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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08F
管理番号 1336621
審判番号 不服2017-896  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-01-23 
確定日 2018-01-18 
事件の表示 特願2015-544914「含フッ素重合体およびこれを有効成分とする表面改質剤」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 5月 7日国際公開、WO2015/064360〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成26年10月15日(パリ条約による優先権主張 2013年11月1日 (JP)日本国)を国際出願日とする日本語特許出願であって、平成28年9月2日付けで拒絶理由が通知され、同年9月30日に意見書が提出されたが、同年10月24日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成29年1月23日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。


第2 本願発明

本願の請求項1ないし9に係る発明は、本願の願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうち、請求項1に係る発明は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
(A)一般式
C_(n)F2_(n+1)(CH_(2)CF_(2))_(a)(CF_(2)CF_(2))_(b)(CH_(2)CH_(2))_(c)OCOCR=CH_(2) 〔I〕
(ここで、Rは水素原子またはメチル基であり、nは1?6の整数であり、aは1?4の整数であり、bは1?3の整数であり、cは1?3の整数である)で表わされるポリフルオロアルキルアルコール(メタ)アクリル酸誘導体、(B)一般式
CH_(2)=CRCOOR^(1) 〔II〕
(ここで、Rは水素原子またはメチル基であり、R^(1)はC_(1)?C_(30)の直鎖状、分岐状または脂環状のアルキル基あるいはアラルキル基である)で表わされる(メタ)アクリル酸エステルおよび(C)一般式
CH_(2)=CRCOOR^(2)NCO 〔III〕
および
CH_(2)=CRCOOR^(2)NHCOR^(3) 〔IV〕
(ここで、Rは水素原子またはメチル基であり、R^(2)はC_(1)?C_(30)の直鎖状または分岐状のアルキレン基であり、R^(3)はイソシアネート基のブロック基である)で表わされるNCO基含有(メタ)アクリル酸エステルの少くとも一種
の共重合体よりなる含フッ素共重合体。」

以下、上記本願の請求項1に係る発明を「本願発明」という。


第3 原査定の理由

原査定における拒絶の理由は次の理由を含むものである。

「1.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

●理由1(進歩性)について
・・・(中略)・・・
(その2)
・請求項1-9
・引用文献等
2(特に、請求の範囲、第10頁下から第1行-第13頁第1行、表1、
第35頁第5行-第11行、表6参照)
3(特に、請求の範囲、[0024]-[0032]、
[0129]-[0130]、[表3]、[表5]参照)
4(特に、特許請求の範囲、第1頁右下欄第5行-第7行、
第2頁右下欄第7行-第3頁右上欄第6行、表1、表2参照)
5(特に、請求の範囲、実施例参照)

・・・(中略)・・・
<引用文献等一覧>
1.特開2012-097125号公報
2.国際公開第2004/035708号(周知技術を示す文献)
3.国際公開第2008/153075号(周知技術を示す文献)
4.特開昭62-116613号公報(周知技術を示す文献)
5.国際公開第2009/034773号」


第4 当審の判断

1 刊行物の記載
(1)刊行物1の記載及び引用発明
原査定における拒絶の理由において引用文献5として引用された、本願の優先日前に頒布されたことが明らかな刊行物である国際公開第2009/034773号(以下、「刊行物1」という)には、以下の記載事項1-ア?1-キのとおり記載がある。(下線は、合議体が付した。以下、刊行物2?4についても同様。)

1-ア
「[1] 一般式
C_(n)F_(2n+1)(CH_(2)CF_(2))_(a)(CF_(2)CF_(2))_(b)(CH_(2)CH_(2))_(c)OCOCR=CH_(2)
(ここで、Rは水素原子またはメチル基であり、nは1?6の整数であり、aは1?4の整数であり、bは0?3の整数であり、cは1?3の整数である)で表されるフルオロアルキルアルコールアクリル酸誘導体または対応するメタクリル酸誘導体を重合単位で5?100重量%含有し、重量平均分子量Mwが2,000?20,000,000である含フッ素重合体。
[2] フルオロアルキルアルコールアクリル酸誘導体または対応するメタクリル酸誘導体に、一般式
CH_(2)=CRCOOR_(1)-(NR_(2)SO_(2))_(m)-Rf
(ここで、Rは水素原子またはメチル基であり、R_(1)は2価の有機基であり、R_(2)は炭素数1?5の低級アルキル基であり、Rfは炭素数1?6のポリフルオロアルキル基であり、mは0または1である)で表されるポリフルオロアルキル基含有アクリレート単量体または対応するメタクリレート単量体および/またはフッ素原子非含有重合性単量体を共重合させた請求項1記載の含フッ素重合体。
[3](省略)
[4] フルオロアルキルアルコールアクリル酸誘導体または対応するメタクリル酸誘導体と共重合されるフッ素原子非含有重合性単量体が、一般式
R_(3)OCOCR=CH_(2)
(ここで、Rは水素原子またはメチル基であり、R_(3)はアルキル基、アルコキシアルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基であり、lは1?20の整数である)で表されるアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル、フマル酸またはマレイン酸のモノアルキルエステルまたはジアルキルエステル、あるいはビニルエステルである請求項2記載の含フッ素重合体。」(第35頁 請求の範囲)

1-イ
「技術分野
[0001] 本発明は、含フッ素重合体およびこれを有効成分とする表面改質剤に関する。さらに詳しくは、生体蓄積性が低いといわれている炭素数6以下のパーフルオロアルキル基を含有する(メタ)アクリル酸誘導体の単独重合体または共重合体である含フッ素重合体およびこれを有効成分とする表面改質剤に関する。」

1-ウ
「[0005] ここで、現在撥水撥油剤など表面改質剤の原料として用いられるテロマー化合物の内、炭素数8以上のパーフルオロアルキル基を有する化合物は、環境中でPFCAとなる可能性が示唆されており、今後はそれの製造、使用が困難となることが予測されている。一方、パーフルオロアルキル基の炭素数が6以下の化合物にあっては、生体蓄積性が低いといわれているものの、炭素数6以下のパーフルオロアルキル基を有する化合物では、表面改質剤等の製品に要求される性能を得ることは困難であるとされている。
発明の開示
発明が解決しようとする課題
[0006] 本発明の目的は、生体蓄積性が低いといわれている炭素数6以下のパーフルオロアルキル基を有するフルオロアルキルアルコール(メタ)アクリル酸誘導体の単独重合体またはその共重合体よりなる含フッ素重合体およびこれを有効成分とする表面改質剤を提供することにある。
課題を解決するための手段
[0007] かかる本発明の目的は、一般式
C_(n)F_(2n+1)(CH_(2)CF_(2))_(a)(CF_(2)CF_(2))_(b)(CH_(2)CH_(2))_(c)OCOCR=CH_(2)
(ここで、Rは水素原子またはメチル基であり、nは1?6の整数であり、aは1?4の整数であり、bは0?3の整数であり、cは1?3の整数である)で表されるフルオロアルキルアルコールアクリル酸誘導体または対応するメタクリル酸誘導体を重合単位で5?100重量%含有する含フッ素重合体およびこれを有効成分とする表面改質剤によって達成される。上記一般式において、重合時の重合液安定性、溶解性、重合速度といった観点から、好ましくはnは2?4の整数であり、aは1?2の整数であり、bは1?3の整数であり、cは1?2の整数である。
発明の効果
[0008] 本発明に係るフルオロアルキルアルコール(メタ)アクリル酸誘導体の単独重合体またはその共重合体である含フッ素重合体は、パーフルオロアルキル基が生体蓄積性の低い炭素数6以下で構成されているばかりではなく、分子中のフッ化ビニリデン由来のCH_(2)CF_(2)基が容易に脱HFして二重結合を形成し、それがオゾン分解を受けて分解し易いため、環境を阻害することが少なく、しかも従来の含フッ素重合体と同等の性能を有する、撥水撥油剤、オイルバリアなど表面改質剤の有効成分として好適に使用することができる。」

1-エ
「[0017] フルオロアルキルアルコール(メタ)アクリル酸誘導体は、それ単独でも重合されるが、他の含フッ素重合性単量体および/またはフッ素原子非含有重合性単量体と共重合させることも可能であり、含フッ素重合性単量体が用いられる場合には、それが有するポリフルオロアルキル基、好ましくはパーフルオロアルキル基の炭素数は1?6、好ましくは2?4でなければならない。

・・・(中略)・・・

[0019] また、フッ素原子非含有重合性単量体としては、好ましくは一般式
R_(3)OCOCR=CH_(2)
R:水素原子またはメチル基
R_(3):アルキル基、アルコキシアルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基
で表される(メタ)アクリル酸エステル、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル、n-オクチル、ラウリル、ステアリル等のアルキル基、メトキシメチル、2-メトキシエチル、2-エトキシエチル、2-ブトキシエチル、3-エトキシプロピル等のアルコキシアルキル基、シクロヘキシル等のシクロアルキル基、フェニル等のアリール基、ベンジル等のアラルキル基でエステル化されたアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル等が挙げられ、この他、フマル酸またはマレイン酸のモノメチル、ジメチル、モノエチル、ジエチル、モノプロピル、ジプロピル、モノブチル、ジブチル、モノ2-エチルヘキシル、ジ2-エチルヘキシル、モノオクチル、ジオクチル等のモノアルキルエステルまたはジアルキルエステル、酢酸ビニル、カプリル酸ビニル等のビニルエステル等も用いられる。さらに好ましくは、炭素数8以上の長鎖アルキル基、例えば2-エチルヘキシル、n-オクチル、ラウリル、ステアリル等のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル等のシクロアルキル基、ベンジル等のアラルキル基等でエステル化されたアクリル酸エステル、特に好ましくはステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートが、処理基材の塗膜性、撥水性、撥油性のバランス上好んで用いられる。ここで、(メタ)アクリレートとは、アクリレートまたはメタクリレートを示している。」

1-オ
「[0023] この際、ラジカル重合開始剤と共に、架橋性基含有単量体、例えば(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチルアクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチルアクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、メチロール化ジアセトン(メタ)アクリルアミド、グリシジル(メタ)アクリレート等を加え、共重合体中約10重量%以下、好ましくは約0.5?7重量%を占めるような割合で共重合させることができる。これらの架橋性基含有単量体を共重合させると、繊維表面の水酸基と架橋したりあるいは自己架橋して、表面改質剤の耐久性を高めることができる。ここで、(メタ)アクリルアミドとは、アクリルアミドまたはメタクリルアミドを示している。」

1-カ
「[0059] 実施例4
参考例2で得られた最終反応生成物(99.4GC%)
CF_(3)(CF_(2))_(3)(CH_(2)CF_(2))(CF_(2)CF_(2))_(2)(CH_(2)CH_(2))OCOCH=CH_(2)
40g(0.07モル)、ベンジルメタクリレート〔BzMA〕10g(0.06モル)、重合溶媒としてのパーフルオロヘキサンC_(6)F_(14) 200gおよびビス(4-第3ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート 0.7gを、コンデンサを備えた容量250mlのナスフラスコに仕込み、マグネットスターラで攪拌しながら、50℃で21時間重合反応を行い、固形分濃度19.8重量%の共重合体溶液を得た。得られた含フッ素共重合体の重量平均分子量Mwを実施例1と同様に測定したところ、36,000であった。なお、^(1)H-NMRで測定した共重合比は、共重合体中BzMAが45.3モル%であった。」

1-キ
「[0100] 実施例11
実施例4において、ベンジルメタクリレートの代わりに同モル量のステアリルメタクリレート〔StMA〕が用いられ、固形分濃度19.6重量%の重合体溶液を得た。ここで得られた含フッ素重合体の重量平均分子量Mwは、34,000であった。なお、^(1)H-NMRで測定した共重合比は、共重合体中StMAが29.8モル%であった。」


刊行物1は、記載事項1-イ、1-ウによると、生体蓄積性が低いといわれている炭素数6以下のパーフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸誘導体の共重合体である含フッ素重合体およびこれを有効成分とする撥水撥油性を有する表面改質剤に関する技術を開示する文献であるところ、記載事項1-アの請求項1を引用する請求項2を更に引用する請求項4に記載された、フッ素原子非含有重合性単量体を共重合させた含フッ素共重合体に着目し、請求項1及び2の記載を書き下して整理すると、刊行物1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

引用発明:
「一般式
C_(n)F_(2n+1)(CH_(2)CF_(2))_(a)(CF_(2)CF_(2))_(b)(CH_(2)CH_(2))_(c)OCOCR=CH_(2)
(ここで、Rは水素原子またはメチル基であり、nは1?6の整数であり、aは1?4の整数であり、bは0?3の整数であり、cは1?3の整数である)で表されるフルオロアルキルアルコールアクリル酸誘導体または対応するメタクリル酸誘導体を重合単位で5?100重量%含有し、フッ素原子非含有重合性単量体を共重合させた、重量平均分子量Mwが2,000?20,000,000である含フッ素重合体であって、
フルオロアルキルアルコールアクリル酸誘導体または対応するメタクリル酸誘導体と共重合されるフッ素原子非含有重合性単量体が、一般式
R_(3)OCOCR=CH_(2)
(ここで、Rは水素原子またはメチル基であり、R_(3)はアルキル基、アルコキシアルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基であり、lは1?20の整数である)で表されるアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル、フマル酸またはマレイン酸のモノアルキルエステルまたはジアルキルエステル、あるいはビニルエステルである、上記含フッ素重合体。」

(2)刊行物2の記載
原査定における拒絶の理由において引用文献2として引用された、本願の優先日前に頒布されたことが明らかな刊行物である国際公開第2004/035708号(以下、「刊行物2」という)には、以下の記載事項2-ア?2-カのとおり記載がある。

2-ア
「請求の範囲
1.下記単量体(a)の重合単位および下記単量体(b)の重合単位を80質量%以上含む共重合体を必須成分とすることを特徴とする撥水撥油剤組成物。
単量体(a):ポリフルオロアルキル基を有する単量体であって、該単量体のホモポリマのポリフルオロアルキル基に由来する微結晶の融点が存在しないか、または55℃以下であり、かつ、ホモポリマのガラス転移点が存在し、該ガラス転移点が20℃以上である、ポリフルオロアルキル基を有する単量体。
単量体(b):ポリフルオロアルキル基を有さず、架橋しうる官能基を有する単量体。」(第51頁、請求の範囲)

2-イ
「技術分野
本発明は撥水撥油剤組成物に関する。本発明の撥水撥油剤組成物は、低温での加工においても優れた撥水撥油性能を発現でき、また、基材の種類に応じて必要とされる摩擦や洗濯などに対する耐久性に優れ、初期の撥水撥油性を維持することができる。
背景技術
(中略)
例えば、洗濯、ドライクリーニング、摩擦等に対する耐久性を向上させるために、結晶性Rf基含有単量体とともに高硬度を与える単量体または架橋反応基を有する単量体を用いること、・・・等の改良が行われてきた。」(第1頁第2?第2頁第7行)

2-ウ
「また、撥水撥油剤を用いて加工した初期は高い撥水撥油性を発現するが、使用中の摩耗または繰り返し行われる洗濯により、その性能が極端に低下してしまう欠点があった。すなわち、初期の性能を安定して維持できる撥水撥油剤が望まれていた。さらに、コーティング膜の表面における接着性の不足、物品の品位を低下させるひび、割れ等が起こりやすい問題があり改善が望まれていた。」(第3頁第16?21行)

2-エ
「本発明者等は、撥水撥油性の発現機構に関し詳細に検討した。そして、ホモポリマにおいてはR^(f)基の微結晶に由来する融点を有しないか、または融点が低く、かつ、ホモポリマのガラス転移点が20℃以上であるため、これまでの撥水撥油コーティング分野では用いられなかった特定のR^(f)基単量体、および、特定の架橋しうる官能基を有する単量体、を重合単位として含む重合体を用いることにより、充分な撥水撥油性と、その耐久性等、実用上必要な機能が発現することを見出した。これは、R^(f)基の表面配向の促進とR^(f)基の固定化の相乗効果によると推定される。」(第5頁第4?11行)

2-オ
「本発明における単量体(b)は、R^(f)基を有さず、架橋しうる官能基を有する単量体である。架橋しうる官能基としては、共有結合、イオン結合または水素結合のうち少なくとも一つ以上の結合を有するか、または、該結合の相互作用により架橋構造を形成できる官能基が好ましい。
単量体(b)における官能基としては、イソシアネート基、ブロックドイソシアネート基、アルコキシシリル基、アミノ基、アルコキシメチルアミド基、シラノール基、アンモニウム基、アミド基、エポキシ基、水酸基、オキサゾリン基、カルボキシル基、アルケニル基、スルホン酸基等が好ましい。特に、ブロックドイソシアネート、アルコキシシリル基またはアミノ基が好ましい。
単量体(b)としては、(メタ)アクリレート類、ビニルエーテル類またはビニルエステル類が好ましく挙げられる。単量体(b)は、2種以上の混合物を用いてもよい。単量体(b)としては、以下の化合物が好ましく挙げられる。
2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレート、3-イソシアナトプロピル(メタ)アクリレート、4-イソシアナトブチル(メタ)アクリレート、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレートの2-ブタノンオキシム付加体、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレートのピラゾール付加体、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレートの3,5-ジメチルピラゾール付加体、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレートの3-メチルピラゾール付加体、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレートのε-カプロラクタム付加体、3-イソシアナトプロピル(メタ)アクリレートの2-ブタノンオキシム付加体、3-イソシアナトプロピル(メタ)アクリレートのピラゾール付加体。
3-イソシアナトプロピル(メタ)アクリレートの3,5-ジメチルピラゾール付加体、3-イソシアナトプロピル(メタ)アクリレートの3-メチルピラゾール付加体、3-イソシアナトプロピル(メタ)アクリレートのε-カプロラクタム付加体、4-イソシアナトブチル(メタ)アクリレートの2-ブタノンオキシム付加体、4-イソシアナトブチル(メタ)アクリレートのピラゾール付加体、4-イソシアナトブチル(メタ)アクリレートの3,5-ジメチルピラゾール付加体、4-イソシアナトブチル(メタ)アクリレートの3-メチルピラゾール付加体、4-イソシアナトブチル(メタ)アクリレートのε-カプロラクタム付加体。
メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、トリメトキシビニルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルモルホリン、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド。
t-ブチル(メタ)アクリルアミドスルホン酸、(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、グリシジル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、ポリオキシアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、2-(メタ)アクリロイルキシエチルコハク酸、2-(メタ)アクリロイルキシヘキサヒドロフタル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート、アリル(メタ)アクリレート、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-メチル-(2-ビニルオキサゾリン)。」(第10頁第26行?第13頁第1行)

2-カ
「実施例

本発明を実施例(例2?5、9?11、13、14、16?18、21?23、26?34、37、38、42?48)、比較例(例1、6?8、12、15、19、20、24、25、39?41、49)、参考例(例35、36)により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、表において単量体名の後の符号(a)?(c3)は、前記した単量体(a)?(c3)の範疇の単量体であることを表し、符号のない単量体はそれら以外の単量体であることを表す。
[例1]
300mLガラス製ビーカーに、C_(6)F_(13)C_(2)H_(4)OCOC(CH_(3))=CH_(2)(以下、FMAと記す。ホモポリマの微結晶の融点(以下、Tmと記す。)なし、ホモポリマのガラス転移点(以下、Tgと記す。)51.5℃。)の34.4g、乳化剤のポリオキシエチレンオレイルエーテル(エチレンオキシド約20モル付加物、以下、PEO-25と記す。)の1.1g、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレンブロック共重合体(分子量3300、ポリオキシプロピレンの割合60質量%、以下、PEPP-33と記す。)の0.3g、ステアリルトリメチルアンモニウムクロリド(以下、STMACと記す。)の0.3g、イオン交換水の48.9g、ジプロピレングリコール(以下、DPGと記す。)の13.7g、ノルマルドデシルメルカプタン(以下、nDSHと記す。)の0.2gを入れて、50℃で30分間加温後、ホモミキサー(日本精機製作所製、バイオミキサー)を用いて混合して混合液を得た。
得られた混合液を、50℃に保ちながら高圧乳化機(APVラニエ社製、ミニラボ)を用いて、40MPaで処理して乳化液を得た。得られた乳化液の80gを100mLガラス製アンプルに入れ、30℃以下に冷却した。気相を窒素置換し、開始剤の2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン](以下、VA061と記す。)の0.14gと酢酸の0.1gを加えて、振とうしながら55℃で12時間重合反応を行い、固形分濃度28.6%のエマルションを得た。
[例2?8]
表1に示した単量体を表1に示した量(単位:g)にて用いる以外は、例1と同様にして重合反応を行い、エマルションを得た。


表1における略号は以下の意味を示す。
FA:C_(6)F_(13)C_(2)H_(4)OCOCH=CH_(2)(Tmなし、Tgなし。)、
8FA:C8F17C2H4OCOCH=CH2(Tm75℃、Tgなし。)、
35DPBI:2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレートの3,5-ジメチルピラゾール付加体、
BOBI:2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレートの2-ブタノンオキシム付加体、
GMA:グリシジルメタクリレート。
BOIPBI:

」(第33頁第18行?第35頁第10行)

(3)刊行物3の記載
原査定における拒絶の理由において引用文献3として引用された、本願の優先日前に頒布されたことが明らかな刊行物である国際公開第2008/153075号(以下、「刊行物3」という)には、以下の記載事項3-ア、3-イのとおり記載がある。

3-ア
「発明の効果
[0010] 本発明の撥水撥油剤組成物は、単量体(a)に基づく重合単位と単量体(b)に基づく重合単位とを特定の割合で含むことにより、物品の風合いを低下させることなく、物品の表面に撥水撥油性を付与できる。さらに、単量体(c)に基づく重合単位として、ブロックドイソシアネート基を有する単量体(c1)および/またはR^(f)基を有さず、重合性不飽和基を2つ以上有する単量体(c2)を含むことで洗濯耐久性、機械的安定性および夾雑物安定性も向上させることができる。
本発明の撥水撥油剤組成物の製造方法によれば、物品の風合いを低下させることなく、物品の表面に撥水撥油性を付与でき、かつ洗濯耐久性、機械的安定性および夾雑物安定性に優れる撥水撥油剤組成物を製造できる。
本発明の物品は、撥水撥油性を有し、洗濯による撥水撥油性の低下が少なく、かつ風合いがよい。」

3-イ
「[0024] 単量体(c):
単量体(c)は、単量体(c1)および/または単量体(c2)である。
共重合体が単量体(c)に基づく重合単位を有することにより、撥水撥油剤組成物の洗濯耐久性が向上する。
単量体(c)としては、洗濯耐久性の点から、単量体(c1)が好ましい。また、単量体(c2)を併用することにより、加工液の安定性が向上する。特に酸性染料に対する安定性が向上するため、単量体(c1)および単量体(c2)の併用が好ましい。
[0025] 単量体(c1):
単量体(c1)は、Rf基を有さず、ブロックドイソシアネート基を有する単量体である。
単量体(c1)としては、イソシアネート基を活性水素基含有化合物と反応させて、常温で不活性化したものが好ましい。
単量体(c1)としては、(メタ)アクリレートが好ましく、イソシアネート基含有(メタ)アクリレートのイソシアネート基をブロック化剤でブロックした(メタ)アクリレートがより好ましい。
[0026] イソシアネート基含有(メタ)アクリレートとしては、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレート、またはイソシアネート基と結合しうる官能基を有する(メタ)アクリレートとポリイソシアネートとを1個以上のイソシアネート基が残る割合で反応させて得られる反応生成物が好ましい。
[0027] イソシアネート基と結合しうる官能基を有する(メタ)アクリレートとしては、水酸基を有する(メタ)アクリレートが好ましく、(メタ)アクリル酸と多価アルコールとのモノまたはジエステルがより好ましい。
多価アルコールとしては、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパンーアルキレンオキシド付加物、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
[0028] ポリイソシアネートとしては、脂肪族ポリイソシアネートが好ましい。脂肪族ポリイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、該脂肪族ポリイソシアネートの変性体(ヌレート変性体、プレポリマー変性体、ビュレット変性体等。)または脂肪族ポリイソシアネートの2?3両量体が好ましく、脂肪族ポリイソシアネート、そのヌレート変性体、プレポリマー変性体またはビュレット変性体が特に好ましい。
[0029] ブロック化剤としては、アルキルケトオキシム類、フェノール類、アルコール類、β-ジケトン類、ラクタム類、アミン類、ピラゾール類等が好ましく、メチルエチルケトオキシム、ε-カプロラクタム、フェノール、クレゾール、アセチルアセトン、マロン酸ジエチル、イソプロピルアルコール、t-ブチルアルコール、3,5-ジメチルピラゾール、マレイミド等がより好ましく、メチルエチルケトオキシム等のアルキルケトオキシム類、ε-カプロラクタム等のラクタム類または3,5-ジメチルピラゾール等のピラゾール類がさらに好ましく、解離温度が100?180℃であるブロック化剤が特に好ましい。
[0030] 単量体(c1)としては、下記の化合物が挙げられる。
2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレート、3-イソシアナトプロピル(メタ)アクリレート、4-イソシアナトブチル(メタ)アクリレート、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレートの2-ブタノンオキシム付加体、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレートのピラゾール付加体、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレートの3,5
-ジメチルピラゾール付加体、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレートの3-メチルピラゾール付加体、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレートのε-カプロラクタム付加体、3-イソシアナトプロピル(メタ)アクリレートの2-ブタノンオキシム付加体、3-イソシアナトプロピル(メタ)アクリレートのピラゾール付加体。
[0031] 3-イソシアナトプロピル(メタ)アクリレートの3,5-ジメチルピラゾール付加体、3-イソシアナトプロピル(メタ)アクリレートの3-メチルピラゾール付加体、3-イソシアナトプロピル(メタ)アクリレートのε-カプロラクタム付加体、4-イソシアナトブチル(メタ)アクリレートの2-ブタノンオキシム付加体、4-イソシアナトブチル(メタ)アクリレートのピラゾール付加体、4-イソシアナトブチル(メタ)アクリレートの3,5-ジメチルピラゾール付加体、4-イソシアナトブチル(メタ)アクリレートの3-メチルピラゾール付加体、4-イソシアナトブチル(メタ)アクリレートのε-カプロラクタム付加体。
[0032] 3-(2-ブタノンオキシム)イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシル(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)シアナート(例えば、京絹化成社製、テックコートHE-6P)。
単量体(c1)としては、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレートの3,5-ジメチルピラゾール付加体または3-(2-ブタノンオキシム)イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシル(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)シアナートが好ましい。」

(4)刊行物4の記載
原査定における拒絶の理由において引用文献4として引用された、本願の優先日前に頒布されたことが明らかな刊行物である特開昭62-116613号公報(以下、「刊行物4」という)には、以下の記載事項4-ア、4-イのとおり記載がある。

4-ア
「〔従来の技術〕
特開昭54-128991号公報には、ポリフルオロアルキル基含有重合性単量体および一般式
CH_(2)=CRCON-NR_(1)R_(2)R_(3)または
CH_(2)=CRCOO(CH_(2)CH_(2)O)_(0?50)CONHR′NHCO-Yで表わされる官能性化合物を構成単位として含む共重合体を有効成分とする撥水撥油剤が記載されている。
この特許公開公報の記載によれば、-NCO基はポリフルオロアルキル基含有撥水撥油剤の耐久性向上に有効であるが、かかる官能基を有する重合性単量体は一般に入手し難く、また-NCO基が高活性であるため、そのような基を含有する撥水撥油剤は非常に取扱いが困難であり、例えば-NCO基含有重合性単量体は水性媒体中での重合ができず、また水性分散液形態の撥水撥油剤を与え得ず、更に水分などの作用により活性を失ってしまうので耐久性向上効果が使用前に低下してしまうと述べられている。
しかるに、上記一般式で表わされるような官能性化合物は-NCO基に変化し得るものであり、このような官能性化合物をポリフルオロアルキル基含有重合性単量体と共重合させた共重合体を有効成分とする撥水撥油剤は、もはや上記のような欠点を示さず、すぐれた耐久性を示すとされている。」

4-イ
「〔発明の効果〕
耐久性のある撥水撥油剤としては、例えば20回洗濯後においても撥水性で90以上、また撥油性で110以上の評価が保持されていなければならない。
本発明においては、撥水撥油剤の有効成分となる共重合体中の架橋密度、特に疎水性架橋点の架橋密度を上昇させるために、疎水性架橋基としてキュア温度条件において活性イソシアネート基を形成させるブロックイソシアネートを共重合体中に導入することにより、所望の撥水撥油性を示ししかも着色し難い撥水撥油剤をエマルジョン型のものとして得ることができる。


2 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「含フッ素重合体」は、共重合体であるとの直接的な記載はないが、フルオロアルキルアルコールアクリル酸誘導体または対応するメタクリル酸誘導体と、フッ素原子非含有重合性単量体とを共重合して得られるので、共重合体であるのは自明である。よって、引用発明の「含フッ素重合体」は、本願発明の「含フッ素共重合体」に相当する。
また、引用発明の
「一般式
C_(n)F_(2n+1)(CH_(2)CF_(2))_(a)(CF_(2)CF_(2))_(b)(CH_(2)CH_(2))_(c)OCOCR=CH_(2)
(ここで、Rは水素原子またはメチル基であり、nは1?6の整数であり、aは1?4の整数であり、bは0?3の整数であり、cは1?3の整数である)で表されるフルオロアルキルアルコールアクリル酸誘導体または対応するメタクリル酸誘導体」
は、当該一般式の組成並びにR、n、a、b及びcの定義の点からみて、本願発明における
「(A)一般式
C_(n)F2_(n+1)(CH_(2)CF_(2))_(a)(CF_(2)CF_(2))_(b)(CH_(2)CH_(2))_(c)OCOCR=CH_(2) 〔I〕
(ここで、Rは水素原子またはメチル基であり、nは1?6の整数であり、aは1?4の整数であり、bは1?3の整数であり、cは1?3の整数である)で表わされるポリフルオロアルキルアルコール(メタ)アクリル酸誘導体」
に相当するものである。なお、両式中のbについては、引用発明では「0?3の整数」であり、本願発明では「1?3の整数」となっているから、両者は「1?3の整数」の範囲で重複一致するものである。
したがって、本願発明と引用発明とは次の点で一致している。
「(A)一般式
C_(n)F2_(n+1)(CH_(2)CF_(2))_(a)(CF_(2)CF_(2))_(b)(CH_(2)CH_(2))_(c)OCOCR=CH_(2) 〔I〕
(ここで、Rは水素原子またはメチル基であり、nは1?6の整数であり、aは1?4の整数であり、bは1?3の整数であり、cは1?3の整数である)で表わされるポリフルオロアルキルアルコール(メタ)アクリル酸誘導体、
および他の共重合単位の共重合体よりなる含フッ素共重合体。」の点。

そして、両者は次の点で相違している。
相違点1:
他の共重合単位の一つとして、本願発明は、
「(B)一般式
CH_(2)=CRCOOR^(1) 〔II〕
(ここで、Rは水素原子またはメチル基であり、R^(1)はC_(1)?C_(30)の直鎖状、分岐状または脂環状のアルキル基あるいはアラルキル基である)で表わされる(メタ)アクリル酸エステル」
を有するものであるのに対し、引用発明は、
「一般式
R_(3)OCOCR=CH_(2)
(ここで、Rは水素原子またはメチル基であり、R_(3)はアルキル基、アルコキシアルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基であり、lは1?20の整数である)で表されるアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル、フマル酸またはマレイン酸のモノアルキルエステルまたはジアルキルエステル、あるいはビニルエステル」である「フッ素原子非含有重合性単量体」を有するものである点

相違点2:
本願発明は、さらにもう一つの共重合単位として、
「(C)一般式
CH_(2)=CRCOOR^(2)NCO 〔III〕
および
CH_(2)=CRCOOR^(2)NHCOR^(3) 〔IV〕
(ここで、Rは水素原子またはメチル基であり、R^(2)はC_(1)?C_(30)の直鎖状または分岐状のアルキレン基であり、R^(3)はイソシアネート基のブロック基である)で表わされるNCO基含有(メタ)アクリル酸エステルの少くとも一種」
を有するものであるのに対し、引用発明は、かかる共重合単位を有するものではない点

3 判断
(1)相違点1について
本願発明においては、一般式[II]で表される単量体は「(メタ)アクリル酸エステル」であるところ、引用発明における一般式で表わされる単量体の選択肢の中にも「アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル」があるから、(メタ)アクリル酸エステルである点においては両発明で共通している。
また、引用発明におけるR_(3)について詳細にみると、当該R_(3)は「アルキル基、アルコキシアルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基」であるところ、それと同じ部位に相当する本願発明のR^(1)は「C_(1)?C_(30)の直鎖状、分岐状または脂環状のアルキル基あるいはアラルキル基」となっている。ここで、アルキル基やアラルキル基の炭素数1?30個という数値範囲が通常用いられる炭素数を含む極めて広い範囲であることを踏まえると、引用発明のR_(3)における「アルキル基」、「シクロアルキル基」及び「アラルキル基」は、本願発明のR^(1)における「直鎖状、分岐状」の「アルキル基」、「脂環状のアルキル基」及び「アラルキル基」に相当するものであるといえるから、本願発明のR^(1)は引用発明のR_(3)と重複一致するものである。
加えて、刊行物1の記載事項1-カ及び1-キによれば、引用発明の具体的な実施態様に当たる実施例4や11では、「フッ素原子非含有重合性単量体」として、アラルキル基の一種であるベンジル基を有するベンジルメタクリレート又は直鎖状のアルキル基を有するステアリルメタクリレートを用いた例となっている。一方で、本願明細書の段落【0012】をみると、一般式[II]として、「特に好ましくはステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートが、フッ素原子非含有重合性単量体として、処理基材の塗膜性、撥水性、撥油性のバランス上好んで用いられる」と記載されており、かつ本願明細書の実施例1や3等においてステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートを用いた例が具体的に示されている。したがって、引用発明の具体的な実施態様で用いられた「フッ素原子非含有重合性単量体」であるベンジルメタクリレート又はステアリルメタクリレート(本願発明においてR^(1)がC_(6)のアラルキル基又はC_(18)の直鎖状のアルキル基である(メタ)アクリル酸エステルに相当する。)は、本願発明の実施例における一般式[II]の具体例と一致するものでもある。
そうすると、相違点1については、本願発明における一般式CH_(2)=CRCOOR^(1)〔II〕の共重合単位と引用発明における一般式R_(3)OCOCR=CH_(2)である単量体とが、少なくとも所定の官能基を有する(メタ)アクリル酸エステルである点で重複一致し、かつ具体的な実施態様における化合物も共通していることからみて、実質的な相違点ではない。
また、仮に相違しているとしても、相違点1は、引用発明及び刊行物1の記載に基づいて当業者が適宜なし得た事項に過ぎないものである。
なお、引用発明において「lは1?20の整数である」という定義の記載があるが、一般式中に「l」が無いため、当該記載自体が誤記であり不要な記載であると認められる。

(2)相違点2について
刊行物1の記載事項1-オには、架橋性基含有単量体を加えて共重合させることによって、繊維表面の水酸基と架橋したりあるいは自己架橋して、表面改質剤の耐久性を高めることができる旨の記載がある。すなわち、刊行物1には、表面改質剤の耐久性を高めようとする課題についても記載されているといえるところ、引用発明に係る含フッ素重合体は、刊行物1の記載事項1-イや1-ウによれば表面改質剤として用いられるものであるから、引用発明においては、含フッ素重合体を表面改質剤として用いるときに、その耐久性を高めるとの課題が存在することは明らかである。そして刊行物1には、そのような課題を解決する手段についても、架橋性基含有単量体をさらに追加するという手段が示唆されている(記載事項1-オ)。
ここで、刊行物1には、記載事項1-オにあるとおり、架橋性基含有単量体として、「(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチルアクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチルアクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、メチロール化ジアセトン(メタ)アクリルアミド、グリシジル(メタ)アクリレート等」が例示されているものの、本願発明に係る一般式[III]又は[IV]で表されるイソシアネート基或いはブロックドイソシアネート基含有単量体については明記されていない。
一方、刊行物2には、記載事項2-イの「背景技術」によると、洗濯等に対する耐久性を向上させるために架橋反応基を有する単量体を用いること等の改良が行われきた旨の記載がある。そして、当該刊行物2は、ポリフルオロアルキル基を含有する重合性単量体を含む重合体である含フッ素共重合体について、摩擦や洗濯などに対する耐久性に優れ、初期の撥水撥油性を維持したものとすることを課題の一つ(記載事項2-イ、2-ウ)としているところ、そのような架橋性基含有単量体として、記載事項2-オには、
「単量体(b)としては、(メタ)アクリレート類、ビニルエーテル類またはビニルエステル類が好ましく挙げられる。単量体(b)は、2種以上の混合物を用いてもよい。単量体(b)としては、以下の化合物が好ましく挙げられる。
2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレート、3-イソシアナトプロピル(メタ)アクリレート、4-イソシアナトブチル(メタ)アクリレート、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレートの2-ブタノンオキシム付加体、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレートのピラゾール付加体、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレートの3,5-ジメチルピラゾール付加体、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレートの3-メチルピラゾール付加体、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレートのε-カプロラクタム付加体、3-イソシアナトプロピル(メタ)アクリレートの2-ブタノンオキシム付加体、3-イソシアナトプロピル(メタ)アクリレートのピラゾール付加体。
3-イソシアナトプロピル(メタ)アクリレートの3,5-ジメチルピラゾール付加体、3-イソシアナトプロピル(メタ)アクリレートの3-メチルピラゾール付加体、3-イソシアナトプロピル(メタ)アクリレートのε-カプロラクタム付加体、4-イソシアナトブチル(メタ)アクリレートの2-ブタノンオキシム付加体、4-イソシアナトブチル(メタ)アクリレートのピラゾール付加体、4-イソシアナトブチル(メタ)アクリレートの3,5-ジメチルピラゾール付加体、4-イソシアナトブチル(メタ)アクリレートの3-メチルピラゾール付加体、4-イソシアナトブチル(メタ)アクリレートのε-カプロラクタム付加体。
メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、トリメトキシビニルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルモルホリン、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド。
t-ブチル(メタ)アクリルアミドスルホン酸、(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、グリシジル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、ポリオキシアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、2-(メタ)アクリロイルキシエチルコハク酸、2-(メタ)アクリロイルキシヘキサヒドロフタル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート、アリル(メタ)アクリレート、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-メチル-(2-ビニルオキサゾリン)。」(下線は合議体による。)
との記載があり、ここでは、多数の種類のブロックドイソシアネート基を有する(メタ)アクリレートが、刊行物1でも挙げられていた「メトキシメチル(メタ)アクリルアミド」、「ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド」、「N-メチロール(メタ)アクリルアミド」、「ジアセトン(メタ)アクリルアミド」及び「グリシジル(メタ)アクリレート」等と並列して記載されているのである。
そして、刊行物2の実施例においても、架橋性基含有単量体として、「2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレートの3,5-ジメチルピラゾール付加体」や「2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレートの2-ブタノンオキシム付加体」等のブロックドイソシアネート基を有する(メタ)アクリレートが実際に使用された旨記載されている(記載事項2-カ)。
また、刊行物3の記載事項3-ア及び3-イの記載によると、撥水撥油剤の洗濯耐久性、機械的安定性を向上させるために、撥水撥油剤組成物において、パーフルオロアルキル基を有する単量体と、架橋しうる官能基を有する単量体を共重合させることが記載されている。
さらに、刊行物4の記載事項4-アに記載された従来の技術及び記載事項4-イに基づくと、含フッ素重合体の表面改質剤において、洗濯耐久性等を向上させるために、ブロックドイソシアネート基を有する単量体を用いることが記載されている。
なお、上記刊行物1?4のみならず、本願優先日前に頒布された刊行物である特開2009-215370号公報の段落【0027】?【0028】にも、含フッ素重合体の表面改質剤において、架橋しうる官能基を有する単量体を共重合させることで、重合体間などで架橋構造を形成し、洗濯耐久性を高めるという課題、並びに、架橋しうる官能基を有する単量体における官能基の具体例として、イソシアネート基、ブロックドイソシアネート基、アルコキシメチルアミド基を含む各種官能基を用いるという解決手段が記載されており、これらの課題や解決手段は、本願優先日前に既に当業者によく知られた事項でもあったといえる。
ここで、引用発明に係る含フッ素重合体と、刊行物2?4とは、撥水撥油性を有する含フッ素重合体を表面改質剤として用いるときの耐久性を向上させる技術に関する点で共通するものである。そうすると、当業者にとっては、引用発明に係る含フッ素重合体を表面改質剤として用いるときに、その耐久性を向上させるための架橋性基含有単量体として、刊行物1に具体的に例示されているもののほかに、引用例2において架橋しうる官能基として並列的に記載され、かつ引用例2?4において耐久性が向上することが具体的に記載されている、イソシアネート基やブロックドイソシアネート基を架橋性基とする単量体も用いることができると理解し、それらの単量体すなわち本願発明に係る一般式[III]又は[IV]で表される単量体を、引用発明の重合体を調製する際に加えて共重合させることは、容易になし得たことである。

(3)本願発明の効果について
本願明細書の段落【0010】の記載によれば、本願発明の効果は、特定の架橋性基含有単量体を用いていることにより、その架橋性基が基材表面の水酸基と架橋したり、あるいは自己架橋して、撥水撥油剤の耐久性を高めるといった効果(効果1)、及びパーフルオロアルキル基が炭素数6以下で構成され、かつオゾン分解を受けて分解しやすいため、環境を阻害することが少ないといった効果(効果2)であると認められる。
かかる本願発明の効果1については、刊行物1の記載事項1-ウ(特に段落[0008])に、パーフルオロアルキル基が炭素数6以下で構成されてオゾン分解を受けて分解しやすいため、環境の阻害が少ない旨の記載がある。効果2については、上記(2)の相違点2で説示したとおり、架橋性基としてイソシアネート基やブロックドイソシアネート基を有する単量体を共重合させることで耐久性が向上することは引用例2?4に記載されている。
よって、本願発明の効果1及び効果2は、いずれも当業者が容易に予測できたものであり、格別顕著なものとはいえない。

4 請求人の主張について
審判請求人は、平成29年1月23日提出の審判請求書において、概略以下の主張をしている。
(主張1)刊行物1の実施例で測定されているのは撥水性評価、撥油性評価、静的接触角、オイル拡散試験のみであり、撥水撥油性の耐久性向上については、何ら具体的には示されていないことから、当該刊行物1は、炭素数6以下のパーフルオロアルキル基を含有する含フッ素重合体を有効成分とする表面改質剤の提供を課題としているだけであって、撥水撥油剤の耐久性の向上までも目的とはしていない。
(主張2)刊行物2に示された実施例の例2?4では撥水撥油剤の耐久性が向上することは認められるものの、
FA:C_(6)F_(13)C_(2)H_(4)OCOCH=CH_(2)
8FA:C_(8)F_(17)C_(2)H_(4)OCOCH=CH_(2)
等を用いた場合には、撥水撥油剤の耐久性の向上が認められないか(例6?7)、耐久性が向上するという場合と比較して、撥水撥油剤の耐久性は実施例の場合と同程度である(例8)。また、本願発明で用いられる(A)成分ポリフルオロアルキルアルコール(メタ)アクリル酸誘導体については具体的な記載がないため、この(A)成分の撥水撥油剤の耐久性の向上については不明である。

上記主張1について検討する。
刊行物1には、記載事項1-オの記載内容からみて、表面改質剤についてその耐久性を高めようとする課題についても記載されているといえることについては、上記3(2)でも説示したとおりである。かかる記載によれば、当業者は、引用発明において耐久性に関する課題が存在することを把握できるといえ、当該刊行物1の実施例において実際の評価項目として耐久性が掲げられているか否かによって、その課題の存在を把握できるか否かが左右されるものではない。
したがって、上記主張1については理由がない。
上記主張2について検討する。
刊行物2の例6や7については、初期における撥油性と撥水性が低い値となっており、元々の撥水撥油性が十分に発揮されていない例であると考えられる。前記のとおり、架橋しうる官能基を有する単量体を共重合させることで、重合体間などで架橋構造を形成し、洗濯耐久性が高まることが既に広く知られている以上、仮に、請求人が主張するように、上記例6や7は耐久性が向上しないものであったとしても、そのことは直ちに本願発明の容易想到性を覆すため根拠になるものではない。
また、例8は、炭素数8のパーフルオロアルキル基を有する撥水撥油剤であり、これは本来、炭素数6のものよりも充分な撥水撥油性が期待されるものである以上、その耐久性が例2?4と同等の結果となったことは、刊行物2の記載全体からみても当然の結果であり、やはり本願発明の容易想到性を覆すための根拠にはなり得ない。
そして、本願発明で用いられる(A)成分であるポリフルオロアルキルアルコール(メタ)アクリル酸誘導体自体は、刊行物2には明示的には記載されていないものの、刊行物2はポリフルオロアルキル基を有する単量体に対して、架橋しうる官能基を有する単量体を共重合することによって撥水撥油剤の耐久性を向上させることを示している文献である。そして、引用発明に係る含フッ素重合体と、刊行物2?4とは、撥水撥油性を有する含フッ素重合体を表面改質剤として用いるときの耐久性を向上させる技術に関する点で共通するものである。そうすると、引用発明に係る「含フッ素重合体」についても、架橋しうる官能基を有する単量体を共重合させることで発揮される耐久性向上という機能は、当業者であれば予測可能な事項であることは、前記3(3)で述べたとおりである。
したがって、上記主張2については、本願発明の容易想到性を覆す根拠にはならない。

5 小括
以上検討したとおり、本願発明は、引用発明、刊行物2?4の記載及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第5 むすび

上記第4において検討したとおり、本願発明、すなわち本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-11-16 
結審通知日 2017-11-21 
審決日 2017-12-05 
出願番号 特願2015-544914(P2015-544914)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松浦 裕介安田 周史  
特許庁審判長 岡崎 美穂
特許庁審判官 井上 猛
佐久 敬
発明の名称 含フッ素重合体およびこれを有効成分とする表面改質剤  
代理人 吉田 和子  
代理人 吉田 俊夫  

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