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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60K
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 B60K
管理番号 1336749
審判番号 不服2017-6894  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-05-12 
確定日 2018-02-06 
事件の表示 特願2013-116092「駆動装置及び駆動装置の制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年12月15日出願公開、特開2014-234054、請求項の数(20)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成25年5月31の出願であって、平成28年7月15日付けで拒絶理由が通知され、平成28年9月23日に意見書が提出され、平成29年2月3日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成29年5月12日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 原査定の概要

原査定(平成29年2月3日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

●理由1(特許法第29条第1項第3号)、理由2(特許法第29条第2項)に
ついて

・請求項1、14
・引用文献1
引用文献1の段落【0084】には、「当該合計値が0以上の場合、マネジメントECU9は、回生トルクが要求された電動機側の油圧ブレーキの駆動指令を停止する。このとき、当該電動機には一方向クラッチ50が係合する方向に回生トルクがかかっている。このため、リングギヤは、油圧ブレーキによるロックが解除されても、一方向クラッチ50によってロックされる。したがって、電動機2A、2Bからの出力トルクが後輪Wrに伝達され、車両3は加速する。一方、当該合計値が0未満の場合、マネジメントECU9は、リングギヤのロックを維持するため、回生トルクが要求された電動機側の油圧ブレーキの駆動指令を維持する。」と記載されている。
そして該記載において、「油圧ブレーキの駆動指令を停止する」ことは、「断接手段(油圧ブレーキ)を締結状態から解放状態に制御する」ことを意味しているから、「このとき」とは、油圧ブレーキを締結状態から解放状態に制御するときである。
また、「当該電動機には一方向クラッチ50が係合する方向に回生トルクがかかっている」ことは、電動機から一方向の所定の大きさの回転動力を発生させるよう制御されていることを意味している。
さらに、「このため、リングギヤは、油圧ブレーキによるロックが解除されても、一方向クラッチ50によってロックされる」と記載されているのであるから、「油圧ブレーキの解放を開始する時点」で、既に電動機から一方向の所定の大きさの回転動力を発生させるよう制御されていることも自明である。
そうすると、引用文献1には、油圧ブレーキを締結状態から解放状態に制御するときに、油圧ブレーキの解放を開始する時点で、電動機から一方向の所定の大きさの回転動力を発生させるよう制御されていることが記載されている。
よって、請求項1、14に係る発明は、先の拒絶理由通知書に記載したとおり、引用文献1に記載された発明と同一であるか、又は、引用文献1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

●理由2(特許法第29条第2項)について

・請求項2ないし5及び15ないし18
・引用文献1ないし3
請求項2ないし5及び15ないし18に係る発明は、引用文献1ないし3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項6ないし13、19及び20
・引用文献1ないし4
請求項6ないし13、19及び20に係る発明は、先の拒絶理由通知書に記載したとおり、引用文献1ないし4に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

引用文献等一覧
1.特開2011-31746号公報
2.特開2011-98706号公報
3.特開2005-143243号公報
4.特開2007-210359号公報

第3 本願発明

本願の請求項1ないし20に係る発明(以下、それぞれ、「本願発明1」ないし「本願発明20」という。)は、出願当初の明細書、特許請求の範囲の記載及び図面からみて、次のとおりのものであると認める。

「【請求項1】
輸送機関を推進するための被駆動部と、
該被駆動部を駆動する駆動源と、
前記駆動源と前記被駆動部との動力伝達経路上に設けられ、解放状態又は締結状態にすることにより駆動源側と被駆動部側とを遮断状態又は接続状態にする断接手段と、
前記駆動源と前記被駆動部との動力伝達経路上に前記断接手段と並列に設けられ、駆動源側の一方向の回転動力が被駆動部側に入力されるときに係合状態となるとともに、駆動源側の他方向の回転動力が被駆動部側に入力されるときに非係合状態となり、被駆動部側の一方向の回転動力が駆動源側に入力されるときに非係合状態となるとともに、被駆動部側の他方向の回転動力が駆動源側に入力されるときに係合状態となる一方向動力伝達手段と、
前記駆動源の発生する回転動力を制御する駆動源制御装置と、
前記断接手段を制御する断接手段制御装置と、
を備える駆動装置であって、
前記断接手段制御装置が、前記断接手段を締結状態から解放状態に制御するときに、前記断接手段の解放を開始する時点で、前記駆動源制御装置は、前記駆動源から前記一方向の所定の大きさの回転動力を発生させるよう制御することを特徴とする駆動装置。
【請求項2】
前記所定の大きさの回転動力は、前記駆動源と前記一方向動力伝達手段との動力伝達経路上に存在する部材間の微小間隙を詰めるために必要な最小回転動力よりも大きくなるように設定されることを特徴とする請求項1に記載の駆動装置。
【請求項3】
前記所定の大きさの回転動力は、前記輸送機関を移動させるために必要な最小回転動力よりも小さくなるように設定されることを特徴とする請求項1又は2に記載の駆動装置。
【請求項4】
前記断接手段制御装置が、前記断接手段の解放を完了した後に、前記駆動源制御装置は、前記所定の大きさの回転動力の発生を停止することを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の駆動装置。
【請求項5】
前記駆動源制御装置が、前記所定の大きさの回転動力を発生するときの回転動力の増加速度よりも前記所定の大きさの回転動力の発生を停止するときの回転動力の減少速度の方が小さくなるように制御することを特徴とする請求項4に記載の駆動装置。
【請求項6】
前記輸送機関は、前記輸送機関の移動に伴って生じる移動騒音を取得する騒音取得手段を備え、
前記移動騒音が所定未満のときに、前記駆動源制御装置は、前記断接手段の解放を開始する時点で、前記所定の大きさの回転動力を発生させるとともに、前記移動騒音が所定以上のときに、前記所定の大きさの回転動力を発生させないことを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載の駆動装置。
【請求項7】
前記騒音取得手段は、前記輸送機関の移動速度に基づいて移動騒音を取得することを特徴とする請求項6に記載の駆動装置。
【請求項8】
前記被駆動部は、前記輸送機関の進行方向に対し左右に配置される左被駆動部及び右被駆動部を含み、
前記駆動源は、前記左被駆動部及び右被駆動部を別個独立に駆動する左駆動源及び右駆動源を含み、
該左駆動源と該左被駆動部との動力伝達経路上に3つの回転要素を有する左差動装置と、
該右駆動源と該右被駆動部との動力伝達経路上に3つの回転要素を有する右差動装置と、を備え、
該左差動装置及び該右差動装置の第1回転要素は、それぞれ該左駆動源及び該右駆動源に機械的に接続され、
該左差動装置及び該右差動装置の第2回転要素は、それぞれ該左被駆動部及び該右被駆動部に機械的に接続され、
該左差動装置及び該右差動装置の第3回転要素は、互いに一体回転可能に機械的に連結され、
前記断接手段及び前記一方向動力伝達手段は、前記互いに連結された第3回転要素に設けられることを特徴とする請求項1?7のいずれか1項に記載の駆動装置。
【請求項9】
前記所定の大きさの回転動力を前記左駆動源及び前記右駆動源から発生させることを特徴とする請求項8に記載の駆動装置。
【請求項10】
前記左駆動源から発生させる回転動力と、前記右駆動源から発生させる回転動力とを、略同じ大きさとなるように制御することを特徴とする請求項9に記載の駆動装置。
【請求項11】
前記所定の大きさの回転動力を前記左駆動源及び前記右駆動源の何れか一方のみから発生させることを特徴とする請求項8に記載の駆動装置。
【請求項12】
前記駆動源は、電動機であることを特徴とする請求項1?11のいずれか1項に記載の駆動装置。
【請求項13】
前記輸送機関は車両であり、
前記被駆動部は車輪であることを特徴とする請求項1?12のいずれか1項に記載の駆動装置。
【請求項14】
輸送機関を推進するための被駆動部と、
該被駆動部を駆動する駆動源と、
前記駆動源と前記被駆動部との動力伝達経路上に設けられ、解放状態又は締結状態にすることにより駆動源側と被駆動部側とを遮断状態又は接続状態にする断接手段と、
前記駆動源と前記被駆動部との動力伝達経路上に前記断接手段と並列に設けられ、駆動源側の一方向の回転動力が被駆動部側に入力されるときに係合状態となるとともに、駆動源側の他方向の回転動力が被駆動部側に入力されるときに非係合状態となり、被駆動部側の一方向の回転動力が駆動源側に入力されるときに非係合状態となるとともに、被駆動部側の他方向の回転動力が駆動源側に入力されるときに係合状態となる一方向動力伝達手段と、
前記駆動源の発生する回転動力を制御する駆動源制御装置と、
前記断接手段を制御する断接手段制御装置と、を備える駆動装置の制御方法であって、
前記断接手段制御装置が前記断接手段を締結状態から解放状態に制御するときに、
前記駆動源制御装置が、前記駆動源から前記一方向の所定の回転動力を発生させる第1ステップと、
前記一方向の所定の大きさの回転動力を発生させた状態で、前記断接手段制御装置が、前記断接手段の解放を開始する第2ステップと、を含むことを特徴とする駆動装置の制御方法。
【請求項15】
前記断接手段制御装置が、前記断接手段の解放を完了する第3ステップと、
前記駆動源制御装置が、前記所定の回転動力の発生を停止する第4ステップと、をさらに含み、
該第3ステップの後、該第4ステップが行われることを特徴とする請求項14に記載の駆動装置の制御方法。
【請求項16】
前記所定の大きさの回転動力は、前記駆動源と前記一方向動力伝達手段との動力伝達経路上に存在する部材間の微小間隙を詰めるために必要な最小回転動力よりも大きくなるように設定されることを特徴とする請求項14又は15に記載の駆動装置の制御方法。
【請求項17】
前記所定の大きさの回転動力は、前記輸送機関を移動させるために必要な最小回転動力よりも小さくなるように設定されることを特徴とする請求項14?16のいずれか1項に記載の駆動装置の制御方法。
【請求項18】
前記駆動源制御装置が、前記第1ステップにおける前記所定の大きさの回転動力を発生するときの回転動力の増加速度よりも前記第4ステップにおける前記所定の大きさの回転動力の発生を停止するときの回転動力の減少速度の方が小さくなるように制御することを特徴とする請求項15に記載の駆動装置の制御方法。
【請求項19】
前記輸送機関は、前記輸送機関の移動に伴って生じる移動騒音を取得する騒音取得手段を備え、
前記移動騒音が所定未満のときに、前記駆動源制御装置は、前記断接手段の解放を開始する時点で、前記所定の大きさの回転動力を発生させるとともに、前記移動騒音が所定以上のときに、前記所定の大きさの回転動力を発生させないことを特徴とする請求項14?18のいずれか1項に記載の駆動装置の制御方法。
【請求項20】
前記騒音取得手段は、前記輸送機関の移動速度に基づいて移動騒音を取得することを特徴とする請求項19に記載の駆動装置の制御方法。」

第4 引用文献

1 引用文献1の記載事項及び引用発明

原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された特開2011-31746号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている(なお、下線は、理解の一助のために当審で付与した。以下同様。)。

(1)「【0012】
上記課題を解決して係る目的を達成するために、請求項1に記載の発明の駆動制御装置は、前後輪軸の一方の軸である第1の車軸(例えば、実施の形態での主駆動軸8)に駆動力を出力可能な駆動源(例えば、実施の形態での内燃機関4及び電動機5)と、前記前後輪軸の他方の軸である第2の車軸(例えば、実施の形態での車軸10A、10B)に駆動力を出力可能な電動機(例えば、実施の形態での電動機2A、2B)と、前記第2の車軸と前記電動機の間の動力伝達経路上に設けられた減速機(例えば、実施の形態での遊星歯車式減速機12A、12B)と、前記動力伝達経路上に前記減速機と直列に設けられ、前記電動機からの力行駆動力を前記減速機を介して前記第2の車軸に伝達する一方向動力伝達部(例えば、実施の形態での一方向クラッチ50)と、前記動力伝達経路上に前記一方向動力伝達部と並列に設けられ、前記電動機が回生駆動する際に、前記第2の車軸からの回転動力を前記減速機を介して前記電動機に伝達するブレーキ(例えば、実施の形態での油圧ブレーキ60A、60B)と、を備えた車両(例えば、実施の形態での車両3)の駆動制御装置であって、前記車両の速度又は前記第2の車軸の回転数を検出する第1検出部(例えば、実施の形態での車速センサ117又は回転数センサ117a、117b)と、前記検出部が検出した前記車両の速度又は前記第2の車軸の回転数に基づいて、前記電動機の目標回転数を決定する目標回転数決定部(例えば、実施の形態でのマネジメントECU9)と、前記電動機の回転数を検出する第2検出部(例えば、実施の形態でのレゾルバ20A、20B及びマネジメントECU9)と、前記駆動源からの駆動力によって前記車両が走行している状態で前記電動機の駆動を開始するとき、前記電動機の回転数が前記目標回転数に同期するよう前記電動機を制御し、かつ、前記電動機の出力トルク又は前記ブレーキの駆動を制御する制御部(例えば、実施の形態でのマネジメントECU9)と、を備えたことを特徴としている。」(段落【0012】)

(2)「【0019】
以下、この発明の一実施形態を図1?図4に基づいて説明する。
本発明にかかる駆動装置1は、電動機2A、2Bを車軸駆動用の駆動源とするものであり、例えば、図1に示すような駆動システムの車両3に用いられる。
図1に示す車両3は、内燃機関4と電動機5が直列に接続された駆動ユニット6を車両前部に有するハイブリッド車両であり、この駆動ユニット6の動力がトランスミッション7及び主駆動軸8を介して前輪Wfに伝達される一方で、この駆動ユニット6と別に車両後部に設けられた駆動装置1の動力が後輪Wr(RWr、LWr)に伝達されるようになっている。駆動ユニット6の電動機5と後輪Wr側の駆動装置1の電動機2A、2Bは、図示しないPDU(パワードライブユニット)を介してバッテリに接続され、バッテリからの電力供給と、バッテリへのエネルギー回生がPDUを介して行われるようになっている。また、マネジメントECU(MG ECU)9は、駆動装置1に含まれる電動機2A、2B及び油圧ブレーキ60A、60Bの各動作を制御する。
【0020】
図2は、駆動装置1の全体の縦断面図を示すものであり、同図において、10A、10Bは、車両3の後輪Wr側の左右の車軸であり、車幅方向に同軸上に配置されている。駆動装置1の減速機ケース11は全体が略円筒状に形成され、その内部には、車軸駆動用の電動機2A、2Bと、この電動機2A、2Bの駆動回転を減速する遊星歯車式減速機12A、12Bとが、車軸10A、10Bと同軸上に配置されている。この電動機2A及び遊星歯車式減速機12Aは左後輪LWrを制御し、電動機2B及び遊星歯車式減速機12Bは右後輪RWrを制御し、電動機2A及び遊星歯車式減速機12Aと電動機2B及び遊星歯車式減速機12Bは、減速機ケース11内で車幅方向に左右対称に配置されている。そして、減速機ケース11は、図4に示すように、車両3の骨格となるフレームの一部であるフレーム部材13の支持部13a、13bと、不図示の駆動装置1のフレームで支持されている。支持部13a、13bは、車幅方向でフレーム部材13の中心に対し左右に設けられている。なお、図4中の矢印は、駆動装置1が車両3に搭載された状態における位置関係を示している。」(段落【0019】及び【0020】)

(3)【0022】
また、遊星歯車式減速機12A、12Bは、サンギヤ21A、21Bと、このサンギヤ21に噛合される複数のプラネタリギヤ22A、22Bと、これらのプラネタリギヤ22A、22Bを支持するプラネタリキャリア23A、23Bと、プラネタリギヤ22A、22Bの外周側に噛合されるリングギヤ24A、24Bと、を備え、サンギヤ21A、21Bから電動機2A、2Bの駆動力が入力され、減速された駆動力がプラネタリキャリア23A、23Bを通して出力されるようになっている。
【0023】
サンギヤ21A、21Bは円筒軸16A、16Bに一体に形成されている。また、プラネタリギヤ22A、22Bは、例えば図3に示すように、サンギヤ21A、21Bに直接噛合される大径の第1ピニオン26A、26Bと、この第1ピニオン26A、26Bよりも小径の第2ピニオン27A、27Bを有する2連ピニオンであり、これらの第1ピニオン26A、26Bと第2ピニオン27A、27Bが同軸にかつ軸方向にオフセットした状態で一体に形成されている。このプラネタリギヤ22A、22Bはプラネタリキャリア23A、23Bに支持され、プラネタリキャリア23A、23Bは、軸方向内側端部が径方向内側に伸びて車軸10A、10Bにスプライン嵌合され一体回転可能に支持されるとともに、軸受33A、33Bを介して中間壁18A、18Bに支持されている。」(段落【0022】及び【0023】)

(4)「【0028】
この油圧ブレーキ60A、60Bの場合、固定プレート35A、35Bが減速機ケース11から伸びる外径側支持部34に支持される一方で、回転プレート36A、36Bがリングギヤ24A、24Bに支持されているため、両プレート35A、35B,36A、36Bがピストン37A、37Bによって押し付けられると、両プレート35A、35B,36A、36B間の摩擦係合によってリングギヤ24A、24Bに制動力が作用し固定され、その状態からピストン37A、37Bによる係合が開放されると、リングギヤ24A、24Bの自由な回転が許容される。」(段落【0028】)

(5)「【0029】
また、軸方向で対向するリングギヤ24A、24Bの連結部30A、30B間にも空間部が確保され、その空間部内に、リングギヤ24A、24Bに対し一方向の動力のみを伝達し他方向の動力を遮断する一方向クラッチ50が配置されている。一方向クラッチ50は、インナーレース51とアウターレース52との間に多数のスプラグ53を介在させたものであって、そのインナーレース51がスプライン嵌合によりリングギヤ24A、24Bの小径部29A、29Bと一体回転するように構成されている。またアウターレース52は、内径側支持部40により位置決めされるとともに、回り止めされている。一方向クラッチ50は、車両3が前進する際に係合してリングギヤ24A、24Bの回転をロックするように構成されている。より具体的に、一方向クラッチ50は、リングギヤ24A、24Bに作用するトルクの作用方向によってリングギヤ24A、24Bをロック又は切り離すように構成されており、車両3が前進する際のサンギヤ21A、21Bの回転方向を正転方向とするとリングギヤ24A、24Bに逆転方向のトルクが作用する場合にリングギヤ24A、24Bの回転をロックする。
【0030】
次に、このように構成された駆動装置1の制御について説明する。なお、図5?図10は各状態における共線図を表わし、左側のS、Cはそれぞれ電動機2Aに連結された遊星歯車式減速機12Aのサンギヤ21A、車軸10Aに連結されたプラネタリキャリア23A、右側のS、Cはそれぞれ電動機2Bに連結された遊星歯車式減速機12Bのサンギヤ21B、車軸10Bに連結されたプラネタリキャリア23B、Rはリングギヤ24A、24B、BRKは油圧ブレーキ60A、60B、OWCは一方向クラッチ50を表わす。以下の説明において前進時のサンギヤ21A、21Bの回転方向を正転方向とする。また、図中、停車中の状態から上方が正転方向の回転、下方が逆転方向の回転であり、矢印は、上方が正転方向のトルクを表し、下方が逆転方向のトルクを表す。
・・・中略・・・
【0032】
図6は、車両3が駆動装置1の電動機2A、2Bのモータトルクにより前進走行する場合、即ち駆動装置1がドライブ側となって車両3が前進する場合における共線図である。電動機2A、2Bを駆動すると、サンギヤ21A、21Bには正転方向のトルクが付加される。このとき、前述したように一方向クラッチ50によりリングギヤ24A、24Bはロックされて、逆転方向に回転しようとするリングギヤ24A、24Bに正転方向のロックトルクが付加される。これによりプラネタリキャリア23A、23Bは正転方向に回転し前進走行がなされる。なお、プラネタリキャリア23A、23Bには車軸10A、10Bからの走行抵抗が逆転方向に作用する。このように車両3の走行時には、イグニッションをONにして電動機2A、2Bのトルクをあげることで、一方向クラッチ50が機械的に係合してリングギヤ24A、24Bがロックされるので、油圧ブレーキ60A、60Bを駆動するオイルポンプ70を作動させずに車両3を発進することができる。これにより、車両発進時の応答性を向上させることができる。
【0033】
図7は、車両3が駆動ユニット6により前進走行している状態で電動機2A、2Bを停止する場合、即ち駆動装置1がコースト側で且つ電動機2A、2Bが停止する場合における共線図である。図6の状態から電動機2A、2Bを停止すると、プラネタリキャリア23A、23Bには車軸10A、10Bから前進走行を続けようとする正転方向のトルクが作用するので、リングギヤ24A、24Bには逆転方向のトルクが作用し一方向クラッチ50が開放される。従って、リングギヤ24A、24Bはプラネタリキャリア23A、23Bより早い速度で空転する。これにより、電動機2A、2Bで回生する必要がない場合に、油圧ブレーキ60A、60Bによりリングギヤ24A、24Bを固定しなければ、電動機2A、2Bは停止し、電動機2A、2Bの連れ回りを防止することができる。なお、このとき、電動機2A、2Bには正転方向のコギングトルクが作用し、コギングトルクとリングギヤ24A、24Bのフリクションと釣り合う合計トルク分は車軸10A、10Bの車軸ロスとなる。
・・・中略・・・
【0035】
図9は、車両3が駆動装置1の電動機2A、2Bのモータトルクにより後進走行する場合、即ち駆動装置1がドライブ側となって後進する場合における共線図である。電動機2A、2Bを逆転方向に駆動すると、サンギヤ21A、21Bには逆転方向のトルクが付加される。このとき、リングギヤ24A、24Bには正転方向のトルクが作用し一方向クラッチ50が開放される。このとき、油圧ブレーキ60A、60Bを係合してリングギヤ24A、24Bに逆転方向のロックトルクを付加することにより、リングギヤ24A、24Bは固定されるとともにプラネタリキャリア23A、23Bは逆転方向に回転し後進走行がなされる。なお、プラネタリキャリア23A、23Bには車軸10A、10Bからの走行抵抗が正転方向に作用している。
【0036】
図10は、車両3が駆動ユニット6により後進走行している場合において駆動装置1がコースト側における共線図である。このとき、プラネタリキャリア23A、23Bには車軸10A、10Bから後進走行を続けようとする逆転方向のトルクが作用するので、一方向クラッチ50によりリングギヤ24A、24Bはロックされて逆転方向に回転しようとするリングギヤ24A、24Bに正転方向のロックトルクが付加されるとともに、電動機2A、2Bには正転方向の逆起電力が発生する。」(段落【0029】ないし【0036】)

(6)「【0082】
本実施形態では、駆動装置1の電動機2A及び遊星歯車式減速機12Aは左後輪LWrを制御し、駆動装置1の電動機2B及び遊星歯車式減速機12Bは右後輪RWrを制御する。したがって、車両3が旋回中に電動機2A、2Bの駆動が必要な場合には、マネジメントECU9は、左右の電動機2A、2Bに対してそれぞれ異なるトルク要求を行う。すなわち、マネジメントECU9は、このときの車両3の走行状態に基づいて、左右の電動機2A、2Bに対する各要求トルクを算出する。
【0083】
但し、車両3が旋回する際には、左右の電動機2Aに対する要求トルクの一方が駆動トルク、他方が回生トルクの場合があり得る。この場合、マネジメントECU9は、駆動トルクが要求された電動機に対しては図13に示した制御を行い、回生トルクが要求された電動機に対しては図16に示した制御を行う。さらに、マネジメントECU9は、電動機2A、2Bの回転数同期が完了したと判断すると、これら2つの要求トルクの合計値が0以上か否かを判断する。
【0084】
当該合計値が0以上の場合、マネジメントECU9は、回生トルクが要求された電動機側の油圧ブレーキの駆動指令を停止する。このとき、当該電動機には一方向クラッチ50が係合する方向に回生トルクがかかっている。このため、リングギヤは、油圧ブレーキによるロックが解除されても、一方向クラッチ50によってロックされる。したがって、電動機2A、2Bからの出力トルクが後輪Wrに伝達され、車両3は加速する。一方、当該合計値が0未満の場合、マネジメントECU9は、リングギヤのロックを維持するため、回生トルクが要求された電動機側の油圧ブレーキの駆動指令を維持する。」(段落【0082】ないし【0084】)

(7)上記(1)、(4)、(5)及び(6)の記載から分かること

ア 上記(1)及び上記(5)(特に、段落【0032】)の記載から、車軸10A、10Bは、車両3が走行するために駆動されるものであることが分かる。

イ 上記(1)、(4)及び(5)の記載から、油圧ブレーキ60A、60Bは、係合する又は係合を開放することにより、車軸10A、10Bからの回転動力を電動機2A、2Bに伝達したり、又は、伝達しないようにするものであることが分かる。

ウ 上記(5)の記載から、一方向クラッチ50は、正転方向のトルクがサンギア21A、21Bに作用するときにリングギア24A、24Bをロックするとともに、逆転方向のトルクがサンギア21A、21Bに作用するときに開放し、正転方向のトルクがプラネタリキャリア23A、23Bに作用するときに開放し、逆転方向のトルクがプラネタリキャリア23A、23Bに作用するときにリングギア24A、24Bをロックすることが分かる。

エ 上記(6)の記載から、マネジメントECU9は、一方の電動機に要求された駆動トルクと他方の電動機に要求された回生トルクとの合計値が0以上の場合、回生トルクが要求された電動機側の油圧ブレーキの駆動指令を停止すると、回生トルクが要求された電動機には回生トルクがかかっていることが分かる。

(7)引用発明

上記(1)ないし(7)を総合すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

<引用発明>

「車両3が走行するために駆動される車軸10A、10Bと、
車軸10A、10Bに駆動力を出力可能な電動機2A、2Bと、
電動機2A、2Bと車軸10A、10Bとの動力伝達経路上に設けられ、係合する又は係合を開放することにより、車軸10A、10Bからの回転動力を電動機2A、2Bに伝達したり、又は、伝達しないようにする油圧ブレーキ60A、60Bと、
電動機2A、2Bと車軸10A、10Bとの動力伝達経路上に油圧ブレーキ60A、60Bと並列に設けられ、正転方向のトルクがサンギア21A、21Bに作用するときにリングギア24A、24Bをロックするとともに、逆転方向のトルクがサンギア21A、21Bに作用するときに開放し、正転方向のトルクがプラネタリキャリア23A、23Bに作用するときに開放し、逆転方向のトルクがプラネタリキャリア23A、23Bに作用するときにリングギア24A、24Bをロックする一方向クラッチ50と、
電動機2A、2Bの出力トルクを制御し、油圧ブレーキ60A、60Bの駆動を制御するマネジメントECU9を備える駆動制御装置であって、
マネジメントECU9は、一方の電動機に要求された駆動トルクと他方の電動機に要求された回生トルクとの合計値が0以上の場合、回生トルクが要求された電動機側の油圧ブレーキの駆動指令を停止すると、回生トルクが要求された電動機には回生トルクがかかっている駆動制御装置。」

第5 対比・判断

1 本願発明について

本願発明1と引用発明とを対比すると、その機能、構造又は技術的意義からみて、引用発明における「車両3」は、本願発明における「輸送機関」に相当し、以下同様に、「車軸10A、10B」は「被駆動部」又は「被駆動部側」に、「車両3が走行するために駆動される車軸10A、10B」は「輸送機関を推進するための被駆動部」に、「電動機2A、2B」は「駆動源」又は「駆動源側」に、「車軸10A、10Bに駆動力を出力可能な電動機2A、2B」は「被駆動部を駆動する駆動源」に、「係合する又は係合を開放する」ことは「解放状態又は締結状態にする」ことに、「車軸10A、10Bからの回転動力を電動機2A、2Bに伝達したり、又は、伝達しないようにする」ことは「駆動源側と被駆動部側とを遮断状態又は接続状態にする」ことに、「油圧ブレーキ60A、60B」は「断接手段」に、「正転方向」は「一方向」に、「正転方向のトルク」は「一方向の回転動力」に、「サンギア21A、21B」は「駆動源側」に、「作用する」ことは「入力される」ことに、「リングギア24A、24Bをロック」することは「係合状態となる」ことに、「逆転方向」は「他方向」に、「逆転方向のトルク」は「他方向の回転動力」に、「開放」することは「非係合状態にな」ることに、「プラネタリキャリア23A、23B」は「被駆動部側」に、「一方向クラッチ50」は「一方向動力伝達手段」に、「電動機2A、2Bの出力トルク」は「駆動源の発生する回転動力」に、「油圧ブレーキ60A、60Bの駆動を制御する」ことは「断接手段を制御する」ことに、「マネジメントECU9」は「駆動源制御装置」及び「断接手段制御装置」に、「駆動制御装置」は「駆動装置」に、それぞれ相当する。
引用発明における「正転方向のトルクがサンギア21A、21Bに作用するとき」は、該トルクがプラネタリキャリア23A、23B側に入力されるので、本願発明1における「駆動源側の一方向の回転動力が被駆動部側に入力されるとき」に相当し、同様に、引用発明における「逆転方向のトルクがサンギア21A、21Bに作用するとき」は本願発明1における「駆動源側の他方向の回転動力が被駆動部側に入力されるとき」に相当する。
また、引用発明における「正転方向のトルクがプラネタリキャリア23A、23Bに作用するとき」は、該トルクがサンギア21A、21B側に入力されるので、本願発明1における「被駆動部側の一方向の回転動力が駆動源側に入力されるとき」に相当し、同様に、引用発明における「逆転方向のトルクがプラネタリキャリア23A、23Bに作用するとき」は、本願発明1における「被駆動部側の他方向の回転動力が駆動源側に入力されるとき」に相当する。

してみると、本願発明1と引用発明とは、
「輸送機関を推進するための被駆動部と、
該被駆動部を駆動する駆動源と、
前記駆動源と前記被駆動部との動力伝達経路上に設けられ、解放状態又は締結状態にすることにより駆動源側と被駆動部側とを遮断状態又は接続状態にする断接手段と、
前記駆動源と前記被駆動部との動力伝達経路上に前記断接手段と並列に設けられ、駆動源側の一方向の回転動力が被駆動部側に入力されるときに係合状態となるとともに、駆動源側の他方向の回転動力が被駆動部側に入力されるときに非係合状態となり、被駆動部側の一方向の回転動力が駆動源側に入力されるときに非係合状態となるとともに、被駆動部側の他方向の回転動力が駆動源側に入力されるときに係合状態となる一方向動力伝達手段と、
前記駆動源の発生する回転動力を制御する駆動源制御装置と、
前記断接手段を制御する断接手段制御装置と、
を備える駆動装置」の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
本願発明1は、「断接手段制御装置が、断接手段を締結状態から解放状態に制御するときに、断接手段の解放を開始する時点で、駆動源制御装置は、駆動源から一方向の所定の大きさの回転動力を発生させるよう制御する」のに対し、引用発明は、マネジメントECU9が、一方の電動機に要求された駆動トルクと他方の電動機に要求された回生トルクとの合計値が0以上の場合、回生トルクが要求された電動機側の油圧ブレーキの駆動指令を停止すると、回生トルクが要求された電動機には回生トルクがかかっている点(以下、「相違点」という。)。

ここで、上記相違点について検討する。

引用発明における上記「回生トルク」は、車軸側から電動機にかかるトルクであり、本願発明1における「駆動源から」発生する上記「一方向の所定の大きさの回転動力」とは実質的に異なるものであり、引用発明において、マネジメントECU9が、上記合計値が0以上の場合、回生トルクが要求された電動機側の油圧ブレーキの駆動指令を停止すると、そのとき、回生トルクが要求された電動機は回転動力を出力していないから、引用発明は、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項に相当する構成を有していない。そして、引用発明において、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、設計的事項とはいえない。

また、原査定で引用され、本願の出願前に頒布された特開2011-98706号公報(以下、「引用文献2」という。)、特開2005-143243号公報(以下、「引用文献3」という。)、及び、特開2007-210359号公報(以下、「引用文献4」という。)には、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項について、開示や示唆はない。

よって、本願発明1は、引用発明と同一ではなく、引用発明及び引用文献2ないし引用文献4に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 本願発明2ないし13について
本願の特許請求の範囲の請求項2ないし13は、請求項1の記載を他に置き換えることなく直接又は間接的に引用をして記載されたものであるから、本願発明2ないし13は、本願発明1の発明特定事項を全て含むものである。
したがって、本願発明2ないし13は、本願発明1と同様に、それぞれ、引用発明及び引用文献2ないし引用文献4に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 本願発明14ないし20について
本願発明14は、本願発明1に対して、発明のカテゴリを「装置」から「方法」に変更したものにすぎないから、本願発明1と同様に、引用発明と同一ではなく、引用発明及び引用文献2ないし引用文献4に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
そして、本願の特許請求の範囲の請求項15ないし20は、請求項14の記載を他に置き換えることなく直接又は間接的に引用をして記載されたものであるから、本願発明15ないし20は、本願発明14の発明特定事項を全て含むものである。
したがって、本願発明15ないし20は、本願発明14と同様に、それぞれ、引用発明及び引用文献2ないし引用文献4に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1及び14は、引用発明と同一ではなく、本願発明1ないし20は、引用発明及び引用文献2ないし引用文献4に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-01-22 
出願番号 特願2013-116092(P2013-116092)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B60K)
P 1 8・ 113- WY (B60K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 佐々木 淳  
特許庁審判長 金澤 俊郎
特許庁審判官 松下 聡
八木 誠
発明の名称 駆動装置及び駆動装置の制御方法  
代理人 特許業務法人航栄特許事務所  

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