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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L |
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管理番号 | 1337541 |
審判番号 | 不服2016-12248 |
総通号数 | 220 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-04-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-08-12 |
確定日 | 2018-03-06 |
事件の表示 | 特願2011-271276「半導体組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 7月12日出願公開,特開2012-134483,請求項の数(2)〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成23年12月12日(パリ条約による優先権主張2010年12月23日,アメリカ合衆国)の出願であって,平成26年5月28日に審査請求がなされ,平成27年8月11日付けで拒絶理由が通知され,同年11月11日に意見書と手続補正書が提出され,平成28年4月5日付けで拒絶査定され,同年8月12日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され,平成29年8月24日付けで当審から拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)を通知し,同年11月22日に意見書と手続補正書が提出されたものである。 第2 原査定の概要 原査定(平成28年4月5日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 1.(新規性)この出願の請求項1?3に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。 2.(進歩性)この出願の請求項1?3の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物1?3に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 <引用文献等一覧> 1.特開2009-267372号公報 2.特開2009-260340号公報 3.特表2007-519227号公報 第3 当審拒絶理由の概要 当審拒絶理由の概要は次のとおりである。 1)本件出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 2)本件出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため,特許法第36条第6項第1号,第2号に規定する要件を満たしていない。 記(引用文献等については引用文献等一覧参照) 理由1 請求項1,3 引用文献等 1,2 ア 引用文献1には以下の記載がある(下線は当審で付加した。)。 (ア)「【請求項1】 有機半導体材料および高分子材料を含む組成物であって,下記一般式(1)で表される部分構造を有する有機半導体材料を用いることを特徴とする,組成物。 【化1】 (式中,XはS,Se,またはTeを表す。) 【請求項2】 前記有機半導体材料が下記一般式(2)で表されることを特徴とする,請求項1に記載の組成物。 【化2】 (式中,XはS,Se,またはTeを表し,R_(1),R_(2)は独立して置換基を有してもよいアルキル基を表す。m1,m2は独立して0?4の整数を表す。) ・・・ 【請求項8】 請求項1?5のいずれか一項に記載の組成物,又は,請求項6に記載の有機半導体インクから作成した,有機半導体薄膜。」 (イ)「【技術分野】 【0001】 本発明は,薄膜半導体に関する。更に詳しくは,本発明は,有機半導体材料として特定の有機複素環化合物を用い,有機半導体材料と高分子材料を混合したことを特徴とする,電界効果トランジスタ用の組成物,および電界効果トランジスタの製造方法に関する。」 (ウ)「【0008】 非特許文献1には,2,7-ジアルキル[1]ベンゾチエノ[3,2-b]ベンゾチオフェン(下記一般式(3)において,X_(1)及びX_(2)が硫黄原子であり,R_(1)及びR_(2)が一般式C_(n)H_(2n+1)の飽和炭化水素で表される化合物,以下CnBTBT)を用いた電界効果トランジスタについて開示されている。CnBTBTは,種々の有機溶媒に可溶かつ,ウエットプロセスで作成した電界効果トランジスタの移動度は1cm^(2) V^(-1)s^(-1)以上(トップコンタクト型の場合で)と非常に良好な特性を示す有機半導体材料である。しかし,CnBTBTを用いた電界効果トランジスタは,融点以上の熱処理により,容易に薄膜が崩壊し半導体特性を示さなくなるという欠点がある。一方で,電界効果トランジスタを用いたデバイス製造工程では150℃程度の熱がかかることが多く,CnBTBT単体では,工業プロセスによるデバイス製造は困難であり,高耐熱性材料の開発が求められている。 【0009】 【化1】 ・・・ 【0011】 【特許文献1】特開2008-10541号公報 【特許文献2】特開2005-322870号公報 【特許文献3】米国特許2007/0158646号公報 【特許文献4】WO2005/055248号公報 【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.2007,129,15732-15733 【非特許文献2】Adv.Mater.2006,18,2900.」 (エ)「【発明を実施するための最良の形態】 【0020】 以下に本発明の有機半導体組成物の好ましい態様を記載する。 本発明の有機半導体組成物(以下,便宜的に「本発明組成物」と記載)は,下記の一般式(1)で表される部分構造を有する有機半導体材料および高分子材料を含む。その他の添加物を含有してもよいが,含有しなくても本発明の効果は得られる。 【0021】 【化4】 【0022】 (式中,XはS,Se,またはTeを表す。) 【0023】 上記の有機半導体材料が,下記一般式(2)で表される化合物であることが好ましい。 【0024】 【化5】 【0025】 XはS,Se,またはTeを表すが,Sが好ましい。R_(1),R_(2)はそれぞれ独立に,置換基を有してもよいアルキル基を表し,m1,m2は0?4の整数を表す。アルキル基としては,直鎖アルキル基,分岐アルキル基,環状アルキル基,およびこれらの組み合わせが挙げられるが,C1?C36の直鎖アルキル基が好ましい。置換基としては,F,Cl,Brのハロゲン原子,スルホン酸基,ニトロ基,カルボン酸基が挙げられるが,無置換又はハロゲン置換基が好ましい。」 (オ)「【0028】 さらに,有機半導体材料(2)の例(代表例としてm1及びm2が1の場合)として下記の一般式(3)で表される化合物の具体例を,表1乃至表4に挙げる。ここで,水素原子をH,炭素原子をC,フッ素原子をF,塩素原子をCl,臭素原子をBr,硫黄原子をS,セレン原子をSe,テルル原子をTeと表記する。 【0029】 【化7】 ・・・ 【0031】 【表2】 ・・・ (カ)「【0034】 本発明の高分子材料とは,高分子化合物,もしくは高分子化合物を主要成分とし,その他に種々の素材を混合した材料である。高分子化合物とは,非常に多数の原子が化学結合してできる巨大分子のことであり,単量体の繰り返し構造単位を有する重合体も高分子化合物に含まれる。一般的に分子量が約一万以上のものは高分子材料とみなされるが,広義においてはオリゴマーと呼ばれる分子量の低い重合体も高分子材料と呼ばれる。本発明における高分子化合物とは,上記の分子量が高い化合物だけでなく,比較的分子量の小さい重合体も含まれる。 【0035】 本発明の高分子材料は,室温で固体であり,かつ溶媒に溶解する材料であることが好ましい。本発明の高分子材料の具体例としては,有機系合成高分子化合物,有機系天然高分子化合物,無機系高分子化合物に大別される。具体例として,以下に示す材料およびこれらの誘導体,共重合体,混合体が挙げられるが,下記のこれら全ての高分子化合物は一種又は二種以上を任意に組み合わせて使用することも出来る。 【0036】 有機系合成高分子化合物として,合成樹脂,プラスチック,ポリ塩化ビニル系高分子,ポリエチレン系高分子,フェノール樹脂系高分子,ポリスチレン系高分子,アクリル樹脂系高分子,アミド樹脂系高分子,エステル樹脂系高分子,ナイロン系高分子,ビニロン系高分子,ポリエチレンテレフタレート系高分子,合成ゴム系高分子,ポリイソプレン系高分子,アクリルゴム系高分子,アクリロニトリルゴム系高分子,ウレタンゴム系高分子などが挙げられるが,好ましくは合成樹脂,プラスチック,ポリ塩化ビニル系高分子,ポリエチレン系高分子,フェノール樹脂系高分子,ポリスチレン系高分子,アクリル樹脂系高分子,アミド樹脂系高分子,エステル樹脂系高分子,ナイロン系高分子,ビニロン系高分子,ポリエチレンテレフタレート系高分子などが挙げられ,さらに好ましくは合成樹脂,プラスチック,ポリ塩化ビニル系高分子,ポリスチレン系高分子,ポリエチレン系高分子,フェノール樹脂系高分子,アクリル樹脂系高分子などが挙げられる。」 (キ)「【0045】 本発明組成物における高分子材料の添加量は,通常0.5%?95%,好ましくは1%?90%,より好ましくは3%?75%,最も好ましくは5%?50%の範囲で使用するのが良い。」 (ク)「【0077】 (電界効果トランジスタの作成) 本発明インクを用いた電界効果トランジスタの作成法について以下に述べるが,本発明組成物の効果を減じない限りにおいては,以下の手法に限定されない。ゲート絶縁膜,ゲート電極を形成した基板の上に本発明による有機半導体インクを供給し,本発明の組成物を含む半導体薄膜を得る。その後,上記手法にてソースおよびドレイン電極を作成し,本発明組成物を含む電界効果トランジスタを得る。または,ゲート電極,ゲート絶縁層,ソースおよびドレイン電極を形成した基板の上に本発明による有機半導体インクを供給し,本発明の組成物を含む半導体薄膜を得る。有機半導体インクを供給し,有機半導体薄膜を形成する方法としては,例えば,スピンコート法,スプレー法,スクリーン印刷法,インクジェット印刷法などが挙げられる。特に半導体特性を損なう手法でなければ,これらの手法に限定されるものではない。 ・・・ 【0080】 本発明の組成物に用いた材料は以下の通りであり,いずれも有機半導体材料もしくは一般工業製品として周知である。 1.有機半導体材料 1)化合物名2,7-デシル[1]ベンゾチエノ[3,2-b]ベンゾチオフェン,化合物(319) 融点;124℃ 発明者による合成品,以下「C10BTBT」と記載する。 また,その他で使用可能なアルキルBTBT(nはアルキル鎖の炭素数を示す)の融点(ホットプレート測定値)は以下の通りである。 2.高分子材料 例に記載の高分子材料の中で,ガラス転移温度50?150℃のものを使用した。 1)化合物名ポリメタクリル酸メチルエステル 東京化成製,以下「PMMA」と記載する。絶縁性アクリル樹脂系高分子,ガラス転移温度90-115℃,溶融温度250℃以上,熱分解温度300℃以上。 2)化合物名ポリスチレン Aldrich製,以下「PS」と記載する。絶縁性ポリスチレン系高分子,ガラス転移温度50-110℃,溶融温度200℃,熱分解温度330℃以上。 3)化合物名ポリ(スチレン・アクリロニトリル)コ・ブロック重合体 Aldrich製,以下「PS?AN」と記載する。絶縁性共重合系高分子,ガラス転移温度50-110℃,溶融温度200℃,熱分解温度330℃以上。 4)化合物名ポリ(3-ヘキシル-チオフェン) メルク社製。以下P3HTと記載する。半導体性ポリチオフェン系高分子,ガラス転移温度約115℃,溶融温度>210℃,熱分解温度>430℃。 【0081】 例1 <本発明インクの作成> 以下の手法にて,有機半導体材料および高分子材料の濃度が異なる,本発明の各種インクを得た。 インク1の作成法は以下の通りです。 C10BTBT2.0部にクロロフォルム98.0部を添加し,30?40℃の加熱を行うことで,C10BTBTを溶解させ,第一の溶液を得た。PMMA2.0部にクロロホルム99.0部を添加し,30?40℃の加熱を行うことで,PMMAを溶解させ,第二の溶液を得た。第一の溶液50部に,第二の溶液15部を添加し,30?50℃の加熱を行うことで,C10BTBTとPMMAが溶解した第三の溶液を得た。さらに,クロロホルムを35部添加することで,最終的にC10BTBTの濃度が1.0%,PMMAの濃度が0.3%であるインク1を得た。 インク2は,PMMAの代わりにPSを用いる以外はインク1と同様に調製した。 インク3は,PMMAの代わりにPS-ANを用いる以外はインク1と同様に調製した。 インク4は,PMMAの代わりにP3HTを用いる以外はインク1と同様に調製した。 インク5の作成法は以下の通りである。 インク1と同様の手法で,C10BTBTを含む第一の溶液および,PMMAを含む第二の溶液を得た。第一の溶液50部に,第二の溶液3.5部を添加し,30?50℃の加熱を行うことで,C10BTBTとPMMAが溶解した第三溶液を得た。さらに,クロロホルムを46.5部添加することで,最終的にC10BTBTの濃度が1.0%,PMMAの濃度が0.07%であるインク5を得た。」 (ケ)「【0091】 例4 <高分子材料の比較> PMMA,PS,PS-AN,P3HTをそれぞれ0.3%含有する上記インク1乃至4および比較溶液から作成し,150℃の熱処理を施したボトム素子の電界効果トランジスタの移動度を表6に示す。 【0092】 【表6】 【0093】 前述のように,高分子材料を含有しない比較溶液から作成した半導体素子は,150℃の熱処理に伴い融解と薄膜の崩壊が生ずるため,半導体特性を示さなかった。一方,PMMA,PS,PS-ANおよびP3HTの高分子材料を含むインク1?4は高分子材料の構造に依存せず,150℃の熱処理においても明瞭なキャリア移動度を示した。また,絶縁性高分子材料であるPMMA,PS,PS-ANを含む,本発明の電界効果トランジスタは,150℃の熱処理により高い移動度を示す。一方,半導体材料であるP3HTを含むトランジスタにおいては,閾値電圧の改善が認められ,低電圧で駆動するトランジスタとなった。」 イ 引用発明1 上記ア(エ)(オ)の記載から,有機半導体材料(2)の例として,一般式(2)においてXが硫黄原子Sであり,R_(1),R_(2)がそれぞれ独立してアルキル,又は置換アルキルであるものが開示されていることから,引用文献1には以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 「有機半導体材料および高分子材料を含む組成物であって, 高分子材料とは有機系合成高分子化合物であり好ましくはポリスチレン系高分子であり, 有機半導体材料が,一般式(2)で表され 式中,R_(1)及びR_(2)は,それぞれ独立して,アルキル,または置換アルキルであり,Xは硫黄原子Sであり,m1は1であり, 前記組成物は,有機半導体薄膜を作成することができる,組成物。」 ウ 対比 (ア)請求項1記載の発明について 引用発明1の組成物は,有機半導体薄膜を作成することから請求項1記載の発明(以下,「本願発明1」という。)の半導体組成物に相当し,引用発明1の有機半導体材料は分子量が低いので本願発明1の低分子半導体に相当し,引用発明1の高分子材料は本願発明1のポリマーバインダーとしてのスチレン系ポリマーに相当し,引用発明1の薄膜は本願発明1の層に相当するから,引用発明1と本願発明1は次の(イ)の点で一致し(ウ)の点で相違する。 (イ) 半導体組成物であって, ポリマーバインダーとしてのスチレン系ポリマーと, 式(II)の低分子半導体と,を含み, 【化1】 式中,R_(2)及びR_(3)は,それぞれ独立して,アルキル,または置換アルキルであり, 前記半導体組成物は,層を作成することができる,半導体組成物。 (ウ) 相違点1 本願発明1のスチレン系ポリマーは,重量平均分子量40,000乃至2,000,000であるのに対して,引用発明1の高分子材料は重量平均分子量が不明である点。 相違点2 本願発明1の半導体組成物は,0.10cm^(2)/V・secより大きな電界効果移動度を有する層を作成することができるのに対して,引用発明1では,1実施例として0.0014cm^(2)/V・secの電界効果移動度を有する層を作成することができることが開示されている点。 (エ)請求項3記載の発明について 引用発明1の組成物を含む半導体薄膜は電界効果トランジスタの薄膜を形成するから,請求項3記載の発明(以下,「本願発明3」という。)の半導体層に相当し,引用発明1の有機半導体材料は分子量が低いので本願発明3の低分子半導体に相当し,引用発明1の高分子化合物は本願発明3のポリマーバインダーとしてのスチレン系ポリマーに相当し,引用発明1の組成物を含む半導体薄膜も電子機器の半導体層の製造に供されるものであるから,引用発明1と本願発明3は次の(オ)の点で一致し(カ)の点で相違する。 (オ) 電子機器であって,半導体層を備え,前記半導体層が ポリマーバインダーとしてのスチレン系ポリマーと, 式(II)の低分子半導体と,を含み, 【化1】 式中,R2及びR3は,それぞれ独立して,アルキル,または置換アルキルであり, 前記半導体組成物は,層を作成することができる,半導体組成物。 (カ) 相違点1 本願発明3のスチレン系ポリマーは,重量平均分子量40,000乃至2,000,000であるのに対して,引用発明1の高分子材料は重量平均分子量が不明である点。 相違点3 本願発明3の半導体層は,0.10cm^(2)/V・secより大きな電界効果移動度を有するのに対して,引用発明1では,1実施例として0.0014cm^(2)/V・secの電界効果移動度を有する層を作成している点。 エ 判断 (ア)相違点1?3について 引用文献2には,低分子半導体にポリマーを加えることにより電界効果移動度を向上させる技術が記載されており,【0036】には,ポリマーとしてポリスチレンが例示され,ポリマーの重量平均分子量として5,000?1,000,000が例示され,【0052】?【0054】には,実施例として280,000の重量平均分子量のポリスチレンを加えた時に,0.10cm^(2)/V・secより大きな0.25-0.34cm^(2)/V・secの電界効果移動度を示す半導体層を実現している。したがって,引用発明1において引用文献2に記載の技術に基づき,ポリスチレン系高分子の重量平均分子量を40,000乃至2,000,000とすることは当業者が適宜設定可能な程度の事項であり,その際の電界効果移動度も当業者が予想し得た程度のものにすぎない。 理由2 請求項1?3(サポート要件) 特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆が無くとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,出願人(審判請求人)が証明責任を負うと解するのが相当である。 以下,上記の観点に立って,本願のサポート要件について検討する。 ア 独立請求項の記載 本願発明1は,以下のとおりのものである。 「【請求項1】 半導体組成物であって, ポリマーバインダーとしての重量平均分子量40,000乃至2,000,000のスチレン系ポリマーと, 式(II)の低分子半導体と,を含み, 【化1】 式中,R_(2)及びR_(3)は,それぞれ独立して,アルキル,または置換アルキルであり, 前記半導体組成物は,0.10cm^(2)/V・secより大きな電界効果移動度を有する層を作成することができる,半導体組成物。」 イ 本願明細書の発明の詳細な説明の記載 本願明細書の発明の詳細な説明には,以下の事項が記載されている(下線は当審において付したもの。)。 「【0060】 (比較例1?3) 一般的に,3種類の比較例を以下のように調製した。200nmの熱的に成長させた酸化ケイ素誘電層を有する,nドープされたケイ素ウェハを基板として用いた。0.6wt%の2,7-ジトリデシル-BTBTのクロロベンゼン半導体溶液を誘電層にスピンコーティングした。70?80℃で30分間乾燥させた後,半導体層の上部に,金のソース電極およびドレイン電極を真空蒸着させ,デバイスを完成させた(図3を参照)。このデバイスは,Keithley 4200 SCSを用い,周囲条件で特性決定された。それぞれの例について少なくとも10個のトランジスタを製造し,特性決定した。半導体層の形態を光学顕微鏡によって調べた。 【0061】 比較例1では,酸化ケイ素誘電層の表面は改質されなかった。 【0062】 比較例2では,酸化ケイ素誘電層の表面は,半導体溶液を析出させる前に,HMDSで改質された。 【0063】 比較例3では,酸化ケイ素誘電層の表面は,半導体溶液を析出させる前に,OTS-8で改質された。 【0064】 (比較例4?6) 3mgの2,7-BTBTを,3mgのポリ(3,3’’’-ジドデシルクアテルチオフェン)(PQT-12としても知られ,以下に示される構造を有するポリマー)とともに,1gのジクロロベンゼン溶媒に溶解した。 【化24】 半導体溶液を,OTS-8で改質された基板にスピンコーティングし,均一な膜を作成した。70?80℃で30分間乾燥させた後,半導体層の上部に,金のソース電極およびドレイン電極を真空蒸着させ,デバイスを完成させた。それぞれの例について少なくとも10個のトランジスタを製造し,特性決定した。 【0065】 比較例4では,ソース電極およびドレイン電極を堆積させた後,デバイスをアニーリングしなかった。 【0066】 比較例5では,次いで,このデバイスを,減圧乾燥器中,130℃の温度で10分間アニーリングした。 【0067】 比較例6では,次いで,このデバイスを,減圧乾燥器中,140℃の温度で10分間アニーリングした。 【0068】 (実施例1?9) 15mgのポリスチレン,15mgの2,7-ジトリデシル-BTBTを2gのクロロベンゼン溶媒に溶解した。半導体溶液を,OTS-8で改質された基板にスピンコーティングし,均一な膜を作成した。70?80℃で30分間乾燥させた後,半導体層の上部に,金のソース電極およびドレイン電極を真空蒸着させ,デバイスを完成させた。それぞれの例について少なくとも10個のトランジスタを製造し,特性決定した。 【0069】 実施例1では,ポリスチレンは,分子量が約45,000であった。 【0070】 実施例2では,ポリスチレンは,分子量が約280,000であった。 【0071】 実施例3では,分子量が100,000のポリ(α-メチルスチレン)を,ポリスチレンの代わりに用いた。 【0072】 実施例4では,分子量が72,000のポリ(4-メチルスチレン)をポリスチレンの代わりに用いた。また,フェニルトリクロロシラン(PTS)をOTS-8の代わりに用いた。 【0073】 実施例5では,コポリマー,ポリ(ビニルトルエン-コ-α-メチルスチレン)(溶融粘度,161℃で100ポイズ)をポリスチレンの代わりに用いた。また,PTSをOT-S-8の代わりに用いた。 【0074】 実施例6では,分子量が100,000のポリ(N-ビニルカルバゾール)をポリスチレンの代わりに用いた。また,PTSをOTS-8の代わりに用いた。 【0075】 実施例7では,ポリスチレンをポリマーとして用い,ヘキサメチルジシラザン(HMDS)をOTS-8の代わりに用いた。2,7-ジペンチル-BTBTを2,7-ジトリデシル-BTBTの代わりに用いた。 【0076】 実施例8では,ポリスチレンをポリマーとして用い,PTSをOTS-8の代わりに用いた。2,7-ジペンチル-BTBTを2,7-ジトリデシル-BTBTの代わりに用いた。 【0077】 実施例9では,ポリ(α-メチルスチレン)をポリマーとして用い,PTSをOTS-8の代わりに用いた。2,7-ジペンチル-BTBTを2,7-ジトリデシル-BTBTの代わりに用いた。 【0078】 (比較例7) 実施例2で製造したトランジスタデバイスを,130℃で5分間,熱によってアニーリングした。室温まで冷却した後,移動度を再び測定した。 【0079】 (結果) 表1は,比較例1?7,実施例1?9のトランジスタの性能をまとめたものである。 【0080】 【表1】 ・・・ 【0085】 実施例1?9の半導体層は,良好な膜均一性を与え,良好な性能を与えた。特に,高い分子量を有するスチレン系ポリマーまたはアリールアミン系ポリマー(例えば,ポリ(N-ビニル カルバゾール))を用いる場合に,高い平均移動度が達成された。最も高い移動度は,ポリマーバインダーと2,7-ジトリデシル-[1]ベンゾチエノ[3,2-b]ベンゾチオフェンのコンポジット半導体では0.81cm^(2)/V・secまで達し,ポリマーバインダー中の2,7-ジペンチル-[1]ベンゾチエノ[3,2-b]ベンゾチオフェンのコンポジット半導体では3.0cm^(2)/V・sまで達し,移動度の変動は大きく減った。好ましくは,アニーリング工程を使用しない。比較例7で示されるように,アニーリングしたデバイスは,移動度が顕著に低くなっていた。」 ウ 発明の詳細な説明の記載 前記イの記載から,本願明細書の発明の詳細な説明には,以下の事項が記載されていることが理解される。 表1に記載された移動度は,低分子化合物として, 2,7-ジトリデシル-[1]ベンゾチエノ[3,2-b]ベンゾチオフェン又は,2,7-ジペンチル-[1]ベンゾチエノ[3,2-b]ベンゾチオフェンを用い,重量平均分子量が45,000?300,000のスチレン系のポリマーを1:1重量比で加えた半導体生成物を2gのクロロベンゼン溶媒に溶解した半導体溶液を,改質された基板にスピンコーティングし,均一な膜を作成し,70?80℃で30分間乾燥させた後,半導体層の上部に,金のソース電極およびドレイン電極を真空蒸着させ,デバイスを完成させ,少なくとも10個のトランジスタを製造し,特性決定したものから得られたものである。 エ 本願発明の課題 本願明細書の記載によれば,本願発明の課題は,「高い移動度と優れた安定性を達成する」ことであると認められる(段落【0002】)。 オ 請求項1についての検討 (ア)本願発明1は,半導体組成物の発明であって, ポリマーバインダーとしての重量平均分子量40,000乃至2,000,000のスチレン系ポリマーと, 式(II)の低分子半導体と,を含み, 【化1】 式中,R_(2)及びR_(3)は,それぞれ独立して,アルキル,または置換アルキルであり, 前記半導体組成物は,0.10cm^(2)/V・secより大きな電界効果移動度を有する層を作成することができることのみを特定するものである。 しかしながら,上記ウの理解に照らして,少なくとも,2,7-ジトリデシル-[1]ベンゾチエノ[3,2-b]ベンゾチオフェン又は,2,7-ジペンチル-[1]ベンゾチエノ[3,2-b]ベンゾチオフェン以外の低分子化合物や重量平均分子量が45,000?300,000の範囲を外れるスチレン系のポリマーを用い,1:1以外の重量比で混合した場合においても同様な結果が得られることは示されていない。 (イ)すなわち,請求項1の記載は,発明の詳細な説明において効果があることが示された範囲を超えている。 したがって,本願明細書の記載はもとより,本願出願当時の技術常識に照らしても,請求項1の記載によって特許を請求しようとする範囲の全てにおいて,本願発明の課題を解決できると当業者が認識することはできないというべきである。 そうすると,本願の請求項1の記載は,本願明細書の発明の詳細な説明の記載及び本願の出願当時の技術常識に照らして,当業者が本願明細書に記載された本願発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えており,サポート要件に適合しないものというべきである。 よって,請求項1に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものでない。 カ 請求項2,3についても同様である。 請求項1(明確性要件) 請求項1は,「・・・前記半導体組成物は,0.10cm^(2)/V・secより大きな電界効果移動度を有する層を作成することができる,半導体組成物」と記載され,半導体組成物の発明である。しかし,その「半導体組成物」が「作成することができる」層の特性で記述されており,「半導体組成物」自体の構造や特性とどのような関係があるのか不明である。 よって,請求項1に係る発明は,明確でない。 <引用文献等一覧> 1.特開2009-283786号公報 2.特開2009-260340号公報 第4 本願発明 本願の請求項1,2に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」,「本願発明2」という。)は,平成29年11月22日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1,2に記載されている事項により特定される発明であり,本願発明1,本願発明2は,以下のとおりである。 「【請求項1】 電子機器の半導体層を製造するプロセスであって, ポリマーバインダーとしての重量平均分子量45,000乃至300,000のスチレン系ポリマーと,式(II)の低分子半導体とを1:1の重量比で混合した組成物を基板にコーティングし,均一な膜を作成し, 【化2】 ここで,式中,R_(2)及びR_(3)は,それぞれ独立して,アルキルであり, 70乃至80℃で乾燥させた後,前記低分子半導体の融点よりも低い温度で前記組成物をアニーリングし,前記半導体層を作成し, 半導体層の上部に,金のソース電極およびドレイン電極を真空蒸着させ,デバイスを完成し, 前記半導体層が,0.10cm^(2)/V・secより大きな電界効果移動度を有する,プロセス。 【請求項2】 電子機器であって,半導体層を備え,前記半導体層が,ポリマーバインダーと しての重量平均分子量45,000乃至300,000のスチレン系ポリマーと,式(II)の低分子半導体とを1:1の重量比で含み, 【化3】 式中,R_(2)及びR_(3)は,それぞれ独立して,アルキルであり, 前記半導体層が,0.10cm^(2)/V・secより大きな電界効果移動度を有する,電子機器。」 第5 特許法第29条第2項(進歩性)について 1 引用文献,引用発明等 (1)引用文献1について 当審拒絶理由で引用した引用文献1(特開2009-283786号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線は,当審で付与した。以下同じ。) 「【請求項1】 有機半導体材料および高分子材料を含む組成物であって,下記一般式(1)で表される部分構造を有する有機半導体材料を用いることを特徴とする,組成物。 <途中省略> 【請求項2】 前記有機半導体材料が下記一般式(2)で表されることを特徴とする,請求項1に記載の組成物。 【化2】 (式中,XはS,Se,またはTeを表し,R_(1),R_(2)は独立して置換基を有してもよいアルキル基を表す。m1,m2は独立して0?4の整数を表す。) <途中省略> 【請求項9】 請求項1?5のいずれか一項に記載の組成物を含む,電界効果トランジスタ。 【請求項10】 請求項1?5のいずれか一項に記載の組成物,又は,請求項6に記載の有機半導体インクを基板上に塗布することにより,半導体薄膜を形成することを含む,電界効果トランジスタの製造方法。 【請求項11】 前記半導体薄膜を大気雰囲気下で製膜することを特徴とする,請求項10に記載の電界効果トランジスタの製造方法。 【請求項12】 前記半導体薄膜を形成後に熱処理を行うことを特徴とする,請求項10又は11に記載の電界効果トランジスタの製造方法。 【請求項13】 熱処理温度が,20℃以上250℃以下であることを特徴とする,請求項12に記載の電界効果トランジスタの製造方法。 【請求項14】 熱処理温度が,100℃以上180℃以下であることを特徴とする,請求項13に記載の電界効果トランジスタの製造方法。 【請求項15】 熱処理温度が,有機半導体材料の融点よりも高いことを特徴とする,請求項12?14のいずれか一項に記載の電界効果トランジスタの製造方法。 【請求項16】 熱処理温度が,高分子材料のガラス転移温度よりも高いことを特徴とする,請求項12?15のいずれか一項に記載の電界効果トランジスタの製造方法。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0012】 本発明は,溶液による塗布や印刷が可能であり,良好な耐熱性とトランジスタ特性を有する組成物,該組成物を用いた電界効果トランジスタ,および電界効果トランジスタの製造方法を提供することを目的とする。」 「【0034】 本発明の高分子材料とは,高分子化合物,もしくは高分子化合物を主要成分とし,その他に種々の素材を混合した材料である。高分子化合物とは,非常に多数の原子が化学結合してできる巨大分子のことであり,単量体の繰り返し構造単位を有する重合体も高分子化合物に含まれる。一般的に分子量が約一万以上のものは高分子材料とみなされるが,広義においてはオリゴマーと呼ばれる分子量の低い重合体も高分子材料と呼ばれる。本発明における高分子化合物とは,上記の分子量が高い化合物だけでなく,比較的分子量の小さい重合体も含まれる。 【0035】 本発明の高分子材料は,室温で固体であり,かつ溶媒に溶解する材料であることが好ましい。本発明の高分子材料の具体例としては,有機系合成高分子化合物,有機系天然高分子化合物,無機系高分子化合物に大別される。具体例として,以下に示す材料およびこれらの誘導体,共重合体,混合体が挙げられるが,下記のこれら全ての高分子化合物は一種又は二種以上を任意に組み合わせて使用することも出来る。 【0036】 有機系合成高分子化合物として,合成樹脂,プラスチック,ポリ塩化ビニル系高分子,ポリエチレン系高分子,フェノール樹脂系高分子,ポリスチレン系高分子,アクリル樹脂系高分子,アミド樹脂系高分子,エステル樹脂系高分子,ナイロン系高分子,ビニロン系高分子,ポリエチレンテレフタレート系高分子,合成ゴム系高分子,ポリイソプレン系高分子,アクリルゴム系高分子,アクリロニトリルゴム系高分子,ウレタンゴム系高分子などが挙げられるが,好ましくは合成樹脂,プラスチック,ポリ塩化ビニル系高分子,ポリエチレン系高分子,フェノール樹脂系高分子,ポリスチレン系高分子,アクリル樹脂系高分子,アミド樹脂系高分子,エステル樹脂系高分子,ナイロン系高分子,ビニロン系高分子,ポリエチレンテレフタレート系高分子などが挙げられ,さらに好ましくは合成樹脂,プラスチック,ポリ塩化ビニル系高分子,ポリスチレン系高分子,ポリエチレン系高分子,フェノール樹脂系高分子,アクリル樹脂系高分子などが挙げられる。 【0037】 有機系天然高分子として,たんぱく質,核酸,脂質,セルロース,デンプン,天然ゴム等が挙げられる。セルロースやデンプンなどがより好ましい。 無機系高分子化合物として,シリコン樹脂,シリコンゴムなどが挙げられる。 【0038】 本発明高分子材料を電気特性の観点から分類すると,導電性高分子化合物,半導体性高分子化合物,絶縁性高分子化合物に大別される。 【0039】 導電性高分子化合物とは,分子中に発達したπ電子骨格を有し,電気伝導性を示すことを特徴とする高分子化合物である。導電性高分子化合物の具体例として,ポリアセチレン系高分子,ポリジアセチレン系高分子,ポリパラフェニレン系高分子,ポリアニリン系高分子,ポリチオフェン系高分子,ポリピロール系高分子,ポリパラフェニレンビニレン系高分子,ポリエチレンジオキシチオフェン系高分子,ポリエチレンジオキシチオフェン・ポリスチレンスルホン酸の混合物(一般名,PEDOT-PSS),核酸やこれらの誘導体が挙げられ,その多くがドーピングにより導電性が向上する。これらの導電性高分子化合物の中でも,ポリアセチレン系高分子,ポリパラフェニレン系高分子,ポリアニリン系高分子,ポリチオフェン系高分子,ポリピロール系高分子,ポリパラフェニレンビニレン系高分子などがより好ましい。 【0040】 半導体性高分子化合物とは,半導体性を示すことを特徴とする高分子化合物である。半導体性高分子化合物の具体例として,ポリアセチレン系高分子,ポリジアセチレン系高分子,ポリパラフェニレン系高分子,ポリアニリン系高分子,ポリチオフェン系高分子,ポリピロール系高分子,ポリパラフェニレンビニレン系高分子,ポリエチレンジオキシチオフェン系高分子,核酸やこれらの誘導体が挙げられる。その具体例として,ポリアセチレン系高分子,ポリアニリン系高分子,ポリチオフェン系高分子,ポリピロール系高分子,ポリパラフェニレンビニレン系高分子などがより好ましい。半導体性高分子化合物はドーピングにより導電性を発現し,そのドーピング量によって導電性を有する事もある。 【0041】 絶縁性高分子化合物とは,絶縁性を示すことを特徴とする高分子化合物であり,上記の導電性または半導体性高分子材料以外の高分子材料の大部分は絶縁性高分子材料である。その具体例として,アクリル系高分子,ポリエチレン系高分子,ポリメタクリレート系高分子,ポリスチレン系高分子,ポリエチレンテレフタレート系高分子,ナイロン系高分子,ポリアミド系高分子,ポリエステル系高分子,ビニロン系高分子,ポリイソプレン系高分子,セルロース系高分子,共重合系高分子およびこれらの誘導体などがより好ましい。」 「【0044】 本発明組成物における有機半導体材料の添加量は,通常5%?99%,好ましくは20%?98%,より好ましくは40?97%,最も好ましくは50%?95%の範囲で使用するのが良い。なお,該「%」は重量基準であり,以下特に断りのない限り同様である。 【0045】 本発明組成物における高分子材料の添加量は,通常0.5%?95%,好ましくは1%?90%,より好ましくは3%?75%,最も好ましくは5%?50%の範囲で使用するのが良い。 【0046】 本発明組成物における添加物の添加量は,0%?50%,好ましくは0.1%?30%,より好ましくは0.5%?20%の範囲で使用するのが良い。 【0047】 有機半導体インク(以下,「本発明インク」という)は,本発明組成物および溶媒を含んでなる。その他の添加物は含有してもよいが,含有しなくても本発明の効果が得られる。印刷に用いる方法によりその濃度が異なるため,一概には言えないが,溶媒に対する本発明組成物の添加量は,通常0.01%?70%,好ましくは通常0.1%?50%,より好ましくは0.2%?50%の範囲で使用するのが良い。」 「【実施例】 【0079】 以下に,実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが,これらの実施例により本発明が限定されるものではない。以下の記載において,部とあるのは,特に断りのない限り,重量基準である。 【0080】 本発明の組成物に用いた材料は以下の通りであり,いずれも有機半導体材料もしくは一般工業製品として周知である。 1.有機半導体材料 1)化合物名2,7-デシル[1]ベンゾチエノ[3,2-b]ベンゾチオフェン,化合物(319) 融点;124℃ 発明者による合成品,以下「C10BTBT」と記載する。 <途中省略> 2.高分子材料 例に記載の高分子材料の中で,ガラス転移温度50?150℃のものを使用した。 1)化合物名ポリメタクリル酸メチルエステル 東京化成製,以下「PMMA」と記載する。絶縁性アクリル樹脂系高分子,ガラス転移温度90-115℃,溶融温度250℃以上,熱分解温度300℃以上。 2)化合物名ポリスチレン Aldrich製,以下「PS」と記載する。絶縁性ポリスチレン系高分子,ガラス転移温度50-110℃,溶融温度200℃,熱分解温度330℃以上。 3)化合物名ポリ(スチレン・アクリロニトリル)コ・ブロック重合体 Aldrich製,以下「PS?AN」と記載する。絶縁性共重合系高分子,ガラス転移温度50-110℃,溶融温度200℃,熱分解温度330℃以上。 4)化合物名ポリ(3-ヘキシル-チオフェン) メルク社製。以下P3HTと記載する。半導体性ポリチオフェン系高分子,ガラス転移温度約115℃,溶融温度>210℃,熱分解温度>430℃。 【0081】 例1 <本発明インクの作成> 以下の手法にて,有機半導体材料および高分子材料の濃度が異なる,本発明の各種インクを得た。 インク1の作成法は以下の通りです。 C10BTBT2.0部にクロロフォルム98.0部を添加し,30?40℃の加熱を行うことで,C10BTBTを溶解させ,第一の溶液を得た。PMMA2.0部にクロロホルム99.0部を添加し,30?40℃の加熱を行うことで,PMMAを溶解させ,第二の溶液を得た。第一の溶液50部に,第二の溶液15部を添加し,30?50℃の加熱を行うことで,C10BTBTとPMMAが溶解した第三の溶液を得た。さらに,クロロホルムを35部添加することで,最終的にC10BTBTの濃度が1.0%,PMMAの濃度が0.3%であるインク1を得た。 インク2は,PMMAの代わりにPSを用いる以外はインク1と同様に調製した。 インク3は,PMMAの代わりにPS-ANを用いる以外はインク1と同様に調製した。 インク4は,PMMAの代わりにP3HTを用いる以外はインク1と同様に調製した。 インク5の作成法は以下の通りである。 インク1と同様の手法で,C10BTBTを含む第一の溶液および,PMMAを含む第二の溶液を得た。第一の溶液50部に,第二の溶液3.5部を添加し,30?50℃の加熱を行うことで,C10BTBTとPMMAが溶解した第三溶液を得た。さらに,クロロホルムを46.5部添加することで,最終的にC10BTBTの濃度が1.0%,PMMAの濃度が0.07%であるインク5を得た。 【0082】 インク6の作成法は以下の通りである。 インク1と同様の手法で,C10BTBTを含む第一の溶液および,PMMAを含む第二の溶液を得た。第一の溶液50部に,第二の溶液7部を添加し,30?50℃の加熱を行うことで,C10BTBTとPMMAが溶解した第三の溶液を得た。さらに,クロロホルム43部を添加することで,最終的にC10BTBTの濃度が1.0%,PMMAの濃度が0.14%であるインク6を得た。 インク7の作成法は以下の通りである。 実施例1と同様の手法で,C10BTBTを含む第一の溶液および,PMMAを含む第二の溶液を得た。第一の溶液50部に,第二の溶液50部を添加し,30?50℃の加熱を行うことで,最終的にC10BTBTの濃度が1.0%,PMMAの濃度が1.0%であるインク7を得た。 【0083】 例2(比較用) C10BTBT1.0部にクロロホルム99.0部を添加し,30?40℃の加熱を行うことで,C10BTBTを溶解させ,比較用の溶液(以下,比較溶液と記載)を得た。 【0084】 <ボトムコンタクト素子の作成> 以下の手法にて,図1Aに図示した構造を有するボトムコンタクト型の電界効果トランジスタ(以下,ボトム基板と記載)を作成した。ヘキサメチルジシラザン(以下,HMDSと記載)処理をした300nmのSiO_(2)熱酸化膜付きnドープシリコンウェハー(面抵抗0.02Ω・cm以下)上にレジスト材料を塗布,露光パターニングし,ここにクロムを1nm,さらに金を40nm蒸着した。次いでレジストを剥離して,ソース電極及びドレイン電極を形成させた(チャネル長25μm×チャネル幅2mm×20個である櫛型電極)。 上記のインク1?7および比較溶液の各々を,公知の処方にてHMDSによる表面処理を行ったボトム基板に,2?3mgを滴下することで基板上に半導体組成物を供給し,スピンコート法(回転数4000rpm回転時間25秒)にて,ボトム基板上に半導体薄膜を作成することで,本発明のボトムコンタクト型の電界効果トランジスタを得た(以下,ボトム素子と略す)。 【0085】 <トップコンタクト素子の作成> 上記インク1?7および比較溶液の各々を,HMDS処理をした300nmのSiO_(2)熱酸化膜付きnドープシリコンウェハー(面抵抗0.02Ω・cm以下)に,2?3mgを滴下することで基板上に半導体組成物を供給し,スピンコート法(回転数4000rpm回転時間25秒)にて,シリコン基板上に半導体薄膜を得た。半導体薄膜を形成した基板に,下記の熱処理を施した。その後,電極作成用シャドウマスクを取り付け,真空蒸着装置内に設置し,装置内の真空度が1.0×10^(-4)Pa以下になるまで排気した。次いで抵抗加熱蒸着法によって,金の電極(ソース電極及びドレイン電極)を40nmの厚さに蒸着(チャネル長200μm×チャネル幅2mm)し,図1Bに示した構造を有する,トップコンタクト型である電界効果トランジスタを得た(以下,トップ素子と略す)。 【0086】 上記のインク1?7および比較溶液の各々から作成した,半導体薄膜を含むトップ素子または,半導体薄膜を含むボトム素子の熱処理方法は以下のように行った。大気雰囲気下にてあらかじめ所定温度にて予熱を行っていたホットプレート上に,半導体薄膜を含む素子を乗せ,10分間静置後,速やかに室温環境下に移動した。ここで室温とは,おおむね22?25℃を示す。 【0087】 (キャリア移動度および閾値電圧の算出) 半導体のキャリア移動度(以下移動度)および閾値電圧の算出は「半導体デバイス物理特性および技術」[Sze,S.M.pp30-35,pp200-207(1985)]の記載内容に準拠して行った。移動度および閾値電圧は,半導体素子に対して,ソースおよびドレイン電圧(0?-100V)を印加することによって測定し,半導体応答曲線の飽和ソースドレイン電流を用いて算出した。移動度および閾値電圧は3つの素子にて測定を行い,その平均値を算出した。 【0088】 例3 <耐熱性の比較> PMMAを0.3%含有する上記インク1もしくは比較溶液から作成し,熱処理なし(室温),118℃,および150℃の熱処理を行ったボトム素子の移動度を表5に示す。 <途中省略> 【0090】 PMMAを含む本発明インクから作成した半導体素子は,熱処理を行わなくても,半導体特性を示した。さらに,PMMAを含む本発明インクから作成した半導体素子は,熱処理温度の上昇に伴い半導体特性の向上がみとめられ,特に150℃の熱処理に伴い,顕著な移動度の向上が認められたことから,有機半導体材料の融点以上の熱処理が有効であることが判明した。一方,PMMAを含まない比較溶液は,150℃の熱処理により半導体薄膜の融解が生じ,半導体素子の機能が失われることから,比較例溶液からの工業プロセスによるデバイス製造は困難であると考えられる。 【0091】 例4 <高分子材料の比較> PMMA,PS,PS-AN,P3HTをそれぞれ0.3%含有する上記インク1乃至4および比較溶液から作成し,150℃の熱処理を施したボトム素子の電界効果トランジスタの移動度を表6に示す。 【0092】 【表6】 【0093】 前述のように,高分子材料を含有しない比較溶液から作成した半導体素子は,150℃の熱処理に伴い融解と薄膜の崩壊が生ずるため,半導体特性を示さなかった。一方,PMMA,PS,PS-ANおよびP3HTの高分子材料を含むインク1?4は高分子材料の構造に依存せず,150℃の熱処理においても明瞭なキャリア移動度を示した。また,絶縁性高分子材料であるPMMA,PS,PS-ANを含む,本発明の電界効果トランジスタは,150℃の熱処理により高い移動度を示す。一方,半導体材料であるP3HTを含むトランジスタにおいては,閾値電圧の改善が認められ,低電圧で駆動するトランジスタとなった。 【0094】 例5 <高分子材料添加量と塗布性比較> 本発明インクのスピンコートによる製膜性について,表面をUV/オゾン処理によって親水化したSiO_(2)基板(以下,未処理基板)および,UV/オゾン処理後に公知の手法にてHMDSによる疎水化を行った基板(以下,HMDS処理基板)を用いて比較を行った。未処理基板又はHMDS処理基板上に,インク5乃至7および比較溶液を,2?3mgを滴下することで基板上に半導体組成物を供給し,スピンコート法(回転数4000rpm 回転時間25秒)にて,半導体薄膜を得た。 未処理基板または処理基板上での,半導体インク5乃至7または比較溶液による,SiO_(2)表面上でのスピンコート製膜性を表7に示す。 【0095】 【表7】 【0096】 ここでは,基板表面上に形成した半導体薄膜の面積から濡れ性を評価し,◎は有機半導体組成物が100%基板表面を覆った状態,○は98%以上覆った状態,△は90%以上覆った状態,×は80以下しか覆えなかった状態をそれぞれ示す。 未処理基板,HMDS処理基板共に,比較溶液,インク5,インク6の順番,すなわちPMMAの含有量の増加に伴い塗布性が改善した。特に,比較溶液を用いた場合,HMDS処理基板上では明瞭な半導体薄膜の形成が認められなかったのに対し,インク6では非常に良好な半導体薄膜の形成が認められた。インク7は,スピンコート法にとっては高粘度であり塗布性が悪くなっているため,濡れ性が低下した。しかし,PMMAの添加量を調整することでスピンコート法以外の塗布法にて製膜が可能となる。 【0097】 例6 <高分子材料の比較> PMMAの含有量が異なる上記のインク1,5?7から作成し,室温での熱処理を施したボトム素子の電界効果トランジスタの移動度を表8に示す。 【0098】 【表8】 【0099】 PMMAの含有量をC10BTBTに対して7?100%と広い範囲で変化させても,移動度に有意な差は認められず,良好な半導体特性を示すことから,半導体特性を維持しながら,高分子材料の添加量を広い範囲でコントロールできることが判明した。その結果,製膜性および粘度を自在に調製できるインクの作成が可能となった。 【0100】 例7 <トップコンタクト素子> PMMAを0.3%含有する上記のインク1から作成し,150℃の熱処理を施したトップ素子の電界効果トランジスタの移動度を表9に示す。 【0101】 【表9】 【0102】 本発明インクを用いたトップ素子においても,PMMAの共存下で明瞭なFET特性を示した。さらに,ボトム素子と比較して,移動度は10?100倍以上向上し,高分子材料を含有する組成物としては高い移動度を示した。また,室温による処理と比べて,150℃の熱処理によって電界効果トランジスタ特性が飛躍的に向上した。一方,比較溶液を用いた場合には,トランジスタ特性を示さなかった。 【0103】 本発明組成物および本発明インクから作成した電界効果トランジスタは,良好な大気安定性を示した。 【0104】 比較溶液から作成した電界効果トランジスタは,熱処理温度の向上に伴い半導体特性の向上が観測されるが,融点温度以上の熱処理では融解に伴い,半導体特性を示さなくなる。しかし,本発明組成物を用いることで,150℃の熱処理においても良好な電界効果トランジスタ特性を示し,熱処理温度の向上に伴い移動度の向上が認められた。 【0105】 電界効果トランジスタを用いたデバイス製造では,種々の工程で150℃の熱がかかってしまうことも多く,耐熱性の向上は非常に重要な課題であった。しかし,本発明組成物および本発明インクを用いることにより,有機半導体特性の向上と熱処理温度の向上を,初めて両立させた。さらに,本発明インクを用いることで,製膜性や粘度などを調製することが可能となり,半導体薄膜作成用の本発明インクを用いることで,スピンコート法だけでなく,種々のウエットプロセスにて半導体薄膜が作成可能となる。」 (2)引用発明1 上記の記載から,上記引用文献1には,インク2を基板上に塗布することにより半導体薄膜を形成することを含む電界効果トランジスタの製造方法に係る,次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 「有機半導体材料および高分子材料を含む組成物を基板上に塗布することにより,半導体薄膜を形成し,当該半導体薄膜を形成後に熱処理を行うことを含む,電界効果トランジスタの製造方法であって, 前記有機半導体材料が,融点;124℃の,2,7-デシル[1]ベンゾチエノ[3,2-b]ベンゾチオフェン(以下「C10BTBT」と記載する。)であり, 前記高分子材料が,Aldrich製,絶縁性ポリスチレン系高分子,ガラス転移温度50-110℃,溶融温度200℃,熱分解温度330℃以上の,ポリスチレン(以下「PS」と記載する。)であり, 前記C10BTBT2.0部にクロロフォルム98.0部を添加し,30?40℃の加熱を行うことで,C10BTBTを溶解させ,第一の溶液を調整し,PS2.0部にクロロホルム99.0部を添加し,30?40℃の加熱を行うことで,PSを溶解させ,第二の溶液を調整し,第一の溶液50部に,第二の溶液15部を添加し,30?50℃の加熱を行うことで,C10BTBTとPSが溶解した第三の溶液を調整し,さらに,クロロホルムを35部添加することで,最終的にC10BTBTの濃度が1.0%,PSの濃度が0.3%であるインク2を調整し, ヘキサメチルジシラザン(以下「HMDS」と記載する。)処理をした300nmのSiO_(2)熱酸化膜付きnドープシリコンウェハー(面抵抗0.02Ω・cm以下)上にレジスト材料を塗布,露光パターニングし,ここにクロムを1nm,さらに金を40nm蒸着し,次いでレジストを剥離して,ソース電極及びドレイン電極(チャネル長25μm×チャネル幅2mm×20個である櫛型電極)を形成してボトム基板となし, 上記のインク2を,公知の処方にてHMDSによる表面処理を行った前記ボトム基板に,2?3mgを滴下することで基板上に半導体組成物を供給し,スピンコート法(回転数4000rpm回転時間25秒)にて,前記ボトム基板上に半導体薄膜を作成して得たボトムコンタクト型の電界効果トランジスタ(以下「ボトム素子」と略す。)において, 前記有機半導体材料の融点である124℃よりも高い150℃の熱処理を施した前記ボトム素子の電界効果トランジスタの移動度が,14.0x10^(-4)cm^(2)V^(-1)S^(-1)である, 良好な耐熱性とトランジスタ特性を有する電界効果トランジスタの製造方法。」 (3)引用文献2ないし4について ア 当審拒絶理由で引用した引用文献2(特開2009-260340号公報:原査定の引用文献2)には,図面とともに次の事項が記載されている。 「【請求項1】 改善された移動度と可撓性とを有する薄膜トランジスタであって, ゲート誘電体層と半導体層とを含み,前記半導体層が半導体ポリマーおよび絶縁ポリマーを含む,薄膜トランジスタ。 【請求項2】 溶媒と,組成物全重量の0.1?5重量パーセントの結晶性半導体ポリマーと,組成物全重量の0.01?2.5重量パーセントの非晶質絶縁ポリマーとを含み,1.5センチポアズ?20センチポアズの粘度を有する半導体組成物。」 「【0010】 さらなる態様において,絶縁ポリマーはポリスチレン,ポリ(α-メチルスチレン),ポリ(4-ビニルビフェニル),ポリ(ビニルシンナメート),およびポリシロキサンからなる群より選択されてよい。 【0011】 絶縁ポリマーは少なくとも2,000,例えば約5,000?約1,000,000の重量平均分子量を有していてよい。」 「【0036】 絶縁ポリマーは,ポリスチレン,ポリ(α-メチルスチレン),ポリ(4-ビニルビフェニル),ポリ(ビニルシンナメート),およびポリシロキサンからなる群より選択されてよい。さらに,高分子量を有する絶縁ポリマーは,半導体層の加工特性を,その粘度を改変することによって改善することもできる。態様において,絶縁ポリマーは少なくとも2,000の重量平均分子量を有する。さらなる態様において,絶縁ポリマーは約5,000?約1,000,000の重量平均分子量を有する。さらに他の態様において,絶縁ポリマーは100,000以上の重量平均分子量を有する。 【0037】 一般的に言って,半導体層は絶縁ポリマーよりも多くの半導体ポリマーを含む。一部の態様において,絶縁ポリマーは,半導体層の総重量に対して,半導体層の約0.1?約60重量パーセント,例えば約0.1?約20重量パーセントを構成する。この適用はこの理論により制限されると解釈されるべきではないが,絶縁ポリマーは半導体層により良好な膜質(film quality)も提供すると信じられる。他の態様において,半導体層は実質的に均質である。言い換えれば,その組成がその厚さ,長さ,および幅にわたって同一である。」 「【0051】 200nm酸化シリコンを有するn型にドープしたシリコンウェハーを基板として用い,OTFT装置を製作した。ここでn型にドープしたシリコンはゲート電極として,また酸化シリコンはゲート誘電体層として機能した。プラズマ洗浄したウェハーをトルエン中の0.1M ドデシルトリクロロシラン溶液に60℃で20分間浸漬することにより,SAMシラン界面層でウェハー表面を修飾した。 【0052】 半導体溶液を,1gのジクロロベンゼン中に10mgのPBTBT-12と1mgのポリスチレン(Mw=280,000)とを加熱しながら溶解することにより調製した。PBTBT-12は以下に示す化学構造を有する。 【化12】 【0053】 0.45μmのシリンジフィルターを通して濾過した後,半導体溶液を上述のウェハー基板上に1000rpmにて90秒間スピンコーティングした。溶媒を乾燥後,金のソース/ドレイン電極をシャドーマスクを通して半導体層の上部に蒸着し,OTFT装置を完成した。比較のため,ポリスチレン成分を含まないコントロールとなる装置も同様な様式で作製した。 【0054】 装置はKeithley 4200-SCS機器を用いて周囲条件において暗所の下で特性を調べた。ポリスチレンを添加した装置は,より高いon電流(on-current)およびより良好な飽和挙動を示した。移動度およびしきい値電圧のデータを,10個超のトランジスタに対する伝達曲線(transfer curve)から抽出し,表1にまとめた。一般に,半導体層にポリスチレンを添加した装置は,ポリスチレンを添加しなかった装置と比較して,ずっと高い移動度と低いしきい値電圧とを示した。 【表1】 【0055】 従って,高分子半導体,特に高結晶性PBTBTの性能は,少量の絶縁ポリスチレンを添加することにより改善された。」 イ 上記記載から,引用文献2には,ゲート誘電体層と半導体層とを含み,前記半導体層が半導体ポリマーおよび絶縁ポリマーを含む,薄膜トランジスタにおいて, 一般的に言って,半導体層が絶縁ポリマーよりも多くの半導体ポリマーを含む場合,すなわち,絶縁ポリマーが,半導体層の総重量に対して,半導体層の約0.1?約60重量パーセント,例えば約0.1?約20重量パーセントを構成する場合に,絶縁ポリマーは半導体層により良好な膜質(film quality)を提供すると信じられていること,及び, 1gのジクロロベンゼン中に10mgのPBTBT-12と1mgのポリスチレン(Mw=280,000)とを加熱しながら溶解することにより調製した半導体溶液を用いて作製したOTFT装置が,0.25-0.34cm^(2)/V・secの移動度を示し,高結晶性PBTBTの性能は,少量の絶縁ポリスチレンを添加することにより改善されるという技術的事項が記載されていると認められる。 ウ 引用文献3(特開2009-267372号公報:原査定の引用文献1)には,図面とともに次の事項が記載されている。 「【請求項1】 低分子化合物と,キャリア輸送性を有する高分子化合物と,を含み, 前記高分子化合物の溶解度パラメータと,前記低分子化合物の溶解度パラメータとが,0.6以上1.5以下異なっている,ことを特徴とする有機半導体組成物。 【請求項2】 前記高分子化合物と前記低分子化合物とが,海島構造を形成している,ことを特徴とする請求項1記載の有機半導体組成物。 【請求項3】 前記高分子化合物及び前記低分子化合物の少なくとも一方が,液晶性を有する,ことを特徴とする請求項1又は2記載の有機半導体組成物。 【請求項4】 請求項1?3のいずれか一項に記載の有機半導体組成物を用いてなることを特徴とする有機薄膜。 【請求項5】 前記低分子化合物が,表面に偏在していることを特徴とする請求項4記載の有機薄膜。 【請求項6】 請求項4又は5記載の有機薄膜を備えることを特徴とする有機薄膜素子。 【請求項7】 ソース電極及びドレイン電極と,これらの電極間の電流経路となる有機半導体層と,前記電流経路を通る電流量を制御するゲート電極と,を備え, 前記有機半導体層が,請求項4又は5に記載の有機薄膜からなる,ことを特徴とする有機薄膜トランジスタ。」 「【0094】 有機薄膜の機械的特性を高めるため,有機半導体組成物は,キャリア輸送性高分子化合物及び低分子化合物に加えて,キャリア輸送性を有しない高分子化合物を更に含んでいてもよい。キャリア輸送性を有しない高分子化合物としては,非共役高分子化合物が例示でき,有機薄膜とした場合のキャリア輸送性を極度に阻害しないものが好ましい。また,可視光の吸収が強くないものも好ましい。このような非共役高分子化合物としては,例えば,ポリスチレン類(ポリスチレン,アイソタクチックポリスチレン,ポリ(α-メチルスチレン)等),ポリエチレン類(HDポリエチレン等),ポリプロピレン,ポリイソプレン,ポリブタジエン,ポリ(4-メチル-1-ペンテン),ポリ(テトラフルオロエチレン),ポリカーボネート,ポリアクリレート,ポリメチルアクリレート,ポリメチルメタクリレート,ポリ塩化ビニル等が挙げられる。また,これらの非共役高分子化合物を構成している繰り返し単位を有するコポリマー(ランダムコポリマー,ブロックコポリマー)が挙げられる。」 「【実施例】 【0146】 以下,本発明を実施例により更に詳細に説明するが,本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。 【0147】 [実験1] まず,キャリア輸送性高分子化合物として下記化学式(13),(14),(15),(16)及び(17)のいずれかで表される化合物,低分子化合物として下記化学式(18),(19)及び(20)のいずれかで表される化合物をそれぞれ準備した。なお,化合物(13)?(17)におけるn1,n2,n3,n4,n5は,括弧内の構造の繰り返し数を示す数であり,当該化合物のポリスチレン換算の重量平均分子量が,それぞれ69000(化合物(13)),145000(化合物(14)),351000(化合物(15)),42000(化合物(16)),164000(化合物(17))となるのに対応する数である。また,n1,n2,n3,n4,n5は,対応する化合物のポリスチレン換算の数平均分子量が,それぞれ41000(化合物(13)),73000(化合物(14)),85000(化合物(15)),22000(化合物(16)),23000(化合物(17))となるのに対応する数でもある。 【化7】 ・・・ 【0148】 次に,これらのキャリア輸送性高分子化合物及び低分子化合物の溶解度パラメータ(SP)を,上述した方法により求め,キャリア輸送性高分子化合物と低分子化合物との組み合わせによるSPの差(ΔSP)を算出した。得られた結果をまとめて表5に示す。表5中,化合物名に付された括弧内の数値が,各化合物が有しているSPの値であり,キャリア輸送性高分子化合物の列と低分子化合物の行とが交わる部分に記載された数値が,これらの化合物のSPの値の差の絶対値(ΔSP)である。 【表5】 【0149】 一例として,キャリア輸送性高分子化合物である化合物(13)と,低分子化合物である化合物(18)とを50:50(重量比)で混合して有機半導体組成物(ΔSP=1.00)を調製した。まず,これを溶媒であるクロロホルムに溶解した後,スピンコート法により薄膜を形成して,その薄膜の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。その結果,当該薄膜では,化合物(13)と化合物(18)とが海島構造を形成していることが確認された。 【0150】 この有機半導体組成物について,DSC法による測定を行った結果,化合物(13)の融解時に表れるピークが消滅した一方,化合物(18)の結晶相から液晶相への転移ピークがシフトし,吸熱量が減少していた。このことから,化合物(13)と化合物(18)とが部分的に相溶していることが確認された。 【0151】 また,キャリア輸送性高分子化合物である化合物(15)と,低分子化合物である化合物(18)とを30:70(重量比)で混合して有機半導体組成物(ΔSP=0.92)を調製した。まず,これを溶媒であるトルエンに溶解した後,スピンコート法により絶縁膜上に薄膜を形成して,薄膜をエネルギーフィルタ型透過電子顕微鏡(EF-TEM)により観察した。その結果,化合物(18)のみに含まれている硫黄が,薄膜と絶縁膜との界面,及び,薄膜の絶縁膜とは反対側の表面に偏在していることが確認された。これは,低分子化合物である化合物(18)が,薄膜の表面に偏在していることを意味する。ただし,薄膜表面から内側への硫黄の濃度勾配は緩やかであったことから,化合物(15)と化合物(18)とは分離していないことが確認された。なお,本明細書において,薄膜の「表面」とは,薄膜における,気体,液体,固体等のあらゆる成分との界面を意味する。例えば,薄膜と絶縁膜との界面,薄膜と大気との界面,薄膜と保護膜との界面等が挙げられる。 <途中省略> 【0154】 [実験2] (有機薄膜トランジスタの作製) キャリア輸送性高分子化合物として上記化合物(13)(SP=17.02)を,低分子化合物として上記化合物(18)(SP=18.02)を含む有機半導体組成物(ΔSP=1.00)を用いて,図12に示す構造を有する有機薄膜トランジスタを作製した。 【0155】 すなわち,まず,ゲート電極となる高濃度にドーピングされたn-型シリコン基板の表面を熱酸化し,200nmのシリコン酸化膜を形成した。この基板をアセトンで10分間超音波洗浄した後,オゾンUVを30分間照射した。その後,窒素を満たしたグローブボックス中で,オクタデシルトリクロロシラン(ODTS)のオクタン希釈液を用い,これに基板を15時間浸漬することによりこの基板表面をシラン処理した。 【0156】 また,化合物(13)(9,9-ジオクチルフルオレンとビチオフェンの共重合体;ポリスチレン換算の重量平均分子量=69,000)と,化合物(18)(ジドデシルベンゾチエノベンゾチオフェン)と,を溶媒であるクロロホルムに溶解して,これらの化合物の合計の濃度が0.5重量%である溶液(有機半導体組成物)を作製し,これをメンブランフィルターでろ過して塗布液を調製した。 【0157】 その後,得られた塗布液を,上記表面処理した基板上にスピンコート法により塗布し,約60nmの厚さを有する化合物(13)及び化合物(18)を含む薄膜(有機薄膜)を形成した。そして,メタルマスクを用いた真空蒸着法により,有機薄膜上に,チャネル長20μm,チャネル幅2mmのソース電極及びドレイン電極(有機薄膜側から,フラーレン及び金の積層構造を有する)を作製した。 【0158】 なお,実験2では,塗布液として,化合物(13)と化合物(18)との割合を下記の表6に示すように変えた各種のものを準備し,これらをそれぞれ用いて,サンプルNo.1?5までの5種類の有機薄膜トランジスタを作製した。 【0159】 (特性評価) 上述のようにして得られたサンプルNo.1?5のそれぞれの有機薄膜トランジスタについて,ゲート電圧Vgを0?-60V,ソース・ドレイン間電圧Vsdを0?-60Vに変化させた条件で,そのトランジスタ特性を測定した。かかる測定により得られた伝達特性から算出した,実験2の有機薄膜トランジスタによる電界効果移動度(移動度)を表に示す。 【表6】 」 エ 上記記載から,引用文献3には,次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。 「ソース電極及びドレイン電極と,これらの電極間の電流経路となる有機半導体層と,前記電流経路を通る電流量を制御するゲート電極と,を備えた有機薄膜トランジスタであって, 前記有機半導体層が,低分子化合物と,キャリア輸送性を有する高分子化合物と,を含み,前記高分子化合物の溶解度パラメータと,前記低分子化合物の溶解度パラメータとが,0.6以上1.5以下異なっている有機半導体組成物を用いてなる有機薄膜からなり, 前記低分子化合物が,ジドデシルベンゾチエノベンゾチオフェンであり, 前記キャリア輸送性を有する高分子化合物が,9,9-ジオクチルフルオレンとビチオフェンの共重合体(ポリスチレン換算の重量平均分子量=69,000)であり, 前記低分子化合物と,前記キャリア輸送性を有する高分子化合物との配合比(重量比)が,50:50である有機薄膜トランジスタについて,ゲート電圧Vgを0?-60V,ソース・ドレイン間電圧Vsdを0?-60Vに変化させた条件で測定した電界効果移動度(移動度)が,2.1cm^(2)/Vsである,有機薄膜トランジスタ。」 さらに,上記記載から,引用文献3には,引用発明2が,有機薄膜の機械的特性を高めるため,有機半導体組成物は,キャリア輸送性高分子化合物及び低分子化合物に加えて,キャリア輸送性を有しない高分子化合物を更に含んでいてもよく,キャリア輸送性を有しない高分子化合物としては,非共役高分子化合物が例示でき,有機薄膜とした場合のキャリア輸送性を極度に阻害しないものが好ましく,また,可視光の吸収が強くないものも好ましく,このような非共役高分子化合物としては,例えば,ポリスチレン類(ポリスチレン,アイソタクチックポリスチレン,ポリ(α-メチルスチレン)等),ポリエチレン類(HDポリエチレン等),ポリプロピレン,ポリイソプレン,ポリブタジエン,ポリ(4-メチル-1-ペンテン),ポリ(テトラフルオロエチレン),ポリカーボネート,ポリアクリレート,ポリメチルアクリレート,ポリメチルメタクリレート,ポリ塩化ビニル等が挙げられ,また,これらの非共役高分子化合物を構成している繰り返し単位を有するコポリマー(ランダムコポリマー,ブロックコポリマー)が挙げられるという技術的事項が記載されていると認められる。 オ 引用文献4(特開2007-519227号公報:原査定の引用文献3)には,図面とともに次の事項が記載されている。 「【請求項1】 有機半導体層処方であって,1,000Hzで3.3以下の誘電率εを有する有機結合剤および式A: 【化1】 式中, R_(1),R_(2),R_(3),R_(4),R_(5),R_(6),R_(7),R_(8),R_(9),R_(10),R_(11),およびR_(12)のそれぞれは,同一または異なっていてもよく,独立して,水素;任意に置換されたC_(1)?C_(40)のカルビルまたはヒドロカルビル基;任意に置換されたC_(1)?C_(40)のアルコキシ基;任意に置換されたC_(6)?C_(40)のアリールオキシ基;任意に置換されたC_(7)?C_(40)のアルキルアリールオキシ基;任意に置換されたC_(2)?C_(40)のアルコキシカルボニル基;任意に置換されたC_(7)?C_(40)のアリールオキシカルボニル基;シアノ基(-CN);カルバモイル基 (-C(=O)NH_(2));ハロホルミル基(-C(=O)-X,式中,Xは,ハロゲン原子を示す。);ホルミル基(-C(=O)-H);イソシアノ基;イソシアネート基;チオシアネート基またはチオイソシアネート基;任意に置換されたアミノ基;ヒドロキシ基;ニトロ基;CF_(3)基;ハロ基(Cl,Br,F);または任意に置換されたシリル基であり,;および 式中,R_(2)およびR_(3)および/またはR_(8)およびR_(9)は,C_(4)?C_(40)の飽和または不飽和の環を形成するように架橋されていてもよく,飽和または不飽和の環は,酸素原子,硫黄原子,式-N(Ra)-(式中,Raは,水素原子または任意に置換された炭化水素基)で示される基が介在していてもよい,;および 式中,ポリアセン骨格の1または2以上の炭素原子は,N,P,As,O,S,SeおよびTeから選択されるヘテロ原子によって任意に置換されていてもよい;および 式中,独立して,ポリアセンの隣接する環の位置に存在するいずれの2または3以上の置換基R_(1)?R_(12)は,ともに,ポリアセンに融合した,任意にO,Sまたは-N(Ra)(Raは,上記定義のとおりである)が割り込まれたさらなるC_(4)?C_(40)の飽和または不飽和の環または芳香族環系を構成してもよい,;および 式中,nは,0,1,2,3または4である, のポリアセン化合物を含む,前記処方。 <途中省略> 【請求項21】 請求項1?19のいずれかに記載の有機半導体層処方を含む,電子デバイス。」 「【0047】 本発明の好ましい態様では,半導体ポリアセンは,10^(-5)cm^(2)V^(-1)s^(-1)より大きい,好ましくは,10^(-4)cm^(2)V^(-1)s^(-1)より大きい,さらに好ましくは,10^(-3)cm^(2)V^(-1)s^(-1)より大きい,もっとさらに好ましくは,10^(-2)cm^(2)V^(-1)s^(-1)より大きいおよび最も好ましくは,10^(-1)cm^(2)V^(-1)s^(-1)より大きい電界効果移動度,μを有する。 ポリマーである結合剤は,絶縁結合剤または半導体結合剤,またはそれらの混合物のいずれかを含んでもよく,ここでは,有機結合剤,ポリマー結合剤または単に結合剤と呼ぶ。 本発明の好ましい結合剤は,低い誘電率の材料,すなわち1,000Hzにおいて3.3以下の誘電率,εを有するものである。有機結合剤は,好ましくは,1,000Hzにおいて3.0より小さい,さらに好ましくは,2.9以下の誘電率を有する。好ましくは,有機結合剤は,1,000Hzで1.7よりも大きい誘電率を有する。結合剤の誘電率が,2.0?2.9の範囲であることがとくに好ましい。ある特定の理論に束縛されることは望まないが,1,000Hzで3.3よりも大きい誘電率の結合剤を用いることは,電子デバイス,たとえばOFETのOSC層の移動度を減少させるかもしれないと考えられている。さらに,高い誘電率の結合剤は,また望ましくない増加した電流ヒステリシスをもたらし得る。 【0048】 有機結合剤の例は,ポリスチレンである。さらなる例は以下である。 好ましい態様の1つには,有機結合剤は,原子の少なくとも95%,さらに好ましくは少なくとも98%,とくに全部が,水素,フッ素および炭素原子からなるものである。 結合剤は,通常,共役結合,とくに共役二重結合および/または芳香環を含むのが好ましい。 結合剤は,好ましくは,膜を,さらに好ましくは柔軟な膜を形成できるようであるべきである。スチレンおよびアルファ-メチルスチレンのポリマー,たとえば,スチレン,アルファ-メチルスチレンおよびブタジエンを含むコポリマーを好適に用いてもよい。 本発明で用いる低い誘電率の結合剤は,さもなければ分子部位エネルギーに乱雑なばらつきをもたらす不変な双極子をほとんど有さない。誘電率(誘電定数)は,ASTM D 150テスト方法によって決定することができる。」 カ 上記記載から,引用文献4には,1,000Hzで3.3以下の誘電率εを有する有機結合剤と,所定の構造を有するポリアセン化合物を含む有機半導体層処方において,前記有機結合剤の例として,ポリスチレンがあり,当該有機半導体層処方が電子デバイスに用いられるという技術的事項が記載されていると認められる。 2 対比・判断 (1)本願発明1について ア 対比 本願発明1と引用発明1とを対比すると,次のことがいえる。 (ア)本願明細書【0002】の「いくつかの実施形態では,電子機器は,薄膜トランジスタである。」との記載に照らして,引用発明1の「電界効果トランジスタ」は,本願発明1の「電子機器」に相当する。 そうすると,引用発明1の「『電界効果トランジスタ』に含まれる『半導体薄膜』」は,本願発明1の「電子機器の半導体層」に相当する。 (イ)引用発明1の「Aldrich製,絶縁性ポリスチレン系高分子,ガラス転移温度50-110℃,溶融温度200℃,熱分解温度330℃以上の,ポリスチレン」は,技術常識に照らして,本願発明1の「『ポリマーバインダーとしての』『スチレン系ポリマー』」に相当する。 (ウ)引用発明1の「2,7-デシル[1]ベンゾチエノ[3,2-b]ベンゾチオフェン」は,本願発明1の「式(II)の低分子半導体」で特定される範囲に含まれる材料といえる。 (エ)引用発明1の「前記有機半導体材料の融点である124℃よりも高い150℃の熱処理を施し」と,本願発明1の「低分子半導体の融点よりも低い温度で前記組成物をアニーリング」とは,「所定の温度で組成物をアニーリング」する点で一致する。 したがって,本願発明1と引用発明1との間には,次の一致点,相違点があるといえる。 (一致点) 「電子機器の半導体層を製造するプロセスであって, ポリマーバインダーとしてのスチレン系ポリマーと,式(II)の低分子半導体とを混合した組成物を基板にコーティングし,均一な膜を作成し, 【化2】 ここで,式中,R_(2)及びR_(3)は,それぞれ独立して,アルキルであり, 所定温度で前記組成物をアニーリングし,前記半導体層を作成する,プロセス。」 (相違点) (相違点1)一致点に係る「『ポリマーバインダーとしての』『スチレン系ポリマー』」の重量平均分子量が,本願発明1では,「45,000乃至300,000」であるのに対して,引用発明1では,明記されていない点。 (相違点2)スチレン系ポリマーと低分子半導体とを混合した組成物における,両者の重量比が,本願発明1では,「1:1」であるのに対して,引用発明1では,「C10BTBTの濃度が1.0%,PSの濃度が0.3%」である点。 (相違点3)本願発明1が,「70乃至80℃で乾燥させた後,前記低分子半導体の融点よりも低い温度で前記組成物をアニーリングし,前記半導体層を作成し,半導体層の上部に,金のソース電極およびドレイン電極を真空蒸着させ,デバイスを完成」する工程を有するのに対して,引用発明1が,「ヘキサメチルジシラザン(以下「HMDS」と記載する。)処理をした300nmのSiO_(2)熱酸化膜付きnドープシリコンウェハー(面抵抗0.02Ω・cm以下)上にレジスト材料を塗布,露光パターニングし,ここにクロムを1nm,さらに金を40nm蒸着し,次いでレジストを剥離して,ソース電極及びドレイン電極(チャネル長25μm×チャネル幅2mm×20個である櫛型電極)を形成してボトム基板となし,上記のインク2を,公知の処方にてHMDSによる表面処理を行った前記ボトム基板に,2?3mgを滴下することで基板上に半導体組成物を供給し,スピンコート法(回転数4000rpm回転時間25秒)にて,前記ボトム基板上に半導体薄膜を作成して得たボトムコンタクト型の電界効果トランジスタ(以下「ボトム素子」と略す。)において,前記有機半導体材料の融点である124℃よりも高い150℃の熱処理を施」す工程を有する点。 (相違点4)一致点に係る半導体層の電界効果移動度が,本願発明1では,「0.10cm^(2)/V・secより大き」いのに対して,引用発明1では,「14.0x10^(-4)cm^(2)V^(-1)S^(-1)である」点。 イ 相違点についての判断 本願明細書の【0034】の「半導体組成物によって作られる半導体の移動度は,低分子半導体と特定のポリマーとの組み合わせによって影響を受けることがわかっている。式(I)の化合物を,多くの異なるポリマーと合わせてもよい。ある特定の実施形態では,ポリマーバインダーは,スチレン系ポリマーである。」との記載,及び【0037】の「ある実施形態では,式(I)の低分子半導体と,ポリマーバインダーとの重量比は,1:1付近である。式(II)の低分子半導体と,スチレン系ポリマーバインダーとの重量比は,望ましくは,約3:2?約2:3であり,最適には,約1:1の比率で機能する。」との記載から,本願発明1において,低分子半導体とスチレン系ポリマーバインダーとの重量比と,半導体組成物によって作られる半導体の移動度とが関連していると理解される。 そこで,上記相違点2と相違点4とを併せて最初に検討すると,引用文献1には,C10BTBTと,PSとを,重量比で「1:1」の比率とすることは記載されていない。 一方,引用文献1の【0096】-【0099】には,C10BTBTに対して,PMMAの含有量を変化させることは記載されている。 しかしながら,【0099】には,「PMMAの含有量をC10BTBTに対して7?100%と広い範囲で変化させても,移動度に有意な差は認められず」と記載されていることに照らして,引用発明1において,C10BTBTと,PSとを,重量比で「1:1」の比率とする積極的な動機を見いだすことはできず,また,引用発明1において,「14.0x10^(-4)cm^(2)V^(-1)S^(-1)であ」った半導体層の電界効果移動度が,本願発明1で特定する「0.10cm^(2)/V・secより大き」い値となることを予測し得たとも認められない。 しかも,引用文献2に「一般的に言って,半導体層は絶縁ポリマーよりも多くの半導体ポリマーを含む。一部の態様において,絶縁ポリマーは,半導体層の総重量に対して,半導体層の約0.1?約60重量パーセント,例えば約0.1?約20重量パーセントを構成する。この適用はこの理論により制限されると解釈されるべきではないが,絶縁ポリマーは半導体層により良好な膜質(film quality)も提供すると信じられる。」(【0037】)と記載されていることに照らして,スチレン系ポリマーと低分子半導体とを混合した組成物における,両者の重量比を「1:1」とすることには,阻害事由が存在するともいえる。 してみれば,引用文献1,2に記載された技術的事項から,引用発明1において,上記相違点2,4について本願発明1の構成となすことが当業者にとって容易であったとは認められない。 さらに,引用文献3,4に記載された発明及び技術的事項を参酌しても,引用発明1において,上記相違点2,4について本願発明1の構成となすことが当業者にとって容易であったとは認められない。 そうすると,他の相違点については検討するまでもなく,本願発明1は,引用発明1及び引用文献1ないし4に記載された発明及び技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 (2)本願発明2について 本願発明2は,上記相違点2及び4の構成とを備えるから,上記「(1)本願発明1について」と同様の理由により,引用文献1ないし4に記載された発明及び技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。 第6 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について 当審では,「本願明細書の記載によれば,本願発明の課題は,『高い移動度と優れた安定性を達成する』ことであると認められる・・・しかしながら,上記ウの理解に照らして,少なくとも,2,7-ジトリデシル-[1]ベンゾチエノ[3,2-b]ベンゾチオフェン又は,2,7-ジペンチル-[1]ベンゾチエノ[3,2-b]ベンゾチオフェン以外の低分子化合物や重量平均分子量が45,000?300,000の範囲を外れるスチレン系のポリマーを用い,1:1以外の重量比で混合した場合においても同様な結果が得られることは示されていない。(イ)すなわち,請求項1の記載は,発明の詳細な説明において効果があることが示された範囲を超えている。したがって,本願明細書の記載はもとより,本願出願当時の技術常識に照らしても,請求項1の記載によって特許を請求しようとする範囲の全てにおいて,本願発明の課題を解決できると当業者が認識することはできないというべきである。」との拒絶理由を通知しているが,平成29年11月22日付けの手続補正書による補正と,同日に提出された意見書における説明によって,この拒絶の理由は解消した。 第7 特許法第36条第6項第2号(明確性要件)について 当審では,「請求項1は,『・・・前記半導体組成物は,0.10cm^(2)/V・secより大きな電界効果移動度を有する層を作成することができる,半導体組成物』と記載され,半導体組成物の発明である。しかし,その『半導体組成物』が『作成することができる』層の特性で記述されており,『半導体組成物』自体の構造や特性とどのような関係があるのか不明である。よって,請求項1に係る発明は,明確でない。」との拒絶理由を通知しているが,平成29年11月22日付けの手続補正書による補正によって,補正前の請求項1が削除されたことによって,この拒絶の理由は解消した。 第8 原査定についての判断 平成29年11月22日付けの手続補正書による補正により,補正後の請求項1,2は,いずれも,ポリマーバインダーとしての重量平均分子量45,000乃至300,000のスチレン系ポリマーと,式(II)の低分子半導体との混合が,「1:1の重量比」であり,「半導体層が,0.10cm^(2)/V・secより大きな電界効果移動度を有する」という技術的事項を有するものとなった。 そして,当該技術的事項は,原査定における引用文献1ないし3には記載されておらず,本願優先権主張の日前における周知技術でもない。 したがって,本願発明1,2は,原査定における引用文献1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることはできたものとも認められない。 したがって,原査定を維持することはできない。 第9 むすび 以上のとおり,原査定の理由によって,本願を拒絶することはできない。 他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2018-02-19 |
出願番号 | 特願2011-271276(P2011-271276) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H01L)
P 1 8・ 537- WY (H01L) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 竹口 泰裕 |
特許庁審判長 |
深沢 正志 |
特許庁審判官 |
飯田 清司 加藤 浩一 |
発明の名称 | 半導体組成物 |
代理人 | 特許業務法人共生国際特許事務所 |