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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  D01F
管理番号 1337072
異議申立番号 異議2017-700567  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-03-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-06-05 
確定日 2018-02-05 
異議申立件数
事件の表示 特許第6040549号発明「液晶ポリエステル繊維およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6040549号の請求項1?12に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6040549号(以下「本件特許」という。)の請求項1?12に係る特許についての出願は、平成24年3月28日(優先権主張平成23年3月30日、平成23年12月1日)の出願であって、平成28年11月18日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人中平茉里(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において平成29年9月4日付けで取消理由を通知し、その指定期間内である平成29年11月1日に意見書の提出がされたものである。

2.本件発明
本件特許の請求項1?12に係る発明(以下「本件発明1?12」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、本件発明1及び本件発明9は、それぞれ以下のとおりのものである。
「【請求項1】
走行張力変動幅(R)が5cN以下で、かつ、油分付着率が3.0wt%以下であることを特徴とする液晶ポリエステル繊維。
【請求項9】
液晶ポリエステルを溶融紡糸して得た糸条に、無機粒子(A)とリン酸系化合物(B)とを塗布した後に固相重合し、次いで洗浄することを特徴とする液晶ポリエステル繊維の製造方法。」

3.取消理由の概要
本件発明1?12に対して、特許権者に通知した取消理由の概要は以下のとおりである。

本件発明1?12は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

甲1:特開2002-212839号公報
甲3:国際公開第2008/105439号
甲4:特開2010-248681号公報
甲5:特開昭59-179818号公報
甲7:特許第2674062号公報

本件発明1?8は、甲3発明及び甲1に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に想到することができたものである。
本件発明9?12は、甲5発明及び甲3、甲4又は甲7に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に想到することができたものである。

4.当審の判断
(1)本件発明1?8について
甲3(特に、実施例48の記載([0249]?[0251]、表9、併せて[0245](実施例46の記載)))には、
「ポリジメチルシロキサンが5.0重量%の水エマルジョンを油剤として付着させて固相重合させ、洗浄後の油分付着量が1.8wt%である、液晶ポリエステル繊維」の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されている。
本件発明1と甲3発明とを対比すると、本件発明1は「走行張力変動幅(R)が5cN以下で、かつ、油分付着率が3.0wt%以下」であるのに対し、甲3発明は「洗浄後の油分付着量が1.8wt%」であるものの、走行張力変動幅(R)について特定されておらず、「走行張力変動幅(R)が5cN以下」であるか否か不明である点で、少なくとも相違する。
ここで、甲3発明は、油剤の付着により液晶ポリエステル繊維の走行張力が不安定になるため、油剤の付着量を減らして工程安定性を向上させることが記載([0159]、[0245])されているが、甲3発明の油剤は「ポリジメチルシロキサンが5.0重量%の水エマルジョン」であり、本件特許明細書の比較例5(【0244】?【0247】、表7)の記載からみて、「ポリジメチルシロキサン」を主成分とする油剤を付着させて形成した「液晶ポリエステル繊維」の走行張力変動幅(R)が「11.3cN」であることからすると、甲3発明の液晶ポリエステル繊維は、「走行張力変動幅(R)が5cN以下」を満たすものとはいえない。
この点、甲1(【0019】、表2)には、張力の最大値と最小値の差を「4.8cN」(表2の実施例2)とすることが記載されているものの、ポリエステル繊維についてであり、甲3発明の液晶ポリエステル繊維について、「走行張力変動幅(R)が5cN以下」にできることを示唆するものではない。
そして、本件発明1の液晶ポリエステル繊維は、「走行張力変動幅(R)が5cN以下で、かつ、油分付着率が3.0wt%以下」とすることにより、「本発明の液晶ポリエステル繊維は走行張力の変動が小さいことから、織編みなどの繊維の高次加工での張力変動に起因した糸切れが抑制されることで工程通過性に優れ、織密度の高密度化、製織性を向上できる。また、製品の引き攣れ、スカム混入などによる製品欠点が抑制可能となり製品収率が向上する。特にハイメッシュ織物が必要とされるフィルター、スクリーン紗用途に対しては、性能向上のため織密度の高密度化(高メッシュ化)、開口部(オープニング)の大面積化、開口部の欠点減少、製織性向上が達成できる。」(本件特許明細書の【0027】)という効果を奏するものである。
よって、本件発明1は、甲3発明及び甲1に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

また、本件発明2?8は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるところ、本件発明1は、上記のように、甲3発明及び甲1に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明2?8も、甲3発明及び甲1に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

したがって、本件発明1?8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、特許法第113条第2号の規定により、取り消されるべきものではない。

(2)本件発明9?12について
甲5(特に、実施例7の記載)には、
「ヒドロキシ安息香酸の重合体からなる全芳香族ポリエステルを、紡糸温度330℃で押し出し、得られた糸条を、珪酸アルミニウムマグネシウム水分散液中に(EO)_(3)ラウリルフォスフェートナトリウム塩を混合した液に浸漬し、カセ枠に巻き取り、カセ枠に巻いたまま、窒素気流中250℃で1時間、260℃で1時間、270℃で1時間、280℃1時間、290℃1時間、300℃で3時間熱処理する方法。」の発明(以下「甲5発明」という)が記載されている。
本件発明9と甲5発明とを対比すると、本件発明9が、液晶ポリエステルの糸条に「無機粒子(A)とリン酸系化合物(B)とを塗布した後に固相重合し、次いで洗浄する」のに対し、甲5発明は液晶ポリエステルの糸条を珪酸アルミニウムマグネシウム水分散液中に(EO)_(3)ラウリルフォスフェートナトリウム塩を混合した液に浸漬するものの、固相重合した後、洗浄工程を備えない点で、少なくとも相違する。
ここで、甲3([0155]?[0158])には、工程通過性等のため固相重合を行った液晶ポリエステル繊維から、洗浄して油分を除去することが記載されているものの、甲3で除去される油分は「ポリジメチルシロキサン」であって、「無機粒子(A)とリン酸系化合物(B)」からなる油分ではなく、液晶ポリエステルの糸条に「無機粒子(A)とリン酸系化合物(B)とを塗布した後に固相重合し、次いで洗浄する」ことが記載されていない。
そして、本件発明9の液晶ポリエステル繊維の製造方法は、リン酸系化合物(B)を無機粒子(A)と併用することで、「無機粒子(A)の分散性を高め、繊維への均一塗布を可能とし、優れた融着抑制効果を発現するだけでなく、無機粒子(A)が繊維表面に固着することを抑制することができので、洗浄後の繊維への無機粒子(A)の残存量が減り、その後の加工工程におけるスカム発生を抑制する効果が発現」し、「リン酸系化合物(B)が固相重合条件下において脱水反応およびリン酸系化合物(B)に含まれる有機成分が分解することでリン酸塩の縮合塩が形成され、この縮合塩形成に由来して固相重合後の洗浄工程において水により容易に繊維から除去することが可能」(本件特許明細書の【0092】)となることから、「高強度、高弾性率であり、製織工程における堆積物(スカム)が少なく、かつ走行張力の変動が小さく工程通過性に優れることで織物の製品収率が大幅に改善された液晶ポリエステル繊維を与えうる繊維を製造できる。かかる製造方法において、固相重合後の液晶ポリエステル繊維を洗浄することにより、固相重合油剤が容易に除去可能である。このように洗浄を施すことで上述のように製織工程における工程安定性および製品収率が大幅に改善された液晶ポリエステル繊維を得ることが出来る。」(本件特許明細書の【0028】)という効果を奏するものである。
よって、本件発明9は、甲5発明及び甲3に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

また、本件発明10?12は、本件発明9の発明特定事項を全て含むものであるところ、本件発明9は、上記のように、甲5発明及び甲3に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、甲4又は甲7にも、液晶ポリエステルの糸条に「無機粒子(A)とリン酸系化合物(B)とを塗布した後に固相重合し、次いで洗浄する」ことが記載されていないから、本件発明10?12も、甲5発明及び甲3、甲4又は甲7に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

したがって、本件発明9?12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、特許法第113条第2号の規定により、取り消されるべきものではない。

(3)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人は、本件発明1?8は、甲1に記載された発明及び甲2?甲4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本件発明9?12は、甲3に記載された発明及び甲4?甲7に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反するものであり、同法第113条第2号の規定により、本件発明1?12に係る特許を取り消すべき旨を主張する。なお、甲2は特開平10-158939号公報、甲6は特開平5-302218号公報である。
しかし、本件発明1との対比において、甲1のポリエステル繊維に係る発明を、液晶ポリエステル繊維のものに換える動機がなく、本件発明1?8は、甲1に記載された発明及び甲2?甲4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、また、本件発明9との対比において、甲3発明の油剤のポリジメチルシロキサンを、無機粒子とリン酸系化合物からなる油剤に換える動機がなく、本件発明9?12は、甲3発明及び甲4?甲7に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、申立人の上記主張を採用することはできない。

4.むすび
以上のとおりであるから、上記取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1?12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?12に係る特許を取り消すべき理由も発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-01-26 
出願番号 特願2012-73779(P2012-73779)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (D01F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 加賀 直人中村 勇介  
特許庁審判長 渡邊 豊英
特許庁審判官 井上 茂夫
蓮井 雅之
登録日 2016-11-18 
登録番号 特許第6040549号(P6040549)
権利者 東レ株式会社
発明の名称 液晶ポリエステル繊維およびその製造方法  

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