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審決分類 審判 判定 同一 属する(申立て成立) E01F
管理番号 1336204
判定請求番号 判定2017-600043  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2018-02-23 
種別 判定 
判定請求日 2017-10-10 
確定日 2018-01-12 
事件の表示 上記当事者間の特許第5501865号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号図面及びその説明書に示す「屋内用視覚障害者誘導用床システム」は、特許第5501865号の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の技術的範囲に属する。 
理由 第1 請求の趣旨と手続の経緯
本件判定請求の趣旨は、判定請求書に添付したイ号図面及びその説明書に示す床タイルにより構成された誘導路は、特許第5501865号の請求項1に記載の発明(以下「本件特許発明」という。)の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。

本件特許に係る手続の経緯は、平成22年5月31日(優先権主張平成21年6月3日)に出願され、平成26年3月20日に特許権の設定登録がなされ、平成29年10月10日に判定請求がなされたものである。

第2 本件特許発明
1 本件特許発明の構成要件
本件特許発明は、本件特許明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。
(当審注:当審において構成要件毎に分説し、記号(A)?(E)を付した。以下「構成要件(A)」などという。)
「【請求項1】
(A)床面上に、視覚障害者により他の領域と区別され得る視覚障害者誘導領域を敷設し、この視覚障害者誘導領域により誘導経路を構成して、視覚障害者を誘導する屋内用視覚障害者誘導用床システムであって、
(B)前記誘導経路は、分岐点に視覚障害者警告領域を有し、この視覚障害者警告領域には、警告パターンが形成されており、
(C)前記警告パターンは、互いの高低差が1mm以上3mm以内であって、かつ、視覚障害者誘導領域の他の領域の表面に対する高低差が1mm以上3mm以内である凹部及び凸部からなり、これら凹部及び凸部のいずれか一方は、網目状パターンをなし、他方は、ドット状パターンをなしており、
(D)白杖により前記警告パターンをなぞることによって前記凸部の検知が可能である
こと
(E)を特徴とする屋内用視覚障害者誘導用床システム。」

第3 イ号物件
イ号物件の構成は、請求人が提出したイ号図面及び説明書(別添参照)を参照して、当審において、次のとおり特定し認定する。

1 イ号図面及び説明書の記載
(1)説明書には以下の記載がある。
ア 「〔図1〕視覚障害者により検知されるためのドット状の複数の凸部102が表面に形成された床タイル101は、材質が硬質の合成樹脂材料で、平板状のベース板部103と凸部102とが一体成形されている。凸部102の個数は、5行×5列で、計25個である。ベース板部103の大きさは、300mm×300mmの正方形である。」
イ 「〔図2〕ベース板部103の厚さは、2mmである。凸部102の大きさは、直径が15mmの円形で、高さは、ベース板部の表面から2.5mmである。この床タイル101は、周囲の床面201に対して2mmの深さに埋設されて、ベース板部103の表面104が周囲の床面201と面一となされて設置される。」
ウ 「〔図3〕この床タイル101は、屋内において、複数枚が、一列、又は、複数列に配列されて設置されて、視覚障害者用の誘導路105を構成する。ドット状の複数の凸部102を有する床タイル101は、誘導路105の分岐点を示す個所に置かれる(JIS規格の点字ブロックに準ずる)。」

(2)イ号図面から、以下の事項が看て取れる。
ア 上記(1)ア及びウの記載を踏まえ、イ号図面の図1及び3から表面104は、網目状パターンをなし、25個の凸部102はドットパターンをなしている。

(3)上記(1)、(2)及びイ号図面を踏まえると以下のことがいえる。
ア 誘導路105が、周囲の床面201と区別される視覚障害者を誘導する屋内用視覚障害者誘導用の構造体であること。
イ ベース板部103に形成された表面104及び凸部102の互いの高低差が2.5mmであり、白杖によりなぞることで検知可能であること。

2 当審によるイ号物件の特定
(当審注:構成(a)?(e)は、イ号物件を本件特許発明に対応するように分説し、各分説に付した符号であり、以下「構成(a)」などという。)
「(a)屋内において、床面上に、周囲の床面201と区別され、床タイルの複数枚が、一列、又は複数列に配列されて誘導路105を構成した、視覚障害者を誘導する屋内用視覚障害者誘導用の構造体であって、
(b)前記誘導路105は、分岐点に床タイル101が配置されており、床タイル101は、平板状のベース板部103と多数の凸部102とが一体成形されたものであって、ベース板部103に表面104が形成されているとともに、凸部102が、5行×5列で計25個形成されており、
(c)前記床タイル101に形成された表面104及び凸部102は、互いの高低差が2.5mmであり、また、床タイル101のベース板部103は、厚さが2mmであるとともに、床タイル101の周囲の床面201に対して2mmの深さに埋設されて、周囲の床面201の表面と面一となされており、埋設された状態では周囲の床面201の表面と凸部102との高低差が2.5mmになっており、さらに、表面104は、網目状パターンをなしており、一方、25個の凸部102は、ドットパターンをなしており、
(d)表面104及び凸部102の互いの高低差が2.5mmであることから、白杖によりなぞることによって検知可能である
(e)視覚障害者を誘導する屋内用視覚障害者誘導用の構造体」

第4 当事者の主張
1 請求人の主張
請求人は、判定請求書において、概略次の理由によりイ号物件は、特許第5501865号の本件特許発明の技術的範囲に属する旨主張している。
(1)本件特許発明の構成要件Cのうちの「視覚障害者誘導領域の他の領域の表面に対する高低差」の意味
上記用語に関して以下のとおり述べている
ア 本件特許明細書の記載(【0064】【0056】)から、「他の領域2に対して、ほぼ同一の高さとなっている視覚障害者警告領域(警告用床タイル)3の表面」とは、「警告パターン」を構成する「凹部3a及び凸部3b」のいずれかである。
イ 請求項1の「白杖により警告パターンをなぞることによって凸部の検知が可能である」と記載されている。一方、特許請求の範囲及び明細書の全文に亘って、「視覚障害者警告領域(警告用床タイル)3と、他の領域2との境界線」が白杖により検知されるということは、一切記載されていない。
ウ 本件特許明細書の記載(【0047】【0048】【0049】)から、「視覚障害者警告領域(警告用床タイル)3と、他の領域2との境界線」には段差がなく、すなわち、「他の領域2に対して、ほぼ同一の高さとなっている視覚障害者警告領域(誘導用床タイル3)の表面」とは「凹部3a」であり、そうすると「警告パターン」の「視覚障害者誘導領域の他の領域2の表面に対する高低差」を生じさせているのは「凸部3b」である。
エ したがって、請求項1における「視覚障害者誘導領域の他の領域の表面に対する高低差」とは、「視覚障害者誘導領域の他の領域2の表面と、凸部3b(の頂点)との高低差」を意味している。

(2)本件特許発明とイ号との対比
ア イ号物件の「イ号図面の床タイル101は、床面201上に設置され、ドット状の複数の凸部102が視覚障害者により他の領域と区別され得るので、視覚障害者誘導領域を敷設することになる」は、本件特許発明の「床面上に、視覚障害者により他の領域と区別され得る視覚障害者誘導領域を敷設する」という要件を充足し、
イ イ号物件の「誘導路105は、屋内において、複数枚の床タイル101が、一列、又は複数列に配列されて設置されて構成され、屋内用視覚障害者誘導用床システムを構成する」は、本件特許発明の「視覚障害者誘導領域により誘導経路を構成して、視覚障害者を誘導する屋内用視覚障害者誘導用床システムである」という要件を充足し、
ウ イ号物件の「誘導路105において、ドット状の複数の凸部102を有する床タイル101は、JIS規格の点字ブロックに準じて、誘導路105の分岐点を示す箇所に置かれる」は、本件特許発明の「前記誘導経路は、分岐点に視覚障害者警告領域を有し、この視覚障害者警告領域には、警告パターンが形成されている」という要件を充足し、
エ イ号物件の「床タイル101のドット状の複数の凸部102は、ベース板部103の表面(凹部)からの高さが2.5mmである」は、本件特許発明の「前記警告パターンは、互いの高低差が1mm以上3mm以内である凹部及び凸部からなる」という要件を充足し、
オ イ号物件の「床タイル101のドット状の複数の凸部102は、周囲の床面201からの高さが2.5mmである」は、本件特許発明の「前記警告パターンは、視覚障害者誘導領域の他の領域の表面に対する高低差が1mm以上3mm以内である凹部及び凸部からなる」という要件を充足し、
カ イ号物件の「床タイル101の複数の凸部102は、ドット状パターンをなしており、凸部102以外のベース板部103の表面104(凹部)は、網目状パターンをなしている」は、本件特許発明の「凹部及び凸部のいずれか一方は、網目状パターンをなし、他方は、ドット状パターンをなしており」という要件を充足し、
キ イ号物件の「床タイル101の複数の凸部102は、高さが2.5mmであり、白杖によりなぞることによって検知が可能である」は、本件特許発明の「白杖により前記警告パターンをなぞることによって前記凸部の検知が可能である」という要件を充足する。

したがって、イ号物件は、本件特許発明の全ての構成要件を充足するから、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属する。

2 被請求人について
本件判定請求は、被請求人が特定されていない。請求人は被請求人を特定できない理由を、平成29年11月21日に差出された上申書で、自分で実施しているイ号物件について判定を求めるものであるから、被請求人は存在しない旨を述べている。

第5 対比・判断
1 本件特許発明の構成要件の充足性について
(1)構成要件(A)について
イ号物件の構成(a)の床面上に「床タイルの複数枚が、一列、又は複数列に配列」して構成された「誘導路105」は、視覚障害者を誘導するために敷設された領域であり、また、視覚障害者によって「誘導路105」以外の床面である「周囲の床面201」とは区別をすることができる領域であるから、本件特許発明の「視覚障害者により他の領域とは区別され得る」敷設された「視覚障害者誘導領域」に相当する。また、イ号物件の構成(a)の前記「誘導路105」は、視覚障害者を誘導する経路を構成するものであるから、本件特許発明の「誘導経路」に相当する。そうすると、当該「誘導路105」が、本件特許発明の「視覚障害者により他の領域とは区別され得る視覚障害者誘導領域を敷設し、この視覚障害者誘導領域により」構成された「誘導経路」に相当する。
また、イ号物件の構成(a)の、屋内において視覚障害者を誘導する「構造体」は、本件特許発明の「視覚障害者を誘導する屋内用視覚障害者誘導用床システム」に相当する。
そうすると、イ号物件の構成(a)は、本件特許発明の構成要件(A)を充足する。

(2)構成要件(B)について
イ号物件の構成(b)の分岐点に配置された「床タイル101」は、視覚障害者に対して分岐点であることを示す、すなわち警告するためのものであるから、当該「床タイル101」が配置された領域は、本件特許発明の「視覚障害者警告領域」に相当する。また、イ号物件の構成(b)の「表面104」及び、25個の「凸部102」によって、視覚障害者に分岐点であることを示す、すなわち警告するためパターンが形成されている。そうすると、イ号物件の「表面104」及び25個の「凸部102」によるパターンは、本件特許発明の「警告パターン」に相当する。
そうすると、イ号物件の構成(b)は、本件特許発明の構成要件(B)を充足する。

(3)構成要件(C)について
ア 構成要件(C)の解釈
(ア)特許請求の範囲の記載について
a 構成要件(C)の「互いの高低差が1mm以上3mm以内であ」る「凹部及び凸部」との記載は、凹部と凸部との高低差が1mm以上3mm以内であることを特定することが明らかである。
b 他方、構成要件(C)の「視覚障害者誘導領域の他の領域の表面に対する高低差が1mm以上3mm以内である凹部及び凸部」との記載は、視覚障害者誘導領域の他の領域の表面と凹部及び凸部との高低差が1mm以上3mm以内である、すなわち、視覚障害者誘導領域の他の領域と視覚障害者警告領域の接する部分の高低差が1mm以上3mm以内であり、段差を有することを少なくとも特定している、とも一見解することができる。
しかしながら、構成要件(C)の上記記載からは、「他の領域の表面に対する高低差」が他の領域の表面に対するどの面との高低差なのかが明記されていないと見ることができるから、上記のとおり解することが相当とはただちにはいえない。また、上記のとおり解した場合には、当該高低差の範囲(上限及び下限)が「互いの高低差」の範囲(上限及び下限)と同一であることから、それらの範囲に矛盾(例えば、視覚障害者誘導領域の他の領域に対して、当該他の領域に接する部分としての凹部を1mm高い位置に設定した場合、視覚障害者誘導領域の他の領域の表面に対する凸部の高低差が3mm以内であるから、凹部及び凸部の互いの高低差を2mmを超えて取ることができない。)があるともいうこともできる。
そうすると、構成要件Cの「前記警告パターンは、」「視覚障害者誘導領域の他の領域の表面に対する高低差が1mm以上3mm以内である凹部及び凸部」との記載が不明確であるとも解されるので、以下に、警告パターンについての「視覚障害者誘導領域の他の領域の表面に対する高低差」(以下「本件高低差」という。)が、本件特許明細書の記載に照らせば、どのように理解されるのかについて検討する。
(イ)本件特許明細書の記載から理解される本件高低差の意味について
a 視覚障害者警告領域及び視覚障害者誘導領域について
本件高低差は、警告パターンに関するものであり、この警告パターンは視覚障害者警告領域に形成されたものであるが、本件特許明細書の段落【0064】には、警告用床タイルが、誘導用床タイルと同様の厚さ(高さ)に形成され、誘導パターンに代えて、警告パターンが形成されたものである旨記載されていることから、本件高低差の意味を理解するに当たっては、「視覚障害者警告領域」についての記載のみならず、誘導パターンが形成された「視覚障害者誘導領域」についての記載をも参照すべきである。
そこで、まず、「視覚障害者警告領域」及び「視覚障害者誘導領域」が、本件特許明細書において、具体的にどのようなものとされているのかについて確認する。
本件特許明細書には、「この視覚障害者警告領域3には、警告パターンが形成されている。」(段落【0063】)と記載されていること、また、「警告パターンは、図4乃至図6に示すように、互いの高低差が3mm以内である凹部3a及び凸部3bから構成されている。」(段落【0068】)と記載されていること、及び、図4ないし図18に凹部3a及び凸部3bから構成されている視覚障害者警告領域3が記載されていることからみて、視覚障害者警告領域に警告パターンが形成され、そして、警告パターンが凹部及び凸部から構成されているといえる。このように視覚障害者警告領域に凹部及び凸部が構成されていることから、視覚障害者警告領域には、高さの異なる2つの面(以下、視覚障害者誘導領域の他の領域と接する部位を含む面を「基準面」といい、基準面と異なる高さの面を「段差面」という。)が形成されているといえる。
また、本件特許明細書には、「視覚障害者警告領域3は、ゴムまたは合成樹脂製の警告用床タイル(警告ブロック)によって構成することができる。これら警告用床タイルは、視覚障害者誘導領域1をなす誘導用床タイルと同様の材料、または、異なる材料により、同様の厚さ(高さ)に形成され、誘導パターンに代えて、警告パターンが形成されたものである。」(段落【0064】)と記載されており、視覚障害者警告領域3は、警告用床タイル(警告ブロック)によって構成されるとともに、警告用床タイルは、視覚障害者誘導領域1をなす誘導用床タイルと同様の厚さ(高さ)に形成されることが示されている。このことからみて、視覚障害者誘導領域にも、同様に、高さの異なる2つの面(以下、視覚障害者誘導領域の他の領域と接する部位を含む面を「基準面」といい、基準面と異なる高さの面を「段差面」という。)が形成されているといえる。
b 視覚障害者誘導領域の他の領域の表面と視覚障害者警告領域との間の段差について
次に、本件高低差は、視覚障害者誘導領域の他の領域の表面と視覚障害者警告領域との関係を示しているといえるから、本件特許明細書における両者の関係についてみてみる。
(a)本件特許明細書には、「この屋内用視覚障害者誘導用床システムにおいては、視覚障害者誘導領域(誘導用床タイル)1の表面は、この視覚障害者誘導領域の他の領域2、例えば、カーペットタイルからなる領域に対して、ほぼ同一の高さとなっている。」(段落【0056】)と記載されており、視覚障害者誘導領域の他の領域2の表面と視覚障害者誘導領域の基準面との間の段差が無い構成が示されている。
ここで、視覚障害者誘導領域の他の領域2の表面と視覚障害者誘導領域の基準面との間の段差が無い上記構成と、上記aで示されている視覚障害者警告領域3を構成する警告用床タイル(警告ブロック)が視覚障害者誘導領域1をなす誘導用床タイルと同様の厚さ(高さ)に形成されること、との両者を踏まえると、本件特許明細書には、視覚障害者誘導領域の他の領域の表面と視覚障害者警告領域の基準面との間の段差が無い構成が示されていると言える。
他方、本件特許明細書には、視覚障害者誘導領域の他の領域の表面と視覚障害者警告領域の基準面との間に段差があることについての明記はなく、少なくとも、視覚障害者誘導領域の他の領域の表面と視覚障害者警告領域の基準面との間の段差を1mm以上あることとする技術的意義が見いだせる記載はない。
さらに、本件特許明細書には、「しかし、前述したように、「点字ブロック」は、躓きの危険性を生じさせる虞があり、また、車イス使用者やベビーカー等の走行においては、突起部通過時のガタツキによる不快感も指摘されている。すなわち、「点字ブロック」は、白杖でなく、足裏感覚で認知できる仕様であるため、5mm程度の突起がある。このような凹凸による移動支援は、車椅子利用者や高齢者、ベビーカー使用者、携帯酸素ボンベ使用者、杖使用者等にとって不便である。」(段落【0023】)と、車イス使用者やベビーカー等の走行においては、突起部を有することが不便であることが記載されているから、このことからも走行路である視覚障害者誘導領域の他の領域の表面と視覚障害者警告領域の基準面との間に段差を設けることは意図されていないといえる。
そうすると、本件特許明細書においては、視覚障害者誘導領域の他の領域の表面と視覚障害者警告領域の基準面との間の段差が無い構成のみが記載されているといえる。
(b)上記(a)のとおり、本件特許明細書には、視覚障害者誘導領域の他の領域の表面と視覚障害者警告領域の基準面との間の段差が無い構成のみが記載されていることからすれば、本件特許明細書では、本件高低差が当該構成を前提として観念されていると一応解することができる。その上で、上記(ア)でいう本件高低差の範囲と「互いの高低差」の範囲との矛盾の問題を解決するためには、上記(ア)でいう本件高低差が他の領域の表面に対するどの面との高低差なのかが明記されていないという問題について、上記の「どの面」を視覚障害者警告領域の段差面であると解すればよいことが明らかである。なお、本件高低差は視覚障害者警告領域についての概念であるが、本件特許明細書に存在する、視覚障害者誘導領域についての「視覚障害者誘導領域の他の領域の表面に対する高低差」という概念も同様に解することができる。
そして、以上の解釈は、以下の点からも裏付けられる。すなわち、このように解した場合、互いの高低差(基準面と段差面との高低差)の範囲(ここでは、「基準面」及び「段差面」との用語を、視覚障害者誘導領域と視覚障害者警告領域の双方を総称した意味で用いている。)と、視覚障害者誘導領域の他の領域の表面と視覚障害者警告領域の段差面との高低差の範囲は、同一になるところ、本件特許明細書では、実際に、「この誘導パターンは、図2(a)(b)に示すように、互いの高低差が3mm以内であって、かつ、視覚障害者誘導領域の他の領域の表面に対する高低差が3mm以内である凹部及び凸部1aからなる。」(段落【0059】)、「警告パターンにおける凹部3a及び凸部3bは、後述する実施例に示すように、互いの高低差を1mm以上2mm以内、かつ、視覚障害者誘導領域の他の領域の表面に対する高低差を1mm以上2mm以内としてもよい。」(【0073】)、「なお、警告パターンのドット状パターンにおけるドットの配列を千鳥配列とした場合には、凹部3a及び凸部3bは、後述の実施例に示すように、互いの高低差を1mm以上1.5mm以内、かつ、視覚障害者誘導領域の他の領域の表面に対する高低差を1mm以上1.5mm以内としてもよい。」(段落【0080】)と記載されており、当該各記載においても、互いの高低差(基準面と段差面との高低差)の範囲と、視覚障害者誘導領域の他の領域の表面と段差面との高低差の範囲は、同一になっているから、上記解釈は、本件特許明細書の記載に整合するといえる。
(c)上記(b)によれば、本件特許明細書は、本件高低差につき、視覚障害者誘導領域の他の領域の表面と視覚障害者警告領域の基準面との間の段差が無い構成を前提としたときの「視覚障害者誘導領域の他の領域の表面に対する」視覚障害者警告領域の段差面との「高低差」を、少なくとも意図していると解することが相当である。
そして、本件高低差をそのように解すれば、上記(ア)bで述べた問題を解決できるとともに、上記(a)で述べた本件特許明細書に記載された構成にも沿うことになる。
(ウ)まとめ
上記(イ)を踏まえると、構成要件(C)の「前記警告パターンは、」「視覚障害者誘導領域の他の領域の表面に対する高低差が1mm以上3mm以内である凹部及び凸部」との文言は、上記(ア)bのとおり解するのではなく、「前記警告パターン」の「凹部及び凸部」が、視覚障害者誘導領域の他の領域の表面と視覚障害者警告領域の基準面との間の段差が無い構成を前提としたときの「視覚障害者誘導領域の他の領域の表面に対する」視覚障害者警告領域の段差面との「高低差」が「1mm以上3mm以内である」態様を、少なくとも含むものと解すべきであるといえる。

イ 充足性について
(ア)構成要件(C)のうちの「前記警告パターンは、互いの高低差が1mm以上3mm以内であって、かつ、視覚障害者誘導領域の他の領域の表面に対する高低差が1mm以上3mm以内である凹部及び凸部からなり」の充足性について
a イ号物件は、「床タイル101は、平板状のベース板部103と多数の凸部102とが一体成形されたものであって、ベース板部103に表面104が形成されているとともに、凸部102が、5行×5列で計25個形成されて」(構成(b))いるから、イ号物件の「床タイル101」の表面は「凹部」と「凸部」からなっているといえる。
そして、上記(2)で説示したように、イ号物件の「表面104」及び25個の「凸部102」によるパターンは、本件特許発明の「警告パターン」に相当する。
そうすると、イ号物件の構成(c)の「床タイル101に形成された表面104及び凸部102」からなる構成は、本件特許発明の構成要件Cの「前記警告パターンは」「凹部及び凸部からな」る構成に相当する。
b イ号物件の構成(c)の「表面104及び凸部102」の「互いの高低差」は、上記aで説示した相当関係を踏まえると、本件特許発明の構成要件Cの「凹部及び凸部」の「互いの高低差」に相当するといえる。
また、「2.5mm」は「1mm以上3mm以内」の範囲内である。
そうすると、イ号物件の構成(c)の「表面104及び凸部102は、互いの高低差が2.5mmであり」は、本件特許発明の構成要件Cのうちの「凹部及び凸部」は「互いの高低差が1mm以上3mm以内であ」ることを充足する。
c イ号物件の「床タイル101の周囲の床面201」は、上記(1)で述べたように、視覚障害者を誘導するために敷設された領域である「誘導路105」とは区別される領域であるから、本件特許発明の「視覚障害者誘導領域の他の領域の表面」に相当し、また、イ号物件の「床タイル101のベース板部103」の「周囲の床面201の表面と面一となされ」る面(すなわち「表面104」)は、上記bで述べたように、本件特許発明における「凸部」との「高低差」を有する「凹部」に相当し、さらに、2つの床面が「面一」であることは、2つの床面に段差がなく同一高さにあることを意味するから、イ号物件の構成(c)の「床タイル101のベース板部103は、厚さが2mmであるとともに、床タイル101の周囲の床面201に対して2mmの深さに埋設されて、周囲の床面201の表面と面一となされており、埋設された状態では周囲の床面201の表面と凸部102との高低差」は、上記ア(ウ)で解釈した本件特許発明の構成要件Cに係る、視覚障害者誘導領域の他の領域の表面と視覚障害者警告領域の基準面との間の段差が無い構成を前提としたときの「視覚障害者誘導領域の他の領域の表面に対する」視覚障害者警告領域の段差面との「高低差」に相当するといえる。
また、「2.5mm」は「1mm以上3mm以内」の範囲内である。
そうすると、イ号物件の構成(c)の「床タイル101のベース板部103は、厚さが2mmであるとともに、床タイル101の周囲の床面201に対して2mmの深さに埋設されて、周囲の床面201の表面と面一となされており、埋設された状態では周囲の床面201の表面と凸部102との高低差が2.5mmになっており」は、上記ア(ウ)で解釈した本件特許発明の構成要件Cに係る「視覚障害者誘導領域の他の領域の表面と視覚障害者警告領域の基準面との間の段差が無い構成を前提としたときの「視覚障害者誘導領域の他の領域の表面に対する」視覚障害者警告領域の段差面との「高低差」が「1mm以上3mm以内である」」ことを充足する。
d 以上のとおりであるから、イ号物件の構成(c)の「前記床タイル101に形成された表面104及び凸部102は、互いの高低差が2.5mmであり、また、床タイル101のベース板部103は、厚さが2mmであるとともに、床タイル101の周囲の床面201に対して2mmの深さに埋設されて、周囲の床面201の表面と面一となされており、埋設された状態では周囲の床面201の表面と凸部102との高低差が2.5mmになっており」は、本件特許発明の構成要件Cのうちの「前記警告パターンは、互いの高低差が1mm以上3mm以内であって、かつ、視覚障害者誘導領域の他の領域の表面に対する高低差が1mm以上3mm以内である凹部及び凸部からなり」を充足する。
(イ)構成要件(C)のうちの「これら凹部及び凸部のいずれか一方は、網目状パターンをなし、他方は、ドット状パターンをなしており」の充足性について
上記(ア)aで説示したように、イ号物件の構成(c)の「網目状パターン」をなしている「表面104」は、本件特許発明の、「網目状パターン」をなしている「凹部」に相当し、同様に25個の「凸部102」は、「ドットパターンをな」している「凸部」に相当する。そうすると、イ号物件の構成(c)の「表面104は、網目状パターンをなしており、一方、25個の凸部102は、ドットパターンをなしており」は、本件特許発明の構成(C)のうちの「これら凹部及び凸部のいずれか一方は、網目状パターンをなし、他方は、ドット状パターンをなしており」を充足する。
(ウ)したがって、イ号物件の構成(c)は、本件特許発明の構成要件(C)を充足する。

(4)構成要件(D)について
イ号物件の構成(d)の床タイル101に形成されたパターンは、白杖によりなぞることによって検知可能であるから、イ号物件の構成(d)は、本件特許発明の構成要件(D)を充足する。

(5)構成要件(E)について
イ号物件の構成(e)の、屋内において視覚障害者を誘導する「構造体」は、本件特許発明の「視覚障害者を誘導する屋内用視覚障害者誘導用床システム」に相当する。
そうすると、イ号物件の構成(e)は、本件特許発明の構成要件(E)を充足する。

2 まとめ
したがって、イ号物件は、構成要件(A)、構成要件(B)、構成要件(C)、構成要件(D)及び構成要件(E)を充足する。

第6 むすび
以上のとおり、イ号物件は、本件特許発明の構成要件のすべてを充足するから、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属する。
よって、結論のとおり判定する。
 
別掲

 
判定日 2017-12-26 
出願番号 特願2010-125382(P2010-125382)
審決分類 P 1 2・ 1- YA (E01F)
最終処分 成立  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 西田 秀彦
井上 博之
登録日 2014-03-20 
登録番号 特許第5501865号(P5501865)
発明の名称 屋内用視覚障害者誘導用床システム  
代理人 山崎 高明  

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