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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A24B
審判 全部申し立て 2項進歩性  A24B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A24B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A24B
管理番号 1336203
異議申立番号 異議2017-700360  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-02-23 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-04-12 
確定日 2018-01-18 
異議申立件数
事件の表示 特許第6005664号発明「タバコ由来の外装組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6005664号の請求項1ないし22に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6005664号(以下「本件特許」という。)の請求項1?22に係る特許についての出願は、2012年1月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年1月28日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特許出願であって、平成28年9月16日にその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人白井雅恵(以下「申立人」という。)より特許異議の申立てがされ、平成29年6月23日付けで取消理由を通知し、その指定期間内である平成29年9月25日に意見書が提出されたものである。また、平成29年11月14日及び同年12月26日に申立人より上申書が提出された。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1?22に係る発明(以下「本件発明1?22」という。また、これらをまとめて「本件発明」ということもある。)は、その特許請求の範囲の請求項1?22に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

【請求項1】
ニコティアナ種の植物の根またはニコティアナ種の植物の茎の少なくとも1つの抽出物の形態の、タバコ製品に使用される風味に富んだタバコ組成物であって、バニリンおよびシリンガアルデヒドから選択される少なくとも1つの化合物を含む、風味に富んだタバコ組成物。
【請求項2】
抽出物が粉末形態である、請求項1に記載のタバコ組成物。
【請求項3】
抽出物が、タバコ材料への用途に適合した外装配合物または最上層配合物内に含まれる、請求項1に記載のタバコ組成物。
【請求項4】
抽出物が、ニコティアナ種の植物の根の材料、およびニコティアナ種の植物の茎の材料の両方を含む、請求項1に記載のタバコ組成物。
【請求項5】
請求項1?4のいずれか一項に記載の風味に富んだタバコ組成物を含むタバコ製品。
【請求項6】
抽出物の担体としてタバコ材料または非タバコ植物材料をさらに含む、請求項5に記載
のタバコ製品。
【請求項7】
タバコ製品が、無煙タバコ組成物、喫煙品、または植物材料の非燃焼用に構成されたエアゾール発生デバイスの形態である、請求項5に記載のタバコ製品。
【請求項8】
無煙タバコ組成物の形態が、湿った嗅ぎタバコ、乾燥嗅ぎタバコ、噛みタバコ、タバコ含有ガム、および溶解性または融解性タバコ製品からなる群から選択される、請求項7に記載のタバコ製品。
【請求項9】
以下を含む、ニコティアナ種の植物の茎または根からの風味に富んだ組成物を調製する方法:
i)ニコティアナ種の収穫された植物の根材料およびニコティアナ種の収穫された植物の茎材料の少なくとも1つの少なくとも90乾燥重量パーセントを含む微粒子タバコ材料を得ること;
ii)微粒子タバコ材料から水溶性成分を抽出し水性抽出物を形成すること、ここで、抽出は、微粒子タバコ材料を水性溶媒と接触させて湿ったタバコ材料を形成すること、高温で湿ったタバコ材料を加熱すること、および湿ったタバコ材料の不溶性部分から水性抽出物を分離することを含み;ならびに
iii)水性抽出物を濃縮し、タバコ製品に使用するのに適した風味に富んだタバコ組成物を提供すること、ここで、風味に富んだタバコ組成物は、バニリンおよびシリンガアルデヒドから選択される少なくとも1つの化合物を含む。
【請求項10】
得られる微粒子タバコ材料が、ニコティアナ種の収穫された植物の茎材料および根材料の少なくとも1つを粉砕し微粒子材料を形成することにより形成される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
抽出ステップが大気圧を超える圧力で行われる、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
濃縮ステップが水性抽出物の加熱を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
抽出ステップが、水性抽出物を濾過し微粒子タバコ材料の不溶性固体成分を除去することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
濾過が、水性抽出物を限外濾過膜にかけることを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
濃縮ステップが、粉末形態でタバコ製品に組み込むのに適した固体材料を形成するのに十分な水性溶媒を蒸発させることを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
加熱ステップが少なくとも50℃の温度で行われる、請求項9に記載の方法。
【請求項17】
分離ステップが濾過および遠心分離の少なくとも1つを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項18】
水性抽出物の担体としてのタバコ材料または非タバコ植物材料に濃縮水性抽出物を添加することをさらに含む、請求項9?17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
タバコ製品にタバコ材料または非タバコ植物材料を組み込むことをさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
タバコ製品が、無煙タバコ組成物、喫煙品、または植物材料の非燃焼用に構成されたエアゾール発生デバイスの形態である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
無煙タバコ組成物の形態が、湿った嗅ぎタバコ、乾燥嗅ぎタバコ、噛みタバコ、タバコ含有ガム、および溶解性または融解性タバコ製品からなる群から選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
喫煙品が、抽出物を含む外装配合物または最上層を含む、請求項20に記載の方法。

第3 取消理由の概要
平成29年6月23日付け取消理由通知の概要は、以下のとおりである。
(なお、上記取消理由通知は、本件特許異議の申立てにおいて申立てられた全ての申立理由を含むものである。)

1 理由1
本件発明1?3、5、9?11及び16は、本件特許の優先日前に日本国内または外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
[引用文献]
甲第1号証:特開平10-66559号公報、又は
甲第3号証:特開昭51-136898号公報

本件発明1?3、5、9?11及び16は、甲第1号証又は甲第3号証に記載された発明である。

2 理由2
本件発明1?22は、本件特許の優先日前日本国内または外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
[引用文献]
甲第1号証:特開平10-66559号公報
甲第2号証:欧州特許出願公開第0821886号明細書
甲第3号証:特開昭51-136898号公報
甲第4号証:特開平2-49572号公報
甲第5号証:欧州特許出願公開第0338831号明細書
甲第6号証:NEUMANN CL.,“LIGNIN,PECTIN,AND TOBACCO STALKS”,1987年2月4日,RJ Reynolds Records,2002年2月1日,UCSF,インターネット<URL:http://www.industrydocumentslibrary.ucsf.edu/tobacco/docs/ppkb0087>
甲第7号証:Shirlley C.Agrupis外1名,“INDUSTRIAL UTILIZATION OF TOBACCO STALKS(I)PHYSICO-CHEMICAL EVALUATION FOR BIOMASS RESOURCES”,PAPERS PRESENTED AT THE JOINT MEETING OF THE SMOKE AND TECHNOLOGY GROUPS,GERMANY,1997年9月7日,CORESTA SCIENTIFIC COMISSION,p.237-244,RJ Reynolds Records,2008年10月28日,UCSF,インターネット<URL:http://www.industrydocumentslibrary.ucsf.edu/tobacco/docs/xgjy0046>
甲第8号証:特許第4398867号公報
甲第9号証:右田伸彦ほか編,「木材化学」,共立出版,1968年,p.376-377
甲第10号証:“PRODUCTION,PHYSIOLOGY,AND BIOCHEMISTRY OF TOBACCO PLANT”,IDEALS,Inc.,1990年,p.595-601
甲第11号証:R.L.STEDMAN,“THE CHEMICAL COMPPOSITION OF TOBACCO AND TOBACCO SMOKE”,REVEWS,VOL.68,NO.2,the American Chemical Society,p.153-207
甲第12号証:John C.Leffingwell外2名,“TOBACCO FLAVORING FOR SMOKING PRODUCTS”,R.J.REYNOLDS TOBACCO COMPANY,1972年,p.3-72

本件発明1?22は、甲第1号証又は甲第3号証に記載された発明並びに甲第2、4?12号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 理由3
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

本件特許の請求項1?22中の「風味に富んだ」という記載は、「風味に富んだ」とはヒトの主観による機能的な表現であり、何ら具体的な構造が特定されていないため、特定しようとする発明を不明確にしている。

4 理由4
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

(理由4-1)
本件発明1?22に係る「風味に富んだタバコ組成物」について、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「風味に富んだ」組成物が開示されているとはいえない。よって、本件発明1?22は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
(理由4-2)
本件発明1?22に係る「バニリンおよびシリンガアルデヒドから選択される少なくとも1つの化合物を含む」点について、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、バニリン及びシリンガアルデヒドがそもそも本当に含まれている組成物が得られたのか、どのくらい含まれていたのかが不明である。よって、本件発明1?22は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

5 理由5
本件特許は、明細書の発明の詳細な説明の記載について下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(理由5-1)
本件発明1?22に係る「風味に富んだタバコ組成物」について、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「風味に富んだ」組成物が開示されているとはいえない。よって、発明の詳細な説明は、請求項1?22に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。
(理由5-2)
本件発明1?22に係る「バニリンおよびシリンガアルデヒドから選択される少なくとも1つの化合物を含む」点について、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、バニリン及びシリンガアルデヒドがそもそも本当に含まれている組成物が得られたのか、どのくらい含まれていたのかが不明である。よって、発明の詳細な説明は、請求項1?22に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。

第4 取消理由についての判断
1 理由3について
事案に鑑み、まず、理由3について検討する。
請求項1の記載は、
「 ニコティアナ種の植物の根またはニコティアナ種の植物の茎の少なくとも1つの抽出物の形態の、タバコ製品に使用される風味に富んだタバコ組成物であって、バニリンおよびシリンガアルデヒドから選択される少なくとも1つの化合物を含む、風味に富んだタバコ組成物。」
であるから、この請求項1記載のとおり、「風味に富んだタバコ組成物」は、「ニコティアナ種の植物の根またはニコティアナ種の植物の茎の少なくとも1つの抽出物の形態」であり、「タバコ製品に使用される風味に富んだ」ものであり、「バニリンおよびシリンガアルデヒドから選択される少なくとも1つの化合物を含む」ものであることが理解される。
また、請求項9の記載は、
「 以下を含む、ニコティアナ種の植物の茎または根からの風味に富んだ組成物を調製する方法:
i)ニコティアナ種の収穫された植物の根材料およびニコティアナ種の収穫された植物の茎材料の少なくとも1つの少なくとも90乾燥重量パーセントを含む微粒子タバコ材料を得ること;
ii)微粒子タバコ材料から水溶性成分を抽出し水性抽出物を形成すること、ここで、抽出は、微粒子タバコ材料を水性溶媒と接触させて湿ったタバコ材料を形成すること、高温で湿ったタバコ材料を加熱すること、および湿ったタバコ材料の不溶性部分から水性抽出物を分離することを含み;ならびに
iii)水性抽出物を濃縮し、タバコ製品に使用するのに適した風味に富んだタバコ組成物を提供すること、ここで、風味に富んだタバコ組成物は、バニリンおよびシリンガアルデヒドから選択される少なくとも1つの化合物を含む。」
であるから、この請求項9記載のとおり、「風味に富んだ組成物」は、「ニコティアナ種の植物の茎または根からの」ものであって、「風味に富んだタバコ組成物」は、「ニコティアナ種の収穫された植物の根材料およびニコティアナ種の収穫された植物の茎材料の少なくとも1つの」「微粒子タバコ材料から水溶性成分を抽出し」た「水性抽出物を濃縮し、タバコ製品に使用するのに適した風味に富んだ」ものであり、「バニリンおよびシリンガアルデヒドから選択される少なくとも1つの化合物を含む」ものであることが理解される。

ここで、本件特許明細書の記載を参酌すると、「風味に富んだタバコ組成物」とは、タバコ材料の風味に富んだ所望の成分として、ニコティアナ種のタバコ植物(茎および/または根)を粉砕、乾燥し、結果として得られた粉末を精製することによって単離されたタバコ由来の粉末であることが理解される(【0010】?【0011】、【0025】)。そして、ニコティアナ種の植物(タバコ植物)の茎または根を粉砕した微粉を水に添加して加熱、精製、濃縮して得られた粉末形態の固体(上記「タバコ由来の粉末」に該当)には、風味に富んだ化合物であるバニリン及びシリンガアルデヒドが存在し、糖アンモニアまたはカラメル化の化学を思い出させる心地よい芳香を有することが示されている(【0042】、【0066】?【0071】)。また、風味に富んだタバコ組成物の提供には、タバコ材料から抽出した風味に富んだ成分を、タバコ製品の使用に適した風味に富んだ程度に濃縮することが示されている(【0020】)。

そうすると、請求項1の「風味に富んだタバコ組成物」の「風味に富んだ」という記載、並びに請求項9記載の「風味に富んだ組成物」及び「風味に富んだタバコ組成物」の「風味に富んだ」という記載は、ヒトの主観による機能的な表現を意図したものではなく、風味に富んだ化合物であるバニリンまたはシリンガアルデヒドを、タバコ製品の使用に適した風味に富んだ程度に、成分として含むことを意味するものとして理解することができるから、当該記載により特定しようとする発明を不明確にしているということはできない。

よって、理由3には理由がなく、本件特許の請求項1及び当該請求項1を引用する請求項2?8並びに請求項9及び当該請求項9を引用する請求項10?22の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとすることはできない。

なお、申立人は、平成29年12月26日付け上申書において、甲第13?15号証を提出して、バニリンや種々のアルデヒドの検出及び認識に限界(閾値)が存在すること、バニリン等の化合物にヒトによる「認識」の閾値とガスクロマトグラフィー等の機械による「検出」の閾値は大きく異なること、ヒトによる「認識」の閾値は官能評価であり測定の仕方によって結果が有意に異なる可能性があることを指摘し、「仮に、本件特許明細書にタバコ組成物が、「バニリンおよびシリンガアルデヒドから選択される少なくとも1つの化合物を含む」ことが記載されているとしても、当該タバコ組成物が「風味に富ん」でいるか否かは不明である。そして、本件特許明細書の記載から、バニリン等が組成物に含まれるとしても極少量であろう、と推測される。」(5頁7?12行)と主張する。
しかしながら、上述のとおり、請求項1及び請求項9記載の「風味に富んだ」という記載は、風味に富んだ化合物であるバニリンまたはシリンガアルデヒドを、タバコ製品の使用に適した風味に富んだ程度に、成分として含むことを意味するものとして理解することができるから、申立人の上記主張は当を得たものとはいえず、これを採用することはできない。

甲第13号証:Eula Binghamほか編,“Patty’s toxicology”,6th ed.,Vol.3,Jhon Wiley & Sons,Inc.,2012,p.589-597
甲第14号証:George A.Burdoc,“Fenaroli’s handoook of flavor ingredients”,4th ed.,CRC Press LLC,2002,p.1775-1777
甲第15号証:Elizabeth S.Keithほか,“Determination of Flavor Threshold Levels and Sub-Threshold,Additive,and Concentration Effects”,journal of food science,Vol.33,1968,p.213-218

2 理由4及び5について
次に、理由4及び5について検討する。
(1) 本件特許明細書の記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「風味に富んだタバコ組成物」に関して以下のような記載がある(下線は当審で付与)。
「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
喫煙品および/または無煙のタバコ製品の製造に有用な、タバコ(およびタバコ組成物および配合物)の特性および性質を改変するための追加の組成物および方法を提供することが望まれる。特に、タバコ由来の風味に富んだ材料を使用してタバコ組成物および配合物の特性および性質を改変するための組成物および方法を開発することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、喫煙品および無煙タバコ製品などの様々なタバコ製品に使用されるタバコ組成物への組み込みに有用な、ニコティアナ種から単離される風味に富んだ組成物(すなわち、タバコ由来の組成物)を提供する。本発明はまた、ニコティアナ種から成分(例えば、タバコ材料)を単離する方法、それらの成分を加工する方法、およびそれらの成分を組み込むタバコ材料を提供する。特に、本発明は、風味に富んだタバコ組成物として使用することができるタバコ由来の粉末、および単離しそのような粉末を形成する方法を提供する。タバコ由来の粉末は、タバコ材料の風味に富んだ所望の成分を単離するために、例えば、タバコ植物(例えば、葉、茎、根または葉柄)の少なくとも一部を粉砕、乾燥し、結果として得られた粉末を精製することによって単離することができる。
【0011】
一態様において、本発明は、ニコティアナ種の植物の茎または根に由来する抽出物の形態のタバコ製品に使用される風味に富んだタバコ組成物を提供する。その抽出物は、液体または粉末の形態などの様々な形態であってもよい。幾つかの実施形態において、抽出物は、タバコ材料の用途に適合した外装配合物または最上層配合物内に含まれる。」
「【0014】
本発明の別の態様において、ニコティアナ種の植物の茎または根に由来する抽出物の形態の風味に富んだタバコ組成物を含むタバコ製品が提供される。」
「【0016】
本発明の別の態様において、以下を含むニコティアナ種の植物の茎または根から風味に富んだ組成物を調製する方法が提供される:
i)ニコティアナ種の収穫された植物の茎材料および根材料の少なくとも1つを含む微粒子タバコ材料を得ること;
ii)微粒子タバコ材料から水溶性成分を抽出し水性抽出物を形成すること;および、iii)水性抽出物を濃縮し、タバコ製品におけるような使用に適した風味に富んだタバコ組成物を与えること。」
「【0020】
本発明の別の態様において、以下を含むニコティアナ種の植物の茎または根からの風味に富んだ組成物を調製する方法が提供される。
i)ニコティアナ種の収穫された植物の茎材料および根材料の少なくとも1つの少なくとも約90乾燥重量パーセントを含む微粒子タバコ材料を得ること;
ii)水溶媒を微粒子タバコ材料と混合し湿ったタバコ材料を形成すること;
iii)湿ったタバコ材料を高温に加熱し風味に富んだ成分をそこから抽出すること;
iv)湿ったタバコ材料の水不溶性部分を分離し単離された水性抽出物を形成すること;および、
ii)水性抽出物を濃縮し、タバコ製品におけるような使用に適した風味に富んだタバコ組成物を提供すること。」
「【0025】
本発明は、ニコティアナ種の植物またはその一部または成分(植物の茎および/または根などの)に由来する風味に富んだ抽出物を提供する。抽出物は粉末形態を含む様々な形態であってもよい。粉末は、様々なタバコ製品において風味に富んだタバコ組成物として使用することができる、タバコ由来の材料を提供する。一実施形態において、本発明のタバコ由来の粉末材料は、紙巻タバコに一般に使用される、ココア粉末および/または甘草末などのある種の非タバコ香味の置き換えとして使用される。本明細書において使用される場合、「タバコ由来の粉末」は、ニコティアナ種からの植物、特に、植物の茎および/または根から得られるまたは由来する粉末形態の材料を指す。」
「【0042】
本発明に従って製造された粉末の正確な組成物は変動し得る。組成物は、ニコティアナの茎、根、またはその組み合わせから粉末が調製されるかどうかに、一部依存し得る。本発明に従って調製された粉末は、一般に、抽出物の調製中に起るリグニン分解反応から結果として得られるバニリンおよびシリンガアルデヒド、および/または、液体中で糖化合物と窒素供給源との間のメイラード反応から結果として得られるピラジン(例えば、C2ピラジンおよび/またはC3ピラジン)などの風味に富んだ化合物を含む。」
「【0050】
本発明の方法に従って生じる粉末は、タバコ組成物、特に喫煙品または無煙タバコ製品に組み込まれるタバコ組成物のための風味に富んだ材料として有用である。 ・・・ 本発明の粉末材料の心地よい芳香、および裏付けられた含量の特定の公知の揮発性香味化合物があれば、一実施形態において、粉末は、紙巻タバコの外装に使用され、一般に紙巻タバコの外装の伝統的な1種または複数の成分に由来する香味、特に甘草末および/またはココア粉末などの風味に富んだ成分を付加する。」
「【0066】
Georgia熱風養生タバコ茎(約1,000lbs)およびタバコ根(約1,000lbs)を収穫し、洗浄し、燻蒸し、乾燥する。乾燥した材料は、比較的微粉に粉砕する。分析のために、タバコ茎、大きい根、中くらいの根、および小さい根から調製した粉末は分けておく。
【0067】
各粉末の試料(約2g)(すなわち、タバコ茎から調製した粉末、大きい根から調製した粉末、中くらいの根から調製した粉末、および小さい根から調製した粉末)をマイクロ波透過性容器に添加する。水(約50mL)を各粉末試料に添加する。200℃2時間に設定したCEMマイクロ波を用いて試料を加熱する。しかし、到達した最高温度は加熱工程に入れた後約50分で150℃である。
【0068】
2時間後、試料を冷却し、濾紙および水アスピレーターを使用して濾過し、遠心分離によって1700rpmで15分間さらに精製し、追加の水不溶性物質を除去する。上澄は、80℃に設定したオーブンで徐々に水を蒸発させることにより濃縮する。このようにして得られた粉末形態の固体は、色が黒色から暗褐色であり、糖アンモニアまたはカラメル化の化学を思い出させる心地よい芳香を有する。抽出にかけた茎または根材料から収集した抽出物のパーセントは、抽出にかけた材料の合計重量に基いて平均約20パーセントである。
【0069】
試料を、超音波処理を使用してアセトンに溶解し、濾過し、GC-MS(例えばAgilent 6890 GCを使用して)を使用して分析する。全イオンクロマトグラムは、アセトン抽出物がニコチンおよび比較的少量の追加の揮発性成分(3-ヒドロキシピリジン、フルフラール*furufals、およびビタミンEなど)を含むことを示す。全イオンクロマトグラム中のバニリンおよびシリンガアルデヒドの驚くべき存在は、抽出の調製中のリグニン分解反応経路の存在を示す。」

(2) 理由4-1及び理由5-1について
上記(1)に摘記した記載事項から、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「風味に富んだタバコ組成物」とは、タバコ材料の風味に富んだ所望の成分として、ニコティアナ種のタバコ植物(茎および/または根)を粉砕、乾燥し、結果として得られた粉末を精製することによって単離されたタバコ由来の粉末であって(【0010】?【0011】、【0025】)、当該タバコ由来の粉末には、風味に富んだ化合物であるバニリン及びシリンガアルデヒドが存在し、糖アンモニアまたはカラメル化の化学を思い出させる心地よい芳香を有することが示されているし(【0042】、【0066】?【0071】)、タバコ材料から抽出した風味に富んだ成分を、タバコ製品の使用に適した風味に富んだ程度に濃縮して、「風味に富んだタバコ組成物」が提供されることが示されている(【0020】)。
よって、本件発明1?22は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。
また、本件発明1?22は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。

(3) 理由4-2及び理由5-2について
本件発明1?22に係る「風味に富んだタバコ組成物」が「バニリンおよびシリンガアルデヒドから選択される少なくとも1つの化合物を含む」点について、上記(1)に摘記した記載事項にあるとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、ニコティアナ種の植物(タバコ植物)の茎または根を粉砕した微粉を水に添加して加熱、精製、濃縮して得られた粉末形態の固体(「風味に富んだタバコ組成物」である「タバコ由来の粉末」に該当)には、風味に富んだ化合物であるバニリン及びシリンガアルデヒドが存在し、糖アンモニアまたはカラメル化の化学を思い出させる心地よい芳香を有することが、具体的な実施例として示され(【0042】、【0066】?【0069】)、当該バニリン及びシリンガアルデヒドが、抽出物の調製中に起るリグニン分解反応から結果として得られるものであるとの作用機序も示されているところ(【0042】)、当該作用機序は、例えば特許第4398867号公報(申立人が提出した甲第8号証)にもみられるように、当業者の技術常識である。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、タバコ材料から抽出した風味に富んだ成分(バニリンおよび/またはシリンガアルデヒド)は、タバコ製品の使用に適した風味に富んだ程度となるように濃縮して、「風味に富んだタバコ組成物」が提供されることが示されているから(【0020】)、「風味に富んだタバコ組成物」には、バニリンおよび/またはシリンガアルデヒドが、タバコ製品の使用に適した風味に富んだ程度に、成分として含むものであることが理解できる。
そうすると、本件発明1?22に係る「バニリンおよびシリンガアルデヒドから選択される少なくとも1つの化合物を含む」「風味に富んだタバコ組成物」が実際に得られること、また、本件発明1?22に係る「風味に富んだタバコ組成物」は、タバコ製品の使用に適した風味に富んだ程度にバニリンおよび/またはシリンガアルデヒドを含むものであることが、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されているといえる。
よって、本件発明1?22は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。
また、本件発明1?22は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。

(4) 小括
以上のとおり、理由4及び5は理由がなく、本件特許の請求項1?22の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできず、また、本件発明1?22についての本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできない。

3 理由1及び2について
(1) 甲第1及び3号証に記載された発明
ア 甲1発明
甲第1号証の記載事項(【請求項9】、【0012】?【0021】、【0024】?【0026】)から、甲第1号証には、
「タバコ材料を粉砕した微粉砕タバコ材料を水性液体とを接触させて得られたタバコ懸濁液を、
周囲圧を超える圧力制御環境下、100℃を超える温度で、加熱処理して得られた風味・芳香組成物であって、
上記タバコ材料は、微粉、ダスト、小片、茎および葉柄などのタバコ廃棄物を利用したものである、
風味・芳香組成物。」(以下「甲1A発明」という。)
が記載されている。

同様に、甲第1号証には、
「タバコ材料として、微粉、ダスト、小片、茎および葉柄などのタバコ廃棄物を利用し、
当該タバコ材料を粉砕して微粉砕タバコ材料を得る段階、
当該微粉砕タバコ材料と水性液体とを接触させてタバコ懸濁液を得る段階、
当該タバコ懸濁液を、周囲圧を超える圧力制御環境下、100℃を超える温度で、加熱処理する段階、
によって、風味・芳香組成物を得る方法。」(以下「甲1B発明」という。)
が記載されている。

イ 甲3発明
甲第3号証の記載事項(特許請求の範囲、1頁右下欄下から3行?2頁右下欄7行)から、甲第3号証には、
「たばこ用ソースの製造用原料に水および/または親水性有機溶媒を加えることで抽出した上記原料中の可溶成分の抽出液を濃縮したのちに、密閉容器内で加熱温度(°K)と該加熱温度における飽和水蒸気圧(Kg/cm^(2))と該加熱温度における加熱時間(min)との積が0.1×10^(4)?15×10^(4)(°K・min・Kg/cm^(2))の範囲に加熱することで得られる、喫煙物にたばこの品種特有の香味を付与するたばこ用ソースであって、
上記原料は、たばこ植物体の全部もしくはその一部分(葉、摘芯部、腋芽、および茎部、もしくはそれらの混合物)を畑地等から収穫しそのまま磨砕するか、もしくは数日間屋内または屋外に放置してたばこ植物体の水分を一部放散させたのち磨砕したものである、
たばこ用ソース。」(以下「甲3A発明」という。)
が記載されている。

同様に、甲第3号証には、
「喫煙物にたばこの品種特有の香味を付与するたばこ用ソースの製造方法であって、
たばこ用ソースの製造用原料として、たばこ植物体の全部もしくはその一部分(葉、摘芯部、腋芽、および茎部、もしくはそれらの混合物)をを畑地等から収穫しそのまま磨砕するか、もしくは数日間屋内または屋外に放置してたばこ植物体の水分を一部放散させたのち磨砕したものを用い、
当該原料に水および/または親水性有機溶媒を加えて、当該原料中の可溶成分を抽出し、
抽出した抽出液を濃縮したのち、密閉容器内で加熱温度(°K)と該加熱温度における飽和水蒸気圧(Kg/cm^(2))と該加熱温度における加熱時間(min)との積が0.1×10^(4)?15×10^(4)(°K・min・Kg/cm^(2))の範囲に加熱することでたばこ用ソースを得るようにした、
たばこ用ソースの製造方法。」(以下「甲3B発明」という。)
が記載されている。

(2) 理由1について
ア 本件発明1と甲1A発明又は甲3A発明との対比、判断
本件発明1と甲1A発明又は甲3A発明とを対比すると、甲1A発明及び甲3A発明のいずれも、本件発明1の「バニリンおよびシリンガアルデヒドから選択される少なくとも1つの化合物」を、「ニコティアナ種の植物の根またはニコティアナ種の植物の茎の少なくとも1つの抽出物の形態」として、「タバコ製品に使用される風味に富んだ」ものとしてなる「タバコ組成物」である点の構成は備えていない。
甲1A発明の「風味・芳香組成物」及び甲3A発明の「喫煙物にたばこの品種特有の香味を付与するたばこ用ソース」は、ともに原料としてタバコ植物の茎を用い得るものではあるが、当該タバコ植物の茎からの抽出物として、バニリン又はシリンガアルデヒドに着目し、当該成分をタバコ製品に使用される風味に富んだものとして含むものであるとまではいえない。
よって、本件発明1は、甲1A発明又は甲3A発明であるとはいえない。

イ 本件発明9と甲1B発明又は甲3B発明との対比、判断
本件発明9と甲1B発明又は甲3B発明とを対比すると、甲1B発明及び甲3B発明のいずれも、本件発明9の「バニリンおよびシリンガアルデヒドから選択される少なくとも1つの化合物」を「ニコティアナ種の収穫された植物の根材料およびニコティアナ種の収穫された植物の茎材料の少なくとも1つの少なくとも90乾燥重量パーセントを含む」「タバコ材料」から「抽出」、「濃縮」して、「タバコ製品に使用するのに適した風味に富んだタバコ組成物を提供する」、「ニコティアナ種の植物の茎または根からの風味に富んだ組成物を調製する方法」である点の構成は備えていない。
甲1B発明の「風味・芳香組成物を得る方法」及び甲3B発明の「喫煙物にたばこの品種特有の香味を付与するたばこ用ソースの製造方法」は、ともに原料としてタバコ植物の茎を用い得るものであって、当該原料から水性溶媒に接触させて成分を抽出する方法である点において本件発明9に類似するが、当該タバコ植物の茎からの抽出物として、バニリン又はシリンガアルデヒドに着目し、当該タバコ植物の茎を原料の少なくとも90乾燥重量パーセントの量を用いて、「タバコ製品に使用するのに適した風味に富んだタバコ組成物を提供する」ように、「タバコ材料」から「抽出」、「濃縮」して、「ニコティアナ種の植物の茎または根からの風味に富んだ組成物を調製する方法」であるとはいえない。
よって、本件発明9は、甲1B発明又は甲3B発明であるとはいえない。

ウ 本件発明2、3、5、10?11及び16について
本件発明2、3及び5は、本件発明1の構成を全て含むものであり、本件発明10?11及び16は、本件発明9の構成を全て含むものであるところ、本件発明2、3、5、10?11及び16は、上記アに示した本件発明1の構成又は上記イに示した本件発明9の構成を備えたものである。
よって、上記ア又はイに示したのと同様に、本件発明2、3、5、10?11及び16は、甲1発明(甲1A発明、甲1B発明)又は甲3発明(甲3A発明、甲3B発明)であるとはいえない。

エ 小括
以上のとおり、理由1は理由がなく、本件発明1?3、5、9?11及び16は、甲1発明(甲1A発明、甲1B発明)又は甲3発明(甲3A発明、甲3B発明)であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許を受けることができないものとすることはできない。

(3) 理由2について
ア 本件発明1と甲1A発明又は甲3A発明との対比、判断
本件発明1の「バニリンおよびシリンガアルデヒドから選択される少なくとも1つの化合物」を、「ニコティアナ種の植物の根またはニコティアナ種の植物の茎の少なくとも1つの抽出物の形態」として、「タバコ製品に使用される風味に富んだ」ものとしてなる「タバコ組成物」である点の構成は、甲第2、4?12号証にも記載されていない。
甲第4号証には、タバコエキストラクトを抽出するためのタバコ物質として、「タバコ物質は通常熟成しており及び葉片及び/又は茎の形にすることができ、或は加工した形にすることができる。タバコ廃棄物及び加工副生物、例えば微粉、ダスト、スクラップ、茎及び柄を用いることができる。」(7頁右上欄下から5?1行)との記載があるものの、当該記載を含めた明細書全体の記載をみても、タバコ廃棄物及び加工副生物として例示される材料の中から「茎」を選択し、かつ、当該茎からの抽出物として、バニリン又はシリンガアルデヒドに着目し、当該成分をタバコ製品に使用される風味に富んだものとして用いることを開示しているものではない。
また、甲第6号証(1、7、8、10頁)及び甲第7号証(240?241頁)は、タバコ植物の茎がリグニンを含むことを示すに留まり、甲第8号証(【請求項1】、5頁17?20行、8頁1?19行)には、リグニンを含有する植物を低酸素条件下、水蒸気を含む気体で高温高圧処理することにより、バニリンやシリンガアルデヒド等のフェノール化合物の含有量が増加することが記載され、甲第9号証(376?377頁)には、リグニンの分解反応の例として、western hemlock材を水で175℃に処理すると、コニフェリールアルデヒド、バニリン、p-クマールアルデヒドと考えられる物質が含まれることが記載されているものの、いずれもタバコ植物の茎からの抽出物として、バニリン又はシリンガアルデヒドに着目し、当該成分をタバコ製品に使用される風味に富んだ程度に含むものすることについての記載や示唆はない。
甲第10号証(595?600頁)には、葉タバコ中に存在することが報告されている化合物の例示として、多くの化合物とともにシリンガアルデヒド、バニリンが列記され、甲第11号証(172頁)には、タバコの葉及び煙中のフェノール及び関連化合物の例示として、多くの化合物とともにシリンガアルデヒド、バニリンが列記されているが、いずれも葉タバコ(タバコの葉)についてのものであって、タバコ植物の茎についてのものではない。
甲第12号証(22頁)は、タバコの香料の例示として、多くの化合物とともにバニリンが列記されているに留まる。
なお、甲第2号証は、甲第1号証に対応する欧州特許出願公開であり、甲第5号証は、甲第4号証に対応する欧州特許出願公開であり、その開示内容はそれぞれ甲第1号証及び甲第4号証と実質的に同じであるところ、当該甲第1号証及び甲第4号証の記載については上記のとおりである。
そうすると、甲第2、4?12号証には、本件発明1の上記の点の構成は記載されていないし、これらの甲各号証を併せみても、本件発明1のように、当該タバコ植物の茎からの抽出物として、バニリン又はシリンガアルデヒドに着目し、当該成分をタバコ製品に使用される風味に富んだ程度に含むものとしたことが当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲1A発明又は甲3A発明並びに甲第2、4?12号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件発明9と甲1B発明又は甲3B発明との対比、判断
本件発明9の「バニリンおよびシリンガアルデヒドから選択される少なくとも1つの化合物」を「ニコティアナ種の収穫された植物の根材料およびニコティアナ種の収穫された植物の茎材料の少なくとも1つの少なくとも90乾燥重量パーセントを含む」「タバコ材料」から「抽出」、「濃縮」して、「タバコ製品に使用するのに適した風味に富んだタバコ組成物を提供する」、「ニコティアナ種の植物の茎または根からの風味に富んだ組成物を調製する方法」である点の構成は、甲第2、4?12号証にも記載されていない。
甲第2、4?12号証の記載事項は上記アに示したとおりであって、甲第2、4?12号証には、本件発明9の上記の点の構成は記載されていないし、これらの甲各号証を併せみても、本件発明9のように、当該タバコ植物の茎からの抽出物として、バニリン又はシリンガアルデヒドに着目し、当該タバコ植物の茎を原料の少なくとも90乾燥重量パーセントの量を用いて、タバコ製品に使用するのに適した風味に富んだタバコ組成物を提供するように、タバコ材料から抽出、濃縮して、ニコティアナ種の植物の茎または根からの風味に富んだ組成物を調製する方法とすることは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
したがって、本件発明9は、甲1B発明又は甲3B発明並びに甲第2、4?12号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 本件発明2?8、10?22について
本件発明2?8、10?22は、本件発明1又は9いずれかの構成を全て含むものであるところ、本件発明2?8、10?22は、上記アに示した本件発明1の構成又は上記イに示した本件発明9の構成を備えたものである。
よって、上記ア又はイに示したのと同様に、本件発明2?8、10?22は、甲1発明(甲1A発明、甲1B発明)又は甲3発明(甲3A発明、甲3B発明)並びに甲第2、4?12号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ 小括
以上のとおり、理由2は理由がなく、本件発明1?22は、甲1発明(甲1A発明、甲1B発明)又は甲3発明(甲3A発明、甲3B発明)並びに甲第2、4?12号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものとすることはできない。

第5 むすび
以上のとおり、上記取消理由1?5によっては、本件発明1?22に係る特許を取り消すことができない。
また、他に本件発明1?22に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-01-09 
出願番号 特願2013-551370(P2013-551370)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (A24B)
P 1 651・ 537- Y (A24B)
P 1 651・ 113- Y (A24B)
P 1 651・ 121- Y (A24B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 豊島 ひろみ  
特許庁審判長 中村 則夫
特許庁審判官 井上 哲男
千壽 哲郎
登録日 2016-09-16 
登録番号 特許第6005664号(P6005664)
権利者 アール・ジエイ・レイノルズ・タバコ・カンパニー
発明の名称 タバコ由来の外装組成物  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  

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