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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1337051
異議申立番号 異議2017-700593  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-03-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-06-13 
確定日 2018-01-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6044137号発明「コンプレッション成形用半導体封止樹脂材料及び半導体装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6044137号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正することを認める。 特許第6044137号の請求項1?6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6044137号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成24年7月3日(優先権主張 平成23年7月8日)の出願であって、平成28年11月25日にその特許権の設定登録がされ、その後、平成29年6月13日付け(受理日:同年6月14日)で特許異議申立人 信越化学工業株式会社(以下、「特許異議申立人」という。)より請求項1?6に対して特許異議の申立てがされ、同年8月8日付けで取消理由が通知され、同年9月28日付け(受理日:同年9月29日)で意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、同年11月6日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年11月22日付け(受理日:同年11月24日)で特許異議申立人から意見書が提出されたものである。

第2 本件訂正請求の適否
1.訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、次の訂正事項1、2のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「(A)エポキシ樹脂と、(B)硬化剤と、(C)フィラーとを含み、前記(C)フィラーの含有率が85質量%以上であり、厚み4mm?10mmのペレット状又はシート状の成形体であるコンプレッション成形用半導体封止樹脂材料。」と記載されているのを「(A)エポキシ樹脂と、(B)硬化剤と、(C)フィラーとを含み、前記(C)フィラーの含有率が85質量%以上であり、厚み4mm?10mmのペレット状又はシート状の成形体であり、FO-WLPのためのコンプレッション成形用半導体封止樹脂材料。」に訂正する。
また、当該請求項1を引用する請求項2?6も併せて訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1?請求項5のいずれか1項に記載のコンプレッション成形用半導体封止樹脂材料によって封止された素子を備えた半導体装置。」と記載されているのを「請求項1?請求項5のいずれか1項に記載のコンプレッション成形用半導体封止樹脂材料によって封止された素子を備えたFO-WLP型の半導体装置。」に訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び一群の請求項
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「コンプレッション成形用半導体封止樹脂材料」に「FO-WLPのための」という事項を追加するものであり、「コンプレッション成形用半導体封止樹脂材料」の用途をさらに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。また、訂正事項1は、願書に添付した明細書の段落【0004】?【0010】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項6の「半導体装置」に「FO-WLP型の」という事項を追加するものであり、「半導体装置」の種別をさらに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。また、訂正事項2は、願書に添付した明細書の段落【0004】?【0010】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)一群の請求項
本件訂正請求による訂正は、訂正後の請求項1?6についての訂正であるが、訂正前の請求項2?6は訂正前の請求項1を引用するものであるので、訂正前の請求項1?6は、一群の請求項である。
したがって、本件訂正請求は、一群の請求項に対して請求されたものである。

3.小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同法同条第4項、かつ、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正後の請求項1?6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明6」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
(A)エポキシ樹脂と、(B)硬化剤と、(C)フィラーとを含み、前記(C)フィラーの含有率が85質量%以上であり、厚み4mm?10mmのペレット状又はシート状の成形体であり、FO-WLPのためのコンプレッション成形用半導体封止樹脂材料。
【請求項2】
前記(A)エポキシ樹脂が、下記一般式(I)に示される化合物を含む、請求項1に記載のコンプレッション成形用半導体封止樹脂材料。
【化1】

(ここで、Rは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1?10の置換若しくは非置換の1価の炭化水素基を示す。また、nは1?10の整数を示す。)
【請求項3】
前記(B)硬化剤が下記一般式(II)で示される化合物を含む、請求項1又は請求項2に記載のコンプレッション成形用半導体封止樹脂材料。
【化2】

(ここで、Rは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1?10の置換若しくは非置換の1価の炭化水素基を示す。また、nは1?10の整数を示す。)
【請求項4】
前記成形体を成形温度175℃以下、成形後熱処理温度150℃以下で硬化させたときのガラス転移温度が150℃以上である請求項1?請求項3のいずれか1項に記載のコンプレッション成形用半導体封止樹脂材料。
【請求項5】
前記(C)フィラーが、目開き55μmの篩を通過可能な粒子群である、請求項1?請求項4のいずれか1項に記載のコンプレッション成形用半導体封止樹脂材料。
【請求項6】
請求項1?請求項5のいずれか1項に記載のコンプレッション成形用半導体封止樹脂材料によって封止された素子を備えたFO-WLP型の半導体装置。」

第4 特許異議申立人が主張する取消理由
特許異議申立人が特許異議申立書において主張する取消理由の概要は、次のとおりである。

・訂正前の本件特許の請求項1、5、6に係る発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、請求項1、5、6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
・訂正前の本件特許の請求項1、5、6に係る発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、請求項1、5、6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
・訂正前の本件特許の請求項2?4に係る発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明、及び甲第3号証に記載された事項(甲第4号証も参照)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、請求項2?4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
・訂正前の本件特許の請求項1?4に係る発明は、甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、請求項1?4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
なお、甲第1?4号証は、次のとおりである。
甲第1号証:特開平11-97464号公報
甲第2号証:特開2007-295009号公報
甲第3号証:特開2006-216899号公報
甲第4号証:日本化薬 カタログ

第5 当審が通知した取消理由
当審が通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

・訂正前の本件特許の請求項1、5、6に係る発明は、本件特許の優先日前に頒布された上記甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
・訂正前の本件特許の請求項1、5、6に係る発明は、本件特許の優先日前に頒布された上記甲第2号証に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
・訂正前の本件特許の請求項2?4に係る発明は、本件特許の優先日前に頒布された上記甲第2号証に記載された発明、及び本件特許の優先日前に頒布された上記甲第3号証に記載された事項に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

第6 当審の判断
1.特許法第29条第1項第3号について
1-1 甲第2号証の記載等
(1)甲第2号証の記載
取消理由通知において引用した甲第2号証には、次の事項(以下、「摘示ア」のようにいう。)が記載されている。なお、摘示アは、平成19年9月3日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の一部であり、甲第2号証の第11頁?第12頁に記載されているものである。

ア 「【請求項1】
低圧トランスファー成形法、インジェクション成形法及び圧縮成形法から選択される成形法により半導体素子を封止して半導体装置を製造するために用いる半導体封止用樹脂ペレットであって、
無機充填材を全体の80重量%以上含有する溶融樹脂組成物を成形してなり、かつ該ペレットの比表面積が4.5×10^(-4)m^(2)/g以上であることを特徴とする半導体封止用樹脂ペレット。
・・・(略)・・・
【請求項3】
溶融樹脂組成物がエポキシ樹脂および硬化剤を含有するものである請求項1または2記載の半導体封止用樹脂ペレット。
・・・(略)・・・
【請求項5】
ペレットに対する仮想外接球の直径が10mm以下のものを個数にして90%以上含有することを特徴とする請求項1?4いずれか記載の半導体封止用樹脂ペレット。
【請求項6】
ペレットの最長部長さが10mm以下のものを個数にして90%以上含有することを特徴とする請求項1?4いずれか記載の半導体封止用樹脂ペレット。
【請求項7】
請求項1?6いずれか記載の半導体封止用樹脂ペレットを用い、半導体素子を封止してなる半導体装置。」

イ 「【0017】
本発明において、無機充填材(C)の割合は樹脂組成物全体の80重量%以上であることが必要であるが、86重量%以上であることがより好ましい。無機充填材は樹脂成分に比べ熱伝導率が高いため、無機充填材を80重量%以上含有するとペレットが成形時にポット内で加熱される際に、ペレット全体が均質に素早く溶融し樹脂の流動むらが生じることがなく、また吸水率が低下し耐半田性が向上する。」

ウ 「【0029】
ペレットの大きさは限定されないが、ペレットに対し仮想外接球を想定した場合、その直径が10.0mm以下となる範囲に個数にして90%以上が含まれるのが好ましく、またその直径が0.5mm?8.0mmが90%以上、さらに0.5mm?5.0mmが90%以上となることが特に好ましい。
【0030】
本発明において、「最長部長さ」とは、ペレットの大きさを測定した場合、最も長い部分の長さを意味する。例えば、円柱状の場合、2つの底面の円の中心を含む断面の対角線に相当し、立方体や直方体であればその対角線に相当する。本発明の半導体封止用樹脂ペレット集合体は、その最長部長さが10.0mm以下のものが個数にして90%以上が含まれるのが好ましく、0.5mm?8.0mmが90%以上となることがさらに好ましく、0.5mm?5.0mmが90%以上となることが特に好ましい。」

エ 「【0034】
本発明の半導体封止用樹脂ペレットを用い半導体素子を封止して半導体装置を製造する方法としては、低圧トランスファ-成形法が一般的であるがインジェクション成形法や圧縮成形法も可能である。成形条件としては、例えば半導体封止用樹脂ペレットを成形温度150?200℃、圧力5?15MPa、成形時間30?300秒で成形し、封止用樹脂組成物の硬化物とすることによって半導体装置が製造される。また、必要に応じて上記成形物を100?200℃で2?15時間、追加加熱処理も行われる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、表2、3中の数字は、重量%を示す。
【0036】
実施例1?9、比較例1?4
表1に示した成分を、表2、3に示した組成比でミキサーにより粉末状態でブレンドした。これをバレル温度90℃の二軸押出機を用いて溶融混練し、溶融状態で吐出口より円柱棒状に押出した。これをカッターで切断し、ほぼ円柱状の表2、3に示す大きさのペレットを得た。このペレットを用いて、低圧トランスファ-成形法により175℃×2分の条件で、半導体素子を封止成形して半導体装置を得た。」

オ 「【0039】
ペレットの仮想外接球の直径および最長部長さは次の方法で求めた。無作為に採取した100個のペレットの顕微鏡写真を撮影し、ペレットを円柱として考え、この写真から外径と長さを測定しその分布を求め、仮想外接球の直径および最長部長さを計算する。次にその仮想外接球の直径および最長部長さの大きいものから10個を除外し、残り90個の内最も大きいものの値を記載した。」

カ 「【0041】
【表1】



キ 「【0043】
【表2】



(2)甲第2号証に記載された発明の認定
甲第2号証には、摘示ア?キ、特に摘示アの請求項1、3、及び摘示エ、キの実施例3の記載から、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「低圧トランスファー成形法、インジェクション成形法及び圧縮成形法から選択される成形法により半導体素子を封止して半導体装置を製造するために用いる半導体封止用樹脂ペレットであって、
エポキシ樹脂および硬化剤と、全体の88.0重量%である無機充填材とを含有する溶融樹脂組成物を成形してなり、かつ該ペレットの比表面積が7?8×10^(-4)m^(2)/gである半導体封止用樹脂ペレット。」

1-2 対比・判断
(1)本件発明1について
本件発明1と引用発明とを対比する。
引用発明における「エポキシ樹脂」、「硬化剤」、「無機充填材」は、それぞれ、本件発明1における「(A)エポキシ樹脂」、「(B)硬化剤」、「(C)フィラー」に相当する。また、引用発明において、無機充填材は、全体の88.0重量%であるから、本件発明1において、(C)フィラーの含有率が「85質量%以上」であるという数値範囲を満たすといえる。
引用発明における「半導体素子を封止して半導体装置を製造するために用いる半導体封止用樹脂ペレット」は、本件発明1における「半導体封止樹脂材料」に相当する。また、引用発明における当該「樹脂ペレット」は、「溶融樹脂組成物を成形してな」るものであるから、本件発明1における「ペレット状」「の成形体」に相当する。

そうすると、両者は、
「(A)エポキシ樹脂と、(B)硬化剤と、(C)フィラーとを含み、前記(C)フィラーの含有率が85質量%以上であり、ペレット状又はシート状の成形体である半導体封止樹脂材料。」
の点で一致し、以下の点で相違又は一応相違している。

<相違点1>
本件発明1においては、成形体の厚みが「厚み4mm?10mm」と特定されているのに対して、引用発明においては、樹脂ペレットの厚みが特定されていない点。

<相違点2>
本件発明1においては、半導体封止樹脂材料が「コンプレッション成形用」であるのに対して、引用発明においては、半導体封止用樹脂ペレットが「低圧トランスファー成形法、インジェクション成形法及び圧縮成形法から選択される成形法により」半導体素子を封止して半導体装置を製造するために用いるものである点。

<相違点3>
本件発明1においては、半導体封止樹脂材料が「FO-WLPのための」と特定されているのに対して、引用発明においては、半導体封止用樹脂ペレットがFO-WLPのためのものであるとは特定されていない点。

事案に鑑み、相違点3について検討する。
引用発明においては、半導体封止用樹脂ペレットは、半導体素子を封止して半導体装置を製造するために用いるものである。当該半導体装置はFO-WLPという特定の形態を備える半導体装置ではないから、引用発明における半導体封止用樹脂ペレットが、FO-WLPのためのものであるとはいえない。
そうすると、相違点3は実質的な相違点である。

以上のとおり、本件発明1は引用発明と相違点1?3において相違又は一応相違するものであり、これらの相違点のうち相違点3は実質的な相違点であるから、相違点1、2について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明、すなわち甲第2号証に記載された発明であるとはいえない。

(2)本件発明5、6について
本件発明5、6は、請求項1を引用してなるものであるから、本件発明1と同様に、甲第2号証に記載された発明であるとはいえない。

2.特許法第29条第2項について
(1)本件発明1について
本件発明1と引用発明とを対比すると、第6 1.1-2(1)で述べたとおり、本件発明1と引用発明とは、
「(A)エポキシ樹脂と、(B)硬化剤と、(C)フィラーとを含み、前記(C)フィラーの含有率が85質量%以上であり、ペレット状又はシート状の成形体である半導体封止樹脂材料。」
の点で一致し、第6 1.1-2(1)で述べた相違点1?3で相違又は一応相違する。

事案に鑑み、相違点3について検討する。
甲第2号証には、半導体封止用樹脂ペレットが用いられる半導体装置が、FO-WLPという特定の形態を備える半導体装置であることについては、記載も示唆もされていない。また、甲第2、3号証を見ても、引用発明をFO-WLPのためのものとすることの動機付けとなるような記載は見当たらない。
そうである以上、甲第2、3号証には、引用発明における半導体装置をFO-WLPという特定の形態を備えるものとする動機付けがないことから、引用発明において相違点3に係る構成とすることは、当業者であっても容易であるとはいえない。
また、本件発明1は、所定の組成及び形状を有する半導体封止樹脂材料が、FO-WLPを作製するためのコンプレッション成形という用途における様々な問題を解決するという効果、具体的には「成形後や熱処理後における反り挙動が安定化するとともに、微粉の発生が大幅に低減され、さらにコンプレッション成形におけるボイド等の不良やチップ割れ、金型へのダメージを抑えることが可能になる。」という効果を奏するものである(本件特許明細書の段落【0004】?【0010】、【0018】)が、当該効果は甲第2、3号証に記載も示唆もなく、たとえ当業者であっても予測し得るものではない。

以上のとおり、本件発明1は引用発明と相違点1?3において相違又は一応相違するものであり、これらの相違点のうち相違点3は想到容易とはいえないのであるから、相違点1、2について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明、すなわち甲第2号証に記載された発明、及び甲第3号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

なお、特許異議申立人は、平成29年11月22日付け(受理日:同年11月24日)意見書において、参考資料1(特開2009-252859号公報)、参考資料2(特開2004-56141号公報)に記載されているように、本件発明1のようなコンプレッション成形用半導体封止樹脂材料をFO-WLPのためのものとすることは周知技術にすぎず、本件発明1は依然として進歩性を有さない旨を主張している。
しかしながら、本件発明1のようなコンプレッション成形用半導体封止樹脂材料をFO-WLPのためのものとすることは周知技術にすぎなかったとしても、本件発明1において特定される組成及び形状を有する半導体封止樹脂材料が、FO-WLPのためのコンプレッション成形という用途において、「成形後や熱処理後における反り挙動が安定化するとともに、微粉の発生が大幅に低減され、さらにコンプレッション成形におけるボイド等の不良やチップ割れ、金型へのダメージを抑えることが可能になる。」という効果を奏することについては、上記参考資料1、2にも記載も示唆もなく、たとえ当業者であっても予測し得るものではないから、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明、及び甲第3号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

(2)本件発明5、6について
本件発明5、6は、請求項1を引用してなるものであるから、本件発明1と同様に、甲第2号証に記載された発明、及び甲第3号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明2?4について
本件発明2?4は、請求項1を引用してなるものであるから、たとえ、甲第3号証に、「多官能型エポキシ樹脂(日本化薬株式会社製、商品名:EPPN-502)」、「多官能型フェノール樹脂(明和化成株式会社製、商品名:MEH-7500)」を含有するコンプレッション成形用成形材料が記載されていたとしても、本件発明1と同様に、甲第2号証に記載された発明、及び甲第3号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3.取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立理由について
(1)甲第1号証に基づく特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項について
甲第2号証は分割出願である特願2007-199923号の公開特許公報であり、甲第1号証は特願2007-199923号の原出願である特願平10-205385号の公開特許公報であり、甲第1号証の記載事項は甲第2号証の記載事項と同様である。
したがって、甲第2号証についてすでに検討したのと同様に、甲第1号証に記載された発明に対しても、本件発明1、5、6は特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、本件発明1?6は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

(2)甲第3号証に基づく特許法第29条第1項第3号について
甲第3号証には、本件発明1?4の発明特定事項である、「フィラーの含有率が85質量%以上であ」るとともに「厚み4mm?10mmのペレット状又はシート状の成形体であり、FO-WLPのためのコンプレッション成形用半導体封止樹脂材料」について記載も示唆もない。
したがって、本件発明1?4は、甲第3号証に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、当審が通知した取消理由、並びに特許異議申立書に記載した特許異議の申立理由及び証拠によっては、請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂と、(B)硬化剤と、(C)フィラーとを含み、前記(C)フィラーの含有率が85質量%以上であり、厚み4mm?10mmのペレット状又はシート状の成形体であり、FO-WLPのためのコンプレッション成形用半導体封止樹脂材料。
【請求項2】
前記(A)エポキシ樹脂が、下記一般式(I)に示される化合物を含む、請求項1に記載のコンプレッション成形用半導体封止樹脂材料。
【化1】

(ここで、Rは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1?10の置換若しくは非置換の1価の炭化水素基を示す。また、nは1?10の整数を示す。)
【請求項3】
前記(B)硬化剤が下記一般式(II)で示される化合物を含む、請求項1又は請求項2に記載のコンプレッション成形用半導体封止樹脂材料。
【化2】

(ここで、Rは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1?10の置換若しくは非置換の1価の炭化水素基を示す。また、nは1?10の整数を示す。)
【請求項4】
前記成形体を成形温度175℃以下、成形後熱処理温度150℃以下で硬化させたときのガラス転移温度が150℃以上である請求項1?請求項3のいずれか1項に記載のコンプレッション成形用半導体封止樹脂材料。
【請求項5】
前記(C)フィラーが、目開き55μmの篩を通過可能な粒子群である、請求項1?請求項4のいずれか1項に記載のコンプレッション成形用半導体封止樹脂材料。
【請求項6】
請求項1?請求項5のいずれか1項に記載のコンプレッション成形用半導体封止樹脂材料によって封止された素子を備えたFO-WLP型の半導体装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-12-25 
出願番号 特願2012-149971(P2012-149971)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C08L)
P 1 651・ 113- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小出 直也柳本 航佑  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 岡崎 美穂
西山 義之
登録日 2016-11-25 
登録番号 特許第6044137号(P6044137)
権利者 日立化成株式会社
発明の名称 コンプレッション成形用半導体封止樹脂材料及び半導体装置  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  
代理人 小林 俊弘  
代理人 好宮 幹夫  

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