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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B32B
管理番号 1337062
異議申立番号 異議2017-700045  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-03-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-01-19 
確定日 2018-01-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第5969955号発明「化粧板及び化粧板の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5969955号の請求項1?4に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
特許第5969955号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成25年6月19日に特許出願され、平成28年7月15日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人徳田あけみ(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成29年4月24日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年5月30日に本件特許の特許権者から意見書(以下、「特許権者意見書1」という。)の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。訂正自体を「本件訂正」という。)があり、本件訂正請求に対して、申立人から平成29年6月22日に意見書が提出され、平成29年7月27日付けで訂正拒絶理由が通知され、その指定期間内である平成29年8月28日に本件特許の特許権者から意見書(以下、「特許権者意見書2」という。)の提出があり、平成29年9月21日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である平成29年11月20日に特許権者より意見書(以下、「特許権者意見書3」という。)の提出があったものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正の内容は以下のア.?エ.のとおりである(下線部は、訂正箇所である。)。
ア.訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「塗布後、加熱ロールで前記反応性ホットメルト接着剤の表面を表面粗さが3μm?10μmに平滑にした反応性ホットメルト層を形成し」
と記載されているのを、
「塗布後、加熱ロールで前記反応性ホットメルト接着剤の表面を株式会社ミツトヨ製の表面粗さ測定器(サーフテスト)を使用して測定することができる表面粗さが3μm?10μmに平滑にした反応性ホットメルト層を形成し」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する)。

イ.訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に
「この基材の表面に設けられ、反応性ホットメルト接着剤で形成されると共に、表面粗さが3μm?10μmの平滑な反応性ホットメルト層と、」
と記載されているのを、
「この基材の表面に設けられ、反応性ホットメルト接着剤で形成されると共に、株式会社ミツトヨ製の表面粗さ測定器(サーフテスト)を使用して測定することができる表面粗さが3μm?10μmの平滑な反応性ホットメルト層と、」
に訂正する(請求項3の記載を引用する請求項4も同様に訂正する)。

ウ.訂正事項3
明細書の【0006】の「請求項1記載の化粧板の製造方法は、基材の表面に反応性ホットメルト接着剤を塗布し、塗布後、加熱ロールで前記反応性ホットメルト接着剤の表面を表面粗さが3μm?10μmに平滑にした反応性ホットメルト層を形成し、この反応性ホットメルト層の前記反応性ホットメルト接着剤を硬化させ、硬化後、前記反応性ホットメルト層の表面に、印刷又は塗装により模様又は着色を施した中間層を形成し、その後、前記中間層の表面に透明のUV塗料の保護層を形成するものである。」との記載を、
「請求項1記載の化粧板の製造方法は、基材の表面に反応性ホットメルト接着剤を塗布し、塗布後、加熱ロールで前記反応性ホットメルト接着剤の表面を株式会社ミツトヨ製の表面粗さ測定器(サーフテスト)を使用して測定することができる表面粗さが3μm?10μmに平滑にした反応性ホットメルト層を形成し、この反応性ホットメルト層の前記反応性ホットメルト接着剤を硬化させ、硬化後、前記反応性ホットメルト層の表面に、印刷又は塗装により模様又は着色を施した中間層を形成し、その後、前記中間層の表面に透明のUV塗料の保護層を形成するものである。」 に訂正する。

エ.訂正事項4
明細書の【0008】の「また、請求項3記載の化粧板は、基材と、この基材の表面に設けられ、反応性ホットメルト接着剤で形成されると共に、表面粗さが3μm?10μmの平滑な反応性ホットメルト層と、この反応性ホットメルト層の表面に印刷又は塗装により模様又は着色を施した中間層と、この中間層の表面に設けられた透明のUV塗料の保護層と、を備えているものである。」との記載を、
「また、請求項3記載の化粧板は、基材と、この基材の表面に設けられ、反応性ホットメルト接着剤で形成されると共に、株式会社ミツトヨ製の表面粗さ測定器(サーフテスト)を使用して測定することができる表面粗さが3μm?10μmの平滑な反応性ホットメルト層と、この反応性ホットメルト層の表面に印刷又は塗装により模様又は着色を施した中間層と、この中間層の表面に設けられた透明のUV塗料の保護層と、を備えているものである。」に訂正する。

(2)訂正の目的の適否
ア.訂正事項1について
特許権者は、特許権者意見書1において、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであると主張している。
この点を検討する。
ここで、「明瞭でない記載の釈明」とは、それ自体が意味の明らかでない記載など、記載上不備が生じている記載であって、特に特許請求の範囲について「明瞭でない記載」とは、請求項の記載そのものが文理上意味が不明瞭である場合、又は請求項自体の記載は明瞭であるが技術的に正確に特定されず不明瞭である場合等をいい、その「釈明」とは、記載の不明瞭さを正してその記載本来の意味内容を明らかにすることをいうものと解される。
したがって、訂正事項1が「明瞭でない記載の釈明」に該当するためには、本件訂正前の「塗布後、加熱ロールで前記反応性ホットメルト接着剤の表面を表面粗さが3μm?10μmに平滑にした反応性ホットメルト層を形成し」との記載が上記明瞭でない記載と認められ、本件訂正後の「塗布後、加熱ロールで前記反応性ホットメルト接着剤の表面を株式会社ミツトヨ製の表面粗さ測定器(サーフテスト)を使用して測定することができる表面粗さが3μm?10μmに平滑にした反応性ホットメルト層を形成し」の記載によって、その記載の本来の意味内容が明らかになることを要する。
まず、本件訂正前の記載を検討する。「表面粗さ」は、多義のパラメータ(例えば、「粗さ曲線の算術平均粗さRa」、「粗さ曲線の十点平均粗さRz」等。「Ra」、「Rz」等の名称、定義は「JIS B 0601:1994」による。以下同じ。)を指すので、「表面粗さ」がその多義のパラメータのうち、何れを指すのか不明であるから、訂正前の本件特許の請求項1の「表面粗さが3μm?10μmに」の記載は、不明瞭であるので、本件訂正前の「塗布後、加熱ロールで前記反応性ホットメルト接着剤の表面を表面粗さが3μm?10μmに平滑にした反応性ホットメルト層を形成し」は、「請求項自体が技術的に正確に特定されず不明瞭である場合」に該当し、明瞭でない記載と認められる。
一方、本件訂正後の記載を検討する。申立人の提出した甲第2号証(「小形表面粗さ測定機 サーフテストSJ-210シリーズ」パンフレット、株式会社ミツトヨ、5頁仕様「パラメータ」欄)に示されるように、株式会社ミツトヨ製の表面粗さ測定器(サーフテスト)を使用して測定することができる表面粗さは、複数種類(例えば、「Ra」、「Rz」、「Rq」、「Rp」等)存在する。そうすると、本件訂正後の「株式会社ミツトヨ製の表面粗さ測定器(サーフテスト)を使用して測定することができる表面粗さ」は、依然として多義のパラメータ(例えば、「Ra」、「Rz」、「Rq」、「Rp」等)を指すので、「株式会社ミツトヨ製の表面粗さ測定器(サーフテスト)を使用して測定することができる表面粗さが3μm?10μmに」の記載は、不明瞭であるから、訂正後の「塗布後、加熱ロールで前記反応性ホットメルト接着剤の表面を株式会社ミツトヨ製の表面粗さ測定器(サーフテスト)を使用して測定することができる表面粗さが3μm?10μmに平滑にした反応性ホットメルト層を形成し」の記載によっても、その記載の本来の意味内容が明らかになっていないといえる。
したがって、訂正事項1は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものではない。
また、訂正事項1は、当審の平成29年4月24日付けで通知された、特許請求の範囲の記載が明確ではないとする取消理由に対するものであることからみて、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではない。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号ないし第4号に規定する何れの事項を目的とする訂正ではないことから、訂正事項1についての訂正は認められない。

イ.訂正事項2について
上記ア.の訂正事項1について述べた同様の理由により、訂正事項2は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものではない。
また、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、請求項間の引用関係の解消を目的とするものでもない。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号ないし第4号に規定する何れの事項を目的とする訂正ではないことから、訂正事項2についての訂正は認められない。

ウ.訂正事項3について
上記ア.の訂正事項1について述べた同様の理由により、訂正事項3は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものではない。
また、訂正事項3は、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではない。
よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号ないし第4号に規定する何れの事項を目的とする訂正ではないことから、訂正事項3についての訂正は認められない。

エ.訂正事項4について
上記ア.の訂正事項1について述べた同様の理由により、訂正事項4は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものではない。
また、訂正事項4は、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではない。
よって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号ないし第4号に規定する何れの事項を目的とする訂正ではないことから、訂正事項4についての訂正は認められない。

オ.特許権者意見書2における意見について
特許権者意見書2において、特許権者は、甲第1号証?甲第5号証(以下、特許権者意見書2において、特許権者が提出した、「甲第1号証」?「甲第5号証」を、申立人の提出した証拠と区別するために、それぞれ「乙第1号証」?「乙第5号証」と記述する。)を提出し、「本件特許の「株式会社ミツトヨ製の表面粗さ測定器(サーフテスト)を使用して測定することができる表面粗さが3μm?10μm」にいう表面粗さは、具体的には、例えば、株式会社ミツトヨ製の表面粗さ測定器(サーフテストSJ-210シリーズ「甲第5号証(当審注:乙第5号証)」で言えば、第2頁記載のRa(算術平均粗さ)である。それ故、本件特許の「株式会社ミツトヨ製の表面粗さ測定器(サーフテスト)を使用して測定することができる表面粗さが3μmから10μ」は、明確であり、本件訂正は、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、訂正事項1?4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号ないし第4号に規定する要件を満たしたものであり、訂正事件1?4についての訂正は認められるべき」旨主張している。
この点を検討する。
乙第1号証(山田学 「実務者のためのCAD読本 4th STEP 第3回:面の肌記号の記入上の注意点と使い方」、大塚商会ウェブページ)には、鉄鋼やアルミ・銅などの金属材料を機械加工する際の面の表面粗さの「面の肌記号」に関することが示されているが(乙第1号証1頁?2頁参照)、化粧板の技術分野における表面粗さについての記載はない。そうすると、特許権者が指摘する乙第1号証の「一般的に、特に理由がない場合、表面粗さは「算術平均粗さ:Ra」を用いる。しかし、真空装置や高圧製品のような漏れが許されないシール部の表面粗さは「最大高さ:Rz」を用いることが一般的である。」の記載(乙第1号証2頁【図面に記載される表面粗さの数値】)は、化粧板の技術分野における表面粗さに関する記載ではない。
乙第2号証(「公差」、efplaningウェブページ)には、公差のパラメータとして、いろいろな分野(例えば、「バルブ・コック・シリンダ」等)で、表面粗さとして複数のパラメータが用いられていることが示されているが(乙第2号証8頁?9頁「パラメータの指針」参照)、化粧板の技術分野における表面粗さについての記載はない。むしろ、塗装やメッキの接着性が評価されるプリント基板や接着塗装下地等については、「Rz(十点平均粗さ)」により評価するとも記載されており、特許権者が指摘する乙第2号証の
「この内最も優先されるのは算術平均粗さ:Raである。
よって、特別な指示がない限り、粗さ記号に付加される数値はRaと考えてよい。」の記載(乙第2号証7頁)が、化粧板の技術分野における表面粗さに該当する記載であると、直ちにいえるものではない。
乙第3号証(「やさしい実践 機械設計講座」、光匠技研ウェブページ)には、「部品」を加工したときの加工面の表面粗さについて記載されており、化粧板の技術分野における表面粗さについての記載はない。そうすると、特許権者が指摘する乙第3号証の「中心線平均粗さ(特別な指示が、無ければ通常この方法で示されます。」の記載(乙第3号証2頁上部の表面粗さについての表)は、化粧板の技術分野における表面粗さに関する記載ではない。
したがって、乙第1号証?乙第3号証には、本件発明の化粧板の技術分野において「表面粗さ」が、特に指示のない場合に何を指すかについての記載はない。
しかも、乙第4号証(「粗さの表し方 パラメータ規格で違う?」、コーテック株式会社ウェブページ )には、表面粗さのパラメータとして、「Ra」、「Ry」、「Rz」等多数のパラメータが存在していることが明示されている。さらに、乙第5号証(「小形表面粗さ測定機 サーフテストSJ-210シリーズ」パンフレット、株式会社ミツトヨ、2016年)には、申立人の提出した甲第2号証と同様に、「株式会社ミツトヨ製の表面粗さ測定器(サーフテスト)を使用して測定することができる表面粗さ」は複数のパラメータ(例えば、「Ra」、「Rz」、「Rq」、「Rp」等)であることが示されており(乙第5号証5頁仕様パラメータ欄参照)、「株式会社ミツトヨ製の表面粗さ測定器(サーフテスト)を使用して測定することができる表面粗さ」が「Ra(算術平均粗さ)」のみであることは示されていない。
よって、乙第1号証?乙第5号証によっては、「株式会社ミツトヨ製の表面粗さ測定器(サーフテスト)を使用して測定することができる表面粗さ」が「Ra(算術平均粗さ)」のみであるとはいえないから、特許権者の意見には、理由がない。

(3)小括
以上のとおり、訂正事項1?4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号ないし第4号に規定する何れの事項を目的とする訂正ではないことから、本件訂正は認められない。

3.本件発明
本件訂正が認められないことから、本件請求項1?4に係る発明(以下、「本件発明1?4」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「 【請求項1】
基材の表面に反応性ホットメルト接着剤を塗布し、塗布後、加熱ロールで前記反応性ホットメルト接着剤の表面を表面粗さが3μm?10μmに平滑にした反応性ホットメルト層を形成し、
この反応性ホットメルト層の前記反応性ホットメルト接着剤を硬化させ、 硬化後、前記反応性ホットメルト層の表面に、印刷又は塗装により模様又は着色を施した中間層を形成し、
その後、前記中間層の表面に透明のUV塗料の保護層を形成する
ことを特徴とする化粧板の製造方法。
【請求項2】
反応性ホットメルト接着剤は、硬化後に空気中や被着材である基材に含まれる水分と 反応し鎖延長反応と架橋反応を起こすものである
ことを特徴とする請求項1記載の化粧板の製造方法。
【請求項3】
基材と、
この基材の表面に設けられ、反応性ホットメルト接着剤で形成されると共に、表面粗さが3μm?10μmの平滑な反応性ホットメルト層と、
この反応性ホットメルト層の表面に印刷又は塗装により模様又は着色を施した中間層と、
この中間層の表面に設けられた透明のUV塗料の保護層と、
を備えていることを特徴とする化粧板。
【請求項4】
反応性ホットメルト接着剤は、硬化後に空気中や被着材である基材に含まれる水分と 反応し鎖延長反応と架橋反応を起こすものである
ことを特徴とする請求項3記載の化粧板。」

4.取消理由の概要
本件発明1?4に係る特許に対して通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。なお、申し立てられた特許異議申立理由は、すべて通知した。

本件特許は、明細書及び特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号及び第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(証拠一覧)
甲第1号証:「製品の幾何特性仕様(GPS)-表面性状:輪郭曲線方式-用語,定義及び表面性状パラメータ JIS B 0601:2013」、日本規格協会、平成25年3月21日改正、p.36
甲第2号証:「小形表面粗さ測定機 サーフテストSJ-210シリーズ」パンフレット、株式会社ミツトヨ、2010年

(1)(特許法第36条第6項第2号)
甲第1号証(解説表2)及び甲第2号証(5頁仕様「パラメータ」欄)に示されるように、「表面粗さ」は、多義のパラメータ(例えば、「最大高さ粗さRz」、「算術平均粗さRa」等)を指すので、本件特許の請求項1、3の「表面粗さが3μm?10μmに」の記載は、不明瞭で、「表面粗さ」が何を指すのか不明であるから、本件発明1、3、及びそれらを引用する本件発明2、4は不明確である。

(2)(特許法第36条第4項第1号)
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1?4の「表面粗さが3μm?10μmに」について、段落【0019】に「・・・平滑な反応性ホットメルト層2の平滑度は、表面粗さが3μm?10μmで、例えば株式会社ミツトヨ製の表面粗さ測定器(サーフテスト)等を使用して測定することができる。」と記載されているのみで、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。

5.当審の判断
(1)特許法第36条第6項第2号について
ア.請求項1、2について
本件特許の請求項1には、「表面粗さが3μm?10μmに」の記載がある。また、請求項1を引用する請求項2にも、「表面粗さが3μm?10μmに」の記載が含まれる。
「表面粗さ」は、甲第1号証(解説表2)及び甲第2号証(5頁仕様「パラメータ」欄)に示されるように、多義のパラメータ(例えば、「粗さ曲線の算術平均粗さRa」、「粗さ曲線の十点平均粗さRz」、「粗さ曲線の最大高さRy」等)を指すので、本件発明の化粧板の分野において特に指示のない「表面粗さ」がどのパラメータを指しているのかは、請求項1又は2の記載からは、明確に把握できない。
そこで、本件特許明細書の記載を参照すると、「表面粗さ」についての記載は、段落【0019】に「・・・平滑な反応性ホットメルト層2の平滑度は、表面粗さが3μm?10μmで、例えば株式会社ミツトヨ製の表面粗さ測定器(サーフテスト)等を使用して測定することができる。」と記載されているのみで、本件発明1、2の「表面粗さ」がどのパラメータを指しているのかを示す記載はない。
しかも、「株式会社ミツトヨ製の表面粗さ測定器(サーフテスト)を使用して測定することができる」「表面粗さ」には、甲第2号証によれば、「Ra」、「Rz」、「Ry」等多数あり、「株式会社ミツトヨ製の表面粗さ測定器(サーフテスト)を使用して測定することができる」「表面粗さ」が、何れの「表面粗さ」を指すのか、直ちには特定できない。
また、化粧板の技術分野において、特に指示のない「表面粗さ」が特定のパラメータを指すという技術常識があることを示す証拠もない。
よって、請求項1、2の「表面粗さが3μm?10μmに」の記載は、「表面粗さ」が何を指すのか不明であるから、本件発明1、2は、明確でない。

イ.請求項3、4について
本件特許の請求項3には、「表面粗さが3μm?10μmの」の記載がある。また、請求項3を引用する請求項4にも、「表面粗さが3μm?10μmの」の記載が含まれる。
上記「ア.」の請求項1、2について、述べた理由と同様の理由で、請求項3、4の「表面粗さが3μm?10μmの」の記載は、「表面粗さ」が何を指すのか不明であるから、本件発明3、4は、明確でない。

ウ.小括
よって、本件特許の請求項1?4の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(2)特許法第36条第4項第1号について
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1?4の「表面粗さが3μm?10μm」について、段落【0019】に「上記の化粧板Fによれば、基材1の表面に平滑な反応性ホットメルト層2が形成されているため、基材1の表面に多少の凹凸があっても、反応性ホットメルト接着剤23が前記凹凸に対応して容易に接着でき、しかも、反応性ホットメルト接着剤23の表面が平滑であるため、反射が均一となり、一種の鏡面仕上げとなり、中間層3、保護層4を介して、見栄えの良好な化粧板Fを簡易な手段で得ることができる。・・・平滑な反応性ホットメルト層2の平滑度は、表面粗さが3μm?10μmで、例えば株式会社ミツトヨ製の表面粗さ測定器(サーフテスト)等を使用して測定することができる。」と記載されているのみである。
その段落【0019】に記載される「株式会社ミツトヨ製の表面粗さ測定器(サーフテスト)等を使用して測定することができる」「表面粗さ」は、上記(1)ア.で述べたとおり、甲第2号証によれば、多義のパラメータ(例えば、「粗さ曲線の算術平均粗さRa」、「粗さ曲線の十点平均粗さRz」、「粗さ曲線の最大高さRy」、等)を指し、その記載からだけでは、当業者は、本件発明の化粧板の分野において特に指示のない「表面粗さ」がどのパラメータを指しているのかを把握できない。
また、化粧板の技術分野において、特に指示のない「表面粗さ」が特定のパラメータを指すという技術常識があることを示す証拠もない。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1?4における「表面粗さが3μm?10μm」について、当業者がその実施ができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(3)特許権者意見書3における意見について
特許権者意見書3において、「乙第1号証?乙第3号証の記載を加味すれば、本件特許の『株式会社ミツトヨ製の表面粗さ測定器(サーフテスト)を使用して測定することができる表面粗さが3μm?10μm』にいう表面粗さは、具体的には、例えば、株式会社ミツトヨ製の表面粗さ測定器(サーフテストSJ-210シリーズ『甲第5号証(当審注:乙第5号証)』)で言えば、第2頁記載のRa(算術平均粗さ)と見るのが化粧板の技術分野における当業者の技術常識である」旨主張している。しかしながら、上記「2.(2)オ.」で述べたとおり、乙第1号証?乙第3号証の記載は、化粧板の技術分野における表面粗さに関するものでなく、また、化粧板の技術分野において、特に指示のない「表面粗さ」がRa(算術平均粗さ)を指すという技術常識があることを示す証拠もないから、特許権者の意見には、理由がない。

6.むすび
以上のとおりであるから、本件特許の請求項1?4の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件発明1?4に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-11-30 
出願番号 特願2013-128300(P2013-128300)
審決分類 P 1 651・ 537- ZB (B32B)
P 1 651・ 536- ZB (B32B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 北澤 健一松岡 美和河島 拓未  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 蓮井 雅之
井上 茂夫
登録日 2016-07-15 
登録番号 特許第5969955号(P5969955)
権利者 株式会社丸仲鉄工所
発明の名称 化粧板及び化粧板の製造方法  
代理人 入江 一郎  

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