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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
管理番号 1337007
異議申立番号 異議2017-700207  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-03-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-03-02 
確定日 2017-12-21 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5986241号発明「耐衝撃性が改良されたポリカーボネート/ポリエステル又はポリカーボネート/ポリアミド組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5986241号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕、6について訂正することを認める。 特許第5986241号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 特許第5986241号の請求項6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5986241号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし6に係る特許についての出願(以下、「本件出願」という。)は、2010年6月9日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年7月17日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2012-520640号の一部を2015年1月30日に新たな外国語書面による特許出願としたものであって、平成28年8月12日にその特許権の設定登録がされ、同年9月6日に特許公報が発行され、その後、その特許に対して、平成29年3月2日に特許異議申立人 特許業務法人虎ノ門知的財産事務所(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年5月24日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年8月24日付け(受理日:同年8月25日)で意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされたので、異議申立人に対して同年9月5日付けで本件訂正請求があった旨の通知がされたところ、指定期間内の同年10月6日付けで異議申立人から意見書が提出されたものである。


第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求の訂正の内容は以下の(1)ないし(4)のとおりである(なお、合議体により、訂正部分に下線を付した。)。

(1) 訂正事項1
請求項1に
「以下のものを含む耐衝撃性改良剤ブレンド物」
とあるのを、
「以下からなる耐衝撃性改良剤ブレンド物」
に訂正する。

(2) 訂正事項2
請求項1に
「50?99重量%の官能化ポリオレフィン」
とあるのを、
「50?99重量%の、エポキシで官能化された、無水物で官能化された又は不飽和カルボン酸の無水物で官能化された官能化ポリオレフィン」に訂正する。

(3) 訂正事項3
請求項4に
「前記ポリマーブレンド物が、65?95重量%のポリカーボネートを含み、そして前記耐衝撃性改良剤ブレンド物が、1?50重量%のコア-シェルポリマー及び50?99重量%の、エポキシで官能化された、無水物で官能化された又は不飽和カルボン酸の無水物で官能化された官能化ポリオレフィンを含む」
とあるのを、
「前記ポリマーブレンド物が、65?95重量%のポリカーボネートを含む」
と訂正する。

(4) 訂正事項4
請求項6を削除する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否
請求項1における訂正事項1は、耐衝撃性改良剤ブレンド物について、含まれる成分を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

イ 新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1の限定は、実施例に基づくものであり、新規事項の追加には該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。
そして、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲の拡張し、又は変更するものではないから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。

(2) 訂正事項2について
ア 訂正の目的の適否
請求項1における訂正事項2は、訂正前の請求項1の官能化ポリオレフィンを限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

イ 新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2の「エポキシで官能化された、無水物で官能化された又は不飽和カルボン酸の無水物で官能化された」との特定事項については、訂正前の請求項4に記載があるので、新規事項の追加には該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。
そして、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲の拡張し、又は変更するものではないから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。

(3) 訂正事項3について
ア 訂正の目的の適否
請求項4における訂正事項3は、訂正事項2に係る訂正において、訂正前の請求項4に記載された事項を訂正後の請求項1に追加したことにともない、当該事項を訂正後の請求項4から削除して整合を図るためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。

イ 新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項3との特定事項については、訂正事項2の訂正にともなって記載の整合とるためのものであるから、新規事項の追加には該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。
そして、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲の拡張し、又は変更するものではないから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。

(4) 訂正事項4について
ア 訂正の目的の適否
請求項6に係る訂正事項4は、訂正前の請求項6を削除するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

イ 新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項4は、訂正前の請求項6の削除するものであるから、新規事項の追加には該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合し、また、実質上特許請求の範囲の拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項にも適合する。

3 一群の請求項について
訂正事項1ないし3による本件訂正は、訂正前の請求項1ないし5を訂正するものであるところ、訂正前の請求項1ないし5は、請求項1の記載を請求項2ないし5で引用しており、訂正事項1により連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1ないし5は一群の請求項である。
また、訂正事項4による本件訂正は、訂正前の請求項6を削除するものであるところ、訂正前の請求項6は、引用関係のない独立の請求項である。
したがって、本件訂正請求は、一群の請求項ごとに対してされたものである。

4 まとめ
以上総括すると、訂正事項1ないし4による本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項の規定並びに同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
また、特許異議の申立ては、訂正前の全ての請求項に対してされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
したがって、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-5]、6について訂正することを認める。


第3 本件特許発明
本件訂正請求による訂正は認められるので、訂正後の本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、次のとおりのものである。(以下、順に「本件特許発明1」ないし「本件特許発明6」という。また、これらをまとめて「本件特許発明」ということもある。)

「【請求項1】
熱可塑性ポリエステル/ポリカーボネート組成物であって、
a)ポリマーブレンド物プラス耐衝撃性改良剤ブレンド物の合計重量を基準にして、40?98重量%のポリマーブレンド物であって、以下からなるポリマーブレンド物
1)前記ポリマーブレンド物の合計重量を基準にして5?65重量%の、1種又は複数種のポリエステル及び/又はポリアミドであって、前記ポリエステルがポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)及びそれらの混合物からなる群より選択されるポリエステル及び/又はポリアミド;並びに
2)前記ポリマーブレンド物の合計重量を基準にして、35?95重量%のポリカーボネート;
b)前記ポリマーブレンド物プラス耐衝撃性改良剤ブレンド物の合計重量を基準にして、2?60重量%の、以下からなる耐衝撃性改良剤ブレンド物
a)前記耐衝撃性改良剤ブレンド物の合計重量を基準にして、1?50重量%のコア-シェルコポリマーであって、前記コア-シェルコポリマーが、エラストマー性のコアを含み、粒径が200nm?450nmである、コア-シェルコポリマー;及び
b)前記耐衝撃性改良剤ブレンド物の合計重量を基準にして、50?99重量%の、エポキシで官能化された、無水物で官能化された又は不飽和カルボン酸の無水物で官能化された官能化ポリオレフィン、
c)随意的な1種以上の成分であって、前記熱可塑性組成物全体を基準にして0.25?30重量%の成分であり、ガラス繊維、ガラスビーズ、有機充填剤、無機充填剤、タルク、染料、顔料、UV吸収剤、加工助剤、カーボンナノチューブ、及びカーボンブラックからなる群から選択される成分;並びに
d)禁止剤
からなる熱可塑性ポリエステル/ポリカーボネート組成物。
【請求項2】
前記コアが、少なくとも65重量%の1種又は複数種のジエンモノマー単位を含む、請求項1に記載の熱可塑性組成物。
【請求項3】
前記コア-シェルコポリマーが、全アクリル系コポリマーである、請求項1に記載の熱可塑性組成物。
【請求項4】
前記ポリマーブレンド物が、65?95重量%のポリカーボネートを含む、請求項1に記載の熱可塑性組成物。
【請求項5】
前記ポリマーブレンド物が、前記ポリマーブレンド物及び耐衝撃性改良剤ブレンド物の合計重量の、60?96重量%を占め、前記耐衝撃性改良剤ブレンド物が、4?40重量%を占めている、請求項1に記載の熱可塑性組成物。
【請求項6】
(削除)」


第4 取消理由の概要
(1) 取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし6に係る特許に対して、当審が通知した取消理由の概要は以下のとおりである。

「1.訂正前の本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備であるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
2.訂正前の本件特許は、発明の詳細な説明の記載について下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
3.訂正前の本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明並びに甲第1号証ないし甲第3号証、甲第6号証及び甲第7号証に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

異議申立人の提示した証拠
甲第1号証:米国特許出願公開第2007/54982号明細書
甲第2号証:旭電化工業株式会社、「アデカ スタブ プラスチックス用添加剤概要」、J05-1003B Vol.10 No.1(2004年12月1日以前発行と認められる。)
甲第3号証:特開2001-181485号公報
甲第4号証:特表2013-512804号公報
甲第5号証:特表2010-529248号公報
甲第6号証:特開2009-96851号公報
甲第7号証:特開2005-126711号公報
(以下、それぞれ「甲1」ないし「甲7」と略していう。) 」


第5 取消理由についての合議体の判断
当合議体は、以下に述べるように、上記取消理由の理由1ないし3には理由がないと判断する。

1 取消理由の理由1について
(1) 理由1の具体的な内容の概要
取消理由の理由1は、訂正前の請求項1ないし3、5及び6に対するものであり、その内容の概要は、以下のとおりである。

ア 訂正前の請求項6について
本件特許発明が解決しようとする課題は、本件特許明細書の段落【0001】及び【0007】を参照すると、「ポリカーボネートと、ポリエステル及び/又はポリアミドとのブレンド物であって、良好な衝撃強度を与える組成物を提供すること」であると認められる。
しかしながら、図3の「50/50 PC/PETブレンド物」に対して、「E920(コア-シェルコポリマーに相当)/AX8900(官能化ポリオレフィンに相当)」を様々な配合割合で用いた耐衝撃性改良剤ブレンド物のうち、その配合割合が「90/10」又は「80/20」のブレンド物については、他の配合割合に比べて、アイゾッド衝撃強度エネルギーが低温から常温側にかけて常に劣った評価結果が得られている。
訂正前の請求項6に係る発明は、「50/50 PC/PETブレンド物」に、「E920/AX8900」が「90/10」又は「80/20」で配合された範囲を包含するものであり、また、訂正前の請求項6に係る発明の熱可塑性ポリエステル/ポリカーボネート組成物に含まれるポリマーブレンド物及び耐衝撃性改良剤ブレンド物の全ての配合割合において、上記課題が解決できることが理解できるような記載は、発明の詳細な説明にはなく、全ての配合割合において上記課題が解決できることが出願時の技術常識ともいえない。
そうすると、訂正前の請求項6に係る発明は、当該発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲を超えて、特許を請求するものである。

イ 訂正前の請求項1ないし3、5及び6について
訂正前の請求項1ないし3、5及び6に係る発明における「官能化ポリオレフィン」は上記ハロゲン化物のように「ポリエステル相又はポリアミド相の中にポリオレフィンをつなぎとめる手段を与え」る機能を有さない官能基も含め広く包含するものである。してみると、訂正前の請求項1ないし3、5及び6に係る発明の全ての官能化ポリオレフィンにおいてまで、上記課題が解決できることが理解できるような記載は、発明の詳細な説明から読みとれないし、また全ての官能化ポリオレフィンにおいて上記課題が解決できることが出願時の技術常識ともいえない。
そうすると、訂正前の請求項1ないし3、5及び6に係る発明は、当該発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲を超えて、特許を請求するものである

(2) 判断
アについて
本件訂正により、訂正前の請求項6に係る発明は削除されたので、アに係る理由は解消した。

イについて
本件訂正により、本件特許発明1において、「官能化ポリオレフィン」が「エポキシで官能化された、無水物で官能化された又は不飽和カルボン酸の無水物で官能化された官能化ポリオレフィン」に限定されたことにより、本件の課題が解決できると認識できる範囲のものとなったので、訂正後の本件特許発明1ないし3、及び5について、イに係る理由は解消した。
また、訂正前の請求項6に係る発明は訂正により削除されたので、当該請求項に対するイに係る理由は解消した。

(3) 小括
訂正後の本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしており、同法第113条第4号に該当せず、取り消すべきものではない。
よって、取消理由の理由1には理由がない。

2 取消理由の理由2について
(1) 理由2の具体的な内容の概要
本件特許明細書の実施例の記載をもとに無数に存在する各成分の組み合わせの中から、良好な衝撃強度を満たす訂正前の請求項6に係る発明に記載の熱可塑性ポリエステル/ポリカーボネート組成物を得るには、当業者に期待しうる程度を超える過度の試行錯誤を要すると認められる。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が訂正前の本件特許発明6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
(2) 判断
本件訂正により、訂正前の請求項6に係る発明は削除されたので、当該理由は解消した。

(3) 小括
よって、訂正後の本件特許は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載について、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしているから、同法第113条第4号に該当せず、取り消すべきものではない。


3 取消理由の理由3について
(1)甲1ないし甲3、甲6及び甲7に記載された事項並びに引用発明
ア 甲1の記載等
(ア) 甲1の記載
甲1には、次の記載(以下、順に「記載1a」ないし「記載1e」という。)がある。なお、甲1は英文であるため訳文を示し、また下線は他の文献も含め当審で付したものである。なお、訳文については、特許異議申立人が作成したものを参考に当審で作成した。

1a 「1 . A thermoplastic polymer blend, comprising:
(a) two thermoplastic polycondensate polymers and
(b) a combination of impact modifiers,
wherein the combination comprises:
(i) a core/shell additive having an elastomeric core,
(ii) a linear terpolymer of ethylene, alkyl (meth)acrylate, and a monomer which contains a heterocycle containing one oxygen atom as the hetero-atom, and
(iii) a tri-block copolymer of an aromatic monomer, an olefin monomer, and an alkyl (meth)acrylate monomer.

2 . The blend of claim 1 , wherein the polycondensate polymers are selected from the group consisting of polyamides; polyetheresteramides (PEBAX); polycarbonates (PC); polyesters; liquid crystalline polymers (LCP); and blends of any three or more of them.

3 . The blend of claim 2 , wherein the polyesters comprise polyethylene terephthalate (PET), polypropylene terephthalate (PPT), polybutylene terephthalate (PBT), poly(ethylene-2,6-napthalate) (PEN), polypropylene napthalate (PPN), poly(1,4-cyclohexanedimethanol terephthalate) (PCT), polyethylene naphthalate bibenzoate (PENBB), or polybutylene naphthalate (PBN).

4 . The blend of claim 1 , wherein the at least one polycondensate polymer is plural and comprises polycarbonate and polyester.

5. The blend of claim 4 , wherein the tri-block copolymer is styrene-butadiene-methylmethacrylate.

6 . The blend of claim 5 , wherein the core/shell additive is n-octyl acrylate rubber core/polymethylmethacrylate shell and wherein the linear terpolymer is ethylene-methyl acrylate-glycidyl methacrylate.

7 . The blend of claim 6 ,
wherein the amount of triblock copolymer ranges from about 3 to about 25 weight percent of the blend;
wherein the amount of core/shell additive ranges from 0 to about 10 weight percent of the blend; and
wherein the amount of linear terpolymer ranges from 0 to about 10 weight percent of the blend.

8 . The blend of claim 1 , further comprising optional additives selected from the group consisting of slip agents, antiblocking agents, antioxidants, ultraviolet light stabilizers, quenchers, dyes and pigments, plasticizers, mold release agents, lubricants, antistatic agents, fire retardants, fillers, and combinations thereof.

9 . The blend of claim 8 , wherein the fillers comprise glass fibers, talc, chalk, or clay.」(請求項1ないし9)

1a(訳文)
「1.以下のものから構成される熱可塑性樹脂ポリマーブレンド物:
(a)2つの熱可塑性重縮合ポリマーと、
(b)耐衝撃剤の組み合わせ、
ここで、上記耐衝撃剤の組み合わせは以下のものから構成される:
(i)エラストマー性のコアを有するコアシェル添加剤と、
(ii)エチレンと、アルキル(メタ)アクリレートと、ヘテロ原子として1個の酸素原子を含む複素環を含有するモノマーとの直鎖三元共重合体と、
(iii)芳香族モノマーと、オレフィンモノマーと、アルキル(メタ)アクリレートモノマーとのトリブロック共重合体とを含む熱可塑性ポリマー。

2.重縮合ポリマーは、ポリアミド;ポリエーテルエステルアミド(PEBAX);ポリカーボネート(PC);ポリエステル;液晶ポリマー(LCP);及びそれらの3つ以上のブレンド物である、請求項1のブレンド物。

3.ポリエステルがポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリ(エチレン-2,6-ナフタレート)(PEN)、ポリプロピレンナフタレート(PPN)、ポリ(1,4-シクロヘキサンジメタノールテレフタレート)(PCT)、ポリエチレンナフタレートバイベンゾエート(PENBB)、又はポリブチレンナフタレート(PBN)から構成される、請求項2のブレンド物。

4.少なくとも一つの重縮合ポリマーは複数であり、ポリカーボネートとポリエステルから構成される、請求項1のブレンド物。

5.トリブロック共重合体はスチレン-ブタジエン-メチルメタクリレートである、請求項4のブレンド物。

6.コアシェル添加剤はn-オクチルアクリレートラバーコア/ポリメチルメタクリレートシェル製品であり、直鎖三元共重合体はエチレン-メチルアクリレート-グリシジルメタクリレートである、請求項5のブレンド物。

7.トリブロック共重合体の配合量はブレンド物の約3から約25重量%の範囲であり、
コアシェル添加剤の配合量はブレンド物の約0から約10重量%の範囲であり、
直鎖三元共重合体の配合量はブレンド物の約0から約10重量%の範囲である、
請求項6のブレンド物。

8.スリップ剤、ブロッキング防止剤、酸化防止剤、紫外線安定剤、クエンチャー、染料、顔料、可塑剤、離型剤、滑材、帯電防止剤、難燃剤、充填材及びこれらの組み合わせからなる任意の添加剤をさらに構成する、請求項1のブレンド物。

9.充填材がガラスファイバー、タルク、チョーク又は粘土である、請求項8のブレンド物。」

1b 「[0008] One feature of the blends of the present invention is good impact properties at service temperatures ranging from about -40℃. to 70℃. without compromising other physical properties otherwise present, e.g., flexural modulus, tensile strength, and heat distortion temperature. 」(段落[0008])

1b(訳文)
「[0008] 本発明のブレンド物の一つの特徴は、屈曲係数、引張強度、加熱歪み温度などの他の物性に影響を与えることのない、約-40℃ないし70℃の使用温度範囲における良好な衝撃特性にある。」

1c 「[0014] The thermoplastic polymers can be one or a number of polymers of the polycondensate type including without limitation, polyamides; polyetheresteramides (PEBAX); polycarbonates (PC); polyesters (such as polyethylene terephthalate (PET), polypropylene terephthalate (PPT), polybutylene terephthalate (PBT), poly(ethylene-2,6-napthalate) (PEN), polypropylene napthalate (PPN), poly(1,4-cyclohexanedimethanol terephthalate) (PCT), polyethylene naphthalate bibenzoate (PENBB), polybutylene naphthalate (PBN)); and liquid crystalline polymers (LCP); and blends of any two or more of them. Of these possibilities, a blend of polycarbonate and a polyester is desirable with a blend of PC with either PET or PBT being preferred. A commercially available blend of PC/PET or PC/PBT is branded as Xenoy from General Electric Company, Plastics Group.

[0015] The amount of thermoplastic polymer in the compound can range from about 50 to about 95, and preferably from about 60 to about 80 weight percent of the blend.

[0016] The relative contribution of the polycarbonate to the blend ranges from about 15 to about 85 weight percent, and preferably from about 20 to about 50 weight percent.

[0017] The relative contribution of the polyester to the blend ranges from about 15 to about 85 weight percent, and preferably from about 35 to about 65 weight percent. 」(段落[0014]ないし[0017])

1c(訳文)
「[0014] 熱可塑性ポリマーは、ポリアミド;ポリエーテルエステルアミド(PEBAX);ポリカーボネート(PC);ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリ(エチレン-2,6-ナフタレート)(PEN)、ポリプロピレンナフタレート(PPN)、ポリ(1,4-シクロヘキサンジメタノールテレフタレート)(PCT)、ポリエチレンナフタレートバイベンゾエート(PENBB)、又はポリブチレンナフタレート(PBN)等のポリエステル;液晶ポリマー(LCP);及びそれらの何れか2つ以上のブレンド物の群から制限なく選択される1又は多数の重縮合タイプのポリマーである。これらの中でも、ポリカーボネートとポリエステルのブレンドは、PET又はPBTのいずれか好ましい一方と、PCとのブレンドが好ましい。PC/PET又はPC/PBTの市販のブレンドは、General Electric社、プラスチックグループのXENOYという商品である。

[0015] 化合物中の熱可塑性ポリマーの配合量は、ブレンド物の約50から約95重量%、好ましくは約60から約80重量%の範囲とすることが可能である。

[0016] ブレンド物中のポリカーボネートの相対的割合は、約15から約85重量%、好ましくは約20から約50重量%の範囲である。

[0017] ブレンド物中のポリエステルの相対的割合は、約15から約85重量%、好ましくは約35から約65重量%の範囲である。」

1d 「[0042] As with many thermoplastic compounds, it is optional and desirable to include other additives to improve processing or performance. Non-limiting examples of such optional additives include slip agents, antiblocking agents, antioxidants, ultraviolet light stabilizers, quenchers, dyes and pigments, plasticizers, mold release agents, lubricants, antistatic agents, fire retardants, and fillers such as glass fibers, talc, chalk, or clay. Of these fillers, the properties of nanoclay can add stiffness, toughness, and charring properties for flame retardancy.

[0043] Such optional additives can be included in the blend of the present invention in an amount from about 0 to about 40, and preferably from about 0.1 to about 30 weight percent. Most preferably, the amount is about 1 to about 7 weight percent of the blend. 」

1d(訳文)
「[0042] 多くの熱可塑性化合物と同様に、処理または性能を改善するために他の添加剤を含ませることが可能であり、そのようにすることが望ましい。そのような任意の添加剤の非限定的な例としては、スリップ剤、ブロッキング防止剤、酸化防止剤、紫外線安定剤、クエンチャー、染料、顔料、可塑剤、離型剤、滑材、帯電防止剤、難燃剤、及びガラス繊維、タルク、チョーク、粘土などの充填材が挙げられる。これらの充填材のうち、ナノクレイは、剛性、靱性、及び難燃性の為の炭化性能を追加することが可能である。

[0043] このような任意の添加剤は、約0から約40重量%で本発明のブレンド物に含ませることができ、好ましくは約0.1から約30重量%である。最も好ましくは、ブレンド物の約1から約7重量%である。」

1e 「[0059] Table 4 shows that Example 1 outperforms Comparative Example A even though it had 22% less total impact modifier (7.4% vs. 9.6%). Example 1 had a combination of three impact modifiers, whereas Comparative Example A did not include the Triblock Copolymer Impact Modifier. Example 1 had better heat distortion resistance, better tensile strength, and better flexural modulus and comparable impact strength than Comparative Example A.」(段落[0059])

1e(訳文)
「[0059] 表4では、実施例1は全耐衝撃剤を22%少ない割合(7.4%対9.6%)で有するにも関わらず、比較例Aよりも優れていることを示している。実施例1は3つの耐衝撃剤の組み合わせを有するものであるのに対して、比較例Aはトリブロック共重合体耐衝撃剤を含有していなかった。実施例1は比較例Aに比べ、より良い熱歪み抵抗、引張強度、屈曲係数、同等の衝撃強度を有していた。」

(イ) 甲1の記載事項
熱可塑性重縮合ポリマーブレンド物は記載1aの請求項1に記載されているところ、熱可塑性重縮合ポリマーについて、記載1aの請求項4では「ポリカーボネートとポリエステル」の組み合わせが記載され、具体的には「PET又はPBTのいずれか好ましい一方と、PCとのブレンド」が挙げられている(記載1cの段落[0014])。そして、配合量については、熱可塑性ポリマーが「ブレンド物の約50から約95重量%」であり(記載1cの段落[0015])、その具体的成分であるポリカーボネートとポリエステルについては、相対的割合として、それぞれ「約15から約85重量」であることが示されている(記載1cの段落[0016]及び段落[0017])。
耐衝撃剤の配合量について、記載1aの請求項7では「トリブロック共重合体の配合量はブレンド物の約3から約25重量%の範囲であり、コアシェル添加剤の配合量はブレンド物の約0から約10重量%の範囲であり、直鎖三元共重合体の配合量はブレンド物の約0から約10重量%の範囲」であることが記載されることから、これらの組み合わせである耐衝撃剤の配合量を合計すると、ブレンド物の約3から45重量%の範囲であるといえる。
任意の添加剤について、記載1aの請求項8及び9、記載1dの段落[0042]には当該添加剤を熱可塑性樹脂ポリマーブレンド物の構成とすることが記載され、その配合量はブレンド物の「約0から約40重量%」であることが示されている(記載1dの段落[0043])。

(ウ) 甲1発明
したがって、甲1には、上記記載1aないし1eを整理すると、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「以下のものから構成される熱可塑性樹脂ポリマーブレンド物:
(a)ポリカーボネート 約15から約85重量%(相対的割合)と、PET又はPBTのいずれかのポリエステル 約15から約85重量%(相対的割合)から構成される熱可塑性重縮合ポリマー 約50から約95重量%と、
(b)耐衝撃剤 約3から45重量%の組み合わせ、
ここで、上記耐衝撃剤の組み合わせは以下のものから構成される:
(i)エラストマー性のコアを有するコアシェル添加剤 約0から約10重量%と、
(ii)エチレンと、アルキル(メタ)アクリレートと、ヘテロ原子として1個の酸素原子を含む複素環を含有するモノマーとの直鎖三元共重合体 約0から約10重量%と、
(iii)芳香族モノマーと、オレフィンモノマーと、アルキル(メタ)アクリレートモノマーとのトリブロック共重合体とを含む熱可塑性ポリマー 約3から約25重量%、
さらに、スリップ剤、ブロッキング防止剤、酸化防止剤、紫外線安定剤、クエンチャー、染料、顔料、可塑剤、離型剤、滑材、帯電防止剤、難燃剤、及びガラス繊維、タルク、チョーク、粘土などの充填材 約0から約40重量%を任意の添加剤として構成する、
熱可塑性樹脂ポリマーブレンド物。」

イ 甲2の記載
甲2には、次の記載(以下、「記載2a」という。)がある。

2a 「



ウ 甲3の記載
甲3には、次の記載(以下、順に「記載3a」ないし「記載3c」という。)がある。

3a 「【請求項1】 下記の(i)と(ii)を(iii)、(iv)の比率(重量%)で含む熱可塑性ポリエステル組成物:
(i) 熱可塑性ポリエステル
(ii) (a)と(b)とからなる衝撃改質剤:
(a) コア-シェルコポリマー(A)
(b) エチレンと不飽和無水カルボン酸とのコポリマー(B1)、エチレンと不飽和エポキシドとのコポリマー(B2)およびこれらのアロイの中から選択されるエチレンコポリマー(B)
(iii) 衝撃改質剤18?40%、ポリエステル82?60%の場合には(B)/(A)比が40/60?10/90、(iv) 衝撃改質剤2?18%、ポリエステル98?82%、好ましくは衝撃改質剤5?18%、ポリエステル95?82%の比率の場合には(B)/(A)比が40/60?25/75。」(請求項1)

3b 「【0023】 コア-シェルコポリマー(A)は、エラストマーのコアと少なくとも1種の熱可塑性のシェルとを有する微粒子の形をしており、粒径は一般に1μm以下、好ましくは200?500nmである。コアの例としてはイソプレンのホモポリマーまたはブタジエンのホモポリマー、イソプレンと最大で30mol%のビニルモノマーとのコポリマーおよびブタジエンと最大で30mol%のビニルモノマーとのコポリマーが挙げられる。ビニルモノマーはスチレン、アルキルスチレン、アクリロニトリルまたはアルキル(メタ)アクリレートにすることができる。他のコア群はアルキル(メタ)アクリレートのホモポリマーおよびアルキル(メタ)アクリレートと最大で30mol%のビニルモノマーとのコポリマーからなる。アルキル(メタ)アクリレートはブチルアクリレートにするのが有利である。ビニルモノマーはスチレン、アルキルスチレン、アクリロニトリル、ブタジエンまたはイソプレンにすることができる。コポリマー(A)のコアは完全または部分的に架橋されていてもよい。必要なことはコアの製造中に少なくとも二官能性のモノマーを添加することだけである。このモノマーはポリオールのポリ(メタ)アクリルエステル、例えばブチレンジ(メタ)アクリレートおよびトリメチロールプロパントリメタクリレートの中から選択することができる。他のニ官能性モノマーは例えばジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、酢酸ビニルおよびビニルメタクリレートである。不飽和官能性モノマー、例えば不飽和無水カルボン酸、不飽和カルボン酸および不飽和エポキシドを重合中にグラフトするか、コモノマーとして導入することによってもコアを架橋することができる。その一例としては無水マレイン酸、(メタ)アクリル酸およびグリシジルメタクリレートが挙げられる。」

3c 「【0044】E 920:ブタジエン-スチレンを主成分とするコアとPMMAのシェルとからなるMBS型コア-シェルコポリマー。エルフアトケム社から商品名METABLEND(登録商標)で市販。
EXL 2314:エポキシで官能化したアクリルコア-シェルコポリマー。Rohm and Haas社から商品名PARALOID(登録商標)で市販。
PBT: MFIが20(250℃/2.16kg)であるポリブチレンテレフタレート。BASF社から商品名ULTRADUR(登録商標)B4500で市販。」

エ 甲6の記載
甲6には、次の記載(以下、「記載6a」という。)がある。

6a 「【0059】
この例で使用した材料は以下の通りである。
HX3941HP(エポキシ樹脂65質量%、硬化剤35質量%)、HXA3042HP(エポキシ樹脂66質量%、硬化剤34質量%)、HXA3922HP(エポキシ樹脂67質量%、硬化剤33質量%)、HXA3792(エポキシ樹脂65質量%、硬化剤35質量%)及びHX3748(エポキシ樹脂65質量%、硬化剤35質量%)は、旭化成ケミカルズ株式会社製のマイクロカプセル化潜在性硬化剤と熱硬化性エポキシ樹脂との混合物である。
EXL2314は、Rohm and Haas CompanyからParaloid(登録商標)の商品名で販売されている、アクリルゴム層をコアとしアクリル樹脂をシェルとする、一次粒径が100?600nmのコア-シェル型弾性微粒子である。
G402は、ダイセル化学工業株式会社製のPLACCEL G(ラクトン変性エポキシ樹脂)である。
YD128は、東都化成株式会社製のビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量184?194)である。
1010は、ジャパンエポキシレジン株式会社製のビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量3000?5000)である。
YD170は、東都化成株式会社製のビスフェノールF型エポキシ樹脂(エポキシ当量160?180)である。
YP50Sは、東都化成株式会社製のフェノキシ樹脂(商品名フェノトート)である。」

オ 甲7の記載
甲7には、次の記載(以下、順に「記載7a」及び「記載7b」という。)がある。

7a 「【0010】
他の実施形態によると、追加の成分として、難燃性量のハロゲン化難燃剤、無機充填材、その他、奪活剤、難燃性相乗剤、びドリップ抑制添加剤のような成分を配合し得る。」

7b 「【0036】
コアシェルアクリルゴムは様々な粒径であり得る。好ましい範囲は300?800nmであるが、より大きい粒子、又は小さい粒子と大きい粒子の混合物も使用することができる。幾つかの場合、特に良好な外観が必要とされる場合には、350?450nmの粒径を有するアクリルゴムが好ましいであろう。より高い衝撃が望まれるような他の用途では、粒径450?550nm又は650?750nmのアクリルゴムを使用するのがよい。」

(3)対比・検討
ア 本件特許発明1について
ポリマーブレンド物について、甲1発明の「熱可塑性重縮合ポリマー 約50から約95重量%」は、他の必須成分である耐衝撃剤を含めた熱可塑性樹脂ポリマーブレンド物全体に対しての含有量といえ、本件特許発明1の「ポリマーブレンド物プラス耐衝撃性改良剤ブレンド物の合計重量を基準にして、40?98重量%のポリマーブレンド物」と重複一致する。
ポリマーブレンド物の各成分について、甲1発明の「ポリカーボネート 約15から約85重量%(相対的割合)」は、他の熱可塑性重縮合ポリマー成分であるポリエステルとの合計量における相対的割合と解され、本件特許発明1の「2)前記ポリマーブレンド物の合計重量を基準にして、35?95重量%のポリカーボネート」と重複一致する。
同様に甲1発明の「PET又はPBTのいずれかのポリエステル 約15から約85重量%(相対的割合)」は、本件特許発明1の「前記ポリマーブレンド物の合計重量を基準にして5?65重量%の、1種又は複数種のポリエステル」であって、「前記ポリエステルがポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)」「からなる群より選択されるポリエステル」と重複一致する。
耐衝撃剤(耐衝撃性改良剤)について、甲1発明の「耐衝撃剤 約3から45重量%」は、他の必須成分である熱可塑性重縮合ポリマーを含めた熱可塑性樹脂ポリマーブレンド物全体に対しての含有量といえ、本件特許発明1の「前記ポリマーブレンド物プラス耐衝撃性改良剤ブレンド物の合計重量を基準にして、2?60重量%の」「耐衝撃性改良剤ブレンド物」と重複一致する。
耐衝撃性改良剤ブレンド物(耐衝撃剤)の各成分について、甲1発明の「(i)エラストマー性のコアを有するコアシェル添加剤 約0から約10重量%」は、配合量が熱可塑性樹脂ポリマーブレンド物に基いているところ、耐衝撃剤の合計量を基準にすると約0から77重量%となることから(77重量%は(i)が最大量の10重量%、(ii)及び(iii)は最小量の0及び3重量%を採用したときの配合量10/13×100=77%から算出)、本件特許発明1の「前記耐衝撃性改良剤ブレンド物の合計重量を基準にして、1?50重量%のコア-シェルコポリマーであって、前記コア-シェルコポリマーが、エラストマー性のコアを含」む「コア-シェルコポリマー」に重複一致する。
同様に甲1発明の「エチレンと、アルキル(メタ)アクリレートと、ヘテロ原子として1個の酸素原子を含む複素環を含有するモノマーとの直鎖三元共重合体 約0から約10重量%」は、上記のとおり耐衝撃剤の合計量を基準にすると約0から77重量%となり、本件特許明細書の段落【0047】には「官能化ポリオレフィン」の例として「エチレン-(メタ)アクリル酸アルキル-不飽和エポキシドコポリマー」を挙げており上記「直鎖三元共重合体」の組成が一致するから、本件特許発明1の「前記耐衝撃性改良剤ブレンド物の合計重量を基準にして、50?99重量%の、エポキシで官能化された、無水物で官能化された又は不飽和カルボン酸の無水物で官能化された官能化ポリオレフィン」と重複一致するものである。
随意的な1種以上の成分について、甲1発明の「スリップ剤、ブロッキング防止剤、酸化防止剤、紫外線安定剤、クエンチャー、染料、顔料、可塑剤、離型剤、滑材、帯電防止剤、難燃剤、及びガラス繊維、タルク、チョーク、粘土などの充填材 約0から約40重量%」は、本件特許発明1の「随意的な1種以上の成分であって、前記熱可塑性組成物全体を基準にして0.25?30重量%の成分であり、ガラス繊維、ガラスビーズ、有機充填剤、無機充填剤、タルク、染料、顔料、UV吸収剤、加工助剤、カーボンナノチューブ、及びカーボンブラックからなる群から選択される成分」と重複一致するものである。
全体組成物について、甲1発明の「熱可塑性樹脂ポリマーブレンド物」は、その構成からみて、本件特許発明1の「熱可塑性ポリエステル/ポリカーボネート組成物」に相当する。

したがって、本件特許発明1と甲1発明は、
「熱可塑性ポリエステル/ポリカーボネート組成物であって、
a)ポリマーブレンド物プラス耐衝撃性改良剤ブレンド物の合計重量を基準にして、40?98重量%のポリマーブレンド物であって、以下からなるポリマーブレンド物
1)前記ポリマーブレンド物の合計重量を基準にして5?65重量%の、1種又は複数種のポリエステル及び/又はポリアミドであって、前記ポリエステルがポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)及びそれらの混合物からなる群より選択されるポリエステル及び/又はポリアミド;並びに
2)前記ポリマーブレンド物の合計重量を基準にして、35?95重量%のポリカーボネート;
b)前記ポリマーブレンド物プラス耐衝撃性改良剤ブレンド物の合計重量を基準にして、2?60重量%の、耐衝撃性改良剤ブレンド物
c)随意的な1種以上の成分であって、前記熱可塑性組成物全体を基準にして0.25?30重量%の成分であり、ガラス繊維、ガラスビーズ、有機充填剤、無機充填剤、タルク、染料、顔料、UV吸収剤、加工助剤、カーボンナノチューブ、及びカーボンブラックからなる群から選択される成分;
からなる熱可塑性ポリエステル/ポリカーボネート組成物。」
である点で一致し、次の相違点1、2において一応相違し、相違点3において相違する。

<相違点1>
本件特許発明1における「コア-シェルコポリマー」の粒径は「200nm?450nm」であるのに対して、甲1発明の「コアシェル添加剤」の粒径は不明である点。

<相違点2>
本件特許発明1は「d)禁止剤」を有するのに対して、甲1発明は「d)禁止剤」を有するかが明らかではない点。

<相違点3>
本件特許発明1は、耐衝撃改良剤のブレンド物が、「a)コア-シェルコポリマーと、b)エポキシで官能化された、無水物で官能化された又は不飽和カルボン酸の無水物で官能化された官能化ポリオレフィン」「からなる」のに対して、甲1発明では、a)、b)成分に加えて、さらに「(iii)芳香族モノマーと、オレフィンモノマーと、アルキル(メタ)アクリレートモノマーとのトリブロック共重合体とを含む熱可塑性ポリマー 約3から約25重量%」を必須の成分として含む点。

以下、相違点について検討する。
相違点1について検討する。
甲3には熱可塑性ポリエステル組成物への衝撃改質剤として利用されるコアシェルコポリマーが粒径として200?500nmであることが記載され(記載3a及び3b)、また甲6及び7にもアクリル系のコアシェル微粒子の粒径が100?600nmや300?800nmであることが記載されている(記載6a、記載7b)。してみると、耐衝撃剤として数百nm程度の粒径は一般的に採用される範囲といえることから、甲1発明における耐衝撃剤において、本件特許発明1に記載される200nm?450nmの粒径範囲を採用してみることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

相違点2について検討する。
本件特許発明1の「禁止剤」に関し、本件特許明細書の段落【0054】には、「組み合わせたときに、ポリカーボネートと、ポリエステル又はポリアミドとのブレンド物が、ある程度のエステル交換反応を起こす」こと、「禁止剤を添加することによって、エステル交換反応を調節する」ことが記載されている。ここで、エステル交換反応の調節とは、ポリマーや触媒等の活性状態を抑制することで達成されると考えられるところ、甲2には樹脂改質剤として知られる「AX-71」が触媒失活作用を有し、エステル交換防止剤として優れた効果を発揮することが示されている。また、甲7にはポリエステルやポリカーボネートのブレンドに「奪活剤」を配合し得ることが記載され、ブレンド中の活性状態を抑制することから、エステル交換反応について調節しているものと理解できる。してみると、甲2及び甲7からポリエステルやポリカーボネートの樹脂に対してエステル交換反応の調節を行うことが読み取れ、また一般的に不要な反応は調節すべく検討されることを踏まえると、同様にポリエステル及びポリカーボネートからなる熱可塑性重縮合ポリマーにおいて、エステル交換反応を調節する目的で甲1発明に対して禁止剤を添加することは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

相違点3について検討する。
耐衝撃性改良剤(耐衝撃剤)について、甲1発明の「(iii)芳香族モノマーと、オレフィンモノマーと、アルキル(メタ)アクリレートモノマーとのトリブロック共重合体とを含む熱可塑性ポリマー」は、甲1発明の耐衝撃剤の必須成分であり、これを甲1発明から除外して、a)、b)成分のみからなる耐衝撃性改良剤とすることはできない。
したがって、耐衝撃性改良剤(耐衝撃剤)に関する相違点3について、本件特許発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

なお、相違点3について、異議申立人は、平成29年10月6日付けで提出の意見書において、甲3には、耐衝撃性改良剤ブレンド物として、コア-シェルコポリマーおよび官能化ポリオレフィンの2種のみからなることが開示されている旨を主張するとともに、参考資料1、2を提出して、コアーシェルコポリマーおよび官能化ポリオレフィンの2種のみ配合することは、本件特許の出願時の周知・慣用技術であるから、当業者であれば、甲1ないし甲7に記載された発明と周知・慣用技術の組合せにより容易に想到できる旨の主張をしている。
しかしながら、相違点3で検討したとおり、甲1発明の耐衝撃剤を構成する必須成分を除外してコア-シェルコポリマーおよび官能化ポリオレフィンの2種のみを配合する構成とすることはできないから、異議申立人の主張は採用できない。

よって、本件特許発明1は、甲1発明、並びに甲1ないし甲3、甲6及び甲7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。
なお、さらに甲4ないし甲5に記載された事項を参酌したとしても、上記判断は覆らない。

イ 本件特許発明2ないし5について
本件特許発明2ないし5は、請求項1を引用するものであるから、本件特許発明1と同様に判断され、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。

ウ 本件特許発明6について
訂正により請求項6は削除されたので、訂正前の請求項6に係る理由は解消している。

(3)小括
よって、訂正後の本件特許発明1ないし5に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消されるべきものはない。


第6 取消理由において採用しなかった特許異議の申立理由について

1 特許法第36条第4項第1号の申立てについて(同法第113条第4号)
(1) 異議申立人の主張
以下の点から、本件特許明細書の記載は、どのような化合物を用いたら効果が得られるのかが明らかでなく、当業者が訂正前の請求項1ないし6に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないので、訂正前の請求項1ないし6に係る発明の特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許に対してされたものである。

ア 本件特許明細書の図面の簡単な説明(段落【0010】)において、図1?図3が説明されているが、具体的にどのような化合物を耐衝撃改良剤ブレンドのコア-シェルポリマー及び官能性ポリオレフィンとして用いて得られたのか等が明らかではない。

イ 図1の説明において、コア-シェルポリマーの官能性ポリオレフィンの比率に依存して、同じ耐衝撃性を有するとの記載があるが、PC/PETの比率が50/50である結果の「◆」と、PC/PETの比率が75/25である結果の「■」とが同じ耐衝撃性を有するものとはいえない。

ウ 図3の「E920/AX8900」が何を示すのか不明である。これが、コア-シェルポリマー/官能性ポリオレフィンを意味するとしても、コア-シェルポリマー/官能性ポリオレフィンの比率が80/20の結果「■」と、比率が90/10の結果「◆」の温度による挙動が、他の比率の結果と明らかに異なる。

(2) 判断
まず、ウについて検討する。
本件特許明細書の記載からみて、E920/AX8900がコア-シェルポリマー/官能性ポリオレフィン(コア-シェルコポリマー/官能化ポリオレフィン)を意味することは理解できるものであり、これらについて本件特許明細書中には具体的に使用されたE920、AX8900がどのような化合物(ポリマー)あるかの説明はないものの、発明の詳細な説明に各成分として説明されている範囲のものと解される。なお、甲3の段落【0043】にはE920、AX8900の具体的なポリマーの説明があり、前述した点の裏付けとなる。そして、この比率が80/20、90/10の場合は、本件特許発明1の範囲外、つまり比較例に相当するものであり、他の比率の結果(実施例)と明らかに異なり、本件特許発明の効果を奏さないことが立証されているものといえる。
次にアについて検討する。
確かに、本件特許明細書中には具体的に使用された化合物(ポリマー)の明記はないが、発明の詳細な説明に各成分として説明されている範囲のものと解される。そして、図1の比率50/50の結果(○)は、図3のE920/AX8900の結果(◆)に対応するものと推認され、そうであれば、上記ウで述べたように、E920/AX8900がコア-シェルポリマー/官能性ポリオレフィンとして用いられたことが理解できる。
最後に、イについて検討する。
図1の2つの結果は、確かに全く同じというものではなく、コア-シェルポリマー/官能性ポリオレフィンの配合比率及びPC/PETの配合比率により効果の程度が異なるが、温度の上昇より耐衝撃性が向上する温度範囲が存在すること、つまり、温度に対して似たような耐衝撃性の傾向があることが理解できるものである。
以上を踏まえれば、図1ないし3の説明が詳細なものではないとしても、これらの結果から、当業者であれば本件特許発明の効果に係る耐衝撃性の傾向を理解できるから、本件特許明細書の記載が、当業者が訂正後の本件特許発明1ないし5を実施できないほど明確かつ十分ではないとはいえない。
また、訂正により請求項6は削除されたので、訂正前の請求項6に係る理由は理由がない。
よって、上記異議申立人の主張は採用できない。


2 特許法第36条第6項第1号の申立てについて(同法第113条第4号)
(1) 異議申立人の主張
訂正前の請求項1ないし6に係る発明は、以下の点で発明の詳細な説明に記載されたものではないから、訂正前の請求項1ないし6に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許に対してされたものである。

ア 図1?図3は、ポリマーブレンド物としてPC/PETの比率が50/50と75/25の結果のみであり、他の比率の場合、PET以外のポリエステルを用いた場合、ポリアミドを用いた場合に訂正前の請求項1ないし6に係る発明の効果が奏されるか明らかではない。
これらを含む訂正前の請求項1ないし6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。

(2) 判断
まず、図1ないし3の以外のPC/PETの配合比率について、本件特許発明の実施例の図1ないし3の特定の比率の結果が示されているから、他の配合比率においても、同様または類似の傾向がみられるものと当業者であれば理解できるものである。
また、PET以外のポリエステルやポリアミドの場合について、汎用の樹脂であって、本件特許明細書の段落【0002】にあるように、ポリカーボネートに対して、耐薬品性などの性能の改善のために既に併用されていることが窺えるものであり、耐衝撃性について類似の傾向(温度の上昇に伴って耐衝撃性が向上する傾向)が示されるであろうと強く推認されるものである。そして、これらの樹脂を用いた場合に、本件特許発明の実施例と同様又は類似の効果が全く奏されないとする具体的な根拠も見当たらない。
したがって、訂正後の本件特許発明1ないし5は、発明の詳細な説明に記載されたものと認められる。
また、訂正により請求項6は削除されたので、訂正前の請求項6に係る理由は理由がない。
よって、異議申立人の主張は採用できない。


第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由並びに特許異議申立の理由及び証拠によっては、請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由も発見しない。
さらに、本件特許の請求項6に係る発明についての特許は、訂正により削除されたため、請求項6に係る発明に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立については、対象となる請求項が存在しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリエステル/ポリカーボネート組成物であって、
a)ポリマーブレンド物プラス耐衝撃性改良剤ブレンド物の合計重量を基準にして、40?98重量%のポリマーブレンド物であって、以下からなるポリマーブレンド物
1)前記ポリマーブレンド物の合計重量を基準にして5?65重量%の、1種又は複数種のポリエステル及び/又はポリアミドであって、前記ポリエステルがポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)及びそれらの混合物からなる群より選択されるポリエステル及び/又はポリアミド;並びに
2)前記ポリマーブレンド物の合計重量を基準にして、35?95重量%のポリカーボネート;
b)前記ポリマーブレンド物プラス耐衝撃性改良剤ブレンド物の合計重量を基準にして、2?60重量%の、以下からなる耐衝撃性改良剤ブレンド物
a)前記耐衝撃性改良剤ブレンド物の合計重量を基準にして、1?50重量%のコア-シェルコポリマーであって、前記コア-シェルコポリマーが、エラストマー性のコアを含み、粒径が200nm?450nmである、コア-シェルコポリマー;及び
b)前記耐衝撃性改良剤ブレンド物の合計重量を基準にして、50?99重量%の、エポキシで官能化された、無水物で官能化された又は不飽和カルボン酸の無水物で官能化された官能化ポリオレフィン、
c)随意的な1種以上の成分であって、前記熱可塑性組成物全体を基準にして0.25?30重量%の成分であり、ガラス繊維、ガラスビーズ、有機充填剤、無機充填剤、タルク、染料、顔料、UV吸収剤、加工助剤、カーボンナノチューブ、及びカーボンブラックからなる群から選択される成分;並びに
d)禁止剤
からなる熱可塑性ポリエステル/ポリカーボネート組成物。
【請求項2】
前記コアが、少なくとも65重量%の1種又は複数種のジエンモノマー単位を含む、請求項1に記載の熱可塑性組成物。
【請求項3】
前記コア-シェルコポリマーが、全アクリル系コポリマーである、請求項1に記載の熱可塑性組成物。
【請求項4】
前記ポリマーブレンド物が、65?95重量%のポリカーボネートを含む、請求項1に記載の熱可塑性組成物。
【請求項5】
前記ポリマーブレンド物が、前記ポリマーブレンド物及び耐衝撃性改良剤ブレンド物の合計重量の、60?96重量%を占め、前記耐衝撃性改良剤ブレンド物が、4?40重量%を占めている、請求項1に記載の熱可塑性組成物。
【請求項6】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-12-13 
出願番号 特願2015-17539(P2015-17539)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C08L)
P 1 651・ 536- YAA (C08L)
P 1 651・ 121- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤井 勲  
特許庁審判長 小柳 健悟
特許庁審判官 岡崎 美穂
渕野 留香
登録日 2016-08-12 
登録番号 特許第5986241号(P5986241)
権利者 アーケマ・インコーポレイテッド
発明の名称 耐衝撃性が改良されたポリカーボネート/ポリエステル又はポリカーボネート/ポリアミド組成物  
代理人 アクシス国際特許業務法人  
代理人 アクシス国際特許業務法人  

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