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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1336798
審判番号 不服2016-15172  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-10-07 
確定日 2018-01-24 
事件の表示 特願2012- 36982「薄膜太陽電池及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 9月10日出願公開、特開2012-175112〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
1 本願は、平成24年2月23日の出願(パリ条約による優先権主張 平成23年2月23日及び平成23年12月16日 韓国)であって、平成27年9月24日付けで拒絶理由が通知され、同年12月17日に手続補正がされ、平成28年5月30日付け(送達日平成28年6月7日)で拒絶査定がされ、これに対して、同年10月7日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正(以下「本件補正」という。)がされたものである。

2 補正の内容
(1)本件補正は、特許請求の範囲についてするもので、その特許請求の範囲については、本件補正前に、
「 【請求項1】
基板と、
前記基板の上に配置された、第1のn形不純物半導体膜と第1のp形不純物半導体膜と、前記第1のn形不純物半導体膜と前記第1のp形不純物半導体膜との間に連続的に変わる水素含有量を有する真性半導体を含む第1の非晶質膜と、が挿入された第1のセルと、
前記第1のn形不純物半導体膜に隣接する金属電極と、
前記第1のp形不純物半導体膜に隣接する透明電極と、を含み、
前記第1の非晶質膜の前記水素含有量を、光が入射される方に配置される前記第1のp形不純物半導体膜との第1の界面から前記光が入射される方と反対になる方に配置される前記第1のn形不純物半導体膜との第2の界面に行くほど、連続的に小さくすることにより、光電エネルギー変換効率を向上させる薄膜太陽電池。
【請求項2】
前記基板は透明基板を含み、
前記透明基板の上に前記透明電極、前記第1のp形半導体膜、前記第1の非晶質膜、前記第1のn形半導体膜及び前記金属電極が順に積層され、
前記透明基板へ光が入射される請求項1に記載の薄膜太陽電池。
【請求項3】
前記第1のセルと前記金属電極との間に、
第2のp形半導体膜と、連続的に変わる水素含有量を有する第2の真性半導体膜と、第2のn形半導体膜とが前記第1のn形半導体膜の上で順に積層された第2のセルを少なくとも1つさらに含み、
前記第2の真性半導体膜は真性シリコンを含む非晶質膜及び結晶質膜の中で少なくともいずれか1つを含み、
前記第2の真性半導体膜の前記水素含有量を、光が入射される方に配置される前記第2のp形半導体膜との第3の界面から前記光が入射される方と反対になる方に配置される前記第2のn形半導体膜との第4の界面に行くほど、連続的に小さくすることにより、光電エネルギー変換効率を向上させる請求項2に記載の薄膜太陽電池。
【請求項4】
前記基板は不透明基板を含み、
前記不透明基板の上に前記金属電極、前記第1のn形半導体膜、前記第1の非晶質膜、前記第1のp形半導体膜、及び前記透明電極が順に積層され、
前記透明電極へ光が入射される請求項1に記載の薄膜太陽電池。
【請求項5】
前記第1のセルと前記金属電極との間に、
第2のn形半導体膜と、連続的に変わる水素含有量を有する第2の真性半導体膜と、第2のp形半導体膜とが前記金属電極の上に順に積層された第2のセルを少なくとも1つさらに含み、
前記第2の真性半導体膜は真性非晶質膜、真性微晶質シリコン膜、及び真性結晶質膜の中で少なくともいずれか1つを含み、
前記第2の真性半導体膜の前記水素含有量を、光が入射される方に配置される前記第2のp形半導体膜との第3の界面から前記光が入射される方と反対になる方に配置される前記第2のn形半導体膜との第4の界面に行くほど、連続的に小さくすることにより、光電エネルギー変換効率を向上させる請求項4に記載の薄膜太陽電池。
【請求項6】
前記第1の非晶質膜は、
前記シリコンで構成されるか、又は
SiGe、SiC、SiO、SiN、SiON、SiCN、SiGeO、SiGeN、SiGeC、又はこれらの組合を含む請求項1に記載の薄膜太陽電池。
【請求項7】
基板を提供し、
前記基板の上に、p形半導体膜と、n形半導体膜と、前記p形半導体膜と前記n形半導体膜との間に配置された連続的に変わる水素含有量を有する真性半導体を含む非晶質膜とを含むセルを形成し、
前記p形半導体膜に隣接する透明電極を形成し、
前記n形半導体膜に隣接する金属電極を形成することを含み、
前記非晶質膜の前記水素含有量を、光が入射される方に配置される前記p形半導体膜との第1の界面から前記光が入射される方と反対になる方に配置される前記n形半導体膜との第2の界面に行くほど、連続的に小さくすることにより、光電エネルギー変換効率を向上させる薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項8】
前記基板は前記入射面に隣接配置される透明基板を含み、
前記セルを形成することは、
前記透明基板の上に前記p形半導体膜を形成し、
前記p形半導体膜の上に半導体ソースガスを水素で希釈させた反応ガスを提供し、前記水素の希釈比を漸進的に増やしながら前記非晶質膜を形成し、
前記非晶質膜の上に前記n形半導体膜を形成することを含む請求項7に記載の薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項9】
前記基板は前記反対面に隣接配置される不透明基板を含み、
前記セルを形成することは、
前記不透明基板の上に前記n形半導体膜を形成し、
前記n形半導体膜の上に半導体ソースガスを水素で希釈させた反応ガスを提供し、前記水素の希釈比を漸進的に減りながら前記非晶質膜を形成し、
前記非晶質膜の上に前記p形半導体膜を形成することを含む請求項7に記載の薄膜太陽電池の製造方法。」
とあったものを、
「 【請求項1】
基板と、
前記基板の上に配置された、第1のn形不純物半導体膜と第1のp形不純物半導体膜と、前記第1のn形不純物半導体膜と前記第1のp形不純物半導体膜との間に連続的に変わる水素含有量を有する真性半導体を含む第1の非晶質膜と、が挿入された第1のセルと、
前記第1のn形不純物半導体膜に隣接する金属電極と、
前記第1のp形不純物半導体膜に隣接する透明電極と、を含み、
前記第1の非晶質膜の前記水素含有量は光が入射される方に配置される前記第1のp形不純物半導体膜との第1の界面から前記光が入射される方と反対になる方に配置される前記第1のn形不純物半導体膜との第2の界面に行くほど、連続的に小さくなり、
前記基板は不透明基板を含み、
前記不透明基板の上に前記金属電極、前記第1のn形半導体膜、前記第1の非晶質膜、前記第1のp形半導体膜、及び前記透明電極が順に積層され、
前記透明電極へ光が入射される薄膜太陽電池。
【請求項2】
前記第1のセルと前記金属電極との間に、
第2のn形半導体膜と、連続的に変わる水素含有量を有する第2の真性半導体膜と、第2のp形半導体膜とが前記金属電極の上に順に積層された第2のセルを少なくとも1つさらに含み、
前記第2の真性半導体膜は真性非晶質膜、真性微晶質シリコン膜、及び真性結晶質膜の中で少なくともいずれか1つを含み、
前記第2の真性半導体膜の前記水素含有量は前記不透明基板との距離が小さくなるほど、連続的に小さくなる請求項1に記載の薄膜太陽電池。
【請求項3】
前記第1の非晶質膜は、
前記シリコンで構成されるか、又は
SiGe、SiC、SiO、SiN、SiON、SiCN、SiGeO、SiGeN、SiGeC、又はこれらの組合を含む請求項1に記載の薄膜太陽電池。
【請求項4】
基板を提供し、
前記基板の上に、p形半導体膜と、n形半導体膜と、前記p形半導体膜と前記n形半導体膜との間に配置された連続的に変わる水素含有量を有する真性半導体を含む非晶質膜とを含むセルを形成し、
前記p形半導体膜に隣接する透明電極を形成し、
前記n形半導体膜に隣接する金属電極を形成することを含み、
前記非晶質膜は光が入射される入射面とその反対面を含み、前記水素含有量は前記入射面から前記反対面に行くほど、連続的に小さくなり、
前記基板は前記反対面に隣接配置される不透明基板を含み、
前記セルを形成することは、
前記不透明基板の上に前記n形半導体膜を形成し、
前記n形半導体膜の上に半導体ソースガスを水素で希釈させた反応ガスを提供し、前記水素の希釈比を漸進的に減りながら前記非晶質膜を形成し、
前記非晶質膜の上に前記p形半導体膜を形成することを含む薄膜太陽電池の製造方法。」
に補正するものである。

(2)上記(1)の特許請求の範囲についての補正は、本件補正後の請求項1?4は、本件補正前の請求項4?6、9に、それぞれ対応し、本件補正前の請求項1?3、7、8を削除する請求項の削除の補正を行っている。
また、本件補正前の請求項4、6が引用する請求項1、本件補正前の請求項5及び本件補正前の請求項9が引用する請求項7の「光電エネルギー変換効率を向上させる」との作用効果を削除し、本件補正前の請求項5の「第2の真性半導体膜の前記水素含有量を、光が入射される方に配置される前記第2のp形半導体膜との第3の界面から前記光が入射される方と反対になる方に配置される前記第2のn形半導体膜との第4の界面に行くほど、連続的に小さくする」を本件補正後の請求項2の「第2の真性半導体膜の前記水素含有量は前記不透明基板との距離が小さくなるほど、連続的に小さくなる」とし、本件補正前の請求項9が引用する請求項7の「非晶質膜の前記水素含有量を、光が入射される方に配置される前記p形半導体膜との第1の界面から前記光が入射される方と反対になる方に配置される前記n形半導体膜との第2の界面に行くほど、連続的に小さくする」を本件補正後の請求項4の「非晶質膜は光が入射される入射面とその反対面を含み、前記水素含有量は前記入射面から前記反対面に行くほど、連続的に小さくなり」として、拒絶査定に記載された拒絶の理由に示す事項を考慮して明りょうでない記載の釈明の補正を行っている。

(3)したがって、本件補正後の特許請求の範囲に係る補正は、特許法第17条の2第5項第1号の請求項の削除又は同法第17条の2第5項第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とする適法な補正と認める。

3 本願の請求項1に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものと認める。
「 【請求項1】
基板と、
前記基板の上に配置された、第1のn形不純物半導体膜と第1のp形不純物半導体膜と、前記第1のn形不純物半導体膜と前記第1のp形不純物半導体膜との間に連続的に変わる水素含有量を有する真性半導体を含む第1の非晶質膜と、が挿入された第1のセルと、
前記第1のn形不純物半導体膜に隣接する金属電極と、
前記第1のp形不純物半導体膜に隣接する透明電極と、を含み、
前記第1の非晶質膜の前記水素含有量は光が入射される方に配置される前記第1のp形不純物半導体膜との第1の界面から前記光が入射される方と反対になる方に配置される前記第1のn形不純物半導体膜との第2の界面に行くほど、連続的に小さくなり、
前記基板は不透明基板を含み、
前記不透明基板の上に前記金属電極、前記第1のn形半導体膜、前記第1の非晶質膜、前記第1のp形半導体膜、及び前記透明電極が順に積層され、
前記透明電極へ光が入射される薄膜太陽電池。」(以下「本願発明」という。)

第2 引用刊行物の記載事項
1 原査定の拒絶の理由に引用された最先の優先日前の刊行物である特開2002-76409号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の事項が図とともに記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。

(1)「【0002】
【従来の技術】近年、光起電力装置として薄膜半導体を用いたものが盛んに開発されている。薄膜半導体を発電層とするものは、大面積化が容易であり、太陽電池のような光起電力装置に求められる基本的要件を十分に満たすものである。」

(2)「【0008】本発明において、真性非晶質半導体膜の光学的バンドギャップは、非晶質半導体膜側に向かうにつれて広くなっていればよく、連続的に光学的バンドギャップが広くなるように形成されてもいてもよいし、段階的に広くなるように、複数の層を積層して構成されていてもよい。」

(3)「【0037】(第3の実施例)図4は、本発明に従う第3の実施例の光起電力装置を示す模式的断面図である。図4を参照して、n型単結晶シリコン基板31の光入射側には、真性の非晶質シリコン層32が形成され、その上に真性の非晶質シリコン層33が形成されている。真性の非晶質シリコン層33は、真性の非晶質シリコン層32に比べ、相対的に水素含有量が高くなるように形成されている。すなわち、水素含有量が高くなることにより、光学的バンドギャップが広くなるように形成されている。真性の非晶質シリコン層32と真性の非晶質シリコン層33から、本発明の真性非晶質半導体膜が構成されている。
【0038】真性の非晶質シリコン層33の上には、p型の非晶質シリコン層34が形成されている。p型の非晶質シリコン層34の上には、透明電極35及び集電極36が形成されている。
【0039】n型単結晶シリコン基板31の裏面側には、真性の非晶質シリコン層37が形成されており、この上にn型の非晶質シリコン膜38が形成されている。n型の非晶質シリコン層38の上には、裏面電極39及び集電極36が形成されている。」

(4)上記(1)ないし(3)から、引用文献1には、
「n型単結晶シリコン基板31の光入射側には、真性の非晶質シリコン層32が形成され、その上に真性の非晶質シリコン層33が形成され、真性の非晶質シリコン層33は、真性の非晶質シリコン層32に比べ、相対的に水素含有量が高くなるように形成され、すなわち、水素含有量が高くなることにより、光学的バンドギャップが広くなるように形成され、真性の非晶質シリコン層33の上には、p型の非晶質シリコン層34が形成され、p型の非晶質シリコン層34の上には、透明電極35が形成され、n型単結晶シリコン基板31の裏面側には、真性の非晶質シリコン層37が形成されており、この上にn型の非晶質シリコン膜38が形成され、n型の非晶質シリコン膜38の上には、裏面電極39が形成され、真性非晶質半導体膜の光学的バンドギャップは、連続的に光学的バンドギャップが広くなるように形成されていてもよい太陽電池のような光起電力装置。」の発明(以下「引用発明1」という。)が、記載されているものと認められる。

2 原査定の拒絶の理由に引用された最先の優先日前の刊行物である特開2002-246317号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の事項が図とともに記載されている。

(1)「【0015】
【発明の実施の形態】(実施例1)本発明の薄膜形成方法に従いi層を形成して、pin型非晶質光起電力素子を作製した。図1は、このpin型非晶質光起電力素子の構造を示す概略断面図である。ガラス基板1の上には、凹凸の表面形状を有するSnO2からなる透明電極2が形成されている。この透明電極2の上には、p型非晶質SiC層3、i型非晶質Si層4、及びn型非晶質Si層5が、平行平板型プラズマCVD法によって形成されている。n型非晶質Si層5の上には、ZnO層6がスパッタ法により形成されており、その上にはAgからなる電極層7がスパッタ法により形成されている。」

(2)「【0018】表2には、i型非晶質Si層4の薄膜形成条件を示す。表2に示すように、i型非晶質Si層4は、工程1、工程2、及び工程3の順で条件を設定することにより形成した。」

(3)「【0021】工程2では、水素ガスを導入しながら、同時にシランガスを徐々に加えていき、一定の流量(表2では50sccm)になるまでシランガスの流量を徐々に増加させる。この際、水素ガスとシランガスのプラズマからの発光スペクトルの各ピーク強度及びそれらの強度比が、シランガスの流量の増加に比例して変化するように、シランガスを徐々に反応室内に導入する。」

(4)上記(1)ないし(3)から、引用文献2には、
「水素ガスを導入しながら、同時にシランガスを徐々に加えていき、一定の流量になるまでシランガスの流量を徐々に増加させるi型非晶質Si層の薄膜形成条件を設定することにより形成したpin型非晶質光起電力素子」の発明(以下「引用発明2」という。)が、記載されているものと認められる。

第3 対比
本願発明と引用発明1とを対比する。
1 引用発明1の「n型単結晶シリコン基板31」は、本願発明の「第1のn形不純物半導体膜」に、引用発明1の「p型の非晶質シリコン層34」は、本願発明の「第1のp形不純物半導体膜」に、引用発明1の「『真性の非晶質シリコン層32』、『真性の非晶質シリコン層32』」は、本願発明の「真性半導体を含む第1の非晶質膜」に、引用発明1の「『n型単結晶シリコン基板31』、『p型の非晶質シリコン層34』、『真性の非晶質シリコン層32』、『真性の非晶質シリコン層32』」は、本願発明の「第1のセル」に、引用発明1の「『p型の非晶質シリコン層34の上に』『形成され』た『透明電極35』」は、本願発明の「第1のp形不純物半導体膜に隣接する透明電極」に、引用発明1の「太陽電池のような光起電力装置」は、本願発明の「薄膜太陽電池」に、それぞれ相当する。

2 引用発明1の「真性の非晶質シリコン層33は、真性の非晶質シリコン層32に比べ、相対的に水素含有量が高くなるように形成され」ていることから、真性の非晶質シリコン層32は、真性の非晶質シリコン層33よりも水素含有量は低くなっている。
よって、引用発明1の「『n型単結晶シリコン基板31の光入射側には、真性の非晶質シリコン層32が形成され、その上に真性の非晶質シリコン層33が形成され、真性の非晶質シリコン層33は、真性の非晶質シリコン層32に比べ、相対的に水素含有量が高くなるように形成され、』『真性の非晶質シリコン層33の上には、p型の非晶質シリコン層34が形成され』」は、本願発明の「前記第1のn形不純物半導体膜と前記第1のp形不純物半導体膜との間に連続的に変わる水素含有量を有する真性半導体を含む第1の非晶質膜と、が挿入され」、「前記第1の非晶質膜の前記水素含有量は光が入射される方に配置される前記第1のp形不純物半導体膜との第1の界面から前記光が入射される方と反対になる方に配置される前記第1のn形不純物半導体膜との第2の界面に行くほど、連続的に小さくなり」と、「前記第1のn形不純物半導体膜と前記第1のp形不純物半導体膜との間に変わる水素含有量を有する真性半導体を含む第1の非晶質膜と、が挿入され」、「前記第1の非晶質膜の前記水素含有量は光が入射される方に配置される前記第1のp形不純物半導体膜との第1の界面から前記光が入射される方と反対になる方に配置される前記第1のn形不純物半導体膜との第2の界面に行くほど、小さくなり」との点で一致する。

3 本願発明の「第1のn形不純物半導体膜に隣接する金属電極」との記載は、本願請求項1を引用する本願請求項2には「『前記第1のセルと前記金属電極との間に、』『第2のセルを少なくとも1つさらに含み、』」と記載されていること、本願明細書【0066】には「後面反射膜260は金属電極270とセル230との間に配置され得る。」と記載されていることから、第1のn形不純物半導体膜と金属電極との間に、層があるものも含んでいると解される。
そうすると、引用発明1の「n型単結晶シリコン基板31の裏面側には、真性の非晶質シリコン層37が形成されており、この上にn型の非晶質シリコン膜38が形成され、n型の非晶質シリコン膜38の上には、裏面電極39」は、本願発明の「第1のn形不純物半導体膜に隣接する金属電極」と、「第1のn形不純物半導体膜に隣接する電極」の点で一致する。

4 引用発明1の「『n型単結晶シリコン基板31の光入射側には、真性の非晶質シリコン層32が形成され、その上に真性の非晶質シリコン層33が形成され、』『真性の非晶質シリコン層33の上には、p型の非晶質シリコン層34が形成され、p型の非晶質シリコン層34の上には、透明電極35が形成され、n型単結晶シリコン基板31の裏面側には、真性の非晶質シリコン層37が形成されており、この上にn型の非晶質シリコン膜38が形成され、n型の非晶質シリコン膜38の上には、裏面電極39が形成され、』」は、本願発明の「前記金属電極、前記第1のn形半導体膜、前記第1の非晶質膜、前記第1のp形半導体膜、及び前記透明電極が順に積層され、」と、「前記電極、前記第1のn形不純物半導体膜、前記第1の非晶質膜、前記第1のp形不純物半導体膜、及び前記透明電極が順に積層され、」の点で一致する(審決注:本願発明「前記第1のn形半導体膜」、「前記第1のp形半導体膜」より前には「第1のn形不純物半導体膜」、「第1のp形不純物半導体膜」との記載しかないので、「前記第1のn形不純物半導体膜」、「前記第1のp形不純物半導体膜」で一致するとした。)。

5 引用発明1の「『n型単結晶シリコン基板31の光入射側に』『透明電極35が形成され』は、本願発明の「透明電極へ光が入射される」に相当する。

6 上記1ないし5からみて、本願発明と引用発明1とは、
「第1のn形不純物半導体膜と第1のp形不純物半導体膜と、前記第1のn形不純物半導体膜と前記第1のp形不純物半導体膜との間に変わる水素含有量を有する真性半導体を含む第1の非晶質膜と、が挿入された第1のセルと、
前記第1のn形不純物半導体膜に隣接する電極と、
前記第1のp形不純物半導体膜に隣接する透明電極と、を含み、
前記第1の非晶質膜の前記水素含有量は光が入射される方に配置される前記第1のp形不純物半導体膜との第1の界面から前記光が入射される方と反対になる方に配置される前記第1のn形不純物半導体膜との第2の界面に行くほど、小さくなり、
前記電極、前記第1のn形不純物半導体膜、前記第1の非晶質膜、前記第1のp形不純物半導体膜、及び前記透明電極が順に積層され、
前記透明電極へ光が入射される薄膜太陽電池。」である点で一致し、次の相違点1ないし3で相違する。

相違点1:
真性半導体の水素含有量について、本願発明においては、連続的に変わるのに対して、引用発明1においては、その特定がない点。

相違点2:
その上に「前記電極、前記第1のn形半導体膜、前記第1の非晶質膜、前記第1のp形半導体膜、及び前記透明電極が順に積層され」る基板が、本願発明においては、「不透明基板」であるのに対して、引用発明1においては、その特定がない点。

相違点3:
「第1のn形不純物半導体膜に隣接する電極」が、本願発明においては、「金属電極」であるのに対して、引用発明1においては、その特定がない点。

第4 判断
上記相違点1ないし3について検討する。
1 相違点1について
引用発明1において、「真性非晶質半導体膜の光学的バンドギャップは、連続的に光学的バンドギャップが広くなるように形成されていてもよい」ことが示唆されていること、及び、引用発明2における「pin型非晶質光起電力素子」の「水素ガスを導入しながら、同時にシランガスを徐々に加えていき、一定の流量になるまでシランガスの流量を徐々に増加させるi型非晶質Si層の薄膜形成条件」を考慮すれば、引用発明1において、真性の非晶質シリコン層の水素含有量を連続的に変えるようになすことは、当業者が容易になし得る事項にすぎない。

2 相違点2及び相違点3について
太陽電池に関する技術において、不透明基板の上にセルを積層することは、本願の最先の優先日前に周知である(例.特開2003-197936号公報(【0042】参照。)、特開2002-329878号公報(【0022】参照。)、特開2005-101384号公報(【0015】参照。)、以下「周知技術1」という。)
また、太陽電池に関する技術において、裏面電極を金属電極とすることも、本願の最先の優先日前に周知である(例.特開2003-197936号公報(【0042】参照。)、特開2005-101384号公報(【0015】参照。)、引用文献2(【0015】参照。)、以下「周知技術2」という。)
そして、引用発明1において、周知技術1及び周知技術2を採用し、不透明基板の上にセルを積層すること、及び、裏面電極、すなわち、「第1のn形不純物半導体膜に隣接する電極」に金属電極を採用することは、当業者が適宜なし得たことである。
よって、引用発明1において、上記相違点2及び相違点3に係る本願発明の構成となすことは、当業者が周知技術1及び周知技術2に基づいて適宜なし得たことである。

3 効果について
本願発明の奏する効果は、引用発明1、引用発明2、周知技術1及び周知技術2から当業者が予測することができた程度のものである。

4 まとめ
したがって、本願発明は、当業者が引用発明1、引用発明2、周知技術1及び周知技術2に基づいて容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が引用発明1、引用発明2、周知技術1及び周知技術2に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-08-25 
結審通知日 2017-08-29 
審決日 2017-09-12 
出願番号 特願2012-36982(P2012-36982)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 池谷 香次郎  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 野村 伸雄
松川 直樹
発明の名称 薄膜太陽電池及びその製造方法  
代理人 三好 秀和  
代理人 伊藤 正和  

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