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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01R
管理番号 1337070
異議申立番号 異議2017-700656  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-03-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-06-27 
確定日 2018-01-26 
異議申立件数
事件の表示 特許第6053883号発明「防水コネクタ及び電子機器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6053883号の請求項に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6053883号の請求項1ないし8に係る特許についての出願(以下、「本件出願」という。)は、平成27年7月29日の出願であって、平成28年12月9日に特許権の設定登録がなされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人石井悠太(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において平成29年8月29日付けで取消理由を通知し、平成29年10月31日付けで意見書が提出されたものである。

第2 本件発明
特許第6053883号の請求項1ないし8に係る発明(以下、「それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明8」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される発明であり、次のとおりのものである。

「【請求項1】
導電性素材で形成され、プラグ挿入側に配置される略筒状の第1のシェルと、
導電性素材で形成され、前記第1のシェルに係合される略筒状の第2のシェルと、
前記第1のシェルの外周に周設され、前記第1のシェルの外側に位置する外側封止材と、
前記第1のシェルと前記第2のシェルの係合体の後部に、前記係合体との間から後方に浸水不能な状態で壁状に内装される支持部と、
前記支持部で支持されるコンタクト端子とを備え、
前記第1のシェルと前記第2のシェルの少なくとも一方がシームレスであることを特徴とする防水コネクタ。
【請求項2】
前記第2のシェルが前記第1のシェルの後部に係合され、
前記外側封止材が前記第2のシェルの前面部に当接されることを特徴とする請求項1記載の防水コネクタ。
【請求項3】
前記係合体と前記支持部とが近接する位置で前記係合体と前記支持部との間に設けられ、前記係合体と前記支持部との間を通水不能にする周状の内側封止材を備えることを特徴とする請求項1又は2記載の防水コネクタ。
【請求項4】
前記第1のシェルがシームレスであることを特徴とする請求項1?3の何れかに記載の防水コネクタ。
【請求項5】
前記第1のシェルと前記第2のシェルの双方がシームレスであることを特徴とする請求項4記載の防水コネクタ。
【請求項6】
前記第2のシェルに回路基板への接続片が一体形成されていることを特徴とする請求項1?5の何れかに記載の防水コネクタ。
【請求項7】
前記第2のシェルに前記支持部の抜止片が一体形成されていることを特徴とする請求項1?6の何れかに記載の防水コネクタ。
【請求項8】
請求項1?7の何れかに記載の防水コネクタがケースに内装され、
前記外側封止材が前記ケースに直接的若しくは間接的に押圧されて水密構造が形成されていることを特徴とする電子機器。」

第3 取消理由の概要
当審において、本件発明1ないし8に対して通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

本件発明1ないし8は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第6号証に例示された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1ないし8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

[証拠方法]
甲第1号証:特開2015-5383号公報
甲第2号証:特開2000-156263号公報
甲第3号証:特開2012-59556号公報
甲第4号証:特開2012-113989号公報
甲第5号証:特開2012-9357号公報
甲第6号証:特開2005-302362号公報

第4 甲号証の記載
1 甲第1号証について
甲第1号証(特開2015-5383号公報)には、「防水コネクタ及び電子機器」に関し、図面(特に図1ないし図7参照)とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

(1)「【0018】
第1実施形態の防水コネクタ1は、図1?図7に示すように、シームレスの略筒状のシェル2と、シェル2内に壁状に内装される樹脂製の支持部3と、支持部3で支持されているコンタクト端子4と、シェル2の外周に周設されるシール材5を備え、電子機器のケース内に内装して取り付けられる。
【0019】
シェル2は、例えば金属平板を絞りプレス加工して形成されており、継ぎ目の無い略四角筒状に形成されている。シェル2は、プラグ挿入方向に段差部を有し、本例ではプラグ挿入側の前部21から前部21より厚さの大きい中間部22に至る段差部24がシェル2の上面に外側に膨出して形成され、中間部22から中間部22よりも厚さ及び幅の大きい後部23に至る段差部25がシェル2の周面に外側に膨出し且つ周状に形成されている。この周状の段差部25には、後述するシール材5が周状に当接される。」

(2)「【0025】
シール材5は、エラストマー等の軟質樹脂で略四角枠状のリング状に形成されており、断面視略四角形の本体51と、本体51から外側に突出する断面視略山形の突条52を有する。尚、シール材5は、防水機能を有する封止が可能な適宜の材料で形成することが可能であり、エラストマー等の軟質樹脂で形成したものの他、例えばオーリング或いは撥水材で形成されたものとすることも可能である。また、シール材5を撥水材とする場合には、電子機器のケース等のケース側部材に、撥水剤のコーティング層等の撥水材が当接せずに、ケース側部材と撥水材との間に隙間が形成される構成とすることも可能である。
【0026】
シール材5は、本体51の一方の側面が段差部25の外側面に当接するようにして中間部22の外周に嵌め込まれ、中間部22に外嵌して定置されている。図示例では、平面状の周面を有する中間部22の外周にシール材5が嵌め込まれているが、例えば中間部22に周状の嵌合溝を形成し、この嵌合溝にシール材5の内側に突出するように形成される凸条を嵌め込む等でシール材5を嵌め込むことにより、シール材5を周設する構成とすることも可能である。また、シェル2aの前後方向におけるシール材5aの取付位置は、前部21、中間部22、後部23が全体に亘って貫通部分のない非貫通面であることから、前後方向の任意の位置とすることが可能である。
【0027】
(略)
【0028】
(略)
【0029】
シェル2の後部23は支持部3の本体31の背面よりも後方に突出しており、後部23の突出部分と本体31の背面とで形成される背面側の凹状の受け部61には、ボンドを流し込む等により封止材62が充填されて固化されている。この封止材62を受け部62に形成することで、例えば支持部3の背面側に配置される電子機器の回路基板に水が浸入することをより確実に防止することが可能となる。尚、支持部3のシェル2内への内装において、支持部3をシェル2内に水密に嵌め合わせて内装する場合には、封止材62の充填を行わないことも可能であり、又、封止材62の充填を行わずに、後述する第2実施形態のシェル2aの曲げ部231aと同一の曲げ部等の当接部を後部23に設け、支持部3の背面に当接することも可能である。」

(3)「【0032】
そして、コンタクト端子4がインサート成形された支持部3を、後部23に嵌め込むようにしてシェル2に内装すると共に、シール材5を側部が段差部25に当接するようにして中間部22の外周に嵌め込むことにより、防水コネクタ1が得られる。また、後部23の突出部分と本体31の背面とで形成される背面側の凹状の受け部61に封止材62が充填して固化し、シェル2内に浸入する水に対する防水処理を行う。
【0033】
第1実施形態によれば、樹脂製ハウジングの前端部にシェルの後端部を取り付けるコネクタと異なり、コンタクト端子4を支持する支持部3がシームレスのシェル2に内装される防水コネクタ1とすることにより、防水性を確保しつつコネクタの長さを短くすることができる。更に、シェル2の外側にも樹脂製ハウジングを設けないことから、ハウジングの肉厚分だけコネクタの厚さを薄くすることができる。従って、コネクタの占有面積を小さくし、電子機器内部の使用可能部分を増やすことが可能であり、電子機器のより自由なレイアウト設計の実現、電子機器の小型化を図ることができる。」

(4)「【0035】
また、コネクタに挿入されたプラグが強くこじられた場合や、こじられる力が何度も付加された場合に破断しやすい継ぎ目を有しないシームレスの略筒状のシェル2により、シェル2の強度、耐久性を飛躍的に高めることができる。」

(5)図6、図7から、支持部3が、シェル2の後部に内装されている点が看取される。

上記記載事項及び図面の図示内容を総合して、本件発明1に則って整理すると、甲第1号証には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「金属平板を絞りプレス加工して形成され、プラグ挿入側に配置される略筒状のシェル2と、
前記シェル2の外周に周設され、前記シェル2の外側に位置するシール材5と、
前記シェル2の後部23に、前記シェル2との間から後方に水が浸入することを防止する状態で嵌め込むようにして内装される支持部3と、
前記支持部3で支持されるコンタクト端子4とを備え、
前記シェル2がシームレスである防水コネクタ1。」

2 甲第2号証について
甲第2号証(特開2000-156263号公報)には、「回路基板に実装する為の補強シールドを有する電気コネクタ」に関し、図面(特に図3ないし図8参照)とともに以下の事項が記載されている。

(1)「【0004】
・・・(前略)・・・
上記第2シールドは、この第1の導電性シールドの一部分を取り巻きそして電気的に係合する。取付シールドは、その下縁から延びる取付脚を有し、これら脚は、回路基板に挿入されて、コネクタを回路基板にしっかり固定する。」

(2)「【0010】コネクタ30は、回路基板22に取り付けられ、そしてその前部から嵌合プラグ(図示せず)を受け入れる。コネクタ30は、外部導電性シールド31と、複数の導電性端子33(図3)を保持する絶縁ハウジング32とを備えている。・・・(後略)・・・」

(3)「【0012】コネクタ30を実質的に包囲して、コネクタ30を回路基板22に確実に補強取り付けするために、コネクタ組立体20(図3-6)及び120(図7-10)の各々は、更に、補助的な取付シールド即ち第2シールド40、140を各々備えている。・・・(中略)・・・この取付シールド40、140は、コネクタ30をぴったり保持しながら回路基板22に確実に取り付けられて、確実な電気的接触を与えると共に、嵌合プラグからの力に耐えるための構造補強一体性を与えるように構成される。」

(4)「【0014】図3ないし6の実施形態において、取付シールド40は、サイドプレート41から後方に延びる後部脚支持体46を備え、これは、コネクタ30の後部を取付シールド40内に保持するために内方屈曲部48(図4、5)をもつ形状とされる。後部取付脚47は、回路基板22の穴(図7)に挿入されるように後部脚支持体46から下方に突出する。」

(5)「【0019】・・・(前略)・・・更に、図9を参照すれば、後部タブ148がサイドプレート141から延び、そしてコネクタ30の後面を保持するようにほぼ直角に内方に曲げられる。・・・(中略)・・・又、第2シールド140の取付脚143及び147は、穴51に挿入される。」

(6)図4及び図8より、第2シールド40、140は、第1の導電性シールド31の後部に係合されることが看取される。

3 甲第3号証について
甲第3号証(特開2012-59556号公報)には、「コネクタ」に関し、図面(特に図1及び図2を参照)とともに以下の事項が記載されている。

(1)「【0015】
補強金具20は、ハウジング11を包囲するシールドケース12を保持する保持部30と、保持部30を挟んで回路基板50に固定される一対の台座部40と、が一体成型されたものである。・・・(後略)・・・」

(2)「【0018】
保持部30は、シールドケース12の外周を包囲する形状を有しており、保持部30の内壁には、シールドケース12を嵌合して固定する嵌合部31が形成されている。この嵌合部31は、例えば、シールドケース12を保持部30に挿入する方向に線状に延びた形状を有する。また、保持部30には、保持部30の後方から突出したシールドケース12をかしめ固定するかしめ部32が設けられている(図2(b))。」

(3)「【0032】
以上のように、本実施形態におけるコネクタ10によれば、剛性を高めた台座部40を有し、この台座部40に突起部42を形成する構成としたので、剥離強度を向上させることができる。」

(4)図1、図2から、シールドケース12の外周を包囲する補強金具20、特にその保持部30は、略筒状であることが看取される。

4 甲第4号証について
甲第4号証(特開2012-113989号公報)には、「レセプタクルコネクタ」に関し、図面(特に図1及び図4を参照)とともに以下の事項が記載されている。

(1)「【0019】
補強金具104は、シールド102の上方から下方向に移動させてシールド102に取付けられ、シールド102と、シールド102に装着された状態のハウジング103との両方を固定する。・・・(後略)・・・」

(2)「【0020】
補強金具104は、銅、銅合金、アルミニウム合金、ステンレス等の導電性薄板をプレス加工して形成される。補強金具104は、シールド102の上方の第1側部102aの外側面に接する基部104aを有する。基部104aにおける幅方向Bの両側部からは、挟持部104bが下方に延びている。挟持部104bは、シールド102の第2側部102bを外側から挟み、シールド102が幅方向Bに動くことを防ぐ。また、基部104aにおいてシールド102の第2端部102e側に近い縁部からは、嵌入部104cが延びている。嵌入部104cは、補強金具104がハウジング103に取付けられるときに、嵌合筒部103bに嵌入される。嵌入部104cの先端は、脚部104dになっている。脚部104dは、レセプタクルコネクタ101を基板301(図1のみに示す)にハンダ付けする際に、基板301に形成された挿込孔302に挿入される。このような脚部104dは、補強金具104の挟持部104bの下端からも突出している。」

5 甲第5号証について
甲第5号証(特開2012-9357号公報)には、「電気コネクタ」に関し、図面(特に図1、図3、図9、図13、図14を参照)とともに以下の事項が記載されている。

(1)「【0033】
・・・(前略)・・・このコネクタ1は、図1、図2に示すように、複数本、例えば5本の電気良導電性のコンタクト2と、これらのコンタクトが装着される電気絶縁性のコネクタハウジング(以下、絶縁ハウジングという)3と、この絶縁ハウジングの外周囲に嵌装されて電磁遮蔽する金属製のシールドケース6とを有している。このコネクタ1は、回路配線基板などに補強部材8を使用して取付けられる。」

(2)「【0052】
補強部材8は、図1に示すように、シールドケース6の上板部6aに当接する平坦部8aと、この平坦部の両端から下方へ所定長さ垂下して、シールドケースの左右板部6c、6dに当接する対向する垂下部8bとを有し、各垂下部8bの端部に回路配線基板などに固定する脚部8cが設けられている。この補強部材8は、所定の肉厚及び長さを有する金属製の帯状片を折曲加工により形成されている。
【0053】
コネクタ1は、複数本(5本)のコンタクト2が装着された絶縁ハウジング3の外周壁にリング状パッキン7を装着した後に、シールドケース6を嵌装して組立てる。この組立てたコネクタは、図示を省略した回路配線基板などに実装する。この実装を堅固にするために、補強部材8で固定するのが好ましい。また、シールドケース6の端子は、回路配線基板などの接地電極に半田接続する。・・・(後略)・・・」

(3)図1より、補強部材8は、シールドケース6の後部に係合されることが看取される。

(4)図13、図14より、シールドケース6と、絶縁ハウジング3のハウジング本体部4との間に、防水パッキン7が周状に設けられることが看取される。

6 甲第6号証について
甲第6号証(特開2005-302362号公報)には、「シールド型コネクタ」に関し、図面(特に図3及び図6を参照)とともに以下の事項が記載されている。

(1)「【0014】
本発明のシールド型コネクタは、絶縁ハウジングの外周を覆うとともに絶縁ハウジングの一面上に継目を有するシールドシェルが別体の金属製の取付部材を有し、取付部材が継目を覆う面を有するとともに、シールド型コネクタを基板に実装するための取付脚をシールドシェルの両側に対応する位置に有するので、次の効果を奏する。即ち、シールドシェルの構成に影響されることなく、基板への取付脚を最も適切な形状、および位置に容易に形成することができるので、設計の自由度が高くなる。また、取付脚に必要な強度を得ることができるので、取付脚が変形するおそれもなく基板に確実に取り付けることができる。・・・(後略)・・・」

(2)「【0017】
コネクタ1は、絶縁ハウジング(以下、単にハウジングという)6、このハウジング6に保持された複数のコンタクト8、ハウジング6の周囲を覆うように配置された遮蔽部材即ちシールドシェル(以下、単にシェルという)10およびこのシェル10の下部に配置された取付部材70から構成されている。」

(3)「【0024】
取付脚82は、シールドシェルの継目60や、ばね片46の存在にかかわらず、取付部材70の比較的自由な位置に、必要にして十分な幅及び形状で形成することができる。取付脚82に隣接して取付脚82の挿抜方向62の前寄り部分には下向きの突起80aが形成されている。この突起80aは、取付脚82が基板26に挿入されると、基板26の表面に当接して適切な取付け高さにコネクタ1を維持するよう機能する。・・・(後略)・・・」

第5 判断
1 対比・判断
ア 本件発明1について
本件発明1と引用発明とを対比すると、金属平板は導電性であるから、後者の「金属平板を絞りプレス加工して形成され、プラグ挿入側に配置される略筒状のシェル2」は前者の「導電性素材で形成され、プラグ挿入側に配置される略筒状の第1のシェル」に相当し、以下同様に、後者の「シール材5」は前者の「外側封止材」に、「コンタクト端子4」は「コンタクト端子」に、「防水コネクタ1」は「防水コネクタ」に、それぞれ相当する。

引用発明において、シェル2との間から水が浸入することを防止するために設けられた支持部3が、防水のために壁状となっていることは明らかであるから、引用発明の「前記シェル2の後部23に、前記シェル2との間から後方に水が浸入することを防止する状態で嵌め込むようにして内装される支持部3」は、「後方に浸水不能な状態で壁状に内装される支持部」という限りにおいて、本件発明1の「前記第1のシェルと前記第2のシェルの係合体の後部に、前記係合体との間から後方に浸水不能な状態で壁状に内装される支持部」と共通する。

したがって、両者は、
「導電性素材で形成され、プラグ挿入側に配置される略筒状の第1のシェルと、
前記第1のシェルの外周に周設され、前記第1のシェルの外側に位置する外側封止材と、
後方に浸水不能な状態で壁状に内装される支持部と、
前記支持部で支持されるコンタクト端子とを備える防水コネクタ。」である点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点〕
本件発明1は、「導電性素材で形成され、前記第1のシェルに係合される略筒状の第2のシェル」と、「前記第1のシェルと前記第2のシェルの係合体の後部に、前記係合体との間から」後方に浸水不能な状態で壁状に内装される支持部とを備え、「前記第1のシェルと前記第2のシェルの少なくとも一方がシームレスである」のに対し、引用発明は、「導電性素材で形成され、前記第1のシェルに係合される略筒状の第2のシェル」を備えず、「前記シェル2の後部23に、前記シェル2との間から」後方に水が浸入することを防止する状態で嵌め込むようにして内装される支持部3を備え、「前記シェル2がシームレスである」点。

相違点について検討する。
甲第1号証には、本件出願の明細書の段落【0006】に記載された、本件発明1が解決しようとする課題である、「防水性の確保、コネクタの短尺化、シェル強度の向上、浸水防止用樹脂製ハウジングの不要化を図ることができると共に、低コストで製造効率に優れる防水コネクタ」等を提供するという課題(以下、「本件発明1の技術課題」という。)は記載されていない。
したがって、引用発明において、甲第2号証ないし甲第6号証に例示された、シェルの強度を向上させるために第2のシェルを設ける周知技術(以下、「周知技術」という。)を適用することによって、本件発明1の技術課題を解決する十分な動機付けがあったとすることはできない。

さらに、甲第1号証の明細書の段落【0006】には、引用発明が解決しようとする課題は、「防水性を確保しつつコネクタの占有面積を小さくし、電子機器内部の使用可能部分を増やすことが可能であり、電子機器のより自由なレイアウト設計の実現、電子機器の小型化を図ることができる防水コネクタ」等の提供等であるとの記載があり、段落【0007】には、当該課題に対応する引用発明の構成・効果として、「シェルの外側に継ぎ目からの浸水防止のために樹脂製ハウジングを設ける必要もないことから、その樹脂製ハウジングの肉厚分だけコネクタの厚さを薄くすることができる。従って、コネクタの占有面積を小さくし、電子機器内部の使用可能面積を増やすことが可能であり、電子機器のより自由なレイアウト設計の実現、電子機器の小型化を図ることができる。」ことが記載されている。
そうすると、仮に引用発明に対して、甲第2号証ないし甲第6号証に例示された、上記周知技術を適用した場合には、当該第2のシェルの肉厚分だけコネクタの厚さが厚くなることにより、引用発明が解決しようとする課題である、コネクタの占有面積を小さくし、電子機器内部の使用可能面積を増やすことが不可能となり、同様に電子機器のより自由なレイアウト設計の実現、電子機器の小型化を図ることもできなくなる。
したがって、引用発明に対して、甲第2号証ないし甲第6号証に例示された、第2のシェルを適用することには、阻害要因があるといえる。

このように、本件発明1の上記相違点に係る構成を想到することが容易であったとはいえないから、本件発明1は、引用発明及び甲第2号証ないし甲第6号証に例示された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

イ 本件発明2ないし8について
本件発明2ないし8は、本件発明1を引用し、本件発明1にさらに限定を付加するものであるので、本件発明1と同様に、引用発明及び甲第2号証ないし甲第6号証に例示された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件発明1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-01-17 
出願番号 特願2015-149917(P2015-149917)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01R)
最終処分 維持  
前審関与審査官 前田 仁  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 中川 隆司
滝谷 亮一
登録日 2016-12-09 
登録番号 特許第6053883号(P6053883)
権利者 株式会社エクセル電子
発明の名称 防水コネクタ及び電子機器  
代理人 元井 成幸  

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