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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G01N
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G01N
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01N
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G01N
管理番号 1336994
異議申立番号 異議2016-700441  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-03-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-05-17 
確定日 2017-12-14 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5818237号発明「N-メチルアミノ酸およびその他の特殊アミノ酸を含む特殊ペプチド化合物ライブラリーの翻訳構築と活性種探索法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5818237号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1-13〕について訂正することを認める。 特許第5818237号の請求項1ないし13に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5818237号の請求項1?13に係る特許についての出願は、平成27年10月9日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人金山愼一より請求項1?13に対して特許異議の申立てがされ、平成28年7月21日付けで取消理由が通知され、平成28年9月26日に意見書の提出及び訂正請求がされ、平成28年12月19日に特許異議申立人金山愼一から意見書が提出され、平成29年2月27日付けで取消理由通知(決定の予告)がされ、同年5月2日に意見書の提出及び訂正請求がされ、同年7月14日に特許異議申立人金山愼一から意見書が提出され、同年9月14日に同年5月2日付け訂正請求に対する手続補正書が提出されたものである。

第2 訂正の適否

1 訂正の内容

(1)訂正事項1及び2
特許権者は、特許請求の範囲の請求項1を以下の事項により特定されるとおりの請求項1として訂正することを請求する。
「 【請求項1】
次の工程を含む、ペプチドライブラリーから標的物質に結合する特殊ペプチドを選択する方法:
(i)核酸ライブラリーを調製し、特殊アミノ酸でアシル化された伸長用tRNAと大腸菌由来のリボゾームとを含む無細胞翻訳系によって翻訳し、特殊アミノ酸がペプチド配列にランダムに導入された特殊ペプチドのライブラリーを調製する工程;
(ii)ペプチドライブラリーを標的物質に接触させる工程;及び
(iii)標的物質に結合する特殊ペプチドを選択する工程、ここで該特殊ペプチドは複数の特殊アミノ酸を含む
であって、
前記(i)の工程において、ライブラリーを構成する各ペプチドが当該ペプチドをコードする核酸配列から翻訳され、核酸配列とその翻訳産物であるペプチドが連結されて、in vitroディスプレイライブラリーが構築され、
核酸配列において、ペプチドをコードする領域が、異なる複数のトリプレットの繰り返しからなるランダム配列を含み、ランダム配列中のトリプレットの少なくとも一部が特殊アミノ酸を指定する人為的なコドンに対応する配列であり、特殊アミノ酸でアシル化された伸長用tRNAのアンチコドンと特殊アミノ酸を指定する人為的なコドンの対合により特殊アミノ酸がペプチド配列に導入され、
前記(iii)の工程が、標的物質に結合するペプチドをコードする核酸配列を決定し、核酸配列からペプチド配列を決定し、複数の特殊アミノ酸を含むペプチドを選択することを含む、前記方法。」

(2)訂正事項3
特許権者は、特許請求の範囲の請求項2を以下の事項により特定されるとおりの請求項2として訂正することを請求する。
「 【請求項2】
ペプチドをコードする領域が、さらに、
官能基1を持つアミノ酸を指定するコドン、及び
官能基2を持つアミノ酸を指定するコドン
に対応する配列を含み、
官能基1及び官能基2は結合形成反応が可能な一組の官能基であり、
前記(i)の工程において、特殊アミノ酸でアシル化された伸長用tRNAのアンチコドンと特殊アミノ酸を指定する人為的なコドンの対合により特殊アミノ酸がペプチド配列に導入され、翻訳産物であるペプチドが官能基1と官能基2の間の結合形成反応によって環状化されることにより、ライブラリーが環状特殊ペプチドのライブラリーであり、
前記(iii)の工程が、標的物質に結合する環状特殊ペプチドをコードする核酸配列を決定し、核酸配列からペプチド配列を決定し、標的物質に結合する環状特殊ペプチドを選択することを含む、請求項1の方法。」

(3)訂正事項4
特許権者は、特許請求の範囲の請求項11を以下の事項により特定されるとおりの請求項11として訂正することを請求する。
「 【請求項11】
mRNAとその翻訳産物である環状特殊ペプチドの複合体からなるin vitroディスプレイライブラリーであって、該in vitroディスプレイライブラリーは請求項8の方法に使用される、in vitroディスプレイライブラリーを調製する方法であって、
ペプチドをコードする領域が、以下の(a)?(c):
(a)クロロアセチル基を持つアミノ酸を指定する人為的なコドン、
(b)特殊アミノ酸を指定する人為的なコドンを含む、異なる複数のトリプレットの繰り返しからなるランダム配列、及び
(c)システインを指定するコドン
を含むmRNAライブラリーを、以下の(d)及び(e)のアミノアシルtRNA:
(d)前記(a)のコドンと相補的なアンチコドンを有する、クロロアセチル基を持つアミノ酸でアシル化された人工tRNA
(e)1種以上の特殊アミノ酸でアシル化された人工tRNA
並びに
(f)システイン、システインtRNA、及びシステイニルRS(CysRS)、及び
(g)大腸菌由来のリボゾーム
を少なくとも含む再構成型の無細胞翻訳系で翻訳することにより、前記in vitroディスプレイライブラリーを調製する方法。」

(3)訂正事項5
特許権者は、特許請求の範囲の請求項12を以下の事項により特定されるとおりの請求項12として訂正することを請求する。
「 【請求項12】
環状特殊ペプチドと当該ペプチドをコードする核酸配列の複合体からなるin vitroディスプレイライブラリーを調製するためのキットであって、該キットは請求項8の方法に使用され、
(i)ペプチドをコードする領域が、以下の(a)?(c)を含むmRNA:
(a)クロロアセチル基を持つアミノ酸を指定する人為的なコドン、
(b)特殊アミノ酸を指定する人為的なコドンを含む、異なる複数のトリプレットの繰り返しからなるランダム配列、及び
(c)システインを指定するコドン
及び
(ii)以下の(d)及び(e)のアミノアシルtRNA:
(d)前記(a)のコドンと相補的なアンチコドンを有する、クロロアセチル基を持つアミノ酸を持つアミノ酸でアシル化された人工開始tRNA、
(e)前記(b)の人為的なコドンと相補的なアンチコドンをそれぞれ有する、異なる特殊アミノ酸でそれぞれアシル化された人工伸長tRNA、
及び
(iii)システイン及びシステインでアシル化され得るtRNA、及び
(iv)単離された大腸菌由来のリボソーム
を少なくとも含む、前記キット。」

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1、4及び5について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に「(i)・・・特殊アミノ酸でアシル伸長用tRNAを含む無細胞翻訳系によって翻訳し、」と記載されているのを、、「(i)・・・特殊アミノ酸でアシル伸長用tRNAと大腸菌由来のリボゾームとを含む無細胞翻訳系によって翻訳し、」に訂正し、訂正事項4は、訂正前の請求項11の「前記in vitroディスプレイライブラリーを調製する方法」が、「(g)大腸菌由来のリボゾーム」を含むものであると訂正し、訂正事項5は、訂正前の請求項12における「単離されたリボゾーム」を、「単離された大腸菌由来のリボゾーム」に訂正するものであり、いずれも特許請求の範囲の減縮のためにする訂正である。そして、本件明細書の発明の詳細な説明中の段落【0106】に「翻訳系の構成成分の具体例としては、リボソーム、IF群、EF群、RF群、RRF、目的のペプチド合成に最低限必要となる天然アミノ酸・tRNA・特異的なARSタンパク質質酵素のセット、翻訳反応のためのエネルギーソース、などがある。」と記載され、段落【0107】に「リボソームとしては、大腸菌から単離され、精製されたリボソームが好適に利用される。」及び段落【0116】に「例えば、大腸菌由来のリボソームを利用する系の場合は、開始コドンの上流にShine-Dalgarno(SD)配列やイプシロン配列などを含むことにより翻訳反応の効率が上昇する。」と記載されているから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2に関する訂正は明瞭でない記載の釈明を目的としたものである。そして、本件明細書の発明の詳細な説明中の段落【0030】には、「本発明者らは、遺伝暗号リプログラミング技術を利用して、複数の特殊アミノ酸を含む特殊ペプチドのライブラリー(特殊ペプチドライブラリーと称する)を構築し、これをディスプレイ系と組み合わせることで、標的物質に高い結合能を有する特殊ペプチドアプタマーのスクリーニングを行う技術を確立した。」と記載されているから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3について
請求項2に対する訂正は、請求項1に対する訂正に基づき、訂正前の請求項2の「ライブラリーが環状特殊ペプチドを含み」との記載を、「環状特殊ペプチドのライブラリーであり」と訂正したものであり、上記(1)と同様に、明瞭でない記載の釈明を目的としたものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)一群の請求項について
訂正前の請求項2?13は、それぞれ訂正の請求の対象である訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正前の請求項3から13はそれぞれ訂正前の請求項2を直接又は間接的に引用しているものであるから、訂正事項1ないし3によって訂正される請求項1及び2に連動して訂正されるものである。したがって、訂正の請求は、一群の請求項ごとにされたものである。

3 小括
したがって、上記訂正請求による訂正事項1?5は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項1?13について訂正を認める。

第3 当審の判断
1 取消理由通知に記載した取消理由について
(1) 訂正後の請求項1ないし13に係る発明
上記訂正請求により訂正された訂正後の請求項1および2に係る発明(以下「本件発明1および2」という。)は、上記第2の1(1)及び(2)の訂正の内容において示したとおりのものであり、訂正後の請求項11及び12に係る発明(以下「本件発明11及び12」という。)は、上記請求項1および2の訂正に連動して訂正されるとともに、それぞれ訂正事項4及び5で訂正された上記第2の1(3)及び(4)の訂正の内容において示したとおりのものであり、訂正後の請求項3ないし10及び13に係る発明(以下「本件発明3ないし10及び13」という。)は、上記請求項1および2の訂正に連動して訂正されたものである。

(2)甲各号証の記載の事項
ア 甲第1号証に記載の事項
取消理由通知において引用した甲第1号証(Steven W.Millward et.al., Design of Cyclic Peptides That Bind Protein Surfaces with Antibody-Like Affinity, ACS Chem.Biol., Vol.2, No.9, 625?634頁, 2007年9月21日)には、以下の事項が記載されている。

(甲1a)「

Figure 1. Schematic of cyclic mRNA display selection. The MX_(10)K library was transcribed from synthetic DNA and ligated to a short DNA linker (gray). The resulting template was translated in rabbit reticulocyte lysate in the presence of THG73 amber suppressor tRNA chemically aminoacylated with NMF (NMF-tRNA^(CUA)). The resulting mRNA-peptide fusion library was purified and cyclized with DSG. Members of the library that bound to the immobilized Gαi1 were eluted with SDS, and the corresponding sequences were amplified and enriched by PCR.」(図1、当審訳「図1 環状mRNAディスプレイ選択の概略図
MX_(10)Kライブラリーは、合成DNAから転写され、短いDNAリンカー(灰色)に連結させた。得られたテンプレートを、ウサギ網状赤血球溶解物中、NMF(NMF-tRNA^(CUA))で化学的にアミノアシル化したTHG73アンバー-サプレッサーtRNAの存在下で翻訳した。得られたmRNA-ペプチド融合物ライブラリーを精製し、DSGで環化した。固定化Gαi1に結合したライブラリーのメンバーは、SDSで溶出され、対応する配列をPCRで増幅させ、富化された。」)

(甲1b)「…Cyclosporin, a cyclic 11-residue peptide produced commercially by the fungus Beauveria nivea acts as a potent orally bioavailable immunosuppressant (15). The enhanced proteolytic stability and cell permeability of cyclosporin are likely the result of both unnatural N-methyl amino acids (16, 17) and macrocyclization (18, 19). Using this molecule as a guide, we reasoned that ribosomally synthesized peptide libraries could be improved by incorporating (i) cyclic structure and (ii) N-methylated amino acids in the backbone. Previously, we demonstrated that the ribosome could be used to construct N-methylated peptides and that these oligomers were highly resistant to protease degradation (20). Disulfide-based cyclization has been used extensively as a structural constraint in phage display libraries (21, 22) but is compromised by reduction in the intracellular environment (23). More recently, we designed and synthesized a trillion-member cyclic peptide library in mRNA display format using a bis- NHS cross-linking reagent to join the N-terminus to an internal lysine residue (24).
Here we describe cyclic mRNA display and employ it to design macrocyclic peptide ligands for Gαi1. These libraries were constructed with an expanded genetic code, using N-methylphenylalanine (NMF) as the 21st amino acid. The resulting cyclic peptides, such as cyclic Gαi binding peptide (cycGiBP), bind Gαi1 with monoclonal antibody-like affinity (K_(d) 2.1 nM), the highest reported affinity for a small peptide ligand bound to a Gα subunit. This work presents a potentially general route to design cyclic peptide ligands against a broad range of protein targets.

RESULTS AND DISCUSSION
Selection for Binding to Gαi1. We began with a library of the form MX_(10)K, where X represents a random position encoded by an NNG/C codon. We had previously shown that a library of this general form could be cyclized with good efficiency by linking the N-terminus to the fixed lysine side chain via the bis-NHS reagent disuccinimidyl glutarate (DSG) (24). This work also demonstrated that it was possible to construct a trillionmember macrocyclic library containing an unnatural amino acid. In the present work, we combined these features to generate a trillion-member library containing NMF as the 21st amino acid.
This library was translated in the presence of ambersuppressor NMF-transfer RNA (tRNA)^(CUA) and cyclized with DSG (Figure 1). The random region was constructed with 10 tandem NNS repeats, resulting in UAG (amber) stop codons at a frequency of 3% at each of the random positions. The estimated diversity of the round 0 pool was 1.67 × 10^(12) unique sequences with ≧ 3 copies of each molecule. The library was panned against immobilized Gαi1, and the tightly binding sequences were amplified to generate the DNA for the subsequent round. The results of the selection are shown in Figure 2.The binding of each pool to the immobilized target began to increase in the fourth round and continued to increase until round 7. At this point, the library was sequenced; the results are shown in Figure 2, panel b. As can be seen from the sequence alignment, glutamic acid and phenylalanine are 100% conserved at positions 6 and 7, respectively. Tryptophan is found at position 4 in seven of the eight sequences. Threonine or serine residues are found at position 3, and hydrophobic residues (leucine, isoleucine, or valine) are found at position 8. R7.4 and R7.5 are identical and represent the only sequence to appear twice in the round 7 pool. Interestingly, the TWYEFV hexamer sequence appears three times independently in pool 7 and represents a conserved core motif similar to that observed in previous selection experiments (Table 1 and references therein).」(第626頁左欄第23行?第627頁第9行、当審訳
「…真菌Beauveria nivea によって商業的に生産される11残基の環状ペプチドであるシクロスポリンは、強力な経口的にバイオアベイラブルな免疫抑制剤として作用する(文献15)。シクロスポリンの向上されたタンパク質分解安定性および細胞透過性は、おそらく非天然のN-メチルアミノ酸(文献16,17)と大環状化(文献18,19)の両方の結果による。この分子をガイドとして用いて、我々は、リボソーム性合成ペプチドライブラリーは(i)環状構造と(H)バックボーン中のN-メチル化アミノ酸とを組み込むことで改善できると推論した。以前、我々は、リボソームを用いてN-メチル化ペプチドを構築することができること、およびこれらのオリゴマーがプロテアーゼ分解に対して高度に耐性であったことを実証した(文献20)。ジスルフィドベースの環化は、ファージディスプレイライブラリ一における構造上の制約として広く使用されている(文献21,22)が、細胞内環境の低下によって損なわれる(文献23)。より最近では、我々は、ビスNHS架橋試薬を用いて内部リジン残基をN末端に結合させて、mRNAディスプレイでの一兆の成分からなる環状ペプチドライブラリーを設計し、合成した(文献24)。
ここでは、我々は環状mRNAディスプレイを記述し、Gαi1に対する大環状ペプチドリガンドを設計するためにそれを用いる。これらのライブラリーは、N-メチルフェニルアラニン(NMF)を21番目のアミノ酸として用いる拡張された遺伝子コードで構築された。環状Gαi結合ペプチド(cycGiBP)等の得られた環状ペプチドは、モノクローナル抗体のような親和性(K_(d) =2.1 nM)、すなわちGαサブユニットに結合する小さなペプチドリガンドとして報告された最高の親和性で、Gαi1に結合する。本研究は、広い範囲のタンパク質標的に対する環状ペプチドリガンドを設計するための一般的になる可能性を有する道筋を提示する。

議論及び結果
Gαi1への結合のための選択
我々は、式:MX_(10)K(式中、XはNNG/Cコドンでコードされたランダムな位置を表す。)のライブラリーで始めた。我々は、以前、この一般式のライブラリーがビスNHS試薬ジスクシンイミジルグルタレート(DSG)を介して、固定されたリジン側鎖にN末端を連結することによって、高い効率で環化できることを示した(文献24)。本研究はまた、非天然アミノ酸を含む一兆の成分からなる大環状ライブラリーを構築することが可能であることを実証した。本研究では、我々は、これらの特徴を組み合わせて、NMFを21番目のアミノ酸として含む一兆の成分からなるライブラリーを生成した。
このライブラリーは、アンバー-サプレッサーNMF-トランスファーRNA(tRNA)^(CUA)の存在下で翻訳され、DSGで環化された(図1)。ランダム領域は、縦に並んだ10個のNNSの繰り返しで構築され、その結果、ランダムな各々の位置でのUAG(アンバー)停止コドンの頻度は約3%となった。ラウンド0のプールの見積られた多様性は、各分子が≧3コピーである、1.67×10^(12)の固有の配列であった。ライブラリーを、固定化されたGailに対してパニングして、強く結合した配列を増幅し、続くラウンドのためのDNAを生成させた。選択の結果を図2に示す。固定化された標的への各プールの結合は、ラウンド4で増加し始め、ラウンド7まで増加し続けた。この時点でライブラリーを配列決定し、その結果を図2のパネルbに示す。配列アラインメントから分かるように、グルタミン酸およびフェニルアラニンはそれぞれ6位および7位で100%保存されている。トリプトファンは、8個のうちの7個の配列で4位に見られる。スレオニンまたはセリン残基は3位に見られ、疎水性残基(ロイシン、イソロイシンまたはバリン)は8位で見られる。R7.4とR7.5は同一であり、ラウンド7のプールで2回現れる唯一の配列を表す。興味深いことに、TWYEFVヘキサマー配列は、プール7で独立して3回現れ、以前の選択実験(表1およびその中の参考文献)で観察されたものと同様の保存されたコアモチーフを表す。」)

(甲1c)「In this work, we present the first selection of a redoxinsensitive, post-translationally cyclized peptide using a biological display library with an expanded genetic code. The selected cyclic peptide showed specificity for the GDP-bound state of the Gαi1 and moderate specificity for the Gαi class. Competition experiments showed that cycGiBP bound to Gαi1 with extremely high affinity (K_(i) =2.1 nM) and that cyclization resulted in a 15-fold improvement in binding affinity relative to the linear peptide. The cyclic peptide was also shown to have increased proteolytic stability relative to its linear counterpart. Taken together, cycGiBP represents an excellent lead compound for additional medicinal chemistry and in vivo studies. In the future, the use of cyclic, unnatural mRNA display libraries may enable the selection of highaffinity, high-specificity ligands with increased stability for biological applications.」(第631頁右欄第18?34行、当審訳「本研究では、拡張された遺伝子コードを用いる生物学的ディスプレイライブラリーを使用して、翻訳後に環化された酸化還元非感受性ペプチドを初めて選択した。選択された環状ペプチドは、Gαi1のGDP結合状態に対する特異性と、Gαiクラスに対する適度な特異性を示した。競合実験は、cycGiBPがGαi1に非常に高い親和性(K_(i) =2.1 nM)で結合すること、および環化によって直鎖状ペプチドと比較して15倍の結合親和性の改善が得られることを示した。また、環状ペプチドは、その対応する直鎖状ペプチドと比較して増加したタンパク質分解安定性を有することが示された。まとめると、cycGiBPは、追加の医薬品化学およびインビボ研究のための優れたリード化合物に相当する。将来、環状の非天然mRNAディスプレイライブラリーを使用することで、生物学的用途のために高められた安定性を有する高親和性、高特異性リガンドを選択することが可能になるであろう。」)

(甲1d)「METHODS
NMF-tRNA. The synthesis of N-methyl, N-nitroveratrylcarbonyl phenylalanine cyanomethyl ester was carried out according to the published protocol (20) with minor modifications. The final product was purified by silica gel chromatography in 1:1 EtOAc/ hexanes. Yield 187.5 mg (74%). Analysis by low-resolution electrospray ionization MS (ESI MS): [M + Na]^(+) expected 479.15, observed 479.6. The synthesis of N-methyl, N-nitroveratrylcarbonyl phenylalanine-dCA was carried out according to previous protocol. Yield 0.5 mg (5.5%). Analysis by low-resolution ESI-MS: [M - H]^(-) expected 1035.2, observed 1035.2. Following ligation to THG-73 tRNA (30), deprotection of the nitroveratryloxycarbonyl group was effected by photolysis with a xenon lamp equipped with a 315-nm cutoff filter, and the NMF-tRNA was immediately added to the translation reaction.」((第631頁左欄下から第14行?第631頁右欄下から第14行、当審訳「方法
NMF?tRNA
N‐メチル‐N‐二トロベラトリルカルボニルフェニルアラニンシアノメチルエステルの合成を、公表されたプロトコール(文献20)に小さな変更を加えて実施した。最終生成物を、酢酸エチル/ヘキサン(1:1)を用いてシリカゲルクロマトグラフィーで精製した。収量=187.5mg(74%)。低分解能エレクトロスプレーイオン化MS(ESI?MS)による分析:[M+Na]^(+)計算値479.15,観測値479.6。
N‐メチル‐N‐二トロベラトリルカルボニルフェニルアラニン‐dCAの合成を、上記のプロトコールに従って行った。収量=0.5mg(5.5%)。低分解能ESI‐MSによる分析:[M‐H]^(-) 計算値1035.2,観測値1035.2。
THG‐73 tRNA(文献30)への連結の後、ニトロベラトリルオキシカルボニル基の脱保護を、315nmのカットオフフィルターを備えたキセノンランプで光分解することによって行い、そのNMF‐tRNAを直ちに翻訳反応に添加した。」)

(甲1e)「 Synthesis of MX_(10)K Library. Antisense MX_(10)K single-stranded DNA template was synthesized at the Keck Oligonucleotide Synthesis Facility (Yale) and the sequence is 5'…GCCAGACCCCGATTTSNNSNNSNNSNNSNNSNNSNNSNNSNNSNNCATTGTAATTGTA AATA-GTAATTG…3', where N A,T,C,G and S G,C. The reagent bottle used for the “N” positions was made by mixing A:C:G:T in the ratio 3:3:2:2. The reagent bottle for “S” positions was made by mixing C:G in a 3:2 ratio.
MX_(10)K library double-stranded DNA was amplified by five cycles of polymerase chain reaction (PCR) using the forward primer Gen-FP (5'…TAATACGACTCACTATAGGGACAATTACTATTTACAATTA CA…3') and the reverse primer MK_(10)K-RP (5'…ACCGCTGCC AGACCCCGATT T…3'). The Round 0 mRNA pool was generated by T7 runoff transcription and purified by urea-PAGE. The purified mRNA was ligated to F30P (5'-dA_(21)[C_(9)]_(3)dAdCdC-P; C_(9) tri-(ethylene glycol) phosphate (Glen Research), P puromycin (Glen Research)), via an oligonucleotide splint (MX_(10)K-splint: 5'…TTTTTTTTTTTTTACCGCTGCCAGAC…3'). Following PAGE purification of the ligation reaction, the template was dissolved in water and quantitated by absorbance at 260 nm.」(第631頁右欄下から第13行?第632頁左欄第7行、当審訳「MX_(10)Kライブラリーの合成
アンチセンスMX_(10)Kの一本鎖DNAテンプレートを、Keck Oligonucleotide Synthesis Pacility (Yale)で合成した。その配列は、5'…GCCAGACCCCGATTTSNNSNNSNNSNNSNNSNNSNNSNNSNNSNNCATTGTAATTGTAAATAGTAATTG…3'(式中、N=A,T,C,G、およびS=G,C)である。 “Nの位置に用いられる試薬ボトルは、A:C:G:Tを3:3:2:2の比率で混合して作成した。 “Sの位置に用いられる試薬ボトルは、C:Gを3:2の比率で混合して作成した。
MX_(10)Kライブラリーの二本鎖DNAを、フォワードプライマーのGen?FP(5'…TAATACGACTCACTATAGGGACAATTACTATTTACAATTACA…3')およびリバースプライマーのMX_(10)K?PR(5'…ACCGCTGCCAGACCCCGATTT…3')を用いて、5サイクルのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)で増幅した。ラウンド0のmRNAプールを、T7ランオフ転写で生成させ、尿素?PAGFで精製した。精製されたmRNAを、F30P(5’‐dA_(21)[C_(9)]_(3)dAdCdC?P;C_(9)=トリ(エチレングリコール)ホスフェート(Glen Research),P=ピューロマイシン(Glen Research))に、オリゴヌクレオチドスプリント(MX_(10)K?スプリント:5'…TTTTTTTTTTTTTACCGCTGCCAGAC…3')を経由して連結させた。連結反応のPAGE精製に続いて、テンプレートを水に溶解させ、260nmの吸光度で定量した。」)

(甲1f)「 Translation and Cyclization. Translation of the round 0 pool was aimed at generating an initial complexity of 1.67×10^(12) unique mRNA-peptide fusion sequences with 3-fold oversampling. Accordingly, 300 pmol of MX_(10)K template was translated in rabbit reticulocyte lysate under standard conditions. The translation reaction was supplemented with 60 g of NMF-tRNA^(CUA) in 1 mM NaOAc (pH 4.5) and ^(35)S-methionine. After 1 h of translation at 30 ℃, KOAc and MgOAc were added to a final concentration of 600 and 50 mM, respectively, and the reactions were placed at 20 ℃ for 1 h.
Translation mixtures were diluted 1:10 in dT binding buffer (10 mg mL 1 dT cellulose, 1 M NaCl, 20 mM Tris, 1 mM EDTA, 0.2% (v/v) Triton X-100, pH8) and agitated for 1 h at 4 ℃. The dT cellulose was filtered and washed with dT wash buffer (300 mM NaCl, 20 mM Tris, pH 8). The DNA.peptide conjugates were eluted with 10 mM NH_(4)OH and ethanol precipitated in the presence of linear acrylamide (Ambion).
The round 0 pool was cyclized by adding 190 L of dTpurified fusions in 50 mM phosphate buffer (pH 8) to 50 L of DSG (1 mg mL 1 in DMF). The reaction was allowed to proceed for 1 h, and the fusions were repurified by dT-cellulose and ethanol precipitated.
In subsequent rounds, 60 pmol of library template was translated in the presence of 12 g of NMF-tRNA^(CUA) in 1 mM NaOAc (pH 4.5). Cyclization was performed by adding 40 L of dTpurified fusions in 50 mM phosphate buffer (pH 8) to 10 L of DSG (1 mg mL 1 in DMF).」(第632頁左欄第8行?第632頁左欄第34行、当審訳「翻訳と環化
ラウンド0のプールの翻訳は、3倍のオーバーサンプリングで1.67×10^(12)の固有のmRNA‐ペプチド融合物配列の初回の複雑性を生成させることを目標とした。したがって、300ピコモルのMX_(10)Kテンプレートを、ウサギ網状赤血球溶解物中、標準的条件の下で翻訳した。翻訳反応に,1mMのNaOAc(pH=4.5)および^(35)S‐メチオニンの中の60μgのNMF‐tRNA^(CUA)を加えた。30℃での1時間の翻訳の後,KOAcおよびMgOAcを、それぞれ600mMおよび50mMの最終濃度になるまで添加し、反応物を1時間、20℃にした。
翻訳混合物を、dT結合緩衝液(10mg/mlのdTセルロース,1MのNaCl,20mMのトリス,1mMのEDTA,0.2%(v/v)のトリトンX‐100,pH=8)中に1:10で希釈し、4℃で1時間、攬拌した。dTセルロースを濾過し、dT洗浄緩衝液(300mMのNaCl,20mMのトリス、pH=8)で洗浄した。DNA‐ペプチド複合体を、10mMのNH_(4)OHで溶出させ、リニアアクリルアミド(Ambion)の存在下、エタノール沈殿させた。
ラウンド0のプールを、50mMのリン酸緩衝液(pH=8)中、50μlのDSG(1mg/ml DMF)に190μLのdT‐精製融合物を添加することで、環化させた。反応を1時間進行させ、融合物をdT‐セルロースで再精製し、エタノール沈殿をさせた。
その後のラウンドでは、60ピコモルのライブラリーのテンプレートを、1mMのNaOAc(pH=4.5)中、12μgのNMF‐tRNA^(CUA)の存在下で翻訳した。環化は、50mMのリン酸緩衝液(pH=8)中、40μLのdT精製融合物を10μLのDSC(1mg/m1 DMF)に加えて行った。」)

(甲1g)「 Selection. Following ethanol precipitation of the round 0 DSGtreated fusions, the pellet was dissolved in 100 L of dH_(2)O (0.005% (v/v) Tween-20) and reverse transcribed with Superscript II RNase H- under standard conditions. Following reverse transcription, the library was added to 5 mL of 1X selection buffer (25 mM HEPES-KOH (pH 7.5), 150 mM NaCl, 0.05% (v/v) Tween-20, 1 mM EDTA, 5 mM MgCl_(2), 1 mM-mercaptoethanol, 10 M GDP, 0.05% (w/v) bovine serum albumin, 1 g mL 1 tRNA) containing 50 μL of Gαi1-NeutrAvidin agarose (preblocked with biotin) (5). The binding reaction was carried out at 4 ℃ for 1 h. The reaction was filtered, and the resin was washed four times with 1X selection buffer and twice with 1X selection buffer (-BSA, -tRNA) at 4 ℃. The library was eluted with 0.15% (w/v) SDS at RT, and the SDS was removed from the sample using SDS-Out (Pierce). Following ethanol precipitation, the library was amplified by 15 cycles of PCR.
In subsequent rounds, the binding reaction was carried out in 1 mL of selection buffer containing 6 L od Gαi1-NeutrAvidin agarose. PCR amplification of the eluted library members was carried until a 96-bp band was observed on a 4% agarose gel (11.14 cycles). The binding for each round was determined by adding 5 L of radiolabeled library to 2 L of Gαi1-NeutrAvidin agarose in 800 L of 1X selection buffer. After 1 h at 4 ℃, the resin was washed as described above and analyzed by scintillation counting to determine the fraction of counts bound.」(第632頁右欄第35行?左欄第59行、当審訳「選択
ラウンド0のDSG処理された融合物のエタノール沈殿の後、ペレクトを100μLのdH_(2)O(0.005%(v/v) Tween‐20)に溶解させ、標準的な条件下でSuperscript II RNase H-で逆転写した。逆転写の後、ライブラリーを、50μLのGαi1-ニュートラアビブジンアガロース(ビオチンで前もってブロックした)(文献5)を含む、5mlの1×選択緩衝液(25mMのnRPRS-KOH(pH=7.5), 150mMのNaCl,0.05%(v/v)のTween‐20,1mMのEDTA,5mMのMgCl_(2),1mMのβ‐メルカプトエタノール、10μMのGDP,0.05%(w/v)のウシ血清アルブミン、1μg/mlのtRNA)に添加した。結合反応を4℃て1時間、行った。反応物を濾過し、樹脂を4℃で1×選択緩衝液で4回、1×選択緩衝液(‐BSA,‐tRNA)で2回、洗浄した。ライブラリーを、室温で0.15%(w/v)のSDSで溶出させ、SDS-Out(Pierce)を用いて試料からSDSを除去した。エタノール沈殿に続いて、ライブラリーを15サイクルのPCRで増幅した。
その後のラウンドでは、結合反応を、6μLのGαi1‐ニュートラアビジンアガロースを含む1mlの選択緩衝液中で行った。96‐bpのバンドが4%アガロースゲル上で観察されるまで、溶出したライブラリーメンバーのPCR増幅を行った(11?14サイクル)。各ラウンドの結合を、800μLの1×選択緩衝液中の2μLのGαi1-ニュートラアビジンアガロースに5μLの放射性標識されたライブラリーを加えることで決定した。4℃での1時間の後、樹脂を上記と同様に洗浄し、シンチレーション測定によって分析し、結合したカウントの分画を決定した。」)

(甲1h)「 Pool 7 Analysis. The round 7 pool was amplified by 12 cycles of PCR and purified using the MinElute PCR Purification Kit (Qiagen). The purified PCR product was subcloned into the PCR 4-TOPO vector (Invitrogen) followed by transformation into TOP10 competent cells (Invitrogen). Individual clones were sequenced (Laragen). Sequence analysis of the least conserved round 6 and 7 clones (positions 9, 10, and 11; 14 total clones) gave 132 “N” positions with compositions A 22%, T 17%, G 20%, C 41% and 66 G/C positions with compositions of G 44% and C 56%. The amino acid compositions tended to small/polar residues with S 25%, A 16%, Q 16%, T 16%, D 6%, P 5%, R 5%, G 5%, L 1.5%, N 1.5%, W 1.5%, and C 1.5%. The sequences were thus consistent with the idea that the original library was not badly biased.
Five clones (R7.2, R7.3, R7.4, R7.6, R7.12) were further amplified and used to generate templates for mRNA.peptide fusion formation as described above. Following translation in the presence of ^(35)S-methionine, fusions were treated with RNase cocktail (Ambion) for 15 min at 37 ℃ and purified by dT-cellulose and ethanol precipitation. The 16-L aliquots of fusion (in 50 mM phosphate buffer) were treated with 4 L of either DMF or DSG (1 mg mL.1) in DMF and allowed to react at RT for 1 h. The reactions were quenched with NaOH, neutralized with HCl, and added directly to 900 L of 1X selection buffer containing 3 L of Gαi1-NeutrAvidin agarose (preblocked with biotin). After 1 h at 4 ℃, the solid resin was washed twice in 1X selection buffer and once with 1X selection buffer (-BSA, -tRNA). The counts remaining on the Gαi1-NeutrAvidin-agarose were assayed by scintillation counting. The bulk library from round 7 was treated as described above and included as a positive control.」(第632頁左欄第60行?右欄第24行、当審訳「プール7の分析
ラウンド7のプールを、12サイクルのPCRで増幅し、MinElute PCR Purification Kit(Qiagen)を用いて精製した。精製したPCR産物を、PCR4‐TOPOベクター(invitregen)にサブクローニングし、続いてTOP10コンピテント細胞(invitrogen)への形質転換を行った。個々のクローンを配列決定(Laragen)した。最も少なく保存されたラウンド0と7のクローン(位置9,10及び11;全部で14クローン)の配列分析によって、132の“N”の位置がA=22%、T=17%、O=20%、C=41%の組成であり、66のG/Cの位置がG=44%およびC=56%の組成であることが示された。アミノ酸組成は、S=25%,A=16%,Q=16%,T=16%,D=6%,P=5%、R=5%、G=5%、L=1.5%,N=1.5%,W=1.5%およびC=1.5%で、小さい/極性残基となる傾向があった。従って、配列は、元のライブラリーがひどく偏ってはいなかったとの考えと矛盾しない。
5つのクローン(R7.2.R7.3,R7.4,R7.6,R7.12)をさらに増幅し、それらを用いて、mRNA-ペプチド融合物体の形成のためのテンプレートを上記と同様に生成させた。^(35)S‐メチオニンの存在下での翻訳に続いて、融合物を37℃で15分間、RNaseカクテル(Ambion)で処理し、dT‐セルロースおよびエタノール沈殿で精製した。融合物の16μLアリコート(50mMのリン酸緩衝液中)を、4μLのDMFまたはDMF中のDSG(1mg/ml)のいずれかで処理し、室温で1時間反応させた。反応をNaOHでクエンチし、HClで中和し、3μLのGαi1‐ニュートラアビジンアガロース(ビオチンで事前にブロックした)を含む900μLの1×選択緩衝液に直接添加した。4℃での1時間の後、固体樹脂を、1×選択緩衝液で2回、1X選択緩衝液(‐BSA,‐tRNA)で1回、洗浄した。Gαi1‐ニュートラアピジンアガロース上に残っているカウントを、シンチレーション測定でアッセイした。ラウンド7からのバルクライブラリーを上記の通り処理し、陽性対照とした。」)

イ 甲第1号証に記載の発明

(ア) (甲1a)の図には「MX_(10)KDNAライブラリー」及び「MX_(10)KmRNAのライブラリー」と記載され、図の説明には「MX_(10)Kライブラリーは、合成DNAから転写され」と記載されていることから、次のことが理解される。
MX_(10)KDNAライブラリーがまず作られること。
それをテンプレートとして、-AUG-(NNS)10-AAA-の配列を有するMX_(10)Kテンプレートにピューロマイシンを連結したMX_(10)KmRNAライブラリーが作られること。

(イ) (甲1e)より、「MX_(10)Kライブラリーの合成・・・
5'…GCCAGACCCCGATTTSNNSNNSNNSNNSNNSNNSNNSNNSNNSNNCATTGTAATTGTAAATAGTAATTG…3'(式中、N=A,T,C,G、およびS=G,C)である。 “Nの位置に用いられる試薬ボトルは、A:C:G:Tを3:3:2:2の比率で混合して作成した。 “Sの位置に用いられる試薬ボトルは、C:Gを3:2の比率で混合して作成した。」と記載されていることから、次のことが理解される。
上記「MX_(10)KDNAライブラリー」は、
5'…GCCAGACCCCGATTTSNNSNNSNNSNNSNNSNNSNNSNNSNNSNNCATTGTAATTGTAAATAGTAATTG…3'
であり、式中N=A,T,G,C、S=G,Cである、並んだ10個のNNSの繰り返されたランダム領域を含み、該MX10KDNAライブラリーから作られる該MX_(10)KmRNAライブラリーもランダム領域を有すること。

(ウ) (甲1f)に「1.67×10^(12)の固有のmRNA‐ペプチド融合物配列」であった「MX_(10)Kテンプレートを,ウサギ網状赤血球溶解物中,標準的な条件の下で翻訳した。翻訳反応に,1mMのNaOAc(pH=4.5)および35S‐メチオニンの中の60μgのNMF‐tRNA^(CUA)を加えた。」と記載されており、「NMF」とは、「これらのライブラリーは、N-メチルフェニルアラニン(NMF)を21番目のアミノ酸として用いる拡張された遺伝子コードで構築された。」(甲1b)との記載に照らし、特殊アミノ酸であるN-メチルフェニルアラニンを意味する。
このことから、次のことが理解される。
上記(ア)で得られたMX_(10)KmRNAライブラリーをテンプレートとして、ウサギ網状赤血球溶解物中、NMF‐tRNA^(CUA)(アンチコドンCUAを有するN-メチルフェニルアラニン‐tRNA)存在下、標準的な条件の下で翻訳し、1.67×10^(12)の固有のmRNA-ペプチド融合物ライブラリーを作成したこと。

(エ) (甲1a)に「得られたmRNA-ペプチド融合物ライブラリーを精製し、DSGで環化した。」と記載されていることから、次のことが理解される。
上記(ウ)で得られたmRNA-ペプチド融合物ライブラリーに含まれる1.67×10^(12)のmRNA-ペプチド融合物を、DSGで環化したmRNA-環状ペプチド融合物のライブラリーを作成すること。

(オ) (甲1b)に「このライブラリーは、アンバー-サプレッサーNMF-トランスファーRNA(tRNA)^(CUA)の存在下で翻訳され、DSGで環化された(図1)。ランダム領域は、縦に並んだ10個のNNSの繰り返しで構築され、その結果、ランダムな各々の位置でのUAG(アンバー)停止コドンの頻度は約3%となった。ラウンド0のプールの見積られた多様性は、各分子が≧3コピーである、1.67×10^(12)の固有の配列であった。」と記載されている。
そして、NMF-トランスファーRNA(tRNA)^(CUA)の「NMF」とは、「これらのライブラリーは、N-メチルフェニルアラニン(NMF)を21番目のアミノ酸として用いる拡張された遺伝子コードで構築された。」(甲1b)との記載に照らし、特殊アミノ酸であるN-メチルフェニルアラニンを意味する。
以上のことから、次のことが理解される。
上記(エ)で作成された「mRNA-環状ペプチド融合物のライブラリー」は、MX_(10)Kに含まれるランダム領域において、NNSの各々の位置で特殊アミノ酸であるN-メチルフェニルアラニンに対応するUAG(アンバー)停止コドンを約3%含んおり、それにより環状ペプチドにランダムにN-メチルフェニルアラニンを含んでいるmRNA-環状特殊ペプチド融合物も含有しているライブラリーであること。

(カ)(甲1g)より、「ラウンド0」と称される以下の工程で、上記(イ)で作られた「mRNA-環状ペプチド融合物」ライブラリーは、RNase H-で逆転写され、該ライブラリーに含まれる「mRNA-環状ペプチド融合物」のそれぞれのmRNAに相補的なDNAが合成されてDNA-mRNA-環状ペプチド融合物ライブラリーが形成されたことが理解される。「逆転写の後、ライブラリーを、50μLのGαi1-ニュートラアビジンアガロース・・・に添加した。結合反応を4℃て1時間、行った。」と記載されているから、DNA-mRNA-環状ペプチド融合物ライブラリーは、Gαi1-ニュートラアビジンアガロース、すなわち、固定化されたGαi1と接触され、結合反応が行われたことが理解される。次いで「反応物を濾過し、樹脂を4℃で1×選択緩衝液で4回、1×選択緩衝液(‐BSA,‐tRNA)で2回、洗浄した。」とあるから、固相化されたGαi1と結合しなかったDNA-mRNA-環状ペプチド融合物ライブラリーのメンバーが洗浄されることで除去され、Gαi1と結合した複数のDNA-mRNA-環状ペプチド融合物のみが選択され、新たなDNA-mRNA-環状ペプチド融合物のライブラリーとなる。
「ライブラリーを15サイクルのPCRで増幅した」と記載され、PCRはDNAを増幅する手段であるから、該新たなGαi1と結合したDNA-mRNA-環状ペプチド融合物のライブラリーに含まれるそれぞれのDNAがPCRで増幅されたことが理解される。
(甲1f)に「その後のラウンドでは、60ピコモルのライブラリーのテンプレートを、1mMのNaOAc(pH=4.5)中、12μgのNMF‐tRNA^(CUA)の存在下で翻訳した。環化は、50mMのリン酸緩衝液(pH=8)中、40μLのdT精製融合物を10μLのDSC(1mg/m1 DMF)に加えて行った。」とあるから、前記DNA-mRNA-環状ペプチド融合物のライブラリーからPCRで増幅されたDNA群から、新たなmRNA-環状ペプチド融合物のライブラリーが作成され、ラウンドが繰り返され、よりGαi1と結合するmRNA-環状ペプチド融合物が選ばれることが理解される。
以上のことを総合すると次の事項が理解される
mRNA-環状ペプチド融合物ライブラリーは、逆転写され、その結果該ライブラリーに含まれるmRNA-環状ペプチド融合物のそれぞれのmRNAに相補的なDNAが合成されてDNA-mRNA-環状ペプチド融合物ライブラリーが形成される、
該DNA-mRNA-環状ペプチド融合物ライブラリーは、固定化されたGαi1と接触され、結合反応が行われGαi1と結合したDNA-mRNA-環状ペプチド融合物群が選択される、
該選択されたDNA-mRNA-環状ペプチド融合物群に含まれるぞれぞれのDNAがPCRにより増幅される、
該それぞれのDNAから、N-メチルフェニルアラニン‐tRNACUAの存在下で翻訳がなされ、新たなmRNA-環状ペプチド融合物ライブラリーが形成される
以上のラウンドが繰り返されることで、よりGαi1と結合するmRNA-環状ペプチド融合物が選ばれること。

(キ)(甲1b)に「選択の結果を図2に示す。固定化された標的への各プールの結合は、ラウンド4で増加し始め、ラウンド7まで増加し続けた。この時点でライブラリーを配列決定し、その結果を図2のパネルbに示す。」と記載されていることから、次のことが分かる。
前記(カ)で行われたラウンド(mRNA-環状ペプチド融合物の逆転写、Gαi1と結合するDNA-mRNA-環状ペプチド融合物の選抜、PCR、mRNA-環状ペプチド融合物への翻訳)が繰り返され、最終的にプールに含まれる選択されたGαi1と結合するmRNA-環状ペプチド融合物の核酸配列が決定されること。

(ク) (甲1b)に「我々は環状mRNAディスプレイを記述し、Gαi1に対する大環状ペプチドリガンドを設計するためにそれを用いる」と記載されていることから、次のことがわかる。
mRNA-環状ペプチド融合物のライブラリーを用いた環状mRNAディスプレイにより、Gαilに結合する環状ペプチドを選択する方法であること。

(ケ)上記(ア)から(ク)を総合すると、甲1号証には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「(a) MX_(10)KDNAライブラリーが作られ、

(b) 該MX_(10)KDNAライブラリーをテンプレートとして、-AUG-(NNS)_(10)-AAA-の配列を有するMX_(10)Kテンプレートにピューロマイシンを連結したMX_(10)KmRNAライブラリーが作られ、

(c) 該MX10KDNAライブラリーは、
5'…GCCAGACCCCGATTTSNNSNNSNNSNNSNNSNNSNNSNNSNNSNNCATTGTAATTGTAAATAGTAATTG…3'
であり、式中N=A,T,G,C、S=G,Cである、並んだ10個のNNSの繰り返されたランダム領域を含み、

(d) 該MX_(10)KDNAライブラリーから作られる該MX_(10)KmRNAライブラリーもランダム領域を有し、

(e) 該MX_(10)KmRNAライブラリーをテンプレートとして、ウサギ網状赤血球溶解物中、NMF‐tRNA^(CUA)(アンチコドンCUAを有するN-メチルフェニルアラニン‐tRNA)の存在下、標準的な条件の下で翻訳し、1.67×10^(12)の固有のmRNA-ペプチド融合物ライブラリーを作成し、

(f) 該mRNA-ペプチド融合物ライブラリーに含まれるmRNA-ペプチド融合物を、DSGで環化したmRNA-環状ペプチド融合物のライブラリーを作成し、

(g) 該mRNA-環状ペプチド融合物のライブラリーは、MX_(10)Kに含まれるランダム領域において、NNSの各々の位置で特殊アミノ酸であるN-メチルフェニルアラニンに対応するUAG(アンバー)停止コドンを約3%含んでおり、それにより環状化ペプチドにランダムにN-メチルフェニルアラニンを含んでいるmRNA-環状特殊ペプチド融合物も含有しているライブラリーであり、

(h) mRNA-環状ペプチド融合物ライブラリーは、逆転写され、その結果該ライブラリーに含まれるmRNA-環状ペプチド融合物のそれぞれのmRNAに相補的なDNAが合成されてDNA-mRNA-環状ペプチド融合物ライブラリーが形成され、

(i) 該DNA-mRNA-環状ペプチド融合物ライブラリーは、固定化されたGαi1と接触され、結合反応が行われGαi1と結合したDNA-mRNA-環状ペプチド融合物群が選択され、

(j) 該選択されたDNA-mRNA-環状ペプチド融合物群に含まれるぞれぞれのDNAがPCRにより増幅され、

(k) 該それぞれのDNAから、N-メチルフェニルアラニン‐tRNACUAの存在下で翻訳がなされ、新たなmRNA-環状ペプチド融合物ライブラリーが形成され、

(l) 上記(h)?(k)を1ラウンドとするラウンドが繰り返されることで、よりGαi1と結合するmRNA-環状ペプチド融合物が選ばれ、

(m) ラウンドが繰り返され、最終的にプールに含まれる選択されたGαi1と結合するmRNA-環状ペプチド融合物の核酸配列が決定され、

(n) mRNA-環状ペプチド融合物のライブラリーを用いた環状mRNAディスプレイにより、Gαilに結合する環状ペプチドを選択する方法。」

ウ 甲第3号証に記載の事項
取消理由通知において引用した甲第3号証(林 剛介ほか、特殊環状ペプチドの翻訳合成と医薬品探索への展開,生化学,Vol.82,No.6,505?514頁,2010年6月)には、以下の事項が記載されている。

(甲3a)「シクロスポリンの化学構造中には,薬剤としての機能を安定して発揮するための仕掛けがいくつも隠されている.それは,ペプチド骨格の主鎖を形成するアミド結合の窒素の多くがメチル化されていること,タンパク質性アミノ酸とは異なる立体構造(D-アミノ酸)や側鎖を持った非タンパク質性アミノ酸を含有すること,環状構造を有していること,である.これらの構造的特徴が,シクロスポリンの細胞膜透過性や生体内のプロテアーゼに対する耐性,さらには標的タンパク質への高い親和性を付与していると考えられる.」(第506頁右欄第8?17行)

(甲3b)「FIT システムではこの「遺伝暗号のリプログラミング」を最大限に活用している.FIT システムは,我々の研究室で開発されたフレキシザイム(詳細は後述)によるアミノアシル化反応系と,大腸菌由来の再構成無細胞翻訳系^(4,5))から構成される(図1).再構成無細胞翻訳系とは,大腸菌の持つ翻訳系を試験管内で再現したもので,リボソームやtRNA,ARS など翻訳に関わる因子をそれぞれ単離・精製し,再び一つに混ぜ合わせた翻訳系である.従来の無細胞翻訳系は細胞抽出液をそのまま用いるが,再構成系は,任意の構成因子(アミノ酸やARS 等)を翻訳系から自由に取り除くことができるという点で抽出系とは一線を画す.」

(甲3c)「図3



(甲3d)「4. あらゆるアミノ酸でtRNA を自在にアミノアシル化する人工リボザイム?フレキシザイム?
目的のアミノ酸(タンパク質性あるいは非タンパク質性)を目的のtRNA に連結する従来までの方法は,大きく分けて二つあった.一つ目は,ARS を使う方法である.天然に存在するARS は,上述のようにそれぞれ基質となるアミノ酸が決まっており,それ以外のアミノ酸をアミノアシル化する能力は基本的にない.しかし,いくつかのARSは,基質アミノ酸と類似構造を持つアミノ酸に対して,高くはないがアミノアシル化を進行させる能力を有する.いわばARS のミスアミノアシル化という現象を利用して非タンパク質性アミノ酸を導入したアミノアシルtRNA の合成が行われている^(6,7)).しかし,この方法ではアミノアシル化できないアミノ酸が多数存在し,汎用性の高い方法とはいえない. ARS に分子進化工学的手法を適用して改変し,その基質特異性を変化させる研究もあるが,この方法はアミノ酸とtRNA の組合わせを変えるたびに,新しくARSを取得しなければならないため,多大な労力を必要とする.そのため,多種類の非タンパク質性アミノ酸を簡便にアミノアシル化するという点で不利な方法である^(8,9)).
もう一つは,合成化学的手法を駆使したものである.この方法は,原則的にアミノ酸の構造に制限がなく,多種多様なアミノアシルtRNA を合成することができる^(10,11)).しかし,tRNA の3′末端のヌクレオシドであるアデノシンの誘導体を,調製したいアミノ酸ごとに化学合成する必要があるため,多段階の煩雑な操作を必要とし,アミノアシルtRNA の調製に大きな労力がかかってしまう.我々が目標とする特殊環状ペプチドは,多種多様な非タンパク質性アミノ酸を含んでいるため,ライブラリー構築を考えると,より簡便に多様なアミノアシルtRNA の調製を可能にする方法が必要になってくる.
この問題を解決したのが,我々の研究室で開発された人工アミノアシル化RNA 触媒(リボザイム),「フレキシザイム」である.我々の研究室では,10年以上前から様々な機能を持つ人工リボザイムの探索を行っており,これまでに,アミノアシル化リボザイムの他に,酸化リボザイム^(12))の取得に成功している.2001年に初めて分子進化工学の手法を駆使して取得されたアミノアシル化リボザイムは^(13)),その後の改良を経て,現在では多種多様なアミノ酸を任意のtRNA にアミノアシル化することのできる2種類のリボザイム,ジニトロフレキシザイム(dFx)とエンハンストフレキシザイム(eFx)に進化している^(14,15)).これらのフレキシザイムは,アミノ酸のカルボキシル基がそれぞれ3,5-ジニトロベンジルエステル基,あるいはシアノメチルエステル基として活性化されたものを基質として,tRNA の3′末端をアミノアシル化することができる(図3c).これは,天然のARS がATP で活性化されたアミノ酸を基質としてアミノアシル化するという性質に近いものがある.アミノアシル化反応の際,dFx は活性化アミノ酸のジニトロベンジル部位を認識し,eFx は側鎖の芳香環を認識する.dFx は脱離基となる部位を認識しているため,基本的に側鎖の構造に制限がなく,あらゆるアミノ酸をアミノアシル化することができる.ただし,側鎖に芳香環を有するアミノ酸の場合には,より活性度の高いシアノメチルエステル化体を基質とできるeFx を用いることが多い.また,これらのフレキシザイム反応では,3′末端に位置するGG 配列がtRNA の共通3′末端配列であるCCA-3′のCC を認識することで,アミノアシル化反応が行われる^(16))図3c).このように,フレキシザイムは,tRNAの内部配列やアンチコドン配列を認識しないという点でARSとは大きく異なっている.そのため,様々な内部配列やアンチコドン配列を持つtRNA に対しても,dFx あるいはeFx でアミノアシル化することが可能である.さらに,これらのフレキシザイムはアミノ酸のα位のアミノ基を認識していないので, N-メチルアミノ酸やα-ヒドロキシ酸,β-アミノ酸等もアミノアシル化することができる.ここで述べたフレキシザイムによるアミノアシル化技術は,化学合成法に引けを取らないほど多種類のアミノアシルtRNAを, ARS 法と同様の簡便性で調製できる技術と言えよう.
ここで述べたフレキシザイムによるアミノアシルtRNA合成系と,再構成無細胞翻訳系を統合したFIT システムを用いることで,多様な非タンパク質性アミノ酸をコドンテーブルに割り当てることができる.その結果,次項で紹介する多様な骨格を持つ特殊ペプチドや特殊環状ペプチドの翻訳合成が可能になったのである.」(第510頁右欄第4行?左欄第32行)

(甲3e)「一つ目は,クロロアセチル基とシステインのチオール基のSN2反応を利用した環状ペプチド形成法である(図4a)^(19)).この反応によって生成するチオエーテル結合は,天然のペプチドやタンパク質中でよく見られるシステイン残基間のジスルフィド結合に比べて,細胞内の還元条件で安定である.この反応を進行させるには,クロロアセチル基を含んだペプチドを合成する必要があるが,それを可能にしたのが,既に述べたFIT システムである.つまり,フレキシザイムを用いてクロロアセチル基を有するアミノ酸(例えばN-クロロアセチルジアミノ酪酸)をtRNAにアミノアシル化した後,空きコドンを持った再構成無細胞翻訳系で翻訳合成することで,クロロアセチル基を含有したペプチドが合成される.また,この環化反応は,試薬の添加なしで進行する自発的な反応であるため,合成されたペプチドは翻訳反応系中で環化し,翻訳産物として直接環状ペプチドを得ることができる.さらに我々は,この環化技術とN-メチルアミノ酸導入技術を組み合わせて,環状N-メチルペプチドの翻訳合成にも成功している^(17)).
二つ目は,アジド基とアルキニル基間のHuisgen 反応を利用した環状ペプチドの合成技術である(図4b)^(22)).この場合,アジド基を有するアミノ酸(アジドホモアラニン)とアルキニル基を有するアミノ酸(プロパルギルグリシン)とをアミノアシル化する必要がある.フレキシザイムで調製したこれら2種類のアミノアシルtRNA を含む無細胞翻訳系で翻訳されたペプチドに,一価の銅イオンを作用させることで,二つの官能基が反応してトリアゾール環が形成され,結果として環状ペプチドが生成する.この二つの官能基は,この条件下ではどのタンパク質性アミノ酸とも反応しないので,目的の位置で選択的に環状構造を作ることができる.また我々は,上述のクロロアセチル?システイン法と組み合わせることで,2環構造を有するペプチドの翻訳合成にも成功している^(22)).生理活性を持つペプチドの中には,分子内に複数の環を有するものが多数存在することを考えると,このような二環性特殊ペプチドの翻訳合成が達成されたことは,意義深いことであろう.」(第511頁右欄第7行?左欄第17行)

(甲3f)「



エ 甲第6号証に記載の事項
取消理由通知において引用した甲第6号証(菅 裕明,汎用新バイオ技術の開発と創薬への期待,日本化学会・科学技術振興機構合同特別シンポジウム 「分子技術イニシャティブ」要旨集,22頁?24頁,社団法人日本化学会,2010年3月27日)には、以下の事項が記載されている。

(甲6a)「遺伝暗号のリプログラミング、すなわち蛋白質性アミノ酸から非蛋白質性アミノ酸へのリアサインメントには、対応するアシル化tRNA の合成、空コドンの作製、使用可能な非蛋白質性アミノ酸の同定、さらには環状化技術の開発等、「分子技術」としての障害は多い。当研究室では、それらひとつひとつの問題点を、10年を超える歳月をかけて解決し、最適化することで達成してきた。すなわち、アシル化tRNA合成には汎用性の高いtRNAアシル化触媒(Flexible tRNA acylation ribozyme; Flexizyme)を開発し、空きコドンの作製には因子やアミノ酸を抜いた不完全再構築大腸菌無細胞翻訳系(wPURE システム)を適応させた(図1)。また、これらの技術を駆使し、導入可能な非蛋白質性アミノ酸を網羅的に調べ、N メチルアミノ酸やD アミノ酸等の選択肢を絞り込んだ。さらに、生体安定性を考慮したチオエーテル環状化技術の開発を行った。また、近年それらの技術を全て統合した上で、無細胞ペプチドディスプレイ法と組み合わせることで、10^(12)に及ぶ高い多様性をもったランダム配列ライブラリーから選択・淘汰・活性種濃縮を達成するRaPID(Random Peptide Integrated Discovery)ディスプレイの開発に至った(図2)。この汎用新バイオ分子技術を駆使することで、これまでは天然物としてしか入手できなかった環状特殊ペプチドの薬剤探索の可能性を大きく広げ、様々な疾患標的に対する創薬への道が拓かれつつある。」(第22頁下から第6行?第23頁7行)

(甲6b)「

図1 翻訳系「分子技術」開発の主要技術 フレキシザイム(1997?2006)は、RNA 酵素(リボザイム)で、その3’末端の塩基がtRNAの3’末端配列CCA と塩基対を形成することでtRNA に結合する。フレキシザイムには、アミノ酸基質の選択性によって2種類eFx とdFxがある。eFx は、アミノ酸にシアノメチルエステル(CME)あるいは4-クロロベンジルチオエステル(CBT)を有するアミノ酸に触媒活性を示すリボザイムである。一般的には、フェニルアラニン類似体のような芳香環を有する基質に対してはCME を、嵩高いアルキル側鎖をもつアミノ酸にはCBT を対応させる。dFx は、アミノ酸に3,5-ジニトロベンジルエステルでアシル化した基質に触媒活性を示し、eFx より広範囲な側鎖に対応できるフレキシザイムで、一般的にはdFx を用いてアシル化tRNA を合成する。遺伝暗号リプログラミング(2003?)は、フレキシザイム技術に不完全再構成無細胞翻訳系を組み合わせることで、空コドンに非蛋白質性アミノ酸をアサインし、遺伝暗号表を人工的に作製する技術である。特殊ペプチドの翻訳合成(2004?)は、開始コドンにN-(2-クロロアセチル)-アミノ酸、伸長コドンに複数のN-メチルアミノ酸をアサインすることで、生体内で安定な非還元型チオエーテル結合を有する大環状特殊ペプチドを翻訳合成する技術である。」

(3) 本件発明1について

対比を容易にするために、本件発明1の特定事項を以下のように分説し見出しを付けることとする。
「 【請求項1】
(A) 次の工程を含む、ペプチドライブラリーから標的物質に結合する特殊ペプチドを選択する方法:
(i)核酸ライブラリーを調製し、特殊アミノ酸でアシル化された伸長用tRNAと大腸菌由来のリボゾームとを含む無細胞翻訳系によって翻訳し、特殊アミノ酸がペプチド配列にランダムに導入された特殊ペプチドのライブラリーを調製する工程;
(ii)ペプチドライブラリーを標的物質に接触させる工程;及び
(iii)標的物質に結合する特殊ペプチドを選択する工程、ここで該特殊ペプチドは複数の特殊アミノ酸を含む
であって、
(B) 前記(i)の工程において、ライブラリーを構成する各ペプチドが当該ペプチドをコードする核酸配列から翻訳され、核酸配列とその翻訳産物であるペプチドが連結されて、in vitroディスプレイライブラリーが構築され、
(C-1) 核酸配列において、ペプチドをコードする領域が、異なる複数のトリプレットの繰り返しからなるランダム配列を含み、ランダム配列中のトリプレットの少なくとも一部が特殊アミノ酸を指定する人為的なコドンに対応する配列であり、
(C-2) 特殊アミノ酸でアシル化された伸長用tRNAのアンチコドンと特殊アミノ酸を指定する人為的なコドンの対合により特殊アミノ酸がペプチド配列に導入され、
(D-1) 前記(iii)の工程が、標的物質に結合するペプチドをコードする核酸配列を決定し、核酸配列からペプチド配列を決定し、
(D-2) 複数の特殊アミノ酸を含むペプチドを選択することを含む、前記方法。」

ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。

(ア) 本件発明1(A)(i)の特定事項について
a 甲1発明の(b)「MX_(10)KmRNAライブラリーが作られ」ることは、mRNAが核酸であるから、本件発明1(i)の「核酸ライブラリーを調製」することに相当する。

b 甲1発明の(e)「NMF‐tRNA^(CUA)(アンチコドンCUAを有するN-メチルフェニルアラニン‐tRNA)」は、N-メチルフェニルアラニンが特殊アミノ酸であることから、本件発明1の「特殊アミノ酸でアシル化された伸長用tRNA」に相当する。そして、甲1発明の(e)「ウサギ網状赤血球溶解物」は、「無細胞翻訳系」の1種である。
以上のことから、甲1発明の(e)「該MX_(10)KmRNAライブラリーをテンプレートとして、ウサギ網状赤血球溶解物中、NMF‐tRNACUA(アンチコドンCUAを有するN-メチルフェニルアラニン‐tRNA)の存在下、標準的な条件の下で翻訳」することと、本件発明1の(i)の「翻訳」することとは、(i)’「特殊アミノ酸でアシル化された伸長用tRNA」「を含む無細胞翻訳系によって翻訳」する点で共通する。

c 本件発明1の(i)「特殊アミノ酸がペプチド配列にランダムに導入された特殊ペプチドのライブラリー」について、本件特許明細書に実施例として次のように記載されている。
「【0125】
例えば、NNUトリプレットによって発生するコドンの数は、16種類(4×4×1=16)であり、・・・必ず環状化ペプチドが形成されるように設計した。その実施例として、様々な大きさの環状ペプチドを調製するためにNNUコドンを8から15回繰り返した。
【0126】NNUライブラリーの利点としては、ランダム領域でUAA及びUAG、UGAで規定されるストップコドンが出現しないため、確度の高いライブラリーを構築することができる。また16コドン中、4コドンがN-メチルアミノ酸を規定するため、ペプチド中にN-メチルアミノ酸の導入確率を理論上では25%にまで高めることができる。今回は、NNUライブラリーを用いたが、NNK(KはCまたはG)ライブラリーや他の塩基を3番目に位置させ組み合わせたライブラリー等を利用し、32コドン(4×4×2=32)を使用する方法もある。その際、4種類のN-メチルアミノ酸を導入する場合、N-メチルアミノ酸の出現確率は半減する。」
NNU1つのコドンで特殊アミノ酸の導入確率が25%であるということは、【0125】に記載された「NNUコドンを8」回繰り返すライブラリーにおける、特殊アミノ酸が最低1つ含まれる確率を、特殊アミノ酸が含まれない確率を計算して100%から引くというやり方で計算する。
NNU1つのコドン当たり、特殊アミノ酸が含まれない確率は75%であり、0.75の8乗、すなわち、0.10(10%)が特殊アミノ酸を全く含まない特殊ペプチドが作られる確率となる。
100%-10%、すなわち、約90%の確率で特殊アミノ酸が必ず1つはランダムに含まれる。
仮に、NNUの繰り返しを更に増やしても、100%に近づくことはあっても、100%となることはあり得ない。

そして、平成29年11月15日付け回答書によると、「実質として特殊ペプチドのみのライブラリー」とは、様々な大きさの環状ペプチドを調整するために、NNUコドンを8から15回繰り返すことにより、少なくとも約90%もの高い確率で特殊アミノ酸が導入されたライブラリーである旨主張していることから、「特殊ペプチドのライブラリー」とは、100%特殊ペプチドのみのライブラリーという意味ではなく、少なくとも約90%もの高い確率で特殊アミノ酸が導入されたライブラリーであるといえる。

以上、本件明細書に「NNUコドンを8」回繰り返す特殊アミノ酸が90%含まれるライブラリーが実施例として記載されていること、さらに、【0126】には「N-メチルアミノ酸の出現確率は半減する」態様も記載されていることからすると、本件発明1(i)の「特殊アミノ酸がペプチド配列にランダムに導入された特殊ペプチドのライブラリー」とは、特殊アミノ酸がペプチド配列にランダムに導入された特殊ペプチドを含むライブラリーと解釈される。

d そこで、本件発明1を上記したように解釈した上で、甲1発明と対比すると、甲1発明の(e)工程で作成された「mRNA-ペプチド融合物ライブラリー」は、(f)工程でペプチドが環状化され、(g)「mRNA-環状化ペプチド融合物のライブラリー」となる。
そして、甲1発明の(g)「mRNA-環状化ペプチド融合物のライブラリー」を作成する工程は、(g)「環状化ペプチドにランダムにN-メチルフェニルアラニンを含んでいるmRNA-環状化特殊ペプチド融合物も含有しているライブラリーである」から、本件発明1の(i)「特殊アミノ酸がペプチド配列にランダムに導入された特殊ペプチドのライブラリーを調製する工程」に相当する。

e 以上を総合すると、甲1発明は、「(i) 核酸ライブラリーを調製し、特殊アミノ酸でアシル化された伸長用tRNAを」「含む無細胞翻訳系によって翻訳し、特殊アミノ酸がペプチド配列にランダムに導入された特殊ペプチドのライブラリーを調製する工程」に相当する工程を具備しているといえる。

(イ) 本件発明1(A)(ii)の特定事項について
甲1発明の(g)「mRNA-環状化ペプチド融合物のライブラリー」から逆転写により作成された(h)「DNA-mRNA-環状ペプチド融合物ライブラリー」は、本件発明1の「(ii)ペプチドライブラリー」に相当する。
そして、甲1発明の(i)「該DNA-mRNA-環状ペプチド融合物ライブラリーは、固定化されたGαi1と接触」される工程は、本件発明1の「(ii)ペプチドライブラリーを標的物質に接触させる工程」に相当する。

(ウ) 本件発明1(A)(iii)の特定事項について
甲1発明の(m)「ラウンドが繰り返され、最終的にプールに含まれる選択されたGαi1と結合するmRNA-環状ペプチド融合物」を得る工程は、ペプチドを選択する工程であり、特殊ペプチドを選択する工程ではないから、本件特許発明1の「(iii)標的物質に結合する特殊ペプチドを選択する工程、ここで該特殊ペプチドは複数の特殊アミノ酸を含む」とは、「(iii)’標的物質に結合するペプチドを選択する工程」という点で共通する。

(エ) 本件発明1(A)の特定事項について
a 甲1発明の(n)「Gαil」は、それに結合する「環状ペプチド」を選択するためのものであるから、本件発明1の「標的物質」に相当する。

b また、甲1発明の(n)「mRNA-環状化ペプチド融合物のライブラリー」は、環状化ペプチドというペプチドを有するから、本件発明1の「ペプチドライブラリー」に相当する。

c 以上のことを踏まえると、甲1発明の(n)「mRNA-環状化ペプチド融合物のライブラリーを用いた環状mRNAディスプレイにより、Gαilに結合する環状ペプチドを選択する方法」は、ライブラリーに(g)「mRNA-環状化特殊ペプチド融合物」が含まれるものの、特殊ペプチドを含まない環状化ペプチドも選択され得る。
そうすると、甲1発明の(n)「mRNA-環状化ペプチド融合物のライブラリーを用いた環状mRNAディスプレイにより、Gαilに結合する環状ペプチドを選択する方法」と、本件発明1の(i)、(ii)及び(iii)「の工程を含む、ペプチドライブラリーから標的物質に結合する特殊ペプチドを選択する方法」とは、上記(ア)から(ウ)における、(i)’、(ii)及び(iii)'「の工程を含む、ペプチドライブラリーから標的物質に結合するペプチドを選択する」ことで共通する。

(オ) 本件発明1(B)の特定事項について
甲1発明の(h)「DNA-mRNA-環状ペプチド融合物ライブラリー」は、(e)「該MX_(10)KmRNAライブラリーをテンプレートとして」、ペプチドが「ウサギ網状赤血球溶解物中」で「翻訳」された(g)「mRNA-環状化ペプチド融合物のライブラリー」から逆転写により作成されたものである。
また、甲1発明の(h)「DNA-mRNA-環状ペプチド融合物ライブラリー」は、環状ペプチドをコードするmRNAが該環状ペプチドと連結されている。

そして、甲1発明の(h)「DNA-mRNA-環状ペプチド融合物ライブラリー」は、(n)「環状mRNAディスプレイ」のライブラリーであり、(i)「該DNA-mRNA-環状ペプチド融合物ライブラリーは、固定化されたGαi1と接触」させるもので、in vitroで選択が行われるライブラリーである。

上記「(イ) 本件発明1(i)の特定事項について」で検討したように、甲1発明は、本件発明1(i)の工程を具備していることに照らすと、甲1発明の(h)「DNA-mRNA-環状ペプチド融合物ライブラリー」を構築することは、本件発明1の「(B) 前記(i)の工程において、ライブラリーを構成する各ペプチドが当該ペプチドをコードする核酸配列から翻訳され、核酸配列とその翻訳産物であるペプチドが連結されて、in vitroディスプレイライブラリー」が構築されたことに相当する。

(カ) 本件発明1(C-1)の特定事項について
甲1発明の(g)「該mRNA-環状化ペプチド融合物のライブラリー」が有する「MX_(10)Kに含まれるランダム領域」にある「NNS」の配列は、コドンを表し、本件発明1の「ペプチドをコードする領域が、異なる複数のトリプレットの繰り返しからなるランダム配列」に相当する。

また、甲1発明の(g)「該mRNA-環状化ペプチド融合物のライブラリー」のmRNAの一部には、(g)「特殊アミノ酸であるN-メチルフェニルアラニンに対応するUAG(アンバー)停止コドン」が含まれており、本件発明1の(C-1)「ランダム配列中のトリプレットの少なくとも一部が特殊アミノ酸を指定する人為的なコドンに対応する配列」に相当する。

以上を総合すると、甲1発明は、本件発明1の(C-1)「核酸配列において、ペプチドをコードする領域が、異なる複数のトリプレットの繰り返しからなるランダム配列を含み、ランダム配列中のトリプレットの少なくとも一部が特殊アミノ酸を指定する人為的なコドンに対応する配列であ」ることを具備しているといえる。

(キ) 本件発明1(C-2)の特定事項について
甲1発明の(e)「該MX_(10)KmRNAライブラリーをテンプレートとして、ウサギ網状赤血球溶解物中、NMF‐tRNACUA(アンチコドンCUAを有するN-メチルフェニルアラニン‐tRNA)の存在下、標準的な条件の下で翻訳」することは、本件発明1(C-2)の「特殊アミノ酸でアシル化された伸長用tRNAのアンチコドンと特殊アミノ酸を指定する人為的なコドンの対合により特殊アミノ酸がペプチド配列に導入され」ることに相当する。

(ク) 本件発明1(D-1)の特定事項について
甲1発明の(m)「ラウンドが繰り返され、最終的にプールに含まれる選択されたGαi1と結合するmRNA-環状ペプチド融合物の核酸配列が決定される」ことは、決定された核酸配列はmRNAの配列を表し、そのmRNAの配列は環状ペプチドの配列に対応するから、本件発明1の(D-1)「標的物質に結合するペプチドをコードする核酸配列を決定し、核酸配列からペプチド配列を決定」することに相当する。

しかしながら、上記「f 本件発明1(iii)の特定事項について」で述べたように、甲1発明と本件発明1とは、「(iii)標的物質に結合するペプチドを選択する工程」で共通するのみである。
よって、甲1発明の(m)「ラウンドが繰り返され、最終的にプールに含まれる選択されたGαi1と結合するmRNA-環状ペプチド融合物の核酸配列が決定」することと、本件発明1の「(D-1) 前記(iii)の工程が、標的物質に結合するペプチドをコードする核酸配列を決定し、核酸配列からペプチド配列を決定」することとは、「(D-1) 前記(iii)の標的物質に結合するペプチドを選択する工程が、標的物質に結合するペプチドをコードする核酸配列を決定し、核酸配列からペプチド配列を決定」することで共通する。

(ケ) 本件発明1(D-2)の特定事項について
甲1発明の(n)「Gαilに結合する環状ペプチドを選択する」ことと、本件発明1の「(D-2) 複数の特殊アミノ酸を含むペプチドを選択すること」とは、「(D-2) ペプチドを選択することを含む」点で共通する。

してみると、両者はつぎの一致点において一致し、各相違点において相違する。

<一致点>
(A) 次の工程を含む、ペプチドライブラリーから標的物質に結合するペプチドを選択する
(i) 核酸ライブラリーを調製し、
特殊アミノ酸でアシル化された伸長用tRNAを含む無細胞翻訳系によって翻訳し、
特殊アミノ酸がペプチド配列にランダムに導入された特殊ペプチドのライブラリーを調製する工程;
(ii)ペプチドライブラリーを標的物質に接触させる工程;及び
(iii)標的物質に結合するペプチドを選択する工程
(B) 前記(i)の工程において、ライブラリーを構成する各ペプチドが当該ペプチドをコードする核酸配列から翻訳され、核酸配列とその翻訳産物であるペプチドが連結されて、in vitroディスプレイライブラリーが構築され、
(C-1) 核酸配列において、ペプチドをコードする領域が、異なる複数のトリプレットの繰り返しからなるランダム配列を含み、ランダム配列中のトリプレットの少なくとも一部が特殊アミノ酸を指定する人為的なコドンに対応する配列であり、
(C-2) 特殊アミノ酸でアシル化された伸長用tRNAのアンチコドンと特殊アミノ酸を指定する人為的なコドンの対合により特殊アミノ酸がペプチド配列に導入され、
(D-1) 前記(iii)の標的物質に結合するペプチドを選択する工程が、標的物質に結合するペプチドをコードする核酸配列を決定し、核酸配列からペプチド配列を決定
(D-2) ペプチドを選択することを含む、前記方法。

<相違点1>
一致点の(A)(i)の無細胞翻訳系が、本件発明1では、「大腸菌由来のリボゾーム」を含むものであるのに対して、甲1発明では、「ウサギ網状赤血球溶解物」である点。

<相違点2>
一致点の(A)、(iii)、(D-1)及び(D-2)におけるペプチドライブラリーから選択されるペプチドが、それぞれ本件発明1では、「(A)特殊ペプチド」、「(iii)特殊ペプチドを選択する工程、ここで該特殊ペプチドは複数の特殊アミノ酸を含む」、「(D-1)前記(iii)の工程」及び「(D-2) 複数の特殊アミノ酸を含むペプチド」であるのに対して、甲1発明では、ペプチドライブラリーから選択されるペプチドが、特殊アミノ酸であるN-メチルフェニルアラニンが含まれる環状ペプチドが選択されることはあるかもしれないが、選択の対象は環状ペプチドであって、特殊ペプチドに注目して選択しているものではない点。

イ 判断
(ア) 相違点1について
複数の特殊アミノ酸を含む特殊ペプチドを、コドン表に割り当て、大腸菌由来のリボゾームを含む無細胞翻訳系で翻訳する点は、甲第3号証及び甲第6号証などに見られるように周知である(以下、「周知技術1」という。)。
本件発明1の無細胞翻訳系は、大腸菌由来のリボゾームを含むものであり、これは原核細胞の翻訳系である。そして、周知技術1も大腸菌由来のリボゾームを含む無細胞翻訳系であるから、原核細胞の翻訳系である。ところで、甲1発明の無細胞翻訳系は、「ウサギ網状赤血球溶解物」からなるものであるから、真核細胞の翻訳系である。
真核細胞の翻訳系と原核細胞の翻訳系とでは、翻訳系に含まれるリボゾームの種類が異なり、翻訳系が翻訳できる核酸の種類が異なることは明らかである。
また、真核細胞の翻訳系のリボゾームを原核細胞の翻訳系のリボゾームに変えたとしても、同じようなペプチドのライブラリーが調製されるといった技術常識は存在しない。
そうすると、甲1発明に翻訳系の違う周知技術1を適用する動機付けがあるとはいえない。例え、甲1発明に周知技術1を適用したとしても、本件発明1と同様な特殊ペプチドのライブラリーが調製されることが、容易に予測できることであるともいえない。よって、甲1発明に周知技術1を適用することは、当業者が容易に想到できたことであるとはいえないから、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明並びに周知技術1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 申立人の主張について
異議申立人金山愼一は、平成29年7月14日付け意見書において、
「原核細胞と真核細胞とでは、そもそもその翻訳に用いられるコドン表は基本的に同じものであり、原核細胞と真核細胞の翻訳系は大きく異ならない。原核細胞又は真核細胞由来の再構成された無細胞翻訳系を準備すれば、それぞれのコドンに対応する、それぞれの細胞に由来するtRNAに特定の被天然アミノ酸でアシル化したものと、それぞれの細胞のリボゾームを用いて同様のペプチドを合成することが可能である。従って、原核細胞のリボゾームであっても、真核細胞のリボゾームであっても、それぞれ再構成された無細胞翻訳系を準備し、それぞれのコドンに対応するtRNAに特定の被天然アミノ酸でアシル化したものを用いれば、同じ核酸ライブラリーによって、同じ特殊アミノ酸を含む特殊ペプチドライブラリーが得られる。」
旨、主張している。しかしながら、異議申立人は、上記主張を裏付ける証拠を示していないから、上記主張は採用されない。

エ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲1発明並びに周知技術1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件発明2?13について
本件発明2?13は、本件発明1を更に減縮したものであるから、上記本件発明についての判断と同様の理由により、甲1発明並びに周知技術1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)特許法第36条第6項第1号及び第2号について
ア 取消理由の概要
平成28年7月21日付け取消理由通知において、訂正前の請求項1において特定されている「(ペプチド)ライブラリー」が、「特殊ペプチドのみのライブラリー」となるのか、それとも「特殊ペプチド」以外のものが含まれるライブラリーとなるのかが、明確でなく、訂正前の請求項2において特定されている「ライブラリー」が「環状特殊ペプチドのみのライブラリー」を特定するものであるのか、「環状特殊ペプチド」以外のペプチドを含むライブラリーを特定するものであるのかが明確でないとして訂正前の請求項1及び2に係る特許と、これら特許を直接又は間接的に引用している請求項3ないし13に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法113条第4号に該当するから、取り消されるべきものである旨通知した。
また、同取消理由通知において訂正前の請求項1において特定される「核酸配列」の「ライブラリー」は、そのランダム配列中に「特殊アミノ酸を指定する人為的コドン」を含まない「核酸配列」を含むものであり、その結果、ペプチドライブラリーには、少なくとも「特殊ペプチド」に該当しないものを含むものであると考えられるから、請求項1の「核酸配列」の特定は、発明の詳細な説明と対応しないとして、訂正前の請求項1に係る特許と、該特許を直接又は間接的に引用している請求項2ないし13に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法113条第4号に該当するから、取り消されるべきものである旨通知した。

イ 当審の判断
平成29年平9月14日付け手続補正書により補正された、平成28年9月26日付け訂正請求において、本件請求項1及び2は、上記第2の1の通り訂正され、同日付け意見書において被請求人は、「特殊ペプチドのライブラリー」が、「実質として特殊ペプチドのライブラリーとなるため明確である」旨主張した。そして、該主張に対し行った平成29年10月25日付け審尋に対する平成29年11月15日付け回答書において、「実質として特殊ペプチドのみのライブラリー」とは、様々な大きさの環状ペプチドを調整するために、NNUコドンを8から15回繰り返すことにより、少なくとも約90%もの高い確率で特殊アミノ酸が導入されたライブラリーである旨主張していることから、「特殊ペプチドのライブラリー」とは、100%特殊ペプチドのみのライブラリーという意味では無く、少なくとも約90%もの高い確率で特殊アミノ酸が導入されたライブラリーであると理解できるから、上記アの取消理由は解消した。

2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について

ア 特許法第29条第1項第3号について
異議申立人金山愼一は、特許異議申立書において、本件発明1、2、4?6及び13は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により、特許を受けることができないものである旨主張している。
しかしながら、上記1(3)アにおいて検討したとおり、甲1発明は、本件発明1と、<相違点1>及び<相違点2>で相違しており、また、本件発明2、4?6及び13とも、少なくとも同じ相違点で相違している。
そうすると、本件発明1、2、4?6及び13は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないから、かかる主張は理由がない。

イ 特許法第36条第6項第1号及び第2号について
異議申立人金山愼一は、特許異議申立書において、請求項1に記載の「特殊アミノ酸」及び「特殊ペプチド」が如何なるものまで包含するか、その外延が明確でないから、特許請求の範囲の記載は特許を受けようとする発明が不明確であり、また、すべての「特殊アミノ酸」について発明の詳細な説明中に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第6項第1号及び第2号の要件を満たさないと主張しているが、本件明細書【0048】に「特殊アミノ酸とは、天然の翻訳で使用される20種類のタンパク質性アミノ酸とは構造の異なるアミノ酸全般を指し、人工的に合成したものであっても、自然界に存在するものであってもよい。つまり、タンパク質性アミノ酸の側鎖構造の一部が化学的に変更・修飾された非タンパク質性アミノ酸や人工アミノ酸、D体アミノ酸、N-メチルアミノ酸、N-アシルアミノ酸、β-アミノ酸、アミノ酸骨格上のアミノ基やカルボキシル基が置換された構造を有する誘導体等が全て含まれる。N-メチルアミノ酸は、アミノ酸のα位アミノ基にメチル基が一つ導入された特殊アミノ酸である。」と記載されており、この記載と当該技術分野の技術常識から「特殊アミノ酸」及び該「特殊アミノ酸」からなる「特殊ペプチド」が如何なるものであるか理解でき、該「特殊アミノ酸」や該「特殊アミノ酸」からなる「特殊ペプチド」を選択することによる効果も十分に理解できることから、かかる主張は理由がない。

ウ 特許法第36条第4項第1号について
異議申立人金山愼一は、特許異議申立書において、本件発明1は、ペプチドライブラリーから標的物質に結合する複数の特殊アミノ酸を含む特殊ペプ

チドを選択する方法であるが、標的物質によっては、甲1発明のように複数の特殊アミノ酸を含む特殊ペプチドが選択されず、本件発明1を当業者が実施できない可能性があるため、本件発明1は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されていないから、特許法第36条第4項第1号の規定により特許を受けることができないと主張しているが、確かに複数の特殊アミノ酸を含む特殊ペプチドが選択されない場合が存在するものの、本件発明1には、「(D-1) 前記(iii)の工程が、標的物質に結合するペプチドをコードする核酸配列を決定し、核酸配列からペプチド配列を決定し、(D-2) 複数の特殊アミノ酸を含むペプチドを選択する」工程が記載されており、これらの工程から、複数の特殊アミノ酸を含む特殊ペプチドが容易に選択されることは明らかであるから、かかる主張は理由がない。
また、同特許異議申立書において、ペプチドの翻訳合成に特殊アミノ酸を導入するための方法として、本件明細書に具体的に開示されているのは、フレキシザイムを用いた特殊アミノ酸の導入方法のみであり、フレキシザイムを用いる以外の特殊アミノ酸を導入する方法は何も開示されていないため、本件発明1は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されていないから、特許法第36条第4項第1号の規定により特許を受けることができないと主張している。
しかしながら、当該技術分野の技術常識からして、フレキシザイムを用いる以外の方法で、特殊アミノ酸を導入することができないとまではいえず、また、異議申立人はフレキシザイムを用いる以外の方法を示さなければ、特殊アミノ酸を導入するための方法を、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないことになるという証拠を提示していないから、かかる主張は理由がない。

第4 まとめ
以上のとおり、本件発明1ないし13は甲1発明、周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、平成28年7月21日付け取消理由通知に記載した取消理由、平成29年2月27日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1ないし13に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に本件発明1ないし13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程を含む、ペプチドライブラリーから標的物質に結合する特殊ペプチドを選択する方法:
(i)核酸ライブラリーを調製し、特殊アミノ酸でアシル化された伸長用tRNAと大腸菌由来のリボソームとを含む無細胞翻訳系によって翻訳し、特殊アミノ酸がペプチド配列にランダムに導入された特殊ペプチドのライブラリーを調製する工程;
(ii)ペプチドライブラリーを標的物質に接触させる工程;及び
(iii)標的物質に結合する特殊ペプチドを選択する工程、ここで該特殊ペプチドは複数の特殊アミノ酸を含む
であって、
前記(i)の工程において、ライブラリーを構成する各ペプチドが当該ペプチドをコードする核酸配列から翻訳され、核酸配列とその翻訳産物であるペプチドが連結されて、in vitroディスプレイライブラリーが構築され、
核酸配列において、ペプチドをコードする領域が、異なる複数のトリプレットの繰り返しからなるランダム配列を含み、ランダム配列中のトリプレットの少なくとも一部が特殊アミノ酸を指定する人為的なコドンに対応する配列であり、特殊アミノ酸でアシル化された伸長用tRNAのアンチコドンと特殊アミノ酸を指定する人為的なコドンの対合により特殊アミノ酸がペプチド配列に導入され、
前記(iii)の工程が、標的物質に結合するペプチドをコードする核酸配列を決定し、核酸配列からペプチド配列を決定し、複数の特殊アミノ酸を含むペプチドを選択することを含む、前記方法。
【請求項2】
ペプチドをコードする領域が、さらに、
官能基1を持つアミノ酸を指定するコドン、及び
官能基2を持つアミノ酸を指定するコドン
に対応する配列を含み、
官能基1及び官能基2は結合形成反応が可能な一組の官能基であり、
前記(i)の工程において、特殊アミノ酸でアシル化された伸長用tRNAのアンチコドンと特殊アミノ酸を指定する人為的なコドンの対合により特殊アミノ酸がペプチド配列に導入され、翻訳産物であるペプチドが官能基1と官能基2の間の結合形成反応によって環状化されることにより、ライブラリーが環状特殊ペプチドのライブラリーであり、
前記(iii)の工程が、標的物質に結合する環状特殊ペプチドをコードする核酸配列を決定し、核酸配列からペプチド配列を決定し、標的物質に結合する環状特殊ペプチドを選択することを含む、請求項1の方法。
【請求項3】
前記(i)の工程が、アシルtRNA合成酵素様活性を持つRNA触媒を用いて特殊アミノ酸でtRNAをアシル化することを含む、請求項1又は2の方法。
【請求項4】
核酸ライブラリーがmRNAのライブラリーである、請求項1?3のいずれかの方法。
【請求項5】
ランダム配列を構成するトリプレットが、以下の配列からなるコドン:
N^(1)N^(2)Uコドン{N^(1)及びN^(2)はそれぞれ独立して、A、U、CまたはGのいずれかである}
N^(1)N^(2)Kコドン{N^(1)及びN^(2)はそれぞれ独立して、A、U、CまたはGのいずれかであり、Kは、CまたはGのいずれかである}、及び
N^(1)N^(2)N^(3)コドン{N^(1)、N^(2)及びN^(3)はそれぞれ独立して、A、U、CまたはGのいずれかである}、
から選択される、請求項1又は2の方法。
【請求項6】
ランダム配列が、N^(1)N^(2)Uコドン、N^(1)N^(2)Kコドン、N^(1)N^(2)N^(3)コドンのいずれかの2回以上の繰り返しからなる、請求項5の方法。
【請求項7】
官能基1及び官能基2が、以下の官能基の組(A)から(C):
【化1】

(式中、X_(1)はClまたはBrであり、そして、Arは置換基を有していてもよい芳香環である)のいずれか一組である、請求項2の方法。
【請求項8】
官能基1を持つアミノ酸がクロロアセチル基を持つアミノ酸であり、官能基2を持つアミノ酸がシステインである、請求項2の方法。
【請求項9】
ペプチドをコードする領域が、以下の(a)?(c):
(a)クロロアセチル基を持つアミノ酸を指定する開始コドン、
(b)特殊アミノ酸を指定する人為的なコドンを含む、NNU{Nは、A、U、CまたはGのいずれかのリボヌクレオチドである}コドンの繰り返しからなるランダム配列、及び
(c)システインを指定するコドン
を含み、開始コドンと、クロロアセチル基を持つアミノ酸でアシル化された開始tRNAのアンチコドンの対合により、クロロアセチル基を持つアミノ酸がペプチドN末端に導入され、ランダム配列中の特殊アミノ酸を指定する人為的なコドンと、特殊アミノ酸でアシル化された伸長用tRNAのアンチコドンとの対合により、特殊アミノ酸がペプチドに導入され、翻訳産物であるペプチドがクロロアセチル基とシステインのスルフィドリル基との間の結合形成反応によって環状化される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ライブラリーがリボソームディスプレイライブラリー、mRNAディスプレイライブラリー、及びRAPIDディスプレイライブラリーからなる群から選択されるいずれかである、請求項1?9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
mRNAとその翻訳産物である環状特殊ペプチドの複合体からなるin vitroディスプレイライブラリーであって、該in vitroディスプレイライブラリーは請求項8の方法に使用される、in vitroディスプレイライブラリーを調製する方法であって、
ペプチドをコードする領域が、以下の(a)?(c):
(a)クロロアセチル基を持つアミノ酸を指定する人為的なコドン、
(b)特殊アミノ酸を指定する人為的なコドンを含む、異なる複数のトリプレットの繰り返しからなるランダム配列、及び
(c)システインを指定するコドン
を含むmRNAライブラリーを、以下の(d)及び(e)のアミノアシルtRNA:
(d)前記(a)のコドンと相補的なアンチコドンを有する、クロロアセチル基を持つアミノ酸でアシル化された人工tRNA
(e)1種以上の特殊アミノ酸でアシル化された人工tRNA
並びに
(f)システイン、システインtRNA、及びシステイニルRS(CysRS)、及び
(g)大腸菌由来のリボソーム
を少なくとも含む再構成型の無細胞翻訳系で翻訳することにより、前記in vitroディスプレイライブラリーを調製する方法。
【請求項12】
環状特殊ペプチドと当該ペプチドをコードする核酸配列の複合体からなるin vitroディスプレイライブラリーを調製するためのキットであって、該キットは請求項8の方法に使用され、
(i)ペプチドをコードする領域が、以下の(a)?(c)を含むmRNA:
(a)クロロアセチル基を持つアミノ酸を指定する人為的なコドン、
(b)特殊アミノ酸を指定する人為的なコドンを含む、異なる複数のトリプレットの繰り返しからなるランダム配列、及び
(c)システインを指定するコドン
及び
(ii)以下の(d)及び(e)のアミノアシルtRNA:
(d)前記(a)のコドンと相補的なアンチコドンを有する、クロロアセチル基を持つアミノ酸を持つアミノ酸でアシル化された人工開始tRNA、
(e)前記(b)の人為的なコドンと相補的なアンチコドンをそれぞれ有する、異なる特殊アミノ酸でそれぞれアシル化された人工伸長tRNA、
及び
(iii)システイン及びシステインでアシル化され得るtRNA、及び
(iv)単離された大腸菌由来のリボソーム
を少なくとも含む、前記キット。
【請求項13】
特殊アミノ酸が、N-メチルアミノ酸である、請求項1?10のいずれかに記載の方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-12-01 
出願番号 特願2010-202012(P2010-202012)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (G01N)
P 1 651・ 121- YAA (G01N)
P 1 651・ 536- YAA (G01N)
P 1 651・ 537- YAA (G01N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 吉田 将志伊藤 裕美  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 ▲高▼橋 祐介
福島 浩司
登録日 2015-10-09 
登録番号 特許第5818237号(P5818237)
権利者 国立大学法人 東京大学
発明の名称 N-メチルアミノ酸およびその他の特殊アミノ酸を含む特殊ペプチド化合物ライブラリーの翻訳構築と活性種探索法  
代理人 大貫 敏史  
代理人 内藤 和彦  
代理人 大貫 敏史  
代理人 内藤 和彦  
代理人 江口 昭彦  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 江口 昭彦  

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