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審決分類 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G02F
審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G02F
審判 一部申し立て 2項進歩性  G02F
管理番号 1337008
異議申立番号 異議2016-700764  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-03-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-23 
確定日 2017-12-28 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5866999号発明「液晶配向剤、液晶表示素子、液晶配向膜及びポリオルガノシロキサン化合物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5866999号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。 特許第5866999号の請求項1、2、6ないし8に係る特許を維持する。 特許第5866999号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5866999号の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、平成23年11月17日に特許出願され、平成28年1月15日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人三枝盛男により請求項1ないし3に係る特許に対して特許異議の申立てがされたものである。
その後の手続の経緯は、以下のとおりである。

平成28年10月20日:取消理由通知(10月26日発送)
同年12月20日:訂正請求・意見書
平成29年 1月 5日:通知書(1月11日発送)
同年 3月15日:決定の予告(3月21日発送)
同年 6月15日:訂正拒絶理由通知(6月20日発送)
同年 7月20日:意見書(特許権者)
同年 7月27日:決定の予告(8月1日発送)
同年 9月27日:訂正請求・意見書
同年10月 4日:通知書(10月6日発送)

なお、特許異議申立人に対して、平成29年1月5日付け及び同年10月4日付けで、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許異議申立人からは何ら応答がなかった。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
平成29年9月27日付けの訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。また、本件訂正請求書による訂正を、以下「本件訂正」という。)は、特許第5866999号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正することを求めるものであって、以下の訂正事項1ないし訂正事項6からなる。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「[A]光配向性基及び下記式(A1)で表される基(但し、光配向性基を含むものを除く)を有する重合体を含有する液晶配向剤。
【化1】

(式(A1)中、R^(A)はメチレン基、炭素数2?30のアルキレン基、フェニレン基又はシクロヘキシレン基である。但し、これらの基が有する水素原子の一部又は全部は置換されていてもよい。R^(B)は、三重結合、エーテル結合、エステル結合及び酸素原子のうちのいずれかを含む連結基である。R^(C)は少なくとも2つの単環構造を有する基である。aは1である。)」と記載されているのを、
「[A]光配向性基としてのシンナメート構造を有する基及び下記式(A1)で表される基(但し、光配向性基を含むものを除く)を有する重合体と、[B]ポリアミック酸及びポリイミドからなる群より選択される少なくとも1種の重合体を含有し、[A]重合体が、ポリオルガノシロキサン構造を有する液晶配向剤。
【化1】

(式(A1)中、R^(A)は、炭素数2?30のアルキレン基である。R^(B)は、酸素原子である。R^(C)は少なくとも2つの単環構造を有すると共に、下記の式(A2)で表される基である。aは1である。)
【化2】

(式(A2)中、R^(D)はフェニレン基、又はビフェニレン基である。これらの基が有する水素原子の一部又は全部はフッ素原子で置換されていてもよい。R^(E)は炭素数2?10のアルキレン基、メチレンオキシ基又はジフルオロメチレンオキシ基である。R^(F)はベンゼン、ビフェニル、シクロヘヘキサンから(c+1)個の水素原子を除いた(c+1)価の基である。R^(G)はシアノ基、フッ素原子、又はアルキル基である。bは0又は1である。cは1?9の整数である。dは1又は2である。R^(D)、R^(E)、R^(G)及びbがそれぞれ複数の場合、複数のR^(D)、R^(E)、R^(G)及びbはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)」に訂正する(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2、6ないし8も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の液晶配向剤から形成される液晶配向膜を備える液晶表示素子。」と記載されているのを、
「請求項1又は請求項2に記載の液晶配向剤から形成される液晶配向膜を備える液晶表示素子。」に訂正する(請求項6の記載を引用する請求項7も同様に訂正する。)。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の液晶配向剤から形成される液晶配向膜。」と記載されているのを、
「請求項1又は請求項2に記載の液晶配向剤から形成される液晶配向膜。」に訂正する。

2 訂正の目的、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否及び一群の請求項
(1)訂正事項1
ア 訂正事項1は、
(ア)訂正前の請求項1の「光配向性基」を、「光配向性基としてのシンナメート構造を有する基」に限定し、
(イ)訂正前の請求項1の「液晶配向剤」が、さらに「[B]ポリアミック酸及びポリイミドからなる群より選択される少なくとも1種の重合体」を含有するものであることに限定し、
(ウ)訂正前の請求項1の「[A]重合体」を、「ポリオルガノシロキサン構造を有する」ものであることに限定し、
(エ)訂正前の請求項1の「式(A1)」におけるR^(C)が、式(A2)で表される構造であることに限定するとともに、式(A1)及び式(A2)におけるR^(A)、R^(B)、R^(C)(R^(D)、R^(E)、R^(F)及びR^(G))を限定すること、
具体的には、
a 「R^(A)はメチレン基、炭素数2?30のアルキレン基、フェニレン基又はシクロヘキシレン基である。但し、これらの基が有する水素原子の一部又は全部は置換されていてもよい。」を「R^(A)は、炭素数2?30のアルキレン基である。」に、
b 「R^(B)は、三重結合、エーテル結合、エステル結合及び酸素原子のうちのいずれかを含む連結基である。」を「R^(B)は、酸素原子である。」に、
c 「R^(C)は少なくとも2つの単環構造を有する基である。aは1である。」を「R^(C)は少なくとも2つの単環構造を有すると共に、下記の式(A2)で表される基である。aは1である。」に、
d 「R^(D)はフェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基、シクロヘキシレン基、ビシクロヘキシレン基、シクロへキシレンフェニレン基又は2価の複素環基である。これらの基が有する水素原子の一部又は全部は置換されていてもよい。」を「R^(D)はフェニレン基、又はビフェニレン基である。これらの基が有する水素原子の一部又は全部は置換されていてもよい。」に、
e 「R^(E)は置換基を有していてもよいメチレン基及び炭素数2?10のアルキレン基、二重結合、三重結合、エーテル結合、エステル結合並びに複素環基のうちの少なくともいずれかを含む連結基である。」を「R^(E)は炭素数2?10のアルキレン基、メチレンオキシ基又はジフルオロメチレンオキシ基である。」に、
f 「R^(F)はベンゼン、ビフェニル、ナフタレン、シクロヘキサン、ビシクロヘキサン、シクロヘキシルベンゼン又は複素環化合物から(c+1)個の水素原子を除いた(c+1)価の基である。この基が有する水素原子の一部又は全部は置換されていてもよい。」を「R^(F)はベンゼン、ビフェニル、又はシクロヘキサンから(c+1)個の水素原子を除いた(c+1)価の基である。」に、
g 「R^(G)は水素原子、シアノ基、フッ素原子、トリフルオロメチル基、アルコキシカルボニル基、アルキル基、アルコキシ基、トリフルオロメトキシ基又はアルキルカルボニルオキシ基である。」を「R^(G)はシアノ基、フッ素原子、又はアルキル基である。」に、限定することで、

全体として、訂正前の請求項1の「液晶配向剤」の組成を限定しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

イ(ア)上記ア(ア)の訂正に関連して、
願書に添付した明細書の【0025】に「光配向性基としては、公知の光配向性基を適宜用いることができるが、シンナメート構造、カルコン構造、アゾベンゼン構造を有する基があることが好ましく、感度の点からシンナメート構造を有することが特に好ましい。」と記載され、
(イ)上記ア(イ)の訂正に関連して、
願書に添付した明細書の【0014】に「[B]ポリアミック酸及びポリイミドからなる群より選択される少なくとも1種の重合体(以下、「[B]重合体」と称することがある)をさらに含有することが好ましい。当該液晶配向剤は、[B]重合体をさらに含有することで、その溶液特性及び得られる液晶表示素子の電気特性を改善することができる。」と記載され、
(ウ)上記ア(ウ)の訂正に関連して、
願書に添付した明細書の【0013】に「[A]重合体は、ポリオルガノシロキサン構造を有することが好ましい。当該液晶配向剤は、[A]重合体がポリオルガノシロキサン構造を有することで、耐光性を向上させることができる。」と記載され、
(エ)上記ア(エ)の訂正に関連して、
願書に添付した明細書の【0230】ないし【0275】に、上記R^(A)、R^(B)、R^(C)(R^(D)、R^(E)、R^(F)及びR^(G))を有する特定カルボン酸1ないし特定カルボン酸12の構造式が記載され、
R^(A)の「炭素数2?30のアルキレン基」、R^(B)の「酸素原子」、R^(D)の「フェニレン基、又はビフェニレン基」、R^(E)の「炭素数2?10のアルキレン基、メチレンオキシ基又はジフルオロメチレンオキシ基」、R^(F)の「ベンゼン、ビフェニル、又はシクロヘキサン」及びR^(G)の「シアノ基、フッ素原子、又はアルキル基」は、例えば、下記の特定カルボン酸1(実施例1及び実施例23)、特定カルボン酸8(実施例18及び実施例50)、特定カルボン酸9(実施例19及び実施例51)及び特定カルボン酸12(実施例22及び実施例54)等に示されていることから、



上記訂正事項1は、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内でするものである。
そして、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項2ないし訂正事項4
訂正事項2ないし訂正事項4は、訂正前の請求項3ないし請求項5を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(3)訂正事項5及び訂正事項6
訂正事項5及び訂正事項6は、訂正事項2ないし訂正事項4の訂正により削除された請求項を引用しないものとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(4)一群の請求項
訂正前の1ないし8は、訂正前の請求項2ないし8が、請求項1の記載を引用し、訂正事項1により記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
よって、本件訂正は、一群の請求項ごとになされたものであって、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

3 独立特許要件
訂正事項1によって、請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項6ないし8は訂正されるものであり、請求項6ないし8は、「特許異議の申立てがされていない請求項」である。
そして、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであることから、訂正後の請求項6ないし請求項8に記載されている事項により特定される発明は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件、つまり、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。

(1)本件訂正発明
本件訂正請求書に添付された「訂正特許請求の範囲」の記載のうち、請求項1ないし8は、次のとおりのものである(以下、本件訂正後の請求項1、2、6ないし8に記載されている事項により特定される発明を、順に、「本件訂正発明1」、「本件訂正発明2」、「本件訂正発明6」ないし「本件訂正発明8」という。)。

そこで、訂正後の請求項6ないし請求項8は、訂正後の請求項1または請求項2の記載を引用するものであることから、まず、訂正後の請求項1及び請求項2に記載されている事項により特定される発明について検討し、次いで、請求項6ないし請求項8について、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か検討する。

「【請求項1】
[A]光配向性基としてのシンナメート構造を有する基及び下記式(A1)で表される基(但し、光配向性基を含むものを除く)を有する重合体と、[B]ポリアミック酸及びポリイミドからなる群より選択される少なくとも1種の重合体を含有し、[A]重合体が、ポリオルガノシロキサン構造を有する液晶配向剤。
【化1】

(式(A1)中、R^(A)は、炭素数2?30のアルキレン基である。R^(B)は、酸素原子である。R^(C)は少なくとも2つの単環構造を有すると共に、下記の式(A2)で表される基である。aは1である。)
【化2】

(式(A2)中、R^(D)はフェニレン基、又はビフェニレン基である。これらの基が有する水素原子の一部又は全部はフッ素原子で置換されていてもよい。R^(E)は炭素数2?10のアルキレン基、メチレンオキシ基又はジフルオロメチレンオキシ基である。R^(F)はベンゼン、ビフェニル、シクロヘヘキサンから(c+1)個の水素原子を除いた(c+1)価の基である。R^(G)はシアノ基、フッ素原子、又はアルキル基である。bは0又は1である。cは1?9の整数である。dは1又は2である。R^(D)、R^(E)、R^(G)及びbがそれぞれ複数の場合、複数のR^(D)、R^(E)、R^(G)及びbはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【請求項2】
上記光配向性基が、下記式(B1)で表される構造を有する請求項1に記載の液晶配向剤。
【化3】

(式(B1)中、Rはフッ素原子又はシアノ基である。a’は0?4の整数である。a’が2以上の場合、複数のRは同一でも異なっていてもよい。*は結合手を示す。)
【請求項3】
削除
【請求項4】
削除
【請求項5】
削除
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載の液晶配向剤から形成される液晶配向膜を備える液晶表示素子。
【請求項7】
液晶配向膜が配向方位の異なる2以上の領域を有する請求項6に記載の液晶表示素子。
【請求項8】
請求項1又は請求項2に記載の液晶配向剤から形成される液晶配向膜。」

(2)本件訂正発明1及び本件訂正発明2について
ア 平成29年7月27日付け取消理由通知書(決定の予告)
(ア)取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由の要旨は、次のとおりである。

「訂正前の請求項1ないし3に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してなされたものであり、取り消すべきものである。

(理由)
(ア)本件特許明細書には、「液晶表示素子として一般に要求される電圧保持率、耐光性といった特性を満足しつつ、電気光学応答時間の短い液晶表示素子を形成しうる光配向性液晶配向剤」として、具体的にその効果を確認することのできるものは、[A]重合体である[a]ポリオルガノシロキサン化合物と[B]重合体であるポリアミック酸又はポリイミドを組合わせた「液晶配向剤」であって、単独での「[A]重合体の液晶配向剤」の効果を確認することができるようには記載されていない。

(イ)本件特許明細書には、「光配向性基」について、具体的に、その効果を確認できる基として、桂皮酸誘導体のシンナメート構造の基が記載されているだけで、他の光配向性基の場合において、単独での「[A]重合体の液晶配向剤」の効果を確認することができるようには記載されていない。

(ウ)本件特許明細書には、
式(A1)

及び式(A2)

における、R^(A)、R^(B)及びR^(C)(R^(D)、R^(E)、R^(F)、R^(G))の基として、具体的にその効果を確認することのできるものは、
R^(A)は、アルキレン基であり、
R^(B)は、酸素原子であり、
R^(D)は、フェニレン基及びビフェニレン基であり、
R^(E)は、アルキレン基であり、
R^(F)は、ベンゼン及びシクロヘキサンであり、
R^(G)は、シアノ基、フッ素原子、アルキル基であり、
わずかな種類である。」

(イ)当審の判断
a 本件訂正により、訂正前の請求項3は削除され、本件訂正発明1及び本件訂正発明2は、
「上記2(1)訂正事項1」で検討したように、
(a)訂正前の請求項1の「光配向性基」を、「光配向性基としてのシンナメート構造を有する基」に限定し、
(b)訂正前の請求項1の「液晶配向剤」が、さらに「[B]ポリアミック酸及びポリイミドからなる群より選択される少なくとも1種の重合体」を含有するものであることに限定し、
(c)訂正前の請求項1の「[A]重合体」を、「ポリオルガノシロキサン構造を有する」ものであることに限定し、
(d)訂正前の請求項1の「式(A1)」におけるR^(C)が、式(A2)で表される構造であることに限定するとともに、式(A1)及び式(A2)におけるR^(A)、R^(B)、R^(C)(R^(D)、R^(E)、R^(F)、R^(G))を限定したものであって、発明の詳細な説明に記載された発明であると認められる。

b したがって、取消理由通知書(決定の予告)に記載した記載不備に関する取消理由は解消した。

イ 特許異議申立の理由
(ア)特許異議申立の理由の要旨は、次のとおりである(平成28年10月20日付け取消理由通知書に記載した取消理由)。

「【理由1】
本件の請求項1ないし3に係る発明は、その優先日前に日本国内または外国において頒布された下記の刊行物(甲第1号証ないし甲第3号証)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当する。
よって、本件の請求項1ないし3に係る発明の特許は、取り消すべきものである。

甲第1号証:特許第4647964号公報
甲第2号証:特許第4088156号公報
甲第3号証:Macromoleciles,Vol.41,No.13,2008,4642-4650,Photoinduced Cooperative Reorientation in Photoreactive Hydrogen-Bonded Copolymer Films and LC Alignment Using the Resultant Films

【理由2】
本件の請求項1ないし3は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備であるから、本件の請求項1ない3に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
よって、本件の請求項1ないし3に係る発明の特許は、取り消すべきものである。

(理由)
本件特許明細書の実施例は、本件の請求項1ないし3の広範な発明における極めて一部にしか該当せず、本件の請求項1ないし3に係る極めて広範な範囲まで、本件特許明細書に記載された効果が達成されるか否か不明であり、また、当業者といえども容易には予測できるものではない。」

(イ)当審の判断
a 【理由1】について
特許異議申立人が提出した、甲第1号証ないし甲第3号証には、「ポリオルガノシロキサン構造を有する重合体を含有する液晶配向剤」は記載されていない。
本件訂正により、訂正前の請求項3は削除され、本件訂正発明1及び本件訂正発明2における「[A]重合体」は、「ポリオルガノシロキサン構造を有する」ものに限定されたことから、本件訂正発明1及び本件訂正発明2は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明であるとすることはできない。
よって、【理由1】は、解消した。

b 【理由2】について
本件訂正により、訂正前の請求項3は削除され、本件訂正発明1及び本件訂正発明2は、
「上記2(1)訂正事項1」で検討したように、
(a)訂正前の請求項1の「光配向性基」を、「光配向性基としてのシンナメート構造を有する基」に限定し、
(b)訂正前の請求項1の「液晶配向剤」が、さらに「[B]ポリアミック酸及びポリイミドからなる群より選択される少なくとも1種の重合体」を含有するものであることに限定し、
(c)訂正前の請求項1の「[A]重合体」を、「ポリオルガノシロキサン構造を有する」ものであることに限定し、
(d)訂正前の請求項1の「式(A1)」におけるR^(C)が、式(A2)で表される構造であることに限定するとともに、式(A1)及び式(A2)におけるR^(A)、R^(B)、R^(C)(R^(D)、R^(E)、R^(F)、R^(G))を限定したものであって、発明の詳細な説明に記載された発明であると認められる。
よって、【理由2】は、解消した。

(3)本件訂正発明6ないし本件訂正発明8について
ア 本件訂正発明6は、本件訂正発明1又は本件訂正発明2の「液晶配向剤」から形成される液晶配向膜を備える液晶表示素子であり、本件訂正発明7は、本件訂正発明6の「液晶表示素子」を「液晶配向膜が配向方位の異なる2以上の領域を有する液晶表示素子」に特定したものであり、本件訂正発明8は、本件訂正発明1又は本件訂正発明2の「液晶配向剤」から形成される液晶配向膜であるところ、本件特許明細書には、以下の記載がある。

「【0013】
[A]重合体は、ポリオルガノシロキサン構造を有することが好ましい。
当該液晶配向剤は、[A]重合体がポリオルガノシロキサン構造を有することで、耐光性を向上させることができる。
【0014】
[B]ポリアミック酸及びポリイミドからなる群より選択される少なくとも1種の重合体(以下、「[B]重合体」と称することがある)をさらに含有することが好ましい。
当該液晶配向剤は、[B]重合体をさらに含有することで、その溶液特性及び得られる液晶表示素子の電気特性を改善することができる。
【0015】
本発明の液晶表示素子は、当該液晶配向剤から形成される液晶配向膜を備える。
当該液晶表示素子は、上述の当該液晶配向剤から形成される液晶配向膜を備えるので、一般に要求される電圧保持率、耐光性といった特性を満足しつつ、短い電気光学応答時間を発揮することができる。
【0016】
当該液晶表示素子は、液晶配向膜が配向方位の異なる2以上の領域を有することが好ましい。
当該液晶表示素子は、液晶配向膜が配向方位の異なる2以上の領域を有することで、3D表示への適用が可能となる。
【0017】
本発明の液晶配向膜は、当該液晶配向剤から形成される。
当該液晶配向膜は、上述の液晶配向膜から形成されるので、これを備える液晶表示素子は、一般に要求される電圧保持率、耐光性といった特性を満足しつつ、短い電気光学応答時間を発揮することができる。」

イ 上記記載からして、本件訂正発明6ないし本件訂正発明8は、発明の詳細な説明に記載された発明であると認められる。
また、本件訂正発明6ないし本件訂正発明8は、本件訂正発明1又は本件訂正発明2のすべての構成を備えるものであるから、上記「(2)イ(イ)a」で検討したのと同様の理由により、本件訂正発明6ないし本件訂正発明8は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明であるとすることはできない。
さらに、他に本件訂正発明6ないし本件訂正発明8が、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるとする理由がない。

ウ よって、本件訂正発明6ないし本件訂正発明8は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。

(5)独立特許要件についてのまとめ
上記(4)の検討によれば、本件訂正発明6ないし本件訂正発明8は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に規定する要件に適合する。

4 訂正の適否についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正請求は適法であることから、訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項[1-8]について訂正することを認める。

第3 本件訂正発明
上記「第2 訂正の適否についての判断」のとおり、本件訂正を認める。
そして、本件訂正による訂正後の発明は、訂正特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりのものである。

第4 特許異議申立の理由
1 特許異議申立の理由の要旨は、上記「第3 3(2)イ 特許異議申立の理由」に記載したとおりのものである。

2 当審の判断
上記「第3 3(2)イ 特許異議申立の理由」で検討したように、本件訂正発明1及び本件訂正発明2に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。

第5 むすび
本件訂正発明1及び本件訂正発明2に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
他に本件訂正発明1及び本件訂正発明2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項3に係る特許は、訂正により、削除されたため、本件特許の請求項3に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
[A]光配向性基としてのシンナメート構造を有する基及び下記式(A1)で表される基(但し、光配向性基を含むものを除く)を有する重合体と、[B]ポリアミック酸及びポリイミドからなる群より選択される少なくとも1種の重合体とを含有し、[A]重合体が、ポリオルガノシロキサン構造を有する液晶配向剤。
【化1】

(式(A1)中、R^(A)は、炭素数2?30のアルキレン基である。R^(B)は、酸素原子である。R^(C)は少なくとも2つの単環構造を有すると共に、下記式(A2)で表される基である。aは1である。)
【化2】

(式(A2)中、R^(D)はフェニレン基、又はビフェニレン基である。これらの基が有する水素原子の一部又は全部はフッ素原子で置換されていてもよい。R^(E)は炭素数2?10のアルキレン基、メチレンオキシ基又はジフルオロメチレンオキシ基である。R^(F)はベンゼン、ビフェニル、又はシクロヘキサンから(c+1)個の水素原子を除いた(c+1)価の基である。R^(G)はシアノ基、フッ素原子、又はアルキル基である。bは0又は1である。cは1?9の整数である。dは1又は2である。R^(D)、R^(E)、R^(G)及びbがそれぞれ複数の場合、複数のR^(D)、R^(E)、R^(G)及びbはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【請求項2】
上記光配向性基が、下記式(B1)で表される構造を有する請求項1に記載の液晶配向剤。
【化3】

(式(B1)中、Rはフッ素原子又はシアノ基である。a’は0?4の整数である。a’が2以上の場合、複数のRは同一でも異なっていてもよい。*は結合手を示す。)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載の液晶配向剤から形成される液晶配向膜を備える液晶表示素子。
【請求項7】
液晶配向膜が配向方位の異なる2以上の領域を有する請求項6に記載の液晶表示素子。
【請求項8】
請求項1又は請求項2に記載の液晶配向剤から形成される液晶配向膜。
【請求項9】
光配向性基及び下記式(A1)で表される基(但し、光配向性基を含むものを除く)を有するポリオルガノシロキサン化合物。
【化4】

(式(A1)中、R^(A)はメチレン基、炭素数2?30のアルキレン基、フェニレン基又はシクロヘキシレン基である。但し、これらの基が有する水素原子の一部又は全部は置換されていてもよい。R^(B)は、三重結合、エーテル結合、エステル結合及び酸素原子のうちのいずれかを含む連結基である。R^(C)は少なくとも2つの単環構造を有する基である。aは1である。)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-12-19 
出願番号 特願2011-251945(P2011-251945)
審決分類 P 1 652・ 536- YAA (G02F)
P 1 652・ 121- YAA (G02F)
P 1 652・ 537- YAA (G02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 廣田 かおり  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 星野 浩一
恩田 春香
登録日 2016-01-15 
登録番号 特許第5866999号(P5866999)
権利者 JSR株式会社
発明の名称 液晶配向剤、液晶表示素子、液晶配向膜及びポリオルガノシロキサン化合物  
代理人 藤本 勝誠  
代理人 池田 義典  
代理人 藤本 勝誠  
代理人 天野 一規  
代理人 天野 一規  
代理人 池田 義典  

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