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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B23K
管理番号 1336724
審判番号 不服2016-8218  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-06-03 
確定日 2018-01-15 
事件の表示 特願2012-41357「金属材料の接合方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年9月9日出願公開、特開2013-176782〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下、「本願」という。)は、平成24年2月28日に出願したものであって、
平成26年12月24日付けで審査請求がなされ、
平成27年11月13日付けで拒絶理由通知(同年同月17日発送)がなされ、
これに対して平成28年1月14日付けで意見書が提出されるとともに、手続補正がなされ、
同年3月8日付けで上記平成27年11月13日付けの拒絶理由通知書に記載した理由(特許法第29条第2項)によって拒絶査定(同年同月10日謄本発送・送達)がなされたものである。

これに対して、「原査定を取り消す。本願の発明は特許すべきものとする、との審決を求める。」ことを請求の趣旨として平成28年6月3日付けで審判請求がなされると同時に、手続補正がなされた。
その後、当審合議体より平成29年7月4日付け拒絶理由通知(同年同月5日発送)がなされ、
これに対して同年8月7日付けで意見書が提出されたものである。


第2 本願発明
本件の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成28年6月3日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

(本願発明)
「 少なくとも接合面がAl、Cu、Ag及びAuから成る群より選ばれた少なくとも1種を主成分とする金属Aから成る第1の部材と、少なくとも接合面がAl、Cu、Ag及びAuから成る群より選ばれた少なくとも1種を主成分とする金属Bから成る第2の部材とを接合する(但し、Alを主成分とする金属同士、Auを主成分とする金属同士の接合を除く)に際して、
上記両部材の接合面間に、上記金属Aに含まれるAu以外の少なくとも1種の金属と、上記金属Bに含まれるAu以外の少なくとも1種の金属とそれぞれ共晶反応を生じる金属としてZnを含むZn合金のインサート材を介在させ、両部材を相対的に加圧した状態で、上記共晶反応を生じる温度である上記インサート材の融点以上、融点+100℃までの温度範囲に加熱して、両部材の接合界面に共晶反応による溶融物を生成させ、当該溶融物と共に、上記金属A及び/又は金属Bの表面に生成された酸化皮膜を接合界面から排出して両部材を接合することを特徴とする金属材料の接合方法。」


第3 引用文献・引用発明
1.引用文献1の摘記事項および引用発明
本願の出願日前に頒布され、当審が上記平成29年7月4日付けの拒絶理由通知において引用した、特開2011-124015号公報(公開日:平成23年6月23日、以下、「引用文献1」という。)には、金属部材の接合方法と題して関連する図面とともに、接合補助材として純亜鉛を使用した例が記載されているほか、特に最初に摘記した以下の箇所に、接合補助材として純亜鉛ではなく、亜鉛を主成分とする合金が用いられるとした事項が記載されている。なお、摘記はまず接合補助材に亜鉛を主成分とする合金が用いられるとした箇所を先行して示し、これに続いて参考とすべき他の摘記箇所を示す。ちなみに下線は当審で付したものである。

A
「【0034】
なお、上記第1の接合工程における加熱・加圧条件(T1、F1)、第2の接合工程における加熱・加圧条件(T2、F2)は、第1の金属部材に純アルミ、第2の金属に純銅、金属箔に純亜鉛を用いた時の好適範囲である。したがって、アルミ、銅、亜鉛それぞれに他の成分が加わって合金化(第1の金属部材にアルミを主成分とする合金、第2の金属に銅を主成分とする合金、金属箔に亜鉛を主成分とする合金)した場合には、それぞれの融点や化学ポテンシャル等が変化する。その場合においても、第1の接合工程では、金属箔の融点よりも低い加熱温度で、金属箔よりも化学ポテンシャルが卑である金属部材が塑性変形をおこす加圧力をかける。第2の接合工程では、金属箔の融点、およびアルミ合金と銅合金の共晶点よりも高く、アルミ合金の融点よりも低い加熱温度で、第1の接合工程で変形させた状態を維持できる程度の加圧力をかけるようにすればよい。」

B
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の金属または前記第1の金属を主成分とする合金を用いた第1の金属部材と、前記第1の金属との2元合金に共晶点が存在する第2の金属または前記第2の金属を主成分とする合金を用いた第2の金属部材との接合方法であって、
前記第1の金属および前記第2の金属よりも融点が低く、前記第1の金属および前記第2の金属のうち、少なくとも一方の金属よりも化学ポテンシャルが貴な第3の金属または前記第3の金属を主成分とする合金からなる接合補助材を、前記第1の金属部材と前記第2の金属部材との間に挿入し、
前記接合補助材の融点よりも低い第1の温度で、前記第1の金属部材および前記第2の金属部材のうち、少なくとも前記接合補助材よりも化学ポテンシャルが卑な金属を用いた金属部材が塑性変形する第1の力で加圧し、
前記第1の力よりも小さい第2の力で加圧し、前記第1の金属の融点および前記第2の金属の融点よりも低く、前記共晶点の温度および前記接合補助材の融点より高い第2の温度まで加熱した後、少なくとも前記共晶点の温度より低い温度まで冷却する、
ことを特徴とする金属部材の接合方法。」

C
「【0051】
次の第2接合工程以降での動作は、基本的には実施の形態1と同じようになる。ただし、アルミ線材31にコーティングされた亜鉛層31_(Z)は、銅端子32側から加熱されるので、原理的には銅端子32に近い側から融解が生じることになる。そのため、銅表面の酸化被膜32_(O)が融けた亜鉛3_(L)により還元され、金属化する。そして、メッキされた亜鉛層31_(Z)の厚みは亜鉛箔3と比較して百分の1以下の厚みしかないので、銅端子板32と接触している部分においては、亜鉛層の厚み方向ですぐに全体が融解する。したがって、アルミの線材31の本体金属部分であるアルミ部分31_(A)と端子板32の本体金属部分2_(M)が直接接触する。このときの温度T2は、銅とアルミの共晶温度よりも高いので、図7(d)に示すように銅の端子板32とアルミの線材31のうち、直接接触している金属銅32_(M)と金属アルミ31_(A)部分が溶融して共晶体4(液状)が形成されはじめる。
【0052】
銅とアルミの溶融が始まると(ステップS50)、加圧力F2を保ったまま冷却工程に入る(ステップS60)。冷却が終了(少なくとも共晶点の温度T_(E)以下の温度まで)すると、図7(e)、図6(b)に示すように、線材31のアルミ部分31_(A)と銅端子板32との界面に銅とアルミの合金体4が形成され、強固な接合体5ができあがる。このとき、液状の亜鉛は、銅の還元のために酸化し析出した酸化亜鉛を伴って、接合部分からはみ出てくるが、めっきにより接合補助材をコーティングしたので、接合部分に存在する亜鉛自体の量を少なくできるので、目視できるようなはみ出しは生じていない。」

上記摘記事項A?Cより、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(引用発明)
「アルミを主成分とする合金と、銅を主成分とする合金とを接合する方法であって、
両者の間に金属箔として亜鉛を主成分とする合金を置き、当該金属箔の融点、アルミ合金と銅合金の共晶点よりも高くされた温度で加熱(T2)し、及び加圧(F2)を行うと、共晶体が形成され、かつ、接合界面から接合補助材の一部が銅の還元のために酸化し析出した酸化亜鉛を伴ってはみ出て、その後冷却を行うと接合体ができあがるとした接合体の接合方法。」

2.引用文献2の摘記事項
本願の出願日前に頒布され、当審が上記平成29年7月4日付けの拒絶理由通知において引用した、特開昭56-62685号公報(公開日:昭和56年5月28日、以下、「引用文献2」という。)には、共晶反応を利用して金属母材を圧接する方法と題して、関連する図面とともに、以下の事項が記載されている。
A(第2ページ左下欄12-16行)
「発明の詳細な説明
本発明は異種又は同種の金属母材を共晶反応を利用して圧接する方法に関し、特にアルミニウムと銅の母材を共晶反応を利用して圧接する方法に関する。」

B(第3ページ左上欄11行-同ページ左下欄2行)
「 本発明は、融点以下で共晶反応を生ずる金属を塑性変形圧力以下の所要圧力で接触させ、該接触面を加熱してそこに共晶反応による融液相を形成させ、その後、上記接触面にアツプセツト圧力を付加して上記融液相を外部へ押し出すと同時にこのアツプセツト圧力によって圧接を行うものである。
圧接すべき金属の接触面に共晶反応による融液相を生成するのは、接触面に存在する酸化物や他の汚染物質を融液の中に混入させ、のちに接合面の外部へ排出させることにある。上記融液相を生成させるための加熱温度は、共晶温度以上で、かつ母材が溶融しない温度の範囲内である。共晶温度以上でなければ共晶反応は起こり得ないし、又、融点以上に加熱したのでは圧接はできない。
共晶反応によってできた融液相は、上記したように圧接すべき金属の接触面に存在する酸化物や他の汚染物質を含むので、材質的に脆い相になつている。したがつて、そのまま凝固させて接合面に介在させたのでは、引張試験したときにそこから破断してしまう。そこで、凝固する前に接合面の外へ排出することが必要になる。このための手段として圧接すべき金属の接合面をアツプセツト圧力で加圧する。加圧の方向は特に限定されない。要するに圧接すべき金属の接合面から上記融液相が排出されるように加圧すればよい。
共晶反応による融液相が排出された後の接合面は、酸化物や他の汚染物質が実質的にない清浄な状態になつているので、圧接が速やかに確実に行われる。したがつて、満足のいく強度特性、具体的には引張試験において接合部から破断することのない特性を有する継手が得られる。」

C(第3ページ左下欄15行-同ページ右下欄6行)
「 本発明は、圧接しようとする金属がアルミニウムと銅との組み合わせであるときに、得られた継手が接合部から破断せずにアルミニウムの部分から破断するという満足のいく効果を示した。上記したアルミニウムと銅との組み合わせの場合には、加熱温度の好適な範囲は共晶温度?共晶温度+50℃の範囲である。共晶温度+50℃よりも高温に加熱すると融液の量が多くなるので、これが接合面の周囲にばりとして残ったときにきたならしくなるし、又、ばりを除去するにしても余計に時間がかかるようになる。又、小物部品やパイプなどの圧接では、形がくずれるという心配がでてくる。」


第4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「アルミを主成分とする合金」、「銅を主成分とする合金」及び「金属箔として亜鉛を主成分とする合金」は、各々、本願発明の「少なくとも接合面がAl、Cu、Ag及びAuから成る群より選ばれた少なくとも1種を主成分とする金属Aから成る第1の部材」、「少なくとも接合面がAl、Cu、Ag及びAuから成る群より選ばれた少なくとも1種を主成分とする金属Bから成る第2の部材」及び「上記両部材の接合面間に」「介在させ」る「上記金属Aに含まれるAu以外の少なくとも1種の金属と、上記金属Bに含まれるAu以外の少なくとも1種の金属とそれぞれ共晶反応を生じる金属としてZnを含むZn合金のインサート材」に相当し、
また、引用発明の「当該金属箔の融点、アルミ合金と銅合金の共晶点よりも高く」とされた温度で「加熱(T2)し、及び加圧(F2)を行うと、共晶体が形成され、かつ、接合界面から接合補助材の一部が銅の還元のために酸化し析出した酸化亜鉛を伴ってはみ出て、その後冷却を行うと接合体ができあがる」は、本願発明の「両部材を相対的に加圧した状態で、上記共晶反応を生じる温度である上記インサート材の融点以上、」「の温度範囲に加熱して、両部材の接合界面に共晶反応による溶融物を生成させ、当該溶融物と共に、上記金属A及び/又は金属Bの表面に生成された酸化皮膜を接合界面から排出して両部材を接合する」に相当する。
よって、両者は以下の点で一致し、また、相違する。
(一致点)
「Alを主成分とする金属から成る第1の部材と、Cuを主成分とする金属から成る第2の部材とを接合するに際して、
上記両部材の接合面間に、上記のAlと、上記のCuとそれぞれ共晶反応を生じる金属としてZnを含むZn合金のインサート材を介在させ、両部材を相対的に加圧した状態で、上記共晶反応を生じる温度である上記インサート材の融点以上に加熱して、両部材の接合界面に共晶反応による溶融物を生成させ、当該溶融物と共に、Cuを主成分とする金属から成る第2の部材の表面に生成された酸化皮膜を接合界面から排出して両部材を接合する金属材料の接合方法。」


(相違点)
両者は「共晶」が起こるインサート材の融点温度以上で「加熱する」点では共通しているものの、本願発明では加熱の温度の上限を「融点+100℃までの温度範囲」と特定しているのに対して、引用発明では加熱の温度範囲の上限を「アルミ合金の融点よりも低い」としている点。


第5 判断
上記相違点について検討する。
本件明細書の【0034】では、接合温度に関し、「高過ぎると、母材が溶け込むために液相が過剰に発生し・・・強度が得られなくなる傾向がある。具体的には、インサート材の融点以上、融点+100℃までの温度範囲が好ましい。」とされている。そうすると、当該相違点に係る「融点+100℃までの温度範囲」とは、インサート材の融点以上であるだけでなく、母材の溶け込みが発生しない温度を見込んだ幅が+100℃であるという意味と解される。
また、明細書の【実施例】では、接合対象の母材としてCu、Al、Agの3種が用いられ、インサート材はZn-Al系合金(融点382℃)接合温度は420℃(インサート材の融点の+38℃)が選ばれている。これら3種の母材の融点は、各々1085℃、660℃、962℃であるので、接合温度は3種の融点の中で最も低いAlの融点を下回るよう選ばれていると見られる。
そして、引用文献1の【0034】の記載を総合すると、純亜鉛より融点が低い亜鉛合金を金属箔として使用した場合には、当該亜鉛合金の融点よりも高い温度で、かつ、アルミ合金の融点より低い温度を推奨しているというべきであり、また、引用文献1の【0002】には、アルミニウムは融点以下の温度でも剛性が低下する旨の記載があることから、亜鉛合金を用いた場合であってもアルミ合金の融点より十分に低い接合温度に加熱すべきと理解できる。
そして、アルミニウムを部材として、共晶反応を利用する前提で異種金属間の接合を行うとした技術を示した文献であって、上記第3の2.のCに示したとおり、加熱温度の目安を共晶温度?共晶温度+50℃としたものが、本件出願前に公知である。
そうすると、引用発明に接した当業者であれば、少なくとも共晶接合用温度の選定に関し、アルミの融点から十分に低い温度を上限と定めることが自然であり、また、同種技術を説明した公知の引用文献2の上記第3の2.のCに示した技術的事項を参考にした場合にあっては、当然Znとアルミとの共晶温度以上になるZn合金の融点を下限とし、上限温度を当該合金融点+50℃に定めると思われ、最終的には382℃?432℃とすることが当然であると判断される。そして、その温度範囲は本願発明の相違点に係る発明特定事項と重複するため一致し、実施例で選定された温度をも含む結果となる。
よって、上記相違点に係る構成はなんら格別なものではなく、本願発明は、当業者が引用発明及び引用文献2に記載の公知の技術的事項に基づいて、容易に想到し得たものである。

上記で検討したごとく、相違点は格別のものではなく、そして、本願発明の奏する作用効果は、上記引用発明及び公知の技術的事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

したがって、本願発明は、引用文献に記載の発明及び公知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明できたものである。


第6 請求人の主張について

請求人は平成29年8月7日付け意見書にて、引用文献に基づいて当業者が容易に発明できたとする拒絶理由の通知事項に対して以下の意見を述べている。

ア「(2)請求項1に係る本願発明と各引用文献記載の発明との比較検討
本願発明は、2つの部材を接合する際、加圧の程度、加熱温度、インサート材の材質や量などを適切に設定することにより、両部材の接合界面に共晶反応による溶融物を生成させ、当該溶融物と共に、金属A及び/又は金属Bの表面に生成された酸化被膜を接合界面から排出するものであります。」

イ「これに対し、引用文献1に記載のものは、『このとき、液状の亜鉛は、銅の還元のために酸化し析出した酸化亜鉛を伴って、接合部分からはみ出てくるが、めっきにより接合補助材をコーティングしたので、接合部分に存在する亜鉛自体の量を少なくできるので、目視できるようなはみ出しは生じていない』と記載(段落[0052])されていることから明らかなように、被接合金属材の表面に生成された酸化被膜を、接合界面から排出することを志向するものとは云えません。
また、引用文献2において、インサート材を用いて同種金属材同士を接合する場合、インサート材を接合面から排出すると、同種金属材同士では共晶反応しないため同種金属材同士を接合することはできません。」

ウ「また、本願発明と引用文献1に記載の発明とは、『共晶』が起こるインサート材の融点以上で加熱する点で共通する旨のご指摘を受けております。
しかし、引用文献1に記載のものは、インサート材の融点以上だけでなく、被接合金属材の共晶点以上の温度で加熱することをも必須の要件とするものであります。
つまり、銅とアルミ(被接合材)の間に亜鉛(接合補助材)を介在させて接合する場合、銅とアルミの共晶点は550℃、亜鉛の融点は419℃(引用文献1の段落[0017])でありますが、引用文献1には、『接合補助材である亜鉛の融点、および銅とアルミの共晶点よりも高く、アルミの融点よりも低い第2の加熱温度T2』すなわち、銅とアルミの共晶点550℃より高い580?620℃で接合する旨が記載(段落[0023])されていることから明らかなように、引用文献1においては、被接合金属材の共晶点(550℃)未満の温度では接合することはできません。」

エ「さらに、引用文献2には、加熱温度を共晶温度?共晶温度から+50℃とすることが記載されている旨のご指摘を受けております。
しかし、引用文献2に記載の共晶温度は、上記のように、インサート材の融点(本願発明におけるZn合金の融点)を基準とするものではなく、接合する異種金属材の共晶温度、すなわち、被接合金属材同士の共晶温度を基準とするものであります。
したがって、引用文献2に記載の事項を引用文献1に記載のものに適用したとしても、例えば、銅とアルミを接合する場合、銅とアルミ共晶点?該共晶点+50℃、すなわち、550℃?600℃で接合することになりますから、引用文献1に記載の発明に引用文献2を組み合わせたとしても本願発明にはなりません。
そして、本願発明は、上記インサート材がZn合金であり、共晶反応による溶融が生じる共晶組成(段落[0015])になり易いことで、被接合金属材同士の共晶温度、例えば、銅とアルミを接合する場合は、銅とアルミの共晶点548℃よりも低い382?482℃の温度範囲で接合が可能であり、このような本願発明の効果は当業者であっても予測することができない優れた効果であると思料されます。」

オ「したがって、請求項1記載の本願発明は、もはや、引用文献1?7記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができるものに該当せず、而して特許法第29条第2項の規定に拘わらず特許を受けることができるものと確信します。」

これらの意見を上記意見に付した番号ごとに検討してみる。
i)上記イの主張に関して引用された引用文献1の記載には、「酸化亜鉛を伴って、接合部分からはみ出てくる」と明示されており、当該事実に添えてはみ出る量が少ないことを指し示していることが明らかであるため、これを“酸化被膜を、接合界面から排出することを志向するものとは云えない”とする主張は事実誤認というべきである。
ii)上記ウの主張は、接合補助材を純亜鉛とすることを前提とした主張とみられるが、上記第3の1.及び第4に示したとおり、引用発明として認定した発明の接合補助材は亜鉛合金であるため、前提とすべき対象が異なり、その結論は自ずと異なるというべきである。
iii)上記エの主張は、引用文献2でいう共晶が、インサート材を介する共晶を指すのではなく、接合したい金属部材同士の共晶を指すと解されることを前提とした主張とみられるが、引用文献2の記載全体、及び、インサート材を利用した接合技術の常識の双方と照らしてみたところ、引用文献2で利用している共晶反応とは、金属部材間に起こる可能性のある共晶を利用したものではなく、インサート部材と、一方乃至両方の接合される金属部材との間で起こる共晶反応を内容としていることが明らかである。そうすると、もはや請求人の主張は前提を誤った主張というべきである。
以上のとおりであるから、結局のところ請求人の意見は採り上げるに足るものではない。


第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、その出願日前に日本国内又は外国において頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献に記載の発明及び公知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項についての検討をするまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、上記結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-11-21 
結審通知日 2017-11-22 
審決日 2017-12-05 
出願番号 特願2012-41357(P2012-41357)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 水野 治彦  
特許庁審判長 栗田 雅弘
特許庁審判官 中川 隆司
西村 泰英
発明の名称 金属材料の接合方法  
代理人 的場 基憲  

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