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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L |
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管理番号 | 1337631 |
審判番号 | 不服2017-389 |
総通号数 | 220 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-04-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-01-11 |
確定日 | 2018-02-22 |
事件の表示 | 特願2015- 86231「熱硬化性樹脂組成物、光半導体素子搭載用基板及びその製造方法、並びに光半導体装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 8月20日出願公開、特開2015-149507〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成20年10月10日(優先権主張平成20年4月25日)に出願した特願2008-264136号(以下「原出願」という。)の一部を平成24年11月2日に新たな特許出願とした特願2012-256297号の一部を平成27年4月20日に新たな特許出願としたものであって、同年5月19日に手続補正(自発)がなされ、平成28年2月4日付けで拒絶理由が通知され、同年6月8日に手続補正がなされたが、同年10月3日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成29年1月11日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされ、その後、当審において、同年9月15日付けで拒絶理由が通知され、同年11月20日に手続補正がなされたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成29年11月20日付け手続補正により補正された請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「底面及び内周側面から構成される凹部を有するとともに該内周側面を形成する樹脂成形品を有し、該底面が光半導体素子搭載領域である光半導体素子搭載用基板に用いられる熱硬化性樹脂組成物であって、 エポキシ樹脂、硬化剤、硬化触媒及び白色顔料を含有し、 前記エポキシ樹脂が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ジグリシジルイソシアヌレート、トリグリシジルイソシアヌレート、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、フタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、ナジック酸又はメチルナジック酸から誘導されるジカルボン酸ジグリシジルエステル、及び、核水素化トリメリット酸又は核水素化ピロメリット酸から誘導されるグリシジルエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種のエポキシ樹脂であり、 前記硬化剤が、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、無水ナジック酸、無水グルタル酸、無水ジメチルグルタル酸、無水ジエチルグルタル酸、無水コハク酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸及びメチルテトラヒドロ無水フタル酸からなる群より選ばれる酸無水物系硬化剤であり、 前記硬化触媒の含有量が、前記エポキシ樹脂及び前記硬化剤の合計量100重量部に対して1.5?5重量部の範囲内にあり、 当該熱硬化性樹脂組成物を金型温度180℃、硬化時間90秒の条件でトランスファー成形して得られる硬化物のガラス転移温度が、150℃、3時間の加熱によって更にアフターキュアされた後の当該硬化物に対して-5%?+5%の範囲内にある、熱硬化性樹脂組成物。」(なお、下線は、請求人が手続補正書において付したものである。) 第3 引用文献の記載 (1)当審拒絶理由に引用した、原出願の優先日前に日本国内または外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2007/142018号(以下「引用文献」という。)には、図とともに、以下の記載がある。 ア 「請求の範囲 [1] 光半導体素子搭載領域となる凹部を有する光半導体素子搭載用パッケージであつ て、少なくとも前記凹部側面を形成する、熱硬化性光反射用樹脂組成物からなる樹脂成形体と、前記凹部底面の一部を形成するように対向して配置された少なくとも一 対の正および負のリード電極と、を一体化してなり、前記樹脂成形体と前記リード電極の接合面に隙間がないことを特徴とする光半導体素子搭載用パッケージ。 [2] …… [4] 前記熱硬化性光反射用樹脂組成物は、(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)硬化促進剤、(D)無機充填剤、(E)白色顔料、(F)カップリング剤を成分として含み、熱硬化後の、波長350nm?800nmにおける光反射率が80%以上で、かつ常温(0?35℃)で加圧成形が可能な樹脂組成物であることを特徴とする請求項1または2に記載の光半導体素子搭載用パッケージ。」 イ 「[0024] [図1]本発明の光半導体素子搭載用パッケージの一実施形態を示す斜視図と断面図である。 [図2]本発明の光半導体装置の一実施形態を示す断面図である。」 ウ 「[0033] 上記(C)硬化促進剤(硬化触媒)としては、…を用いることが好ましい。上記硬化促進剤の含有率は、エポキシ樹脂100重量部に対して、0.01?8.0重量部であることが好ましくより好ましくは、0.1?3.0重量部である。硬化促進剤(硬化触媒)の含有率が、0.01重量部未満では、充分な硬化促進効果を得られない場合があり、また、8.0重量部を超えると、得られる硬化体に変色が見られる場合がある。」 エ 「[0043] (パッケージの製造方法) 本発明の光半導体素子搭載用パッケージの製造方法は、特に限定されないが、熱硬化性光反射用樹脂組成物とリード電極をトランスファー成形により一体成形し、製造することが好ましい。トランスファー成形により成形することで、リード電極と樹脂成形 体の間に隙間が生じ難くなる。より具体的には、例えば、リード電極を所定形状の金型に配置し、金型の樹脂注入口から熱硬化性光反射用樹脂組成物を注入し、これを好ましくは金型温度170?190℃、成形圧力2?8MPaで60?120秒の条件で硬化させ、金型から取り外した後、アフターキュア温度120℃?180℃で1?3時間の条件にて熱硬化させることで製造することができる。 [0044] (光半導体装置) 本発明の光半導体装置は、本発明の光半導体素子搭載用パッケージと、光半導 体素子搭載用パッケージの凹部底面に搭載される光半導体素子と、光半導体素子 を覆うように凹部内に形成される透明封止樹脂層と、を少なくとも備えることを特徴とするものである。」 オ 「[0049] 実施例1 (リードフレーム) 厚さ 0.15mmの銅フレームに、一般的なフォトエッチングプロセスを適用し、リード電極を含む回路を形成した後、当該回路に電解Agめっきを行いリードフレームとした。 [0050] …… [0052](光半導体素子搭載用パッケージの成形) 上記で得たリードフレームを金型に位置あわせして取り付け、上記で得た熱硬化性光反射用樹脂組成物を金型に注入し、金型温度180℃、90秒間、6.9MPaでトランスファー成型し、素子搭載領域に凹部を有し、かつ当該凹部底面にて正負のリード電極が露出した光半導体搭載用パッケージを作製した。 [0053] …… [0055] 実施例2 [表3] [0056] 上記組成の材料を、混練温度30?40℃、混練時間10分の条件でロール混練を行い、熱硬化性光反射用樹脂組成物を作製した。得られた樹脂組成物のスパイラルフローは100cm(硬化時間90秒)で、円板フローは55mm(硬化時間90秒)であつた。また、得られた樹脂組成物の硬化物の光反射率は90%以上(350?850nm)であった。 [0057] さらに、上記で得た熱硬化性光反射用樹脂組成物を用い、実施例1と同様にして光半導体搭載用パッケージおよび光半導体装置を作製した。」 カ 図1は、以下のものである。 キ 図2は、以下のものである。 (2)引用文献に記載された発明 ア 上記(1)ア及びイの記載を踏まえて、図1及び図2を見ると、 引用文献には、 「光半導体素子搭載領域となる凹部を有する光半導体素子搭載用パッケージの、少なくとも前記凹部側面を形成する、熱硬化性光反射用樹脂組成物であって、 (A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)硬化促進剤、(D)無機充填剤、(E)白色顔料、(F)カップリング剤を成分として含む、熱硬化性光反射用樹脂組成物。」が記載されているものと認められる。 イ 上記(1)ウの記載によれば、 上記アの「(C)硬化促進剤」は、 上記「(A)エポキシ樹脂」100重量部に対して、0.01?8.0重量部であることが好ましいことが理解できる。 ウ 上記(1)エ及びオの記載を踏まえて、表3を見ると、 上記アの「熱硬化性光反射用樹脂組成物」は、 「トリグリシジルイソシアヌレート 100重量部、 へキサヒドロ無水フタル酸 125重量部、 硬化促進剤 2.4重量部、 無機充填剤 1360重量部、 白色顔料 435重量部、 カップリング剤 9重量部、 を成分として含むものであってもよいものと認められる。 エ また、上記(1)エ及びオの記載によれば、 上記アの「光半導体素子搭載用パッケージ」は、具体的には、 熱硬化性光反射用樹脂組成物を金型に注入し、金型温度180℃、90秒間、6.9MPaでトランスファー成型(以下、表記を「トランスファー成形」に統一する。)されたものと認められる。 オ さらに、上記(1)エ及びオの記載を踏まえて、図1及び図2を見ると、 上記アの「光半導体素子搭載領域となる凹部」は、底面及び凹部側面から構成されることが理解できる。 カ 上記アないしオより、引用文献には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「光半導体素子搭載領域となる底面及び凹部側面から構成される凹部を有する光半導体素子搭載用パッケージの、少なくとも前記凹部側面を形成する、熱硬化性光反射用樹脂組成物であって、 前記光半導体素子搭載用パッケージは、上記熱硬化性光反射用樹脂組成物を金型に注入し、金型温度180℃、90秒間、6.9MPaでトランスファー成形されたものであり、 前記熱硬化性光反射用樹脂組成物は、 トリグリシジルイソシアヌレート 100重量部、 へキサヒドロ無水フタル酸 125重量部、 硬化促進剤 2.4重量部、 無機充填剤 1360重量部、 白色顔料 435重量部、 カップリング剤 9重量部、 を成分として含む、熱硬化性光反射用樹脂組成物。」 第4 対比・判断 1 本願発明と引用発明を対比する。 (1)引用発明の「熱硬化性光反射用樹脂組成物」は、本願発明の「熱硬化性樹脂組成物」に相当する。 以下、同様に、 「トリグリシジルイソシアヌレート」は、「エポキシ樹脂」及び「トリグリシジルイソシアヌレート」に、 「へキサヒドロ無水フタル酸」は、「硬化剤」及び「ヘキサヒドロ無水フタル酸」に、 「硬化促進剤」は、「硬化触媒」に、 「白色顔料」は、「白色顔料」に、それぞれ、相当する。 (2)ア 本願発明の「光半導体素子搭載用基板」に関して、本願明細書には、図とともに、以下の記載がある。 (ア)「【0107】 図1は光半導体装置の一実施形態を示す斜視図であり、図2は図1のII-II線に沿う断面図である。図1、2に示す光半導体装置1は、底面S1及び内周側面S2から構成される凹部11を有する光半導体素子搭載用基板10と、光半導体素子搭載領域である底面S1に搭載された光半導体素子20と、光半導体素子20を凹部11内で覆う封止樹脂層30とから主として構成される。」 (イ)図1は、以下のものである。 上記記載からして、本願発明の「光半導体素子搭載用基板」は、 「底面及び内周側面から構成される凹部を有し、該底面が光半導体素子搭載領域である樹脂成形品」であると解される。 イ 一方、引用発明の「光半導体素子搭載用パッケージ」は、「光半導体素子搭載領域となる底面及び凹部側面から構成される凹部を有する」樹脂成形品である。 ウ してみると、引用発明の「光半導体素子搭載用パッケージ」は、本願発明の「光半導体素子搭載用基板」に相当する。 (3)上記(1)及び(2)を整理すると、本願発明と引用発明とは、 「底面及び内周側面から構成される凹部を有するとともに該内周側面を形成する樹脂成形品を有し、該底面が光半導体素子搭載領域である光半導体素子搭載用基板に用いられる熱硬化性樹脂組成物であって、 エポキシ樹脂、硬化剤、硬化触媒及び白色顔料を含有し、 前記エポキシ樹脂が、トリグリシジルイソシアヌレートであり、 前記硬化剤が、ヘキサヒドロ無水フタル酸である」点で一致する。 (4)引用発明の「硬化促進剤」の含有量は、「トリグリシジルイソシアヌレート」及び「へキサヒドロ無水フタル酸」の合計量100重量部に対して「約1.07重量部」になることから、 本願発明と引用発明とは、「硬化触媒の含有量が、エポキシ樹脂及び硬化剤の合計量100重量部に対して所定範囲内にある」点で一致する。 (5)また、引用発明の「光半導体素子搭載用パッケージ」は、熱硬化性光反射用樹脂組成物を金型に注入し、金型温度180℃、90秒間、6.9MPaでトランスファー成形されたものであるから、その硬化物のガラス転移温度が150℃、3時間の加熱によって更にアフターキュアされた後の当該硬化物に対して(変動率が)所定範囲内にあることは、当業者にとって明らかである。 してみると、本願発明と引用発明とは、「熱硬化性樹脂組成物を金型温度180℃、硬化時間90秒の条件でトランスファー成形して得られる硬化物のガラス転移温度が、150℃、3時間の加熱によって更にアフターキュアされた後の当該硬化物に対して(変動率が)所定範囲内にある」点で一致する。 (6)以上のことから、本願発明と引用発明とは以下の点で一致する。 <一致点> 「底面及び内周側面から構成される凹部を有するとともに該内周側面を形成する樹脂成形品を有し、該底面が光半導体素子搭載領域である光半導体素子搭載用基板に用いられる熱硬化性樹脂組成物であって、 エポキシ樹脂、硬化剤、硬化触媒及び白色顔料を含有し、 前記エポキシ樹脂が、トリグリシジルイソシアヌレートであり、 前記硬化剤が、ヘキサヒドロ無水フタル酸であり、 前記硬化触媒の含有量が、前記エポキシ樹脂及び前記硬化剤の合計量100重量部に対して所定範囲内にあり、 当該熱硬化性樹脂組成物を金型温度180℃、硬化時間90秒の条件でトランスファー成形して得られる硬化物のガラス転移温度が、150℃、3時間の加熱によって更にアフターキュアされた後の当該硬化物に対して所定範囲内にある、熱硬化性樹脂組成物。」 (7)一方で、本願発明と引用発明とは、以下の点で相違する。 <相違点1> 硬化触媒の含有量の所定範囲に関して、 本願発明は、「1.5?5重量部の範囲内」であるのに対して、 引用発明は、約1.07重量部である点。 <相違点2> ガラス転移温度の所定範囲に関して、 本願発明は、「5%?+5%の範囲内」であるのに対して、 引用発明は、不明である点。 2 判断 (1)上記<相違点1>及び<相違点2>について、まとめて検討する。 ア 本願発明の「熱硬化性樹脂組成物」における「エポキシ樹脂」と「硬化剤」の配合割合は、何ら特定されるものではない。 このことを前提にして、本願発明の「硬化触媒の含有量が、エポキシ樹脂及び硬化剤の合計量100重量部に対して1.5?5重量部の範囲内にあり」との技術的意義を、本願明細書の記載を参酌して検討する。 なお、平成28年6月8日の手続補正により、出願当初の表2に示された、実施例B1から実施例B11のうち、実施例B1から実施例B3は実施例として残り、実施例B4から実施例B11は参考例となっている。 (ア)本願明細書には、以下の記載がある(なお、下記の摘記箇所は、補正されていない。)。 「【0035】 本実施形態に係る熱硬化性樹脂組成物を金型温度180℃、成形圧力6.9MPa、硬化時間90秒の条件でトランスファー成形して得られる硬化物を、150℃、3時間の加熱によって更にアフターキュアしたとき、アフターキュアされる前の硬化物の硬化度は、アフターキュアされた後の硬化物の硬化度と実質的に同等である。言い換えると、アフターキュアされる前の硬化物は、アフターキュアされた後の硬化物と実質的に同等のガラス転移温度、40℃における貯蔵弾性率又はガラス領域における線膨張係数を有する。より具体的には、トランスファー成形して得られる硬化物の、ガラス転移温度、40℃における貯蔵弾性率及びガラス領域における線膨張係数のうち少なくともいずれか一つは、150℃、3時間の加熱によって更にアフターキュアされた後の当該硬化物に対して±5%以内にある。」 「【0039】 熱硬化性樹脂組成物を、熱硬化をともなう成形方法によって成形して、樹脂成形品を製造することができる。硬化条件は特に限定されない。成形方法としては、例えば、トランスファー成形、圧縮成形及び注型成形のような方法がある。半導体封止樹脂、光半導体封止樹脂、光半導体素子搭載用基板用の樹脂の成形は、例えば、金型温度180℃、成型圧力6.9MPa、硬化時間90秒のトランスファー成形によって行われる。この程度の短時間の硬化であっても、本実施形態に係る熱硬化性樹脂組成物によれば十分な硬化度を達成することが可能であることから、従来必要とされたアフターキュア工程を省略できる。」 「【0081】 熱硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂100重量部と、硬化剤1?150重量部とを含有することが好ましい。成形時の樹脂汚れを抑制するという観点から、エポキシ樹脂100重量部に対して、硬化剤が50?120重量部であることがより好ましい。」 「【0084】 硬化触媒の含有量は、エポキシ樹脂と(B)硬化剤の合計総重量100重量部に対して、好ましくは1?5重量部、より好ましくは1?3重量部の範囲内にある。硬化促進剤の含有量が1重量部未満であると、硬化促進効果が小さくなる傾向があり、5重量部を超えると、得られる成形体に変色が見られる場合がある。」 「【0126】 表2に示されるように、各実施例の熱硬化性樹脂組成物を金型温度180℃、90秒の条件で熱硬化させて得られた硬化物(成形物)は、これをアフターキュアして硬化反応を更に進行させて得られる硬化物と実質的に同等の物性値(貯蔵弾性率、Tg及び線膨張係数)を示した。具体的にはアフターキュア前後で各物性値の変化率がいずれも±5%以内であった。貯蔵弾性率、ガラス転移点及び線膨張係数の値は、樹脂組成物に含まれる多官能エポキシ樹脂と硬化剤の化学反応によって生じた架橋度合いを反映している。これらの物性値がアフターキュア前後で大きく変化する場合は、アフターキュア前の硬化物の架橋反応が十分に進行していないと考えられる。」 (イ)上記記載からして、 エポキシ樹脂と硬化剤の好適な配合割合は、エポキシ樹脂100重量部に対して硬化剤1?150重量部であり、硬化触媒の好適な含有量は、エポキシ樹脂と硬化剤の合計総重量100重量部に対して硬化触媒1?5重量部である。 そうすると、合計総重量100重量部におけるエポキシ樹脂の割合(内訳)は、好適には、40ないし99重量部であり、これに対して、硬化触媒を1?5重量部を配合すればよいことになる。 また、エポキシ樹脂の物性値がアフターキュア前後で大きく変化する場合は、アフターキュア前の硬化物の架橋反応が十分に進行していないことが理解できる。 (ウ)してみると、上記「硬化触媒の含有量が、エポキシ樹脂及び硬化剤の合計量100重量部に対して1.5?5重量部の範囲内にあり」との技術的意義は、 硬化時間90秒という短時間のトランスファー成形の条件下で、「熱硬化性樹脂組成物」に含まれるエポキシ基と活性基との間の架橋反応を十分に進行させる、つまり、硬化時間90秒の間に、両者の架橋反応を終わらせることができる硬化触媒の含有量を規定することにあるものと解される。 イ 一方、引用文献の[0033]には「硬化促進剤の含有率は、エポキシ樹脂100重量部に対して、0.01?8.0重量部であることが好ましくより好ましくは、0.1?3.0重量部である。硬化促進剤(硬化触媒)の含有率が、0.01重量部未満では、充分な硬化促進効果を得られない場合があり、また、8.0重量部を超えると、得られる硬化体に変色が見られる場合がある。」(摘記ウを参照。)と記載されており、引用発明の「硬化促進剤」の含有量は、「エポキシ樹脂100重量部」に対して規定されたものであることが理解できる。 ウ ところで、エポキシ樹脂における架橋は、エポキシ樹脂のエポキシ基と硬化剤の活性基とが反応することで生じるものである。このとき、硬化触媒(硬化促進剤)は、エポキシ基と活性基の反応を促進する触媒として作用するものであるから、その必要量は、エポキシ基の量又は活性基の量に依存し、その多寡が架橋反応の速度に影響することは明らかである。 そうすると、硬化触媒(硬化促進剤)の必要量は、エポキシ基の量又は活性基の量に応じて規定する必要があるから、「エポキシ樹脂と硬化剤の合計総重量100重量部」の内訳、つまり、エポキシ樹脂の量又は硬化剤の量に応じて規定するか、「エポキシ樹脂100重量部」に応じて規定するかは、当業者が適宜決め得ることである(なお、当審拒絶理由で引用した特開平3-177058号公報(第3頁右上欄第2ないし4行)には、硬化剤の量に応じて0.5?5重量%とすることが、同様に、当審拒絶理由で引用した特開2005-36085号公報(【0051】)には、エポキシ樹脂と硬化剤の総量に対して0.2?10重量%とすることが記載されている。)。 エ してみると、引用発明において、硬化時間90秒という短時間のトランスファー成形の条件下で、エポキシ基と活性基との間の架橋反応を十分に進行させるために、硬化促進剤の含有量を、「エポキシ樹脂と硬化剤の合計総重量100重量部」の内訳、つまり、エポキシ樹脂の量に応じて規定するとともに、その量を「2?3重量部」とすることは、適宜なし得た設計事項である。 オ 上記エのようにした引用発明の「熱硬化性光反射用樹脂組成物」は、該「熱硬化性樹脂組成物」に含まれるエポキシ基と活性基との間の架橋反応が十分に進行する特性を備えたもの、つまり、ガラス転移温度のアフターキュア前後の変化率が「-5%?+5%の範囲内」となる特性を備えたものであると認められる カ 以上の検討によれば、引用発明において、上記<相違点1>及び<相違点2>に係る本願発明の発明特定事項を採用することは、当業者が容易になし得たことである。 (2)効果 本願発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果から予測し得る範囲内のものである。 3 平成29年11月20日提出の意見書について 請求人は、意見書の「(3.3)理由2(特許法第29条第2項)について」において、以下のように主張するので、この点について検討する。 「上記相違点について更に検討しますと、引用文献には、熱硬化性光反射用樹脂組成物における硬化促進剤(硬化触媒)の含有量について、エポキシ樹脂に対する含有率が記載されているにすぎず(段落[0033])、その他、硬化触媒の含有量を、エポキシ樹脂及び硬化剤の合計量100重量部に対して特定の範囲内とする構成を意図した記載は見当たりません。したがって、当該引用文献に接した当業者が上記相違点に係る本願発明の構成を採用する動機付けを得ることはできません。」(第4頁中段) しかしながら、引用文献の【0033】には「硬化促進剤の含有率は、エポキシ樹脂100重量部に対して、0.01?8.0重量部であることが好ましくより好ましくは、0.1?3.0重量部である。硬化促進剤(硬化触媒)の含有率が、0.01重量部未満では、充分な硬化促進効果を得られない場合があり、また、8.0重量部を超えると、得られる硬化体に変色が見られる場合がある。」(摘記ウを参照。)と記載されており、引用発明の「硬化促進剤」の含有量を、変色しない範囲内で増加することは充分に動機付けがあるといえる。 そして、硬化促進剤の必要量は、エポキシ基の量又は活性基の量に応じて規定する必要があるから、「エポキシ樹脂及び硬化剤の合計量100重量部」の内訳に応じて規定することは、当業者が容易になし得たことである。 よって、請求人の上記主張は、上記判断を左右するものではない。 4 まとめ 本願発明は、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。 第5 むすび 以上のとおり、本願発明は、当業者が引用文献に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-12-13 |
結審通知日 | 2017-12-19 |
審決日 | 2018-01-05 |
出願番号 | 特願2015-86231(P2015-86231) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H01L)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小濱 健太 |
特許庁審判長 |
恩田 春香 |
特許庁審判官 |
森 竜介 星野 浩一 |
発明の名称 | 熱硬化性樹脂組成物、光半導体素子搭載用基板及びその製造方法、並びに光半導体装置 |
代理人 | 吉住 和之 |
代理人 | 清水 義憲 |
代理人 | 阿部 寛 |
代理人 | 平野 裕之 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |