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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 G02F 審判 全部申し立て 2項進歩性 G02F |
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管理番号 | 1336174 |
異議申立番号 | 異議2017-700974 |
総通号数 | 218 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-02-23 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-10-12 |
確定日 | 2017-12-22 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6112249号発明「偏光板のセット及び液晶パネル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6112249号の請求項1?5に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6112249号の請求項1?5に係る発明についての出願は、平成28年6月8日(優先権主張平成27年9月30日)に特許出願され、平成29年3月24日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人 野本 玲司により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 上記特許に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである(以下、請求項ごとに「本件特許発明1」?「本件特許発明5」という。)と認められる。 「【請求項1】 液晶セルの視認側に配置される視認側偏光板と液晶セルの背面側に配置される背面側偏光板とのセットであって、 前記背面側偏光板は、輝度向上フィルムと吸収型偏光板とが積層された構成を有し、前記液晶セルの背面側に配置する際に前記液晶セルに接する表面から前記輝度向上フィルムまでの距離が100μm以下であり、 前記視認側偏光板を85℃で100時間加熱したときの吸収軸方向における寸法変化率と、前記背面側偏光板を85℃で100時間加熱したときの吸収軸方向における寸法変化率との比が1超1.4以下であり、 前記背面側偏光板の寸法変化率は0.98%以下である偏光板のセット。 【請求項2】 前記視認側偏光板及び前記背面側偏光板は、それぞれ偏光フィルムを有し、 前記視認側偏光板が有する偏光フィルムの厚みは、前記背面側偏光板が有する偏光フィルムの厚みよりも大きい請求項1に記載の偏光板のセット。 【請求項3】 前記背面側偏光板に含まれる吸収型偏光板は偏光フィルムを有し、 該吸収型偏光板は、偏光フィルムの片面にのみ保護フィルムを有する偏光板である請求項1または2に記載の偏光板のセット。 【請求項4】 請求項1?3のいずれかに記載の偏光板のセットと液晶セルとを含み、 前記視認側偏光板は、その吸収軸が前記液晶セルの短辺方向と略平行であり、前記背面側偏光板は、その吸収軸が前記液晶セルの長辺方向と略平行である液晶パネル。 【請求項5】 請求項4に記載の液晶パネル、または液晶セルと、請求項1?3のいずれかに記載の偏光板のセットとを含む液晶パネルにおいて、 前記液晶セルの視認側に前記視認側偏光板が配置され、前記液晶セルの背面側に前記背面側偏光板が配置されており、85℃で240時間加熱したときの反り量の絶対値が、0.5mm以下である液晶パネル。」 第3 申立理由の概要 特許異議申立人 野本 玲司は、証拠として以下の甲第1号証?甲第3号証を提出し、本件特許発明1?5は、甲第1号証に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に該当する(以下、「申立理由1」という。)、又は、本件特許発明1?5は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第3号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項に違反する(以下、「申立理由2」という。)ものであるから、請求項1?5に係る特許は取り消すべきものである旨主張している。 甲第1号証:特開2015-72385号公報(以下、「甲1」という。) 甲第2号証:特開2013-37115号公報(以下、「甲2」という。) 甲第3号証:特開2011-22510号公報(以下、「甲3」という。) 第4 甲1?甲3の記載事項 (1) 甲1について ア 本件特許の優先権主張の日前の平成27年4月16日に頒布された甲1には、以下の事項が記載されている(なお、下線は、当審が付加した。以下同様。)。 (ア) 「【請求項1】 前面側偏光板及びその視認側に配置されるヤング率が2GPa以上の前面板から構成される、液晶セルの視認側に配置される前面板一体型偏光板と、前記液晶セルの背面側に配置される背面側偏光板とのセットであって、 85℃にて100時間加熱したときの前記前面側偏光板における吸収軸方向及び透過軸方向の寸法変化率をそれぞれF_(a)、F_(t)とし、85℃にて100時間加熱したときの前記背面側偏光板における吸収軸方向及び透過軸方向の寸法変化率をそれぞれR_(a)、R_(t)とするとき、 下記式: (R_(a)-F_(t))<(F_(a)-R_(t)) [I] を満たす、偏光板のセット。」 (イ) 「【0009】 本発明の目的は、液晶表示パネルとした際に高温環境下での反り量が抑制される偏光板のセット、及びこの偏光板のセットを液晶セルに貼合してなる前面板一体型液晶表示パネルを提供することにある。」 (ウ) 「【0020】 <偏光板のセット> 図1は、本発明に係る偏光板のセットにおける好ましい層構成の例を概略断面図で示したものである。また図2は、図1に示される偏光板のセット(前面板一体型偏光板40及び背面側偏光板50)を液晶セル60に貼合してなる前面板一体型液晶表示パネル80を示したものである。図1を参照して、本発明の偏光板のセットは、前面板一体型偏光板40と背面側偏光板50から構成される。本発明の偏光板のセットを構成する前面板一体型偏光板40は、前面側偏光板30と、その視認側に配置される前面板10との一体化物である。図1の例において前面側偏光板30は、偏光子37;偏光子37の視認側の面に貼合される保護層35a;偏光子37の視認側とは反対側(液晶セル側)の面に貼合される保護層35bを含む。」 (エ) 「【0032】 以上のような軸角度を有する本発明の偏光板のセットにおいて、85℃にて100時間加熱したときの前面側偏光板30(前面板10が貼合されておらず、液晶セル60にも貼合されていない状態)における吸収軸30a方向及び透過軸30b方向の寸法変化率をそれぞれF_(a)、F_(t)とし、85℃にて100時間加熱したときの背面側偏光板50(液晶セル60に貼合されていない状態)における吸収軸50a方向及び透過軸50b方向の寸法変化率をそれぞれR_(a)、R_(t)とするとき、F_(a)、F_(t)、R_(a)及びR_(t)は、次の関係: (R_(a)-F_(t))<(F_(a)-R_(t)) [I] を満たす。 【0033】 ここでいう吸収軸方向の寸法変化率とは、加熱前における偏光板の吸収軸方向の長さをL_(0)(mm)、加熱後における偏光板の吸収軸方向の長さをL_(1)(mm)とするとき、下記 寸法変化率=[(L_(0)-L_(1))/L_(0)]×100 [II] で表わされる。透過軸方向の寸法変化率についても、透過軸方向の長さであること以外は吸収軸方向の寸法変化率と同じである。 (略) 【0035】 高温環境下における偏光板の収縮は吸収軸方向で大きく、特に、吸収軸方向の寸法がより大きい背面側偏光板50における吸収軸50a方向の寸法変化率が、前面板一体型液晶表示パネルの反りに対して支配的となる。上記式[I]を満たす偏光板のセットによれば、反りに対して支配的となる背面側偏光板50の吸収軸50a方向の寸法変化率R_(a)と、同じく寸法のより大きい前面側偏光板30の透過軸30b方向の寸法変化率F_(t)とを好適に釣り合わせることができるため、前面板一体型液晶表示パネルとしたときの高温環境下での反り量を効果的に抑制することができ、例えば前面板一体型液晶表示パネルを85℃にて240時間加熱する条件下においても、その反り量を絶対値で0.5mm以下に抑えることができる。なお、前面板一体型液晶表示パネルの反り量は、後述する実施例の項に記載の方法に従って測定される。 【0036】 前面側偏光板30の吸収軸方向の寸法変化率F_(a)は、好ましくは1.2?3.0%であり、より好ましくは1.3?2.0%である。寸法変化率F_(a)が3.0%を超えると、収縮量が大きすぎて高温環境下で前面側偏光板30が液晶セル60から剥離するおそれがある。同様の理由から、前面側偏光板30の透過軸方向の寸法変化率F_(t)は、好ましくは0.1?2.0%であり、より好ましくは0.2?1.0%である。背面側偏光板50の吸収軸方向の寸法変化率R_(a)は、好ましくは0.8?3.0%であり、より好ましくは1.0?2.0%である。背面側偏光板50の透過軸方向の寸法変化率R_(t)は、好ましくは0.1?2.0%であり、より好ましくは0.1?1.0%である。前面側偏光板30の透過軸方向の寸法変化率F_(t)又は背面側偏光板50の透過軸方向の寸法変化率R_(t)が0.1%未満であると、偏光板の光学特性に支障をきたす場合がある。 (略) 【0038】 上記式[1]の関係式の実現は、例えば前面側偏光板30が有する偏光子37の厚みを、背面側偏光板50が有する偏光子57の厚みより大きくすることで達成できる。偏光子の厚みが小さいほど、寸法変化率は小さくなるためである。」 (オ) 「【0052】 前面側偏光板30及び/又は背面側偏光板50は、偏光板とは異なる光学機能を示す、偏光子及び保護層以外の他の光学層を1層又は2層以上有することができる。他の光学層具体例は、例えば、反射層、半透過型反射層、位相差板、輝度向上フィルムを含む。例えば、前面側偏光板30及び/又は背面側偏光板50は、偏光子と保護層とを含む上述の偏光板に位相差板がさらに積層されている楕円偏光板又は円偏光板、1つの保護層が視野角補償フィルムである偏光板、偏光子と保護層とを含む上述の偏光板に輝度向上フィルムがさらに積層されている偏光板等であることができる。」 (カ) 「【0066】 (1)前面側偏光板30の作製 厚み60μmのポリビニルアルコールフィルム(平均重合度約2400、ケン化度99.9モル%以上)を、乾式延伸により約5倍に一軸延伸し、さらに緊張状態を保ったまま、60℃の純水に1分間浸漬した後、ヨウ素/ヨウ化カリウム/水の重量比が0.05/5/100の水溶液に28℃で60秒間浸漬した。その後、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水の重量比が8.5/8.5/100の水溶液に72℃で300秒間浸漬した。引き続き26℃の純水で20秒間洗浄した後、65℃で乾燥し、ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素が吸着配向している厚み23μmの偏光子37を得た。 【0067】 次に、得られた偏光子37の片面に、水100部に対して、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール〔(株)クラレから入手した商品名「KL-318」〕を3部溶解し、その水溶液に水溶性エポキシ樹脂であるポリアミドエポキシ系添加剤〔田岡化学工業(株)製の商品名「スミレーズレジン 650(30)」、固形分濃度30%の水溶液〕を1.5部添加した水系のエポキシ系接着剤を塗布し、保護層35aとして厚み40μmのトリアセチルセルロースフィルム〔コニカミノルタオプト(株)製の商品名「KC4UY」〕を貼合し、偏光子37の反対側には、前記の接着剤を用いて、保護層35bとして厚み2 3μmのノルボルネン系樹脂からなる延伸されていないフィルム〔日本ゼオン(株)製の商品名「ZEONOR」〕を貼合した。 (略) 【0070】 (3)前面板一体型液晶表示パネルの作製 上記(1)で得られた前面側偏光板30の保護層35bの外面に、粘着剤〔リンテック(株)製の商品名「#KZ」、アクリル系粘着剤〕を塗布し、厚み20μmの粘着剤層を形成した。また、上記(2)で得られた背面側偏光板50の保護層55aの外面に、粘着剤〔リンテック(株)製の商品名「#KZ」、アクリル系粘着剤〕を塗布し、厚み20μmの粘着剤層を形成した。 【0071】 次に、粘着剤層を有する前面側偏光板30を、液晶セル60の短辺に対して偏光子37の吸収軸が平行になるように5インチサイズに裁断するとともに、粘着剤層を有する背面側偏光板50を、液晶セル60の長辺に対して偏光子57の吸収軸が平行になるように5インチサイズに裁断した。次いで、裁断した2つの偏光板を、それぞれの粘着剤層を介して、2つの偏光板の短辺が液晶セル60の短辺と平行になるように液晶セル60に貼り合わせた。 (略) 【0073】 <実施例2> 次の手順で前面板一体型液晶表示パネルを作製した。なお、以下の説明では図1及び図2に示される参照符号を用いているが、これらの図と異なり、本実施例で作製した背面側偏光板50は、液晶セル60側の保護層55aを有しておらず、また、背面側偏光板50に保護層55bの外面には輝度向上フィルムが積層されている。 【0074】 (1)前面側偏光板30の作製 実施例1の(1)と同じ前面側偏光板30を作製した。 【0075】 (2)背面側偏光板50の作製 平均重合度1100でケン化度99.5モル%のアセトアセチル基変性ポリビニルアルコール粉末〔日本合成化学工業(株)製の商品名「ゴーセファイマー Z-200」〕を95℃の熱水に溶解して、3%濃度の水溶液を調製した。この水溶液に架橋剤として、水溶性ポリアミドエポキシ樹脂〔田岡化学工業(株)製の商品名「スミレーズレジン 650」、固形分濃度30%の水溶液〕を、ポリビニルアルコールの固形分6部あたり5部の割合で混合して、プライマー用塗工液とした。そして、基材フィルム(厚み110μm、融点163℃のポリプロピレンフィルム)にコロナ処理を施した後、そのコロナ処理面に、プライマー用塗工液をマイクログラビアコーターを用いて塗工した。その後、80℃で10分間乾燥して、厚さ0.2μmのプライマー層を形成した。 【0076】 次に、平均重合度2400でケン化度98.0?99.0モル%のポリビニルアルコール粉末〔(株)クラレから入手した商品名「PVA124」)を95℃の熱水に溶解して、8%濃度のポリビニルアルコール水溶液を調製した。得られた水溶液を、上記基材フィルムのプライマー層上にリップコーターを用いて室温で塗工し、80℃で20分間乾燥して、基材フィルム/プライマー層/ポリビニルアルコール層からなる積層フィルムを作製した。 【0077】 次いで、得られた積層フィルムを、温度160℃で5.8倍に自由端縦一軸延伸した。こうして得られた積層延伸フィルムの全体厚みは28.5μmであり、ポリビニルアルコール層の厚みは5.0μmであった。 【0078】 得られた積層延伸フィルムを、水/ヨウ素/ヨウ化カリウムの重量比が100/0.35/10の水溶液に26℃で90秒間浸漬して染色した後、10℃の純水で洗浄した。次に、この積層延伸フィルムを、水/ホウ酸/ヨウ化カリウムの重量比が100/9.5/5の水溶液に76℃で300秒間浸漬して、ポリビニルアルコールを架橋させた。引き続き、10℃の純水で10秒間洗浄し、最後に80℃で200秒間の乾燥処理を行った。以上の操作により、ポリプロピレン基材フィルム上に、ヨウ素が吸着配向しているポリビニルアルコール層からなる偏光子57が形成されている偏光性積層フィルムを作製した。 【0079】 得られた偏光性積層フィルムの基材フィルムとは反対面(偏光子面)に、水100部に対して、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール〔(株)クラレから入手した商品名「KL-318」〕を3部溶解し、その水溶液に水溶性エポキシ樹脂であるポリアミドエポキシ系添加剤〔田岡化学工業(株)製の商品名「スミレーズレジン 650(30)」、固形分濃度30%の水溶液〕を1.5部添加した水系のエポキシ系接着剤を塗布し、保護層55bとして厚さ25μmのトリアセチルセルロースフィルム〔コニカミノルタオプト(株)社製の商品名「KC2UA」〕を貼合し、基材フィルムのみを剥離することによって、保護層55b/偏光子57/プライマー層からなる偏光板を得た。 【0080】 その後、保護層55bの外面に、厚み5μmの粘着剤〔リンテック(株)製の商品名「#L2」、アクリル系粘着剤〕を貼合して、粘着剤層を形成した後、その上に厚み26μmの輝度向上フィルム〔3M社製の商品名「Advanced Polarized Film,Version 3」〕を貼合した。 【0081】 (3)前面板一体型液晶表示パネルの作製 本実施例の上記(1)、(2)で得られた前面側偏光板30、背面側偏光板50を用いたこと以外は、実施例1と同様にして前面板一体型液晶表示パネルを作製した。」 (キ) 「【0085】 (前面板一体型液晶表示パネルの反り量) 前面板一体型液晶表示パネルを、85℃の環境下に240時間静置した後、前面板10を上にして(株)ニコン製の二次元測定器「NEXIV VMR-12072」の測定台上に置いた。次いで、測定台の表面に焦点を合わせ、そこを基準としたうえで、前面板一体型液晶表示パネルの4角部、4辺の各中央及び前面板一体型液晶表示パネル表面の中央(計9点)のそれぞれに焦点を合わせ、上記基準とした焦点からの距離を測定した後、測定台からの距離が絶対値で最も長い距離を反り量とした。 【0086】 【表1】 」 イ 上記(カ)、(キ)から、次の技術的事項が読みとれる。 (ア) 実施例2の前面側偏光板は、厚み23μmの偏光子の片側に厚み40μmのトリアセチルセルロースフィルムからなる保護層を貼り合せ、反対側に厚み23μmのノルボルネン系樹脂で延伸されていないフィルムからなる保護層を貼合して構成し、前面側偏光板を85℃で100時間加熱したときの吸収軸方向における寸法変化率は1.4%である。 (イ) 実施例2の背面側偏光板は、厚み5.0μmの偏光子の片側に厚さ25μmのトリアセチルセルロースフィルムからなる保護層を貼り合せ、前記トリアセチルセルロースフィルム側に、厚み5μmの粘着材を貼合し、輝度向上フィルムを貼合して構成し、前面側偏光板を85℃で100時間加熱したときの吸収軸方向における寸法変化率は、1.1%である。 (ウ) 実施例2の背面側偏光板を、トリアセチルセルロースフィルムを貼り合わせた反対側に厚み20μmの粘着剤層を介して液晶セルに貼合した。したがって、背面側偏光板を液晶セルの背面側に配置する際に、液晶セルに接する表面から輝度向上フィルムまでの距離は、55μmである。 (エ) 実施例2において、前面側偏光板を85℃で100時間加熱したときの吸収軸方向における寸法変化率と、背面側偏光板を85℃で100時間加熱したときの吸収軸方向における寸法変化率との比は1.5%/1.1%=1.36である。 ウ 以上の記載によれば、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。 「液晶セルの視認側に配置される前面側偏光板と、前記液晶セルの背面側に配置される背面側偏光板とのセットであって、 前記背面側偏光板は、偏光子の両側にトリアセチルセルロースフィルムからなる保護層を貼り合せ、反対側にノルボルネン系樹脂で延伸されていないフィルムからなる保護層を貼合し、前記トリアセチルセルロースフィルム側に、粘着材を貼合し、輝度向上フィルムを貼合して構成し、背面側偏光板を液晶セルの背面側に配置する際に、液晶セルに接する表面から輝度向上フィルムまでの距離は、55μmであり、 前記前面側偏光板を85℃で100時間加熱したときの吸収軸方向における寸法変化率と、前期背面側偏光板を85℃で100時間加熱したときの吸収軸方向における寸法変化率との比は1.36である 偏光板のセット。」 (2) 甲2について ア 本件特許の優先権主張の日前に頒布された甲2には、以下の事項が記載されている。 (ア) 「【請求項1】 厚み10μm以下の偏光膜と反射偏光フィルムとを有する、光学積層体。 【請求項2】 前記偏光膜が横延伸により得られたものである、請求項1に記載の光学積層体。 【請求項3】 請求項1または2に記載の光学積層体である第1の光学積層体と、該第1の光学積層体の偏光膜の厚みよりも5μm以上厚い偏光膜を含む第2の光学積層体とで構成される、光学積層体のセット。 【請求項4】 液晶セルと請求項1または2に記載の光学積層体とを有する、液晶パネル。 【請求項5】 液晶セルと請求項3に記載の光学積層体のセットとを有する液晶パネルであって、 前記第2の光学積層体が視認側に配置され、前記第1の光学積層体が視認側と反対側に配置されている、 液晶パネル。」 (イ) 「【0009】 (略) 本発明によれば、このような薄い偏光膜と反射偏光フィルムとを積層することにより、液晶パネルの反りを抑制することができる。また、詳細は後述するように、本発明の光学積層体(以下、光学積層体のセットに関して言及する際には第1の光学積層体とも称する場合がある)と、当該第1の光学積層体の偏光膜よりも厚い偏光膜を有する第2の光学積層体をセットとして用いることにより、このような効果がより顕著なものとなり得る。より具体的には、本発明の光学積層体(第1の光学積層体)を液晶セルの視認側と反対側に配置し、かつ、第2の光学積層体を液晶セルの視認側に配置することにより、液晶パネルの反りを顕著に抑制し、結果として表示ムラや光漏れを防止することができる。さらに、本発明によれば、光学積層体に反射偏光フィルムが含まれていることにより、バックライトの利用効率を向上させることができる。近年、液晶表示装置の低価格化が進むことにより液晶パネルの低輝度化につながっているところ、本発明の光学積層体は、このような低輝度化の抑制にも貢献し得る。すなわち、本発明の光学積層体によれば、液晶パネルの反りの抑制と低輝度化の防止という2つの効果を同時に実現することができる。さらに、本発明の光学積層体によれば、高いコントラストを有する液晶パネルを実現することができる。」 (3) 甲3について ア 本件特許の優先権主張の日前に頒布された甲3には、以下の事項が記載されている。 (ア) 「【0019】 まず、液晶表示部の反りについて詳細に述べる。図1の液晶表示部6において、第一基板3、第二基板4はガラスからなり、歪み(単位長さあたりの歪み)は偏光板に対して無視できるほど小さい。また、第一偏光板1、第二偏光板2について、歪み絶対値が最も大きく偏光板の歪みに最も影響するのはPVAからなる第一偏光層1p、第二偏光層2pである。また、特許文献2等によれば、高延伸の故、高熱環境や高湿環境下で偏光層は収縮する傾向が強く、MDの方がTDより収縮傾向が強いのが一般的である。」 第5 異議申立理由についての当合議体の判断 1 申立理由1について (1) 本件特許発明1について ア 対比・一致点・相違点 本件特許発明1と甲1発明とを対比する。 (ア) 甲1発明の「前面側偏光板」、「背面側偏光板」、「輝度向上フィルム」は、本件特許発明1の「視認側偏光板」、「背面側偏光板」、「輝度向上フィルム」に各々相当する。 (イ) 甲1発明の「偏光子の両側にトリアセチルセルロースフィルムからなる保護層を貼り合せ、反対側にノルボルネン系樹脂で延伸されていないフィルムからなる保護層を貼合」したものは、その構成、及び、これらを含む背面側偏光板が吸収軸方向における寸法変化率を求めていることからみて、吸収軸を有する吸収型偏光板であることは明らかである。 したがって、甲1発明の「前記背面側偏光板は、偏光子の両側にトリアセチルセルロースフィルムからなる保護層を貼り合せ、反対側にノルボルネン系樹脂で延伸されていないフィルムからなる保護層を貼合し、前記トリアセチルセルロースフィルム側に、粘着材を貼合し、輝度向上フィルムを貼合して構成」することは、本件特許発明1の「前記背面側偏光板は、輝度向上フィルムとが積層された構成を有」することに相当する。 したがって、甲1発明と、本件特許発明1とは、 (一致点) 「液晶セルの視認側に配置される視認側偏光板と液晶セルの背面側に配置される背面側偏光板とのセットであって、 前記背面側偏光板は、輝度向上フィルムと吸収型偏光板とが積層された構成を有し、前記液晶セルの背面側に配置する際に前記液晶セルに接する表面から前記輝度向上フィルムまでの距離が100μm以下であり、 前記視認側偏光板を85℃で100時間加熱したときの吸収軸方向における寸法変化率と、前記背面側偏光板を85℃で100時間加熱したときの吸収軸方向における寸法変化率との比が1超1.4以下である偏光板のセット。」である点で一致し、次の点で相違する。 (相違点1) 本件特許発明1では、「前記背面側偏光板の寸法変化率は0.98%以下である」であるのに対し、甲1発明では、「背面側偏光板の寸法変化率は、1.1%である点。 イ 相違点についての検討 上記相違点1について検討する。 特許異議申立人は、特許異議申立書の13頁12?17行に、甲第1号証(引用文献1)の「背面側偏光板50の吸収軸方向の寸法変化率R_(a)は、好ましくは0.8?3.0%」の記載から、背面側偏光板の寸法変化率が0.98%以下であることが記載されている旨主張している。 上記主張を検討するに、甲1の【0036】に「背面側偏光板50の吸収軸方向の寸法変化率R_(a)は、好ましくは0.8?3.0%であり、より好ましくは1.0?2.0%である。」との記載がある。 一方、甲1の実施例は、背面側偏光板の吸収軸方向の寸法変化率が1.4、1.1のものを選択しており、上記の「より好ましくは1.0?2.0%である」の範囲であり、それ以外のものは記載されていない。 そして、甲1は、上記で摘記した事項からみて、前面側偏光板における吸収軸方向及び透過軸方向の寸法変化率と前記背面側偏光板における吸収軸方向及び透過軸方向の寸法変化率とを用いた所定の式を満たすことで、液晶表示パネルとした際に高温環境下での反り量が抑制されるものである。 したがって、上記記載にある背面側偏光板の吸収軸方向の寸法変化率の範囲が必ずしも最適な実施例として該当するものとまではいえない。 よって、引用文献1発明は、前面側偏光板の吸収軸方向の寸法変化率と、背面側偏光板の吸収軸方向の寸法変化率として、実施例1,2に記載されたものが記載されているのみであるため、上記主張は採用できない。 ウ 結論 上記のとおり、本件特許発明1は、甲1発明と相違点1の点で相違するから、甲1発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しない。 (2) 本件特許発明2?本件特許発明5について 本件特許発明2?本件特許発明5は、本件特許発明1を限定した発明である。そして、上記(1)で判断したとおり、本件特許発明1は、甲1発明でないため、本件特許発明1の特定事項を全て含み、さらに限定を加えた本件特許発明2?本件特許発明5についても、甲1発明でないことは明らかである。 2 申立理由2について (1) 本件特許発明1について ア 対比・一致点・相違点 上記1(1)アで検討したとおり、本件特許発明1と甲1発明とは、上記相違点1で相違し、その他の点で一致する。 イ 相違点についての検討 上記相違点1について検討する。 甲1発明は、上記第4(1)(イ)で摘記したように、「液晶表示パネルとした際に高温環境下での反り量が抑制される偏光板のセット、及びこの偏光板のセットを液晶セルに貼合してなる前面板一体型液晶表示パネルを提供する」ものである。 一方、甲1の【0036】に「背面側偏光板50の吸収軸方向の寸法変化率R_(a)は、好ましくは0.8?3.0%であり、より好ましくは1.0?2.0%である。」との記載がある。 しかしながら、甲1は、上記で摘記した事項からみて、前面側偏光板における吸収軸方向及び透過軸方向の寸法変化率と前記背面側偏光板における吸収軸方向及び透過軸方向の寸法変化率とを用いた所定の式を満たすことで、液晶表示パネルとした際に高温環境下での反り量が抑制されるものである。 そのため、甲1に記載されているように、背面側偏光板50の吸収軸方向の寸法変化率として、「より好ましくは1.0?2.0%」として選択した実施例において、それ以外の範囲に設計することは、当業者が容易に想到し得るとはいえない。 そして、甲2に記載された「このような薄い偏光膜と反射偏光フィルムとを積層することにより、液晶パネルの反りを抑制することができる」ことや、甲3に記載された「図1の液晶表示部6において、第一基板3、第二基板4はガラスからなり、歪み(単位長さあたりの歪み)は偏光板に対して無視できるほど小さい。また、第一偏光板1、第二偏光板2について、歪み絶対値が最も大きく偏光板の歪みに最も影響するのはPVAからなる第一偏光層1p、第二偏光層2pである。また、特許文献2等によれば、高延伸の故、高熱環境や高湿環境下で偏光層は収縮する傾向が強く、MDの方がTDより収縮傾向が強いのが一般的である」ことは、各々に記載された液晶表示パネルが、甲1の前面板一体型液晶表示パネルと構造が異なるため、これらを異なる構造の液晶パネルである甲1発明の偏光板のセットに適用することは、当業者が容易に想到し得るとはいえない。 なお、特許異議申立人は、特許異議申立書の13頁39行?15頁35行に、 (ア) 甲1に記載された「高温環境下における偏光板の収縮は吸収軸方向で大きく、特に、吸収軸方向の寸法がより大きい背面側偏光板50における吸収軸50a方向の寸法変化率が、前面板一体型液晶表示パネルの反りに対して支配的となる。」、 「85℃にて100時間加熱したときの前記前面側偏光板における吸収軸方向及び透過軸方向の寸法変化率をそれぞれF_(a)、F_(t)とし、85℃にて100時間加熱したときの前記背面側偏光板における吸収軸方向及び透過軸方向の寸法変化率をそれぞれR_(a)、R_(t)とするとき、 下記式: (R_(a)-F_(t))<(F_(a)-R_(t)) [I] を満たす」、 「上記式[1]の関係式の実現は、例えば前面側偏光板30が有する偏光子37の厚みを、背面側偏光板50が有する偏光子57の厚みより大きくすることで達成できる。偏光子の厚みが小さいほど、寸法変化率は小さくなるためである。」(各々【0032】、【0035】、【0038】に記載。)からみて、甲1発明は、背面側偏光板の寸法変化率よりも、視認側偏光板の寸法変化率の方を大きくした方が良いことが容易に推認される(以下、「主張ア」という。)、及び、 (イ) 甲2発明には、視認側偏光板の寸法変化率を、背面側偏光板の寸法変化率よりも大きくすることが、液晶パネルの反りの抑制に効果的に働くことが示唆され、甲3発明には、液晶表示パネルの反りに関し、偏光板の歪みの差を小さくすることを前提として検討していること(以下、「主張イ」という。)、 (ウ) 甲1の実施例2の液晶セルの背面側偏光板の寸法変化率(1.1%)よりも、小さい方が偏光板の収縮量が小さく、反りにとって好ましいであろうことは、当業者が容易に想到し得ることであり、背面側偏光板の寸法変化率が0.98%は、甲1にも好ましいとして記載されている範囲内の数値である(以下、「主張ウ」という。)、 (エ) 本件特許発明1の効果が、甲1発明や甲2発明の反りの効果と同程度であり、格別顕著な効果が達成できたものではない(以下、「主張エ」という。)ため、本件特許発明1は、甲1?甲3発明から当業者であれば容易に想到し得たものである旨主張している。 しかしながら、「主張ア」に関し、甲1では、前面側偏光板における吸収軸方向及び透過軸方向の寸法変化率、背面側偏光板における吸収軸方向及び透過軸方向の寸法変化率という4つの寸法変化率をもとに前面板が一体化された液晶表示パネルにおける反りを抑制する技術が記載されているため、「吸収軸方向の寸法がより大きい背面側偏光板50における吸収軸50a方向の寸法変化率が、前面板一体型液晶表示パネルの反りに対して支配的」という一般的事象をもって、他の寸法変化率等との関係を考慮せず、背面側偏光板における吸収軸方向の寸法変化率を設定し得るかどうかまで示唆され得るとはいえない。 「主張イ」に関し、上記で検討したとおり、甲2及び甲3では、液晶パネルの構造が、甲1の前面板一体型液晶表示パネルと異なるため、甲2及び甲3に記載された反りを抑制するための技術を甲1発明に適用することは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 「主張ウ」に関し、上記で検討したとおり、甲1に記載された実施例1、実施例2の背面側偏光板の吸収軸方向の寸法変化率が「より好ましい」範囲から選択されたものに鑑みると、それ以外の範囲のものを設計することまで想定はしていないと考えるのが妥当といえる。 「主張エ」に関し、甲1と甲2とは、液晶表示パネルの構造が異なるため、単に反りの数値が類似することをもって、効果を比較することはできない。 したがって、上記主張は採用できない。 よって、本件特許発明1は、甲1発明及び甲2?3に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。 (2) 本件特許発明2?本件特許発明5について 本件特許発明2?本件特許発明5は、本件特許発明1を限定した発明である。そして、上記(1)で記載したとおり、本件特許発明1は、甲1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の特定事項を全て含み、さらに限定を加えた本件特許発明2?本件特許発明5についても、甲1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないことは明らかである。 第6 むすび 以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2017-12-13 |
出願番号 | 特願2016-114151(P2016-114151) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(G02F)
P 1 651・ 113- Y (G02F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 磯崎 忠昭 |
特許庁審判長 |
森 竜介 |
特許庁審判官 |
星野 浩一 居島 一仁 |
登録日 | 2017-03-24 |
登録番号 | 特許第6112249号(P6112249) |
権利者 | 住友化学株式会社 |
発明の名称 | 偏光板のセット及び液晶パネル |
代理人 | 特許業務法人深見特許事務所 |
代理人 | 坂元 徹 |
代理人 | 中山 亨 |