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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C09J
管理番号 1336848
審判番号 不服2017-3005  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-03-01 
確定日 2018-02-16 
事件の表示 特願2013-138911「活性エネルギー線硬化型接着剤組成物、偏光板、光学フィルムおよび画像表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年11月28日出願公開、特開2013-237849、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年5月30日(優先権主張平成22年12月24日)に出願した特願2011-120503号の一部を平成25年7月2日に新たな特許出願としたものであって、平成26年2月17日に上申書の提出とともに手続補正がなされ、平成27年4月27日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、同年6月29日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、同年11月25日付けで拒絶理由が通知され、これに対し平成28年1月27日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、同年6月23日付けで拒絶理由が通知され、これに対し同年10月21日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、同年11月29日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し平成29年3月1日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。


第2 原査定の概要
原査定の拒絶の理由の概要は、次のとおりである。

(進歩性)この出願の請求項1?6に係る発明は、その優先権主張の日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1.特開2008-276136号公報
2.特開2010-231015号公報


第3 本件発明
本願の請求項1?6に係る発明は、平成28年1月27日付けの手続補正の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「 【請求項1】
偏光子の少なくとも片面に、ラジカル重合性化合物を含有する活性エネルギー線硬化型接着剤組成物(ただし、ラジカル重合性化合物およびカチオン性重合性化合物からなる主剤中に、ガラス転移温度が-80℃?0℃のホモポリマーを形成するラジカル重合性化合物(a)を60?99.8質量%含むものを除く)の硬化物層により形成された接着剤層を介して、透明保護フィルムが貼り合わされた偏光板の製造方法であって、
前記偏光子の前記接着剤層を形成する面および/または前記透明保護フィルムの前記接着剤層を形成する面に前記活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を塗工した後、前記偏光子と前記透明保護フィルムとを貼り合わせる工程、次いで、活性エネルギー線照射によって前記活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を硬化して前記接着剤層を形成する工程、を有し、
前記活性エネルギー線は、波長範囲380?440nmの積算照度と波長範囲250?370nmの積算照度との比が100:0?100:50であることを特徴とする偏光板の製造方法。
【請求項2】
組成物全量の100重量%としたとき、前記ラジカル重合性化合物を50重量%以上含有する請求項1に記載の偏光板の製造方法。
【請求項3】
前記接着剤層の厚みが、0.01?7μmである請求項1または2に記載の偏光板の製造方法。
【請求項4】
前記活性エネルギー線は、ガリウムランプを光源とし、バンドパスフィルターを使用して380nm以下の短波長の光を遮断したものである請求項1?3のいずれかに記載の偏光板の製造方法。
【請求項5】
前記活性エネルギー線硬化型接着剤組成物が、光重合開始剤として、下記一般式(1)で表される化合物;
【化1】

(式中、R^(1)およびR^(2)は-H、-CH_(2)CH_(3)、-iPrまたはClを示し、R^(1)およびR^(2)は同一または異なっても良い)を含有する請求項1?4のいずれかに記載の偏光板の製造方法。
【請求項6】
前記活性エネルギー線硬化型接着剤組成物が、光重合開始剤として、さらに下記一般式(2)で表される化合物;
【化2】

(式中、R^(3)、R^(4)およびR^(5)は-H、-CH_(3)、-CH_(2)CH_(3)、-iPrまたはClを示し、R^(3)、R^(4)およびR^(5)は同一または異なっても良い)を含有する請求項1?5のいずれかに記載の偏光板の製造方法。」(以下、請求項1?請求項6を、それぞれ「本件発明1」?「本件発明6」という。)


第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1
(1) 原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先権主張の日前の平成20年11月13日に頒布された刊行物である特開2008-276136号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は合議体が付与した。以下同様。)

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、光カチオン硬化型エポキシ樹脂系接着剤により偏光子フィルムと保護フィルム及び/又は光学補償フィルムとを接着するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光学部材や液晶表示装置において用いられる偏光板は、ポリビニルアルコール(PVA)系偏光子フィルムの少なくとも一方の面に保護フィルムもしくは光学補償フィルムを接着剤で貼り合せて製造されるのが一般的である。かかる接着剤として、水系接着剤や有機溶剤系の接着剤が使用されてきたが、これらに代わりに、近年、非水系、非有機溶剤系である非溶剤系接着剤、特に光カチオン硬化型エポキシ樹脂系接着剤が使用されるようになってきている。
【0003】
従来、接着剤として光カチオン硬化型エポキシ樹脂系接着剤を用いる偏光板の製造装置においては、光カチオン硬化型エポキシ樹脂系接着剤を十分に硬化するために、強い照度の紫外線を照射して照射熱や反応熱で硬化反応を加速するための紫外線ランプが設置されているか、あるいは、紫外線照射後に加熱して硬化反応を完結(アフターキュア)するための加熱オーブン等が設置されていた。光カチオン硬化型エポキシ樹脂系接着剤は紫外線照射されると、それに含まれる光重合開始剤(触媒)が活性化し、酸を発生する。この酸が光カチオン硬化型エポキシ樹脂のエポキシ基と反応し、エポキシ基が開環してカルボカチオンが生成する。このカルボカチオンが次々とエポキシ樹脂のエポキシ基と反応してエポキシ樹脂系接着剤が硬化する。ところが、カルボカチオンとエポキシ基の反応は常温では起こりにくい反応であるため、強い照度の光を長く照射するか、あるいは、紫外線照射後にオーブン等により加熱して、カルボカチオンとエポキシ基の反応を加速又は完結する必要があった。
【0004】
強い照度の紫外線を照射すると、光カチオン硬化型エポキシ樹脂系接着剤の硬化は進行するものの、紫外線の一部が熱に変り、ヨウ素で染色したポリビニルアルコールフィルム(偏光子フィルム)からヨウ素の昇華や偏析による色抜けが起こったり、あるいは偏光子フィルムや保護フィルム又は光学補償フィルムが変形したりして、品質が劣化する。」

イ 「【0016】
本発明における紫外線ランプは、フィルム間に塗布された、40℃以上に加温された光カチオン硬化型エポキシ樹脂系接着剤を硬化し、フィルムを接着するためのものである。紫外線ランプとしては、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、ハイパワーメタルハライドランプ、ガリウムランプ、キセノンランプ、キセノンフラッシュランプ、エキシマランプ、紫外線LED、無電極ランプ等が挙げられる。
【0017】
本発明の装置は、好ましくは、紫外線ランプと被着体フィルムの間に位置する400nm以下、特に390nm以下の波長の光の少なくとも一部、好ましくは全部をカットする光学フィルタを含む。かかる光学フィルタとしては、石英ガラス、熱線カットフィルタ(IRCF)、310nm以下カットフィルタ、320nm以下カットフィルタ、340nm以下カットフィルタ、390nm以下カットフィルタ、ソーダライムガラス、400?450nmバンドパスフィルタ等が挙げられる。これらの光学フィルタにより、400nm以下、特に390nm以下の波長の光によるフィルムの変形や偏光子フィルムからのヨウ素抜けを抑制できる。」

ウ 「【0021】
本発明の接着装置で使用できる保護フィルムは、公知の保護フィルムであり、例えば、非晶性ポリオレフィン系樹脂フィルム、ポリエステル系樹脂フィルム、アクリル系樹脂フィルム、ポリカーボネート系樹脂フィルム、ポリサルホン系樹脂フィルム、脂環式ポリイミド系樹脂フィルムなどの透湿度の低い樹脂フィルム等が挙げられる。これらのほか、トリアセチルセルロースフィルムやジアセチルセルロースフィルムなどのセルロースアセテート系樹脂のような透湿度の比較的高い樹脂フィルム等が挙げられる。偏光子の両面に保護フィルムを接着する場合、両者は、同じ種類のものであってもよいし、異なる種類のものであってもよい。
【0022】
非晶性ポリオレフィン系樹脂は、通常、ノルボルネンや多環ノルボルネン系モノマーのような環状ポリオレフィンの重合単位を有するものであり、環状オレフィンと鎖状環状オレフィンとの共重合体であってもよい。市販されている非結晶性ポリオレフィン系樹脂として、JSR(株)の商品名アートン、日本ゼオン(株)のZEONEX、ZEONOR、三井化学(株)のAPO、アペルなどがある。」

エ 「【0045】
製造例1?6及び比較製造例1?3 偏光板の製造
一軸延伸し、ヨウ素で染色したポリビニルアルコール偏光子フィルムの片面にトリアセチルセルロースフィルムを、他の片面に非結晶性ポリオレフィン系樹脂フィルム(日本ゼオン(株)製のゼオノアフィルム)を調製例で調製した光硬化性エポキシ樹脂系接着剤Aを介して貼り合わせて、3層構造のフィルムを得た。得られた3層構造のフィルムを、第1及び第2の赤外線ランプを用いて、室温(25℃)、30℃、40℃、50℃、60℃、70℃、80℃、100℃、120℃及び140℃に加温した後、直ちにメタルハライドランプ(アイグラフィックス社製)を用いて、照射強度200mW/cm^(2)(405nm)、積算光量1000mJ/cm^(2)(405nm)、搬送速度1.5m/minで光の照射を行って偏光板を得た。なお、光学フィルタは使用しなかった。偏光板フィルム間の接着剤層は、1?3μm程度の厚みであった。この値は、電子顕微鏡により確認した。

(中略)

材料温度:UV照射直前の接着剤の温度(加温温度)
UV照射後の接着剤の状態:
以下の基準で評価した。
液状で硬化不十分:液体状態で硬化が不十分であり、接着していない
剥がれ:フィルムが剥がれている
△:接着しているが強度はやや弱い(?100g/25mm)
○:接着しており、強度も中程度(100?200g/25mm)
◎:接着しており、強度も十分(200g/25mm?)
UV照射後のフィルムの変形:肉眼で観察した。
耐湿試験後の耐久特性:
偏光板を60℃-90%の条件の耐湿試験槽に500時間放置した後の外観(色抜けやフィルム変性)を以下の基準で評価した。
×:はがれや変形、偏光子部分の色抜けが強く起きる。
△:はがれや変形、偏光子部分の色抜けが起きる。
○:偏光子部分の色抜けが極くわずかに起きるが、はがれや変形は起きない。
◎:はがれや変形、偏光子部分の色抜けが起きない。
耐湿試験後の光学特性:
耐湿試験前及び後の偏光板について、偏光度と透過率を測定し、それらの劣化(耐湿試験前の偏光板の値からの低下)で評価した。
※偏光板の変性(変形、耐久特性、光学特性)については熱のみならず、紫外線によっても劣化を生じた。

(中略)

製造例7?13及び比較製造例4?6 偏光板の製造
製造例1?6及び比較製造例1?3の偏光板の製造において、メタルハライドランプと被着体フィルムの間に、波長390nm以下の光をカットする光学フィルタ(アイグラフィックス社製)を配置して接着装置を使用し、同様にして、それぞれ製造例7?13及び比較製造例4?6の偏光板を得た。
【表3】

表3から、波長390nm以下の光をカットする光学フィルタをメタルハライドランプと被着体の間に配置すると、これを配置しない場合と比べ、偏光子およびフィルムの変性も少なく、良好な接着性と耐久特性をもつ偏光板が得られた。またこれらは390nm以下の波長カットフィルタに代えて、320nm以下の波長カットフィルタ、340nm以下の波長カットフィルタ又は370nm以下の波長カットフィルタを使用しても同様の結果が得られたが、390nm以下の波長カットフィルタの使用が最も構成フィルムへの影響が少なかった。光学フィルタの使用により、120℃に加温した場合のフィルムの変形は抑制できたが、140℃に加温した場合のフィルムの変形は抑制できなかった。」

(2) 以上の記載事項エに基づけば、引用文献1には、製造例7?13及び比較製造例4?6の偏光板の製造方法として、以下の発明が記載されていると認められる。
「一軸延伸し、ヨウ素で染色したポリビニルアルコール偏光子フィルムの片面にトリアセチルセルロースフィルムを、他の片面に非結晶性ポリオレフィン系樹脂フィルム(日本ゼオン(株)製のゼオノアフィルム)を調製例で調製した光硬化性エポキシ樹脂系接着剤Aを介して貼り合わせて、得られた3層構造のフィルムを、第1及び第2の赤外線ランプを用いて、室温(25℃)、30℃、40℃、50℃、60℃、70℃、80℃、100℃、120℃及び140℃に加温した後、メタルハライドランプと被着体フィルムの間に、波長390nm以下の光をカットする光学フィルタ(アイグラフィックス社製)を配置して接着装置を使用し、直ちにメタルハライドランプ(アイグラフィックス社製)を用いて、照射強度200mW/cm^(2)(405nm)、積算光量1000mJ/cm^(2)(405nm)、搬送速度1.5m/minで光の照射を行って偏光板を得る偏光板の製造方法。」(以下、「引用発明」という。)

2 引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先権主張の日前の平成22年10月14日に頒布された刊行物である特開2010-231015号公報(以下、「引用文献2」という。には、以下の事項が記載されている。

(1) 「【0042】
(接着剤)
偏光子保護フィルムと偏光子との積層の際に用いる接着剤は、適宜選択されるが、活性エネルギー線硬化型接着剤であるのが好ましく、溶剤含有量が0?2重量%と低いものがより好ましい。接着剤中の溶剤含有量はガスクロマトグラフィー等によって測定できる。
【0043】
溶剤としては、n-ヘキサンやシクロヘキサンのような脂肪族炭化水素類;トルエンやキシレンのような芳香族炭化水素類;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノールのようなアルコール類;アセトン、ブタノン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンのようなケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルのようなエステル類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブのようなセロソルブ類;塩化メチレンやクロロホルムのようなハロゲン化炭化水素類などが挙げられる。
【0044】
また、活性エネルギー線硬化型接着剤は、23℃におけるB型粘度計により測定される粘度が50?2000mPa・sであると、接着剤の塗布性に優れ好適である。活性エネルギー線硬化型接着剤は、無色透明であれば、特に制限なく公知のものを使用することができる。活性エネルギー線硬化型接着剤の主成分となる活性エネルギー線硬化性化合物としては、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、アリル基などを官能基に有する化合物などの活性エネルギー線によりラジカル重合を起こして硬化するもの(光ラジカル重合性化合物);エポキシ基、オキセタン基、水酸基、ビニルエーテル基、エピスルフィド基、エチレンイミン基等の官能基を有する化合物などの活性エネルギー線により光カチオン反応を起こして硬化するもの(光カチオン重合性化合物);が挙げられる。
【0045】
光ラジカル重合性化合物として、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレートなどのヒドロキシアルキルアクリレート;2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレートなどのヒドロキシアリールアクリレート;2-アクリロイロキシエチルコハク酸、2-アクリロイロキシエチルフタル酸などのアクリル変性カルボン酸;トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレートのようなポリエチレングリコールジアクリレート;ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレートのようなポリプロピレングリコールジアクリレート;その他、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、ビスフェノールAエチレンオキサイド変性ジアクリレート、ビスフェノールAプロピレンオキサイド変性ジアクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートのような多官能アクリレート;エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ネオペンチルグリコールのアクリル酸安息香酸混合エステルなどその他のアクリレート;これらのメタクリレート体;などが挙げられる。」

(2) 「【0063】
活性エネルギー線としては、通常、光が用いられる。この光は特に限定されるものではないが、例えば、マイクロ波、赤外線、可視光、紫外線、X線、γ線等が挙げられる。特に取り扱いが簡便であり、比較的高エネルギーを得られることから紫外線が好適に用いられる。」

(3) 「【0095】
(偏光板の作製)
偏光子の両面に、光カチオン重合型のエポキシ系接着剤又は光ラジカル重合型のアクリル系接着剤を介して、偏光子保護フィルを貼り合わせ、積算光量3000mJ/cm^(2)の紫外線を照射し偏光板を得た。」


第5 対比・判断
1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「一軸延伸し、ヨウ素で染色したポリビニルアルコール偏光子フィルム」は、本件発明1の「偏光子」に相当する。
また、引用発明の「トリアセチルセルロースフィルム」及び「非結晶性ポリオレフィン系樹脂フィルム(日本ゼオン(株)製のゼオノアフィルム)」は、引用文献1の記載事項ウによれば、保護フィルムとして機能するものである。また、上記フィルムは、いずれも偏光板を構成するものであるから、対象とする光に対して透明であるといえる。したがって、引用発明の「トリアセチルセルロースフィルム」及び「非結晶性ポリオレフィン系樹脂フィルム(日本ゼオン(株)製のゼオノアフィルム)」は、本件発明1の「透明保護フィルム」に相当する。
さらに、引用発明の「調製例で調製した光硬化性エポキシ樹脂系接着剤A」と本件発明1の「ラジカル重合性化合物を含有する活性エネルギー線硬化型接着剤組成物(ただし、ラジカル重合性化合物およびカチオン性重合性化合物からなる主剤中に、ガラス転移温度が-80℃?0℃のホモポリマーを形成するラジカル重合性化合物(a)を60?99.8質量%含むものを除く)」とは、「活性エネルギー線硬化型接着剤組成物」である点で共通する。
そして、引用発明の「偏光板」は、「一軸延伸し、ヨウ素で染色したポリビニルアルコール偏光子フィルムの片面にトリアセチルセルロースフィルムを、他の片面に非結晶性ポリオレフィン系樹脂フィルム(日本ゼオン(株)製のゼオノアフィルム)を調製例で調製した光硬化性エポキシ樹脂系接着剤Aを介して貼り合わせて、得られた3層構造のフィルム」に「光の照射を行って」得られるものであり、光硬化性の接着剤が光の照射により硬化することは技術常識であるから、「光硬化性エポキシ樹脂系接着剤A」は硬化物層となり接着剤層を形成するといえる。
したがって、引用発明の偏光板の製造方法は、本件発明1の「偏光子の少なくとも片面に、活性エネルギー線硬化型接着剤組成物の硬化物層により形成された接着剤層を介して、透明保護フィルムが貼り合わされた偏光板の製造方法」であるという要件を備えている。

イ 引用発明の「一軸延伸し、ヨウ素で染色したポリビニルアルコール偏光子フィルムの片面にトリアセチルセルロースフィルムを、他の片面に非結晶性ポリオレフィン系樹脂フィルム(日本ゼオン(株)製のゼオノアフィルム)を調製例で調製した光硬化性エポキシ樹脂系接着剤Aを介して貼り合わせ」る工程は、フィルムとフィルムを接着剤を介して貼り合わせる際には、どちらか、あるいは双方のフィルムに接着剤を塗工して貼り合わせることが技術常識であるから、本件発明1の「前記偏光子の前記接着剤層を形成する面および/または前記透明保護フィルムの前記接着剤層を形成する面に前記活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を塗工した後、前記偏光子と前記透明保護フィルムとを貼り合わせる工程」に相当する。

ウ 引用発明の「メタルハライドランプと被着体フィルムの間に、波長390nm以下の光をカットする光学フィルタ(アイグラフィックス社製)を配置して接着装置を使用し、直ちにメタルハライドランプ(アイグラフィックス社製)を用いて、照射強度200mW/cm^(2)(405nm)、積算光量1000mJ/cm^(2)(405nm)、搬送速度1.5m/minで光の照射を行って偏光板を得る」工程において、光の照射を行うことにより光硬化性エポキシ樹脂系接着剤Aが硬化して接着剤層が形成されることは技術常識に照らし明らかである。したがって、引用発明の「メタルハライドランプと被着体フィルムの間に、波長390nm以下の光をカットする光学フィルタ(アイグラフィックス社製)を配置して接着装置を使用し、直ちにメタルハライドランプ(アイグラフィックス社製)を用いて、照射強度200mW/cm^(2)(405nm)、積算光量1000mJ/cm^(2)(405nm)、搬送速度1.5m/minで光の照射を行って偏光板を得る」工程は、本件発明1の「活性エネルギー線照射によって前記活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を硬化して前記接着剤層を形成する工程」に相当する。
また、引用発明の「メタルハライドランプと被着体フィルムの間に、波長390nm以下の光をカットする光学フィルタ(アイグラフィックス社製)を配置して接着装置を使用」することにより被着体フィルムに照射される光は、「前記活性エネルギー線」であって「波長範囲380?440nmの積算照度と波長範囲250?370nmの積算照度との比が100:0?100:50である」との要件を満たしているといえる。

よって、本件発明1と引用発明とは、
「偏光子の少なくとも片面に、活性エネルギー線硬化型接着剤組成物の硬化物層により形成された接着剤層を介して、透明保護フィルムが貼り合わされた偏光板の製造方法であって、
前記偏光子の前記接着剤層を形成する面および/または前記透明保護フィルムの前記接着剤層を形成する面に前記活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を塗工した後、前記偏光子と前記透明保護フィルムとを貼り合わせる工程、次いで、活性エネルギー線照射によって前記活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を硬化して前記接着剤層を形成する工程、を有し、
前記活性エネルギー線は、波長範囲380?440nmの積算照度と波長範囲250?370nmの積算照度との比が100:0?100:50である偏光板の製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点]本件発明1では、活性エネルギー線硬化型接着剤組成物が、ラジカル重合性化合物を含有するものであって、ラジカル重合性化合物およびカチオン性重合性化合物からなる主剤中に、ガラス転移温度が-80℃?0℃のホモポリマーを形成するラジカル重合性化合物(a)を60?99.8質量%含むものを除いたものであるのに対し、引用発明では、活性エネルギー線硬化型接着剤組成物が、光硬化性エポキシ樹脂系接着剤Aである点。

(2)判断
上記相違点について検討する。
引用文献1の記載事項アによると、引用発明は、「光カチオン硬化型エポキシ樹脂系接着剤により偏光子フィルムと保護フィルム及び/又は光学補償フィルムとを接着するための」ものであることを前提としており、光カチオン硬化型エポキシ樹脂の「カルボカチオンとエポキシ基の反応は常温では起こりにくい反応であるため、強い照度の光を長く照射する」必要があり、これにより、「紫外線の一部が熱に変り、ヨウ素で染色したポリビニルアルコールフィルム(偏光子フィルム)からヨウ素の昇華や偏析による色抜けが起こったり、あるいは偏光子フィルムや保護フィルム又は光学補償フィルムが変形したりして、品質が劣化する」という問題を解決しようとするものである。これに対して、光ラジカル重合性化合物におけるラジカル反応は、引用発明でいう「常温では起こりにくい反応である」とはいえない。
したがって、仮に、引用発明の「光硬化性エポキシ樹脂系接着剤A」を、引用文献2に記載されているような「光ラジカル重合性化合物」に替えた場合にも、光カチオン硬化型樹脂の場合と同様に、紫外線の一部が熱に変り、ヨウ素で染色したポリビニルアルコールフィルム(偏光子フィルム)からヨウ素の昇華や偏析による色抜けが起こったり、あるいは偏光子フィルムや保護フィルム又は光学補償フィルムが変形したりして、品質が劣化するという課題が生じるという根拠を、引用文献1ないし引用文献2からは見いだすことができない。
なお、引用文献2の記載事項(2)によれば、引用文献2に記載された発明は、比較的高エネルギーが得られる紫外線を用いるものである。したがって、引用発明の「光硬化性エポキシ樹脂系接着剤A」を引用文献2に記載されているような「光ラジカル重合性化合物」に替える場合においては、比較的高エネルギーが得られる短波長領域の390nm以下の光をカットするフィルタを採用しようとする動機が生じないともいえるところである。
以上のとおりであるから、偏光子と偏光子保護フィルムを貼り合わせるに際し、活性エネルギー線硬化型接着剤として、光ラジカル重合性化合物を用いることは周知技術であったとしても、引用発明において光硬化性エポキシ樹脂系接着剤Aを他の活性エネルギー線硬化型接着剤へ変更する動機付けはなく、仮に引用文献2に記載されているような光ラジカル重合性化合物に変更した場合には、強い照度の光を長く照射する必要はないから、引用文献1の記載事項イに記載されるような光学フィルタを配置して400nm以下、特に390nm以下の波長の光によるフィルムの変形や偏光子フィルムからのヨウ素抜けを抑制するという課題も生じない。
よって、引用発明において、上記相違点に係る本件発明1の構成を採用する動機付けがなく、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

2 本件発明2?6について
本件発明2?6と引用発明とを対比すると、いずれも相違点として、前記1(1)に記載した[相違点]を含むものである。そして、前記1(2)において検討したとおり、引用発明において、上記相違点に係る本件発明1の構成を採用する動機付けがなく、当業者が容易に発明をすることができたものということはできないものであるから、本件発明2?6も、同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 引用文献2の記載事項(3)に記載された偏光板の作製方法のうち、光ラジカル重合型のアクリル系接着剤を介して、偏光子保護フィルを貼り合わせる作製方法を、引用発明とした場合について一応検討する。
引用文献2には、紫外線の照射によるフィルムの変形やヨウ素抜けなどについて何ら言及されておらず、活性エネルギー線の波長範囲380?440nmの積算照度と波長範囲250?370nmとの比を制御する課題が開示されているとはいえない。そして、引用文献1の記載事項イにおける「特に390nm以下の波長の光によるフィルムの変形や偏光子フィルムからのヨウ素抜けを抑制」するという課題は、常温では起こりにくい反応に基づく光カチオン硬化型エポキシ樹脂による接着を、強い照度の光を長く照射することにより行う場合に発生する課題であるから、引用文献2に記載された、光ラジカル重合型のアクリル系接着剤を介して偏光子保護フィルを貼り合わせる作製方法においても、同様の課題を内在するということはできない。
したがって、本件発明1は、引用文献2に記載された発明に基づいても、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。


第6 むすび
以上のとおり、本件発明1?6は、当業者が引用発明及び上記周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-02-06 
出願番号 特願2013-138911(P2013-138911)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (C09J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 加藤 昌伸  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 宮澤 浩
多田 達也
発明の名称 活性エネルギー線硬化型接着剤組成物、偏光板、光学フィルムおよび画像表示装置  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  

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