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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1337345
審判番号 不服2016-17148  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-16 
確定日 2018-02-08 
事件の表示 特願2012-150789「個人情報表示体」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 1月23日出願公開、特開2014- 13326〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
特願2012-150789号(以下、「本件出願」という。)は、平成24年7月4日の特許出願であって、その手続の経緯は、概略以下のとおりである。

平成28年 2月17日付け:拒絶理由通知
平成28年 4月25日提出:意見書
平成28年 4月25日提出:手続補正書
平成28年 8月16日付け:拒絶査定
平成28年11月16日提出:審判請求書
平成28年11月16日提出:手続補正書
平成29年 9月12日付け:拒絶理由通知
平成29年11月13日提出:意見書
平成29年11月13日提出:手続補正書

第2 本件発明
本件出願の特許請求の範囲の請求項1?8に係る発明は、平成29年11月13日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「個人情報が記録された個人情報表示体であって、
表示体本体と、
前記表示体本体に設けられ、個人情報を表示する第1表示要素と、
前記表示体本体に設けられ、個人情報を表示する第2表示要素と、を備え、
前記第1表示要素は、回折光学可変素子を用いて形成され、前記回折光学可変素子の配置パターンにより前記個人情報を表示し、
前記第1表示要素の配置パターンの輪郭の少なくとも一部分は、前記第2表示要素の輪郭の少なくとも一部分に沿っており、
前記第1表示要素は、前記個人情報をネガ表示し、
前記第2表示要素は、特定人の像を表示し、
前記第1表示要素は、前記第2表示要素によって表示される前記像の背景を表示し、
前記第2表示要素は、形成に用いられる材料において、前記第1表示要素と異なっており、
前記第2表示要素によって表示される像と同一の像を表示する他の表示要素が、さらに設けられている、個人情報表示体。」

第3 当審の拒絶理由
当審において平成29年9月12日付けで通知した拒絶の理由(以下、「当審拒絶理由」という。)は、概略、以下のとおりである。

「(理由1)本件出願の請求項1,5?7に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(理由2)本件出願の請求項1?7に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用例1:特開2001-30666号公報
引用例2:特開2004-4252号公報
引用例3:特開2000-141863号公報
引用例4:実公平7-53987号公報
引用例5:特開2008-107472号公報

(理由1),(理由2)
・請求項1,5?7について
・引用例1

(理由2)
・請求項2?4,6
・引用例1?5」

第4 当合議体の判断
1 引用例1の記載及び引用発明
(1) 引用例1の記載
当審拒絶理由で引用された引用例1には、次の記載がある。(下線は、後述する引用発明の認定に特に関係する箇所を示す。)

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】顔写真画像付きカードにおいて、顔写真画像以外で顔写真画像に隣接した部分にホログラム画像を設けてあることを特徴とするIDカード。」

イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、サーマルヘッドのごときに熱的手段により加熱、印字せしめるサーマル転写方式を用いた媒体に係わる。特に、クレジットカード、身分証明書、パスポート、各種免許証等の顔写真画像を設けて本人の確認が出来るIDカードに関するものである。」

ウ 「【0002】
【従来の技術】従来、このような顔写真画像を設けたカードは、顔写真画像だけ、或いは図2に示すように顔写真画像(11)の他にホログラム画像(12a)を顔写真画像とは別の場所に設けていた。ホログラム画像とは、光の干渉或いは回折格子を利用して、微細な凹凸パターンや、屈折率の異なる縞状パターンなどの回折構造からなっており立体画像や特殊な装飾画像を表現し得るものを総称して本明細書においてはホログラム画像と称することとする。
【0003】このようなホログラム画像は、高度な製造技術を要し、且つシート状に形成可能なことから、偽造防止手段としてクレジットカード、有価証券、証明書類等の一部に貼着して使用されている。しかし、このようなホログラム画像を貼着したものは写真画像を貼り替えたり、ホログラム画像を剥がして流用したりして、IDカードを偽造される恐れが有る。」

エ 「【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記の問題に鑑み、偽造することが困難なIDカード、これを作成する装置及び方法を提供することを課題としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記課題を達成するためになされた請求項1に記載の発明は、顔写真画像付きカードにおいて、顔写真画像以外で顔写真画像に隣接した部分にホログラム画像を設けてあることを特徴とするIDカードである。ホログラム画像と顔写真画像が一体化して1個の画像になっているので顔写真画像、ホログラム画像を別々に剥がして流用するような偽造は困難になる。」

オ 「【0009】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。図1は、本発明のIDカード(10a)を示す平面図であり、顔写真画像(11)と背景にホログラム画像(12a)を印刷して一体化させた画像を設けてある。このように、顔写真画像(11)と背景にホログラム画像(12a)を印刷して一体化させた画像にすることで、ホログラム画像或いは顔写真画像を切り取り、貼り替えた場合には、全体として不自然な画像になってしまう。従って、改竄するような偽造は、一層困難となる。」

カ 「【0010】この顔写真画像とホログラム画像が一体化された画像をIDカードに転写・印字することに用いられる転写箔リボンを図3、図4を参照して説明する。
【0011】図3(a)は本発明に用いる色材転写部とホログラム転写部を有する転写箔リボン(20)、図3(b)は色材転写部とホログラム転写部が別々の転写箔リボンであることを示す図である。図4は、この転写箔リボンの構成断面図であり、(A)は黄(Y),紅(M),藍(C),墨(K)の色材転写部(21)、(B)はホログラム画像転写部(22)の構成断面図を示している。
【0012】転写箔リボン(20)の色材転写部(21)は、通常のカラー画像を転写印字する部分であり、本発明の場合、色分解された顔写真画像データから上記の4色でフルカラーの顔写真画像(11)を印刷する時に使用する。ホロクラム画像転写部(22)(当合議体注:「ホロクラム画像転写部(22)は「ホログラム画像転写部(22)」の誤記である。)は、背景のホログラム画像(12a)を転写・印字する時に使用する。
【0013】図4(B)のホロブラム画像転写部(当合議体注:「ホロブラム画像転写部」は「ホログラム画像転写部」の誤記である。)は、支持体としての転写箔基材(24)上に剥離層(25)が形成され、剥離層(25)の上にはホログラム層(26)が形成されている。また、支持体としての転写箔基材(24)上の裏面[剥離層(25)が形成された面と反対側の面]にバックコート層(28)が形成されている。
【0014】ホログラム層(26)は、剥離層(25)とは反対側の面にホログラムレリーフパターンを有するレリーフ形成層(26a)と、前記ホログラムレリーフパターンの表面上に反射性薄膜層(26b)が蒸着またはスパッタリング等により形成され、更に反射性薄膜層(26b)上には接着層(27)が形成された構成となっている。このホログラムレリーフパターンは、微細な凹凸パターンからなるホログラムレリーフパターンを有するニッケル製の金型を、レリーフ形成層(26a)上に加熱押圧するなどの周知の方法により形成されている。
【0015】転写箔基材(24)は、支持体となるフィルムで、一般的に透明なポリエチレンテレフタレートフィルムが用いられる。他にポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン等の合成樹脂、天然樹脂、紙、合成紙などから単独で選択されたもの、または上記より選択されて組み合わされた複合体などが使用可能である。基材の厚みはどの様なものを用いても構わないが、10?20μm程度の厚みが望ましい。
【0016】剥離層(25)は、レリーフ形成層(26a)をより効果的に被転写体に転写するために設けられたものであり、熱可塑性アクリル樹脂、塩化ゴム系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂、セルロース系樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂あるいはこれらにオイルシリコン、脂肪酸アミド、ステアリン酸亜鉛、その他無機物などを添加したものが使用される。
【0017】レリーフ形成層(26a)はエンボス成形性が良好で、プレスムラが生じ難く、明るい再生像が得られ、剥離層(25)及び反射性薄膜層(26b)との接着性が良好である樹脂であって、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂などの熱可塑性樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリオール(メタ)アクリレート、メラミン(メタ)アクリレート、トリアジン(メタ)アクリレートなどの熱硬化性樹脂あるいはこれらの混合物、さらにはラジカル重合性不飽和基を有する熱成型性材料などが使用可能である。
【0018】反射性薄膜層(26b)は、光線を反射する層であって、Al、Au、Ag、Cuなどの金属反射性を有する物質が使用可能である。反射性薄膜層(26b)を形成する方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の成膜手段が適用可能であり、膜厚としては10?1100nmの範囲にあることが好ましい。
【0019】また、反射性薄膜層(26b)としては、反射性と透過性を合わせ持つ高屈折率透明材料を使用することも可能である。すなわち、レリーフ形成層(26a)(屈折率n=1.3?1.5)よりも屈折率が高く、透明性を持つ材料、Sb_(2)S_(3)(n=3.0),TiO_(2)(n=2.6),ZnS(n=2.3),Sb_(2)O_(3)(n=2.0),SiO(n=2.0),Si_(2)O_(3)(n=2.5),In_(2)O_(3)(n=2.0),ZnO(n=2.1)等の無機材料が使用できる。
【0020】接着層(27)は、反射性薄膜層(26b)を変質させたり冒すものでなければ通常用いられるものでよく、塩酢ビ系接着剤、アクリル系接着剤、ポリエステル系接着剤などが使用される。
【0021】支持体としての転写箔基材(24)上の裏面[剥離層(25)が形成された面と反対側の面]に形成されたバックコート層(28)は、サーマルヘッドで転写・印字する際のスティッキングを防ぎ、転写リボンがサーマルヘッドに貼り付くのを防止するための層であって、転写リボンがサーマルヘッドに貼り付くのを防止する構成であれば、通常用いられるものでよく、バインダーとしては例えば熱可塑性アクリル樹脂、セルロース系樹脂、ポリエステル系樹脂、シリコーン系のEB硬化性樹脂などが使用可能である。これらにスリップ剤としての、各種界面活性剤、ポリエチレンWAX、シリコンWAXなどの滑剤、タルクなどの充填剤を必要に応じて添加したものが使用可能である。
【0022】色材転写部(21)は、カラーを転写・印字するリボンと同じ構成であり、黄(Y)転写部(21Y),紅(M)転写部(21M),藍(C)転写部(21C),墨(K)転写部(21B)の4色の色材転写部からなっている。転写箔基材(24)及びバックコート層(28)はホログラム画像転写部と共通である。
【0023】色材層(29)の黄(Y)転写部にはカヤセットイエローAG,プラストイエロー8040、ホロンブリリアントイエローS6GLPI等が、紅(M)転写部にはカヤセットレッド130、セレスレッドB,マクロレックスレッドR等が、藍(C)転写部にはカヤセットブルー714、セレスブルーGN,MSブルー等が、墨(K)転写部にはカーボンブラック等の色材が使用されている。これらの色材に、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、スチレンーアクリルニトリル共重合体樹脂のバインダー樹脂が添加されて色材層(29)を形成している。
【0024】上記構成の転写箔リボン(20)を用い、サーマルヘッドで被転写体であるIDカードに顔写真画像及びホログラム画像が一体化されている画像を転写、印字する。」

キ 「【0025】図5、本発明に係るIDカードを作製する装置を説明する図であり、図5(A)はブロック図、及び図5(B)は全体の構成例を示す模式図である。
【0026】1.顔写真画像を得る為に、電子カメラで撮影或いは本人が持参した写真をスキャナーで色分解してデジタルデータとして画像処理装置(2)に入力させる。
2.この顔写真画像を必要に応じて顔写真画像に色補正、階調補正の処理をした後、輪郭抽出し顔写真画像(11)領域とホログラム画像(12a)領域とにディスプレイを見ながら確認して分割の処理をする。分割処理がし易い様に背景はホワイトやブルーの色で、何も物体が撮影されていない方が好ましい。
3.顔写真画像領域は撮影したままの自然なフルカラー画像である旨を、背景の領域にはホログラム画像である旨を指定しディスプレイで確認する。
4.上記の処理が完了した顔写真画像とホログラム画像とが一体化されているデジタルデータを画像ファイルとしてメモリに記憶させる。
5.該画像ファイルを呼び出し、色材画像転写部(21)とホログラム画像転写部(22)を有する転写箔リボン(20)を用いてサーマルカードプリンター(3)でIDカードに転写・印字する。
【0027】転写・印字する動作は以下のようである。すなわち、
6.まずサーマルカードプリンターの巻出ローラ(3e)より転写箔リボン(20)を送り出す。次いで、レジスターマーク検知手段(3c)で黄(Y)転写部のレジスターマーク(23)を検出し、転写箔リボン(20)を停止させる。
7.次いで、上記画像ファイルのY成分のデジタルデータを呼び出して転写印字制御部(3a)に送り、転写印字制御部(3a)からサーマルヘッド(3b)へ印字の命令を伝えると共に、カード搬送部(3d)に送り制御の命令を伝える。
8.次いで、命令を受けたサーマルヘッド(3b)が、転写箔リボン(20)の黄(Y)転写部(21Y)を媒体であるIDカード(10)に押し付け、黄(Y)色の転写・印字を行う。これにより、顔写真画像における黄色成分の転写・印字が行われる。
9.顔写真画像の黄色成分の転写・印字が終了すると、サーマルヘッド(3b)が上昇し、カード搬送部(3d)がIDカード(20)を元の位置に戻す。
10.再び、巻出ローラ(3e)から転写箔リボン(20)を送り出し、レジスターマーク検知手段(3c)で紅(M)転写部のレジスターマーク(23)を検出し、転写箔リボン(20)を停止させる。
11.次いで、上記画像ファイルのM成分のデジタルデータを呼び出して転写印字制御部(3a)に送り、転写印字制御部(3a)からサーマルヘッド(3b)へ印字の命令を伝えると共に、カード搬送部(3d)に送り制御の命令を伝える。
12.次いで、命令を受けたサーマルヘッド(3b)が、転写箔リボン(20)の紅(M)転写部(21M)を媒体であるIDカード(10)に押し付け、紅(M)色の転写・印字を行う。これにより、顔写真画像における紅色成分の転写・印字が行われる。
以下同様な方法で、藍(C)、墨(K)及びホログラム画像成分を転写・印字を行い図1に示すようなIDカードを作成する。」

ク 「【0031】
【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、顔写真画像の輪郭にそって、ホログラム画像を設けることができるので、一枚毎に形状が異なる為に、偽造が極めて困難となる。
【0032】また、一枚毎に異なったデザインのものが作製できるため、個性のあるIDカードの作成が可能である。」

ケ 「【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るIDカードの外観を示す平面図である。
【図2】従来のIDカードの外観を示す平面図である。
【図3】本発明に使用する転写箔リボンを説明する概略構成平面図である。
【図4】本発明に使用する転写箔リボンの構成断面図であり、(A)は色材転写部に於ける構成断面図、(B)はホログラム転写部に於ける構成断面図である。
【図5】転写装置を説明する図であり、(A)はブロック図、(B)は全体の構成を示す模式図である。
・・・(中略)・・・
【符号の説明】
1…画像入力装置
2…画像処理装置
3…出力装置
3a…印字制御装置
3b…サーマルヘッド
3c…レジスターマーク検出センサー
3d…媒体送り装置
3e…送り出しローラ
10…IDカード
10a…本発明のIDカード
10b…従来のIDカード
11…顔写真画像
12…ホロクラム画像(当合議体注:「ホロクラム画像」は「ホログラム画像」の誤記である。)
20…転写箔リボン
21…色材転写部
21Y…黄(Y)転写部
21M…紅(M)転写部
21C…藍(C)転写部
21K…墨(K)転写部
22…ホログラム転写部
23…レジスターマーク
24…転写箔基材
25…剥離層
26…ホログラム画像層
26a…レリーフ形成層
26b…反射性薄膜層
27…接着層
28…バックコート層
29…色材層」

コ 「【図1】




サ 「【図3】



シ 「【図4】



ス 「【図5】



(2) 引用発明
引用例1の段落【0009】、【0031】及び図1等の記載から、IDカード(10a)において、ホログラム画像(12a)が、顔の輪郭に沿って顔の背景となる部分に設けられていることを把握できる。
また、技術常識からみて、引用例1の段落【0013】に記載されたホログラム画像転写部(22)は、接着層(27)によってIDカード(10a)と接着し、転写箔基材(24)及び剥離層(25)がホログラム層(26)から剥がされて、IDカード(10a)上に転写されたホログラム層(26)が、段落【0009】に記載されたホログラム画像(12a)となることが明らかであり、したがって、前記ホログラム画像(12a)は、接着層(27)、反射性薄膜層(26b)及びレリーフ形成層(26a)がこの順に積層されたものであることが当業者にとって自明である。
また、引用例1の段落【0011】及び【0012】の記載から、前記顔写真画像(11)は、黄(Y)、紅(M)、藍(C)、黒(K)の4色の色材により形成されたフルカラー画像であることが把握できる。
したがって、前記(1)ア?スで摘記した記載から、引用例1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。(なお、引用例1では、顔写真画像(11)及びホログラム画像(12a)が形成される前のIDカードを「IDカード(10)」(段落【0027】、図5等参照。)と表現し、顔写真画像(11)及びホログラム画像(12a)が形成されたIDカードを「IDカード(10a)」と表現しているが、それぞれを、「カード(10)」及び「IDカード(10a)」と表現した。

「顔写真画像(11)とホログラム画像(12a)とが一体化された画像がカード(10)上に設けられたIDカード(10a)であって、
前記顔写真画像(11)は、黄(Y)、紅(M)、藍(C)、黒(K)の4色の色材により形成された顔のフルカラー画像であり、
前記ホログラム画像(12a)は、前記顔の輪郭に沿って当該顔の背景となる部分に設けられ、かつ、接着層(27)、反射性薄膜層(26b)及びレリーフ形成層(26a)がこの順に積層されたホログラム層(26)により形成され、
前記反射性薄膜層(26b)は、金属反射性を有する物質又は反射性と透過性を合わせ持つ高屈折率透明材料からなり、
前記レリーフ形成層(26a)は、前記反射性薄膜層(26b)との接着性が良好な樹脂からなる、
IDカード(10a)。」

2 対比及び判断
(1) 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、以下のとおりとなる。
ア 引用発明は「IDカード(10a)」であるところ、「IDカード」とは、一般に、「その人と識別するための情報を記録して所持するカード。身分証明書。」(広辞苑 第五版)のことを指す。しかるに、その人と識別するための情報は個人情報にほかならないから、引用発明の「IDカード(10a)」は、本願発明の「個人情報が記録された個人情報表示体」に相当する。

イ 引用発明の「カード(10)」は、本願発明の「表示体本体」に相当する。
また、引用発明の「顔写真画像(11)」及び「ホログラム画像(12a)」は、「カード(10)」上に設けられ、「顔写真画像(11)」は顔のフルカラー画像を表示し、「ホログラム画像(12a)」は当該顔の輪郭を表示し(後述のエで詳しく述べる。)、両者が一体化されて、本人の確認(引用例1の段落【0001】を参照。)をするための画像を構成しているところ、顔のフルカラー画像や顔の輪郭はいずれも「個人情報」といえるから、「顔写真画像(11)」及び「ホログラム画像(12a)」は、「個人情報を表示する表示要素」といえる。
したがって、引用発明は、本願発明の「表示体本体と、前記表示体本体に設けられ、個人情報を表示する第1表示要素と、前記表示体本体に設けられ、個人情報を表示する第2表示要素と、を備え」るという発明特定事項に相当する構成を具備している。

ウ 引用発明の「顔写真画像(11)」は、顔のフルカラー画像であるから、本願発明の「特定人の像」を表示する「第2表示要素」に相当する。

エ 本願明細書の段落【0030】の記載によれば、「回折光学可変素子」とは、回折現象の利用により観察方向に依存して、その観察され方、例えば明るさや色等が変化する素子のことであって、ホログラムや回折格子がこれに該当すると認められるから、引用発明の「ホログラム画像(12a)」は、「回折光学可変素子」を用いて形成されたものといえる。
また、引用発明の「ホログラム画像(12a)」は、顔写真画像(11)が表示する顔の輪郭に沿って当該顔の背景となる部分に設けられているから、当該「ホログラム画像(12a)」の配置パターンが、顔の輪郭を表示しており、当該配置パターンの輪郭の一部分が「顔写真画像(11)」の輪郭の一部分に沿っている。
したがって、引用発明の「ホログラム画像(12a)」は、本願発明の「回折光学可変素子を用いて形成され、前記回折光学可変素子の配置パターンにより前記個人情報を表示」し、「前記個人情報をネガ表示」し、「『第2表示要素』(引用発明の「顔写真画像(11)」)によって表示される『特定人の像』(引用発明の「顔のフルカラー画像」)の背景を表示」する「第1表示要素」に相当し、かつ、本願発明の「第1表示要素の配置パターンの輪郭の少なくとも一部分は、第2表示要素の輪郭の少なくとも一部分に沿って」いるという発明特定事項に相当する構成を具備している。

オ 引用発明の「顔写真画像(11)」は、黄(Y)、紅(M)、藍(C)、黒(K)の4色の色材により形成され、「ホログラム画像(12a)」は、接着層(27)を形成する接着剤、金属反射性を有する物質又は反射性と透過性を合わせ持つ高屈折率透明材料、及び反射性薄膜層(26b)との接着性が良好な樹脂からなるから、引用発明は、本願発明の「前記第2表示要素は、形成に用いられる材料において、前記第1表示要素と異なって」いるという発明特定事項に相当する構成を具備している。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
上記(1)の対比結果を踏まえると、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致する。
(一致点)
個人情報が記録された個人情報表示体であって、
表示体本体と、
前記表示体本体に設けられ、個人情報を表示する第1表示要素と、
前記表示体本体に設けられ、個人情報を表示する第2表示要素と、を備え、
前記第1表示要素は、回折光学可変素子を用いて形成され、前記回折光学可変素子の配置パターンにより前記個人情報を表示し、
前記第1表示要素の配置パターンの輪郭の少なくとも一部分は、前記第2表示要素の輪郭の少なくとも一部分に沿っており、
前記第1表示要素は、前記個人情報をネガ表示し、
前記第2表示要素は、特定人の像を表示し、
前記第1表示要素は、前記第2表示要素によって表示される前記像の背景を表示し、
前記第2表示要素は、形成に用いられる材料において、前記第1表示要素と異なっている、
個人情報表示体。

イ 相違点
上記(1)の対比結果を踏まえると、本願発明と引用発明とは、以下の点で相違する。
(相違点)
本願発明には、「前記第2表示要素によって表示される像と同一の像を表示する他の表示要素が、さらに設けられている」のに対して、
引用発明には、このような他の表示要素が設けられていない点。

(3) 判断
上記相違点について検討する。
ア パスポートや身分証明証などの個人情報表示体において、偽造・改竄防止のために、個人情報表示体に設けられている個人情報である顔の画像や顔を含む上半身の画像と同一の画像(例えば、画像を縮小したり、画像濃度を薄くしたりしたゴースト画像あるいは蛍光画像等)を個人情報表示体にさらに設けることは、例えば、特開2004-50762号公報(段落【0002】、【0003】等)、特開2002-166657号公報(段落【0002】?【0006】、【0042】等)、特表2002-516777号公報(段落【0015】、【0018】、【図1】等)、米国特許出願公開第2011/0123132号明細書(段落[0077]、FIG.1等)、米国特許第5380044号明細書(第4欄4?17行、FIG.1等)、米国特許出願公開第2003/0173406号明細書(段落[0121]?[0123]、FIG.3等)、特開2011-128209号公報(段落【0002】、【0004】?【0006】、【0012】、【0018】、【0023】、【0026】、【図1】)等を参照。)等に記載されているように、本件出願の出願の前に周知の技術である。

イ 引用発明が解決しようとする課題は、偽造することが困難なIDカードを提供することである。
引用発明に接した当業者であれば、引用発明のIDカードの偽造防止の効果をさらに高めることは、当業者であれば当然に考慮することである。
してみると、引用発明において、偽造防止の効果をさらに高めるために、上記の周知の個人情報体における偽造・改竄防止技術に基づき、顔のフルカラー画像(特定人の像)を表示する「顔写真画像(11)」(第2表示要素)と「ホログラム画像(12a)」(第1表示要素)に加え、さらに他の表示要素により該「顔写真画像(11)」(第2表示要素)によって表示される顔の画像と同一の画像を表示する構成として、上記相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

ウ 平成29年11月13日付けの意見書において、請求人が主張している、「第2表示要素に加えて他の表示要素を個人情報表示体に設けることにより、個人情報表示体の真贋判定を容易化することができるとともに、個人情報表示体の偽造防止性を効果的に向上させることができます。」という本願発明の作用・効果についても、当業者に既によく知られていることであり格別のものではない(例えば、上記アにおいて例示した、特開2002-166657号公報の段落【0006】の「ゴースト画像を形成すると、オリジナル画像が改ざんされた場合でも、ゴースト画像と照らし合わせることにより目視で不一致であることを識別できる。」、特表2002-516777号公報の段落【0018】の「このようなゴーストイメージを用いることにより、他人のカードを入手した者がカード内に彼または彼女自身の写真14を置き換えることが困難になる。写真14とゴーストイメージ30とを比較すれば、このような取り換えはすぐに露見する。」等参照。)。

エ 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び上記の周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、本件出願の請求項1に係る発明は、特許を受けることができないから、請求項2ないし8に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-12-06 
結審通知日 2017-12-08 
審決日 2017-12-19 
出願番号 特願2012-150789(P2012-150789)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 最首 祐樹野田 定文  
特許庁審判長 鉄 豊郎
特許庁審判官 河原 正
清水 康司
発明の名称 個人情報表示体  
代理人 永井 浩之  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 中村 行孝  
代理人 朝倉 悟  
代理人 柳本 陽征  
代理人 堀田 幸裕  

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