• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07H
管理番号 1337434
審判番号 不服2016-2072  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-10 
確定日 2018-02-07 
事件の表示 特願2013-251788「マクロライド固体状形態」拒絶査定不服審判事件〔平成26年5月15日出願公開、特開2014-88394〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 出願の経緯
この出願は、2008年7月25日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2007年7月26日(EP)欧州特許庁)を国際出願日とする特願2010-517412号の一部を平成25年12月5日に新たな特許出願としたものであって、平成26年11月19日付けで拒絶理由が通知され、平成27年5月25日に意見書及び手続補正書が提出され、同年10月20日付けで拒絶査定がされ、平成28年2月10日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年3月22日に審判請求書を補正する手続補正書が提出され、その後、同年6月21日付けで前置審査において拒絶理由が通知され、同年7月4日に意見書及び手続補正書が提出され、同年11月14日に上申書が提出され、さらに、平成29年2月3日付けで当審から拒絶理由が通知され、同年8月4日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。
なお、この出願からは、平成28年2月10日に特願2016-23658号が分割出願されている。

第2 本願発明
この出願の発明は、平成29年8月4日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「以下の特徴を有する20,23-ジピペリジニル-5-O-マイカミノシル-タイロノライドの多形II型結晶:
6.5(±0.2)、9.9、15.0および17.0度2θのピークを含む粉末X線回折スペクトル;および
113から119℃の融点。」
なお、請求項1に記載される20,23-ジピペリジニル-5-O-マイカミノシル-タイロノライドの化学構造は、この出願の明細書(以下「本願明細書」という。補正されていない。)の段落【0009】に示される以下のとおりである。


第3 当審が通知した拒絶の理由
当審が通知した拒絶の理由は理由1?3からなり、その理由3の概要は、この出願の請求項1、4?8、10に係る発明は、その優先日前に頒布された刊行物1(特開2001-139592号公報)に記載された発明並びに技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。本願発明は、上記拒絶理由が通知された請求項1に係る発明である。

第4 当審の判断
当審は、当審が通知した拒絶の理由のとおり、本願発明は、上記刊行物1に記載された発明並びに技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと判断する。
その理由は、以下のとおりである。

(1)刊行物
刊行物1:特開2001-139592号公報(原審における引用文献1)
刊行物2:特開平6-192228号公報(当審において新たに引用)
刊行物3:特開平7-53581号公報(同)
刊行物4;特公昭52-45716号公報(同)
刊行物5:特開昭61-263985号公報(同)
刊行物6:特開平4-235188号公報(同)
刊行物7:Pharmaceutical Research,12(7),1995,p.945-954(同;特許第3296564号に対する無効審判(無効2010-800235号)(以下「アトルバスタチン無効審判」という。)で提出された甲第2号証;当審手持ちの文献は、最初の頁の右上に「甲第2号証」及び「無効審判請求12-001159」の表示があり、抄訳付き)
刊行物8:Chemistry & Industry,21,1989,p.527-529(同;アトルバスタチン無効審判で提出された甲第5号証;当審手持ちの文献は、最初の頁の右上に「甲第5号証」及び「無効審判請求12-001162」の表示があり、抄訳付き)
刊行物9:日本化学会編,「第4版 実験化学講座1 基本操作I」,第2刷,丸善,平成8年4月5日,p.184-186(当審において新たに引用)
刊行物10:PHARM TECH JAPAN,18(10),2002,p.1629-1644(原審における引用文献2)
刊行物2?10は、この出願の優先日当時の技術常識を示すために引用するものである。

(2)刊行物の記載事項

ア 刊行物1:特開2001-139592号公報
(1a)「【請求項1】式(I)で表される化合物またはその生理学的に許容されうる酸付加塩:

上式中、
R_(1) およびR_(2) は同一であり、式

の基を表す。
【請求項2】R_(1) およびR_(2) が式

の基である請求項1記載の化合物。
【請求項3】式(I)で表される化合物またはその生理学的に許容されうる酸付加塩を有効成分とするパスツレラ菌感染症の予防または治療用製剤:

上式中、
R_(1) およびR_(2) は同一であり、式

の基を表す。
【請求項4】パスツレラ菌感染症がパスツレラ性肺炎または輸送熱である請求項3記載の製剤。
【請求項5】パスツレラ菌の感染するおそれのあるそして/または感染した家畜または家禽に、該感染を予防もしくは治療するのに十分量の、式(I)で表される化合物またはその生理学的に許容されうる酸付加塩を投与することを含んでなる家畜または家禽のパスツレラ菌感染症の予防または治療方法:

上式中、
R_(1) およびR_(2) は同一であり、式

の基を表わす。
【請求項6】家畜または家禽がウシ、ヒツジおよびブタからなる群より選ばれる請求項5記載の予防または治療方法。
【請求項7】家畜または家禽がウシ、ヒツジおよびブタから成る群より選ばれ、パスツレラ菌感染症がパスツレラ性肺炎または輸送熱である請求項5記載の予防または治療方法。
【請求項8】R_(1) およびR_(2) が式

の基である請求項5または6記載の予防または治療方法。
【請求項9】投与が静脈内または皮下への注入による請求項5?8のいずれかに記載の予防または治療方法。
【請求項10】パスツレラ菌感染症の予防または治療のための組成物を調製するための、式(I)で表される化合物またはその生理学的に許容されうる酸付加塩の使用方法:

上式中、
R_(1) およびR_(2) は同一であり、式

の基を表す。」(2?3頁、特許請求の範囲の請求項1?10)
(1b)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、16員環マクロライド抗生物質類、より具体的にはマイカミノシルタイロノライド誘導体並びにそれらを有効成分とする哺乳類家畜または家禽のパスツレラ菌感染症の治療または予防に関する。」
(1c)「【0025】本発明にいう「パスツレラ菌感染症」は、本発明の目的に沿う限り、いかなる動物における該感染症をも包含するが、例として、ウシ、ヒツジ、ブタなどの家畜、ならびにニワトリ、シチメンチョウ、アヒルなどの家禽の感染症を挙げることができる。しかし、後述するパスツレラ菌感染症を治療および予防するとの観点からは、ウシ、ヒツジの感染症を特に注目している。
【0026】特に、本発明により治療および予防することが企画されているパスツレラ菌感染症は、パスツレラ ヘモリチカ(P.haemolytica)を主な原因菌とする溶血性肺炎または輸送熱、パスツレラ ムルトシダ(P.multocida)を原因菌とする出血性敗血病、または場合によって輸送熱、パスツレラ ガリナルム(P.gallinarum)を原因菌とする慢性の呼吸器性疾患、などの一次性もしくは二次性疾患を包含する。なお、上記原因菌と各疾患との関連性は例示であり、これらに拘束されるものでない。」
(1d)「【0028】式(I)の化合物は、類似する既知の化合物の製造方法に準じて製造することができるが、後述する方法で製造するのが有利であろう。
【0029】上記疾患に対する式(I)の化合物の使用の態様の代表的なものとしては、次のものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0030】有効成分としての式(I)の化合物と生理学的に許容されうる希釈剤または担体を含んでなるパスツレラ菌感染症の治療または予防のための製剤。
【0031】パスツレラ菌感染症の治療または予防用製剤を調製するための式(I)の化合物の使用方法。
【0032】該製剤をパスツレラ菌感染症を治療または予防するのに十分な量、それを必要とする上記動物に投与する段階を含んでなる該動物の該感染症を治療または予防するための方法。投与方法は、動物によって好適方法が変わりうるが、ウシやウマのような大型哺乳動物の場合には、経口投与を選ぶのがよい。
【0033】上記製剤に含めることのできる希釈剤または担体としては、一般的に動物薬に汎用されている希釈剤または担体、あるいは賦形剤として使用されているものであって、本発明の目的に沿うものであれば、いかなる天然または合成の化合物、物質であってもよい。限定されるものでないが、剤形によって使い分けられる希釈剤または担体の例を、次に挙げる。液剤とする場合は、純水、等張生理的食塩水、リンゲル液、エチルアルコール、リン酸緩衝溶液を用い、これら少なくとも1種と有効成分を混合し、さらに必要により、ラッカセイ油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油およびダイズ油のような液状の油類、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マンニトールならびにポリエチレングリコール、ポリ(エチレングリコール-2-プロピレングリコール-2-ポリエチレングリコール)のような多価アルコール類を加えることもできる。固形剤とする場合は、乳糖、ブドウ糖およびショ糖のような糖類、トウモロコシデンプンおよびバレイショデンプンのようなデンプン類、セルロース、ならびにカルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロースおよびセルロースアセテートのようなセルロース誘導体、などを用い、これらの少なくとも1種と有効成分を混合することができる。また、上記製剤には、有効成分の抗菌活性に悪影響を及ぼさない限り、さらに抗酸化剤を含めることもできる。このような抗酸化剤の例としては、アスコルビン酸もしくはその安定化誘導体、硫酸水素ナトリウム、α-トコフェロール、ソルビトールなどを挙げることができる。
【0034】これらの製剤には、単回または複数回の投与により、パスツレラ菌感染症を治療または予防するのに十分量が達成できるように、式(I)の化合物(有効成分)が含められる。以上の製剤は、当該技術分野で既知の方法または手段を用いて調製できる。また、有効成分は製剤の総重量の100重量%ないし約5重量%、好ましくは30重量%ないし10重量%を占めることができ、これらの含有率は剤形によって変動できる。」
(1e)「【0036】【実施例】以下、具体的な試験例、製造例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する 本発明の作用効果は、以下に示す抗菌活性(MIC)、毒性試験薬物の体内動態試験、臨床効果試験などにより確認できる。
【0037】なお、各試験に供する本発明の化合物、および比較化合物を、下記に列挙する。
【0038】

【0039】


(1f)「【0040】試験1:最小増殖阻止濃度(MIC)
日本化学療法学会標準法に基づき、パスツレラ菌は、BHI寒天培地(Brain heartinfusion agar,Difco Laboratories 社(USA)製)上で、他の被験菌はミュラ・ヒントン寒天培地(Mueller hinton agar,Difco Laboratories 社(USA)製)上で、共に倍数希釈法により測定した。結果を下記表1に示す。
【0041】

【0042】表1より、本発明に従うP-MT、MP-MTおよびDMP-MTは、本発明者らが選択的に制御することを意図しているパスツレラ ヘモリチカ(Pasteurella haemolytica)、パスツレラ ムルトシダ(Pasteurella multocida)に対して高い抗菌活性を有するが、他方、その他のグラム陽性菌およびグラム陰性菌に対しては相対的に低い抗菌活性を有する。例えば、パスツレラ菌感染症の治療および予防製剤として使用されているチルミコシンや、C-6(式(B)の20位および23位が5員環のピロリジン)と比較してみると、本発明のP-MT、MP-MTおよびDMP-MTはパスツレラ菌に対して約4倍を超える優れたMIC値を有している。他方、パスツレラ菌に対してほぼ同等のMIC値を示すC-7(式(B)の20位および23位が7員環のヘキサメチレンイミン)およびC-8(同20位および23位が8員環のオクタヒドロキシアゾシン)に比べ、P-MT、MP-MTおよびDMP-MTは、パスツレラ菌以外の菌、特に黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、ミクロコッカス ルテウス(Micrococcus luteus)、大腸菌(E.coli)、赤痢菌(Shigella dysenteriae)、霊菌(Serratia marcescens)に対して有意に高いMIC値(すなわち、低い抗菌活性)を有する。」
(1g)「【0042】・・・
試験2:毒性試験
本発明化合物(P-MT)および比較化合物(チルミコシン、C-7およびC-8)を、それぞれ生理食塩水で希釈し、0.25ml/マウスで、ICRマウス(雌、4週齢)に静注または皮下注射した。
【0043】結果を、それぞれ以下に示す。
・・・・・・・・・・・・・・・」
(1h)「【0043】・・・
試験3:生体内動態(吸収排泄試験)
本発明化合物(P-MT)ならびに比較としてチルミコシンおよびC-9のマウスおよびウシにおける体内動態を調べた。
(1)マウスでの試験
Slc ddY系雄(体重20±1g)を使用した。P-MT、チルミコシンおよびC-9の各0.5mg/ml滅菌精製水溶液を1群3匹のマウスの腹部皮下へ0.2ml(5mg/kg:0.1mg/マウス)接種した。薬物接種後、0.5、1、2、4、8、24、48および72時間に鼠頚部動脈切断により全採血した後、肺を全摘出することにより血清および肺を採取した。試験中のマウスは温度23±1℃、相対湿度55±5%で飼育し、飲水および飼料は自由摂取した。
・・・・・・・・・・・・・・・
【0045】結果を表2および図1に示す。
【0046】表2(審決注:省略する。)
【0047】表2より、薬物のマウス腹部皮下投与後の血清および肺濃度は、本発明のP-MTが最も優れた持続性を示し、しかも有意に高い肺内濃度が達成できる。特にパスツレラ性肺炎または輸送熱の予防および治療に本発明化合物が有用であることが明らかである。
(2)ウシでの試験
1ヶ月齢の哺乳期子牛(ホルスタイン種)雄6頭(体重42.0?71.0kg、平均54.8kg)を使用した。なお、薬物投与前2週間以内は抗菌性物質を含まない飼料で飼育され、抗菌性物質による治療を行っていない健康な牛が使用された。
【0048】飼料は代用乳とし、抗菌性物質を含まない市販飼料を1頭当たり同量給与する制限給餌を行った。また、飲水は自由摂取させた。薬物の投与は、各薬物10mg/kgを精製水に溶解し、皮下に単回投与した。血液を薬物の投与前、投与後0.5、1、2、4、8、24、48、72、120時間目に10ml以上頸静脈より真空採血管に採血し、常法により血漿を分離した後、2分割して保存容器に入れ-20℃で凍結保存した。各血漿から、常法に従って薬物を抽出した後、0.1Mリン酸塩緩衝液(pH8.0)として、上記のようなミクロコッカス ルテウスを使用するバイオアッセイ法により薬物の濃度を測定した。結果を表3に示す。表より、本発明化合物P-MTが比較化合物C-9より長期にわたり有効濃度を維持することがわかる。
【0049】表3(審決注:省略する。)」
(1i)「【0050】試験4:感染マウスに対する感染防御試験
この試験では、マウス腹腔内にパスツレラ ヘモリチカ(Pasteurella haemolytica)を感染させ、腹部皮下にチルミコシン、C-9およびP-MTをそれぞれ投与し、これら3薬物のP.haemolytica に対する感染防御効果を比較する。
(1)マウスに感染力を有するP.haemolytica の分離および同定
・・・・・・・・・・・・・・・
【0051】こうしてマウスに対して感染力を有するものとして、牛鼻腔分離株P.haemolytica 63-39を同定した。以下、この63-39株を使用する。マウスはSlc ddY系雄18.5?21g(4日間予備飼育後の体重)を使用した。
(2)試験方法
感染は上記菌株をSCD ブイヨン100mlを用いて、37℃、1夜培養後、その培養液0.5mlを25Gの注射針を用いてマウス腹腔内に接種した。薬物は滅菌精製水に溶解して規定力価溶液とし、各群とも5段階(30、20、10、5および1mg/kg)の薬剤投与量として行なった。投与は26Gの注射針を用いて感染1時間後に腹部皮下へ0.2ml接種した。なお、本感染菌液の菌数は馬脱繊維血液加ハートインヒュジョン寒天培地平板を用いた塗布法で測定した。その結果、培養液の菌数は1.2×10^(8)CFU/ml、すなわち、接種菌数は6.0×10^(7)CFU/マウスであった。
【0052】感染防御効果の検討には1群10匹のマウスを用い、マウスは室温23±1℃、相対湿度55±5%で飼育し、飲水および飼料は自由摂取した。
【0053】感染防御効果は感染後7日間飼育観察し、その生存数からプロピット法により50%有効量を計算した。
【0054】また、本菌株に対するチルミコシン、C-9およびP-MTのそれぞれの感受性(MIC)は化学療法学会標準法(Chemotherapy 29:76?79、1981参照)の寒天平板希釈法に準じて測定(前培養:SCD ブイヨン、測定用培地:7.5%馬脱線維血液加感性ディスク用培地(ニッスイ)、接種菌量10^(6)CFU/ml)した。結果を表4に示す。表より、本発明化合物P-MTが、チルミコシンおよびC-9に比べて、P.haemolyticaの感染マウスについて有意に高い感染防御効果を有することが明らかである。
【0055】表4(審決注:省略する。)」
(1j)「【0056】試験5:牛の細菌性肺炎に対する臨床試験
この試験では、薬物を細菌性肺炎(マイコプラズマ、ウレアプラズマ・ヘモフイルス及びパスツレラによる感染症)に罹患した牛の皮下に投与し、P-MTの臨床効果をチルミコシンおよびC-9との比較のもとに検討する。
【0057】1?2ヵ月齢のホルスタイン種(体重56?101kg)のパスツレラ(Pasteurella)、マイコプラズマ(Mycoplasma)、ウレアプラズマ(Ureaplasma)、ヘモフィルス(Haemophilus)の単独もしくは混合感染に起因する細菌性肺炎に罹患した17症例(P-MTおよびC-9について、それぞれ6頭、チルミコシンについて5頭)について試験する。薬物は、1日1回、10mg/kgで動物の皮下に投与した。具体的には後述するように各動物鼻腔スワブを用いた菌の分離検査により、上記肺炎はパスツレラを主因としたものであることが確認されている。
・・・・・・・・・・・・・・・
【0062】以下、表5、6および7に、それぞれ臨床スコアの推移、改善率および有効率、ならびに効果判定の結果を示す。
【0063】表5(審決注:省略する。)
【0064】表6(審決注:省略する。)
【0065】表7(審決注:省略する。)
【0066】薬物の投与前後における被験動物の鼻腔スワブからの菌分離検査の結果を下記表8に示す。
【0067】表8(審決注:省略する。)
【0068】なお、以上の治療期間中、被験動物から薬物投与によると思われる副作用等の異常は認められなかった。
【0069】表5?7のデータによると、投与後5日の平均臨床スコアから求めた平均症状改善率(%)および臨床効果有効率(%)、ならびに臨床効果判定における著効(%)について、本発明の化合物P-MTは、比較化合物C-9および特に、現在家畜のパスツレラ菌感染症に実用されているチルミコシンに比べて有意にすぐれた効能を有することが明らかである。また、表8のデータによれば、本発明の化合物P-MTが投与された牛では、P.multocidaおよびP.haemolyticaが全く分離されなくなったのに比し、比較の化合物が投与された場合には、いずれもこれらの菌株が分離されうる動物が若干ではあるが認められることに注目されたい。例えば、ウシの輸送熱を予防および治療する必要がある場合のように、動物が密集する状態におかれる場合には、とくに目的とする菌をより確実かつ完全に防除することが求められるであろう。例えば、表6によれば、本発明化合物は、かような防除にも有利に使用できることが示唆されている。」
(1k)「【0069】・・・
製造例1:P-MT
20,23-ジヨード-20,23-ジデオキシ-20-ジヒドロマイカミノシルタイロノライド(50.0mg,0.0610mmol)をアセトニトリル(1ml)に溶解し、ピペリジン(0.06ml,0.610mmol)を加え、80℃で反応させた。1時間後のTLCにおいて原料が全く確認されなかった。反応液を濃縮して得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl_(3):CH_(3)OH:28%NH_(3)水=15:1:0.1)により精製し、化合物10の淡黄色固体43.2mg(97%)を得た。
FAB-MSm/z734[(M+1)^(+)]。[α]_(D)^(22)=+2.4°(c1,CHCl_(3))。」

イ 刊行物2:特開平6-192228号公報
(2a)「【請求項1】結晶状態の下記式

で表わされる(R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフォニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フェニル]-アセトアミド。
【請求項2】非結晶性(R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフォニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フェニル]-アセトアミドを、場合により水の存在下に、不活性有機溶媒中に懸濁させ、それが定量的に結晶性変態に転換されるまで高められた温度で処理し、得られる結晶性変態の結晶を慣用の方法で分離し、そして存在するかも知れない溶媒残渣を除去するために+20°?+70℃の温度で一定重量になる迄乾燥することを特徴とする請求項1記載の結晶性活性化合物の製造方法。」(2頁、特許請求の範囲の請求項1及び2)
(2b)「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、(R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフォニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フェニル]-アセトアミドの結晶形、その製造方法及び薬品におけるその利用に関する。
【0002】【従来の技術】ロイコトリエン(leukotriene)合成の阻害剤である下記式(I)
【0003】

【0004】の(R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフォニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フェニル]-アセトアミド、その製造方法及び薬品におけるその利用は既にEP344,519に記載されている。
【0005】そこに記載された製造方法によると、式(I)の化合物は非結晶性粉末状態で得られる。溶媒和物を含まない結晶性変態(solvate-free crystalline modification)は今まで知られていない。
【0006】しかし、非結晶状態の式(I)の化合物は、特に固形薬品の製造において重大な欠点を有することが明らかとなった。このように非晶質状態の式(I)の化合物を含有する薬品は、例えば非常に不十分な貯蔵安定性しか示さない。調合剤を30℃を超える温度で比較的長期間貯蔵する場合におこりがちなこの物理的不安定性は、吸収効率及びこれら調合剤の安全性を損なう。」
(2c)「【0007】【発明が解決すべき課題】それ故薬品製造のために、上記欠点をもたない式(I)の化合物の安定な形態を入手可能とすることが非常に重要である。
【0008】【課題を解決するための手段】公知の非結晶形と比較して、増大した物理的安定性と低減した圧力感受性に特徴を有し、それ故種々の薬品の製造のために非結晶形より相当適している、新規な結晶形の化合物(R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフォニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フェニル]-アセトアミドが今回見出された。」

ウ 刊行物3:特開平7-53581号公報
(3a)「【請求項1】L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩を水溶媒下で結晶化させることを特徴とする結晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩の製造法。」(2頁、特許請求の範囲の請求項1)
(3b)「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、医薬品、化粧品、食品および動物飼料などに有用なL-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩の結晶(以下、結晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩と称する。)の製造法に関する。
【0002】【従来技術および課題】現在市販されているL-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩は非晶質であるため、保存時吸湿しやすく粉末の団塊化を生じやすい。また、L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩自身の化学的安定性が充分でなく、他の薬物との配合時に影響を与えることが多い。さらに、ケーキングを生じたり、流動性が不十分なため製剤化に際して支障をきたすことが多く、実用面で支障になる品質のバラツキが生じやすい。従って、安定な結晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩として提供されることが望まれている。 L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩の結晶化の例としては、L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩の水溶液にメタノールを加え、得られた沈澱物を水-メタノールから再結晶する方法[ケミカル・アンド・ファーマシューティカル・ブレティン(Chem. Pharm. Bull.)、17、381(1969)およびケミカル・アンド・ファーマシューティカル・ブレティン(Chem. Pharm. Bull.)、30、1024(1982)]、L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩を含有する水溶液にアルコール類またはアセトンなどを添加して該結晶を得る方法(特開昭59-51293号)が知られているが、これらの方法は結晶の純度、安定性、結晶化の簡便性などの点で十分とは言えない。」
(3c)「【0023】・・・
実施例1
非晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩20gに1リットルの水を加え2W/V%とし、50?60℃に加温溶解した。得られた溶液をろ過し、ろ液を減圧下で濃縮し、80mlの溶液を得た。得られた溶液のL-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩の濃度[析出したAPMgと水に溶けているAPMgの合計重量(g)/水の体積(ml)]×100(%)は25W/V%であった。その後、室温まで冷却し、結晶を析出させて目的の結晶を得た。得られた結晶についてDSCチャートにより確認した結果、全て結晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩であることが判明した。
・・・・・・・・・・・・・・・
【0028】試験例1
実施例1で得られた結晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩について密閉容器中、60℃下での残存率を測定し、非晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩[ホスピタンC(商品名)、昭和電工(株)製]と比較することによりその安定性を評価した。結果を表1に示す。
【0029】
【表1】
60℃下の安定性(残存率%)
2週 1カ月 2カ月 3カ月 6カ月
本発明での結晶 99.9 99.1 98.4 97.6 95.3
非晶質 99.0 96.5 93.9 90.5 78.5
【0030】表1から明らかなように、本発明による結晶は優れた安定性を有する。
【0031】試験例2
実施例1で得られた結晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩について、40℃における吸湿平衡を調べ、非晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩[ホスピタンC(商品名)、昭和電工(株)製]と比較し、吸湿特性を評価した。結果を図5に示す。吸湿速度が環境に左右されない安定なものであることを確認した。」
(3d)「

」(6頁、図5)

エ 刊行物4;特公昭52-45716号公報
(4a)「1 親水性溶媒と水からなる含水溶媒中で、アンピシリンまたはその塩類、シリル誘導体に、水酸化ナトリウムまたはナトリウム塩を作用させてアンピシリンナトリウム塩を生成させ、含水溶媒系から晶出させることを特徴とするアンピシリンナトリウム塩I型結晶の製造法。」(4頁、特許請求の範囲)
(4b)「本発明は、アンピシリンナトリウム塩の製造法に関するものである。
半合成ペニシリンの1つであるアンピシリンは、グラム陽性およびグラム陰性菌によつて引き起される種々の感染症に対して有効であるため、広く繁用されている。現在アンピシリンは、一般に遊離型とナトリウム塩が用いられている。このうち遊離型のものには、結晶形の無水物(特公昭41-8349)およびトリハイドレート(米国特許3157640)があり、これらはその無晶形のものに比し,安定であることが知られているが、ナトリウム塩の結晶性と安定性については十分研究されていない。」(1頁1欄27行?2欄2行)
(4c)「本発明方法によればアンピシリンナトリウム塩は、安定な結晶形(I型と称する)として得ることができる。このI型結晶は、たとえばアンピシリンナトリウム塩の水溶液を凍結乾燥して得られる無晶形のものと比較すると、たとえば40℃、関係湿度52.4℃条件で保存した場合の残存率および吸湿平衡は、第4図および第5図に示すごとく、I型結晶が顕著にすぐれている・・・。」(2頁3欄31?40行)
(4d)「

」(7頁、第4図)
(4e)「

」(7頁、第5図)

オ 刊行物5:特開昭61-263985号公報
(5a)「1.(6R,7R)-7-〔(Z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-2-メトキシイミノアセトアミド]-3-(1-キヌクリジニウムメチル)-3-セフエム-4-カルボキシレートまたは(6R,7R)-7-〔(Z)-2-(5-アミノ-1-チア-2,4-ジアゾール-3-イル)-2-メトキシイミノアセトアミド〕-3-(1-キヌクリジニウムメチル)-3-セフエム-4-カルボキシレ-トであるセフアロスポリン誘導体の結晶性無水物、0.5水和物、1水相物または3水和物。
2.(6R,7R)-7-〔(Z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-2-メトキシイミノアセトアミド〕-3-(1-キヌクリジニウムメチル)-3-セフエム-4-カルボキシレートまたは(6R,7R)-7-〔(Z)-2-(5-アミノ-1-チア-2,4-ジアゾール-4-イル)-2-メトキシイミノアセトアミド〕-3-(1-キヌクリジニウムメチル)-3-セフエム-4-カルボキシレートであるセフアロスポリン誘導体の無定形物を、水性有機溶媒に溶解し、得られる溶液を有機溶媒に加え、もしくは冷却し、次いで必要に応じて乾燥することを特徴とするセフアロスポリン誘導体の結晶性無水物、0.5水和物、1水和物または3水和物の製造法。」(1頁、特許請求の範囲の請求項1及び2)
(5b)「〈背景技術〉
7-位に2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-2-メトキシイミノアセトアミド基を有するセフアロスポリン誘導体が、強力な抗菌活性を有する抗生物質として知られている。
例えば、下記式

で表される(6R,7R)-7-〔(Z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-2-メトキシイミノアセトアミド]-3-(1-キヌクリジニウムメチル)-3-セフエム-4-カルボキシレートは、ベタイン構造を有し、各種のグラム陽性菌、グラム陰性菌に対して強力な抗菌活性を有するセフアロスポリン誘導体(特開昭59-239292号公報)である。
これらのセフアロスポリン誘導体は、分子中に有するβ-ラクタム環の加水分解が起り易く、通常化学的に不安定である。」(2頁左上欄14行?右上欄下から4行)
(5c)「したがつて、かかるセファロスポリン誘導体を医薬として用いる場合、安定な形態で使用することが非常に重要である。
〈発明の開示〉
本発明の目的は、(6R,7R)-7-〔(Z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-2-メトキシイミノアセトアミド)-3-(1-キヌクリジニウムメチル)-3-セフエム-4-カルボキシレートまたはその誘導体の安定化された結晶性化合物を提供することにある。」(2頁右上欄下から3行?左下欄8行)
(5d)「(2) 3水和物,1水和物,0.5水和物,無水物を褐色バイアルに熔封後85℃で保存し、高速液体クロマドグラフィーで分析した。結果を下表に示す。(残存率,%)

試料 \ 経時 10日後 24日後
無定形物 0 0
3水和物 97.0 86.8
1水和物 96.1 85.5
0.5水和物 98.3 86.3
無水物 97.5 86.0
」(8頁右上欄下から4行?左下欄)

カ 刊行物6:特開平4-235188号公報
(6a)「【請求項1】粉末X線回折により、面間隔12.8、8.8、5.6、4.44、4.36、4.2Åに主ピークを示す回折パターンを有する(+)-(5R,6S)-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-3-(3-ピリジル)-7-オキソ-4-チア-1-アザビシクロ[3.2.0]ヘプト-2-エン-2-カルボン酸ピバロイルオキシメチルエステルの結晶。
【請求項2】(+)-(5R,6S)-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-3-(3-ピリジル)-7-オキソ-4-チア-1-アザビシクロ[3.2.0]ヘプト-2-エン-2-カルボン酸ピバロイルオキシメチルエステルの良溶媒溶液に、該良溶媒と混和性の貧溶媒を添加、撹拌し、30℃以下に冷却して、粉末X線回折により、面間隔12.8、8.8、5.6、4.44、4.36、4.2Åに主ピークを示す回折パターンを有する(+)-(5R,6S)-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-3-(3-ピリジル)-7-オキソ-4-チア-1-アザビシクロ[3.2.0]ヘプト-2-エン-2-カルボン酸ピバロイルオキシメチルの結晶を得ることを特徴とする該結晶の製造方法。」(2頁、特許請求の範囲の請求項1及び2)
(6b)「【0001】【産業上の利用分野】本発明は医薬用の抗菌化合物として有用なペネム化合物の結晶およびその製造方法に関する。
【0002】【従来の技術および課題】特開昭62-263183号には、ある種の2-ピリジル-ペネム化合物が開示されており、そのうち、特に、式:

で表される(+)-(5R,6S)-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-3-(3-ピリジル)-7-オキソ-4-チア-1-アザビシクロ[3.2.0]ヘプト-2-エン-2-カルボン酸ピバロイルオキシメチルエステルは、特に、経口投与によりグラム陰性菌のみならずグラム陽性菌にも優れた抗菌活性を有する有用なペネム化合物であり、その実用化が検討されている。しかし、該ペネム化合物は、優れた抗菌活性を示す一方、これまで無晶形でしか得られておらず、この無晶形の固体は安定性が不十分で、通常の条件下で長時間保存すると変色し、製剤化に際し、有効成分の含量低下を来す問題がある。また、無晶形の固体を実質的に純粋なものとするには、煩雑な精製工程を要する問題がある。そこで、本発明者らは、これらの問題点を解決するために、優れた抗菌活性を示す該ペネム化合物を保存安定性の良い形状として得るべく鋭意検討の結果、該ペネム化合物が安定な結晶として得られること、結晶化により容易に精製できること、さらに、結晶の残留溶媒の面から、医薬として有利な水-エタノール系より結晶が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。」
(6c)「【0010】実施例1
前記参考例で得られた(+)-(5R,6S)-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-3-(3-ピリジル)-7-オキソ-4-チア-1-アサビシクロ[3.2.0]ヘプト-2-エン-2-カルボン酸ピバロイルオキシメチルエステルの無晶形の粉末19.5gをエタノール98ミリリットルに溶解した。この溶液を31℃に加温し、32℃に加温した水146ミリリットルを加え、活性炭(白サギP、武田薬品工業(株)製)0.98gを加えて10分間撹拌した。ついで、活性炭を濾去し、エタノール20ミリリットルと水29ミリリットルの混液で洗浄した。濾液を25?30℃で1時間撹拌した後、10℃で冷却し、さらに1時間撹拌した。晶出した結晶を濾取し、エタノール20ミリリットルと水39ミリリットルの混液および水120ミリリットルで順次洗浄し、減圧下35℃で約5時間乾燥すると白色の粉末として該エステルの結晶16.6gが得られた。融点:95?96℃
・・・・・・・・・・・・・・・
【0014】実験例
本発明の方法で製造したエステルの結晶形粉末および参考例により製造した無晶形粉末のそれぞれを60℃の温度で密栓容器中暗所に保存し、残存率を調べた。
粉末の種類 保存条件 残存率
無晶形粉末 60℃ 14日間 37.7%
実施例1の結晶形粉末 60℃ 19日間 98.7%
実施例2の結晶形粉末 60℃ 14日間 98.9%


キ 刊行物7:Pharmaceutical Research,12(7),1995,p.945-954
訳文で示す。
(7a)「医薬品固体:法規制考慮への戦略的アプローチ」(945頁、標題)
(7b)「医薬品固体の対象における興味は、“適切な”分析手法を用いて原薬の多形、水和、又は無定形を検出すべきであるとする、食品医薬品局(FDA)の原薬ガイドラインに部分的に由来する。これらのガイドラインは、原薬の結晶形態を制御することの重要性を示す。ガイドラインはまた、原薬の結晶形態を制御すること、及びバイオアベイラビリティが影響されるならば、その制御方法の妥当性を実証することは、申請者の責任であるとしている。
したがって、新薬申請(NDA)は、特にバイオアベイラビリティが問題となる場合には、固体状態に関する情報が含まれていなければならないことが明らかである一方で、申請者は、情報収集への科学的アプローチやどのような情報が必要とされるのかについて、確信が持てないであろう。この総説は、一連のガイドラインや規則ではなく、フローチャートの形でコンセプトやアイディアを示すことにより、こうした不確かさの大部分を取り除くための戦略的なアプローチを提供することを目的とする。個別の化合物はそれぞれ、アプローチの柔軟性を必要とする特有の特性を有するため、このことは特に重要である。ここで提案されるこの研究は、臨床試験用新医薬品(IND)申請プロセスの一部分である。
固体の医薬物質は、広範囲であり且つ概して予測のできない、様々な固体状態特性を示す。それでもなお、多くの事例において、適切な分析的手法を用いて基本的な物理化学的性質を申請することは、固体状態での挙動に関する科学的及び規制上の決定のための戦略を提供する。医薬品開発の初期段階において、固体状態での挙動に関する基本的な疑問に取り組むことにより、申請者とFDAの両者は、医薬物質の固体状態特性の何らかの変動が与え得る効果を評価しやすくなる。この分野に関してはその結果としてもたらされる両者の初期段階での関わりは、臨床試験中に用いられる物質の均質性を保障しやすくするだけではなく、医薬品開発の臨床段階に入る前に固体状態での問題点を完全に解決することにもつながる。これらの科学的研究がもたらす更なる利益は、医薬物質の固体形態を充分に記述する、固体状態についての有意義な規格の確立である。これらの規格はしたがって、サプライヤー又は化学工程における一部変更承認を促進する。」(945頁左欄1行?右欄15行)
(7c)「既に述べたように、原薬の多形及び水和物の存在について調べることが得策である。というのは、これらは医薬品製造プロセスの何れかの段階で、又は原薬若しくは製剤の貯蔵に際して遭遇し得るからである。」(946頁左欄下から5?末行)
(7d)「A.多形の形成?多形は発見されているか?
多形決定ツリーの最初のステップは、多形は可能かという質問への回答を試みるために、その物質を多数の異なる溶媒から結晶化させることである。溶媒は、最終結晶化工程で用いられるもの、及び製剤化や加工工程で用いられるものを含み、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、アセトン、アセトニトリル、酢酸エチル、ヘキサン、及び適切であればこれらの混合物を使用できる。」(946頁右欄19?28行)
(7e)「フローチャート/多形決定ツリー」と題する図1(946頁)は、左上の「多形は発見されているか?」で始まり、左下には以下の記載がある。
「多形のための試験
-X線粉末回折
-示差走査熱量分析
-顕微鏡
-赤外吸収スペクトル
-固体NMR」
同図1の中央下には以下の記載がある。
「異なる物性か?
-安定性(化学的及び物理的)
-溶解性プロファイル
-結晶のモルホロジー
-熱量測定挙動
-%RHプロファイル」
また、「溶媒和物又は水和物のためのフローチャート」と題する図6(949頁)、「脱溶媒した溶媒和物のためのフローチャート」と題する図9(951頁)、「非晶質固体のためのフローチャート」と題する図11(952頁)にも、試験の手段と、物性の評価項目が挙げられている。
(7f)「大変少ない例外を除き、市販されている結晶性医薬物質に含まれている構造的な溶媒は、水である。」(949頁左欄19?20行)
(7g)「フローチャートの次の質問は、“アモルファス形態は、異なる物理的特性を有するか?”である。この質問に対する回答は、ほとんどの場合において確実に“イエス”であろう。一般に、結晶形態とは異なる点が3つ考えられる。1)アモルファス形態のほうが、溶解性が高いであろうこと。2)アモルファス形態のほうが、より広範に水を吸収すること。3)アモルファス形態のほうがしばしば、化学的に安定性が低いこと。アモルファス形態への別の重要な疑問は、“結晶化するか、それはどのように、いつ”ということである。予期しない結晶化は、溶解性と溶解速度に影響し、製剤化での別な障害につながるため、この疑問は非常に重要である。アモルファス形態を意図的に結晶化させる試みは、アモルファス形態の結晶化に関連するパラメータ情報をもたらす。特有な質問として、(1)“アモルファス形態は、熱及び/又は湿気にさらすことで結晶化するか?”、(2)“いかなるその他の要因(たとえば、機械的圧力及び種晶添加がアモルファス形態の結晶化をもたらすか?”、が挙げられる。」(952頁右欄10?27行)

ク 刊行物8:Chemistry & Industry,21,1989,p.527-529
訳文で示す。
(8a)「プロセスの開発における多形」(527頁、標題)
(8b)「結晶性製品は、一般に、単離し、精製し、乾燥するのに、そしてバッチプロセスにおいては取扱い、製剤化するのに、最も容易である。」(527頁左欄1?3行)
(8c)「多形は、同一分子の単位セル内での結合方法が異なる結晶格子をもつ。その相違は、セル内の分子の詰め込み方の違いや立体配置の変化を反映しており、大きなものであり得る。水素結合は、医薬産業にとって興味のあるほとんどの分子に関係するであろう。」(527頁左欄15?20行)
(8d)「可能性のあるいかなる多形が得られるかは、結晶化が生じる温度、溶媒の性質(親水性か、疎水性か)、そして結晶化が始まる過飽和の程度、といった様々なファクターに依存するようである。種結晶の使用は、目的とする多形を得るために有用である。」(527頁右欄9?14行)
(8e)「少数の化合物しか開発に至らないうえ、市販されるものはさらに少ない。各開発候補品に進展のための最良の機会を与えるには、多形が現れるのを成行き任せにしてその結果混乱を来すよりも、多形について調査するほうが良いと思われる。多形を得ようとする試みにおいて用いられる手法には、急速に溶液を冷却するか、溶質の溶けにくい第二の溶媒を加えるか、過剰の固体を溶媒と共に激しく攪拌するか、過剰の固体を高沸点溶媒と共に加熱するか、昇華させるか、及び溶液のpHを急激に変化させて酸性又は塩基性の物質を沈殿させるかという方法により、異なる温度下で様々な溶媒(極性及び非極性、親水性及び疎水性)から結晶化させることが含まれる。」(528頁左欄2?14行)

ケ 刊行物9:日本化学会編,「第4版 実験化学講座1 基本操作I」,第2刷,丸善,平成8年4月5日,p.184-186
(9a)「a.再結晶
物質の精製法として蒸留法,および再結晶法は基本的操作である.再結晶は,加熱下で溶質を溶媒に溶解して飽和溶液とし,次にこの溶液を冷却すると溶質の溶解度が下がり,過剰の溶質は沈殿(結晶)し,一方,不純物は飽和溶液に達せず,そのまま溶液に留まる.・・・不純物・・・は再結晶により除去できることになる.
(i)試料の純度 再結晶を行う試料の純度は特に有機物では最初に薄層クロマトグラフィーで確認しておく.その際,用いた展開剤の極性と薄層上のR_(f) 値との関係は再結晶の溶媒選択に役立つし,また不純物の大よその極性も分かる.精製する物質の純度は高い方が望ましく,純度があまりにも低すぎる場合には、蒸留,カラムクロマトグラフィーや活性炭による脱色を行うなどして,夾雑物をある程度除去しておいた方がよい.勿論,精製が可能かどうかは再結晶の原理からみて,溶解度曲線の形に関係するので,不純物が多い場合にも,純粋な結晶が得られることも少なくない.
(ii)溶媒の選択 再結晶溶媒の選択には一定の規則があるわけでなく,試行錯誤により選択するのが基本である.したがって,試料約20mg程度を試験管で溶媒に対する溶解性や結晶性を調べてみるとよい.既知化合物であれば,化合物辞典などで再結晶溶媒や溶解度を調べるのがよい^(1)).未知化合物においても,同族体の既知化合物のデータを参照するとよい.しかし,古くから,同族体は同族体をよく溶かすという経験則があり,これを基本にして選ぶとよい選択ができる.つまり精製しようとする化合物が,水素結合性であるのか非水素結合性か,極性基または疎水基をもっているかどうか,イオン性であるかどうかなどである.一般には水素結合性,極性を考慮すれば,次の6種の溶媒の中から選択すれば十分であろう.
ヘキサン<ベンゼン<酢酸エチル<アセトン<エタノール<水(極性小から大)
さらにこの中間の極性のものが欲しい場合には,2種の溶媒を混合するか,表4・5を参考にされたい.その際,極性値(誘電率ε,溶解度パラメーターδ,極性値E_(T);ε,δ,E_(T) は数字が大きいと極性が大きい)や沸点,融点を選択の基準とすればよい.反応性溶媒や沸点が高い溶媒はできれば避けた方がよい.このような溶媒では有機物の再結晶中に脱離や置換が起きた多数の例がある.
(iii)加熱溶解 溶解は三角フラスコを用いて水浴中でふりまぜながら行うが,溶解しにくい結晶の場合には,結晶を粉砕して,環流下,マグネチックスターラーでかくはんしながら1時間ほど加熱溶解させる.超音波による溶解法も試みてみてもよい.
(iv)結晶化 結晶が析出する速さ,大きさや形は放冷速度,溶媒,濃度などによって異なる.時には結晶組成が異なってしまうこともある.一般に低融点のものや分子量の大きな物質は結晶化しにくい傾向がある.結晶化が起きにくい場合には,○1放冷を徐々に行う(湯浴に浸したままにしておく).○2結晶の種を入れる.○3管壁をガラス棒などで擦り,種をつくる.○4冷蔵庫内に数日から数か月放置する.○5混合溶媒にして溶解度を下げる.○6自然蒸発を待つ.急冷すると結晶にならず,オイル状となり精製ができないことも多い.論文中には記載がないが,X線構造解析用の結晶が放置したNMR試料管中から偶然得られたということも少なくない.
(v)純度の確認 物質の純度はクロマトグラフィー,各種スペクトル,元素分析などの危機分析が最近の微量分析の方法であるが,融点測定も手軽にできる方法でありおろそかにしてはいけない.融点は,物質が不純であれば文献値よりも低下し,不明瞭になる.また融点測定時に液晶状態が観測される場合もあるから注意されたい.」(184頁20行?186頁末行)
(9b)「

」(186頁)

コ 刊行物10:PHARM TECH JAPAN,18(10),2002,p.1629-1644
(10a)「(3)結晶化の方法について^(17?25))
晶析操作線図で示したように,溶液から薬物を結晶化するには飽和溶液を調製し,ゆっくりと過飽和状態に変化することによって所望する結晶を得ることができる。多くの場合,静置により過飽和溶液は比較的大きな結晶を得ることができる。また,工業晶析では,攪拌したり振動したりすることにより,多数の微結晶が析出するが,種結晶の添加による結晶製造の制御も行われている。結晶化は過飽和溶液からの晶析が基本原理であるが,結晶化の方法は,所望する結晶の用途と目的により多くの試みが行われる。例えば,所望するのが結晶構造解析用の単結晶であれば,静置によって均質で比較的大きな結晶が得られるような方法を選択するが,工業晶析が目的であれば粒度が制御され,一定品質の多結晶体が高収率で得られることを目標とする。晶析は過飽和域で行われるために,溶液を過飽和状態にしなければならない。溶液を過飽和状態にするための方法として次の5つをあげたい。・・・
○1(審決注:○の中に数字の1であるが、○1で表す。以下も同様)温度変化を制御する結晶化法
・・・溶解度の温度変化を利用して晶析を行う方法であり・・・
○2溶媒蒸発による結晶化法
溶媒をゆっくり蒸発させながら結晶を得る有用な方法である・・・
○3蒸気拡散による結晶化法
結晶化を目指す溶液を小さな容器に入れ・・・揮発性の貧溶媒・・・が小さな容器に移行することで溶液は過飽和域に到達して結晶化が生じる・・・
○4反応晶析法
・・・
○5加圧による圧力晶析法
・・・」(1634頁左欄21行?1635頁左欄18行)
(10b)「●6(審決注:塗りつぶしの●の中に数字の6である。)開発候補化合物の物性評価
開発候補化合物を決める前の段階で,周辺化合物の物性評価も考慮し,化合物の物性評価を行いながら塩・結晶形についての評価を行う必要がある。
とりわけ,固体の経口投与製剤の場合では,探索の最終段階における開発候補化合物の選定において,塩・結晶形と物性評価が必要と考えられる。物性評価項目としては,橋田らの報告^(4)) にあるように,化学的安定性,経口吸収性,物理的安定性(結晶化度,水和度)などの評価が優先して行われるべきと考えられる。そして,開発候補化合物の物性の評価項目としては下記の内容があげられる。
○1結晶性の評価
結晶は,化学的な安定性,溶解性,経口吸収性,物理的な安定性(結晶化度,水和度)ならびに原薬・製剤の製造に対して影響を与える重要な基礎物性である。このために,X線回折,熱分析,赤外線吸収スペクトル,自動水分吸着脱着測定などの評価方法を必要に合わせて適宜用いることになる。このことで結晶多形,結晶化度,結晶形間の相転移を評価するとともに,種々の溶媒を用いて,塩形・結晶形の探索を行って開発候補化合物としての適格性を予測しておく。
○2化学的な安定性の評価
医薬品の安定性は品質を保証する上で重要な物性の1つである。結晶性の評価とともに,固体状態において,熱,湿度,光に対する安定性を評価する。具体的には,通常行われている安定性試験の条件より過酷な試験条件で短期間に,開発候補化合物としての適格性を予測しておくことが重要である。また,水溶液あるいは各種溶媒,pHを変えた溶液中にて化学的な安定性を評価することで,化合物の基本的な性質を把握し,開発候補化合物としての適格性を予測しておく。
○3溶解性の評価
薬物の溶解性は,経口吸収性,薬効にまで影響を及ぼす重要な物性である。結晶性や化学的安定性の結果も考慮しつつ,消化管吸収も考慮に入れた溶解性評価が重要である。結晶性の評価結果と合わせて考察することにより,真の溶解性に近い値を予想することによって,開発候補化合物としての適格性を予測しておく。また,溶解性評価は,吸収を考慮して,日局のJP1液,JP2液などの標準的な水溶液や薬物の特性を考慮した種々の緩衝溶液が使用できるものと思われる。さらにこの段階では,原薬量が十分に確保できないことが予想されるため,少量で評価することを工夫することも必要と思われる。
○4物理的な安定性
原薬結晶の物理的安定性,すなわち,結晶化度ならびに水和度は,結晶性の評価とともに重要性は高い。水和物の水和数などの水和度は,水の吸着や再結晶工程において,水分子が結晶構造へ取り込まれる過程でその数が変化する場合が多々ある。種々の溶媒を用いた,塩形・結晶形の探索の中で,結晶形間の相転移を評価するとともに,加温や粉砕によって生じる非晶質化のようなメカノケミカルな安定性を把握することも含めて,開発候補化合物としての適格性を予測しておくことが重要である。
○5吸湿性の評価
吸湿性は製造工程,包装,貯法,化学的ならびに物理的な安定性に影響する重要な基礎物性である。マイクロバランスを用いた水分自動吸着脱着測定装置などを使用することにより,比較的少量で,低い相対湿度から高い相対湿度まで,所望するさまざまな温度において起こる水の吸着と脱着による重量変化から吸湿性を評価し,開発候補化合物としての適格性を検討することができる。
○6製剤添加剤との適合性評価
製剤設計においては,製剤添加剤との適合性の結果は重要な情報である。製剤に用いられる主な添加剤と開発候補化合物を混合するなどして調製した試料について,固体状態における熱,湿度,光に対する安定性を評価する。具体的には,先の化学的安定性評価の方法と同様に,通常行われている安定性試験の条件より,過酷な試験条件で短期間に,開発候補化合物としての適格性を予測しておくことが重要である。DSCなどの熱分析を利用した適合性評価の方法も知られている。
○7塩形を考慮した評価
塩形は通常,化合物の溶解性改善の観点から検討されることが多く,塩の選択は半経験的に行われている。そして,開発候補化合物について,塩を検討する理由はさまざまであり,化合物に依存していることが多い。・・・
○8プロトタイプ製剤の試作と性能評価
・・・」(1642頁左欄1行?1643頁左欄14行)

(3)刊行物に記載された発明
刊行物1には、請求項1に
「式(I)で表される化合物またはその生理学的に許容されうる酸付加塩:

上式中、
R_(1) およびR_(2) は同一であり、式

の基を表す。」
が記載されており(摘示(1a))、発明の詳細な説明には、具体的にR_(1) 及びR_(2) が同時に

であるものが挙げられ、「P-MT」と称され、製造され、試験されている(摘示(1e)?(1k))。この化合物は、淡黄色固体として得られたことが記載されている(摘示(1k))。
そうすると、刊行物1には、
「式(I)で表され、

R_(1) とR_(2) が式

の基である化合物の淡黄色固体」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているということができる。

(4)本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「式(I)で表され、

R_(1) とR_(2) が式

の基である化合物」は、本願発明の「20,23-ジピペリジニル-5-O-マイカミノシル-タイロノライド」に相当するから、本願発明と引用発明とは、
「20,23-ジピペリジニル-5-O-マイカミノシル-タイロノライドの固体」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点)
本願発明においては、20,23-ジピペリジニル-5-O-マイカミノシル-タイロノライドが、粉末X線回折スペクトルの2θの組及び融点で特定された多形II型結晶であるのに対し、引用発明においては、20,23-ジピペリジニル-5-O-マイカミノシル-タイロノライドがそのような特定をされたものではない点

(5)相違点についての判断

ア 結晶を得ることの動機付けについて
刊行物2(特開平6-192228号公報)は、結晶性(R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフォニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フェニル]-アセトアミドに係る文献であるところ、同文献には、非結晶状態のアセトアミドは、固形薬品の製造において重大な欠点を有しており、結晶性のアセトアミドは、非結晶状態のアセトアミドと比較して、物理的安定性に優れている旨が記載されている(摘示(2a)?(2c))。
刊行物3(特開平7-53581号公報)は、結晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩の製造法に係る文献であるところ、同文献には、非晶質のL-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩は、保存時において吸湿しやすく、実用面で支障が生じやすいため、安定な結晶質のL-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩が望ましい旨が記載されている(摘示(3a)?(3c))。
刊行物4(特公昭52-45716号公報)は、アンピシリンナトリウムの製造法に係る文献であるところ、同文献には、アンピシリンナトリウムのI型結晶は、無晶型のものと比較すると、例えば40℃、関係湿度52.4℃条件で保存した場合の残存率及び吸湿平衡が顕著に優れている旨が記載されており(摘示(4a)(4c)?(4e))、アンピシリン遊離型も、結晶形の無水物及びトリハイドレートが無晶形のものに比し安定である旨が記載されている(摘示(4b))。
刊行物5(特開昭61-263985号公報)は、セフアロスポリン誘導体に係る文献であるところ、同文献には、セフアロスポリン誘導体は、加水分解が起こり易く化学的に不安定であり、無定形物は85℃10日後に残存率0であるところ、結晶性無水物、0.5水和物、1水和物及び3水和物は残存率96.1%以上と安定である旨が記載されている(摘示(5a)?(5d))。ここでは、結晶水の数が異なる複数の結晶に言及されている(摘示(5a)(5d))。
刊行物6(特開平4-235188号公報)は、ペネム化合物の結晶、その製造方法及び抗菌剤に係る文献であるところ、同文献には、ペネム化合物の無晶形の固体は安定性が不十分で製剤化に際し有効成分の含量低下を来す問題があり、該化合物の結晶形粉末は保存安定性が良い旨が記載されている(摘示(6a)?(6c))。
以上によると、本願優先日当時、一般に、医薬化合物については、安定性、純度、扱いやすさ等の観点において結晶性の物質が優れていることから、医薬化合物を結晶化することについては強い動機付けがあり、結晶化条件を検討したり、結晶多形を調べることは、当業者がごく普通に行うことであるものと認められる。また、医薬化合物には複数の結晶形をとるものがあることもよく知られているから、これまで知られていた結晶形とは異なる結晶形の結晶を探索することについても、同様に、強い動機付けがあり、結晶化条件を検討したり、結晶多形を調べることは、当業者がごく普通に行うことであるものと認められる。
なお、医薬品化合物の結晶を調べることについては、刊行物7(Pharmaceutical Research,12(7),1995,p.945-954)、刊行物8(Chemistry & Industry,21,1989,p.527-529)及び刊行物10(PHARM TECH JAPAN,18(10),2002,p.1629-1644)(何れも総説的な文献である。)にも記載がある(摘示(7a)?(7g)、(8a)?(8e)、(10a)?(10b))。
そして、20,23-ジピペリジニル-5-O-マイカミノシル-タイロノライドは、哺乳類家畜又は家禽のパスツレラ菌感染症の治療又は予防に用いられる化合物であって(摘示(1a))、医薬化合物なのであるから、刊行物1に開示された20,23-ジピペリジニル-5-O-マイカミノシル-タイロノライドについて、当業者が、結晶を得ようとして結晶化条件を検討したり、得られた結晶について分析することには、十分な動機付けを認めることができる。

イ 特定の工程を採用する点及びX線粉末回折スペクトルの2θの組及び融点で特定された多形II型結晶である点について

(ア)特定の工程を採用する点について

a 20,23-ジピペリジニル-5-O-マイカミノシル-タイロノライドの多形II型結晶を得るために本願明細書が開示した方法には、以下のものが含まれる。

(a)実施例4の段落【0225】?【0227】の以下の記載
「【実施例4】
【0225】20,23-ジピペリジニル-5-O-マイカミノシル-タイロノライドの多形II型の調製
パートA 活性化合物の調製
実施例1、パートAからCに記載した方法に従って23-ヒドロキシル-20-ピペリジニル-5-O-マイカミノシル-タイロノライド(50g)を調製したが、ただし酸加水分解反応(すなわち、パートBおよびC)に用いた酸はHBrではなくHClであった。この23-ヒドロキシル-20-ピペリジニル-5-O-マイカミノシル-タイロノライドを13℃で、ジクロロメタン(13℃で250ml)を含有する攪拌した反応器に充填した。得られた混合物を13℃で約5分間攪拌した。並行して、ジクロロメタン(周囲温度で250ml)を別の反応器に充填し、攪拌を開始した。次いで、トリフェニルホスフィン(周囲温度で24.6g)を反応器に充填し、その後ピリジン(周囲温度で7.8ml)、次いでヨウ素(周囲温度で22.83g)を充填した。その後、混合物を周囲温度で2分間攪拌し、その後、滴下漏斗を用いて、13℃で23-ヒドロキシル-20-ピペリジニル-5-O-マイカミノシル-タイロノライドを含有するジクロロメタン混合物と合わせた。得られた混合物を13℃で130分間攪拌して、活性化生成物を形成した。
【0226】パートB 20,23-ジピペリジニル-5-O-マイカミノシル-タイロノライドの多形II型の調製
炭酸カリウム(51.81g)、次いでアセトニトリル(600ml)、最後にピペリジン(37.1ml)を13℃でパートAの活性化生成物に添加した。次いで、得られた混合物を90分間かけて78℃に加熱し、その温度(還流)でさらに130分間攪拌した。次いで、混合物を60分間かけて15から25℃に冷却し、攪拌を中止した。その後、残留炭酸カリウムを濾別し、濾過ケーキをアセトニトリル(100ml)で洗浄、真空下、50℃で60分間かけて溶媒を留去した。得られた残留物を酢酸エチル(500ml)に溶解し、0.5N HCl(1000ml)と混合した。5分間攪拌した後、攪拌を止め、相を分離した。下部の水相を酢酸エチルで3回抽出した(各回500mlを用いた)。得られた水相の攪拌を開始し、温度を5から8℃に下げた。次いで、6N NaOH(150ml)を添加してpH11に調節した。次いで、pHを調節した混合物をジクロロメタンで3回(各回400ml)、周囲温度で抽出した。合わせた下部有機相を硫酸ナトリウム(150g)と共に周囲温度で再び反応器に充填した。得られた混合物を15分間攪拌し、次いで濾過してケーキを形成し、これをジクロロメタン(100ml)で洗浄した。蒸留によって溶媒を除去し、得られた生成物を真空下、50℃で60分間乾燥した。これによって57.5gの粗マクロライド生成物を得た。
【0227】粗生成物を50℃でアセトニトリル(90ml)から結晶化した。油の形成を回避するために、20,23-ジピペリジニル-5-O-マイカミノシル-タイロノライドの種結晶を周囲温度で添加した(種結晶は前に粗製20,23-ジピペリジニル-5-O-マイカミノシル-タイロノライド3gをアセトニトリル12mlに溶解し、周囲温度で24時間後に形成した結晶を濾過により収集することによって得た)。周囲温度で5時間、および5℃で一晩(15時間)かけて、オフホワイト色の固体として生成物を沈澱させた。固体を濾過によって分離し、冷アセトニトリル(2×25ml)で2回洗浄した。残存する固体を減圧下(8mbar)、40℃で一晩乾燥し、18.2gの20,23-ジピペリジニル-5-O-マイカミノシル-タイロノライド(含量:90%(w/s)HPLCによって決定)を得た。この生成物(15g)をアセトニトリルで再結晶することによってさらに精製した。これにより10.7gの生成物を得た(HPLC 254nmでの純度:100%;含量94%(w/s)HPLCによって決定)。」

(b)実施例5の段落【0228】の以下の記載
「【実施例5】
【0228】アセトニトリルでの20,23-ジピペリジニル-5-O-マイカミノシル-タイロノライドの多形II型の再結晶
実施例4に従って調製した20,23-ジピペリジニル-5-O-マイカミノシル-タイロノライドの多形II型(80mg)をアセトニトリル(2ml)に溶解した。得られた溶液を濾過し、アセトニトリルを周囲温度で蒸発させて、結晶を形成した。生成物結晶のFT-ラマンスペクトルは、実施例4の生成物結晶のスペクトルとほぼ同じであった。」

b ところで、結晶を得るために、溶液から結晶化させる方法は、文献を挙げる必要もないほど極めて一般的なものである。結晶化溶媒として、アセトニトリルは、極めて一般的である(摘示(7d)、(9b))。また、結晶化がゆっくりしか起こらないか少量しか結晶が得られないような場合に、得られた結晶を種結晶として用いて、結晶化を行うことは、当業者が通常行うことである。種結晶の添加は、工業晶析ではよく行われることである(摘示(10a))。

c そうすると、本願明細書が開示した方法は、当業者が通常採用しないような手法を用いているものではなく、特殊な条件設定が必要であるというものでもないから、20,23-ジピペリジニル-5-O-マイカミノシル-タイロノライドの多形II型結晶、すなわち請求項1に記載されるX線粉末回折スペクトルの2θの組及び融点で特定された、20,23-ジピペリジニル-5-O-マイカミノシル-タイロノライドの結晶は、当業者が通常なし得る範囲の試行錯誤で得られた結果物である結晶に過ぎないものというべきである。

(イ)そして、結晶性が期待される医薬化合物の分析のために、X線粉末回折や、DSCによる融点の測定を行うことは、通常のことであるから(例えば、刊行物7(医薬品固体を得るための手法に係る総説的な文献である。)の摘示(7e)参照、また刊行物10(同じく総説的な文献である。)の摘示(10b)参照)、相違点に係る、X線粉末回折スペクトルの2θの組及び融点で特定されたものである点は、当業者が、得られた結晶について、その分析において通常用いるX線粉末回折やDSCの測定を行った場合に得られる結果を、提示しただけのことに過ぎない。
また、任意に「多形II型」と名付けることは、当業者が適宜行い得ることである。

ウ 以上によれば、本願発明は、特定の20,23-ジピペリジニル-5-O-マイカミノシル-タイロノライドの多形II型結晶に係る発明であるところ、刊行物1により開示された20,23-ジピペリジニル-5-O-マイカミノシル-タイロノライドについて、結晶多形の探索を意図し、汎用の溶媒から結晶化させるという、当業者が通常採用する手法を採用して、諸条件を検討したり、得られた結晶について分析することにより得られた結果物である結晶に過ぎないものであるから、引用発明において、相違点に係る本願発明の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(6)発明の効果について
本願発明の効果は、本願明細書の段落【0039】に「多形II型は、例えば周囲条件下で、他の20,23-ジピペリジニル-5-O-マイカミノシル-タイロノライドの固体状形態と比べて低い水分の取り込みを示す傾向がある。多形II型は、他の20,23-ジピペリジニル-5-O-マイカミノシル-タイロノライドの固体状形態と比較して、有利な物理安定性、化学安定性、充填特性、熱力学特性、動態特性、表面特性、機械特性、濾過特性、または化学純度を示すことが仮定される。多形II型はまた、他の様々な固体状形態を調製するための中間体として有用である」と記載されるような利点があり、上記「低い水分の取り込みを示す傾向」とは図12及び本願明細書の段落【0102】に記載される「DVS分析の結果・・・25℃で・・・相対湿度95%で約2%(重量)の最大水分取り込みが観察された」であるような、20,23-ジピペリジニル-5-O-マイカミノシル-タイロノライド結晶を提供することであると認められる。
しかし、この効果は、以下に示すように、格別の効果であるとはいえない。
まず、安定性は、上記のように、本願明細書には「物理的安定性、化学的安定性・・・を示すことが仮定される」と、可能性として記載されているものである。上記(5)アのとおり、結晶が無定形よりも安定性を有することは、当業者の技術常識であり、複数の結晶形があるときに、結晶形ごとに安定性が異なることも技術常識であるということができる。そうすると、本願明細書の記載から、20,23-ジピペリジニル-5-O-マイカミノシル-タイロノライドの多形II型結晶の安定性が、通常の結晶から予測し得る範囲を超える顕著なものであるとまで認めることはできない。
次に、「低い水分の取り込みを示す傾向」は、上記のように吸湿性が小さいことを意味すると認められる。しかし、結晶多形の探索を含む医薬化合物の検討においては、安定性の評価を行うことに加え、吸湿性の評価を行うことも、通常のことであって(例えば、総説的な文献である刊行物7の摘示(7e)に、検討項目に「%RHプロファイル」が挙げられ、また、同じく総説的な文献である刊行物10の摘示(10b)に「吸湿性の評価」の項目がある。)、結晶形により、吸湿性が低いものや高いものがあり得ることは、技術常識である。実際、刊行物3には、結晶質L-アスコルビン酸-2-リン酸エステルマグネシウム塩の結晶について、吸湿平衡を調べた結果、吸湿速度が環境に左右されない安定なもの(吸湿しにくいもの)が得られた例が記載されている(摘示(3a)?(3d))。刊行物4には、アンピシリンナトリウム塩のI型結晶について、吸湿平衡を調べた結果、重量増加率が小さいもの(吸湿しにくいもの)が得られた例が記載されている。そうすると、本願明細書の記載から、20,23-ジピペリジニル-5-O-マイカミノシル-タイロノライドの多形II型結晶が、低い水分の取り込みを示す傾向(すなわち吸湿性が小さいこと)があったとしても、通常の結晶から予測し得る範囲を超える顕著なものであるとまで認めることはできない。
さらに、その他の物性(充填特性、熱力学特性、動態特性、表面特性、機械特性、濾過特性、または化学純度)は、上記のように、本願明細書には、可能性としてのみ記載されているものである。そうすると、本願明細書の記載から、20,23-ジピペリジニル-5-O-マイカミノシル-タイロノライドの多形II型結晶の、上記のその他の物性が、通常の結晶から予測し得る範囲を超える顕著なものであるとまで認めることはできない。
以上によれば、本願発明の、20,23-ジピペリジニル-5-O-マイカミノシル-タイロノライドの多形II型結晶の効果について、格別顕著なものとまでいうことはできない。

(7)まとめ
したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明並びに技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明並びに技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、この出願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-09-07 
結審通知日 2017-09-12 
審決日 2017-09-25 
出願番号 特願2013-251788(P2013-251788)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C07H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 典之瀬下 浩一  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 木村 敏康
中田 とし子
発明の名称 マクロライド固体状形態  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ