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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01N
管理番号 1336841
審判番号 不服2016-16011  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-10-26 
確定日 2018-01-25 
事件の表示 特願2012-256763「X線応力測定装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 6月 9日出願公開、特開2014-106004〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成24年11月22日に出願したものであって、平成27年12月28日付けで拒絶理由が通知され、平成28年3月6日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年7月21日付けで拒絶査定されたところ、同年10月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。
その後当審において平成29年8月28日付けで拒絶理由が通知され、同年10月30日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明

本願請求項1及び2に係る発明は、平成29年10月30日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載の事項により特定される発明であると認める。
そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、分説してA)ないしF)の符号を付けると、以下の事項により特定される発明である。

「【請求項1】
A) 側傾法にて試料の応力を測定するX線応力測定装置において、
B) 試料にX線を入射するX線発生器と、
C) 応力測定点で回折された回折X線を検出する回折X線検出器と、
D) 前記X線発生器及び回折X線検出器が配設される基台部材と、前記基台部材が応力測定点を中心に揺動可能に取り付けられる円弧状ガイドとが設けられ、応力測定点を通る試料表面に対する法線を試料面法線とし、入射X線と回折X線が交わってできる角の二等分線を回折面法線とした場合に、前記X線発生器からの入射X線の方向と前記回折X線検出器の走査方向とによって決まる検出器走査面を試料面法線と応力測定方向とによって決まる測定方向面に対して直交させる位置に、前記X線発生器及び回折X線検出器が配設され、前記基台部材が前記円弧状ガイドに沿って揺動されることで、前記X線発生器及び回折X線検出器を円弧運動させて試料面法線に対する回折面法線の傾き角を変更する傾き角変更機構と、
E) 前記X線発生器、回折X線検出器及び傾き角変更機構が配設される支持アームと、試料面法線に沿って配設され前記支持アームが回転可能に軸支される回転軸部とが設けられ、前記回転軸部を軸中心にして前記支持アームを試料面法線のまわりに水平方向に90度位相回転させることで、検出器走査面を測定方向面に対して直交させる位置に前記X線発生器及び回折X線検出器が配設された状態のまま、同じ応力測定点での応力測定方向を直交する二方向に切り替える測定方向切替機構と、
F) を具備してなることを特徴とするX線応力測定装置。」

第3 平成29年8月28日付け拒絶理由の概要

当審による平成29年8月28日付け拒絶理由の概要は、請求項1に係る発明に対する拒絶理由を含むものであって、請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。


刊行物1:特開2002-257643号公報
刊行物2:特開昭48-59887号公報

第4 引用刊行物記載の事項

1 刊行物1

(1) 刊行物1記載の事項
刊行物1には、次の事項が記載されている(下線は当審で付与。以下同様。)。

(刊1-ア) 「【請求項1】 ψ一定法による回折線を測定するため、試料表面の測定点を中心としてX線管とX線検出器とを回折面法線に対して互いに反対方向に同一の角度をなすように円弧運動させる2θ駆動機構を備え、上記2θ駆動機構は単一個の2θ用モータを用いて駆動されることを特徴とするX線応力測定装置。
【請求項2】 上記2θ駆動機構は、単一個の2θ用モータの回転軸に取り付けた平歯車と噛み合う一対の駆動平歯車と、この一方の駆動平歯車に噛み合ってX線管を円弧運動させる従動外歯車と、他方の駆動平歯車に噛み合ってX線検出器を円弧運動させる従動内歯車とを備えてなる請求項1記載のX線応力測定装置。
【請求項3】 上記2θ駆動機構は、単一個の2θ用モータの回転軸に取り付けた駆動傘歯車と、この駆動傘歯車に噛み合ってX線管を円弧運動させる従動傘歯車と、この駆動傘歯車に噛み合ってX線検出器を円弧運動させる従動傘歯車とを備えてなる請求項1記載のX線応力測定装置。
【請求項4】 並傾法のみならず、側傾法に対しても、ψ一定法による回折線を測定するため、X線管およびX線検出器を含んでなる上記2θ駆動機構を回折面法線のまわりに角度90°回転させる並側切替機構を備えてなる請求項1記載のX線応力測定装置。」

(刊1-イ) 「【0005】また、回折角2θを変化させる方向の違いによって並傾法と側傾法の二つの方法がある。ここで、図7と図9に示したように、ψ角のなす面をψ面とよぶ。また、試料表面上の測定点Pを中心としてX線検出器SCとX線管XTが円弧運動する面を2θ面とよぶ。並傾法は図7に示したようにψ面内に回折角2θを変化させる方法であり、側傾法は図9に示したようにψ面と垂直方向に回折角2θを変化させる方法である。なお、図7と図9において、試料表面上の測定点Pを通り応力を測定する方向をX軸にとると、ψ面はX軸を含み試料表面に垂直な面である。2θ面は並傾法ではψ面と一致し、側傾法では直交する。これらの二つの方法は、それぞれに特徴をもっているので、測定する試料の材質や形状によって使い分ける必要がある。」

(刊1-ウ) 「【0018】
【発明の実施の形態】図1から図6は本発明の実施の形態例を示し、図1から図3には第一形態例を、図4と図5には第二形態例を、図6には測定状態をそれぞれ示しているものである。
【0019】本発明の実施の形態例としての、X線応力測定装置は、測定機架台10、ψ駆動機構20、並側切替機構30、第一形態例の2θ駆動機構40または第二形態例の2θ駆動機構50から構成されている。ここに、測定機架台10、ψ駆動機構20および並側切替機構30は、上記第一形態例および第二形態例に共通である。図2と図4に示した測定機架台10に接続部材14によって取り付けたψ駆動機構20ならびに並側切替機構30および2θ駆動機構40または2θ駆動機構50とこれらの機構によって駆動されるX線管XTおよびX線検出器SCを含むこの装置の主要部をゴニオメータ60とよぶ。以下に、各機構について説明する。」

(刊1-エ) 「【0020】まず、測定機架台10について説明する。測定機架台10は図2に示したように、鉛直方向にとった試料表面法線Z方向にゴニオメータ60を上下移動させる機構を備えている。測定機架台10は、鉛直な支柱11、水平な試料台12、上下移動機構13および接続部材14から構成される。ここで上下移動機構13は、図示省略したボールねじ機構からなる送り機構であり、接続部材14を介してゴニオメータ60を支柱11に沿って上下方向に移動する。試料Wの測定面WHは、試料台12の表面12Hに平行になるようにする。」


(刊1-オ) 「【0021】次に、ψ駆動機構20について説明する。まず、図1と図2に示したように、測定面WH上の測定点Pを通り応力を測定する方向にX軸をとる。また、このX軸と測定点Pで直交し、測定面WH上の直線をY軸とする。ψ駆動機構20は、図1と図2に示したように、ψ角設定部材25をY軸を中心として円弧運動させてψ角を変える機構である。このψ駆動機構20は、円弧状ウォーム歯車21、ψ角用モータ22、ウォーム23、円弧状ガイド24、ψ角設定部材25および回転軸26から構成されている。
【0022】逆L字型のψ角設定部材25は、水平部25Hとこれに直交する部材25Sからなる。ψ角用モータ22は部材25Sに取り付けてある。そして、このψ角用モータ22の軸に取り付けたウォーム23は、ウォーム歯車21に噛み合っている。このウォーム歯車21は、接続部材14で固定され、接続部材14は上下移動機構13に固定されている。さらにこのウォーム歯車21には、円弧状ガイド24が取り付けられている。このウォーム歯車21と円弧状ガイド24の円弧の中心軸はともに測定面WH上のY軸である。ψ角用モータ22が回転するとウォーム23はウォーム歯車21の外周に沿って回転し、ψ角用モータ22と一体になっているψ角設定部材25は円弧状ガイド24に沿ってY軸を中心として円弧運動するので、このψ角設定部材25に回転軸26を介して取り付けた2θ駆動機構40がY軸の回りに円弧運動し、ψ角を変化させる。なお、水平部25Hの先端に取り付けた回転軸26の中心軸は測定面WH上の測定点Pを通り、回折面法線Nに一致する。すでに述べたように、ψ角はこの回折面法線Nと試料表面法線Zとのなす角である。」

(刊1-カ) 「【0023】次に、並側切替機構30について説明する。この並側切替機構30は、並傾法と側傾法による測定法を切り替えるために、上記2θ駆動機構を回折面法線Nのまわりに角度90°回転させる、つまり、X線管XTとX線検出器SCの中心軸のなす角の二等分線である回折面法線Nのまわりに2θ面を角度90゜回転させる機構である。この場合、並側切替機構30は、図1から図3および図6に示したように、回転軸26、ハンドル31、ウォーム32、ウォーム歯車33、ストッパ部材34および支持板35から構成されている。図1から図3および図6に示したようにウォーム歯車33、回転軸26および支持板35は一体となっており、ハンドル31を回して図3のウォーム32を回転させると、支持板35とこれに取り付けられているX線管XTおよびX線検出器SCは共に回転軸26の回りに回転する。
【0024】すでに説明したように、2θ面とψ面は並傾法では一致し、側傾法では直交する。2θ面は、図1、図2および図4から図6においてX線管XTとX線検出器SCの中心軸のなす面で、X線管XTとX線検出器SCはこの面内で測定点Pを中心として円弧運動する。また、ψ面は図1、図5および図6において測定点Pを通る試料表面法線ZとX軸を含む面であり、ψ角設定部材25の水平部25Hの先端に取り付けた回転軸26の中心軸は、この面内を測定点Pを中心として円弧運動してψ角を変化させる。図1は、並傾法に対するゴニオメータの配置を示しており、側傾法では図6に示したようにハンドル31を回してX線管XTとX線検出器SCを図1の位置から回転軸26の回りに角度90°回転させることになる。本装置はこの並側切替機構を用いることによって、並傾法および側傾法の測定ができる。」

(刊1-キ) 「【0025】次に、第一形態例の2θ駆動機構40について説明する。この2θ駆動機構40は、X線管XTとX線検出器SCを同時に、測定面WH上の測定点Pを中心として回折面法線Nに対して同一の角度ηをなすように互いに反対方向に同時に円弧運動して回折角2θを変化させ、回折線を測定する機構である。この機構は、図1と図2に示したように、2θ用モータ41、平歯車42と一対の駆動平歯車44aと44bおよびその回転軸43、X線管保持部材45、従動外歯車45a、X線検出器保持部材46、従動内歯車46a、円弧状ガイド47および48から構成される。そして、支持板35に固定された2θ用モータ41の回転軸に取り付けた平歯車42は駆動平歯車44aと噛み合っており、支持板35に支持された回転軸43に取り付けた一対の駆動平歯車44aと44bを駆動する。」

(刊1-ク) 「【図6】本発明の実施の第一形態例の側傾法を用いる状態の正面図である。」

(刊1-ケ) 図1




(刊1-コ) 図2




(刊1-サ) 図6




(刊1-シ) 図9




(2) 刊行物1に記載された発明の認定

ア (刊1-イ)の記載、及び、(刊1-シ)に示された図9を参照すると、側傾法は、ψ面と垂直方向に、回折角2θを変化させる方法であり、試料表面上の測定点Pを通り応力を測定する方向をX軸にとると、ψ面はX軸を含み試料表面に垂直な面であり、側傾法では、ψ面と2θ面は直交することがわかる。そして2θ面は、XT(X線管)とSC(X線検出器)を含む面であることも読み取れる。

イ (刊1-ウ)の記載より、ψ駆動機構20ならびに並側切替機構30および2θ駆動機構40とこれらの機構によって駆動されるX線管XTおよびX線検出器SCを含む装置の主要部は、ゴニオメータ60を成しており、(刊1-エ)の記載より、該ゴニオメータ60は、測定機架台10に接続部材14によって取り付けられていることがわかる。

ウ (刊1-ク)及び(刊1-サ)を参照すると、図6に、上記X線応力測定装置が側傾法により測定を行う状態が示されており、上記ア及びイを勘案すると、側傾法による測定を行う場合には、該ゴニオメータ60のψ駆動機構20は、ψ面である試料表面上の測定点Pを通り応力を測定する方向であるX軸を含む試料表面に垂直な面において回折面法線Nが移動可能に設けられる点が読み取れ、また、2θ駆動機構40は、X線管XTとX線検出器SCを含む面である2θ面がψ面に直交するように設けられる点が読み取れる。

よって、上記(刊1-ア)ないし(刊1-シ)に摘記した事項、及び、上記アないしウの認定事項を含む刊行物1全体の記載を総合すると、刊行物1には、

「a) 試料表面の測定点を中心としてX線管とX線検出器とを回折面法線に対して互いに反対方向に同一の角度をなすように円弧運動させる2θ駆動機構を備え、
b) 並傾法のみならず、側傾法に対しても、回折線を測定するため、X線管およびX線検出器を含んでなる上記2θ駆動機構を回折面法線のまわりに角度90°回転させる並側切替機構を備えたX線応力測定装置であり、
c) 該X線応力測定装置は、測定機架台10、ψ駆動機構20、並側切替機構30、2θ駆動機構40から構成され、
d) 測定機架台10は、鉛直な支柱11、水平な試料台12、上下移動機構13および接続部材14から構成され、試料Wの測定面WHは、試料台12の表面12Hに平行になるようにされており、
e) ψ駆動機構20ならびに並側切替機構30および2θ駆動機構40とこれらの機構によって駆動されるX線管XTおよびX線検出器SCを含む装置の主要部は、ゴニオメータ60を成しており、該ゴニオメータ60は、測定機架台10に接続部材14によって取り付けられ、
f) 測定面WH上の測定点Pを通り応力を測定する方向にX軸をとり、このX軸と測定点Pで直交し、測定面WH上の直線をY軸とすると、ψ駆動機構20は、ψ角設定部材25をY軸を中心として円弧運動させてψ角を変える機構であり、円弧状ウォーム歯車21、ψ角用モータ22、ウォーム23、円弧状ガイド24、ψ角設定部材25および回転軸26から構成され、ψ角設定部材25は円弧状ガイド24に沿ってY軸を中心として円弧運動するので、このψ角設定部材25に回転軸26を介して取り付けた2θ駆動機構40がY軸の回りに円弧運動し、ψ角を変化させるものであり、
g) 2θ駆動機構40は、X線管XTとX線検出器SCを同時に、測定面WH上の測定点Pを中心として回折面法線Nに対して同一の角度ηをなすように互いに反対方向に同時に円弧運動して回折角2θを変化させ、回折線を測定する機構であり、2θ用モータ41、平歯車42と一対の駆動平歯車44aと44bおよびその回転軸43、X線管保持部材45、従動外歯車45a、X線検出器保持部材46、従動内歯車46a、円弧状ガイド47および48から構成され、
h) 並側切替機構30は、並傾法と側傾法による測定法を切り替えるために、X線管XTとX線検出器SCの中心軸のなす角の二等分線である回折面法線Nのまわりに2θ面を角度90゜回転させる機構であり、
i) 側傾法により測定を行う場合には、該ゴニオメータ60のψ駆動機構20は、ψ面である試料表面上の測定点Pを通り応力を測定する方向であるX軸を含む試料表面に垂直な面において回折面法線Nが移動可能に設けられ、2θ駆動機構40は、X線管XTとX線検出器SCを含む面である2θ面がψ面に直交するように設けられる、
X線応力測定装置。」

の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

2 刊行物2

(1)刊行物2記載の事項
刊行物2には、次の事項が記載されている。

(刊2-ア) 「2.特許請求の範囲
(1)X線発生器と試料からの回折X線検出器およびこの検出器を摺動可能に支持するゴニオメータとから成るゴニオメータ部と、ゴニオメータの仮想中心をその中心とする案内枠と、ゴニオメータ部を案内枠に沿つて移動可能に保持する機構と、この案内枠の半径方向においてこの案内枠を回動させる機構とを有することを特徴とするX線回折装置。」(第1頁左下欄第5行-第12行)

(刊2-イ) 「一般に広く知られているように、材料の応力等の測定においては、被測定物体面(試料面)に対するX線入射角を2?3変えて回折角を測定する必要があり、したがつてX線入射角の可変機構が要求される。」(第1頁右下欄第4行-第8行)

(刊2-ウ) 「第1図は、この発明をX線応力測定装置に適用した場合の一実施例図で、その照射位置設定部のみを大略示すものである。
図において、(1)はX線管であり、(2)は、このX線管(1)に備えつけられるタイバージエススリツト(ソーラースリツト)で、これはX線管からそのX線発射方向に向けて配置され、被測定点(試料面)(O)に平行X線(X)を投射するものである。(3)はX線検出器で、この入射側にも測定点(O)より発生する回折X線(x)の平行成分を取り出すためのレシーピングスリツト(ソーラースリツト)(4)が設けられている。
(5)はゴニオメータで検出器(3)はこのゴニオメータ面上を手動・自動の適当な駆動機構が内蔵されているゴニオメータ駆動部(6)により矢印(a)のごとく摺動可能に設けられており、これらX線管・検出器・ゴニオメータ・ゴニオメータ駆動部・ソーラースリツト等でいわゆるゴニオメータ部(7)を形成している。
なお、これらのゴニオメータ部の構成は、一般的に周知事項でありまたソーラースリツト(2)(4)も投射X線を含み、ゴニオメータ面に平行な共通平面内に配置され、両ソーラースリツトの各平行板は、上記共通平面に垂直となっている。
一方(8)は案内枠(ガイド)で、これはゴニオメータの仮想中心をその中心としている同弧形状であり、これに沿つてキヤリヤ(9)が矢印(b)のごとく移動可能に取り付けられている。
なお、この案内枠は、測定点・投射X線・回折X線・ゴニオメータを含む平面上に設けられるのが望ましい。
またこのキヤリヤ(9)には、上記のゴニオメータ部が、その投射X線(X)を中心として矢印(C)のごとく回動するように取り付けられている。」(第2頁左上欄第13行-左下欄第6行)

(刊2-エ) 「さらにこの案内枠(8)は、アーム(10)にベアリング等の手段で回動自在に保持され、(11)は上記の案内枠(8)を矢印(d)のごとく回動させるモータ・歯車等内蔵の回動機構であり、この回動軸は、案内枠の半径方向に一致しており、またゴニオメータ、案内枠等と同一平面上にあることが望ましい。」(第2頁左下欄第11-17行)

(刊2-オ) 「以上のこの発明においては、試料や測定装置全体の移動や方向転換を必要とせず、被測定面に対し任意の方向からのX線照射を行ない得る装置を得ることができるので歯車・H形鋼その他複雑な立体形状面の応力測定等が可能でありしかもきわめて簡易な操作で迅速に行なうことができる。特に被測定物体が大形で取扱いにくい場合や、構造物の一部やプロセスラインの一部をなし自由に移動・方向転換することが困難な場合でもこの発明によれば、容易に測定を行なうことができるようになる。」(第3頁右上欄第14行-左下欄第4行)

(刊2-カ) 第1図




(2) 刊行物2に記載された技術の認定

上記(刊2-ウ)の記載、及び、(刊2-カ)に示した第1図を参照すると、案内枠(8)は、円弧状の部分を有し、ゴニオメータ部(7)を円弧状にガイドするものであり、また、案内枠(8)は、アーム(10)にベアリング等の手段で回動自在に保持される部位を有する点が見て取れる。
また、ベアリング等の手段が設けられる位置は測定点(O)における試料面の法線上であることが見て取れる。

よって、上記(刊2-ア)ないし(刊2-カ)を含む刊行物2全体の記載を総合すると、刊行物2には、

「X線回折装置において、X線発生器と試料からの回折X線検出器およびこの検出器を摺動可能に支持するゴニオメータ(5)等から形成されるゴニオメータ部(7)と、ゴニオメータの仮想中心をその中心とした円弧状の部分を有しゴニオメータ部(7)を円弧状にガイドし摺動可能に保持する案内枠(8)とを有し、この案内枠(8)はさらにアーム(10)に保持される部位を有し、この案内枠(8)は、その半径方向で、測定点(O)における試料面の法線上において、アーム(10)にベアリング等の手段で回動自在に保持される技術。」
が記載されている(以下、「刊行物2技術」という。)。

また、刊行物2には、以下の2点についても記載されている。

ア 材料の応力等の測定においては、被測定物体面(試料面)に対するX線入射角を2?3変えて回折角を測定する必要があることが、一般に広く知られている点。

イ 刊行物2技術は、試料や測定装置全体の移動や方向転換を必要とせず、被測定面に対し任意の方向からのX線照射を行ない得る構成を得るために発明された点。

第5 対比

引用発明と本願発明とを対比する。

1 本願発明のA)及びF)の特定事項について
引用発明の「X線応力測定装置」は、「側傾法により測定を行う場合」を含むことから、引用発明の「X線応力測定装置」の「側傾法により測定を行う場合」は、本願発明の「側傾法にて試料の応力を測定するX線応力測定装置」に相当する。

2 本願発明のB)の特定事項について
引用発明の「X線管XT」は、本願発明の「試料にX線を入射するX線発生器」に相当する。

3 本願発明のC)の特定事項について
引用発明の「X線検出器SC」は、本願発明の「応力測定点で回折された回折X線を検出する回折X線検出器」に相当する。

4 本願発明のD)の特定事項について
(1) 引用発明の「X線管保持部材45」及び「X線検出器保持部材46」を含む「2θ駆動機構40」は、本願発明の「X線発生器及び回折X線検出器が配設される基台部材」に相当する。
(2) 引用発明の「円弧状ガイド24」は、「ψ角設定部材25に回転軸26を介して取り付けた2θ駆動機構40が」「円弧状ガイド24に沿ってY軸を中心として円弧運動する」ためのものであるので、本願発明の「前記基台部材が応力測定点を中心に揺動可能に取り付けられる円弧状ガイド」に相当する。
(3) 引用発明の「試料表面上の測定点Pを通る」「試料表面に垂直な面」は、本願発明の「応力測定点を通る試料表面に対する法線を試料面法線」を含むことは明らかである。
(4) 引用発明の「回折面法線N」は、「X線管XTとX線検出器SCの中心軸のなす角の二等分線」であるから、本願発明の「入射X線と回折X線が交わってできる角の二等分線を回折面法線とした場合」の「回折面法線」に相当する。
(5) 引用発明の「X線管XTとX線検出器SCを含む面である2θ面」は、本願発明の「前記X線発生器からの入射X線の方向と前記回折X線検出器の走査方向とによって決まる検出器走査面」に相当する。
(6) 引用発明の「ψ面である試料表面上の測定点Pを通り応力を測定する方向であるX軸を含む試料表面に垂直な面」は、本願発明の「応力測定点を通る試料表面に対する法線を試料面法線」「と応力測定方向とによって決まる測定方向面」に相当する。
(7) 引用発明の「ψ角設定部材25に回転軸26を介して取り付けた2θ駆動機構40が」「円弧状ガイド24に沿ってY軸を中心として円弧運動する」ことは、本願発明の「前記X線発生器及び回折X線検出器が配設され、前記基台部材が前記円弧状ガイドに沿って揺動されること」に相当する。
(8) 上記(3)ないし(6)より、引用発明の「2θ面」、「ψ面」は、それぞれ、本願発明の「検出器走査面」、「測定方向面」に相当し、引用発明の「ψ駆動機構20」は、「ψ角を変える機構であり、」「2θ面が」「ψ面に直交するように設けられる」ものであるから、引用発明の「ψ駆動機構20」は、本願発明の「測定方向面」に対して「直交させる位置に、」「前記X線発生器及び回折X線検出器を円弧運動させて試料面法線に対する回折面法線の傾き角を変更する傾き角変更機構」に相当する。

5 本願発明のE)の特定事項について
引用発明の「ゴニオメータ60」は、「ψ駆動機構20」及び「2θ駆動機構40とこれらの機構によって駆動されるX線管XTおよびX線検出器SCを含む」ものであるから、本願発明の「X線発生器、回折X線検出器及び傾き角変更機構が配設される支持アーム」に相当する。

よって、両者は、以下の点で一致する。

<一致点>
A) 側傾法にて試料の応力を測定するX線応力測定装置において、
B) 試料にX線を入射するX線発生器と、
C) 応力測定点で回折された回折X線を検出する回折X線検出器と、
D) 前記X線発生器及び回折X線検出器が配設される基台部材と、前記基台部材が応力測定点を中心に揺動可能に取り付けられる円弧状ガイドとが設けられ、応力測定点を通る試料表面に対する法線を試料面法線とし、入射X線と回折X線が交わってできる角の二等分線を回折面法線とした場合に、前記X線発生器からの入射X線の方向と前記回折X線検出器の走査方向とによって決まる検出器走査面を試料面法線と応力測定方向とによって決まる測定方向面に対して直交させる位置に、前記X線発生器及び回折X線検出器が配設され、前記基台部材が前記円弧状ガイドに沿って揺動されることで、前記X線発生器及び回折X線検出器を円弧運動させて試料面法線に対する回折面法線の傾き角を変更する傾き角変更機構と、
E') 前記X線発生器、回折X線検出器及び傾き角変更機構が配設される支持アームと、
F) を具備してなることを特徴とするX線応力測定装置。

また、両者は、以下の点で相違する。

<相違点>
本願発明は、「試料面法線に沿って配設され前記支持アームが回転可能に軸支される回転軸部とが設けられ、前記回転軸部を軸中心にして前記支持アームを試料面法線のまわりに水平方向に90度位相回転させることで、検出器走査面を測定方向面に対して直交させる位置に前記X線発生器及び回折X線検出器が配設された状態のまま、同じ応力測定点での応力測定方向を直交する二方向に切り替える測定方向切替機構」を有するものであるの対して、引用発明は、そのように構成されていない点。

第6 検討・判断

1 相違点についての検討

「第4 引用刊行物記載の事項」「2 刊行物2」「(2) 刊行物2に記載された技術の認定」「ア」において指摘したように、材料の応力等の測定においては、被測定物体面(試料面)に対するX線入射角を2?3変えて回折角を測定する必要があることが、一般に広く知られている点に鑑みれば、引用発明においても、複数方向の応力測定を行いたいという課題があることは当業者にとって明らかである。
一方、上記「(2) 刊行物2に記載された技術の認定」を参照すると、刊行物2には、刊行物2技術が記載されており、X線回折装置において、「X線発生器と試料からの回折X線検出器およびこの検出器を摺動可能に支持するゴニオメータ(5)等から形成されるゴニオメータ部(7)と、ゴニオメータの仮想中心をその中心としゴニオメータ部(7)を円弧状にガイドし摺動可能に保持する案内枠(8)とを有し、この案内枠(8)は半径方向において、アーム(10)にベアリング等の手段で回動自在に保持される」構成が開示されており、これは、「(2) 刊行物2に記載された技術の認定」「ア」で指摘したとおり材料の応力測定において複数方向の応力測定を行うために、「イ」で指摘するように、刊行物2技術は、試料や測定装置全体の移動や方向転換を必要とせず、被測定面に対し任意の方向からのX線照射を行ない得る構成を得るために発明されたものである。
したがって、刊行物1及び刊行物2に接した当業者であれば、引用発明において、複数方向の応力測定を行うことができるようにするために、ゴニオメータ60を半径方向において回動させるための構成を適用しようとする十分な動機付けがあり、刊行物2技術における「案内枠(8)」を「回動自在に保持」する機構を、引用発明の「ゴニオメータ60」の取り付け構造として採用することは、当業者が容易になし得ることである。
さらに、支持アームを試料面法線のまわりに水平方向位相回転させる角度を「90度」と特定した点、及び、測定される同じ応力測定点での応力測定方向を「直交する二方向」と特定した点について検討すると、応力の測定方向をどのように設定するかは、測定対象や測定が必要とされる応力の方向に応じて、当業者が適宜設定し得る事項である。
以上のことから、上記相違点に係る本願発明の構成は、引用発明及び刊行物2技術に基づいて、当業者が容易に想到し得るものである。

2 本願発明の効果について

本願発明の効果は、刊行物1及び刊行物2の記載事項から当業者が予測できる範囲内のものであり、格別顕著なものとはいえない。

第7 結語

以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明及び刊行物2の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-11-22 
結審通知日 2017-11-28 
審決日 2017-12-12 
出願番号 特願2012-256763(P2012-256763)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 比嘉 翔一  
特許庁審判長 福島 浩司
特許庁審判官 信田 昌男
▲高▼橋 祐介
発明の名称 X線応力測定装置  
代理人 山口 慎太郎  
代理人 山口 慎太郎  

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