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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01N
管理番号 1336533
審判番号 不服2017-4607  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-04-03 
確定日 2018-02-13 
事件の表示 特願2014-527359「ポイント・オブ・ケア診断利用のためのバイオコートされた圧電バイオセンサープラットフォーム」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 3月 7日国際公開、WO2013/033049、平成26年 9月29日国内公表、特表2014-525568、請求項の数(28)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2012年(平成24年)8月27日(パリ条約による優先権主張 2011年8月26日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成28年7月19日付けで拒絶理由が通知され、同年11月1日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年12月6日付けで拒絶査定されたところ、平成29年4月3日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 原査定の概要

原査定(平成28年12月6日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願の以下の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項1-9、20-26、28
・引用文献1

・請求項10-19
・引用文献1-2

・請求項27
・引用文献1、3

引用文献1:特表平8-511096号公報
引用文献2:特開2010-151848号公報
引用文献3:特開平7-35669号公報

第3 本願発明

本願の請求項1?28に係る発明(以下それぞれ「本願発明1」?「本願発明28」という。)は、平成28年11月1日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?28に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「 【請求項1】
圧電材料と、前記圧電材料の表面に、直接かつ不可逆的に、化学吸着的に単層として結合しているアビジンアンカー物質の層と、を含む弾性波バイオセンサー構成要素であって、前記アビジンアンカー物質が、ビオチン化捕捉試薬と結合する特性を備えている、弾性波バイオセンサー構成要素。
【請求項2】
前記アビジンアンカー物質が、アビジン、ニュートラアビジン、又はストレプトアビジンを備える、請求項1に記載のバイオセンサー構成要素。
【請求項3】
前記圧電材料が、ランガナイト結晶、マグネシウムニオブ酸鉛、チタン酸鉛、ジルコン酸ニオブ酸鉛、チタン酸鉛、ニオブ酸リチウム、ドーパントを備えたニオブ酸リチウム、四ホウ酸リチウム、タンタル酸リチウム、石英、チタン酸バリウム、ベルリナイト、オルトリン酸ガリウム、ニオブ酸カリウム、ジルコンチタン酸バリウム、ランタンカルシウムオキシボレート、ランガサイト結晶、ランタンガリウムケイ酸塩、セラミックペロブスカイト構造、ビスマスフェライト、チタン酸ジルコン酸鉛、硫化カドミウム、酸化亜鉛、ガリウム砒素、ビスマス及びゲルマニウム酸化物、窒化アルミニウム、並びにポリフッ化ビニリデンからなる群から選択される、請求項1に記載のバイオセンサー構成要素。
【請求項4】
前記圧電材料がニオブ酸リチウムである、請求項1に記載のバイオセンサー構成要素。
【請求項5】
ハウジング及び流体工学チャンバーをさらに含み、前記アビジンアンカー層を有する圧電材料の表面が、該チャンバーの壁をなす、請求項1に記載のバイオセンサー構成要素。
【請求項6】
弾性波発生器及び弾性波受信器をさらに含む、請求項1に記載のバイオセンサー構成要素。
【請求項7】
前記波動発生器がバルク弾性波又は表面弾性波を発生させる、請求項6に記載のバイオセンサー構成要素。
【請求項8】
前記バルク弾性波が、厚みすべりモード、弾性波プレートモード、及び水平プレートモードからなる群から選択される、請求項7に記載のバイオセンサー構成要素。
【請求項9】
前記表面弾性が、剪断水平表面弾性波、表面横断波、及びラブ波からなる群から選択される、請求項7に記載のバイオセンサー構成要素。
【請求項10】
アビジンアンカー物質であって、ビオチン化捕捉試薬と結合する特性を有するアビジンアンカー物質を含むバイオフィルムで圧電材料の表面をコーティングするプロセスであって、該プロセスが:
a.結晶表面の表面エネルギーを増加させるために、前記圧電材料の結晶表面を処理する工程と、
b.前記結晶表面に前記アビジンアンカー物質の層を適用する工程と、
c.前記結晶表面上に、化学吸着されたアビジンアンカー物質の層を形成する工程と、
を含む、プロセス。
【請求項11】
前記処理工程がプラズマ処理を含む、請求項10に記載のプロセス。
【請求項12】
前記プラズマ処理が、約5から10秒間の大気圧プラズマジェット流への曝露を含む、請求項11に記載のプロセス。
【請求項13】
前記圧電材料が、ランガナイト結晶、マグネシウムニオブ酸鉛、チタン酸鉛、ジルコン酸ニオブ酸鉛、チタン酸鉛、ニオブ酸リチウム、ドーパントを備えたニオブ酸リチウム、四ホウ酸リチウム、タンタル酸リチウム、石英、チタン酸バリウム、ベルリナイト、オルトリン酸ガリウム、ニオブ酸カリウム、ジルコンチタン酸バリウム、ランタンカルシウムオキシボレート、ランガサイト結晶、ランタンガリウムケイ酸塩、セラミックペロブスカイト構造、ビスマスフェライト、チタン酸ジルコン酸鉛、硫化カドミウム、酸化亜鉛、ガリウム砒素、ビスマス及びゲルマニウム酸化物、窒化アルミニウム、並びにポリフッ化ビニリデンからなる群から選択される、請求項10に記載のプロセス。
【請求項14】
前記圧電材料がニオブ酸リチウムである、請求項10に記載のプロセス。
【請求項15】
前記適用工程が、前記表面層上に前記アビジンアンカー物質を噴霧又は接触転写させて、該表面に薄い均一な液膜を形成する工程を含む、請求項10に記載のプロセス。
【請求項16】
前記薄い均一な液膜がマイクロドットである、請求項15に記載のプロセス。
【請求項17】
前記アビジンアンカー物質が、アビジン、ニュートラアビジン、又はストレプトアビジンを備える、請求項10に記載のプロセス。
【請求項18】
前記適用工程が、さらに、前記アビジンアンカー物質の層を乾燥させる工程を含む、請求項15に記載のプロセス。
【請求項19】
前記の結合したアビジンアンカー物質の層を、生物学的流体中の分析物を特異的に識別する特性を有するビオチン化捕捉試薬を含む組成物に接触させる工程と、
前記ビオチン化捕捉試薬を前記アビジンアンカー物質に結合させる工程と、
をさらに含む、請求項10に記載のプロセス。
【請求項20】
弾性波バイオセンサーであって、
a.直接かつ不可逆的に、化学吸着的に単層として圧電材料の表面に結合したアビジンアンカー物質の層を含む、バイオコートされた圧電材料と、
b.弾性波発生器と、
を含み、
前記層における前記アビジンアンカー物質が、ビオチン化捕捉試薬にも結合し、
前記ビオチン化捕捉試薬が、生物学的流体中に存在する分析物を特異的に識別し、
前記発生器が波を発生し、前記ビオチン化捕捉試薬と分析物との間の反応が、弾性波の特性に検出可能な変化を引き起こす、
弾性波バイオセンサー。
【請求項21】
前記結晶がニオブ酸リチウムである、請求項20に記載のバイオセンサー。
【請求項22】
前記分析物が、全細胞、細菌、真核生物細胞、腫瘍細胞、ウイルス、真菌、寄生虫、及び胞子、並びにこれらの任意のものの断片、タンパク質、核酸、及び毒素からなる群から選択される、請求項20に記載のバイオセンサー。
【請求項23】
前記ビオチン化捕捉試薬が、Chlamydia trachomatisに特異的である、請求項20に記載のバイオセンサー。
【請求項24】
前記ビオチン化捕捉試薬が、デング熱ウイルスに特異的である、請求項20に記載のバイオセンサー。
【請求項25】
前記弾性波がBAWである、請求項20に記載のバイオセンサー。
【請求項26】
生物学的流体サンプルを受容するためのチャンバーをさらに含む、請求項20に記載のバイオセンサー。
【請求項27】
前記バイオコーティングされた圧電材料上に複数のチャネルをさらに含み、各チャネルが異なるビオチン化捕捉試薬層を含んでいるか、又は捕捉試薬を含まない対照チャネルであり、前記チャネルが、複数の分析を同時に行うことを可能にしている、請求項20に記載のバイオセンサー。
【請求項28】
生物学的流体サンプル中の分析物の存在又は量を測定するための方法であって、
請求項1に記載の構成要素を、ビオチン化捕捉試薬を含む組成物に接触させる工程と、
前記ビオチン化捕捉試薬を、前記アビジンアンカー物質と結合させ、ビオチン化捕捉試薬層を形成する工程と、
前記結合したビオチン化捕捉試薬層を生物学的流体サンプルと接触させる工程と、
前記圧電性の表面に弾性波を発生させる工程と、
前記ビオチン化捕捉試薬層に結合している分析物の結果として生じる波の振幅、位相又は周波数の任意の変化を測定する工程と、
を含み、
前記ビオチン化捕捉試薬が、分析物を特異的に識別する、
方法。」

第4 引用文献の記載事項

1 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である上記引用文献1には、次の事項が記載されている(当審において下線を付加した。)。

(引1-ア)「【特許請求の範囲】
1. 表面上に固定された被検体レセプターを担持する結晶性MTiOXO_(4)[式中、MはK、Rb、Tl及びNH_(4)から成る群から選ばれ、そしてXはP又はAsである]を含んで成る組成物。
2. MがKでありそしてXがPである、請求の範囲第1項に記載の組成物。
3. 被検体レセプターがバイオレセプターである、請求の範囲第1項に記載の組成物。
4. バイオレセプターが免疫反応性である、請求の範囲第3項に記載の組成物。
5. バイオレセプターが抗体である、請求の範囲第4項に記載の組成物。
6. 被検体レセプターが結晶性MTiOXO_(4)に直接固定されている、請求の範囲第1項に記載の組成物。
7. 被検体レセプターが固定化マトリックスを介して結晶性MTiOXO_(4)に固定されている、請求の範囲第1項に記載の組成物。
8. (a)被検体を結合する能力を有するレセプターを結晶性MTiOXO_(4)[式中、MはK、Rb、Tl及びNH_(4)から成る群から選ばれ、そしてXはP又はAsである]の表面上に固定する段階、
(b)結晶性MTiOXO_(4)の表面を、検出されるべき被検体を含む溶液と接触させる段階[これによって被検体は固定されたレセプターに結合するであろう]、
(c)結晶性MTiOXO_(4)に電磁エネルギーを付与し、それによって音波を発生させる段階、並びに
(d)前記音波の周波数を測定し、それによって前記波の周波数の変化を検出することによって、被検体の存在を検出する段階
を含んで成る、被検体の検出のための方法。」

(引1-イ)
「 被検体-応答性KTP組成物及び方法
発明の分野
本発明は、被検体-応答性組成物、及びこれらの組成物を使用する被検体検出方法に関し、そして更に特別には、リン酸チタニルカリウム及びその類似化合物を基にしたこのような組成物に関する。
発明の背景
ナノモル領域の化学的及び生物学的物質を検出するために、当該技術分野では種々の検出方法が開発されたが、このような方法は、健康管理から廃物処理までの範囲の分析的応用において増え続ける利用性を有する。一つのこのような一般的方法は、一般にはピエゾ電気変換器として知られているピエゾ電気(圧電)物質、そしてこれよりは少ない程度では光学物質を基にしている。・・・。
それらの表面での質量、粘度及び密度の小さな変化を検出するピエゾ電気変換器の能力は、非常に少ない量の物質の測定を溶液中で行わなければならない分析ツールとしてそれらを特に有用にした。石英を基にした、二つの金属励起電極の間に挟まれたATカットの石英結晶から成る典型的なピエゾ電気変換器は、Karubeら、米国特許第4,789,804号明細書に記載されている。この特許によれば、溶液中の被検体の濃度は、石英ベースのデバイスの表面上に固定されたレセプター物質に付加された被検体の重量によって引き起こされ、そこで発生した体積せん断(bulk shear)音波の共鳴周波数の変化を基にして計算された。
溶液環境中では有用なツールであるけれども、ありきたりのピエゾ電気及び/又は光学物質は、検出されるべき被検体に対する特異性を与えるためにはかなりの複雑な表面改質を受けなければならない。検出されるべき被検体が、事実、生物学的である場合には、バイオレセプター剤(抗原、抗体又はその他のリガンド)を何とかしてピエゾ電気物質の表面上に固定しなければならない。このようなレセプター剤の普通に使用されるピエゾ電気物質、例えば、石英の表面への直接の取り付けは、一般的にはうまく行かないことが見い出されたので、レセプターの固定を容易にするために種々の表面改質が開発された。表面改質の一つの方法は、例えば、・・・シラン及びヘテロ二官能性架橋剤の使用を必要とする。」(第4頁2行?第5頁7行)

(引1-ウ)
「本発明の実施のために適切なバイオレセプターは、被検体特異性結合ペアの一つのメンバーである。通常は、それらは、二つのタイプのもの、即ち免疫反応性又は非免疫反応性バイオレセプターである。
免疫特異性バイオレセプター/バイオ被検体は、抗原/抗体システム又はハプテン/抗体システムによって例示される。」(第8頁下から4行?第9頁2行)

(引1-エ)
「非免疫反応性バイオレセプターは、相互に自然の親和力を分け合う結合ペアから誘導される。一般に、これらのバイオレセプターは、レクチン、結合蛋白質又はキレート化剤から誘導することができる。非免疫結合ペアの例は、ビオチン/アビジィン又はビオチン/ストレプトアビジィン、葉酸/ホルエート結合蛋白質、相補性オリゴヌクレオチド、核酸、相補性DNA又はRNAである。核酸は、天然のソースから単離したり又は当該技術分野で良く知られた方法によって合成的に製造することができる。その他のタイプのバイオレセプターは、酵素及び補因子、細胞、微生物、細胞器官、組織切片、リポソーム、及びホルモンを含む。これらのレセプターに対して特異的な典型的な被検体は、環境の、獣医学の、そしてヒトの体液サンプルからの核酸、蛋白質、ホルモン、微生物、細胞、酵素、ホルモンなどを含む。
一般に、光学又はピエゾ電気検出による被検体検出の分野における先行技術は、被検体レセプターを固定するために、試薬層をプライミング、コーティング、又はそれらの組み合わせにより必要な改質を行った結晶表面、(通常は石英)に依存してきた。このような層の典型的な例は、金、ヘテロ二官能試薬、ポリマー状フィルム、例えばスチレン、及びシラン試薬を含む。本発明は、ピエゾ電気及び光学被検体検出方法においてリン酸チタニルカリウム(KTP)結晶を利用することが最初のことであるという点でユニークであり、そして驚くべきことに、出願人らは、このような利用において、KTP結晶は被検体レセプターに直接結合することができることを発見した。ある場合には、これは、表面改質の必要性を回避する。その代わりに、本発明のバイオレセプター、又は非生物学的レセプターは、当該技術分野において良く知られた種々の手順によって間接的に固定することができる。」(第9頁16行?第10頁10行)

(引1-オ)「 実施例1
結晶性KTPの表面を使用する生物分子のエリプソメトリー検知
この実施例においては、出願人は、ある種の蛋白質のKTiOPO_(4)(KTP)表面での結合プロセスを探るためのエリプソメトリーの使用を説明する。この説明は、第一に、表面で抗体の単分子層を生成させるKTP表面への直接の吸着による抗体の結合と、引き続く抗体の単分子層への対応する抗原の選択的結合を含むが、後者は免疫プロセスとして知られている。この実施例は、このような用途においてKTP表面を使用する利点は二重であることを示す:第一に、抗体分子のKTP表面への結合は直接である。簡単な清掃手順以外には、付加的な表面処理は必要ではない。」(第13頁7行?16行)

(引1-カ)「実施例のために使用した抗体は、Jackson Immuno Research Lab,Inc.から購入したヤギ抗ウサギIgGであった。対応する抗原であるウサギIgGは、Sigma Immuno Chemicalsから購入した。
・・・ヤギ抗ウサギIgGのKTP表面の上への結合(培養プロセスとして知られている)のためには、純水を、純水中の抗体の2μg/ml(約1.4x10^(-8)M)の溶液で置き換えた。結合プロセスのその場での監視を、抗体溶液が所定の場所に入った直後に開始した。最初の何分かの間には、相-遅延信号は、約2mradのほぼ等しい段階で増加するように見えたが、これは、吸着プロセスが抗体の多重の分子層を含んでいたことを示唆する。約2時間後には、信号は約20mradの最大値に到達したが、これは約10の抗体の単分子層に対応する。続く免疫プロセスを容易にするためには、多層抗体フィルムを単一の単分子層に減らさなければならない。これは、抗体水性溶液を抗体を含まないPBS溶液で置き換え、引き続いて約2時間の待ち時間を取ることによって達成されたが、この時間の間に抗体の過剰な層はKTP表面からPBS中に脱着された。抗体の単分子層フィルムを得るために、このプロセスを繰り返した。その代わりに、培養の最初の5分以内に起きた、最初の単分子層の結合が完了した瞬間に吸着プロセスを終結することによっても単分子層コーティングが得られた。PBS溶液中でも又は水中でも、KTP上のヤギ抗ウサギIgGの単分子層コーティングは安定であった。
抗原と抗体単分子層との免疫反応は、サンプルの細長い箱をPBS中のウサギIgGの2μg/ml(約1.4x10^(-8)M)の溶液で満たすことによって示された。相-遅延信号は、瞬間的に増加し、そして数分以内に約5mradの最大値に到達し、これは長い時間の間安定に留まった。3mradの増加した信号は、結合された抗原単分子層のものに対応する。」(第15頁下から2行?第16頁最下行)

(引1-キ)「 実施例2
KTP中でのSAW及びBG波の発生、並びに液体の質量変動の測定
液体上掛け無しの図2中に図式的に示された装置を使用して、z-カットのフラックス(flux)成長されたKTPを使って、y軸に沿って伝播するSAWを発生させた。フォトマスクは、IDTの寸法が以下の通りであるように設計した:長さが1250μm(開口)、4μmのフィンガー幅、及び二つのIDTフィンガーの間の4μmの間隔。慣用のフォトリソグラフの技術を使用して、KTP表面の上にTi IDTを作った。HP 8753Cネットワーク解析器を使用して、SAWデバイスの性能を解析した。IDTのデザインに起因して、16μmの表面音波の波長が発生した。測定された中心周波数は約246MHzであったが、これは3936m/secのSAW速度に対応し、これは3950m/secの計算された予測値と良く一致する。
・・・
B-G音波検知方法の感度を、B.A.Auld,“Acoustic Fields and Waves in Solids”、2巻、12章、271?281頁(1973)によって述べられた式を使用して計算した。計算された感度は10^(-10)g/cm^(2)であり、これは微小な質量変化を含む応用例えば免疫学的検定及び薄いポリマー状フィルムのために非常に適切である。」(第17頁1行?第18頁11行)

(引1-ク)「 実施例3
ウサギ免疫グロブリン(r-IgG)の検出のための免疫学的アッセイ
この実施例は、KTPとニオブ酸リチウム結晶の両方の表面上の抗体の吸着を示す。吸着された抗体の抗原-抗体活性を、対照のポリスチレン表面に結合された抗体の活性と定量的に比較する。この実施例は、更に、ウサギ-IgGの定量的検出のためのサンドイッチイムノアッセイを示す。
結晶処理
KTP及びニオブ酸リチウム結晶を、それぞれ、ほぼ同じ寸法10mmx5mmx0.81mm及び10mmx5mmx0.52mm並びに生じる(affording)表面積約115mm^(2)/結晶の一連の比較的小さな結晶に切った。次に、結晶の表面を実験室用洗剤(Alconox)、アセトン中で次々と洗浄することによって、そして次にH_(2)SO_(4)及び“Nochormix”(Godax Laboratories,Inc.)の混合物を含む超音波浴中での処理によって清浄にした。処理に引き続いて、結晶を脱イオン水中で完全にリンスし、645℃に2分間加熱し、そして次に室温まで冷却した。
抗体吸着
次に、結晶を、Sigma Chem.St.Louisから購入した0.25mg/mlのヤギ抗-r-IgG抗体(全部の分子)を含む抗体溶液(No.R-2004)中に沈め、そして次に4℃で約240時間インキュベーションした。ポリスチレン対照のためには、50ul/くぼみ(well)の上の抗体溶液を、次に、Inter Med,Nuc-Immunoのミクロタイタープレートのウェル中に入れた。コートされた表面積は約71mm^(2)/ウェルであった。次に、プレート及び結晶を、pH7.5のTRISサンプル緩衝液(50mMのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)塩酸塩緩衝液、塩化ナトリウム(75mM)、0.1%のPoly-tergent SLF-18界面活性剤(Olin Chemical,Stamford,CN)による4つの引き続く洗浄によって過剰の抗体が無くなるまで洗浄した。使用に先立って、結晶を、次に、4℃で10mMのリン酸塩で緩衝された(pH7.4)、120mMの塩溶液(PBS)中に沈めて貯蔵した。
“サンドイッチ”r-IgGイムノアッセイ
上の抗体で処理された結晶を、個別に1.5mlのポリプロピレンプラスチックバイアル(Brinkmann InstrumentsCo.,Westbury,NY)中に置いた。次に、各々の結晶を、TRISサンプル緩衝液中で0、0.05、0.5及び5.0μg/mlの濃度に調製されたウサギIgG抗原を含むサンプル溶液の0.6mlで覆った。次に、室温で30分間回転しながら(12rpm)結晶をインキュベーションした。サンプル溶液を吸引によって取り出し、そして各々の結晶を1.5mlのTRISサンプル緩衝液で次々と3回洗浄した。抗原とのインキュベーションに続いて、各々の結晶を、次に、モノクロナール抗ウサギIgG(全部の分子)アルカリ性ホスファターゼ複合体(Sigma Chem.Co.,St.Louis,MO)をTRISサンプル緩衝液で1:1000に希釈することによって製造された0.6mlの酵素抗体レポーター(reporter)複合体溶液で覆った。次に、結晶を室温で30分間回転しながら(12rpm)インキュベーションした。過剰の複合体溶液を除去し、そして個々の結晶を1.5mlのTRISサンプル緩衝液で4回次々と洗浄した。次に、結晶を新鮮なポリプロピレンチューブに移し、そして一個の50-80-01のp-ニトロフェノール基質錠剤(Kiirkegarrd & Perry Laboratories)を、脱イオン水で希釈された5倍希釈のKPL 50-80-02ホスファターゼ基質濃厚物(Kirkegaard & Perry Laboratories)中に溶かすことによって製造された0.6mlのp-ニトロフェノール基質溶液で覆った。次に、結晶を室温で30分間回転しながら(12rpm)インキュベーションした。10、20及び30分間隔で、反応溶液の一部を取り出し、そして405nmで分光光度計で読んだ。」(第18頁12行?第20頁10行)

2 引用文献1に記載された発明の認定

(引1-オ)には実施例1の「結晶性KTPの表面を使用する生物分子のエリプソメトリー検知」において、「表面で抗体の単分子層を生成させるKTP表面への直接の吸着による抗体の結合」と記載され、(引1-カ)には抗体として「ヤギ抗ウサギIgG」が記載されていることから、KTP結晶はヤギ抗ウサギIgGを直接かつ単層として結合することは記載されているといえる。
また、(引1-ク)には実施例3の「ウサギ免疫グロブリン(r-IgG)の検出のための免疫学的アッセイ」において、「KTP・・・の表面上の抗体の吸着を示す。」と記載され、抗体として「ヤギ抗-r-IgG抗体」が記載されていることから、KTP結晶はヤギ抗-r-IgG抗体を直接結合することは記載されているといえる。
そうすると、さらに、(引1-ア)ないし(引1-ク)の記載及び、実施例1、3のようなヤギ抗-r-IgG抗体(ヤギ抗ウサギIgG)を「免疫学的検定」「のために非常に適切である」実施例2の「SAWデバイス」に使用することが読みとれることから、引用文献1には、

「ウサギ免疫グロブリン(r-IgG)の検出のためのヤギ抗-r-IgG抗体を表面上に直接かつ単層として吸着されたピエゾ電気(圧電)物質であるリン酸チタニルカリウム(KTP)結晶を使用したSAWデバイス。」

の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

3 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である上記引用文献2には、従来技術として「【0015】・・・基板表面に核酸分子を結合させる手法として、・・・(2)基板表面をプラズマ処理する」技術事項が記載されている。

4 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である上記引用文献3には、「【0012】・・・、単一または多数の検体を測定する圧電表面波デバイスの表面の質量変化と相関関係にない共鳴周波数のシフトを起させる干渉を解明しながら、サンプル中のこれらの検体を正確に検出する」技術事項が記載されている。

第5 対比・判断

1 本願発明1について

(1)対比

本願発明1と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「ピエゾ電気(圧電)物質であるリン酸チタニルカリウム(KTP)結晶」は、本願発明1の「圧電材料」に相当する。

イ 引用発明の「ウサギ免疫グロブリン(r-IgG)の検出のための」「ヤギ抗-r-IgG抗体」と、
本願発明1の「アビジンアンカー物質」であって、「前記アビジンアンカー物質が、ビオチン化捕捉試薬と結合する特性を備えている」ものは、
生物学的物質を検出するためのレセプターであって、リガンドと結合する特性を備えているものの点で共通する。

そうすると、引用発明の「表面上に直接かつ単層として吸着されたヤギ抗-r-IgG抗体」と、
本願発明の「表面に、直接かつ不可逆的に、化学吸着的に単層として結合しているアビジンアンカー物質の層」とは、
「表面に、直接、単層として結合している生物学的物質を検出するためのレセプターであって、リガンドと結合する特性を備えている」ものの点で共通する。

ウ 上記ア、イに鑑みれば、引用発明の「SAWデバイス」は、生物学的物質を検出するためのものであるので、本願発明1の「弾性波バイオセンサー構成要素」に相当する。

(2)一致点及び相違点

よって、本願発明1と引用発明とは、

「圧電材料と、前記圧電材料の表面に、直接、単層として結合している生物学的物質を検出するためのレセプターと、を含む弾性波バイオセンサー構成要素であって、前記レセプターが、リガンドと結合する特性を備えている、弾性波バイオセンサー構成要素。」

の発明である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点)
生物学的物質を検出するためのレセプターを、表面に直接、単層として結合している構成について、本願発明1は、「圧電材料表面に、不可逆的に、化学吸着的に結合しているアビジンアンカー物質の層であり、アビジンアンカー物質が、ビオチン化捕捉試薬と結合する特性を備えている」のに対し、引用発明においては、「リン酸チタニルカリウム(KTP)結晶」「表面上に」「ヤギ抗-r-IgG抗体が」「吸着され」ており、「ヤギ抗-r-IgG抗体が」「ウサギ免疫グロブリン(r-IgG)」の検出のためのものである点。

(3)当審の判断

引用文献1の上記摘記事項(引1-エ)には、先行技術は被検体レセプターを固定するために、コーティングなどの表面改質に依存してきたが「KTP結晶は被検体レセプターに直接結合することができることを発見した。」と記載され、上記摘記事項(引1-ウ)に「本発明の実施のために適切なバイオレセプターは、・・・二つのタイプのもの、即ち免疫反応性又は非免疫反応性バイオレセプターである。」と、上記摘記事項(引1-エ)に「非免疫結合ペアの例は、ビオチン/アビジィン又はビオチン/ストレプトアビジィン、葉酸/ホルエート結合蛋白質、相補性オリゴヌクレオチド、核酸、相補性DNA又はRNAである。」と記載されてはいるが、「ある場合には、これは、表面改質の必要性を回避する。その代わりに、本発明のバイオレセプター、又は非生物学的レセプターは、当該技術分野において良く知られた種々の手順によって間接的に固定することができる。」とも記載されている。
そうすると、KTP結晶に直接結合することができる被検体レセプターは、適切なバイオレセプターとして記載された全てのバイオレセプターであるとは限らないものと理解するのが相当である。
そして、上記摘記事項(引1-エ)に非免疫結合ペアの例として記載された「ビオチン/アビジィン又はビオチン/ストレプトアビジィン、葉酸/ホルエート結合蛋白質、相補性オリゴヌクレオチド、核酸、相補性DNA又はRNA」については実施例もなく、KTP結晶がレセプターを直接結合することができる理論的な説明もないので、引用文献1には、KTP結晶が抗体以外のレセプターを直接かつ単層として吸着することは、実際に実施できるものとして記載されているとは認められない。
したがって、引用文献1には、「圧電材料表面に、直接かつ不可逆的に、化学吸着的に単層として」「アビジンアンカー物質の層」を「結合」させることについては実質的に記載されているとはいえない。
引用文献1には、ビオチン/アビジンを使うことは記載されているのだから、レセプターとしてアビジンを使おうとは想到するとしても、上述のとおり、アビジンは、上記摘記事項(引1-エ)に、単に例示されているにとどまり、実施例もKTP結晶が非免疫結合ペアのいずれかを直接結合することができる理論的な説明もないものである。
そうすると、上記の非免疫結合ペアの例として記載された、アビジンが結晶性KTPの表面に吸着されるか否かは、引用文献1の記載からは明らかではない。
しかも、本願明細書の段落【0034】にプラズマ処理により結晶表面上の実質的にすべての有機汚染物質を除去することが記載され、段落【0077】に実施例1としてプラズマにより圧電材料の表面を清掃し活性化させることが記載されているように、本願発明でも、プラズマ処理により圧電材料にアビジンが直接結合できるようにしているのであるから、プラズマ処理をしない引用発明の結晶表面には、アビジンは直接吸着できない蓋然性が高い。

また、引用文献2には、基板表面に核酸分子を結合させる手法として、基板表面をプラズマ処理する構成が記載されているが、核酸は、リボ核酸とデオキシリボ核酸を合わせた呼び名であり、核酸分子はアミノ酸ともアミノ酸が結合したタンパク質とも異なる分子であるから、引用文献2には、基板表面にタンパク質を結合させる手法として、プラズマ処理する構成は記載されていない。
そして、アビジンはタンパク質であるから、引用文献2に記載された技術事項を参酌しても、引用発明のKTP結晶の表面をプラズマ処理して、アビジンに結合させることは、当業者であっても、想到できるとはいえない。

さらに、引用文献3にも圧電材料表面に、アビジンを結合させることについては記載も示唆もされていない。

したがって、引用文献1には、アビジンを使うことは記載されているのだからアビジンを使おうとは想到するとしても、アビジンを結晶性KTPの表面に、直接かつ不可逆的に、化学吸着的に単層として結合させることまで想到することができるとはいえない。

してみると、引用文献1?3に接した当業者といえども、上記相違点に係る本願発明1の構成を容易に想到することはできない。
したがって、本願発明1は、引用発明及び引用文献1?3に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

2 本願発明2?9について
本願発明2?9は、本願発明1をさらに限定した発明であるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献1?3に記載の技術事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3 本願発明10について
本願発明10は、物の発明である本願発明1のカテゴリーを変えて、物を生産する方法の発明として構成したものであり、本願発明1の「圧電材料表面に、直接かつ不可逆的に、化学吸着的に単層として」「アビジンアンカー物質の層」を「結合」させる構成と同一の構成を備えるものといえるから、本願発明1と同じ理由により、引用発明及び引用文献1?3に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

4 本願発明11?19、28について
本願発明11?19、28は、本願発明10をさらに限定した発明であるから、本願発明10と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献1?3に記載の技術事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

5 本願発明20について
本願発明20は、本願発明1の「圧電材料表面に、直接かつ不可逆的に、化学吸着的に単層として」「アビジンアンカー物質の層」を「結合」させる構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、引用発明及び引用文献1?3に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

6 本願発明21?27について
本願発明21?27は、本願発明20をさらに限定した発明であるから、本願発明20と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献1?3に記載の技術事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第6 むすび

以上のとおり、本願発明1?28は、引用発明及び引用文献1?3に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-01-31 
出願番号 特願2014-527359(P2014-527359)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 北川 創  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 渡戸 正義
信田 昌男
発明の名称 ポイント・オブ・ケア診断利用のためのバイオコートされた圧電バイオセンサープラットフォーム  
代理人 大貫 敏史  
代理人 内藤 和彦  
代理人 江口 昭彦  
代理人 稲葉 良幸  

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