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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B23K
管理番号 1337089
異議申立番号 異議2017-700887  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-03-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-09-19 
確定日 2018-02-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第6122519号発明「一体部材の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6122519号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第6122519号の請求項1ないし6に係る特許についての出願(以下、「本件出願」という。)は、平成25年11月11日(優先権主張平成24年11月22日)を出願日とする特願2014-527411号の一部を平成28年1月25日に新たな特許出願としたものであって、平成29年4月7日に特許権の設定登録がなされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人赤松智信(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2.本件発明
特許第6122519号の請求項1ないし6に係る発明(以下、「それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明6」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される発明であり、次のとおりのものである。

「【請求項1】
アルミニウム合金材料から成る第1部材と、鉄系材料から成る第2部材とを溶接して一体化させる一体部材の製造方法であって、
前記第1部材は、珪素を所定量含有するとともに、前記第1部材に対して第2部材を厚さ方向に押し込んで圧入しつつ圧入部に対して通電することにより電気抵抗溶接させて一体化するものとされ、接合時の通電及び加圧により溶融及び塑性変形させて、前記第1部材と第2部材との接合境界に厚さが1μm以下のFe-Al-Si三元系化合物から成る中間層を形成させつつ当該接合境界を圧入方向に対して傾斜させることを特徴とする一体部材の製造方法。
【請求項2】
前記中間層は、略直線状に形成されることを特徴とする請求項1記載の一体部材の製造方法。
【請求項3】
接合時の通電及び加圧により溶融及び塑性変形させて、前記中間層を形成させつつ材料が前記接合部よりはみ出した部位を形成させることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の一体部材の製造方法。
【請求項4】
前記中間層が形成された接合境界は、接合方向に対して略10°傾斜していることを特徴とする請求項1?3の何れか1つに記載の一体部材の製造方法。
【請求項5】
前記第1部材は、アルミニウム合金ダイカストから成るとともに、珪素が7.5?18.0重量%含有されたことを特徴とする請求項1?4の何れか1つに記載の一体部材の製造方法。
【請求項6】
前記第1部材は、アルミニウム合金鋳物から成るとともに、珪素が6.5?13.0重量%含有されたことを特徴とする請求項1?4の何れか1つに記載の一体部材の製造方法。」

第3.申立理由の概要
異議申立人の主張する申立理由の要旨は、次のとおりである。

本件発明1ないし6は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第5号証に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるため、本件発明1ないし6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、本件発明1ないし6に係る特許を取り消すべきものである。

[証拠方法]
甲第1号証:特開平9-122924号公報
甲第2号証:特開2005-313211号公報
甲第3号証:改訂6版 金属便覧 日本金属学会編、丸善株式会社、平成20年4月15日第5刷発行、第570ないし572ページ
甲第4号証:特開平8-296417号公報
甲第5号証:Al合金/鋼異材接合における接合性に及ぼすSi、Mgの影響、大阪大学、廣瀬明夫、今枝裕貴、近藤未希、小林絋二郎、溶接学会全国大会講演概要 社団法人溶接学会、2005年11月30日,第1及び2ページ

第4.甲各号証の記載
1.甲第1号証について
甲第1号証(特開平9-122924号公報)には、図面(特に図1及び図2参照。)とともに以下の事項が記載されている。
(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】導電性のある異種の被接合材に雌雄対となるテーパ面を形成し、この互いのテーパ面を当接させた状態で加圧し、通電することにより界面を加熱活性化して接合を行なうことを特徴とする異種材間の抵抗接合法。
【請求項2】前記雌雄対となるテーパ面は、2段に形成されていることを特徴とする請求項1記載の異種材間の抵抗接合法。
【請求項3】前記雌雄対となる少なくとも一方のテーパ面は、円周から見て線接触する接触部を有することを特徴とする請求項1または請求項2記載の異種材間の抵抗接合法。
【請求項4】前記雌雄対となる少なくとも一方のテーパ面は、円周から見て面接触する接触部を有することを特徴とする請求項1または請求項2記載の異種材間の抵抗接合法。
【請求項5】前記雌雄対となるテーパ面は、異なるテーパ角度に設定したことを特徴とする請求項1乃至請求項4記載のいずれかに記載の異種材間の抵抗接合法。
【請求項6】前記雌雄対となる少なくとも一方のテーパ面にめっき等により薄いインサート材を付着させて加圧通電による接合を行い、接合終了後、接合界面にインサート材が残存しないことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の異種材間の抵抗接合法。
【請求項7】前記テーパ面の面粗度を、Ra0.1?10に調整したことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の異種材間の抵抗接合法。
【請求項8】前記テーパ面に鋳造ままの表面状態を用いたことを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の異種材間の抵抗接合法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明が属する技術分野】この発明は、導電性のある異種の被接合材同士を互いに当接させて接合する異種材間の抵抗接合法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】導電性のある異種材間の抵抗接合法として、例えば拡散接合法があり、この拡散接合法は、材料が大きく変形しない程度の圧力をその材料の接合面に加えるとともに、材料の融点を越えない温度まで加熱を行ない、接合面で生じる原子の拡散を利用して固相状態で接合する。」

(2)「【0016】この実施例では、導電性のある異種の被接合材1,2には、それぞれ雌雄対となるテーパ面1a,2aが形成されている。被接合材1のテーパ面1aには、めっき等により薄いインサート材3が付着されている。被接合材1,2の互いのテーパ面1a,2aを当接させた状態で加圧し、通電することにより界面を加熱活性化して接合を行なう。
【0017】2つの被接合材1,2をテーパ面1a,2aで当接させ、軸方向に適当な加圧力Pを加える。加圧力Pは、接触面の電気抵抗が大きくばらつかない範囲の値とし、被接合材1,2の適切な接合のために最適な値を選ぶ。その後、直流電流を流すと、被接合材1,2は接触部の電気抵抗が内部のそれより大きいために接触部で発熱する。この際、インサート材3と被接合材2の間に双方の材料原子の相互拡散が生じ、その結果、界面付近に合金層4が形成され、被接合材1,2は母材強度と同等の接合強度が得られ、大気中で処理でき、接合に要する時間は例えば1秒以下であり、極めて生産性がよい。
【0018】インサート材3は、被接合材2と共晶合金を作るような組み合わせとなるように選定しておけば、こうしてできる合金層4は、引き続いておこる温度上昇の過程で、優先的に液相を生じ、拡散反応が著しく助長される。界面は加圧されているので、その中に発生した液相は、温度上昇に伴って非接合材が塑性変形するのに乗じて、外部へと排出され、この排出部5は加工により排除される。
【0019】この過程で、被接合材1,2の表面の酸化皮膜が破壊されると同時に、被接合材1と被接合材2の間で直接拡散反応が生じることになり、界面付近に合金層4が形成され、接合終了後、接合界面にインサート材が残存しない。」

(3)「【0040】このとき、被接合材1,2が接触する部分の面積がきわめて小さいことから、通電されると電気抵抗が大きくなってこの接触部が発熱するようになる。この熱は被接合材1,2の接触界面の全体に伝導する。このように被接合材1,2の接触界面の温度が上昇すると、固相状態で互いに圧接し合う材料金属の原子が活発に運動するようになり、これらの原子同士が相互に拡散するようになる。
【0041】界面付近の温度がさらに上昇し、共晶合金層の一部が液相に変化するようになると原子の拡散現象は一層活発となり、この共晶合金層が成長してこれに伴なって固相と液相との界面が拡大する。
【0042】この共晶合金層の一部が接触部から排除され、図11中にT2で示すときに被接合材1が被接合材2内に沈み込み始めることになる。このように被接合材1が沈み込み始めてから図11中に示す時間T3に達したときに押圧力を増大させて第2押圧力P2とする。
【0043】押圧力が増大することにより合金の塑性流動量が増大し、これに伴って共晶合金の排除量が増量される。この結果、接触部の未反応部分において新たに共晶合金が生成され、前記現象が繰り返されてこの共晶合金層が液相化しさらに排除される。
【0044】第2押圧力P2による押圧を開始してから図11に示す時間T4に達したときに、電流値を一度0付近まで低下させ、さらに元の値まで上昇させる。電流値を低下させることにより発熱が一時抑えられることになり、塑性流動が抑えられて図11に示すように被接合材1の沈み込み量の増加割合が一時低下する。このように電流値を一時的に低下させるのは、合金が熱により溶融してしまうのを防ぐためである。
【0045】電流値を上述したように元の値まで上昇させた後、時間T5に達してから時間T6に達するまでの間に徐々に低下させて0とする。電流が流れている間は勿論、通電が断たれた後も反応不能温度まで温度が低下するまでは前記反応が進行し、共晶合金層の生成→液層化→塑性流動に伴なう排除、という現象と、鉄系焼結合金とアルミニウム合金との原子相互拡散という現象が同時に起こりながら被接合材1が沈み込み続け、被接合材2内に埋没するようになる。」

(4)「【0049】また、異種の被接合材は、導電性のある金属であれば特に限定されず、例えばAC4B材、AC2B材などを採用することができる。また、インサート材の材料として例えば銅、すず、亜鉛、銀、黄銅、シリコン、アルミニウムシリコン合金等を用いることができ、被接合材の材料金属と共晶合金が生成されるものであればどのようなものでもよい。」

(5)上記(2)の段落【0019】の「被接合材1,2の表面の酸化皮膜が破壊されると同時に、被接合材1と被接合材2の間で直接拡散反応が生じることになり、界面付近に合金層4が形成され、接合終了後、接合界面にインサート材が残存しない」との記載、上記(3)の段落【0045】の「共晶合金層の生成→液層化→塑性流動に伴なう排除、という現象と、鉄系焼結合金とアルミニウム合金との原子相互拡散という現象が同時に起こりながら」との記載、及び上記(4)の段落【0049】の「また、インサート材の材料として例えば銅、すず、亜鉛、銀、黄銅、シリコン、アルミニウムシリコン合金等を用いることができ、被接合材の材料金属と共晶合金が生成されるものであればどのようなものでもよい」との記載によれば、インサート材としてシリコンが含まれるシリコンまたはアルミニウムシリコン合金を用いれば、接合界面の合金層4は、Fe-Al-Si共晶合金から成るといえる。

(6)図1及び図2を合わせてみると、被接合材2に対してインサート材3が付着された被接合材1を、加圧力Pにより厚さ方向に押し込んで圧入していることが看取される。

(7)図2より、被接合材1と被接合材2の接合界面は、加圧力Pによる圧入方向に対して傾斜させることが看取される。

上記記載事項、認定事項及び図面の図示内容を総合して、本件発明1に則って整理すると、甲第1号証には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「シリコンまたはアルミニウムシリコン合金から成るインサート材3が付着されたAC4B材のアルミニウム合金から成る被接合材1と、鉄系焼結合金から成る被接合材2とを抵抗接合する方法であって、
前記鉄系焼結合金から成る被接合材2に対して前記シリコンまたはアルミニウムシリコン合金から成るインサート材3が付着されたAC4B材のアルミニウム合金から成る被接合材1を厚さ方向に押し込んで圧入し、圧入部に対して直流電流を流すことにより抵抗接合するものとされ、接合時の直流電流を流すこと及び加圧力Pにより液相を生じさせ及び塑性変形させて、前記被接合材1と被接合材2との接合界面にFe-Al-Si共晶合金からなる合金層4を形成させつつ当該接合界面を圧入方向に対して傾斜させる抵抗接合する方法。」

2.甲第2号証について
甲第2号証(特開2005-313211号公報)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融アルミニウムめっき鋼板にアルミニウム又はアルミニウム合金をスポット溶接で積層した接合構造体であり、溶融アルミニウムめっき鋼板がSi:3?12質量%,Fe:0.5?5質量%,残部:実質的にAlのめっき層を表面に形成しており、スポット溶接で形成されたナゲットの平均Fe,Si濃度がアルミニウム又はアルミニウム合金のFe,Si含有量よりも共に0.1質量%以上高くなっていることを特徴とする鋼/アルミニウムの接合構造体。
【請求項2】
めっき層の厚さが5μm以上である請求項1記載の接合構造体。
【請求項3】
平均厚さ0.2μm以上のAl-Fe-Si三元合金層が接合界面に存在している請求項1記載の接合構造体。」

(2)「【0009】
溶融アルミニウムめっき鋼板としては、厚さ5μm以上の溶融アルミニウムめっき層が形成されためっき鋼板が好ましい。相手材には、好ましくはFe濃度を1.0質量%以下に規制したアルミニウム材料が使用され、Mg:0.1?6.0質量%,Si:3.0質量%以下を含むアルミニウム合金も使用可能である。
ナゲットの平均Fe,Si濃度は、めっき層組成,アルミニウム材料のFe,Si規制,溶接条件の制御等によってアルミニウム材料のFe,Si含有量よりも共に0.1質量%以上高く維持される。また、接合界面に平均厚さ0.2μm以上のAl-Fe-Si三元合金層が存在すると、継手強度が向上する。
【発明の効果】
【0010】
溶融アルミニウムめっき鋼板,アルミニウム材料を重ね合わせてスポット溶接すると、高温加熱された接合部のアルミニウム材料,溶融アルミニウムめっき層が溶融し、相互拡散反応によって融合する。生成した溶融Alに溶融アルミニウムめっき層,下地鋼が溶け込むので、アルミニウム材料の母材部に比較してFe濃度が高くなったナゲットが形成される。めっき層/下地鋼の界面に生成しているAl-Fe-Si三元合金層が溶融Alに溶け込むことも、Fe濃度上昇の一因である。」

(3)「【実施例2】
【0028】
C:0.05質量%,Si:0.1質量%,Mn:0.25質量%,P:0.012質量%,S:0.006質量%,Al:0.006質量%を含む冷延鋼板を溶融アルミニウムめっきした。溶融アルミニウムめっきでは、溶融アルミニウムめっき層のSi含有量が1.8質量%,3.5質量%,9.2質量%の三水準、Fe含有量が0.2?0.3質量%,0.7?0.9質量%,1.8?2.3質量%,3.9?4.5質量%,5.5?6.1質量%の五水準となるように溶融アルミニウム浴の組成,溶融めっき条件を調整した。
【0029】
相手材には、Si:0.10質量%,Fe:0.22質量%,Mg:2.67質量%,Cu:0.01質量%,Cr:0.19質量%,Mn:0.02質量%,Zn:0.01質量%,残部Alで板厚1.0mmのアルミニウム合金板を使用した。
溶融アルミニウムめっき鋼板,アルミニウム合金板から切り出した試験片を脱脂・洗浄した後、交流スポット溶接機(60Hz)でスポット溶接した。溶接条件としては、径:16mm,先端アール:75mmの銅合金チップを電極に用い、溶接電流を21kA,通電時間を12サイクルに設定した。
【0030】
作製された接合構造体の接合強度を引張り剪断試験及び十字引張試験で測定すると共に、ナゲットのFe,Si濃度を実施例1と同様に測定した。
表2の試験結果に見られるように、溶融アルミニウムめっき層のFe,Si濃度が適正範囲(Si:3?12質量%,Fe:0.5?5質量%)に維持されると、引張り剪断強度:3.3kN以上,十字引張り強度:1.3kN以上と接合強度の高い接合構造体が得られた。良好な接合強度を示す接合構造体では、アルミニウム合金母材のFe,Siに比較してナゲットの平均Fe,Si濃度が0.1質量%以上高くなっていた。接合界面には、平均厚さ0.2μm以上のAl-Fe-Si三元合金層が存在していた。
【0031】
他方、Fe,Si濃度が低いと、Al-Fe-Si三元合金層が接合界面にほとんど存在せず、アルミニウム合金母材のFe,Siに比較してナゲットの平均Fe,Si濃度の増加量が0.1質量%未満に留まっていた。
逆に、ナゲットのFe,Si濃度が高すぎる接合構造体では、Al-Fe-Si三元合金層が厚いものの接合強度が低い値であった。低い接合強度は、溶接部のFe,Si濃度が高すぎたため脆性的な破壊が生じた結果と推察される。」

(4)段落【0032】には、表2として、めっき層,ナゲットのSi,Fe濃度,Al-Fe-Si三元合金層が接合強度に及ぼす影響が記載されている。

3.甲第3号証について
甲第3号証(改訂6版 金属便覧 日本金属学会編、丸善株式会社、平成20年4月15日第5刷発行、第570ないし572ページ)には、以下の事項が記載されている。
(1)「鋳造用Al合金には砂型鋳造,シェル型鋳造,精密鋳造,金型鋳造,低圧鋳造,高圧鋳造などの鋳物用合金とダイカスト用合金がある.鋳物用合金成分には鋳造法による相違はなく,基本的には強度の高いAl-Cu系合金,鋳造法が優れたAl-Si系合金および耐食性が優れたAl-Mg合金がある.いずれの合金系にも鋳造割れ防止,結晶粒微細化のためTiが添加される.結晶粒微細化はTi添加によるTiAl_(3),TiB_(2)の異質核生成の効果による.
ダイカスト用合金は薄肉キャビティの金型に鋳造するため流動性が優れているAl-Si系合金がほとんどで,鋳造性は悪いが耐食性が優れているAl-Mg合金がわずかに用いられる.」(第570ページ右欄下から第7行ないし第571ページ右欄第1行)

(2)「表8・37にAl合金鋳物およびダイカストの標準組成と機械的性質を示す.ACは鋳物,ADCはダイカスト品を表示する .」(第572ページ左欄第4行ないし第6行)

(3)「c.Al-Cu-Si合金(AC2A,2B)
Al-Cu系の鋳造性を改善するためSiを5?7%加えた合金で,α-Alデンドライト相,α+Si共晶相および非平衡α+Al_(2)Cu共晶相からなる.Cu3?4%の固溶強化とともに,時効硬化熱処理によるAl_(2)Cu,Mg_(2)Siの中間相の析出により強化される.靱性は低い.被削成,溶接性もよく,自動車のマニホールド,シリンダヘッド,クランクケース,その他鋳物用合金として広く使用される.
d.Al-Si-Cu合金(AC4B,ADC10,12)
Siを8?12%含有し鋳造性が優れ,Cu3%の固溶とAl_(2)Cu,Mg_(2)Siの中間相の析出で強度が改善される.不純物の許容量が多く,靱性は低い.シリンダヘッド,シリンダブロック,マニホールドなど一般鋳物に多く用いられる.ダイカスト製品の95%以上はSi10?12%の合金系である.」(第572ページ左欄第29行ないし下から第3行)

(4)表8・37には、AC2B材のSiの標準組成は6mass%であることが記載され、また、AC4B材のSiの標準組成は8.5mass%であることが記載されている。

4.甲第4号証について
甲第4号証(特開平8-296417号公報)には、図面(特に図10を参照。)とともに以下の事項が記載されている。
(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 シリンダヘッド本体とバルブシートとが異種材料によって形成されたエンジン用シリンダヘッドにおいて、前記シリンダヘッド本体の燃焼室側ポート開口部に、バルブシート母材を圧接させるとともに通電により生じる抵抗熱で加熱することによって接合してなり、前記シリンダヘッド本体をAl-Si-Mg系アルミニウム合金によって形成し、前記バルブシート母材を、表面に金属材からなる皮膜を設けた鉄系焼結合金製円環体によって形成したことを特徴とするエンジン用シリンダヘッド。」

(2)「【0014】
【作用】シリンダヘッド本体のポート開口部にバルブシート母材を圧接させるとともに加熱することにより、圧接部の界面の原子が相互に拡散し、前記界面付近に、バルブシート母材の皮膜の材料金属とシリンダヘッド本体の材料金属との共晶合金からなる層が生成される。この共晶合金層は液相への変態温度が低いことから加熱状況の下で液相へ変わり、バルブシート母材が押し付けられかつ加熱されることにより塑性流動を起こしたシリンダヘッド本体の材料金属とともに接合部から排出される。これにより、バルブシート母材の鉄系焼結合金がシリンダヘッド本体の材料金属に触れて両者の原子が相互に拡散することになり、この状態でバルブシート母材がポート開口部内に埋没することになる。
【0015】また、シリンダヘッド本体の材料として使用するAl-Si-Mg系アルミニウム合金は、エンジン用シリンダヘッド本体材料として採用される他のアルミニウム合金に較べると、電気抵抗率が小さい関係から通電により効率よく発熱し、熱伝導度が高い関係から抵抗熱が接合界面の全域に伝わり易く、固相線温度が高い関係から溶融層が形成され難く、400℃における0.2%耐力が小さい関係から塑性流動が起こり易い。」

(3)「【0037】このようにバルブシート母材20とシリンダヘッド本体11との接触界面の温度が上昇すると、固相状態で互いに圧接し合う材料金属(銅皮膜22の銅およびシリンダヘッド本体11のアルミニウム合金)の原子が活発に運動するようになり、これらの原子どうしが相互に拡散するようになる。なお、シリンダヘッド本体11の表面に生成されているアルミニウムの酸化皮膜がこの原子拡散に対してどの程度拡散を阻止するかは不明である。
【0038】上述したように原子の相互拡散が起こることにより、界面付近の組成は、銅皮膜22を構成する銅と、シリンダヘッド本体11のアルミニウム合金との共晶合金になり、純銅より低い温度で固相から液層に変わることができる状態になる。このときの界面付近の状態を図7に模式的に示す。図7においては、原子の相互拡散が起こり前記共晶合金層が生成されている部位を符号Aで示す。」

(4)「【0048】シリンダヘッドの最終仕上げ加工は、図9に示すようにバルブシート母材20が接合されたシリンダヘッド本体11から不要部分を図10に示すように例えば研削によって除去することによって行う。この最終仕上げ加工を行うことにより円環体21の不要部および銅皮膜22が除去され、図10中に符号Cで示す原子の拡散領域を介してシリンダヘッド本体11に接合されたバルブシート19が得られる。」

5.甲第5号証について
甲第5号証(Al合金/鋼異材接合における接合性に及ぼすSi、Mgの影響、大阪大学、廣瀬明夫、今枝裕貴、近藤未希、小林絋二郎、溶接学会全国大会講演概要 社団法人溶接学会、2005年11月30日,第1及び2ページ)には、以下の事項が記載されている。
(1)「1.緒言
自動車軽量化のために、Al合金の車体への適用が要望されているが,Al合金を適所に用いるハイブリッド構造を実現するためには,Al合金と鋼の異材接合法の確立が必要である.本研究では,接合性に及ぼす合金組成の影響を明らかにするため,固相拡散接合法を用いて,Al合金に含まれるSi,Mgが鋼との異材接合部界面反応および接合強度に及ぼす影響について検討した.
2.実験方法
供試材のAl合金には,Table1に示すように市販A6061とともに,Al-Mg-Si系合金においてSiとMg含有量を変化させた合金を試作し用い,鋼には冷間圧延鋼板(SPCE)を用いた.拡散接合は,1.0×10^(-1)Pa以下の真空中で,接合時加圧力を2.5MPa,接合温度733,785,798K,保持時間0.3?1.8ksとそれぞれ変化させて行った.
3.結果と考察
各Al合金/鋼界面に生成する反応層は,反応初期には,Al合金側に反応層が生成し,長時間側では,新たな反応層がFe側に生成した.Fe側に生成する反応層については,各Al合金/鋼継手に対してほとんど違いが認められず,FeサイトにSiが固溶したFe_(2)Al_(5)層であると考えられる.しかし,Al合金側に生成する反応層については,含有するSi量によって違いが認められ,A2,D2,E2材では6000系Al/鋼継手と同様に,FeサイトにSiが固溶したFeAl_(3)と考えられるが,Si量の多いB2,C2材では,Fig.1に示すようにSiの濃化が顕著に生じており,Al-Fe-Si三元系化合物であることが分かった.」(第1ページ第8行ないし下から第4行)

(2)「Al合金中の含有Si量が多くなるほど,より薄い反応層厚さで高い継手強度が得られた.これは,Fig.3に示すようにSi含有量が増えるほど薄い反応層厚さで高い接合率が得られるためである.これに関しては,Fe-Al-Si三元系化合物はFe-Al二元化合物より早期に界面に均一に形成することが報告されており,これが接合性向上に寄与していると考えられる.」(第2ページ第5行ないし第9行)

第5.判断
1.対比・判断
(1)本件発明1について
ア.対比
本件発明1と引用発明とを対比する。
引用発明における「AC4B材のアルミニウム合金から成る被接合材1」は、本件発明1における「アルミニウム合金材料から成る第1部材」に相当し、引用発明における「鉄系焼結合金から成る被接合材2」は、本件発明1における「鉄系材料から成る第2部材」に相当する。
甲第3号証を参酌すると、「AC4B材」は、8.5mass%のSiが包含されるアルミニウム合金材料であることが分かる。
そうすると、引用発明における「AC4B材のアルミニウム合金から成る被接合材1」は、Si(珪素)を含有するといえる。
さらに、引用発明における「抵抗接合する方法」は、引用発明における「被接合材1」及び「被接合材2」である二部材を、本件発明1における「第1部材」及び「第2部材」である二部材と同様に、これらを電気抵抗溶接により一体化して、一体部材を製造する方法といえるから、本件発明1における「溶接して一体化させる一体部材の製造方法」に相当する。
したがって、引用発明における「AC4B材のアルミニウム合金から成る被接合材1と、鉄系焼結合金から成る被接合材2とを抵抗接合する方法」は、本件発明1における「アルミニウム合金材料から成る第1部材と、鉄系材料から成る第2部材とを溶接して一体化させる一体部材の製造方法」に相当する。
また、引用発明における「前記鉄系焼結合金から成る被接合材2に対してAC4B材のアルミニウム合金から成る被接合材1を厚さ方向に押し込んで圧入」することは、「一方の部材に対して他方の部材を厚さ方向に押し込んで圧入」する点で、本件発明1における「前記第1部材に対して第2部材を厚さ方向に押し込んで圧入」することに相当する。
そして、引用発明における「直流電流を流す」ことは、本件発明1における「通電」に相当し、引用発明における「抵抗接合」することは、前述のように本件発明1における「電気抵抗溶接させて一体化」することに相当するから、引用発明における「圧入部に対して直流電流を流すことにより抵抗接合するものとされ」は、本件発明1における「圧入部に対して通電することにより電気抵抗溶接させて一体化するものとされ」に相当する。
さらに、引用発明における「加圧力P」及び「液相を生じさせる」ことは、本件発明1における「加圧」及び「溶融」に相当するから、引用発明における「接合時の直流電流を流すこと及び加圧力Pにより液相を生じさせ及び塑性変形させて」は、本件発明1における「接合時の通電及び加圧により溶融及び塑性変形させて」に相当する。
また、引用発明における「被接合材1と被接合材2との接合界面」は、本件発明1における「第1部材と第2部材との接合境界」に相当するから、引用発明における「前記被接合材1と被接合材2との接合界面にFe-Al-Si共晶合金からなる合金層4を形成させつつ当該接合界面を圧入方向に対して傾斜させる」ことは、「前記第1部材と第2部材との接合境界に層を形成させつつ当該接合境界を圧入方向に対して傾斜させる」点で、本件発明1における「前記第1部材と第2部材との接合境界に厚さが1μm以下のFe-Al-Si三元系化合物から成る中間層を形成させつつ当該接合境界を圧入方向に対して傾斜させる」ことに相当する。

したがって、両者は、
「アルミニウム合金材料から成る第1部材と、鉄系材料から成る第2部材とを溶接して一体化させる一体部材の製造方法であって、
前記第1部材は、珪素を所定量含有するとともに、第1部材及び第2部材のうちの一方の部材に対して第1部材及び第2部材のうちの他方の部材を厚さ方向に押し込んで圧入し、圧入部に対して通電することにより電気抵抗溶接させて一体化するものとされ、接合時の通電及び加圧により溶融及び塑性変形させて、前記第1部材と第2部材との接合境界に層を形成させつつ当該接合境界を圧入方向に対して傾斜させる一体部材の製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点1〕
本件発明1においては、「第1部材」に他の物質が付着されていないのに対し、引用発明においては、「被接合体1」にインサート材3が付着されている点。

〔相違点2〕
本件発明1においては、「(アルミニウム合金材料から成る)第1部材に対して(鉄系材料から成る)第2部材を厚さ方向に押し込んで圧入」するのに対し、引用発明においては、「(鉄系焼結合金から成る)被接合材2に対して(インサート材3が付着されたAC4B材のアルミニウム合金から成る)被接合体1を厚さ方向に押し込んで圧入」する点。

〔相違点3〕
第1部材と第2部材との接合境界に形成される「層」が、本件発明1においては、「厚さ」が1μm以下であり、「Fe-Al-Si三元系化合物からなる中間層」であるのに対し、引用発明においては、「厚さ」が明らかでなく、「Fe-Al-Si共晶合金からなる合金層4」である点。

イ.判断
まず、相違点1について検討する。
本件発明1は、その特許請求の範囲に「アルミニウム合金材料から成る第1部材は、アルミニウム合金材料から成る第1部材と、鉄系材料から成る第2部材とを溶接して一体化させる一体部材の製造方法であって」と記載され、「前記第1部材と第2部材との接合境界に厚さが1μm以下のFe-Al-Si三元系化合物から成る中間層を形成させ」と記載されることからみて、第1部材と第2部材のみで三元系化合物を形成できるものであり、第1部材と第2部材との間に何らのインサート材を必要としないと解される。
さらに、本件発明1は、第1部材と第2部材との間にインサート材を必要としないことは、本件特許明細書の段落【0002】に背景技術として「或いはアルミニウムや鉄とは異なる材料を被接合部に介在させ」と記載されていること、及び、本件特許明細書には、その実施例に「インサート材」の記載がないことからも明らかである。
これに対して、引用発明は、甲第1号証において、被接合材間に共晶合金を形成するためには、段落【0049】の「また、異種の被接合材は、導電性のある金属であれば特に限定されず、例えばAC4B材、AC2B材などを採用することができる。また、インサート材の材料として例えば銅、すず、亜鉛、銀、黄銅、シリコン、アルミニウムシリコン合金等を用いることができ、被接合材の材料金属と共晶合金が生成されるものであればどのようなものでもよい。」との記載からみて、被接合材1として「AC4B材」を選択する場合を初めとして、被接合体1と被接合体2との接合境界にFe-Al-Si共晶合金を形成する場合には、シリコンまたはアルミニウムシリコン合金からなるインサート材3が必要となると解される。
したがって、引用発明における被接合材1に付着される「インサート材3」は引用発明の構成に欠くことができないものと解され、引用発明から「インサート材3」を省略することはできない。
また、甲第2号証ないし甲第5号証においては、接合の際に「インサート材3」を省略してFe-Al-Si三元系化合物を形成することに関する記載はないことから、甲第1号証に接した当業者が、引用発明の被接合材1の「インサート材3」を省略してみることが容易に想到し得たとはいえない。

したがって、引用発明から本件発明1の上記相違点1に係る構成とすることが容易であるとはいえないから、本件発明1は、相違点2及び3を検討するまでもなく引用発明及び甲第2号証ないし甲第5号に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

ウ.異議申立人の主張
異議申立人は、特許異議申立書第11ページ第11ないし20行において、「以上の点を参酌すると、甲第1号証には以下の発明が記載されている。アルミニウム合金材料からな成る部材と、鉄系材料から成る部材とを溶接して一体化させる一体部材の製造方法であって、前記アルミニウム合金材料から成る部材は、珪素を所定量含有するとともに、前記アルミニウム合金材料から成る部材を鉄系合金から成る部材に押し込んで圧入しつつ圧入部に対して通電することにより電気抵抗溶接させて一体化するものとされ、接合時の通電及び加圧により溶融及び塑性変形させて、前記アルミニウム合金材料からな成る部材と鉄系材料から成る部材との接合境界に合金層を形成させつつ当該接合境界を圧入方向に対して傾斜させる一体部材の製造方法。(以下、「甲1発明」という。)」と記載し、甲1発明においてインサート材を省略した発明を想定して主張している。
しかしながら、甲第1号証は、段落【0016】ないし【0019】を参照した場合においては「インサート材」を使用することが前提となり、また、段落【0040】ないし【0045】を参照したときに、被接合材としてSiを含有するものを使用する場合には、後続の段落【0049】をも参照する必要があるから、この場合も、インサート材の使用が前提となる。
よって、甲第1号証からインサート材を省略した発明を認定することは誤りであると解される。
したがって、特許異議申立書第21ページ第10ないし13行における「本件特許発明1と甲1発明とを対比する。甲1発明の『アルミニウム合金材料からな成る部材』、・・・中略・・・は、本件特許発明1の『アルミニウム合金材料からな成る第1部材』・・・中略・・・にそれぞれ相当する。」との主張を採用することはできない。

エ.小活
以上のとおり、本件発明1は、引用発明及び甲第2号証ないし甲第5号に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)本件発明2ないし6について
本件発明2ないし6は、本件発明1を引用し、本件発明1にさらに限定を付加するものであるので、本件発明1と同様に、引用発明及び甲第2号証ないし甲第5号証に記載された技術に基いて当業者が容易に発明をすることが
できたとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-01-30 
出願番号 特願2016-11591(P2016-11591)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B23K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 竹下 和志  
特許庁審判長 平岩 正一
特許庁審判官 中川 隆司
刈間 宏信
登録日 2017-04-07 
登録番号 特許第6122519号(P6122519)
権利者 株式会社エフ・シー・シー
発明の名称 一体部材の製造方法  
代理人 越川 隆夫  

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