• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08K
管理番号 1336988
異議申立番号 異議2017-700491  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-03-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-05-16 
確定日 2017-12-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6028362号発明「ディップ成形用組成物及びディップ成形品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6028362号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし6〕について訂正することを認める。 特許第6028362号の請求項1ないし3、5及び6に係る特許を維持する。 特許第6028362号の請求項4に係る特許についての申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6028362号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成24年3月29日に特許出願され、平成28年10月28日にその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人張迪(以下、単に「異議申立人」という。)により請求項1ないし6に係る特許について特許異議の申立てがされ、平成29年7月7日付けで請求項1ないし6に係る特許について取消理由が通知され、その指定期間内である同年9月7日付け(受理日:同年9月8日)で意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、同年9月25日付けで特許異議申立人に対して訂正請求があった旨の通知がされたところ、同年10月27日付け(受理日:同年10月30日)で異議申立人から意見書が提出されたものである。



第2 訂正の適否についての判断

1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、次のとおりである。なお、下線は、訂正個所を示すものである。

(1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項5において、「請求項1?3のいずれか1項に記載のディップ成形用組成物、または請求項4に記載の製造方法により得られるディップ成形用組成物を」とあるのを、
「請求項1?3のいずれか1項に記載のディップ成形用組成物を」に訂正する(請求項5を引用する請求項6についても同様に訂正する。)。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1について
訂正事項1の訂正は訂正前の請求項4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2の訂正は、特許請求の範囲の請求項4の削除に伴い、請求項5における請求項4の引用を削除するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)一群の請求項
本件訂正請求による訂正は、一群の請求項である訂正前の請求項1ないし6についてされたものである。
したがって、本件訂正請求による訂正は、一群の請求項ごとに適法に請求されたものである。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1ないし6〕について訂正を認める。



第3 本件発明について

本件訂正請求により訂正された請求項1ないし6に係る発明(以下、それぞれ順に「本件特許発明1」ないし「本件特許発明6」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
メチルエチルケトン不溶解分が10?70重量%であるカルボキシル基含有共役ジエンゴム(A)のラテックス、および、分子内に炭素-窒素間二重結合を有する単量体単位を含有する重合体(B)、を含み、
前記分子内に炭素-窒素間二重結合を有する単量体単位が、オキサゾリン基を有する単量体単位またはカルボジイミド構造を有する単量体単位であり、
前記カルボキシル基含有共役ジエンゴム(A)100重量部に対する、前記重合体(B)の含有量が0.01?20重量部であるディップ成形用組成物。
【請求項2】
酸化亜鉛を含まない請求項1に記載のディップ成形用組成物。
【請求項3】
前記カルボキシル基含有共役ジエンゴムが、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位20?40重量%、共役ジエン単量体単位50?78重量%を含有するものであり、前記カルボキシル基含有共役ジエンゴムのメチルエチルケトン不溶解分が40?70重量%である請求項1または2に記載のディップ成形用組成物。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
請求項1?3のいずれか1項に記載のディップ成形用組成物を、ディップ成形する工程を備えるディップ成形品の製造方法。
【請求項6】
手袋である請求項5に記載のディップ成形品の製造方法。」



第4 取消理由の概要

当審において平成29年7月7日付けで通知した取消理由の概要は、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものであり(以下、「取消理由1」という。)、請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の出願の日前に出願され、本件特許の出願後に国際公開がされた日本語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の日本語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記日本語特許出願の出願人と同一でもなく、同法第184条の13の規定により読み替えてなる同法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、その特許は取り消すべきものであり(以下、「取消理由2」という。)、請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の出願日前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、その特許は取り消すべきものである(以下、「取消理由3」という。)、というものである。



第5 当審の判断

1 取消理由1の検討
(1)本件特許発明1に係る特許についての検討
訂正前の請求項1に係る取消理由1は、「本件特許発明1の『分子内に炭素-窒素間二重結合を有する単量体単位を含有する重合体(B)』であって、『前記分子内に炭素-窒素間二重結合を有する単量体単位が、カルボジイミド構造を有する単量体単位』である重合体(B)の構造は、炭素-炭素二重結合が付加重合した主鎖及びカルボジイミド構造が懸垂した側鎖からなる構造であるのか、カルボジイミドを含む主鎖からなる構造であるのか、或いは、その両方の構造をとり得るのか不明である。したがって、本件特許発明1は明確でない。」というものである。
そこで検討すると、本件特許発明1においては、「分子内に炭素-窒素間二重結合を有する単量体単位を含有する重合体(B)、を含み、前記分子内に炭素-窒素間二重結合を有する単量体単位が、オキサゾリン基を有する単量体単位またはカルボジイミド構造を有する単量体単位であり」と特定されているのであって、この意味は、「重合体(B)」は、「分子内に炭素-窒素間二重結合を有する単量体単位」を含有するものであって、前記「分子内に炭素-窒素間二重結合を有する単量体単位」とは、「オキサゾリン基を有する単量体単位」または「カルボジイミド構造を有する単量体単位」であると明確に理解することができるものである。そして、斯かる理解は、カルボジイミド構造が懸垂した側鎖からなる構造であるのか、あるいは、カルボジイミドを含む主鎖からなる構造であるのかという点によって何ら左右されるものではない。
そうすると、本件特許発明1における重合体(B)についての記載は明確であって、本件特許発明1の記載は明確である。
また、本件特許発明1を直接又は間接的に引用してなる本件特許発明2、3、5及び6についても、本件特許発明1と同様に明確である。

(2)本件特許発明4に係る特許についての検討
上記第2で述べたとおり、訂正前の請求項4は訂正により削除されたことにより、取消理由1のうち、訂正前の請求項4に係る取消理由については、対象とした本件特許発明4に係る特許は存在しなくなったことから、当該取消理由は解消している。

(3)取消理由1のまとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1ないし3、5及び6についての特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものではないから、同法第113条第4号に該当し、その特許は取り消すべきものであるとはいえない。

2 取消理由2の検討
(1)先願明細書
特願2014-559850号(国際公開第2013/129905号)の日本語特許出願の明細書(特表2015-513486号公報。異議申立人が提出した甲第6号証。以下、「甲6明細書」という。)

(2)先願明細書の記載事項(下線は、合議体が付与。以下同じ。)
甲6明細書には、以下の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】
ポリマー物品の作成方法であって:
カルボジイミド基を含有する第一化合物を、カルボキシラート基を含有する第二化合物と混合することによってポリマー溶液を作成する工程;
該ポリマー溶液を成形具(former)に塗布する工程であって、該ポリマー溶液の作成の2時間以内に行う工程;及び
該ポリマー溶液を硬化する工程;
を組み合わせて含む、ポリマー物品の作成方法。
【請求項2】
ポリマー溶液を成形具に塗布する工程が、成形具をポリマー溶液内に浸すことを含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ポリマー溶液を作成する工程が、硫黄、酸化亜鉛及び/又は促進剤を使用せずに行われる、請求項1に記載の方法。」

イ 「【0010】
カルボジイミド基を有する第一化合物の適切な例には、例えば、カルボジイミド官能基-N=C=N-を有する、脂肪族又は芳香族及びその混合物の、モノ-、ジ-、トリ-、テトラ-、オリゴ-又はポリカルボジイミドが含まれる。適切なモノカルボジイミドの例としては、それらに限定するものではないが、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジ-t-ブチルカルボジイミド、t-ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、N,N′-ビス(2-メチルフェニル)カルボジイミド、1,3-ジ-p-トリルカルボジイミド、ジ-β-ナフチルカルボジイミド、エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、1,3-ビス(トリメチルシリル)カルボジイミド、N-(tert-ブチル)-N′-(2,6-ジクロロフェニル)カルボジイミド、N-(tert-ブチル)-N′-(1-(2-クロロフェニル)-1-メチルエチル)カルボジイミド及びN-ブチル-N′-(1-(2-クロロフェニル)-1-メチルエチル)カルボジイミドが挙げられる。適切なポリカルボジイミドの例としては、例えば、芳香族、脂肪族又は脂環式ジイソシアネート及びそれらの混合物、例えば、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4′-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トルエン-2,4-ジイソシアネート、トルエン-2,6-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4-ジイソシアネート、1,4-フェニレン-ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4′-ジイソシアネート、3-イソシアナトメチル-3,3,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、1,6-ヘキシルジイソシアネート、1,4-シクロヘキシル-ジイソシアネート、ノルボルニルジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、4,4-ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート及びメチルシクロヘキサンジイソシアネートを末端とするポリカルボジイミドが挙げられる。他の適切なカルボジイミドは、この開示の便益を与えられた当業者には容易に明らかであろう。
【0011】
カルボキシラート基を含有する第二化合物の適切な例としては、例えば、アクリロニトリルブタジエン、イソプレン、スチレン、クロロプレン、エチレン、塩化ビニルなどの合成ポリマー及びそれらのコポリマー、ブレンド物並びに混合物や、改質された天然ゴムラテックスが挙げられる。ポリマー中のカルボキシラート基としては、例えば、2-プロペン酸、2-メチルプロペン酸、2-メチリデンブタン二酸、(Z)-ブテン二酸、(E)-ブテン二酸、及び(E)-ブタ-2-エン酸などのカルボン酸;又はメチル、エチル、ブチル、2エチルヘキシル-及び2-ヒドロキシエチルプロペン酸などの2-プロペン酸エステルを備えたその酸無水物;又はアクリルアミド及びアクリロニトリルなどの2-プロペン酸以外のアクリルモノマー;又はα-メチルスチレン、酢酸ビニルなど;が挙げられる。一例において、第二化合物は、ベースポリマーの約1?10乾燥重量%、好ましくは、ベースポリマーの2?7乾燥重量%の2-メチルプロペン酸当量で、2-メチルプロペン酸ターポリマーを備えたアクリロニトリルであってもよい。カルボキシラート基を備えた他の適切なポリマーは、この開示の便益が与えられた当業者には容易に明らかであろう。
(中略)
【0014】
ポリマー溶液を作成し、塗布準備を整えたら、かかるポリマー溶液を成形具に塗布してもよい。「成形具」という用語は、硬化の前にポリマー溶液をコーティングするエレメントのような、標準的な形をした成形具にまで言い及ぶと広義に理解され、例えば、ディップコーティングプロセスで使用する成形具を含んでもよい。所望のポリマー物品によっては、射出成形プロセスで使用する金型キャビティの表面も、成形具として機能しうる。
【0015】
ディップコーティングプロセスのためには、成形具をポリマー溶液内に浸漬する工程の前に、成形具を前処理する工程が望ましい。本工程は、例えば、少なくとも界面活性剤、離型剤及びイオン溶液を含むプレコートでの成形具の前処理を含んでもよい。プレコートは、例えば、8?20重量パーセントのカルシウムイオンの第一溶液の第一プレコート溶液、0.05?0.25重量パーセントの非イオン性でシリコーンフリーの界面活性剤の第二溶液の第二プレコート溶液、及び0.5?2.5重量パーセントの予め均質化された離型剤の第三溶液の第三プレコート溶液の混合物を含んでもよい。成形具は、(例えば、浸漬によって)塗布され、110?130℃で60秒以上乾燥されたプレコートを有してもよい。ポリマー溶液が成形具に塗布されるとき、成形具は約50?60℃の表面温度を有することが好ましい。
【0016】
成形具を準備したら、ポリマー溶液を成形具に塗布すればよい。これは多くの異なる方法の一つで実行することができる。例えば、(任意にプレコートされた)成形具を、一般的な周囲条件で、ポリマー溶液内に限られた期間(5?20秒)浸漬し、次いで乾燥すればよい。乾燥は、110?130℃のオーブンで30?60秒間すればよい。その結果、成形具は湿潤ゲルでコーティングされる。場合によっては、この湿潤ゲルを弱有機酸で処理し、湿潤ゲルのpHを下げる助けとしてもよい。場合によっては、事前浸出工程もまた、湿潤ゲルでコーティングされた成形具を温水中に浸漬すること、を含んでもよい。潤滑剤もまた湿潤ゲルに塗布してもよい。半乾燥された湿潤ゲルの端部を巻きながら下ろして、ビードを形成してもよい。ビードは、ポリマー物品を成形具からはがす際に役立つ。
【0017】
熟成時間の短縮に加えて、ポリマー溶液の硬化工程もまた短縮することができる。ポリマー溶液を硬化すると、中間固体が生み出される。例えば、第一化合物がブタジエン-アクリロニトリルエラストマーラテックスである場合、硬化工程は加速でき、より低温で実行でき、20分未満で行うことができ、その結果、硬化されたカルボキシル化ニトリルラテックスが形成される。より好ましくは、硬化工程は、80?130℃または80?90℃の温度のオーブンで、8?20分間あるいは12?16分間、行うことができる。
【0018】
中間固体又はラテックスは、次いで、表面不純物を除去するため、浸出工程におかれる。非常に有利な特徴によれば、浸出工程に要する時間もまた短縮することができる。除去されるべき促進剤、硫黄、酸化亜鉛又は他の架橋剤を一切存在させないことが可能だからである。浸出工程は、ラテックスを、50?60℃の水中に50?120秒間だけ、好ましくは50?70秒間だけ浸漬することによって行うことができる。浸出工程が完了すると、ラテックスを乾燥し、得られたポリマー物品(手袋、指サック、コンドーム、風船、膀胱袋、カテーテル、チュービング、ゴムバンド、止血帯、弾性バンド、ダイアフラム、歯科用ダム、鞘などを形成する、0.03?0.33mmの厚みの薄肉物品など)を成形具から除去すればよい。場合によっては、上記で開示されたプロセスによって形成されて得られた生成物を、湿度が制御された室内に12?24時間、恒久的にセットしてもよい。」

ウ 「【実施例】
【0019】
(実験例1?5)
約30℃の温度で約60分間混合された表1記載の式を有する、ポリマー物品を作成した。市販品として入手可能な、カルボキシラート基含有化合物(ELx-A、ELx-B、ELx-C、ELx-E及びELx-F)を、カルボジイミド化合物(CDI)並びに水酸化アンモニウム、酸化防止剤(p-クレゾールとシクロペンタジエンのブチル化反応生成物(BPC)及び二酸化チタン(TiO_(2))と混合する。ポリマー溶液の各成分の量を、カルボキシラート基含有化合物100乾燥重量部に基づいて明示する。脱塩水をかかる化合物に添加して、15?20%の固形分を含む配合物(formulation)を生成した。清潔な成形具をプレコートで均一にコーティングし、次いで、表1の種々のポリマー溶液で均一にコーティングした。成形具上の湿潤ゲルを、130℃で15分間硬化した。硬化したフィルムを成形具からはがし、24時間調整した(conditioned)。
【表1】

MAA=2-メチルプロペン酸
【0020】
実験例1?5で作成したフィルムについて、引張強さ(TS)、伸び、ASTMD-412に基づく300%モジュラス及び500%モジュラス、破断伸び(Eb)、トルエン(LS-t)及びシクロヘキサノン(LS-c)中での耐溶剤性を、各々試験した。これらの試験結果を表2に示す。かかる結果は、カルボキシル化化合物が、カルボジイミド化合物を用いて効果的に架橋され、高い引張強さと非極性トルエン(<85%の線形膨潤)及び極性シクロヘキサノン(<123%の線形膨潤)に対する良好な耐薬品性とを有するポリマー物品が生成されたことを示している。
【表2】

フィルムの線形膨潤:トルエン中(LS-t);シクロヘキサノン中(LS-c)」

エ 「【0022】
(実験例10?15)
実験例1と同じ方法を用いて、ただし、表5に示すようにEq430を有するCDIの用量を変えた配合物から、薄いフィルム状のポリマー物品を作成した。ポリマー物品特性は表6に示す通りである。これらの結果は、種々のレベルの耐薬品性を備えた薄肉フィルムを生成するため、カルボキシル化化合物100部当たりCDIを約1?15部使用できることを示している。かかるデータは、また、極性溶媒が弾性フィルムを通った破過リーク時間(break through leak time)が330分を超えたことも示している。
【表5】

【表6】

(表6(続き)省略)
フィルムの線形膨潤:トルエン中(LS-t);シクロヘキサノン中(LS-c);ヘキサン中(LS-h);アセトン中(LS-a)、BT-c=シクロヘキサノンが弾性フィルムを通った破過時間(breakthrough time)。」

オ 「【0028】
(実験例20?23)
実験例11と同じ配合物を用いて、但し、80?130℃の種々の温度で15分間硬化して、弾性手袋を作成した。得られた特性は表9に示す通りである。かかる結果は、良好な物理的耐性及び耐薬品性を備えた手袋を示している。耐久性の課題は、CDI架橋された手袋が、実際の実験室の作業条件下で、ヒトの汗で崩壊(break down)することなく3時間を超えて着用できることを示している。」

(3)甲6明細書に記載された発明
甲6明細書には、上記摘示(2)アないしオ、特に実験例1?5、11及び20?23の下線部の記載からみて、以下の発明が記載されているといえる。

「カルボキシラート基含有化合物(ELx-A)100乾燥重量部、カルボジイミド化合物(CDI eq.430)2乾燥重量部、水酸化アンモニウム(NH_(4)OH)1乾燥重量部、酸化防止剤(p-クレゾールとシクロペンタジエンのブチル化反応生成物(BPC)1乾燥重量部、及び、二酸化チタン(TiO_(2))1乾燥重量部を混合したポリマー溶液。」(以下、「甲6発明1」という。)

「カルボキシラート基含有化合物(ELx-B)100乾燥重量部、カルボジイミド化合物(CDI eq.430)2乾燥重量部、水酸化アンモニウム(NH_(4)OH)1乾燥重量部、酸化防止剤(p-クレゾールとシクロペンタジエンのブチル化反応生成物(BPC)1乾燥重量部、及び、二酸化チタン(TiO_(2))1乾燥重量部を混合したポリマー溶液。」(以下、「甲6発明2」という。)

「カルボキシラート基含有化合物(ELx-C(5-6% 2-メチルプロペン酸(MAA)))100乾燥重量部、カルボジイミド化合物(CDI eq.430)2乾燥重量部、水酸化アンモニウム(NH_(4)OH)1乾燥重量部、酸化防止剤(p-クレゾールとシクロペンタジエンのブチル化反応生成物(BPC)1乾燥重量部、及び、二酸化チタン(TiO_(2))1乾燥重量部を混合したポリマー溶液。」(以下、「甲6発明3」という。)

「カルボキシラート基含有化合物(ELx-E)100乾燥重量部、カルボジイミド化合物(CDI eq.430)2乾燥重量部、水酸化アンモニウム(NH_(4)OH)1乾燥重量部、酸化防止剤(p-クレゾールとシクロペンタジエンのブチル化反応生成物(BPC)1乾燥重量部、及び、二酸化チタン(TiO_(2))1乾燥重量部を混合したポリマー溶液。」(以下、「甲6発明4」という。)

「カルボキシラート基含有化合物(ELx-F)100乾燥重量部、カルボジイミド化合物(CDI eq.430)2乾燥重量部、水酸化アンモニウム(NH_(4)OH)1乾燥重量部、酸化防止剤(p-クレゾールとシクロペンタジエンのブチル化反応生成物(BPC)1乾燥重量部、及び、二酸化チタン(TiO_(2))1乾燥重量部を混合したポリマー溶液。」(以下、「甲6発明5」という。)

「カルボキシラート基含有化合物(ELx-C(5.5% 2-メチルプロペン酸(MAA)))100乾燥重量部、カルボジイミド化合物(CDI eq.430)2乾燥重量部、水酸化アンモニウム(NH_(4)OH)1乾燥重量部、酸化防止剤(p-クレゾールとシクロペンタジエンのブチル化反応生成物(BPC))1乾燥重量部、及び、二酸化チタン(TiO_(2))1乾燥重量部を混合したポリマー溶液。」(以下、「甲6発明6」という。)

「甲6発明6に係るポリマー溶液を用いて、80?130℃の種々の温度で15分間硬化して、弾性手袋を作成する方法。」(以下、「甲6発明7」という。)

(4)対比、判断
ア 本件特許発明1について
(ア)本件特許発明1と甲6発明1とを対比すると、両者は、少なくとも次の相違点1ないし5の点で相違する。

<相違点1>
本件特許発明1が、「カルボキシル基含有共役ジエンゴム(A)のラテックス」と特定しているのに対して、甲6発明1では「カルボキシラート基含有化合物(ELx-A)」と特定している点。

<相違点2>
本件特許発明1が、カルボキシル基含有共役ジエンゴム(A)のラテックスの「メチルエチルケトン不溶解分が10?70重量%である」ことを特定しているのに対して、甲6発明1ではそのような特定がない点。

<相違点3>
本件特許発明1が、「分子内に炭素-窒素間二重結合を有する単量体単位を含有する重合体(B)、を含み、前記分子内に炭素-窒素間二重結合を有する単量体単位が、オキサゾリン基を有する単量体単位またはカルボジイミド構造を有する単量体単位であり」と特定しているのに対して、甲6発明1では「カルボジイミド化合物(CDI eq.430)」と特定している点。

<相違点4>
本件特許発明1が、「ディップ成形用組成物」であることを特定しているのに対して、甲6発明1ではそのような特定がない点。

<相違点5>
甲6発明1が「水酸化アンモニウム(NH_(4)OH)1乾燥重量部、酸化防止剤(p-クレゾールとシクロペンタジエンのブチル化反応生成物(BPC)1乾燥重量部、及び、二酸化チタン(TiO_(2))1乾燥重量部」を含有するのに対して、本件特許発明1はそのような特定がない点。

(イ)相違点1について検討する。
甲6明細書には、甲6発明1における「カルボキシラート基含有化合物(ELx-A)」が具体的にどのようなものであるのかについて一切記載されていない。
そして、たとえ、甲6明細書の摘示イの【0017】の「第一化合物がブタジエン-アクリロニトリルエラストマーラテックスである場合、硬化工程は加速でき、より低温で実行でき、20分未満で行うことができ、その結果、硬化されたカルボキシル化ニトリルラテックスが形成される。より好ましくは、硬化工程は、80?130℃または80?90℃の温度のオーブンで、8?20分間あるいは12?16分間、行うことができる」との記載と、甲6発明1に係るポリマー溶液を用い、「成形具上の湿潤ゲルを、130℃で15分間硬化した」(甲6明細書の摘示ウの【0019】)との記載を併せみたとしても、甲6発明1における「カルボキシラート基含有化合物(ELx-A)」が、「ブタジエン-アクリロニトリルエラストマーラテックス」であるとまではいえない。
また、甲6明細書に係る出願において、審査時の補正である平成28年2月29日付け手続補正書によって、ELx-A?ELx-Fの具体的な商品名が特定されているとしても、斯かる手続補正書は、特許法第184条の13の規定により読み替えてなる同法第29条の2で規定する日本語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面には該当しないものであるから、当該手続補正書に記載された内容は、同法第29条の2の適用に際して参酌されるべきものではない。
したがって、相違点1は実質的な相違点である。

(ウ)相違点2について検討する。
甲6明細書には、甲6発明1におけるカルボキシラート基含有化合物(ELx-A)におけるメチルエチルケトン不溶解分について一切記載されていない。
そして、異議申立人が提出した甲第2号証(特開2007-177091号公報)、同じく甲第5号証(特開2006-321954号公報、以下、「甲5」という。)、同じく甲第13ないし22号証(特開平5-247266号公報、特開平6-182788号公報、国際公開第2001/053388号、特開2005-187544号公報、特開2005-336273号公報、国際公開第2005/012375号、国際公開第2006/057392号、特開2007-153948号公報、特開2007-161925号公報及び特開2009-197149号公報、以下、それぞれ順に「甲13」ないし「甲22」という。)において、多数のカルボキシル基含有共役ジエンゴムが、メチルエチルケトン不溶解分10?70重量%の範囲と重複しているとしても、特許権者が提出した乙第1号証(2017年9月5日 日本ゼオン株式会社 総合開発センター 機能性微粒子研究所 加藤慎二作成の実験成績証明書。以下、「乙1」という。)によれば、カルボキシル基含有共役ジエンゴムのメチルエチルケトン不溶解分は、単量体仕込み組成が同じであっても、その製造方法(特に、重合開始時及び重合途中で添加するt-ドデシルメルカプタン(連鎖移動剤)の量)の違いによって大きく変動するものであって、メチルエチルケトン不溶解分10?70重量%の範囲を外れるものが製造できることがみてとれるし、甲5の表2の記載からも、メチルエチルケトン不溶解分10?70重量%の範囲を外れるものが存在し、斯かるカルボキシ変性ニトリルゴムラテックスをディップ成形に用いることがみてとれる。
そうすると、メチルエチルケトン不溶解分10?70重量%は、カルボキシル基含有共役ジエンゴムが通常とり得る値であるとまではいえない。
また、甲6発明1のカルボキシラート基含有化合物(ELx-A)を含有するポリマー溶液が本件特許発明1の組成物とを比較しても、硬化して得られた成形品の300%引張応力が大きく相違するし、耐屈曲疲労性についても不明であるから、両者が同等の物性を示すとまでもいえない。
したがって、甲6発明1のカルボキシラート基含有化合物(ELx-A)と、本件特許発明1のカルボキシル基含有共役ジエンゴム(A)のラテックスとは、同じメチルエチルケトン不溶解分を有する蓋然性が高いとまではいえないから、相違点2も実質的な相違点である。

(エ)相違点3について検討する。
甲6発明1の「カルボジイミド化合物(CDI eq.430)」が、「eq.430」とは、化学当量が430であることを意味しており、斯かる記載からは、当該カルボジイミド化合物において、カルボジイミド1個当たりの分子量が430であることが理解されるに留まるものであり、当該カルボジイミド化合物が有するカルボジイミド基の総個数や当該カルボジイミド化合物の分子量については不明であるといわざるを得ない。
そうすると、たとえ、甲6明細書の摘示イの【0010】に「カルボジイミド基を有する第一化合物の適切な例には、例えば、カルボジイミド官能基-N=C=N-を有する、脂肪族又は芳香族及びその混合物の、モノ-、ジ-、トリ-、テトラ-、オリゴ-又はポリカルボジイミドが含まれる。」と記載されていたとしても、甲6発明1の「カルボジイミド化合物(CDI eq.430)」が、本件特許発明1における「分子内に炭素-窒素間二重結合を有する単量体単位を含有する重合体(B)」であって、「前記分子内に炭素-窒素間二重結合を有する単量体単位が、オキサゾリン基を有する単量体単位またはカルボジイミド構造を有する単量体単位」であるものである蓋然性が高いとまではいえない。
したがって、相違点3は実質的な相違点である。

(オ)小括
以上のとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲6発明1と同一であるとはいえない。
また、同様の理由により、本件特許発明1は、甲6発明2ないし6とも同一であるとはいえない。

イ 本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、本件特許発明1を引用するものであるから、本件特許発明1と同様の理由により、本件特許発明2及び3は、甲6発明1ないし6と同一であるとはいえない。

ウ 本件特許発明5及び6について
本件特許発明5及び6は、本件特許発明1ないし3に係るディップ成形用樹脂組成物を、ディップ成形する工程を備えるディップ成形品の製造方法に係るものであるところ、甲6発明7は、甲6発明6を用いて弾性手袋を作成する方法に係るものであるから、本件特許発明5及び6と甲6発明7とを対比すると、本件特許発明1と同様の理由により、本件特許発明5及び6は、甲6発明7と同一であるとはいえない。

(5)取消理由2のまとめ
以上のとおりであるから、請求項1ないし3、5及び6に係る発明は、本件特許の出願の日前に出願され、本件特許の出願後に国際公開がされた日本語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一ではなく、特許法第184条の13の規定により読み替えてなる同法第29条の2の規定により特許を受けることができないものではないから、本件特許発明1ないし3、5及び6は、同法第113条第2号に該当し、その特許は取り消すべきものであるとはいえない。

3 取消理由3の検討
(1)刊行物
特表2002-523164号公報(異議申立人が提出した甲第1号証。以下、「甲1」という。)

(2)甲1の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】 ラテックス及びポリウレタン、並びにその混合物及び共重合体よりなる群から選ばれる重合体の水性分散から形成される、非アレルギー誘発性合成重合体を含み、ヒト又は動物の生組織に接触するのに適合させた、非アレルギー誘発性である医療保健装置であって、該水性分散の該重合体が、約0℃より低いガラス転移温度を有し、約40,000より高い、好ましくは約100,000を越える数平均分子量を有し、更に、架橋結合受容官能性と反応する架橋剤の使用によって、架橋結合する官能性を有し、該架橋結合受容官能性が、ヒドロキシル、カルボキシル、アミド、イソシアナート、遮断イソシアナート、エポキシ、カルボニル、及びカルボニルで活性化されるメチレンの官能性よりなる群から選ばれ、該架橋剤と架橋結合受容官能性との反応を、120?500°F(約49?約260℃)の範囲の高い温度によって実施する医療保健装置。
【請求項3】 架橋結合受容官能性が、カルボキシル基であり、架橋剤が、多官能カルボジイミド、アジリジン、エポキシ、ヒドロキシエチルアミド、又は亜鉛若しくはジルコニウムのアミン錯体よりなる群から選ばれる請求項1記載の医療保健装置。
(中略)
【請求項8】 水性分散が、一方は架橋結合し、他方は架橋結合しない重合体の混合物を含み、これら2種類の重合体の比が20/80?80/20である請求項1記載の医療保健装置。
(中略)
【請求項17】 該装置が、保護手袋、コンドーム、止血帯及び歯科用ダムよりなる群から選ばれる請求項1記載の医療保健装置。」

イ 「【0001】
(技術分野)
本発明は、一般的には、合成重合体による材料で形成された医療装置に関する。より具体的には、本発明は、天然ゴムに基づくものに等しいか、又はそれより優れた弾性及び触覚特性を有する、新規な合成エラストマーに基づく一群の医療装置を提供する。これらの装置は、保護手袋、コンドーム、止血帯、歯科用ダムなどを包含する。天然ゴムに基づく医療装置とは異なり、本発明の新規合成エラストマーに基づくものは、非アレルギー誘発性である。」

ウ 「【0007】
タンパク質は、VNR基剤の装置の唯一のアレルギー誘発性成分ではない。望みの弾性及び障壁特性を達成するには、ゴムを加硫しなければならない。この工程では、物品の硬化の際に、硫黄に基づく結合を個々の分子間に導入する。加硫の際は、一定の促進剤、例えばアミン、カルボチアゾール、スルホンイミド、チオカルバマート及びチオウラムを用いなければならない。これらの促進剤のうちいくつか、又はすべてが、やはりアレルギーを生起する。実際、天然ゴムの加硫の方法によって架橋結合させた、ニトリルゴムは、完全に無タンパク質であるのに、アレルギー誘発性である。本発明の主要な目的は、完全に非アレルギー誘発性である手段によって架橋結合させた、完全に非アレルギー誘発性である合成ゴムから製造された物品を提供することである。」

エ 「【0009】
天然ゴム、ポリクロロプレン及びニトリルゴムは、水性重合体分散、具体的にはラテックスとして供給される。これら3種類のラテックス重合体は、決定的に重要な構造的特徴を共有する。すなわち、それらは、二重炭素結合の不飽和を有する、ジエン単量体の構造単位に基づく。」

オ 「【0014】
天然ゴムは、純粋なポリイソプレンである。ニトリルゴムは、アクリロニトリルとブタジエンとの20/80?40/60の比率での共重合体であり、しばしば、カルボキシル単量体で修飾される。ポリクロロプレンは、実質的に共単量体なしに製造されることが最も多い。」

カ 「【0023】
したがって、本発明の好適実施態様は、炭素-炭素の不飽和を実質的に含まず、ジエンに基づくゴムより優れた安定性を有する合成重合体を、生組織に接触する医療装置に用いることを含む。しかし、ジエン単量体は、得られるゴムを、硫黄の加硫によってではなく、本発明の本質的特徴である手段によって架橋結合させる限りは、本発明の実施に用いることができる。
(中略)
【0025】
本発明の架橋結合させたポリウレタン、又は合成ラテックスゴムは、手袋を製造するための唯一の成分となるような強さを有する。これらの新規ゴムの特性は、無粉手袋の製造のために、随意に調整することができる。一態様では、本発明は、指定できる応力緩和を有する、完全な弾力性又は多少の弾力性を調整するための新規な手段を提供する。ここで、これは、様々なTg値の架橋結合性及び非架橋結合性ゴムの分散を、浸漬及び注型浴中で混合することによって達成することができる。」

キ 「【0036】
(発明の詳細な説明)
本発明の医療装置は、好ましくは、フィルムの浸漬処理又は注型のいずれかによって製造する。適切な成形用型又は心軸を、水性重合体分散に浸漬する。成形用型は、それを引き出したときに、水性重合体の層によって被覆される。多数回の浸漬が随意である。多重浸漬の際は、凝集剤をフィルムに衝突させてよい。最後に、フィルムを、250?500°F(約120?約260℃)で数分間、又はより低い温度、例えば約120?180°F(49?約82℃)で、はるかに長時間のいずれかで硬化させる。浸漬法による医療装置の形成の詳細は、当業者に周知である。これに代えては、フィルムを、平坦なシートに注型し、浸漬によって製造される製品と同様に処理する。」

ク 「【0048】
架橋結合していないゴム状重合体は、弾力性に欠け、一旦変形すると、原形に復帰しない。本発明は、ラテックス重合体が架橋結合受容部位を有することを必要とする。後で示すとおり、カルボキシル(-COOH)及びヒドロキシル(-OH)基は、外部からの様々な架橋剤の使用を許すが、他の架橋結合受容基も、本発明に役立つ。カルボキシルは、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸その他の不飽和酸をラテックスに共重合させることによって導入するのが好都合である。有用なヒドロキシル官能単量体は、ヒドロキシアルキル(エチル、プロピル又はブチル)=アクリラート、=メタクリラート、-アクリルアミド又は-メタクリルアミドを包含する。本文脈中、望みのカルボキシル又はヒドロキシル当量は、500?10,000でなければならない。この必要条件は、ラテックスが、これらの官能単量体を0.02?4重量%含むならば満たされる。
【0049】
上記の架橋結合受容部位を通じての架橋結合は、ラテックスを、製造しようとする装置の最終的形状へと乾燥し、硬化した後に達成する。」

ケ 「【0112】
実施例3
ポリカルボジイミドで架橋結合させたポリウレタン分散に基づく装置
(中略)
【0113】
架橋剤を、この分散に加える。架橋剤は、Union Carbide CorporationのXL-29Eというポリカルボジイミドである。これを2.5当量(固体1,050gを、プロパンジオールのモノメチルエーテル50%に希釈)で加える。架橋結合させるため、乾燥したフィルムを、180°F(約82℃)で30分、又はより高い温度で、より短時間硬化させる。」

(3)甲1に記載された発明
甲1の摘示(2)アないしケの特に下線部からみて、「架橋剤と重合体の架橋結合受容官能性」とを実際に「反応」させていることから、水性分散には、重合体及び架橋剤が存在していると理解される。そうすると、甲1には、以下の発明が記載されているといえる(以下、「甲1発明」という。)。

「ラテックス及びポリウレタン、並びにその混合物及び共重合体よりなる群から選ばれる重合体、及び、架橋剤からなる水性分散であって、
水性分散の重合体が、架橋結合受容官能性と反応する架橋剤の使用によって、架橋結合する官能性を有し、
架橋結合受容官能性が、カルボキシル基であり、架橋剤が、多官能カルボジイミド、アジリジン、エポキシ、ヒドロキシエチルアミド、又は亜鉛若しくはジルコニウムのアミン錯体よりなる群から選ばれる、水性分散。」

(4)対比、判断
ア 本件特許発明1について
(ア)本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「ラテックス」であって、「架橋結合受容官能性が、カルボキシル基」である「重合体」と、本件特許発明1の「カルボキシル基含有共役ジエンゴム(A)のラテックス」とは、「カルボキシル基含有ラテックス」である点において一致している。
甲1発明の「多官能カルボジイミド」である「架橋剤」と、本件特許発明1の「分子内に炭素-窒素間二重結合を有する単量体単位を含有する重合体(B)、を含み、前記分子内に炭素-窒素間二重結合を有する単量体単位が、カルボジイミド構造を有する単量体単位」とは、「カルボジイミド構造を有する化合物」である点において一致している。
甲1発明の「水性分散」は、本件特許発明1の「組成物」に相当する。
そうすると、甲1発明と本件特許発明1は、「カルボキシル基含有ラテックス、および、カルボジイミド構造を有する化合物を含む、組成物。」である点で一致し、次の相違点AないしCで相違する。

<相違点A>
「カルボキシル基含有ラテックス」について、本件特許発明1が「メチルエチルケトン不溶解分が10?70重量%である」「共役ジエンゴム(A)」と特定しているのに対して、甲1発明ではそのような特定がない点。

<相違点B>
「カルボジイミド構造を有する化合物」について、本件特許発明1が「分子内に炭素-窒素間二重結合を有する単量体単位を含有する重合体(B)」であって、「前記分子内に炭素-窒素間二重結合を有する単量体単位が、オキサゾリン基を有する単量体単位またはカルボジイミド構造を有する単量体単位」であると特定しているのに対して、甲1発明では「多官能カルボジイミド」であると特定している点。

<相違点C>
本件特許発明1が、「前記カルボキシル基含有共役ジエンゴム(A)100重量部に対する、前記重合体(B)の含有量が0.01?20重量部であるディップ成形用組成物」であることを特定しているのに対して、甲1発明ではそのような特定がない点。

(イ)相違点Aについて検討する。
甲1の摘示(2)エ及びオには、ラテックスとして、「ニトリルゴム」を使用することができ、「ニトリルゴムは、アクリロニトリルとブタジエンとの20/80?40/60の比率での共重合体であり、しばしば、カルボキシル単量体で修飾される」ことが記載されているものの、斯かる摘示部分は、甲1の発明の背景を説明するための記載の一部の記載であって、甲1の摘示(2)イには、甲1に記載の発明が「天然ゴムに基づくものに等しいか、又はそれより優れた弾性及び触覚特性を有する、新規な合成エラストマーに基づく」ものであることが記載されていることから、斯かる記載を根拠として、甲1発明のラテックスとして、「アクリロニトリルとブタジエンとの20/80?40/60の比率での共重合体で、カルボキシル単量体で修飾されるニトリルゴム」を使用することが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。
そして、甲1の摘示(2)カには、「したがって、本発明の好適実施態様は、炭素-炭素の不飽和を実質的に含まず、ジエンに基づくゴムより優れた安定性を有する合成重合体を、生組織に接触する医療装置に用いることを含む。」と記載されており、斯かる記載からは、甲1発明におけるラテックスは、炭素-炭素の不飽和を実質的に含まない、すなわち共役ジエンゴムでないものが好適であることが理解され、実際のところ、甲1の実施例では、アクリルゴムとポリウレタンとが用いられているにすぎない。
仮に、甲1の摘示(2)カにおける「しかし、ジエン単量体は、得られるゴムを、硫黄の加硫によってではなく、本発明の本質的特徴である手段によって架橋結合させる限りは、本発明の実施に用いることができる。」との記載を根拠として、甲1発明において、「共役ジエンゴム」を選択することの動機が示されているとしても、甲1発明におけるラテックスについて、メチルエチルケトン不溶解分は明記されておらず、上記3.(4)ア(ウ)で述べたとおり、メチルエチルケトン不溶解分10?70重量%は、カルボキシル基含有共役ジエンゴムが通常とり得る値であるとまではいえない。
また、仮に、甲5及び甲13ないし甲22において、ラテックスのメチルエチルケトン不溶解分が10?70重量%の範囲と一部重複する範囲が記載されているとしても、これらの各甲号証には、ラテックスのメチルエチルケトン不溶解分が10?70重量%であることによって、ディップ成形品に使用した場合に、耐屈曲疲労性および機械的強度に優れたものとなることが記載されている訳ではないから、甲1発明において、耐屈曲疲労性および機械的強度に優れたディップ成形品を得ることを目的として、ラテックスをカルボキシル基含有共役ジエンゴムに変更し、かつ、そのメチルエチルケトン不溶解分を10?70重量%と特定することが当業者にとり容易であるとはいえない。
そして、本件特許発明1の相違点Aに基づく効果について検討すると、乙1で提出された比較例5及び6を併せ考慮しつつ、本件特許明細書の実施例1又は5と比較例3ないし6とを対比すれば、ラテックスのメチルエチルケトン不溶解分が10?70重量%の範囲内であることにより、耐屈曲疲労性および機械的強度、具体的には、300%引張応力、引張強度、のみならず、さらに、伸び、銅イオン変色性、臭気の全てにおいて優れたディップ成形品が得られることがみてとれ、斯かる効果は、当業者の予測の範囲内のものであるとはいえない。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、本件特許発明1を引用するものであるから、本件特許発明1と同様の理由により、本件特許発明2及び3は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 本件特許発明5及び6について
本件特許発明5及び6は、本件特許発明1ないし3に係るディップ成形用樹脂組成物を、ディップ成形する工程を備えるディップ成形品の製造方法に係るものであるから、本件特許発明1と同様の理由により、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)取消理由3のまとめ
以上のとおりであるから、請求項1ないし3、5及び6に係る発明は、本件特許の出願日前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではないから、本件特許発明1ないし3、5及び6は、同法第113条第2号に該当し、その特許は取り消すべきものであるとはいえない。

4 取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立ての理由について
(1)特許異議申立人は、特許異議の申立ての理由として、さらに、本件特許発明に係る特許は、本件特許明細書の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである旨も主張する。
しかしながら、本件特許明細書の記載を検討したが、本件特許明細書の記載は、当業者が本件特許発明を実施することができる程度に記載されているものといえる。
したがって、本件特許発明に係る特許は、明細書の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、同法第113条第4号に該当するものではなく、取り消すことはできない。

(2)特許異議申立人は、特許異議の申立ての理由として、さらに、本件特許発明に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである旨も主張する。
しかしながら、本件特許明細書の記載を検討したが、本件特許請求の範囲の記載は、特定された範囲についてまで本件特許発明に係る課題を解決することができると当業者が認識できるものといえる。
したがって、本件特許発明に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、同法第113条第4号に該当するものではなく、取り消すことはできない。



第6 むすび

以上のとおりであるから、取消理由及び異議申立人が主張する特許異議の申立ての理由によっては、本件特許発明1ないし3、5及び6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1ないし3、5及び6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許発明4に係る特許に対して異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチルエチルケトン不溶解分が10?70重量%であるカルボキシル基含有共役ジエンゴム(A)のラテックス、および、分子内に炭素-窒素間二重結合を有する単量体単位を含有する重合体(B)、を含み、
前記分子内に炭素-窒素間二重結合を有する単量体単位が、オキサゾリン基を有する単量体単位またはカルボジイミド構造を有する単量体単位であり、
前記カルボキシル基含有共役ジエンゴム(A)100重量部に対する、前記重合体(B)の含有量が0.01?20重量部であるディップ成形用組成物。
【請求項2】
酸化亜鉛を含まない請求項1に記載のディップ成形用組成物。
【請求項3】
前記カルボキシル基含有共役ジエンゴムが、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体単位20?40重量%、共役ジエン単量体単位50?78重量%を含有するものであり、前記カルボキシル基含有共役ジエンゴムのメチルエチルケトン不溶解分が40?70重量%である請求項1または2に記載のディップ成形用組成物。
【請求項4】(削除)
【請求項5】
請求項1?3のいずれか1項に記載のディップ成形用組成物を、ディップ成形する工程を備えるディップ成形品の製造方法。
【請求項6】
手袋である請求項5に記載のディップ成形品の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-11-28 
出願番号 特願2012-75332(P2012-75332)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C08K)
P 1 651・ 537- YAA (C08K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山村 周平  
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 小野寺 務
上坊寺 宏枝
登録日 2016-10-28 
登録番号 特許第6028362号(P6028362)
権利者 日本ゼオン株式会社
発明の名称 ディップ成形用組成物及びディップ成形品  
代理人 とこしえ特許業務法人  
代理人 とこしえ特許業務法人  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ