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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07D
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07D
管理番号 1336574
審判番号 不服2016-7582  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-05-24 
確定日 2018-01-17 
事件の表示 特願2014-53623「燐光発光金属錯体化合物、燐光発光金属錯体化合物を含有する発光素子、及び、燐光発光金属錯体化合物の製造法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年8月28日出願公開、特開2014-156466〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2008年5月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2007年5月21日、同年5月22日、2008年1月15日、同年1月25日、同年1月29日、同年3月27日、何れも(DE)ドイツ)を国際出願日とする特願2010-508700号の一部を平成26年3月17日に新たな特許出願としたものであって、平成26年4月15日に手続補正書が提出され、平成27年3月17日付けで拒絶理由が通知され、同年9月29日に意見書及び手続補正書が提出され、平成28年1月13日付けで拒絶査定がされ、同年5月24日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに手続補正書が提出され、同年10月21日に上申書が提出され、その後、平成29年4月17日付けで拒絶理由が通知され、同年7月18日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 特許請求の範囲の記載
この出願の特許請求の範囲の記載は、平成29年7月18日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?17に記載されたとおりであるところ、その請求項1の記載は、以下のとおりである(以下、請求項1の特許を受けようとする発明を「本願発明」という。)。
「以下:
- 基板、
- 基板上の第一の電極層、
- 第一の電極層上の少なくとも1の有機発光層、及び
- 有機発光層上の第二の電極層
を含む発光素子であって、前記有機発光層は燐光発光金属錯体化合物を含んでおり、かつ前記燐光発光金属錯体化合物は、
少なくとも1の金属中心原子Mと、前記金属中心原子Mによって配位された少なくとも1の二座のリガンドとを含み、
- 前記1の金属中心原子M及び二座のリガンドがメタラ環式六員環を形成し、
- 前記金属中心原子とメタラ環式六員環を形成する二座のリガンドが、非配位の状態で、互変異性化可能な単位を有し、かつ
- 前記金属中心原子Mが、Ir又はPtから選択されており、
前記化合物が、構造式:

[式中、
n=1?3、
Y=N、C-R_(y)、
X=N、
Z=C、
X_(5)、X_(6)、X_(7) 及びX_(8) は、相互に無関係に、Cであるか、又は、R_(15)、R_(6)、R_(7) 又はR_(8) が遊離電子対を含む場合にはNであり、
R_(1)、R_(2)、R_(3) 及びR_(y) は、相互に無関係に、H、非分枝鎖アルキル基、分枝鎖アルキル基、環状アルキル基、完全にか又は部分的に置換された非分枝鎖アルキル基、完全にか又は部分的に置換された分枝鎖アルキル基、完全にか又は部分的に置換された環状アルキル基、アルコキシ基、アミン、アミド、エステル、カーボネート、芳香族化合物、完全にか又は部分的に置換された芳香族化合物、縮合芳香族化合物、完全にか又は部分的に置換された縮合芳香族化合物、複素環式化合物、完全にか又は部分的に置換された複素環式化合物、縮合複素環式化合物、F又はCNであり、
R_(15)、R_(6)、R_(7) 及びR_(8) は、相互に無関係に、H、非分枝鎖アルキル基、分枝鎖アルキル基、環状アルキル基、完全にか又は部分的に置換された非分枝鎖アルキル基、完全にか又は部分的に置換された分枝鎖アルキル基、完全にか又は部分的に置換された環状アルキル基、アルコキシ基、アミン、アミド、エステル、カーボネート、芳香族化合物、完全にか又は部分的に置換された芳香族化合物、縮合芳香族化合物、完全にか又は部分的に置換された縮合芳香族化合物、複素環式化合物、完全にか又は部分的に置換された複素環式化合物、縮合複素環式化合物、F又はCN、及び遊離電子対である]を有する前記発光素子。」
本願発明は、平成29年4月17日付けの拒絶理由通知の対象となった平成28年5月24日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲に記載された発明のうちの、請求項5に係る発明における「X」の選択肢から「O、P、As、Sb」を削除した発明に相当する。
なお、用語「リガンド」は、日本語では通常「配位子」であるが、以下では、この特許請求の範囲の記載にあわせて「リガンド」ということもあり「配位子」ということもある。

第3 当審が通知した拒絶の理由
当審が通知した拒絶の理由は、理由1及び2からなる。
そのうちの理由1の概要は、この出願は、発明の詳細な説明が当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないというものであり、請求項1?18に係る発明について、発明の詳細な説明が、当業者がそれらの発明に係る発光素子を生産し、使用することができるように、明確かつ十分に記載されているとはいえないことを指摘したものである。
また、理由2の概要は、この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないというものであり、請求項1?18に係る発明について、それらの発明に係る発光素子が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないことを指摘したものである。

第4 当審の判断
当審は、当審が通知したとおり、請求項1に係る発明について、この出願は、発明の詳細な説明が当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないと判断する。また、当審が通知したとおり、請求項1に係る発明について、この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないと判断する。
その理由は、以下のとおりである。

1 理由1について

(1)はじめに
物の発明における発明の「実施」とは、その物の生産、使用等をする行為をいう(特許法2条3項1号)から、特許法36条4項1号の「その実施をすることができる」(実施可能要件)とは、その物を生産することができ、かつ、その物を使用できることである。したがって、物の発明については、明細書の記載又はその示唆及び出願当時の技術常識に基づき、当業者がその物を生産することができ、かつ、その物を使用できるのであれば、上記の実施可能要件を満たすということができる。

(2)発明の詳細な説明の記載

ア 技術分野、背景技術、発明が解決しようとする課題及び発明の概要についての記載
本願明細書の段落【0001】?【0014】に、以下の記載がある。
「【0001】本発明は、燐光発光金属錯体化合物、前記燐光発光金属錯体化合物を含有する発光素子、及び、前記燐光発光金属錯体化合物の製造法に関する。
【背景技術】
・・・・・・・・・・・・・・・
【0003】発光素子、例えば、有機発光ダイオード(OLED)のために、有色光を放射する有機材料が使用される。これまでに、赤色光又は緑色光を放射する材料が多数存在している。しかしながら、従来の方法では、安定な濃青色、薄青色又は青緑色の光を放射する材料を製造することは不可能であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】本発明の課題は、有色の、例えば、濃青色、薄青色、青緑色又は緑色の光を放射することができ、かつ安定である、新規の燐光発光化合物を提供することである。もう1つの課題は、かかる燐光発光化合物を有する発光素子を提供することである。本発明のもう1つの課題は、前記燐光発光化合物の製造である。
【課題を解決するための手段】
・・・・・・・・・・・・・・・
【0006】少なくとも1の金属中心原子Mと、前記金属中心原子Mに配位した少なくとも1のリガンドとを含む、燐光発光金属錯体化合物において、1の金属中心原子M及びリガンドがメタラ環式六員環を形成することを特徴とする、燐光発光金属錯体化合物が提供される。それにより、例えば、濃青色、薄青色、青緑色又は緑色の範囲内の有色光を放射することのできる安定な錯体化合物が提供される。
【0007】メタラ環式環は、少なくとも2のヘテロ原子を含むことができる。さらに、メタラ環式環の中心原子は、遊離電子対(freies Elektronenpaar)を有するリガンドの少なくとも1の原子、例えば、N-原子か、又は、カルベンのC原子に配位しているか又は結合している。
【0008】さらに、金属中心原子Mとメタラ環式六員環を形成するリガンドは、非配位の状態で、互変異性化可能な単位を有することができる。互変異性化可能な単位は、リガンドを含む1以上の、例えば2の環系を介して延在していてよい。配位された状態で、リガンドはメソメリーを示すことができ、これによって、メタラ環式六員環中で電子の非局在化が生じる。
【0009】式1及び2は、互変異性化可能なリガンドの例を示す。電荷再分配により電荷分配が交互に変化し、その一方で、メチレン基(式1)又はNH基(式2)の置換基(H)は、芳香環のN原子へと移動する。
【0010】

【0011】X及びYに関して、ここでは例えば、C-H又はNを使用することができ、R_(1) 及びR2 は、前記例において自由に選択することができる。
【0012】式1及び2において示される構造式は、それぞれ、リガンドの互変異性化可能性を例示するために例に過ぎない。
【0013】リガンド中の互変異性化可能な単位によって、メタラ環式六員環の形成下に金属中心原子Mへの配位が可能となり、その際、リガンドのプロトンは脱離される。
【0014】この場合、金属中心原子Mは、Ir、Pt、Au、Re、Rh、Ru、Os、Pd、Ag、Zn、Al及びランタノイド、例えばEuを含む群から選択されていてよい。前記群は、更に、35を上回る原子番号を有する金属又は遷移金属を含んでよい。」

イ メタラ環式六員環を形成する二座(又は多座)リガンドであってX(N、O、P、As又はSb)とX(N、O、P、As又はSb)で配位するリガンドを有する燐光発光金属錯体化合物、及びそれを用いる発光素子についての一般的な記載
上記の燐光発光金属錯体化合物(以下「第1群の化合物」という。)及び発光素子について、段落【0015】?【0052】に、以下の記載がある。
「【0015】もう1つの実施態様において、燐光発光金属錯体化合物は、式3

[式中、
n=1?3、
Y=C-H、N、P、As、Sb、C-R_(y)、Si-R_(y)、Ge-R_(y)、
X=N、O、P、As、Sb、
R_(1)、R_(2)、R_(y)、R_(4) 及びR_(5) は・・・]
に示されているような構造式を有する。
・・・・・・・・・・・・・・・
【0017】例えば、M=Ptである場合にn=1又は2であり、M=Auである場合にn=1であり、かつ、M=Irである場合にn=1、2又は3である(以下に示す化合物においても同様のことが当てはまる)。中心原子とメタラ環式六員環を形成するリガンドの数は、他に幾つのリガンドが中心原子に配位しているかに依存する。M=Auである場合、更に、Au-Au相互作用が生じることができ、この相互作用によって、例えば金属錯体化合物間の架橋形成がもたらされる。
【0018】式3並びに後続の金属錯体化合物を示す式は、中心原子とメタラ環式六員環を形成するリガンドのみを示す。完全な式3及び後続の式は、L_(m)M[]_(n) であり、ここで、n=1?3、m=3-n、[]=中心原子とメタラ環式六員環を形成するリガンドであり、かつ、L=中心原子と五員環を形成する1つのリガンドか、又は、中心原子に一座で配位している2つのリガンドである。全リガンドの数は、例えば、中心原子が、中心原子に関して18電子則を満たす配位圏を有するほどの大きさであってよい。
【0019】中心原子とメタラ環式六員環を形成する式3の全てのリガンドのうち、アセチルアセトネートでない・・・リガンドが少なくとも1存在している・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
【0022】

【0023】R_(1)、R_(2)、R_(y)、R_(4) 及びR_(5) のために使用可能な複素環式化合物の例の選択候補を式4に示し、その際、それぞれ基本構造が示されており、前記基本構造はここでも置換基を有することができる。リガンドへの前記の例示的なR_(1)、R_(2)、R_(y)、R_(4) 及びR_(5) の結合は、それぞれ、基体の任意の結合可能な箇所で行われてよい。
【0024】式5に、Y=C-R_(y)(a)ないしY=Si-R_(y)(b)に関する例示的な構造式を示す:

【0025】更に、式3及び5に示す基R_(1) 及び/又はR_(5) は、更に金属中心原子Mに配位していてよい。それにより、化合物は更に安定化される。中心原子M上のリガンドは受容体作用を有することができるため、化合物の比較的短い波長の発光をもたらすことができる。従って、有色の、例えば、濃青色、薄青色、青緑色又は緑色の光の放射が可能となる。
【0026】もう1つの実施態様において、R_(1) とR_(2)、R_(2) とR_(y)、R_(y) とR_(4)、R_(4) とR_(5) のうち少なくとも1が一緒に架橋していてよい。架橋は相互に無関係に生じ得る。式6に、リガンド上の架空の架橋B1、B2、B3及びB4を示す。
【0027】

【0028】化合物は、式7による構造式から選択されていてよく、その際、
n=1?3、
Y=C-H、N、P、As、Sb、C-R_(y)、Si-R_(y)、Ge-R_(y)、
X=N、O、P、As、Sb、
X_(1)、X_(2)、X_(3)、X_(4)、X_(5)、X_(6)、X_(7) 及びX_(8) は、相互に無関係に、Cであるか、又は・・・Nであり、
R_(y)、R_(11)、R_(12)、R_(3)、R_(14)、R_(15)、R_(6)、R_(7) 及びR_(8) は・・・である。
【0029】

・・・・・・・・・・・・・・・
【0037】基R_(11) とR_(12)、R_(12) とR_(3)、R_(3) とR_(14)、R_(14) とR_(y)、R_(y) とR_(8)、R_(15) とR_(6)、R_(6) とR_(7) 又はR_(7) とR_(8) は、更に、相互に無関係に、更なる架橋を形成することができる。それにより、リガンド中に縮合系を生じさせることができる。
【0038】例えば、縮合系は、式8a、8b及び8cによる構造式を有することができ・・・
【0039】

【0040】式8において、明確性の理由から、n=1であり、かつ、金属中心原子Mに配位しているリガンドを1つのみ示す。しかしながら、中心原子Mの種類に応じて、中心原子とメタラ環式六員環を形成する他のリガンドも化合物中に存在していてよい。
【0041】縮合系を有する化合物の他の例は、式9に示されている。・・・
【0042】式9において、リガンドにおいて、メタラ環式環に結合している芳香六員環に縮合している五員環の例を示す。他の実施態様において、リガンドにおいて、メタラ環式環に結合している芳香五員環に縮合している六員環も可能である。
【0043】

【0044】他の実施態様において、化合物は式10による構造式を有することができ、その際、
n=1?3、
Y=C-H、N、P、As、Sb、C-R_(y)、Si-R_(y)、Ge-R_(y)、
X=N、O、P、As、Sb、
X_(1)、X_(2)、X_(5) 及びX _(6) は、相互に無関係に、Cであるか、又は・・・Nであり、
X_(3) 及びX_(7) は、Sであり、
R_(y)、R_(11)、R_(12)、R_(15) 及びR_(6) は・・・である。
【0045】

・・・・・・・・・・・・・・・
【0047】・・・基R_(11) 及びR_(12) 及び/又はR_(15) 及びR_(6) は、更に、一緒に架橋されていてよく、これにより、化合物の安定性の更なる向上がもたらされる。
【0048】式10による化合物のみならず、式7?9による化合物も、アザジケトン様ないしジケトン様の構造を有し、前記構造は、リガンドの安定性、及び、化合物の、例えば、濃青色、薄青色、青緑色又は緑色の放射色を有する有色の放射に寄与する。
【0049】他の実施態様において、化合物は、式11による構造式を含む群から選択されている構造式を有することができ、その際、
n=1?3、
Y=C-H、N、P、As、Sb、C-R_(y)、Si-R_(y)、Ge-R_(y)、
X_(1)、X_(2)、X_(3) 及びX_(4) は、相互に無関係に、C-R又はNであり、
R_(y)・・・は・・・である。・・・
【0050】

【0051】前記化合物は、五員環芳香族化合物中にジケトン様構造を有する。リガンドにおいて、他の五員環芳香族化合物、例えばチアゾール、ホスファゾール又はイミダゾールも考えられる。
【0052】更に、基板、基板上の少なくとも1の下方の第一の電極層、第一の電極層上の少なくとも1の有機発光層、及び上方の第二の電極層を含む発光素子が提供され、その際、発光層において、マトリックス中に少なくとも1の金属錯体化合物が堆積されており、その際、少なくとも1の金属中心原子Mが少なくとも1のメタラ環式六員環に関与している。この場合、基板及び第一の電極層は透明であってよく、かつ、中心原子Mに少なくとも1のリガンドが配位していてよく、その際、中心原子及びリガンドは、上記の態様に従って選択されている。」

ウ メタラ環式六員環を形成する二座(又は多座)リガンドであってX(N、O、P、As又はSb)とZ(C、Si又はGe)で配位するリガンドを有する燐光発光金属錯体化合物、及びそれを用いる発光素子についての一般的な記載
上記の燐光発光金属錯体化合物(以下「第2群の化合物」という。)及び発光素子について、段落【0053】?【0075】に、以下の記載がある。
「【0053】もう1つの実施態様において、燐光発光金属錯体化合物は、式12による構造式

を有し、その際、
n=1?3、
Y=C-H、N、P、As、Sb、C-R_(y)、Si-R_(y)、Ge-R_(y)、
X=N、O、P、As、Sb、
Z=C、Si、Ge、
R_(1)、R_(2)、R_(3)、R_(y)、R_(4) 及びR_(5) は、相互に無関係に、H、非分枝鎖アルキル基、分枝鎖アルキル基、縮合アルキル基、環状アルキル基、完全にか又は部分的に置換された非分枝鎖アルキル基、完全にか又は部分的に置換された分枝鎖アルキル基、完全にか又は部分的に置換された縮合アルキル基、完全にか又は部分的に置換された環状アルキル基、アルコキシ基、アミン、アミド、エステル、カーボネート、芳香族化合物、完全にか又は部分的に置換された芳香族化合物、縮合芳香族化合物、完全にか又は部分的に置換された縮合芳香族化合物、複素環式化合物、完全にか又は部分的に置換された複素環式化合物、縮合複素環式化合物、完全にか又は部分的に置換された複素環式化合物、F及びCNである。例えば、基R_(1)、R_(2)、R_(3)、R_(y)、R_(4) 及びR_(5) は、式4による構造式を含む群から選択されてよい。
【0054】金属錯体化合物のリガンドは、カルベンリガンドを含むことができる。カルベンリガンドは、C原子及びヘテロ原子を介して中心原子に配位しているため、カルベン構造単位はメタラ環式六員環に関与している。
【0055】式12による化合物は、高い安定性及び寿命を有する。更に、かかる化合物は、可視範囲内に存在し、かつ例えば濃青色、薄青色、青緑色又は緑色をもたらす波長の光を放射することができる。更に、かかる化合物における極性は、メタラ環式五員環化合物と逆であり、それというのも、ヘテロ原子、例えばN原子はアニオン性で、原子Z、例えばCは中性で、メタラ環式六員環に結合しているためである。
【0056】式12における基R_(1) 及びR_(5) の双方は、更に、中心原子Mに配位していてよい。更に、R_(1) とR_(2)、R_(2) とR_(3)、R_(3) とR_(y)、R_(y) とR_(4) 及びR_(4) とR_(5) のうち少なくとも1は一緒に架橋していてよい。基の模式的な架橋を式13に示す。個々の架橋B_(45)、B_(23)、B_(4y) 及びB_(3y) は、相互に無関係に存在してよい。
【0057】

【0058】式13におけるX、Y、Z、R_(1)?R_(5) 及びnの意味に関して、式12に示した構造式のために示した可能性と同様のものが当てはまる。
【0059】更に、化合物は式14による構造式を有することができ、その際、
n=1?3、
Y=C-H、N、P、As、Sb、C-R_(y)、Si-R_(y)、Ge-R_(y)、
X=N、O、P、As、Sb、
Z=C、Si、Ge、
X_(5)、X_(6)、X_(7) 及びX_(8) は、相互に無関係に、C-Rであるか、又は・・・Nであり、
Z_(1)、Z_(2)、Z_(3) 及びZ_(4) は、C-R_(z) であり・・・
R、R_(z)、R_(1)、R_(2)、R_(3)、R_(y)、R_(4)、R_(5)、R_(15)、R_(6)、R_(7) 及びR_(8) は、相互に無関係に、H、非分枝鎖アルキル基、分枝鎖アルキル基、縮合アルキル基、環状アルキル基、完全にか又は部分的に置換された非分枝鎖アルキル基、完全にか又は部分的に置換された分枝鎖アルキル基、完全にか又は部分的に置換された縮合アルキル基、完全にか又は部分的に置換された環状アルキル基、アルコキシ基、アミン、アミド、エステル、カーボネート、芳香族化合物、完全にか又は部分的に置換された芳香族化合物、縮合芳香族化合物、完全にか又は部分的に置換された縮合芳香族化合物、複素環式化合物、完全にか又は部分的に置換された複素環式化合物、縮合複素環式化合物、完全にか又は部分的に置換された複素環式化合物、F及びCNである。
【0060】

【0061】ここで例えば、X=N及びY=C-R_(y) を使用することができる。
【0062】基R_(1) とR_(2)、R_(2) とR_(3)、R_(5) とR_(4)、R_(4) とR_(y)、R_(15) とR_(6)、R_(6) とR_(7)、R_(7) とR_(8)、R_(8) とR_(y) 又はR_(y) とR_(3) は、相互に無関係に、一緒に架橋していてよい。
【0063】式14aに示した構造は、例えば、ベンゾイミダゾールから誘導されるカルベン誘導体であってよい。その場合、Z=C、Y=C-R_(y)、X=N及びZ_(1)=Z_(2)=Z_(3)=Z_(4)=C-R_(y) である。
【0064】式14a及び14bにおいて、Z=C、Y=N又はY=C-R_(y) であってよい。Y=C-R_(y) である場合には、六員環を伴うカルベンの芳香族架橋はN-C=C-構造単位を介して存在しており、Y=Nである場合には、芳香族架橋はN-C=N構造単位を介して存在している。
【0065】架橋を有する化合物は、例えばピリジン誘導体から誘導されていてよい。その場合、式14bによる化合物において、Z=C、Y=N、X_(5)=X_(6)=X_(7)=X_(8)=Cである。R_(7) は、例えば、該基が電子求引性に作用するように選択されていてよく、例えば、R_(7)=CN、F、4-ピリジル、トリアジル、2-ピリミジル、5-ピリミジル、2-オキサゾイル、4-オキサゾイル、2-チアゾリル、4-チアゾリル、トリフルオロメチル又はヘキサフルオロイソプロピリデンである。
【0066】式14bによる化合物がピラジン誘導体から誘導されている場合、Z=C、Y=N、X_(5)=X_(6)=X_(8)=C、X_(7)=Nであり、かつR_(7) は遊離電子対である。
【0067】式14bによるピリミジンから誘導される化合物は、Z=C、Y=N、X_(5)=X_(6)=X_(7)=C、X_(8)=Nからもたらされ、かつR_(8) は遊離電子対である。R_(7) は、例えば電子求引性であり、かつ、CN、F、4-ピリジル、トリアジル、2-ピリミジル、5-ピリミジル、2-オキサゾイル、4-オキサゾイル、2-チアゾリル、4-チアゾリル、トリフルオロメチル又はヘキサフルオロイソプロピリデンから選択されていてよい。
【0068】トリアジンから誘導されている式14bによる化合物は、Z=C、Y=N、X_(6)=X_(7)=C、X_(5)=X_(8)=Nからもたらされ、その際、R_(5) 及びR_(8) は、遊離電子対である。ここで、R_(7) は、電子求引性となるように選択されてよい(上記参照)。N位の置換により、他のトリアジン誘導体を得ることができ、例えば、X_(5)=X_(6)=C、X_(7)=X_(8)=Nであり、その際、R_(7) 及びR_(8) は遊離電子対であり、かつ、X_(5)=X_(7)=C、X_(6)=X_(8)=Nであり、その際、R_(6) 及びR_(8) は遊離電子対である。その場合、R_(5) ないしR_(7) は、電子求引性となるように選択されてよい。
【0069】リガンドにおける縮合系の例を、式15及び16に示す。ここで、カルベン(Z=C)の例を示すが、シリレン(Z=Si)又はゲルミレン(Z=Ge)の類似の構造も同様に考え得る。その場合、各X_(1)?X_(6) に関して、C-R又はNを使用することができ、その際、Rは各Xについて異なっていてよく、かつ、R及びR_(25) は相互に無関係に、H、非分枝鎖アルキル基、分枝鎖アルキル基、縮合アルキル基、環状アルキル基、完全にか又は部分的に置換された非分枝鎖アルキル基、完全にか又は部分的に置換された分枝鎖アルキル基、完全にか又は部分的に置換された縮合アルキル基、完全にか又は部分的に置換された環状アルキル基、アルコキシ基、アミン、アミド、エステル、カーボネート、芳香族化合物、完全にか又は部分的に置換された芳香族化合物、縮合芳香族化合物、完全にか又は部分的に置換された縮合芳香族化合物、複素環式化合物、完全にか又は部分的に置換された複素環式化合物、縮合複素環式化合物、完全にか又は部分的に置換された複素環式化合物、F及びCNから選択されている。ここに示していないその他の縮合環系も同様に存在してよい。
【0070】

【0071】

【0072】式15aは、カルベンリガンドにおいて、縮合六員環系を有する化合物を示す。式15bは、カルベンリガンドにおけるオキサゾール誘導体の例で、縮合五員環系を示す。式15bは、カルベンリガンドにおいて、例えばオキサゾール誘導体の縮合五員環系を示す。
【0073】式16aは、より高度に縮合した系の例を示す。概要のために、式15及び16aにおいて、それぞれ中心原子に配位したリガンドを1つのみ示す。しかしながら、中心原子の選択に応じて、複数のリガンドが存在していてもよい。
【0074】電子求引性構造を有するカルベンリガンドを有する化合物は、式16bに示されており、その際、X_(1)、X_(2)、Y、n、R_(1)、R_(2) 及びR_(3) は、式14における化合物と同様に(その際、X_(1) 及びX_(2) は、該式中に示されたX_(5)、X_(6) 及びX_(7) に相応する)選択されてよい。
【0075】更に、基板、少なくとも1の下方の第一の電極層、少なくとも1の有機発光層、及び更に少なくとも1の上方の第二の電極層を含む発光素子が提供され、その際、発光層において、マトリックス中に、メタラ環式六員環の部分である金属中心原子Mを少なくとも1有する少なくとも1の金属錯体が堆積されており、その際、メタラ環式環において、少なくとも1のカルベンリガンドが直接組み込まれている。この場合、基板及び第一の電極層は透明に構築されていてよい。」

エ メタラ環式六員環を形成する二座リガンドであって芳香環のX’(N、O、P、As又はSb)と芳香環のX(N、O、P、As又はSb)で配位しそれら芳香環の一方が電子欠損性で他方が電子豊富であってよいリガンドを有する燐光発光金属錯体化合物、及びそれを用いる発光素子についての一般的な記載
上記の燐光発光金属錯体化合物(以下「第3群の化合物」という。)及び発光素子について、段落【0076】?【0104】に、以下の記載がある。
「【0076】もう1つの実施態様において、互変異性化可能な単位は、構造単位-C(H、R)-、又は、-N(H)-を有することができ、かつ、電子欠損性の芳香族化合物と電子豊富な芳香族化合物とを結合することができる。
【0077】“電子欠損”及び“電子豊富”の概念は、芳香環系が、置換基及び/又は環系の部分であるC原子の交換により、ヘテロ原子により、非置換の系又は交換されていない系、例えばベンゼンと比較して、環系中で、低下された(電子欠損)ないし高められた(電子豊富)電子密度を有するように変化されていることを意味するのに用いられる。
【0078】もう1つの実施態様において、式17による構造式

を有する化合物が提供され、その際、
n=1?3、
Y=C-H、N、P、As、Sb、C-R_(y)、Si-R_(y)、Ge-R_(y)、
X及びX’は、相互に無関係に、N、O、P、As又はSbであり、
R_(1)、R_(2)、R_(4)、R_(5) 及びR_(y) は・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
【0080】かかる化合物は、リガンドの特定の選択により酸化-及び還元安定でかつそれにより長い寿命を有する。
・・・・・・・・・・・・・・・
【0084】更に、R_(5)、R_(4) 及びC=Xから形成された芳香環と、R_(1)、R_(2) 及びC-X’から形成された芳香環のうち、一方が電子豊富であってよく、他方が電子欠損性であってよい。
【0085】このことは、例えば、リガンドにおける五員環と六員環とからの組み合わせにより達成されることができる。芳香五員環、例えば、ピロール、イミダゾール、フラン、チオフェン、ジチオール及びチアゾールは電子豊富であり、かつ、容易に入手可能である。同様に電子豊富であるものは、置換基、例えば、アルコキシ基又はアミン基で置換基されている非複素環式芳香六員環である。電子豊富な系は正孔伝導体として好適であり得る。
【0086】電子伝導体として好適であり得る電子欠損性の系は、例えば、複素環式芳香六員環、例えば、ピリジン、ピリミジン又はピラジンである。ベンゼン誘導体又は芳香五員環系は、フッ素化又はニトロ化により電子欠損となることができる。
【0087】リガンドにおける電子欠損性の芳香族化合物と電子豊富な芳香族化合物とが、互変異性化可能な単位、例えば、構造単位-C(H、R)-、又は、-N(H)-によって一緒に結合している場合、プロトンの脱離下に安定なメタラ環式六員環の形成下に金属中心原子Mに配位している、安定な互変異性化可能なリガンドが得られる。前記化合物は、特定のリガンドに基づき還元及び酸化に対して安定であり、それというのも、高い正孔濃度のみならず、高い電子濃度もが、リガンドによって均一化され得るためである。
【0088】式19に、互変異性化可能な単位-C(H、R)-として、及び、リガンドが配位している金属中心原子Mとして、Irが選択されている、例示的なリガンドの互変異性化を模式的に示す。
【0089】

【0090】式19において、リガンドにおける電子欠損性の芳香族化合物と電子豊富な芳香族化合物とからなる2つの異なる組み合わせ(式19a:ピリジンとイミダゾールとからの組み合わせ、式19b:ピリミジンとオキサゾールとからの組み合わせ)に関して、互変異性化の種々の可能性を示す。互変異性化したリガンドは、プロトンの脱離、及び、式19において2つのメソマー形(式19a及びbにおける下方の構造)で示されている金属錯体化合物の形成下に、ここでは例えばIrを含む中心原子に配位している。
【0091】付加的に、式17に示された構造のR_(4) 及びR_(y) 及び/又はR_(y) 及びR_(2) も、架橋していてよい。架橋は相互に無関係に生じ得る。
・・・・・・・・・・・・・・・
【0104】更に、基板、基板上の少なくとも1の下方の第一の電極層、第一の電極層上の少なくとも1の有機発光層、及び少なくとも1の上方の第二の電極層を含み、その際、発光層において、マトリックス中に少なくとも1の金属錯体化合物が堆積されており、その際、少なくとも1の金属中心原子が、互変異性化可能な単位を含む少なくとも1のメタラ環式環に関与しており、その際、H-CR又はN-Hを含むことができる前記の互変異性化可能な単位を介して、少なくとも1の電子欠損性の芳香族化合物と電子豊富な芳香族化合物とが結合している発光素子が提供される。更に、基板及び第一の電極層は透明であってよい。」

オ 多核の燐光発光金属錯体、及びそれを用いる発光素子についての一般的な記載
上記の燐光発光金属錯体化合物(以下「第4群の化合物」という。)及び発光素子について、段落【0105】?【0126】に、以下の記載がある。
「【0105】もう1つの実施態様において、燐光発光金属錯体化合物は多核であり、かつ、少なくとも2の金属中心原子を有する。このうち少なくとも1の中心原子は、上記の少なくとも1のリガンドと一緒に、メタラ環式六員環を形成する。かかる化合物は、高い安定性、及び、中心原子相互の距離に依存して発光波長の調節可能性を有する。この場合、放出波長は、有色の、例えば、薄青色、濃青色、青緑色又は緑色の範囲内であってよい。・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
【0114】更なる説明に記載されているような2つの中心原子を一緒に架橋する架橋リガンドは、同様に、それぞれ1つの結合原子でそれぞれ1つの中心原子に配位している二座のリガンドである。架橋リガンドの結合原子は、相互に1,2-又は1,3-位を有する。
【0115】・・・例示的な架橋リガンドは・・・式22はhpp架橋リガンドを示す・・・
【0116】

【0117】多核金属錯体化合物が架橋リガンドを有する場合、それによって化合物の燐光は増大され得る。例えば、架橋リガンドとしてのhppを有する化合物は、架橋リガンドを有しないか、又は、リガンドを有するメタラ環式六員環を有しない金属錯体化合物と比較して、より高い燐光を示す。
【0118】架橋リガンドは、更に、リガンドの式3、5、12、13及び17の構造の基R_(1) 及び/又はR_(5) から形成されていてよい。
【0119】もう1つの実施態様において、多核燐光発光金属錯体化合物は、少なくとも2の金属中心原子を有し、前記金属中心原子にリガンドが配位しており、前記リガンドは中心原子とメタラ環式五員環を形成し、その際、中心原子は架橋リガンドにより一緒に架橋されている。架橋リガンドは、例えば、グアニジン誘導体又はピラゾール誘導体を含むことができる。前記化合物は、例えば、濃青色、薄青色、青緑色及び緑色から選択された有色光を放射し得る。更に、前記化合物は高い安定性を有する。
【0120】更に、基板、基板上の第一の電極層、第一の電極層上の少なくとも1の有機発光層、及び有機発光層上の第二の電極層を含む発光素子が提供される。この場合、有機発光層は、上記説明による燐光発光金属錯体化合物を含む。
【0121】上記で用いられている"上"とは、層が相接して配置されていることを意味する。しかしながら、言及された層の間に更に他の層が存在していてもよい。
【0122】他の層として、例えば、電子輸送層又は正孔輸送層、電子ブロック層又は正孔ブロック層、電子注入層又は正孔注入層、又は複数の有機発光層が素子中に存在していてよい。
【0123】金属錯体化合物は、マトリックス材料中に存在していてよい。それにより、マトリックス材料中での発光材料の濃度及び発光の強度を調節することができる。
【0124】電圧を印加した際に、素子は、濃青色、薄青色、青緑色及び緑色を含む群から選択された有色光を放射することができる。それにより、例えば、青色光を放射する発光素子が提供される。素子は、他の実施態様において、他の色の光も放射し得る。素子が、他の色の光を放射する他の発光層を含む場合、濃青色、薄青色、青緑色又は緑色を発光する層との組み合わせで、白色光を放射する素子を提供することができる。
【0125】素子は、透明な基板及び透明な第一の電極層を有するか、又は、透明な第二の電極層を有するか、又は、透明な基板、透明な第一及び透明な第二の電極層を有することができる。場合により、これは底部発光、頂部発光又は両面発光の素子である。
【0126】発光素子は、例えば、有機発光ダイオード(OLED)であってよい。」

カ メタラ環式六員環を形成する特定の二座リガンドを3個又は2個有する燐光発光金属錯体化合物A及びB並びにそれらの発光特性についての一般的な記載
上記の燐光発光金属錯体化合物(以下「第5群の化合物」という。)及び発光素子について、段落【0127】?【0132】に、以下の記載がある。
「【0127】もう1つの実施態様において、素子は少なくとも2の電極を、その間の有機半導体材料と共に含むことができ、その際、半導体材料は、型A及びBの第8副族の重元素の青色の燐光を発光する有機遷移金属錯体を含み、その際、

金属Mは、八面体錯体Aにおいて、イリジウム、ロジウム又はレニウムであり、方形錯体Bにおいて中心原子は白金であり;
残りの変項は、相互に無関係に、窒素又は炭素であってよく、その際、炭素の場合には、自由原子価は水素又は他の置換基により飽和されていてよい。
【0128】置換基として、アルキル基、シアノ基ないし芳香族基及び/又は複素芳香族基が該当するが、特に、それぞれ2つの変項の間で1つの縮合芳香族及び/又は複素芳香族環式置換基を形成する基が該当する。
【0129】リガンド構造は対称的なポリメチンとも見なすことができるため、八面体の錯体は、mer.-とfac.-錯体とで区別することができない。方形白金錯体も、ポリメチン様リガンドを有する。
【0130】芳香族化合物のπ電子密度が低いほど、錯体の吸収-及び放射波長はより短波長となる。
【0131】従って、前記の新種の燐光発光半導体材料は、例えば、全ての青色発光スペクトル範囲を網羅し得る。半導体材料は、高い化学的、熱的及び光安定性を有する。
【0132】メソマーであり、かつ従って区別することができない2つのリガンド-金属-結合の対称性によって、錯体において特別な安定性が生じる。」

キ 燐光発光金属錯体化合物の製造法についての一般的な記載
段落【0133】?【0160】に、以下の記載がある。
「【0133】半導体材料は、以下の反応図式により製造することができる:

【0134】ポリメチン様のアザ芳香族化合物は、それぞれの金属塩(有利にクロリド)と、又は、それぞれの金属のアセチルアセトネート-錯体と、沸騰した極性溶剤中で、有利に補助塩基、例えば炭酸ナトリウムの存在で、化学量論比でかつ不活性ガス雰囲気中で、還流下に10?20h加熱される。
【0135】水で希釈された反応混合物を、塩化メチレン又はクロロホルムで抽出することによって粗材料が得られ、この材料は昇華により精製される。
【0136】更に、上記による燐光発光金属錯体化合物の製造法が提供される。前記方法は、以下の方法工程:
A)中心原子に配位した交換リガンドを有する、金属中心原子の中心原子化合物を準備する工程、
B)前記の中心原子化合物と、第一の溶剤中に溶解されたリガンドとを、化学量論比で混合し、金属錯体化合物を形成する工程
含み、その際、交換リガンドをリガンドと交換し、かつ、前記リガンドが互変異性化可能な単位を有しており、かつ、中心原子と、プロトンの脱離下にメタラ環式六員環を形成する。前記方法において、プロトンの脱離のために、トリエチルアミン、ピリジン及びアルカリ金属炭酸塩を含む群から選択されている補助塩基を添加することができる。
【0137】更に、方法工程A)において、金属中心原子の中心原子化合物を、脱気された高温の水中に溶解させ、冷却し、かつ微粒子懸濁液として結晶化させることができる。冷却を強力な撹拌下に行うことができる。高温の水は80℃?100℃の温度を有することができ、かつ、水と中心原子化合物とからの溶液を20℃?30℃の温度に冷却することができる。冷却の際に微粒子懸濁液が生じる。前記方法工程によって、粗い粒子の中心原子化合物が微粒子の中心原子化合物となることができ、かつ、更に、酸素基が中心原子化合物から脱離し得る。例えば、中心原子化合物は塩であってよく、かつ、交換リガンドはハロゲンイオンであってよい。
【0138】金属中心原子の塩は、例えば、テトラクロロ白金酸カリウムK_(2)PtCl_(4) であってよい。しかしながら、Ir、Au、Pt、Re、Rh、Ru、Os、Pd、Ag、Zn、Al、ランタノイド及び他の金属及び35を上回る原子番号を有する遷移金属、他のハロゲンイオン及び他のカチオン、例えば、Na^(+)、K^(+) 又はNH_(4)^(+) を有する塩も考えられる。
【0139】更に、方法工程B)において、極性及び非極性の溶剤と混和性である第一の溶剤を選択することができる。この場合、前記溶剤は、例えばエトキシエタノールであってよい。リガンドは第一の溶剤中に溶解され、かつ、互変異性化可能である。リガンドが中心原子に配位すると、プロトンはリガンドから脱離される。例えば式19に示されているように、リガンドがメソメリーを示す金属錯体化合物が生じる。
【0140】更に、方法工程B)において、単核金属錯体化合物が形成され得る。溶解したリガンドと中心原子化合物とからの混合物を加熱することができ、その際、金属錯体化合物が形成される。前記金属錯体化合物は、例えば式3に示されているように、中心原子とメタラ環式六員環を形成する少なくとも1のリガンドを有する。
【0141】単核金属錯体化合物が形成される場合、化学量論比
物質量(リガンド)/物質量(中心原子化合物)
は、以下の比
中心原子に配位したリガンドの数/1
に相当し得る。即ち、単核化合物の中心原子に配位しているのと同じ数のリガンドが使用され、それによって中心原子が飽和される。以下の比
物質量(リガンド)/物質量(中心原子化合物)
は例えば2:1であってよい。
【0142】もう1つの実施態様において、方法工程B)は、以下の方法工程
B1)中心原子化合物と、第一の溶剤中に溶解されたリガンドとを、化学量論比で混合し、多核遷移金属錯体化合物を形成する工程、
B2)遷移金属錯体化合物を第二の溶剤中に溶解させ、かつ、溶解された遷移金属錯体化合物と、第三の溶剤中に溶解された追加のリガンドとを、化学量論比で混合する工程、及び
B3)遷移金属錯体化合物の溶解下に金属錯体化合物を形成させる工程
を含む。第一、第二及び第三の溶剤は同じか又は異なっていてよい。
【0143】方法工程B1)において形成された遷移金属錯体化合物は、少なくとも2の金属中心原子を有することができ、前記の金属中心原子に、それぞれ、メタラ環式六員環中で少なくとも1のリガンドが配位しており、かつ、前記の金属中心原子は、中心原子化合物の少なくとも1の交換リガンドを介して一緒に架橋している。かかる遷移金属錯体化合物は、例えば式23による構造を有することができる。
【0144】

・・・・・・・・・・・・・・・
【0153】方法工程A)、B)、B1)、B2)及びB3)は、不活性雰囲気中で、例えばアルゴン又は窒素雰囲気中で実施することができる。
【0154】

【0155】図式2は、上記方法による、単核及び多核金属錯体化合物のための合成経路を示す。化学量論比は図式2には示されていない。なぜならば、上記の通り、前記化学量論比は所望の生成物に応じて異なることができるためである。
・・・・・・・・・・・・・・・
【0158】単核金属錯体化合物VIは、更に、塩とリガンドとの化学量論比を相応して適合させた場合に、塩I及びリガンドIIから直接、方法工程B)において形成され得る(破線で示した矢印)。
・・・・・・・・・・・・・・・」

ク カルベンリガンドを有する燐光発光金属錯体化合物の例示
段落【0163】?【0164】に、以下の記載がある。上記ウの、第2群の化合物の例である。
「【0163】カルベンリガンドを有する化合物の例を式24に示す。前記式中に示されている全ての化合物について、例えばM=Ir、n=3であることができる。n=2でかつM=Irの場合、更に、追加のリガンド、例えばピコリネート-アニオン、フェニルピリジン及び2-フェニルイミダゾールが存在している。n=1でかつM=Irの場合、同様に、更に2つの追加のリガンドが存在している。
【0164】



ケ 電子欠損性の芳香環と電子豊富な芳香環とを有するリガンドを有する燐光発光金属錯体化合物の例示
段落【0165】?【0166】に、以下の記載がある。上記エの、第3群の化合物の例である。
「【0165】電子欠損性の芳香環と電子豊富な芳香環とを有するリガンドを有する化合物の例を、式25に示す。ここで、中心原子はIrであるが、他の中心原子も同様に好適である。
【0166】



コ 二核の燐光発光金属錯体化合物の例示
段落【0167】?【0172】に、以下の記載がある。上記オの、第4群の化合物の例である。
「【0167】二核の化合物の例を以下に示す。
【0168】式26は、中心原子としてのPtと、架橋リガンドとしての1,3,4,6,7,8-ヘキサヒドロ-2H-ピリミド[1,2-a]ピリミジン(a)及びピラゾール(b)とを有する二核の化合物の例を示し、その際、R置換基は・・・選択されている。
【0169】

【0170】式27は例示的に、中心原子としてのIrと、架橋リガンドとしての1,3,4,6,7,8-ヘキサヒドロ-2H-ピリミド[1,2-a]ピリミジン(a)及びピラゾール(b)とを有する化合物を示し、その際、2つの架橋リガンドと、各Ir上に2つのリガンドが存在するか、又は、4つの架橋リガンドと、各Ir上に1つのリガンドが存在することができる。この場合、Rは式26と同様に選択することができる。
【0171】

【0172】式26a及び27aに示されている構造式は、架橋リガンドとして、N-C-N-単位をも有することができ、前記単位は、5-環、6-環又は7-環に組み込まれているか、又は環形成なしに置換されている。」

サ 発光素子の構造についての記載
上記イ?オに示したように、それらのそれぞれの末尾の段落【0052】、【0075】、【0103】、【0120】?【0126】に、発光素子が基板、第一の電極層、有機発光層、第二の電極層を含むことが記載され、段落【0122】には、他の層として、電子輸送層又は正孔輸送層、電子ブロック層又は正孔ブロック層、電子注入層又は正孔注入層、又は複数の有機発光層が存在していてよいことが記載されている。
また、段落【0173】?【0175】及び図1に、以下の記載がある。
「【0173】図1は、発光素子の側面概略図を示す。この場合、例えばガラスからなる基板1上に、例えば透明でありかつITO(酸化インジウムスズ)からなる第一の電極層2が配置されている。前記電極層2上に正孔注入層3が配置されており、前記正孔注入層3上に正孔輸送層4が配置されている。前記正孔輸送層4上に、有機活性層、有機発光層5が配置されており、上記有機発光層5上に正孔ブロック層6、電子輸送層7及び電子注入層8が配置されている。電子注入層8上に第二の電極層9、例えば金属電極が配置されている。
【0174】第一及び第二の電極層2、9の間に電圧を印加した際に、電流が素子を流れ、かつ、発光層5中で光子が放出され、前記光子は光の形で例えば第一の電極層2及び基板1を介して素子を去る。また、付加的に、又は単独で、第二の電極層9が透明に構成されており、かつ光が素子を双方の電極層か又は第二の電極層のみを介して去ることもできる。
【0175】発光層5は、マトリックス中に堆積されていてよい上記の説明による金属錯体化合物を含む。」
「【図1】



シ 実施例の記載
段落【0180】?【0213】に、化合物1?11並びに式28(a)?(c)、式29及び式30の化合物を合成した実施例が記載されている。そのうち、化合物1、2、5、6、7、8及び9並びに式28(a)及び(b)の化合物は、以下に示すようにメタラ環式六員環が形成されるものでない。














式28



その余の、化合物3、4、10、11並びに式28(c)、式29及び式30の化合物は、メタラ環式六員環が形成されている。それらの合成について以下の記載がある。化合物4、10、11、式29及び式30の化合物については、以下のように発光特性についても記載されている。

(ア)化合物3
「【0183】ジ(μ-クロロ)-ビス[(ジ-ピリジルアミノ)白金(II)]=化合物3の合成

【0184】テトラクロロ白金酸カリウム3ミリモル(1.245g)を、高温の脱気した水6ml中に溶解させ、強力な撹拌下に30℃に冷却する。この場合、テトラクロロ白金酸カリウムが微粒子懸濁液として沈殿する。この懸濁液に、エトキシエタノール45ml中のジピリジルアミン3ミリモル(0.514g)の溶液をゆっくりと滴加する。この懸濁液を約20時間70℃に加熱し、その際、次第に、クリーム色の沈殿物が生じる。この懸濁液を室温に冷却した後、水40mlの層の上に添加して粗生成物を沈殿させ、約2時間後に撹拌する。粗生成物を吸引濾過し、かつ、水/アルコール-混合物(10:1)で複数回洗浄する。デシケーター中で真空下に約20時間乾燥させる。
収量:1g(83%)
化合物3は、リガンドとメタラ環式六員環を形成する金属錯体化合物の例を示す。」

(イ)化合物4
「【0185】ビス[(ジ-ピリジルアミノ)白金(II)]=化合物4の合成

【0186】テトラクロロ白金酸カリウム3ミリモル(1.245g)を、高温の脱気した水6ml中に溶解させ、強力な撹拌下に30℃に冷却する。この場合、テトラクロロ白金酸カリウムが微粒子懸濁液として沈殿する。この懸濁液に、エトキシエタノール40ml中のジピリジルアミン6ミリモル(1.027g)の溶液をゆっくりと滴加する。この懸濁液を約20時間70℃に加熱し、その際、次第に、黄色の沈殿物が生じる。冷却後、この混合物を水各50mlと2回混合し、撹拌下に加熱して生成物を溶かし出す。水相を分離し、回転蒸発させ、黄色の生成物をメタノール中に抽出し、濾過し、生じた塩化カリウムを分離する。引き続き、メタノールを真空中で除去する。
収量:1.37g(85%)
前記化合物は、質量分析法により検出可能である。
【0187】 化合物4は、中心原子がリガンドとメタラ環式六員環を形成している単核金属錯体化合物を示す。図3a、b、c及びdは、種々の希釈における前記化合物の光ルミネセンススペクトルを示す。希釈が増すにつれて、発光極大が約398nmから345nmへとシフトする。」
「【図3-1】


【図3-2】



(ウ)化合物10
「【0199】ジ(μ-hpp)-ビス[(ジピリジルアミノ)白金(II)]=化合物10の合成

【0200】ジ(μ-クロロ)-ビス[(ジ-ピリジルアミノ)白金(II)](化合物3)1.25ミリモル(1g)をジクロロメタン10ml中に懸濁させ、-70℃に冷却する。これに、ジクロロメタン35ml中に懸濁させ、かつ同様に-70℃に冷却したナトリウムメチラート2.496ミリモル(134.8mg)とHhpp2.496ミリモル(347.4mg)とからの混合物をゆっくりと滴加する。この場合、反応混合物は黄色である。撹拌下に室温で48時間反応させる。その後、この物質をP4フリットを介して濾別し、かつジクロロメタンで複数回、後洗浄する。濾液を濃縮し、真空中で乾燥させる。
収量 1.04g(83%)
前記化合物は、質量分析法により検出可能である。
【0201】図3iに、463nmで発光極大を有する、化合物10の光ルミネセンススペクトルを示す。」
「【図3-5】



(エ)化合物11
「【0202】ジ(μ-ピラゾラト)-ビス[(ジピリジルアミノ)白金(II)]=化合物11の合成

【0203】ジ(μ-クロロ)-ビス[(ジ-ピリジルアミノ)白金(II)](化合物3)0.21ミリモル(0.17g)をジクロロメタン15ml中に懸濁させる。同時に、ピラゾール0.42ミリモル(28.9mg)及びナトリウムメチラート0.42ミリモル(22.9mg)をジクロロメタン10ml中に懸濁させる。両懸濁液を約1h撹拌し、その後、ピラゾール懸濁液を、ジ(μ-クロロ)-ビス[(ジ-ピリジルアミノ)白金(II)]懸濁液に添加する。この混合物を室温で約48時間撹拌する。この混合物の色は鮮烈な黄色である。48時間後、この物質をP4フリットを介して濾別し、ジクロロメタンで複数回、後洗浄する。この場合、この溶液はUV光(384nm)下に真緑色に発光する。引き続き、この溶液を真空中で乾燥させる。
収量:0.03g(16.4%)
図3jに、524nmで発光極大を有する、化合物11の光ルミネセンススペクトルを示す。」
「【図3-5】
・・・・・・・・・・・・・・・



(オ)式28(c)の化合物
「【0204】上記の合成規定に従い、更に、式28による金属錯体化合物が製造可能である。
【0205】
・・・



(カ)式29の化合物
「【0206】金属錯体化合物のもう1つの例は、トリス-ジピリジルイミン-イリジウム-III(式29)である。この化合物は、例えば以下の様式で製造することができる:
ジピリジルアミン及びイリジウムアセチルアセトネートを化学量論比でグリコール中に供し、不活性ガス導通下に還流下に12h加熱する。引き続き、反応混合物を水と混合し、Ir誘導体をクロロホルムで抽出する。クロロホルム相を濃縮し、その後、生成物をメタノール添加により沈殿させる。
【0207】

【0208】図4aは、トリス-ジピリジルイミン-イリジウム-IIIの吸収スペクトル(波長λ(nm)に対する吸収A)を示す。300nm近傍に二重ピークが認められる。
【0209】図4bは、トリス-ジピリジルイミン-イリジウム-III-錯体のPL発光スペクトル(波長λ(nm)に対する強度I)を示す。約430nmで唯一のピークが認められる。」
「【図4】



(キ)式30の化合物
「【0210】金属錯体化合物のもう1つの例は、トリス-ジ-1,2,4-ベンゾトリアジン-3-イル-メチン-イリジウム-III(式30)であり、この化合物は、以下の様式で製造することができる:
ジベンゾ-1,2,4-トリアジン-3-イル-メタン及びイリジウムアセチルアセトネートを化学量論比でグリコール中に供し、不活性ガス導通下に還流下に15h加熱する。引き続き、反応混合物を水と混合し、Ir誘導体をクロロホルムで抽出する。クロロホルム相を濃縮し、その後、生成物をメタノール添加により沈殿させる。
【0211】

【0212】図5aは、トリス-ジ-1,2,4-ベンゾトリアジン-3-イル-メチン-イリジウム-III の吸収スペクトル(波長λ(nm)に対する吸収A)を示す。約280nmでピークが認められる。
【0213】最後に、図5bは、トリス-ジ-1,2,4-ベンゾトリアジン-3-イル-メチン-イリジウム-III-錯体のPL発光スペクトル(波長λ(nm)に対する強度I)を示しており、約420nmでピークが認められる。」
「【図5】



(3)検討

ア 本願発明は、上記第2に示したとおり、
「以下:
- 基板、
- 基板上の第一の電極層、
- 第一の電極層上の少なくとも1の有機発光層、及び
- 有機発光層上の第二の電極層
を含む発光素子であって、前記有機発光層は燐光発光金属錯体化合物を含んでおり、かつ前記燐光発光金属錯体化合物は、
少なくとも1の金属中心原子Mと、前記金属中心原子Mによって配位された少なくとも1の二座のリガンドとを含み、
- 前記1の金属中心原子M及び二座のリガンドがメタラ環式六員環を形成し、
- 前記金属中心原子とメタラ環式六員環を形成する二座のリガンドが、非配位の状態で、互変異性化可能な単位を有し、かつ
- 前記金属中心原子Mが、Ir又はPtから選択されており、
前記化合物が、構造式:

[式中、
n=1?3、
Y=N、C-R_(y)、
X=N、
Z=C、
X_(5)、X_(6)、X_(7) 及びX_(8) は、相互に無関係に、Cであるか、又は、R_(15)、R_(6)、R_(7) 又はR_(8) が遊離電子対を含む場合にはNであり、
R_(1)、R_(2)、R_(3) 及びR_(y) は、相互に無関係に、H、非分枝鎖アルキル基、分枝鎖アルキル基、環状アルキル基、完全にか又は部分的に置換された非分枝鎖アルキル基、完全にか又は部分的に置換された分枝鎖アルキル基、完全にか又は部分的に置換された環状アルキル基、アルコキシ基、アミン、アミド、エステル、カーボネート、芳香族化合物、完全にか又は部分的に置換された芳香族化合物、縮合芳香族化合物、完全にか又は部分的に置換された縮合芳香族化合物、複素環式化合物、完全にか又は部分的に置換された複素環式化合物、縮合複素環式化合物、F又はCNであり、
R_(15)、R_(6)、R_(7) 及びR_(8) は、相互に無関係に、H、非分枝鎖アルキル基、分枝鎖アルキル基、環状アルキル基、完全にか又は部分的に置換された非分枝鎖アルキル基、完全にか又は部分的に置換された分枝鎖アルキル基、完全にか又は部分的に置換された環状アルキル基、アルコキシ基、アミン、アミド、エステル、カーボネート、芳香族化合物、完全にか又は部分的に置換された芳香族化合物、縮合芳香族化合物、完全にか又は部分的に置換された縮合芳香族化合物、複素環式化合物、完全にか又は部分的に置換された複素環式化合物、縮合複素環式化合物、F又はCN、及び遊離電子対である]を有する前記発光素子。」
と特定されている。
本願発明の発光素子の有機発光層に含ませる、上記の、特定の、燐光発光金属錯体化合物を、「本願化合物P1」とよぶと、本願発明は、
「以下:
- 基板、
- 基板上の第一の電極層、
- 第一の電極層上の少なくとも1の有機発光層、及び
- 有機発光層上の第二の電極層
を含む発光素子であって、前記有機発光層は燐光発光金属錯体化合物を含んでおり、かつ前記燐光発光金属錯体化合物は本願化合物P1である、前記発光素子。」
である。

イ そこで、本願発明の発光素子を生産することができるように、明確かつ十分に記載されているかを検討する。

(ア)まず、本願化合物P1を生産することができるように、明確かつ十分に記載されているかを検討する。

a 請求項1の記載によれば、本願化合物P1は、中心金属原子M(MはIr又はPtから選択される)とそれに配位するn個(n=1?3)の二座配位子を有し、その二座配位子は、六員でありヘテロ原子X(XはN)を含む複素芳香環と、五員であり隣接しない2個の窒素原子を含みその間に原子Z(ZはC)を含む不飽和環が、六員環の炭素原子と五員環の窒素原子の間で=Y-(YはN、C-R_(y))を介して結合した構造を有し、六員環のヘテロ原子Xと五員環の原子Zで中心金属原子Mに配位することにより、メタラ環式六員環を形成するものである。

b 発明の詳細な説明には、燐光発光金属錯体化合物については、上記(2)に示したとおり、第1群の化合物?第5群の化合物(上記(2)イ?カ)と化合物の例示(上記(2)ク?コ)と実施例(上記(2)シ)が記載されているところ:
上記(2)イの第1群の化合物は、二座(又は多座)配位子がX(N、O、P、As又はSb)とX(N、O、P、As又はSb)で配位するものであるから、本願化合物P1ではない;
上記(2)ウの第2群の化合物は、二座(又は多座)配位子がX(N、O、P、As又はSb)とZ(C、Si又はGe)で配位するものであるから、このうちのXがNでありZがCのものは本願化合物P1と同じ系統の化合物であるが、上記(2)クの例示の化合物は、何れもXがNでZがCであるものの置換基R_(1)?R_(3) の点で本願化合物P1ではなく、また上記(2)シの実施例には、第2群の化合物の実施例はないので本願化合物P1は記載されていない;
上記(2)エの第3群の化合物は、二座(又は多座)配位子がX’(N、O、P、As又はSb)とX(N、O、P、As又はSb)で配位するものであるから、本願化合物P1ではない;
上記(2)オの第4群の化合物は、多核の錯体であり、二座配位子が該当する場合は本願化合物P1といえるが、そのような化合物の明示の記載はなく、上記(2)コの例示の化合物は何れも本願化合物P1ではなく、上記(2)シの実施例の化合物も何れも本願化合物P1ではない;
上記(2)カの第5群の化合物は、特定の二座配位子を3個又は2個有する錯体であるが、二座配位子が窒素原子と窒素原子で配位するものであるから、本願化合物P1ではない。

c 上記bのとおり、本願明細書には、本願化合物P1について、該当の化合物を実際に製造した実施例の記載がないばかりではなく、当該化合物の具体的な構造式の例示すらない。構造についての記載があるのは、請求項1の記載と実質的に同程度の記載のみである。
例えば、本願化合物P1の最も単純な構造として、X_(5)?X_(8) がC、R_(1)?R_(3) とR_(15) とR_(6)?R_(8) がH、YがCH又はNなどの構造が想定できるものの、そのような化合物であっても、どのように製造するのかは、本願明細書には開示がない。
この点、例えば、上記の最も単純な構造について、上記(2)キの製造法についての一般的な記載、及び上記(2)シの実施例の記載を参考にして、中心金属原子MがPtであるならテトラクロロ白金酸カリウムを用意し、中心金属原子MがIrであるならイリジウムの一配位か二配位か三配位のアセチルアセトナト錯体を用意し、一方、二座配位子の原料として上記の六員環と五員環とが-CH_(2)-又は-NH-で結合した化合物を用意し、実施例に記載されるような溶剤や助剤や操作条件により製造する、ことが想定されないでもない。
しかし、その場合でも、二座配位子の原料となる化合物をどのように調製するのかは、本願明細書に何ら記載がない。そのため、その入手をどうするのかが不明であり、当業者に過度の負担を強いる。溶剤や助剤や操作条件も、実施例は何れも本願化合物P1ではない化合物に関するものであって、しかも実施例ごとに異なっていることからすると、実施例に記載された溶剤や助剤や操作条件がそのまま適用できるかは不明であり、その選択のために、当業者に過度の負担を強いる。
そして、上記の最も単純な構造についてさえ、本願化合物P1が、出願当時に周知になっていたともいえず、出願当時の技術常識に基づいても、その化合物の入手のために、当業者に過度の負担を強いるといえる。
そのうえ、本願化合物P1の構造は、上記の単純な構造に限られず、X_(5)?X_(8) 、R_(1)?R_(3) とR_(15) とR_(6)?R_(8)、YがC-R_(y) のときのR_(y) につき、多数の選択肢を有し、膨大な数の、多様な構造であってよいものである。そのような多様な本願化合物P1は、なおさら、その化合物の入手のために、当業者に過度の負担を強いるといえる。

d よって、発明の詳細な説明の記載は、本願化合物P1を、生産することができるように、明確かつ十分に記載されているとはいえない。

(イ)次に、本願化合物P1を有機発光層に含む発光素子を生産することができるように、明確かつ十分に記載されているかを検討する。
この出願の出願当時、本願化合物P1を他者から入手可能であったとはいえないし、上記(ア)に示したとおり、発明の詳細な説明の記載は、本願化合物P1を生産することができるように明確かつ十分に記載されているとはいえないのであるから、発明の詳細な説明の記載は、本願化合物P1を有機発光層に含む発光素子を、生産することができるように、明確かつ十分に記載されているとはいえない。
仮に、本願化合物P1が、この出願の出願当時、他者から入手可能であるか、又は明細書の記載又はその示唆及び出願当時の技術常識に基づき生産できるとした場合でも、本願明細書には、本願化合物P1を製造した実施例の記載がなく、したがって本願化合物P1を有機発光層に含む発光素子を製造した実施例の記載もない。そして、この出願が、本願化合物P1を有機発光層に含む発光素子は新規なものであるとして出願がされているものであることからすれば、本願化合物P1を含ませた層を有機発光層として、発光性能及び有用性を備えた発光素子を構成できることが、出願当時の技術常識であったとも認められない。
よって、発明の詳細な説明の記載は、本願化合物P1を有機発光層に含む発光素子を、生産することができるように、明確かつ十分に記載されているとはいえない。

(ウ)以上によれば、発明の詳細な説明の記載は、本願発明の発光素子を、生産することができるように、明確かつ十分に記載されているとはいえない。

ウ 次に、本願発明の発光素子を使用することができるように、明確かつ十分に記載されているかを検討する。
上記イに示したように、発明の詳細な説明の記載は、本願発明の発光素子を生産することができるように明確かつ十分に記載されているとはいえないので、本願発明の発光素子が、実際に発光素子として使用できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。
また、仮に、本願化合物P1を他者から入手又は生産し、それを含む有機発光層の他の物質を決定して、発光素子を製造した場合にも、発明の詳細な説明には、そのような本願発明の発光素子の特性についての情報が記載されていないから、そのような発光素子が、実際に、使用できるものであることを確認しなければならない。すなわち、励起エネルギーの移動が実際に起こって所望の燐光が実用できるように生じるかは、実験してみなければ確認できない事項であるので、発光素子の発光特性(電圧-輝度特性、輝度-電流効率特性、発光スペクトル、色相など)を調べる必要があり、さらに、経時的な特性変化を調べて、長期間、安定な発光を呈することができるかを調べて、実際に使用できるものであることを確認しなければならない。
このような、本願明細書において現実に確認されてもいない事項を確認しなければならないということは、本願発明に係る発光素子を使用しようとする当業者に過度の負担を強いるものである。
よって、発明の詳細な説明の記載は、本願発明の発光素子を、使用することができるように、明確かつ十分に記載されているとはいえない。

(4)まとめ
以上によれば、発明の詳細な説明の記載は、当業者が、本願発明の発光素子を、生産し、使用することができるように、明確かつ十分に記載されているとはいえないから、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえず、特許法第36条第4項第1号に適合するものではなく、この出願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(5)なお、請求人は、平成29年7月18日付けの意見書に添付して参考資料1(THE CHEMICAL TIMES,2006,No.1,(通巻199号),p.13-17)を提出し、「ここには、本願の優先日前にはすでに燐光材料としてのイリジウム錯体において、配位子を3つ有する3配位体と、配位子を2つ有する2配位体とが存在し、このような錯体は金属中心原子を有する化合物、たとえば金属塩と配位子を反応させて錯体を製造する方法が複数記載されております。従いまして、本願発明が属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、その技術的知識と、本願明細書中の上記の記載に基づいて、別紙手続補正書による補正後の本願の請求項1に係る燐光発光金属錯体化合物を製造することができ、ひいては当該金属錯体化合物を使用して、このような化合物を含む有機発光層を備えた発光素子を製造することができるものと思料いたします。よって、本願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明による燐光発光金属錯体化合物を製造することができる程度に明確かつ十分に記載されており、当該化合物を有機発光層に含む発光素子を製造することができる程度に明確かつ十分に記載されておりますので、本願は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしております」と主張している。
しかし、上記参考資料1は、「有機EL素子に用いられる燐光材料-燐光材料の合成法の現状と課題-」と題する総説であって、燐光材料の候補化合物とされるイリジウム錯体の代表例を紹介し、その合成法のいくつかを紹介するものであるところ、示されているイリジウム錯体の化学構造は以下の図1及び図2



のものであって本願化合物P1とは化学構造が異なり、示されている合成法も、二座配位子がフェニルピリジンである上記図1の1番目のイリジウム錯体に関し、文献を引用して概要が示されるだけである。
そうすると、上記参考資料1を参酌しても、発明の詳細な説明の記載は、当業者が、本願発明の発光素子を、生産し、使用することができるように、明確かつ十分に記載されているとはいえないから、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。
よって、請求人の主張は採用できない。

2 理由2について

(1)はじめに
特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆる「明細書のサポート要件」)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)発明の詳細な説明の記載
上記1(2)に記載したとおりである。

(3)本願発明の課題について
上記1(2)アによれば、この出願の出願当時、有機発光ダイオード(OLED)のために、赤色光又は緑色光を放射する材料は多数存在していたが、安定な濃青色、薄青色又は青緑色の光を放射する材料を製造することは不可能であった。そこで、この出願の発明は、有色の、例えば、濃青色、薄青色、青緑色又は緑色の光を放射することができ、かつ安定である、新規の燐光発光化合物を提供すること及びかかる燐光発光化合物を有する発光素子を提供することを課題として、そのような燐光発光金属錯体化合物及び発光素子を提供した、というものである。
したがって、本願発明の課題は、濃青色、薄青色、青緑色又は緑色の光を放射することができ、かつ安定である、新規の燐光発光化合物を有する発光素子を提供することであると認められる。

(4)発明の詳細な説明に記載された発明と特許請求の範囲の請求項1に記載された発明との対比・判断
本願発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又は示唆により当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討する。
上記1において、実施可能要件について検討したとおり、発明の詳細な説明の記載又は示唆及び出願時の技術常識に基づき、当業者が、請求項1に係る発明の発光素子を生産し、使用することができる、とはいえず、したがって、発明の詳細な説明が、本件発明に関し、当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。そして、請求項1に係る発明の発光素子が濃青色等の光を実際に放射することができるか否かは、実際に試験してみなければわからないのであるから、請求項1に記載された特定の化学構造の化合物(本願化合物P1)を有機発光層に含む発光素子が、その化合物の範囲の全てにわたって、上記(3)の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。
したがって、請求項1の特許を受けようとする発明(本願発明)は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められない。

(5)まとめ
以上のとおり、本願発明は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、この出願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。

(6)なお、請求人は、平成29年7月18日付けの意見書に添付して参考資料1(THE CHEMICAL TIMES,2006,No.1,(通巻199号),p.13-17)を提出し、上記1(5)での主張を引用して、「本願発明の課題は、段落[0004]に記載されておりますように、有色の光を放出することができ、かつ安定である、新規の燐光発光化合物、ひいては当該燐光発光化合物を有する発光素子を提供することです。そして上記でご説明いたしましたように、当業者であれば、本願の発明の詳細な説明の記載と、本願出願時の技術常識とに基づいて、上記の課題を解決するために、有色の光を放出する燐光発光金属錯体化合物、ひいては有機発光層にこのような金属錯体化合物を含有している発光素子を製造し、かつ使用することができるものであり、発明の詳細な説明の記載は、当業者が、補正後の請求項1?17に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されております。従いまして、別紙手続補正書による補正後の請求項1?17に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるため、本願は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしております」と主張している。
しかし、上記1(5)で述べたとおり、参考資料1に示されているイリジウム錯体は本願化合物P1とは化学構造が異なり、合成法も、二座配位子がフェニルピリジンである上記イリジウム錯体に関し、文献を引用して概要が示されるだけである。
そうすると、上記参考資料1を参酌しても、本願発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められない。
よって、請求人の主張は採用できない。

第5 むすび
以上のとおり、請求項1に係る発明について、この出願は、発明の詳細な説明が当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから特許法第36条第6項に規定する要件を満たしておらず、その余について検討するまでもなく、この出願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-08-18 
結審通知日 2017-08-21 
審決日 2017-09-04 
出願番号 特願2014-53623(P2014-53623)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (C07D)
P 1 8・ 537- WZ (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 千弥子  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 加藤 幹
木村 敏康
発明の名称 燐光発光金属錯体化合物、燐光発光金属錯体化合物を含有する発光素子、及び、燐光発光金属錯体化合物の製造法  
代理人 前川 純一  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 上島 類  
代理人 二宮 浩康  

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