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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C01C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C01C
管理番号 1337082
異議申立番号 異議2017-700907  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-03-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-09-25 
確定日 2018-02-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第6139904号発明「晶析による粗大硫安製品の製造方法、およびこの製造方法を実施するための装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6139904号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6139904号の請求項1ないし11に係る特許についての出願は、平成25年2月14日(優先権主張 平成24年3月1日 ドイツ(DE))に出願されたものであって、平成29年5月12日に特許の設定登録がされ、その後、その特許に対して特許異議申立人 久門 享により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6139904号の請求項1ないし11に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された以下に記すものである。
以下、請求項の順に「本件発明1」ないし「本件発明11」といい、総称して「本件発明」といい、本件特許(特許第6139904号)の明細書の発明の詳細な説明及び添付図面をまとめて「特許明細書」ということがある。

【請求項1】
DTB原理により機能する晶析物ステージの硫安溶液の結晶化によって粒径d’の分布が2.0mmから3.0mmの粗大硫安結晶製品を連続的に生産する方法であって、水が蒸発する間に母液と硫安結晶の懸濁液が内部循環系で定常的に循環し、清澄溶液の局所流が、前記晶析物ステージの上部領域の清澄部から外部循環系へ抜き出され、そこに含まれる固体を溶解するために加熱され、前記晶析物ステージの下部領域へ清澄溶液として戻され、蒸気が前記晶析物ステージの頂部から連続的に抜き出され、新規な硫安溶液が外側から供給され、粗大硫安製品を含む懸濁液流動が前記晶析物ステージの前記下部領域から抜き出される方法において、
微細結晶懸濁液流動のさらなる局所流が、前記清澄部から抜き出され、そこに含まれる固体部分を前もって溶解せずに前記晶析物ステージの前記内部循環系に戻され、
前記微細結晶懸濁液流動の流量は、そこに含まれる前記固体部分が前記晶析物ステージの前記下部領域から抜き出された前記懸濁液流動の結晶物の量の0.2%から3.0%の範囲に単位時間当たりで対応するように、調整されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記微細結晶懸濁液流動が、連続的な方法で再循環することを特徴とする、方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって、前記微細結晶懸濁液流動が、前記晶析物ステージの生
産高に依存して、単位時間当たりで一定の流量で再循環することを特徴とする、方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の方法であって、前記微細結晶懸濁液流動が、その加熱前に前記外部循環系の前記清澄溶液の前記局所流から分岐することを特徴とする、方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の方法であって、前記戻された微細結晶懸濁液流動の固体量が、前記結晶物量の0.8%から1.5%の範囲にあることを特徴とする、方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法であって、前記戻された微細結晶懸濁液流動の固体量が、1%であることを特徴とする、方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の方法であって、前記微細結晶懸濁液流動が、前記晶析物ステージの液体レベルに近い点で前記内部循環系に戻されることを特徴とする、方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の方法であって、前記粗大硫安結晶製品の粒径d’は、2.3mmから2.5mmの範囲内にあることを特徴とする、方法。
【請求項9】
DTB原理に従って機能し、流動ガイドパイプ(6)を有する内部懸濁液循環系を有し、清澄溶液の外部循環系ライン(7)、および、前記外部循環系ライン(7)に接続される熱交換器(9)を有する晶析装置(1)を有し、前記晶析装置(1)の前記頂部(4)に配置された蒸気排出ライン(11)を有し、新規な硫安溶液の前記外部の供給のための溶液供給ライン(10)を有し、前記晶析装置(1)の前記底部領域(2)から通じる懸濁液排出ライン(18)を有する請求項1に記載の方法を実行するための装置であって、
前記晶析装置(1)の清澄部には、前記晶析装置(1)の前記内部懸濁液循環系の領域へ流出する微細結晶懸濁液戻りライン(31)が接続され、
前記微細結晶懸濁液戻りライン(31)が、前記流動ガイドパイプ(6)の上端の高さレベルの領域において前記晶析装置(1)へ流出することを特徴とする、装置。
【請求項10】
請求項9に記載の装置であって、前記微細結晶懸濁液戻りライン(31)が、前記流量を調整するための弁(32)を有することを特徴とする、装置。
【請求項11】
請求項8から10のいずれか一項に記載の装置であって、前記微細結晶懸濁液戻りライン(31)が、循環ポンプ(8)下流の前記熱交換器(9)上流で前記外部循環系ライン(7)から分岐することを特徴とする、装置。

第3 異議申立理由について
特許異議申立人は、異議申立理由として次の証拠に基づく以下の概要の進歩性要件違反並びに記載要件違反を主張し、本件特許は取り消されるべき旨を申立てた。

3-1.証拠
甲第1号証:特表2011-510895号公報
甲第2号証:特表2003-534129号公報
甲第3号証:特表平7-505087号公報
甲第4号証:国際公開第2000/56416号
甲第5号証:特開2000-72436号公報
甲第6号証:特開2000-334202号公報
甲第7号証:分離技術シリーズ5 改訂「分かり易い晶析操作」、久保田徳昭ら、分離技術会、平成21年2月10日、45-46頁
甲第8号証:Seeding Effect on Product Crystal Size in Batch Crystallization、NORIAKI KUBOTA et.al.、Journal of Chemical Engineering of Japan、vol.35、No.11、2002、1063-1071頁
甲第9号証:特開2005-194153号公報
なお、以下で甲各号証を「甲1」「甲2」のように記載することがある。

3-2.異議申立理由の概要
<異議申立理由1>本件発明1ないし11に対して(進歩性要件)
本件発明1ないし11に係る特許は、同発明が、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第9号証に記載された技術手段に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに対してされたものであるから、取り消されるべきものである。

<異議申立理由2>本件発明1ないし11に対して(明確性要件)
(1)請求項1、5、6に記載の「%」が何の「%」であるのか明らかでなく、本件発明1、5、6は明確でない。
請求項1、5、6を直接又は間接的に引用する請求項2ないし4、7ないし11についても同様である。
したがって、本件特許は、本件発明1ないし11が明確でないので、特許法第36条第6項第2号の規定に適合しないものに対してされたものであるから、取り消されるべきものである。
(2)また、請求項1に記載の「固体部分」がいかなる成分を意味するのか明らかでなく、本件発明1は明確でない。
請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし11についても同様である。
したがって、本件特許は、本件発明1ないし11が明確でないので、特許法第36条第6項第2号の規定に適合しないものに対してされたものであるから、取り消されるべきものである。

<異議申立理由3>本件発明1ないし11に対して(サポート要件)、発明の詳細な説明の記載に対して(実施可能要件)
本件発明の解決すべき課題は「【0013】本発明の目的は、可能な限り少ない費用で粗大硫安結晶を作成し、生産高をできるだけ一定に保ち、比較的強い周期変動なしで、高い生成率を維持するように一般的な方法を改良することであり、さらに、前記方法を実行する装置を提供することである。」ものである。
そして、特許明細書には、実施例として「【0029】14.9t/hの固体部分を有している懸濁液流動が、飽和した硫安溶液が連続的に供給されたDTB晶析装置の底部領域から連続的に採取された。内部懸混濁液循環系の循環力は15000m^(3)/hであり、外部溶液循環系の循環力は1500m^(3)/hであった。清澄溶液は、毎時、晶析装置の清澄部からの懸濁液再循環を経て晶析装置へ微細結晶懸濁液として内部懸混濁液循環系の液体レベルより上に戻され、戻された量の固形分は152kg/hであった。懸濁液流動から分離によって作成される硫安結晶物は、約2.4mmのd’で時間とともにほぼ完全に一定の粒子粗さを有した。」とされる「粒径d’約2.4mm」の場合に「ほぼ完全に一定の粒子粗さを有」したことが確認され、このとき「清澄部から抜き出され、そこに含まれる固体部分を前もって溶解せずに前記晶析物ステージの前記内部循環系に戻され」る「微細結晶懸濁液流動のさらなる局所流」の「流量」における「固体部分」の量(152kg/h)の、「晶析物ステージの前記下部領域から抜き出された前記懸濁液流動の結晶物の量(14.9t/h)」に対する割合は、(152/14.9×10^(3))×100=1.02%であり、すなわち、特許明細書には、同割合が1.02%のときに粒径が「約2.4mmのd’」で「ほぼ完全に一定の粒子」群を得られるという効果が確認できたことが記載されるのみである。
しかるに請求項1には、同割合が「0.2%から3.0%の範囲」であることが記載され、同割合が1.02%以外の場合にも、「粒径d’の分布が2.0mmから3.0mm」の「ほぼ完全に一定の粒子」群を得られるという確認されていない上記効果が得られることが特定されており、出願時の技術常識に照らして、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない。
また、特許明細書の発明の詳細な説明は、上記割合の特定の数値を当業者が実現できる程度に明確かつ十分に本件発明1が記載されているとはいえない。
請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし11についても同様である。
したがって、本件特許は、本件発明1ないし11が発明の詳細な説明に記載されたものでないので、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しないものに対してされたものであり、また、発明の詳細な説明は当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に発明が記載されているものともいえず特許法第36条第4項第1号の規定に適合しないものに対してされたものであるから、取り消されるべきものである。

第4 当審の判断
1.異議申立理由2について
請求項1、5、6に記載の「%」については、例えば【実施例】【0029】で、「14.9t/hの固体部分を有している懸濁液流動」と「清澄部からの懸濁液再循環を経て晶析装置へ微細結晶懸濁液として内部懸混濁液循環系の液体レベルより上に戻され、戻された量の固形分は152kg/h」との割合を計算すれば、(152kg/h)/(14.9t/h)=1.02重量%(「0.2%から3.0%の範囲」内の値)であり、これは単位時間当たり重量を、単位時間当たり重量で除算した結果であるから、上記箇所の「%」は、「重量%」を表すことは明らかであり、不明な記載ではない。
また、請求項1に記載の「固体部分」については、【0015】ないし【0019】の記載から、「溶解」させない「固体部分」が「種結晶材料」として「所望の成長」をして「粗大結晶」となるものであり、「微細結晶」(「粗大硫安結晶」でない)を意味することも明らかである。
以上から、本件発明1は明確であり、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし11についても同様である。
したがって、本件特許は、本件発明1ないし11が明確であるので、特許法第36条第6項第2号の規定に適合するものに対してされたものであるから、取り消されるべきものでない。
なお、以下の検討では、請求項1に記載の「固体部分」は「微細結晶」(「粗大硫安結晶」でない)を意味するものと認める。

2.異議申立理由1について
2-1.本件発明1について
本件発明1は、「DTB原理により機能する晶析物ステージの硫安溶液の結晶化による粗大硫安結晶製品」の「連続的生産の方法」(【0014】)において、「さらなる局所流として微細結晶懸濁液流動が清澄部から抜き出さ」れ、「そこに含まれる」「内部懸混濁液循環系の種結晶材料」である「固体部分を予め溶解せずに、晶析物ステージの内部循環系に戻」す(【0015】【0016】)ように「周期的(連続的)に供給することによって周期的な変動を打ち消」すことで、「本質的に一定の粒径範囲を有する粗大結晶の生成を確実にする」(【0015】【0016】)ものであって、「微細結晶懸濁液流動の流量は、その中に含まれる固体部分が単位時間当たり晶析物ステージの下部の領域から抜き出された懸濁液流動の結晶物の量の0.2%から3.0%の範囲の量に対応するように調整」(【0019】)することで、「ほぼ完全に一定の粒子粗さ」である「粒径d’の分布が、2.0ミリから3.0ミリ、特に2.3ミリから2.7ミリ」の「粗大硫安結晶製品」(【0014】【0029】)を製造できるというものである。
すなわち、本件発明1は、請求項1に記載の次の特定事項A、Bの二点を特徴とするものである。

特定事項A:「微細結晶懸濁液流動のさらなる局所流が、前記清澄部から抜き出され、そこに含まれる固体部分を前もって溶解せずに前記晶析物ステージの前記内部循環系に戻され」る(本件特許明細書【図1】の「3→7→8→32→31→1」の流れ)点
及び
特定事項B:「前記微細結晶懸濁液流動の流量は、そこに含まれる前記固体部分が前記晶析物ステージの前記下部領域から抜き出された前記懸濁液流動の結晶物の量の0.2%から3.0%の範囲に単位時間当たりで対応するように、調整」することで「粒径d’の分布が2.0mmから3.0mmの粗大硫安結晶製品」を製造する(本件特許明細書【図1】の「3→7→8→32→31→1」の流れに含まれる「固体部分」の重量が、同図の「DTB晶析装置1」の「18」から抜き出される「懸濁液」中の「結晶物」(粗大硫安結晶)の重量に対して「0.2%から3.0%の範囲に単位時間当たりで対応」する)点

2-2.甲第1号証について
甲第1号証には、以下に示す【図1】と共に、
「DTP原理に従い、水の蒸発の間に、母液と硫安結晶の懸濁液が絶えず内部循環系で循環し、溶液の局所的な流れが絶えず外部循環系の上部領域から抜き出され、そこに含まれる固体を溶解するために加熱され、そして晶析物ステージの下部領域に清澄溶液として再導入され、
ここで、蒸気は常に前記晶析物ステージの頂部から抜き出され、新たな懸濁液は外部から供給され、粗大硫安結晶物を含む懸濁液の局所的な流れは前記晶析物ステージの底部から抜き出される、
前記晶析物ステージにおける硫安溶液の結晶化によって粗大硫安結晶物(最低粒径2.4ミリ)を継続的に製造する方法であって、
前記晶析物ステージの上流に位置する晶析前ステージの中で前記新たな懸濁液が作られ、そこでは前記新たな懸濁液の固体の部分が0.5ミリ以下の粒径を持つ微小結晶と結晶核を除き懸濁液の分級抜出によって抜き出され、前記新たな懸濁液の固体の部分が飽和濃度以下の母液の部分とともに供給され、前記新たな懸濁液の固体の部分は前記晶析前ステージから直接前記晶析物ステージまでに適切な大きさの結晶成長を保証するのに十分なものであり、そして前記清澄溶液が前記晶析物ステージの外部循環系において前記晶析前ステージから抜き出された蒸気の熱で加熱されることを特徴とする
方法。」(【請求項1】)について記載されている。
ここで、同「方法」おいては、「外部循環系の上部領域から抜き出され、そこに含まれる固体を溶解するために加熱され、そして晶析物ステージの下部領域に清澄溶液として再導入され」る工程を構成とする(甲1【図1】の「1b→3b→4b→熱交換器12b→1b」、「1c→3c→4c→熱交換器12c→1c」の流れ)ものであり、これは本件発明1の「清澄溶液の局所流が、前記晶析物ステージの上部領域の清澄部から外部循環系へ抜き出され、そこに含まれる固体を溶解するために加熱され、前記晶析物ステージの下部領域へ清澄溶液として戻され」(本件特許明細書【図1】の「3→7→8→熱交換器9→7→1」の流れ)という特定事項(以下、「特定事項C」という。)に相当する。
しかしながら、同方法には、本件発明1の特定事項Aに対応する構成(上記工程とは別の、甲1【図1】における「1b→熱交換器12bを通らず→1b」、「1c→熱交換器12cを通らず→1c」の流れ)は存在せず、また、特定事項Aを前提とする特定事項Bについても示されていない。
したがって、甲第1号証に記載の技術手段には、本件発明1の特定事項A及びBについて記載も示唆も無い。

2-3.甲第2号証について
甲第2号証には、以下に示す【図2A】と共に、
「分級領域(3)を含む晶出器中で、物質を含む溶液または分散液から該物質を結晶化する装置であって、
(a)晶出器中に設けられている内部循環系(1)および晶出器の外側に設けられている外部循環系(2){但し、外側循環系(2)の入口は分級領域(3)を介して内側循環系(1)に接続され、外側循環系(2)の出口は晶出器の内側循環系(1)に接続されている}、および外部循環系(2)の出口前にてこの系に配置された結晶溶解手段と、
(b)晶出器または外側循環系(2)に配置された溶液および/または分散液の流入路(4)と、
(c)晶出器または外部循環系(2)に配置された分散液の流出路(5)と、を含み、更に
内部および外部循環系(1、2)を相互に連結し且つ分散液を輸送(再循環)する予定の配管(8)、および/または分散液を輸送(再循環)する配管(8)が設けられ、これらの入口および出口の両方を内部循環系(1)に連結することを特徴とする結晶化装置。」(【請求項1】)について記載されている。
ここで、同「装置」においては、「外側循環系(2)の入口(始点)は分級領域(3)を介して内側循環系(1)に接続され、外側循環系(2)の出口(終点)は晶出器の内側循環系(1)に接続されている、および外部循環系(2)の出口前にてこの系に配置された結晶溶解手段」という手段を構成(甲2【図2A】の「1、3→4→7→熱交換器6→1」の流れ)とするものであり、これは本件発明1の上記特定事項C(上記「2-2.」を参照。)に相当する。
しかしながら、同方法には、本件発明1の特定事項Aに対応する構成(上記工程とは別の、甲2【図2A】における「1、3→熱交換器6を通らず→1」の流れ)は存在せず、また、特定事項Aを前提とする特定事項Bについても示されていない。
したがって、甲第2号証に記載の技術手段には、本件発明1の特定事項A及びBについて記載も示唆も無い。


2-4.甲第3号証について
甲第3号証には、以下に示すFIGURE1と共に、
「蒸発ドラフト管バッフル(DTB)クリスタライザー装置を用いて結晶生成物を製造する連続結晶化方法において、
(a)DTBクリスタライザー装置の容器内の溶液中に結晶粒子を含むスラリー体に、溶解した溶質を含む透明な供給溶液を導入する工程と;
(b)前記スラリー体中に結晶化を誘導する過飽和を達成するための条件を維持する工程と;
(c)前記結晶粒子を懸濁状態に維持するために充分な流量で前記容器に所定流路において前記スラリー体を循環させる工程と;
(d)複数の分別室において前記スラリー体の一部を分離させる工程と; (e)前記分別室の各々からその上端部に隣接する出口を通して、所定サイズ未満の結晶粒子とスラリー液体との流れを取り出し、該流れ中の結晶粒子を溶解によって除去し、その後に該流れを容器中のスラリー体に戻す工程と、
(f)DTBクリスタライザー装置から生成物結晶を連続的に取り出す工程と;
(g)DTBクリスタライザー容器の操作温度以下の温度において、溶液中結晶の懸濁液であって、溶液と、懸濁液の総量を基準にして6?24容量%の結晶とを含み、結晶の少なくとも35%が14メッシュ(1.2mm)より大きいサイズである前記結晶懸濁液を、結晶の重量が工程(f)で取り出された生成物の重量の4?25%に成り、取り出された生成物の粒度分布のサイクリングが減少し、顆粒サイズ結晶の製造速度が上昇するような量で、スラリー体に一定速度で供給する工程と
を含む前記結晶化方法。」(【特許請求の範囲1】)について記載されている。
ここで、同方法においては、「(e)前記分別室の各々からその上端部に隣接する出口を通して、所定サイズ未満の結晶粒子とスラリー液体との流れを取り出し、該流れ中の結晶粒子を溶解によって除去し、その後に該流れを容器中のスラリー体に戻す工程」を構成(甲3FIGURE1の「1、6a→24a→11→12→熱交換器13→11a→1」)とするものであり、これは本件発明1の上記特定事項C(上記「2-2.」を参照。)に相当する。
しかしながら、同方法には、本件発明1の特定事項Aに対応する構成(上記工程とは別の、甲3FIGURE1における「1、6a→熱交換器13を通らず→1」の流れ)は存在せず、また、特定事項Aを前提とする特定事項Bについても示されていない。
したがって、甲第3号証に記載の技術手段には、本件発明1の特定事項A及びBについて記載も示唆も無い。


2-5.甲第4号証について
甲第4号証には、以下に示すFliess schma Abbildung Nr.1((和訳)概略的なイラスト No.1)(以下、「図1」という。)と共に、次の記載がある。
a)(57)Abstract
「The invention relates to a method for controlling the crystal size during continuous mass crystallisation、 especially with ammonium sulphate. According to said method、 seed products are added、 the seed product being produced independently of the current crystallisation process in terms of its parameters. The average grain size of the solid form of the seed product is 0.1 to 1.0 mm and is smaller than that of the desired crstallisate. The solid form of the seed product is produced from different technological sub-streams in the given grain size range、 independently of the main crystallisation process. The temperature of the seed product when it is added is up to 40 ℃、 preferably 10 to 30℃ lower than the process temperature in the crystalliser and all other materials that are supplied or returned to the crystalliser are free of solids. By controlling the parameters of the seed product it is possible to influence the grain size distribution of the end product and significantly reduce the fluctuations in the distribution of the grain size of the end product. The method can be carried out with discontinuous or continuous addition of the seed product.」
(和訳 異議申立人の提出した甲第4号証の部分訳を参考にした。)
「本発明は、特に硫安での連続大結晶化において結晶サイズを制御する方法に関する。該方法によれば、種生成物を添加し、該種生成物は、当該結晶化プロセスとは別個のパラメータで製造する。種生成物の固体形状の平均グレインサイズは0.1?1.0mmであり、所望の結晶よりも小さい。種生成物の固体形は、主結晶化プロセスとは別個に既定グレインサイズ範囲で種々の技術のサブストリームから製造する。種生成物の添加時の温度は、クリスタライザー内のプロセス温度よりも最大40℃、好ましくは10?30℃低く、クリスタライザーに供給されまたは戻される全ての他の材料は固体を含まない。種生成物のパラメータを制御することによって、最終生成物のグレインサイズ分布が左右され、最終生成物のグレインサイズの分布の変動が顕著に低減される。該方法は、種生成物の不連続又は連続の添加にて実施できる。」
b)3欄最下行?4欄15行
「Ueber Leitung (15) wird ein Teilstrom (flussige Phase) aus dem Kristallisationsapparat in den Abschlaemmkristallisator (16) ausgekreist. Das hierbei anfallende Kristallisat wird ueber eine Zentrifuge (17) abgetrennt und ueber die Leitung (18) dem Behaelter (19) als moeglicher Bestandteil des sogenannten Impfproduktes zugegeben.
Ein Teilstrom des Impfproduktes (beispielsweise aus Ammoniumsulfatkristall)、 das in Bezug auf Korngroessenverteilung und Menge durch mechanische Zerkleinerung einer Teilmenge des Endproduktes hergestellt wurde、 wird ueber die Leitung (20) ebenfalls dem Behaelter (19) zugefuehrt Im Behaelter (19) wird daraus eine pumpfaehige Kristallsuspension erzeugt und mit Hilfe eines Dosier- und Foerdersystems (21 ) ueber die Leitung (22) so in den Kristaller eingespeist、 dass die Kristalle des Impfproduktes nicht sedimentieren koennen.」
(和訳)
「ライン(15)を介して引き抜いた流れから、部分流(液相)を上澄み除去結晶化装置(16)で除去する。得られた結晶を遠心分離機(17)で分離し、いわゆる接種物の可能な成分として容器(19)にライン(18)を介して添加する。
最終生成物の予めの機械的粉砕によって粒度分布及び量に関して調整された種製品(例えば、硫酸アンモニウム結晶)の部分流も、ライン(20)を介して容器(19)に供給される。汲み上げ可能な結晶懸濁液は、容器(19)内で生成され、種結晶の結晶が沈降しないように計量供給システム(21)を用いてライン(21)を用いてライン(22)を介して晶析装置に供給される。」
c)ここで、上記a)b)から、甲第4号証に記載の技術手段においては、硫安での連続大結晶化において結晶サイズを制御する方法であって、「晶析装置(1)」から「ライン(15)」を介して引き抜いた硫安流から液相を除去し、粒度分布及び量を調整し、これに、予め粒度分布及び量を調整された「種製品の部分流」を加えて、調整しつつ「晶析装置(1)」に戻すことが記載されているといえる。
しかしながら、「ライン(15)」を介して引き抜いた硫安流から液相を除去し、粒度分布及び量を調整している事から、同硫安流には大結晶化した硫安が含まれているといえるものであるので、「ライン(15)」が硫安流を引き抜く箇所が「晶析装置(1)」の「清澄部」にあたるか否か明らかでなく、また、「晶析装置(1)」に戻される箇所に外部から別に新たな硫安流が追加されてもいるため、図1の「1→15→16→17→18→19(20)→21→22→1」の流れは、上記特定事項Aの流れに当たらず、また、特定事項Aを前提とする特定事項Bについても示されていない。
したがって、甲第4号証に記載の技術手段には、本件発明1の特定事項A及びBについて記載も示唆も無い。


2-6.甲第5号証について
甲第5号証には、以下に示す【図1】と共に、
「硫安溶液を晶析缶にて濃縮後、硫安結晶を析出させる工程を含む粗大硫安結晶の製造において、晶析缶内に存在する、外部循環ラインに流れ込む粒径を持つ結晶の存在量及び/又は存在割合を把握して、その値を制御することを特徴とする粗大硫安結晶の製造方法。」(【請求項1】)について記載されている。
ここで、同「方法」においては、「晶析缶1」の清澄部と推測される箇所から「外部循環ライン2」「ポンプ5」を経て「熱交換器」へ至り、再び「晶析缶1」へ接続されて硫安溶液が流れるものであり、「外部循環ライン2」へは外部からの「水供給ライン3」「硫安供給ライン4」が接続されており、硫安溶液中の微結晶は熱交換器における加熱により溶解し、「晶析缶1」へ再流入する流れは硫安の溶液のみといえるので、外部からの流入を考えなければ、本件発明1の特定事項C(上記「2-2.」を参照。)にあたるといえる。
しかし、同「方法」においては、上記の流れとは別の「1→熱交換器7を通らず→1」の流れは存在しないから、上記特定事項Aの流れに相当する流れはなく、また、特定事項Aを前提とする特定事項Bについても示されていない。
したがって、甲第5号証に記載の技術手段には、本件発明1の特定事項A及びBについて記載も示唆も無い。


2-7.甲第6号証について
甲第6号証には、以下に示す【図1】と共に次の記載がある。
a)「【発明の属する技術分野】本発明は晶析装置により結晶粒子を製造する際に、安定的に所望の平均粒径の製品を製造する、もしくは粗大粒子の取得率を向上させる方法と装置に関する。」(【0001】)
b)「【課題を解決するための手段】本発明では、晶析装置において、製品平均粒径変動に対して分級流量を操作することにより粒度分布の継続的振動現象を抑制することを特徴とする結晶製造方法を提供する。(【0006】) c)「【実施例】以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。図1に概略を示す硫安晶析プロセスを用いて、製品スラリー抜き出しラインより抜き出された結晶の平均粒径をもとに、分級流量を操作して、平均粒径及び晶析缶内スラリー濃度の継続的振動を抑制するとともに、分級流量の操作範囲を変更して、晶析缶内スラリー濃度及び製品結晶平均粒径を調節した。製品結晶平均粒径は製品スラリー抜き出しラインに設置された粒径モニタ等の計測値からオンラインで連続的に測定される。分級流量は分級脚への分級流量供給ラインへ設置された流量調節弁によって調節される。」(【0019】)
d)ここで、【図1】より、「晶析缶1」から抜き出される硫安流は、「晶析缶1」の「清澄部」と推測される箇所から「外部循環ライン2」を通り、「循環ポンプ4」「熱交換器3」を経て「晶析缶1」へ再度流入するものであり、「外部循環ライン2」へは外部からの「原料液供給10」が供給されており、硫安流中の微結晶は加熱により溶解し、「晶析缶1」へ再流入する流れは硫安の溶液のみといえるので、外部からの流入を考えなければ、「1→2→4→3→1」の硫安流は本件発明1の特定事項Cにあたるといえる。
e)また【図1】より、「晶析缶1」から抜き出される硫安流は、「分級流量調節弁11」を通って「晶析缶1」へ再度流入するが上記d)の硫安流の流れとは別に存在し、これは熱交換器を通らず「そこに含まれる固体部分を前もって溶解せず」といえるので、本件発明1の特定事項Aにあたるものといえる。
f)しかしながら、上記a)ないしc)より、上記e)でみた硫安流れの調整は、「製品スラリー抜き出しラインより抜き出された結晶の平均粒径をもとに、分級流量を操作」し、「平均粒径及び晶析缶内スラリー濃度の継続的振動を抑制」し、「晶析缶内スラリー濃度及び製品結晶平均粒径」を調節するものであって、「製品抜出しポンプ5」から抜出される製品スラリー中の製品(大径の結晶)の重量に対比されるものではないから、「製品スラリー抜き出しラインより抜き出された結晶」の重量の、「製品抜出しポンプ5」から抜出される製品スラリー中の製品(大径の結晶)の重量に対する割合を「0.2%から3.0%の範囲に単位時間当たりで対応」させることで「2.0mmから3.0mmの粗大硫安結晶製品」とできることまでを示すものとはいえない。
g)以上から、甲第6号証に記載の技術手段には、本件発明1の特定事項Bについて記載も示唆も無い。


2-8.甲第9号証について
甲第9号証には、以下に示す【図1】と共に次の記載がある。
a)「硫安液を蒸発濃縮して硫安結晶を得る晶析缶がドラフトチューブ、バッフル、攪拌機および分級脚を備えており、上記攪拌機の攪拌によりドラフトチューブ内外を循環される混合域と上記バッフルに仕切られた清澄域を形成している晶析缶により硫安結晶を製造する方法において、前記清澄域のスラリーを抜き出して回収し、該回収スラリーを硫酸とアンモニアを反応させる中和工程に循環させ、中和反応熱により該回収スラリー中の結晶を溶解させて前記晶析缶に戻し、かつ上記清澄域のスラリーを回収して中和工程に循環させる以外に、該清澄域のスラリーを系外に抜き出すようにしたことを特徴とする硫安結晶の製造方法。」(【請求項1】)
b)「前記晶析缶において、前記外部循環ラインもしくは前記清澄域から系外に抜き出す微粒抜きラインに流れ込む清澄域のスラリーの結晶濃度が5?45wt%であり、かつ前記混合域のスラリーの結晶濃度が20?45wt%であり、該清澄域の結晶濃度が混合域の結晶濃度以下であることを特徴とする請求項1?4のいずれか一項に記載の硫安結晶の製造方法。(【請求項5】)
c)ここで、上記a)の「前記清澄域のスラリーを抜き出して回収し、該回収スラリーを硫酸とアンモニアを反応させる中和工程に循環させ、中和反応熱により該回収スラリー中の結晶を溶解させて前記晶析缶に戻し」は、【図1】をみると、「晶析缶1、清澄域27→微粒回収ライン8→回収工程9→中和工程11(硫酸12、アンモニア13の流入による中和熱の発生)→硫安液14→晶析缶1」の流れであり、これは本件発明1の特定事項C(上記「2-2.」を参照。)に相当するといえる。
d)上記a)の「上記清澄域のスラリーを回収して中和工程に循環させる以外に、該清澄域のスラリーを系外に抜き出すようにした」は、【図1】をみると、「晶析缶1、清澄域27→外部循環ライン6→晶析缶1」の流れであり、これは熱交換器を通らず「そこに含まれる固体部分を前もって溶解せず」といえるので、本件発明1の特定事項Aにあたるものといえる。
e)しかしながら、甲第9号証には、上記b)に記載されるように、「晶析缶1」内の「清澄域」と「混合域」の「スラリーの結晶濃度」を調整することについて記載されるのみで、「分級脚5」から抜き出される固体部分(大径硫安結晶)の重量について対比されるものではないから、上記d)の流れにおける「晶析缶1、清澄域27→外部循環ライン6」への流れでの固体部分の重量の、「分級脚5」から抜き出される固体部分(大径硫安結晶)の重量に対する割合を「0.2%から3.0%の範囲に単位時間当たりで対応」させることで「2.0mmから3.0mmの粗大硫安結晶製品」とできることまでを示すものとはいえない。
f)以上から、甲第9号証に記載の技術手段には、少なくとも本件発明1の特定事項Bについて記載も示唆も無い。


2-9.甲第7及び8号証について
a)甲第7及び8号証には上記特定事項A及びBについて記載も示唆もない。そして、甲第7、8号証によれば、晶析における種結晶の粒径及び添加量と製品結晶粒径との間には理論的に以下の関係が成立する。
・製品結晶の体積平均径Lp
・シード(種)結晶(微細結晶)の体積平均径Ls
・シード(微細結晶)総質量Ws、製品結晶質量Wth
・製品結晶総質量Wth+Ws

(Lp/Ls)^(3)=(Wth+Ws)/Ws--(1)式
Cs=Ws/Wth--(2)式

(1)式(2)式より(Lp/Ls)^(3)=(1+Cs)/Cs--(3)式

Cs=1/{(Lp/Ls)^(3)-1}--(4)式

b)ここで、Csは、(2)式より、シード総質量Wsを、製品結晶質量Wthで除算したものだから、本件発明1に適用してみれば、Csは、本件発明1の「微細結晶懸濁液流動」に「含まれる前記固体部分」の量を、「晶析物ステージの前記下部領域から抜き出された抜き出された前記懸濁液流動の結晶物の量」で除算した割合の値(0.2%から3.0%)、すなわち、本件発明1の【図1】において、「晶析装置1の清澄部3→外部循環系ライン7→外部循環ポンプ8→流量弁32→微細結晶懸濁液の再循環31→晶析装置1の液体レベル近傍」の流れ(上記特定事項Aに相当)の「固体部分」(微細結晶)の重量を、「晶析装置1→懸濁液排出18→懸濁液ポンプ30→固体液体分離装置19→」の流れの製品結晶(大径結晶)の重量で除算した割合の値(0.2%から3.0%)を意味するものといえる。
c)そこで、上記(4)式を適用して、上記割合を計算により導出できるかを甲各号証について検討すると、上記「Cs」が計算できるためには、上記特定事項Aを有するものであることが必要であり、これが示された証拠は甲第6及び9号証である。
d)まず、甲第6号証についてみるに、同号証には、上記「2-7.」でみたように、「分級流量」、「晶析缶内のスラリー濃度」、「製品結晶」の「平均粒径」(Lp)は示されているが、「製品結晶」になる前の微小結晶の径(Ls)と含まれる固体部分の量(Ws)、「製品結晶」の量(Wth)が示されていないので、上記(4)式を用いた計算を行うことができないし、そもそも甲第6号証には上記特定事項Bに関する上記割合の値に基いて製品結晶の径を調整するという技術思想が示されていない。
したがって、甲第6号証に記載の技術手段に、甲第7及び8号証に記載の技術手段を適用することはできない。
e)次に、甲第9号証についてみるに、特にその【図1】から、同号証には、粗大結晶を含む「分級脚5」から抜き出された硫安流が、「スラリー濃縮分離装置19」で「粗大結晶」と「微粒結晶(種結晶)」に分離され、「微粒結晶(種結晶)」が「晶析缶1」に戻されること(甲第9号証【0035】)が記載され、これは、本件発明1と異なり、種結晶源が「外部循環ライン6」経由の他にも存在するものといえる。
すると、上記(2)式において、「Cs=Ws/Wth」の「Ws(シード(微細結晶)総質量)は、「外部循環ライン6」経由のものと「スラリー濃縮分離装置19」経由のものとの両方を含む値となるから、「Cs」として「外部循環ライン6」経由だけのものが示されていないので、上記(4)式を用いた計算を行うことができないし、そもそも甲第9号証には、上記特定事項Bに関する上記割合に基いて製品結晶の径を調整するという技術思想が示されていない。
したがって、甲第9号証に記載の技術手段に、甲第7及び8号証に記載の技術手段を適用することはできない。

2-10.進歩性違反についての結言
以上から、甲各号証には少なくとも上記特定事項Bについて記載も示唆も無く、同特定事項により所定の作用効果が奏されるものであるから、本件発明1に係る特許は、甲第1ないし9号証に記載された技術手段に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに対してされたものでなく、取り消されるべきものでない。
本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2ないし11についても同様である。

3.異議申立理由3について
異議申立理由3は、端的には、上記特定事項Bである「粒径d’の分布が2.0mmから3.0mmの粗大硫安結晶製品」を製造するために「微細結晶懸濁液流動の流量は、そこに含まれる前記固体部分が前記晶析物ステージの前記下部領域から抜き出された前記懸濁液流動の結晶物の量の0.2%から3.0%の範囲に単位時間当たりで対応するように、調整される」とされる「0.2%から3.0%の範囲」という数値限定のうち、効果が確認されたのは「1.02%」のときのみであり、それ以外の場合に具体的に記載がなく、サポート要件違反であり、実施可能要件違反であるとするものである。
そこで検討するに、
本件発明の解決すべき課題は、「DTB原理」による「粗大硫安結晶」の製造において、「生産高をできるだけ一定に保ち、比較的強い周期変動なしで、高い生成率を維持するように一般的な方法を改良する」こと(【0013】【0014】)であり、その解決手段として上記特定事項Bが特定されているものである。
そして、特定事項Bの数値限定の理由について、本件特許明細書【0016】及び【0020】からして、本件発明1は、「種結晶材料としてこの微細結晶懸濁液を周期的に供給することによって周期的な変動を打ち消す」ことができるものであり、「溶液の過飽和状態が可能な限り大きい点で微細結晶懸濁液を内部懸混濁液循環系へ戻すことが特に便宜的であり、したがって、迅速な結晶成長の状態が特に有利である」ものである。
すると、「粒径d’の分布が2.0mmから3.0mmの粗大硫安結晶製品」を製造するに際して、「周期的な変動を打ち消すため」には「種結晶」たる「微細結晶」が一定量以上で「清澄部」(微細結晶でなる)から晶析装置内に戻ることが必要であるという理由から、下限を「0.2%」と規定しているのであり、また、「微細結晶」が多くなりすぎれば晶析の起きる結晶の総表面積が大きくなりすぎて硫安液の過飽和状態は打ち消されて大径粒子が成長できなくなるという理由から、晶析装置内に戻る「微細結晶」量として上限の「3.0%」を規定しているといえる。
すなわち、上記数値限定は、上記の合理的な技術的理由から、それらの満足される条件を示すものといえるし、事実その条件内の数値において本件発明が実施できることが【実施例】(【0029】)として、特定事項Bの「0.2%から3.0%の範囲」に入る「1.02%」で「約2.4mmのd’」で「ほぼ完全に一定の粒子」群を得られるという効果が確認できた(上記「第3 3-2.<異議申立理由3>」)ことが記載されているものである。
したがって、上記理由の満足される「1.02%」の近傍の数値範囲において、「粒径d’の分布が2.0mmから3.0mmの粗大硫安結晶製品」を製造できることを当業者は認識できるものといえる。
そして、本件特許明細書【0005】【0006】をみると、同箇所に本件発明の従来例として記載された欧州特許第0632738号(甲第3号証のパテントファミリー)には、「十分に粗大な結晶の生成を増大させるために、そして粒径の周期的な変動に関して生成を向上させるため」に、「この方法では飽和硫安溶液に加え、硫安の結晶懸濁液が外部源から一定の流入割合で晶析装置に供給される」ものではあるが、「懸濁液の供給は、供給された懸濁液中の結晶の重量が、結晶物を含む懸濁液の中の結晶の重量の4%から25%の範囲になるような比率になっている。そして、その懸濁液は晶析装置の底部領域から抜き出される、という条件である」ことにより「少なくとも結晶の35%は1.2ミリより大きく」なること(本件特許明細書【0005】【0006】)が記載されており、これは、上記本件発明の特定事項Bとの関連において、「前記微細結晶懸濁液流動の流量は、そこに含まれる前記固体部分が前記晶析物ステージの前記下部領域から抜き出された前記懸濁液流動の結晶物の量の4%から25%の範囲に単位時間当たりで対応するように、調整」することで「粒径d’の分布が少なくとも結晶の35%は1.2ミリより大きい粗大硫安結晶製品」を製造することが従前の技術として知られていたことにあたるところ、本件発明の「0.2%から3.0%の範囲」は、従前の技術の「4%から25%の範囲」から外れたものであると共に、「0.2%から3.0%の範囲」は「4%から25%の範囲」の幅からみて極めて狭いことから、「1.02%」のみならず「0.2%から3.0%の範囲」の全般にわたって、本件発明の解決すべき課題は解決しているとみるのが妥当である。
そうであれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、上記数値範囲について多くの実施例を必要とすることなく、当業者であれば本件発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているものということができ、また、本件発明1は発明の詳細な説明に記載されたものということができるし、本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2ないし11についても同様である。
したがって、本件特許は、特許請求の範囲の記載が発明の詳細な説明に記載されたものなので、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものに対してされたものであり、また、発明の詳細な説明の記載は当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているものなので、特許法第36条第4項第1号の規定に適合するものに対してされたものであるから、取り消されるべきものでない。

第5 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-01-31 
出願番号 特願2013-26245(P2013-26245)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C01C)
P 1 651・ 121- Y (C01C)
P 1 651・ 536- Y (C01C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 村岡 一磨  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 瀧口 博史
中澤 登
登録日 2017-05-12 
登録番号 特許第6139904号(P6139904)
権利者 ゲア メッソ ゲーエムベーハー
発明の名称 晶析による粗大硫安製品の製造方法、およびこの製造方法を実施するための装置  
代理人 関 大祐  
代理人 廣瀬 隆行  

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