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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05K
管理番号 1337751
審判番号 不服2016-8127  
総通号数 220 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-06-02 
確定日 2018-02-21 
事件の表示 特願2013-552102「ガスフラックス媒体を用いるレーザ半田付けにより2つの基板の端子面を電気的に接触させるための方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔2012年8月9日国際公開、WO2012/103868、平成26年3月6日国内公表、特表2014-506012〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は、2012年1月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年2月2日、ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、平成28年1月28日付けで拒絶査定され(発送日:同年2月9日)、これに対し、同年6月2日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に手続補正されたが、その後、当審において、平成29年1月27日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内である同年7月28日に意見書が提出されたものである。
そして、本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成28年6月2日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項1】
第1及び第2基板(6,7)の端子面を電気的に接触させるための方法であって、
前記第2基板(7)に面する端子面を有する前記第1基板(6)は、前記第2基板(7)の端子面と電気的かつ機械的に直接接続され、前記第1基板(6)の前記端子面には、半田付け剤塗膜(10)が塗布され、前記方法は、第1段階と第2段階とを含む連続する二段階で行われ、
前記第1段階において、
前記第1基板(6)を、その端子面が前記第2基板(7)の前記端子面と対向するように配置し、
少なくとも前記第2基板(7)上における前記第1基板(6)の機械的固定、および、互いに面している前記端子面の電気的接触を可能にする程度まで、前記半田付け剤(10)を溶融させるように、フラックスを設けることなく、レーザエネルギ(5)を前記第1基板(6)の前記端子面と反対側の表面から前記第1基板(6)に照射し、
前記第2段階において、
ハウジング(3)の内部に配置されている、前記第1及び第2基板(6,7)により形成された部品配置に、気体状態のフラックス媒体を与え、
同時に前記第1基板(6)の前記端子面と反対側の前記表面から前記第1基板(6)に照射されたレーザエネルギ(5)により、前記半田付け剤(10)が再溶融され、
その後、前記ハウジング(3)の前記内部を洗浄する処理が行われる、方法。」

第2 刊行物
1 刊行物1
これに対して、当審が通知した拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された特開2011-3765号公報(以下「刊行物1」という。)には、「半導体装置の製造方法」に関して、図面(特に、【図1】ないし【図3】、【図7】、【図8】参照。)と共に、次の事項が記載されている。下線は、当審が付した。以下同様。

(1)「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、半田バンプ同士の接続性を良好に維持しつつ、半田バンプ内に発生するボイドを抑制することを可能にした半導体装置の製造方法を提供することにある。」

(2)「【0012】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。図1は本発明の実施形態による半導体装置の製造工程を示す断面図である。まず、図1(a)に示すように、第1の半田バンプ1を有する第1の基板2と、第2の半田バンプ3を有する第2の基板4とを用意する。第1および第2の基板2、4は、例えば半導体チップ(シリコン(Si)チップ等)やシリコン(Si)インターポーザである。第1および第2の基板2、4における組合せは、例えば第1の半導体チップ(2)と第2の半導体チップ(4)との組合せ、Siインターポーザ(2)と半導体チップ(4)との組合せ、半導体チップ(2)とSiインターポーザ(4)との組合せ等、特に限定されるものではない。」

(3)「【0014】
半田バンプ1、3は、例えばメッキ法で形成したり、あるいは半田合金からなる微小ボールを用いて形成される。電極パッド5、7上に形成された直後の半田バンプ1、3の表面には酸化膜が存在していないが、時間を経ると図2に示したように半田バンプ1、3の表面が酸化される。半田バンプ1、3の表面に形成された酸化膜9は、半田バンプ1、3同士を溶融して接続する際に半田バンプ1、3間の抵抗を増大させたり、また半田バンプ1、3間に接続不良を発生させる要因となる。このため、半田バンプ1、3を加熱・溶融する前に、半田バンプ1、3表面の酸化膜9を除去する必要がある。
【0015】
第1の基板2と第2の基板4とをフリップチップ接続するにあたって、まず第1の半田バンプ1と第2の半田バンプ3とを位置合せしつつ、第1の基板2上に第2の基板4を積層する。この際に、図1(b)および図3に示すように、第1の半田バンプ1と第2の半田バンプ3とを仮固定する。仮固定は次工程(酸化膜9の除去工程)に投入する際に上下の基板2、4が外れない程度の強度が得られればよい。半田バンプ1、3の仮固定には、超音波フリップチップボンダによる室温下での超音波と荷重の印加、パルスヒータ加熱型フリップチップボンダによる半田の融点付近の温度の印加等が適用される。
【0016】
第1の半田バンプ1と第2の半田バンプ3との仮固定は、それらの表面に酸化膜9が存在している状態で実施されるため、第1の半田バンプ1と第2の半田バンプ3との接触界面には酸化膜9が噛み込まれた状態となる。ただし、第1の半田バンプ1と第2の半田バンプ3とは仮固定された状態であるため、第1の半田バンプ1と第2の半田バンプ3との接触界面には図3に示すように隙間Gが存在している。このような接触界面の隙間Gを利用して、接触界面に噛み込まれた酸化膜9を含めて、半田バンプ1、3の表面に存在する酸化膜9をカルボン酸ガスで除去した後に、半田バンプ1、3を加熱・溶融する。
【0017】
半田バンプ1、3の表面に存在する酸化膜9の除去工程と半田バンプ1、3の加熱・溶融工程について、図4に示す加熱炉内の圧力および温度プロファイルを参照して述べる。まず、半田バンプ1、3同士を仮固定した第1の基板2と第2の基板4との積層体を加熱炉(リフロー炉)内に配置した後、加熱炉内を真空引きして減圧雰囲気とする。加熱炉内に残留する酸素は半田バンプ1、3を酸化させるため、加熱炉内を大気圧状態(1.01×105Pa)から1×103Pa以下、特に5Pa程度の減圧状態まで排気することが好ましい。このような減圧雰囲気の加熱炉内にカルボン酸ガスを導入する。
【0018】
カルボン酸ガスは半田バンプ1、3の表面に存在する酸化膜9を還元して除去するものである。酸化膜9の還元剤として用いるカルボン酸は特に限定されるものではなく、例えばギ酸、酢酸、アクリル酸、プロピオン酸、シュウ酸、コハク酸、マロン酸等の脂肪族の1価または2価の低級カルボン酸が挙げられる。これらの内でも、それ自体のコストやガス化のためのコストが低く、また酸化膜9の還元作用に優れることから、ギ酸を使用することが好ましい。なお、以下ではカルボン酸の代表例としてギ酸を用いる場合を中心に説明するが、酸化膜9の還元剤としてのカルボン酸はこれに限定されるものではない。
【0019】
加熱炉内にギ酸等のカルボン酸ガスを導入した後、もくしはカルボン酸ガスの導入とほぼ同時に、所定の昇温速度(例えば40?50℃/分)で加熱炉内を昇温する。カルボン酸ガスとしてギ酸を用いた場合、150℃以上の温度で酸化膜9の還元作用が発現する。すなわち、ギ酸による酸化膜9の還元温度T1は約150℃であり、それ以上の温度になると酸化膜9が還元されて除去される。このような酸化膜9の還元温度T1以上の温度域において、半田バンプ1、3をギ酸ガス中に例えば数分間晒すことによって、半田バンプ1、3の表面に存在する酸化膜9を還元して除去することができる。」

(4)「【0021】
第1の実施形態においては、カルボン酸ガスによる酸化膜9の還元温度T1以上で半田バンプ1、3の溶融温度(融点T2)未満の温度域にて、カルボン酸ガスを除去するように加熱炉内を真空引きする。すなわち、加熱炉に接続された真空ポンプを動作させて加熱炉内の雰囲気を排気して減圧状態とする。このように、半田バンプ1、3の融点T2に達する以前(半田バンプ1、3を溶融させる以前)に、加熱炉内の雰囲気を真空排気することによって、隙間Gに侵入したカルボン酸ガスや酸化膜9の還元時に発生したガスを、半田バンプ1、3同士の接触界面から除去することができる。
【0022】
そして、隙間Gに侵入したカルボン酸ガスや酸化膜9の還元時に発生したガスを半田バンプ1、3同士の接触界面(隙間G)から除去した後に、半田バンプ1、3を溶融することによって、隙間Gに侵入もしくは発生したガスに起因するボイド、すなわち溶融後の半田バンプ1、3の内部に発生するボイドを抑制することが可能となる。また、半田バンプ1、3の融点T2に達する前にカルボン酸ガスを除去しても、それ以前の段階で半田バンプ1、3はカルボン酸ガスに晒されているため、接触界面に噛み込まれた酸化膜9を含めて、半田バンプ1、3の表面に存在する酸化膜9を除去することができる。従って、半田バンプ1、3の溶融工程において、半田バンプ1、3間の接続不良や溶融後の半田バンプ1、3の抵抗の増加を抑制することが可能となる。」

(5)「【0029】
溶融した半田バンプ1、3は、図1(c)に示すように一体化されて接続部10を構成する。第1の実施形態では半田バンプ1、3同士の接触界面に噛み込まれた酸化膜9を除去しつつ、接触界面の隙間Gに侵入もしくは発生したガスの周囲への放散を促進している。従って、半田バンプ1、3で良好な接続部(形状や導通性等に優れる接続部)10を形成しつつ、接続部10内のボイドの発生を抑制することができる。すなわち、電気的および機械的に優れる接続部10で基板2、4間を接続することが可能となる。
【0030】
そして、加熱炉内を接続構造体が容易に取り出せる温度、例えば100℃程度の温度まで降温し、加熱炉内に窒素ガス等の不活性ガスを導入して大気圧まで戻した後に、第1の基板2と第2の基板4とを半田バンプ1、3による接続部10を介して接続した構造体を加熱炉から取り出す。このように、加熱炉内の大気圧への復帰は接続構造体が容易に取り出せる温度まで降温した後に実施してもよいが、例えば図6に示すように加熱炉内の温度が半田バンプ1、3の融点T2以上の温度域の状態で、加熱炉内に窒素ガス等の不活性ガスを一気に導入して大気圧まで戻すことも有効である。」

(6)「【0033】
次に、本発明の第2の実施形態による半導体装置の製造工程について、図7および図8を参照して説明する。第2の実施形態による半導体装置の製造工程においては、第1の実施形態(図1?図3参照)と同様に、第1の半田バンプ1と第2の半田バンプ3とを位置合せしつつ、第1の基板2上に第2の基板4を積層する。この際に、第1の半田バンプ1と第2の半田バンプ3とを仮固定する。基板2、4の具体例、半田バンプ1、3の構成材料、半田バンプ1、3の仮固定方法等は、第1の実施形態と同様である。
【0034】
次に、第1の実施形態と同様に、半田バンプ1、3同士を仮固定した第1の基板2と第2の基板4との積層体を加熱炉(リフロー炉)内に配置した後、加熱炉内を真空引きして減圧雰囲気とする。加熱炉内に残留する酸素は半田バンプ1、3を酸化させるため、加熱炉内を大気圧状態(1.01×10^(5)Pa)から1×10^(3)Pa以下、特に5Pa程度の減圧状態まで排気することが好ましい。このような減圧雰囲気の加熱炉内にカルボン酸ガスを導入すると共に、加熱炉内を半田バンプ1、3の溶融温度(融点T)以上の温度まで昇温する。酸化膜9の還元剤としては第1の実施形態と同様なカルボン酸ガスを使用することができ、特にコストや還元作用の点からギ酸ガスを使用することが好ましい。
【0035】
カルボン酸ガスの導入は、加熱炉の雰囲気圧を5×10^(3)Pa以上3×10^(4)Pa以下の範囲に維持しつつ実施する。すなわち、加熱炉内を適度な減圧状態に維持しつつ、加熱炉内にカルボン酸ガスを導入する。具体的には、加熱炉内の酸素を除去するように真空引きした後、真空引き(排気)を継続しながら適度な濃度と流量のカルボン酸ガスを供給しつ続ける。これによって、加熱炉内のカルボン酸ガスの濃度を適度な状態に維持した減圧雰囲気下で、半田バンプ1、3の溶融工程を実施することができる。
【0036】
半田バンプ1、3の溶融工程における加熱炉内のカルボン酸ガスの濃度が高すぎると、余分なカルボン酸ガスが溶融した半田バンプ1、3内に取り込まれてボイドとなる。このようなカルボン酸ガスによるボイドの発生を抑制する上で、第2の実施形態では半田バンプ1、3の溶融工程における加熱炉の雰囲気圧を3×10^(4)Pa以下としている。加熱炉の雰囲気圧が3×10^(4)Paを超えると、溶融した半田バンプ1、3内に取り込まれるガス量が増加し、半田バンプ1、3内にボイドが発生しやすくなる。
【0037】
そして、このような減圧雰囲気におけるカルボン酸ガスの濃度であっても、半田バンプ1、3表面の酸化膜9は還元除去される。すなわち、加熱炉内のカルボン酸ガスの濃度を比較的低濃度側としても、上下の基板2、4に設けられた半田バンプ1、3を溶融して接続する場合には、半田バンプ1、3の表面に存在する酸化膜9を還元して除去することができる。ただし、加熱炉の雰囲気圧が5×10^(3)Pa未満となると、カルボン酸ガスの濃度が低くなりすぎるため、酸化膜9を十分に還元除去することができない。このため、半田バンプ1、3の溶融工程における加熱炉の雰囲気圧は5×10^(3)Pa以上とする。」

(7)「【0040】
上述したような雰囲気圧およびカルボン酸濃度とした加熱炉内の温度を半田バンプ1、3の融点T以上の温度域まで昇温することによって、半田バンプ1、3を溶融させる。半田バンプ1、3を鉛フリー半田で構成した場合、鉛フリー半田の融点は半田合金の組成によって異なるものの、おおよそ220?230℃であるため、その温度以上の温度で加熱して半田バンプ1、3を溶融させる。半田バンプ1、3を鉛半田で構成した場合、鉛半田の融点である183℃以上の温度で加熱して半田バンプ1、3を溶融させる。溶融した半田バンプ1、3は、図1(c)に示すように一体化されて接続部10を構成する。」

(8)「【0042】
カルボン酸ガスとしてギ酸を用いた場合、150℃以上の温度で酸化膜9の還元作用が発現するため、そのような温度以上で半田バンプ1、3の融点T未満の温度域にて一定時間保持してもよい。これによって、酸化膜9の除去効果を高めることができる。ただし、カルボン酸ガスは少なくとも半田バンプ1、3の溶融時に存在していればよいため、図8に示すように半田バンプ1、3の溶融時(融点T以上の温度域)のみに、加熱炉内にカルボン酸ガスを導入するようにしてもよい。カルボン酸ガスは少なくとも半田バンプ1、3の溶融時に導入されていればよい。この際の雰囲気圧やガス濃度は上述した通りである。」

(9)「【0044】
次に、第2の実施形態による半導体装置の製造工程の具体例について述べる。まず、鉛フリー半田からなる半田バンプ(直径:25μm)を有するSiチップを2個用意し、これらSiチップの半田バンプ同士を、パルスヒータ加熱型フリップチップボンダ(加熱温度:250℃)を用いて仮固定した。この仮固定体を加熱炉内に配置した後、加熱炉内を5Pa以下まで真空引きした。その後の加熱炉内の雰囲気圧と加熱炉に供給するギ酸ガスの濃度および流量を以下のように調整した。」

これらの記載事項及び図面の図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、第2の実施形態に関して、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「第1の基板2及び第2の基板4の電極パッド5、7を電気的に接触させるための方法であって、
前記第1の基板2に面する電極パッド7を有する前記第2の基板4は、前記第1の基板2の電極パッド5と電気的かつ機械的に直接接続され、前記第2の基板4の前記電極パッド7には、バリアメタル層8を介して半田バンプ3が形成され、前記方法は、仮固定と除去工程及び加熱・溶融工程とを含む連続する二段階で行われ、
前記仮固定において、
前記第2の基板4を、その前記電極パッド7が前記第1の基板2の前記電極パッド5と対向するように配置し、
前記第1の基板2上における前記第2の基板4の機械的固定を可能にする程度まで、前記半田バンプ3を溶融させるように、フラックスを設けることなく、パルスヒータ加熱型フリップチップボンダにより半田の融点付近の温度を印加し、
前記除去工程及び加熱・溶融工程において、
加熱炉の内部に配置されている、前記第1の基板2と前記第2の基板4との積層体に、ギ酸ガスを与え、
同時に前記半田バンプ3の溶融温度以上の温度まで昇温することにより、前記半田バンプ3が再溶融され、
その後、前記加熱炉の前記内部に窒素ガス等の不活性ガスの導入が行われる、方法。」

2 刊行物2
また、当審が通知した拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された特開平7-74209号公報(以下「刊行物2」という。)には、図面(特に、【図1】参照)とともに、次の事項が記載されている。

「【0008】まず半田盛り工程で、従来より実施される方法で、フリップチップIC(以下ICチップと記す)4の電極部分に半田バンプ5を形成しておく。(図示しないが、図1(b) のICチップ4は、半田バンプ5が形成された状態を示す。)
【0009】フラックス薄膜形成工程では、基板の電極2の部分にフラックスが薄く塗られる。この塗布厚さは、ICチップ4が搭載された際に、半田バンプ5によって設けられたICチップ4との隙間がフラックスによって埋まってしまわない程度の、およそ数10μm程度の膜厚であればよい(図1(a))。この薄膜の形成は刷毛塗りでもディップによっても良く、ICチップ4に接触しなければどのような方法によっても良い。
【0010】そして予め半田を盛ったICチップ4を、半田面と基板電極2とを向かい合わせて位置合わせし、配置する。これはもちろん微細なICに対する設置であるため、マウント治具により実施する。ICチップ4はフラックス3の粘着力により固定されるので、搬送中などにおいて図2のように移動することはない。
【0011】この状態で、仮止め工程において、ここではレーザー照射6により加熱を行う。レーザー加熱は従来より各分野で実施利用される手法で、微細なスポット加熱や瞬時加熱が実現できる便利な加熱方法である。このレーザー光6を目的のICチップ4上に照射してほぼ瞬間的に加熱させてバンプ半田5を溶かし、基板電極2と仮半田付けさせる。ここで、たとえフラックスの急激な突沸が発生したとしても、チップとフラックスとの間には隙間があるので、チップが突沸の泡によって移動されることはない。ICチップ4はシリコンであり、熱の良導体であり熱分布も小さいので、レーザー照射は短時間で済むが、ある程度の広がった面積をもつため、レーザー光6の照射条件は、例えば230℃、3秒である(図1(c))。
【0012】仮止め状態になったICチップ4は、設定した位置からずれるおそれは無くなる。そこでICチップ4を所定の半田形状に半田付けするために、フラックスを充分に供給する。フラックスを滴下させると、基板とICとの隙間にフラックスが毛管現象により充填される。そのため内部の電極部にも十分のフラックスが供給される。その適性量は、図1(d) に模式的に示すように仮止めされたICチップ4と基板1との隙間が完全に埋まる程度の量である。ただし、ICチップ4の上にフラックスが多量に存在すると、半田付け温度に影響するのでICチップ上に付着しないことが望ましい。
【0013】そしてリフロー工程として、再びICチップ4をレーザー光で加熱してバンプ半田5が完全に溶けて基板電極2と充分半田付けされるまで照射加熱する。この場合のレーザー光6の照射条件は、例として230℃、10秒である(図1(e))。ここでも、たとえフラックスが突沸しても、仮止め工程によりICチップ4がある程度半田で基板電極に接合しているので移動してしまうことはない。また、十分なフラックスが供給されているので、リフロー半田付けの際にチップ自重で半田が潰れてしまうこともなく、セルフアライメント性も向上する。」

第3 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、後者の「第1の基板2」は前者の「第2基板(7)」に相当し、以下同様に、「前記第1の基板2の電極パッド5」は「第2基板(7)の端子面」に、「第2の基板4」は「第1基板(6)」に、「第2の基板4の電極パッド7」は「前記第1基板(6)の前記端子面」に、「仮固定」は「第1段階」に、「除去工程及び加熱・溶融工程」は第2の実施形態では同時に行われるから「第2段階」に、「半田バンプ3」は「半田付け剤(10)」に、「加熱炉」は「ハウジング(3)」に、「第1の基板2と第2の基板4との積層体」は「第1及び第2基板(6,7)により形成された部品配置」に、「ギ酸ガス」は「気体状態のフラックス媒体」に、「加熱炉の内部に窒素ガス等の不活性ガスの導入」は「ハウジング(3)の前記内部を洗浄する処理」にそれぞれ相当する。

また、後者の「バリアメタル層8を介して半田バンプ3が形成され」ることと前者の「半田付け剤塗膜(10)が塗布され」ることとは、「半田付け剤が形成され」るという限りで共通し、後者の「パルスヒータ加熱型フリップチップボンダにより半田の融点付近の温度を印加」することと前者の「レーザエネルギ(5)を前記第1基板(6)の前記端子面と反対側の表面から前記第1基板(6)に照射」することとは、「加熱」するという限りで共通し、 後者の「前記半田バンプ3の溶融温度以上の温度まで昇温することにより」と前者の「前記第1基板(6)の前記端子面と反対側の前記表面から前記第1基板(6)に照射されたレーザエネルギ(5)により」とは、「加熱により」という限りで共通する。

したがって、両者は、
「第1及び第2基板の端子面を電気的に接触させるための方法であって、
前記第2基板に面する端子面を有する前記第1基板は、前記第2基板の端子面と電気的かつ機械的に直接接続され、前記第1基板の前記端子面には、半田付け剤が形成され、前記方法は、第1段階と第2段階とを含む連続する二段階で行われ、
前記第1段階において、
前記第1基板を、その端子面が前記第2基板の前記端子面と対向するように配置し、
少なくとも前記第2基板上における前記第1基板の機械的固定を可能にする程度まで、前記半田付け剤を溶融させるように、フラックスを設けることなく、加熱し、
前記第2段階において、
ハウジングの内部に配置されている、前記第1及び第2基板により形成された部品配置に、気体状態のフラックス媒体を与え、
同時に加熱により、前記半田付け剤が再溶融され、
その後、前記ハウジング(3)の前記内部を洗浄する処理が行われる、方法。」
で一致し、次の点で相違する。

〔相違点1〕
半田付け剤の形成について、本願発明1は、「半田付け剤塗膜(10)が塗布され」るに対し、引用発明は、バリアメタル層8を介して半田バンプ3が形成される点。

〔相違点2〕
本願発明1は、第1段階において「レーザエネルギ(5)を前記第1基板(6)の前記端子面と反対側の表面から前記第1基板(6)に照射」することで加熱し、第2段階において「前記第1基板(6)の前記端子面と反対側の前記表面から前記第1基板(6)に照射されたレーザエネルギ(5)により」加熱するのに対し、
引用発明は、仮固定において「パルスヒータ加熱型フリップチップボンダにより半田の融点付近の温度を印加」することで加熱し、除去工程及び加熱・溶融工程において「前記半田バンプ3の溶融温度以上の温度まで昇温することにより」加熱する点。

〔相違点3〕
本願発明1は、第1段階において、第2基板(7)上における第1基板(6)の「互いに面している前記端子面の電気的接触」を可能にする程度まで、半田付け剤(10)を溶融させるのに対し、
引用発明は、「前記第1の基板2上における前記第2の基板4の機械的固定を可能にする程度まで、前記半田バンプ3を溶融させる」点。

第4 当審の判断
そこで、各相違点を検討する。
(1)相違点1について
本願の優先日前に、半田ペーストを塗布して半田バンプを形成する方法は、周知技術A(例えば、特開2002-76042号公報の段落【0009】、【図1】(b)(c)、特開2004-148563号公報の段落【0028】、【図2】(b)参照。)である。

刊行物1には、「半田バンプ1、3は、例えばメッキ法で形成したり、あるいは半田合金からなる微小ボールを用いて形成される」(段落【0014】)との記載があるものの、上記周知技術Aの適用を阻害するものではないから、引用発明に上記周知技術Aを適用して、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について
本願の優先日前に、レーザエネルギを第1基板の端子面と反対側の表面から第1基板に照射することで加熱し、半田バンプを溶融することは、周知技術B(例えば、特開昭55-91847号公報の4ページ右上欄1?6行、FIG.1、米国特許出願公開第2003/0217996号明細書の段落[0026]、段落[0028]、FIG.1、FIG.2参照。)である。

刊行物2には、「仮止め工程において、ここではレーザー照射6により加熱を行う。レーザー加熱は従来より各分野で実施利用される手法で、微細なスポット加熱や瞬時加熱が実現できる便利な加熱方法である。このレーザー光6を目的のICチップ4上に照射してほぼ瞬間的に加熱させてバンプ半田5を溶かし、基板電極2と仮半田付けさせる。」(段落【0011】)との記載、「レーザー光6の照射条件は、例えば230℃、3秒である(図1(c))。」(同)、及び「リフロー工程として、再びICチップ4をレーザー光で加熱してバンプ半田5が完全に溶けて基板電極2と充分半田付けされるまで照射加熱する。この場合のレーザー光6の照射条件は、例として230℃、10秒である(図1(e))。ここでも、たとえフラックスが突沸しても、仮止め工程によりICチップ4がある程度半田で基板電極に接合しているので移動してしまうことはない。」(段落【0013】)との記載(以下、両記載をあわせて「刊行物2に記載された事項」という。)がある。
これらの記載によれば、刊行物2には、仮止め工程、リフロー工程のいずれの工程においてもレーザー照射により半田バンプを溶融できることが理解できる。

また、刊行物2の仮止め工程において、レーザー照射6による加熱と基板の電極2に塗られたフラックスとの間に特段の技術的関連性は認められないから、「フラックスを設けることなく、パルスヒータ加熱型フリップチップボンダにより半田の融点付近の温度を印加」する引用発明の仮固定に、刊行物2に記載された事項及び上記周知技術Bを適用を妨げる事由はない。

そうすると、引用発明の仮固定、並びに除去工程及び加熱・溶融工程において、刊行物2に記載された事項及び上記周知技術Bにより、相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(3)相違点3について
刊行物1には、「電極パッド5、7上に形成された直後の半田バンプ1、3の表面には酸化膜が存在していないが、時間を経ると図2に示したように半田バンプ1、3の表面が酸化される。半田バンプ1、3の表面に形成された酸化膜9は、半田バンプ1、3同士を溶融して接続する際に半田バンプ1、3間の抵抗を増大させたり、また半田バンプ1、3間に接続不良を発生させる要因となる。このため、半田バンプ1、3を加熱・溶融する前に、半田バンプ1、3表面の酸化膜9を除去する必要がある。」(段落【0014】)との記載がある。
この記載によれば、表面に酸化膜9が形成された半田バンプ同士を溶融して接続すると、半田バンプ間の抵抗を増大させたり、また半田バンプ間に接続不良を発生させることが理解できる。そして、半田バンプ間の抵抗が増大した状態では半田バンプ間の電気的な導通は可能であり、また、半田バンプ間に接続不良が発生した状態であっても電気的な導通が全く不能となるとはいえない。

そうすると、引用発明の仮固定において、「前記第1の基板2上における前記第2の基板4の機械的固定を可能にする程度まで、前記半田バンプ3を溶融させ」た際、「第1の半田バンプ1と第2の半田バンプ3との仮固定は、それらの表面に酸化膜9が存在している状態で実施されるため、第1の半田バンプ1と第2の半田バンプ3との接触界面には酸化膜9が噛み込まれた状態となる」(段落【0016】)としても、半田バンプ3は溶融しているから、半田バンプ3は電気的接触を可能にする程度に溶融していると解される。

他方、本願発明の「互いに面している前記端子面の電気的接触を可能にする程度」は、本願明細書から、その具体的な程度を把握することができない。

そうすると、引用発明の「前記第1の基板2上における前記第2の基板4の機械的固定を可能にする程度まで、前記半田バンプ3を溶融させる」ことは、実質的には本願発明の「電気的接触を可能にする程度まで」半田バンプ3が溶融しているものと認められるから、相違点3は、実質的な相違点ではない。

(4)効果について
本願発明が奏する効果は、引用発明及び刊行物2に記載された事項、並びに上記周知技術A,Bから、当業者が予測できる範囲内のものであって、格別なものでない。

(5)まとめ
したがって、本願発明は、引用発明及び刊行物2に記載された事項、並びに上記周知技術A,Bに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び刊行物2に記載された事項、並びに上記周知技術A,Bに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-09-21 
結審通知日 2017-09-26 
審決日 2017-10-10 
出願番号 特願2013-552102(P2013-552102)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井出 和水  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 内田 博之
冨岡 和人
発明の名称 ガスフラックス媒体を用いるレーザ半田付けにより2つの基板の端子面を電気的に接触させるための方法および装置  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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