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審決分類 |
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1336624 |
審判番号 | 不服2017-7324 |
総通号数 | 219 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-03-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-05-22 |
確定日 | 2018-01-18 |
事件の表示 | 特願2012-256040「受光素子」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 6月 5日出願公開,特開2014-103347〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成24年11月22日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。 平成27年 9月16日 審査請求 平成28年 7月 8日 拒絶理由通知(起案日) 平成28年 8月26日 意見書・手続補正 平成29年 2日23日 拒絶査定(起案日)(以下,「原査定」という。) 平成29年 5月22日 審判請求・手続補正 第2 審判請求と同時にした手続補正の却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成29年 5月22日に審判請求と同時にされた手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 補正の内容 本件補正により,全文補正がなされ,特許請求の範囲及び明細書について以下の様な補正が成された。 (1)本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の,特許請求の範囲の記載は次のとおりである。 「【請求項1】 第1導電型の基板と, 上記基板に形成され,上記基板との界面に第1接合を形成する第2導電型の第1の拡散層と, 上記第1の拡散層上に形成され,上記第1の拡散層との界面に第2接合を形成する第1導電型の第2の拡散層と, 上記第2の拡散層上に形成され,上記第2の拡散層との界面に第3接合を形成する第2導電型の第3の拡散層と を備え, 上記第1接合と上記第2接合と上記第3接合は夫々,予め設定された波長の光を検出するために基板深さ方向に予め設定された深さに形成されており, 上記第1接合と上記第2接合と上記第3接合のうちのいずれか1つの接合の上記基板表面側の拡散層に,当該拡散層の深さ方向において当該接合側に不純物濃度ピークが形成されていることを特徴とする受光素子。 【請求項2】 請求項1に記載の受光素子において, 上記不純物濃度ピークは,予め設定された波長の光に対する上記基板内での侵入長に応じた基板深さ方向の深さに形成されていることを特徴とする受光素子。 【請求項3】 請求項1または2に記載の受光素子において, 上記第3の拡散層上に形成され,上記第3の拡散層との界面に第4接合を形成する第1導電型の第4の拡散層を備えたことを特徴とする受光素子。 【請求項4】 請求項1から3のいずれか1つに記載の受光素子において, 上記各拡散層のうちの最も表面側に形成された拡散層の不純物濃度プロファイルは,上記基板の表面から基板深さ方向に深くなるほど不純物濃度が減少することを特徴とする受光素子。 【請求項5】 第1導電型の基板と, 上記基板に形成され,上記基板との界面に第1接合を形成する第2導電型の第1の拡散層と, 上記第1の拡散層上に形成され,上記第1の拡散層との界面に第2接合を形成する第1導電型の第2の拡散層と, 上記第2の拡散層上に形成され,上記第2の拡散層との界面に第3接合を形成する第2導電型の第3の拡散層と, 上記基板に上記第1の拡散層と離間して形成され,上記基板との界面に第4接合を形成する第2導電型の第4の拡散層と, 上記第4の拡散層上に形成され,上記第4の拡散層との界面に第5接合を形成する第1導電型の第5の拡散層と, 上記第5の拡散層上に形成され,上記第5の拡散層との界面に第6接合を形成する第2導電型の第6の拡散層と, 上記第6の拡散層上に形成され,上記第6の拡散層との界面に第7接合を形成する第1導電型の第7の拡散層と を備え, 上記第1接合と上記第5接合の基板深さ方向の深さが同じであり,かつ, 上記第2接合と上記第6接合の基板深さ方向の深さが同じであり,かつ, 上記第3接合と上記第7接合の基板深さ方向の深さが同じであり, 上記第1接合と上記第2接合と上記第3接合のうちのいずれか1つの接合の上記基板表面側の拡散層に,当該拡散層の深さ方向において当該接合側に不純物濃度ピークが形成されていると共に, 上記第5接合と上記第6接合と上記第7接合のうちのいずれか1つの接合の上記基板表面側の拡散層に,当該拡散層の深さ方向において当該接合側に不純物濃度ピークが形成されていることを特徴とする受光素子。」 (2)本件補正後の特許請求の範囲 本件補正後の,特許請求の範囲の請求項1ないし3の記載は,次のとおりである。(当審注。補正箇所に下線を付した。以下,同じ。) 「【請求項1】 第1導電型の基板と, 上記基板に形成され,上記基板との界面に第1接合を形成する第2導電型の第1の拡散層と, 上記第1の拡散層上に形成され,上記第1の拡散層との界面に第2接合を形成する第1導電型の第2の拡散層と, 上記第2の拡散層上に形成され,上記第2の拡散層との界面に第3接合を形成する第2導電型の第3の拡散層と を備え, 上記第1接合と上記第2接合と上記第3接合は夫々,予め設定された波長の光を検出するために基板深さ方向に予め設定された深さに形成されており, 上記第1接合と上記第2接合と上記第3接合のうちのいずれか1つの接合の上記基板表面側の拡散層に,当該拡散層の深さ方向において当該接合側に不純物濃度ピークが形成されており, 上記不純物濃度ピークが形成された上記拡散層の基板深さ方向の不純物濃度プロファイルにおいて,上記不純物濃度ピークを含む山の基板深さの浅い側の不純物濃度プロファイルの傾きの絶対値よりも,上記不純物濃度ピークを含む山の基板深さの深い側でかつ当該接合側の不純物濃度プロファイルの傾きの絶対値が大きいことを特徴とする受光素子。 【請求項2】 請求項1に記載の受光素子において, 上記不純物濃度ピークが形成された上記拡散層における上記不純物濃度ピークを含む山よりも基板深さの浅い側の不純物濃度に対して,上記不純物濃度ピークが形成された上記拡散層よりも基板深さの深い側の拡散層の不純物濃度が低いことを特徴とする受光素子。 【請求項3】 請求項1または2に記載の受光素子において, 上記不純物濃度ピークが形成された上記拡散層における上記不純物濃度ピークを含む山よりも基板深さの浅い側の不純物濃度に対して,上記不純物濃度ピークの不純物濃度が1桁以上高いことを特徴とする受光素子。」 (3)本件補正前の明細書 本件補正前の,明細書の【0028】?【0032】の記載は,次のとおりである。 「【0028】 上記課題を解決するため,この発明の受光素子は, 第1導電型の基板と, 上記基板に形成され,上記基板との界面に第1接合を形成する第2導電型の第1の拡散層と, 上記第1の拡散層上に形成され,上記第1の拡散層との界面に第2接合を形成する第1導電型の第2の拡散層と, 上記第2の拡散層上に形成され,上記第2の拡散層との界面に第3接合を形成する第2導電型の第3の拡散層と を備え, 上記第1接合と上記第2接合と上記第3接合は夫々,予め設定された波長の光を検出するために基板深さ方向に予め設定された深さに形成されており, 上記第1接合と上記第2接合と上記第3接合のうちのいずれか1つの接合を形成する上記基板表面側の拡散層に,当該拡散層の深さ方向において当該接合側に不純物濃度ピークが形成されていることを特徴とする。 【0029】 また,一実施形態の受光素子では,上記不純物濃度ピークは,予め設定された波長の光に対する上記基板内での侵入長に応じた基板深さ方向の深さに形成されている。 【0030】 また,一実施形態の受光素子では,上記第3の拡散層上に形成され,上記第3の拡散層との界面に第4接合を形成する第1導電型の第4の拡散層を備えた。 【0031】 また,一実施形態の受光素子では,上記各拡散層のうちの最も表面側に形成された拡散層の不純物濃度プロファイルは,上記基板の表面から基板深さ方向に深くなるほど不純物濃度が減少する。 【0032】 また,この発明の受光素子では, 第1導電型の基板と, 上記基板に形成され,上記基板との界面に第1接合を形成する第2導電型の第1の拡散層と, 上記第1の拡散層上に形成され,上記第1の拡散層との界面に第2接合を形成する第1導電型の第2の拡散層と, 上記第2の拡散層上に形成され,上記第2の拡散層との界面に第3接合を形成する第2導電型の第3の拡散層と, 上記基板に上記第1の拡散層と離間して形成され,上記基板との界面に第4接合を形成する第2導電型の第4の拡散層と, 上記第4の拡散層上に形成され,上記第4の拡散層との界面に第5接合を形成する第1導電型の第5の拡散層と, 上記第5の拡散層上に形成され,上記第5の拡散層との界面に第6接合を形成する第2導電型の第6の拡散層と, 上記第6の拡散層上に形成され,上記第6の拡散層との界面に第7接合を形成する第1導電型の第7の拡散層と を備え, 上記第1接合と上記第5接合の基板深さ方向の深さが同じであり,かつ, 上記第2接合と上記第6接合の基板深さ方向の深さが同じであり,かつ, 上記第3接合と上記第7接合の基板深さ方向の深さが同じであり, 上記第1接合と上記第2接合と上記第3接合のうちのいずれか1つの接合の上記基板表面側の拡散層に,当該拡散層の深さ方向において当該接合側に不純物濃度ピークが形成されていると共に, 上記第5接合と上記第6接合と上記第7接合のうちのいずれか1つの接合の上記基板表面側の拡散層に,当該拡散層の深さ方向において当該接合側に不純物濃度ピークが形成されていることを特徴とする。」 (4)本件補正後の明細書 本件補正後の,明細書の【0028】?【0032】の記載は,次のとおりである。 「【0028】 上記課題を解決するため,この発明の受光素子は, 第1導電型の基板と, 上記基板に形成され,上記基板との界面に第1接合を形成する第2導電型の第1の拡散層と, 上記第1の拡散層上に形成され,上記第1の拡散層との界面に第2接合を形成する第1導電型の第2の拡散層と, 上記第2の拡散層上に形成され,上記第2の拡散層との界面に第3接合を形成する第2導電型の第3の拡散層と を備え, 上記第1接合と上記第2接合と上記第3接合は夫々,予め設定された波長の光を検出するために基板深さ方向に予め設定された深さに形成されており, 上記第1接合と上記第2接合と上記第3接合のうちのいずれか1つの接合を形成する上記基板表面側の拡散層に,当該拡散層の深さ方向において当該接合側に不純物濃度ピークが形成されており, 上記不純物濃度ピークが形成された上記拡散層の基板深さ方向の不純物濃度プロファイルにおいて,上記不純物濃度ピークを含む山の基板深さの浅い側の不純物濃度プロファイルの傾きの絶対値よりも,上記不純物濃度ピークを含む山の基板深さの深い側でかつ当該接合側の不純物濃度プロファイルの傾きの絶対値が大きいことを特徴とする。 【0029】 また,一実施形態の受光素子では, 上記不純物濃度ピークが形成された上記拡散層における上記不純物濃度ピークを含む山よりも基板深さの浅い側の不純物濃度に対して,上記不純物濃度ピークが形成された上記拡散層よりも基板深さの深い側の拡散層の不純物濃度が低い。 【0030】 また,一実施形態の受光素子では, 上記不純物濃度ピークが形成された上記拡散層における上記不純物濃度ピークを含む山よりも基板深さの浅い側の不純物濃度に対して,上記不純物濃度ピークの不純物濃度が1桁以上高い。 【0031】 【0032】 」 2 補正の適否 本件補正は,特許請求の範囲について,補正前の請求項1に下線部を加える補正,請求項2,3を下線部に変更する補正,及び請求項4,5を削除をしたものである。また,明細書について,特許請求の範囲の変更に伴って,明細書の内容を整合させるための補正がなされている。 本件特許請求の範囲の請求項1における補正(以下,「補正事項1」という。)の適否について検討する。 (1)明確性について(特許法第36条第6項第2号) 補正事項1は,補正前の請求項1に「不純物濃度ピークが形成された上記拡散層の基板深さ方向の不純物濃度プロファイルにおいて,上記不純物濃度ピークを含む山の基板深さの浅い側の不純物濃度プロファイルの傾きの絶対値よりも,上記不純物濃度ピークを含む山の基板深さの深い側でかつ当該接合側の不純物濃度プロファイルの傾きの絶対値が大きい」ことを追加したものであり,特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。 ここで,補正事項1に記載された「不純物濃度ピークを含む山」とは何かが不明であり,また,「不純物濃度プロファイルの傾き」は,「不純物濃度ピークを含む山」のどの部分に注目するかによって異なるが,どの部分に注目するかが明らかでない。 したがって,補正後の請求項1に係る発明は,「不純物濃度のピークを含む山」とは何かという点,「傾き」が山のどの部分かという点について明確でなく,特許法第36条第6項第2号の規定に反する。 (2)新規事項について(特許法第17条の2第3項) 本願の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲または図面(以下,「出願当初の明細書等」という。)には,「不純物濃度ピークを含む山」とは何か,また「不純物濃度プロファイルの傾き」は,「不純物濃度ピークを含む山」のどの部分に注目するかについて,記載も示唆もされていない。その結果,「不純物濃度ピークを含む山」について,拡散層全体を「山」と捉えると,例えば,図2において第1濃度ピークを含むp型拡散層という1つの「山」において,深さの浅い側である第3接合付近の傾きと深さの深い側にある第2接合付近の傾きとでは,第2接合付近の傾きの絶対値が大きいとは認められない。 この点について,請求人は審判請求書に添付された参考図を用いて,不純物濃度ピークP1を含む山の近傍の基板深さ方向の浅い側の傾きの絶対値より,当該不純物ピークP1より「1桁以上の濃度差」で濃度が小さい部分における不純物濃度ピークP1を含む山の基板深さの深い側かつ接合側の傾きの絶対値の方が,やや大きいことを示して補正の根拠として主張する。しかし,前記参考図からは,不純物濃度ピークP1を含む山の近傍において,基板深さ方向の浅い側の傾きの絶対値と,基板深さの深い側かつ接合側の傾きの絶対値とで有意な差があるとは認められず,当該主張は認められない。 また,「不純物濃度プロファイルの傾き」を特定し,特定の「基板深さ方向の深さ」位置における当該「傾き」の大小関係を特定するためには,特定の「基板深さ方向の深さ」位置における具体的な「不純物濃度」が把握できることが必要である。この点,本願の願書に最初に添付された明細書には,段落【0045】に「次に,図2を用いて,受光素子10における不純物濃度ピークの効果を説明する。図2は図1に示す受光素子10の構造のX1-Y1断面での不純物濃度プロファイルである。図2において,横軸は基板深さ方向の深さ[任意目盛],縦軸は不純物濃度[任意目盛]を表す。」と記載されている。しかし,図2は,縦軸が「不純物濃度」を表し,横軸は「基板深さ方向の深さ」を表すことが記載されているに留まることから,縦軸及び横軸が,対数軸であるのか線形軸であるのかさえも不明である。したがって,本願の願書に最初に添付された図2は「不純物濃度プロファイル」の全体的な傾向を表しているにすぎず,特定の「基板深さ方向の深さ」位置における具体的な「不純物濃度」は図2からでは不明である。その結果,「不純物濃度プロファイルの傾き」を特定することができない。 よって,「不純物濃度ピークを含む山の基板深さの浅い側の不純物濃度プロファイルの傾きの絶対値よりも,上記不純物濃度ピークを含む山の基板深さの深い側でかつ当該接合側の不純物濃度プロファイルの傾きの絶対値が大きい」という事項は,出願当初の明細書等には記載されていない事項である。 したがって,補正事項1の「不純物濃度ピークを含む山の基板深さの浅い側の不純物濃度プロファイルの傾きの絶対値よりも,上記不純物濃度ピークを含む山の基板深さの深い側でかつ当該接合側の不純物濃度プロファイルの傾きの絶対値が大きい」という事項について,出願当初の明細書等には,記載されておらず,特許法第17条の2第3項の規定に反する。 (3)まとめ したがって,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法126条第7項及び同法第17条の2第3項の規定に違反してなされたものであるから,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 平成29年5月22日付けでされた手続補正は,前記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明は,平成28年8月26日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める(以下,「本願発明」という。)。 「【請求項1】 第1導電型の基板と, 上記基板に形成され,上記基板との界面に第1接合を形成する第2導電型の第1の拡散層と, 上記第1の拡散層上に形成され,上記第1の拡散層との界面に第2接合を形成する第1導電型の第2の拡散層と, 上記第2の拡散層上に形成され,上記第2の拡散層との界面に第3接合を形成する第2導電型の第3の拡散層と を備え, 上記第1接合と上記第2接合と上記第3接合は夫々,予め設定された波長の光を検出するために基板深さ方向に予め設定された深さに形成されており, 上記第1接合と上記第2接合と上記第3接合のうちのいずれか1つの接合の上記基板表面側の拡散層に,当該拡散層の深さ方向において当該接合側に不純物濃度ピークが形成されていることを特徴とする受光素子。」 第4 引用文献の記載事項,引用発明等 1 引用文献1について (1)引用文献1の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された特開2008-76084号公報(以下,「引用文献1」という。)には以下の事項が記載されている。 ア「【技術分野】 【0001】 本発明は,車載用カラーセンサに係り,例えば,車両灯(テールランプ,ヘッドランプ)の検出性能を維持したまま,近赤外域光を使う他のアプリケーションにも適用できる車載用カラーセンサに関する。」 イ「【0062】 図17には本実施形態における車載用カラーセンサの撮像素子の縦断面図を示す。 図17の本実施形態においては,色フィルタ,カットフィルタおよびカットガラス板を用いないで,カラーセンサの構造で分光感度をもたせている。 【0063】 P型シリコン基板90の表層部において深いN型不純物拡散領域91が形成されている。P型シリコン基板90は第1導電型の不純物拡散領域となる第1導電型のシリコン基板であり,本例ではP型が第1導電型であり,N型が第2導電型である。 【0064】 P型シリコン基板90におけるN型不純物拡散領域91内での表層部にはN型不純物拡散領域91よりも浅いP型不純物拡散領域92が形成されている。P型シリコン基板90におけるP型不純物拡散領域92内での表層部にはP型不純物拡散領域92よりも浅いN型不純物拡散領域93が形成されている。P型シリコン基板90におけるN型不純物拡散領域93の内部での表層部にはN型不純物拡散領域93よりも浅いP型不純物拡散領域94が形成されている。 【0065】 よって,N型不純物拡散領域91の底面とP型シリコン基板90とのPN接合部よりも浅い位置に,P型不純物拡散領域92の底面とN型不純物拡散領域91とのPN接合部がある。このPN接合部よりも浅い位置に,N型不純物拡散領域93の底面とP型不純物拡散領域92とのPN接合部がある。このPN接合部よりも浅い位置に,P型不純物拡散領域94の底面とN型不純物拡散領域93とのPN接合部がある。 【0066】 P型シリコン基板90とN型不純物拡散領域91との間には電流測定器95が配置されている。N型不純物拡散領域91とP型不純物拡散領域92との間には電流測定器96が配置されている。P型不純物拡散領域92とN型不純物拡散領域93との間には電流測定器97が配置されている。N型不純物拡散領域93とP型不純物拡散領域94との間には電流測定器98が配置されている。 【0067】 そして,P型シリコン基板90の上方から光がP型シリコン基板90に照射される(受光する)。すると,N型不純物拡散領域91の底面とP型シリコン基板90とのPN接合部においてIR光子による電流が流れ,これが第1の電流測定器95にて検出される。P型不純物拡散領域92の底面とN型不純物拡散領域91とのPN接合部において赤色光子による電流が流れ,これが第2の電流測定器96にて検出される。N型不純物拡散領域93の底面とP型不純物拡散領域92とのPN接合部において緑色光子による電流が流れ,これが第3の電流測定器97にて検出される。P型不純物拡散領域94の底面とN型不純物拡散領域93とのPN接合部において青色光子による電流が流れ,これが第4の電流測定器98にて検出される。これにより,必要な分光感度を持たせることができる。 【0068】 図17に代わり図18のように,図17でのP型不純物拡散領域94をなくして,近赤外光と赤色光と緑色光を検出するようにしてもよい。 上記実施形態によれば,以下のような効果を得ることができる。 【0069】 (5)P型シリコン基板90の表層部にP型の第1の不純物拡散領域91が形成されるとともに,不純物拡散領域91においてシリコン基板90の表層部に不純物拡散領域91よりも浅いP型の第2の不純物拡散領域92が形成され,さらに,不純物拡散領域92においてシリコン基板90の表層部に不純物拡散領域92よりも浅いN型の第3の不純物拡散領域93が形成され,不純物拡散領域91の底面とシリコン基板90との界面にて近赤外光を光電変換するための最も深い第1のPN接合部が形成されるとともに,不純物拡散領域92の底面と不純物拡散領域91との界面にて赤色光を光電変換するための2番目に深い第2のPN接合部が形成され,不純物拡散領域93の底面と不純物拡散領域92との界面にて緑色光を光電変換するための3番目に深い第3のPN接合部が形成されてなる。これにより,可視領域の光が入った場合には,第2のPN接合部において赤色光が検出され,第3のPN接合部において緑色光が検出される。また,近赤外域の光が入った場合には,第1のPN接合部において近赤外域の光が検出される。よって,可視領域の光のセンシングのみならず近赤外域の光のセンシングにも容易に対応可能な車載用カラーセンサを提供することができる。 【0070】 (6)ここで,図17に示すように,第3の不純物拡散領域93においてシリコン基板90の表層部に不純物拡散領域93よりも浅いP型の第4の不純物拡散領域94が,さらに形成され,不純物拡散領域94の底面と不純物拡散領域93との界面にて青色光を光電変換するための最も浅い第4のPN接合部が形成されているので,青色光を検出することができる。 【0071】 なお,前記実施形態は以下のように変更してもよい。 基本4ピクセルで可視域の赤(R),緑(G),緑(G),近赤外域(IR)としたり,基本4ピクセルで可視域の赤(R),緑(G),青(B),近赤外域(IR)としたが,これに限ることなく,基本3ピクセルで可視域の赤(R),緑(G),近赤外域(IR)としてもよい。 【0072】 また,上述したように車載用カラーセンサはライト制御装置や雨滴センサ(夜間監視用カメラ)などについて述べたが,これに限らず,他の,可視領域の光をセンシングするシステムと近赤外域の光をセンシングするシステムに適用してもよい。」 ウ 図18には,以下の事項が記載されている。 p型シリコン基板90と, 前記基板に形成され,前記基板との界面に第1のPN接合部を形成するN型不純物拡散領域91と, 前記N型不純物拡散領域91上に形成され,前記N型不純物拡散領域91との界面に第2のPN接合部を形成するP型不純物拡散領域92と, 前記P型不純物拡散領域92上に形成され,前記P型不純物拡散領域92との界面に第3のPN接合部を形成するN型不純物拡散領域93と を備え, 前記各第1,第2,第3PN接合は,各々近赤外光,赤色光,緑色光を検出するために基板深さ方向に予め設定された深さに形成されている車載用カラーセンサ。 (2)引用発明1 前記(1)の記載から,特に引用文献1には以下の発明が記載されているものと認められる(以下,「引用発明1」という。)。 「p型シリコン基板と, 前記基板に形成され,前記基板との界面に第1のPN接合部を形成する第1のN型不純物拡散領域と, 前記第1のN型不純物拡散領域上に形成され,前記第1のN型不純物拡散領域との界面に第2のPN接合部を形成する第1のP型不純物拡散領域と, 前記第1のP型不純物拡散領域上に形成され,前記第1のP型不純物拡散領域との界面に第3のPN接合部を形成する第2のN型不純物拡散領域と を備え, 前記各第1,第2,第3のPN接合部は,各々近赤外光,赤色光,緑色光を検出するために基板深さ方向に予め設定された深さに形成されている車載用カラーセンサ。」 2 引用文献2について (1)引用文献2の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された特開2002-203954号公報(以下,「引用文献2」という)には以下の事項が記載されている。 ア「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,入射した光を電気信号に変換する受光素子(フォトダイオード)と,少なくともMOSトランジスタを含み,受光素子から出力される信号を処理する信号処理回路とを同一基板上に設けた回路内蔵受光素子に関し,特に,受光素子の応答速度を高速化するとともに,MOS構造のトランジスタの誤動作を抑制した回路内蔵受光素子に関する。」 イ「【0044】このように構成された本実施形態の回路内蔵受光素子において,フォトダイオード部12では,不純物濃度が高いP^(+)型埋め込み拡散層2の不純物濃度のピーク位置よりも深い位置のP型半導体基板1にて光キャリアが発生すると,その光キャリアは,P^(+)型埋め込み拡散層2の不純物濃度のプロファイルによるポテンシャルバリアを超えることができず,P型半導体基板1に押し戻されてP型半導体基板1内にて再結合することによって消滅する。したがって,光キャリアがCMOSトランジスタ部13に迷走することが防止される。また,P^(+)型埋め込み拡散層2の不純物濃度のピーク位置より浅い所で光キャリアが発生すると,その光キャリアは,P^(+)型埋め込み拡散層2のポテンシャル(電位)による内蔵電界によって,高速でPN接合領域の空乏層14に導かれて光電流となる。」 ウ「【0066】図8に本発明の第6の実施形態である回路内蔵受光素子を示す。この回路内蔵受光素子は,フォトダイオード部12のN型エピタキシャル層6とP型エピタキシャル層3との間にN^(+)型埋め込み拡散層5cが形成されており,N型エピタキシャル層6の表面近傍にP^(+)型拡散層10aが形成されている。この場合,図9に示すように,フォトダイオード部12の表面付近にP^(+)型拡散層10aおよびN^(+)型埋め込み拡散層5cから成るフォトダイオードAが形成され,フォトダイオードAの下方にN^(+)型埋め込み拡散層5cおよびP型エピタキシャル層3から成るフォトダイオードBが形成される。これにより,N^(+)型埋め込み拡散層5cの不純物濃度によるポテンシャルバリアにより,N^(+)型埋め込み拡散層5cの不純物濃度のピーク位置より浅い領域で発生する光キャリアは,フォトダイオードAによって検出され,N^(+)型埋め込み拡散層5cの不純物濃度のピーク位置より深い領域で発生する光キャリアは,フォトダイオードBによって検出される。この結果,図8に示す構成のフォトダイオード部12は,短波長の光と長波長の光とを別々に検出することができる。 【0067】例えば,フォトダイオード部12への入射光が波長400nmであれば,フォトダイオード部12の表面からの入射光の進入の深さが1μm以下であるため,入射光によって発生する全ての光キャリアがフォトダイオードAによって吸収される。N型エピタキシャル層6の厚みが1.5μmであり,入射光が波長650nmであれば,入射光によって発生する光キャリアの約30%がフォトダイオードAによって吸収され,入射光によって発生する光キャリアの約70%がフォトダイオードBによって吸収される。これにより,フォトダイオード部12への入射光に対して,フォトダイオードAおよびBで発生するそれぞれの光電流の差分を算出することにより,入射光の波長の検出が可能となる。 【0068】尚,本発明の実施形態においては,P型を第1導電型,N型を第2導電型としているが,図3および4に示す本発明の第3および4の実施形態以外の構成では,N型を第1導電型,P型を第2導電型としても良い。 【0069】 【発明の効果】本発明の固体内蔵受光素子は,第1の第2導電型半導体層と第2の第1導電型半導体層とにより接合容量の小さいフォトダイオードが形成され,そのフォトダイオードが,第3の第1導電型半導体層および第4の第1導電型半導体層によって取り囲まれて,MOS構造のトランジスタを含む信号処理回路と電気的に分離されることによって,フォトダイオードの高速動作が可能になるとともに,フォトダイオードの短波長の光に対する光感度も向上し,フォトダイオードで発生した光キャリアがMOSデバイスへの進入を抑制し,ラッチアップ現象を防止できる。」 エ 図8には以下の事項が記載されている。 P^(+)型拡散層10aおよびN^(+)型埋め込み拡散層5cから成るフォトダイオードAが形成され,フォトダイオードAの下方にN^(+)型埋め込み拡散層5cおよびP型エピタキシャル層3から成るフォトダイオードBが形成されたフォトダイオード部12を備えた回路内蔵受光素子。 オ 図9には以下の事項が記載されている。 P^(+)型拡散層10aおよびN^(+)型埋め込み拡散層5cから成るフォトダイオードAが形成され,フォトダイオードAの下方にN^(+)型埋め込み拡散層5cおよびP型エピタキシャル層3から成るフォトダイオードBが形成されたフォトダイオード部12p型エピタキシャル層内3内に形成されたn型埋め込み拡散層5c,その上部に形成されたn型エピタキシャル層6から構成されるフォトダイオード部12を備えた回路内蔵受光素子において,基板の深さ方向における各層の不純物濃度。 第5 対比・判断 1 本願発明と引用発明1の対比 ア 引用発明1の「p型シリコン基板」,「第1のN型不純物拡散領域」,「第1のP型不純物拡散領域」,「第2のN型不純物拡散領域」は,「P型」を「第1導電型」,「N型」を「第2導電型」とすると,各々本願発明の「第1導電型の基板」,「第2導電型の第1の拡散層」,「第1導電型の第2の拡散層」,「第2導電型の第3の拡散層」に相当する。 イ 引用発明1の「第1のPN接合部」,「第2のPN接合部」,「第3のPN接合部」は,各々本願発明の「第1接合」,「第2接合」,「第3接合」に相当する。 ウ 引用発明1の「各第1,第2,第3のPN接合部は,各々近赤外光,赤色光,緑色光を検出するために基板深さ方向に予め設定された深さに形成されている」ことは,本願発明の「第1接合と上記第2接合と上記第3接合は夫々,予め設定された波長の光を検出するために基板深さ方向に予め設定された深さに形成されて」いることに相当する。 エ 引用発明1の「車載用カラーセンサー」は,受光素子の一種であるから本願発明の「受光素子」に相当する。 したがって,本願発明と引用発明1とを比較すると,以下のオの点で一致し,カの点で相違する。 オ 一致点 第1導電型の基板と, 上記基板に形成され,上記基板との界面に第1接合を形成する第2導電型の第1の拡散層と, 上記第1の拡散層上に形成され,上記第1の拡散層との界面に第2接合を形成する第1導電型の第2の拡散層と, 上記第2の拡散層上に形成され,上記第2の拡散層との界面に第3接合を形成する第2導電型の第3の拡散層と を備え, 上記第1接合と上記第2接合と上記第3接合は夫々,予め設定された波長の光を検出するために基板深さ方向に予め設定された深さに形成されている受光素子。 カ 相違点 本願発明では,第1接合と第2接合と第3接合のうちのいずれか1つの接合の基板表面側の拡散層に,当該拡散層の深さ方向において当該接合側に不純物濃度ピークが形成されているのに対して,引用発明1では,不純物濃度ピークが形成されるとは特定しない点。 2 相違点についての判断 以下,相違点について検討する。 引用文献2には,深さ方向に分散させて配置した複数のpn接合を備えた受光素子において,各接合におけるキャリアの検出を区別するために,接合間に不純物濃度ピークを形成する技術が開示されている。 また,基板の深さ方向に分散するpn接合部を有する受光素子において,光照射によって発生したキャリアを制御して,所望のpn接合部に導くことは感度を向上させるという観点で受光素子として周知な技術的課題であるところ,引用文献2の,段落【0066】?【0069】には,ピーク位置より浅い領域では,フォトダイオードにより短波長の光が検出されていることが記載されている(前記第4の2(1)ウ参照)。 したがって,引用発明1において,当該技術的課題に配慮して,引用文献2に開示された技術を採用し,その際,具体的な不純物濃度ピークを形成する位置については,各PN接合部において検出すべき波長を考慮して適宜設定し得ることであるから,例えば,短波長側の光の感度を大きくするためや基板の表面側への流れ込みを防ぐために,拡散層の深さ方向において接合側に不純物濃度ピークを形成する事は,当業者が容易に想到し得た事項である。 よって,本願発明は,引用文献1及び引用文献2に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 第6 まとめ 以上のとおり,請求項1に係る発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-11-14 |
結審通知日 | 2017-11-21 |
審決日 | 2017-12-04 |
出願番号 | 特願2012-256040(P2012-256040) |
審決分類 |
P
1
8・
561-
Z
(H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 田邊 顕人 |
特許庁審判長 |
鈴木 匡明 |
特許庁審判官 |
大嶋 洋一 須藤 竜也 |
発明の名称 | 受光素子 |
代理人 | 田中 光雄 |
代理人 | 山崎 敏行 |
代理人 | 磯江 悦子 |
代理人 | 山崎 宏 |