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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01B
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01B
管理番号 1336173
異議申立番号 異議2017-700989  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-02-23 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-10-16 
確定日 2017-12-21 
異議申立件数
事件の表示 特許第6117863号発明「LAN用ツイストペアケーブル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6117863号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6117863号の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成27年7月8日に特許出願され、平成29年3月31日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人飯田進により特許異議の申立てがされたものである。

2.本件発明
特許第6117863号の請求項1?8の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
複数の対撚線からなる集合体の外周に、難燃層および外被を順に備えるLAN用ツイストペアケーブルであって、
前記難燃層を、織布または不織布からなる基材の一主面上に、難燃剤を含有する難燃性樹脂組成物を塗布してなる難燃性樹脂層を有する難燃テープで構成しており、
前記難燃テープは、厚さが50μm以上150μm以下であることを特徴とするLAN用ツイストペアケーブル。
【請求項2】
前記基材を構成する織布または不織布は、レーヨン繊維を主体とする織布または不織布であることを特徴とする請求項1記載のLAN用ツイストペアケーブル。
【請求項3】
前記難燃性樹脂組成物は、エチレン・酢酸ビニル共重合体をベースポリマーとし、前記難燃剤としてポリ燐酸アンモニウムを含む組成物であることを特徴とする請求項1または2記載のLAN用ツイストペアケーブル。
【請求項4】
前記難燃テープは、前記基材の他方の主面上に補強フィルムが接着されてなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のLAN用ツイストペアケーブル。
【請求項5】
前記基材の厚さが20μm以上50μm以下であり、前記難燃性樹脂層の厚さが15μm以上85μm以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載のLAN用ツイストペアケーブル。
【請求項6】
前記難燃テープは、前記難燃性樹脂層側を外側に向けて、前記集合体の外周に巻き付けられていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載のLAN用ツイストペアケーブル。
【請求項7】
前記難燃テープは、酸素指数が40以上、引張強さが30N/15mm以上60N/15mm以下で、かつ引張伸びが60%以上100%以下であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載のLAN用ツイストペアケーブル。
【請求項8】
ケーブル全体として、IEEE383-1974に規定する垂直トレイ燃焼試験に合格する難燃性を有することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項記載のLAN用ツイストペアケーブル。」

3.申立理由の概要
特許異議申立人飯田進は、証拠として、
甲第1号証(以下、「甲1」という。):実願平5-21066号(実開平6-80219号)のCD-ROM
甲第2号証(「甲2」):特開2003-62937号公報
甲第3号証(「甲3」):国際公開第2012/108403号
甲第4号証(「甲4」):特開2006-225505号公報
を提出し、請求項1、2、8に係る特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、請求項1-8に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1?8に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

4.刊行物の記載
(1) 甲1について
甲1には、「難燃ケーブル」に関して、以下の記載がある(下線は、注目箇所に当審が付与。以下同様。)。

ア 段落【0001】-【0005】
「 【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は、火災時に有害なガス等を発生させることなく、かつ高度の難燃性を有する難燃ケーブルに関するものである。
【0002】
【従来の技術及び考案が解決しようとする課題】
従来、ケーブルの難燃性を高めるために絶縁体押さえ巻テープ等が工夫された難燃ケーブルがある。例えばポリリン酸アンモニウム、メラミン、デンプンおよびジペンタエリストリール等をラテックスに混合させた電線用発泡性防火塗料を綿テープに塗布含浸させたものが巻き付け等によりケーブルコア2の外周に装着されたものが提案されている。
しかしながらこのものは、火災時に延焼は防止できるが、その際にホスフィンガス、リン酸ガス、アンモニアガス等の有毒ガスを発生させる問題がある。
【0003】
そこでケーブルコア2の外周に火炎にさらされても変形しないガラステープ、セラミックテープ、銅テープ等の無機質を主成分とするテープが巻回され、さらにその外周にエチレンプロピレンゴム、エチレン酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィンに水和アルミナ、水酸化マグネシウム等の金属水和物を配合した難燃性樹脂組成物からなる難燃性テープ4が巻回され難燃性の保護層とした難燃ケーブルが提案されている。
このものはハロゲンガス等の有害ガスを発生させることはない。しかし難燃性テープ4のベースにポリオレフィンなどの樹脂が用いられているため、難燃性があまり高くない。従って高度の難燃性を有する難燃ケーブルにするためには、難燃性テープ4をかなりの厚さに重ね巻きしなければならず作業が煩雑になる問題がある。
【0004】
本考案は前記事情に鑑み鋭意検討の結果なされたもので、難燃性テープ4が薄く巻き付けられただけで高度の難燃性を示し、製造が簡便でかつ火災時に有毒ガスを発生させない難燃ケーブルを提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本考案ではケーブルコア2の外周に、織布または不織布を基材とし、これに発泡性液状セラミックを塗布または含浸させた難燃性テープ4が巻き付けられたことを特徴とする難燃ケーブルにより前記課題の解決を図った。」

イ 段落【0009】-【0010】
「 【0009】
本考案において、織布または不織布に塗布、含浸させる発泡性液状セラミックの塗布含浸量は、固形分量で少なくとも50g/m^(2 )以上であることが好ましい。50g/m^(2 )未満の塗布含浸量では、必要な難燃性が得られにくいからである。
なお、発泡性液状セラミックをあまり多量に塗布、含浸させると剛直で割れやすいものとなり、ケーブルコア2への巻き付け性が低下したものになる。よって塗布、含浸量の上限は200g/m^(2 )程度が好ましい。
【0010】
本考案において、基材に用いる織布または不織布の材質は、例えばポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、レーヨン、ビニロン等の合成樹脂繊維あるいは綿、麻等の天然繊維等とくに限定されないが、強度、耐熱性の点からポリエステル繊維やポリプロピレン繊維からなる織布または不織布や綿などが好適に使用される。
不織布を用いる場合は、不織布中の樹脂繊維の坪量が30g/m^(2) 以上のもので、厚さ0.05以上のものが、強度、発泡性液状セラミックの塗着性の点から好適に使用される。」

ウ 段落【0012】-【0016】
「 【0012】
【実施例】
以下、図面を参照して本考案の難燃性ケーブルを詳しく説明する。なお前記従来例と同一構成部分には、同一符号を付して説明を簡略化する。
【0013】
(実施例1)
図1に示すような、導体断面積14mm^(2) 絶縁体の厚さ4mmの架橋ポリエチレン絶縁線心1を介在とともに3本撚り合わせてなる6.6kV架橋ポリエチレン(CV)ケーブルのケーブルコア2の外周に、銅製のテープ3が1/2ギャップで巻き付けられている。その上に厚さ100μmの綿製のテープに水性造膜性無機化合物(固形分45%)を60g/m^(2) となるように塗布含浸させた難燃性テープ4が1/2ギャップで巻き付けられている。
さらにその上に酸素指数30のノンハロゲンポリエチレンコンパウンドからなるシース層5が厚さ1.8mmで押出被覆されている。
本実施例の難燃ケーブルを用いてIEEE std.383で規定された垂直トレイ燃焼試験行った。
その結果、損傷長さは100cmであり、水性造膜性無機化合物が発泡し耐火層が形成され延焼が阻止された。もちろん有害ガスの発生も無かった。
【0014】
(実施例2)
厚さ80μmのポリエステルテープに水性造膜性無機化合物(固形分40%)が80g/m^(2) となるように塗布含浸された難燃性テープ4が巻付けられていること以外は実施例1と同様の方法により製造して難燃ケーブルを得た。
得られたケーブルを実施例1と同様の燃焼試験をした。
その結果、損傷長さは90cmであり、水性造膜性無機化合物が発泡し耐火層が形成され延焼が阻止された。もちろん有害ガスの発生もなかった。
【0015】
(比較例1)
導体断面積14mm^(2) 、絶縁体の厚さ4mmの架橋ポリエチレン絶縁線心1を介在と共の3本撚り合わせてなる6.6kV架橋ポリエチレン絶縁ケーブルコア2の外周に、銅テープ3を1/2ギャップで巻き付け、厚さ100μmの綿テープを1/2ギャップで巻き付けた後、この上に酸素指数30のノンハロゲンポリエチレンコンパウンドからなるシース層5を1.8mm厚に押出被覆して難燃ケーブルを作製した。
作製した比較例1の難燃ケーブルについて、実施例1と同様にIEEE std.383で規定する垂直トレイ燃焼試験を行ったところ、10分後に完全に燃焼してしまった。
【0016】
(比較例2)
ポリリン酸アンモン100重量部、メラミン100重量部、デンプン20重量部、ジペンタエリストリール100重量部をラテックス100重量部に混合させた混和物を厚さ100μmの綿テープに80g/m^(2) となるように塗布含浸させた難燃性テープ4を用いたこと以外は実施例1と同様の難燃ケーブルを作製した。
作製した比較例2の難燃ケーブルについて、実施例1と同様にIEEE std.383で規定する垂直トレイ燃焼試験を行ったところ、損傷長さは120cmであり、延焼せず良好であったが、有害なアンモニアガス、ホスフィンガス等が発生した。」

よって、上記各記載事項を関連図面に照らし、下線部に着目すれば、引用文献1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

「導体断面積14mm^(2) 絶縁体の厚さ4mmの架橋ポリエチレン絶縁線心1を介在とともに3本撚り合わせてなる6.6kV架橋ポリエチレン(CV)ケーブルのケーブルコア2の外周に、
銅製のテープ3が1/2ギャップで巻き付けられ、その上に、
織布または不織布を基材とし、ポリリン酸アンモン100重量部、メラミン100重量部、デンプン20重量部、ジペンタエリストリール100重量部をラテックス100重量部に混合させた混和物を厚さ100μmの綿テープに80g/m^(2) となるように塗布含浸させた難燃性テープ4が1/2ギャップで巻き付けられ、さらにその上に、
酸素指数30のノンハロゲンポリエチレンコンパウンドからなるシース層5が厚さ1.8mmで押出被覆され、
IEEE std.383で規定する垂直トレイ燃焼試験を行ったところ、損傷長さは120cmであり、延焼せず良好であったが、有害なアンモニアガス、ホスフィンガス等が発生する、
難燃ケーブル。」

(2)甲2について
甲2には、「ノンハロゲン難燃テープ及びこれを用いたフラットケーブル」に関して、以下の記載がある。
ア 段落【0001】-【0005】
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、接着性と難燃性に優れたノンハロゲン難燃テープ及びこれを用いたフラットケーブルに関するものである。
【0002】
【従来の技術】ノンハロゲン難燃テープの中には、ノンハロゲン系のベースフィルムの片面にノンハロゲン系の難燃性接着層を設けた構造のテープがある。これは、単に対象物に貼り付けるのみで、所望の難燃性が得られる利点がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところが、この構造の難燃テープの場合、より高い難燃性を求めて、接着層材料中により多くの難燃剤を添加すると、難燃性自体は向上するものの、接着性が低下するという問題点があった。
【0004】また、このような接着性の低下した難燃テープを用いてフラットケーブルを形成した場合、テープ部分が剥離し易いという問題点があった。
【0005】本発明は、このような現状に鑑みてなされたもので、その一つは、難燃性接着層とは別に、ノンハロゲン系のベースフィルムの反対側にノンハロゲン系の難燃性インキを塗布することで、難燃機能を分担させ、これによって、接着層側への過度の難燃剤添加を抑制するようにした難燃テープを提供し、また、もう一つは、この難燃テープを用いたフラットケーブルを提供せんとするものである。」

イ 段落【0011】-【0018】
「【0011】
【発明の実施の形態】図1は本発明に係るノンハロゲン難燃テープの一実施例を示し、図2はこの難燃テープを用いたフラットケーブルの一実施例を示したものである。この難燃テープ10において、11はベースフィルム、12はこの片面に施されたノンハロゲン系の難燃性接着層、13は難燃性接着層12とは反対側に設けたノンハロゲン系の難燃性インキの塗布層である。また、フラットケーブル20において、10,10は難燃テープ、21は複数(単数も可)の導体である。
【0012】上記難燃テープ10のベースフィルム11としては、所定の強度を有するものであればよく、特に限定されないが、例えばPETフィルムやPEフィルムなどが使用できる。そして、その厚さは、用途よっても異なるが、25μm程度とするとよい。
【0013】上記ノンハロゲン系の難燃性接着層12も、特に限定されないが、例えばポリエステル系樹脂100重量部に対して、ノンハロゲン系の難燃剤10?150重量部を添加した組成物により構成するとよい。ここで用いるポリエステル系樹脂としては、例えばガラス転移温度(Tg)が-20?10℃、分子量(平均分子量)5000?40000程度のものの使用が好ましい。また、ノンハロゲン系の難燃剤としては、窒素含有有機難燃剤、リン系難燃剤、金属水酸化物などが挙げられ、これらは単独で、又は適宜混合して使用することができる。そして、この難燃性接着層12の厚さも、用途よって異なるが、35μm程度とするとよい。
【0014】この難燃剤の添加量を、10?150重量部としたのは、10重量部未満では、所望の難燃性が得られず、また、150重量部を越えると、上述したように、接着性が低下し、また、機械特性も低下するようになるからである。
【0015】上記ノンハロゲン系の難燃性インキの塗布層13も、特に限定されないが、例えばポリエステル系樹脂とリン酸系難燃剤との混合物を、トルエン+メチルエチルケトン(MEK)などにより溶解させたインキを使用することが好ましい。
【0016】そして、この難燃性インキの塗布層13の厚さは、適宜設定できるものの、通常は10?60μmとするとよい。つまり、10μm未満では薄過ぎて所望の難燃性付与効果が得られず、また、60μmを越えると、厚過ぎて機械特性が低下するようになるからである。
【0017】このように構成された本発明の難燃テープ10により、上記したフラットケーブル20を製造するには、2枚又は折り返した難燃テープ10で、所定本数の導体21を縦添えする形で挟み込み、上下の難燃性接着層12,12間を接着させればよい。これにより、難燃性が高く、かつ、接着性にも優れたフラットケーブルが得られる。
【0018】〈実施例〉表1?表2に示すように、本発明の要件を満たす難燃テープ(実施例1?3)と、本発明の要件を欠く難燃テープ(比較例1?4)を、サンプル(試料)として製造した。なお、ベースフィルムとしては、いずれも厚さ25μmのPETフィルムを用いた。また、難燃性接着層のポリエステル系樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が0℃、分子量(平均分子量)2000程度のものを用いた。また、難燃剤としては、メラミンシアヌレート:ポリリン酸メラミン=4:1のものを用いた。難燃性インキとしては、ポリエステル系樹脂とリン酸系難燃剤との混合物からなるインキを用いた。」

(3)甲3について
甲3には、「電気絶縁性樹脂シート」に関して、以下の記載がある。

ア 段落[0020]-[0024]
[0020] 以下、本発明に係る電気絶縁性樹脂シートの一実施形態について説明する。
[0021] 本実施形態の電気絶縁性樹脂シートは、端裂抵抗値が220N/20mm以上であり且つ240℃で250時間を経た後の引張強度の強度残率が55%以上であるシート状の電気絶縁性樹脂層を備えている。
前記電気絶縁性樹脂シートは、電気絶縁性樹脂シートの耐引裂き性及び耐熱性がより優れたものになるという点で、少なくとも1種のシート材をさらに備え、該シート材が前記電気絶縁性樹脂層の少なくとも片面側に配されていることが好ましい。
また、前記電気絶縁性樹脂シートは、前記電気絶縁性樹脂層が、分子中に複数のスルホニル基を有するポリスルホン樹脂と、該ポリスルホン樹脂以外の熱可塑性樹脂とを含んでいることが好ましい。

……(中略)……

[0024] 前記電気絶縁性樹脂層の厚さは、特に限定されるものではなく、通常、1μm?500μmである。」

イ 段落[0058]-[0060]
「[0058] 次に、前記電気絶縁性樹脂シートの具体例として、前記電気絶縁性樹脂層の両面側にシート材が配された電気絶縁性樹脂シートを挙げ、図面を参照しながら詳しく説明する。
[0059] 図1は、前記電気絶縁性樹脂層2の両面側にシート材3が配された電気絶縁性樹脂シートを厚さ方向に切断した断面を模式的に示した断面図である。 図1に示すように、斯かる電気絶縁性樹脂シート1においては、シート状の電気絶縁性樹脂層2を介して、複数のシート材3が貼り合わされている。
[0060] 前記シート材3は、シート状のものであれば特に限定されない。また、シート材3の厚さは、特に限定されるものではなく、通常、10?100μmである。」

ウ 段落[0074]
「[0074] 例えば、上記実施形態では、図1において、シート状の電気絶縁性樹脂層の両面側にそれぞれ1枚のシート材が配されてなる電気絶縁性樹脂シートについて説明したが、本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、シート状の電気絶縁性樹脂層の片面側のみに1枚のシート材が配されてなるものであってもよい。また、シート状の電気絶縁性樹脂層のみを備えたものであってもよい。」

エ 段落[0082]
「[0082] (実施例7) PES/PA/EPMA=80/19/1の重量比となるように、80重量部のPES樹脂、及び、20重量部の「ジェネスタN1001A」を用いて樹脂混合物を調製し、該樹脂混合物によって電気絶縁性樹脂層を形成した点以外は、実施例1と同様にして電気絶縁性樹脂層を作製した。
一方、2枚の全芳香族ポリアミド紙(デュポン社製 商品名「ノーメックスT410」厚さ50μm)をシート材として用意した。さらに、それぞれのシート材の電気絶縁性樹脂層と接する側の面には、コロナ処理を施した。コロナ処理は、機器としてPILLAR TECHNOLOGIES社製「500シリーズ」を用いて、大気圧下で、出力500W、処理速度4m/分、試料幅0.4mの条件により行った。
そして、作製した電気絶縁性樹脂層の両面側に2枚の全芳香族ポリアミド紙を配置した状態のものを2枚の金属板で挟み、350℃に加熱した熱プレス機を用いて、圧力200N/cm^(2)で60秒間プレスし、電気絶縁性樹脂層の両面側に2枚のシート材を備えた約200μm厚の電気絶縁性樹脂シートを製造した。」

オ 段落[0098]
「産業上の利用可能性
[0098] 本発明の電気絶縁性樹脂シートは、耐熱性と電気絶縁性とを要する電気絶縁用シートなどとして好適に用いられ得る。具体的には、例えば、モーターのコイル線の周囲に配される電気絶縁用シート材、トランス、バスバー、コンデンサ、ケーブル用の電気絶縁用シート材、又は、電子回路基板の絶縁膜などの用途に好適である。」

(4)甲4について
甲4には、「自己消火性発泡難燃シート」に関して、以下の記載がある。

ア 段落【0001】
「【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性物質取扱所等において使用する自己消火性発泡難燃シートに関する。
詳しくは、燃焼時にハロゲン系ガス等の発生がなく、かつ、燃焼ガスが通過するフィルターの目詰まりを起こす燐系ガスを発生せず、シートを水中に落としても水面に浮き、灰分が微量で取扱性が容易であり、放射性物質取扱所の床面、機器類、資材置場、壁面等を被覆するために使用する発泡難燃シートに関するものである。」

イ 段落【0017】
「【0017】
実施例2
実施例1において発泡剤 ユニフォーム AZ90(重炭酸ナトリウム10%含有、大塚化学株式会社製)を0.5重量部にした。難燃化ペレットは実施例1と同様のものを使用した。該難燃化ペレットの比重は、1.29であった。該難燃化ペレットの表面に実施例1と同様にしてまぶし、付着させた。その他は、実施例1と同様にしてTダイ押出成形
して厚さ133μmの発泡難燃シートをワインダーに巻き取った。該発泡難燃シートについての性能を測定した結果は、表……(中略)……に示す。」

ウ 段落【0022】
「【0022】
比較例1
実施例1において、難燃剤ヒドラゾジカルボンアミド KBH-30(平均粒径5μm、比重1.60、大塚化学株式会社製)の添加量40重量部を15重量部にした。その他は実施例1と同様にして、難燃化ペレットを製造した。該難燃化ペレットの比重は、1.23であった。実施例1と同様にして、該難燃化ペレットに発泡剤 ユニフォーム AZ90 1重量部を付着させ、発泡剤付着難燃化ペレットを製造した。該発泡剤付着難燃化ペレット用い、実施例1と同様にしてT-ダイ押出成形し、厚さ140μmの発泡難燃シートをワインダーに巻き取った。
該発泡難燃シートについての性能を測定した結果は表2に示す。」

エ 段落【0027】-【0028】
【表1】、【表2】中に、自己消火性発泡難燃シートの「実施例2」の引張強度(N/15mm)が46(タテ)、38(ヨコ)であること、及び、「比較例1」の引張強度(N/15mm)が48(タテ)、34(ヨコ)であることが記載されていると認定できる。

5.判断
(1)請求項1に係る発明について
本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)と甲1発明とを対比すると、以下のことがいえる。

ア 甲1発明の「導体断面積14mm^(2) 絶縁体の厚さ4mmの架橋ポリエチレン絶縁線心1を介在とともに3本撚り合わせてなる……(中略)……ケーブルコア2」は、本件発明1の「複数の対撚線からなる集合体」と、「複数の撚線からなる集合体」である点で共通するといえる。
甲1発明の「難燃性テープ4」は、本件発明1の「難燃層」に相当する。
甲1発明の「シース層5」は、本件発明1の「外被」に相当する。
甲1発明の「6.6kV架橋ポリエチレン(CV)ケーブル」は、本件発明1の「LAN用ツイストペアケーブル」と、「ケーブル」である点で共通するといえる。
よって、甲1発明の「ケーブルコア2の外周に、銅製のテープ3が1/2ギャップで巻き付けられ、その上に、……(中略)……難燃性テープ4が1/2ギャップで巻き付けられ、さらにその上に、……(中略)……シース層5が厚さ1.8mmで押出被覆され」た「難燃ケーブル」は、本件発明1の「複数の対撚線からなる集合体の外周に、難燃層および外被を順に備えるLAN用ツイストペアケーブル」と、「複数の撚線からなる集合体の外周に、難燃層および外被を順に備えるケーブル」である点で共通するといえる。

イ 甲1発明の「織布または不織布を基材とし、ポリリン酸アンモン100重量部、メラミン100重量部、デンプン20重量部、ジペンタエリストリール100重量部をラテックス100重量部に混合させた混和物を厚さ100μmの綿テープに80g/m^(2) となるように塗布含浸させた難燃性テープ4」は、本件発明1の「織布または不織布からなる基材の一主面上に、難燃剤を含有する難燃性樹脂組成物を塗布してなる難燃性樹脂層を有する難燃テープ」に相当する。

したがって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「複数の撚線からなる集合体の外周に、難燃層および外被を順に備えるケーブルであって、
前記難燃層を、織布または不織布からなる基材の一主面上に、難燃剤を含有する難燃性樹脂組成物を塗布してなる難燃性樹脂層を有する難燃テープで構成している、
ことを特徴とするケーブル。」

[相違点1]
本件発明1が「複数の対撚線からなる集合体」の外周に、難燃層および外被を順に備える「LAN用ツイストペアケーブル」であるのに対して、甲1発明は「導体断面積14mm^(2) 絶縁体の厚さ4mmの架橋ポリエチレン絶縁線心1を介在とともに3本撚り合わせてなる6.6kV架橋ポリエチレン(CV)ケーブル」であって、「複数の対撚線からなる集合体」を備える「LAN用ツイストペアケーブル」ではない点。

[相違点2]
「難燃層」について、本件発明1では、前記難燃層を、織布または不織布からなる基材の一主面上に、難燃剤を含有する難燃性樹脂組成物を塗布してなる難燃性樹脂層を有する難燃テープで構成しており、「前記難燃テープは、厚さが50μm以上150μm以下である」のに対して、甲1発明では、「織布または不織布を基材とし、ポリリン酸アンモン100重量部、メラミン100重量部、デンプン20重量部、ジペンタエリストリール100重量部をラテックス100重量部に混合させた混和物を厚さ100μmの綿テープに80g/m^(2) となるように塗布含浸させた難燃性テープ4」であって、「難燃性テープ4」の「基材」部分が「厚さ100μmの綿テープ」であるものの、「前記難燃性テープ4」全体としての厚さは特定されていない点。

以下、上記[相違点1]、[相違点2]について検討する。

[相違点1]について
甲1発明は、電力用であることが明らかな、「6.6kV架橋ポリエチレン(CV)ケーブル」に係るものである。また、甲1には、ケーブルの種別が特定されない、「難燃ケーブル」の一般的な記載はあるが、「複数の対撚線からなる集合体」を備える「LAN用ツイストペアケーブル」については記載がない。
甲2には、「対撚線」ではないことが明らかな、「フラットケーブル」が記載され、甲3には、電気絶縁性樹脂シートが、ケーブルの種別が特定されない、「ケーブル用の電気絶縁用シート材」に用いられることが記載され、甲4には、「放射性物質取扱所の床面、機器類、資材置場、壁面等を被覆するために使用する発泡難燃シート」が記載されているが、甲2-4いずれにも、本件発明1の上記[相違点1]に係る、「複数の対撚線からなる」、「LAN用ツイストペアケーブル」については記載されていない。

[相違点2]について
甲2には、「図2」を参照すると、「フラットケーブル20」について、難燃テープ10のベースフィルム11は「25μm程度」、難燃性接着層12は「35μm程度」、難燃性インキの塗布層13は「10?60μm」の厚さとすることが記載されているが、本件発明1の上記[相違点2]に係る、「織布または不織布からなる基材の一主面上に、難燃剤を含有する難燃性樹脂組成物を塗布してなる難燃性樹脂層を有する難燃テープ」である「前記難燃テープは、厚さが50μm以上150μm以下であること」は記載がない。
甲3には、「図1」を参照すると、「電気絶縁性樹脂層2の両面側にシート材3が配された電気絶縁性樹脂シート」について、電気絶縁性樹脂層は「1μm?500μm」、シート材3は「10?100μm」(実施例では「50μm」)とすること、「電気絶縁性樹脂シート」全体としては「200μm厚」とすることが記載され、さらに、図1のように両面側にシート材を配することに替えて、片面側のみに1枚のシート材を配する変形例も記載されているが、本件発明1の上記[相違点2]に係る、「織布または不織布からなる基材の一主面上に、難燃剤を含有する難燃性樹脂組成物を塗布してなる難燃性樹脂層を有する難燃テープ」である「前記難燃テープは、厚さが50μm以上150μm以下であること」は記載されていない。
甲4には、「放射性物質取扱所の床面、機器類、資材置場、壁面等を被覆するために使用する発泡難燃シート」の厚さが「133μm」、「140μm」であることが記載されているが、本件発明1の上記[相違点2]に係る、「織布または不織布からなる基材の一主面上に、難燃剤を含有する難燃性樹脂組成物を塗布してなる難燃性樹脂層を有する難燃テープ」である「前記難燃テープは、厚さが50μm以上150μm以下であること」は記載されていない。

上記のことから、本件発明1は、甲1発明ではないから、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものではない。

また、本件発明1は、上記甲1発明、及び、甲2-甲4に記載された技術的事項から当業者が容易になし得るものではない。

(2) 請求項2-8に係る発明について
請求項2、8に係る発明は、請求項1に係る発明を更に減縮したものであるから、上記請求項1に係る発明についての判断と同様の理由により、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものではない。

請求項2-8に係る発明は、請求項1に係る発明を更に減縮したものであるから、上記請求項1に係る発明についての判断と同様の理由により、甲1発明、及び、甲2-甲4に記載された技術的事項から当業者が容易になし得るものではない。
以上のとおり、請求項1?8に係る発明は、甲1発明及び甲2-甲4に記載された技術的事項から当業者が容易になし得るものではない。

6.むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-12-13 
出願番号 特願2015-136952(P2015-136952)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01B)
P 1 651・ 113- Y (H01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 和田 財太  
特許庁審判長 千葉 輝久
特許庁審判官 山田 正文
稲葉 和生
登録日 2017-03-31 
登録番号 特許第6117863号(P6117863)
権利者 冨士電線株式会社 ヒエン電工株式会社
発明の名称 LAN用ツイストペアケーブル  
代理人 特許業務法人サクラ国際特許事務所  
代理人 特許業務法人サクラ国際特許事務所  

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