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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B63H |
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管理番号 | 1336177 |
異議申立番号 | 異議2017-700923 |
総通号数 | 218 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-02-23 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-09-29 |
確定日 | 2017-12-22 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6104491号「船舶用脱硫装置および該船舶用脱硫装置を搭載した船舶」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6104491号の請求項1ないし16に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6104491号の請求項1?16に係る特許についての出願は、平成29年1月20日の出願であって、平成29年3月10日に特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人ジャパンマリンユナイテッド株式会社より特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 特許第6104491号の請求項1?16に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明16」という。)は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?16に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 船舶に搭載される排ガス発生装置から排出される排ガスを脱硫するための船舶用脱硫装置であって、 長手方向を有する内部空間を画定するとともに、前記長手方向における一方側の端部に前記内部空間と連通する排ガス導入口が形成された吸収塔本体部、を含む吸収塔と、 前記排ガス発生装置から排出される排ガスを前記吸収塔本体部に導くための排ガス導入装置と、を備え、 前記吸収塔本体部の前記内部空間の長手方向の最大長さをL、 前記吸収塔本体部の前記内部空間の長手方向に対して直交する短手方向の最大幅をW、とした場合に、 前記最大幅Wと前記最大長さLの比(W:L)が1:1.1超、且つ、1:6.0以下の範囲である船舶用脱硫装置。 【請求項2】 前記最大幅Wと前記最大長さLの比(W:L)が1:1.5超、且つ、1:2.0以下の範囲である請求項1に記載の船舶用脱硫装置。 【請求項3】 前記吸収塔は、前記吸収塔本体部の前記内部空間の長手方向が前記船舶の幅方向に沿うように、前記船舶に搭載される請求項1又は2に記載の船舶用脱硫装置。 【請求項4】 前記船舶は、前記排ガス発生装置から排出される排ガスを外部に放出するための煙突であって、前記船舶の幅方向に沿って長手方向を有する長筒状に形成される煙突を備え、 前記吸収塔は、前記煙突の内側に配置される請求項3に記載の船舶用脱硫装置。 【請求項5】 前記煙突の内側には、前記排ガス発生装置から排出される排ガスから熱エネルギを回収するための排熱回収装置が配置され、 前記吸収塔は、前記排熱回収装置と前記船舶の幅方向に沿って並んで配置される請求項4に記載の船舶用脱硫装置。 【請求項6】 前記吸収塔は、一端部が前記吸収塔本体部の前記排ガス導入口に接続されるとともに、前記一端部から他端部に向かって上向きに延在する排ガス導入部をさらに含む請求項5に記載の船舶用脱硫装置。 【請求項7】 前記排ガス発生装置は、主機関及び補助機関を含み、 前記排ガス導入装置は、 前記排熱回収装置側から前記排ガス導入部の前記他端部に向かって、前記船舶の幅方向に沿って延在する排ガス導入管と、 前記排ガス導入管に接続され、前記補助機関から排出される排ガスを、前記排ガス導入管を介して、前記吸収塔本体部に導くための補機用排ガス導入管と、を含む請求項6に記載の船舶用脱硫装置。 【請求項8】 前記吸収塔本体部は、 前記内部空間の長手方向に沿って互いに平行に延在する一対の長手壁面と、 前記内部空間の短手方向に沿って互いに平行に延在する一対に短手壁面と、を含む請求項1から7の何れか1項に記載の船舶用脱硫装置。 【請求項9】 前記吸収塔本体部には、前記内部空間に導かれた前記排ガスに対して散布された散布済みの洗浄液が貯留される貯留空間が形成され、 前記吸収塔本体部は、前記一対の長手壁面を接続するとともに、前記貯留空間を前記内部空間の短手方向に沿って横断する横断部材を有する請求項8に記載の船舶用脱硫装置。 【請求項10】 前記横断部材が、長尺形状を有する横梁部材からなる請求項9に記載の船舶用脱硫装置。 【請求項11】 前記横断部材が、平板形状を有する堰板部材からなる請求項9に記載の船舶用脱硫装置。 【請求項12】 前記船舶用脱硫装置は、前記吸収塔本体部の前記内部空間に導かれた前記排ガスに対して洗浄液を散布するための散布装置をさらに備え、 前記散布装置は、前記吸収塔本体部の前記内部空間において前記一対の長手壁面の各々に対して平行に延在する長手方向散水管と、前記長手方向散水管に設けられた複数の散水ノズルと、を有する請求項8から11の何れか1項に記載の船舶用脱硫装置。 【請求項13】 前記船舶用脱硫装置は、前記吸収塔本体部の前記内部空間に導かれた前記排ガスに対して洗浄液を散布するための散布装置をさらに備え、 前記散布装置は、前記吸収塔本体部の前記内部空間において前記一対の短手壁面の各々に対して平行に延在するとともに等間隔に配置される複数の短手方向散水管と、前記複数の短手方向散水管の各々に設けられた少なくとも一つの散水ノズルと、を有する請求項8から11の何れか1項に記載の船舶用脱硫装置。 【請求項14】 前記排ガス発生装置は、主機関を含み、 前記主機関の排ガス量が20万Nm^(3)/h以上である請求項1から13の何れか1項に記載の船舶用脱硫装置。 【請求項15】 前記船舶は、10,000TEU以上のコンテナ積載容積を有するコンテナ船からなる請求項1から14の何れか1項に記載の船舶用脱硫装置。 【請求項16】 請求項1から15の何れか1項に記載の船舶用脱硫装置を搭載した船舶。」 第3 申立理由の概要 1 特許異議申立人の主張の概要 (1)本件発明1?3、8、16は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明することができたものである。 (2)本件発明15は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?3号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明することができたものである。 (3)本件発明12、13は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2、4号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明することができたものである。 (4)本件発明4は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?4号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明することができたものである。 (5)本件発明5、6は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?5号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明することができたものである。 (6)本件発明7は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?7号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明することができたものである。 (7)本件発明9ないし11は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2、8号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明することができたものである。 (8)本件発明14は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2、9号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明することができたものである。 上記(1)?(8)によれば、本件発明1?16は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、本件特許は同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである旨主張している。 2 特許異議申立人が提出した証拠方法 (1)甲第1号証 「Dry EGCS Process」 Couple Systems社、2010年9月8日 http://www.egcsa.com/resources/workshops_presentations_2a/egcsa_smm_-workshop_2010/ http://www.egcsa.com/wp-content/uploads/Couple-Systems-EGCS-SMM-Workshop-2010.pdf http://www.egcsa.com/wp-content/uploads/EGCSA-Overview-EGCS-SMM-Workshop-2010.pdf (2)甲第2号証 「How to fulfill future exhaustgas emission regulations」 Flensburger Schiffbau-Gesellschaft社、2010年9月7日 (3)甲第3号証 「Significant Ships of 2016」 The Royal Institution of Naval Architects、2017年2月発行 第1ページ、第3ページ、第52?53ページ (4)甲第4号証 「排ガス浄化装置ガイドライン」 一般財団法人 日本海事協会 機関部、2014年8月発行 (5)甲第5号証 特開2014-134154号公報 (6)甲第6号証 特開2015-199413号公報 (7)甲第7号証 特開2016-168574号公報 (8)甲第8号証 渡辺祐輔、小柳翔、「国際海事機関(IMO)による排ガスSOx規制に対応した船舶用ハイブリッドSOxスクラバーシステムの開発と実船搭載」三菱重工技報 三菱重工業株式会社、2016年発行、Vol.53、No.2 第45?49ページ (注:原文では、著者名の「柳」の文字における「卯」の左側の部分は「夕」) (9)甲9号証 「MAN B&W S90ME-C10.5-TII Project Guide」 Man Diesel、2014年4月発行 第1?2ページ、第147ページ 第4 各甲号証の記載事項 1 甲第1号証 甲第1号証には以下の事項が記載されている。なお、ページ番号として甲第1号証の各スライド右肩に付されたスライド番号を用いる。 (1A)甲第1号証の第7ページには以下の図が示されている。 また、上記図には以下の事項が記載されている。 (1a)「DryEGCS -Dry Exhaust Gas Cleaning system(SOx removal)」(表題部第1行:当審訳「DryEGCS -乾式排ガス浄化システム(硫黄酸化物除去)」) (1b)「silo」(中央の図形の上方:当審訳「サイロ」) (1c)「sorption material」(中央の図形の上方に入力される表題部直下の矢印上:当審訳「吸収材」) (1d)「marine motor」(左下の図形内:当審訳「船用エンジン」) (1e)「diesel」(左下の図形に入力される矢印右肩:当審訳「ディーゼル」) (1f)「reaction product」(中央の図形の下部に配置された図形左肩:当審訳「反応生成物」) (1g)「discharge」(中央の図形の下方の図形右下:当審訳「排出物」) (1h)「SCR」(中央の図形の右側四角内:当審訳「選択触媒還元」) (1i)「fan」(上記「SCR」の右側の図形直下:当審訳「ファン」) (1j)「shut down damper」(上記「fan」の右側の図形直下:当審訳「閉鎖ダンパ」) (1k)「funnel」(右側の図形の直下:当審訳「煙突」) (1B)甲第1号証の第9ページには以下の図が示されている。 また、上記図には以下の事項が記載されている。 (1a)「DryEGCS」(中央の直方体上部:当審訳「乾式排ガス浄化システム」) (1b)「Exhaust Gas」(中央の直方体直右:当審訳「排ガス」) (1c)「Granulate Supply」(「Exhaust Gas」の右上:当審訳「粒供給」) (1d)「Granulate Discharge」(「Exhaust Gas」の右下:当審訳「粒排出」) (1e)「Engine」(右下図形内:当審訳「エンジン」) (1f)「Silo Position Variable」(中央の直方体上の直方体内:当審訳「位置の変化するサイロ」) (1g)「Screw Conveyer」(中央の直方体下部:当審訳「スクリューコンベア」) (1C)甲第1号証の第10ページには以下の図が示されている。 また、上記図には以下の事項が記載されている。 (1a)「DryEGCS」(中央の直方体上部:当審訳「乾式排ガス浄化システム」) (1b)「Exhaust Gas」(中央の直方体直右:当審訳「排ガス」) (1c)「Granulate Supply」(「Exhaust Gas」の右上:当審訳「粒供給」) (1d)「Granulate Discharge」(「Exhaust Gas」の右下:当審訳「粒排出」) (1e)「Silo Position Variable」(中央の直方体上の直方体内:当審訳「位置の変化するサイロ」) (1f)「Screw Conveyer」(中央の直方体下部:当審訳「スクリューコンベア」) (1D)甲第1号証の第19ページには以下の図が示されている。 また、上記図には以下の事項が記載されている。 (1a)「DryEGCS Pilot-installation on MS Timbus」(図の左上部第1?3行:当審訳「MS Timbusへの乾式排ガス浄化システム試験据付け」) (1E)甲第1号証の第20ページには以下の図が示されている。 (1F)甲第1号証の第21ページには以下の図が示されている。 また、上記図には以下の事項が記載されている。 (1a)「Granulate Silo」(図の左側、1番上の囲み内:当審訳「粒サイロ」) (1b)「Reactor」(図の左側、上から2番目の囲み内:当審訳「反応装置」) (1c)「Screw Conveyor」(図の左側、上から3番目の囲み内:当審訳「スクリューコンベア」) (1d)「Discharge System」(図の左側、上から4番目の囲み内:当審訳「排出システム」) また、上記記載事項及び図示内容によれば、以下の事項が認められる。 (1G)甲第1号証には、上記(1A)のとおり、「DryEGCS -乾式排ガス浄化システム(硫黄酸化物除去)(DryEGCS -Dry Exhaust Gas Cleaning system(SOx removal))」という表題のフローチャートが図示されているところ、かかる図面より、以下の事項が看取できる。 ・船用エンジン(marine motor)にディーゼル(diesel)が供給され、船用エンジン(marine motor)から排出されるものが図面中央部の図形で表される装置に供給されること ・図面中央部の図形で表される装置は上部にサイロ(silo)を備え、ここに吸収材(sorption material)が供給されること ・図面中央部の図形で表される装置の下部から反応生成物(reaction product)及び排出物(discharge)が排出されること ・図面中央部の図形で表される装置から排出されるものが選択触媒還元(SCR)、ファン(fan)、閉鎖ダンパ(shut down damper)を経て煙突(funnel)から排出されること ・図面中央部の図形で表される装置が内部空間を有していること、 (1H)認定事項(1G)における「船用エンジン(marine motor)から排出されるもの」は、「DryEGCS -乾式排ガス浄化システム(硫黄酸化物除去)(DryEGCS -Dry Exhaust Gas Cleaning system(SOx removal))」というフローチャートの表題及び「船用エンジン(marine motor)にディーゼル(diesel)が供給され」て排出されているものであることを踏まえると、排ガス(Exhaust Gas)であることは明らかである。 また、図面中央部の図形で表される装置は、「DryEGCS -乾式排ガス浄化システム(硫黄酸化物除去)(DryEGCS -Dry Exhaust Gas Cleaning system(SOx removal))」というフローチャートの表題、並びに当該装置に「船用エンジン(marine motor)から排出されるもの」、すなわち排ガス(Exhaust Gas)及び吸収材(sorption material)が供給されるとともに、そこから排出されるものが「選択触媒還元(SCR)、ファン(fan)、閉鎖ダンパ(shut down damper)を経て煙突(funnel)から排出される」ことを踏まえると、排ガス(Exhaust Gas)及び吸収材(sorption material)を反応させて硫黄酸化物除去(SOx removal)を行う装置であること、またその反応は図面中央部の図形で表される装置の内部空間で行われることが明らかである。 (1I)記載事項(1D)には、「MS Timbusへの乾式排ガス浄化システム試験据付け(DryEGCS Pilot-installation on MS Timbus)」という表題が付され、これと連続するページの図面である記載事項(1E)、(1F)には表題が付されていないから、記載事項(1E)、(1F)は記載事項(1D)と同様に、「MS Timbusへの乾式排ガス浄化システム試験据付け(DryEGCS Pilot-installation on MS Timbus)」を表した図面であることが明らかである。 そうすると、記載事項(1E)、(1F)から、以下の事項が看取できる。 ・MS Timbusへ据付けられた、上部に粒サイロ(Granulate Silo)を、その下部に反応装置(Reactor)を、その下部にスクリューコンベア(Screw Conveyor)を、その下部に排出システム(Discharge System)を備え、前記反応装置(Reactor)は、長手方向と短手方向を有する断面矩形状であり、前記反応装置(Reactor)の側方にはこれと接続する管が複数配置される乾式排ガス浄化システム(DryEGCS) (1J)甲第1号証は、「Dry EGCS Process」という表題で、全体を通じて乾式排ガス浄化システム(DryEGCS)という同一のシステムについて記載している。そして、上記(1G)で述べたとおり、記載事項(1A)には、「DryEGCS -乾式排ガス浄化システム(硫黄酸化物除去)(DryEGCS -Dry Exhaust Gas Cleaning system(SOx removal))」という表題のフローチャートが図示されており、これ以外に「乾式排ガス浄化システム(DryEGCS)」のフローチャートを記載した図は含まれていない。そうすると、記載事項(1A)のフローチャートの図示内容の「乾式排ガス浄化システム(DryEGCS)」が、記載事項(1E)、(1F)に図示される「乾式排ガス浄化システム(DryEGCS)」にも備わっていると理解することが合理的である。 したがって、記載事項(1E)、(1F)と記載事項(1A)を併せて参照すると、認定事項(1H)、(1I)から、以下の事項が明らかである。 ・記載事項(1E)、(1F)における反応装置(Reactor)には、船用エンジン(marine motor)から排出される排ガス(Exhaust Gas)が供給されること ・記載事項(1E)、(1F)における反応装置(Reactor)へは、前記反応装置(Reactor)の側方に配された管のいずれかを介して排ガスが供給されること ・記載事項(1E)、(1F)における粒サイロ(Granulate Silo)には、吸収材(sorption material)が供給されること ・記載事項(1E)、(1F)における反応装置(Reactor)は、内部空間を有しており、排ガス(Exhaust Gas)及び吸収材(sorption material)を反応させて、硫黄酸化物除去(SOx removal)の反応を行うこと 以上から、認定事項(1I)、(1J)を踏まえると、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認める。 「MS Timbusへ据付けられた、上部に粒サイロ(Granulate Silo)を、その下部に反応装置(Reactor)を、その下部にスクリューコンベア(Screw Conveyor)を、その下部に排出システム(Discharge System)を備え、前記反応装置(Reactor)は、長手方向と短手方向を有する断面矩形状であり、前記反応装置(Reactor)の側方にはこれと接続する管が複数配置される乾式排ガス浄化システム(DryEGCS)において、 上記反応装置(Reactor)には、船用エンジン(marine motor)から排出される排ガス(Exhaust Gas)が供給され、 上記反応装置(Reactor)へは、前記反応装置(Reactor)の側方に配された管のいずれかを介して排ガスが供給され、 上記反応装置(Reactor)は、内部空間を有しており、排ガス(Exhaust Gas)及び吸収材(sorption material)を反応させて、硫黄酸化物除去(SOx removal)の反応を行う 乾式排ガス浄化システム(DryEGCS)。」 2 甲第2号証 甲第2号証には以下の事項が記載されている。なお、ページ番号として甲第2号証の各スライド右肩に付されたスライド番号を用いる。 (2A)甲第2号証の第15ページには以下の図が示されている。 なお、同図の「Reactor as main part」のみを拡大して示すと次のとおりである。 また、上記図には以下の事項が記載されている。 (2a)「The components of the Dry-EGCS plant」(表題部:当審訳「DryEGCSプラントの構成要素」) (2b)「Reactor as main part」(図右側:当審訳「反応装置主要部」) また、上記記載事項及び図示内容によれば、以下の事項が認められる。 (2B)甲第2号証には、上記(2A)のとおり、「DryEGCSプラントの構成要素(The components of the Dry-EGCS plant)」という表題の図が図示されているところ、かかる図面より、以下の事項が看取できる。 ・反応装置主要部(Reactor as main part)は長手方向と短手方向を有する断面矩形であり、長手方向の寸法は6300、短手方向の寸法は3040であること 第5 当審の判断 1 本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲1発明を対比する。 (ア)甲1発明の「船用エンジン(marine motor)」は、「排ガス(Exhaust Gas)」を排出するエンジンである。したがって、甲1発明の「船用エンジン(marine motor)」は、その意味、機能または構造からみて、本件発明1の「排ガス発生装置」に相当する。 (イ)甲1発明の「反応装置(Reactor)」は、「排ガス(Exhaust Gas)及び吸収材(sorption material)を反応させて、硫黄酸化物除去(SOx removal)の反応を行う」ものであるから、甲1発明の「反応装置(Reactor)」は、その意味、機能または構造からみて、本件発明1の「吸収塔」に相当する。 (ウ)甲1発明の「乾式排ガス浄化システム(DryEGCS)」は「MS Timbus」という船舶へ「据付けられた」ものであって、「反応装置(Reactor)」には、「船用エンジン(marine motor)から排出される排ガス(Exhaust Gas)が供給され」、「排ガス(Exhaust Gas)及び吸収材(sorption material)を反応させて、硫黄酸化物除去(SOx removal)の反応を行う」のであるから、甲1発明の「MS Timbusへ据付けられ」、「反応装置(Reactor)」に「船用エンジン(marine motor)から排出される排ガス(Exhaust Gas)が供給され」るとともに「排ガス(Exhaust Gas)及び吸収材(sorption material)を反応させて、硫黄酸化物除去(SOx removal)の反応を行う乾式排ガス浄化システム(DryEGCS)」は、本件発明1の「船舶に搭載される排ガス発生装置から排出される排ガスを脱硫するための船舶用脱硫装置」に相当する。 (エ)甲1発明の「反応装置(Reactor)」は、「内部空間を有し」て「排ガス(Exhaust Gas)及び吸収材(sorption material)を反応させて、硫黄酸化物除去(SOx removal)の反応を行う」のであるから、その内部空間と連通する排ガス導入口が形成されていることは明らかである。したがって、甲1発明の「反応装置(Reactor)」と本件発明1の「長手方向を有する内部空間を画定するとともに、前記長手方向における一方側の端部に前記内部空間と連通する排ガス導入口が形成された吸収塔本体部、を含む吸収塔」とは、「内部空間を画定するとともに、前記内部空間と連通する排ガス導入口が形成された吸収塔本体部、を含む吸収塔」の限度で一致する。 (オ)甲1発明の「上記反応装置(Reactor)へは、前記反応装置(Reactor)の側方に配された管のいずれかを介して排ガスが供給され」ることは、その意味、機能または構造からみて、本件発明1の「前記排ガス発生装置から排出される排ガスを前記吸収塔本体部に導くための排ガス導入装置」を備えることに相当する。 以上のことから、本件発明1と甲1発明とは以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。 <一致点> 「船舶に搭載される排ガス発生装置から排出される排ガスを脱硫するための船舶用脱硫装置であって、 内部空間を画定するとともに、前記内部空間と連通する排ガス導入口が形成された吸収塔本体部、を含む吸収塔と、 前記排ガス発生装置から排出される排ガスを前記吸収塔本体部に導くための排ガス導入装置と、を備える 船舶用脱硫装置。」 <相違点> 「吸収塔本体部」に関し、 本件発明1は、「長手方向を有する内部空間を画定するとともに、前記長手方向における一方側の端部に前記内部空間と連通する排ガス導入口が形成された」ものであって、「前記吸収塔本体部の前記内部空間の長手方向の最大長さをL、前記吸収塔本体部の前記内部空間の長手方向に対して直交する短手方向の最大幅をW、とした場合に、前記最大幅Wと前記最大長さLの比(W:L)が1:1.1超、且つ、1:6.0以下の範囲である」のに対し、 甲1発明は、そのように特定されていない点。 イ 判断 (ア)上記相違点に係る本件発明1の構成は、「長手方向を有する内部空間を画定するとともに、前記長手方向における一方側の端部に前記内部空間と連通する排ガス導入口が形成された吸収塔本体部、を含む吸収塔」を備えるものにおいて、「長手方向を有する内部空間を画定するとともに、前記長手方向における一方側の端部に前記内部空間と連通する排ガス導入口が形成された」ものであって、「前記吸収塔本体部の前記内部空間の長手方向の最大長さをL、前記吸収塔本体部の前記内部空間の長手方向に対して直交する短手方向の最大幅をW、とした場合に、前記最大幅Wと前記最大長さLの比(W:L)が1:1.1超、且つ、1:6.0以下の範囲である」というものである。 特許異議申立人は、甲第1号証に、「Reactor」が、長方形状の平断面を有しており、「長手方向を有する内部空間を画定する」ものであり、「Reactor」の長手方向における一方向側の端部には排気を導入するための配管が備えられていることが記載されていることを根拠として、「長手方向を有する内部空間を画定するとともに、前記長手方向における一方側の端部に前記内部空間と連通する排ガス導入口が形成された吸収塔本体部、を含む吸収塔」を備える点で、甲1発明と本件発明1とは一致している、旨主張し(特許異議申立書第9ページ第4?18行及び第12ページ第6?25行。以下「主張A」という。)、主張Aを前提として、甲第2号証に、甲1発明と同じDryEGCSを対象として、「『Reactor as main part』の水平方向の長辺の寸法は『6300』、短辺の寸法は『3040』であり、短辺に対する長辺の比は約2.07である」点が記載されているから、かかる技術を甲1発明に適用して、「前記吸収塔本体部の前記内部空間の長手方向の最大長さをL、前記吸収塔本体部の前記内部空間の長手方向に対して直交する短手方向の最大幅をW、とした場合に、前記最大幅Wと前記最大長さLの比(W:L)が1:1.1超、且つ、1:6.0以下の範囲である」構成を得ることは、容易に想到し得るものである、旨主張する(特許異議申立書第9ページ第20?末行及び第12ページ第26行?第13ページ第11行。以下「主張B」という。)ので、以下検討する。 (イ)まず、上記主張Aについて検討する。 上記「第4 1」で述べたとおり、甲1号証には、「前記反応装置(Reactor)は、長手方向と短手方向を有する断面矩形状であ」ることが記載されているといえる。 しかし、甲第1号証の第20?21ページの図示内容(記載事項(1E)、(1F))を参照しても、反応装置(Reactor)の内部空間は一切記載されておらず、「長手方向を有する内部空間を画定」するものであること、また、「長手方向における一方側の端部に前記内部空間と連通する排ガス導入口が形成され」ていることは必ずしも明らかでない。かえって、甲第1号証の第20?21ページの図示内容(記載事項(1E)、(1F))からは、「反応装置(Reactor)」及び「粒サイロ(Granulate Silo)」の上面に3つの蓋状の構造を有することが看取でき、「反応装置(Reactor)」がさらに区分された内部空間を有することが示唆されている。このことは、「反応装置(Reactor)」の形状からその「内部空間」や「吸収塔本体部」の形状を把握することを妨げるものといえる。 次に、甲第1号証の他の記載をも併せて参照した場合について検討する。 甲第1号証において、「内部空間」を看取できるのは、甲第1号証の第9?10ページに図示された斜視図(記載事項(1B)、(1C))のみである。記載事項(1B)、(1C)の図示内容によれば、「乾式排ガス浄化システム(DryEGCS)」と記載された直方体の内部が一部透けて示されており、当該図示内容によれば「乾式排ガス浄化システム(DryEGCS)」の内部空間が長手方向を有していることが看取できる。しかしながら「乾式排ガス浄化システム(DryEGCS)」と連通する排ガス導入口の位置については、「乾式排ガス浄化システム(DryEGCS)」の内部空間の短手方向に沿って複数の管を配し、そのうち上から3、4、7、8番目の横の並びの管から気体状のものが放出されることが図示されており、これ以外に「排ガス導入口」と理解し得る構成要素は記載されていない。したがって、甲第1号証の第20?21ページの図示内容(記載事項(1E)、(1F))に甲第1号証の他の図示内容をも併せて参照したとしても、「反応装置(Reactor)」が「長手方向を有する」内部空間を画定するとともに、「前記長手方向における一方側の端部」に前記内部空間と連通する排ガス導入口が形成された吸収塔本体部、を含む吸収塔であるかどうかは判然としない。 そうすると、「長手方向を有する内部空間を画定するとともに、前記長手方向における一方側の端部に前記内部空間と連通する排ガス導入口が形成された吸収塔本体部、を含む吸収塔」を備えることが、甲第1号証に記載されているとはいえない。 したがって、特許異議申立人の上記主張Aは採用できない。 (ウ)次に、上記主張Bについて検討する。 甲第2号証の第15ページの図示内容(記載事項(2A))を参照しても、「反応装置主要部(Reactor as main part)」の「内部空間」は一切記載されておらず、「前記吸収塔本体部の前記内部空間の長手方向の最大長さをL、前記吸収塔本体部の前記内部空間の長手方向に対して直交する短手方向の最大幅をW、とした場合に、前記最大幅Wと前記最大長さLの比(W:L)が1:1.1超、且つ、1:6.0以下の範囲である」ことは必ずしも明らかでない。かえって、甲第2号証の第15ページの図示内容(記載事項(2A))からは、「反応装置主要部(Reactor as main part)」が上面に3つの蓋状の構造を、下面に3つのホッパー状の構造を有することが看取でき、「反応装置主要部(Reactor as main part)」がさらに区分された内部空間を有することが示唆されている。このことは、「反応装置主要部(Reactor as main part)」の形状からその「内部空間」や「吸収塔本体部」の形状を把握することを妨げるものといえる。 また、甲第2号証には、他に内部空間の長手方向及び短手方向を把握できる記載はない。 したがって、甲第2号証に「反応装置主要部(Reactor as main part)は長手方向と短手方向を有する断面矩形であり、長手方向の寸法は6300、短手方向の寸法は3040である」ことが記載されているとしても、当該寸法は「内部空間を画定するとともに、前記長手方向における一方側の端部に前記内部空間と連通する排ガス導入口が形成された吸収塔本体部、を含む吸収塔」のものではない点で、相違点に係る本件発明1の「前記吸収塔本体部の前記内部空間の長手方向の最大長さをL、前記吸収塔本体部の前記内部空間の長手方向に対して直交する短手方向の最大幅をW、とした場合に、前記最大幅Wと前記最大長さLの比(W:L)が1:1.1超、且つ、1:6.0以下の範囲である」こととは異なる。 そうすると、甲1発明に甲第2号証に記載された技術事項を適用しても、「長手方向を有する内部空間を画定するとともに、前記長手方向における一方側の端部に前記内部空間と連通する排ガス導入口が形成された吸収塔本体部、を含む吸収塔」を備えるものにおいて、「長手方向を有する内部空間を画定するとともに、前記長手方向における一方側の端部に前記内部空間と連通する排ガス導入口が形成された」ものであって、「前記吸収塔本体部の前記内部空間の長手方向の最大長さをL、前記吸収塔本体部の前記内部空間の長手方向に対して直交する短手方向の最大幅をW、とした場合に、前記最大幅Wと前記最大長さLの比(W:L)が1:1.1超、且つ、1:6.0以下の範囲である」という構成には至らない。 したがって、特許異議申立人の上記主張Bは採用できない。 (エ)以上より、甲1発明及び甲第2号証に記載された技術事項を根拠に、上記相違点に係る本件発明1の構成が容易に想到できたものということはできない。 (2)本件発明2?16について 本件発明2?16は、本件発明1を直接的又は間接的に引用し、少なくとも本件発明1の構成を更に限定して発明を特定するものであって、上記(1)のとおり、本件発明1が当業者にとって容易に発明することができたものとはいえないのであるから、同様に、本件発明2?16は、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。 第6 むすび 以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし16に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえないことから、特許法第113条第2号の規定に該当するものとして取り消すことはできない。 また、他に請求項1ないし16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2017-12-11 |
出願番号 | 特願2017-8842(P2017-8842) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(B63H)
|
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 川村 健一 |
特許庁審判長 |
氏原 康宏 |
特許庁審判官 |
尾崎 和寛 中田 善邦 |
登録日 | 2017-03-10 |
登録番号 | 特許第6104491号(P6104491) |
権利者 | 三菱重工業株式会社 三菱日立パワーシステムズ株式会社 |
発明の名称 | 船舶用脱硫装置および該船舶用脱硫装置を搭載した船舶 |
代理人 | 特許業務法人山田特許事務所 |
代理人 | 誠真IP特許業務法人 |
代理人 | 誠真IP特許業務法人 |