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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  E01D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  E01D
管理番号 1337011
異議申立番号 異議2017-700270  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-03-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-03-14 
確定日 2017-12-20 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5997986号発明「構造部材の補強方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5997986号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし9について、訂正することを認める。 特許第5997986号の請求項9に係る特許を維持する。 特許第5997986号の請求項1ないし8に係る特許についての特許異議申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5997986号の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、平成24年9月7日に特許出願され、平成28年9月2日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人特許業務法人虎ノ門知的財産事務所(以下、「申立人」という。)より請求項1ないし9に対して特許異議の申立てがされ、平成29年6月20日付けで取消理由(発送日同年6月26日)が通知され、その指定期間内である同年8月18日に意見書の提出及び訂正請求がなされ、その後申立人に対し平成29年9月8日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)を送付し期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、申立人からは応答がなかったものである。

第2 訂正請求について
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6を削除する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7を削除する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8を削除する。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項9に、
「【請求項9】
構造部材を構成する金属製の母材の断面不足箇所又は断面損傷箇所に、該母材の電解腐食を防止する電解腐食防止シートを配置する電解腐食防止工程と、
前記電解腐食防止シートの前記母材の断面不足箇所又は断面損傷箇所と反対側に、所定方向に並んだ炭素繊維の束が配列された炭素繊維シートを配置する補強工程と、
前記炭素繊維シートと前記電解腐食防止シートを一体的に前記母材側に加圧する加圧工程と、
前記炭素繊維シート及び前記電解腐食防止シートを前記母材と一体的に加熱する加熱工程と、を有することを特徴とする構造部材の補強方法。」
とあるのを、
「【請求項9】
構造物に既に設置されている構造部材を構成する金属製の母材の断面不足箇所又は断面損傷箇所としての腐食部分を除去する除去工程と、
前記腐食部分が除去された前記母材の外表面に、該母材の電解腐食を防止する電解腐食防止シートとしてのガラス繊維プリプレグシートを配置する電解腐食防止工程と、
前記ガラス繊維プリプレグシートの前記母材の断面不足箇所又は断面損傷箇所と反対側に、所定方向に並んだ炭素繊維の束が配列された炭素繊維プリプレグシートを配置する補強工程と、
前記炭素繊維プリプレグシートと前記ガラス繊維プリプレグシートを一体的に前記母材側に加圧する加圧工程と、
前記炭素繊維プリプレグシート及び前記ガラス繊維プリプレグシートを前記母材と一体的に加熱する加熱工程と、を有することを特徴とする構造部材の補強方法。」
に訂正する(下線は訂正箇所を示す。以下同様。)。

(10)訂正事項10
ア 明細書の「発明の名称」に「構造部材、構造部材の製造方法及び構造部材の補強方法」とあるのを、「構造部材の補強方法」に
イ 明細書の段落【0001】に「本発明は、建設物等の構造物に用いられる構造部材、その構造部材の製造方法及び補強方法に関する。」とあるのを「本発明は、建設物等の構造物に用いられる構造部材の補強方法に関する。」に
ウ 明細書の段落【0006】に「本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、上述のような問題を解決することを課題の一例とするものであり、これらの課題を解決することができる構造部材、構造部材の製造方法、及び、構造部材の補強方法を提供することを目的とする。」とあるのを「本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、上述のような問題を解決することを課題の一例とするものであり、これらの課題を解決することができる構造部材の補強方法を提供することを目的とする。」に
エ 明細書の段落【0007】に
「本発明に係る構造部材は、・・(略)・・ことを特徴とする。
本発明に係る構造部材の製造方法は、・・(略)・・ことを特徴とする。
また、本発明に係る構造部材の補強方法は、構造部材を構成する金属製の母材の断面不足箇所又は断面損傷箇所に、該母材の電解腐食を防止する電解腐食防止シートを配置する電解腐食防止工程と、前記電解腐食防止シートの前記母材の断面不足箇所又は断面損傷箇所と反対側に、所定方向に並んだ炭素繊維の束が配列された炭素繊維シートを配置する補強工程と、前記炭素繊維シートと前記電解腐食防止シートを一体的に前記母材側に加圧する加圧工程と、前記炭素繊維シート及び前記電解腐食防止シートを前記母材と一体的に加熱する加熱工程と、を有することを特徴とする。」とあるのを
「本発明に係る構造部材の補強方法は、構造物に既に設置されている構造部材を構成する金属製の母材の断面不足箇所又は断面損傷箇所としての腐食部分を除去する除去工程と、前記腐食部分が除去された前記母材の外表面に、該母材の電解腐食を防止する電解腐食防止シートとしてのガラス繊維プリプレグシートを配置する電解腐食防止工程と、前記ガラス繊維プリプレグシートの前記母材の断面不足箇所又は断面損傷箇所と反対側に、所定方向に並んだ炭素繊維の束が配列された炭素繊維プリプレグシートを配置する補強工程と、前記炭素繊維プリプレグシートと前記ガラス繊維プリプレグシートを一体的に前記母材側に加圧する加圧工程と、前記炭素繊維プリプレグシート及び前記ガラス繊維プリプレグシートを前記母材と一体的に加熱する加熱工程と、を有することを特徴とする。」に訂正する。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1?8について
訂正事項1?8は、それぞれ請求項1?8を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項9について
ア 訂正の目的
訂正事項9は、
(ア)「母材」を、「構造物に既に設置」されたものに特定すること
(イ)「電解腐食防止工程」を行う前に、「母材」の「腐食部分を除去する除去工程」を行うことを特定すること
(ウ)「電解腐食シート」を、具体的に「ガラス繊維プリプレグシート」に特定すること
(エ)「ガラス繊維プリプレグシート」を配置する箇所を、「前記腐食部分が除去された前記母材の外表面」であることを特定すること
(オ)「炭素繊維シート」を、具体的に「炭素繊維プリプレグシート」に特定すること
であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること
(ア)訂正事項9で訂正した事項のうち「構造物に既に設置されている構造部材を構成する金属製の母材」は、明細書の以下の段落の記載に基づくものである。
a「本発明に係る構造部材が、建設物の構造部材に適用されているが、例えば、家具などの建設物以外の物の構造部材にも適用することが可能である。」(段落【0058】)
b「例えば、当該製造方法は現場などで既に設置されている構造部材の補強方法に適用することもできる。」(段落【0059】)
(イ)訂正事項9で訂正した事項のうち「母材の断面不足箇所又は断面損傷箇所としての腐食部分を除去する除去工程と、前記腐食部分が除去された前記母材の外表面に、該母材の電解腐食を防止する電解腐食防止シートとしてのガラス繊維プリプレグシートを配置する」は、明細書の以下の段落及び図10の記載に基づいている。
a「例えば、図10(a)に示すように、鋼棒からなる母材31が既に設置されていると仮定する。ここで、一部が腐食などによる断面損傷が生じたとする。この場合、最初に損傷部分Kを研磨などによって腐食を除去する。」(段落【0059】)
b「次いで、図10(b)に示すように、損傷部分Kを覆うようにガラス繊維のプリプレグを巻き付けて電解腐食防止層32を形成させる(電解腐食防止工程)。」(段落【0060】)
(ウ)訂正事項9で訂正した事項のうち「所定方向に並んだ炭素繊維の束が配列された炭素繊維プリプレグシートを配置する」は、明細書の以下の段落に基いている。
a「次に、図10(c)に示すように、図4に示す製造方法と同様に、電解腐食防止層32の所定箇所に第1補強層33及び第2補強層34を形成させる(補強工程)。」(【0060】)
b「図4に示すように、鋼管2は、鋼管2の基体をなす母材21と、・・・第1補強層23と、・・・第2補強層24と、・・・第3補強層25と、・・・第4補強層26と、を有する。」(【0035】)
c「第1補強層23乃至第3補強層25はそれぞれ、数ミリメートルの厚さで、一方向に並んだ炭素繊維の束にエポキシ樹脂を含浸させ、半硬化状態に反応させたプレプリグで構成されている。なお、本実施の形態において、第1補強層23乃至第3補強層25を構成する炭素繊維のプリプレグの炭素繊維の含有率は約60%であり、炭素繊維の径は約7ミクロンである。」(【0038】)
(エ)よって、訂正事項9は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項9は、訂正前の請求項9記載の特許発明をより具体的にしたもの(特許請求の範囲の減縮を目的とするもの)であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項10
ア 訂正の目的
訂正事項10に係る明細書の訂正は、上記訂正事項1?9に係る特許請求の範囲の訂正との整合を図るためになされたものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること、及び実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項10は、上記訂正事項1?9に係る特許請求の範囲の訂正との整合を図るためになされたものにすぎないものである。このため、訂正事項10は、上記訂正事項1?9と同様に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 小括
したがって、上記訂正請求による訂正事項1?10は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項、第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項1?9について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 訂正後の請求項9に係る発明
本件訂正後の請求項9に係る発明は、下記のとおりのものである(以下、「本件発明」という。)。

本件発明
「【請求項9】
構造物に既に設置されている構造部材を構成する金属製の母材の断面不足箇所又は断面損傷箇所としての腐食部分を除去する除去工程と、
前記腐食部分が除去された前記母材の外表面に、該母材の電解腐食を防止する電解腐食防止シートとしてのガラス繊維プリプレグシートを配置する電解腐食防止工程と、
前記ガラス繊維プリプレグシートの前記母材の断面不足箇所又は断面損傷箇所と反対側に、所定方向に並んだ炭素繊維の束が配列された炭素繊維プリプレグシートを配置する補強工程と、
前記炭素繊維プリプレグシートと前記ガラス繊維プリプレグシートを一体的に前記母材側に加圧する加圧工程と、
前記炭素繊維プリプレグシート及び前記ガラス繊維プリプレグシートを前記母材と一体的に加熱する加熱工程と、を有することを特徴とする構造部材の補強方法。」

2 取消理由の概要
本件請求項9に係る特許に対して平成29年6月20日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

本件発明は、甲第1号証に記載された発明と同一である。または、本件発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。したがって、その特許は、特許法第29条第1項第3号、または特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、本件特許の請求項9に係る発明についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

甲第1号証:特開2001-303715号公報

3 取消理由通知書に記載の取消理由について
(1)特許法第29条第1項第3号について
ア 甲第1号証の記載(下線は、当決定で付した。)
(ア)「【請求項1】 金属管柱の外面及び/又は内面にて、応力集中部及び/又はその近傍に繊維強化プラスチックを貼付し、局部応力を緩和したことを特徴とする金属管柱。」
(イ)「【請求項13】 前記繊維強化プラスチックは、強化繊維にマトリクス樹脂を含浸させたプリプレグを管柱表面に貼付して形成されることを特徴とする請求項1?11のいずれかの項に記載の金属管柱。
・・・
【請求項16】 前記強化繊維は、炭素繊維;ガラス繊維;ボロン、チタン、スチールなどの金属繊維;又は、アラミド、ナイロン、ポリエステルなどの有機繊維;などを一種、或いは、複数種混入して使用され、前記マトリクス樹脂は、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニールエステル樹脂、MMA樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂、又は、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂などの熱可塑性樹脂を使用することを特徴とする請求項12?15のいずれかの項に記載の金属管柱。」

(ウ)「【請求項26】 金属管柱の外面にて、応力集中部及び/又はその近傍に、又は、金属管柱接続部を取り巻いて、繊維強化プラスチックを貼付することを特徴とする金属管柱の補強方法。
・・・・・
【請求項34】 前記繊維強化プラスチックを貼付する前に、前記金属管柱の前記繊維強化プラスチックを貼付する個所のメッキは除去することを特徴とする請求項26?33のいずれかの項に記載の金属管柱の補強方法。
【請求項35】 前記繊維強化プラスチックは、強化繊維にマトリクス樹脂を含浸させて所定形状に成形し、硬化した後、前記管柱の外面に装着し、接合することを特徴とする請求項26?34のいずれかの項に記載の金属管柱の補強方法。
【請求項36】 前記繊維強化プラスチックは、強化繊維シートを管柱の外面に貼付し、この強化繊維シートにマトリクス樹脂を含浸させて形成されることを特徴とする請求項26?34のいずれかの項に記載の金属管柱の補強方法。
【請求項37】 前記繊維強化プラスチックは、強化繊維にマトリクス樹脂を含浸させたプリプレグを管柱の外面に貼付して形成されることを特徴とする請求項26?34のいずれかの項に記載の金属管柱の補強方法。」

(エ)「【請求項41】 前記繊維強化プラスチックと前記管柱の外面との間に最内層として絶縁体層を設けたことを特徴とする請求項37?40のいずれかの項に記載の金属管柱の補強方法。
・・・・・
【請求項43】 前記絶縁体層は、ガラス繊維又は有機繊維などの非導電性のシート材料にマトリクス樹脂を含浸させた繊維強化プラスチックとされることを特徴とする請求項41の金属管柱の補強方法。」

(オ)「【請求項51】 少なくとも前記繊維強化プラスチックを貼付した前記管柱の外面をエアバッグとシール材により覆い、エアバッグの吸引端子から真空ポンプにより吸気を排出し、エアバッグの内部材に大気圧負荷されるようにし、前記管柱の外面に貼付された前記繊維強化プラスチックなどを前記管柱表面に押圧するようにしたことを特徴とする請求項26?50のいずれかの項に記載の金属管柱の補強方法。
【請求項52】 前記エアバッグの外部にパネルヒータを配置し、樹脂の硬化反応を促進させることを特徴とする請求項51の金属管柱の補強方法。」

(カ)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記柱脚下端接合構造2によると、管柱1に荷重を作用させた場合に、管柱1と縦リブ鋼板端部5との廻し溶接部に応力が集中し、局部応力を発生し、構造性能が低下するという問題がある。更に、縦リブ鋼板の上端の廻し溶接部が、溶接熱残留応力と溶接止端部の熱影響部材質劣化とが重複して構造欠陥となり易く、耐荷力や疲労性能が低下するという問題があった。」

(キ)「【0054】本発明によれば、繊維強化プラスチック20の強化繊維22としては、炭素繊維が好適に使用される。しかしながら、炭素繊維のように導電性の強化繊維を使用することにより補強材としての繊維強化プラスチック20が導電性とされる場合には、補強材と管柱との間に電流が流れ電食が起こることが考えられる。従って、繊維強化プラスチック20の強化繊維として導電性のものを使用した場合には、補強材と管柱との間に電流が流れるのを防止するために、管柱1の外面及び内面において、絶縁性付与を目的として、少なくとも補強材としての繊維強化プラスチック20と管柱表面との間に、即ち、最内層に、絶縁体層として例えばガラス繊維或は有機繊維などの非導電性のシート材料に樹脂を含浸して形成される繊維強化プラスチック30(図14)を貼付し、配置するのが好ましい。含浸樹脂としては、繊維強化プラスチック20に使用した樹脂を同様に使用することができる。」

(ク)「【0077】
本発明によれば、上記管柱1の補強個所に補強材としての繊維強化プラスチック20が貼付されるが、本実施例では、管柱補強材としての繊維強化プラスチック20には、強化繊維22として炭素繊維を使用したので、最内層には、補強材20と管柱1との間に電流が流れ電食が発生するのを防止するために、絶縁体層としての繊維強化プラスチック30を設けた。この絶縁体層としての繊維強化プラスチック30は、図10(A)に示すように、網目状とされる支持体シート31の上に強化繊維としてのガラス繊維32を一方向に配列して構成されるガラス繊維シート(日鉄コンポジット株式会社製、商品名:ガラス繊維トウシート「FTS-GE-30」)30’に樹脂を含浸させることにより形成した。」

(ケ)「【0085】
本実施例にて使用した上記炭素繊維シート20’及びガラス繊維シート30’の性能は次に示すとおりであった。
・炭素繊維シート20’
・・・
・ガラス繊維シート30’
・・・
実施例5
上記実施例4では、補強材としての繊維強化プラスチック20及び絶縁体層としての繊維強化プラスチック30は、強化繊維シート20’、30’を使用して形成されたが、例えば、図11(B)及び図10(B)に示すように、強化繊維22、32にマトリクス樹脂23、33が含浸されたプリプレグ20”、30”を利用することもできる。即ち、最内層として管柱表面に積層されたガラス繊維プリプレグ30”の上に補強材としての繊維強化プラスチック20を接着剤にて所望の積層数だけ積層され、その後硬化される。
・・・・
【0087】
本実施例によれば、上記管柱1の補強個所には最内層として絶縁体層とされるプリプレグ30”を貼り付けた。最内層プリプレグ30”は、ガラス繊維平織スクリムクロス(ガラス繊維量25g/m^(2))と130℃硬化タイプのエポキシ樹脂を用いて作製したガラススクリムプリプレグとした。」

(コ)「【0101】
実施例7
実施例4、5、6にて説明したように、本発明によれば、管柱の被補強部(外面、内面)に、例えば、最内層絶縁体層として1層のガラス繊維強化プラスチック30と、更に補強材としての7層の炭素繊維強化プラスチック20とが積層される。・・・」

(サ)「【0121】
実施例10
本実施例10及び実施例11?22では、既に橋梁上などに据え付けられている管柱に対する補強方法について説明する。橋梁上などに据え付けられている管柱に対する補強をなすに際しても、基本的には、上記実施例1?9にて説明したと同様の補強方法及び管柱の製造方法と同様の補強方法が管柱に対して施工されるが、管柱の内面に対する繊維強化プラスチック20の貼付は、実際上その施工が不可能であるので行われない。」
・・・
【0124】・・・・補強される部位を・・伝動サンダにより入念に処理し、メッキ層を完全に除去する。次いで、メッキ層が除去された個所をアセトンにより洗浄する。
【0125】
本発明によれば、上記管柱1の補強個所に補強材としての繊維強化プラスチック20が貼付されるが、本実施例では、管柱補強材としての繊維強化プラスチック20には、強化繊維22として炭素繊維を使用したので、最内層には、補強材20と管柱1との間に電流が流れ電食が発生するのを防止するために、絶縁体層としての繊維強化プラスチック30を設けた。この絶縁体層としての繊維強化プラスチック30は、図10(A)に示すように、網目状とされる支持体シート31の上に強化繊維としてのガラス繊維32を一方向に配列して構成されるガラス繊維シート(日鉄コンポジット株式会社製、商品名:ガラス繊維トウシート「FTS-GE-30」)30’に樹脂を含浸させることにより形成した。
【0126】
つまり、本実施例によると、上記管柱補強個所に、マトリクス樹脂としてのエポキシ樹脂(日鉄コンポジット株式会社製エポキシ樹脂、商品名「FR-E3P」)をローラを用いて塗布し、その上に上記ガラス繊維シート30’を1枚貼付した。含浸ローラにて上記ガラス繊維シート30’を管柱外表面側へと押圧することにより、ガラス繊維32へとマトリクス樹脂が含浸され、ガラス繊維強化プラスチック30が形成される。
【0127】
次に、上記ガラス繊維強化プラスチック30の上に補強材としての繊維強化プラスチック20が貼付される。本実施例では、補強材としての繊維強化プラスチック20は、上記ガラス繊維強化プラスチック30と同様に、図11(A)に示すように、網目状とされる支持体シート21の上に強化繊維としての一方向に配列した炭素繊維22を設けた炭素繊維シート(日鉄コンポジット株式会社製、商品名:炭素繊維トウシート「FTS-C8-30」)20’に樹脂を含浸させることにより形成した。
【0128】
つまり、本実施例では、上記ガラス繊維強化プラスチック30の上に、上記と同じエポキシ樹脂(日鉄コンポジット株式会社製エポキシ樹脂、商品名「FR-E3P」)をローラを用いて塗布し、その上に炭素繊維シート(日鉄コンポジット株式会社製、商品名:炭素繊維トウシート「FTS-C8-30」)20’を貼り付け、含浸ローラにて炭素繊維へとマトリクス樹脂を含浸させた。」

(シ)「【0134】
実施例10と同様に、照明ポール表面に補強材としての約4mm厚の炭素繊維強化プラスチック20を形成するために、実施例6に示すように、別成形法にて作製された成形品(繊維強化プラスチック)を照明ポール表面に貼付した。
【0135】
つまり、本実施例では、材料として日本グラファイトファイバー株式会社製のピッチ系炭素繊維(商品名:NT-60)を使用したプリプレグを用いた。このプリプレグを所定のサイズにカットし、14枚積層し、エアバッグ法により補強用の成形品、即ち、繊維強化プラスチック20を作製した。
【0136】
尚、本実施例においても、14層の炭素繊維プリプレグシートは、実施例7で説明したように、繊維強化プラスチック20の端部20aがテーパー形状となるように積層した。又、この繊維強化プラスチック20における繊維含有量(Vf)は全体で50%(体積)に調整した。」

(ス)「【0166】
実施例21
上記各実施例では、エアバッグ成形法を使用して補強部を成形し、良好な結果を得ることができた。
【0167】
つまり、繊維強化プラスチック20を貼付した後、更には、その上にカバーシート40を形成した後、繊維強化プラスチック20及びその上に形成されたカバーシート40、更にはエアバッグの内部材をエアバッグ及びシール材により覆う。
【0168】
次いで、エアバッグの吸引端子から真空ポンプにより吸気を排気し、エアバッグの内部材に大気圧が負荷されるようにする。減圧を確認後、エアバッグの吸引端子を閉じ、真空ポンプを脱着する。吸引端子が閉じられているため、真空ポンプ脱着後も内部の減圧状態、即ち、外部から加圧される状態は維持された状態で、樹脂材料の硬化が可能である。
【0169】
この結果、補強材としての繊維強化プラスチック20、剥離防止層20A、或いはカバーシート40などの内部材料が管柱表面に向かって外部から加圧された状態で成形されるため、内部の空隙、過度の樹脂溜り層の発生がなく、より強固に接着された補強部を形成することができた。
【0170】
実施例22
実施例21において、エアバッグにより補強材としての繊維強化プラスチック20、剥離防止層20A、或いはカバーシート40などの内部材料を覆った後、その外部にパネルヒータを配置し、約50℃程度に加温することで、樹脂の硬化反応を促進させた。この加温システムは特に冬期の夜間に外気温度が低下し、樹脂の硬化に時間がかかる際に有効であった。又、パネルヒータの代わりに、市販の携帯カイロを使用することも可能である。」

(セ)図14(a)からは、以下の事項が看てとれる。
・被補強体に対して、繊維強化プラスチック20が外側に、絶縁体層としての繊維強化プラスチック30が内側に位置するように積層される点。

イ 甲第1号証に記載された発明
上記アの(ア)?(セ)によれば、甲第1号証には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。

甲1発明
「既に橋梁上などに据え付けられている金属管柱の外面にて、応力集中部及び/又はその近傍に、繊維強化プラスチックを貼付する前に、前記金属管柱の前記繊維強化プラスチックを貼付する個所のメッキを除去し、
金属管柱の外面にて、最内層に、絶縁体層として、ガラス繊維シートに樹脂を含浸させることにより形成された繊維強化プラスチック30を設け、
上記繊維強化プラスチック30の上に補強材としての炭素繊維強化プラスチック20を貼付し、
エアバッグにより補強材としての炭素繊維強化プラスチック20などの内部材料を管柱表面に向かって外部から加圧し、
エアバッグにより補強材としての炭素繊維強化プラスチック20、などの内部材料を覆った後、その外部にパネルヒータを配置し、約50℃程度に加温する金属管柱の補強方法」

ウ 判断
本件発明と甲1発明とを対比すると、甲1発明は、電解腐食防止シートとしてのガラス繊維プリプレグシートを配置する前に、「構造物に既に設置されている構造部材を構成する金属製の母材の断面不足箇所又は断面損傷箇所としての腐食部分を除去する除去工程」という構成を備えていない。
よって、本件発明は、甲1発明と同一ではないから、甲第1号証に記載された発明ではない。

(2)取消理由(特許法第29条第2項)について
本件発明と甲1発明とを対比すると、電解腐食防止シートとしてのガラス繊維プリプレグシートを配置する前に、本件発明では、「構造物に既に設置されている構造部材を構成する金属製の母材の断面不足箇所又は断面損傷箇所としての腐食部分を除去する除去工程」という構成を備えているのに対して、甲1発明では、そのような構成を備えていない点で相違する。
そして、本件発明の当該相違点に係る構成は、甲第1号証には記載されておらず、示唆もされていない。なお、甲1発明は、「繊維強化プラスチックを貼付する前に、前記金属管柱の前記繊維強化プラスチックを貼付する個所のメッキを除去」する工程を有しているが、前記工程は、本件発明の上記相違点に係る構成には該当しない。
よって、本件発明は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3) 小括
したがって、本件発明は、甲1発明とは同一ではなく、また、本件発明は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

4 請求項1?8に対する特許異議の申立てについて
上記第2のとおり、請求項1?8を削除する本件訂正が認められたので、請求項1?8に対する本件特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなった。
したがって、請求項1?8に対する本件特許異議の申立ては、不適法な特許異議の申立てであるから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定によって却下すべきである。

第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由、証拠によっては、本件請求項9に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項1?8に対する本件特許異議の申立ては、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定によって却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
構造部材の補強方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設物等の構造物に用いられる構造部材の補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、橋梁に用いられるアンカーバー等の構造物に用いられる構造部材として鋼材が使用されている。
近年、構造部材の軽量化が求められてきているものの、構造部材に対する設計強度は変わらないため、鋼製の構造部材の軽量化を図ることは困難である。
【0003】
そのような状況を踏まえて、繊維強化樹脂製の構造部材、好ましくは比強度、比弾性率の高い炭素繊維強化樹脂製の構造部材が注目されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2681553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、炭素繊維強化樹脂は高価であるため、構造部材を全て炭素繊維強化樹脂製で構成させるとコストが増大する。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、上述のような問題を解決することを課題の一例とするものであり、これらの課題を解決することができる構造部材の補強方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る構造部材の補強方法は、構造物に既に設置されている構造部材を構成する金属製の母材の断面不足箇所又は断面損傷箇所としての腐食部分を除去する除去工程と、前記腐食部分が除去された前記母材の外表面に、該母材の電解腐食を防止する電解腐食防止シートとしてのガラス繊維プリプレグシートを配置する電解腐食防止工程と、前記ガラス繊維プリプレグシートの前記母材の断面不足箇所又は断面損傷箇所と反対側に、所定方向に並んだ炭素繊維の束が配列された炭素繊維プリプレグシートを配置する補強工程と、前記炭素繊維プリプレグシートと前記ガラス繊維プリプレグシートを一体的に前記母材側に加圧する加圧工程と、前記炭素繊維プリプレグシート及び前記ガラス繊維プリプレグシートを前記母材と一体的に加熱する加熱工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
構造部材が、金属製の母材と、所定方向に並んだ炭素繊維の束が配列された炭素繊維シートで構成された補強層と、補強層と母材との間に取り付けられ、母材の電解腐食を防止する電解腐食防止層と、を有するため、軽量化を図ると共に、コストの増加を抑えることができる。さらには、電解腐食防止層によって母材の電解腐食を防止し、製品寿命の短縮を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】(a)は構造部材としてのアンカーバーの斜視図、(b)は図1(a)のアンカーバーの構造を説明するための平面図である。
【図2】図1のアンカーバーが使用されている状況を説明するための概略図である。
【図3】図1のアンカーバーの製造方法を説明するための説明図である。
【図4】(a)は構造部材として鋼管の斜視図、(b)は図4(a)の端面図である。
【図5】その他の実施の形態における構造部材の態様を表す斜視図である。
【図6】その他の実施の形態における構造部材の態様を表す斜視図である。
【図7】その他の実施の形態における構造部材の態様を表す斜視図である。
【図8】その他の実施の形態における構造部材の態様を表す斜視図である。
【図9】その他の実施の形態における構造部材の態様を表す斜視図である。
【図10】本発明に係る構造部材の補強方法を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。図1に示すように、本発明に係る構造部材が橋梁の落橋防止構造、横変位拘束構造あるいは変位制限装置としてのアンカーバー1に適用されている例を説明する。アンカーバー1は、母材11と、母材11に接着されている電解腐食防止層12と、電解腐食防止層12に接着されている第1補強層13と、第1補強層13に接着されている第2補強層14と、第2補強層14に設けられている定着層15とを有している。
【0011】
母材11は、直径25mmの断面円形状の鋼棒で構成されており、アンカーバー1の芯材として機能する。
【0012】
電解腐食防止層12は、数ミリメートルの厚さのガラス繊維のプリプレグで構成されている。電解腐食防止層12は、母材11の長さ方向の一部の範囲で巻き付け成型されて一体化されている。その結果、母材11は一方の端部のみが露出している。この露出している側が橋桁B2に挿入され、露出せずに電解腐食防止層12に覆われている側が橋脚B1に埋設される(図2参照)。
【0013】
第1補強層13は、数ミリメートルの厚さで、一方向に並んだ炭素繊維の束にエポキシ樹脂を含浸させ、半硬化状態に反応させたプレプリグで構成されている。なお、本実施の形態において、第1補強層13を構成する炭素繊維のプリプレグの炭素繊維の含有率は約60%であり、炭素繊維の径は約7ミクロンである。
【0014】
第1補強層13は、電解腐食防止層12の上から電解腐食防止層12の両端部が露出するように母材11に巻き付け成型されている。なお、本実施の形態では、電解腐食防止層12の母材11が被覆されていない側、すなわち、橋脚B1に埋設される側の端部は母材11の軸方向に5mm程度露出しており、他方の端部は5?10cm程度露出している。
【0015】
また、第1補強層13を構成する炭素繊維は、母材11の軸に平行な方向、すなわち、母材11の軸方向に直交する向きの荷重が作用したときに母材11に作用する引張力及び圧縮力の方向(母材11の軸方向を基準として0°方向)を向いている。第1補強層13を構成する炭素繊維のプリプレグの断面積及び断面形状は、アンカーバー1に作用する最大曲げモーメントに応じて適宜に設定される。
【0016】
第2補強層14は、数ミリメートルの厚さで、一方向に並んだ炭素繊維の束にエポキシ樹脂を含浸させ、半硬化状態に反応させたプレプリグで構成されている。なお、本実施の形態において、第2補強層14を構成する炭素繊維のプリプレグの炭素繊維の含有率は約60%であり、炭素繊維の径は約7ミクロンである。
【0017】
第2補強層14は、第1補強層13の上から母材11に巻き付け成型されており、第1補強層13を完全に被覆している。すなわち、第1補強層13の長さと第2補強層14の長さとは同一である。
【0018】
また、第2補強層14を構成する炭素繊維は、母材11の軸に直交する方向、すなわち、母材11の軸方向に直交する向きの荷重がかかったときに第1補強層13の炭素繊維がばらけ易い(分解し易い)方向(母材11の軸方向を基準として90°方向)を向いている。第2補強層14を構成する炭素繊維のプリプレグの断面積及び断面形状は、アンカーバー1に作用する最大曲げモーメントに応じて適宜に設定される。
【0019】
定着層15は、将来的に橋脚B1の上面から設けられた穴h1に埋設される部分であり、第2補強層14の中で穴h1に埋設される部分にピールプライ等の所定の繊維部材で所定の処理を施されることにより形成されている。これによって、表面が粗くなり摩擦係数が高くなるため、上記の穴h1に充填されるモルタルmとの付着力が高くなり、アンカー効果が高くなる(図2参照)。
【0020】
図2に示すように、アンカーバー1が橋梁Bに用いられた場合、アンカーバー1の定着層15が橋脚B1に埋設され、アンカーバー1の橋脚B1から突出する部分は橋桁B2に設けられた穴h2に挿入されることとなる。その結果、アンカーバー1が橋梁Bの落橋防止構造、横変位拘束構造あるいは変位制限装置として機能する。ここで、例えば、橋桁B2が水平方向に動くと、橋桁B2がアンカーバー1に荷重を作用させ、アンカーバー1の断面に曲げモーメント(引張力及び圧縮力)が作用する。
【0021】
アンカーバー1が第1補強層13を具備しなければ、母材11の断面形状のみで引張力及び圧縮力に抵抗しなければならないが、第1補強層13に係る炭素繊維の方向が引張力及び圧縮力の方向と略平行になるように第1補強層13が設けられ、第1補強層13が引張力及び圧縮力に対して配置されているため、母材11の断面を縮小させることができる。この結果、母材11の軽量化を図ることができると共に、アンカーバー1の設置作用が容易になる。また、橋脚B1及び橋桁B2に設ける穴h1、h2の掘削長及び掘削径が小さくなり、橋脚B1の穴h1に充填させるモルタルの量も軽減することができる。さらには、アンカーバー1を全て炭素繊維で構成させず、鋼製の母材11と炭素繊維のプリプレグの第1補強層13とで構成させることにより、コストの増加を抑えることができる。
【0022】
また、鋼製の母材11と炭素繊維のプリプレグからなる第1補強層13及び第2補強層14との間に、ガラス繊維のプリプレグからなる電解腐食防止層12が介在し、母材11と第1補強層13及び第2補強層14とを遮断しているため、電位差による母材11の電解腐食を防止し、アンカーバー1の製品寿命の短縮を抑えることができる。
【0023】
さらに、第1補強層13を構成する炭素繊維の方向に直交する方向に配置された炭素繊維のプリプレグで構成された第2補強層14が第1補強層13の上に全周を覆った状態で接着されているので、曲げモーメント等によるアンカーバー1の変形によって第1補強層13を構成する炭素繊維がばらける(分解する)ことを防止し、補強することができる。
【0024】
アンカーバー1の橋桁B2に埋設される側の端部は、曲げモーメントが作用しても長さ方向の中央部に比べると低いため、その端部には第1補強層13を取り付けず、母材11のみで曲げモーメントに抵抗できるようにすることで、第1補強層13を構成する炭素繊維のプリプレグの量を削減し、製品コストを抑えることができる。
【0025】
なお、本実施の形態では、アンカーバー1の芯材として断面円形状の鋼材を用いているが、母材11の断面形状はこれに限られず、楕円、三角形等の多角形、又は、星形等にすることもできる。また、定着層15において、摩擦係数を一層高くするために、スパイラル状、縦節状又は横節状の突起を設けることもできる。
【0026】
次に、図3を用いて工場等におけるアンカーバー1の製造方法について説明する。最初に、図3(a)、図3(b)に示すように、製造する対象となるアンカーバー1を構成し、ブラスト処理された母材11の所定箇所に、電解腐食防止層12を構成するシート状のガラス繊維のプリプレグを直接巻き付ける(電解腐食防止工程)。なお、ガラス繊維のプリプレグの母材11の軸方向長さは、作用する最大曲げモーメントに基づいて予め設定される第1補強層13の母材11の軸方向長さより長くしておく。
【0027】
次に、図3(c)に示すように、電解腐食防止層12の所定箇所に、電解腐食防止層12の両端部が露出するように、第1補強層13を構成するシート状の炭素繊維のプリプレグを巻き付ける(補強工程)。ここで、第1補強層13を構成する炭素繊維のプリプレグは、その繊維の方向と母材11の軸(長さ)方向とが平行となるように電解腐食防止層12の上から母材11に巻き付ける。さらに、第1補強層13の所定箇所に、第1補強層13の両端と一致するように、第2補強層14を構成するシート状の炭素繊維のプリプレグを巻き付ける(補強工程)。ここで、第2補強層14を構成する炭素繊維のプリプレグは、その繊維の方向と母材11の軸方向、換言すれば、炭素繊維の繊維方向とが直交するように第1補強層13の上から母材11に巻き付ける。
【0028】
次に、図3(d)に示すように、第2補強層14上に定着層15を形成させるために、第2補強層14における定着層15を形成させる範囲に、ピールプライ5等の所定の繊維部材を巻き付ける。
【0029】
次に、電解腐食防止層12、第1補強層13、第2補強層14及びピールプライ5を一体的に母材11に向けて加圧する(加圧工程)。具体的には、図3(e)に示すように、第1補強層13や第2補強層14等の母材11の軸方向長さより短い幅のテーピング6で、電解腐食防止層12、第1補強層13、第2補強層14及びピールプライ5の上から母材11の略周方向に螺旋状に加圧しながら母材11に締め付ける。この結果、母材11、電解腐食防止層12、第1補強層13、第2補強層14及びピールプライ5が強固に一体化される。
【0030】
次に、図示しないが、上記の加圧工程により一体化された母材11、電解腐食防止層12、第1補強層13、第2補強層14及びピールプライ5を全体的に加熱する(加熱工程)。具体的には、オートクレープ等の加熱可能な釜に、電解腐食防止層12、第1補強層13、第2補強層14及びピールプライ5と一体化された母材11を投入して、アンカーバー1を全体的に加熱する。この結果、母材11、電解腐食防止層12、第1補強層13、第2補強層14及びピールプライ5が強固に一体化される。
【0031】
そして、加熱処理が完了すると、図3(f)に示すように、テーピング6を除去し、ピールプライ5を剥がすことで第2補強層14の所定範囲に対して定着層15が形成され、アンカーバー1が完成する。
【0032】
以上のようにアンカーバー1を製造するが、当該製造方法においては、母材11を型として利用し、アンカーバー1の製造のためだけに使用される専用の型を必要としないため、製造コストを軽減すると共に、製造工程を短縮することができる。さらに、第1補強層13を炭素繊維のプリプレグで構成させて、母材11の全周に亘って巻き付けるので、第1補強層13は母材11の周方向において縁が切れていない。この結果、当該製造方法により製造されたアンカーバー1は、その周方向に対して均等に引張力及び圧縮力に抵抗することができる。
【0033】
また、電解腐食防止層12を形成させる際に、母材11の橋桁B2に挿入される方の端部は、橋脚B1に挿入される方の端部と同程度露出させれば足りるが、大気中にさらされるため、母材11を露出させると最終的には防食処理を施す必要があるところ、電解腐食防止工程において端まで電解腐食防止層12を形成させることで防食処理も施されることになる。これによりアンカーバー1の製造工程を短縮することができる。
【0034】
なお、加圧工程及び加熱工程についてオートクレープなどの加圧可能な釜で加圧処理と加熱処理とを同時に行うようにすることもできる。さらには、シリコンラバーヒーター等を電解腐食防止層12、第1補強層13、第2補強層14及びピールプライ5の全体を覆って加熱する等、所定の加熱器具を用いて加熱工程を行うこともできる。また、電解腐食防止層12乃至第2補強層14を構成する各プリプレグは、ロール状のプリプレグを母材11に巻き付けて所望の位置で切断して成形するようにしても、予め所定の長さに成形されたシート状のプリプレグを母材11に巻き付ける又は貼り付けるようにしてもよい。
【0035】
(実施の形態2)
次に、本発明に係る構造部材が、鋼管2に適用されている例を説明する。図4に示すように、鋼管2は、鋼管2の基体をなす母材21と、母材21に取り付けられた電解腐食防止層22と、電解腐食防止層22の上から取り付けられて母材21に一体化している第1補強層23と、第1補強層23の上から取り付けられて母材21に一体化している第2補強層24と、第2補強層24の上から取り付けられて母材21に一体化している第3補強層25と、第3補強層25の上から取り付けられて母材21に一体化している第4補強層26と、を有する。なお、鋼管2は、アンカーバー1と同様に製造されているものとする。
【0036】
母材21は、断面ロ字状を呈した長さL1の管状の鋼材であり、断面の肉厚は母材21の周方向及び長さ方向に一定となっている。
【0037】
電解腐食防止層22は、母材21の長さL1より短い長さL2の樹脂のみのプリプレグで構成されている。このプリプレグは、母材21の周方向に母材21の断面形状に沿って全周に亘って巻き付いて接着されている。
【0038】
第1補強層23乃至第3補強層25はそれぞれ、数ミリメートルの厚さで、一方向に並んだ炭素繊維の束にエポキシ樹脂を含浸させ、半硬化状態に反応させたプレプリグで構成されている。なお、本実施の形態において、第1補強層23乃至第3補強層25を構成する炭素繊維のプリプレグの炭素繊維の含有率は約60%であり、炭素繊維の径は約7ミクロンである。
【0039】
第1補強層23を構成するプリプレグは、電解腐食防止層22の上から母材21の周方向に母材21に巻き付いた電解腐食防止層22の断面形状に沿って全周に亘って巻き付いて接着されている。電解腐食防止層22の長さL2は第1補強層23の長さL3より1?2cm程度長く、電解腐食防止層22の両端部が第1補強層23の両端から同程度露出している。このように電解腐食防止層22が第1補強層23の両端から露出することによって母材22の電位差による電解腐食を確実に防止することができる。
【0040】
第2補強層24を構成するプリプレグは、第1補強層23の上から母材21の周方向に母材21に巻き付いた第1補強層23の断面形状に沿って全周に亘って巻き付いて接着されている。第2補強層24の長さL4は第1補強層23の長さL3より30cm程度短く、第1補強層23の両端部が第2補強層24の両端から同程度露出している。
【0041】
第3補強層25を構成するプリプレグは、第2補強層24の上から母材21の周方向に母材21に巻き付いた第2補強層24の断面形状に沿って全周に亘って巻き付いて接着されている。第3補強層25の長さL5は第2補強層24の長さL4より30cm程度短く、第2補強層24の両端部が第3補強層25の両端から同程度露出している。
【0042】
第1補強層23乃至第3補強層25を構成する炭素繊維は、略一方向を向いて平行に揃えられている。母材21に一体化されている第1補強層23乃至第3補強層25の炭素繊維は、母材21の軸に平行な方向、すなわち、母材21の軸方向に直交する向きの荷重が作用したときに母材21の断面に作用する引張力及び圧縮力の方向(母材21の軸方向を基準として0°方向)を向いている。第1補強層23乃至第3補強層25の引張力及び圧縮力に対する抵抗力は、第1補強層23乃至第3補強層25に含まれる炭素繊維のプリプレグの断面積及び断面形状に基づいて算出されるため、これらの断面積及び断面形状は、鋼管2に作用する引張力及び圧縮力に応じて適宜に設定される。
【0043】
第4補強層26は、数ミリメートルの厚さで、一方向に並んだ炭素繊維の束にエポキシ樹脂を含浸させ、半硬化状態に反応させたプレプリグで構成されている。第4補強層26の長さL5は第3補強層25の長さL4より30cm程度短く、第4補強層26は、第3補強層25の上から第3補強層25の両端部が同程度露出するように、全長に亘って第3補強層25の全周を覆った状態で接着されている。
【0044】
第4補強層26を構成する炭素繊維は、略一方向を向いて平行に揃えられている。母材21に一体化されている第4補強層26の炭素繊維は、母材21の軸に直交する方向、すなわち、母材21に一体化された第1補強層23乃至第3補強層25の炭素繊維がばらけ易い(分解し易い)方向(母材21の軸方向を基準として90°方向)を向いている。
【0045】
上述のように、鋼管2の第1補強層23乃至第3補強層25の炭素繊維の方向は母材211の軸方向に平行となっている。よって、鋼管2に、その軸方向に直交する力が作用した場合、第1補強層23乃至第3補強層25は、鋼管2に作用する引張力及び圧縮力に抵抗する。ここで、第1補強層23乃至第3補強層25の炭素繊維の引張強度及び圧縮強度は強いため、母材21の断面積及び断面形状は、第1補強層23乃至第3補強層25に引張強度及び圧縮強度を考慮して設計することが望ましい。母材21の断面を縮小させ、母材21の軽量化を図ることができるからである。
【0046】
具体的には、母材21の断面形状は、鋼管2に作用する最小曲げモーメント(せん断力)に抵抗できるよう設計することが望ましい。この場合、最小曲げモーメント以上の曲げモーメントが母材21に作用すると、最小曲げモーメントを越える分は第1補強層23乃至第3補強層25が負担することになる。よって、母材21に作用し得る最大曲げモーメントから、母材21が負担する最小曲げモーメントを差し引いた分に基づく引張力及び圧縮力を第1補強層23乃至第3補強層25で抵抗できるように、第1補強層23乃至第3補強層25の断面積及び断面形状等を適宜に設定すればよい。このように、母材21と第1補強層23乃至第3補強層25とで母材21に作用する曲げモーメント(引張力及び圧縮力)の許容範囲に適合するように設計すればよい。
【0047】
ここで、最大曲げモーメントに対しては、第1補強層23乃至第3補強層25で、母材21の不足分を補うこととなるが、発生し得る最大曲げモーメントは鋼管2の長さ方向に対する位置によって異なる。具体的には、最大曲げモーメントは、母材21の長さ方向の中央で最も高く、端にいくほど小さくなっていく。よって、第1補強層23乃至第3補強層25の炭素繊維に基づく引張強度及び圧縮強度、すなわち、第1補強層23乃至第3補強層25の断面積も、母材21の長さ方向中央部から端に向かって減少するように設定すると、鋼管2の断面設計の効率化を図ることができる。その一例として、第1補強層23乃至第3補強層25のように、母材21の長さ方向中央部に向かって段階的に積層させる。この結果、炭素繊維の量を抑え、製品コストの増加を抑えることができる。特に、炭素繊維のプリプレグは高価であるため、製品コストの増加を抑えることは有効になる。しかしながら、母材21に取り付けられる補強層の構造はこれに限定されるものではなく、最大曲げモーメントに基づいて単層で構成させることもできる。この場合は、段階的に積層させる場合に比べて製造工程を減少させることができる。
【0048】
また、実施の形態1の場合と同様に、第1補強層23と母材21との間に、樹脂のプリプレグからなる電解腐食防止層22が介在し、第1補強層23と母材21との電気的な接触が軽減されるため、鋼製の母材21と炭素繊維の第1補強層23乃至第4補強層26との電位差による電解腐食を防止することができる。さらに、第1補強層23乃至第3補強層25を構成する炭素繊維の向きに直交する向きの炭素繊維で構成された第4補強層26が第3補強層25の上から巻き付いて全周をまたいで接着されているので、曲げモーメント等による鋼管2の変形によって第1補強層23乃至第3補強層25を構成する炭素繊維がばらける(分解する)ことを防止することができる。なお、本実施の形態では、第4補強層26の長L5が第3補強層25の長さL4より短く、第4補強層26の体積、すなわち、炭素繊維のプリプレグの量が抑えられているので、製品コストの増加を抑えることができる。
【0049】
なお、本実施の形態の鋼管2は、図3に示すアンカーバー1の製造方法と同様な方法で製造されている。すなわち、電解腐食防止層22、第1補強層23乃至第3補強層25及び第4補強層26はそれぞれ、シート状のプリプレグが母材21の全周に亘って巻き付かれて一体化されている。このように、シート状のプリプレグで電解腐食防止層22、第1補強層23乃至第3補強層25及び第4補強層26を構成することによって、母材21の周方向に対する切れ目がなくなり、母材21等の劣化などを防止することができる。さらに、本実施の形態のように、第1補強層23乃至第3補強層25の断面形状に折曲部を有する場合であっても、母材21の周方向に縁を切らせないことで、折曲部においても引張力及び圧縮力に対する抵抗力が発生し、第1補強層23乃至第3補強層25全体としての引張力抵抗機能及び圧縮力抵抗機能を高めることができる。
【0050】
(その他の実施の形態)
実施の形態1及び実施の形態2では、本発明の構造部材の補強層に係る第1補強層13、23等は電解腐食防止層12、22を介して母材11、12に巻き付かれて、加圧・加熱により母材11、21と一体化されているが、例えば、所定の接着剤により母材11、21と第1補強層13、23とを一体化するようにすることも可能である。すなわち、接着剤によって母材11、21と第1補強層13、23とを一体化させると共に、電位差による電解腐食を防止させることも可能である。
【0051】
また、実施の形態2では、第1補強層23乃至第3補強層25等がシート状の炭素繊維プリプレグで構成されて母材21等の周方向に巻き付かれているが、図5に示すように、母材21の各外面の幅で所定の長さに成形された炭素繊維強化プラスチック板を所定の接着剤で貼り付けて一体化することもできる。すなわち、複数の炭素繊維強化プラスチック板を母材21の周方向に連続的に並設することもできる。また、図6に示すように、母材21の各外面の幅より狭い幅に成形された炭素繊維強化プラスチック板を所定の接着剤で貼り付けて、母材21の周方向に対して所定間隔をおいて間欠的に並設することもできる。
【0052】
また、図7に示すように、一部の面にのみ第1補強層23乃至第3補強層25として炭素繊維強化プラスチック板を所定の接着剤で貼り付けることもできる。特に、母材21のように鋼製の場合、変形量が小さいことから、力が作用する位置を考慮して、所定値以上の引張力及び圧縮力が発生する範囲にのみ重点的に第1補強層23を貼り付けることもできる。これにより、炭素繊維強化プラスチック板の量を減少させ、構造部材のコストの増加を抑えることができる。さらには、底面に取り付けられる第1補強層23乃至第3補強層25を天面に取り付ける第1補強層23乃至第3補強層25より幅広にして炭素繊維強化プラスチック板の量を増やすようにすることもできる。
【0053】
また、第4補強層26の構造は、実施の形態2に限られず、図8に示すように、第4補強層26を複数で構成させ、母材21の長さ方向に所定間隔をおいて並設するようにすることもできる。さらには、第4補強層26を炭素繊維のプリプレグ以外の物質で構成させることもできる。この場合、第1補強層23乃至第3補強層25の炭素繊維がばらけることを防止できればよい。
【0054】
さらに、実施の形態2のように、母材21が中空構造からなる場合、図9に示すように、母材21の内面に電解腐食防止層22、第1補強層23乃至第3補強層25を取り付けることも可能である。この場合、電解腐食防止層22、第1補強層23乃至第3補強層25の摩耗や裂傷による損傷を防止し、製品寿命の短縮を抑えることができる。また、中空構造の母材21の外面と内面の双方に電解腐食防止層22、第1補強層23乃至第3補強層25を取り付けることも可能である。
【0055】
なお、図5乃至図9に示す鋼管2については、所定の接着剤が電解腐食防止層22を構成している。よって、所定の接着剤からなる電解腐食防止層22は露出せず、第1補強層23の底面と一致することとなる。
【0056】
また、実施の形態2では、第1補強層23乃至第3補強層25が同一の炭素繊維プリプレグで構成されているが、異なる特性の炭素繊維プリプレグで構成させることも可能である。さらに、異なる物質で構成させることも可能である。また、実施の形態1及び実施の形態2において、各層を構成する物質の特性も限定されない。
【0057】
さらに、実施の形態1及び実施の形態2では、補強層の炭素繊維として、母材11、21の長さ方向に平行な炭素繊維と直交する炭素繊維とが別個に分離して補強層として取り付けられているが、単一の補強層の中で両方の向きの炭素繊維が含まれるようにすることもできる。また、第2補強層14及び第4補強層26の炭素繊維の方向も実施の形態1及び実施の形態2に限られず、母材11、21の軸方向に交差していればよい。
【0058】
また、本発明の構造部材に係る母材11、21、電解腐食防止層12、22、及び、補強層13、14、23?26の形状・形態は実施の形態1及び実施の形態2に限られない。さらに、実施の形態1及び実施の形態2では、本発明に係る構造部材が、建設物の構造部材に適用されているが、例えば、家具などの建設物以外の物の構造部材にも適用することが可能である。なお、母材11、21として鋼製以外の金属、例えばアルミ製のものを用いることもできる。
【0059】
また、実施の形態1では、本発明に係る構造部材の製造方法について説明したが、例えば、当該製造方法は現場などで既に設置されている構造部材の補強方法に適用することもできる。例えば、図10(a)に示すように、鋼棒からなる母材31が既に設置されていると仮定する。ここで、一部が腐食などによる断面損傷が生じたとする。この場合、最初に損傷部分Kを研磨などによって腐食を除去する。
【0060】
次いで、図10(b)に示すように、損傷部分Kを覆うようにガラス繊維のプリプレグを巻き付けて電解腐食防止層32を形成させる(電解腐食防止工程)。次に、図10(c)に示すように、図4に示す製造方法と同様に、電解腐食防止層32の所定箇所に第1補強層33及び第2補強層34を形成させる(補強工程)。
【0061】
次に、図10(d)に示すように、テーピング6で電解腐食防止層32、第1補強層33及び第2補強層34を一体的に母材31に向けて加圧する(加圧工程)。
【0062】
次に、図10(e)に示すように、シリコンラバーヒーター7によって電解腐食防止層32、第1補強層33及び第2補強層34の全体を覆って加熱する等、所定の加熱器具を用いて、第2補強層34、第1補強層33、又は電解腐食防止層32の何れかが露出している全範囲を一度にまとめて加熱する(加熱工程)。この結果、母材11、電解腐食防止層12、第1補強層13及び第2補強層14が強固に一体化される。
【0063】
そして、図10(f)に示すように、テーピング6を除去すると、母材31が補強されることとなる。
【0064】
このような方法で既存の構造部材を補強することで、当該構造部材を交換する必要がなくなるため、コストを削減することができる。なお、当該補強方法は、構造部材に腐食などによる断面損傷が生じた場合だけでなく、裂傷又は設計荷重の変更などによる後発的な断面欠損に対しても適用することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 アンカーバー
2 鋼管
6 テーピング
7 シリコンラバーヒーター
11、21、31 母材
12、22、32 電解腐食防止層
13、23、33 第1補強層
14、24、34 第2補強層
15 定着層
25 第3補強層
26 第4補強層
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
【請求項9】
構造物に既に設置されている構造部材を構成する金属製の母材の断面不足箇所又は断面損傷箇所としての腐食部分を除去する除去工程と、
前記腐食部分が除去された前記母材の外表面に、該母材の電解腐食を防止する電解腐食防止シートとしてのガラス繊維プリプレグシートを配置する電解腐食防止工程と、
前記ガラス繊維プリプレグシートの前記母材の断面不足箇所又は断面損傷箇所と反対側に、所定方向に並んだ炭素繊維の束が配列された炭素繊維プリプレグシートを配置する補強工程と、
前記炭素繊維プリプレグシートと前記ガラス繊維プリプレグシートを一体的に前記母材側に加圧する加圧工程と、
前記炭素繊維プリプレグシート及び前記ガラス繊維プリプレグシートを前記母材と一体的に加熱する加熱工程と、を有することを特徴とする構造部材の補強方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-12-08 
出願番号 特願2012-197728(P2012-197728)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (E01D)
P 1 651・ 113- YAA (E01D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大熊 靖夫  
特許庁審判長 井上 博之
特許庁審判官 西田 秀彦
小野 忠悦
登録日 2016-09-02 
登録番号 特許第5997986号(P5997986)
権利者 創造技術株式会社
発明の名称 構造部材の補強方法  
代理人 特許業務法人エビス国際特許事務所  
代理人 特許業務法人 エビス国際特許事務所  

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