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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1336618
審判番号 不服2016-19471  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-12-27 
確定日 2018-01-18 
事件の表示 特願2013- 55836「超音波探触子及び超音波画像診断装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 9月29日出願公開、特開2014-180362〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年3月19日の出願であって、平成28年2月24日付けで拒絶理由が通知され、同年4月28日に意見書及び手続補正書が提出され、同年9月16日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)されたところ、同年12月27日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成28年12月27日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の結論]
平成28年12月27日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線は、請求人が付与したものであり、補正箇所を示す。以下、本件補正後の請求項1に記載された発明を「本件補正発明」という。)。

「 【請求項1】
超音波を送受信する圧電材と、
前記圧電材から発信される超音波を当該超音波の発信対象に収束させるように設けられた音響レンズと、
前記圧電材と前記音響レンズとの間に位置するよう設けられた音響整合層と、
前記圧電材に対して前記音響整合層の反対側に設けられた背面反射材と、を備え、
前記背面反射材における前記音響整合層と反対側の端部の位置を始点とするとともに、前記音響レンズと前記音響整合層との界面の位置を終点として、前記始点における音響インピーダンスから前記終点における音響インピーダンスまで、音響インピーダンスが指数関数的に減少するように前記背面反射材、前記圧電材、及び前記音響整合層の音響インピーダンスが設定されており、
前記圧電材の音響インピーダンスは、前記音響整合層における当該圧電材側の端部の音響インピーダンスよりも大きいことを特徴とする超音波探触子。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、平成28年4月28日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。

「 【請求項1】
超音波を送受信する圧電材と、
前記圧電材から発信される超音波を当該超音波の発信対象に収束させるように設けられた音響レンズと、
前記圧電材と前記音響レンズとの間に位置するよう設けられた音響整合層と、
前記圧電材に対して前記音響整合層の反対側に設けられた背面反射材と、を備え、
前記背面反射材の位置を始点とするとともに、前記音響レンズと前記音響整合層との界面の位置を終点として、前記始点における音響インピーダンスから前記終点における音響インピーダンスまで、音響インピーダンスが指数関数的に減少するように前記背面反射材、前記圧電材、及び前記音響整合層の音響インピーダンスが設定されていることを特徴とする超音波探触子。」

2 補正の適否
本件補正は、補正前に請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「背面反射材、圧電材、及び音響整合層の音響インピーダンス」について、上記のとおり限定を付加するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正発明との産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。

(1)本件補正発明
ア 本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものであり、以下のとおり、当審にて分説しA)?G)の見出しを付けた。

「 【請求項1】
A)超音波を送受信する圧電材と、
B)前記圧電材から発信される超音波を当該超音波の発信対象に収束させるように設けられた音響レンズと、
C)前記圧電材と前記音響レンズとの間に位置するよう設けられた音響整合層と、
D)前記圧電材に対して前記音響整合層の反対側に設けられた背面反射材と、を備え、
E)前記背面反射材における前記音響整合層と反対側の端部の位置を始点とするとともに、前記音響レンズと前記音響整合層との界面の位置を終点として、前記始点における音響インピーダンスから前記終点における音響インピーダンスまで、音響インピーダンスが指数関数的に減少するように前記背面反射材、前記圧電材、及び前記音響整合層の音響インピーダンスが設定されており、
F)前記圧電材の音響インピーダンスは、前記音響整合層における当該圧電材側の端部の音響インピーダンスよりも大きいことを特徴とする
G)超音波探触子。」

イ ここで、上記本件補正発明の構成E)の「前記背面反射材における前記音響整合層と反対側の端部の位置を始点」とし「前記音響レンズと前記音響整合層との界面の位置を終点として」「指数関数的に減少する」について、発明の詳細な説明における実施例の具体的な数値(【0066】段落、図8)の厚さ-音響インピーダンスの関係が、数学的な意味での「指数関数」すなわち厚さ方向位置xにおける音響インピーダンスをZ(x)として、Z(x)=Aexp(kx)(A、kは定数)の関係に正確に従うものではないことは明らかである。
そして、「指数関数的に減少」という用語が、「指数関数」に正確に従って減少するもの以外に、最初の数個の値が急激に減少しその後なだらかに減少していくデータ系列に対しても使用される場合があることも考慮すると、本件補正発明における構成E)は、「前記背面反射材、前記圧電材、及び前記音響整合層の音響インピーダンス」を、「指数関数」に正確に従うように設定することを限定するものではなく、背面反射材と圧電材との音響インピーダンスの差が、圧電材から音響整合層の音響レンズとの界面の位置までの音響インピーダンスの変化に比して十分に大きくなることを限定していると認める。

(2)引用例の記載事項
ア 引用文献1
(ア)引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である引用文献1(特開2009-71393号公報)には、以下の記載がある(下線は、当審で付した。以下同様。)。

(引1a)「【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波診断装置において超音波を送受信するために用いられる超音波探触子に関し、さらに、超音波探触子において音響インピーダンスを整合するために用いられる音響整合材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
・・・
【0007】
振動子の音響インピーダンスをZ_(1)とし、振動子に隣接する媒質の音響インピーダンスをZ_(2)とすると、振動子と媒質との界面における超音波の垂直反射率は、次式(3)で与えられる。
I_(R)/I_(0)=|Z_(2)-Z_(1)|/(Z_(2)+Z_(1)) ・・・(3)
ここで、I_(0)は、界面に入射する超音波の音圧を表し、I_(R)は、界面によって反射される超音波の音圧を表している。
【0008】
また、振動子と媒質との界面における超音波の垂直透過率は、次式(4)で与えられる。
I_(T)/I_(0)=2・Z_(2)/(Z_(2)+Z_(1)) ・・・(4)
ここで、I_(T)は、界面を透過する超音波の音圧を表している。
【0009】
圧電振動子を人体に直接接触させると、それらの音響インピーダンスの差により、ほとんどの超音波は接触界面で反射してしまう。例えば、圧電セラミックを振動子として用いる場合には、一般的な圧電セラミックの音響インピーダンスは約34MRaylであり、人体の音響インピーダンスは約1.5MRaylであるから、圧電振動子と人体との接触界面における超音波の垂直反射率は約0.92となり、超音波は1割も伝播しないことが分る。
【0010】
この問題を解決するために、振動子と被検体との間に音響整合層を挿入して、音響インピーダンスの整合を図ることが行われている。さらに、音響整合層を多層構造とすることにより、超音波の伝播効率が改善される。伝送線路理論によれば、2層の音響整合層を設ける場合には、各層の厚さを超音波の波長の1/4として、振動子側の層の音響インピーダンスを8.92MRaylとし、被検体側の層の音響インピーダンスを2.34MRaylとすることが良いとされている(超音波便覧編集委員会、「超音波便覧」、丸善、1999年9月)。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
そこで、上記の点に鑑み、本発明は、母材となるエラストマー又は樹脂の架橋硬化反応を不安定にすることなく、所望の音響インピーダンスを再現性良く安定的に実現することができる音響整合材を提供することを目的とする。さらに、本発明は、そのような音響整合材を用いた超音波探触子を提供することを目的とする。」

(引1b)「【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。なお、同一の構成要素には同一の参照番号を付して、説明を省略する。
図1は、本発明の一実施形態に係る超音波探触子の内部構造を模式的に示す斜視図であり、図2は、図1に示す超音波探触子の内部構造をYZ平面に平行な面で切断したときの断面図である。ここでは、超音波内視鏡において用いられるコンベックス1次元アレイプローブを例にとって説明するが、本発明は、単体の振動子を有するプローブ、又は、他の形式の1次元又は2次元アレイプローブにも適用することができる。
【0022】
図1及び図2に示すように、この超音波探触子は、上面に凸型の形状を有するバッキング材1と、バッキング材1上に1次元状に配置された複数の超音波トランスデューサ(圧電振動子)2と、それらの圧電振動子2間に充填された樹脂3と、圧電振動子2上に設けられた1つ又は複数の音響整合層(図1及び図2においては、2つの音響整合層4a及び4bを示す)と、必要に応じて音響整合層上に設けられる音響レンズ5と、バッキング材1の両側面及び底面に固定された2枚のフレキシブル配線基板(FPC)6と、バッキング材1、圧電振動子2、音響整合層4a及び4bの側面にFPC6を介して形成された絶縁樹脂7と、FPC6に接続された電気配線8及びコネクタ9とを有している。
【0023】
図1においては、圧電振動子2の配列を示すために、音響整合層4a及び4bと、音響レンズ5とを、カットして示している。本実施形態においては、X軸方向に並べられた複数の圧電振動子2が、1次元振動子アレイを構成している。ここで、バッキング材1の厚さ(Z軸方向)は3mmであり、圧電振動子2の厚さ(Z軸方向)は250μmであり、圧電振動子2の幅(X軸方向)は100μmである。
【0024】
図2に示すように、圧電振動子2は、バッキング材1上に形成された個別電極2aと、個別電極2a上に形成された圧電体2bと、圧電体2b上に形成された共通電極2cとを含んでいる。通常、共通電極2cは、接地電位(GND)に共通接続される。複数の圧電振動子2の個別電極2aは、バッキング材1の両側面及び底面に固定された2枚のFPC6に形成されたプリント配線を介して、電気配線8に接続される。
【0025】
一般に、n層の音響整合層を設ける場合には、各層の厚さを超音波の波長の1/4として、各層の音響インピーダンスを次のようにして最適化することが望ましい。即ち、振動子の音響インピーダンスをZ_(0)とし、第i層の音響整合層の音響インピーダンスをZ_(i)とし(i=1、2、・・・、n)、被検体の音響インピーダンスをZ_(n+1)とすると、各層の音響インピーダンスは次式(5)で定義される。
ln(Z_(i+1)/Z_(i))=b_(i)・ln(Z_(n+1)/Z_(0)) ・・・(5)
ここで、b_(i)=_(n)C_(i)/2n=n!/{(n-i)!・i!・2n}
【0026】
例えば、圧電振動子の音響インピーダンスを34MRaylとし、被検体として人体の音響インピーダンスを1.5MRaylとする。その条件において、2層の音響整合層を設ける場合には、第1層の音響インピーダンスを8.92MRaylとし、第2層の音響インピーダンスを2.34MRaylとすることが適している。また、3層の音響整合層を設ける場合には、第1層の音響インピーダンスを14.79MRaylとし、第2層の音響インピーダンスを4.25MRaylとし、第3層の音響インピーダンスを1.85MRaylとすることが適している。」

(引1c)図2は、以下のようなものである。


(イ)引用文献1に記載された発明
上記(引1b)の下線部の事項を整理すると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
なお、引用発明の認定の根拠となった対応する段落番号等を付記した。

「上面に凸型の形状を有するバッキング材1と、バッキング材1上に1次元状に配置された複数の超音波トランスデューサ(圧電振動子)2と(【0022】)、
圧電振動子2上に設けられた複数の音響整合層と(【0022】)、
音響整合層上に設けられる音響レンズ5と、を有し(【0022】)、
圧電振動子の音響インピーダンスを34MRaylとし、被検体として人体の音響インピーダンスを1.5MRaylとする条件において、2層の音響整合層を設ける場合には、第1層の音響インピーダンスを8.92MRaylとし、第2層の音響インピーダンスを2.34MRaylとし、また、3層の音響整合層を設ける場合には、第1層の音響インピーダンスを14.79MRaylとし、第2層の音響インピーダンスを4.25MRaylとし、第3層の音響インピーダンスを1.85MRaylとする(【0026】)、
超音波探触子(【0022】)。」

イ 引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である引用文献2(特開2009-61112号公報)には、以下の記載がある。

(引2a)「【技術分野】
【0001】
この発明は、複合圧電素子に、発生される超音波の1/4波長に相当する弾性振動を励起する超音波探触子および超音波撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波撮像装置においては、断層画像情報の画質の改善が日々行われている。この画質を改善する方法に、超音波探触子を高感度化および広周波数帯域化することがある。
【0003】
近年、超音波探触子は、超音波探触子の圧電素子に、この圧電素子の有する厚さが1/4波長に相当する弾性振動を励起させ、この弾性振動による超音波を被検体に照射することを行う。これにより、圧電素子は、被検体が位置する方向と反対方向に照射される超音波のエネルギー(energy)を概ね零にし、被検体が存在する表面に照射される超音波のエネルギーを高くし、高い感度を実現する。なお、圧電素子に1/4波長共振を行わせる際には、圧電素子の被検体が位置する側の板面と対向する圧電素子の板面に、高音響インピーダンス(impedance)の完全反射層(デマッチング層;DE-MATCHING LAYERとも称される)が設けられる(例えば、特許文献1参照)。」

(引2b)「【0054】
図2は、セクター型の超音波探触子101の外観を示す外観図である。超音波探触子101は、音響レンズ(lens)部10、把持部11、機能素子部12および接続ケーブル14を含む。なお、音響レンズ部10は、理解を助けるため、内蔵される機能素子部12を部分的に露出させ、実際とは異なる状態で図示されている。また、図中に示されたxyz軸座標は、後の図面に記載されたxyz軸座標と共通の座標軸をなし、図面相互の位置関係を示している。
【0055】
音響レンズ部10は、超音波探触子101の被検体2と接する側に設けられており、機能素子部12で発生された超音波を、被検体2に効率良く入射させる。音響レンズ部10は、概ね被検体2および機能素子部12の中間の音響インピーダンスを有する材質からなる。音響レンズ部10は、被検体2と接する部分で凸型のレンズ形状を有し、被検体2に入射される超音波を収束させる。
【0056】
把持部11は、オペレータにより把持され、音響レンズ部10を被検体2の撮像領域に密着させる。把持部11の内部には、機能素子部12の電極部および接続ケーブル14に含まれる同軸ケーブルを接続するフレキシブルプリント(flexible print)板等が存在する。
【0057】
接続ケーブル14は、複数の同軸ケーブルを束ねたものであり、送受信部102と機能素子部12とを電気的に接続する。
【0058】
機能素子部12は、超音波を発生し、被検体2に超音波を入力すると同時に、被検体2の内部で反射された超音波エコーを受信する。
【0059】
図3は、機能素子部12のみの外観を示す外観図である。機能素子部12は、音響整合層70、複合圧電素子72、接着層77、完全反射層73、バッキング(backing)材78およびフレキシブルプリント板74を含む。直方体の形状を有する音響整合層70、複合圧電素子72および完全反射層73は、超音波の照射方向であるz軸方向に積み重ねられた積層構造をなす。そして、同様の積層構造をなす音響整合層70、複合圧電素子72および完全反射層73が、配列方向、すなわちy軸方向に配列させられる。
【0060】
複合圧電素子72は、直方体の形状を有し、この直方体の厚み方向であるx軸方向にPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等の圧電素子が一次元的に配列される。また、厚み方向に配列された圧電素子の間隙部分には、エポキシ樹脂が充填される。複合圧電素子72は、充填されたエポキシ樹脂も含めて圧電素子として機能する。複合圧電素子72は、電気機械結合係数がPZTと概ね同等である一方で、音響インピーダンスがPZTと比較して小さい。これにより、複合圧電素子72の負荷となる、音響整合層70等との音響インピーダンスの差が、小さなものとなり、共振周波数特性は、広い周波数帯域を有するものとなる。
【0061】
音響整合層70は、複合圧電素子72の被検体2が存在する照射方向であるz軸の正方向の板面に接着される。音響整合層70は、複合圧電素子72および図2に示される音響レンズ部10の概ね中間の音響インピーダンスを有する。音響整合層70は、透過する超音波の概ね4分の1波長の厚さを有し、音響インピーダンスの異なる境界面での反射を抑制する。また、図3では、音響整合層が一層の場合を例示したが、2層あるいは多層とすることもできる。
【0062】
接着層77は、複合圧電素子72および完全反射層73を接着させるための層で、エポキシ(epoxy)樹脂接着剤等からなる。
【0063】
完全反射層73は、複合圧電素子72で発生される弾性振動を、完全に反射する反射層であり、複合圧電素子72の照射方向とは反対方向の板面に接着される。完全反射層73は、被検体2の方向と反対方向に照射される複合圧電素子72の超音波を、被検体2の照射方向へ完全反射し、被検体2に入射される超音波パワーを増加させる。完全反射層73の材質は、超音波を完全に反射すると言う目的から、音響インピーダンスの高いものが好ましく、タングステン(tungsten)等が用いられる。なお、複合圧電素子72、接着層77および完全反射層73の厚み方向端部近傍には、掘削孔88が存在する。掘削孔88は、例えば、複合圧電素子72および完全反射層73を接着層77により接着した後に、完全反射層73側から、ダイアモンド砥石等を用いた切削加工により形成される。なお、掘削孔88の機能については、後に詳述する。
【0064】
バッキング材78は、完全反射層73およびフレキシブルプリント板74を保持する。」

(引2c)「【0080】
完全反射層73は、複合圧電素子72と比較して、高い音響インピーダンスの材質からなるので、複合圧電素子72から入射される超音波は、概ね反射される。従って、完全反射層73の内部に、複合圧電素子72で発生された超音波は、存在しないものとなる。」

(引2d)図4は、以下のようなものである。


ウ 引用文献3
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である引用文献3(特開2012-129595号公報)には、その【0005】段落の記載からみて、超音波探触子に反射層を設けることが周知の技術的事項であったことが読み取れる。

エ 引用文献4
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である引用文献4(特開2006-174992号公報)には、その【0018】-【0019】、【0026】段落及び図2の記載からみて、超音波探触子の音響整合層の音響インピーダンスは、「指数関数的に減少」するように設定されることが記載されている。

(3)引用発明との対比
ア 引用発明の「圧電振動子2」、「音響レンズ5」及び「超音波探触子」は、それぞれ、本件補正発明の「超音波を送受信する圧電材」、「前記圧電材から発信される超音波を当該超音波の発信対象に収束させるように設けられた音響レンズ」及び「超音波探触子」に相当する。

イ 引用発明の「音響整合層」は、「圧電振動子2上に設けられ」さらにその上に「音響レンズ5」が設けられるものであるから、本件補正発明の「前記圧電材と前記音響レンズとの間に位置するよう設けられた音響整合層」に相当する。

ウ 引用発明の「圧電振動子の音響インピーダンスを34MRaylとし、被検体として人体の音響インピーダンスを1.5MRaylとする条件において、2層の音響整合層を設ける場合には、第1層の音響インピーダンスを8.92MRaylとし、第2層の音響インピーダンスを2.34MRaylとし、また、3層の音響整合層を設ける場合には、第1層の音響インピーダンスを14.79MRaylとし、第2層の音響インピーダンスを4.25MRaylとし、第3層の音響インピーダンスを1.85MRaylとする」ことは、本件補正発明の「前記圧電材の音響インピーダンスは、前記音響整合層における当該圧電材側の端部の音響インピーダンスよりも大きいこと」に相当する。

エ 上記ア-ウから、引用発明は、本件補正発明に対して、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。

<一致点>
「超音波を送受信する圧電材と、
前記圧電材から発信される超音波を当該超音波の発信対象に収束させるように設けられた音響レンズと、
前記圧電材と前記音響レンズとの間に位置するよう設けられた音響整合層とを備え、
前記圧電材の音響インピーダンスは、前記音響整合層における当該圧電材側の端部の音響インピーダンスよりも大きい、
超音波探触子。」

<相違点>
本件補正発明は、「前記圧電材に対して前記音響整合層の反対側に設けられた背面反射材」をさらに備え、「前記背面反射材における前記音響整合層と反対側の端部の位置を始点とするとともに、前記音響レンズと前記音響整合層との界面の位置を終点として、前記始点における音響インピーダンスから前記終点における音響インピーダンスまで、音響インピーダンスが指数関数的に減少するように前記背面反射材、前記圧電材、及び前記音響整合層の音響インピーダンスが設定されて」いる、すなわち、上記(1)イで検討したとおり「背面反射材と圧電材との音響インピーダンスの差が、圧電材から音響整合層の音響レンズとの界面の位置までの音響インピーダンスの変化に比して十分に大きくなる」「ように前記背面反射材、前記圧電材、及び前記音響整合層の音響インピーダンスが設定されて」いるのに対し、引用発明は、「背面反射材」に相当する部材を有しておらず、「圧電振動子の音響インピーダンスを34MRaylとし、被検体として人体の音響インピーダンスを1.5MRaylとする条件において、2層の音響整合層を設ける場合には、第1層の音響インピーダンスを8.92MRaylとし、第2層の音響インピーダンスを2.34MRaylとし、また、3層の音響整合層を設ける場合には、第1層の音響インピーダンスを14.79MRaylとし、第2層の音響インピーダンスを4.25MRaylとし、第3層の音響インピーダンスを1.85MRaylとする」点。

(4)判断
ア 相違点について
引用文献2にみられるように、超音波探触子の技術分野において、圧電素子の背面側に、圧電素子よりも音響インピーダンスが高い反射層を設け、被検体の方向と反対方向に照射される超音波を、被検体の照射方向へ反射し、被検体に入射される超音波パワーを増加させて、高い感度を得ることは、周知の技術的事項である。
そして、引用発明においても、被検体に入射する超音波パワーを増加させて高い感度を得ることは、自明の課題であるから、引用発明に対して上記周知の技術的事項である反射層を「圧電振動子2」の背面側に追加することは、十分な動機がある。

また、音響インピーダンスが異なる界面における反射率は、互いの音響インピーダンスの差が大きいほど高くなることが、当業者における技術常識であることを鑑みれば、上記周知の「反射層」において、「反射層」としての機能を最大限発揮させるために、反射層の音響インピーダンスと圧電振動子の音響インピーダンスとの差が、可能な限り大きくなるように設定することは、当業者であれば普通に行うことであり、その結果、反射層の音響インピーダンスと圧電振動子の音響インピーダンスとの差が、圧電振動子から音響整合層の音響レンズとの界面の位置までの音響インピーダンスの変化に比して十分に大きなものになることは明らかである。

したがって、引用発明において、圧電振動子2の背面側に上記当業者に周知の反射層を追加する際に、結果的に、反射層の音響インピーダンスと圧電振動子の音響インピーダンスとの差が、圧電振動子から音響整合層の音響レンズとの界面の位置までの音響インピーダンスの変化に比して十分に大きくなる、すなわち、上記(1)イで検討したとおり、本件補正発明における意味での「前記背面反射材における前記音響整合層と反対側の端部の位置を始点」とし「前記音響レンズと前記音響整合層との界面の位置を終点として」「指数関数的に減少」しているといえるくらいの、高い音響インピーダンスの反射層を用いることは、当業者であれば普通に行うことである。

したがって、引用発明において、圧電振動子2の背面側に周知の反射層を追加し、上記相違点に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者であれば容易に想到しうることである。

イ 本件補正発明の効果について
本件補正発明の効果は、引用発明及び周知の技術的事項から当業者が予測しうる範囲内のものにすぎず、格別顕著なものではない。

ウ 小括
上記ア-イから、本件補正発明は、引用発明及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法126条第7項の規定に違反してなされたものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
平成28年12月27日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1-4に係る発明は、平成28年4月28日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-4に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 引用刊行物
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1-4、その記載事項及び引用発明は、上記第2[理由]2(2)に記載したとおりである。

3 判断
本願発明は、前記第2[理由]2で検討した本件補正発明から、「背面反射材、圧電材、及び音響整合層の音響インピーダンス」に係る限定事項である「前記圧電材の音響インピーダンスは、前記音響整合層における当該圧電材側の端部の音響インピーダンスよりも大きい」こと及び「始点」が背面反射材の「前記音響整合層と反対側の端部」の位置であることを削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記理由2[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-11-16 
結審通知日 2017-11-21 
審決日 2017-12-04 
出願番号 特願2013-55836(P2013-55836)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61B)
P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 冨永 昌彦  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 松岡 智也
▲高▼橋 祐介
発明の名称 超音波探触子及び超音波画像診断装置  
代理人 特許業務法人光陽国際特許事務所  

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