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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  H02G
管理番号 1337402
審判番号 無効2016-800093  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-07-29 
確定日 2018-02-26 
事件の表示 上記当事者間の特許第5917668号発明「配線ボックス」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件の手続の経緯は以下のとおりである。
平成16年 6月16日 特願2004-178828号(以下「第1
出願」という。優先権主張平成15年7月1
1日)の出願
平成20年 6月30日 第1出願の一部を新たな特許出願とした特願
2008-170268号(以下「第2出願
」という。)の出願
平成22年 4月23日 第2出願の一部を新たな特許出願とした特願
2010-99903号(以下「第3出願」
という。)の出願
平成24年 4月 9日 第3出願の一部を新たな特許出願とした特願
2012-88589号(以下「第4出願」
という。)の出願
平成25年11月 5日 第4出願の一部を新たな特許出願とした特願
2013-229458号(以下「第5出願
」という。)の出願
平成26年12月 5日 第5出願の一部を新たな特許出願とした特願
2014-246918号(以下「本件出願
」という。)の出願
平成28年 4月15日 本件特許の設定登録(特許第5917668
号)
平成28年 7月29日 本件無効審判請求
平成28年10月26日付 審判事件答弁書の提出
平成28年12月 7日付 審理事項通知
平成29年 2月 1日付 口頭審理陳述要領書の提出(請求人)
平成29年 2月 1日付 口頭審理陳述要領書の提出(被請求人)
平成29年 2月 6日付 審理事項通知(2)
平成29年 2月15日付 口頭審理陳述要領書(2)の提出(被請求人
)
平成29年 2月15日 口頭審理


第2 本件発明
本件特許第5917668号の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、本件特許第5917668号の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
底壁と、その底壁から立設された側壁とより一面に開口を有する四角箱状に形成されたボックス本体を備え、同ボックス本体の左側壁及び右側壁の少なくとも一方には、建物内の構造物にボックス本体を固定するための固定ビスを挿通可能な固定部が設けられているとともに、ボックス本体の上側壁及び下側壁には、合成樹脂製の可撓性を有する電線管を接続するための接続孔が形成され、
前記固定部が形成された側壁に相対向する側壁の上端部及び下端部には、ボックス本体の側方に開口するとともに、前記接続孔に連通する挿入開口がそれぞれ形成されることにより、上下両挿入開口は互いに連通することなく離れて形成され、当該挿入開口に挿入された電線管を、前記固定ビスにより固定部が構造物に押し付けられた方向に沿って移動させることにより、当該電線管を接続孔に挿入可能に形成したことを特徴とする配線ボックス。」


第3 請求人の主張及び証拠方法
これに対して、請求人は、「特許第5917668号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、」との審決を求め、証拠方法として以下の書証を提出し、以下の無効理由を主張している。

1 無効理由
「本件特許発明は、甲2発明並びに甲第5号証及び甲第6号証に記載の事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、進歩性欠如の無効理由を有する(特許法第29条第2項、同法123条1項2号)。」

2 証拠方法
甲第1号証 特許第5917668号公報(本件特許公報)
甲第2号証 「2003-2004 電設資材総合カタログ」の抜粋
(表紙、47-49ページ、奥付)
甲第3号証 「カタログの印刷の発注と納品の証明願」
(株式会社ケーエスアイ)
甲第4号証の1 「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・納
品の証明願」(東芝電材マーケティング株式会社)
甲第4号証の2 「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・納
品の証明願」(東芝電材マーケティング株式会社)
甲第4号証の3 「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・納
品の証明願」(三共電気株式会社)
甲第4号証の4 「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・納
品の証明願」(福西電機株式会社)
甲第4号証の5 「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・納
品の証明願」(因幡電機産業株式会社)
甲第4号証の6 「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・納
品の証明願」(株式会社たけでん)
甲第4号証の7 「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・納
品の証明願」(株式会社たけでん)
甲第4号証の8 「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・納
品の証明願」(株式会社たけでん)
甲第4号証の9 「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・納
品の証明願」(小川電機株式会社)
甲第4号証の10 「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・納
品の証明願」(トヨタ工業株式会社)
甲第4号証の11 「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・納
品の証明願」(因幡電機産業株式会社)
甲第4号証の12 「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・納
品の証明願」(宮地電機株式会社 )
甲第4号証の13 「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・納
品の証明願」(因幡電機産業株式会社)
甲第4号証の14 「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・納
品の証明願」(三和電材株式会社)
甲第4号証の15 「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・納
品の証明願」(丸栄電機工業株式会社)
甲第4号証の16 「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・納
品の証明願」(広中電機株式会社)
甲第4号証の17 「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・納
品の証明願」(広中電機株式会社)
甲第4号証の18 「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・納
品の証明願」(広中電機株式会社)
甲第4号証の19 「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・納
品の証明願」(大栄金属株式会社)
甲第4号証の20 「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・納
品の証明願」(深田電機株式会社)
甲第4号証の21 「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・納
品の証明願」(株式会社電器堂)
甲第4号証の22 「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・納
品の証明願」(富山電気ビルディング株式会社)
甲第4号証の23 「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・納
品の証明願」(東京エレク総業株式会社)
甲第4号証の24 「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・納
品の証明願」(森田電機株式会社)
甲第4号証の25 「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・納
品の証明願」(ヤマト電機株式会社)
甲第4号証の26 「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・納
品の証明願」(トヨタ工業株式会社)
甲第4号証の27 「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・納
品の証明願」(外山電気株式会社)
甲第4号証の28 「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・納
品の証明願」(桜工業株式会社)
甲第4号証の29 「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・納
品の証明願」(株式会社扇港電機)
甲第4号証の30 「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・納
品の証明願」(ミツワ電機株式会社)
甲第5号証 実用新案登録第2524247号公報
甲第6号証 特開平9-289720号公報
甲第7号証 無効2011-800003の審決公報
<以上、審判請求書に添付。>

甲第2号証の2 「2003-2004 電設資材総合カタログ」(甲2
カタログ)における「マグネッコ」のページ(P52)
の抜粋
甲第8号証 特開2003-143737号公報
甲第9号証 特開2003-134639号公報
甲第10号証 特開2000-297492号公報
甲第11号証 JIS C 8411:1999(合成樹脂製可とう電
線管)、平成11年4月20日改正
<以上、口頭審理陳述要領書に添付。>

なお、甲第2号証の2及び甲第8?11号証は、無効理由の直接的な証拠ではなく、甲第2号証の記載事項を理解する上での補足資料、技術常識を示す資料である(口頭審理調書「請求人」欄2)。

被請求人は、甲第1?11号証の成立を認めた(口頭審理調書「被請求人」欄2)。

3 請求人の主張の概要
請求人は審判請求書、口頭審理陳述要領書により、概ね以下のとおり主張している。

3-1 甲2発明
甲2は、請求人が製造販売する製品を記載したカタログ(「甲2カタログ」)の抜粋で、47-49ページに、商品名「配ボックス」の配線ボックスが記載され、特に49ページに、「配ボックスSM36A」が記載されている。(審判請求書4ページ1-13行)

請求人は、平成15年3月ごろ、甲2カタログ3万部の印刷を発注し、平成15年5月上旬、複数日にわたって納品された(甲3)。
請求人は、平成15年5月中旬、甲2カタログを取引先企業に配布し、これを受けて取引先各社から発注された配ボックスSM36Aは、平成15年6月下旬、納品された(甲4の1-30)。
甲4の1-30には、取引先各社に対する甲2カタログの配布、及び、配ボックスSM36Aの発注及び納品が、本件特許の優先日である平成15年(2003年)7月11日よりも前に行われたことが示されている。
配ボックスSM36Aは、以下の構成(「甲2発明」)を有する。
「底壁と、その底壁から立設された側壁とより一面に開口を有する四角箱状に形成されたボックス本体を備え、同ボックス本体の左側壁及び右側壁には、建物内の構造物にボックス本体を固定するためのラッパねじを挿通可能な固定部が設けられているとともに、ボックス本体の上側壁及び下側壁には、合成樹脂製の可撓性を有する電線管を接続するための接続孔が形成され、
同ボックス本体の底壁の上端部及び下端部の各左右両側には、ボックス本体の底壁側に開口するとともに、前記接続孔に連通する挿入開口がそれぞれ形成されることにより、上下両挿入開口は互いに連通することなく離れて形成され、当該挿入開口に挿入された電線管を、配線ボックス本体の開口側に向かって移動させることにより、当該電線管を接続孔に挿入可能に形成した、配ボックス。」(審判請求書4ページ14行-8ページ8行、口頭審理調書「請求人」欄3)

なお、審判請求書8ページ6行目の「開口側に向かって」は、「配線ボックス本体の開口側に向かって」のことである(口頭審理調書「請求人」欄3)。
品番「SM36AM」(マグネッコLを付属した商品)と、品番「SM36A」のボックス本体の形状に違いはない。(口頭審理陳述要領書2ページ11行-3ページ最下行)
左右両側壁に固定孔を設けることは周知で普通であるため(甲8、甲9)、当業者であれば、甲2記載から、固定孔が左右両側壁に設けられると認識できる。(口頭審理陳述要領書4ページ1行-5ページ最下行)
甲2、48頁の「軽量間仕切」等の記載及び技術常識(甲10)から、当業者であれば、甲2発明が「建物内の構造物」に取り付けられると理解する。(口頭審理陳述要領書6ページ1行-7ページ3行)
甲2、47頁記載の「CD管」及び「PF管」は、技術常識(甲11)から、当業者であれば「合成樹脂製」と理解する。(口頭審理陳述要領書7ページ4-12行)


3-2 甲2発明の公然性
(1) 甲2カタログの刊行物該当性
カタログは、販売促進のため広く配布され、広く知られることを目的とし、記載内容に守秘義務はないから、甲2カタログは、特許法第29条第1項第3号「頒布された刊行物」に該当し、同カタログに記載された配ボックスSM36Aに具現化された甲2発明は、本件特許出願前に日本国内において頒布された「刊行物に記載された発明」といえる。(審判請求書8ページ9行-最下行)

(2) 配ボックスSM36Aの公然実施該当性
配ボックスSM36Aは、平成15年6月下旬、取引先各社に合計8480個が納品された(甲4の1-30)。これら取引先各社は、守秘義務を負わない不特定人である。
よって、配ボックスSM36Aに具現化された甲2発明は、特許法第29条第1項第2号所定の「公然実施をされた発明」といえる。(審判請求書9ページ1-6行)

3-3 甲2発明の引用発明適格性
甲2発明は、刊行物記載発明(特許法第29条第1項第3号)にも、公然実施発明(特許法第29条第1項第2号)にも該当する。(審判請求書9ページ7-11行)

4 甲第5号証
甲5には、【請求項1】-【請求項2】、【0012】、【0017】、【0021】の記載がある。(審判請求書9ページ12行-10ページ最下行)

5 甲第6号証
甲6には、【請求項1】-【請求項3】、【0001】、【0009】、【0013】、【0020】、【0002】、【0003】、【0004】、【0019】の記載がある。(審判請求書12ページ4行-14ページ下から3行目)

6 本件発明の進歩性判断
(1) 本件発明と甲2発明との対比
本件発明と甲2発明は、以下の一致点、相違点を有する。
[一致点]
底壁と、その底壁から立設された側壁とより一面に開口を有する四角箱状に形成されたボックス本体を備え、同ボックス本体の左側壁及び右側壁の少なくとも一方には、建物内の構造物にボックス本体を固定するための固定ビスを挿通可能な固定部が設けられているとともに、ボックス本体の上側壁及び下側壁には、合成樹脂製の可撓性を有する電線管を接続するための接続孔が形成され、
同ボックス本体の上部及び下部には、前記接続孔に連通する挿入開口がそれぞれ形成されることにより、上下両挿入開口は互いに連通することなく離れて形成され、当該挿入開口に挿入された電線管を接続孔に挿入可能に形成した、配線ボックス。
[相違点a]
「挿入開口」について、
本件発明では、固定部が形成された側壁に相対向する側壁の上端部及び下端部に設けられ、ボックス本体の側方に開口するのに対し、
甲2発明では、底壁の上端部及び下端部の各左右両側に設けられ、ボックス本体の底壁側に開口する点。
[相違点b]
「挿入開口に挿入された電線管」について、
本件発明では、「固定ビスにより固定部が構造物に押し付けられた方向に沿って移動させる」のに対し、
甲2発明では、「ボックス本体の開口側に向かって移動させ」ており、保護管をラッパねじにより固定部が構造物に押し付けられた方向とは直交する方向に移動させる点。(審判請求書14ページ下から2行目-15ページ最下行)

(2) 相違点aの検討
ア 実質的に前件審決(甲7)の相違点1の判断と同様である。
相違点aによる技術的意義は、配線ボックス後面に空間がなくても電線管を接続できるとともに、電線管を接続する際に固定ビスに不具合を発生させないことにある。
一方、甲2発明は、保護管を壁厚方向に前後に移動させるから、壁厚が小さい場合に保護管を予め挿入しておく等の異なる対応が必要なことは自明であり、保護管とケーブルとは、その施工に共通の技術課題が存在する。
また、甲2の「…強めに押しながら差し込んでください。」から、甲2発明も、固定ビスによる固定が不完全である場合には、保護管を差し込む際に固定ビスに不具合が生ずることは自明である。(審判請求書16ページ1行-18ページ3行)

イ 甲6について
(ア) 甲6には、配線用ボックスに、壁厚の制限を受けずにケーブルが挿入できるように、取付部の対向側の側壁に形成された切欠開口からケーブルを挿入するという技術事項が記載され、甲6は、電線管を接続するものではないものの、本件発明及び甲2発明も電線管の中にケーブルを挿通させるのであり、しかも、甲2発明はケーブルを直接挿通できるから、甲6は本件発明及び甲2発明と同一技術分野に属する。
甲6の解決課題は、配線用ボックスの後面に空間がなくても、ケーブルを挿入できることで、ケーブルと電線管の類似性から、この課題が、電線管を接続する配線用ボックスにも存在することは明らかで、このような技術分野や解決課題の共通性から、甲2発明に甲6記載の技術事項を適用する動機付けを一般的に否定はできない。
甲2発明の「電線管」の課題解決に、甲6の「ケーブル」の技術事項を適用することに阻害要因はない。(審判請求書18ページ4行-18ページ最下行)

(イ) 確かに、甲6に記載されるのは、電線管を用いないタイプの配線ボックスである。
しかし、甲6の【0013】は、切欠部8を底壁9に形成した場合との対比において、側壁7に形成した場合のメリットを説明しているから、上記メリットは電線管を用いないタイプの配線ボックスに限られないと容易に理解できる。
むしろ、電線管は、電線と比較して挿入作業に大きな力が必要になることに照らせば(甲2、甲5)、電線管が必要なタイプの配線ボックスには、尚のこと、挿入開口を側壁側に向けて開口することに大きなメリットがある。
よって、当業者であれば、甲6の【0013】の記載から、電線管が必要なタイプの配線ボックスにおけるメリットも容易に理解できるから、上記記載は、甲2発明を改変する積極的動機付けになる。(口頭審理陳述要領書13ページ1行-14ページ8行)

(ウ) 被請求人の答弁書での主張に対する反論
被請求人は、「仮に、…保護管を接続すると、ケーブルの簡単な挿入ができなくなる…から、…保護管を用いないことが甲6の前提となっている」と主張する。
しかし、相違点aの容易想到性の問題は、甲2発明の構成を変更すること(挿入開口の向きの変更)が容易かであって、甲6の構成を変更することではないから、保護管を接続するとケーブルの簡単な挿入ができなくなるか否かは直接的には無関係である。
請求人が甲6で問題にしているのは、底壁側に挿入開口を設けた場合との比較における側壁側に挿入開口を設けた場合の利点で、それは保護管を用いない場合に限られない。
むしろ、前述のとおり、保護管を用いない甲6において挿入開口を側壁側に開口した場合に壁厚の制限を受けずに挿入することができるのであれば、電線管を強めに差し込まなければならない甲2発明は、尚のこと、そうすることに大きなメリットがあるから、甲6の【0013】の記載は甲2発明を改変する動機付けを提供している。(口頭審理陳述要領書15ページ21行-16ページ19行)

ウ 甲5について
(ア) 甲5の【0021】の「保護管保持用口部2や切欠口部22を設ける箇所や数は図示実施例に限定されるものではない。」の記載のとおり、甲5で、挿入開口(切欠口部22及び開口部23)を設ける箇所は底壁11側に限られない。
むしろ、甲5の【請求項1】の「…外壁の所定箇所に、…保護管保持用口部が設けられ、この保護管保持用口部における周方向の所定箇所に、上記外壁の端縁で開放されて…切欠口部が切欠形成され、…突片が上記切欠口部と保護管保持用口部との境界箇所に設けられている…」の記載から、挿入開口(切欠口部22及び開口部23)をどの方向に設けるかは、当業者が適宜選択し得る設計事項であることが示唆されている。
すなわち、【請求項1】の「外壁」は、「底面11」と「側面12」を含むから(【0012】)、切欠口部が形成される「外壁の端縁」には、すべての面の端縁が含まれる。また、「周方向の所定箇所に」との、周方向いずれの箇所に形成してもよい包括的な記載から、切欠口部22をどの方向に設けるかは当業者が適宜選択し得る設計事項に過ぎない。(審判請求書11ページ1行-12ページ3行)

(イ) 前記「保護管保持用口部2や切欠口部22を設ける箇所や数は図示実施例に限定されるものではない。」から、甲5の「保護管保持用口部2」、「切欠口部22」は、それぞれ、本件発明の「接続孔」、「挿入開口」に相当し、該「切欠口部22」は、具体的に示されていないが、必要に応じて図示される箇所から変更可能であることが示唆されている。(審判請求書19ページ1-7行)

(ウ) 甲5の【0021】「上記電設用ボックスAにおいて、保護管保持用口部2や切欠口部22を設ける箇所や数は図示実施例に限定されるものではない。したがって、底壁11に設けておいてもよく、そのようにすることによってボックス本体1の内部空間に導入する電線についての方向性の規制が緩和される。…」の第1文は、並立助詞「や」を用いているから、「保護管保持用口部」を設ける箇所とは別に、「切欠口部22を設ける箇所」が図示実施例に限定されないことを意味している。
そして、「切欠口部22」の構成は、どの外壁に設けるかだけでなく、どの方向に開口するかも特定して初めて決定されるから、「切欠口部22を設ける箇所」には、「切欠口部22の開口方向」も含まれている。
つまり、第1文は、単に「切欠口部22を設ける外壁」だけでなく、「切欠口部22の開口方向」も図示実施例に限定されないことを意味している。
第2文記載の助詞「も」の意味に照らせば、第2文が第1文に含まれる一例に過ぎないことを示している。
さらに、第1文は、「保護管保持用口部2を設ける数」も図示実施例に限定されないことを意味しているところ、単に保護管保持用口部2の数を変更しただけでは、第2文が意図する電線についての方向性の規制緩和という作用効果は得られない点をみても、第1文の内容は第2文にとどまらない。
よって、第1文の意味内容は第2文の意味内容よりも広いと解するのが妥当である。
そして、甲5の【請求項1】、【課題を解決するための手段】の記載は、切欠口部を開口する方向が、必ずしも図示実施例の場合に限定されないことを示唆していることを併せて考慮すれば、第1文は、「保護管保持用口部」を設ける箇所とは別に、「切欠口部の開口方向」も図示実施例に限定されないことを意味している。
そして、図示実施例以外の方向に切欠口部22を開口させる場合、2つの方向しかないから、結局、切欠口部22をどの方向に開口させるかは適宜選択し得る設計事項である。
なお、第1文と第2文が順接の接続詞「したがって」で接続されているからといって、第1文と第2文とを同義に解せない。
また、第2文の「そのようにすること」は、その直前の「(保護管保持用口部2を)底壁11に設けること」を意味し、第1文全体が示唆する変形例のすべてを指していない。
切欠口部22をどこに開口させるかは単なる設計事項である点は、第2文でも当然の前提とされている。なぜなら、「保護管保持用口部2」の設置位置の変更に伴って、「切欠口部22」の設置位置も変更され、その場合、さらに「切欠口部22」をどの方向に開口させるかは選択の余地があり、第2文はその範囲で自由に開口方向を選択できることを暗黙の前提としているからである。
「保護管保持用口部2」を底壁11に設けた場合「切欠口部22」を上側に向けて開口させることができるのであれば、当然、「保護管保持用口部2」を図示実施例のように設けた場合も「切欠口部22」を上側に向けて開口させることが許容される。
以上より、甲5によれば、甲2発明において相違点aは単なる設計事項に過ぎず、容易になし得たことである。(口頭審理陳述要領書8ページ2行-12ページ最下行)

(エ) 被請求人の答弁書での主張に対する反論
被請求人は、甲5の【0021】の記載が、電線をボックス本体1の内部空間に導入する方向性の規制の緩和のみであることを前提に、切欠口部22の設置位置のみを変更することは記載されていない旨主張する。
しかし、被請求人の主張は、第2文に「底壁11に設けておいてもよく」と記載されることと整合せず、失当である。
前述のとおり、助詞「も」の意味から、第2文は、第1文の意味内容の範囲内における一例を記載したに過ぎない。被請求人は、第1文の意味内容を第2文の意味内容に矮小化して理解している。
甲5の【請求項1】、【課題を解決するための手段】には、「保護管保持用口部2」をどこに設けるかとは別に、切欠口部を開口する方向が「保護管保持用口部における周方向の所定箇所」であれば足りることが示されている。
このように「保護管保持用口部2」の設置箇所と、「切欠口部22」を開口する方向とは別個の技術事項であるから、「切欠口部22」のみを図示実施例以外の方向に開口することは甲5に示唆されているというべきである。
そして、その方向は、前記のとおり、2方向しかないから、実質的に、上側の方向に開口されることが示唆されている。
さらに、「保護管保持用口部2」を特定箇所に設けても「切欠口部22」をどちらに向けて開口させるかは必然的に決まるわけではなく、甲5の【0021】の第2文は「切欠口部22」の開口方向を自由な選択に委ねている。
よって、「保護管保持用口部2」が図示実施例の場合も同様に解するのが自然で、その場合のみ「切欠口部22」の開口方向も図示の方向に限られると解するのは不合理である。
以上から、甲5に関する被請求人の主張は失当である。(口頭審理陳述要領書14ページ9行-15ページ20行)

エ 甲2発明は固定部を左右両側壁に有するから、保護管を側方から挿入すれば、必然的に挿入開口は固定部に相対向する側壁の上端部及び下端部に位置することになる。
してみると、甲2発明に、甲5および甲6記載の技術事項を適用して、相違点aの構成とすることは、当業者が容易に想到し得る程度の事項である。(審判請求書19ページ8-13行)

(3) 相違点bの検討
相違点bの構成は、相違点aに係る構成を採用することにより当然になされる構成に過ぎない。
なお、仮に「フランジ部」側(のみ)を固定部としても、相違点bに係る構成は、甲6の【0013】、図1に示唆されている。(審判請求書19ページ14-19行、口頭審理陳述要領書7ページ13行-8ページ1行、口頭審理調書「請求人」欄4)


第4 被請求人の主張及び証拠方法
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、」との審決を求め、答弁書、平成29年2月1日付けの口頭審理陳述要領書、平成29年2月15日付けの口頭審理陳述要領書(2)を提出して、請求人の主張には理由がなく、本件特許は特許法第123条第1項第2号に規定の無効理由を有しない旨を主張している。


第5 当審の認定、判断
1 甲2の記載事項
甲2(「2003-2004電設資材総合カタログ」の抜粋(表紙、47-49ページ、奥付))には、図面とともに、以下の記載がある(下線は当審付与。以下同様。)。
なお、図面から読み取ることができる事項については、後記「4 甲2発明の認定」でさらに詳述する。

(1) 47ページ上段の記載
「配(ハイ)ボックスの特長
1.コネクタを使わずにそのままCD管・PFS管・通信用フレキの配管ができます。
2.36mm厚から27mm厚まで、1個用?4個用まで豊富な商品バリエーションを用意しています。
3.マグネッコ、マグネボーイでボックスの探知ができます。
※全商品にアルミ探知ができるアルミ箔付です。
4.木間仕切、軽量間仕切に取り付けできる取付金物や
4mmバー取り付けシステムも充実しています。」

(2) 47ページ下段の図
ア 配ボックスSM36Aと、各用語について
以下、47ページ下段の配ボックス(1個用)の斜視図(「47ページ下段の図」)において、開口面と対向する壁を「底壁」といい、上下左右方向にある4つの「側壁」を、それぞれ、「上側壁」、「下側壁」、「左側壁」、「右側壁」という。
「上側壁」に形成されている左右一対の開口を、「一対の接続孔」という。
「一対の接続孔」の左側に挿通されている部材を「ケーブル」といい、右側に挿通される部材を「保護管」という。
「右側壁」において、外側に向けて突出した部分を「台部」という。
「配ボックス」の斜視図における、右前方を、「前方(開口側)」といい、図面内の左後方を、「後方(底壁側)」という。
なお、配ボックス(1個用)として、品番上は、「SM36A」と、「SM36AM」(マグネッコL付き)の2種類があるが、両者は、甲2の49ページの品番「SM36A」及び「SM36AM」の正面図及び平面図を参照すると、付属品である「マグネッコL」(これは、ボックス探知用の探知磁石である。)の有無以外は、各部の寸法、形状がすべて同じであるから、以下、両者を特に区別せず、「配ボックスSM36A」と総称する。

イ 配ボックスSM36Aの斜視図の右側に、「配(ハイ)ボックスは、ケーブル配線を行う場合、保護管として14・16用CD・PFS・通信用フレキの配管が直接できます。…(中略)…(P.102参照)」との記載がある。

ウ 「ケーブル」と、「保護管」に、指示線が引かれて、「保護管としてのCD管・PF管・通信用フレキ14・16が配管できます。」との説明がある。

エ 「保護管」から、該「一対の接続孔」の右側に向かう方向、すなわち、後方(底壁側)から前方(開口側)に向かう方向に、「矢印」が引かれている。
一対の接続孔の右側に、指示線が引かれて、「取付方法 ノック爪部を折って矢印の方向から入れて下さい。」との説明がある。

オ ラッパねじに、指示線が引かれて、「ラッパねじ1本付(2個用・3個用は2本付)」との説明がある。

(3) 48ページ上段の記載
「配(ハイ)ボックス(ケーブル配線スイッチBOX)
配ボックスはコネクタなしでそのまま配管ができます。
配管するときは
波付管を直接、配(ハイ)ボックスヘ差し込んでください。
(コネクタ・ジョイナーは必要ありません。)
コーナーノックをペンチなどで折りとり、波付管の“2山目”を図のように強めに押しながら差し込んでください。」

(4) 48ページ上段の図
ア 「47ページの図」との視点の違いについて
48ページ上段の配ボックスの斜視図(「48ページ上段の図」)は、「47ページ下段の図」と同じ配ボックスSM36Aを、上下を逆にして、さらに、底壁側から見た斜視図である。
このため、47ページ下段の図では、前方の「左側壁」によって左半分が隠されていた「底壁」と「下側壁」を、48ページ上段の図ではすべて見ることができる。
ただし、両図は、上下が逆転しているため、47ページ下段の図の「下側壁」が、48ページ上段の図では、上方の側壁として描かれている。

イ 上方の側壁(47ページ上段の図の「下側壁」)には、一対の接続孔が記載されている。
左側の接続孔に、指示線が引かれて、「14用(16用も使用可)」との説明がある。
右側の接続孔に、指示線が引かれて、「16用(CD管・PF管・通信用フレキなど)」との説明がある。

ウ 上方の側壁の一対の接続孔のうち右側の近くに、2本の「波付管」が記載されている。
一方の「波付管」は、接続孔に差し込む前の状態で記載されており、指示線が引かれて、「CD管・PF管・通信用フレキ」、及び、「2山目を差し込む(2山と3山の谷部)」との説明がある。
他方の「波付管」は、接続孔に差し込まれた状態で記載されており、一方の「波付管」から、他方の「波付管」に向かう方向に、すなわち、後方(底壁側)から前方(開口側)に向かう方向に、「矢印」が引かれている。

エ 用語「波付管」と「保護管」について
なお、48ページに記載された「波付管」とは、「CD管・PF管・通信用フレキなど」であり、47ページに記載された「保護管」とは、「保護管としての14・16用CD、PFS、通信用フレキ」(なお、「PFS」とは「波付のPF管」である。甲11、2枚目を参照。)や、「保護管としてのCD管・PF管・通信用フレキ…」であるから、甲2において、47ページの「保護管」の記載と、48ページの「波付管」の記載とは、明らかに同じものを指す。よって、以下では、両者を特に区別せず、「保護管」と総称する。

オ 「ラッパねじ」に、指示線が引かれて、「ラッパねじ(付属品)」との説明がある。
ラッパねじ先端から、屈曲した一点鎖線が引かれて、右側面の中央を通って、「軽量間仕切 C型開口部」(下記(5)イを参照。)のフランジ部の小丸穴を貫通している。
一点鎖線に、指示線が引かれて、「小丸穴でねじ止め」との説明がある。

(5) 48ページ下段の6つの図
ア 48ページ下側には、「軽量間仕切 C型背面、角管タイプ、木間仕切」及び「配ボックスにはいろいろな取付方法があります。」という記載の下に、3つの取付方法が並んで示されている。
さらにその下の「軽量間仕切 C型開口部」という記載の下にも、3つの取付方法が並んで示されている。

イ 計6つの取付方法の図示のうちで、左下の図には、配ボックスSM36Aの「台部」が形成された右側壁を、「軽量間仕切 C型開口部」に対して、「直付け」する取付方法が記載されており、「直付けの場合(上図参照)」)との説明がある。(「上図」とは、上記「(4)48ページ上段の図」である。)

(6) 49ページ上段の図
ア 49ページ上段の図において、「配(ハイ)ボックス:台付型 SM(ケーブル配線スイッチBOX)」という記載の下に、配ボックス「SM36A」、「SM36A2」、「SM36A3」及び「SM36A4」それぞれについて、正面図と平面図が寸法付きで示されている。

(7) 49ページ上段の表
前記正面図と平面図の下の表の1行目には、配ボックスのうち、「商品コード」が「25SM36A」、「ご注文品番」が「SM36A」、「品名」が「配(ハイ)ボックス台付型・1個用」、「側面ノックアウト」が「14用×2個・16用×3個」であるものが記載されている。

2 甲5の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲5(実用新案登録第2524247号公報)には、「電設用ボックス」(考案の名称)に関し、図1-図5とともに、以下の記載がある。

(1) 【実用新案登録請求の範囲】
「【請求項1】 内部空間に電線が導入される合成樹脂製で中空のボックス本体における外壁の所定箇所に、端部近傍箇所に環状溝を有する合成樹脂製の電線保護管における上記環状溝の溝底直径と同一径または略同一径で厚さが上記環状溝に嵌合可能な寸法に定められた保護管保持用口部が設けられ、この保護管保持用口部における周方向の所定箇所に、上記外壁の端縁で開放されて上記保護管を径方向で上記保護管保持用口部に抜き差し可能とする切欠口部が切欠形成され、その切欠口部の開口幅を上記保護管における環状溝の溝底直径よりもやゝ小さい寸法になるように狭めかつ上記保護管の環状溝に嵌合可能な厚さ寸法を有する突片が上記切欠口部と保護管保持用口部との境界箇所に設けられていることを特徴とする電設用ボックス。
【請求項2】 上記保護管保持用口部と上記切欠口部とを塞ぎかつ押圧力を加えることによりそれらの口部から分断される蓋板が、上記ボックス本体と一体に設けられている請求項1に記載の電設用ボックス。」

(2) 【0001】-【0009】
「【0001】
【産業上の利用分野】本考案は、スイッチボックスや電線引廻しボックスなどの電設用ボックスに関する。
【0002】
【従来の技術】この種の電設用ボックスは、スイッチボックスや電線引廻し用ボックスなどに用いられ、合成樹脂で作られた中空のボックス本体の側壁や底壁などに開設した口部から内部空間に電線が導入されるようになっている。
【0003】従来、住宅用スイッチボックスのような弱電路に用いられる電設用ボックスにおいては、電線の挿通された保護管と上記ボックスとをコネクタを介して接続し、そのコネクタを通して上記電線をボックスの内部空間に導入していた。
【0004】
【考案が解決しようとする課題】ところが、コネクタを介してボックスと保護管とを接続することは、コネクタが余分に必要になり、それだけコスト高になるという問題があるばかりでなく、コネクタをボックス側や保護管側に接続するという余分な煩わしい作業を行うことを余儀なくされるという問題があった。
【0005】本考案は以上の問題にかんがみてなされたものであり、コネクタやその他の別部品を使わず、当該ボックスに具備された構造だけで保護管を所謂ワンタッチ式にボックスに接続することができるようにすることによって、コネクタを省略してコスト低減を図り、同時に煩わしいコネクタの接続作業を省略することのできる電設用ボックスを提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】請求項1に記載の電設用ボックスは、内部空間に電線が導入される合成樹脂製で中空のボックス本体における外壁の所定箇所に、端部近傍箇所に環状溝を有する合成樹脂製の電線保護管における上記環状溝の溝底直径と同一径または略同一径で厚さが上記環状溝に嵌合可能な寸法に定められた保護管保持用口部が設けられ、この保護管保持用口部における周方向の所定箇所に、上記外壁の端縁で開放されて上記保護管を径方向で上記保護管保持用口部に抜き差し可能とする切欠口部が切欠形成され、その切欠口部の開口幅を上記保護管における環状溝の溝底直径よりもやゝ小さい寸法になるように狭めかつ上記保護管の環状溝に嵌合可能な厚さ寸法を有する突片が上記切欠口部と保護管保持用口部との境界箇所に設けられているものである。
【0007】請求項2に記載の電設用ボックスは、請求項1のものにおいて、上記保護管保持用口部と上記切欠口部とを塞ぎかつ押圧力を加えることによりそれらの口部から分断される蓋板が、上記ボックス本体と一体に設けられているものである。
【0008】
【作用】請求項1の構成の電設用ボックスにおいて、電線保護管の端部をその径方向に動かしてボックス本体側の切欠口部に差し込み、その保護管の環状溝に突片を嵌合させてさらに径方向に押し込むと、保護管またはボックス本体が弾性変形して保護管が突片を乗り越える。これにより、保護管の環状溝にボックス本体側の保護管保持用口部が嵌合し、保護管がボックス本体に保持される。このように保護管の環状溝にボックス本体側の保護管保持用口部が嵌合していると、保護管が押し引き作用を受けてもその保護管がボックス本体から離脱したりボックス本体の内部に押し込まれたりすることがなく、また、保護管が切欠口部側へ引き抜かれるような作用を受けても、その切欠口部に設けられている上記突片によって保護管の引抜きが阻止される。
【0009】請求項2の構成の電設用ボックスにおいて、保護管保持用口部と切欠口部とを塞いでいる蓋板に押圧力を加えると、その蓋板が保護管保持用口部や切欠口部から分断されるので保護管保持用口部や切欠口部が開放する。したがって、上記のようにして電線保護管を保護管保持用口部に接続することが可能になる。また、保護管保持用口部や切欠口部から分断されていない蓋板は、使わない保護管保持用口部や切欠口部を塞いでおくための盲蓋としてのみならず、保護管保持用口部や切欠口部を設けたことによるボックス本体の強度低下を抑制する強度維持部材としての機能を発揮する。」

(3) 【0010】-【0015】
「【0010】
【実施例】図1は請求項1の考案の実施例による合成樹脂製の電設用ボックスAとそれに接続される合成樹脂製の電線保護管Bを示した概略斜視図である。
【0011】保護管Bは同一径のリング状山部91と同一径のリング状谷部92とが繰り返し連続された、比較的剛性の高い可撓性を備える管であり、この保護管Bはコンクリートや地中などに埋設したり、あるいは露出したりして敷設され、その内部に挿通される電線を保護する機能を有している。この保護管Bにおいて、端部近傍箇所の任意の谷部92が後述する環状溝として利用される。したがって、以下の説明では、環状溝に符号92aを付すことにする。
【0012】ボックスAは、その外壁としての底壁11および4つの側壁12…によって一面開放の箱形に成形されたボックス本体1を有しており、その外壁である所定の側壁12に円形の保護管保持用口部2が開設されている。図1には1つの側壁12に大きさの異なる2つの保護管保持用口部2,2が開設されたものを示してあり、各保護管保持用口部2,2の直径はそれぞれに対応する保護管Bの谷部92の谷底直径(すなわち環状溝92aの溝底直径)に合わせてある。すなわち、保護管保持用口部2の直径は、保護管Bにおける環状溝92aの溝底直径と同一径または略同一径に定められている。また、保護管保持用口部2はその周縁部を面取りすることにより薄肉化されており、その薄肉部21の厚さが上記環状溝92aに嵌合可能な寸法に定められている。なお、図1には下側の保護管保持用口部2に対応する保護管Bだけを示してあり、上側の保護管保持用口部2に対応する保護管については図示省略してある。
【0013】上記保護管保持用口部2はその周方向の所定箇所が切欠かれており、その切欠口部22が一様幅で底壁11側に延び出して側壁12の端縁で開放されている。また、底壁11には上記切欠口部22につながる開口部23が開設されている。そして、上記切欠口部22や開口部23の開口幅は、保護管Bにおける環状溝92aの溝底直径に合わせてある。この実施例においては、切欠口部22や開口部23の開口幅を保護管Bにおける谷部92の谷底直径、すなわち環状溝92aの溝底直径と同一か、それよりもわずかに小さな寸法に定めてある。
【0014】ここで、切欠口部22や開口部23の開口幅は、保護管Bを図1の矢印Rのように径方向に動かして差し込んだり、図示していないが、切欠口部22から保護管Bを矢印Rで示す方向の反対方向に動かして抜き出したりすることができる大きさであることが必要であり、また、そのような大きさであればよい。したがって、切欠口部22や開口部23の適切な開口幅には、保護管Bにおける山部91の直径(外周直径)よりも大きな寸法の開口幅が含まれることは勿論、山部91の外径と同一寸法の開口幅や、環状溝92aの溝底直径と同一寸法の開口幅も含まれる。さらに、合成樹脂製の保護管Bや合成樹脂製のボックス本体1はそれら自体が一定の範囲で弾性撓み変形可能であるので、保護管Bまたはボックス本体1が弾性撓み変形をした状態で保護管Bが切欠口部22や開口部23に抜き差し可能な開口幅であってもよく、したがって、切欠口部22や開口部23の開口幅は環状溝92aの溝底直径よりもわずかに小さな寸法の開口幅であってもよい。
【0015】上記切欠口部22の基部、すなわち切欠口部22側における切欠口部22と保護管保持用口部2との境界箇所には、相対向して一対の突片3,3がボックス本体1と一体に設けられている。これらの突片3,3は上記切欠口部22の開口幅を保護管Bにおける環状溝92aの溝底直径よりもやゝ小さい寸法になるように狭めるために設けられている。また、各突片3,3は保護管Bの環状溝92aに嵌合可能な厚さ寸法を有している。」

(4) 【0016】-【0019】
「【0016】図2は請求項2の考案の実施例による合成樹脂製の電設用ボックスの要部側面図、図3は図2のIII-III矢視方向から見た電設用ボックスの正面図である。これらの図において、4は保護管保持用口部2を塞いでいる円形の蓋板、5は切欠口部22と開口部23とを塞いでいるL形断面の蓋板である。保護管保持用口部2を塞いでいる蓋板4はその外周部の2箇所が連絡片41,41によって保護管保持用口部2の薄肉部21につながっている。また、切欠口部22と開口部23とを塞いでいる蓋板5は、切欠口部閉塞部51の2箇所が連絡片53,53によって切欠口部22の端面につながり、開口閉塞部52の2箇所が連絡片54,54によって開口部23の端面につながっている。そして、蓋板4はそれをボックス本体1の内方に向けて指で押圧することにより連絡片41,41を伴って破断して保護管保持用口部2から分断されるようになっており、また、蓋板5はそれをボックス本体1の内方に向けて指で押圧することにより連絡片53,53,54,54を伴って破断して切欠口部22や開口部23から分断されるようになっており、それらの蓋板4,5を各口部2,22,23から分断して撤去することによって保護管保持用口部2や切欠口部22や開口部23が開放される。なお、図1の電設用ボックスAは、図2や図3で説明した蓋板4,5を撤去した後の状態を示したものである。したがって、図2は蓋板4,5を撤去する前の電設用ボックスの要部側面図に相当し、図3は図2のIII-III矢視方向から見た電設用ボックスの正面図に相当する。
【0017】図1?図3において、61はボックス本体1に一体に設けられた取付用座部、62はたとえばスイッチパネル(不図示)を固定するための取付ねじ(不図示)の締付部である。
【0018】図2や図3のように、保護管保持用口部2や切欠口部22や開口部23が蓋板4,5で塞がれていると、それらが盲蓋として役立つので各口部2,22,23からのごみなどの侵入が防止され、また、それらの蓋板4,5が連絡片41,53,54によって各口部2,22,23につながっていることにより、蓋板4,5によって各口部2,22,23を設けたことによるボックス本体1の強度低下が抑制される。
【0019】電設用ボックスAに電線保護管Bを接続するときは、保護管Bを接続するために必要になる保護管保持用口部2、および切欠口部22や開口部23を塞いでいる蓋板4,5だけを押圧してその蓋板4,5をそれらの口部2,22,23から分断して撤去し、各口部2,22,23を開放する。そして、図1の矢印Rのように保護管Bの端部をその径方向に動かして環状溝92aを所定の切欠口部22と開口部23とに差し込み、さらに環状溝92aに突片3,3を嵌合させて径方向にさらに押し込む。このようにすると、保護管Bまたはボックス本体1が合成樹脂で作られているためにそれらの一方または双方が弾性変形して保護管Bが突片3,3を乗り越える。これにより、図4や図5のように保護管Bの環状溝92aが保護管保持用口部2に嵌合し、保護管Bがボックス本体1の側壁12に保持される。このように保護管Bの環状溝92aに保護管保持用口部2が嵌合していると、保護管2が押し引き作用を受けてもその保護管Bがボックス本体1から離脱したりボックス本体1の内部に押し込まれたりすることがない。また、保護管Bが切欠口部22側へ引き抜かれるような作用を受けても、図4で判るように突片3,3によって保護管Bの引抜きが阻止される。」

(5) 【0020】
「【0020】この実施例では、保護管保持用口部2の直径が保護管Bにおける環状溝92aの溝底直径と同一径または略同一径に定められており、しかも、切欠口部22と保護管保持用口部2との境界箇所に突片3,3が設けられているので、保護管Bの環状溝92aの底面が保護管保持用口部2の内周端面と突片3,3とによってがたつきなく、または押圧状態で挾み付けられて保護管Bががたつきなく強固にボックス本体1に接続される。」

(6) 【0021】-【0023】
「【0021】上記電設用ボックスAにおいて、保護管保持用口部2や切欠口部22を設ける箇所や数は図示実施例に限定されるものではない。したがって、底壁11に設けておいてもよく、そのようにすることによってボックス本体1の内部空間に導入する電線についての方向性の規制が緩和される。また、2つの蓋体4,5を一体物としてもよく、さらに突片3,3は1つだけであってもよい。
【0022】
【考案の効果】請求項1の電設用ボックスによれば、保護管をボックス本体側の切欠口部を通して径方向に押し込むことにより、その保護管の環状溝に保護管保持用口部を嵌合させるという作業を行うだけで保護管をボックス本体に接続することができ、しかも接続した状態では、保護管が押し引き作用を受けてボックス本体から離脱したりボックス本体の内部に押し込まれたり、あるいは保護管が切欠口部側へ引き抜かれたりするといった事態が生じないので、保護管をコネクタを使わずにボックス本体に強固にかつ確実に、しかもワンタッチ式に接続することができるという効果がある。
【0023】請求項2の電設用ボックスによれば、蓋板を押し付けて保護管保持用口部や切欠口部が分断することにより、保護管をコネクタを使わずにボックス本体に強固にかつ確実に、しかもワンタッチ式に接続することができるようになるという効果がある。また、使わない保護管保持用口部と切欠口部においては蓋板がごみの侵入などを防ぐ盲蓋として役立つ。さらに、分断されていない蓋板は、使わない保護管保持用口部や切欠口部を設けたことによるボックス本体の強度低下を抑制する強度維持部材としての機能を発揮するため、ボックス本体に多くの保護管保持用口部や切欠口部を設けて多方向からの電線の導入や多数本の電線の導入に対処し得るようにしておいても、ボックス本体の強度がそれほど低下しないという効果がある。」

3 甲6の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲6(特開平9-289720号公報)には、「配線用ボックス」(発明の名称)に関し、図1-図12とともに、以下の記載がある。

(1) 【0001】-【0006】
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は建築壁面等に取付けられ、内部にケーブルが配線される配線用ボックスに関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来のこの種の配線用ボックスを図12に示す。図において、配線用ボックス1は取付部3において取付ネジを使用して木枠の縦桟21に取付けられている。この配線用ボックス1にケーブル11を配線するには、配線用ボックス1の側壁のノックアウト部1aを打抜いた、または、予め設けられた透孔にケーブル11を上方から挿入し、次いで、配線に必要となるケーブル11の余長部11aを巻き束ねて配線用ボックス1内に納め、その後、配線用ボックス1内に収容したケーブル11の余長部11aを壁表に引出してスイッチ等の配線器具に接続するようにしていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、従来の配線用ボックス1では、ケーブル11を内部に挿入するためにノックアウト部1aを打抜く必要があり、手間を要した。また、ノックアウト部1aの打抜き後の透孔或いは予め設けられた透孔にケーブル11をその先端部から挿入する作業が面倒であった。更に、余長部11aを丸く束ねて収容する作業も同様に面倒であった。そして、カッターを使用して穿設するときに、誤って束ねられた余長部11aのケーブル11を傷付けてしまうことがあった。
【0004】そこで、本発明は、極めて簡単に、かつ、ケーブルを傷付けることなく、内部にケーブルを配線できる配線用ボックスの提供を課題とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】請求項1の発明にかかる配線用ボックスは、ボックス本体の周壁面を横切るようにケーブルを挿入して前記ボックス本体内を貫通させるべく、前記周壁面に切欠部が形成されたものである。
【0006】請求項2の発明にかかる配線用ボックスは、請求項1に記載の切欠部がボックス本体の側壁に形成されたものである。」

(2) 【0008】-【0013】
「【0008】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施例を図1乃至図3に基づいて説明する。図において、配線器具が収容される合成樹脂製の配線用ボックス1はボックス本体2の一側壁に取付部3が設けられており、取付孔4に取付ねじが斜め方向から挿通されて木枠の縦桟21に取付けられるようになっている。そして、前面開口5は室内の壁面22に穿設された壁穴23に臨むようになっており、枠取付孔6において図示しない配線器具取付枠が取付けられるようになっている。
【0009】更に、配線用ボックス1は取付部3の対向側の側壁7にボックス本体2内を上下方向に貫通する切欠部8が形成されており、その切欠開口8aから側壁7を横切るようにケーブル11を挿入できるようになっている。前記切欠部8はケーブル11を挟持する大きさとしてもよく、或いは、切欠開口8aを狭くすることによってケーブル11が外方に抜脱しなければ単に挿通されるだけの大きさとしてもよい。なお、切欠部8はボックス本体2の上下の側壁にノックアウト部が形成されている場合には、それと連通して形成してもよい。また、切欠開口8aの両縁部を丸く面取加工しておけば、ケーブル11の挿入が容易となり、ケーブル11の傷付きを防止することもできる。
【0010】次に、上記のように構成された本実施例の配線用ボックスにおけるケーブルの配線について説明する。予め取付孔4に取付ねじを使用して縦桟21に取付けられた配線用ボックス1にケーブル11を配線するには、上方から配線用ボックス1の周囲にケーブル11を垂下させ、次に、図2のように、ケーブル11の下方を把持してボックス本体2内を横切らせるべく側壁7に対して平行な状態で切欠開口8aから切欠部8内にケーブル11を挿入する。挿入後は、ケーブル11はボックス本体2内に露出した状態で上下方向に貫通することとなる。その後、図3のように、壁穴23の前方からボックス本体2内に貫通しているケーブル11を掴んでその下端部をボックス本体2内に引上げつつ壁穴23から壁表に引出し、ケーブル11の先端部を図示しない配線器具に接続する。以上によって、ケーブル11の配線は完了する。
【0011】このように、上記実施例の配線用ボックスは、ボックス本体2の側壁7を横切るようにケーブル11を挿入して前記ボックス本体内2を貫通させるべく、前記側壁7に切欠部8が形成されたものである。
【0012】したがって、ノックアウト部を打抜いた後の透孔或いは予め設けられた透孔にケーブルを先端部から挿入するといった面倒な作業を行なうことなく、側壁7に対して側方からケーブル11を切欠開口8aに向かって平行にずらして横切らせるだけの極めて簡単な操作で切欠部8内に挿入することができる。また、余長部11aはケーブル11を直線状態のままボックス本体2内に貫通させて保持できるから、従来のように、丸く束ねて収容するという面倒な作業も不要である。そして、余長部11aは束ねた状態で収容されていないので、カッターを使用して穿設するときに、誤って余長部11aのケーブル11を傷付けてしまうこともない。
【0013】ところで、上記実施例では、側壁7に切欠部8を形成しているが、図4に示すように、ボックス本体2の底壁9に形成しても構わない。なお、切欠部8は2個形成しているが、ケーブル11の本数に応じて適宜数とすればよい。但し、前記側壁7に切欠部8を形成した場合には、配線用ボックス1の側方からケーブル11を挿入できるため、壁厚の制限を受けずに挿入することができる。また、前記実施例では、ボックス本体2は箱状に形成されたものを示しているが、図5に示すように、周壁が円形状に形成された場合にも適用することができる。即ち、図において、周壁7aが円形状であるボックス本体2には、これを横切ってケーブル11が挿通されるべく周壁7aに切欠部8が形成されており、この場合にも前記箱状のボックス本体2と同様の作用、効果が期待できる。」

(3) 【0017】
「【0017】ところで、本発明の配線用ボックスによれば、図9乃至図11に示すように、複数の配線用ボックス1が上下に並設されたときの送り配線に使用することもできる。図において、2個の配線用ボックス1は縦桟21に上下に並設されており、ケーブル11は上下2個の配線ボックス1にそれぞれ形成された切欠部8に挿入して2個の配線用ボックス1内に貫通される。そして、配線器具との接続は、図10に示すように、各配線用ボックス1内のケーブル11をカッター等で切断した後、図11に示すように、切断両端部を壁表に引出して行なうことができる。」

(4) 【0019】-【0020】
「【0019】
【発明の効果】以上のように、請求項1の発明の配線用ボックスは、ボックス本体の周壁面を横切るようにケーブルを挿入して前記ボックス本体内を貫通させるべく、前記周壁面に切欠部が形成されたものである。したがって、ケーブルを周壁面に側方から切欠開口に向かってずらすだけの極めて簡単な操作で切欠部内に挿入し、ボックス本体内に貫通した状態で収容することができる。また、余長部はケーブルを直線状態のままボックス本体内に貫通させて保持できるから、従来のように、丸く束ねて収容するといった面倒な作業が不要である。そして、余長部は束ねた状態で収容されていないので、カッターを使用して穿設するときに、誤って余長部のケーブルを傷付けてしまうこともない。
【0020】請求項2の発明の配線用ボックスは、請求項1に記載の切欠部がボックス本体の側壁に形成されたものである。したがって、特に、配線用ボックスの側方からケーブルを挿入できるため、壁厚の制限を受けずに挿入することができる。」

(5) 図2、図9
図2、図9には、それぞれ、図外の上方で交差するように非平行に描かれた、上方から垂下する2本の「ケーブル11」と、1個(図2)又は上下2個(図9)のボックスが図示されている。
ここで、一方の「ケーブル11」は、2点鎖線で描かれており、配線用ボックスの外部にあって、斜め右下方向に傾けられており、このため、下に行くほど「ケーブル11」はボックスから離れており、他方の「ケーブル11」は、実線で描かれており、1個(図2)又は上下2個(図9)のボックス内部を垂直方向に貫通しており、一方の「ケーブル11」から他方の「ケーブル11」に向かう方向に、曲線の「矢印」が引かれている。

4 甲2発明の認定
(1) 「配ボックスSM36A」の形状について
47ページ下段の図(上記1(2)を参照。)には、「配ボックスSM36A」の斜視図が記載され、配ボックスSM36Aは、「底壁と、その底壁から立設された側壁とより一面に開口を有する四角箱状に形成された配ボックス本体」を備えている。

(2) 右側壁、左側壁について
ア 右側壁について
47ページ下段の図の配ボックスの右側壁には、3つの長孔状の開口が形成され、そのうち中央のものには、「ラッパねじ」が挿通されている。
よって、右側壁の3つの長孔状の開口の周縁部は、いずれも、「ラッパねじを挿通可能な固定部」といえる。
47ページ下段の図には、ラッパねじを用いて、ボックス本体を何に固定しているかは図示されていない。しかし、47ページ上段(上記1(1)を参照。)の「4.木間仕切、軽量間仕切に取り付けできる取付金物や…」の記載や、48ページ下段の左下の「軽量間仕切 C型開口部」に「直付け」する取付方法記載(上記1(5)を参照。)から、該ラッパねじは、「軽量間仕切」などに、配ボックス本体を固定するためのものである。

イ 左側壁について
47ページの下段の図の配ボックスの左側壁には、2つの長孔状の開口が形成されている。
左側壁には、「ラッパねじ」は示されていない。しかし、右側壁と同様に、左側壁の2つの長孔状の開口の周縁部も、「ラッパねじを挿通可能な固定部」であることが47ページの下段の図から明らかであるといえる。
なお、請求人が、口頭審理陳述要領書4ページ1行-5ページ最下行において主張するように(上記「第3」「3」「3-1」の摘記を参照。)、左右両側壁に固定孔を設けることは周知で普通であるため(甲8(【0017】、【0024】、図5の記載を参照。)、甲9(【0009】の記載を参照。))、甲2の記載に接した当業者であれば、固定孔が左右両側壁に設けられると認識できるともいえる。

ウ まとめ
したがって、「同配ボックス本体の左側壁及び右側壁には、軽量間仕切などに配ボックス本体を固定するためのラッパねじを挿通可能な固定部が設けられている」といえる。

(3) 上側壁、下側壁について
ア 上側壁について
47ページ下段の図と、「保護管としてのCD管・PF管・通信用フレキ14・16が配管できます。」の記載(上記1(2)ウを参照。)、「取付方法 ノック爪部を折って矢印の方向から入れて下さい。」の記載(上記1(2)エを参照。)から、配ボックス本体の上側壁には、保護管を接続するための一対の接続孔が形成されているといえる。

イ 下側壁について
47ページ下段の図の下側壁では、右側には接続孔が形成されているが、左側については、接続孔の明確な図示はない。
しかし、47ページ下段の図において、前記「ケーブル」が上側壁と下側壁とを貫いており、48ページ上段の図では、上方の側壁(「下側壁」)に、一対の接続孔が形成されていることから、下側壁にも、上側壁と同様に「保護管を接続するための一対の接続孔が形成されている」といえる。

ウ まとめ
したがって、「配ボックス本体の上側壁及び下側壁には、保護管を接続するための一対の接続孔がそれぞれ形成され」ているといえる。

(4) 底壁について
ア 底壁の上端部について
以下、配ボックス本体の「ノック爪」(「コーナーノック」)は、既に折りとられており、既に開口(以下、「ノック開口」という。)があるものとして認定する。
なお、「コーナーノック」が折り取られた状態で甲2発明を認定してもよい点については、当事者間に争いはないといえる(口頭審理調書「被請求人」欄4(b))

47ページ下段の図において、底壁の上端部の左右両側には、配ボックス本体の後方(底壁側)に開口するとともに、接続孔に連通する「ノック開口」が形成されている。

イ 底壁の下端部について
47ページ下段の図における、底壁の下端部の右側には「ノック開口」があるが、左側については、「ノック開口」の明確な図示はない。
しかし、前記「ケーブル」が上側壁と下側壁を貫いていること、48ページ上段の図では、配ボックス本体の底壁の上端部及び下端部の各左右両側には、配ボックス本体の後方(底壁側)に開口するとともに、前記接続孔に連通するノック開口がそれぞれ形成されていることから、下端部についても、上端部と同様に「底壁の下端部の左右両側には、配ボックス本体の後方(底壁側)に開口するとともに、接続孔に連通する「ノック開口」が形成されている」といえる。
また、左右両側で上下両「ノック開口」は互いに連通することなく離れて形成されている。

ウ まとめ
したがって、「底壁の上端部及び下端部の各左右両側には、配ボックス本体の後方(底壁側)に開口するとともに、前記接続孔に連通するノック開口がそれぞれ形成されることにより、左右両側で上下両ノック開口は互いに連通することなく離れて形成され」ているといえる。

(5) 保護管を挿入する方向について
47ページ下段の図の「矢印」と、「取付方法 ノック爪部を折って矢印の方向から入れて下さい。」の記載(上記(2)エを参照。)、48ページ上段の「波付管の“2山目”を図のように強めに押しながら差し込んでください。」の記載(上記(3)を参照。)、48ページ上段の図の「矢印」と、「2山目を差し込む(2山と3山の谷部)」の記載(上記(4)ウを参照。)から、「当該ノック開口に挿入された保護管を、配ボックス本体の前方(開口側)に向かって移動させることにより、当該保護管を接続孔に挿入可能に形成した」といえる。

(6) 甲2発明
上記(1)-(5)から、甲2には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。
「底壁と、その底壁から立設された側壁とより一面に開口を有する四角箱状に形成された配ボックス本体を備え、同配ボックス本体の左側壁及び右側壁には、軽量間仕切などに配ボックス本体を固定するためのラッパねじを挿通可能な固定部が設けられているとともに、配ボックス本体の上側壁及び下側壁には、保護管を接続するための一対の接続孔がそれぞれ形成され、
底壁の上端部及び下端部の各左右両側には、配ボックス本体の後方(底壁側)に開口するとともに、前記接続孔に連通するノック開口がそれぞれ形成されることにより、左右両側で上下両ノック開口は互いに連通することなく離れて形成され、当該ノック開口に挿入された保護管を、配ボックス本体の前方(開口側)に向かって移動させることにより、当該保護管を接続孔に挿入可能に形成したことを特徴とする配ボックス。」


5 甲2発明の公然性について
(1) 刊行物公知性について
ア 審判請求人は、甲2として、表紙に「2003-2004 電設資材総合カタログ」と記載され、奧付に、「日動電工株式会社」及び「このカタログの記載内容は2003年(平成15年)5月現在のものです。」と記載された「甲2カタログ」の抜粋を提出した。

イ 甲2の頒布性について
成立に争いがない甲3には、印刷された前記「2003-2004 電設資材総合カタログ」が、「平成15年5月上旬の複数日にわたって分納で」請求人に納品された旨が記載されている。
同様に、成立に争いがない甲4の1ないし30には、それぞれ「平成15年5月中旬」に、請求人から前記「2003-2004 電設資材総合カタログ」の配布を受けた旨が記載されている。
ここで、一般にカタログとは、販売促進のために作成者が積極的に配布することで、広く知られることを目的とするものであるから、その性質上、そこに記載されている内容に守秘義務はない。したがって、甲2の上記「2003-2004 電設資材総合カタログ」は、遅くとも「平成15年5月中旬」までに日本国内において頒布されたものと認められる。
すなわち、甲2の前記「2003-2004 電設資材総合カタログ」は、本件特許の優先日である平成15年7月11日より前に日本国内において頒布された刊行物であるといえる。

(2) 公然実施について
甲4の1-30に記載されるとおり、配ボックスSM36Aは、平成15年6月下旬、取引先各社に合計8480個が納品されたものと認められる。
これらの取引先各社は、守秘義務を負わない不特定人である。
よって、配ボックスSM36Aに具現化された甲2発明は、特許法第29条第1項第2号所定の「公然実施をされた発明」でもあるといえる。
なお、甲2発明が公然実施された発明でもあることは被請求人も認めており(口頭審理調書「被請求人」欄3(a))、この点については、当事者間に争いはないといえる。

(3) まとめ
よって、甲2発明は、刊行物記載発明(特許法第29条第1項第3号)に該当するとともに、公然実施発明(特許法第29条第1項第2号)にも該当する。
なお、「公然実施発明」としての甲2発明に関しては、後記「9」において検討する。

6 対比
本件発明と「刊行物記載発明」としての甲2発明とを対比すると、次のことがいえる。

(1) 甲2発明の「配ボックス本体」は、本件発明の「ボックス本体」に相当する。
よって、甲2発明の「底壁と、その底壁から立設された側壁とより一面に開口を有する四角箱状に形成された配ボックス本体」は、本件発明の「底壁と、その底壁から立設された側壁とより一面に開口を有する四角箱状に形成されたボックス本体」に相当する。

(2) 甲2発明の「ラッパねじ」は、本件発明の「固定ビス」に相当する。
甲2発明の「配ボックス本体の左側壁及び右側壁」は、本件発明の「ボックス本体の左側壁及び右側壁の少なくとも一方」に相当する。
甲2発明の「軽量間仕切など」は「建物内の構造物」にほかならないことは明らかであるといえる。
なお、請求人が、口頭審理陳述要領書6ページ1行-7ページ3行において主張するように(上記「第3」「3」「3-1」の摘記を参照。)、甲2、48頁の「軽量間仕切」等の記載及び技術常識(甲10(【0003】の記載を参照。))から、甲2の記載に接した当業者であれば、配ボックス本体が「建物内の構造物」に取り付けられると理解するともいえる。
よって、甲2発明の「同配ボックス本体の左側壁及び右側壁には、軽量間仕切などに配ボックス本体を固定するためのラッパねじを挿通可能な固定部が設けられている」ことは、本件発明の「同ボックス本体の左側壁及び右側壁の少なくとも一方には、建物内の構造物にボックス本体を固定するための固定ビスを挿通可能な固定部が設けられている」ことに相当する。

(3) 甲2発明の「保護管」は、本件発明の「電線管」に相当する。
甲2発明の上側壁及び下側壁に、「一対の接続孔がそれぞれ形成され」ることは、本件発明の上側壁及び下側壁に、「接続孔が形成され」ることに相当する。
甲2発明における、「CD管」、「PF管」などである「保護管」が、素材や物性の具体的特定がなくとも、「合成樹脂製の可撓性を有する保護管」であることは、当業者にとって明らかであるといえる。
なお、請求人が、口頭審理陳述要領書7ページ1行-7ページ3行において主張するように(上記「第3」「3」「3-1」の摘記を参照。)、甲2、47頁記載の「CD管」及び「PF管」は、技術常識(甲11。なお,甲11は、その名称が「合成樹脂製可とう電線管」である、JIS C 8411の規格書であって、その4枚目の「表1 可とう管の種類,形状及び記号」には、「可とう管の種類」として「PF管」と「CD管」が記載されている。)から、当業者であれば「合成樹脂製」と理解するともいえる。
よって、甲2発明の「配ボックス本体の上側壁及び下側壁には、保護管を接続するための一対の接続孔がそれぞれ形成され」ることは、本件発明の「ボックス本体の上側壁及び下側壁には、合成樹脂製の可撓性を有する電線管を接続するための接続孔が形成され」ることに相当する。

(4) 甲2発明の「ノック開口」は、本件発明の「挿入開口」に相当する。
甲2発明のノック開口が、「底壁の上端部及び下端部の各左右両側」に形成されることは、本件発明の挿入開口が、「前記固定部が形成された側壁に相対向する側壁の上端部及び下端部」に形成されることと、挿入開口が「壁の上端部及び下端部」に形成される点で共通するといえる。
また、甲2発明のノック開口が、「配ボックス本体の後方(底壁側)に開口する」ことと、本件発明の挿入開口が、「ボックス本体の側方に開口する」ことは、ボックス本体の「所定方向に開口する」点で共通するといえる。
甲2発明の「左右両側で上下両ノック開口は互いに連通することなく離れて形成され」ることは、本件発明の「上下両挿入開口は互いに連通することなく離れて形成され」ることに相当する。
よって、甲2発明の「底壁の上端部及び下端部の各左右両側には、配ボックス本体の後方(底壁側)に開口するとともに、前記接続孔に連通するノック開口がそれぞれ形成されることにより、左右両側で上下両ノック開口は互いに連通することなく離れて形成され」ることは、本件発明の「前記固定部が形成された側壁に相対向する側壁の上端部及び下端部には、ボックス本体の側方に開口するとともに、前記接続孔に連通する挿入開口がそれぞれ形成されることにより、上下両挿入開口は互いに連通することなく離れて形成され」ることと、「壁の上端部及び下端部には、所定方向に開口するとともに、前記接続孔に連通する挿入開口がそれぞれ形成されることにより、上下両挿入開口は互いに連通することなく離れて形成され」る点で共通するといえる。

(5) 甲2発明の「配ボックス本体の前方(開口側)に向かって移動させること」と、本件発明の「前記固定ビスにより固定部が構造物に押し付けられた方向に沿って移動させること」は、「所定の向きに移動させること」である点で共通するといえる。
よって、甲2発明の「当該ノック開口に挿入された保護管を、配ボックス本体の前方(開口側)に向かって移動させることにより、当該保護管を接続孔に挿入可能に形成した」ことは、本件発明の「当該挿入開口に挿入された電線管を、前記固定ビスにより固定部が構造物に押し付けられた方向に沿って移動させることにより、当該電線管を接続孔に挿入可能に形成した」ことと、「当該挿入開口に挿入された電線管を、所定の向きに移動させることにより、当該電線管を接続孔に挿入可能に形成した」点で共通するといえる。

(6) 甲2発明の「配ボックス」は、本件発明の「配線ボックス」に相当する。

したがって、両者の一致点、相違点は以下のとおりであるといえる。

[一致点]
「底壁と、その底壁から立設された側壁とより一面に開口を有する四角箱状に形成されたボックス本体を備え、同ボックス本体の左側壁及び右側壁の少なくとも一方には、建物内の構造物にボックス本体を固定するための固定ビスを挿通可能な固定部が設けられているとともに、ボックス本体の上側壁及び下側壁には、合成樹脂製の可撓性を有する電線管を接続するための接続孔が形成され、
壁の上端部及び下端部には、所定方向に開口するとともに、前記接続孔に連通する挿入開口がそれぞれ形成されることにより、上下両挿入開口は互いに連通することなく離れて形成され、当該挿入開口に挿入された電線管を、所定の向きに移動させることにより、当該電線管を接続孔に挿入可能に形成したことを特徴とする配線ボックス。」

[相違点1]
「挿入開口」が、本件発明では、「前記固定部が形成された側壁に相対向する側壁」に設けられ、「ボックス本体の側方」に開口するのに対し、甲2発明では、底壁に設けられ、ボックス本体の後方に開口する点。

[相違点2]
挿入開口に挿入された電線管の移動方向が、本件発明では、「前記固定ビスにより固定部が構造物に押し付けられた方向」に沿っているのに対し、甲2発明では、「前記固定ビスにより固定部が構造物に押し付けられた方向」と直角の方向に沿っている点。

7 相違点1(ノック開口(挿入開口))についての検討
(1) 以下、甲2発明を、甲5又は甲6に基づいて、本件発明の[相違点1]に係る構成とすることが、当業者が容易になし得たことであるかについて検討する。
なお、主に、後記「(3)」で甲5について検討し、後記「(4)」で甲6について検討する。

(2) 甲2について
ア 甲2それ自体に、配ボックスのノック開口を、底壁以外に配置変更するべきことは、記載も示唆もないこと
甲2は製品カタログの抜粋であって、そこに掲載された甲2発明(「配ボックスSM36A」)は、保護管を挿入するノック開口が、底壁にあり、後方(底壁側)に開口するものである。
甲2カタログの配ボックスの製品すべてで、ノック開口は底壁にあり、後方(底壁側)に開口している。
甲2の47ページ(上記「第5」「1(1)」)には、配ボックスの4つの特徴として、(1)コネクタを使わずに保護管を配管できること、(2)豊富な商品バリエーション、(3)ボックスが探知できること、(4)充実した取り付けシステム、を挙げている。
これらは、配ボックスの「メリット」であって、変更を考慮すべき欠点ではないから、配ボックスSM36Aの構成を変更すべきことの示唆ではない。
また、甲2の上記の以外の箇所にも、配ボックスのノック開口を、底壁以外に配置変更すべきことは記載も示唆もない。

イ 請求人の主張について
請求人は、上記[相違点1]と実質同じ内容の「相違点a」に関して、「相違点aの技術的意義は、(1)配線ボックス後面に空間がなくても電線管を接続できること、(2)電線管を接続する際に固定ビスに不具合を発生させないことにある一方、甲2発明は、(1)保護管を壁厚方向に前後に移動させるから、壁厚が小さい場合に保護管を予め挿入しておく等の異なる対応が必要なことは自明で、保護管とケーブルとは、その施工に共通の技術課題が存在し、(2)甲2の「…強めに押しながら差し込んでください。」から、甲2発明も、保護管を差し込む際に固定ビスに不具合が生ずることは自明である」旨を主張している(審判請求書16ページ1行-18ページ3行)。
しかし、上記(1)のとおり、甲2には、ノック開口を、底壁以外に配置変更すべきことは記載も示唆もない。
むしろ、甲2の記載において、固定ビスの不具合を生じ得るような「強めに押しながら差し込んでください」との指示がされていることや、甲2カタログの配ボックスでは、ノック開口がすべて底壁であること、すなわち、(1)壁厚が小さい場合に異なる対応が必要になり、(2)固定ビスに不具合が生じる方向が採用されていることからは、請求人が自明と述べる上記2つの問題点は、甲2の配ボックスの問題点としては特に認識されておらず、また、当業者にとっても自明でなかったと理解するのが自然である。

ウ まとめ
したがって、甲2の記載それ自体から、「ノック開口」を、異なる位置に形成することについての動機付けを見出すことはできない。

(3) 甲2、甲5に基づく検討
ア 本願明細書での甲5の引用について
甲5は、本願明細書の「背景技術」欄(【0004】)で「特許文献1」として引用された文献である。そして、本願明細書の「発明が解決しようとする課題」欄(【0005】-【0006】)で、「上記従来の電設用ボックスにおいて、切欠口部は底壁側に開口しているため・・・その結果、電設用ボックスに電線管を接続することが不可能になってしまうという問題があった。また、・・・その結果、柱に固定された固定ビスが緩んだり、変形したりする不具合が発生する虞があるという問題があった。」との問題点を有する、従来技術を示す文献として、引用されたものである。

イ 甲5の「図示実施例」について
甲5には、電線管を接続するための具体的な開示として、図1を参照すると、「図示実施例」のみが図示されており、これは「保護管保持用口部2」を、1つの側壁に2つずつ設けたものである。
また、「保護管保持用口部2」、「保護管保持用口部2」の周方向の所定箇所の切欠である、「その切欠口部22」、「切欠口部22」と「保護管保持用口部2」の境界箇所に設けられる「一対の突片3、3」は、いずれも「所定の側壁12」に設けられている。
一方、「切欠口部22」につながる「開口部23」は、「底壁11」に設けられており、後壁に向けて開口するものである(【0010】-【0015】、図1)。
ここで、「ノック開口」が「底壁」に開口する甲2発明に、「開口部23」が同じく「底壁」に開口する甲5の「図示実施例」の構成を適用しても、「挿入開口」を、「側方」開口することを含む相違点1に係る構成には至らないことは明らかである。

ウ 甲5の【0021】の記載について
以下、甲5【0021】の記載の技術的意義を、甲5の前後の文脈に沿って検討する。
甲5は、電設用ボックスにおいて(【0001】)、従来、「コネクタ」で保護管を接続していたことに替えて(【0003】)、「ワンタッチ式」の構成を採用することで、コストを低減して、接続作業を省略するものである(【0005】)。
そのために、甲5では、要するに、コネクタに替えて、「保護管保持用口部」に向けて、保護管を「切欠口部」から「突片」を乗り越えるように押し込んで接続するという、「ワンタッチ式」の構成を採用するものである(【0006】-【0008】)。
上記「イ」のとおり、「図示実施例」では、「ワンタッチ式」接続のための「保護管保持用口部2」と「切欠口部22」を、1つの側壁に2つ設けている。
このような「図示実施例」の記載を前提とすれば、【0021】第1文の「上記電設用ボックスAにおいて、保護管保持用口部2や切欠口部22を設ける箇所や数は図示実施例に限定されるものではない。」という記載は、「保護管保持用口部2や切欠口部22」という、「ワンタッチ式」接続のための構成を一体のものとして捉えた上で、「保護管保持用口部2及び切欠口部22」を「図示実施例」の「1つの側壁に2つ」以外の「箇所や数」だけ設けることが可能である旨を記載したと理解するのが自然である。
これに続く、【0021】第2文の「したがって、底壁11に設けておいてもよく、そのようにすることによってボックス本体1の内部空間に導入する電線についての方向性の規制が緩和される。」の記載に主語がないのは、直前の第1文と同じ主語「保護管保持用口部2や切欠口部22」だからであると理解できる。
そして、上記【0021】第2文の前半では、「図示実施例」では「側壁12」にある、ワンタッチ式の接続のための「保護管保持用口部2や切欠口部22」を、「したがって、底壁11に設けておいてもよく」と述べたものと理解できる。
そして、【0021】第2文の後半の「そのようにすることによってボックス本体1の内部空間に導入する電線についての方向性の規制が緩和される。」とは、ワンタッチ式の接続のための「保護管保持用口部2や切欠口部22」を、「底壁に」設けることによって、電線の方向性が緩和されるという、付加的なメリットが得られることを述べたものと、文脈上、整合的に理解できる。
さらに、「考案の効果」欄の【0023】の「…ボックス本体に多くの保護管保持用口部や切欠口部を設けて多方向からの電線の導入や多数本の電線の導入に対処し得るようにしておいても…」の記載についても、上記のような【0021】の理解と同様に、「ワンタッチ式」接続のための「保護管保持用口部2や切欠口部22」を、【0021】で記載されたように、「底壁」などの外壁に、図示実施例より多く設けることによって得られる、付加的なメリットを述べたものと、文脈上、整合的に理解できる。
一方、文脈上、甲5の【0021】が、「保護管保持用口部」を設ける箇所を図1のように右側の側壁12のままで、すなわち、「ボックス本体1の内部空間に導入する電線」の「方向性」は変更せずに、「切欠口部」だけを底壁11側から上側の側壁12側に「開口」するように変更して、「ボックス本体1の内部空間に導入」される「保護管」を挿入する「方向性」を変更することについてまで示唆する記載とは認められない。
また、ほかに、甲5に「保護管保持用口部」が右側の側壁12に設けられている場合に、「切欠口部」を設ける箇所のみを、底壁11側から上側壁12側に変更して、開口方向を変更することについて示唆する記載はない。

なお、特に「開口」に着目するケースにおいては、甲5は、【0013】-【0014】の「開口幅」に言及する場合の、「切欠口部22や開口部23」との記載(上記2(3)参照。)、【0016】-【0019】の「蓋板」が塞ぐ対象に言及する場合の、「保護管保持用口部2や切欠口部22や開口部23」との記載、又は、「保護管保持用口部2、および切欠口部22や開口部23」との記載のように構成要素を列挙している。すなわち、明示的に「開口部23」も記載している(上記2(4)参照。なお、ここで並立助詞「や」が「および」と言い換えて用いられていることも、「保護管保持用口部2や切欠口部22」という、「ワンタッチ式」接続のための構成を一体のものとして捉えていることの証左といえる。)。
一方、【0021】第1文、第2文では、「保護管保持用口部(2)や切欠口部(22)」と記載するのみであって、開口の方向を決定する上で必須の構成である「開口部23」は記載がない点からも、【0021】は、開口方向を変更することを少なくとも直接予定するものではないと解するのが自然であるといえる。

さらに、仮に請求人が主張するように、上記【0021】の記載から、開口の方向を変える点が読み取れたとしても、このことから、直ちに、本件発明の相違点1のような「固定部」に対して特定の方向に開口するような変更まで読み取ることはできない。

エ 【請求項1】等の記載について
たしかに、甲5の【請求項1】には、「…この保護管保持用口部における周方向の所定箇所に、上記外壁の端縁で開放されて上記保護管を径方向で上記保護管保持用口部に抜き差し可能とする切欠口部が切欠形成され…」との、「図示実施例」記載の「1つの壁面に2つ」以外へ切欠口部を開口する場合も文言上含まれ得る、特定の方向に限定されない、一般的な記載がある。
しかしながら、甲5の実施例に関する、上記【0021】記載の、電線に関する方向性緩和や、多数本収容を目的として、ワンタッチ式の接続のための「保護管保持用口部2や切欠口部22」について、「箇所」や「数」を変更するという、甲5の文脈から離れて、【請求項1】の、特定の方向に限定されない、一般的な記載から、直ちに、「固定部」に対して特定の方向に開口するような変更まで読み取ることはできない。
よって、【請求項1】の記載を、直ちに、「固定部」に対して特定の方向に開口するような変更を採用することの起因とすることはできない。

オ 請求人の甲2、甲5に基づく主張について
(上記「第3 請求人の主張の概要」、「6 本件発明の進歩性判断」、「(2) 相違点aの検討」、「ウ 甲5について」の(ア)-(エ)を参照。)
(ア) 請求人は、「甲5【0021】記載から、甲5で、挿入開口(切欠口部22及び開口部23)を設ける箇所は底壁11側に限られない。むしろ、甲5【請求項1】記載から、挿入開口(切欠口部22及び開口部23)をどの方向に設けるかは、当業者が適宜選択し得る設計事項であることが示唆されている。」旨を主張している。(審判請求書11ページ1行-12ページ3行)

しかしながら、上記「ウ」記載のとおり、文脈上、甲5【0021】第1文は、「図示実施例」に記載された「1つの側壁に2つ」以外の「箇所や数」の「保護管保持用口部2や切欠口部22」を設けることが可能である旨を記載したものと理解するのが自然である。このような甲5の文脈を離れ、【請求項1】の一般的な記載から、直ちに、「固定部」に対して特定の方向に開口するような変更まで読み取ることはできない。

(イ) 請求人は、「前記『保護管保持用口部2や切欠口部22を設ける箇所や数は図示実施例に限定されるものではない。』から、甲5の『保護管保持用口部2』、『切欠口部22』は、それぞれ、本件発明の『接続孔』、『挿入開口』に相当し、該『切欠口部22』は、具体的に示されていないが、必要に応じて図示される箇所から変更可能である示唆がある。」旨を主張している。(審判請求書19ページ1-7行)

しかしながら、上記「(ア)」記載のとおり、甲5【0021】第1文は、「図示実施例」に記載された「1つの側壁に2つ」以外の「箇所や数」の「保護管保持用口部2や切欠口部22」を設けることが可能である旨を記載したものと理解するのが自然である。
なお、本件発明の「挿入開口」には、甲5の「切欠口部22及び開口部23」が相当しており、「切欠口部22」だけではない。そして、【0021】には、「開口部23」の記載はない。

(ウ) 請求人は、
「甲5の【0021】第1文は、並立助詞「や」の記載、「切欠口部22を設ける箇所」に「切欠口部22の開口方向」も含まれることから、「切欠口部22の開口方向」も図示実施例に限定されないことを意味している。
第2文の助詞「も」は、第2文が第1文の一例に過ぎないことを示し、単に保護管保持用口部2の数を変更しても、電線の方向性の規制緩和の作用効果は得られないから、第1文の意味内容は第2文の意味内容よりも広いと解するべき。
甲5の【請求項1】、【課題を解決するための手段】記載は、切欠口部の開口方向が、必ずしも図示実施例の場合に限定されないことを示唆していることを併せて考慮すれば、第1文は、「切欠口部の開口方向」も図示実施例に限定されないことを意味する。
そして、図示実施例以外に切欠口部22を開口させる方向は2方向しかないから、結局、切欠口部22をどの方向に開口させるかは適宜選択し得る設計事項である。
切欠口部22をどこに開口させるかは単なる設計事項である点は、第2文でも当然の前提とされている。なぜなら、「保護管保持用口部2」の設置位置の変更に伴って、「切欠口部22」の設置位置も変更され、その場合、さらに「切欠口部22」をどの方向に開口させるかは選択の余地があり、第2文はその範囲で自由に開口方向を選択できることを暗黙の前提としているからである。
「保護管保持用口部2」を底壁11に設けた場合「切欠口部22」を上側に向けて開口させることができるならば、当然、「保護管保持用口部2」を図示実施例のように設けた場合も「切欠口部22」を上側に向けて開口させることできる。
以上より、甲5によれば、甲2発明において相違点aは単なる設計事項に過ぎず、容易になし得たことである。」、
旨を主張している。(口頭審理陳述要領書8ページ2行-12ページ最下行)

しかしながら、上記「(ア)」記載のとおり、甲5【0021】第1文は、「図示実施例」に記載された「1つの側壁に2つ」以外の「箇所や数」の「保護管保持用口部2や切欠口部22」を設けることが可能である旨を記載したものと理解するのが自然である。

請求人主張のように、甲5の【0021】第1文が、第2文の意味内容よりも広いことや、【請求項1】に、非限定的で、一般的な記載があるとしても、そのことから直ちに、甲2発明の開口方向を、「固定部」に対して特定の方向に変更することを、単なる設計的事項とすることはできない。
図示実施例以外に「開口方向は2方向しかない」旨の主張については、そもそも、甲2、甲5に、切欠口部の開口方向のみを変更することは、記載も示唆もない。
甲2発明は、すでに、上側壁と下側壁に一対の「保護管保持用口部2」があるから、新たに「保護管保持用口部2」を設置する場合とは場合が異なる。

(エ) 請求人は、さらに、「被請求人の答弁書での主張に対する反論」において、
「甲5の【請求項1】、【課題を解決するための手段】には、切欠口部を開口する方向が「保護管保持用口部における周方向の所定箇所」であれば足りることが示されているから、「切欠口部22」のみを図示実施例以外の方向に開口することは甲5に示唆されている。
そして、その方向は、前記のとおり、2方向しかないから、実質的に、上側の方向に開口されることが示唆されている。
さらに、甲5の【0021】の第2文は「切欠口部22」の開口方向を自由な選択に委ねている。
よって、「保護管保持用口部2」が図示実施例の場合も同様に解するのが自然で、その場合のみ「切欠口部22」の開口方向も図示の方向に限られると解するのは不合理である。」
旨を主張している。(口頭審理陳述要領書14ページ9行-15ページ20行)

しかしながら、甲5の【請求項1】の、特定の方向に限定されない、一般的な記載をも参照しても、甲5の記載から、直ちに、開口部を、「固定部」に対して特定の方向に向けるように甲2発明を変更することまで容易に想到できるとは認められない。

よって、甲2発明において、甲5の記載に基づいて、相違点1に係る構成とすることが、当業者が容易になし得たことであるということはできない。

(4) 甲2、甲6に基づく検討
ア 甲6の【0013】の記載について
以下、甲6の【0013】の記載の技術的意義を、甲6の前後の文脈に沿って検討する。
甲6は、従来、ケーブルが内部に配線される配線用ボックスにおいて(【0001】)、ケーブル11を配線用ボックス1内部に挿入するために、ノックアウト部1aを打抜く必要があり、手間を要したこと、また、ケーブル11を先端部から透孔に挿入する作業が面倒であったことから(【0003】)、ケーブルを、極めて簡単に、ボックス内部に貫通した状態で収容すること、さらに、ケーブル余長部をボックス内部を貫通させて保持することで、ケーブルを傷付けることなく配線できるようにすることを課題とするものである。(【0004】、【0019】)。
この課題に対応する構成として、甲6では、要するに、ボックス本体の周壁面を横切るようにケーブルを挿入して前記ボックス本体内を貫通させられるような「切欠部」を、配線用ボックスの周壁面に形成したものである。

さらに、甲6の実施例は、ボックス本体2内部を上下方向に貫通する切欠部8を、特に、「配線用ボックス1の取付部3の対向側の側壁7に」形成して、その切欠開口8aから側壁7を横切るようにケーブル11を挿入する構成を採用するものである(【0009】)。
ここで、ボックス内部にケーブルを配置するための手順は、上方から垂下する「ケーブル11」を、まず、「ケーブルの下方を把持して」、配線ボックスの外側において、斜め方向に傾け、そこから、該「ケーブル11」が、配線ボックスの内部を上下方向に垂直に貫通させるといったものであると認められる(【0010】、図2)。
さらに、上下に併設された複数の配線ボックスそれぞれの切欠部8を、挿入されたケーブルが貫通する場合も想定されている(【0017】、図9)。
そして、【0013】、【0020】には、側壁7に、上下方向に貫通する切欠部8(切欠開口8a)を形成する実施例(図1-図3)に関して、底壁9に切欠部8(切欠開口8a)を形成するよう変更可能であることを記載しており(図4)、但し、側壁に形成すれば、配線用ボックスの側方からケーブルを挿入できるため、壁厚の制限を受けずに挿入することができるという、メリットがあることが記載されている。

イ 甲6に記載された技術事項の甲2発明の「ケーブル」への適用について
まず、甲2発明に甲6に記載された技術事項を適用することを、当業者が容易に想到し得たか否かについて検討する。

上記「ア」のとおり、甲6に記載された技術事項の課題は、ケーブルを、極めて簡単に、ボックス内部に貫通した状態で収容し、さらに、ケーブル余長部をボックス内部を貫通させて保持することで、ケーブルを傷付けることなく配線できるようにすることである。
甲6に記載された技術事項は、ボックス本体の周壁面を横切るようにケーブルを挿入して前記ボックス本体内を貫通させられるような「切欠部」を、配線用ボックスの周壁面に形成することである。
したがって、甲6に記載された技術事項に接した当業者であれば、同技術事項は、ケーブルを、極めて簡単に、ボックス内部に貫通した状態で収容し、さらに、ケーブル余長部をボックス内部を貫通させて保持することで、ケーブルを傷付けることなく配線できるようにするためのものであると理解する。

一方、甲2発明は、配ボックスに関する発明であって、配ボックス本体の上側壁及び下側壁には、保護管を接続するための一対の接続孔がそれぞれ形成されたものである。

ここで、甲2の47ページ下段の図を参照すると、「保護管」と「ケーブル」が図示されており、「ケーブル」が上側壁と下側壁とを貫いている(上記4(3)、「イ 下側壁について」を参照。)ことから、当業者は、甲2発明の配ボックス内部に、上側壁と下側壁とを貫通して、「ケーブル」を直接収容するケースもあること、さらには、この場合、ノックアウト部1aを打抜く必要があり、手間を要するという問題点や、ケーブル11を先端部から透孔に挿入する作業が面倒であるという問題点を有するものと理解する。
そして、このとき、同じ問題を解決する甲6に記載された、ボックス本体の周壁面を横切るようにケーブルを挿入して前記ボックス本体内を貫通させられるような「切欠部」を、配線用ボックスの周壁面に形成するという技術事項を、甲2発明に適用することが、想定できる。
しかしながら、たとえ、甲2発明の配ボックスに、直接「ケーブル」を貫通した状態で収容する場合に着目して、ボックス本体の周壁面(特に「側面」)を横切るようにケーブルを挿入して前記ボックス本体内を貫通させられるような「切欠部」を、配線用ボックスの周壁面に形成するという、甲6に記載された技術事項を適用しても、本件発明のような、「側壁の上端部及び下端部には、ボックス本体の側方に開口するとともに、前記接続孔に連通する挿入開口がそれぞれ形成されることにより、上下両挿入開口は互いに連通することなく離れて形成され」るという、相違点1に係る構成には至らないことは明らかである。

ウ 甲6に記載された技術事項の甲2発明の「保護管」への適用について
以下、ボックス内部への「電線」の収容に関する、甲6に記載された技術事項が、甲2発明の配ボックス本体への「保護管」の配管について、適用できるか否かを検討する。

甲6には、「電線管(保護管)」はそもそも記載がない。
また、甲6には、ボックス内部への「電線」の収容に関する、甲6に記載された技術事項を、甲2発明の配ボックス本体に「保護管」を配管する場合に対して適用するための、起因、動機付けとなるような記載も示唆もない。

さらに、たとえ、甲6に記載された技術事項を、甲2発明の配ボックス本体への「保護管」の配管に適用することが想起できたとしても、甲6には、甲6に記載された技術事項を、配線ボックス本体に「電線管(保護管)」を配管する場合に対して、具体的にどのように適用するべきかについての、記載も示唆もない。

仮に、甲2発明の配ボックスに、先に「保護管」を接続した後に、「保護管」内部に「ケーブル」を挿入する場合に対して、甲6に記載された技術事項を適用することを試みても、保護管を接続した後では、保護管を用いないことが前提である、切欠部の切欠開口から側壁または底壁を横切るようにケーブルを挿入するという、甲6に記載された技術事項は適用できないことが明らかである。
むしろ、甲2の配ボックスに先に保護管を接続した場合には、その後で、当該保護管内にケーブルを先端部から挿入する作業が必要となることから、甲6の前記【0003】-【0004】の「透孔にケーブル11をその先端部から挿入する作業が面倒であった」旨の記載を参酌すれば、甲2発明に甲6に記載された技術技術を適用することには、阻害要因があるといえる。

あるいは、仮に甲2発明の配ボックスに、予め「ケーブル」を挿入した「保護管」を接続する場合に対して、切欠部の切欠開口から周壁を横切るようにケーブルを挿入する、甲6に記載された技術事項を適用する場合を想定できたとしても、上記「イ」で検討した、直接「ケーブル」を貫通した状態で収容する場合と同様に、「上下両挿入開口は互いに連通することなく離れて形成され」るという、相違点1に係る構成に至らないことが明らかである。

エ 請求人の甲2、甲6に基づく主張について
(上記「第3 請求人の主張の概要」、「6 本件発明の進歩性判断」、「(2) 相違点aの検討」、「イ 甲6について」の(ア)-(ウ)を参照。)
(ア) 請求人は、
「甲6は、電線管を接続するものではないものの、本件発明及び甲2発明も電線管の中にケーブルを挿通させるのであり、しかも、甲2発明はケーブルを直接挿通できるから、甲6は本件発明及び甲2発明と同一技術分野に属する。
甲6の解決課題は、配線用ボックスの後面に空間がなくても、ケーブルを挿入できることで、ケーブルと電線管の類似性から、この課題が、電線管を接続する配線用ボックスにも存在することは明らかで、このような技術分野や解決課題の共通性から、甲2発明に甲6記載の技術事項を適用する動機付けを一般的に否定はできない。
甲2発明の「電線管」の課題解決に、甲6の「ケーブル」の技術事項を適用することに阻害要因はない。」旨を主張している。(審判請求書18ページ4行-18ページ最下行)

しかしながら、上記「イ」のとおり、たとえ、甲2発明の配ボックスに、ケーブルを直接挿通できる点に着目して、ケーブルを挿入してボックス本体内を貫通させられるような「切欠部」を形成するという、甲6に記載された技術事項を適用しても、「上下両挿入開口は互いに連通することなく離れて形成され」るという、相違点1に係る構成には至らない。
なお、請求人の「ケーブルと電線管の類似性」に基づく、甲2発明に甲6記載の技術事項を適用する動機付けの主張については、甲6と甲2の相違は、単なる「ケーブル」と「電線管」の違いだけに留まらない。
すなわち、甲6に記載された技術事項は、ボックス内部を上下に貫通する「ケーブル」を配線するために、「ボックス本体2内部を上下方向に貫通する切欠部8」を設ける構成であって、このため、ケーブルの配線は「ケーブルの下方を把持して」行われ、さらに、上下に併設された複数の配線ボックスそれぞれの切欠部8を、挿入されたケーブルが貫通する場合も想定されているため(図9を参照。)、配線するケーブルの長さや、ケーブルを傾ける角度に応じて、ケーブル配線作業時に必要とされるボックス外側の空きスペースも増大し得ることは明らかといえる。
一方、甲2発明は、配ボックス本体に「保護管」を接続するために、「ノック開口は互いに連通することなく離れて形成され」る構成であって、このため、保護管の接続は、「当該ノック開口に挿入された保護管を、配ボックス本体の前方(開口側)に向かって移動させることにより」行われるから、保護管の接続作業時に必要とされるボックス外側の空きスペースも、保護管の直径程度であることは明らかであるといえる。
よって、両者の相違は、単なる「ケーブル」と「電線管」の違いだけに留まらないから、甲6の記載に接した当業者が、甲2発明への適用を、直ちに動機付けられるとはいえない。

(イ) 請求人は、「甲6【0013】は、切欠部8を底壁9に形成した場合との対比において、側壁7に形成した場合のメリットを説明しているから、上記メリットは電線管を用いないタイプの配線ボックスに限られないと容易に理解できる。むしろ、電線と比較して挿入作業に大きな力が必要になる電線管が必要なタイプの配線ボックスには、尚のこと、挿入開口を側壁側に向けて開口することに大きなメリットがある。よって、当業者であれば、甲6の【0013】から、電線管が必要なタイプの配線ボックスにおけるメリットも容易に理解できるから、上記記載は、甲2発明を改変する積極的動機付けになる。」旨を主張している。(口頭審理陳述要領書13ページ1行-14ページ8行)

しかしながら、上記(ア)のとおり、甲6と甲2の相違は、単なる「ケーブル」と「電線管」の違いに留まらないから、甲6の記載に接した当業者が、甲2発明への適用を、直ちに動機付けられるとはいえない。

(ウ) 請求人は、「答弁書に対する反論」において、
「請求人が甲6で問題にしているのは、底壁側に挿入開口を設けた場合との比較における側壁側に挿入開口を設けた場合の利点で、それは保護管を用いない場合に限られない。
むしろ、前述のとおり、保護管を用いない甲6において挿入開口を側壁側に開口した場合に壁厚の制限を受けずに挿入することができるのであれば、電線管を強めに差し込まなければならない甲2発明は、尚のこと、そうすることに大きなメリットがあるから、甲6の【0013】の記載は甲2発明を改変する動機付けを提供している。」旨を主張している。(口頭審理陳述要領書15ページ21行-16ページ19行)

しかしながら、上記(ア)のとおり、甲6と甲2の相違は、単なる「ケーブル」と「電線管」の違いに留まらないから、甲6の記載に接した当業者が、甲2発明への適用を、直ちに動機付けられるとはいえない。
なお、甲2で「電線管を強めに差し込まなければならない」ことと、「壁厚の制限を受けずに挿入することができる」メリットとは、直接的な関係はないと認められる。

(5) 甲2、甲5、甲6に基づく検討
甲2、甲5、甲6のいずれにも、[相違点1]に係る、「挿入開口」についての、「前記固定部が形成された側壁に相対向する側壁の上端部及び下端部には、ボックス本体の側方に開口するとともに、前記接続孔に連通する挿入開口がそれぞれ形成されることにより、上下両挿入開口は互いに連通することなく離れて形成され」る構成については、記載も示唆もない。
また、この点が、周知技術であるともいえない。
よって、甲2発明において、上記[相違点1]に係る構成を採用することは、当業者が容易に想到できたものであるとはいえない。

(6) まとめ
以上、上記(1)-(5)の検討によれば、甲2発明において、相違点1に係る本件発明の構成を採用する動機付けがあるとは認められないから、甲2発明に甲5ないし甲6に開示された技術を適用することを、当業者が想起したとは認められない。
また、仮に甲2発明に甲5ないし甲6に開示された技術を適用することを当業者が想起したとしても、相違点1に係る本件発明の構成を採用することが、当業者にとって容易になし得たことであるということはできない。

8 相違点2(ノック開口(挿入開口)に挿入された保護管(電線管))についての検討、効果について
(1) 上記「7」記載のとおり、相違点1に係る本件発明の構成が、当業者に容易に想到できたものとはいえない以上、当然に、相違点1に係る本件発明の構成を前提とする相違点2に係る本件発明の構成も、当業者に容易に想到できたものとはいえない。

(2) そもそも、本件発明の上記相違点2に係る、挿入開口に挿入された電線管の移動方向が、「前記固定ビスにより固定部が構造物に押し付けられた方向」に沿っているという構成は、甲2発明、及び、甲5、甲6のいずれにも記載はない。
また、甲2発明、及び、甲5、甲6のいずれにも、上記相違点2に係る構成を採用する起因や動機付けとなり得るような、挿入開口に挿入された電線管の移動方向が、「前記固定ビスにより固定部が構造物に押し付けられた方向」と直角の方向に沿っている場合に発生し得る、固定ビスの不具合についての記載も示唆もない。
よって、相違点2に係る本件発明の構成が、当業者に容易に想到できたものとはいえない。

(3) そして、相違点1、相違点2に係る構成を有することにより、本件発明は、特許明細書(甲1)の【0010】に記載された「ボックス本体の側方から電線管を接続することができるとともに、電線管をボックス本体に接続する際に固定ビスに発生する不具合を無くすことができる。」という、甲2、甲5ないし甲6に記載されていない効果を奏するものと認められる。

9 本件発明が、甲2の配ボックスSM36Aに具現化された公然実施発明に基づいて容易に発明をすることができたかについて
甲2、甲5及び甲6の記載、甲2発明については、それぞれ、上記「1-4」で述べたとおりである。
上記「5(2)」のとおり、配ボックスSM36Aに具現化された甲2発明は、特許法第29条第1項第2号所定の「公然実施をされた発明」ともいえる。
本件発明と、甲2発明を対比すると、両者の一致点、相違点は、上記「6」で述べたとおりである。
そして、上記「7-8」で述べたとおり、本件発明は、公然実施発明としての甲2発明と甲5ないし甲6の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

10 無効理由の検討のまとめ
以上のとおりであるから、請求人の主張によっては、本件発明は、刊行物記載発明としての甲2発明、または、公然実施発明としての甲2発明、甲5ないし甲6の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、無効理由には、理由がない。

第6 むすび
以上のとおり、無効理由には理由がなく、請求人が主張する理由及び証拠方法によっては、本件特許を無効とすることはできない。

審判に関する費用は、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第64条の規定により、請求人の負担とする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-05-11 
結審通知日 2017-05-15 
審決日 2017-05-29 
出願番号 特願2014-246918(P2014-246918)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (H02G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 北嶋 賢二  
特許庁審判長 高瀬 勤
特許庁審判官 山田 正文
稲葉 和生
登録日 2016-04-15 
登録番号 特許第5917668号(P5917668)
発明の名称 配線ボックス  
代理人 鈴江 正二  
代理人 木村 俊之  
代理人 岡田 恭伸  
代理人 小林 徳夫  
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