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審決分類 審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する C08L
審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する C08L
審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する C08L
管理番号 1337248
審判番号 訂正2017-390127  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2017-11-22 
確定日 2018-01-18 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5358871号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5358871号の明細書、特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 
理由 第1 手続の経緯

本件訂正審判の請求に係る特許第5358871号は、平成18年6月28日(優先権主張 平成17年6月28日)を出願日とし、平成25年9月13日に設定登録がなされ、平成29年11月22日付けで本件訂正審判の請求がなされたものである。

第2 請求の趣旨

本件訂正審判の請求の趣旨は、特許第5358871号の明細書、及び特許請求の範囲を、本件審判請求書に添付した訂正明細書、及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める、との審決を求めるものである。

第3 訂正の内容

請求人が求めている具体的な訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下の訂正事項のとおり訂正することを求めるものである(当審注:訂正箇所に下線を付した。)。

1 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、
「前記第2の炭素繊維を5質量%以上20質量%以下の範囲で含有し」
と記載されているのを、
「前記第2の炭素繊維を5質量%以上10質量%以下の範囲で含有し」
に訂正し、
「前記第1の炭素繊維および第2の炭素繊維の合計含有率が35質量%以上50質量%以下である」
と記載されているのを、
「前記第1の炭素繊維および第2の炭素繊維の合計含有率が35質量%以上40質量%以下である」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する。)。

2 訂正事項2
明細書の段落【0006】において、
「前記第2の炭素繊維を5質量%以上20質量%以下の範囲で含有し」
と記載されているのを、
「前記第2の炭素繊維を5質量%以上10質量%以下の範囲で含有し」
に訂正し、
「前記第1の炭素繊維および第2の炭素繊維の合計含有率が35質量%以上50質量%以下である」
と記載されているのを、
「前記第1の炭素繊維および第2の炭素繊維の合計含有率が35質量%以上40質量%以下である」
に訂正する。

3 訂正事項3
明細書の段落【0010】において、
「二種類の繊維強化材の合計含有率の上限値は50質量%とする。」
と記載されているのを、
「二種類の繊維強化材の合計含有率の上限値は40質量%とする。」
に訂正する。

第4 当審の判断

1 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び拡張・変更の存否について
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、請求項1において、第2の炭素繊維の含有率の範囲を、「5質量%以上20質量%以下」から「5質量%以上10質量%以下」に減縮し、第1の炭素繊維および第2の炭素繊維の合計含有率の範囲を、「35質量%以上50質量%以下」から「35質量%以上40質量%以下」に減縮するものであるから、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて
本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。また、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面を「本件特許明細書等」という。)の段落【0023】の表2のNo.2-2には、第1の炭素繊維が30質量%、第2の炭素繊維が5質量%であり、合計が35質量%配合された実施例が、No.2-3には、第1の炭素繊維が30質量%、第2の炭素繊維が10質量%である、合計が40質量%配合された実施例が記載されている。
また、本件特許明細書の段落【0027】には、「第1の炭素繊維の含有率が30質量%である場合、第2の炭素繊維の含有率は5質量%以上10質量%以下とすることが好ましい。」と記載されている。

これらの記載からすれば、第2の炭素繊維の含有率の範囲を、5質量%以上10質量%以下に特定し、第1の炭素繊維および第2の炭素繊維の合計含有率の範囲を、35質量%以上40質量%以下と特定する、訂正事項1は、本件特許明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものでない。

したがって、訂正事項1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
訂正事項1は、請求項1において、特許請求の範囲を減縮するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
よって、訂正事項1は、特許法第126条第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項2、3について

ア 訂正の目的について
訂正事項2、3は、訂正事項1による訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合性を図るための訂正である。
よって、訂正事項2、3は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて
訂正事項2、3は、訂正事項1による訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合性を図るための訂正であるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
よって、訂正事項2、3は、特許法第126条第5項の規定に適合する。


ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
訂正事項2、3は、訂正事項1による訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合性を図るための訂正であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
よって、訂正事項2、3は、特許法第126条第6項の規定に適合する。

2 独立特許要件について
上記1(1)アで検討したとおり、訂正事項1は、特許法第126条第1項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件訂正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討すると、当該発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由を発見しない。
したがって、本件訂正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるから、訂正事項1は、特許法第126条第7項の規定に適合する。

なお、本件訂正審判の請求の趣旨は、上記第2のとおりであり、特許権全体に対して訂正審判を請求する場合に該当するから、特許法第126条第4項の規定に適合するか否かについての検討は不要である。

第5 むすび

以上のとおり、本件訂正審判の請求に係る訂正事項1?3は、特許法第126条第1項ただし書第1号または第3号に掲げる事項を目的とし、かつ同法同条第5項ないし第7項の規定に適合する。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
円筒ころ軸受用保持器、円筒ころ軸受
【技術分野】
【0001】
この発明は、樹脂組成物からなる円筒ころ軸受用保持器と円筒ころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、転がり軸受の保持器として合成樹脂製の保持器を使用する際には、合成樹脂に繊維強化材が添加された樹脂組成物を射出成形したものが使用されている。この樹脂組成物としては、6,6-ナイロンや4,6-ナイロン等のポリアミド樹脂またはポリフェニレンサルファイド樹脂に、繊維強化材として直径が6?14μm程度のガラス繊維を添加したものや、ポリエーテルエーテルケトン樹脂に、繊維強化材として直径が4?15μm程度の炭素繊維を添加したものが使用されている。
【0003】
下記の特許文献1には、射出成形時の樹脂組成物の流動性低下を防止するとともに、転動体との接触部からの繊維の脱落を防止するために、直径が500nm以下の微細炭素繊維を2?50質量%含有する樹脂組成物を使用して保持器を形成することが記載されている。
【特許文献1】特開2004-52980号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、工作機械等で使用される転がり軸受は、装置の高性能化に伴って回転速度が高速になるため、良好な放熱性を有する必要がある。そして、上述の従来の合成樹脂製保持器には、放熱性と機械的強度の両立という点で改善の余地がある。
本発明の課題は、放熱性と機械的強度の両方に優れた合成樹脂製保持器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、円筒体の形状を有し、前記円筒体の周面を貫通するポケットが形成され、前記ポケットは、円筒ころの周面を受ける円弧面と円筒ころの両端面と対向する面を有する外輪案内型の円筒ころ軸受用保持器であって、
直径の平均値が3μm以上16μm以下である第1の炭素繊維と、直径の平均値が40nm以上210nm以下である第2の炭素繊維と、ポリフェニレンサルファイド樹脂またはポリエーテルエーテルケトン樹脂である合成樹脂とからなり、前記第1の炭素繊維はポリイミド樹脂系のサイジング剤でサイジング処理されたものであり、前記第1の炭素繊維を10質量%以上40質量%以下の範囲で含有し、前記第2の炭素繊維を5質量%以上10質量%以下の範囲で含有し、前記第1の炭素繊維の含有率は前記第2の炭素繊維の含有率よりも多く、前記第1の炭素繊維および第2の炭素繊維の合計含有率が35質量%以上40質量%以下である樹脂組成物で形成され、熱伝導率が0.55?1.30W/m・Kであることを特徴とする円筒ころ軸受用保持器を提供する。
【0007】
本発明はまた、この保持器を備えた円筒ころ軸受を提供する。
第1の炭素繊維は、ピッチ系炭素繊維、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維等である。この炭素繊維の熱伝導率はガラス繊維よりも高い。好ましくは、熱処理して黒鉛構造とすることにより、熱伝導率が500?850W/m・Kであるものを使用する。
【0008】
第2の炭素繊維は、「カーボンナノファイバー」と称され、炭化水素と水素を、触媒微粒子の共存下、気相で熱分解反応させることにより、触媒微粒子を核に炭素を繊維状に成長させたものであり、更に熱処理して黒鉛構造とすることで、銅よりも高い熱伝導率(1200W/m・K)となる。また、この方法で得られた炭素繊維は、繊維長が8?20μm程度、アスペクト比が10?100である。なお、直径が10nm程度のカーボンナノチューブは、アスペクト比が5程度であり、熱伝導率を高くする作用は得られるが、繊維強化材としての作用は得られ難い。よって、本発明で使用する第2の炭素繊維の直径の範囲は、カーボンナノチューブを含まない範囲となっている。
【0009】
本発明によれば、繊維強化材として、二種類の炭素繊維(直径の平均値が3μm以上16μm以下である第1の炭素繊維と、直径の平均値が40nm以上210nm以下である第2の炭素繊維)を使用することにより、放熱性と機械的強度の両方に優れた合成樹脂製保持器が得られる。樹脂組成物からなる保持器の熱伝導率は、第1の炭素繊維のみを繊維強化材とした場合は0.40?0.52W/m・Kであるが、二種類の炭素繊維を前記各範囲で含有した場合は0.55?1.30W/m・Kとなる。また、第1の炭素繊維の間に第2の炭素繊維が介在することにより、保持器の機械的強度が向上する。
【0010】
二種類の繊維強化材の合計含有率の上限値は40質量%とする。合計含有率が50質量%を超えると成形性が不良になり易い。また、これらの繊維強化材としては、サイジング処理されたものを使用することが好ましい。
本発明で使用可能な合成樹脂としては、ポリフェニレンサルファイド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、6,6-ナイロン、4,6-ナイロン、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂等が挙げられる。
ポリフェニレンサルファイド樹脂は、吸水性が低く、耐熱性に優れ、また成形性が良好であることから、寸法安定性に優れ、150?180℃で使用可能な保持器を射出成形により低コストで作製することができる。
【0011】
4,6-ナイロンは、高融点で、衝撃強度および耐疲労性に優れているため、120?140℃で使用可能で、破損し難い保持器を作製することができる。
6,6-ナイロンは、4,6-ナイロンより融点は低いが、衝撃強度および耐疲労性等のバランスがよく、材料コストが低いため、100?120℃程度の使用環境となる用途では好適に使用できる。
ポリエーテルエーテルケトン樹脂および熱可塑性ポリイミド樹脂は、材料コストは高いが、吸水性が低く、耐熱性に特に優れ、200?250℃程度の高温で使用可能な保持器を作製することができる。
【0012】
本発明で使用する合成樹脂の分子量は、上記二種類の炭素繊維を含有した状態で射出成形できる範囲に相当する「数平均分子量で13000?30000」が好ましい。数平均分子量が13000未満である合成樹脂を使用すると、得られる保持器の機械的強度が不良となる。数平均分子量が30000を超える合成樹脂を使用すると、前記第1の炭素繊維の含有率が15質量%以上30質量%以下の場合、溶融時の粘度が高くなり過ぎて、保持器を射出成形で精度良く製造することが難しい。
【0013】
本発明で使用する合成樹脂の分子量のより好ましい範囲は「数平均分子量で18000?26000」であり、この範囲にすることで成形性や得られる保持器の衝撃強度が良好となる。
本発明で使用する樹脂組成物には、成形時および保持器として使用時の熱劣化を防止する目的で、ヨウ化物系熱安定剤やアミン系酸化防止剤を、それぞれ単独で、あるいは両方を併用して添加することが好ましい。本発明で使用する樹脂組成物には、さらに、耐衝撃性を改善する目的で、エチレンプロピレン非共役ジエンゴム(EPDM)等のゴム系材料を添加してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の保持器は、合成樹脂に前述の二種類の炭素繊維が所定範囲で含有された樹脂組成物を用いて形成することで、放熱性と機械的強度の両方に優れた合成樹脂製保持器となっている。よって、本発明の保持器は、合成樹脂製でありながら、高速回転で使用される転がり軸受の保持器として使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に相当する保持器を備えた円筒ころ軸受(転がり軸受)を示す断面図である。
この円筒ころ軸受は、内輪1、外輪2、円筒ころ3、および保持器4からなる。この保持器4を、表1に示す各組成の樹脂組成物を用いて射出成形により作製した。
この軸受の寸法は、内径:55mm、外径:90mm、幅:26mm、ころ寸法:直径8.0mm×軸方向寸法8.0mmである。また、保持器4の形状は、内径:68mm、外径:79mm、軸方向寸法:12mm、厚さ:5.5mmの円筒体であり、ポケットが20個形成されている。ポケットの寸法は、軸方向寸法:8.0mm、ころの周面を受ける円弧面の直径:8.2mmである。なお、内輪1と外輪2は、SUJ2製で通常の熱処理を施したものを使用した。
【0016】
PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂としては、Victrex社製の「PEEK450P」を用いた。
PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂としては、ポリプラスチックス(株)製の直鎖状PPS「フォートロン 0220A9」を用いた。
第1の炭素繊維としては、東邦テナックス(株)製「ベスファイト(登録商標)」のチョップドファイバー「HTA-C6-TX」を用いた。これは、ポリイミド樹脂系のサイジング剤でサイジング処理されたPAN系カーボンファイバーであり、繊維の平均直径が7μm、繊維長が6mm、熱伝導率が60?80W/m・Kである。
【0017】
第2の炭素繊維としては、昭和電工(株)製の気相法カーボンナノファイバー「VGCF」を用いた。これは、繊維の平均直径が150nm、繊維長が10?20μm、熱伝導率が1200W/m・Kである。
No.1?4の各保持器について、熱伝導率と引っ張り強度を測定した。また、No.1?4の各保持器を図1の円筒ころ軸受の保持器4として用い、潤滑剤:ジエステル含有鉱油-ウレア系グリース、試験温度:25℃の条件で、回転試験を行った。この試験では、0から100rpmずつ上昇させた各回転速度で軸受を3時間回転させ、保持器の異常に起因する異常な温度上昇が発生するかどうかを調べることを繰り返して、異常な温度上昇が発生した時点で回転試験を終了した。そして、異常な温度上昇が発生した際の回転速度の一つ前の回転速度を「寿命の回転速度」とした。この結果を表1に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
この結果から、本発明の実施例に相当するNo.1および2の保持器は、熱伝導率が0.65?0.71W/m・Kと高く、引っ張り強度も十分であるため、20,000rpm以上の高速回転で良好に使用可能であるのに対して、比較例に相当するNo.3およびNo.4の保持器は、熱伝導率が0.49?0.51W/m・Kと低く、18,000rpm以下でないと良好に使用できないことが分かる。
なお、この実施形態は円筒ころ軸受について説明しているが、本発明の保持器は、深溝玉軸受やアンギュラ玉軸受等の各種軸受用としても好適である。
【0020】
〔樹脂組成物の試験片を用いた物性試験〕
図2に示す試験装置を用いて高速回転時の摩耗試験を行った。この試験は、円板状試験片11とニードル12を用いたニードルオンディスクによる摩耗試験であり、ロードセル13で円板状試験片11側から荷重を付与しながら、ニードル12を回転させる。図2において、符号14は断熱板であり、符号15はネジである。ニードル12はSUJ2製で、直径6mm、表面粗さ(Ra)0.12μmである。
【0021】
先ず、下記の表2に示す各組成の樹脂組成物を用い、射出成形を行うことにより、直径30mm、厚さ3mm、表面粗さ(Ra)0.2μmの円板状試験片11を得た。次に、得られた円板状試験片11とニードル12を、ヘキサン、アセトンの順番で5分間超音波洗浄した後に、図2の試験装置に取り付けた。次に、円板状試験片11とニードル12の間にポリαオレフィン油を1μl滴下し、下記の条件で、荷重を付与しながらニードル12を回転させた。
<試験条件>
ニードルの回転速度:10000rpm(摺動速度:3.14m/s)
荷重:20N(面圧0.71N/mm^(2))
試験時間:1.5時間
【0022】
試験終了後、円板状試験片11の摺動部分の摩耗量を(株)東京精密の「サーフコム(商品名)」を用いて測定した。この摩耗試験を6回行い、各6回の最大摩耗量の平均を算出した。その値を「平均摩耗量」として表2に示す。また、平均摩耗量と第2の炭素繊維の含有率との関係を図3のグラフに示す。
また、6回の各試験での最大摩耗量をプロットした結果を、図4にグラフで示す。さらに、図4のグラフの一部を拡大したものを図5に示す。図4および5のグラフから、試験毎の摩耗量のバラツキが大きかったことが分かる。
【0023】
【表2】

【0024】
なお、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂としては、ポリプラスチックス(株)製の直鎖状PPS「フォートロン 0220A9」を用いた。第1の炭素繊維としては、東邦テナックス(株)製「ベスファイト(登録商標)」のチョップドファイバー「HTA-C6-TX」を用いた。第2の炭素繊維としては、昭和電工(株)製の気相法カーボンナノファイバー「VGCF」を用いた。
【0025】
図3?5の結果から、第2の炭素繊維の含有率が0と5質量%とでは、摩耗量に大きな差があり、第2の炭素繊維を5質量%以上含有させることで高速回転時の耐摩耗性が著しく向上することが分かる。
また、No.2-1とNo.2-3の摩耗試験後の試験片の摺動面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して、二次電子画像を撮影した。図6は、第2の炭素繊維の含有率が0であるNo.2-1の摺動面を示す顕微鏡写真である。図7は、第2の炭素繊維の含有率が10質量%であるNo.2-3の摺動面を示す顕微鏡写真である。
これらの写真の比較から、第2の炭素繊維を10質量%含有させることで、摺動面内での摩耗量のバラツキが小さくなることが分かる。
【0026】
次に、No.2-1?2-5の樹脂組成物からなる試験片を作製して、引っ張り試験を行うことで引っ張り強度と伸び率を測定するとともに、熱伝導率を測定した。その結果を、表2と、第2の炭素繊維の含有率を横軸としたグラフ(図8と9)に示す。
図8のグラフから、第2の炭素繊維の含有率が多いほど、引っ張り強度および伸び率が低下することが分かる。また、第2の炭素繊維の含有率が15質量%以上となると、低下率が大きくなることが分かる。
【0027】
図9のグラフから、第2の炭素繊維の含有率が多いほど、熱伝導率が高くなることが分かる。
なお、第1の炭素繊維の含有率が30質量%である場合、第2の炭素繊維の含有率が20質量%を超えると、合成樹脂の含有率が50質量%未満となって、成形体の機械的強度が不十分となるため、第2の炭素繊維の含有率は20質量%以下にする。また、図3および図8の結果から、第1の炭素繊維の含有率が30質量%である場合、第2の炭素繊維の含有率は5質量%以上10質量%以下とすることが好ましい。
【0028】
図10に示す試験装置を用いて摩擦摩耗試験を行った。この試験は、正方形の板状の試験片21とリング22を用いたリングオンディスクによる摩擦摩耗試験であり、リング22の上から荷重を付与しながら試験片21を載せた台23を回転させる。図10において、符号23aは台23の回転軸である。リング22はSUJ2製で、内径20.0mm、外径25.6mm、軸方向の長さ15.0mm、表面粗さ(Ra)0.08μmである。
【0029】
先ず、下記の表3に示す各組成の樹脂組成物を用い、射出成形を行うことにより、4mm×4mm×厚さ3mmの板状物を得、その表面を研磨することにより、表面粗さ(Ra)が0.5μmである試験片21を得た。
PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂としては、Victrex社製の「PEEK450P」を用いた。第1の炭素繊維としては、東邦テナックス(株)製「ベスファイト(登録商標)」のチョップドファイバー「HTA-C6-TX」を用いた。第2の炭素繊維としては、昭和電工(株)製の気相法カーボンナノファイバー「VGCF」を用いた。
【0030】
リング22の外周面の下端(試験片21との接触面の近く)に熱電対を張り付け、このリング22を試験片21の上に載せて、リング22の上から荷重を付与し、摺動速度が1.0m/sとなるように回転軸23aを回転させた。荷重の付与は4kgから1時間毎に1kgずつ増加させて8kgまで行い、熱電対からのデータにより各荷重付与時(各荷重としてから30分経過後)のリング22の温度を測定した。
その結果を下記の表3と図11のグラフに示す。
【0031】
【表3】

【0032】
この結果から、第1の炭素繊維の含有率が30質量%である場合、第2の炭素繊維の含有率を10質量%含有させることで、摩擦摩耗試験時の試験片の摺動部付近での温度を10℃程度低下できることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施形態に相当する保持器を備えた円筒ころ軸受を示す断面図である。
【図2】実施形態で行った摩耗試験を説明する図である。
【図3】実施形態で行った摩耗試験の結果を「平均摩耗量と第2の炭素繊維の含有率との関係で示すグラフである。
【図4】実施形態で行った摩耗試験の結果を、各回の摩耗量のメジアン値で表したグラフである。
【図5】図4の部分拡大図である。
【図6】実施形態で行った摩耗試験後の試験片の摺動面(第2の炭素繊維の含有率が0であるNo.2-1の摺動面)を示す顕微鏡写真である。
【図7】実施形態で行った摩耗試験後の試験片の摺動面(第2の炭素繊維の含有率が10質量%であるNo.2-3の摺動面)を示す顕微鏡写真である。
【図8】No.2-1?2-5の樹脂組成物からなる試験片の引っ張り強度と伸び率を測定した結果を、第2の炭素繊維の含有率との関係で示したグラフである。
【図9】No.2-1?2-5の樹脂組成物からなる試験片の熱伝導率を測定した結果を、第2の炭素繊維の含有率との関係で示したグラフである。
【図10】実施形態で行った摩擦摩耗試験を説明する図である。
【図11】実施形態で行った摩擦摩耗試験の結果を、付与した荷重と試験片の温度との関係で示したグラフである。
【符号の説明】
【0034】
1 内輪
2 外輪
3 円筒ころ
4 保持器
11 円板状試験片
12 ニードル
13 ロードセル
14 断熱板
15 ネジ
21 試験片
22 リング
23 台
23a 回転軸
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒体の形状を有し、前記円筒体の周面を貫通するポケットが形成され、前記ポケットは、円筒ころの周面を受ける円弧面と円筒ころの両端面と対向する面を有する外輪案内型の円筒ころ軸受用保持器であって、
直径の平均値が3μm以上16μm以下である第1の炭素繊維と、直径の平均値が40nm以上210nm以下である第2の炭素繊維と、ポリフェニレンサルファイド樹脂またはポリエーテルエーテルケトン樹脂である合成樹脂とからなり、
前記第1の炭素繊維はポリイミド樹脂系のサイジング剤でサイジング処理されたものであり、
前記第1の炭素繊維を10質量%以上40質量%以下の範囲で含有し、前記第2の炭素繊維を5質量%以上10質量%以下の範囲で含有し、前記第1の炭素繊維の含有率は前記第2の炭素繊維の含有率よりも多く、前記第1の炭素繊維および第2の炭素繊維の合計含有率が35質量%以上40質量%以下である樹脂組成物で形成され、
熱伝導率が0.55?1.30W/m・Kであることを特徴とする円筒ころ軸受用保持器。
【請求項2】
請求項1記載の保持器を備えたことを特徴とする円筒ころ軸受。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2017-12-19 
結審通知日 2017-12-21 
審決日 2018-01-10 
出願番号 特願2006-178528(P2006-178528)
審決分類 P 1 41・ 851- Y (C08L)
P 1 41・ 853- Y (C08L)
P 1 41・ 856- Y (C08L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 橋本 憲一郎阪野 誠司  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 堀 洋樹
小柳 健悟
登録日 2013-09-13 
登録番号 特許第5358871号(P5358871)
発明の名称 円筒ころ軸受用保持器、円筒ころ軸受  
代理人 松山 美奈子  
代理人 松山 美奈子  

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