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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61K 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 A61K |
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管理番号 | 1336595 |
審判番号 | 不服2017-1478 |
総通号数 | 219 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-03-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-02-01 |
確定日 | 2018-02-06 |
事件の表示 | 特願2015- 88748「医薬組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 9月24日出願公開、特開2015-166359、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成20年11月13日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2007年11月16日,欧州特許庁)を国際出願日とする特願2010-533575号の一部を平成25年12月12日に新たな出願とした特願2013-257490号の一部を、さらに平成27年4月23日に新たな特許出願としたものであって、同年4月24日付けで手続補正がなされ、平成28年2月16日付けの拒絶理由に応答して同年8月17日付けで手続補正がなされたが、該平成28年8月17日付けの手続補正についての補正の却下の決定が平成28年9月27日付けでなされるとともに、同日付けで拒絶査定がなされた。 これに対し、平成29年2月1日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判請求と同時に手続補正がなされたものである。 第2 原査定の概要 原査定の拒絶の理由は、本願の請求項1に係る発明は、下記引用文献1、2に記載された発明であり、また、引用文献1?4のそれぞれに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許を受けることができない、というものである。 <引用文献> 1.特表2000-506372号公報 2.国際公開第2006/000547号 3.国際公開第2007/023154号 4.国際公開第92/01458号 第3 本願発明 本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成29年2月1日付け手続補正書により補正されたの特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「 経口投与の形態でオキシ水酸化鉄を含有する医薬組成物であり、前記医薬組成物は咀嚼可能な錠剤であり、前記錠剤の全重量に対して、オキシ水酸化鉄を30?65%(w/w)の量で、蔗糖を5?30%(w/w)の量で、でんぷんを5?30%(w/w)の量で含有し、前記錠剤は直径15?30mmおよび高さ2?8mmの範囲のサイズを有し、前記錠剤当たり前記オキシ水酸化鉄は300mgを超える量で含有する医薬組成物。」 第4 対比、判断 1. 引用文献1?4に記載された事項 引用文献1には、以下の事項が記載されている。 (1-i) 「1.炭水化物によっておよび(または)フミン酸によって安定化された多核性ベータ-鉄水酸化物を含有する水性媒質からのリン酸塩に対する吸着剤。」(請求項1) (1-ii) 「本発明は、水性媒質からの、例えば水溶液からのリン酸塩(Phosphate)に対する吸着剤に関するものである。それは特に、無機リン酸塩および食品に結合したリン酸塩に対する吸着剤として、とりわけ高リン酸血症状態の予防および治療に経口的に適用する製剤として適している。 慢性腎不全の患者において、病理学的に増加した血清リン酸塩レベルは、糸球体濾過率の減少によって起こる。」(第4頁4?9行) (1-iii) 「さらに本発明は、無機リン酸塩および食品に結合したリン酸塩に対する吸着剤としてまたは吸着剤中に使用することのできる、炭水化物によって および(または)フミン酸によって安定化された多核性ベータ-鉄水酸化物を製造する方法に関するものである。・・・ 例えば、水溶液中の炭酸ナトリウムまたは重炭酸ナトリウムを、アルカリ金属の炭酸塩またはアルカリ金属の重炭酸塩の溶液として使用することができる。 例えば、無機酸または有機酸の水溶性塩を、鉄(III)塩として使用することができる。塩化鉄(III)が好ましい。 β‐鉄水酸化物(アカガナイト)の製造は、原則的に従来の技術において既知でありそして文献、例えばU.SchwertmannおよびR.M.Cornell,“Iron 0xides in the Laboratory”,VCH Verlagsgesellschaft mbH,1991,95-100に記載されている。」(第5頁4行?第6頁12行) (1-iv) 「本発明による吸着剤は、例えば経口的適用のために処方することができる。これらの吸着剤は、それ自体でまたは慣用の薬剤添加剤、例えば慣用の担体または補助物質と一緒に処方することができる。例えば医薬分野において使用されている慣用の媒質を被包媒質として使用して被包を行うことができる。また吸着剤を場合によっては、補助物質および添加剤と一緒に、顆粒、錠剤、糖剤として提供するかまたはサッシェ剤中に含ませることもできる。本発明による吸着剤の一日当たりの用量は、例えば鉄1?3g、好ましくは1.5gである。 本発明による吸着剤はまた、食品に結合したリン酸塩の吸着に使用するのに適している。この目的のために、例えば吸着剤を食品と混合する。この目的に対する処方は、例えば薬剤について上述したようにして製造することができる。」(第7頁15行?24行) (1-v) 「実施例 1 塩化鉄(III)溶液(d20=1.098g/ml)275gを、30分にわたって撹拌(ブレード撹拌器)しながら、ソーダ溶液(d20=1.185g/ml)241.5gに滴加した。懸濁液を2時間放置した。この時間の間、それを10分ずつ6回撹拌した。それから得られた懸濁液を撹拌しながら、水300mlで処理し、1時間放置し、上澄液を傾瀉分離によって除去した。この操作を5回反復した。 4.8%の鉄含有量(錯滴定的に測定)を有する懸濁液208.3gを得た。 サッカロース15gおよび澱粉15gを、上記懸濁液208.3gに加えた。それから懸濁液を、回転蒸発器中において50℃で濃縮しそして高真空下40℃で乾燥した。 21.2%の鉄含有量(錯滴定的に測定)を有する粉末47.2gを得た。」 引用文献2には、以下の事項が記載されている。なお、引用文献2はドイツ語であるため、当審による日本語訳を示す。 (2-i) 「 1. 以下の工程を含む組成物の調製方法。 a)水性の、鉄(III)を含む硫酸及び/又は硝酸塩溶液に少なくとも1の塩基を添加して、水酸化鉄の沈殿物を形成し、 b)任意により、得られた沈殿物を一回以上水で洗浄して上記水酸化鉄の懸濁水溶液をつくり、 c)工程b)で得られた水酸化鉄の沈殿物の劣化を抑制する少なくとも1のさらなる成分を、上記得られた懸濁水溶液に添加し、 d)工程c)で得られた組成物を乾燥させる」(請求項1) (2-ii) 「3. 前記水酸化鉄の沈殿物の劣化を抑制する前記のさらなる成分は、炭水化物、炭水化物誘導体、及びフミン酸からなる群から選ばれることを特徴とする、請求項1又は2に記載の組成物の調製方法。」(請求項3) (2-iii) 「13 前記水酸化鉄の劣化を抑制するさらなる成分は、スターチ、スクロース、デキストリンよりなる群から選ばれることを特徴とする請求項1?12いずれかに記載の組成物の調整方法。」(請求項13) (2-iv) 「炭水化物又はフミン酸の量は、水酸化鉄の劣化を抑制するさらなる成分である炭水化物又はフミン酸が、鉄1gあたり(Fe換算で)少なくとも0.5g、好ましくは少なくとも1gとなるように選択することが好ましい。好ましくは、得られる組成物の鉄含有量は、50重量%以下であり、好ましくは40重量%以下である。得られる組成物の鉄含有量は、少なくとも20重量%であることが好ましい。得られる組成物に含まれる炭水化物又はフミン酸などの水酸化鉄の劣化を抑制するさらなる成分の量は特に制限されるものではなく、主として経済的な理由により決定される。上記量は好ましくは約5?60重量%、より好ましくは約20?60重量%である。」(第6頁1?13行) (2-v) 「この目的のために、本発明により得られる組成物は、例えば経口投与などの周知の薬投与の形式に形成される。組成物はそのままで形成してもよいし、従来のキャリアや補助物質などの従来の薬用添加物とともに形成してもよい。例えば、カプセル化することもできる。カプセル化剤として、医薬分野において使用されているハード又はソフトのゼラチンカプセルなどの従来の材料を使用することができる。また、本発明により得られる組成物をマイクロカプセル化することも可能である。また、吸着剤を任意により補助物質や添加物とともに、細粒、タブレット、糖衣錠のかたちで提供してもよいし、小袋に封入してもよいし、ゲル又はスティック状にしてもよい。本発明により得られる組成物の一日の服用量は、鉄を基準として、1?3g、好ましくは約1.5gである。」(第7頁下から10行?第8頁5行) (2-vi) 「【実施例1】 1160gのソーダ水溶液(d20=1.185g/ml)に、444gの硫酸鉄(III)溶液(11.3% w/w Fe)を20?30分かけて滴下しながらかき混ぜる。この懸濁水溶液をさらに1時間かき混ぜる。その後、懸濁水溶液に2リットルの水を添加しながら(羽根型撹拌器で)かき混ぜる。この混合物を放置し、上澄み液を移し替える。この手順を5回繰り返す。このようにして、鉄含有量4.0g(w/w)の懸濁水溶液1238gが得られる。この懸濁水溶液1238gにスクロースとスターチをそれぞれ73.9gずつ添加する。次にこの懸濁水溶液を60℃で回転式蒸発器により濃縮し、50℃の高真空のもとで乾燥させる。鉄含有量21.5%(w/w)の粉末223gが得られる。」(第9頁2?14行) 引用文献3には、以下の事項が記載されている。なお、引用文献3はドイツ語であるため、当審による日本語訳を示す。 (3-i) 「 1.慢性炎症性疾患の患者における、鉄欠乏状態の経口処置用薬剤を調製するための、炭水化物との鉄(III)複合化合物の使用。 2.前記炭水化物が、デキストランおよび水素化デキストラン、デキストリンおよび水素化デキストリンもしくは酸化デキストリン、ならびにプルラン、そのオリゴマーおよび水素化プルランからなる群から選択される、請求項1に記載の使用。 3.前記炭水化物が、酸化デキストリンまたは水素化デキストリンから選択される、請求項1または2に記載の使用。 4.前記鉄(III)複合化合物が、鉄(III)-ポリマルトース複合化合物である、請求項1または2に記載の使用。」(請求項1?4) (3-ii) 「1つの好ましい実施の態様では、マルトデキストリンの酸化生成物との鉄(III)複合化合物が使われる。例えば、鉄(III)塩水溶液とアルカリ領域のpHにおける次亜塩素酸水溶液でのマルトデキストリンの酸化による生成物の水溶液とから得ることができる、・・・・。」(第8頁24?36行参照) 引用文献4には、以下の事項が記載されている。なお、引用文献4は英語であるため、当審による日本語訳を示す。 (4-i) 「1.高リン酸血症患者または高リン酸血症状態の発症に苦しむ患者の血清リン酸塩レベルをコントロールする方法であって、酸化鉄、オキシ水酸化鉄及び水酸化鉄からなる群から選択されるオキシ鉄化合物を、高リン酸血症の状態の予防または緩和するのに十分な量で摂取リン酸塩と結合させる、方法。」(請求項1) (4-ii) 「4.前記オキシ鉄化合物が、消化管内で摂取されたリン酸塩との接触のために、患者に経口的に投与される。」(請求項4) (4-iii) 「合成フェリヒドライト 好ましいオキシ鉄化合物である(Fe_(5)O_(7)OH)は、・・・リン酸に対する高い吸着能を示し、・・・。 フェリヒドライト174mgの用量は、当技術分野で認められている水酸化アルミニウムリン酸塩結合剤10mlと同量のリン酸塩を吸着できると思われる。」(4頁3?11行)。 (4-iv) 「本発明に有用なオキシ鉄化合物には、・・・オキシ水酸化鉄が含まれる。・・適切なオキシ鉄化合物は、天然及び合成の鉱物の形態であり、・・・・ゲーサイト(α-FeOOH)、・・・フェリヒドライト(Fe_(5)O_(7)OH・4H_(2)O)・・・である。」(第5頁21行?30行) (4-v) 「経口剤形は、摂取したリン酸塩の吸収を抑制し、それによって高リン酸塩の発生の可能性を低下させるために患者の腸管内に十分に摂取され、・・・。したがって、本発明による治療用オキシ鉄含有組成物の各経口用量は、約50?500mgまたはそれ以上のオキシ鉄化合物を含有することができる。(第6頁下から5行?第7頁7行) (4-vi) 「・・。 フェリヒドライト174mgを含む錠剤またはカプセルは、高リン酸塩血症を治療または予防するリン酸塩結合剤として現在商業的に利用されているAmphogel(商標)10mlと同量のリン酸塩を吸着すると予測される。」(第12頁下から8行目)。 1.引用文献1を主引用例とする拒絶理由について 記載事項(1-i)からみて、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 <引用発明1> 「炭水化物によっておよび(または)フミン酸によって安定化された多核性ベータ-鉄水酸化物を含有する水性媒質からのリン酸塩に対する吸着剤。」 本願発明と引用発明1を対比すると、 引用発明1の「多核性ベータ-鉄水酸化物」は、例えばU.SchwertmannおよびR.M.Cornell,“Iron 0xides in the Laboratory”,VCH Verlagsgesellschaft mbH,1991,95-100に記載されている既知の技術で製造されるものである(上記(1-iii)、(1-v)を参照。)ところ、この製造方法は、本願発明のオキシ水酸化鉄の製造方法(明細書段落【0027】には、「一般に鉄(III)‐塩水溶液での加水崩壊及び沈殿の際に形成される(参考文献は、例えば、Ro:mpp Lexikon Chemie, 10. Auflage, 1997; U.Schwertmann, R.M.Cornell“Iron Oxides in the Laboratory”,VCH Verlagsgesellschaft mbH,1991,Seiten 95-100)。」と記載されている。)と一致する。 したがって、引用発明1の「多核性ベータ-鉄水酸化物」は、本願発明の「オキシ水酸化鉄」に相当する。 引用発明1の「サッカロース」、「澱粉」は、それぞれ、本願発明の「蔗糖」、「でんぷん」に相当する。 引用発明1の「吸着剤」は、高リン酸血症状態の予防および治療に経口的に適用する製剤として適している(上記(1-ii)を参照。)ものであることから、本願発明の「医薬組成物」に対応する。 したがって、本願発明と引用発明1は、「経口投与の形態でオキシ水酸化鉄を含有する医薬組成物であり、蔗糖とでんぷんを含有する前記医薬組成物。」の点で一致し、次の点で相違する。 <相違点> 1.医薬組成物について、本願発明では、「咀嚼可能な錠剤」、「錠剤は直径15?30mmおよび高さ2?8mmの範囲のサイズを有し」、「錠剤当たり前記オキシ水酸化鉄は300mgを超える量で含有する」と特定されているのに対し、引用発明1ではそのような特定を有していない点 2.医薬組成物のオキシ水酸化鉄と蔗糖とでんぷんの各成分割合について、本願発明では、「錠剤の全重量に対して、オキシ水酸化鉄を30?65%(w/w)の量で、蔗糖を5?30%(w/w)の量で、でんぷんを5?30%(w/w)の量」と特定されているのに対し、引用発明1ではそのような特定を有していない点 そうすると、本願発明は、引用文献1に記載された発明であるとはいえない。 次に、相違点1について検討する。 引用文献1には、組成物を錠剤とすることについての一般的な記載がある(摘示(1-ii)参照)が、具体的に錠剤を製造したことや、錠剤を咀嚼可能なものとすることや、錠剤の直径および高さや、オキシ水酸化鉄の好ましい含有量に関する記載はない。 なお、引用文献1には、オキシ水酸化鉄の一日当たりの使用量について、鉄1?3gとすることが記載されており(摘示(1-iv)参照)、この量をオキシ水酸化鉄に換算すると1600?4800mgとなり、この量を、仮に3度の食事と同時に取るとすると、1回につき530?1600mgのオキシ水酸化鉄(300mgを超えるオキシ水酸化鉄)の使用が想定されるものの、それを一錠に含有させるべき必然性はないし、錠剤を咀嚼可能なものとすることや錠剤のサイズを直径15?30mmおよび高さ2?8mmの範囲のものとすることについて記載も示唆もない。 そうすると、相違点2について検討するまでもなく、本願発明は、引用発明1に基づき当業者が容易に想到し得たとはいえない。 また、本願発明は、相違点1および2に係る構成を備えることにより、最小限の大きさを維持するとともに、高担持量及び適切な崩壊特徴の両方を達成することができ、これにより、現在周知の剤形物の短所を克服することができるという効果を奏するものであって、当該効果は、相違点1についてすら記載も示唆もない引用文献1からは、当業者といえども予測することができたものであるとはいえない。 2.引用文献2を主引用例とする拒絶理由について 引用文献2には、摘示(2-i)?(2-iii)の調製方法に係る、以下の組成物の発明(以下、「引用発明2」ともいう。)が記載されていると認められる。 <引用発明2> 「a)水性の、鉄(III)を含む硫酸及び/又は硝酸塩溶液に少なくとも1の塩基を添加して、水酸化鉄の沈殿物を形成し、 b)任意により、得られた沈殿物を一回以上水で洗浄して上記水酸化鉄の懸濁水溶液をつくり、 c)工程b)で得られた水酸化鉄の沈殿物の劣化を抑制する少なくとも1のさらなる成分を、上記得られた懸濁水溶液に添加し、 前記水酸化鉄の劣化を抑制するさらなる成分は、スターチ、スクロース、デキストリンよりなる群から選ばれるものであり、 d)工程c)で得られた組成物。」 本願発明と引用発明2を対比すると、 引用発明2の「水酸化鉄」は、「鉄(III)を含む硫酸及び/又は硝酸塩」の加水分解で製造されるものであることから、本願発明の「オキシ水酸化鉄」に相当する。 引用発明2の「スターチ」、「スクロース」は、それぞれ、本願発明の「でんぷん」、「蔗糖」に相当する。 したがって、本願発明と引用文献2発明は、「オキシ水酸化鉄、蔗糖およびでんぷんを含有する組成物。」の点で一致し、次の点で相違する。 <相違点> 3.組成物について、本願発明では、「医薬組成物」、「咀嚼可能な錠剤」、「錠剤は直径15?30mmおよび高さ2?8mmの範囲のサイズを有し」、「錠剤当たり前記オキシ水酸化鉄は300mgを超える量で含有する」と特定されているのに対し、引用発明2ではそのような特定を有していない点 4.組成物のオキシ水酸化鉄と蔗糖とでんぷんの各成分割合について、本願発明では、「錠剤の全重量に対して、オキシ水酸化鉄を30?65%(w/w)の量で、蔗糖を5?30%(w/w)の量で、でんぷんを5?30%(w/w)の量」と特定されているのに対し、引用発明2ではそのような特定を有していない点 そうすると、本願発明は、引用文献2に記載された発明であるとはいえない。 次に、相違点3について検討する。 引用文献2には、組成物を錠剤とすることについての一般的な記載がある(摘示(2-v)参照)が、具体的に錠剤を製造したことや、錠剤を咀嚼可能なものとすることや、錠剤の直径および高さや、オキシ水酸化鉄の好ましい含有量に関する記載はない。 なお、引用文献2には、オキシ水酸化鉄の一日当たりの使用量について、鉄1?3gとすることが記載されており(摘示(2-v)参照)、この量をオキシ水酸化鉄に換算すると1600?4800mgとなり、この量を、仮に3度の食事と同時に取るとすると、1回につき530?1600mgのオキシ水酸化鉄(300mgを超えるオキシ水酸化鉄)の使用が想定されるものの、それを一錠含有させるべき必然性はないし、錠剤を咀嚼可能なものとすることや錠剤のサイズを直径15?30mmおよび高さ2?8mmの範囲のものとすることについて記載も示唆もない。 そうすると、相違点4について検討するまでもなく、本願発明は、引用発明2に基づき当業者が容易に想到し得たとはいえない。 また、本願発明は、相違点3および4に係る構成を備えることにより、最小限の大きさを維持するとともに、高担持量及び適切な崩壊特徴の両方を達成することができ、これにより、現在周知の剤形物の短所を克服することができるという効果を奏するものであって、当該効果は、相違点3についてすら記載も示唆もない引用文献2からは、当業者といえども予測することができたものであるとはいえない。 3.引用文献3を主引用例とする拒絶理由について 引用文献3には、摘示(3-i)に記載の使用に係る、以下の薬剤の発明(以下、「引用発明3」ともいう。)が記載されていると認められる。 <引用発明3> 「慢性炎症性疾患の患者における、鉄欠乏状態の経口処置用薬剤であり、前記薬剤が、炭水化物との鉄(III)複合化合物を含む、 薬剤。」 本願発明と引用発明3を対比すると、引用発明3の「薬剤」は、本願発明の「医薬組成物」に相当する。 また、引用発明3の「鉄(III)複合化合物」は、鉄化合物である点で、本願発明の「オキシ水酸化鉄」と共通し、引用発明3の「炭水化物」も、本願発明の「蔗糖」も、炭水化物である点では共通する。 したがって、本願発明と引用発明3は、「経口投与の形態で鉄化合物を含有する医薬組成物であり、炭水化物を含有する前記医薬組成物。」の点で一致し、次の点で相違する。 <相違点> 5.鉄化合物について、本願発明は、「オキシ水酸化鉄」に特定されているのに対し、引用発明3は、「炭水化物との鉄(III)複合化合物」に特定されている点。 6.医薬組成物について、本願発明では、「咀嚼可能な錠剤」、「錠剤は直径15?30mmおよび高さ2?8mmの範囲のサイズを有し」、「錠剤当たり前記オキシ水酸化鉄は300mgを超える量で含有する」と特定されているのに対し、引用発明3ではそのような特定を有していない点 7.医薬組成物のオキシ水酸化鉄と蔗糖とでんぷんの各成分割合について、本願発明では、「錠剤の全重量に対して、オキシ水酸化鉄を30?65%(w/w)の量で、蔗糖を5?30%(w/w)の量で、でんぷんを5?30%(w/w)の量」と特定されているのに対し、引用発明3ではそのような特定を有していない点 相違点5について検討する。 本願発明は、オキシ水酸化物と蔗糖とデンプンを含む組成物であるのに対し、引用発明3の「炭水化物との鉄(III)複合化合物」は、摘示(3-ii)の記載から理解できるように、炭水化物と鉄(III)が複合化された「化合物」であって、オキシ水酸化物と炭水化物を含む組成物とは、本質的に異なっている。 また、「炭水化物との鉄(III)複合化合物」は、引用発明3の薬剤の有効成分であると認められるから、引用発明3は、「炭水化物との鉄(III)複合化合物」を使用することを前提とするものであり、これに代えて他の成分を使用することには阻害要因があるといえる。 また、引用文献3には、「炭水化物との鉄(III)複合化合物」に代えて、オキシ水酸化物と蔗糖とデンプンを含む組成物について記載も示唆もない。 そうすると、相違点6、7について検討するまでもなく、本願発明は、引用発明3に基づき当業者が容易に想到し得たとはいえない。 また、本願発明は、相違点5?7に係る構成を備えることにより、最小限の大きさを維持するとともに、高担持量及び適切な崩壊特徴の両方を達成することができ、これにより、現在周知の剤形物の短所を克服することができるという効果を奏するものであって、当該効果は、相違点5についてすら記載も示唆もない引用文献3からは、当業者といえども予測することができたものであるとはいえない。 4.引用文献4を主引用例とする拒絶理由について 引用文献4(摘示(4-i)、(4-ii))には、高リン酸血症患者または高リン酸血症状態の発症に苦しむ患者の血清リン酸塩レベルをコントロールする方法であって、酸化鉄、オキシ水酸化鉄及び水酸化鉄からなる群から選択されるオキシ鉄化合物を、高リン酸血症の状態を予防または緩和するのに十分な量で摂取リン酸塩と結合させる方法において、酸化鉄、オキシ水酸化鉄及び水酸化鉄からなる群から選択されるオキシ鉄化合物を、消化管内で摂取されたリン酸塩との接触のために、患者に経口的に投与することが記載されており、当該方法は、オキシ鉄化合物について選択肢を有するものである。 また、患者に経口的に投与する際に、賦形剤などの各種添加剤を使用して医薬組成物とすることは慣用手段である。 したがって、引用文献4には、当該選択肢としてオキシ水酸化鉄を選択した場合に該当する、以下の発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されていると認められる。 <引用発明4> 「高リン酸血症患者または高リン酸血症状態の発症に苦しむ患者の血清リン酸塩レベルをコントロールするための、患者に経口的に投与されるオキシ水酸化鉄を含む医薬組成物。」 本願発明と引用文献4を対比すると両者は、「患者に経口的に投与されるオキシ水酸化鉄を含む医薬組成物」である点で一致し、次の点で相違する。 <相違点> 8.医薬組成物について、本願発明では、「咀嚼可能な錠剤」、「錠剤は直径15?30mmおよび高さ2?8mmの範囲のサイズを有し」、「錠剤当たり前記オキシ水酸化鉄は300mgを超える量で含有する」と特定されているのに対し、引用発明1ではそのような特定を有していない点 9.医薬組成物のオキシ水酸化鉄と蔗糖とでんぷんの各成分割合について、本願発明では、「錠剤の全重量に対して、オキシ水酸化鉄を30?65%(w/w)の量で、蔗糖を5?30%(w/w)の量で、でんぷんを5?30%(w/w)の量」と特定されているのに対し、引用発明1ではそのような特定を有していない点 相違点8について検討する。 引用文献4には、組成物を錠剤とすることについての一般的な記載がある(摘示(4-vi)参照)が、錠剤を咀嚼可能なものとすることや、錠剤の直径および高さについて記載も示唆もない。 そうすると、相違点9について検討するまでもなく、本願発明は、引用発明4に基づき当業者が容易に想到し得たとはいえない。 また、本願発明は、相違点8および9に係る構成を備えることにより、最小限の大きさを維持するとともに、高担持量及び適切な崩壊特徴の両方を達成することができ、これにより、現在周知の剤形物の短所を克服することができるという効果を奏するものであって、当該効果は、相違点8についてすら記載も示唆もない引用文献4からは、当業者といえども予測することができたものであるとはいえない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、本願は、原査定の理由を検討してもその理由によつて拒絶すべきものとすることはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2018-01-22 |
出願番号 | 特願2015-88748(P2015-88748) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
WY
(A61K)
P 1 8・ 121- WY (A61K) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 澤田 浩平 |
特許庁審判長 |
蔵野 雅昭 |
特許庁審判官 |
前田 佳与子 穴吹 智子 |
発明の名称 | 医薬組成物 |
代理人 | 特許業務法人竹内・市澤国際特許事務所 |