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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08G
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08G
管理番号 1337047
異議申立番号 異議2016-701107  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-03-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-11-28 
確定日 2018-01-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5928655号発明「ポリエステル樹脂」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5928655号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 特許第5928655号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 特許第5928655号の請求項2ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 主な手続の経緯
特許第5928655号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成26年12月17日(優先権主張 平成25年12月19日)に特許出願され、平成28年5月13日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人山崎浩一郎より特許異議の申立てがされ、平成29年3月2日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年5月2日付けで意見書の提出及び訂正請求がされ、その訂正の請求に対して特許異議申立人から同年6月12日付けで意見書が提出され、同年6月30日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である同年9月1日付けで意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、本件訂正請求に対して特許異議申立人から同年10月11日付けで意見書が提出されたものである。
なお、平成29年5月2日付けで提出された訂正請求書による訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項2に
「ポリエステル重合時の触媒が、アルミニウム化合物及びリン化合物である請求項1に記載のポリエステル樹脂。」とあるのを、
「ジカルボン酸成分とグリコール成分からなるポリエステル樹脂であって、ジカルボン酸成分としてフランジカルボン酸を50モル%以上含み、フランジカルボン酸以外のジカルボン酸成分は、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4、4’-ジカルボキシビフェニルのうち、一種類、もしくは二種類以上であり、ポリエステル重合時の触媒が、アルミニウム化合物及びリン化合物であり、下記要件[1]?[3]を満たすポリエステル樹脂。
[1]全金属元素含有量がポリエステル樹脂の質量に対して50ppm以下であること
[2]リン元素含有量がポリエステル樹脂の質量に対して100ppm以下であること
[3]下記式で表されるTODΔ還元粘度が0.020dl/g以下であること
(TODΔ還元粘度)=(熱酸化試験前の還元粘度)-(熱酸化試験後の還元粘度)
(ここで、熱酸化試験とは、空気下、ポリエステル樹脂の融点+30℃の温度で2分間溶融後、同温度で1分間、荷重(100kgf/cm^(2))下に置く熱履歴を与えたポリエステル樹脂試料を、空気下、180℃の温度で60分間加熱処理する試験である。)」と訂正する。

(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に
「融点が220℃以下である請求項1?2のいずれかに記載のポリエステル樹脂。」とあるのを、
「融点が220℃以下である請求項2に記載のポリエステル樹脂。」と訂正する。

(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に
「請求項1?3のいずれかに記載のポリエステル樹脂を用いたフィルム。」とあるのを、
「請求項2又は3に記載のポリエステル樹脂を用いたフィルム。」と訂正する。

(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に
「請求項1?3のいずれかに記載のポリエステル樹脂を用いたシート。」とあるのを、
「請求項2又は3に記載のポリエステル樹脂を用いたシート。」と訂正する。

(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に
「請求項1?3のいずれかに記載のポリエステル樹脂を用いた射出成形体。」とあるのを、
「請求項2又は3に記載のポリエステル樹脂を用いた射出成形体。」と訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否、一群の請求項
(1) 訂正事項1
ア 訂正事項1は、訂正前の請求項2が訂正前の請求項1を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1を引用しないものとし、独立形式の請求項へ改めるための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書き第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
また、訂正事項1は、ジカルボン酸成分としてフランジカルボン酸を50モル%以上含むポリエステル樹脂に限定し、全金属元素含有量がポリエステル樹脂の質量に対して50ppm以下であると限定し、TODΔ還元粘度が0.020dl/g以下であると限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 訂正事項1は、本件特許明細書の「金属元素の含有量は、・・・50ppm以下がさらに好ましい」との記載(段落【0013】)、「本発明のポリエステル樹脂に用いられるフランジカルボン酸の共重合比率は、全ジカルボン酸成分に対して、・・・50モル%以上が特に好ましく」との記載(段落【0016】)及び「TODΔ還元粘度が・・・より好ましくは0.020dl/g以下・・・である。TODΔ還元粘度が0.020dl/g以下であると、分解速度の進行が抑制されるため、望ましい」との記載(段落【0033】)に基づくものであり、新たな技術的事項を導入するものではないから、新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。

ウ 訂正事項1は、訂正前の請求項2の減縮を目的とするものである発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

(2) 訂正事項2
ア 訂正事項2は、訂正前の請求項1を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 訂正事項2は、訂正前の請求項1を削除するものであるから、新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。

ウ 訂正事項2は、訂正前の請求項1を削除するものであるから、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

(3) 訂正事項3ないし6
ア 訂正前の請求項1を削除したことに伴い、引用する項番号の整合を図るために訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 明瞭でない記載の釈明をするものであるから、新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。

ウ 明瞭でない記載の釈明をするものであり、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。

(4) 一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし6について、請求項2ないし6は請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって請求項2が訂正され、訂正事項2によって請求項1が削除されるものである。したがって、訂正前の請求項1ないし6に対応する訂正後の請求項1ないし6は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項[1ないし6]について訂正を認める。

第3 本件特許発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし6に係る発明(以下、それぞれ順に「本件特許発明1」ないし「本件特許発明6」という。)は、特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
ジカルボン酸成分とグリコール成分からなるポリエステル樹脂であって、ジカルボン酸成分としてフランジカルボン酸を50モル%以上含み、フランジカルボン酸以外のジカルボン酸成分は、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4、4’-ジカルボキシビフェニルのうち、一種類、もしくは二種類以上であり、ポリエステル重合時の触媒が、アルミニウム化合物及びリン化合物であり、下記要件[1]?[3]を満たすポリエステル樹脂。
[1]全金属元素含有量がポリエステル樹脂の質量に対して50ppm以下であること
[2]リン元素含有量がポリエステル樹脂の質量に対して100ppm以下であること
[3]下記式で表されるTODΔ還元粘度が0.020dl/g以下であること
(TODΔ還元粘度)=(熱酸化試験前の還元粘度)-(熱酸化試験後の還元粘度)
(ここで、熱酸化試験とは、空気下、ポリエステル樹脂の融点+30℃の温度で2分間溶融後、同温度で1分間、荷重(100kgf/cm^(2))下に置く熱履歴を与えたポリエステル樹脂試料を、空気下、180℃の温度で60分間加熱処理する試験である。)
【請求項3】
融点が220℃以下である請求項2に記載のポリエステル樹脂。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のポリエステル樹脂を用いたフィルム。
【請求項5】
請求項2又は3に記載のポリエステル樹脂を用いたシート。
【請求項6】
請求項2又は3に記載のポリエステル樹脂を用いた射出成形体。」

第4 取消理由(決定の予告)の概要
1 本件特許発明1ないし6は、その優先日前に外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるものである。



刊行物1 中国特許出願公開第102050941号明細書
(特許異議申立書に添付された甲第1号証である。また、同じく添付された甲第1号証の訳文を参照。)
刊行物2 韓国公開特許10-2013-0034808号公報
(特許異議申立書に添付された甲第2号証である。また、同じく添付された甲第2号証の訳文を参照。)
刊行物3 特開2010-280767号公報
(特許異議申立書に添付された甲第3号証である。)

第5 当審の判断
1 刊行物1に記載された事項
刊行物1には、「高分子重合体およびその製造方法」に関し、次の事項が記載されている。

(1)「【0002】
芳香族二塩基酸と脂肪族ジオールを共重合して得られたポリエステルは、その製品が優れた耐熱性と機械性能を有するため、樹脂、繊維、フィルムなどの分野に幅広く応用されている。」

(2)「【0039】
実施例2
【0040】
160℃の温度下で、89重量部の2,5-フランジカルボン酸(綿陽高新区高特科技有限公司)と212重量部のEG(中国揚子石化)を精留塔を備えた重合フラスコに入れ、エステル化反応の触媒であるチタン酸テトラブチル(AR、上海試四赫維化工有限公司)(ポリエステルの重量に対してチタン化合物の添加量は50ppm)を添加してエステル化反応(ES反応)させ、反応は窒素ガスの保護下で行い、反応混合物は透明になり、精留塔の塔頂温度が50℃に下げた時、前記反応が終了し、小分子の重合体を得た。
【0041】
重合の触媒として、Tiの添加量が50ppm、リンの添加量が10ppmになるように、チタン酸テトラブチル(AR、上海試四赫維化工有限公司)とリン酸トリメチル化合物(AR、上海潤捷化学試剤有限公司)を前記小分子重合体に添加し(但し、添加量はいずれもポリエステルの重量に対する添加量)、大気圧から1.5時間をかけて300Pa程度に減圧し、1.5時間をかけて温度を200℃に昇温し、当該反応が終了した時、フラスコ内の温度は200℃、最終圧力は130Pa程度であり、本発明の高分子重合体が得られた。」

(3)「【0050】




(4)「【請求項1】
以下の(1)?(6)を満たすことを特徴とする高分子重合体。
(1)当該高分子重合体は主に下記一般式で表されるフランジカルボン酸とジオールの共重合体Xを含み、


上記一般式において、Aは脂肪族アルキレン基、芳香族アルキレン基、脂環式アルキレン基またはフランアルキレン基を表すこと、
(2)チタン化合物由来の化合物Yを含むこと、
(3)リン化合物由来の化合物Zを含むこと、
(4)高分子重合体において、チタン元素の含有量は高分子重合体の重量に対して3ppm<Ti<500ppm、チタン元素とリン元素のモル比は0.03<Ti/P<50であること、
(5)高分子重合体の融点はTm≧200℃であること、及び
(6)高分子重合体において、共重合体Xの末端カルボキシル基の含有量は高分子重合体に対してCOOH≦50eq/tであること。」

2 刊行物1に記載された発明
上記記載事項(1)ないし(4)から、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

引用発明
「2,5-フランジカルボン酸とEGをエステル化反応の触媒であるチタン酸テトラブチル(ポリエステルの重量に対してチタン化合物の添加量は50ppm)を添加してエステル化反応(ES反応)させ、小分子の重合体を得、重合の触媒として、Tiの添加量が50ppm、リンの添加量が10ppmになるように、チタン酸テトラブチルとリン酸トリメチル化合物を小分子重合体に添加し(但し、添加量はいずれもポリエステルの重量に対する添加量)反応して得られた高分子重合体。」

3 対比・判断
(1)本件特許発明2について
ア 対比
本件特許発明2と引用発明とを対比すると、その機能、性質からみて、後者の「2,5-フランジカルボン酸」は前者の「ジカルボン酸成分」に相当し、同様に「EG」は「グリコール成分」、「ポリエステル」は「ポリエステル樹脂」、「リンの添加量が10ppm・・・(但し、添加量はいずれもポリエステルの重量に対する添加量)」は「[2]リン元素含有量がポリエステル樹脂の質量に対して100ppm以下であること」にそれぞれ相当する。
また、後者のジカルボン酸成分は「2,5-フランジカルボン酸」だけであるから、後者の「2,5-フランジカルボン酸」「を添加」することは前者の「ジカルボン酸成分としてフランジカルボン酸を50モル%以上含」むことに相当する。

以上の点からみて、本件特許発明2と引用発明とは、

[一致点]
「ジカルボン酸成分とグリコール成分からなるポリエステル樹脂であって、ジカルボン酸成分としてフランジカルボン酸を50モル%以上含み、フランジカルボン酸以外のジカルボン酸成分は、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4、4’-ジカルボキシビフェニルのうち、一種類、もしくは二種類以上であり、下記要件[2]を満たすポリエステル樹脂。
[2]リン元素含有量がポリエステル樹脂の質量に対して100ppm以下であること」
である点で一致し、

次の点で一応相違する。

[相違点]

相違点1
ポリエステル重合時の触媒に関して、本件特許発明2では、「アルミニウム化合物及びリン化合物」であって全金属元素含有量が「ポリエステル樹脂の質量に対して50ppm以下」であるのに対して、引用発明では、チタン化合物及びリン化合物であり、また、全金属元素含有量が特定されていない点。

相違点2
本件特許発明2では、「[3]下記式で表されるTODΔ還元粘度が0.020dl/g以下であること
(TODΔ還元粘度)=(熱酸化試験前の還元粘度)-(熱酸化試験後の還元粘度)
(ここで、熱酸化試験とは、空気下、ポリエステル樹脂の融点+30℃の温度で2分間溶融後、同温度で1分間、荷重(100kgf/cm^(2))下に置く熱履歴を与えたポリエステル樹脂試料を、空気下、180℃の温度で60分間加熱処理する試験である。)」であるのに対して、引用発明では、TODΔ還元粘度が特定されていない点。

イ 判断
上記相違点について検討する。

(ア)相違点1について
確かに、刊行物2には、チタン及びアルミニウムが触媒として置換しうる元素であること(請求項7)、及び、触媒が6?60ppmの含量で投入されること(請求項6)は記載されているが、助触媒たるリンとの組合せにおいてチタン及びアルミニウムが触媒として置換し得ることは記載されていないし、触媒としての残存量が50ppm以下となるアルミニウムの例が具体的に記載されていない。
また、ポリエステルの技術分野において、チタン化合物は重合触媒として他の触媒と比して活性が高いことが技術常識であるところ刊行物6(特開2011-26470号公報(特許異議申立人による平成29年6月12日付けの意見書に添付された甲第6号証である。)の段落【0003】)、刊行物1の実施例においては最低100ppmのチタン化合物を含有しており、仮にチタンよりも活性の弱いアルミニウムを用いた場合に、その含有量を100ppmより少ない50ppmにすることについて当業者にとって積極的な動機が見当たらない。
そうすると、仮に、刊行物2により、引用発明のチタンをアルミニウムに置換することが当業者に想到容易であったとしても、助触媒たるリンとの組合せにおいてチタンをアルミニウムに置換した上で、さらに当該アルミニウムを含む全金属元素含有量をポリエステル樹脂の質量に対して50ppm以下にすることが当業者に想到容易であったとまではいえない。
したがって、上記相違点1に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たものであるとはいえない。

(イ)相違点2について
刊行物1には、熱酸化安定性のためにTODΔ還元粘度の上限を画すること(以下、「本件特許発明2の技術思想」という。本件特許明細書の段落【0031】)は記載も示唆もない。
この点、確かに、刊行物4(特開2013-166874号公報(特許異議申立人による平成29年6月12日付けの意見書に添付された甲第4号証である。))には、上記本件特許発明2の技術思想自体(但し、TODΔ還元粘度が0.030dl/g以下に止まる。)は開示されているものの(段落【0045】)、同刊行物に記載されたジカルボン酸は、その成分としてフランジカルボン酸を50モル%以上含むものではないから、ジカルボン酸成分としてフランジカルボン酸を50モル%以上含むことを前提とした本件特許発明2の技術思想、及びジカルボン酸成分としてフランジカルボン酸を50モル%以上含む場合に、TODΔ還元粘度が0.020dl/g以下にする具体的手段を、刊行物4から導き出すことはできない。また、これを導き出すための証拠は提示されていない。
そうすると、ジカルボン酸成分としてフランジカルボン酸を50モル%以上含むことを前提とした上でTODΔ還元粘度を0.020dl/g以下とすることが当業者に想到容易であったとまではいえない。
したがって、上記相違点2に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たものであるとはいえない。

(ウ)効果について
本件特許明細書の「本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は低温での成形を可能にし、熱分解によるカルボキシル基の生成を抑制すること、さらには触媒となる金属化合物の添加量を、高い重合活性を保持しながら可能な限り少なくすることにより、優れた長期耐熱性を得ることである。」(以下、「本件特許発明2の課題」という。)(段落【0009】)との記載、「本発明のポリエステルはチタンを触媒とすることもできる。チタンを触媒として用いる場合も少量の添加量で生産性を確保できるが、チタンは触媒活性が高いため、加熱下でポリエステルの熱酸化劣化が生じやすくなり、長期の熱安定性を得られない場合がある。そのため、本発明においてはポリエステルの触媒種としてチタン以外の触媒種を用いることが好ましい。」(段落【0030】)との記載、「全金属含有量は少なければ少ないほど、熱酸化安定性に有利である。しかし、金属含有量が少ない即ち触媒量が少ない場合は、生産性の面では不利となる。そこで少量のアルミニウム化合物と助触媒であるリン化合物を併用し、重合活性を確保することが好ましい。」(段落【0034】)との記載及び「本発明のポリエステル樹脂には、フランジカルボン酸成分が共重合されている。フランジカルボン酸成分は芳香環構造を有しながら、ポリエステル樹脂の原料としてよく用いられるテレフタル酸と比較して、共重合することにより樹脂の融点を下げる効果がある。樹脂を成形する際には成形温度を樹脂の融点以上に設定する必要があるが、フランジカルボン酸の共重合により成形温度を低く設定できるため、熱分解によるカルボキシル基の生成が抑制され、良好な長期熱安定性を得ることができる。フランジカルボン酸は、反応性、ポリマー鎖の立体構造等を考慮すると、その異性体の中でも、特に2,5-フランジカルボン酸が好ましい。」(段落【0015】)との記載から、ポリエステル重合時の触媒を、アルミニウム化合物及びリン化合物とし、ポリエステル樹脂の質量に対して全金属元素含有量を50ppm以下とし、助触媒たる100ppm以下のリンと組合せ、且つTODΔ還元粘度を0.020dl/g以下とすることで、本件特許発明2は、所定の効果を奏するものである。
かかる効果は、刊行物1及びその余の刊行物に記載された事項から当業者が予測し得たものとはいえない。

よって、本件特許発明2は、引用発明並びに刊行物2ないし4、刊行物5(特開2010-212272号公報(特許異議申立人による平成29年6月12日付けの意見書に添付された甲第5号証である。))及び刊行物6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本件特許発明3ないし6について
本件特許発明3ないし6は、本件特許発明2をさらに限定するものであるところ、上記のように、本件特許発明2は、引用発明及び刊行物2ないし6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件特許発明3ないし6も、引用発明及び刊行物2ないし6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

4 なお、上記に照らせば、本件特許発明2ないし4が刊行物1又は2に記載されるものと同一であるとももいえないから、異議申立書におけるその余の申立理由も、理由がないことは明らかである。

第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件訂正請求による訂正後の請求項2ないし6に係る特許を取り消すことができない。
また、他に本件訂正請求による訂正後の請求項2ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項1に係る特許は、本件訂正請求による訂正により削除されたため、異議申立人の請求項1に係る特許についての特許異議の申立ては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
ジカルボン酸成分とグリコール成分からなるポリエステル樹脂であって、ジカルボン酸成分としてフランジカルボン酸を50モル%以上含み、フランジカルボン酸以外のジカルボン酸成分は、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4、4’-ジカルボキシビフェニルのうち、一種類、もしくは二種類以上であり、ポリエステル重合時の触媒が、アルミニウム化合物及びリン化合物であり、下記要件[1]?[3]を満たすポリエステル樹脂。
[1]全金属元素含有量がポリエステル樹脂の質量に対して50ppm以下であること
[2]リン元素含有量がポリエステル樹脂の質量に対して100ppm以下であること
[3]下記式で表されるTODΔ還元粘度が0.020dl/g以下であること
(TODΔ還元粘度)=(熱酸化試験前の還元粘度)-(熱酸化試験後の還元粘度)
(ここで、熱酸化試験とは、空気下、ポリエステル樹脂の融点+30℃の温度で2分間溶融後、同温度で1分間、荷重(100kgf/cm^(2))下に置く熱履歴を与えたポリエステル樹脂試料を、空気下、180℃の温度で60分間加熱処理する試験である。)
【請求項3】
融点が220℃以下である請求項2に記載のポリエステル樹脂。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のポリエステル樹脂を用いたフィルム。
【請求項5】
請求項2又は3に記載のポリエステル樹脂を用いたシート。
【請求項6】
請求項2又は3に記載のポリエステル樹脂を用いた射出成形体。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-12-21 
出願番号 特願2015-511128(P2015-511128)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C08G)
P 1 651・ 113- YAA (C08G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 井上 政志  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 堀 洋樹
小柳 健悟
登録日 2016-05-13 
登録番号 特許第5928655号(P5928655)
権利者 東洋紡株式会社
発明の名称 ポリエステル樹脂  
代理人 植木 久一  
代理人 植木 久彦  
代理人 竹岡 明美  
代理人 竹岡 明美  
代理人 植木 久彦  
代理人 植木 久一  

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