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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G06F 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F |
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管理番号 | 1336561 |
審判番号 | 不服2016-18620 |
総通号数 | 219 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-03-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-12-12 |
確定日 | 2018-02-06 |
事件の表示 | 特願2015-501338「仮想化システム」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 8月28日国際公開、WO2014/129184、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,2014年2月19日(優先権主張2013年2月21日(以下,「優先日」という。),日本国)を国際出願日とする出願であって,平成28年7月1日付けで拒絶理由通知がされ,平成28年8月10日付けで手続補正がされ,平成28年9月7日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,平成28年12月12日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ,平成29年9月29日付けで当審より拒絶理由通知がされ,平成29年12月1日付けで手続補正がされたものである。 第2 本願発明 本願請求項1-7に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明7」という。)は,平成29年12月1付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-7に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1は以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 所定の機能を実行する仮想マシンを含むサーバ装置と, 前記サーバ装置を制御する仮想マシン制御装置と, を含み, 前記仮想マシン制御装置は, 前記仮想マシンを識別するための識別情報を生成する識別情報生成手段と, 前記識別情報と,複数の前記仮想マシンが実行可能な全ての機能のうち当該仮想マシンが実行する機能と,を対応付けた機能対応表を作成する対応表作成手段と, 前記サーバ装置へ前記機能対応表を送信する送信手段と, 前記機能対応表に基づいて前記識別情報を割り当てた前記仮想マシンを起動するよう前記サーバ装置に指示する指示手段と, を備え, 前記サーバ装置は, 前記指示手段からの指示に応じて,複数の前記仮想マシンが実行する全ての機能を実行可能な前記仮想マシンを起動する仮想化手段 を備え, 前記識別情報生成手段は,複数の前記仮想マシンが実行可能な全ての機能の数と,予め設定された冗長度数と,の積の数の前記識別情報を生成し, 前記仮想マシンは,自身に割当てられた前記識別情報から,前記機能対応表において対応付けられた機能を特定し,特定した当該機能を実行する, 仮想化システム。」 なお,本願発明2-7の概要は以下のとおりである。 本願発明2は,本願発明1を減縮した発明である。 本願発明3,4は,それぞれ本願発明1,2に対応する情報処理方法の発明であり,本願発明1,2とカテゴリ表現が異なるだけの発明である。 本願発明5は以下のとおりの発明である。 「【請求項5】 複数の仮想マシンのそれぞれを識別する識別情報を生成する識別情報生成手段と, 前記識別情報と,前記仮想マシンが実行可能な全ての機能のうち当該仮想マシンが実行する機能と,を対応付けた機能対応表を作成する対応表作成手段と, 前記仮想マシンを含むサーバ装置へ前記機能対応表を送信する通信手段と, 前記機能対応表において同一の機能が対応付けられた前記識別情報のそれぞれが割当てられた前記仮想マシンの起動を,当該仮想マシンを起動する複数の前記サーバ装置のうち異なるサーバ装置のそれぞれへ指示する仮想マシン起動指示手段と, を備え, 前記識別情報生成手段は,複数の前記仮想マシンが実行する全ての機能の数と,予め設定された冗長度数と,の積の数の前記識別情報を生成し, 前記仮想マシン起動指示手段は,複数の前記仮想マシンが実行する全ての機能を実行可能な前記仮想マシンを起動するよう指示する, 情報処理装置。」 本願発明6,7は,それぞれ,本願発明5に対応する情報処理方法の発明,及び本願発明5に対応するプログラムの発明であり,本願発明5とカテゴリ表現が異なるだけの発明である。 第3 引用文献,引用発明等 1.引用文献1について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2010-271863号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。 A 「【0009】 そこで,本発明の目的は,物理マシンへの仮想マシン集約台数の最大化とリソース利用率の最適化をともに実現することが可能になる情報処理装置を提供することにある。」 B 「【0019】 図1は,本発明の実施形態における情報処理システムの構成例を示すブロック図である。 本発明の実施形態における情報処理システムは,仮想マシン配置装置1,管理端末装置2,ファイルサーバ3,および物理マシン4とを有し,これらは,LAN(ローカルエリアネットワーク)等のネットワークにより通信可能に接続される。 【0020】 仮想マシン配置装置1は,図1に示すように,仮想マシン配置制御部11,物理マシン情報管理部12,仮想マシン情報管理部13,アプリケーションワークロード情報管理部14,アプリケーションワークロード負荷発生指示部15,性能情報管理部16,仮想マシン予測式管理部17,仮想マシン複製部18,仮想マシン起動部19,仮想マシン構成変更部20,仮想マシン停止部21,仮想マシン削除部22および記憶装置23を備える。 【0021】 記憶装置23は,ハードディスクドライブや不揮発性メモリなどの記憶媒体であり,仮想マシン配置制御部11,物理マシン情報管理部12,仮想マシン情報管理部13,アプリケーションワークロード情報管理部14,アプリケーションワークロード負荷発生指示部15,性能情報管理部16,仮想マシン予測式管理部17,仮想マシン複製部18,仮想マシン起動部19,仮想マシン構成変更部20,仮想マシン停止部21および仮想マシ ン削除部22による処理動作のためのプログラムを記憶する他,物理マシン情報DB(データベース)24,仮想マシン情報DB25,アプリケーションワークロード情報DB26,性能情報DB27および仮想マシン予測式情報DB28を有する。 【0022】 管理端末装置2は,ディスプレイなどの表示装置,およびキーボードやマウスなどの入力装置を備えるコンピュータであり,管理者による操作指示を受け付ける。 また,管理端末装置2は,仮想マシン配置装置1からの各種命令を送信する機能と命令実行結果を受信して表示する機能とを有する。 【0023】 ファイルサーバ3は,図1に示すように,仮想マシンイメージファイル31を内部記憶装置に格納する機能を有する。仮想マシンイメージファイル31は仮想マシン32の保存イメージであり,仮想マシン32はWindows(登録商標)などのOS(ゲストOS)33とアプリケーション34とを有する。 【0024】 物理マシン4は,図1に示すように,ホストOS41,仮想マシンモニタ42を有し,この仮想マシンモニタ42上に必要に応じて仮想マシン43を配置する機能を有する。 物理マシン4上の仮想マシン43は,アプリケーション44およびOS(ゲストOS)45を有する。ただし,物理マシン4上の仮想マシンモニタ42がハイパーバイザ型仮想マシンモニタである場合は,ホストOS41は物理マシン4の構成に含まれない。」 C 「【0028】 図3は,本発明の実施形態における仮想マシン配置装置の仮想マシン情報DBの構成例を表形式で示す図である。 記憶装置23の仮想マシン情報DB25は,仮想マシンの仮想マシンID,仮想マシン基本情報,許容リソース情報,アプリケーション情報および配置情報とを関連付けて記憶する。 【0029】 仮想マシン情報DB25上の仮想マシンIDは仮想マシンごとに一意に付与される識別情報である。 仮想マシン情報DB25上の仮想マシン基本情報は,仮想マシン名,仮想マシンメモリ容量,仮想マシンCPUクロックおよび仮想マシンディスク容量が関連付けられてなる。 【0030】 また,仮想マシン情報DB25上の許容リソース情報は,仮想マシンのゲストOS側で把握される仮想マシン許容CPU利用率および仮想マシン許容メモリ利用率が関連付けられてなる。 【0031】 図3に示した例では,仮想マシン情報DB25上のアプリケーション情報はアプリケーションIDである。このアプリケーションIDとは,当該IDに仮想マシン情報DB25で関連付けられる情報で表される仮想マシンに対応するアプリケーションに一意に付与される識別情報である。 【0032】 また,仮想マシン情報DB25上の配置情報は,配置元仮想マシン情報および配置先物理マシンIDが関連付けられてなる。この配置元仮想マシン情報は,仮想マシンのイメージが格納されるファイルサーバ3の保管場所を指す。 【0033】 また,図3に示した仮想マシン情報DB25では,仮想マシンID「F001」から「F002」に対応する仮想マシンは,ファイルサーバ3にある仮想マシン保存イメージであり,オリジナルのシステム構成を有する。 【0034】 また,図3に示した仮想マシン情報DB25上の仮想マシンID「V0011」から「V0015」に対応する仮想マシンは,物理マシン4の仮想マシンモニタ42上に配置された際の仮想マシンに一意に付与されるIDであり,最適化が終了してシステム構成が変更された情報である。」 D 「【0058】 図7に示したステップS1からステップS10までの処理は予測フェーズであり,ステップS11以降の処理が補正フェーズでなる。補正フェーズは大きく2つの工程,具体的には仮想マシン削減工程と仮想マシン追加工程に分岐される。 【0059】 仮想マシンを配置する際の準備段階として,管理者が管理端末装置2を操作することで,仮想マシンに関する情報である,仮想マシン基本情報,許容リソース情報,アプリケーションIDおよび配置情報を入力すると,これらの情報が仮想マシン配置装置1に送信される。 【0060】 仮想マシン配置装置1は,管理端末装置2からの仮想マシンに関する情報を受信すると,仮想マシン情報管理部13を用いて,これら受信した情報に該当の仮想マシンの仮想マシンIDを付与して記憶装置23の仮想マシン情報DB25に格納する。これにより仮想マシンに関する情報の登録がなされる(ステップS1)。 【0061】 <途中省略> 【0065】 次に,アプリケーションが格納された仮想マシン,つまりファイルサーバ3上の仮想マシンイメージファイル31を物理マシン4上の仮想マシンモニタ42上に配置する際は,管理者は管理端末装置2の操作により当該管理端末装置2を仮想マシン配置装置1に接続して,配置元の仮想マシンの選択を行なう(ステップS4)。 次に,管理者は管理端末装置2の操作により当該管理端末装置2を仮想マシン配置装置1に接続して,配置先物理マシンを選択する(ステップS5)。 【0066】 仮想マシン配置装置1の仮想マシン配置制御部11は,仮想マシン複製部18を用いて,ファイルサーバ3上の仮想マシンイメージファイル31から物理マシン4へ仮想マシンを1台複製し,当該複製した仮想マシンを仮想マシン起動部19を用いて起動する(ステップS6)。起動対象の仮想マシンのアプリケーションは,仮想マシン情報DB25上の選択済みの仮想マシンに対応するアプリケーションIDから特定される。」 E 「【図1】 」 F 「【図3】 」 G 「【図7】 」 したがって,上記引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「仮想マシン配置装置1,管理端末装置2,ファイルサーバ3,および物理マシン4とを有し,それぞれがネットワークにより通信可能に接続される情報処理システムであって, 仮想マシン配置装置1は,仮想マシン配置制御部11,仮想マシン情報管理部13,仮想マシン複製部18,仮想マシン起動部19,および記憶装置23を備え, 記憶装置23は,仮想マシン情報DB25を有し, ファイルサーバ3は,仮想マシンイメージファイル31を内部記憶装置に格納する機能を有し, 物理マシン4は,仮想マシンモニタ42を有し,この仮想マシンモニタ42上に必要に応じて仮想マシン43を配置する機能を有し, 物理マシン4上の仮想マシン43は,アプリケーション44およびOS(ゲストOS)45を有し, 仮想マシン情報DB25上の仮想マシンIDは仮想マシンごとに一意に付与される識別情報であり, 仮想マシン情報DB25は,仮想マシンの仮想マシンID,仮想マシン基本情報,許容リソース情報,アプリケーションID,および配置情報を関連付けて記憶し,ここで,アプリケーションIDとは,当該IDに仮想マシン情報DB25で関連付けられる情報で表される仮想マシンに対応するアプリケーションに一意に付与される識別情報であり, 仮想マシンを配置する際の準備段階として,管理者が管理端末装置2を操作することで,仮想マシンに関する情報である,仮想マシン基本情報,許容リソース情報,アプリケーションIDおよび配置情報を入力すると,これらの情報が仮想マシン配置装置1に送信され, 仮想マシン配置装置1は,管理端末装置2からの仮想マシンに関する情報を受信すると,仮想マシン情報管理部13を用いて,これら受信した情報に該当の仮想マシンの仮想マシンIDを付与して記憶装置23の仮想マシン情報DB25に格納し, アプリケーションが格納された仮想マシン,つまりファイルサーバ3上の仮想マシンイメージファイル31を物理マシン4上の仮想マシンモニタ42上に配置する際は,管理者は管理端末装置2の操作により当該管理端末装置2を仮想マシン配置装置1に接続して,配置元の仮想マシンの選択を行ない, 次に,管理者は管理端末装置2の操作により当該管理端末装置2を仮想マシン配置装置1に接続して,配置先物理マシンを選択し, 仮想マシン配置装置1の仮想マシン配置制御部11は,仮想マシン複製部18を用いて,ファイルサーバ3上の仮想マシンイメージファイル31から物理マシン4へ仮想マシンを1台複製し,当該複製した仮想マシンを仮想マシン起動部19を用いて起動する, 情報処理システム。」 2.引用文献2について また,原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2009-211517号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。 H 「【0011】 本発明の課題は,運用系の仮想計算機システムでハードウェア障害が発生した場合に,ホストオペレーティングシステムの状態に依存することなく,専用ハードウェアによってハードウェアに依存する障害発生原因の特定を行うことにある。 【0012】 本発明の他の課題は,運用系でハードウェア障害が発生した場合でもダウンタイムを大幅に短縮して,運用系のゲストオペレーティングシステムの処理を待機系のゲストオペレーティングシステムの処理として,処理を引き継ぐことにある。 【課題を解決するための手段】 【0013】 本発明の一つのアスペクトによる仮想計算機冗長化システムは,運用系コンピュータシステムと,運用系コンピュータシステムのバックアップとして待機する待機系コンピュータシステムとを具備する。運用系コンピュータシステムは,運用系ホストオペレーティングシステム,及び,運用系ホストオペレーティングシステムによって提供される仮想計算機上で動作する運用系ゲストオペレーティングシステムを備える。待機系コンピュータシステムは,待機系ホストオペレーティングシステムと,待機系ゲストオペレーティングシステムとを備える。 【発明の効果】 【0014】 本発明によれば,運用系の仮想計算機システムでハードウェア障害が発生した場合に,ホストオペレーティングシステムの状態に依存することなく,専用ハードウェアによってハードウェアに依存する障害発生原因の特定を行うことができる。」 したがって,上記引用文献2には,「障害対策として同一の機能を有する仮想マシンを異なる仮想計算機制御部上に冗長配置する」という技術的事項が記載されていると認められる。 3.引用文献3について また,原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(特開2012-150657号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。 I 「【0012】 Aテーブルには,第1のパラメータである仮想計算機上で同時に実行可能な機能の組合せとして,図2のデータ項目の情報が登録され,管理されている。 図2のAテーブルのデータ項目を,以下に定義する。 計算機ID400は,計算機のID情報を示す。 【0013】 実行可能機能401は,仮想計算機上で同時に実行可能な機能の組合せの情報を示す。 【0014】 動作中機能402は,仮想計算機上で動作する機能の情報を示す。 【0015】 図2において,Aテーブルにおける計算機ID400が登録される領域には,「11」と「21」と「31」とが登録されている。 また,「11」の実行可能機能401が登録される領域には,「f1機能とf2機能」とが登録されており,「21」の実行可能機能401が登録される領域には,「f2機能とf4機能」とが登録されており,「31」の実行可能機能401が登録される領域には,「f1機能とfN機能」とが登録されている。 また,「11」の動作中機能402が登録される領域には,「f1機能」が登録されており,「21」の動作中機能402が登録される領域には,「f2機能」が登録されており,「31」の動作中機能402が登録される領域には,「fN機能」が登録されている。」 J 「【図2】 」 したがって,上記引用文献3には,「仮想計算機上で同時に実行可能な機能の組合せをそれぞれの仮想マシンのIDと対応づけてテーブルに登録する」という技術的事項が記載されていると認められる。 第4 対比・判断 1.本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。 ア 引用発明における「仮想マシン43」は,本願発明1における「仮想マシン」に相当し,引用発明において,仮想マシン43は,自身が有するアプリケーションによって“所定の機能を実行する”ものであることは明らかである。 また,引用発明における「物理マシン4」は,「仮想マシンモニタ42を有し,この仮想マシンモニタ42上に必要に応じて仮想マシン43を配置する機能を有」するものであり,仮想マシンを含む物理マシンを“サーバ装置”で構成することは技術常識であるから,本願発明1における「仮想マシンを含むサーバ装置」に相当する。 してみれば,引用発明における「物理マシン4」は,本願発明1における「所定の機能を実行する仮想マシンを含むサーバ装置」に相当する。 イ 引用発明における「仮想マシン配置制御部11」は,「仮想マシン複製部18を用いて,ファイルサーバ3上の仮想マシンイメージファイル31から物理マシン4へ仮想マシンを1台複製し,当該複製した仮想マシンを仮想マシン起動部19を用いて起動する」ことから,物理マシン4を“制御”しているとみることができ,上記アでの検討と合わせると,引用発明における「仮想マシン配置装置1」は,本願発明1における「前記サーバ装置を制御する仮想マシン制御装置」に相当する。 ウ 引用発明における「仮想マシンID」は,「仮想マシンごとに一意に付与される識別情報」であるから,本願発明1における「前記仮想マシンを識別するための識別情報」に相当する。 エ 引用発明における「仮想マシン配置装置1」は,「管理端末装置2からの仮想マシンに関する情報を受信すると,仮想マシン情報管理部13を用いて,これら受信した情報に該当の仮想マシンの仮想マシンIDを付与して記憶装置23の仮想マシン情報DB25に格納」するものであるから,引用発明の「仮想マシン配置装置1」は,仮想マシンIDを“生成する生成手段”を備えているといえるので,上記ウでの検討を合わせると,引用発明と本願発明1とは,「前記仮想マシンを識別するための識別情報を生成する識別情報生成手段」を備える点で一致する。 オ 引用発明における「仮想マシン情報DB25」は,「仮想マシンの仮想マシンID」と「アプリケーションID」を「関連付けて記憶し」ているところ,「アプリケーションID」とは,「当該IDに仮想マシン情報DB25で関連付けられる情報で表される仮想マシンに対応するアプリケーションに一意に付与される識別情報であり」,“仮想マシン”が実行する“機能”を表すものといえるので,引用発明における「仮想マシン情報DB25」と本願発明1における「機能対応表」とは,「前記識別情報と,当該仮想マシンが実行する機能と,を対応付けた機能対応表」である点で共通する。 そして,引用発明における「仮想マシン配置装置1」は,「管理端末装置2からの仮想マシンに関する情報を受信すると,仮想マシン情報管理部13を用いて,これら受信した情報に該当の仮想マシンの仮想マシンIDを付与して記憶装置23の仮想マシン情報DB25に格納」するから,引用発明における「仮想マシン情報管理部13」は,仮想マシン情報DB25を“作成する作成手段”であるということができる。 してみれば,引用発明と本願発明1とは,後記する点で相違するものの,「前記識別情報と,当該仮想マシンが実行する機能と,を対応付けた機能対応表を作成する対応表作成手段」を備える点で共通する。 カ 引用発明における「仮想マシン配置制御部11」は,「仮想マシン複製部18を用いて,ファイルサーバ3上の仮想マシンイメージファイル31から物理マシン4へ仮想マシンを1台複製し,当該複製した仮想マシンを仮想マシン起動部19を用いて起動する」から,“仮想マシン”を“起動する”よう“物理マシン4”に“指示する指示手段”とみることができる。 また,起動された仮想マシンには,仮想マシンIDが,仮想マシンごとに一意に付与されるから,“指示手段”は,“識別情報を割り当てた仮想マシンを起動する”よう指示しているといえる。 してみれば,引用発明と本願発明1とは,後記する点で相違するものの,「識別情報を割り当てた仮想マシンを起動するようサーバ装置に指示する指示手段」を備える点で共通する。 キ 引用発明における「仮想マシンモニタ42」は,「この仮想マシンモニタ42上に必要に応じて仮想マシン43を配置する機能を有し」ているから,本願発明1における「前記仮想マシンを起動する仮想化手段」に相当し,引用発明における「仮想マシン配置制御部11」は,「仮想マシン複製部18を用いて,ファイルサーバ3上の仮想マシンイメージファイル31から物理マシン4へ仮想マシンを1台複製し,当該複製した仮想マシンを仮想マシン起動部19を用いて起動する」から,物理マシン4上の「仮想マシンモニタ42」は,“指示手段からの指示に応じて”仮想マシンを起動しているといえる。 してみれば,引用発明と本願発明1とは,後記する点で相違するものの,「前記指示手段からの指示に応じて,前記仮想マシンを起動する仮想化手段」を備える点で共通する。 ク 引用発明における「情報処理システム」は,仮想マシンモニタ42上に仮想マシン43を配置する機能を有するものである点で,本願発明1における「仮想化システム」に対応する。 したがって,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。 (一致点) 「所定の機能を実行する仮想マシンを含むサーバ装置と, 前記サーバ装置を制御する仮想マシン制御装置と, を含み, 前記仮想マシン制御装置は, 前記仮想マシンを識別するための識別情報を生成する識別情報生成手段と, 前記識別情報と,当該仮想マシンが実行する機能と,を対応付けた機能対応表を作成する対応表作成手段と, 前記識別情報を割り当てた前記仮想マシンを起動するよう前記サーバ装置に指示する指示手段と, を備え, 前記サーバ装置は, 前記指示手段からの指示に応じて,前記仮想マシンを起動する仮想化手段 を備える, 仮想化システム。」 (相違点) (相違点1)機能対応表において,仮想マシンの識別情報に対応付けられる機能に関して, 本願発明1では,「複数の前記仮想マシンが実行可能な全ての機能のうち,当該仮想マシンが実行する機能」であると特定されているのに対し,引用発明では,そのような機能であるとの特定はなされていない点。 (相違点2)本願発明1の仮想マシン制御装置は,「前記サーバ装置へ前記機能対応表を送信する送信手段」を備えるのに対し,引用発明の仮想マシン配置装置1はそのような構成を備えていない点。 (相違点3)識別情報を割り当てた仮想マシンを起動するようサーバ装置に指示する際,本願発明1では「前記機能対応表に基づいて」指示するのに対し,引用発明は,そのようになっていない点。 (相違点4)起動される仮想マシンが,本願発明1では,「複数の前記仮想マシンが実行する全ての機能を実行可能な前記仮想マシン」であるのに対し,引用発明では,そのような構成のものではない点。 (相違点5)本願発明1では「前記識別情報生成手段は,複数の前記仮想マシンが実行可能な全ての機能の数と,予め設定された冗長度数と,の積の数の前記識別情報を生成し」ているのに対し,引用発明はそのような構成となっていない点。 (相違点6)本願発明1では「前記仮想マシンは,自身に割当てられた前記識別情報から,前記機能対応表において対応付けられた機能を特定し,特定した当該機能を実行する」のに対し,引用発明はそのような構成となっていない点。 (2)相違点についての判断 上記相違点1-3,5,6は,機能対応表に関連するものであるので,まとめて検討すると,本願発明1では,識別情報生成手段が,「複数の前記仮想マシンが実行可能な全ての機能の数と,予め設定された冗長度数と,の積の数の前記識別情報を生成」すると,「対応表作成手段」が,生成された,「前記識別情報と,複数の前記仮想マシンが実行可能な全ての機能のうち当該仮想マシンが実行する機能と,を対応付けた機能対応表を作成」し,「送信手段」が,作成された「前記機能対応表を」「前記サーバ装置へ送信」したうえで,「指示手段」が,「前記機能対応表に基づいて」前記識別情報を割り当てた前記仮想マシンを起動するよう前記サーバ装置に指示することで,サーバ装置側で起動された「前記仮想マシン」は,「自身に割当てられた前記識別情報から,前記機能対応表において対応付けられた機能を特定し,特定した当該機能を実行する」ことができるように構成されているものであって,機能対応表は,サーバ装置側で起動される仮想マシンが実行すべき機能を特定するために利用されるものであるのに対して,引用発明の仮想マシン情報DB25は,仮想マシンIDとアプリケーションIDとが対応付けられている点では,本願発明1の機能対応表と一見類似する構成を有しているものの,その利用方法は,上記した本願発明1の機能対応表の利用方法とは異なり,単に,起動された仮想マシンを仮想マシン配置装置1側で管理するために,設けられているものであることが明らかである。 すなわち,引用発明における仮想マシン情報DB25は,仮想マシンID,アプリケーションIDの他に,仮想マシン基本情報,許容リソース情報,配置情報などの情報を含むものであり,これらの情報は,上記Aで引用した,「物理マシンへの仮想マシン集約台数の最大化とリソース利用率の最適化をともに実現することが可能になる情報処理装置を提供する」という引用発明の目的を実現する際に,仮想マシン配置装置1の内部においてのみ使用されることが前提のものであって,仮想マシン情報DB25の情報を物理マシン4へ「送信」して,物理マシン4側でこれを利用して,仮想マシンが実行可能な複数の機能の中から,当該仮想マシンが実行する機能を特定するようなことは引用文献1において全く想定されておらず,また,そのように構成することについて引用文献1には記載も示唆もない。 また,上記した本願発明1の機能対応表の利用方法は,上記Hで引用した引用文献2や,上記I,Jで引用した引用文献3のいずれにも記載されておらず,また,上記した本願発明1の機能対応表の利用方法が本願の優先日前に周知技術であったともいえない。 したがって,上記相違点4について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても引用発明,及び引用文献2,3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 2.本願発明2について 本願発明2は,本願発明1を引用して本願発明1を減縮した発明であり,本願発明1と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明,及び引用文献2,3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 3.本願発明3,4について 本願発明3,4は,本願発明1,2に対応する情報処理方法の発明であり,本願発明1に対応する構成を備えるものであるから,本願発明1と同様の理由により,当業者であっても,引用発明,及び引用文献2,3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 4.本願発明5について 本願発明5は,本願発明1の仮想化システムのうち,「仮想マシン制御装置」に関する構成を特定したものと認められるところ,本願発明5も,上記1.で指摘した本願発明1の技術思想,すなわち,機能対応表の利用方法を前提とした発明であるから,本願発明1と同様の理由により,当業者であっても,引用発明,及び引用文献2,3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 5.本願発明6,7について 本願発明6,7は,本願発明5に対応する情報処理方法の発明,及び本願発明5に対応するプログラムの発明であり,それぞれ本願発明5に対応する構成を備えるものであるから,本願発明1と同様の理由により,当業者であっても,引用発明,及び引用文献2,3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 第5 原査定の概要及び原査定についての判断 原査定は,請求項1-9について上記引用文献1-3に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。しかしながら,平成29年12月1日付け手続補正により補正された請求項1-7は,「サーバ装置」へ「機能対応表」を「送信する」構成を有するものとなっており,上記のとおり,本願発明1-7は,上記引用文献1に記載された発明,及び上記引用文献2,3に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものではない。したがって,原査定を維持することはできない。 第6 当審拒絶理由について 1.特許法第36条第6項第2号について (1)当審では,請求項1-7について,一連の処理の順番及び各処理の相互の関係が明確でない旨の拒絶の理由を通知しているが,平成29年12月1日付けの補正において,一連の処理の順番及び各処理の相互の関係が補正された結果,この拒絶の理由は解消した。 (2)当審では,請求項5-7の「全ての機能を有するように前記仮想マシンを起動するよう」という記載の意味が不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが,平成29年12月1日付けの補正において,「全ての機能を実行可能な前記仮想マシンを起動するよう」と補正された結果,この拒絶の理由は解消した。 2.特許法第36条第6項第1号について 当審では,「機能対応表を仮想マシンが起動される装置へ送信することが特定されていない請求項1-7は,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものである。」旨の拒絶の理由を通知しているが,平成29年12月1日付けの補正において,請求項1-7に,「機能対応表を仮想マシンが起動される装置へ送信すること」が特定された結果,この拒絶の理由は解消した。 第7 むすび 以上のとおり,本願発明1-7は,当業者が引用発明,及び引用文献2,3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。 したがって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2018-01-23 |
出願番号 | 特願2015-501338(P2015-501338) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(G06F)
P 1 8・ 537- WY (G06F) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 小林 哲雄 |
特許庁審判長 |
辻本 泰隆 |
特許庁審判官 |
山崎 慎一 須田 勝巳 |
発明の名称 | 仮想化システム |
代理人 | 境 廣巳 |
代理人 | 馬場 資博 |