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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 E04F 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 E04F 審判 全部申し立て 特29条の2 E04F 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 E04F 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 E04F |
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管理番号 | 1337058 |
異議申立番号 | 異議2017-700483 |
総通号数 | 219 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-03-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-05-16 |
確定日 | 2018-01-10 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6025340号発明「壁パネル、及び、壁パネルの施工方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6025340号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2について訂正することを認める。 特許第6025340号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6025340号の請求項1、2に係る特許についての出願は、平成24年2月15日に特許出願され、平成28年10月21日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人吉村釟郎(以下「申立人」という。)より、請求項1、2に対して特許異議の申立てがされ、平成29年7月14日付けで取消理由(発送日同年7月20日)が通知され、その指定期間内である同年9月15日に意見書の提出及び訂正請求がなされ、同年11月2日に申立人から意見書が提出されたものである。 第2 訂正請求について 1 訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は以下の(1)?(4)のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。) (1)訂正事項1 請求項1に、「凸部が四角形状に形成した隆起部にて前記平板の全域に井桁状に複数配設されており」とあるのを、「一枚の壁パネルに、凸部が四角形状に形成した隆起部にて前記平板の全域に井桁状に複数配設されており」に訂正する。 (2)訂正事項2 請求項1に、「壁パネルを横方向に隣合わせた際に」とあるのを、「二枚の前記壁パネルを横方向に隣合わせて目地材を充填することなく接合部目地を形成した際に」に訂正する。 (3)訂正事項3 請求項2に、「前記壁パネルは、凸部が四角形状に形成した隆起部にて前記平板の全域に井桁状に複数配設されており」とあるのを、「一枚の壁パネルは、凸部が四角形状に形成した隆起部にて前記平板の全域に井桁状に複数配設されており」に訂正する。 (4)訂正事項4 請求項2に、「壁パネルを横方向に隣合わせ」とあるのを、「二枚の前記壁パネルを横方向に隣合わせて目地材を充填することなく接合部目地を形成し」に訂正する。 2 訂正の適否 (1)訂正事項1、3について ア 訂正の目的の適否について 訂正事項1、3は、壁パネルの態様について「一枚の」と限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するか否かについて 上記アで説示したように、訂正事項1、3は壁パネルの態様について限定したものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 ウ 願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて 訂正事項1、3に関して、本件明細書には「【0026】各壁パネル1A?1Dは、・・・例えば、プレス成形によりレンガ調などの柄意匠を構成する窯業壁材や、板状基材にタイルなどの部材を配置してなるタイルパネルなどが考えられ、図1に示すように、各凸面15,15の間に溝状の横目地11a,11bや、縦目地12x,12yが形成される。」と記載され、一枚の壁パネルについて記載されているから、訂正事項1、3は明細書に記載されているものと認められる。 (2)訂正事項2、4について ア 訂正の目的の適否について 訂正事項2、4は、壁パネルを横方向に隣合わせた際の態様について限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 実質上特許請求の範囲の範囲を拡張し、又は変更するか否かについて 上記アで説示したように、訂正事項2、4は壁パネルを横方向に隣合わせた際の態様について限定したものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 ウ 願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて 訂正事項2、4に関して、本件明細書には「【0024】以下、実施形態について説明すると、図1では複数の壁パネル1A?1Dを並設させた状態を示しており、・・・壁パネル1A,1Bが横方向に隣り合い、また、壁パネル1C,1Dが横方向に隣り合っており、横方向に隣り合う壁パネルの間には、縦方向の接合部目地50Vが形成される。接合部目地50Vは、目地材を充填することなどによって塞ぐこととしてもよい。」と記載されており、当該記載には目地材を充填しないことも開示されていると解されるから、訂正事項2、4は明細書に記載されているものと認められる。 3 小括 したがって、上記訂正請求による訂正事項1?4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項、第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項1、2について訂正を認める。 第3 特許異議の申立てについて 1 訂正後の請求項1、2に係る発明 上記訂正請求により訂正された請求項1、2に係る発明(以下「本件訂正発明1」等という。)は、以下のとおりのものである。(下線は訂正箇所を示す。) 本件訂正発明1 「【請求項1】 方形状の平板の表面に凹凸を形成して柄模様を形成してなる壁パネルであって、 一枚の壁パネルに、凸部が四角形状に形成した隆起部にて前記平板の全域に井桁状に複数配設されており、 凹部が前記隆起部間に目地として配置されており、 壁パネルの対向する縦方向の2辺の縁に、それぞれ、幅広に形成した幅広目地と幅狭に形成した幅狭目地が形成されており、 壁パネルを横方向に隣合わせた際に、前記2辺の縁のうち一方の縁側に配置される目地と、前記2辺の縁のうち他方の縁側に配置される目地とが対向し、対向し合う一方が幅広目地であり、他方が幅狭目地であり、 幅広目地間に幅狭目地が位置しており、 二枚の前記壁パネルを横方向に隣合わせて目地材を充填することなく接合部目地を形成した際に、 一方の壁パネルの一方の縁部位の幅広目地と、他方の壁パネルの他方の縁部分の幅狭目地が対向する第一部位と、 一方の壁パネルの一方の縁部位の幅狭目地と、他方の壁パネルの他方の縁部分の幅広目地が対向する第二部位と、が形成され、 前記第一部位と前記第二部位において、それぞれ、前記縦方向において幅広目地の範囲内に幅狭目地があり、幅広目地と幅狭目地が連続して構成される目地ラインにて略水平な一直線状のラインが形成され、 前記第一部位と前記第二部位は、前記縦方向においてランダムに存在するように構成される、壁パネル。」 本件訂正発明2 「【請求項2】 方形状の平板の表面に凹凸を形成して柄模様を形成してなる壁パネルを用いた壁面の施工方法であって、 一枚の壁パネルは、 凸部が四角形状に形成した隆起部にて前記平板の全域に井桁状に複数配設されており、 凹部が前記隆起部間に目地として配置されており、 壁パネルの対向する縦方向の2辺の縁に、それぞれ、幅広に形成した幅広目地と幅狭に形成した幅狭目地が形成されており、 壁パネルを横方向に隣合わせた際に、前記2辺の縁のうち一方の縁側に配置される目地と、前記2辺の縁のうち他方の縁側に配置される目地とが対向し、対向し合うー方が幅広目地であり、他方が幅狭目地であり、幅広目地間に幅狭目地が位置しており、 二枚の前記壁パネルを横方向に隣合わせて目地材を充填することなく接合部目地を形成し、 一方の壁パネルのー方の縁部位の幅広目地と、他方の壁パネルの他方の縁部分の幅狭目地が対向する第一部位と、 一方の壁パネルの一方の縁部位の幅狭目地と、他方の壁パネルの他方の縁部分の幅広目地が対向する第二部位と、を形成し、 前記第一部位と前記第二部位において、それぞれ、前記縦方向において幅広目地の範囲内に幅狭目地があり、幅広目地と幅狭目地が連続して構成される目地ラインにて略水平な一直線状のラインを形成させ、 前記第一部位と前記第二部位を前記縦方向においてランダムに存在させる、 壁パネルを用いた壁面の施工方法。」 2 取消理由の概要 訂正前の請求項1、2に係る特許に対して平成29年7月14日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 (1)本件特許の請求項1、2に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された下記甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 (2)本件特許の請求項1、2に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された下記甲第1号証、甲第3号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 (3)本件特許の請求項1、2に係る発明は、本件特許の出願の日前の特許出願であって、本件特許の出願後に出願公開の発行がされた下記甲第2号証の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の出願の発明者が本件特許の出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもなく、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 (4)請求項1、2に係る本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 3 刊行物の記載 甲第1号証:特開2002-220914号公報 甲第2号証:特願2011-176511号(特開2013-40458号) 甲第3号証:特開2004-107874号公報 (1)取消理由通知において引用した甲第1号証には、図面とともに次の記載があり、申立人が主張するとおり、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている(申立書14頁下4行?21頁3行)。 ア 「【0006】 【発明の実施の形態】本発明の一実施例を図1?図3に示す。図1イには基準パネルA、ロ、ハ、ニにはそれぞれ変形パネルB,C,Dの平面図が示される。図2に示すように基準パネルAの隣接する縦横二辺には基準巾Wの低段部HS、VSが形成されている。また変形パネルBの上辺には巾W-δ_(1) の低段部HS_(1 )、下辺には巾δ_(1) の低段部HS_(2) 、右辺には基準巾Wの低段部VSが形成され、変形パネルCの上辺には基準巾Wの低段部HS、右辺には巾W-δ_(2) の低段部VS_(1) 、左辺には巾δ_(2)の低段部VS_(2) が形成され、変形パネルDの上辺には巾W-δ_(3 )の低段部HS_(2)、下辺には巾δ_(3) の低段部HS_(3 )、右辺には巾W-δ_(4 )の低段部VS_(3) 、左辺には巾δ_(4) の低段部VS_(4 )が形成されている。こゝに各パネルA,B,C,Dの横長L_(1) =101mm、縦長L_(2 )=45.5mm、W=5mm、δ_(1) =δ_(2 )=δ_(3) =δ_(4)=δ=1mmである。 【0007】このようなパネルA,B,C,Dを図3に示すように10行3列に配列して基本ブロックBLとする。この場合上下両端行(1行目と10行目)の左右両端即ち基本ブロックBLの四隅には例えば基準パネルAのような同種のパネルを配置し、図4に示すように上下両端行の左端の基準パネルAの右辺同志を通る基準線Sl_(1) と、右端の基準パネルAの左辺同志を通る基準線Sl_(2 )とを想定する。上記配列において、パネル間には縦横の目地溝Gが形成されるが、各パネル間に形成される目地溝Gの巾は下記の通りになる。」 イ 「【0012】このような基本ブロックBLを図5に示すように横に4個配列して建築板BBL一枚の模様とする。上記建築板BBLは例えば木片、木質繊維束、バルプ等の木質補強材によってセメント板を補強した木質セメント板からなり、上記模様は該木質セメント板製造過程におけるエンボス工程によって付される。」 ウ 甲1発明 「方形状の平板の表面に凹凸を形成して柄模様を形成してなる建築板(BBL)であって、 パネル(A、B、C、D)が四角形状に形成した隆起部にて前記平板の全域に井桁状に複数配設されており、 低段部(HS、VS)が前記隆起部間に目地溝(HG4、HG5、HG 6、VG4、VG5、VG6)として配置されており、 建築板(BBL)の対向する縦方向の2辺の縁に、それぞれ、幅広に形成した横目地溝(HG6又はHG5)と幅狭に形成した横目地溝(HG4又はHG5)が形成されており、 建築板(BBL)を横方向に隣合わせた際に、前記2辺の縁のうち、一方の縁側に配置される横目地溝(HG4、HG5、HG6)と、前記2辺の縁のうち他方の縁側に配置される横目地溝(HG4、HG5、HG6)とが対向し、対向し合う一方が幅広な横目地溝(HG6又はHG5)であり、他方が幅狭な横目地溝(HG4又はHG5)であり、 幅広な横目地溝(HG6又はHG5)間に幅狭な横目地溝(HG4又はHG5)が位置しており、 建築板(BBL)を横方向に隣合わせた際に、一方の建築板(BBL)の一方の縁部位の幅広な横目地溝(HG6又はHG5)と、他方の建築板(BBL)の他方の縁部分の幅狭な横目地溝(HG4又はHG5)が対向する第一部位と、 一方の建築板(BBL)の一方の縁部位の幅狭な横目地溝(HG4又はHG5)と、他方の建築板(BBL)の他方の縁部分の幅広な横目地溝(HG6又はHG5)が対向する第二部位と、が形成され、 前記第一部位と前記第二部位において、それぞれ、前記縦方向において幅広な横目地溝(HG6又はHG5)の範囲内に幅狭な横目地溝(HG4又はHG5)があり、幅広な横目地溝(HG6又はHG5)と幅狭な横目地溝(HG4又はHG5)が連続して構成される目地ラインにて略水平な一直線状のラインが形成され、 前記第一部位と前記第二部位は、前記縦方向においてランダムに存在するように構成される、 建築板(BBL)。」 (2)取消理由通知において引用した甲第2号証には、申立人の主張を踏まえつつ、以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている(申立書22頁2行?25頁24行)。 ただし、「幅広に形成した通し目地」、「幅狭に形成した通し目地」については、外壁材の一方に幅広に形成した通し目地が形成され、他方に幅狭に形成した通し目地が形成されたと認定した。 甲2発明 「方形状の基材(1)の表面に凹凸を形成してタイル状又はレンガ状の模様を形成してなる外壁材であって、 凸部が四角形状に形成した矩形部(4)にて前記基材(1)の全域に井桁状に複数配設されており、 凹部が前記矩形部(4)間に通し目地(2)及び直交通し目地(3)として配置されており、 外壁材の対向する縦方向の2辺の縁の一方に、幅広(Wn又はWl)に形成した通し目地(2)が、他方に幅狭(Wl又はWn)に形成した通し目地(2)が形成されており、 外壁材を横方向に隣合わせた際に、前記2辺の縁のうち一方の縁側に配置される通し目地(2)と、前記2辺の縁のうち他方の縁側に配置される通し目地(2)とが対向し、対向し合う一方が幅広(Wn又はWl)の通し目地(2)であり、他方が幅狭(Wl又はWn)の通し目地(2)であり、 幅広(Wn又はW1)の通し目地(2)間に幅狭(Wl又はWn)の通し目地(2)が位置しており、 外壁材を横方向に隣合わせた際に、 一方の外壁材の一方の縁部位における幅広(Wn又はWl)の通し目地(2)と、他方の外壁材の他方の縁部分における幅狭(Wl又はWn)の通し目地(2)が対向しており、 前記縦方向において幅広(Wn又はWl)の通し目地(2)の範囲内に幅狭(Wl又はWn)の通し目地(2)があり、幅広(Wn又はWl)の通し目地(2)と幅狭(Wl又はWn)の通し目地(2)が連続して構成される目地ラインにて略水平な一直線状のラインが形成される、 外壁材。」 (3)取消理由通知において引用した甲第3号証には、申立人が主張するとおり、以下の技術(以下「甲3技術」という。)が記載されている(申立書26頁下から4行?27頁6行)。 甲3技術 「建築板(1)の対向する縦方向の2辺の縁に、それぞれ、幅広に形成した幅広目地(31、33、35)と幅狭に形成した幅狭目地(32、34、36)が形成されていること。 建築板(1)を横方向に隣合わせた際に、2辺の縁のうち右縁側に配置される横目地(3)と、2辺の縁のうち左縁側に配置される横目地(3)とが対向し、対向し合う一方が幅広目地(31、33、35)であり、他方が幅狭目地(36、34、32)であること。」 4 取消理由通知に記載した取消理由(第29条第1項第3号、第29条第2項、第29条の2、第36条第6項第2号)について (1)第29条第1項第3号、第29条第2項について ア 対比・判断 (ア)本件訂正発明1について a 本件訂正発明1と甲1発明の対比 本件訂正発明1と、甲1発明を対比すると、少なくとも以下の点で相違する。 <相違点> 壁パネルを横方向に隣合わせた際に、本件訂正発明1が「対向し合う一方が幅広目地であり、他方が幅狭目地であ」るのに対し、甲1発明では、対向し合う一方、他方が同じサイズの横目地溝(HG5)である場合が存在する点。 b 判断 相違点について検討するに、甲第1号証には、対向し合う一方、他方に同じサイズの横目地溝(HG5)を設けないようにすることを示唆する記載はないことから、本件訂正発明1に係る「対向し合う一方が幅広目地であり、他方が幅狭目地であ」る構成を有する甲3技術を甲1発明に適用したとしても、甲1発明の「対向し合う一方、他方共に同じサイズの横目地溝を設ける」構成を選択的に排除して本件訂正発明1のようにすることは自然ではなく当業者が容易に想到しうる程度のこととはいえない。 また、甲第3号証に記載されたものは幅広目地、幅狭目地が規則的に交互に形成されていること、及び幅広目地間から幅狭目地がはみ出した態様があること(図1等参照)から、仮に甲第3号証に記載されたものをそのまま甲1発明に適用したとしても、本件訂正発明1の「前記第一部位と前記第二部位を前記縦方向においてランダムに存在させる」及び「幅広目地間に幅狭目地が位置しており」との構成を有しないこととなるから、そのような観点からも、甲第1号証、甲第3号証に記載されたものから本件訂正発明1を導き出すことは困難であるいえる。 申立人は、平成29年11月2日付け意見書(以下「申立人意見書」という。)において「しかし、本件特許の訂正後の請求項1の構成要件Hでは「幅広目地の範囲内に幅狭目地があり」と記載されているだけであり、「幅広目地の範囲内に幅狭目地がない場合」を排除していない。つまり、本件特許の訂正後の請求項1の構成要件Hは「幅広目地の範囲内に幅狭目地が位置しない部位を有しない場合」を含んでいる。また、本件特許の訂正後の請求項1の構成要件Iでは、「前記第一部位と前記第二部位は、前記縦方向においてランダムに存在するように構成される」と記載されているだけであり、第一部位と第二部位がランダム(交互でない)であるとしても、第一部位及び第二部位しか存在しないとは規定されていない。」(申立人意見書3頁14行?21行)と主張するが、本件訂正後の請求項1の 「壁パネルの対向する縦方向の2辺の縁に、それぞれ、幅広に形成した幅広目地と幅狭に形成した幅狭目地が形成されており、 壁パネルを横方向に隣合わせた際に、前記2辺の縁のうち一方の縁側に配置される目地と、前記2辺の縁のうち他方の縁側に配置される目地とが対向し、対向し合う一方が幅広目地であり、他方が幅狭目地であり、 幅広目地間に幅狭目地が位置しており、 ・・・ 一方の壁パネルの一方の縁部位の幅広目地と、他方の壁パネルの他方の縁部分の幅狭目地が対向する第一部位と、 一方の壁パネルの一方の縁部位の幅狭目地と、他方の壁パネルの他方の縁部分の幅広目地が対向する第二部位と、が形成され、 ・・・ 前記第一部位と前記第二部位は、前記縦方向においてランダムに存在するように構成される、壁パネル。」 の記載から見て、他の態様は含まないとの明記はないものの、一方で、他の態様を含み得る選択的な表現やそのようなことを示唆する表現はないことから、「幅広目地の範囲内に幅狭目地がない場合」や「第一部位」、「第二部位」が存在しない場合を含んでいると解することはできず、そのような場合は想定していないと解することが相当である。このことは、本件明細書又は図面において、上記「幅広目地の範囲内に幅狭目地がない場合」や「第一部位」、「第二部位」が存在しない場合を含み得る実施例等が何ら開示されていないことからも推認されることである。 c 小括 よって、本件訂正発明1は、甲1発明と同一でなく、また、甲1発明及び甲第3号証に記載されたものから当業者が容易に想到しうるものではない。 (イ)本件訂正発明2について 本件訂正発明2は、壁パネルを用いた壁面の施工方法であり、壁パネルの構成は本件訂正発明1と同じであると認められるから、上記(ア)の判断と同様に、本件訂正発明2は、甲1発明と同一でなく、また、甲1発明及び甲第3号証に記載されたものから当業者が容易に想到しうるものではない。 イ まとめ したがって、本件訂正発明1、2は、甲1発明と同一ではなく、その特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものではない。 また、本件訂正発明1、2は、甲1発明及び甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。 (2)第29条の2について ア 対比・判断 (ア)本件訂正発明1について a 本件訂正発明1と甲2発明の対比 本件訂正発明1と、甲2発明を対比すると、少なくとも以下の点で相違する。 <相違点> 目地に関して、本件訂正発明1が「壁パネルの対向する縦方向の2辺の縁に、それぞれ、幅広に形成した幅広目地と幅狭に形成した幅狭目地が形成され」るのに対し、甲2発明では「外壁材の対向する縦方向の2辺の縁の一方に、幅広(Wn又はWl)に形成した通し目地(2)が、他方に幅狭(W1又はWn)に形成した通し目地(2)が形成され」る点。 b 判断 相違点について検討するに、甲第2号証には、本件訂正発明1の「壁パネルの対向する縦方向の2辺の縁」それぞれに「幅広目地」、「幅狭目地」を形成することは記載されておらず、また、甲第2号証に記載されたものから自明な事項、あるいは記載されたに等しい事項とはいえない。 申立人は、申立人意見書において、「しかし、甲第2号証には、「図2では、通し目地2の上端部の目地幅W1を狭く、下端部の目地幅Wnを広くしている。…通し目地2の上端部の目地幅W1を広く、下端部の目地幅Wnを狭くしてもよい。」(【0022】)、「また、図1のように通し目地2を複数設ける場合、全ての通し目地2について一端部の目地幅W1と他端部の目地幅Wnとが異なっていなくてもよい。すなわち、一部の通し目地2については一端部の目地幅W1と他端部の目地幅Wnとは同じでもよい。この場合、一端部の目地幅W1と他端部の目地幅Wnとが異なる通し目地2の数の割合は、全ての通し目地2の数に対して50?100%であることが好ましい。」(【0026】)との記載がある。」(申立人意見書4頁17行?25行)と主張するが、甲第2号証の当該記載は、目地幅W1とWnの大小が反対でも良いこと、及び同じサイズであっても良いということを説示しているだけであり、本件訂正発明1に係る「壁パネルの対向する縦方向の2辺の縁」それぞれに「幅広目地」、「幅狭目地」を形成する構成を意図している、あるいは含意しているとは認められない。 c 小括 よって、本件訂正発明1は、甲2発明と同一でない。 (イ)本件訂正発明2について 本件訂正発明2は、壁パネルを用いた壁面の施工方法であり、壁パネルの構成は本件訂正発明1と同じであると認められるから、上記(ア)の判断と同様に、本件訂正発明2は、甲2発明と同一でない。 イ まとめ したがって、本件訂正発明1、2は、甲2発明と同一ではなく、その特許は特許法第29条の2の規定に違反してされたものではない。 (3)第36条第6項第2号について 申立人は、本件請求項1、2に係る「ランダム」に含まれる構成が不明瞭であると主張している(申立書11頁22行?12頁21行)。 申立人が主張するとおり、「ランダム」とは「手当り次第、無作為の意」(広辞苑第三版第八刷)であり、本件請求項1、2に係る、第一部位、第二部位が「縦方向においてランダムに存在する」とは、上記用語の意味のとおり、第一部位、第二部位が縦方向において無作為に存在している、つまり、規則的には存在していないと解することができる。 したがって、請求項1、2に係る本件特許は、特許請求の範囲の記載が不明瞭ではなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。 第4 むすび 以上のとおりであるから、平成29年7月14日付け取消理由通知及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由、証拠によっては、本件請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 方形状の平板の表面に凹凸を形成して柄模様を形成してなる壁パネルであって、 一枚の壁パネルに、凸部が四角形状に形成した隆起部にて前記平板の全域に井桁状に複数配設されており、 凹部が前記隆起部間に目地として配置されており、 壁パネルの対向する縦方向の2辺の縁に、それぞれ、幅広に形成した幅広目地と幅狭に形成した幅狭目地が形成されており、 壁パネルを横方向に隣合わせた際に、前記2辺の縁のうち一方の縁側に配置される目地と、前記2辺の縁のうち他方の縁側に配置される目地とが対向し、対向し合う一方が幅広目地であり、他方が幅狭目地であり、 幅広目地間に幅狭目地が位置しており、 二枚の前記壁パネルを横方向に隣合わせて目地材を充填することなく接合部目地を形成した際に、 一方の壁パネルの一方の縁部位の幅広目地と、他方の壁パネルの他方の縁部分の幅狭目地が対向する第一部位と、 一方の壁パネルの一方の縁部位の幅狭目地と、他方の壁パネルの他方の縁部分の幅広目地が対向する第二部位と、が形成され、 前記第一部位と前記第二部位において、それぞれ、前記縦方向において幅広目地の範囲内に幅狭目地があり、幅広目地と幅狭目地が連続して構成される目地ラインにて略水平な一直線状のラインが形成され、 前記第一部位と前記第二部位は、前記縦方向においてランダムに存在するように構成される、壁パネル。 【請求項2】 方形状の平板の表面に凹凸を形成して柄模様を形成してなる壁パネルを用いた壁面の施工方法であって、 一枚の壁パネルは、 凸部が四角形状に形成した隆起部にて前記平板の全域に井桁状に複数配設されており、 凹部が前記隆起部間に目地として配置されており、 壁パネルの対向する縦方向の2辺の縁に、それぞれ、幅広に形成した幅広目地と幅狭に形成した幅狭目地が形成されており、 壁パネルを横方向に隣合わせた際に、前記2辺の縁のうち一方の縁側に配置される目地と、前記2辺の縁のうち他方の縁側に配置される目地とが対向し、対向し合う一方が幅広目地であり、他方が幅狭目地であり、幅広目地間に幅狭目地が位置しており、 二枚の前記壁パネルを横方向に隣合わせて目地材を充填することなく接合部目地を形成し、 一方の壁パネルの一方の縁部位の幅広目地と、他方の壁パネルの他方の縁部分の幅狭目地が対向する第一部位と、 一方の壁パネルの一方の縁部位の幅狭目地と、他方の壁パネルの他方の縁部分の幅広目地が対向する第二部位と、を形成し、 前記第一部位と前記第二部位において、それぞれ、前記縦方向において幅広目地の範囲内に幅狭目地があり、幅広目地と幅狭目地が連続して構成される目地ラインにて略水平な一直線状のラインを形成させ、 前記第一部位と前記第二部位を前記縦方向においてランダムに存在させる、 壁パネルを用いた壁面の施工方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-12-22 |
出願番号 | 特願2012-30127(P2012-30127) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(E04F)
P 1 651・ 851- YAA (E04F) P 1 651・ 121- YAA (E04F) P 1 651・ 113- YAA (E04F) P 1 651・ 16- YAA (E04F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 西村 隆 |
特許庁審判長 |
小野 忠悦 |
特許庁審判官 |
住田 秀弘 井上 博之 |
登録日 | 2016-10-21 |
登録番号 | 特許第6025340号(P6025340) |
権利者 | 旭トステム外装株式会社 |
発明の名称 | 壁パネル、及び、壁パネルの施工方法 |
代理人 | 正林 真之 |
代理人 | 正林 真之 |
代理人 | 芝 哲央 |
代理人 | 星野 寛明 |
代理人 | 岩池 満 |
代理人 | 星野 寛明 |
代理人 | 芝 哲央 |
代理人 | 岩池 満 |