ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N |
---|---|
管理番号 | 1336781 |
審判番号 | 不服2015-14442 |
総通号数 | 219 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-03-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-07-31 |
確定日 | 2018-01-24 |
事件の表示 | 特願2011-536563「ヒト認知の原因となる遺伝子変異体及び診断標的及び治療標的としてのそれらを使用する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 5月20日国際公開、WO2010/057112、平成24年 5月31日国内公表、特表2012-511895〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯、本願発明 本願は、平成21年11月16日(パリ条約による優先権主張 平成20年11月14日 米国)を国際出願日とする出願であって、 平成27年7月31日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、平成29年1月25日付けで当審より拒絶理由が通知され、これに対して同年7月31日に意見書および同日付の手続補正書が提出された。 本願の請求項1?2に係る発明は、平成29年7月31日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?2に記載の事項により特定される以下のとおりのものと認める。 「【請求項1】 エクソン欠失含有CNVを欠如した患者において観察されるリスクと比較して、自閉症スペクトラム症(ASD)の発生のリスクの増加を検知するための方法におけるエクソン欠失含有CNVを含有する核酸を同定するのに十分な長さかつ相補的なプローブ及びプライマーの集団の使用であって、前記プローブ及びプライマーの集団は、 17q22-q23 chr17:53733592-53761151に位置するBZRAP1(ベンゾジアゼピン受容体(末梢神経性)付随タンパク質1:Benzodiazapine receptor (peripheral) associated protein 1)、 14q21.3 chr14:46,170,380-47,422,368に位置するMDGA2(グリコシルホスファチジルイノシトール アンカー2を含むMAMドメイン:MAM domain containing glycosylphosphatidylinositol anchor 2)、 chr1:16221072-16233132に位置するCLCNKA(塩素チャネル Ka:chloride channel Ka)、 1q21-q22 chr1:155,013,407-155,202,154に位置するNTRK1(神経栄養性チロシンキナーゼ、受容体、タイプ1:Neurotrophic tyrosine kinase, receptor, type 1)、 1q41 chr1:213,752,880-214,875,391に位置するUSH2A(アッシャー症候群2A(受容常染色体、低刺激):Usher syndrome 2A (autosomal recessive, mild))、 2p16.3 chr2:49,712,184-51,360,413に位置するNRXN1(ニューレキシン1:Neurexin 1)、 2q23.3-q24.1 chr2:153,854,689-155,600,757に位置するGALNT13(UDP-N-アセチル-アルファ-D-ガラクトサミン:ポリペプチドN-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ:UDP-N-acetyl-alpha-D-galactosamine:polypeptide N-acetylgalactosaminyltransferase)、 3q24 chr3:157,059,820-157,149,414に位置するGMPS(グアニンモノホスフェート合成酵素:Guanine monophosphate synthetase)、 4p16.3 chr4:1,124,285-1,183,034に位置するSPON2(スポンジン2、細胞外マトリックスタンパク質:Spondin 2, extracellular matrix protein)、 4q31.3 chr4:151,217,225-152,344,150に位置するLRBA(LPS応答小胞輸送、ビーチ及びアンカーコンテイニング:LPS-responsive vesicle trafficking, beach and anchor containing)、 5p15.3 chr5:567,501-892,810に位置するTPPP(チューブリン重合促進タンパク質:Tubulin polymerization promoting protein)、 5q11.2 chr5:54,522,183-54,873,752に位置するSKIV2L2(スーパーキラーバイラリシディック活性2-様2:Superkiller viralicidic activity 2-like 2)(サッカロミセス・セレビシア)、 6p12.1 chr6:56,980,593-57,066,702に位置するKIAA1586、 6p22.1 chr6:26566167-26577844に位置するBTN2A1(ブチロフィリン、サブファミリー2、メンバーA1:Butyrophilin, subfamily 2, member A1)、 6q21 chr6:111409983-111453487に位置するBXDC1(Brixドメインコンテイニング1:Brix domain containing 1)、 6q22-q23 chr6:128,945,101-130,370,307に位置するLAMA2(ラミニン、アルファ 2 (メロシン、先天性筋ジストロフィー): Laminin, alpha 2 (merosin, congenital muscular dystrophy))、 7p21.2 chr7:14,015,810-15,013,734に位置するDGKB(ジアシルグリセロール キナーゼ、ベータ 90kDa:Diacylglycerol kinase, beta 90kDa)、 7q31.32 chr7:122,118,508-122,132,937に位置するRNF133(リングフィンガータンパク質133:Ring finger protein 133)、 7q31.33 chr7:122,118,508-122,132,937に位置するRNF148(リングフィンガータンパク質148:Ring finger protein 148)、 8p21.3 chr8:19,874,095-20,257,554に位置するSLC18A1(溶質輸送体ファミリー18(小胞モノアミン)、メンバー1:Solute carrier family 18 (vesicular monoamine ), member 1)、 9q32 chr9:115958051-116112796に位置するCOL27A(コラーゲン、タイプXXVII、アルファ1:Collagen, type XXVII, alpha 1)、 11p15.4 chr11:6762845-6763795に位置するOR2AG1(オルファクトリー受容体、ファミリー2、サブファミリーAG、メンバー1:Olfactory receptor, family 2, subfamily AG, member 1)、 11p15.4 chr11:6745814-6746764に位置するOR2AG2(オルファクトリー受容体、ファミリー2、サブファミリーAG、メンバー2:Olfactory receptor, family 2, subfamily AG, member 2)、 11q13.1 chr11:65094518-65095815に位置するSSSCA1(シェーグレン症候群/皮膚硬化症自己抗原1:Sjogren syndrome/scleroderma autoantigen 1)、 11q23 chr11:65,094,554-65,100,079に位置するFAM89B(配列類似性89を有するファミリー、メンバーB:Family with sequence similarity 89, member B)、 12p13.2 chr12:11310124-11313908に位置するPRB3(プロリン-リッチタンパク質BstNI サブファミリー3:Proline-rich protein BstNI subfamily 3)、 12q12-q13 chr12:51,444,040-51,501,855に位置するKRT3(ケラチン3:Keratin 3)、 12q21.3 chr12:83,670,976-83,958,489に位置するSLC6A15(溶質輸送体ファミリー66、メンバー15:Solute carrier family 6, member 15)、 13q22 chr13:70910098-71339331に位置するDACH1(ダックスフントホモログ1(ショウジョウバエ):Dachshund homolog 1 (Drosophila))、 15q11.2 chr15:19,812,808-20,018,007に位置するLOC650137(7膜貫通ヘリックス型受容体:Seven transmembrane helix receptor)、 15q11.2 chr15:19,812,808-20,018,007の間に位置するOR4M2(オルファクトリー受容体、ファミリー4、サブファミリーM、メンバー2:Olfactory receptor,family 4,subfamily M, member 2)及びOR4N4、 16p12.3 chr16:19,008,005-19,060,144に位置するLOC162073(仮想タンパク質LOC162073:hypothetical protein LOC162073)、 18p11.3 chr18:3,393,512-3,965,460に位置するDLGAP1(ディスクス、ラージ(ショウジョウバエ)タンパク質ホモログ11:Discs,large(Drosophila)homolog-associated protein 1)、 19p12 chr19:20,227,461-20,491,547に位置するFLJ44894 Homo sapiens cDNA FLJ44894 fis、clone BRAMY3000692, m 、 19p13.12 chr19:15480335-15524128に位置するCYP4F22(シトクローム P450、ファミリー4、サブファミリーF、ポリペプチド22:Cytochrome P450, family 4, subfamily F, polypeptide 22)、 19q13.2 chr19:47,126,828-47,329,282に位置するGRIK5(グルタメート受容体、イオンチャンネル型、カイニン酸5:Glutamate receptor, ionotropic, kainate 5)、 Xp22.3 chrX:2,656,547-2,925,352に位置するGYG2(グリコゲニン2:Glycogenin 2)、 Xp22.33 chrX:2,656,547-2,925,353に位置するXG(Xg擬似遺伝子、Y連鎖2:Xg pseudogene,Y-linked 2)、 Xq26.3 chrX:137,421,326-138,459,367に位置するFGF13(線維芽細胞成長因子13:Fibroblast growth factor 13)、並びに Xq27.1 chrX:139,908,245-139,941,724の間に位置するSPANXB1(SPANXファミリー、B1:SPANX family,B1)及びSPANXB2(SPANXファミリー、メンバーB2:SPANX family,member B2) から選択される遺伝子中において前記CNVを持つ核酸を同定するものであり、前記エクソン欠失含有CNVの存在は、特異的ハイブリダイゼーションの検知、対立遺伝子のサイズの測定、制限断片長多型の分析、対立遺伝子特異的ハイブリダイゼーション分析、一塩基プライマー伸長反応、及び増幅されたポリヌクレオチドのシークエンシングからなる群から選択される手法を使用して標的ポリヌクレオチド内で検知され、前記エクソン欠失含有CNVのいずれかの検知は、自閉症またはASDの発生のリスクの増加を示し、前記エクソン欠失は1kBまたはそれ以上の長さである、使用。 【請求項2】 自閉症スペクトラム症に関連する請求項1記載のエクソン欠失含有CNVを含む核酸にハイブリダイズするプローブまたはプライマーの集団が付加された固体支持体または遺伝子チップを有する製品。」 そして、本願の請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)に特定される「請求項1記載のエクソン欠失含有CNVを含む核酸」とは、請求項1に記載される「遺伝子中において前記(エクソン欠失含有)CNVを持つ核酸」である、請求項1に列挙される「BZRAP1」、「MDGA2」、「CLCNKA」などの遺伝子群「から選択される」核酸(遺伝子)であると認められる。 したがって、本願発明は、請求項1を引用しない形で記載すると、以下のとおりのものであると認められる。 「自閉症スペクトラム症に関連する、 17q22-q23 chr17:53733592-53761151に位置するBZRAP1(ベンゾジアゼピン受容体(末梢神経性)付随タンパク質1:Benzodiazapine receptor (peripheral) associated protein 1)、 14q21.3 chr14:46,170,380-47,422,368に位置するMDGA2(グリコシルホスファチジルイノシトール アンカー2を含むMAMドメイン:MAM domain containing glycosylphosphatidylinositol anchor 2)、 chr1:16221072-16233132に位置するCLCNKA(塩素チャネル Ka:chloride channel Ka)、 1q21-q22 chr1:155,013,407-155,202,154に位置するNTRK1(神経栄養性チロシンキナーゼ、受容体、タイプ1:Neurotrophic tyrosine kinase, receptor, type 1)、 1q41 chr1:213,752,880-214,875,391に位置するUSH2A(アッシャー症候群2A(受容常染色体、低刺激):Usher syndrome 2A (autosomal recessive, mild))、 2p16.3 chr2:49,712,184-51,360,413に位置するNRXN1(ニューレキシン1:Neurexin 1)、 2q23.3-q24.1 chr2:153,854,689-155,600,757に位置するGALNT13(UDP-N-アセチル-アルファ-D-ガラクトサミン:ポリペプチドN-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ:UDP-N-acetyl-alpha-D-galactosamine:polypeptide N-acetylgalactosaminyltransferase)、 3q24 chr3:157,059,820-157,149,414に位置するGMPS(グアニンモノホスフェート合成酵素:Guanine monophosphate synthetase)、 4p16.3 chr4:1,124,285-1,183,034に位置するSPON2(スポンジン2、細胞外マトリックスタンパク質:Spondin 2, extracellular matrix protein)、 4q31.3 chr4:151,217,225-152,344,150に位置するLRBA(LPS応答小胞輸送、ビーチ及びアンカーコンテイニング:LPS-responsive vesicle trafficking, beach and anchor containing)、 5p15.3 chr5:567,501-892,810に位置するTPPP(チューブリン重合促進タンパク質:Tubulin polymerization promoting protein)、 5q11.2 chr5:54,522,183-54,873,752に位置するSKIV2L2(スーパーキラーバイラリシディック活性2-様2:Superkiller viralicidic activity 2-like 2)(サッカロミセス・セレビシア)、 6p12.1 chr6:56,980,593-57,066,702に位置するKIAA1586、 6p22.1 chr6:26566167-26577844に位置するBTN2A1(ブチロフィリン、サブファミリー2、メンバーA1:Butyrophilin, subfamily 2, member A1)、 6q21 chr6:111409983-111453487に位置するBXDC1(Brixドメインコンテイニング1:Brix domain containing 1)、 6q22-q23 chr6:128,945,101-130,370,307に位置するLAMA2(ラミニン、アルファ 2 (メロシン、先天性筋ジストロフィー): Laminin, alpha 2 (merosin, congenital muscular dystrophy))、 7p21.2 chr7:14,015,810-15,013,734に位置するDGKB(ジアシルグリセロール キナーゼ、ベータ 90kDa:Diacylglycerol kinase, beta 90kDa)、 7q31.32 chr7:122,118,508-122,132,937に位置するRNF133(リングフィンガータンパク質133:Ring finger protein 133)、 7q31.33 chr7:122,118,508-122,132,937に位置するRNF148(リングフィンガータンパク質148:Ring finger protein 148)、 8p21.3 chr8:19,874,095-20,257,554に位置するSLC18A1(溶質輸送体ファミリー18(小胞モノアミン)、メンバー1:Solute carrier family 18 (vesicular monoamine ), member 1)、 9q32 chr9:115958051-116112796に位置するCOL27A(コラーゲン、タイプXXVII、アルファ1:Collagen, type XXVII, alpha 1)、 11p15.4 chr11:6762845-6763795に位置するOR2AG1(オルファクトリー受容体、ファミリー2、サブファミリーAG、メンバー1:Olfactory receptor, family 2, subfamily AG, member 1)、 11p15.4 chr11:6745814-6746764に位置するOR2AG2(オルファクトリー受容体、ファミリー2、サブファミリーAG、メンバー2:Olfactory receptor, family 2, subfamily AG, member 2)、 11q13.1 chr11:65094518-65095815に位置するSSSCA1(シェーグレン症候群/皮膚硬化症自己抗原1:Sjogren syndrome/scleroderma autoantigen 1)、 11q23 chr11:65,094,554-65,100,079に位置するFAM89B(配列類似性89を有するファミリー、メンバーB:Family with sequence similarity 89, member B)、 12p13.2 chr12:11310124-11313908に位置するPRB3(プロリン-リッチタンパク質BstNI サブファミリー3:Proline-rich protein BstNI subfamily 3)、 12q12-q13 chr12:51,444,040-51,501,855に位置するKRT3(ケラチン3:Keratin 3)、 12q21.3 chr12:83,670,976-83,958,489に位置するSLC6A15(溶質輸送体ファミリー66、メンバー15:Solute carrier family 6, member 15)、 13q22 chr13:70910098-71339331に位置するDACH1(ダックスフントホモログ1(ショウジョウバエ):Dachshund homolog 1 (Drosophila))、 15q11.2 chr15:19,812,808-20,018,007に位置するLOC650137(7膜貫通ヘリックス型受容体:Seven transmembrane helix receptor)、 15q11.2 chr15:19,812,808-20,018,007の間に位置するOR4M2(オルファクトリー受容体、ファミリー4、サブファミリーM、メンバー2:Olfactory receptor,family 4,subfamily M, member 2)及びOR4N4、 16p12.3 chr16:19,008,005-19,060,144に位置するLOC162073(仮想タンパク質LOC162073:hypothetical protein LOC162073)、 18p11.3 chr18:3,393,512-3,965,460に位置するDLGAP1(ディスクス、ラージ(ショウジョウバエ)タンパク質ホモログ11:Discs,large(Drosophila)homolog-associated protein 1)、 19p12 chr19:20,227,461-20,491,547に位置するFLJ44894 Homo sapiens cDNA FLJ44894 fis、clone BRAMY3000692, m 、 19p13.12 chr19:15480335-15524128に位置するCYP4F22(シトクローム P450、ファミリー4、サブファミリーF、ポリペプチド22:Cytochrome P450, family 4, subfamily F, polypeptide 22)、 19q13.2 chr19:47,126,828-47,329,282に位置するGRIK5(グルタメート受容体、イオンチャンネル型、カイニン酸5:Glutamate receptor, ionotropic, kainate 5)、 Xp22.3 chrX:2,656,547-2,925,352に位置するGYG2(グリコゲニン2:Glycogenin 2)、 Xp22.33 chrX:2,656,547-2,925,353に位置するXG(Xg擬似遺伝子、Y連鎖2:Xg pseudogene,Y-linked 2)、 Xq26.3 chrX:137,421,326-138,459,367に位置するFGF13(線維芽細胞成長因子13:Fibroblast growth factor 13)、並びに Xq27.1 chrX:139,908,245-139,941,724の間に位置するSPANXB1(SPANXファミリー、B1:SPANX family,B1)及びSPANXB2(SPANXファミリー、メンバーB2:SPANX family,member B2) から選択されるエクソン欠失含有CNVを含む核酸にハイブリダイズするプローブまたはプライマーの集団が付加された固体支持体または遺伝子チップを有する製品。」 第2 当審拒絶理由 平成29年1月25日付けの当審拒絶理由通知は、請求項2に係る発明は引用例1、2に記載された発明と同一であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないという理由を含むものである。 第3 当審の判断 1.引用例 (1)引用例1 当審拒絶理由において引用された、Nat. Genet., 2007, Vol. 39, No. 3, pp. 319-328,and Supplementary Table1(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。 (1-ア)「要約 自閉症スペクトル障害(ASD)は、一般的かつ遺伝的な神経発達状態である。ASDの遺伝的構成は複雑で、不均質性を乗り越えるために膨大なサンプルを必要とする。ここで我々は、アフィメトリクス(Affymetrix)10K SNPアレイを使用し、少なくとも2人の罹患者が存在する1181家族に対し、これらの家系のコピー数変異の解析を行うと共に、今までで最も大規模な連鎖調査を実行することによって、他のASD研究と比較してカバー率とサンプルサイズを広げている。連鎖とコピー数変異解析はそれぞれ、他の候補遺伝子座の中で、染色体11p12-13とニューレキシンを示している。ニューレキシンを、以前に示されていたニューロリジンと組み合わせて、グルタミン酸作動性シナプス形成に関して、グルタミン酸関連遺伝子をASDに貢献する有望な候補として浮かび上がらせた。」(319頁) (1-イ)「補足表1.分析で選別された624のCNVのリスト」 補足表1には、選別されたCNVのひとつとして「SKIV2L2」が記載されている。(補足表1の3枚目の中程) (2)引用例2 当審拒絶理由において引用された、Science, 2007, Vol. 316, No. 5823, pp. 445-449, and Supporting Online Material pp. 8-13(以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。 (2-ア)「我々は、新規コピー数変動(CNV)が自閉症スペクトル障害(ASD)に関連するという仮説を試験した。我々は、患者および非罹患対象のゲノムDNAに対して比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)を行って、それぞれの親に存在しないコピー数変異体を検出した。候補ゲノム領域は、より高い解像度のCGH、父親検査、細胞遺伝学、蛍光in situハイブリダイゼーション、およびマイクロサテライト遺伝子型決定によって検証された。確認された新生児CNVは自閉症と有意に関連していた(P = 0.0005)。そのようなCNVは、散発性自閉症の患者の118人中12人(1%が罹患している患者の77%(3%)、対照の196人中2人(1%))で同定された。ほとんどの新生児CNVは顕微鏡分解能よりも小さかった。影響を受けたゲノム領域は非常に不均一であり、単一遺伝子の突然変異を含んでいた。これらの知見は、以前に認識されたよりもASDのより重要な危険因子として新たな生殖系列突然変異を確立する。」(445頁、要約の項) (2-イ)「我々は、264家族のサンプルについて、高解像度のゲノムマイクロアレイ解析を行って、罹患したおよび罹患していない子供の新規コピー数変異の割合を決定した。」(445頁右欄1?5行) (2-ウ)「我々は被験者およびその生物学的親から採取した全血またはエプスタイン - バーウイルス(EBV)不死化B細胞またはその両方から調製したDNAサンプルを分析した。ゲノムスキャンは、以前に記載された比較ゲノムハイブリダイゼーションの一形態であるROMAによって行われた(8,16)。各サンプルをオリゴヌクレオチドアレイに共ハイブリダイズすることにより2色アッセイを行い、比較のために標準参照ゲノムSKN1を使用した。アッセイは、染料を用いて二重に行った。このアレイは85,000プローブからなり、35kbごとに1プローブの平均分解能を提供した。 2回のスキャンからの対数強度比を平均し、標準化された比データを隠れマルコフモデルでセグメント化してCNVを基準(8)と比較した(わずかな変更を加えて)。」(446頁左欄11?28行) (2-エ)「表S3.新規のコピー数変動内に位置する遺伝子 ROMAによって検出された新規のCNV のhg17/build35開始位置および終了位置に基づいて、RefSeqからCNVセグメントと重複する注釈好き遺伝子を得た。RefSeq注釈はUCSCゴールデンパス注釈データベース(http://hgdownload.cse.ucsc.edu/goldenPath/hg17/datebase)から入手した。」 表S3(補足表3)には、CNVセグメントと重複する遺伝子として「OR4M2」と「OR4N4」が記載されている。(補足表3の2枚目、クロモソーム15の2、3番目) 2.引用発明 (1)引用発明1 上記1.の(1)より、引用例1には以下の発明が記載されていると認められる。 「自閉症スペクトル障害(ASD)罹患者が存在する家系おいて選別される、コピー数変異(CNV)を有する遺伝子「SKIV2L2」を検出する、アフィメトリクス(Affymetrix)10K SNAPアレイ。」 (2)引用発明2 上記1.の(2)より、引用例2には以下の発明が記載されていると認められる。 「自閉症スペクトル障害(ASD)に関連するコピー数変動(CNV)と重複する遺伝子「OR4M2」と「OR4N4」を検出する、85,000プローブからなるゲノムマイクロアレイ。」 3.対比、判断 (1)引用発明1に対し 本願発明と引用発明1を対比する。 引用発明1の「自閉症スペクトル障害(ASD)罹患者が存在する家系おいて選別される、コピー数変異(CNV)を有する遺伝子「SKIV2L2」」は、本願発明の「自閉症スペクトラム症に関連する、 『5q11.2 chr5:54,522,183-54,873,752に位置するSKIV2L2(スーパーキラーバイラリシディック活性2-様2:Superkiller viralicidic activity 2-like 2)(サッカロミセス・セレビシア)』である、・・・CNVを含む核酸」に相当すると認められる。 また、引用発明1の「アフィメトリクス(Affymetrix)10K SNPアレイ」は、基板上に多数の標的遺伝子にハイブリダイズするプローブを高密度(10K)で固定した、いわゆるDNAマイクロアレイであると認められるところ、DNAマイクロアレイは、通常、1つの標的遺伝子に対して複数のプローブ備えているものであるから、引用発明1の「アフィメトリクス(Affymetrix)10K SNPアレイ」は、本願発明の「核酸にハイブリダイズするプローブまたはプライマーの集団が付加された固体支持体または遺伝子チップを有する製品」に相当すると認められる。 そして、引用発明1のアレイは、「SKIV2L2」にハイブリダイズするプローブを有するものであることは明らかである。 したがって、両者は、 「自閉症スペクトラム症に関連する、 『5q11.2 chr5:54,522,183-54,873,752に位置するSKIV2L2(スーパーキラーバイラリシディック活性2-様2:Superkiller viralicidic activity 2-like 2)(サッカロミセス・セレビシア)』である、CNVを含む核酸にハイブリダイズするプローブまたはプライマーの集団が付加された固体支持体または遺伝子チップを有する製品。」である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1) プローブがハイブリダイズする核酸が含むCNVについて、本願発明では「エクソン欠失含有CNV」と特定されているのに対して、引用発明1では「CNV」である点。 そこで、相違点1について検討する。 本願発明には、「エクソン欠失含有CNVを含む核酸にハイブリダイズする」と特定されており、本願発明の「製品」が有する「プローブ」は、「SKIV2L2」という核酸にハイブリダイスすることが特定されていると認められるが、このハイブリダイズが「SKIV2L2」のエクソン欠失部分に特定されているとは認められない。 そうすると、本願発明のハイブリダイズは、「SKIV2L2」中の任意の核酸配列にハイブリダイズする場合を包含するから、本願発明のハイブリダイズは、引用発明1の「アフィメトリクス(Affymetrix)10K SNAPアレイ」の有するプローブが「SKIV2L2」とハイブリダイズする場合と区別できない。 したがって、相違点1は、実質的な相違点とはいえない。 よって、本願発明は、引用例1に記載された発明と同一であると認められる。 (2)引用発明2に対し 引用発明2の「自閉症スペクトル障害(ASD)に関連するコピー数変動(CNV)と重複する遺伝子「OR4M2」と「OR4N4」」は、本願発明の「自閉症スペクトラム症に関連する、 『15q11.2 chr15:19,812,808-20,018,007の間に位置するOR4M2(オルファクトリー受容体、ファミリー4、サブファミリーM、メンバー2:Olfactory receptor,family 4,subfamily M, member 2)及びOR4N4』である、・・・CNVを含む核酸」に相当すると認められる。 また、引用発明2の「ゲノムマイクロアレイ」は、基板上に多数の標的遺伝子にハイブリダイズするプローブを高密度(85,000)に固定した、DNAマイクロアレイであると認められるから、引用発明2の「ゲノムマイクロアレイ」は、本願発明の「核酸にハイブリダイズするプローブまたはプライマーの集団が付加された固体支持体または遺伝子チップを有する製品」に相当すると認められる。 そして、引用発明2のゲノムマイクロアレイは、「OR4M2」と「OR4N4」にハイブリダイズするプローブを有するものであることは明らかである。 したがって、両者は、 「自閉症スペクトラム症に関連する、 『15q11.2 chr15:19,812,808-20,018,007の間に位置するOR4M2(オルファクトリー受容体、ファミリー4、サブファミリーM、メンバー2:Olfactory receptor,family 4,subfamily M, member 2)及びOR4N4』である、CNVを含む核酸にハイブリダイズするプローブまたはプライマーの集団が付加された固体支持体または遺伝子チップを有する製品。」である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点2) プローブがハイブリダイズする核酸が含むCNVについて、本願発明では「エクソン欠失含有CNV」と特定されているのに対して、引用発明2では「CNV」である点。 そこで、相違点2について検討する。 本願発明の「製品」が有する「プローブ」は、「OR4M2」及び「OR4N4」という核酸にハイブリダイスすることが特定されていると認められるが、このハイブリダイズが「OR4M2」及び「OR4N4」のエクソン欠失部分に特定されているとは認められない。 そうすると、本願発明のハイブリダイズは、「OR4M2」及び「OR4N4」中の任意の核酸配列にハイブリダイズする場合を包含するから、本願発明のハイブリダイズは、引用発明2の「ゲノムマイクロアレイ」の有するプローブが「OR4M2」、「OR4N4」とハイブリダイズする場合と区別できない。 したがって、相違点2は、実質的な相違点とはいえない。 よって、本願発明は、引用例2に記載された発明と同一であると認められる。 4.審判請求人の主張について 審判請求人は平成29年7月31日付け意見書において、概ね以下の点を主張している。 引用例1、2に記載のアレイは、ASDに関連するCNVを含有する核酸を同定できない何万ものプローブを含むものである。 引用例1、2には、請求項1に列挙される遺伝子の組み合わせが、ASD表現型に関連する大きなエクソン欠失を有することは何ら開示も示唆もしていない。 しかし、請求項2には、本願発明の「製品」が、請求項1に列挙される多数の遺伝子の組み合わせの全てを標的とする多数のプローブを含むことや、請求項1に列挙される遺伝子以外の遺伝子を標的とするプローブを有さないこと、プローブがエクソン欠失部分を標的とすることは特定されておらず、審判請求人の主張は、請求項2の特定に基づかないものであり、失当である。 なお、審判請求人は「大きなエクソン欠失を有する」と主張しているが、本願における「エクソン欠失」ついて、以下の点を念のために付言する。 平成29年7月31日付け手続補正書により、請求項1において「エクソン欠失は1kBまたはそれ以上の長さである」点が特定された。 しかし、外国語書面の翻訳文には、この点は記載されておらず、この点は外国語書面の翻訳文のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものとはいえない。 審判請求人は段落【0013】の記載を補正の根拠としているが、段落【0013】には、「コピー数多型(CNV)」は一個体の遺伝子型において特定の遺伝子のコピー数に関連する。CNVはヒトの表現型多様性の主要な遺伝的要素を示している。遺伝疾患への感受性は、単一ヌクレオチド多型のみに関連するのではなく、CNVを含む構造的及び他の遺伝的変異にも関連することが知られている。CNVは、DNAフラグメントを含むコピー数変化、1キロベース(kb)またはそれ以上を示す(Feuk et al.2006 Nature.444:444?54.)。ここに記載されるCNVは、将来におけるCNV分析の複雑さを最小限にするため転移性遺伝要素(例えば、?6kb KpnI繰り返し)の挿入/削除によって生じる変異を含まない。したがって、CNVという語は大規模コピー数変異(LCVs;Iafrate et al.2004,Nature Genetics 36:949?51)、コピー数多型性(CNPs;Sebat et al.2004 Science 305:525?8.)、中間サイズの変異体(ISVs;Tuzun et al.2006 Genome Res.16:949?961)及びeDELのような以前に導入された語を包括しているが、レトロポゾンの挿入は含まれない。」と記載され、「コピー数多型(CNV)」と呼ばれる変化が1kbまたはそれ以上であることは記載されているが、「エクソン欠失は1kBまたはそれ以上の長さである」ことが示されているとは認められない。 5.小活 よって、本願発明は引用例1、2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 第4 むすび 以上のとおり、この出願の請求項2に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-08-17 |
結審通知日 | 2017-08-22 |
審決日 | 2017-09-08 |
出願番号 | 特願2011-536563(P2011-536563) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
WZ
(C12N)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 渡邉 潤也、星 浩臣、吉田 知美、田中 晴絵 |
特許庁審判長 |
田村 明照 |
特許庁審判官 |
中島 庸子 高堀 栄二 |
発明の名称 | ヒト認知の原因となる遺伝子変異体及び診断標的及び治療標的としてのそれらを使用する方法 |
代理人 | 矢口 太郎 |
代理人 | 矢口 太郎 |
代理人 | 矢口 太郎 |