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審決分類 審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04W
管理番号 1337447
審判番号 不服2016-14375  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-09-26 
確定日 2018-02-07 
事件の表示 特願2014- 25656「ユーザ手動のハンドオフに基づく、セッション開始プロトコルSIP(SessionInitiationProtocol)」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 5月 8日出願公開、特開2014- 82802〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2004年(平成16年)11月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理、2003年12月1日、米国)を国際出願日とする出願である特願2006-542674号の一部を、平成19年9月27日に新たな特許出願とした特願2007-252312号の一部を、平成23年4月19日に新たな特許出願とした特願2011-093285号の一部を、平成24年5月16日に新たな特許出願とした特願2012-112603号の一部を、平成26年2月13日に更に新たな特許出願としたものであって、平成26年10月28日付け拒絶理由の通知に対し、平成27年3月4日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、平成27年8月21日付けの拒絶理由の通知に対し、平成27年12月9日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、平成28年5月18日(発送日:平成28年5月24日)に拒絶査定がされ、これに対して平成28年9月26日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成28年9月26日付けの手続補正の却下の決定
1 補正の却下の決定の結論
平成28年9月26日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

2 理由
(1) 補正後の本願発明
本件補正後の本願の発明は、平成28年9月26日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明1」という。)は、次のとおりのものである。
「 【請求項1】
通信装置であって、
リモート装置のユーザの電子メールアドレスを含む第1のメッセージを生成し、
前記リモート装置の前記ユーザの前記電子メールアドレスに基づいて前記リモート装置との通信セッションを確立するために、前記第1のメッセージを無線通信ネットワークを通じて送信し、前記通信セッションは、前記第1のメッセージに応答して前記通信セッションが転移する前に、前記リモート装置および別の装置の間であり、前記通信装置は第1のネットワーク上で動作しおよび前記リモート装置は前記第1のネットワークとは異なる第2のネットワーク上で動作し、前記第1のメッセージは、前記リモート装置の既存の通信セッションの前記通信装置へのハンドオーバについての要求を示し、
前記通信セッションの前記ハンドオーバの受諾を第2のメッセージ内で示している前記リモート装置に応答して、前記通信装置で前記リモート装置の前記既存の通信セッションを受信し、前記通信装置への前記通信セッションのハンドオフ後に、前記リモート装置は前記既存の通信セッションをもはや受信しない
ように構成された回路を備えたことを特徴とする通信装置。」(下線は手続補正書の記載のとおり。)

また、平成28年9月26日付けで補正された特許請求の範囲の請求項6に記載された発明(以下、「本願補正発明2」という。)は、次のとおりのものである。
「 【請求項6】
前記第1のメッセージは、前記電子メールアドレスの代わりに、前記リモート装置の、インターネットプロトコル(IP)アドレスまたは電話番号を含むことを特徴とする請求項1に記載の通信装置。」

(2) 補正前の本願発明
本件補正前である平成27年12月9日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲に記載された発明は、次のとおりである。
「 【請求項1】
通信装置であって、
リモート装置のユーザの電子メールアドレスを含む第1のメッセージを生成し、
前記リモート装置の前記ユーザの前記電子メールアドレスに基づいて前記リモート装置との通信セッションを確立するために、前記第1のメッセージを無線通信ネットワークを通じて送信し、前記通信セッションは、前記第1のメッセージに応答して前記通信セッションが転移する前に、前記リモート装置および別の装置の間である
ように構成された回路を備えたことを特徴とする通信装置。
【請求項2】
前記第1のメッセージは、セッション開始プロトコル(SIP)メッセージであることを特徴とする請求項1に記載の通信装置。
【請求項3】
前記第1のメッセージは、SIP INVITEメッセージであることを特徴とする請求項1に記載の通信装置。
【請求項4】
前記回路は、前記第1のメッセージに応答して第2のメッセージを受信するように構成されたことを特徴とする請求項1に記載の通信装置。
【請求項5】
前記第2のメッセージは、SIPメッセージであることを特徴とする請求項4に記載の通信装置。
【請求項6】
前記第1のメッセージは、前記電子メールアドレスの代わりに、前記リモート装置の、インターネットプロトコル(IP)アドレスまたは電話番号を含むことを特徴とする請求
項1に記載の通信装置。
【請求項7】
前記通信セッションは、ビデオセッションであることを特徴とする請求項1に記載の通信装置。
【請求項8】
前記通信装置は、モバイルUEであることを特徴とする請求項1に記載の通信装置。」

(3) 補正の目的の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された通信装置が備えた「回路」に対して、「前記通信装置は第1のネットワーク上で動作しおよび前記リモート装置は前記第1のネットワークとは異なる第2のネットワーク上で動作し、前記第1のメッセージは、前記リモート装置の既存の通信セッションの前記通信装置へのハンドオーバについての要求を示し、
前記通信セッションの前記ハンドオーバの受諾を第2のメッセージ内で示している前記リモート装置に応答して、前記通信装置で前記リモート装置の前記既存の通信セッションを受信し、前記通信装置への前記通信セッションのハンドオフ後に、前記リモート装置は前記既存の通信セッションをもはや受信しない」という事項(以下、「補正事項」という。)を付加するものである。
そして、補正事項のうち、「前記リモート装置は前記第1のネットワークとは異なる第2のネットワーク上で動作し」、及び「前記通信装置への前記通信セッションのハンドオフ後に、前記リモート装置は前記既存の通信セッションをもはや受信しない」との事項は、「通信装置」の発明である本願補正発明とは異なる「リモート装置」を特定する事項であり、本件補正は、「通信装置」の発明である請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定する補正とはいえないから、平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の規定に該当する補正とはいえない。
また、拒絶査定の「理由B(特許法第36条第4項第1号)について
」(1)、(2)において、それぞれ、「よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1?8に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでなく、かつ、請求項1?8に係る発明について、経済産業省令で定めるところにより記載されたものではない。」、「この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1?8に係る発明を実施する
ことができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。」と、発明の詳細な説明についての拒絶の理由を示しているが、この拒絶の理由に示した事項に対し、補正事項を付加したものであるともいえないから、本件補正が拒絶の理由に示す事項についてするものに限る明りょうでない記載の釈明を目的とするもの(平成18年改正前特許法第17の2第4項第4号)に該当する補正とはいえない。
さらに、本件補正は、請求項の削除を目的としたもの(平成18年改正前特許法第17の2第4項第1号)、また、誤記の訂正を目的としたもの(平成18年改正前特許法第17の2第4項第3号)ではないことも明らかである。

したがって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

(4)独立特許要件
なお、仮に、本件補正が、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとした場合に、本願補正発明2が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

ア 引用例
原査定の拒絶の理由で引用された特開2003-304251号公報(平成15年10月24日出願公開。以下、「引用例」という。)には次の事項(下線は当審が付与。)が図面とともに開示されている。(記載箇所は段落番号等で表示)

(ア) 「【0011】図1を用いて、以下に説明する第1?6の実施形態における、本発明のセッション転送システムを含んで構成されたネットワークシステムの構成について説明する。
【0012】ネットワークシステム10では、通信網であるインターネット網20に、それぞれ、有線でPC120,140が接続され、また、無線(電波)であるPHS網を介してPDA100が接続されている。PDA100は、アクセスポイント22と、その先のPHS網に設けられたゲートウェイ装置(図示しない)とを介して、インターネット網20に接続可能である。PC30は、ビデオ電話アプリケーションを用いたPC140,120,PDAとのビデオ通信が可能であり、また、Webコンテンツやビデオ画像などを蓄積しており、これを、インターネット網20を介してPDA100、PC120,140に配信可能である。」

(イ) 「【0056】(第6の実施形態)また、他の実施形態として、例えば、上述の第3の実施形態におけるセッション転送システムを、IETFのdraftにおけるSIPを用いたビデオ電話アプリケーションに適用してもよい。つまり、これは、PDA100によるビデオ電話通信を、PC120に移行する場合に相当する。この第6の実施形態における、セッション転送システムの動作を、図8のシーケンス図を用いて説明する。
【0057】PDA100でのPC30とのビデオ電話の通信中に、赤外線ポート102を、セッションの転送先となるPC120の赤外線ポート122に対向させて近づける(ステップS801)。これにより相互の端末が認識される。PDA100は、赤外線通信制御処理部112により、PC120に対して、そのIPアドレス情報の送信要求を行う(ステップS802)。PC120は、赤外線通信制御処理部132により、アドレス情報記憶部130に記憶されたIPアドレス情報を、PDA100に送信する(ステップS803)。
【0058】PDA100では、これを赤外線通信制御処理部112で取得し、この取得したIPアドレス情報を基に、通信制御処理部114により、PC30にポート番号200に対応するセッションの保留要求信号INVITE(hold)を送信する(ステップS804,S805)。これに対してPC30から応答信号ACKが返信された(ステップS806)ならば、PDA100は、PC120に対して、セッションの接続要求信号INVITEを送信する(ステップS807)。これに対する返信があったならば(ステップS808,S809)、PDA100は、保留要求信号INVITE(hold)をPC120に送信する(ステップS810)。そして、これに対する返信があったならば(ステップS811,S812)、PDA100は、PC30のIPアドレス情報と共に、セッション情報である呼IDを、REFER信号としてPC120に送信する(ステップS813)。
【0059】この呼IDを受信したPC120は、これに対する応答信号を赤外線通信制御処理部132でPDA100に送信する(ステップS814)と共に、通信制御処理部134により、この呼IDに基づく保留解除要求信号INVITEをPC30に送信する(ステップS815)。これらの応答信号がPC30から送信された後に(ステップS816,S817)、PC30とPC120とのセッションが確立され、PC30は、通信を切断する切断要求信号BYEを、PDA100に送信する(ステップS818)。この応答信号を正常に受信されることで、PDA100とPC30との通信が切断される(ステップS819)。
【0060】上記ステップS817の後に、PC120は、セッションの確立が完了した旨のセッション転送完了通知信号NOTIFYを、元の通信先のPDA100に送信する(ステップS820)。これを受信したPDA100は、赤外線通信制御処理部112により、PC120に、その応答信号(ステップS821)と共に、セッションの切断要求信号BYEを送信する(ステップS822)。この切断要求に対する応答信号がPDA100に返信されることで(ステップS823)、セッションの転送の完了に基づく、通信の移行が完了し、PC120とPC30との通信が可能となる(ステップS824)。」

(ウ) 「【0063】また、上述の第1?6の実施形態では、特に、有線接続されたPCと、PHS網などで無線接続されたPDAとの相互のセッション転送を説明したが、これに限るものではなく、無線接続されたPCと無線接続されたPDAや、有線接続されたPCと優先接続されたPCなど、その接続形態はいずれか一方が有線接続であるか無線接続であるかにかかわりなく、かつ、その無線接続はIEEE802.11bに基づくLAN(Local Area Network)などの形態であっても同様の効果を奏することができる。」

上記(イ)段落0058に記載されたステップS813において、PDA100により、呼IDとともにPC120にREFER信号として送信されたPC30のIPアドレスは、段落0059に「この呼IDを受信したPC120は・・・」と記載された呼IDと同様にPC120により受信されていることは明らかといえる。
以上を踏まえると、引用例には、
「通信網であるインターネット網20に、有線でPC120が接続され、また、無線(電波)であるPHS網を介してPDA100が接続され、PC30は、ビデオ電話アプリケーションを用いたPC120,PDAとのビデオ通信が可能であり、また、Webコンテンツやビデオ画像などを蓄積しており、これを、インターネット網20を介してPDA100、PC120に配信可能であるネットワークシステム10において、
PDA100によるビデオ電話通信を、PC120に移行する場合、PDA100でのPC30とのビデオ電話の通信中に、
PC30のIPアドレス情報と共に、セッション情報である呼IDを、REFER信号として受信し(ステップS813)、この呼IDに基づく保留解除要求信号INVITEをPC30に送信する(ステップS815)PC120であって、
これらの応答信号がPC30から送信された後に(ステップS816,S817)、PC30とPC120とのセッションが確立され、PC30は、通信を切断する切断要求信号BYEを、PDA100に送信し(ステップS818)、この応答信号を正常に受信されることで、PDA100とPC30との通信が切断される(ステップS819)
PC120」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

イ 対比
本願補正発明2と引用発明とを対比する。
(ア) 引用発明の、PC30のIPアドレス情報と共に、セッション情報である呼IDを、REFER信号として受信し(ステップS813)、この呼IDに基づく保留解除要求信号INVITEをPC30に送信する(ステップS815)「PC120」は、「通信装置」といえる。
また、PC120が通信装置として機能するための回路を備えているといえることは明らかな事項といえる。

(イ) 「PDA100によるビデオ電話通信を、PC120に移行する」引用発明において、移行前の「PDA100でのPC30とのビデオ電話の通信」は、「通信セッションが転移する前に、リモート装置および別の装置の間であ」る通信セッション、「リモート装置の既存の通信セッション」、又は「既存の通信セッション」といえる。

(ウ) PDA100でのPC30とのビデオ電話の通信中に、ステップS815で、PC120が「解除要求信号INVITE」をPC30に送信し、ステップS816、S817でこれらの応答信号がPC30から送信された後に、PC30とPC120とのセッションが確立される引用発明の「保留解除要求信号INVITE」は、PC120がPC30とのセッションを確立するためのメッセージといえるから、引用発明の「保留解除要求信号INVITE」は、「リモート装置との通信セッションを確立するために」送信され、「リモート装置の既存の通信セッションの通信装置へのハンドオーバについての要求を示」す「第1のメッセージ」といえ、引用発明においても「第1のメッセージに応答して通信セッションが転移する」といえる。
そして、引用発明の「PDA100によるビデオ電話通信を、PC120に移行する場合」の移行前の「PDA100でのPC30とのビデオ電話の通信」において、PC30は上記のとおり「リモート装置」といるから、PC30の移行前の通信相手であるPDA100は「別の装置」といえる。
また、(ステップS813)で受信したREFER信号に含まれる呼IDに基づき、(ステップS815)でPC120から送信される「第1のメッセージ」といえる保留解除要求信号INVITEが、通信装置といえるPC120で生成されていることは明らかな事項といえる。

(エ) PC120から送信された「保留解除要求信号INVITE」に対する応答信号を送信するPC30は、「通信セッションのハンドオーバの受諾を第2のメッセージ内で示しているリモート装置」といえるから、引用発明の「これらの応答信号がPC30から送信された後に(ステップS816,S817)、PC30とPC120とのセッションが確立され、PC30は、通信を切断する切断要求信号BYEを、PDA100に送信し(ステップS818)、この応答信号を正常に受信されることで、PDA100とPC30との通信が切断される(ステップS819)。」との動作は、「通信セッションのハンドオーバの受諾を第2のメッセージ内で示しているリモート装置に応答して、通信装置で前記リモート装置の既存の通信セッションを受信し、」「前記リモート装置は前記既存の通信セッションをもはや受信しない」動作といえる。

以上を踏まえると、両者の一致点及び相違点は以下のとおりである。
【一致点】
「 通信装置であって、
第1のメッセージを生成し、
リモート装置との通信セッションを確立するために、前記第1のメッセージを送信し、前記通信セッションは、前記第1のメッセージに応答して前記通信セッションが転移する前に、前記リモート装置および別の装置の間であり、前記第1のメッセージは、前記リモート装置の既存の通信セッションの前記通信装置へのハンドオーバについての要求を示し、
前記通信セッションの前記ハンドオーバの受諾を第2のメッセージ内で示している前記リモート装置に応答して、前記通信装置で前記リモート装置の前記既存の通信セッションを受信し、前記リモート装置は前記既存の通信セッションをもはや受信しない
ように構成された回路を備えた通信装置。」

【相違点】
相違点1: 本願補正発明2の「第1のメッセージ」が「リモート装置のユーザの電子メールアドレス」「の代わりに、前記リモート装置の、インターネットプロトコル(IP)アドレスまたは電話番号を含」むメッセージであり、「リモート装置のユーザの電子メールアドレス」の代わりの「前記リモート装置の、インターネットプロトコル(IP)アドレスまたは電話番号」「に基づいて前記リモート装置との通信セッションを確立するために」送信されるメッセージであるのに対し、引用発明の保留解除要求信号INVITEが、リモート装置のインターネットプロトコル(IP)アドレスまたは電話番号について言及されていない点。

相違点2: 本願補正発明2の「第1のメッセージ」が「無線通信ネットワークを通じて」送信されるのに対し、引用補正発明の保留解除要求信号INVITEが、有線で接続されたインターネット網20を介して送信されている点。

相違点3: 本願補正発明2の「通信装置は第1のネットワーク上で動作しおよびリモート装置は前記第1のネットワークとは異なる第2のネットワーク上で動作し」ているのに対し、引用発明の通信装置といえるPC120とリモート装置といえるPC30とが共通のインターネット網20に接続されている点。

相違点4: 本願補正発明2の「リモート装置は既存の通信セッションをもはや受信しない」との動作が「通信装置への通信セッションのハンドオフ後に、」行われるのに対し、引用発明は、ステップS816、S817の後にPC30とPC120とのセッションが確立され、ステップS819でPDA100とPC30との通信が切断されるが、当該動作がハンドオフ後といえるか明らかでない点。

ウ 当審の判断
上記相違点について検討する。
相違点1: 引用発明の「保留解除要求信号INVITE」は、PC30のIPアドレス情報と共に、セッション情報である呼IDを、REFER信号として受信したPC120が、この呼IDに基づいてインターネット網20を介してPC30に送信する信号である。
そして、それぞれがインターネットプロトコル(IP)アドレスにより特定される多数の機器が接続されるインターネットを介して情報を送信する際に、宛先を特定するインターネットプロトコル(IP)アドレスを情報に含めることは技術常識といえるから、インターネット網20を介してPC120がPC30へ「保留解除要求信号INVITE」を送信する際に、「保留解除要求信号INVITE」に当該信号の宛先であるPC30を特定するインターネットプロトコル(IP)アドレスを含めること、すなわち、第1のメッセージにリモート装置のインターネットプロトコル(IP)アドレスを含めることは当業者が容易に想到し得る事項といえる。
また、「保留解除要求信号INVITE」が、リモート装置といえるPC30を特定するインターネットプロトコル(IP)アドレスを含む場合、ステップS815での保留解除要求信号INVITEの送信によるPC30とPC120とのセッションの確立が、保留解除要求信号INVITEに含まれるリモート装置といえるPC30を特定するインターネットプロトコル(IP)アドレスに基づいて行われること、すなわち、第1のメッセージといえる保留解除要求信号INVITEが、リモート装置のユーザの電子メールアドレス」の代わりの「前記リモート装置の、インターネットプロトコル(IP)アドレス」に基づいて前記リモート装置との通信セッションを確立するために送信される信号といえることは明らかである。
なお、インターネットプロトコル(IP)アドレスに対して選択肢として記載された「電話番号」については、省略して解釈し得る事項といえる。

相違点2: 上記「第2 2(4)ア(ウ)」には、上記「第2 2(4)ア(イ)」に記載された引用例の第6の実施形態において有線接続されているPCを、IEEE802.11bに基づくLAN(Local Area Network)などを利用し無線接続したPCとして実施する事項が示唆されているから、引用発明のインターネット網20に有線接続されたPC120を無線接続に替え、保留解除要求信号INVITEを「無線通信ネットワークを通じて」送信することは当業者が容易に想到し得る事項といえる。

相違点3: 上記相違点2で検討したように、PC120をIEEE802.11bに基づくLAN(Local Area Network)を利用しインターネット網20へ無線接続することは、引用例に記載された示唆に基づいて当業者が容易に想到し得る事項といえ、その場合、通信装置といえるPC120は第1のネットワークといえるIEEE802.11bに基づくLAN上で動作し、リモート装置といえるPC30は前記第1のネットワークとは異なる第2のネットワークといえるインターネット網20上で動作するといえる。

相違点4: 「通信装置への通信セッションのハンドオフ後に、リモート装置は既存の通信セッションをもはや受信しない」との発明特定事項は、別の装置との間にある既存の通信セッションを行っているリモート装置を規定する事項であり、通信装置自体を規定する事項とはいえないから、通信装置の発明である本願補正発明2における実質的な相違点とはいえない。
なお、仮に、当該発明特定事項が相違点だとしても、ハンドオーバする際に、いわゆる「ハードハンドオーバ」といわれるハンドオフ完了前にハンドオーバ元の通信セッションを切断する方式、及び、いわゆる「ソフトハンドオーバ」といわれるハンドオフ完了後にハンドオーバ元の通信セッションを切断する方式は、いずれも当業者が適宜選択し得る慣用技術といえるから、引用発明においてソフトハンドオーバ方式を採用して、ハンドオーバ先である「通信装置への通信セッションのハンドオフ後に、リモート装置は既存の通信セッションをもはや受信しない」とすることは当業者が容易に想到し得る事項といえる。

そして、これらの相違点1ないし4を総合的に考慮しても本願補正発明2は当業者が容易になし得ることといえ、一方、本願補正発明2の奏する効果は、引用発明、並びに、前記技術常識、及び前記慣用技術から想定できる程度のものにすぎず、格別なものとはいえない。

したがって、本願補正発明2は、引用例に記載された事項、並びに、前記技術常識、及び前記慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


エ サポート要件について
上記「第2 2(4)アないしウ」において、本願補正発明2の「リモート装置」及び「別の装置」を、発明の詳細な説明に記載された「サービスサーバ22」及び「UE32」にそれぞれ対応する発明特定事項として解釈したが、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明である本願補正発明の「リモート装置」及び「別の装置」を、発明の詳細な説明に記載された「UE32」及び「サービスサーバ22」にそれぞれ対応する発明特定事項として解釈した場合のサポート要件について検討する。
本願補正発明は、ハンドオーバ先である通信装置によりリモート装置の、インターネットプロトコル(IP)アドレスまたは電話番号を持つメッセージを送信することから、本願の図4について説明された発明の詳細な説明の段落0021及び段落0022に記載された事項と本願補正発明の発明特定事項とを対比する。
本願の発明の詳細な説明の段落0021及び段落0022には、次の事項(下線は当審が付与。)が図面とともに開示されている。
「【0021】
図4について言及すると、ハンドオフが、WLANネットワーク14から引き起こされる。UE32と離れた相手との間に、リアルタイムセッションがあることが仮定される。UE32がS1において示されるUMTSネットワーク23通信し、S2に示されるように、UMTSネットワーク23はIPネットワーク18と通信し、S3に示されるように、サービスサーバ22介して、UE32と契約者と呼ばれる者との間で双方向通信を順に提供する、IPネットワーク18とするリアルタイムセッションとして表される。
【0022】
S4においてユーザはPC12を起動して、S5においてWLANネットワークと、S6においてIPネットワーク19への接続を確立する。それから、ユーザはS7においてPC12へのハンドオフを引き起こすことを決定し、S8におけるSIPハンドオフ要求をS9におけるIPネットワーク18とサービスサーバ22へ通信する。SIPメッセージは、SIPハンドオフメッセージ、または宛先IPアドレスまたはEメールアドレスまたは電話番号を伴うSIPインバイトメッセージのいずれかの形式をとってもよい。S9において、SIPメッセージは、IPネットワーク18を介してサービスサーバ22へ運ばれる。サービスサーバ22はSIP200(OK)メッセージをS10においてPC12へ送信し、HO(Handoff)メッセージに確認応答する。WLAN搭載PC12は、S11においてSIP200(OK)メッセージを受信し、SIPACK(Acknowledgement)をサービスサーバ22へ送る。サービスサーバ22は、S12において、メディアタイプのリストと、IPアドレスと、ビットレートと、コーデックなどを示すSIPインバイトメッセージを送り、それはS13においてIPネットワーク18を介してWLANネットワーク14へ順に運ばれ、そしてS14においてWLANネットワーク14からPC12へ順に運ばれる。PC12は、S15においてSIPインバイトメッセージを受信すると、受信可能なメディアタイプとコーデックとビットレートとIPアドレスに肯定応答するSIP200OKメッセージをWLAN14へ送信する。SIP200OKは、S16においてWLANネットワーク14を介してIPネットワーク18へ転送され、S17においてIPネットワーク18を介してサービスサーバ22へ転送される。サービスサーバ22は、S18においてPC12からSIP200OKを受信すると、WALN14とPC12へSIP ACKを運び、S19におけるWLANネットワーク14を介することによって、UE32からWLAN可能なPC12へのリアルタイムセッションのハンドオフを完了する。リアルタイムセッションの通信はこのように、PC12と、WLANネットワーク14およびIPネットワーク18を介する与えられたソースとによって確立される。双方向通信は、S20におけるWLANネットワーク14とPC12間と、S21におけるIPネットワーク18と、S22におけるIPネットワーク18とサービスサーバ22間とである。ユーザは、ステップS23において、WLAN14上でセッションを終了してもよい。」

段落0021にS1,S2,S3として記載されたUE32が、UMTSネットワーク23、IPネットワーク18、サービスサーバ22を介して提供される双方向通信は、本願補正発明の「通信セッションが転移する前に、リモート装置及び別の装置の間であ」る通信セッション、「リモート装置の既存の通信セッション」、「既存の通信セッション」と対応すると考えられる。
また、段落0022にS9においてSIPメッセージがサービスサーバ22へ運ばれた後、S20、S21、S22として記載されたPC12、WLANネットワーク14、IPネットワーク18、サービスサーバ22で行われる双方向通信は、第1のメッセージといえるSIPインバイトメッセージを送信することにより確立される通信セッションと考えられる。
この場合、発明の詳細な説明において、第1のメッセージといえるSIPインバイトメッセージにより確立される通信セッションは、「別の装置」といえる「サービスサーバ22」との間で確立するものであり、本願補正発明の「前記リモート装置の前記ユーザの前記電子メールアドレスに基づいて前記リモート装置との通信セッションを確立するために、前記第1のメッセージを無線通信ネットワークを通じて送信し」との発明特定事項と整合しない。
一方、発明の詳細な説明の段落0022には、S9においてSIPメッセージを受信した「別の装置」といえるサービスサーバ22が、「SIP200(OK)メッセージをS10においてPC12へ送信し、HO(Handoff)メッセージに確認応答する。」との事項は記載されているものの、「リモート装置」といえるUE32がハンドオーバの受諾を示すといえる事項は記載されていないから、発明の詳細な説明の記載事項と、本願補正発明の「通信セッションのハンドオーバの受諾を第2のメッセージ内で示しているリモート装置」との発明特定事項とが整合しない。
したがって、「前記リモート装置の前記ユーザの前記電子メールアドレスに基づいて前記リモート装置との通信セッションを確立するために、前記第1のメッセージを無線通信ネットワークを通じて送信し、」及び「通信セッションのハンドオーバの受諾を第2のメッセージ内で示しているリモート装置」との事項により特定される本願補正発明は、発明の詳細な説明に記載も示唆もされておらず、この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

オ むすび
上記「第2 2(4)アないしウ、及びエ」で検討したように、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 平成28年9月26日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項6に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成27年12月9日付けで補正された特許請求の範囲の請求項6に記載された以下のとおりのものである。
「 【請求項1】
通信装置であって、
リモート装置のユーザの電子メールアドレスを含む第1のメッセージを生成し、
前記リモート装置の前記ユーザの前記電子メールアドレスに基づいて前記リモート装置との通信セッションを確立するために、前記第1のメッセージを無線通信ネットワークを通じて送信し、前記通信セッションは、前記第1のメッセージに応答して前記通信セッションが転移する前に、前記リモート装置および別の装置の間である
ように構成された回路を備えたことを特徴とする通信装置。
【請求項6】
前記第1のメッセージは、前記電子メールアドレスの代わりに、前記リモート装置の、インターネットプロトコル(IP)アドレスまたは電話番号を含むことを特徴とする請求項1に記載の通信装置。」

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及びその記載事項は、前記「第2 2(4)ア」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、前記「第2 2(4)アないしウ」で検討した本願補正発明2から「前記通信装置は第1のネットワーク上で動作しおよび前記リモート装置は前記第1のネットワークとは異なる第2のネットワーク上で動作し、前記第1のメッセージは、前記リモート装置の既存の通信セッションの前記通信装置へのハンドオーバについての要求を示し、
前記通信セッションの前記ハンドオーバの受諾を第2のメッセージ内で示している前記リモート装置に応答して、前記通信装置で前記リモート装置の前記既存の通信セッションを受信し、前記通信装置への前記通信セッションのハンドオフ後に、前記リモート装置は前記既存の通信セッションをもはや受信しない」との限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、更に他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明2が、前記「第2 2(4)アないしウ」で対比・判断したとおり、引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例に記載された発明、及び前記技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明、及び前記技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-08-29 
結審通知日 2017-09-05 
審決日 2017-09-25 
出願番号 特願2014-25656(P2014-25656)
審決分類 P 1 8・ 574- Z (H04W)
P 1 8・ 572- Z (H04W)
P 1 8・ 121- Z (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 東 昌秋  
特許庁審判長 近藤 聡
特許庁審判官 松永 稔
川口 貴裕
発明の名称 ユーザ手動のハンドオフに基づく、セッション開始プロトコルSIP(SessionInitiationProtocol)  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  

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