(点眼剤)が白濁してしまうという事実に鑑みれば、分子構造が同一(類似)であっても、粘度が相違するだけで組成物の「透明(澄明)」か「白濁」かが変化するのであるから、ペースト状であることが知られている「精製ラノリン」を使用した実施例の結果に基づいて、分子構造が異なる「植物油」や分子構造は類似していてもラノリンより粘度が高い固形ワックス(例えば、カルナウバロウ、キャンデリラロウ等)、液状のワックス(ホホバ油等)やエステル油を用いた場合にも同等の効果を奏するとは到底推認できない。 よって、本件明細書の記載を、本件発明1?8の範囲にまで拡張ないし一般化できるとはいえず、本件明細書は、本件発明1?8の全範囲に渡って、当業者が実施できるようには記載しているとは認められない。 しかし、上記(1)カに示したとおり、本件明細書の発明の詳細な説明における、試験例3についての記載及び試験例5についての記載とともに、推察ではあるものの、水性組成物中において(A)成分と(B)成分との結合体が(D)成分により形成されたミセルのパリセード層内に取り込まれた複合体を形成するとの記載に接した当業者は、精製ラノリンと構造上の類似点を有する「(B)ロウ類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種の油分」と「(D)非イオン界面活性剤」とを含む水性組成物に「(A)5000?50000単位/100mLのパルミチン酸レチノール」を配合することにより、当該水性組成物を「澄明化」することができると理解する。 よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明8の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。 また、上記(1)キに示したとおり、本件明細書の発明の詳細な説明における、試験例1?試験例5についての記載とともに、推察ではあるものの、水性組成物中において(A)成分と(B)成分との結合体が(D)成分により形成されたミセルのパリセード層内に取り込まれた複合体を形成するとの記載に接した当業者は、本件発明1?2、4?8が、当該発明の課題を解決できる範囲のものであると認識できる。 よって、本件発明1?2、4?8は、発明の詳細な説明に記載したものである。 なお、請求項3は訂正により削除されているので、訂正後の請求項3に係る発明に対する特許異議申立人の主張は、対象となる請求項が存在しない。 また、本件発明1?2、4?8の実施可能要件についての特許異議申立人の意見については、後出「(3)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について」において述べる。 (3)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について ア 本件発明6?8の新規性及び進歩性についての特許異議申立理由について 特許異議申立人 荒井 健之 は、本件発明1が新規性及び進歩性を否定されるものであることを前提にして、概略、以下(ア)?(エ)のように述べて、本件発明6?8の新規性及び進歩性を否定する。 (ア)本件発明6は、本件発明1の水性組成物について単に追認された効果を記載したものであり、実質的に引用発明1?引用発明3に等しい発明であり)、水性組成物を恰も用途のように記載しているのみである。したがって、本件発明6は、引用発明1、引用発明2又は引用発明3であるか、引用発明1?引用発明3に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである(特許異議申立書10頁17?32行、平成29年10月20日付け意見書3頁10?12行、23行)。 (イ)本件発明7は、本件発明1の水性組成物について単に推測される性質(効果)を記載したものであり、実質的に引用発明1?引用発明3に等しい発明であり、水性組成物を恰も用途のように記載しているのみである。したがって、本件発明7は、引用発明1、引用発明2又は引用発明3であるか、引用発明1?引用発明3に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである(特許異議申立書11頁33行?12頁12行、平成29年10月20日付け意見書3頁10?12行、23行)。 (ウ)本件発明8について、引用発明1の透明化粧料を調製する方法は水性組成物の澄明化方法であり、引用発明2の点眼剤を調製する方法は外観が澄明である水性組成物の澄明化方法であり、引用発明3は本件発明8と同等に澄明化されていると推定されるので、本件発明8は、引用発明1、引用発明2又は引用発明3であるか、引用発明1?引用発明3に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである(特許異議申立書11頁13?28行)。 (エ)本件訂正発明6?8は発明の単一性の要件を満たしていないと認められる(平成29年10月20日付け意見書3頁11?12行)。 しかし、このうち(エ)の主張は、特許異議申立書に記載されていない実質的に新たな理由であるので、採用できない。 そして、前記のとおり、本件発明1は、引用発明1、引用発明2または引用発明3ではなく、引用発明1?3に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないので、本件発明1が新規性及び進歩性を否定されるものであることを前提にした当該特許異議申立理由は、その前提において誤っているから、理由がない。 イ 本件発明1?2、4?7の実施可能要件についての特許異議申立理由について 特許異議申立人 荒井 健之 は、概略、以下(ア)のように述べて、本件発明1?2、4?7の実施可能要件違反を主張する。 (ア)本件明細書において、澄明化等の効果が確認されているのは、(A)ビタミンA類として「パルミチン酸レチノール」、(B)油分として「精製ラノリン」 (C)脂溶性抗酸化剤として「酢酸-d-α-トコフェロール」又は「ジブチルヒドロキシトルエン」、(D)非イオン性界面活性剤として「ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60」、(E)キレート剤として「エデト酸ナトリウム」、緩衝剤として「ホウ酸/ホウ砂」を配合した例のみである。実施例で効果が確認されている「精製ラノリン」を(B)油分として配合したもの以外については実施可能要件を満たしていない(特許異議申立書11頁29行?12頁19行、平成29年10月20日付け意見書4頁20行?5頁31行)。 しかし、本件明細書の発明の詳細な説明には、 「パルミチン酸レチノール」、「(B)ロウ類、エステル油及び植物油から選択される少なくとも1種の油分」として「精製ラノリン」、「(C)脂溶性抗酸化剤」として「酢酸-d-α-トコフェロール」又は「ジブチルヒドロキシトルエン」、「(D)非イオン界面活性剤」として「ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60」、「(E)キレート剤」として「エデト酸ナトリウム」、「緩衝剤」として「ホウ酸」及び「ホウ砂」を、それぞれ用いた、「ビタミンA類の安定性評価」のための試験例1(段落【0075】?段落【0077】)及び試験例2(段落【0078】?段落【0080】)、「澄明性評価」のための試験例3(段落【0081】?段落【0083】)及び試験例4(段落【0084】?段落【0086】)、並びに「澄明性評価及び蒸散抑制評価」のための試験例5(段落【0087】?段落【0089】)が記載されている。 ここで、本件明細書の発明の詳細な説明には、 「本発明において水性組成物中のビタミンA類の安定性が向上する理由は必ずしも明らかではないが、本発明者らは、以下のように推察している。すなわち、(A)成分及び(B)成分を含む水性組成物に(D)成分を配合すると、(A)成分と(B)成分との結合体が(D)成分により形成されたミセルのパリセード層内に取り込まれた複合体を形成する。このとき、複合体中では(A)成分がミセルの内側に、(B)成分がミセルの外側に位置するようにパリセード層内で配向する。すると、水性組成物中の溶存酸素等のビタミンA類を変性させる物質は、(A)成分と反応し難くなる。その結果、水性組成物中のビタミンA類の安定性がより一層向上すると考えられる。ただし、上記はあくまで推察であり、水性組成物中のビタミンA類の安定性のメカニズムを限定するものではない。」(段落【0050】)との記載があって、水性組成物中において、(A)成分と(B)成分との結合体が(D)成分により形成されたミセルのパリセード層内に取り込まれた複合体を形成するとの推察が記載されている。 上記の本件明細書の発明の詳細な説明における、試験例1?試験例5についての記載とともに、推察ではあるものの、水性組成物中において(A)成分と(B)成分との結合体が(D)成分により形成されたミセルのパリセード層内に取り込まれた複合体を形成するとの記載に接した当業者は、それらの記載に基づいて、本件発明1?2、4?7の水性組成物を製造することができるとともに、その有用性を理解すると認められる。 よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1?2、4?7の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。 5.むすび したがって、請求項1?2、4?8に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。 また、他に請求項1?2、4?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 また、請求項3は訂正により削除されたため、本件請求項3に係る特許に対して、特許異議申立人 荒井 健之 がした特許異議申立てについては、対象となる請求項が存在しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 (A)5000?50000単位/100mLのパルミチン酸レチノールと、 (B)ロウ類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種の油分と、 (C)脂溶性抗酸化剤と、 (D)非イオン界面活性剤と、 を含有し、かつ 水を75質量%以上含有し、眼科用又は鼻腔用組成物である、水性組成物(但し、洗口剤を除く。)。 【請求項2】 (E)キレート剤を含有する、請求項1に記載の水性組成物。 【請求項3】(削除) 【請求項4】 緩衝剤を含有する、請求項1又は2に記載の水性組成物。 【請求項5】 pHが5?9である、請求項1?2及び4のいずれか一項に記載の水性組成物。 【請求項6】 (A)5000?50000単位/100mLのパルミチン酸レチノール、(B)ロウ類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種の油分、(C)脂溶性抗酸化剤、及び(D)非イオン界面活性剤を含む、蒸発抑制剤。 【請求項7】 (A)5000?50000単位/100mLのパルミチン酸レチノール、(B)ロウ類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種の油分、(C)脂溶性抗酸化剤、及び(D)非イオン界面活性剤を含有する水性組成物からなる、潤い保持剤。 【請求項8】 (B)ロウ類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種の油分と(D)非イオン界面活性剤とを含む水性組成物に、(A)5000?50000単位/100mLのパルミチン酸レチノールを配合する、前記水性組成物の澄明化方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-11-27 |
出願番号 | 特願2012-132949(P2012-132949) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(A61K)
P 1 651・ 536- YAA (A61K) P 1 651・ 121- YAA (A61K) P 1 651・ 113- YAA (A61K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 近藤 政克 |
特許庁審判長 |
蔵野 雅昭 |
特許庁審判官 |
村上 騎見高 山本 吾一 |
登録日 | 2016-10-07 |
登録番号 | 特許第6016465号(P6016465) |
権利者 | ロート製薬株式会社 |
発明の名称 | ビタミンA類を含有する水性組成物 |
代理人 | 坂西 俊明 |
代理人 | 吉住 和之 |
代理人 | 清水 義憲 |
代理人 | 吉住 和之 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 清水 義憲 |
代理人 | 坂西 俊明 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |