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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08J
管理番号 1336797
審判番号 不服2016-14892  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-10-04 
確定日 2018-01-24 
事件の表示 特願2014-505457「難燃性発泡性ポリマー」拒絶査定不服審判事件〔平成24年10月26日国際公開、WO2012/142635、平成26年6月19日国内公表、特表2014-514409〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年4月17日(パリ条約による優先権主張2011年4月18日、(AT)オーストリア共和国)を国際出願日とする出願であって、平成27年8月28日付けで拒絶理由が通知され、平成28年1月18日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年年6月1日付けで拒絶査定がされたところ、同年10月4日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。


第2 本願発明
本願請求項1?18に係る発明は、平成28年1月18日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?18で特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりである。

本願発明1:
「少なくとも1種の発泡剤を含む難燃性発泡性ポリマーであって、
下記式で示されるリン化合物塩(10‐ヒドロキシ‐9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン‐10-オキシドアンモニウム塩)又は式(1c)で示されるその開環加水分解物の少なくとも1種が難燃剤として含有されることを特徴とする発泡性ポリマー。
【化1】

【化2】

(但し、式(1c)におけるR+がNH_(4)^(+)である)



また、本願の請求項1を直接引用する請求項5に係る発明(以下、「本願発明5」という)は、請求項1の記載を書き下して表記すると、次のとおりである。

本願発明5:
「少なくとも1種の発泡剤を含む難燃性発泡性ポリマーであって、
下記式で示されるリン化合物塩(10‐ヒドロキシ‐9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン‐10-オキシドアンモニウム塩)又は式(1c)で示されるその開環加水分解物の少なくとも1種が難燃剤として含有され、
【化1】

【化2】

(但し、式(1c)におけるR+がNH_(4)^(+)である)
さらに、硫黄及び/又は硫黄含有化合物を、難燃相乗剤として含有することを特徴とする発泡性ポリマー。」


第3 原査定の概要

原査定における拒絶の理由の概要は次のとおりである。

理由1.(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

理由2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

●理由1、2(特許法第29条第1項第3号第29条第2項)について
・請求項 1-8、10-11、13-18
・引用文献等 1または2

<引用文献等一覧>
1.国際公開第2011/035357号(摘記箇所については、特表2013-506009号公報を参照)
2.省略
3.省略


第4 引用例及び引用発明

1.引用例の記載
本願の優先日前に頒布されたことが明らかな国際公開第2011/035357号(以下、「引用例」という。)には次のとおりの記載がある。なお、引用例はドイツ語で書かれた文献であることから、その日本語翻訳文として、対応する日本の公表特許公報である特表2013-506009号公報の記載を並記する。なお、指摘箇所の表示は、国際公開第2011/035357号、特表2013-506009号公報の順で示しており、下線は合議体によるものである。





「【請求項17】
少なくとも一つの発泡剤を含む防炎性の発泡性重合体において、
難燃剤として、少なくとも一つの以下の一般式(I)のリン化合物:
【化2】

(ここで、各Rは独立に、-H、置換又は無置換の炭素数1?15のアルキル、炭素数1?15のアルケニル、炭素数3?8のシクロアルキル、炭素数6?18のアリール、炭素数7から30のアルキルアリール、炭素数1?8のアルコキシ若しくは炭素数1?8のアルキルチオ又は-OH若しくは-SH並びにそれらのアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム又はホスホニウム塩を表す)
或いはその加水分解物又は塩が含まれている防炎性の発泡性重合体であって、イオウ及び/又は少なくとも一つのイオウ含有化合物及び/又はイオウ化合物が、追加の難燃剤又は協力剤として含まれていることを特徴とする防炎性の発泡性重合体。
【請求項18】
各々の残基Rが、炭素原子1?4個、より好ましくは炭素原子1又は2個のアルキル基、アルコキシ基又はアルキルチオ基を表すことを特徴とする請求項17に記載の発泡性重合体。
【請求項19】
各々の残基Rが、イオウ含有及び/又はリン含有置換基を有していることを特徴とする請求項17又は18に記載の発泡性重合体。
【請求項20】
9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド(DOPO)
【化3】

、その加水分解物又は金属塩が、リン化合物として含まれていることを特徴とする請求項17乃至19の何れか一つに記載の発泡性重合体。」(第35頁第6行?第36頁第2行、特許請求の範囲の請求項17?20)





「【0086】
本発明の第二の特徴(請求項17?33)
第二の特に有益な特徴において、本発明は、少なくとも一つの発泡剤を含む防炎性の発泡性重合体に関し、この重合体には、難燃剤として、少なくとも一つの以下の一般式(I)のリン化合物:
【0087】
【化4】

(ここで、各残基Rは独立に、-H、置換又は無置換の炭素数1?15のアルキル、炭素数1?15のアルケニル、炭素数3?8のシクロアルキル、炭素数6?18のアリール、炭素数7?30のアルキルアリール、炭素数1?8のアルコキシ若しくは炭素数1?8のアルキルチオ又は-OH若しくは-SH並びにそれらのアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム又はホスホニウム塩を表す)
或いはその加水分解物又は塩が含まれている。
【0088】
本発明の第二の特徴によれば、本発明は、さらにこれらの重合体の製造方法に関し、さらにこれらの難燃剤を用いて保護された高分子発泡体及びその製造方法に関し、また発泡性重合体及び高分子発泡体における上記の難燃剤の特定の用法にも関する。
【0089】
難燃剤を用いる高分子発泡体の改質は、多くの分野において、重要かつ/又は必須である。建物用断熱材としての発泡性ポリスチレン(EPS)のポリスチレン粒子発泡体の使用又は押出ポリスチレン発泡体プレート(XPS)の使用に関する規則は、ほとんどの場合、防炎の改質を要求している。ポリスチレンの単独重合体及び共重合体は、大部分、ハロゲンを含有する有機化合物、特に、臭素化された有機化合物、例えばヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)などによって耐炎性にされている。しかしながら、この及び多くの他の臭素化された物質は、それらの潜在的な環境及び健康の危害のおそれのために、議論に曝されているか又は既に禁止されている。
【0090】
代替物として、多数のハロゲンを含まない難燃剤が存在している。しかしながら、ハロゲン化された難燃剤と同様の難燃剤効果を得るためには、ハロゲンを含有しない難燃剤は、著しく多量に使用する必要がある。
【0091】
このことの部分的理由は、コンパクト熱可塑性ポリマーに用いることのできるハロゲンを含まない難燃剤は、しばしば、それらが、発泡過程を阻害するか或いは高分子発泡体の機械的及び熱的特性に悪影響を与えるので、高分子発泡体には同様の態様で用いることができないことである。加えて、懸濁重合による発泡性ポリスチレンの製造において、多量の難燃剤が、懸濁液の安定性を低下させ、製造方法を阻害するか又は製造方法に悪影響を与えることがある。
【0092】
高分子発泡体において、コンパクトポリマーに用いられる難燃剤の効果は、斯かる発泡体の特徴及び異なる燃焼挙動のため又は異なる燃焼試験のため、しばしば予測することができない。
【0093】
先行技術から、これに関連して、国際公開第 2006/027231号には、高分子発泡体用のハロゲンを含まない難燃剤が記載されており、この難燃剤は、大部分が独立気泡の高分子発泡体の製造を可能にしながら、発泡過程に実質上悪影響を与えない。この難燃剤は、1970年代初期から公知で使用されているリン化合物であり、このリン化合物は、例えば、日本国特許公開第2004-035495号、日本国特許公開第2002-069313号又は日本国特許公開第2001-115047号に従って製造することができる。リン化合物リン化合物:9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド (6H-ジベンズ[c,e]-オキサホスホリン-6-オキシド、DOPO、CAS[35948-25-5])が、排他的にではないが、特に好ましい。
【0094】
【化5】

この難燃剤は、既にある程度効果的に使用することができるが、難燃剤の含有率をできるだけ低いレベルに保ちながら又は難燃剤の含有率を上げることなしに、斯かる重合体及び高分子発泡体をさらにいっそう耐火性にする要求がある。
【0095】
したがって、本発明の第二の特徴の目的は、低い難燃剤含有率と良好な品質を有する十分に耐火性、防炎性で発泡性の重合体を作り出すことである。」(第17頁第1行?第18頁第32行、段落【0086】?【0095】)





「【0099】
これらの目的は、独立請求項17、26、29及び33によって達成される。
【0100】
本発明の第二の特徴による目的は、重合体に関して請求項17の特徴要件事項部の特徴により、難燃剤又は協力剤として、さらにイオウ及び/又は少なくとも一つのイオウ含有化合物若しくはイオウ化合物を添加することによって達成される。
【0101】
驚くべきことに、このようにして炎に対して保護されている重合体及び高分子発泡体は、予想外のレベルまで向上した難燃効果を有することが分かった。そのため、難燃剤の総量を減らすことができ、このことが、例えば、製造方法、費用、製品の機械的特徴などに関して多くの利点をもたらす。特に、発泡過程及び発泡体の機械的特徴が、ほとんど影響を受けず、このことが質の高い製品に帰着する。」(第19頁第12?25行、段落【0099】?【0101】)





「【0106】
リン化合物の特に好ましい代表は、化合物9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド(DOPO)
【0107】
【化6】

及びその開環加水分解物である。
【0108】
さらに別の好ましいリン化合物においては、R1は、-OH、-ONH4、-SH、-S-DOPO又は-S-DOPSである。これは、以下のリン化合物をもたらす:9,10-ジヒドロ-10-ヒドロキシ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド(DOPO-OH)、9,10-ジヒドロ-10-ヒドロキシ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシドアンモニウム塩(DOPO-ONH_(4))、9,10-ジヒドロ-10-メルカプト-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド(DOPO-SH)、ビス(9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-イル)オキシド(DOPO-S-DOPO)、又は9,10-ジヒドロ-10-(9,10-ジヒドロ-10-ヒドロキシ-9-オキサ-10-ホスファ-10-チオキサフェナントレン-10-イルチオ)9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド(DOPO-S-DOPS)。」(第20頁第17?30行、段落【0106】?【0108】)





「【0110】
イオウ化合物としては、例えば、硫化物、亜硫酸塩、硫酸塩、スルファン、スルホキシル酸塩、スルホン、チオ硫酸塩、亜チオン酸塩、チオン酸塩、二硫酸塩、スルホキシド、窒化イオウ、ハロゲン化イオウ及び/又はチオール、チオエーテル、チオフェンなどの有機イオウ化合物、などを有益に使用することができる。
【0111】
特に適しているのは、イオウ元素及びイエロー・シクロオクタサルファー(S8)であり、得られるEPS粒状体に基づいて0.1?10重量%、好ましくは0.5?5重量%、最も好ましくは約2重量%の量で添加されるのがよい。
【0112】
イオウ含有化合物又はイオウ化合物が、115℃より低温で熱重量分析(TGA)により分析して10重量%未満の重量損失を示す場合、例えば、チオ硫酸アンモニウム、ジカプロラクタムジスルフィド、ポリ硫化フェニレン、硫化亜鉛などが好都合である。
【0113】
イオウ含有化合物又はイオウ化合物が、少なくとも一つのイオウ原子が二価の形で存在する少なくとも一つのS-S結合を有している場合、例えば、二亜硫酸塩、亜ジチオン酸塩、シスチン、アミルフェノールジスルフィド、ポリ-tert-ブチルフェノールジスルフィドなどが特に有益である。」(第21頁第6?24行、段落【0110】?【0113】)





「【0139】
本発明で使用することのできる式(I)によるリン化合物及びそれらの製造方法は、本技術分野における当業者には知られている。発泡性重合体が防炎性にされる製造方法、例えば、粒状体又はビーズの形態のEPSの製造方法それ自体は、当業者に知られている。上記の難燃剤並びにイオウ又はイオウ化合物を含む本発明によるポリマーの製造は、ほぼ類似している。例えば、国際公開第2006/027241号の代表的な実施の形態を用いることができる。高分子発泡体及びXPSについても同様である。」(第26頁第4?11行、段落【0139】)





「【0142】
実施例1(代表的実施の形態 DOPO7.5%+S):
スチレンポリマー(SUNPOR EPS-STD、6重量%ペンタン、鎖長 重量平均分子量(Mw)=200000g/mol、多分散性 重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)=2.5)に、得られるEPS粒状体に基づいて、7.5重量%の9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド(DOPO)と2重量%のイエローサルファー(S8)が、二軸押出機の取り込み領域において混合され、押出機内で190℃で溶融された。そのようにして得られたポリマー溶融物は、20kg/hのスループットでノズル板を通って搬送され、加圧水中造粒機(pressurized underwater granulator)を用いてコンパクトEPS粒状体に粒状化された。
実施例2(代表的実施の形態 DOPO15%+S):
実施例1が繰り返されたが、得られるEPS粒状体に基づいて、15重量%の9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド(DOPO)が混合されたことが異なる。
実施例3(代表的実施の形態 DOPO15%+ATS):
実施例2が繰り返されたが、得られるEPS粒状体に基づいて、6重量%のチオ硫酸アンモニウムが混合されたことが異なる。
実施例4(代表的実施の形態 DOPO15%+DCDS):
実施例2が繰り返されたが、得られるEPS粒状体に基づいて、7重量%のジカプロラクタムジスルフィド(DCDS)が混合されたことが異なる。
実施例5(実施例1に対する比較例 DOPO7.5%単独、S不使用):
実施例1が繰り返されたが、イオウが添加されなかったことが異なる。
実施例6(実施例2に対する比較例 DOPO15%単独、S不使用):
実施例2が繰り返されたが、イオウが添加されなかったことが異なる。
実施例7(比較例 S単独、DOPO不使用):
スチレンポリマー(SUNPOR EPS-STD、6重量%ペンタン、鎖長 重量平均分子量(Mw)=200000g/mol、多分散性 重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)=2.5)に、得られるEPS粒状体に基づいて、2重量%のイエローサルファー(S8)が、二軸押出機の取り込み領域において混合され、押出機内で190℃で溶融された。そのようにして得られたポリマー溶融物は、20kg/hのスループットでノズル板を通って搬送され、加圧水中造粒機を用いてコンパクトEPS粒状体に粒状化された。
実施例8(比較例 HBCD単独、S不使用、DOPO不使用):
スチレンポリマー(SUNPOR EPS-STD、6重量%ペンタン、鎖長 重量平均分子量(Mw)=200000g/mol、多分散性 重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)=2.5)に、得られるEPS粒状体に基づいて、2重量%のHBCD(ヘキサブロモシクロドデカン)が、二軸押出機の取り込み領域において混合され、押出機内で190℃で溶融された。そのようにして得られたポリマー溶融物は、20kg/hのスループットでノズル板を通って搬送され、加圧水中造粒機を用いてコンパクトEPS粒状体に粒状化された。
【0143】
以下の表1は、規定した試験体の燃焼挙動、安定性すなわち発泡させた発泡体ビーズの崩壊までの時間及び臭気を試験した結果を、明瞭に併記している。
【0144】
【表2】


【0145】
右側の欄の実験結果は、上述の実施例1?8の製造物についての試験によって得られた。
【0146】
例えば、DOPOのみによって炎に対して保護され、イオウによっては炎に対して保護されていない重合体又は発泡体に相当する実施例6は、実施例2、3及び4には同量のDOPOが含まれているので、それらの実施例に対する直接の対照である。
【0147】
先行技術に対するもう一つの対照は、実施例8である。全ての実験における全ての評価は、結果が数字1?5によって示され、低い数字、特に1は、より有益な傾向があり、高い数字、特に5は、より不都合であることにおいて、この参考実験8を参照している。
詳細な説明
燃焼試験(表1の第2欄):
実施例から得られたEPS粒状体は、飽和蒸気によって予め発泡されて15?25kg/m^(3)の粗密度を有する発泡体ビーズにして、24時間保管し、成形装置内で発泡体プレートに成形された。
【0148】
厚さ2cmの試験片が、発泡体プレートから切り取られ、それらは、72時間後、DIN4102-2(B2-小炎試験)による燃焼試験において、70℃で状態調節を受けた。
【0149】
1?5の数字で採点した結果は、ヘキサブロモシクロドデカンによって防炎されたEPS(実施例8)との関連で評価された。これに関連し、「燃焼試験」の表題の付いた欄における1の点数は、試験物質が、HBCDによって保護されたEPSと同様に、その燃焼挙動に関して作用したことを示している。5の点数は、燃焼挙動が非常に劣っており、防炎されていないEPSの燃焼挙動と等しいことを示している。
発泡体構造の安定性(表1の第3欄):
実施例から得られたEPS粒状体を、飽和蒸気に曝し、ビーズが崩壊し始めるまでの時間を測定した。結果の概要において、この時間は、難燃剤を含まないEPS粒子に関連して評価された。リンに基づく難燃剤の軟化効果により、EPS粒子は、予備発泡の間、異なる安定性を示した。
【0150】
第3欄において、1の値は、ビーズが通常の安定性を有していたことを示している。5の値は、成形に適したであろう発泡体構造が形成されることなしに、ビーズが直ちに崩壊したことを示している。
臭気(表1の第4欄)
実施例から得られたEPS粒状体を、飽和蒸気によって予め発泡して15?25kg/m^(3)の粗密度を有する発泡体ビーズにして、24時間保管し、成形装置内で発泡体プレート
に成形した。
【0151】
2cmの厚さを有する試験体が、発泡体プレートから切り取られ、数人の研究室のスタッフによる臭気の官能試験を受けた。評価は、スコア1に対応する「感知できず」からスコア5の「不快でいやである」までの基準に従って主観的に行われた。
【0152】
これらの結果から明らかに分かるように、実施例2、3及び4の材料は、実施例6の材料と比較して、燃焼試験において著しく向上した結果を示している。実施例7から分かるように、イオウ単独の添加は、比較的劣る燃焼挙動をもたらすが、実験2?4は、驚くべき良好な結果をもたらした、これらの結果は、この高い程度でとは、予想することができなかった。本発明によるポリマー及び発泡体或いは本発明によって保護されたポリマー及び発泡体は、したがって、DOPOのみによって保護されたポリマー及びイオウのみによって処理されたポリマーの両方よりも、かなり有益である。
【0153】
たとえ少量のDOPOでも、明らかな予想外の耐火性の向上及び改善が示された(実施例5と比較して実施例1)。
【0154】
また、驚くべきことに、安定性がほとんど影響を受けず、それどころか向上さえした。
【0155】
臭気に関しては、イオウ含有物質の添加が、検知可能な影響を有していたが、例えば、ジカプロラクタムジスルフィドを用いている実験4において、その影響はどちらかというと穏やかであった。」(第26頁第22行から第30頁第3行、段落【0142】?【0155】)

2.引用発明
摘示アの特許請求の範囲の請求項17には、次の発明が記載されている。
「【請求項17】
少なくとも一つの発泡剤を含む防炎性の発泡性重合体において、
難燃剤として、少なくとも一つの以下の一般式(I)のリン化合物:
【化2】

(ここで、各Rは独立に、-H、置換又は無置換の炭素数1?15のアルキル、炭素数1?15のアルケニル、炭素数3?8のシクロアルキル、炭素数6?18のアリール、炭素数7から30のアルキルアリール、炭素数1?8のアルコキシ若しくは炭素数1?8のアルキルチオ又は-OH若しくは-SH並びにそれらのアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム又はホスホニウム塩を表す)
或いはその加水分解物又は塩が含まれている防炎性の発泡性重合体であって、イオウ及び/又は少なくとも一つのイオウ含有化合物及び/又はイオウ化合物が、追加の難燃剤又は協力剤として含まれていることを特徴とする防炎性の発泡性重合体。」

上記摘示アの請求項17に記載された発明において、リン化合物が一般式(I)で表されるところ、摘示エには、「さらに別の好ましいリン化合物」として具体的に5種類の化合物の例が示されており、そのうちの一つである「9,10-ジヒドロ-10-ヒドロキシ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシドアンモニウム塩(DOPO-ONH_(4))」を適用した発明も、引用例に記載されているといえる。
したがって、引用例には、上記請求項17に記載された発明において、リン化合物として、「9,10-ジヒドロ-10-ヒドロキシ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシドアンモニウム塩(DOPO-ONH_(4))」を書き下した次の発明が記載されている(以下、「引用発明1」という。)。

引用発明1:
「少なくとも一つの発泡剤を含む防炎性の発泡性重合体において、
難燃剤として、少なくとも以下のリン化合物:
9,10-ジヒドロ-10-ヒドロキシ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシドアンモニウム塩(DOPO-ONH_(4))
が含まれている防炎性の発泡性重合体であって、イオウ及び/又は少なくとも一つのイオウ含有化合物及び/又はイオウ化合物が、追加の難燃剤又は協力剤として含まれている防炎性の発泡性重合体。」

また、摘示アにおいて請求項17を直接引用する請求項20に着目すると、次の発明も引用例に記載されている。なお、請求項の引用関係に基づき、請求項17の記載を請求項20の中で書き下して整理したものを示す(以下、「引用発明2」という。)。

引用発明2:
「 少なくとも一つの発泡剤を含む防炎性の発泡性重合体において、
難燃剤として、少なくとも一つの以下のリン化合物:
9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド(DOPO)
【化3】

、その加水分解物又は金属塩が含まれている防炎性の発泡性重合体であって、イオウ及び/又は少なくとも一つのイオウ含有化合物及び/又はイオウ化合物が、追加の難燃剤又は協力剤として含まれている防炎性の発泡性重合体。」


第5 当審の判断

1.特許法第29条第1項第3号について
(1)本願発明1と引用発明1について
引用発明1の「防炎性」という性質は、当該引用発明1における難燃剤を添加することによって得られる性質であるから、本願発明1の「難燃性」と同じ意味であるといえる。
引用発明1の「発泡性重合体」は、本願発明1の「発泡性ポリマー」と同じであることは明らかである。
引用発明1の「リン化合物:9,10-ジヒドロ-10-ヒドロキシ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシドアンモニウム塩(DOPO-ONH_(4))」は、本願発明1の下記式で表される「リン化合物塩(10‐ヒドロキシ‐9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン‐10-オキシドアンモニウム塩)」

に対して、置換位置と置換基の種類が同じであって、単に置換位置の表記の順序が異なるだけであるため、実際には同じ化合物を意味していることは明らかである(以下、これらの二つの記載で表される化合物は同じものとして扱う。)。
したがって、本願発明1と引用発明1とは、
「少なくとも1種の発泡剤を含む難燃性発泡性ポリマーであって、
下記式で示されるリン化合物塩(10‐ヒドロキシ‐9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン‐10-オキシドアンモニウム塩)又は式(1c)で示されるその開環加水分解物の少なくとも1種が難燃剤として含有されることを特徴とする発泡性ポリマー。
【化1】

【化2】

(但し、式(1c)におけるR+がNH_(4)^(+)である)」
という点で一致しており、下記の点で一応相違している。

(相違点1)
引用発明1は、さらなる成分として「イオウ及び/又は少なくとも一つのイオウ含有化合物及び/又はイオウ化合物が、追加の難燃剤又は協力剤として含まれている」ものであるのに対し、本願発明1にはそれを含むとの記載がない点。

上記相違点1について検討する。本願発明1における発泡性ポリマーに含有される成分は、「少なくとも1種の発泡剤」と、「リン化合物塩(10‐ヒドロキシ‐9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン‐10-オキシドアンモニウム塩)又は式(1c)で示されるその開環加水分解物の少なくとも1種」の「難燃剤」であることが特定されているところ、それ以外の成分を含まないとの記載はない。加えて、本願請求項1の下位請求項に当たる本願請求項5に係る発明は「さらに、硫黄及び/又は硫黄含有化合物」を含有するものであり、本願明細書の段落【0031】?【0032】には、硫黄及び/又は硫黄含有化合物及び/又は硫黄化合物を相乗剤(synergist)として、リン化合物と併用すると火炎抑制効果を驚くほど向上させることが明らかになった旨記載されていることを考慮すると、上位請求項に当たる本願請求項1に係る発明、すなわち本願発明1が、「硫黄及び/又は硫黄含有化合物」を含有する場合の発明も概念上包含していることは明らかである。
したがって、本願発明1の発泡性ポリマーに添加する成分として、「少なくとも1種の発泡剤」と、「リン化合物塩(10‐ヒドロキシ‐9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン‐10-オキシドアンモニウム塩)又は式(1c)で示されるその開環加水分解物の少なくとも1種」の「難燃剤」の成分以外に明示的な記載はないものの、これらの成分のみからなる発明に限定されるものとはいえず、他の成分を含有する発明も概念上包含されていると解すべきであるから、上記相違点1については実質的な相違点ではない。
以上のことから、本願発明1と引用発明1には相違点は無いから、両者は同一の発明である。

(2)本願発明5と引用発明1について
両発明は、上記(1)で検討した一致点に加え、「硫黄及び/又は硫黄含有化合物」をさらに含有する点で一致しているが、下記の点で一応相違している。

(相違点2)
硫黄及び/又は硫黄含有化合物をさらに含有させるときの機能として、本願発明5は「難燃相乗剤として」と記載されているのに対し、引用発明1では「追加の難燃剤又は協力剤として」と記載されている点。

上記相違点2について検討する。引用発明における「追加の難燃剤又は協力剤」のうち「協力剤」とは、リン化合物である難燃剤が発揮する難燃性に「協力」するものと解されるから、難燃性という効果に相乗的な効果を与え得るものといえる。
さらに、引用例について、対応する日本特許公表公報において「協力剤」と翻訳された語は、原文であるドイツ語の国際公開第2011/035357号の摘示アにおける請求項17をみると、「-synergist」と記載されている。一方、本願明細書の段落【0031】にも「相乗剤(synergist)」という記載がある。してみると、上記相違点2は、単に翻訳によって生じた差異であるとも言え、本来ドイツ語で「synergist」という同じ用語で表現された「剤」であったと理解することができる。
したがって、上記相違点2については、機能上の表現に関わる相違点であるところ、互いに同じ概念であるといえるから、相違点2は実質的な相違点にならない。
なお、上記相違点2のように機能上の表現の差異があるにしても、結局のところ、両発明において添加される物自体は、「硫黄及び/又は硫黄含有化合物」で共通しているのであるから、本願発明1及び引用発明5に係る発泡性ポリマーという物に含有される一成分という点において何ら変わりはなく、当該発泡性ポリマー中において発揮される機能も同じであると認められるため、機能に関わる相違点2は実質的な相違点にならない。
以上のことから、本願発明5と引用発明1には相違点は無いから、両者は同一の発明である。

(3)小括
上記(1)で検討したとおり、本願発明1は引用発明1と同一であるから、本願発明1は、引用例に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
また、上記(2)で検討したとおり、本願発明5は引用発明1と同一であるから、本願発明5は、引用例に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。


2.特許法第29条第2項について
(1)本願発明1と引用発明2について
引用発明2の「防炎性」という性質は、当該引用発明2における難燃剤を添加することによって得られる性質であるから、本願発明1の「難燃性」と同じ意味であるといえる。
引用発明2の「発泡性重合体」は、本願発明1の「発泡性ポリマー」と同じであることは明らかである。
したがって、本願発明1と引用発明2とは、
「少なくとも1種の発泡剤を含む難燃性発泡性ポリマーであって、
リン化合物が難燃剤として含有される発泡性ポリマー。」
という点で一致しており、下記の点で相違している。

(相違点3)
難燃剤であるリン化合物が、本願発明1では、「下記式で示されるリン化合物塩(10‐ヒドロキシ‐9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン‐10-オキシドアンモニウム塩)又は式(1c)で示されるその開環加水分解物の少なくとも1種」
「【化1】

【化2】

(但し、式(1c)におけるR+がNH_(4)^(+)である)」
であるのに対し、引用発明2では、「リン化合物:
9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド(DOPO)

、その加水分解物又は金属塩」
である点。

(相違点4)
引用発明2は、さらなる成分として「イオウ及び/又は少なくとも一つのイオウ含有化合物及び/又はイオウ化合物が、追加の難燃剤又は協力剤として含まれている」ものであるのに対し、本願発明1にはそれを含むとの記載がない点。

本願における発明の課題は、本願明細書の段落【0011】等によれば、「難燃剤の含有量が少なく、特に良好な発泡性と機械的安定性を有するとともに刺激臭特性のない高品質の、十分な耐火性及び難燃性を有する発泡性ポリマーを提供」することであると認められる。一方、引用例における発明の目的は、先にも示したとおり、低い難燃剤含有率と良好な品質を有する十分に耐火性、防火性で発泡性の重合体を作り出すことである。そして、引用例の摘示キには、発泡性ポリマーに関する実施例として、「燃焼試験」、「安定性」及び「臭気」の観点で評価がされていることを踏まえると、引用例に記載された発明の目的における「高品質」とは、具体的には耐燃焼性、安定性及び臭気の点における高品質を意味すると解され、これは本願発明における課題と共通する事項である。よって、本願発明1と引用発明2とは、発明が解決しようとする課題が共通するものである。

次に上記相違点について検討する。
(相違点3について)
引用例の摘示エによると、リン化合物の特に好ましい代表が、「化合物9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド(DOPO)」、すなわち下記式

であると記載されているが、その直後に「さらに別の好ましいリン化合物」の具体的なものとして、次の5つのものが記載されている。
・9,10-ジヒドロ-10-ヒドロキシ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド(DOPO-OH)
・9,10-ジヒドロ-10-ヒドロキシ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシドアンモニウム塩(DOPO-ONH_(4))
・9,10-ジヒドロ-10-メルカプト-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド(DOPO-SH)
・ビス(9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-イル)オキシド(DOPO-S-DOPO)
・9,10-ジヒドロ-10-(9,10-ジヒドロ-10-ヒドロキシ-9-オキサ-10-ホスファ-10-チオキサフェナントレン-10-イルチオ)9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド(DOPO-S-DOPS)
このように、引用発明2に係る「9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド(DOPO)」とは別の好ましいリン化合物として、具体的に5個の化合物が明記されているのであるから、当該記載に基づき、引用発明2に係るリン化合物「9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド(DOPO)」に代えて、上記例示された化合物の一つである「9,10-ジヒドロ-10-ヒドロキシ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシドアンモニウム塩(DOPO-ONH_(4))」を適用することは、当業者が容易に想到することである。

(相違点4について)
上記1.(1)の相違点1について検討したことと同様に、本願発明1には、発泡性ポリマーに他の成分を含有する発明も概念上包含されていると解すべきであるから、上記相違点4については実質的な相違点ではない。

(効果について)
本願発明1が奏する効果について検討する。上述したとおり、本願発明1と引用発明2とは、発明が解決しようとする課題が共通していることに加え、本願明細書と引用例のそれぞれの実施例における評価の観点も共通するものであるから、本願発明1は引用例の記載からみて異質な効果を発揮するものとは認められない。
また、実施例における「耐火試験」、「安定性」及び「臭気」の評価についても、引用例の記載に比して、本願発明1が顕著に有利な結果を示すものとも認められない。
したがって、本願発明1は、当業者が予測のできない格別の効果を発揮するものであるとは認められない。

以上のことから、本願発明1は、引用発明2及び引用例の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本願発明5について
両発明は、上記(1)で検討した一致点に加え、「硫黄及び/又は硫黄含有化合物」をさらに含有する点で一致しているが、下記の点で相違している。

(相違点5)
難燃剤であるリン化合物が、本願発明5では、「下記式で示されるリン化合物塩(10‐ヒドロキシ‐9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン‐10-オキシドアンモニウム塩)又は式(1c)で示されるその開環加水分解物の少なくとも1種」
「【化1】

【化2】

(但し、式(1c)におけるR+がNH_(4)^(+)である)」
であるのに対し、引用発明2では、「リン化合物:
9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド(DOPO)

、その加水分解物又は金属塩」
である点。

(相違点6)
硫黄及び/又は硫黄含有化合物をさらに含有させるときの機能として、本願発明5は「難燃相乗剤として」と記載されているのに対し、引用発明2では「追加の難燃剤又は協力剤として」と記載されている点。

本願発明5と引用発明2について、発明が解決しようとする課題が共通していることは、上記(1)で述べたのと同様である。

次に、上記相違点について検討する。
(相違点5について)
上記(1)における相違点3について検討したことと同様の理由によって、引用発明2に係るリン化合物「9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド(DOPO)」に代えて、引用例の摘示エに記載された「9,10-ジヒドロ-10-ヒドロキシ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシドアンモニウム塩(DOPO-ONH_(4))」を適用することは、当業者が容易に想到することである。

(相違点6について)
上記1.(2)における相違点2について検討したことと同様の理由によって、上記相違点6は実質的な相違点ではない。

(効果について)
上記(1)で検討したことと同様の理由によって、本願発明5は、当業者が予測のできない格別の効果を発揮するものであるとは認められない。

以上のことから、本願発明5は、引用発明2及び引用例の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)小括
上記(1)より、本願発明1は、引用発明2及び引用例の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
また、上記(2)より、本願発明5は、引用発明2及び引用例の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。


3.審判請求人の主張
審判請求人は、平成28年10月4日提出の審判請求書において、概略以下のとおり主張している。
(主張)
本願発明は、イオウ化合物等の追加難燃剤を含有しなくても、耐火性及び機械的安定性に優れた発泡体を得る発明であり、本願発明の発明者等は、種々のDOPO化合物中、DOPO-ONH_(4)をリン含有難燃剤成分として用いると、イオウ化合物を追加の難燃剤として組合せなくても、耐火性及び機械的安定性に優れた発泡体を得ることを発見し、本発明を完成するに至った。
一方、引用例に開示された発明は、DOPOに「イオウ化合物」を組合せることによって、ノンハロゲン難燃剤としてのDOPOの欠点を克服する発明であり、引用例におけるDOPO-ONH_(4)は、「イオウ化合物」と組み合わせて用いられるリン含有難燃剤の単なる一例として挙げられたものである。また、DOPO-ONH_(4)のみを難燃剤成分として用いた場合の効果に関する記載もない。
イオウ化合物と組合せないDOPO-ONH_(4)のみの使用は、引用例には、記載も示唆もされておらず、このことは、本願明細書の段落[0075]?[0079]にかけて、DOPO-ONH_(4)の具体的な製造方法が記載されている反面、引用例には、DOPO-ONH_(4)の製造方法に関する記載がないことからも明らかである。

(主張に対する検討)
確かに、引用例におけるDOPO-ONH_(4)は、「イオウ化合物」と組み合わせて用いられる一例として記載されたものであると認められる。
しかしながら、上記1.及び2.の相違点1及び4についての検討で説示したとおり、本願請求項1の発明特定事項からみて、本願発明1に係る「発泡性ポリマー」は、「発泡剤」を「含む」ものであり、かつ「難燃剤」を「含有」することが特定されているだけであって、それらの成分のみからなるとは記載されていないのであるから、上記成分の他に「イオウ及び/又は少なくとも一つのイオウ含有化合物及び/又はイオウ化合物」を含有する発明も概念上包含すると解するのが相当である。よって、本願発明1についての請求人の主張には理由がない。
また、本願発明5は、そもそも「硫黄及び/又は硫黄含有化合物」を含有することが発明特定事項として明記されている。よって、本願発明5についての請求人の主張は、請求項の記載に基づかない主張であり、失当であるといわざるを得ない。
また、引用例には、確かに、DOPO-ONH_(4)の製造方法は明示的には記載されていない。しかし、引用例の摘示カにおいて、「本発明で使用することのできる式(I)によるリン化合物及びそれらの製造方法は、本技術分野における当業者に知られている」と記載されており、実際、摘示イの段落【0093】で例示された「日本国特許公開第2002-069313号」の段落【0013】?【0014】等には、DOPOの製造方法が具体的に記載されている。これらの記載を踏まえると、DOPO-ONH_(4)を製造することも、当業者にとって格別に困難であるとは認められない。


第6 むすび

以上のとおり、本願発明1及び5は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、かつ、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-08-25 
結審通知日 2017-08-29 
審決日 2017-09-12 
出願番号 特願2014-505457(P2014-505457)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08J)
P 1 8・ 113- Z (C08J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 深谷 陽子加賀 直人  
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 佐久 敬
小柳 健悟
発明の名称 難燃性発泡性ポリマー  
代理人 金 鎭文  
代理人 比企野 健  
代理人 泉名 謙治  
代理人 小川 利春  

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