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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L 審判 査定不服 発明同一 取り消して特許、登録 H01L |
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管理番号 | 1337317 |
審判番号 | 不服2017-6153 |
総通号数 | 220 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-04-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-04-27 |
確定日 | 2018-02-27 |
事件の表示 | 特願2014-160371「半導体装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年12月25日出願公開,特開2014-241433,請求項の数(11)〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成23年2月3日(国内優先権主張 平成22年5月26日,以下,左の日を「本願優先日」という。)の出願である特願2011-21828号の一部を,平成26年8月6日に新たな出願としたものであって,その手続の経緯は以下のとおりである。 平成26年 8月 6日 審査請求・上申書 平成27年10月28日 拒絶理由通知 平成28年 1月 7日 意見書・手続補正書 平成28年 7月11日 拒絶理由通知 平成28年 9月12日 意見書・手続補正書 平成29年 1日26日 拒絶査定(以下,「原査定」という。) 平成29年 4月27日 審判請求・手続補正書 平成29年10月17日 拒絶理由通知(以下,「当審拒絶理由通知」という。) 平成29年12月25日 意見書・手続補正書 第2 原査定の概要 原査定の概要は次のとおりである。なお,「第2」における引用文献1ないし3および先願4は,「第5」以降の原審引用文献1ないし3および原審先願4に対応する。 1.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 2.(拡大先願)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願の日前の特許出願であって,その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり,しかも,この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく,またこの出願の時において,その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので,特許法第29条の2の規定により,特許を受けることができない。 ●理由1(特許法第29条第2項)について ・請求項 1-4 ・引用文献等 1 出願人は意見書において,平成28年7月11日付けの拒絶理由通知書において引用した引用文献1の「p^(+)領域16」は「コレクタ領域16」として記載されたものであり,本発明の「ダイオードのカソードとしての第2導電型の逆導電型領域」と相違する旨主張している。 上記主張について検討する。一般に,「カソード」は陰極を意味すると解されるところ,本発明の「第2導電型の逆導電型領域」はホールを注入する機能を有するものであり,一般的な意味での「カソード」には該当しないと認められる。 してみると,本発明における「カソードとしての」は,発明の詳細な説明に記載された構成および機能から,カソード電極に接続しリカバリー時にホールを注入する機能を有する第2導電型の領域を意味するものと認められる。そして,引用文献1に記載された「p+領域16」は,「コレクタ電極とカソード電極を兼ねる裏面電極18」に接続し,リカバリー時にホールが注入されると認められる点で,本発明のごとく「カソードとしての」領域に相当すると認められる。 よって,上記出願人の主張を採用することはできない。 その他の点については,上記拒絶理由通知書において検討したとおりであるから,本願の請求項1ないし4に係る発明は,上記拒絶理由通知書において引用した引用文献1に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 ・請求項 5,6 ・引用文献等 2 出願人は意見書において,上記拒絶理由通知書において引用した引用文献2の「第2半導体領域4」は「コレクタ領域」として記載されたものであり,本発明の「ダイオードのカソードとしての第2導電型の逆導電型領域」と相違する旨主張している。 上記主張について検討する。引用文献2に記載された「第2半導体領域4」は,負電圧が印加される「コレクタ電極C」に接続し,リカバリー時にホールが注入されると認められる点で,本発明のごとく「カソードとしての」領域に相当すると認められる。よって,上記出願人の主張を採用することはできない。 その他の点については,上記拒絶理由通知書において検討したとおりであるから,本願の請求項5および6に係る発明は,上記拒絶理由通知書において引用した引用文献2に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 ・請求項 7ないし9 ・引用文献等 1-3 上記において請求項1ないし6について検討した事項の他は,上記拒絶理由通知書において検討したとおりであるから,本願の請求項7ないし9に係る発明は,上記拒絶理由通知書において引用した引用文献1ないし3に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 ●理由2(特許法第29条の2)について ・請求項 5-9 ・先願 4 出願人は意見書において,上記拒絶理由通知書において引用した先願4の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲および図面に記載された「コレクタ領域62」は,本発明の「ダイオードのカソードとしての第2導電型の逆導電型領域」と相違する旨主張している。 上記主張について検討する。先願4の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲および図面に記載された「コレクタ領域62」は,負電圧が印加される「コレクタ(カソード電極)電極64」に接続し,リカバリー時にホールが注入されると認められる点で,本発明のごとく「カソードとしての」領域に相当すると認められる。 よって,上記出願人の主張を採用することはできない。 その他の点については,上記拒絶理由通知書において検討したとおりであるから,本願の請求項5ないし9に係る発明は,先願4の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲および図面に記載された発明であり,特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。 <引用文献等一覧> 1.特開2009-158922号公報 2.特開2009-267394号公報 3.特開2006-210667号公報 4.特願2009-28530号(特開2010-186805号公報) 第3 当審拒絶理由通知の概要 当審拒絶理由通知の概要は以下のとおりである。なお,「第3」における引用文献1,2は,「第5」以降の当審引用文献1,2に対応する。 1.(明確性)本件出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) ・理由 1(明確性) ・請求項 1?9 請求項1,5において「前記第1領域と前記第3領域とは,前記第4領域とpn接合を構成する第1導電型のドリフト領域を共有しており」と記載されているが,「エッジターミネーション領域において・・・形成された・・・前記第4領域」という記載から,前記第4領域とpn接合を形成する領域はエッジターミネーション領域内であることが必要であるのに,「ダイオード活性領域において・・・形成された第1導電型の第1領域」という記載から,「第1領域」は,エッジターミネーション領域になく,第1領域と第4領域がどのようにしてpn接合を形成するのが不明瞭な記載となっている。 請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2?4,請求項5を直接又は間接的に引用する請求項6?9にも同様の拒絶理由が存する。 ・理由 2(進歩性) ・請求項 5?9 ・引用文献 1,2 ・備考 引用文献1の,特に,第3図には,以下の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されている。(以下,請求項5に係る発明を「本願発明5」と記し,引用発明1の主な要素との対応箇所を( )で示す。) 互いに対向するp型拡散領域3とアノード電極4の界面である第1主面およびn型超高濃度不純物層12とカソード電極13の界面である第2主面を有し,かつ互いに隣り合うアノード電極4とアノード2の下部に形成されるダイオード形成領域(本願発明5において,「ダイオード活性領域」に対応)とガードリング6が形成される領域(本願発明5において,「エッジターミネーション領域」に対応)とを有する半導体基板1と, 前記ダイオード形成領域において,前記半導体基板1内に形成されたn型の領域(ドリフト層110)(本願発明5の「第1導電型の第1領域」に対応)と, 前記ダイオード形成領域において前記n型の領域(ドリフト層110)とともにダイオードを構成するように前記半導体基板1の前記第1主面に形成されたp型拡散領域3(本願発明5において「第2導電型の第2領域」に対応)と, 前記ガードリングが形成される領域において,前記半導体基板1内に形成されたn型のドリフト層10a(本願発明5において「第1導電型の第3領域」に対応)と, 前記ガードリングが形成される領域の前記第2主面において前記半導体基板の前記第1主面に形成されたガードリング領域となるp型拡散領域5(本願発明5において「第2導電型の第4領域」に対応)とを備え, 前記ダイオードが形成される領域の前記半導体基板1内に形成されたn型の領域(ドリフト層110)と,前記ガードリングが形成される領域の前記p型拡散領域5とpn接合を形成する前記半導体基板1内に形成されたn型のドリフト層10aとは,n型のドリフト層110を共有しており, 前記半導体基板1内に形成されたn型の領域(ドリフト層110)(本願発明の「第1導電型の第1領域」に対応)は,前記ドリフト層110よりもn型の不純物の濃度が高いn型超高濃度不純物層12(本願発明5の「第5領域」に対応)を有しており,さらに 前記ガードリングが形成される領域の前記第2主面に形成されたカソード側p型拡散領域14(本願発明5の「第2導電型の第2逆導電型領域」に対応)とを備え, 前記n型のドリフト層10aとn型のドリフト層110とは,n型超高濃度不純物層12よりn型不純物濃度が低く,かつ前記n型のドリフト層110よりn型不純物濃度が高いn型のn型高濃度不純物層11(本願発明5の「第1導電型の第6領域」に対応)を共有しており n型高濃度不純物層11は,ダイオード形成領域においては,n型超高濃度不純物層12および前記ドリフト層110のすべてに接するように前記n型超高濃度不純物層12および前記ドリフト層110との間に位置し,かつ前記ガードリングが形成される領域においては前記カソード側p型拡散領域14と前記ドリフト層110との双方に接するように前記前記カソード側p型拡散領域14と前記ドリフト層110との間に位置している,半導体装置。 そこで,本願発明5と引用発明1とを対比すると以下の点で相違する。 相違点 本願発明5では,ダイオード活性領域に,第5領域と隣り合うように形成された,ダイオードのカソードとしての第2導電型の第1逆導電型領域を有し,前記ダイオード活性領域において,前記第5領域および前記第1逆導電型領域は,第2主面に沿う方向に交互に2組以上配置されている構造を有しているのに対して,引用発明1では,ダイオードのカソードとしての第2導電型の第1逆導電型領域に対応する領域が無く,当該領域を含んだ該構造を有しない点。 以下,上記相違点について検討する。 引用文献2の,特に,第5図には,電力損失を増加させること無くソフトな逆回復特性を実現するために,n^(++)導電型の半導体層51(本願発明5において「第1導電型の第5領域」に対応)と隣りあうように形成されたp型半導体層15(本願発明5の「第1逆導電型領域」に対応)を複数領域設け,n^(++)導電型の半導体層51とp型半導体層15を交互に2組以上配置されているダイオードのカソード側の構造が開示されている。 したがって,引用文献1に記載された発明において,ダイオードについて当業者であれば,通常配慮する周知な技術的課題である電力損失の抑制と逆回復特性の改善のために,引用文献2に開示されたダイオードの構造を採用する事は,当業者が容易に想到し得た事項と認められる。 また,請求項6?9に係る発明は,引用発明1に引用文献2に開示された技術的事項を採用する際に,当業者であれば通常配慮する電力損失の抑制と逆回復特性の改善の観点における最適化のために適宜設定し得る設計的事項であり,当該設定的事項の限定に格別な困難性は認められない。 引 用 文 献 等 一 覧 1.特開2009-283781号公報 2.特開平10-93113号公報 第4 本願発明 本願請求項1ないし11に係る発明(以下,「本願発明1」ないし「本願発明11」という。)は,平成29年12月25日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 互いに対向する第1主面および第2主面を有し,かつ互いに隣り合うダイオード活性領域とエッジターミネーション領域とを有する半導体基板と, 前記ダイオード活性領域において前記半導体基板内に形成された第1導電型の第1領域と, 前記ダイオード活性領域において前記第1領域とともにダイオードを構成するように前記半導体基板の前記第1主面に形成された第2導電型の第2領域と, 前記エッジターミネーション領域において前記半導体基板内に形成された第1導電型の第3領域と, 前記エッジターミネーション領域において前記半導体基板の前記第1主面に形成されたエッジターミネーションとなる第2導電型の第4領域とを備え, 前記第1領域と前記第3領域とは,前記第2領域および前記第4領域とpn接合を構成する第1導電型のドリフト層を共有しており, 前記第1領域は前記ドリフト層よりも第1導電型不純物の濃度が高い第1導電型の第5領域を有しており, 前記エッジターミネーション領域では前記第2主面に前記ドリフト層が形成されており,前記ダイオード活性領域では前記第2主面に前記第5領域が形成されており, 前記ダイオード活性領域の前記第2主面において前記第5領域と隣り合うように形成された,ダイオードのカソードとしての第2導電型の逆導電型領域をさらに備え, 前記ダイオード活性領域において,前記第5領域および前記逆導電型領域は,前記第2主面に沿う方向に交互に2組以上配置される,半導体装置。 【請求項2】 前記第1領域は,前記第5領域および前記逆導電型領域と前記ドリフト層との間に位置し,かつ前記第5領域より第1導電型不純物の濃度が低く,前記ドリフト層より第1導電型不純物の濃度が高い第1導電型の第6領域を有しており, 前記第6領域は,前記ドリフト層と前記第5領域との双方に接している,請求項1に記載の半導体装置。 【請求項3】 前記第5領域の直上に位置する前記第6領域の第1導電型不純物の濃度は,前記逆導電型領域の直上に位置する前記第6領域の第1導電型不純物の濃度よりも高い,請求項2に記載の半導体装置。 【請求項4】 前記第2主面における前記ダイオード活性領域の総面積に対して前記逆導電型領域の面積が占める割合は20%以上95%以下である,請求項2または3に記載の半導体装置。 【請求項5】 互いに対向する第1主面および第2主面を有し,かつ互いに隣り合うダイオード活性領域とエッジターミネーション領域とを有する半導体基板と, 前記ダイオード活性領域において前記半導体基板内に形成された第1導電型の第1領域と, 前記ダイオード活性領域において前記第1領域とともにダイオードを構成するように前記半導体基板の前記第1主面に形成された第2導電型の第2領域と, 前記エッジターミネーション領域において前記半導体基板内に形成された第1導電型の第3領域と, 前記エッジターミネーション領域において前記半導体基板の前記第1主面に形成されたエッジターミネーションとなる第2導電型の第4領域とを備え, 前記第1領域と前記第3領域とは,前記第2領域および前記第4領域とpn接合を構成する第1導電型のドリフト層を共有しており, 前記第1領域は前記ドリフト層よりも第1導電型不純物の濃度が高い第5領域を有しており,さらに 前記ダイオード活性領域の前記第2主面において前記第5領域と隣り合うように形成された,ダイオードのカソードとしての第2導電型の第1逆導電型領域と, 前記エッジターミネーション領域の前記第2主面に形成された第2導電型の第2逆導電型領域とを備え, 前記ダイオード活性領域において,前記第5領域および前記第1逆導電型領域は,前記第2主面に沿う方向に交互に2組以上配置され, 前記第1領域と前記第3領域とは,前記第5領域より第1導電型不純物の濃度が低く,かつ前記ドリフト層より第1導電型不純物の濃度が高い第1導電型の第6領域を共有しており, 前記第6領域は,前記ダイオード活性領域においては前記第5領域,前記第1逆導電型領域および前記ドリフト層のすべてに接するように前記第5領域および前記第1逆導電型領域と前記ドリフト層との間に位置し,かつ前記エッジターミネーション領域においては前記第2逆導電型領域と前記ドリフト層との双方に接するように前記第2逆導電型領域と前記ドリフト層との間に位置しており, オン時において,前記ダイオード活性領域と前記エッジターミネーション領域との境界近傍における電子の濃度は,前記ダイオード活性領域における電子の濃度よりも小さく, オン時において,前記ダイオード活性領域と前記エッジターミネーション領域との境界近傍におけるホールの濃度は,前記ダイオード活性領域におけるホールの濃度よりも小さい,半導体装置。 【請求項6】 前記第2主面における前記ダイオード活性領域の総面積に対して前記第1逆導電型領域の面積が占める割合は20%以上95%以下である,請求項5に記載の半導体装置。 【請求項7】 前記第1逆導電型領域と前記第2逆導電型領域との深さは同様である,請求項5または6に記載の半導体装置。 【請求項8】 前記第6領域における最大不純物濃度は1×10^(16)cm^(-3)以上1×10^(17)cm^(-3)以下である,請求項2?7のいずれか1項に記載の半導体装置。 【請求項9】 前記第4領域は,前記第1主面において互いに間隔をあけて形成された複数の第2導電型領域を有している,請求項1?8のいずれかに記載の半導体装置。 【請求項10】 前記第4領域は,前記第2領域と接触するように形成されている,請求項1?9のいずれかに記載の半導体装置。 【請求項11】 前記第4領域における第2導電型不純物の濃度は,前記第2領域における第2導電型不純物の濃度よりも低い,請求項10に記載の半導体装置。」 第5 引用文献,引用発明等 1 原査定の引用文献1について 原査定で引用された,特開2009-158922号公報(以下,「原審引用文献1」という。)には,図面とともに,次の記載がある。(下線は当審において付加した。以下同じ。) ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は,同一の半導体基板に,IGBT素子と転流ダイオード素子が構成された半導体装置及びその製造方法に関する。」 イ 「【0020】 図1及び図2に示すように,半導体装置100は,第1導電型の半導体基板10を有しており,この半導体基板10には,素子形成領域30(図1に示す破線で囲まれた領域)と素子形成領域30を取り囲む環状の外周領域50とが構成されている。そして,図2に示すように,破線で囲まれた素子形成領域30には,転流ダイオード素子32(以下,FWD素子32と示す)を内蔵したIGBT素子31(所謂RC-IGBT素子)が形成されている。」 ウ 「【0042】 図3に示す半導体装置100は,第1実施形態に示した半導体装置100と殆ど同じ構造となっている。異なる点は,フィールドストップ層19が,半導体基板10における裏面側の表層のうち,素子形成領域30のみに形成され,外周領域50には存在しない点である。なお,図3に示す符号20は,上記した第1不純物と第3不純物が注入されたものの,アニールされずに電気的に不活性のままとされた不活性領域である。」 前記アないしウの記載から,原審引用文献1には次の技術的事項が記載されていると認められる。 「同一の半導体基板に,IGBT素子と転流ダイオード素子が構成された半導体装置において,半導体装置100は,第1導電型の半導体基板10を有しており,この半導体基板10には,素子形成領域30と素子形成領域30を取り囲む環状の外周領域50とが構成され,素子形成領域30には,転流ダイオード素子32を内蔵したIGBT素子31が形成され,フィールドストップ層19が,半導体基板10における裏面側の表層のうち,素子形成領域30のみに形成され,外周領域50には存在しない。」 2 原査定の引用文献2について 原査定で引用された,特開2009-267394号公報(以下,「原審引用文献2」という。)には,図面とともに,次の記載がある。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は,IGBTセル領域とダイオードセル領域が同じ半導体基板に形成されてなる小型の半導体装置に関する。」 イ 「【0044】 図1と図2に示す半導体装置100は,図15と図16に示した半導体装置80と同様,車載用のインバータ回路に用いられる半導体装置で,IGBTセル領域とダイオードセル領域が,N導電型(N-)の半導体基板1に形成されてなる半導体装置である。半導体装置100では,図2に示すように,IGBTセル領域とダイオードセル領域からなる能動素子セル領域において,半導体基板1の主面側の表層部に,IGBTセル領域のチャネル形成領域およびダイオードセル領域のアノード領域となるP導電型(P)の第1半導体領域(ベース領域)2が形成されている。尚,IGBTセル領域の第1半導体領域2内にある符号3の部分は,IGBTのエミッタ領域である。また,IGBTセル領域の符号Gの部分はトレンチ構造のゲート電極であり,ダイオードセル領域にも同様の構造が形成されているが,これらは配線接続されず,ダイオードセル領域を分割しているだけである。IGBTセル領域において,半導体基板1の裏面側の表層部には,コレクタ領域となるP導電型(P+)の第2半導体領域4が形成され,ダイオードセル領域においては,半導体基板1の裏面側の表層部に,カソード領域となるN導電型(N+)の第3半導体領域5が形成されている。第3半導体領域5の不純物濃度は,1×10^(19)cm^(-3)程度に設定される。尚,第2半導体領域4と第3半導体領域5上に形成されているN導電型(N)の符号1aの層は,IGBTのフィールドストップ層である。」 ウ 「【0060】 図1と図2に示した半導体装置100においては,裏面側の第6半導体領域5aが,主面側に形成されている第4半導体領域6の直下の全面に形成されていた。これに対して,図6に示す半導体装置101では,第6半導体領域5bが,第4半導体領域6の直下の一部分に形成されている。図7に示す半導体装置101aでは,裏面側の第6半導体領域5bsが,第4半導体領域6の直下において,第4半導体領域6に接続する電極E2の直下(図中の両端矢印Wで示した範囲)を避けるように形成されている。また,図8と図9に示す半導体装置102では,第6半導体領域5cが,第2半導体領域4と第3半導体領域5を除いた半導体基板1の裏面側の全面に形成されている。」 前記アないしウの記載から,原審引用文献2には次の技術的事項が記載されていると認められる。 「IGBTセル領域とダイオードセル領域が同じ半導体基板に形成されてなる小型の半導体装置に関するもので,IGBTセル領域とダイオードセル領域からなる能動素子セル領域において,半導体基板1の主面側の表層部に,IGBTセル領域のチャネル形成領域およびダイオードセル領域のアノード領域となるP導電型(P)の第1半導体領域(ベース領域)2が形成され,IGBTセル領域において,半導体基板1の裏面側の表層部には,コレクタ領域となるP導電型(P+)の第2半導体領域4が形成され,ダイオードセル領域においては,半導体基板1の裏面側の表層部に,カソード領域となるN導電型(N+)の第3半導体領域5が形成され,第2半導体領域4と第3半導体領域5上に形成されているN導電型(N)の層は,IGBTのフィールドストップ層であり,裏面側の第6半導体領域5bsが,第4半導体領域6の直下において,第4半導体領域6に接続する電極E2の直下(図中の両端矢印Wで示した範囲)を避けるように形成されている。」 3 原査定の引用文献3について 原査定で引用された,特開2006-210667号公報(以下,「原審引用文献3」という。)には,図面とともに,次の記載がある。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は,半導体装置に関し,特に,低い順方向降下電圧(Vf)を有しかつ逆回復時のリカバリー破壊を防止したダイオードに関する。」 イ 「【0008】 実施の形態1. 図1は,全体が100で表される,本実施の形態1にかかるダイオードの断面図である。ダイオード100は,例えばシリコンからなるn型の半導体基板1を含む。半導体基板1の上には,n型のn^(-)半導体層2が設けられている。n^(-)半導体層2の表面側には,p型のアノード領域(ベース領域)3が設けられている。 【0009】 アノード領域3の周辺部には,アノード領域と連続したp型のアノード周辺領域(ベース周辺領域)4が設けられている。アノード周辺領域4中のp型不純物の濃度は,アノード領域3中のp型不純物濃度より小さい。また,アノード周辺領域4の深さは,アノード領域3より深くなっている。 なお,ダイオード100では,アノード周辺領域4の深さは略一定であり,底面は略平坦である。 【0010】 更に,アノード領域3を囲むように,p型のガードリング領域5が設けられている。図1では5重のガードリング領域5が設けられている。ガードリング領域5中のp型不純物の濃度は,アノード領域3中のp型不純物濃度より小さく,アノード周辺領域5と略同じである。また,アノード周辺領域4の深さは,アノード領域3より深く,アノード周辺領域5と略同じとなっている。」 前記ア及びイの記載から,原審引用文献3には次の技術的事項が記載されていると認められる。 「低い順方向降下電圧(Vf)を有しかつ逆回復時のリカバリー破壊を防止したダイオードに関するもので,ダイオード100は,シリコンからなるn型の半導体基板1を含み,半導体基板1の上には,n型のn^(-)半導体層2が設けられ,n^(-)半導体層2の表面側には,p型のアノード領域(ベース領域)3が設けられ,アノード領域3の周辺部には,アノード領域と連続したp型のアノード周辺領域(ベース周辺領域)4が設けられ,アノード領域3を囲むように,p型のガードリング領域5が設けられ,ガードリング領域5中のp型不純物の濃度は,アノード領域3中のp型不純物濃度より小さく,アノード周辺領域5と略同じである。」 4 原審の先願4について 原審で引用された先願である,特願2009-28530号(特開2010-186805号公報,以下,「原審先願4」という。)の特許出願の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,「当初明細書等」という。)には,次の記載がある。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は,IGBTと,このIGBTに逆並列接続されるフリーホイーリングダイオード(以降FWDと略記する)とが同一半導体基板上に併設される半導体装置の改良に関する。」 イ 「【0016】 本発明によれば,n導電型半導体基板の一方の主面に,p導電型チャネル形成領域と,該チャネル形成領域表面に形成されるn導電型エミッタ領域と,該エミッタ領域表面と前記チャネル形成領域表面とに共通にオーミック接触するエミッタ電極と,前記エミッタ領域表面と前記半導体基板表面とに挟まれる前記チャネル形成領域の表面にゲート絶縁膜を介して積層されるゲート電極とを含む活性領域と,前記ゲート電極と実質的に同電位であって,前記p導電型チャネル形成領域より高不純物濃度のp導電型領域表面に絶縁膜を介して設けられ,前記エミッタ電極とは前記p導電型チャネル形成領域を介して電気的に接続されるとともに,ゲート外部導線を接続させるための金属電極を載置するゲートパッド電極領域と,該ゲートパッド電極領域と前記活性領域とをリング状に取り囲む耐圧構造部と,少なくとも前記活性領域に対向する他方の主面側領域に選択的に形成されるp導電型コレクタ領域と該他方の主面側領域にオーミック接触するコレクタ電極と,を備えるIGBT部と,前記活性領域に対向する他方の主面側領域に選択的に前記p導電型コレクタ領域と交互に形成されるn導電型領域を有し,該n導電型領域にオーミック接触するコレクタ電極をカソード電極,前記エミッタ電極をアノード電極とするダイオード部とを備える半導体装置において,前記ゲートパッド電極領域内であって,金属電極が絶縁膜を介して載置される高不純物濃度の前記p導電型領域が,複数の分離表面領域からのイオン注入と熱拡散とにより表面で相互に連結した構造にされている半導体装置とすることにより前記本発明の目的は達成される。」 ウ「【0029】 図5(c)では半導体基板の表面側をポリイミド膜などの保護フィルム(図示せず)で保護したのち,半導体基板の裏面側を研削してこの基板を耐圧(600V)で決まる所定の厚さ(70μm?120μm)にする。図5(d)では裏面側にn^(-)ドリフト層55の不純物濃度より高不純物濃度で深いn型フィールドストップ層61を形成し,さらに,図9に示すように,フォト工程によってレジストフィルムを平行なストライプ状に開口し,ここにイオン注入などの方法でp型不純物として,たとえばボロンを,前記n型フィールドストップ層61よりは浅く,オーミック接触が得られる程度以上の高不純物表面濃度で導入する。同様に再度,フォト工程によって,前記ボロンのストライプ状イオン注入領域と交互に配置されるようなパターンで,レジストフィルムを平行なストライプ状に開口し,ここにイオン注入などの方法でn型不純物としてリンまたは砒素などをオーミック接触が得られる程度以上の高不純物表面濃度で導入する。 【0030】 その後,図5(e)に示すように,400℃程度の熱処理を行って,導入した不純物を熱的に活性化してp+型のコレクタ領域62およびn^(+)型のカソード領域63とする。このとき,この温度では導入した不純物は100%活性化できないことから,さらに不純物濃度を高めるために必要ならば,たとえばレーザーアニール装置による活性化を行ってもよい。その後,図5(e)において裏面側にTi/Ni/Auなどの積層金属膜からなるコレクタ電極兼カソード電極を形成して逆導通IGBTチップ80を完成させる。このとき,裏面側基板表面と直接接触する金属としてはn型領域と良好な接触を得やすいTiあるいはAlなどを用いることが好ましい。図5(e)の拡大断面図を図10に示す。」 前記アないしウの記載から,原審先願4の当初明細書等には次の技術的事項が記載されていると認められる。 「IGBTと,このIGBTに逆並列接続されるフリーホイーリングダイオード(以降FWDと略記する)とが同一半導体基板上に併設される半導体装置において,n導電型半導体基板の一方の主面に,p導電型チャネル形成領域と,該チャネル形成領域表面に形成されるn導電型エミッタ領域と,前記エミッタ領域表面と前記半導体基板表面とに挟まれる前記チャネル形成領域の表面にゲート絶縁膜を介して積層されるゲート電極とを含む活性領域と,該ゲートパッド電極領域と前記活性領域とをリング状に取り囲む耐圧構造部と,少なくとも前記活性領域に対向する他方の主面側領域に選択的に形成されるp導電型コレクタ領域とを備えるIGBT部と,前記活性領域に対向する他方の主面側領域に選択的に前記p導電型コレクタ領域と交互に形成されるn導電型領域を有し,該n導電型領域にオーミック接触するコレクタ電極をカソード電極,前記エミッタ電極をアノード電極とするダイオード部とを備える半導体装置。」 5 当審の引用文献1について (1)当審引用文献1の記載事項 当審で引用された,特開2009-283781号公報(以下,「当審引用文献1」という。)には,図面とともに,次の記載がある。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は半導体装置に関し,特に,ダイオードを備えた電力用の高耐圧の半導体装置に関するものである。」 イ 「【0014】 実施の形態1 本発明の実施の形態1に係る,ダイオードを備えた半導体装置について説明する。図1に示すように,n型の半導体基板1の一方の主表面の側には,ダイオードのアノード2が形成され,他方の主表面の側にはカソードが形成されている。 【0015】 アノード2として,p型拡散領域3が形成されている。p型拡散領域3は,半導体基板1の主表面から所定の深さにわたって形成されている。そのp型拡散領域3の不純物濃度は,約1×10^(16?18)ions/cm^(3)とされる。p型拡散領域3の上にはアノード電極4が形成されている。そのアノード2と距離を隔ててアノード2を取り囲むように,p型拡散領域5からなるガードリング6が形成されている。p型拡散領域5は,半導体基板1の主表面から所定の深さにわたって形成されている。ガードリング6の上には,ガードリング6を覆うように絶縁膜7が形成されている。 【0016】 一方,カソードとして,n型超高濃度不純物層12とn型高濃度不純物層11が形成されている。n型超高濃度不純物層12の不純物濃度は,約1×10^(19?21)ions/cm^(3)とされ,n型高濃度不純物層11の不純物濃度は,約1×10^(14?19)ions/cm^(3)とされる。n型超高濃度不純物層12は,半導体基板1の他方の主表面から所定の深さにわたり形成され,n型高濃度不純物層11は,そのn型超高濃度不純物層12に引き続いて,さらに深い領域にわたり形成されている。そのカソードでは,ガードリング6と対向するガードリング対向領域15に,カソード側p型拡散領域14が形成されている。そのカソード側p型拡散領域14とn型超高濃度不純物層12とに接触するように,カソード電極13が形成されている。 (中略) 【0018】 ダイオードのアノード電極4とカソード電極13との間に順方向に高電圧が印加されたオン状態では,図2に示すように,半導体基板1の第1導電型の領域(以下,「ドリフト層10」と記す。)に,多数のキャリアが蓄積される。すなわち,p型拡散領域3から半導体基板1のドリフト層10に向かってホールが注入されるとともに,n型超高濃度不純物層12とn型高濃度不純物層11から半導体基板1のドリフト層10に向かって電子が注入される。」 ウ 図3には,以下のものが記載されていると認められる。 一方の主面と他方の主面を有し,互いに隣り合う,ダイオードを構成する側の半導体領域(図中右半分)とガードリング6を構成する側の半導体領域(図中左半分)とを有する半導体基板1と, 前記ダイオードを構成する側の半導体領域に形成されるn型のドリフト層10と, 前記ダイオードを構成する側の半導体領域において前記n型のドリフト層10とともにダイオードを構成するように前記半導体基板1の一方の主面にアノード2として形成されたp型拡散領域3と, 前記ガードリング6を構成する側の半導体領域に形成されるn型のドリフト層10と, 前記ガードリング6を構成する側の半導体領域において前記半導体基板1の前記一方の主面に形成されたガードリング6となるp型拡散領域5とを備え, アノード2として形成されたp型拡散領域3とガードリングとなるp型拡散領域5は,pn接合を構成する半導体基板内に形成されたn型のドリフト層10に接しており, 前記ダイオードを構成する側の半導体領域では,他方の主面にn型超高濃度不純物層12を有し, 前記ガードリング6を構成する側の半導体領域では,前記他方の主面にカソード側p型拡散領域14を備え, 前記ダイオードを構成する側の半導体領域と前記ガードリング6を構成する側の半導体領域とは,n型のドリフト層10及びn型高濃度不純物層11上に接している半導体装置。 (2)引用発明 前記アないしウ,特に,前記ウにおいて,ダイオードを構成する側の半導体領域(図中右半分)とガードリング6を構成する側の半導体領域(図中左半分)は機能面から2つに分けているが,両者に跨がって形成されている層であるn型のドリフト層10及びn型高濃度不純物層11は,それぞれ実質的に1つの層であるから,これらの層は,両領域からみると「共有」する関係となる点を考慮すると,当審引用文献1には,以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「一方の主面と他方の主面を有し,互いに隣り合う,ダイオードを構成する側の半導体領域(図中右半分)とガードリング6を構成する側の半導体領域(図中左半分)とを有する半導体基板1と, 前記ダイオードを構成する側の半導体領域に形成されるn型のドリフト層10と, 前記ダイオードを構成する側の半導体領域において前記n型のドリフト層10とともにダイオードを構成するように前記半導体基板1の一方の主面にアノード2として形成されたp型拡散領域3と, 前記ガードリング6を構成する側の半導体領域に形成されるn型のドリフト層10と, 前記ガードリング6を構成する側の半導体領域において前記半導体基板1の前記一方の主面に形成されたガードリング6となるp型拡散領域5とを備え, アノード2として形成されたp型拡散領域3とガードリングとなるp型拡散領域5は,pn接合を構成する半導体基板内に形成されたn型のドリフト層10を共有しており, 前記ダイオードを構成する側の半導体領域では,他方の主面にn型超高濃度不純物層12を有し, 前記ガードリング6を構成する側の半導体領域では,前記他方の主面にカソード側p型拡散領域14を備え, 前記ダイオードを構成する側の半導体領域と前記ガードリング6を構成する側の半導体領域とは,n型のドリフト層10及びn型高濃度不純物層11を共有する半導体装置。」 6 当審の引用文献2について 当審で引用された,特開平10-93113号公報(以下,「当審引用文献2」という。)には,図面とともに,次の記載がある。 ア 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,電力変換装置等に使われるダイオードに関する。」 イ 「【0013】図1において,1は本発明の一実施例であるダイオード,13はn~導電型の半導体層(第1の半導体層のうちの第1の領域),2はp^(+)導電型の半導体層(第2の半導体層),14はn^(+)導電型の半導体層(第1の半導体層のうちの第2の領域),15はp^(+)導電型の半導体層(第3の半導体層),11はアノード電極(第1の主電極),16はカソード電極(第2の主電極)である。(省略)。」 ウ 「【0030】図5は,本発明の他の1実施例である。本発明は,図1に示した接合構造に,さらにn^(++)導電型の半導体層51をn^(+)導電型の半導体層14とp^(+)導電型の半導体層15とカソード電極16に接するように設けた構造となっている。尚,本実施例に当たり,n^(++)導電型の半導体層51は必ずしもp^(+)導電型の半導体層15に両側で接している必要はなく,n^(+)導電型の半導体層14が直接カソード電極16にオーミック接触していてもよい。本ダイオードは,n^(+)導電型の半導体層14が,より高不純物濃度のn^(++)型導電型の半導体層51を通してカソード電極にオーミック接触していることを特徴とし,n^(+)導電型の半導体層14とカソード電極16の電気的な接触抵抗がより小さくなる。また,本構造は,カソード電極16からn~ 導電型の半導体層13にかけての不純物の濃度勾配が急峻になるため,カソード電極16側からの電子がn~ 導電型の半導体層13へ注入しやすく,順方向の電圧降下が小さくなるという特徴を合わせ持っている。なお,本ダイオードで,n^(++)導電型の半導体層51とn^(+)導電型の半導体層の接合部およびp^(+)導電型の半導体層15とn^(+)導電型の半導体層の接合部との位置関係は特に限定する必要はなく,素子製作上は,n^(++)導電型の半導体層51の接合が深い方が作りやすい。」 エ 図5には,以下のものが記載されていると認められる。 n^(++)半導体層51と隣りあうように形成されたp型半導体層15を複数領域設け,n^(++)半導体層51とp型半導体層15を交互に2組以上配置したダイオードのカソード側の構造。 前記アないしエの記載から,当審引用文献2には次の技術的事項が記載されていると認められる。 「電力変換装置等に使われるダイオードに関するもので,n~ 導電型の半導体層(第1の半導体層のうちの第1の領域),p^(+)導電型の半導体層(第2の半導体層),n^(+)導電型の半導体層(第1の半導体層のうちの第2の領域),p^(+)導電型の半導体層(第3の半導体層),アノード電極(第1の主電極),カソード電極(第2の主電極)を備え,n^(++)導電型の半導体層51をn^(+)導電型の半導体層14とp^(+)導電型の半導体層15とカソード電極16に接するように設け,n^(++)半導体層51とp型半導体層15を交互に2組以上配置した構造。」 第6 判断 1 明確性について 平成29年12月25日の手続補正によって,請求項1および5は,「前記第1領域と前記第3領域とは,前記第2領域および前記第4領域とpn接合を構成する第1導電型のドリフト層を共有しており」と補正されたことより,第1領域と第4領域が他の領域とどのようにしてpn接合を形成するのかが明らかとなり,明確性に関する拒絶理由は解消した。 2 進歩性について (1)本願発明5について ア 本願発明5と引用発明の対比 (ア)引用発明における「一方の主面」,「他方の主面」は,本願発明5の「第1主面」,「第2主面」に相当し,両面は基板の表裏面であるから本願発明5の「互いに対向する」関係を満たす。引用発明における「ダイオードを構成する側の半導体領域」は,本願発明5の「ダイオード活性領域」に相当する。また,引用発明における「ガードリング6を構成する側の半導体領域」は,「ガードリング」がダイオード端部の電界緩和領域として本願発明の「エッジターミネーション」と同様の機能を有するから,本願発明5の「エッジターミネーション領域」に相当する。さらに,引用発明における「ダイオードを構成する側の半導体領域」と「ガードリング6を構成する側の半導体領域」は,互い隣りあって配置されている。 したがって,引用発明の「一方の主面と他方の主面を有し,互いに隣り合うダイオードを構成する側の半導体領域(図中右半分)とガードリング6を構成する側の半導体領域(図中左半分)とを有する半導体基板1」は,本願発明5の「互いに対向する第1主面および第2主面を有し,かつ互いに隣り合うダイオード活性領域とエッジターミネーション領域とを有する半導体基板」に相当する。 (イ)引用発明における「前記ダイオードを構成する側の半導体領域に形成されるn型のドリフト層10」は,「n型」を「第1導電型」に対応させると,本願発明5の「ダイオード活性領域において前記半導体基板内に形成された第1導電型の第1領域」に相当する。 (ウ)引用発明における「前記ダイオードを構成する側の半導体領域において前記n型のドリフト層10とともにダイオードを構成するように前記半導体基板1の一方の主面にアノード2として形成されたp型拡散領域3」は,「p型」を「第2導電型」に対応させると,本願発明5の「前記ダイオード活性領域において前記第1領域とともにダイオードを構成するように前記半導体基板の前記第1主面に形成された第2導電型の第2領域」に相当する。 (エ)引用発明における「前記ガードリング6を構成する側の半導体領域に形成されるn型のドリフト層10」は,前記(ア)を考慮すると,本願発明5の「前記エッジターミネーション領域において前記半導体基板内に形成された第1導電型の第3領域」に相当する。 (オ)引用発明における「前記ガードリング6を構成する側の半導体領域において前記半導体基板1の前記一方の主面に形成されたガードリング6となるp型拡散領域5」は,前記(ア)を考慮すると,本願発明5の「エッジターミネーション領域において前記半導体基板の前記第1主面に形成されたエッジターミネーションとなる第2導電型の第4領域」に相当する。 (カ)引用発明における「アノード2として形成されたp型拡散領域3とガードリングとなるp型拡散領域5は,pn接合を構成する半導体基板内に形成されたn型のドリフト層10を共有しており」という点は,前記(イ)ないし(オ)の「第1領域」ないし「第4領域」の関係を考慮すると,本願発明5の「前記第1領域と前記第3領域とは,前記第2領域および前記第4領域とpn接合を構成する第1導電型のドリフト層を共有しており」という点を満たす。 (キ)引用発明における「前記ダイオードを構成する側の半導体領域では,他方の主面にn型超高濃度不純物層12」は,不純物層12が「超高濃度」であることから,ドリフト層10に比較して相対的に濃度が高いことは明らかであり,本願発明5の「前記第1領域は前記ドリフト層よりも第1導電型不純物の濃度が高い第1導電型の第5領域」に相当する。 (ク)引用発明における「前記ガードリング6を構成する側の半導体領域では,前記他方の主面にカソード側p型拡散領域14」は,本願発明5の「前記エッジターミネーション領域の前記第2主面に形成された第2導電型の第2逆導電型領域」に相当する。 (ケ)引用発明における「n型高濃度不純物層11」は,「n型のドリフト層10」と比較すると「高濃度」と表現されていることから,「n型のドリフト層10」の不純物濃度よりも相対的に高いものと認められる。また,「n型高濃度不純物層11」は,「n型超高濃度不純物層12」と比較すると「高濃度」と「超高濃度」という表現から,「n型超高濃度不純物層12」の不純物濃度よりも相対的に低いものと認められる。 したがって,引用発明における「前記ダイオードを構成する半導体領域と前記ガードリング6を構成する側の半導体領域のn型のドリフト層10とはn型高濃度不純物層11上を共有する」点は,本願発明5の「前記第1領域と前記第3領域とは,前記第5領域より第1導電型不純物の濃度が低く,かつ前記ドリフト層より第1導電型不純物の濃度が高い第1導電型の第6領域を共有している」という点を満たす。 そうすると,本願発明5と引用発明は,以下の(コ)の点で一致し,(サ)の点で相違する。 (コ)一致点 「互いに対向する第1主面および第2主面を有し,かつ互いに隣り合うダイオード活性領域とエッジターミネーション領域とを有する半導体基板と, 前記ダイオード活性領域において前記半導体基板内に形成された第1導電型の第1領域と, 前記ダイオード活性領域において前記第1領域とともにダイオードを構成するように前記半導体基板の前記第1主面に形成された第2導電型の第2領域と, 前記エッジターミネーション領域において前記半導体基板内に形成された第1導電型の第3領域と, 前記エッジターミネーション領域において前記半導体基板の前記第1主面に形成されたエッジターミネーションとなる第2導電型の第4領域とを備え, 前記第1領域と前記第3領域とは,前記第2領域および前記第4領域とpn接合を構成する第1導電型のドリフト層を共有しており, 前記第1領域は前記ドリフト層よりも第1導電型不純物の濃度が高い第5領域を有しており, 前記エッジターミネーション領域の前記第2主面に形成された第2導電型の第2逆導電型領域とを備え, 前記第1領域と前記第3領域とは,前記第5領域より第1導電型不純物の濃度が低く,かつ前記ドリフト層より第1導電型不純物の濃度が高い第1導電型の第6領域を共有している半導体装置。」 (サ)相違点 相違点(1) 本願発明5は,「前記ダイオード活性領域の前記第2主面において前記第5領域と隣り合うように形成された,ダイオードのカソードとしての第2導電型の第1逆導電型領域」を有し,「前記ダイオード活性領域において,前記第5領域および前記第1逆導電型領域は,前記第2主面に沿う方向に交互に2組以上配置され」,「前記第6領域は,前記ダイオード活性領域においては前記第5領域,前記第1逆導電型領域および前記ドリフト層のすべてに接するように前記第5領域および前記第1逆導電型領域と前記ドリフト層との間に位置し,かつ前記エッジターミネーション領域においては前記第2逆導電型領域と前記ドリフト層との双方に接するように前記第2逆導電型領域と前記ドリフト層との間に位置して」いるのに対して,引用発明は,第1逆導電型領域を有さないため,同領域に関連した構成を備えていない点。 相違点(2) 本願発明5は,「オン時において,前記ダイオード活性領域と前記エッジターミネーション領域との境界近傍における電子の濃度は,前記ダイオード活性領域における電子の濃度よりも小さく,オン時において,前記ダイオード活性領域と前記エッジターミネーション領域との境界近傍におけるホールの濃度は,前記ダイオード活性領域におけるホールの濃度よりも小さい」のに対して,引用発明は,キャリア濃度について明示していない点。 イ 相違点についての検討 以下,相違点(2)について検討する。 相違点(2)について,当審引用文献1及び2には,記載も示唆も無い。 また,本願発明5は,相違点(2)を有することにより,オン状態時においてもリカバリー時においても,ダイオード活性領域とエッジターミネーション領域との境界部の近傍においては,電流の集中を抑制することができ,ダイオード活性領域とエッジターミネーション領域とを行き来するキャリアの数を減少することにより,電流値を抑えることができる。その結果,当該境界部の近傍における温度上昇による熱破壊を抑制することができるという有利な効果を奏する。 ウ まとめ したがって,本願発明5は,当審引用文献1及び2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (2)本願発明6及び7について 本願発明6及び7は,本願発明5を引用し,本願発明5の発明特定事項を全て含み,さらに他の発明特定事項を付加したものに相当するから,本願発明5が当審引用文献1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本願発明6及び7も当審引用文献1及び2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとは認められない。 (3)本願発明8ないし11について 本願発明8ないし11が直接間接に引用する請求項1について検討する。 本願発明1の「互いに対向する第1主面および第2主面を有し,かつ互いに隣り合うダイオード活性領域とエッジターミネーション領域とを有する半導体基板」において「前記ダイオード活性領域において,前記第5領域および前記逆導電型領域は,前記第2主面に沿う方向に交互に2組以上配置される」点については,当審引用文献1及び2のいずれにも記載も示唆も無い。 したがって,本願発明1は,当審引用文献1及び2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはえいない。 そして,本願発明8ないし11は,本願発明1又は本願発明5の発明特定事項を全て含み,さらに他の発明特定事項を付加したものに相当するから,本願発明1又は5が当審引用文献1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本願発明8ないし11も当審引用文献1及び2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとは認められない。 第7 原査定について 本願発明1は,「ダイオード活性領域において,前記第5領域および前記逆導電型領域は,前記第2主面に沿う方向に交互に2組以上配置される」との技術的事項を有する。当該技術的事項は,原審引用文献1ないし3に記載されておらず,本願優先日前における周知技術でもないので,本願発明1は,当業者であっても,原審引用文献1ないし3に基づいて容易に発明できたものではない。なお,原審引用文献1ないし3に記載された発明に対し,当審引用文献2に記載された発明を適用する動機付けを見いだすことはできない。 本願発明2ないし4は,本願発明1を引用し,本願発明1の発明特定事項を全て含み,さらに他の発明特定事項を付加したものに相当するから,本願発明1が原審引用文献1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本願発明2ないし4も原審引用文献1ないし3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をす ることができたとは認めらない。 本願発明5は,平成29年12月25日付けの手続補正により「オン時において,前記ダイオード活性領域と前記エッジターミネーション領域との境界近傍における電子の濃度は,前記ダイオード活性領域における電子の濃度よりも小さく,オン時において,前記ダイオード活性領域と前記エッジターミネーション領域との境界近傍におけるホールの濃度は,前記ダイオード活性領域におけるホールの濃度よりも小さい」という技術的事項を有するものとなった。当該技術的事項は,原審引用文献1ないし3に記載されておらず,本願優先日前における周知技術でもないので,本願発明5は,当業者であっても,原審引用文献1ないし3に基づいて容易に発明できたものではない。また,原審先願4の当初明細書等に記載された発明と同一でもない。 本願発明6及び7は,本願発明5を引用し,本願発明5が原審引用文献1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず,原審先願4の当初明細書等に記載された発明と同一でもない以上,本願発明6及び7も原審引用文献1ないし3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとは認められず,原審先願4の当初明細書等に記載された発明と同一でもない。 本願発明8ないし11は,本願発明1又は5を直接間接に引用し,本願発明1又は5は原審引用文献1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。したがって,本願発明1又は5が原審引用文献1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本願発明8ないし11は,原審引用文献1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。また,本願発明8ないし11は,原審先願4の当初明細書等に記載された発明と同一でもない。 したがって,原査定の理由を維持することはできない。 第8 結言 以上のとおりであるから,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2018-02-14 |
出願番号 | 特願2014-160371(P2014-160371) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H01L)
P 1 8・ 537- WY (H01L) P 1 8・ 161- WY (H01L) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 棚田 一也 |
特許庁審判長 |
飯田 清司 |
特許庁審判官 |
須藤 竜也 大嶋 洋一 |
発明の名称 | 半導体装置 |
代理人 | 特許業務法人深見特許事務所 |